本部

海の家は本日修羅場なり

高庭ぺん銀

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/08/16 19:47

掲示板

オープニング

●とある募集要項
『海の家・短期バイト募集!』
日時:8月2日~6日(計5日間)
勤務時間帯:10時~18時
時給:◯◯円
まかない:あり(海の家のメニューから1品選択)
仕事内容:接客・厨房・客引き
制服:服装自由、エプロンのみ貸出(通常ver、メイド風フリルver)
その他:休憩時間や勤務後は、海や浜辺で遊んでOK! 夜は貸し切り状態の穴場スポットです。

応募はこちらまで
店長・夏木 090-××××‐××××


●迷惑カメラ注意報!
「またですか」
 H.O.P.E.職員は尋ねた。
「また、みたいです」
 プリセンサーは呆れ返った声で答えた。昨年、突発的な事件が起こった某海岸に今年も不運が降りかかるらしい。
「お久しぶりです、店長。今年のアルバイトはお決まりでしょうか?」
「いや、まだだけど。……まさか」
 電話をしたのは海の家『夏木屋』の店長。昨年は、短期バイトで彼の店に居合わせたエージェントによってことなきを得たのだ。
「お気の毒ですが、付近で従魔の発生が予測されています」
「また、変態ですか?」
「……まだそこまでは」
 かくしてバイト兼護衛としてエージェントたちが派遣されたのだった。



「シャッターチャーンス!」
 俺は叫んだ。白い砂浜を踊るエンジェルたち。ここは地上の楽園。永遠ではあり得ない、かりそめの楽園だ。ならば、俺は何をすべきか。
 ――そう、この瞬間を切り取ること。
 神が与えたもうた使命。俺たちは聖なる使徒となり、天使の姿を永遠の絵画に……あーもうめんどくせーや!
 とりあえず水着最高! 思いのままに連写するのみ!
「まだまだだぜ、ブラザー!」
「君は……我が同志?」
 スライディングで飛び込んで来た男は、熱い砂にその身を焼かれながらローアングルを攻める。
「HAHAHA! 志で繋がった我が兄弟たちよ、俺に付いて来ーい!」
「いいね! 激アツ! 激エキサイティング!」
 乙女たちの悲鳴と、野太い歓喜の雄たけび、そしてけたたましいシャッター音が響く。平和なビーチは一点、大混乱へと陥った。

解説

・基本的には、海の家のアルバイトとしての業務を行ってもらいます。ホールでの接客か厨房での調理を選択してください。
・海はかなりにぎわっています。ランチタイムは地獄の忙しさと化すでしょう。
・交代で客引きも行ってもらいます。良いアイディアがあれば店長権限で積極的に採用します。
・イマーゴ級程度の従魔発生をプリセンサーが予知済。期間は8月2日から6日の間というところまでしか絞り込めなかった。


【以下、プレイヤー情報】
初日の10時ごろ、イマーゴ級従魔が発生。従魔に取り憑かれた人たちが、無許可で写真を取る迷惑カメラ野郎と化します。彼らを傷つけることなく、ビーチに平和を取り戻してください。
 ※リプレイは主に初日の様子を描きます。残り4日は従魔は発生しません。

仮称:カメラ男
・姿は普通の人間。
・無許可で女性の写真を撮る(スマホやデジカメなど)。目立つデザインの水着やスタイルの良い女性を優先する。
・常に連写していてうるさい。
・水着を脱がせることはなく、その他セクハラもしない。撮るだけ。
・邪魔する相手だけは水着狙いで攻撃してくる。
 (※R18描写はありません)
・非常に弱い。共鳴したリンカーなら素手で倒せる。
・人数は数名~十数名程度。彼らを全員解放すれば、被害はそれ以上広まらない。
・依代から離れた従魔は、放置しても自然消滅する。

