本部

【森蝕】連動シナリオ

【森蝕】お粥作り、真夏

雪虫

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/09/01 15:00

掲示板

オープニング


 エージェント達は呆然とした。
 発端はH.O.P.E.に届けられた謎の電子メッセージ。暗号で構成されたそれを解析した結果、いくつかの画像、過去の事件の報告書、そして電子メッセージの送り主……エネミーからの声明である事が明らかになった。
『もうすぐギアナ支部から応援要請メールが届きますよ』
『だって、彼らのそういった連絡を止めてたのは私ですから』
『「今、我々は【絶零】や【屍国】で忙しいから応援なんて出せません」……と、代わりにお返事しておきました』
 そして入れ替わるように届いた、ギアナ支部からの協力要請。
 エネミーの言葉が正しいとすれば、【絶零】と名付けられたロシアでの一連の事件……その頃からギアナ支部は何らかの危機に見舞われており、H.O.P.E.に救援信号を出し続けていた事になる。そしてその叫びは届く事なく、エネミーの手によりことごとく握り潰されていたのだ。
 すぐさま返信を行ったが、ギアナ支部からの応答はなし。まさか今の要請は最期の力を振り絞って……嫌な想像が頭を過ぎる。
 H.O.P.E.は動ける人員を掻き集め、すぐさまギアナ支部へと送った。もし危険が迫るような事態であったら引き返すように言い含めて。
 そしてギアナ支部に到着したエージェント達は、目の前の光景に呆然とする事になる。


 臭い。
 ギアナ支部に到着したエージェント達がまず思ったのはそれだった。
 例えるなら真夏の高校野球部。それぞれに夢を追い、汗と泥に塗れながらグラウンドを駆け抜ける高校球児達……の一週間洗っていないユニフォームが山と積まれた部室のかほり。いやもしかしたらそれは高校球児達に対する偏見かもしれないが、つまり、とにかく、汗臭い。すっぱさが鼻腔と目をダイレクトにアタックする。修羅場を掻い潜ってきたはずのエージェント達もさすがに鼻を押さえた、その時、床に倒れていた臭いの発生源……もといギアナ支部職員達が次々と顔を起こし始める。
「う……き、君達は……まさか応援に……?」
「おい……応援だ……」
「応援が来たぞ!」
 ギアナ支部職員達は 動き出した。汗臭さが 5 上がった。その中の一人、戸丸音弥はなんとかその場に立ち上がると、幽鬼のごとき足取りでエージェント達に近付いてきた。頬はこけ、目の下にはクマ、例えるなら天に召される5秒前という感じ。
「君達……よく来てくれた! さっそくで申し訳ないのだが、全員もう5日ぐらい何も食べていないんだ! 食堂に案内する、何か作ってくれないか!」
 そしてあれよあれよという間に通された食堂の光景に、エージェント達はまたしても呆然とする事になる。汚い。床にはレトルト食品の抜け殻が散乱し、かろうじて調理場までの道は空けてあるが、それ以外は足の踏み場もない。冷房が壊れているのか全体的に蒸し暑く、例外なくすっぱい臭いが鼻腔と目を刺してくる。おい、今ゴミの中で何か動いたぞ!
「とりあえず米と塩だけはある。炊飯器は……これは無理だな。コンロはこれ、鍋はこれ、蛇口はここだ。みんな餓えに餓えているから米も塩も全部使い切るつもりでとりあえずお粥を作って欲しい。僕は他のエージェント達に資料整理を頼んでくる。悪いがよろしく頼む!」
 そして音弥は出ていった。エージェント達がハッとしたのはしばらくしてからの事だった。
 あまりの暑さと臭いと光景にすっかり流されてしまったが、こんな暑い場所で(しかも鍋を使って)お粥を作るなど冗談じゃない。下手をするとこっちが倒れる。というか色々な要素に色々やられる。
 お粥を作るだけなら一旦戻って、向こうで作ったお粥をギアナ支部に持ってきても構わないはず。エージェント達はそう思い、食堂の扉に視線を向けた。
 だが。
「……」
「…………」
「………………」
 食堂の扉越しに、じ……とこちらを見つめるギアナ支部職員達の無数の瞳。彼らは待っている。お粥を。彼らは餓えている。お粥に。彼らは集まっている。お粥を望んで。これを突破し、冷房がきちんと生きている安息の地に戻る事が出来るだろうか。
 無理だな。
 エージェント達の顔に微笑みが浮かんだ。
 
