本部

夏だ! 海だ! キャンプファイヤーだ!

和倉眞吹

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
7人 / 4~8人
英雄
7人 / 0~8人
報酬
少なめ
相談期間
5日
完成日
2017/08/13 19:46

掲示板

オープニング

“キャンプ同伴者、急募!”

 そんな見出しが踊ったポスターが、H.O.P.E.支部の掲示板に張られていた。次の行は、“子供会のキャンプ(一泊二日)にご一緒しませんか?”と続いている。
「あのー、済みません。これ、どういう事でしょう?」
 そのポスターを目にしたエージェントは、通り掛かった女性オペレーターを捕まえて、詳細の説明を求める。
「ああ。見ての通りですよ」
 夏も本番、七月下旬から八月一杯に掛けて、子供達の世界では夏休みのシーズンに入っている。
 その夏休み中の行事として、支部近辺にある自治体の子供会主催で、泊まり掛けのキャンプを企画しているらしい。
「ただ、昨今色々物騒でしょう? 人間の犯罪者による事件も勿論だけど、従魔愚神による被害も後を絶ちませんし……」
 しかし、それらに遭遇した事のない人間には、知識として知ってはいても、遠い世界の話なのだろう。
 そういった一部の保護者に押し切られたらしい子供会が、H.O.P.E.に警護を依頼する事を思い付いた末の募集のようだった。
「ただ、この会場となる海岸や、近くにあるキャンプ場を念の為調べてみた所、今の所はおかしなライヴスの動きもないと、プリセンサーからも報告が上がっています。大部分、キャンプを楽しむつもりで行って大丈夫だと思いますよ。万が一、何かあったらガード宜しく、という所と、後はまあ、子供の相手って事になるでしょうけど……」
「子供の相手……ですか?」
「ええ。下は六歳から上は中学一年生までの子供が参加するようです。詳しい事は資料がありますので、興味がおありでしたら後で取りに来て下さい」
 じゃあ、と軽い会釈と共に、オペレーターはその場を後にした。

解説

▼目的
・軽い警護がてら、子供達とキャンプを楽しむ。

▼立地、その他
・現地集合、現地解散です。足がない場合、H.O.P.E.で纏めて送ってくれるので、ご希望ならお申し出下さい。
・参加する子供の年齢層は、下は幼稚園年長(6歳)~上は中学一年。
人数は十人。
内訳:年長組→二人、小学生→一年生・一人、二年生・三人、五年生・一人、六年生・二人、中一→一人。
+子供会の引率の大人が三人。
・今回は、キャンプと言ってもコテージに泊まり、主目的は主に海水浴とキャンプファイヤーなので、テント張りの必要はなし。
コテージから海水浴場までは、大人の足で歩いて五分くらい。

▼スケジュール(キャンプのしおりより)
一日目
13:00 コテージ到着。各自部屋に荷物を置いて、説明の後、適宜休憩。
次の集合時間までに水着に着替えておく。
14:00 海へ出発。海へ着いたら、自由行動。
15:00 コテージへ帰り、着替え等
16:00~ バーベキューとキャンプファイヤーの準備
17:30~ 食事(バーベキュー)、キャンプファイヤー&レクリエーション
※レクリエーション→フォークダンスや、ハンカチ落とし等のゲーム、他
20:00 終了&後片付け
21:00 就寝

二日目
6:00 起床
6:30 ラジオ体操
7:00 朝食
8:00 撤収準備、終わったら各々自由行動。近所には森の遊歩道等もあるので、涼しい内に希望者は散歩に行くもよし。
12:00 撤収

▼コテージ
中庭があり、バーベキューはそこで。
キャンプファイヤーは、海岸で。

▼備考
・今回、事件らしい事件は起きない想定です。
主軸は子供の相手で、後は思い切りキャンプをお楽しみ下さい。
・レクリエーションについては、ご自由にお書き下さい。
例に挙げてあるもの以外でも、余りにキャンプのレクとして外れている等がなければ採用致します。