店長(夏木)
ちゃらんぽらんな感じのおっちゃん。海の家と小規模な売店を経営。余談だが、本業はメイド喫茶の店長。気前が良く、特に女子には優しい。リンカーではない。

リプレイ

●集合!
「今年もきたにゃー! がんばっていくにゃよ、桜孤!」
 のっけから元気に跳ねているのは猫柳 千佳(aa3177hero001)。黄色のツーピースビキニとパレオが良く似合っている。
「……わしも客引きとやらやらねばならぬのかの…。……暑いし日陰で寝ていてはいかぬのか…?」
「だめにゃー! きっと働いてるうちに楽しくなるにゃ」
 音無 桜狐(aa3177)は千佳に引きずられるようにしてやってきた。水着は古式ゆかしい褌とサラシである。
「ところで……桜狐の水着……む、昔過ぎないかにゃ」
 千佳の言葉に桜狐が心底不思議そうな顔をする。
「……む、水着はこれが昔からの正しい姿じゃろう……」
「そう通りですじゃ! いやはや、話が分かるお方じゃのう」
 言ったのは天城 初春(aa5268)だ。耐水性の黒いさらしと褌を身に着け、その上から黒の羽織を着ている。狐耳の少女たちはなにやら通じ合うところがあった様子だ。
「ふふ。ますたぁ、凄く可愛いわよ」
 水色のフリル付きビキニを着たニウェウス・アーラ(aa1428)の姿を戀(aa1428hero002)は満足げに見つめていた。
「んー……なんか、子供っぽく、ない?」
「大丈夫よぉ。さ、行きましょ♪」
 セクシーな赤いビキニと白いボレロというコーディネートの彼女は、愛らしい相棒の腕を取ってるんるんと海の家へ向かう。
「ここに来るのも1年ぶりか。レミは初めてだよね?」
「はい♪ 綺麗な海ですわね」
 白いビキニ姿の大門寺 杏奈(aa4314)と上品な印象のパレオ付き水着のレミ=ウィンズ(aa4314hero002)は、広がる青い海に目を奪われた。
「前はお菓子買うためのお金を工面するためにバイトに来たんだ。……変質者が出て大変だったけどね」
 去年、登場したのは女子のラッシュガードとパレオを目の敵にする変質者(従魔憑き)だ。
「まさか、アンナはその毒牙に……!?」
「大したことはされてないはず……たぶん」
 そこそこの素早さを持つ敵に、エプロンを奪われるという不覚をとってしまった去年の自分。しかし今は違う。レミと出会い、数々の戦いへ身を投じ、仲間と共に生還した。今、杏奈の手にはどんな相手にも立ち向かえるほどの力がある。
「それに、レミも手伝ってくれるなら心強いよ」
「はい♪ わたくし、アンナの為なら雑用だって何でもいたしますわ!」
「うん。じゃあ私、厨房で料理のお手伝いするから……レミはそれ運んでくれる? あと食器の片付けとか」
「わたくしにお任せあれ♪ アンナの期待に絶対に応えてみせますわ……!」
 仲睦まじい様子に藤咲 仁菜(aa3237)がくすりと笑う。
「ふたりともよろしくね!」
「これ、制服のエプロンだって」
 そう言って店長から預かったシンプルなエプロンを渡すリオン クロフォード(aa3237hero001)。水着の上にパーカーを羽織ったスタイルだ。仁菜は水着の上にTシャツを重ね、さらにフリル付きのエプロンを身に着けている。
「フランとフルムもよろしく! ふたりはどっちの担当なんだ?」
 リオンが問う。
「んー、俺は厨房での仕事メインだなー……」
「私は客引きだね! アイドルの凄さ見せちゃうんだから!」
 フラン・アイナット(aa4719)とフルム・レベント(aa4719hero001)が答えた。
「海の家は、日本における夏の風物詩。やはり、これがありませんと」
 妖しく微笑むのは御手洗 光(aa0114)。学生時代にもこのようなアルバイトの経験はなかったため、今日の日を楽しみにしていた。
「このような場所があるとは知りませんでした」
 マリナ・マトリックス(aa0114hero002)は興味津津と行った様子で、見慣れぬ作りの小屋やら、人々が纏うカラフルな服を見回す。その一方で、マイクロビキニによって自分へと集まる視線にはまるで気づいていない。
「うふふふ。貴重な経験が出来そうですわね、楽しみですわ♪」
「そうですね。でも……」
 両腕で我が身を抱き、思わず相棒のヘルフトリス・メーベルナッハ(aa0017hero001)の後ろに隠れようとする廿小路 沙織(aa0017)。
「沙織? 日焼けでも気にしてんの?」
「いえ……」
 旧式スポーツ水着で頼りなく隠された抜群のプロポーション。否が応でも注目を集める。
「ああ、なるほど……」
「お姉さんたち、ここのバイト?」
「そーそ。10時オープンだから、遊びに来てよね!」
 褐色の少女は活発さと無邪気なお色気を同居させた表情で、道行く男たちにウインクを送った。
「それでは皆様。これより始まる修羅場を、見事乗り越えてゆきましょう♪」