●お粥の作り方
1.米を洗う。(米を30分ほど浸水させると、よりおいしく炊ける)
2.米と水を鍋に入れる。(全粥の場合は米1:水5)
3.蓋をして強火で沸騰させる。(すぐに沸騰するので吹きこぼれに注意)
4.沸騰したら米を底の方からひとかきして、弱火にする。(底に米が張り付くのを防ぐ。後はお湯の対流が発生するので、混ぜる必要なし)
5.蓋を少しずらした状態で、35~45分程煮込む。(吹きこぼれに注意)
6.塩を振って味を調える。 

解説

●目標
 お粥を作る(成功度で今後のギアナ支部職員の援護力が変わる)

●使える食材
・米(たくさん)
・塩(たくさん)
・水(たくさん)

●使える調理器具(どの器具もそれなりの数がある)
・ボウル
・軽量カップ
・コンロ
・蓋つき鍋
・菜箸
・皿・お椀・茶碗
・スプーン
・その他必要な器具があればプレイングに記載可(ない場合もある)

●食堂
・入口から入って手前が食事スペース、奥が調理場になっている
・食事スペースはレトルト食品の空が散乱しており、たまに何か動いている
・調理場はそれなりに広い。長らく掃除してないので汚れてはいるが辛うじて使えるレベル
・窓はあるが、開ける場合は真夏のアマゾンである事を留意すべし

●NPC
 ギアナ支部職員×100
 空腹と過労で倒れている職員達。かろうじて動ける者もいるが、お粥を求め食堂の扉にへばりつく程度の体力と知力しか残っていない

 戸丸音弥
 まだかろうじて動く余裕のあるギアナ支部職員。OPでPC達を食堂に案内した後、別のエージェント達を伴って何処かに移動したのでリプレイには出てこない

●PL情報
・ゴミの中にいるのはアマゾンの生物。危険はない。従魔でもない。食堂にいてはいけない生物ではあるかもしれない
・炊飯器を開ければ炊飯器を使えない理由は分かるが、あまり開けない方がいい

●その他
・使用可能物品は装備・携帯品のみ
・英雄でも暑いし汗をかく
・共鳴しても暑いし汗をかく
・コメディ(キャラ崩壊の危険性あり)です

リプレイ

●※ここは食堂です
『(しんださかなのような目)』
「やばい白江ちゃんが見たことない顔してる!!!」
 傍らに立つ幽霊……もとい白江(aa1730hero002)の表情にアル(aa1730)は驚愕の声を発した。目に刺さるゴミの山。鼻に刺さるすっぱい臭い。正に感覚の暴力! 初の海外がコレでなんかもうホントごめん。アルは心の中で謝った。
「わぁ。……これは……その、凄いね……」
『……鼻がおかしくなりそうだ』
 コメントのしようもない八角 日和(aa5378)の隣でウォセ(aa5378hero001)が鼻に手を当てた。笹山平介(aa0342)は装備をジャージに切り替えつつ、上半身の服を脱ぐゼム ロバート(aa0342hero002)に指示を出す。
「ゼム、意識がない人は優先的に……あとは皆のお手伝いをお願いします」
『……あぁ』
 ゼムは頷き大事なマントを、平介の服と共に幻想蝶へ仕舞い込む。なお二人も例外なく悪臭の攻撃を受けているが、何も口に出さない様なるべく意識する事に決めた。
「とにかく中身を確認しようか。使えるものがあれば良いけど……」
 平介が冷蔵庫を開けてみると、空だが壊れてはいない模様。冷凍室も無事なため、少々時間は掛かるが氷の調達ぐらいは出来る。
「冷房が壊れているようだし、まずは水分補給をね……」
 平介はコップを取り出し一通り洗った後、鍋の一つに大量の水と砂糖と塩を入れようとした。そこに佐倉 樹(aa0340)が顔を出し、淡々と意見を述べる。
「水は……口に入れるやつは一旦全部煮沸した方がいいね」
 もしかしたら安全ではないかもしれないし、という樹の案を受け、平介は鍋を火に掛けた。蒸気がむわっと立ち上るが、ある程度はガマンガマン。

