本部

霧に潜む影

花梨 七菜

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
4人 / 4~6人
英雄
0人 / 0~0人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/10/22 19:59

掲示板

オープニング

●濃い霧が村を覆う
「ごちそうさん」
「気をつけて帰ってねー。おやすみー」
 居酒屋を出た初老の男性は、我が家に向かってのんびりと歩き出した。
 高地にあるこの村では、朝夕に霧が出るのはいつものことだが、今夜は霧が特に深いようだ。
 火照った頬に、霧の冷たさが心地よい。
 街灯の明かりは、ぼんやり見えるが、街灯自体は霧に隠されて見えない。だからといって、道に迷う心配はない。何十年も通いなれた道だ。
金曜日の夜に、居酒屋に行って一杯飲むのが、男性にとって何よりの楽しみだった。飲んで帰ると、古女房が角をはやして待っているのだが。たまには、あいつに土産でも買ってやらんとなあ。
 そう思いながら歩いていると、突然、男性の首筋がすっと寒くなった。次の瞬間、男性の姿は道の上から消えていた。
 どこかで犬が、遠吠えを始めた。

●見えない敵から村人を守れ!
 HOPE敷地内のブリーフィングルームで、依頼説明係の女性が説明を始めた。
「A村で、初老の男性が失踪し、二日後に遺体で発見されました。男性は、日没後、濃い霧が村を覆っていた時間帯に、男性の家の近くで何ものかにさらわれたようです。失踪したと思われる場所には、男性のサンダルが落ちていました。男性の遺体は、二日後に、男性の家から離れた草むらで発見されました」
 ホログラムに、A村の地図が表示された。説明係が地図を指し示しながら、説明を続ける。
「男性が最後に目撃されたのは、村の中心部にある居酒屋です。居酒屋から南に進むと、男性の自宅があります。男性のサンダルが発見された場所は、家の近くのこの場所です。遺体が発見されたのは、村の中心部から東に行ったところで、森の近くです」
 説明係は、皆の顔を見回した。
「現在も、A村付近では男性が失踪した時と同じような天候が続いており、A村は毎夜深い霧に包まれています。村人は不安におびえていて、日没後は外を出歩かないようにしているそうです。男性を襲った怪物を見つけて、退治して下さい。村人が平和な日常を取り戻せるかどうかは、あなた達にかかっています」

解説

●目標
 従魔を倒すこと。

●登場
 ミーレス級従魔。
 フクロウ型の従魔。
 翼を広げると、2m前後ほどのサイズ。
 滑空して、太い両足で獲物を殴打し、失神させる。失神させた獲物を巣に持ち帰り、ライヴスを奪い取る。巣の中を清潔にしておくのを好むため、ライヴスを奪い取ったあとの獲物は、巣から離れた場所に遺棄する。
 クチバシで突っつくなどの攻撃もする。
 夜行性で、日没後に行動する。

●状況
 A村の人口は、30世帯95人。
 A村の周囲は、森に囲まれている。
 日没後は、村人は外出しないようにしているので、戦闘に村人が巻き込まれる心配はしなくてよい。