●開店準備!
「う~み~」
 ワンピース型の水着とラッシュガードに着替えたニロ・アルム(aa0058hero002)は、ぼんやりとした佇まいながらご機嫌な様子だ。零月 蕾菜(aa0058)の水着は黒のビキニとパレオ。その上に戦闘衣の帯を止めずに羽織っている。彼女は顔見知りの店長に礼儀正しくお辞儀した。
「お久しぶりです、期間中よろしくお願いします」
「らいにゃ~ん、来てくれて嬉しいよ! 今回もまごころ接客でお願いね~」
 メイド喫茶をはじめとする複数の店を経営するこの男だが、とにかくチャラい。
「えっとじゃあ厨房の方に……」
「え」
 と、常時へらへらとしている店長の顔が、一瞬にして青ざめた。
「あるじ、まえににおいだされたのわすれた?」
 そう言いつつメイド風のフリフリエプロンを渡すニロ。二人そろってホールでの接客を担当することになった。
「……ねぇ、やっぱりやめない……?」
 フリルエプロンをつけた青い髪の少女が、力なく言葉を発した。
「じっとして。汚い物が見えると皆の目が腐るから」
 さらりと言い放つユーリヤ・メギストス(aa0174hero001)。そう、化粧と女性用水着によって女子へと変身していたのは九動 レン(aa0174)だ。
「こういう時に求められているのは女の子だから」
「そんなぁ……」
 ユーリアが得るのは5日間のバイト代と社会経験。だったら自分が得るものは何なのだろう――。
「お昼は忙しいとのことなので……休憩は2~3時の間に取る人を多めにして……」
 シフトの相談の後、ニウェウスが提案したのは席の配置図を描いたボードを複数用意すること。厨房・カウンター・店の入り口に設置し、空席の把握や配膳などに役立てるのだ。
「アイディア助かるよ」
「把握、し易くするのは……大事」
 彼女はこくこくと頷いた。
「さぁって、一杯働いておなか一杯海の家のカレーを食べるのじゃ!」
「初春、これが従魔相手の警備を兼ねてるってこと忘れんなよ」
 天野 桜(aa5268hero001)は青色のスポーツ水着にパーカーを羽織り、その上に普通のエプロンをつけている。初春は先述の褌とさらしの上にフリル付きのエプロンを着用した。
「わかっておる。そこのおぬしら、ちと手伝ってくれんかの?」
「レン。男の子の出番」
 レンと桜は初春の指示に従い、建物の壁のない部分にすだれをくくりつける。
「これでよし、と。他にやることはあるかな?」
「レン、取り皿の用意がまだよ。手伝って」
「……はーい」
 ユーリヤに良いように使われている気しかしないが、深く考えたら負けである。エプロンのひもを結びながら、すたすたと厨房へといく相棒をレンは遠い目で見送った。

 こちらは厨房。フランが提案した新メニューを試食中だ。『ラープ・ムー焼きそば』はニラと豚を使用したアジアンチックな味付けの焼きそば。上には目玉焼きが載せられている。そして『苺アイスパン』。苺の果肉、苺アイス、苺のソースを使用した苺尽くしの一品である。どちらも文句なしの採用となった。
「着替えたよー! 似合うかな?」
 フルムが着るのはオレンジの生地にハイビスカスが散りばめられた水着。フランとお揃いの柄だ。
「あとは客引きだな。もちろん、あれだなアイドルを全面的に出すんだろ?」
「うん、それに予測じゃ従魔が出るかもって感じだし」
「じゃあ、俺は厨房での仕事をしつつお前が襲われそうになったらこれを使って……」
「うち、客席から厨房見えちゃうから!」
「あ、そりゃまずいのなー。ちなみに弾はゴムだから安心してなー」
 愛銃『AK-13』を取り出し肩にかけようとしたところで店長からツッコミが入ったため、緊急時には幻想蝶から取り出すことにした。開店前には在庫分のデザートを作り置いておき、フードメニューについては下準備のみ済ませておく。
「……って感じだな。手順はOKかい?」
 フランが尋ねると杏奈が頷く。
「ええ、これくらいなら何とかなりそうですね」
「おお、頼もしいのなー。じゃ、デザートの補佐はよろしくな!」
 レミは洗剤をぶくぶくと泡立てて、どこか楽しそうに仕事をしている。
「開店前にまとめて洗ってしまいますわね。テーブルは……」
「ホール組で拭いておいたから大丈夫!」
 リオンがふきんをもってひょっこり顔を出す。開店準備はホール・厨房共に、順調に整いつつあった。
「えっと、新メニューじゃなくてちょっとしたアイディアなんですけど……店長さん、カレーは自家製ですか?」
「レトルトをまとめて鍋であっためてるよ?」
 仁菜が提案したのは、カレーにスパイスを加えたり、焼きそばに隠し味のごま油をたらしてみたりという簡単アレンジだ。
「ん! いつもより全然うまい! それに楽ちんだね♪」
「あとは……焼きそばの具材を利用して、野菜ラーメンはどうですか? ヘルシー志向のお客様は喜ぶかもしれません」
 こちらもお墨付きを頂き、仁菜は思わず微笑む。
「さすがニーナ!」
「仁菜ちゃん、お料理上手だもんね♪」
 ストレートに褒められて仁菜は頬を染めた。
「私は杏奈ちゃんのつくったお菓子が楽しみだな。まかないのときはよろしくね」
「もちろん♪」