●掃除です
「とびっきりうんめぇ粥こしぇねばッスね!」
『掃除すっかぁ……臭いに耐えらんねェ』
 東北訛り全開で齶田 米衛門(aa1482)が拳を掲げ、スノー ヴェイツ(aa1482hero001)は三角巾を口に当てた。エプロン割烹着を身に着ければ完全掃除スタイル完成。
 米衛門は粥をこしらえるため、まずは調理室の掃除に着手する事にした。特に水周り、コンロ周りは早急になんとかせねばならない。
 と、音弥が「無理だな」と一蹴した炊飯器が目に入る。気にならない訳ではない。が、苔やカビが根付いているなら掃除しても使えない。使えるスペースの確保が優先、と米衛門は水垢・ほこり・油との戦いに挑む。

 スノーは大きめのゴミを手に取るや、とにかく片っ端からゴミ袋に突っ込んでいた。細かい物、臭いのする物も目につくが、大きい物を先に始末した方が効率的。日和とウォセも、まずは料理が出来る状態にするべく調理場の掃除を開始する。
 そんな中、今度はアルがしんださかなを通り越して黒目を失いかけていた。
「ヤバみがやばいとしか言えnヌ”ゥゥン”」
『ある、だいじょぶですか』
「ダイジョバナイ」
 アルが 床の上に 倒れた。白江が 鼻声で 尋ねた。ダイジョバナイ 屍の ようだ。運動部の かほりが 鼻粘膜を 刺激する!
 だが、アルは立ち上がった。大丈夫、笑顔で耐える! この状況下にずっといた職員さん達の苦痛に比べればこんなモン修行(以下略)。その覚悟はアイドルを濃ゆい顔に変貌させた。(心身共に)衛生的な状態でごはん食べてもらわねば!
「そのためにもお掃除お掃除! 頑張ろう白江ちゃん!」
 とにかくスノーの方針に習い、大きいゴミを回収しては袋に突っ込み端へと投げる。壁に沿うゴミ袋タワーが徐々に高さを増していき、反比例して床のゴミは高さと量を減らしていく。大きい物が無くなった後は臭いの元に標的を移し、スノーは二重にした袋の中に次々ゴミをぶっ込んでいく。
 一方、樹はシセベル(aa0340hero002)と共鳴し、異臭源っぽそうなところに氷のジャック・オ・ランタンを走らせた。カボチャ頭が甘噛みすると異臭源に霜が降り、熱と湿気による臭いの脅威が凍結分だけ軽減する。樹は仕事人の表情で凍った異臭源の元を掴み、仕事人の表情で袋に突っ込み厳重に口を縛り上げた。
「調理器具が一通りあるなら掃除道具もあるはず……あった!」
 掃除道具を発見した日和は仲間達へと声を上げ、運ぶ手伝いをするべく白江が駆け寄ろうとした……その時、戦力外通告された炊飯器が白江の白い瞳に映る。白江は何気なく炊飯器の蓋をそっと開け――そしてそっと閉じた。
「白江ちゃん、炊飯器をガムテープでぐるぐる巻いてどうしたの?」
『……きよえは何も見ませんでした』
 そう。何も見ていない。炊飯器に鎮座する黒い物体など見ていない。炊飯器と記憶に封印を施し白江は床掃除に取り掛かった。モップで汚れを浮かせて拭き上げして……その視界のすみっこで、何かがカサカサ動いたような。
「白江ちゃん、何か動い」
『きのせいです』
「いやでも、ほらまた動い」
『きのせいです』
 アルの発言に、白江は大事なことなので二度言った。だが、そんな白江の視界の中心に、額から伸びし触覚をみょんみょん動かす例のアレが!
 白江は空き容器を手に取った。素早い動きで容器にアレを封印した。アレを封じた容器共々ゴミ袋にさようなら。
『視界に入ったアレがわるいんです(袋の口縛りつつ)』
「わぁおアグレッシヴ……」