リプレイ

「成程、一応護衛ではあるのね。悪い従魔が出て来たら、キャンプファイヤーで焼いて食べちゃうから、任せておいて」
『やっと自覚が出て来たね』
 茶化す百薬(aa0843hero001)を、そうじゃない、と横目で見る餅 望月(aa0843)の後ろから、共にH.O.P.E.の車で送って貰った狒村 緋十郎(aa3678)とレミア・ヴォルクシュタイン(aa3678hero001)も車から降り立った。
 二人分の荷物を纏めた大きめのリュックを、緋十郎が背負っている。
「おお、中々良い所だな」
 その後からやって来た麻生 遊夜(aa0452)は、周囲を一望して言う。ユフォアリーヤ(aa0452hero001)も、『ん、海の匂い……良い景色』と尻尾を振った。
「麻生遊夜だ。相方のリーヤ共々宜しく頼む」
 駐車場に集まっていた子供達と引率者達に、遊夜は頭を下げる。ユフォアリーヤも『ん、宜しく……一緒に遊ぼう、ね?』と小首を傾げた。
「皆で楽しもうな!」
 自家用車で現地へ駆け付けた虎噛 千颯(aa0123)も宣言する。車内には、子供達への土産である駄菓子が積んである。
『海! キャンプ! 楽しみなんだよ!』
 烏兎姫(aa0123hero002)も、千颯と同じノリで叫びながら、車から降りた。
「まぁこういうのを経験するとしないとじゃ、結構後で違いが出る気がするな」
 千颯の車に同乗していた赤城 龍哉(aa0090)が言えば、ヴァルトラウテ(aa0090hero001)も頷く。
『最近は自然と触れ合う機会自体が減っているようですものね』
 御神 恭也(aa0127)と伊邪那美(aa0127hero001)、月鏡 由利菜(aa0873)とリーヴスラシル(aa0873hero001)も合流。ミーティングを行う為、引率者が皆をコテージへ誘った。

『私は教師とは言え、小学生の担任になった事はない。これも社会勉強の一環として取り組む』
 各々部屋へ引き上げた後、着替えをしながら、リーヴスラシルが言う。
「私も、子供達が元気に駆け回る姿を見るのが楽しみです」
 自然それを想像したのか、由利菜も頬を緩める。相棒に倣って着替えをしようと、金と白のパレオを取り出した。このデザインを選んだのは、肌の露出が気恥ずかしいからだ。
 と、リーヴスラシルの方を振り向いた由利菜は、思わず頬を染めた。
「ラ、ラシルの水着姿って、子供達には目の毒なのではないですか……?」
 黒の大胆なセクシービキニは、彼女に似合ってはいるが、ある意味で教育に宜しくなさそうだ。
 しかし、彼女は涼しい顔で流す。
『特に水着の指定はなかった。ならば、私が一番着やすいもので良いだろう?』
 まあそうですけど、と呟く由利菜に、リーヴスラシルは早く行こうと促す。
(一般にヴァン神族は性に開放的と言われますが……真面目なラシルにもその血の影響が少しはあるのでしょうか……?)
 せめて何か羽織るように言うべきか。悩む内に、相棒の背は部屋の外へ消えた。

 その頃、狒村夫妻の部屋でも、一騒動起きていた。
「中々景色のいい部屋ね。悪くないわ」
 窓から景色を眺め、レミアが満足げに頷く。その後ろでは、緋十郎が運んで来た荷物を整理していた。
 任務中ではあるが、二人共休日気分も満喫している。
「次の集合時間まで、後三十分位かしらね」
「ああ。いつでも出られるようにしておこう」
 首肯した緋十郎が、レミアの荷物を彼女に手渡した。その後、自身の荷物から、黒と赤の、和柄ハーフパンツ型水着を取り出す。
 そして、顔を上げた彼は鼻血を吹いた。妻の、黒生地のビキニ紐パン型水着姿に悩殺されたらしい。
「ちょ、また……?!」
 レミアは、呆れ顔でドン引きした。先日、プールでも夫は同じように鼻血を吹いたのだ。
「まぁ……わたしの魅力の前では、鼻血の一つや二つ仕方ないわね。寧ろ当然の反応だわ」
 寛大に流しつつも、「出るまでにその鼻血、止めておくのよ」と釘を刺すのを忘れない。
 ヨロヨロと室内に設えられていたティッシュに手を伸ばす夫を背に、レミアは、先に部屋を後にした。