 同じ頃、光、マリナ、沙織、ヘルフィ、桜狐、千佳はオープン前の宣伝活動へと繰り出していた。
「そこのお兄さん、ちょっとそこの海の家で休憩していかないかにゃ?」
「……まあ休みたければ入るがよかろ……。……美男美女がさーびすする……かもしれぬ……」
 尻尾を揺らし、人懐っこく話しかける千佳。ぼんやりとやる気なく立ち、ゆるーい宣伝をするのは桜孤だ。
「海の家、『夏木屋』でございます! 皆様~。お腹が空いた方、喉が乾かれた方は此方で~」
「そちらの殿方、どうぞ、お一つ如何ですかしら? 本日解禁したばかりの新メニューですわよ♪」
 フランの提案した『ラープ・ムー焼きそば』をプロモーションだ。
「金髪のお姉さん、俺もたべたいなー」
「はい、ただいま参ります!」
 笑顔で駆け寄ってくるマリナ。男たちはついつい胸元に固定されそうになる視線を理性で押し上げ、彼女へと笑顔を返した。
「あうぅ、そ、そんな見ないでくださいぃ……」
「まったく沙織はしょうがねーなぁ? せっかくイイ眺めになってんだし、見せなきゃソンじゃね?」
 ちょっぴりなつかしいワンピース型の水着は、身長に合わせて選んだため大変きわどいことになっていた。あっけらかんと言い放つヘルフィは、褐色肌によく映える白のツイストスリングショットを選んでいる。集まる熱視線はむしろ大歓迎なのだった。

●迷惑従魔お断り!
 異変は、開店直後に起こった。
「いらっしゃいま……な、何ですか!」
 入ってきたお客が蕾菜に向けてシャッターを切ったのだ。面食らった蕾菜だが、すぐに毅然とした態度で注意する。
「他のお客様の迷惑になりますので」
「なんだと! 俺たちは遊びでやってるんじゃないんだよ!」
 熱弁する間もシャッターを切り続ける男。口調ははっきりしているが、眼は明らかに正気を失っている。
「失礼します」
 カメラへと延ばされた蕾菜の手を男は避ける。一般人の反射速度ではない。
「邪魔するならこっちも考えがあるぜ」
 男は蕾菜のローブを脱がせようと攻撃を始める。
「皆さん、予知が当たったようです! 対応を!」
 エージェントたちは一斉に動き出し、ニロは蕾菜と共鳴する。入り口に空いたスペースに男を組み伏せると、掌底を食らわせる。飛び出た従魔を手刀で落として踏みつければ、チリも残さず消えていた。
「さっそく来おったか」
 ホール担当たちは、初春たちが用意したすだれを落とす。
「ただいま外に迷惑な輩がおりますゆえ、ご不便をおかけいたしております、このまま店内でしばしお待ちくだされ」
「あ~、今ちょっと危険だから中で待っててくれよな。すぐ終わるからさ」
 中にいる客たちのパニック状態になるのを防ぎ、安全地帯を作るのだ。外にいた者たちも女性を優先してして避難させる。
「わらわたちは入口の警護にあたるぞ!」
「それなら私たちはぁ……うふ」
 意味深に笑う戀に一抹の不安を感じながら、ニウェウスは彼女と共鳴する。
「はぁい、お客様。そういうのは、ちょっと困るわね」
 彼女はやってきたカメラ男の腕をぎゅっと抱き込む。
「何なら、外で……私の体、思う存分に撮っていいのよ?」
 甘い囁きで誘われれば、本能の権化となった男たちが断るはずもない。ニウェウスはこっそり店内の仲間たちにウインクすると、店から男たちを引き連れて遠ざかって行った。
「レン。男の娘の出番。大丈夫、撮られたり触られたり脱がされたりしても男の娘だから。誰も傷つかないし蔵倫にも優しいから」
「ユーリア? ちょっと何言ってるかわかんない! ていうか男の娘じゃないから!」
 わかるのはひとつ。自分が不審者共の前に放り出されたことだ。ユーリアは店内に残るつもりらしい。
「お嬢さん、おとなしそうに見えて大胆だねー!」
 男たちは気色悪い笑みを浮かべて連写する。エプロンは相棒によってはぎとられたため、今レンを守るのはきわどい水着と胸パッドの身である。
(確かに、標的が他の女の子に移るよりマシだし……でも恥ずかしい……)
 葛藤はあるものの、撮られるがまま、されるがまま。俯き加減なのはせめてもの抵抗である。
「アンナ!」
 レミと杏奈は共鳴すると、ホールへと飛び出し「ジャンヌ」の翼を展開した。
「か弱い女子を無闇に撮ろうだなんて、卑劣な奴ね! これでもくらいなさい!」
 杏奈がまとう光は逆光となり撮影を困難にする。カメラ男たちがアイデンティティを奪われて怯んだ隙に「守るべき誓い」を発動。店の外まで誘導する。
「よかった。セーフティガスは必要なさそうかな」
 戸惑ってはいるがパニックにはなっていない客たち。仁菜は残りの者に店を任せると、杏奈のサポートに回るため外に出た。
「手伝うよっ!」
 箒型の武器『ウィッチブルーム』で砂を巻き上げると、男たちが慌てて目を覆う。イマーゴ級の従魔に憑かれているなら最小限の攻撃で事足りるはずだ。
「ま、負けるもんかー!」
「皆の者、撮れ! 撮れぇーい!」
 地響きのような声と連写音。無駄にドラマチックなセリフを吐きながら、男たちはひとりまたひとりと立ち上がる。誇りをかけた戦に臨む戦士たちではなく、セクハラ集団というのが惜しい所である。
 やみくもに乙女の柔肌へと手を伸ばす男たち。その手が触れる前に跳ねのけ、打ちのめす。
「ううん……俺、何してたんだっけ?」
 従魔にライヴスを奪われたせいか少しぼんやりしているくらいで、男たちにけがはない。
「正直まだお仕置きしたりないけど、正気には戻ったみたい」
「あっちにも人だかりが……! 行きましょう!」
 恐らく囮を務める味方だ。加勢するべく、二人は砂の上を走り出した。