 アルと白江がアレとの邂逅を果たしていた頃、日和もまたゴミの中で蠢く何かに遭遇していた。「私、虫とか出てきても結構大丈夫だしっ」系女子の日和だが、全容を露わにしたソレにはさすがに声が出る。
「おぉ……さすが熱帯、ゴ……あの黒い虫も大きいね」
『おれも捕まえた。……これは食えるか?』
 ウォセが ソレを 掲げている! 日和は とても 冷静だった!
「毒はないだろうけど、やめといた方がいいよ……」
 この広い世界には食べる人もいるだろうが、そうでない人を考え日和は首を振った。横に。出来れば外に逃がしてあげたいが……窓開けたら別の生き物が入ってきちゃうかな?
 今の所虫や鳥が近くにいる様子はない。日和は素早く窓を開けた。ウォセがソレをぽいっと逃がした。落下するソレを尻目に日和は素早く窓を閉めた。
『ゴミは粗方片付いたな。窓はあんまり開けねェ方が良さそうだから……モップか雑巾余ってるか?』
「こっちにあるよ!」
 臭いを水で流そうとするスノーに要望の品を貸し、日和も掃除に精を出す。「5日も食べてないなんて大変なことだよ! 早くご飯作ってあげなきゃ!」……とは思いつつ、作るにも食べるにも環境も大事なことである。
 料理が出来ない訳ではないので、調理場の手が足りないなら手伝うことは可能だが、少なくとも今は大丈夫な模様。なので調理場の掃除を終え、ウォセと共に次は食事スペースに取り掛かる。
「(そう言えば、ウォセ辛くないのかな……)」
 埃が舞わないように、と台拭きやモップを駆使して食事スペースを綺麗にしながら、日和は相棒へ視線を送る。ウォセは異界の狼であり、現在の容姿は二足歩行の狼、所謂ワーウルフ。毛も生えているし、黒い柴犬のワイルドブラッドである日和よりさらに鼻が利くからかなり辛そう。
「……辛かったら幻想蝶入っててもいいよ?」
『……狼は、仲間にだけ戦わせるようなことはしないものだ』
 ウォセは呟くようにそう答え、日和は目を瞬かせた。普段無口なウォセの放った仲間という言葉。日和は「そっか」と小さく述べる。
「……まあ、本当に危なそうだったら倒れる前に幻想蝶に入っててもらうよ。私も倒れたりしないように気を付けなきゃね」
 そのためにも水分補給はこまめにしようと、日和は相棒の分も貰いに調理場へと足を向けた。

●お粥作りです
 大量の米と塩、餓えた職員達を視界に映し鶏冠井 玉子(aa0798)は腕を組んだ。額の大きな×字の傷を名誉の勲章と掲げながら、美食家にして調理師は語る。
「成程、状況については十分以上に理解した。そうだ、人にとって真の敵とは従魔や愚神などでは断じてない。飢餓こそが唯一にして絶対の敵であり、根絶せねばならない問題なのだ」
 玉子は拳を握り込んだ。今こそ絶対の敵に戦いを挑み、眼前の勇士達に最高の賛辞と休息を!
「五日間もの間よくぞ耐え抜いた。その堅忍不抜の精神足るや、見事。
 あとは任せておいてくれ、ギアナ支部の職員たちよ。
 この鶏冠井玉子が来たからには振る舞おうじゃあないか、至高の粥を」
 力強く誓いを立て、そして玉子は早速仕事に取り掛かった。腹を空かせた欠食児童達を前に、無駄にして良い時間など一秒足りとて存在しない。
 まずは調理場の片付けと掃除を手早く行いながら、食材と調味料の状態を確認。水はちゃんと出るようだが一度沸かした方がいい。コンロの火力は一般の厨房レベルという所。
 食器の数は心許ない。不測の事態も考慮して適宜洗って使い回そう。米と塩以外に使えるのは調味料が数種類。玉子はそれらを素早くチェックし脳へ叩き込んでいく。
 プロフェッショナルに求められているものは、ただ美味いものを作る技術だけではない。
 百を超える職員全員に粥を配給し終えるまでの工程をイメージし、コントロールし、実行に移す。
 それこそがシェフ・ド・キュイジーヌの役割だ。
 相棒は既に調査に向かわせた。収穫があるかは運任せだが僅かな可能性に賭けてみたい。その間に玉子は己が任務を遂行する。
 倒れそうな程暑いが、炎と共に生きる料理人であればそれは日常に過ぎず。
 途轍もない程匂うが、臭気漂う食材など、世界を見渡せば幾百と存在する。
 考えるべきはただ目の前の飯を待ちわびる者達に、最良の粥を食べさせること。
「さあ今回も始めようじゃあないか、魅惑のクッキングタイムだ」