「どうやら本当に危険はないようだな」
 若干警戒していた恭也は、拍子抜けした顔で呟く。海への道中で、伊邪那美は『よ~し、遊ぶぞ~』とよく判らない気合いを入れた。
 子供達と列になって歩きながら、ユフォアリーヤは新調した水着を遊夜にお披露目するのに忙しい。
『ん、似合う? 似合う?』
 黒地に赤の彼岸花をあしらった水着を見せながらクルクル回る。
「お、見たことないな……うむ、似合ってる。可愛いぞ」
 微笑した遊夜に頭をポンポンと叩かれ、ユフォアリーヤは照れ笑いをしながらも嬉しそうだ。
「海では、ライフセーバー的な立ち回りも準備しといた方が良さそうだな」
 龍哉はすべき事を確認しつつ、千颯を振り返る。
「虎噛さんのパージは禁止で」
 笑いながら言うと、千颯は「失礼な」と眉根を寄せた。
「これでも父親だし、子供の教育に悪い事はしません」
「そう願います」
 すると、少年の一人が、「パージって何?」と突っ込んで、千颯を往生させた。

『一年生の子と年長組の子を一緒に。二年生は三人一グループで良いと思いますわ』
 ヴァルトラウテは、海岸に着くと顎に指先を当てて小首を傾げる。
『無論相性もあると思いますし、その辺りは実際に様子を見ながら調整ですわね』
「人それぞれだからな。余り無理強いをしては、楽しめる物も楽しめなくなってしまうだろう」
 恭也が同意するように頷いた傍から、横を千颯が駆け抜けて行く。
「よーし! 俺ちゃんも一緒に泳いじゃんだぜー! 泳げない子は俺ちゃんとこおいで~」
 先刻の言葉通り、流石に千颯も水着は着用している。虎柄なのは、この際ご愛敬だ。
『一緒に楽しもう! キャンプなんてボク初めてで、ワクワクしてるんだ!』
 烏兎姫も、千颯と同じテンションで両手を突き上げる。水着に包まれたCカップの胸元が、妙に眩しい。
「はい、二人共ストップ」
 今にも海に突っ込みそうになる二人を、遊夜が止める。
「海に入る前には、準備運動だろ。しっかりやっとかないと、足攣ったりするし」
 あ、と固まる千颯達の隣で、ユフォアリーヤが『ん、溺れる……大変』と“ほえーん”とした口調で恐ろしい現実を呟いた。
 体操を終えた後、改めて千颯が口を開く。
「さー、泳ぎたい子はいるかー」
 主に年長組から低学年の子を見回すと、年長組の少年少女は互いの顔を見合わせた。彼らは双子らしい。
 小一の少年が、手を挙げる。
「でも、快は泳げないだろ」
 口を開いたのは、二年生の一人で、志満柾という。
「そういう君は、泳げるのか?」
 彼の頭を撫でた緋十郎が、傍にしゃがみ込む。
「快よりはね!」
 胸を張った柾に、じゃあお手並み拝見だ、と緋十郎も彼の手を引いて海へ促す。
「じゃあ君は俺ちゃんと一緒に行こう! 亀さんしてやるからなー」
「亀さん?」
 千颯に抱き上げられた快が、小首を傾げる。
『背中に乗っけて泳いでくれるんだよ。良いなー』
 烏兎姫も、快に笑い掛ける。
「じゃ、俺は釣りにでも行くか」
『は!?』
 幼少組を纏わり付かせた何人かが海へ入るのを見送って呟く恭也に、伊邪那美が何故か非難がましい声を上げて彼を振り仰ぐ。
 恭也は主に年長の子達に視線を投げ、「釣りに行きたい奴はいるか?」と声を掛ける。
 無言で手を挙げた五年生と中一の少年達を引き連れて、踵を返す恭也の上着を、伊邪那美が引っ張る。