リプレイ

●調査開始
 A村に到着したリンカーたちは、早速調査を開始した。
「被害者の遺体の写真を調べたんですが、遺体の首に傷跡がありました。従魔は被害者の首を攻撃して殺害したようですね」
 エステル バルヴィノヴァ(aa1165)の言葉に、都呂々 俊介(aa1364)は不敵な笑みを浮かべた。
「僕が準備してきたアレが役立ちそうだな……それはさておき、僕、前もって周辺の地形図をネットから携帯にダウンロードしておいたんです。エライでしょ?」
 俊介が、携帯の画面を皆に示した。
「村の周囲は、結構険しい山になっています。なので、森の中まで調査を広げたら夜になっちゃいそうなんです。村人への聞き込みと、被害者のサンダルが発見された場所、被害者の遺体が発見された場所の調査を重点的にやりたいんですけど、いいですか? じゃあ、調査開始です。僕は、じいちゃんの孫としてこの従魔殺人事件の解決に当たるぞ!」
 霧島 侠(aa0782)とエステル、モニカ オベール(aa1020)と俊介がコンビを組んで、村人への聞き込みを開始した。
「ありがとうございました」
 村人の家を辞去したエステルは、顔を曇らせた。何軒も聞き込みをしたが、有力な情報が得られなかったのだ。
「残念ですが、怪しい物音を聞いた人はいないみたいですね」
「従魔の活動時間は、夜だからな。寝ていた人が多いのは、しかたない」
と、慰める侠。
 二人で歩いていると、向こうからモニカと俊介がやってきた。モニカは元気に「おーい」と手を振っている。そして、モニカは小走りに走ってくると、
「どうだった? こっちの収穫は無し」
「こちらも同じです」
「じゃあ、被害者のサンダルが発見された場所に行ってみましょうよ。こっち、こっち」
 俊介は、皆の気持ちをひきたてるように明るく言うと、先頭に立って歩き出した。
 しばらくして、目的の場所に着いた。
「サンダルが残されて居るから襲撃場所はやはり家の近く……」
 エステルが呟く。
 周辺を調べると、排水溝に鳥の羽が落ちているのが見つかった。薄茶色と焦げ茶色が縞になっている羽だ。だが、従魔のものであるかどうかは、はっきりしなかった。
「次は、被害者の遺体発見現場に行きましょう」
 再び、俊介を先頭に遺体発見現場に移動した。現場は、村の東にある草むらだ。
「帰った方向と遺体の発見現場がかなり離れている様ですね。従魔は何故遺体を遠く離れた場所に捨てたのでしょうか」
 エステルが首をひねる。
 草むらには、被害者がひきずられたような跡も、足跡も残っていない。
 エステルは、空を見上げた。
「何も無い……ではどうやって? やはり上?」
 俊介が頷く。
「その可能性は高いです。犯人の従魔は大きなマントを着て鋭いステッキを持った怪人物か……鳥?」
「鳥だとしたら、攻撃はだいたい予想できるな。握りつぶし、ひっかき、目玉えぐり、浮かして落とす、そういったところだろう。致命打になるのは最初と最後だな」
 侠が推測する。
 その後、しばらく周囲を調査したが、手がかりはみつからなかった。
「自分たちが囮になるしかないか……」
 侠の言葉に、エステルが頷いた。

●囮作戦、開始!
 モニカは、暗い色の服に着替えた。そして、腰に電灯をくくりつけた。
 囮として用意したのは、大きな藁の束。藁の束には、目立つ色の服を着せ、明るい電灯をつけてある。その藁の束を台車に乗せて一緒に動くという作戦だ。
「あたしたちが囮みたいなものだけど、もう一つ囮があってもいいよね。さあ、行こう」
とモニカ。
「ちょっと待て。各自、共鳴状態になったほうがいい。敵がライヴスを求めるなら、餌を撒けば寄ってこよう。それに、奇襲対策にもなるしな」
 そう言うと、侠は自分の喉についている幻想蝶に手を触れた。侠の身体が光に包まれ、鳥面翼手の鎧風に変化した。
 侠に続いて、モニカ、エステル、俊介も共鳴した。
 既に日は暮れかけ、霧が出始めている。
「しゅっぱーつ」
 モニカは、台車をひっぱった。他の仲間が、少し離れた場所を歩く。
 進むルートは、被害者のサンダルが発見された場所から、被害者の遺体発見現場までである。そのルートを何回か往復し、従魔が現れなかった場合は、更に移動範囲を広げることにした。
 しばらくすると、霧が濃くなってきた。
 藁の束につけた電灯が、ぼんやりした光を放つ。
「交代しよう」
 侠は、モニカに代わって、台車を引っ張り始めた。
「なんか、待つだけって嫌だね」
「そうだな。それに、霧の中、台車を引っ張る姿……非常に怪しいな」
「ははは」
 二人がそんな会話をしているころ、少し離れた場所では。
「霧ふかあ……意外に状況ヤバい?」
 俊介が伸ばした手の先が、見えないほどの霧の濃さであった。
「って、わあ! びっくりした。驚かさないでくださいよ」
 俊介が何気なく振り回した手が、エステルの肩に触れたのだった。
「ごめんなさい。あまり離れると迷子になりそうでしたので」
「怪人かと思っちゃいましたよ。近づく時は、声をかけてください。合言葉を決めましょう……“鳥”と言ったら“皮”です」
「焼き鳥の皮が好きなんですか?」
「うん! 大好きです。エステルさんは?」
「わたしは、焼き鳥はあんまり……ちゃんとしたお店で食べたことがないんです」
「じゃあ、今度一緒に食べに行きましょう」
「ふふふ。そうですね。あ、今羽搏く音が……従魔とは限りませんが……」
 俊介とエステルは立ち止まって耳を澄ました。羽搏く音は遠ざかっていく。従魔ではなかったようだ。
 二人は、再び歩き出した。
 