●お粥作りです2
「お粥は……栄養の偏りも少なくしたいし、ひと工夫したいねぇ。どうしようかな……」
 玉子とは別の場所でアルが小首を傾げ悩んでいた。そこにゼムが通り掛かり、持っていた卵をアルに差し出す。
『使え……』
「ありがとうございます! あ、そうだ卵があるなら……」
 アルは幻想蝶から牛乳、チャルケセット、マグロの三点を取り出した。まず、米を入れた水が沸騰したら牛乳を加え、弱火で再沸騰。ここで米を半分ずつに分け、片方にチャルケの鶏ササミ、もう片方にマグロを入れてグツグツ煮込む。好みの硬さになったら溶き卵とお塩を投入し……
「ミルク粥2種類完成! これでいつでもおかわりOK!」

「ヨネさん、これ」
 樹からとうもろこしを手渡され、「使わせてもらうッスよ!」と米衛門は親指を突き立てた。そして幻想蝶から自分もとうもろこしを取り出す。
 米衛門の幻想蝶には常時野菜が保管されているのだ。何故かなどと聞いてはならない。
 5日も何も入れていないなら胃の負担は避けるべき。精の付く物より何より栄養優先。まずは鍋二つに湯を沸かし、片方には米、片方にはとうもろこし。茹でたとうもろこしの実を慣れた手付きで取っていき、お粥にズザーして味は塩っ気オンリーで。
「とうもろこし粥完成ッスよ! 今の内に果物……の前に水分補給しとくッスかねェ……」

『うへー……酷い有様です。こんな状況下でお粥を作るなんてあまり気が乗らないです』
「何言ってるの、支部の人達はもう五日も食べてないんだよ? 派遣されたのは俺達だけだし早く解決しないと!」
 紀伊 龍華(aa5198)の発言に、ノア ノット ハウンド(aa5198hero001)は相棒の顔を覗き込んだ。暑い中でも普段着で涼しい顔のノアとは違い、龍華は暑さのあまりいつものコートを脱ぎ捨てている。そのためフードを被ってる時の冷静さは失せ気弱な雰囲気を醸しているが、発言も恰好も積極的なものである。
『妙に乗り気ですね。エプロンまで既にかけてるです』
「……皆ここまで頑張ってきてくれたんだもの。それに応えないと、駄目な気がするから」
 言って調理場の掃除を始める。職員の人達は心配だが、介抱などはあまり心得がない。やってくれている人もいるようだし……
 なので最も自身らが役に立てるであろうお粥作りを懸命に行う事に決めた。お粥一つ分が作れるスペースを確保出来たので、お粥のレシピに則って米を30分間浸水させる。料理過程の待ち時間さえ決して無駄にするまいと、片付けを行ったり、みんなが使った鍋やボウルなどの調理器具を片っ端から洗ったり……
『そろそろよろしいのでは?』
「そうだね! 次は水の分量を間違えないように……」
 浸水時間の終了をノアから告げられ、龍華は米へと駆け付け計量カップを手に取った。目立ったアレンジこそないが、量はうんと多めに、かつ労いの心を存分に込めて、少しでも美味しく出来るように、時間や量など事細かに計りながら丁寧に作る。
『弱気で人見知りのくせにです』
「そこは関係ないだろう……」
 若干Sっ気のある相棒にやや口を尖らせながら、次は蓋をして強火で沸騰。吹きこぼれがないように気を張って……と、龍華の視界に虫が。
「ひっ」
 短い悲鳴をあげながら龍華は素早く虫を捕獲し、素早く外へとほっぽり出した。窓の開閉は一瞬。とにかくここにいるリンカー達は虫に対しての行動が素早い。