『もう! 海に来たのに泳がないなんて、勿体ないでしょ!』
「海釣りも中々出来る物じゃないぞ? それに釣果次第では、夕食のバーベキューが豪勢になるが」
 後半が、元来食いしん坊の彼女の心を捕らえたらしい。それ以上彼女が反論しないと見た恭也は、少年達を促す。
『でも、やっぱり勿体ないよねぇ』
 彼らを見送った伊邪那美は、誰にともなく呟いて周囲を見回す。
 年長組の双子と快、柾は、それぞれ千颯と烏兎姫、緋十郎とレミアに付いて浅瀬で泳いでいる。遊夜とユフォアリーヤも混ざっていた。遊夜が「あんまり遠くに行くなよー?」と声を掛けているのが見える。
 残っているのは、小二の女子二人と、小六の女子二人だ。
『ボクらも泳ぎに行こっか』
 背丈が同じくらいなので、自然小二の二人と視線が合う。
「でも」
「あまり長い間は泳げないし」
『じゃあ、練習しよ。大丈夫、教えるから』
 伊邪那美は、二人の手を引いた。
『流石に一日で完全に泳げるようにするのは無理だけど、溺れなくする位なら何とかなると思うんだ』
 三人が波打ち際へ走るのを、小六の二人が見送る。
『二人は泳ぎに行かないのか?』
 弾かれたように振り返った二人は、セクシーなリーヴスラシルに暫し唖然としていた。だから言わない事じゃない、と由利菜は脳裏で呟く。
「えっと、そう、ですね」
 目のやり場に困っているような少女達の視線に、リーヴスラシルは無頓着だ。
『動かないでいると、血の巡りが悪くなり、却って疲れる』
「はあ」
「将来の健康や容姿の為にも、存分に身体を動かして楽しんだ方がいいですよ」
 由利菜も、気後れするような少女達の緊張を解すように、笑って言葉を添える。
『折角海に来たのだから、泳ぐのが良いだろう。もし泳ぐのが苦手なら、私達が教える』
 海へ向かう彼女らの背を見つつ、じゃあたし達も泳ごう、と浮き輪を片手に望月が浜に仁王立ちした。その身は、セパレートタイプの水着に包まれている。色気には欠けるが、泳げればいいのだ。
『空の上でも水の中でも天使なのよ』
 訳が判るようで判らない事を口走りつつ、百薬も海へダイブする。
「百薬の羽根って、泳げなくても浮力ありそうよね」
 呟きながら、望月も百薬に続いた。

 やがて、一通り泳いだ小一と小二の四人は、烏兎姫と一緒にビーチバレーを始めた。緋十郎とレミア、千颯、伊邪那美とヴァルトラウテも混ざって、試合は中々白熱している。
 遊夜とユフォアリーヤは、双子と一緒に貝拾いや、砂の城の建築に勤しんだ。
『ん、良い感じ……そう、上手い上手い』
「……出来たぞ! む、波が来た。壁を作れー」
 すっかり童心に返って子供達と城を守ろうとする遊夜を、ユフォアリーヤは苦笑して眺めている。
『もう、ユーヤも子供……あ、これ綺麗』
 直後、ふと目に留まった貝殻を拾い上げたユフォアリーヤの尻尾が、嬉しげに揺れた。

 コテージへ戻ってからは、バーベキューとキャンプファイヤーの準備時間まで自由行動だ。
 狒村夫妻は、バスルームでシャワーを浴びるべく一度引き上げる。
 遊夜は、幻想蝶からサウナを取り出して組み立てると、他の皆にも開放した。汗と海水を流して、『ん、スッキリ』とユフォアリーヤはご機嫌で頬を擦る。
「他にも使いたい奴がいたら言えよー」
 遊夜が声を掛けると、子供達は興味津々でその内部を覗き、好奇心には勝てず皆入り込んだ。