 さて、入り口にて門番を務める初春たちは。
「おぬしら、『夏木屋』の客ならば歓迎するが……そのカメラを下ろしてもらおうかの?」
「なんであたいを撮ってるんだ? あたいなんか撮っても面白みも何にもないだろ?」
 例にもれず、被写体になっていた。帰ってくるのは2名分の連写音。この男たちもクロらしい。
「いやいや、海水浴場では貴重なスポーティ水着の美少女デスヨ! もっと目線下さい!」
「お嬢ちゃんは可愛いねぇ。飴食べる?」
「ええ、撮りながら頭をなでるでない! あ、飴はもらうのじゃ、ってちが~うのじゃ!」
 初春に関しては、完全に幼子を愛でる大人の図だったが。
「ええい! いい加減撮るのやめるのじゃ! パシャパシャうるさいのじゃ!」
「いや、他のに迷惑かけなければあたいはは構わないぜ。……これってほんとに従魔の影響なのか?」
「どちらでも良い! 共鳴じゃ!」
 トレードマークともいうべき大太刀は握らず、ぴょんと背後へひとっ跳び。一人目の首筋に手刀を叩きこむと、二人目の攻撃を素早く避けて飛び退る。
「遅い!」
 そして華麗な回し蹴り。
「ぐあっ!」
 倒れ伏した男をちらりと見る。当然だが息はあるようだ。
「さぁ、痛い目に遭いたいものは来るが良い」
 初春は遠巻きに様子を窺っていた男たちに挑戦的な笑みを向けた。

「はい、では撮影会――もとい、従魔退治といきましょうか♪」
 攻撃宣言を受け、従順だったカメラ男たちはにわかに警戒する。ニウェウスは無防備にも胸部を突き出し、男たちの攻撃を誘う。
「はわっ」
 延ばされた手をべちっと払ったのは、豊満なその胸。幸せと攻撃失敗の悔しさの狭間で戸惑う男。その一瞬のスキをついて距離を詰め、その頭を抱き込んだ。
 名づけて『圧殺乳固め』。相手は死ぬ。――窒息的な効果もあるので、油断するとマジで死ねる。
「おおお、次は俺が行く!」
「いや、俺が!」
「ふふ、まとめてかかっていらっしゃい?」
 左にべちん、右にべちこーん。とどめは『ジャンピング乳プレス』。頭頂部に女神からの贈り物。男が鼻血をクジラの潮の如くに噴射し、倒れた。
(ねぇ、戀……。もっと、別の攻撃……しよう?)
(あら、ダメよぉ。見ている人達も楽しめる退治にしないと。不安にさせちゃうでしょ)
(そ、そういう、もの……?)
 サービス精神たっぷりの攻撃は、図らずも――主に男性客に対する――宣伝にもなったようだった。