●狩りです
『おかゆ作りですか。料理の腕がなりますよ!』
「何というかサバイバルをしていたあの頃を思い出すな」
『普通のお粥では正直物足りないような気がするんですよ』
 御剣 正宗(aa5043)とCODENAME-S(aa5043hero001)はギアナ支部の外にいた。サバイバルをするため……ではなくお粥を、それもオリジナルのお粥を作るためである。本当の理由は臭いに耐えきれないためだがそれは色々な意味で蓋をする。
 粥作りの第一歩として、正宗は熱中症予防のためサバイバルブランケットをはおった。そしてキャンピングナイフセットを手にアマゾンへと足を踏み出す。正宗はイギリス軍隊に所属していた元軍人、サバイバル知識も有している。狙うのは食べることが可能な薬草やキノコ、野菜や果物など。余裕があれば魚や草食系哺乳類、草食鳥類も捕まえておきたい所。
 なお、肉食系は凶暴な類が多く難儀するくせに栄養価が低いし、虫・爬虫類・両生類はゲテモノ扱いされそうだ。そういったものは避け、ナイフで植物を切りつつ進み、動物を退治したり果物を取ったりしてはSの元へ帰還する。
「頼む、えすちゃん」
『お預かり致します!』
 Sは正宗が調達した動植物を受け取ると、見極めと調理の同時進行に取り掛かった。毒がありそうなものや食べれない部類などは切り捨て、食べられる部分のみを調理器具セットのボウルの中に入れていく。調理には正宗も手伝い、Sの指示を受けながら貰ってきた塩と紹興酒「仲謀」を使って豪快に味付け。貰ってきた米、予め新型MM水筒に用意しておいた水を使ってお粥を作り、そこに食材を投入。
『アマゾンの恵みたっぷりリゾット風お粥完成です!』
 掲げた鍋の中にはものすごく豪華なお粥。二人は作品を手に支部に戻る……前に、水筒内の新鮮な冷水を補給した。熱中症予防もあるし、あの臭いに戻る前に一息つきたかったのもある。

 オーロックス(aa0798hero001)は一人アマゾンを駆けていた。相棒の玉子が美食家にして調理師なら、オーロックスは狩猟者にして探索者。今日は粥を彩る野草の収集を任されている。 
 ――塩と米のみでも十分に美味い粥は作れるが、それだけではいかにも芸がない。見た目を華やかにする意味でも、栄養を補う意味でも緑のものを散らしたい。
 ――日本であれば七草だろうがアマゾンでは期待出来ない。蔓菜やステビア種などのハーブ類があればいいが、毒性が無いものであればこの際贅沢は言わない。
 玉子の要望は控えめだったが、オーロックスに妥協するつもりはない。一度狙いを定めた対象に関しては、数週間、数か月、あるいは数年かかることになろうとも、愚直に追い続ける執念の男。それがオーロックス。
 とは言え今回は数年かける訳にはいかないが……対象の入手難易度が高ければ高いほどオーロックスには好ましい。緑の宝を求め、沈黙の雄牛は密林を飛び回る。

●ご飯です
『ほら、ここ座ってろ……』
 職員達の惨状に『(籠城でもしてたのか……?)』と思いつつ、ゼムは近場から職員の状態を確認し、体調の悪い者を掃除したスペースに寝かせたり座らせたりしていた。これで概ね誘導は終わったが……
「ゼム、補水液が出来ました」
 食堂の平介に呼ばれ赴くと、冷えた補水液が入ったコップが大量に並んでいた。平介は補水液作りを続けつつゼムに盆を指し示す。
「自力で飲める人には自分で、飲めない人はゼム……手伝ってあげてください……」
『……あぁ』
 自力で起き上がる事も叶わない者を優先し、ゼムは職員を抱き起こした。「……飲め」、と声を掛け、無理のないペースで補水液を流し込んでやる。
 手の空いている者に頼み、補水液を職員全員に配った後は、氷水を含ませたタオルで職員の身体を拭いていく。これで少しでも臭いを削減出来るかもしれない。
『もうじき飯もできる……』
「うっ、何から何まですまない……」
「お粥第一弾出来ました!」
 職員の声の後にアルのテクノポップが響き、職員達は肩を貸し合いながら食堂へと入っていった。ゼムも職員を支え足を踏み入れると、つい先程はなかった冷気が優しく身体を包み込む。
「リフリジレイトで冷気を部屋全体に行き渡らせました! 冷房効いた部屋に入るあの瞬間をご堪能下さい」
 白江との共鳴を解いたアルがぺこりと頭を下げ、平介と米衛門がお粥をテーブルに運んできた。ことりと粥を置きながら、それぞれに笑みを浮かべる。
「熱いので気をつけて食べて下さい」
「ガッ込まねようにゆっくり食ってけれッスよ!」
 ゼムは職員を椅子に座らせ、お粥を入れたスプーンを口元に運んでやる。
『……ゆっくり食べてろ……おかわりはその辺の奴に言え』
『にしても、風呂はどうしたんだ? 電気使うもん全部壊れてんのか?』
 職員を食堂に運びつつ、スノーは彼らの状況を尋ねた。聞く所によると風呂は現在一面の緑に覆われているそうだが……どうやら臭いの元は職員達の体臭と、食品残滓の両方であるようだ。
『今までずっと籠ってたのか? まァ飯食ってゆっくり寝な! まずは栄養と休息だ!』
 椅子の上に職員を下ろし、スノーは食堂の外へ出た。まだ体を拭いていない連中は食後対応するとして、今は雑魚寝スペースに立ち、濡れた布で周囲を仰ぐ。そこに食事介助を終え、汗がしみた職員の上着を片付けにきたゼムが現れた。
『何してるんだ?』
『応、何だっけな、濡れた布だと臭いの元が定着しやすくなるんだとよ! 細けぇこた良いだろ、手貸してくれ』
 ゼムは手際がいいし、仰ぐにも人数は欲しい。スノーの要請を受けゼムも布を絞って開く。
『……あぁ、分かった』
 濡れた布は臭いをとるのか……と新たな事を学びつつ両手を上下に振っていると、食堂を仲間に任せた平介が姿を見せ、ゼムが一か所にまとめていた上着を腕に抱え込む。
「ちょっと洗濯に行ってきますね」
『応、迷子になんねェようにな』
 平介を見送った後スノーは周囲を見回した。掃除もなんとか終わったし、床の掃除も必要なさそうだし、雑魚寝スペースはゼムが作ってくれたようだし……
 と、平介が戻ってきたので、洗濯物をゼムが受け取り、掛けられそうな場所に干していく。濡れた服を並べていくと、確かに臭いが軽減しているような……
『確かに、臭いをとるんだな……』
『だろ? さあ、もう一頑張りしようぜ!』
 スノーは二ッと笑みを見せ、一層気合を入れて濡れた布をパタパタさせた。