 着替えが済んでしまうと、予定の十六時を待たずに、誰ともなく中庭へ集まり、バーベキューの準備が始まった。
 とは言え、材料などの調達は粗方子供会や会場側で済んでおり、後は食材を整えたり火を起こすだけのようだ。
「至れり尽くせりって奴か。なら、無駄にしないようきっちりしないとな」
 火の管理など注意すべき点はあるので、その辺は抜かりなく行こう、と龍哉が腕を捲る。
 食材を串に刺したり等の準備を子供達に混ざってしながら、遊夜もその後の予定を確認する。
 恭也は、少年達に釣った魚の腸や鱗取りの仕方を教えている。そこへ、緋十郎がレミアを伴って顔を出した。
「結構釣れたんだな」
「ああ。二人共、中々筋が良かった」
「兄ちゃんの教え方が上手なんだよ。な」
「うん」
 等と、三人はすっかり打ち解けている。
「最初から用意された物よりも、苦労した分だけ美味く感じるんじゃないかと思ってな」
「そうだな。よし、俺も手伝おう。終わったら二人共、火起こしに挑戦しないか?」
「火起こし?」
「ああ。原始的な摩擦熱による着火の方法だ」
 説明すると、少年達は興味を大いにそそられたようだった。

 一方、千颯は子供会の役員と共に、キャンプファイヤーの準備に海岸へ引き返した。
 本格的な薪を組む傍ら、同時進行で明日の虫取りの為の餌も作る。
 程なく、仲間からバーベキューの準備がほぼ終わった事を知らせる連絡がスマホに入ったので、役員にも知らせ、コテージへ戻った。

「こっち焼けてるぞ。野菜もちゃんと食えよ」
 野菜を避けて取っている少年を目敏く見つけた龍哉は、やんわりと諭す。
『少し具材が余ってるようですわね』
「ソース焼きそばでも作るか。海の定番メニューだしな」
「俺ちゃん、ひとっ走り麺買ってくるか?」
「一緒に行こう」
 暫し席を外す龍哉と千颯の背後で、望月と百薬は全力ではしゃいでいる。
『焼けたてが美味しいよ、火傷に注意して食べてね』
 かと思えば、子供達にもちゃんと譲っている。
 同じく、肉を頬張るユフォアリーヤは、『お肉、おっにく♪』と尻尾を扇風機の羽のように振り回していた。
「全く……ほれ、焼けたぞー」
 遊夜は呆れつつも、ユフォアリーヤに肉を取ってやる。受け取った彼女は、『はい、どーぞ』とすぐ傍にいた少年の皿に、肉を装った。
「リーヤ、立派になって……」
 その様を見た遊夜は、思わずホロリと涙した。

「おっちゃん。そろそろご飯、蒸らし終わったんじゃね?」
 柾が、緋十郎の上着を引っ張る。
 自身が、肉があるならご飯も欲しい派なのと、子供達にも良い経験になるだろうと、火起こしの後飯盒炊爨をしたのだ。炊爨は、高学年の子ばかりでなく、幼い子達も混ざって行った。
「そうだな」
 飯盒を開けると、いい具合になっている。
「おーい。飯が欲しい奴は来いよー」
 炊飯器でなく、自分達で炊いたご飯に、子供達も目を輝かせた。

 十八時を過ぎると、賑やかな夕食会も終盤に向かう。
「よーし、食ったら片付けだ。ゴミは分別して袋に入れてくれ」
 龍哉が号令を掛けると、はーい、と元気のいい声が返った。
『成程。単なる娯楽ではなく、社会勉強でもあるのですね』
 ヴァルトラウテも、燃えないゴミの袋を寄ってくる子供達に差し出す。
 火の始末もチェックし、ゴミも粗方袋へ納めると、一同は続くお楽しみ、キャンプファイヤーの会場である海岸へ向かった。