 侠の次に台車を引くことになったのは、俊介だった。俊介が侠に軽口をたたく。
「もしも従魔が鳥型だったら、従魔と侠さんの戦いは、鳥、対、鳥の戦いになりますね」
「ああ、そうなるな。……貴様、ふざけているのか」
「違います違います! かっこいい戦いになるだろうと思っただけです!」
「ふん。……私のパートナーは、見た目はヒトだが、本来の世界では鳥に近い生物らしい。それで、共鳴すると、このような姿になるわけだ」
「なるほど」
「困ったことに、服を着たがらない奴でな。外出時は、大抵幻想蝶の中だ」
「へえ。僕、会ってみたいです。この戦いが終わったら、会わせてくださいよ」
「……まあ、そのうちにな」
「あ、軽くかわされた」
 
 モニカとエステルが、台車の少し後ろを歩く。
「それにしても、濃い霧だね」
「本当に。なんだか息が詰まりそうですね」
「そうだね。この霧のどこかに、従魔が隠れていると思うと、余計にね。平和な時なら、すごくいい雰囲気の村だと思うんだけどな。あたしたちが従魔を倒して、素敵な村に戻ってもらわなきゃね」
「そうですね。そのために、油断せずに気を引き締めなければなりませんね」
「うん! 頑張ろう!」
 モニカは、気合いを入れ直した。

 次は、エステルが台車を引く番だ。エステルの隣を侠が歩く。
「村のみなさんは、もうぐっすり寝ている時間ですね」
「そうだな」
「怖い夢など見ていないとよいのですが」
「私たちが従魔を倒して、村人が安心して眠れるようにしないとな。……エステルは怖い夢を見ることはあるのか」
「昔は見ました。でも、今は悪夢に怯えている場合ではありませんから。現実の脅威に立ち向かわないといけませんよね」
「そうだな」

 俊介とモニカが台車の後ろを歩く。
「僕、合言葉を考えたんですよ」
「あ、エステルから聞いたよ。“鳥”と言ったら“皮”だよね」
「……既にネタバレしていたとは。ネタバレはミステリーでは禁物なのに……」
「まあまあ。鳥の皮が食べたかったら、あたしの山小屋に皆でおいでよ。狩りで仕留めた鳥をさばいて、皮はカリカリに、お肉はジューシーにローストするんだ。おいしいよ」
「うまそう。食べたいです!」
「皆で来てね」
 