『すいかだよ。食後のデザートにどうぞ』
 シセベルは細かく切り分けたすいかを手に職員達を訪れた。椀や瓶に煮沸済みの水を張り、≪フロストウルフ≫改に甘噛みさせて氷を作り、その氷と水を使って鍋で冷やしたすいかである。同時にほんの少しだけ冷やした水も持っていき、気力面の回復目的で職員達に振る舞っていく。
『全員を等しくとはいかなくてすまないね。少しでも動ける人の数を増やす事を優先させてもらうよ』
「ありがたい、助かるよ」
「ここにいるのは事務方だけ?」
 樹の問いに職員は首を横に振った。事務も現場も関係なく、倒れた者がここに集まっているようだ。情けないと零す職員をなだめつつ、樹はタネを除き崩した実を、スプーンでお椀からすくい口元へ運んでやる。お粥に関してはヨネさんや笹山さん、更に鶏冠井さんも居るなら大丈夫。重病人を看る覚悟で丁寧に食事の介添えを行う。

「デザートに果物あっから、食える人はどうぞッス!」
 米衛門はフルーツ籠の桃やメロンを剥いて出した。脱水や熱中症の心配は消えたようだが急いで食べさせない方がいい。過労による長時間の緊張を考慮し、声を掛けつつお粥や果物を提供していく。
『しょくいんさん、今度この国の料理、教えてください』
「料理中顔を出せなくて、またお待たせてしてすいません。数日間よく頑張って下さいました」
 臭いにやられた鼻声で懸命に話す白江、たどたどしくも心から労わる龍華、甲斐甲斐しく働いてくれるリンカー達全員の姿に、職員達は皆一様に目頭を指で押さえる。
「ありがとう……本当にありがとう……」
「おい、何かいい匂いがするぞ!」
 と、そこにアマゾンから戻ってきた職員達が到着し、丁度いいタイミングで正宗とSがお粥と共に戻ってきた。美味い粥を欲する新たな欠食児童を迎え、玉子が色鮮やかな緑粥を手に声を張る。
「まだまだあるぞ、遠慮なく食べてくれ!」

●ごちそうさまでした! (ギアナ支部一同)
 食事終了後、ノアは職員の話に楽しそうにお付き合いし、龍華は調理場の器具を洗ったり水やおかわりを配膳したりと休みなく動いていた。
「兄ちゃん、あんま無理するなよ」
「だ、大丈夫です」
 おどおどしながらも、ノアに代わってもらう事なく自分の声で返事をする。居るだけでひんやりする幽霊……もとい白江も視覚的涼を提供しつつ食堂内を立ち回る。
『ささやまさん、これどこに片付けますか』
「あの棚にお願いします」
 鼻声の白江に、平介はにこやかに片付け場所を指し示した。職員達が無事に食べ終わったので、今は自分達の上半身を拭き終え着替えの方も済ませている。
 次はタオルを洗おうか……と思った所で、職員に話し掛ける樹の姿が目に入った。聞こえてきた内容に、平介はゼムを呼ぶ。
「私達も行きましょう。聞きたい事がありますし」
『他にやる事があれば呼べ。平介も手伝う』
 仲間達に言伝て、二人は樹達の元へと向かった。