「お触りはいけませんわ。お子様もおられますからっ♪」
 客寄せ中の光たちも異変に気付いていた。
「いいよぉ。だって……こっちの方がシュミなんだぁ」
 けたたましいシャッター音。それは彼が取り出したスマホから発せられているらしい。男は光たち以外の客にも物色するような視線をばら撒き始める。
「お待ちくださいませ!」
 よく通る声で光が男たちの注意を引く。
「撮影は順序を守ってお願いいたしますわ」
 胸を強調したポーズで男たちの気を引く。
「あ、あの光様? このようなことは……」
「今こそ、人々を守る為に一肌脱ぐときが来ましたわね♪」
「……そうですね。人の為、ですね!」
 戸惑うマリナも魔法の言葉で懐柔成功。というか嘘は言っていない。
「しゃ、写真に撮られるなんてそんなの恥ずかしいですよ……っ」
「いーじゃん、減るモンじゃなし。とゆーワケで頑張っていくよー」
 顔を真っ赤にして逃げようとする沙織の腕をヘルフィがホールドする。
「沙織さん? いけませんわ、ほら、もっとこうやってぇっ♪」
「きゃはは! こんな感じぃ?」
 豊かな胸部を持つ沙織とヘルフィが向かい合わせに抱き合ってカメラ目線。それだけで迫力の映像だ。
「桜狐様もこうですわ!」
「ん……こうかの?」
 眠たげな眼をしつつ、頭の後ろで手を組む桜狐。
「いいよいいよー! つぎは斜め下に目線下さいー!」
「千佳ちゃーん、今度は桜孤ちゃんとのツーショットがいいなぁ?」
「任せるにゃー!」
 グラビアアイドルの撮影よろしく、的確な指示を飛ばす光。彼女を含む魅力的な6人の被写体。これには自称・紳士諸君も舌を巻き、夢中で撮りまくるのだった。

「フルムちゃーん、こっちにウィンクしてー!」
「はーい!」
 可愛らしく頬に両手を当てて振り向くフラム。息もつかせぬ連写音が彼女を襲った。
「あのー、そんなに焦らなくても逃げませんよ?」
「フゥー! いいねぇ可愛いねえ! 次は膝に手を当てて、のぞき込む感じで」
「お前はもう十分撮っただろ! 俺としては寝そべりポーズを……」
 そのとき、彼らの足元を何かが抉った。
「すみません、これ以上はちょっと近すぎるので~」
 にこりと笑うフルム。飛んできたのは、フランの撃ったゴム弾だ。非共鳴状態なので従魔へのダメージはなく、命中率も頼りないが、フルムに近づけないための威嚇としては十分だろう。
「順番にポーズ撮りますね! でも私アイドルなので、あんまり過激なのはダメですよ~?」
 アイドルである彼女らの作戦は思う存分撮らせて、相手を満足させることだった。しかし彼らはヒートアップするばかりで、むしろ症状は悪化している気がする。
「そこまでよ!」
 現れたのは杏奈とリオン。
「キター! うさ耳美少女!」
「そっちの天使お姉さまはフルムちゃんのお友達?」
 シャッター音が彼女たちを歓迎する。が。
「……さぁ消し炭になる覚悟は出来ているか?」
「クッ……何だこのプレッシャーは!」
 仁菜の姿を借りたリオンが、全身から怒りのオーラを発する。内にいる仁菜は思わず焦った声で彼の名を呼ぶ。
(リオン! 取り憑かれただけの一般人だよ……!)
「ニーナ、知ってる? ケアレイって千切れた腕もくっつけられるんだってー』
(ま、まってリオン! ストップ!)
 仁菜の静止がまるで聞こえていないかのようにリオンは言った。仁菜が絡むと沸点が低くなる傾向こそあるが、リオンは仲間想いで優しい英雄なのに――!
「さぁ黒猫、全てを燃やし尽くせ!」
(千切れたらくっつけられても、燃えたら無理じゃない!?)
 野太い悲鳴が上がる。仁菜は思わず目を覆いたくなる。しかし。
(あれ……無事だ……?)
 仁菜の姿のリオンがいたずらっぽく笑う。
(……もしかして、パニッシュメント……?)
「一般人を傷つけるはずないでしょー。従魔は消し炭にしたけどさ……」
(もう、びっくりしちゃった……)
 怒れるナイトが放った浄化の炎は見事、従魔だけを断罪した。仁菜はほっと胸をなでおろした。

「……わしばかり働くのは癪じゃのう。ほれ、さーびすじゃ」
 ぴらっと千佳のパレオをめくる桜孤。
「にゃっ!? 何するにゃ!」
 見せても大丈夫な水着と知っていても、めくられればなんだか恥ずかしくなってしまうのが人情である。桜色の頬でパレオを抑える千佳の写真は、間違いなくベストショット候補だ。
「にゃ、変なところを撮るんじゃないにゃ!?」
 そこで千佳ははたと気づく。慣れない――が声援が心地よい――撮影会に夢中になっていたが、これは目的ではなく手段なのだ。
「そろそろ従魔を倒さなきゃだにゃ! 楽しい海で皆に迷惑をかける悪い子達は、この魔法少女♪ まじかるチカがお仕置きするにゃ♪」
「……水着じゃ魔法少女も何もなかろうて……」
 けれどやっぱり、決めポーズは欠かさずに。
「桜狐、共鳴にゃ!」
 現れたのは白銀の髪に黒い耳をもつ、水着の美少女。
「みんな、こっちむいてー♪」
「はーい、ってへぶっ!」
 拳を軽く握ってにゃんにゃんポーズ――と見せかけて顔面ぐーぱんち☆、からのハイキック。なかなかに容赦がない。殴られるとわかっていても、可愛い子の可愛いポーズが見られるならやめられない。それが芸術を愛する者の性である、多分。