 数時間後。
 かわりばんこに台車を引いて、今はまた侠が台車を引く番になっていた。
 緊張感を持続するのは難しい。どことなく、のんびりした空気が漂っていた。
 だが、そんな時にこそ、敵はやってくる……。
「今、いる場所は……遺体発見現場の近くみたいですね。犯人は……かならずここに戻ってくる! 多分……おそらく。犯人は現場に戻る。ふふふ……これが推理と言うものです」
 俊介が探偵っぽくポーズを決めたその時、前方で「ぐっ」という押し殺した声がした。そして、黒い影がリンカーたちの頭の上を飛んで行った。
「やっぱり上から! どんな存在でしょう?」
 エステルは、一瞬空を見上げてから、すぐに台車の傍に駆け寄った。
 台車の前で、侠が肩を押さえてうずくまっている。
「気配も察知できぬとはな」
 自嘲気味に呟く侠の肩に手をあて、エステルはケアレイで回復を行った。
 再び、従魔が音もなく襲い掛かってきた。狙われたのは、藁の束だった。藁が飛び散る。藁の束につけた電灯が、一瞬だけ、従魔の姿を照らし出した。巨大な梟だ。
 モニカは飛び去る梟の背にクロスボウを向けたが、撃つ前に従魔は霧の中に消えてしまった。
「梟とは智慧の女神の使いだと言う説が有りますが……どうもこれにその様な知性は感じられ無いです」
 エステルが呟く。
「やっぱり鳥だったか。これが役に立つ時が来たな」
 俊介が頭巾を被った。従魔に自分が持って逝かれないよう(代わりに持って逝かれるよう)に準備してきたものである。
「頭巾を被った名探偵か……新しい?」
 悦に入ったのもつかのま、従魔が俊介の頭巾をつかむと飛び去った。
「あ……意識飛びそう……。でも、頭巾はちゃんと役目を果たしてくれた……」
 従魔が鳥型だということがわかったので、モニカは少し気が楽になった。動物の狩りなら、モニカのパートナーである英雄の専門だからだ。だが、クロスボウを構えたものの、従魔の動きが早くて、なかなか狙いを定められない。
「素早くて、当てられない!」
「ええい、当たらぬなら近寄ればよかろう!」
 エステルに襲いかかろうとした従魔の足を侠がつかんだ。従魔が激しく暴れる。エステルは、クリスタルファンで従魔を攻撃した。
 従魔は侠の手を振りほどくと、飛び上がった。だが、エステルの攻撃を受けているので、動きが鈍い。モニカがクロスボウで電灯の刺さっているボルトを放つ。ボルトはうまく従魔の胸に刺さった。
「拡散するけど、ないよりはマシ……!」
 黄色がかった光が、リンカーたちの上空を旋回する。従魔に刺さったボルトの光である。従魔のおおよその居場所がわかるようになったので、攻撃も防御も少し楽になった。
 従魔が、空中を滑るように接近してきた。
 仲間から少し離れた場所で、皆に当たらないように、皆の背よりやや高い場所を狙って、モニカが弓を射る。矢は、従魔に命中した。だが、致命傷ではなかった。従魔はスピードを落とさずに、滑空してくる。
 俊介がトリアイナで、従魔を攻撃した。従魔は、鋭いクチバシで反撃してきた。
「痛い痛い痛い! クチバシかなり痛い!!」
 侠は、シルフィードで従魔の右の翼に斬りつけた。従魔の羽が飛び散る。従魔は、甲高く鳴きながら飛び去って行った。
 その隙に、エステルが俊介にケアレイを放つ。
 従魔は、うまく飛べなくなっているようだ。先ほどまで滑らかだった動きが、不規則になっていた。だが、戦意は失っていない。それどころか、怪我をさせられた怒りが闘争本能に火をつけたようで、猛スピードでリンカーたちに迫ってきた。
 狙われたのは、モニカだった。
 モニカは、ばたんと倒れてきわどいところで攻撃を躱すと、背中を地面につけたまま自分の上を通る従魔に矢を放った。
「逃げるのは難しくなるけど……相手が梟なら、襲ってきたらぜんぶ迎え撃つよ!」
 矢は、従魔の首に命中した。従魔は地面に墜落した。従魔が翼を広げて威嚇する。
 だが、もはや勝ち目はなかった。
 俊介の攻撃が、従魔に命中した。更に、侠のシルフィードが従魔の首を斬りおとし、従魔は息絶えた。

●事件解決
 長い夜だった。従魔を倒した時には、空が白み始めていた。
 リンカーたちは、共鳴状態を解いて、短い休息の時間を過ごしていた。
「ふ……探偵にはならないと決めたのにまた活躍してしまった……のかな?」
 台車の上に座って、前髪をかきあげるのは俊介。
「ようやく平穏が……しかしこの程度の従魔でさえ此処まで人々を恐れさせる事が出来るのですね……やはり根本的な解決を探らねば」
 両手を前で組み合わせて、青い瞳で遠くを見つめるのはエステルである。
 愚神や従魔は世界中に出現し、人々を恐怖に陥れている。リンカーたちの戦いは、まだまだ続くのだ。
「わぁ! 見て見て!」
 モニカが歓声をあげた。モニカの指さす先では、白い霧が薄れ、色鮮やかな紅葉が姿を現していた。
 朝日が照らし出したのは、見事なグラデーションだった。
 山裾の濃い緑。山の中腹は褐色。頂上付近は、目の覚めるような赤色と黄色であふれていた。
「絶景だな」
 侠が嘆声をもらす。
「やっぱり山っていいな! 登りたーい!」
 モニカが両手を上げて、ジャンプした。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • エージェント
    霧島 侠aa0782
  • 雪山のエキスパート
    モニカ オベールaa1020

重体一覧

参加者

  • エージェント
    霧島 侠aa0782
    機械|18才|女性|防御
  • 雪山のエキスパート
    モニカ オベールaa1020
    人間|17才|女性|生命
  • 悠久を探究する会相談役
    エステル バルヴィノヴァaa1165
    機械|17才|女性|防御
  • 真仮のリンカー
    都呂々 俊介aa1364
    人間|16才|男性|攻撃
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