 樹とシセベルは支部内の状況を確認するべく巡回を行っていた。
 まずは支部長に挨拶しようと、エレベーターで支部長室に行きノックをしてみたのだが、返事はなく鍵が掛かっている。話を聞こうと食堂に戻って職員の一人を捕まえ……そして今に至る。
「ギアナ支部長はどちらに? また、救援要請は最寄のインカ支部にも届いていなかったのですか? 出来れば機器の作動確認と、ギアナ支部長が応援要請に行っていないかの確認のため、インカ支部へ連絡を試行したいのですが」
「私もお尋ねしたい事が。何が原因でこうなったのか、助けを求めたのはいつなのか、差し支えなければ……」
 樹と、駆け付けてきた平介の質問に、職員は「少し待って欲しい」と手を挙げた。
「まず、インカ支部も、ギアナ支部程ではないが似たような状況だ。近隣に従魔が多発し身動きが取れないでいる。支部長の行方と現状の説明は、資料と全員が揃ってから改めて説明させてもらう」
「分かりました。ワープゲートの転送記録を確認してもよろしいでしょうか。あと、冷房がきいていないとの事ですので、ブレーカと空調の故障状態の確認も。故障しているなら修理セットでお手伝いします」
「ワープゲートを使ったのは久しぶりだ。救援は出せないと言われていたし、誰もここから動けない状況だったしな。ブレーカと空調はこっちだ。案内する」
 樹は職員の後に従いながら、腰のベルトの動画用ハンディカメラのレンズを向けた。データのコピーを提出すれば、現在のギアナ支部内の惨状、状況の深刻さを全支部で共有出来る筈だ。

 調理器具やお皿を洗い終え、日和はテーブルに突っ伏した。とりあえず仕事は終わったが……体のべとべと感が酷い。
「帰ったらお風呂だね、これは……」
『……仕方ない』
「あれ、素直だ。いつも嫌がるのに」
『おれは石鹸が嫌いだ。……だが、この臭いが染み付くよりはいい……』
 ウォセの言葉に「(普段からそうしてくれれば楽なのに……)」と思ったが、今それを言うのは酷だろう。帰ったら即お風呂に行こう。そしてお風呂上がりの牛乳を飲むのだ。
「まあとりあえず……おつかれさま」

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 深淵を見る者
    佐倉 樹aa0340
    人間|19才|女性|命中
  • エージェント
    シセベルaa0340hero002
    英雄|20才|女性|カオ
  • 分かち合う幸せ
    笹山平介aa0342
    人間|25才|男性|命中
  • どの世界にいようとも
    ゼム ロバートaa0342hero002
    英雄|26才|男性|カオ
  • 炎の料理人
    鶏冠井 玉子aa0798
    人間|20才|女性|攻撃
  • 食の守護神
    オーロックスaa0798hero001
    英雄|36才|男性|ドレ
  • 我が身仲間の為に『有る』
    齶田 米衛門aa1482
    機械|21才|男性|防御
  • 飴のお姉さん
    スノー ヴェイツaa1482hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 銀光水晶の歌姫
    アルaa1730
    機械|13才|女性|命中
  • 見つめ続ける童子
    白江aa1730hero002
    英雄|8才|?|ブレ
  • 愛するべき人の為の灯火
    御剣 正宗aa5043
    人間|22才|?|攻撃
  • 共に進む永久の契り
    CODENAME-Saa5043hero001
    英雄|15才|女性|バト
  • 閉じたゆりかごの破壊者
    紀伊 龍華aa5198
    人間|20才|男性|防御
  • 一つの漂着点を見た者
    ノア ノット ハウンドaa5198hero001
    英雄|15才|女性|ブレ
  • 切々と
    八角 日和aa5378
    獣人|13才|女性|回避
  • 懇々と
    ウォセaa5378hero001
    英雄|20才|男性|ドレ
前に戻る
ページトップへ戻る