 エージェントたちの奮闘により、ピーク前には事態が収束した。
「ニーナを俺の許可なく撮るなんて……」
 許可を出すこと自体ありえないが。熱く焼けた砂に額をつけ、土下座する男たちをリオンが鋭い視線で射抜く。
「すいません! データは消しますので命だけは~!」
 迷惑行為は従魔のせいで気が大きくなったことが原因であるようだ。我に返った男たちが涙目でデータを全削除したため、エージェントたちはそれ以上の追及を避けた。
「まぁまぁ。反省してるならいいんじゃね? それより夏木屋によってかない?」
 フランがにっと笑う。
「美味しい料理やデザートがいっぱいだよ! ほらほら!」
 眩しい笑顔で手まねきするフルム。さっそく一名様ご案内だ。
「カメラは人を不快にさせるためじゃなく、幸せな思い出を残すためにあるんだよね!」
 店長はぐっと親指を立てると、男たちと共にビーチへと歩き出す。
「あれ……何だか既視感が」
 杏奈が呟く。この店長、去年も初日から仕事をサボっていたのである。
「させませんよ?」
「ぐえ」
 低い位置から掴まれるアロハシャツの首根っこ。逃亡はあえなく失敗した。
(何故でしょう……速やかに退治できたのは良いことなのに……ちょっとだけ名残惜しいような)
 店へと戻る途中、沙織はそんな思いを自覚し、真っ赤になるのだった。
 伸びてしまった男たちは蕾菜が中心となり手当てを施された。店内はこれから混雑するため、首筋に濡れタオルを当ててレンタル用のパラソルの下など日陰で休ませる。
「手荒な真似をしてごめんなさい。ゆっくり休んでくださいね」
 白衣の天使、もとい白エプロンのナースさんは彼らを大いに癒したという。

●海の家はまだまだ修羅場なり!
「こちら最後尾でーす。メニューを見ながらお待ちくださーい」
 リオンは客席を忙しく動きまわりながら、外の行列にもメニューを配る。ボードをちらりとみて、掃除済みの席へと次の客を案内する。
 ニウェウスはてきぱきと食器を片づけ、テーブルを拭くと設置したボードの元へ。他の店員といちいち確認し合わなくても、一目で空席がわかるようになっている。
「光ちゃーん、やきとりを2卓様ね~!」
「かしこまりましたわ!」
 ちょっぴりしょっぱめの焼き鳥は光のアイディア。塩分補給を助けたい天使の気持ちと、ドリンクの売り上げアップをもくろむ小悪魔な気持ち。どちらも知る由もない客たちは、ただ美味そうにここでしか味わえない味覚を堪能している。
  
 英雄と能力者、二人一組で休憩も回す。
「海に来て遊ばないのは損にゃよ♪」
「……客引きだけで十分に動いたから寝てたいのじゃがのぉ……」
 昼食後はまったりと休憩する予定だった桜孤だが、足を水につければその心地よさに、目を細める。
「隙あり!」
「……千佳、覚悟はできておろうのぅ?」
 お約束の水かけ遊びに、泳ぎっこ。なんだかんだで彼女も海を楽しんでいた。
「あれ……み、水着がないにゃー!」
「わしのようにきちんと巻いて置かんからじゃろ?」
「それは違う気がするにゃー!?」

 蕾菜とニロに休憩が回って来た。
「かれーらいすとー、あいすぱん!」
 まかないをニロに決めさせると、店長が用意したパラソルの下へ移動して昼食タイムだ。
「あるじ、あーん」
 基本は食欲旺盛なニロが両方食べているが、時折蕾菜にもスプーンを差し出している。
「わ~」 
 ニロは食事を終えると、ゆったりと寄せては返す波と追いかけっこをし始める。蕾菜は彼を見守りながら水分補給を済ませると、食器を洗うレミの隣に立った。
「こちらから拭いていきますね」
「助かりますわ……ってあら? まだご休憩中では?」
「普段の戦闘とか訓練とかに比べたら疲れてるって感じはしないので……その分ニロはちょっと多めに休ませてあげてください、店長さん」
「りょーかいだよー」
 遠景に溶け込んだニロを見やれば、砂の城を作る子供たちのグループに混ぜてもらっている。
「休むというより遊んでますが」
 蕾菜は苦笑気味にそう付け加えた。店長は黙々と手を動かすユーリヤに声をかける。
「ユーリヤちゃんは平気? お昼は地獄だよねー」
「地獄はまだ観たことが無いけど、こんな感じなんだね」
「頼もしいなぁ。あ、ラーメン持ってって良い?」
「店長、メンマがまだ乗ってない……」
 彼女の方が余程しっかりしているようだ。
「なにこれ優しい。幸せの味だー」
 海の家とは思えない家庭的な味付けが客たちを癒す。リオンから感想を伝言された仁菜は嬉しそうに微笑んだ。
「ん、美味しそう……!」
「アンナ、もうすぐわたくしたちの休憩ですわ!」
「まかないのパフェはクリーム大盛りにしていいよ杏奈ちゃん!」
 店長の言葉に杏奈の眼がきらりと輝いた。

●波音、静かに
「お疲れ様」
 疲労を感じさせないクールな表情でユーリアが挨拶する。
「レンも」
「……うん、本当にね」
 店長はバイトたちを順にねぎらっていく。
「新メニューも評判良かったよ! フラン君は明日からも調理よろしくね~」
「おー、がんばるぜー!」
 フルムは、呼び込みで活躍した仲間たちと健闘をたたえ合う。
「レンちゃん、お疲れー! 男の娘ってバレちゃったのは残念だったけど、何気にモテてたよね!」
 からから笑う店長。レンは「男の娘じゃないです」とため息を吐く。
「まー、すっかり静かになったし、夜の散歩とか楽しむといいよ」
 乗り気な様子のエージェントたちに、ユーリヤが言った。
「ダツに気を付けて」
 ダツ。鋭い針のような下あごを持つ魚。光に向かって突進する習性アリ。場の空気を一瞬凍らせる彼女だったが、レンに誘われて波打ち際を歩くことにした。
「……うん、やっぱりこの景色はいいね」
 水着姿になった杏奈とレミも、砂浜を並んで歩いていた。
「静かな波音が心地良いですわ……♪ アンナ、少し入ってみましょう?」
「いいよ。手繋ごうか?」
「念のために、ですわね♪ 浅瀬でのんびりいたしましょう」
 白く浮かんだ月を眺めている内、自然と肩同士がくっついている。その体温も心地よい。少し離れた位置で話しているのは仁菜とリオン、「くっつきすぎ……」「いいじゃなぁい」とじゃれあっているのはニウェウスと戀だ。
 エージェントたちは波の音に心を癒し、明日への英気を養うのだった。

結果

シナリオ成功度 普通

MVP一覧

  • エロ魔神
    御手洗 光aa0114
  • エージェント
    九動 レンaa0174
  • その背に【暁】を刻みて
    藤咲 仁菜aa3237
  • 鎮魂の巫女
    天城 初春aa5268

重体一覧

参加者

  • 胸囲は凶器
    廿小路 沙織aa0017
    人間|18才|女性|生命
  • 褐色の色気
    ヘルフトリス・メーベルナッハaa0017hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • ひとひらの想い
    零月 蕾菜aa0058
    人間|18才|女性|防御
  • 料理の素質はアリ
    ニロ・アルムaa0058hero002
    英雄|10才|?|ブレ
  • エロ魔神
    御手洗 光aa0114
    機械|20才|女性|防御
  • 天然エルフ
    マリナ・マトリックスaa0114hero002
    英雄|22才|女性|ソフィ
  • エージェント
    九動 レンaa0174
    人間|13才|男性|回避
  • エージェント
    ユーリヤ・メギストスaa0174hero001
    英雄|14才|女性|バト
  • カフカスの『知』
    ニウェウス・アーラaa1428
    人間|16才|女性|攻撃
  • 花弁の様な『剣』
    aa1428hero002
    英雄|22才|女性|カオ
  • アステレオンレスキュー
    音無 桜狐aa3177
    獣人|14才|女性|回避
  • むしろ世界が私の服
    猫柳 千佳aa3177hero001
    英雄|16才|女性|シャド
  • その背に【暁】を刻みて
    藤咲 仁菜aa3237
    獣人|14才|女性|生命
  • 守護する“盾”
    リオン クロフォードaa3237hero001
    英雄|14才|男性|バト
  • 暗闇引き裂く閃光
    大門寺 杏奈aa4314
    機械|18才|女性|防御
  • 闇を裂く光輝
    レミ=ウィンズaa4314hero002
    英雄|16才|女性|ブレ
  • これからも、ずっと
    フラン・アイナットaa4719
    人間|22才|男性|命中
  • これからも、ずっと
    フルム・レベントaa4719hero001
    英雄|16才|女性|カオ
  • 鎮魂の巫女
    天城 初春aa5268
    獣人|6才|女性|回避
  • 笛舞の白武士っ娘
    天野 桜aa5268hero001
    英雄|12才|女性|ドレ
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