 海岸へ着く頃、千颯は防虫電磁ブロックを発動させた。
「ファイヤー囲んで定番のフォークダンスはどうだろう?」
 燃え上がった火を前に遊夜が提案すると、『じゃあ音源代わりに』と手を挙げた烏兎姫が、綺麗な歌声を披露する。
 望月も一緒に歌おうかと思ったが、ぼえーっとなってしまいそうなので、踊りの列に加わった。
「お手をどうぞ、お嬢様」
『ん、リードしてね?』
 小さく笑って遊夜の手を取るユフォアリーヤに倣い、役員に促された子供達やエージェント達もそれぞれ踊り出す。
 順に子供達とも一通り踊り、烏兎姫の歌が途切れると、誰からともなく拍手が上がった。
『楽しんでる?』
 一人その輪から外れて眺めている中一の少年に、烏兎姫は声を掛ける。一人大人びてしまって、楽しめないのではないのかと心配しての事だったが、彼は口元に微笑を浮かべて頷いた。
『そう? 何か面白いものを見つけたら、ボクにも教えてね!』
「じゃあ、早速あれなんか面白いんじゃね?」
 彼が指さした先には、遊夜が「尻尾取りする者この指とーまれ」と人差し指を差し出しているのが見える。
『あ、はいはーいっ!』
 手を挙げた烏兎姫は、『行こ!』と彼も引っ張って行く。
「何、それ」
 レミアは、キャンプ自体が初めてなので、昼間から人間の風習が色々興味深くて新鮮だった。しかし、解らない事も多い。
 緋十郎の服の裾を引っ張って訊ねると、「要するに、尻尾を取るんだ」と簡潔に返ってくる。
「四十センチ位の長さに切った紙テープをこうズボンに挟けて、それを取られたら負けってゲームだな」
「ふぅん」
 物言いたげなレミアの視線を感じないことはなかったが、緋十郎は敢えてスルーした。
 その後、じゃん拳列車へと続くゲームの間に、龍哉と千颯は花火の準備に勤しんでいた。頃合いを見計らって、千颯が声を掛ける。
「花火持ってきたんだぜー! 花火大会やろーな!」
 龍哉が準備した噴出花火が、花火大会の開始を告げる。海岸寄りの位置に並べられた花火に点火すると、派手に火花が噴き上がった。子供達から歓声が上がる。
 暫く各々手持ちの花火を楽しんだ後は、線香花火の長持ち大会が取りを飾った。

 レクリエーション後は、その場で後片付けをする組と、子供達をコテージへ送る組に別れた。
「時間が時間だし、おねむの子も出て来るだろうしな」
 とは、遊夜の弁だ。
 幼い子と同じレベルで眠気に襲われたのか、ユフォアリーヤが背に抱き付いて、『ん、ぬくぬく……』と頬擦りするのへ、「暑い」とぼやいている。
「確かに、低学年以下の子は、早めに風呂に入らせて寝かせた方がいいな」
 同意しつつも、緋十郎は片付けの組だ。高学年以上の子供達は、残ってゴミを拾っている。大方は、水を張ったバケツに花火の燃え滓が入っているので、後は薪の片付けと簡単な確認だけだ。
 レミアが作業を見守る中、大きめの缶を片手に、龍哉達も周囲と火の始末を入念にチェックし、その場を後にした。

「ちょいと手間取ったか」
『消灯時間は過ぎていますわよ』
 コテージ近辺の森に、昆虫捕獲器を仕掛けに行った龍哉とヴァルトラウテは、声を潜めて話しながら急ぎ足に歩いた。
 ふと顔を上げると、前方から懐中電灯の灯りが近付いて来る。
「あれ、虎噛さん?」
「お、龍哉ちゃん。ヴァルちゃんも?」
『どうなさったんですの、こんな時間に』
「俺ちゃんは、ちょいと虫取りの細工をね」
 クヌギに樹液を塗り付けた帰り道だと言う。
「考える事は同じだな。俺達も捕獲器仕掛けて帰る所だ」
「へー。明日が楽しみだね」
 ニヤッと笑った千颯と共に、龍哉達は帰路に就いた。

 コテージでは、吸血を終えた狒村夫妻を始め、一同は就寝していた。――伊邪那美と、一部の子供達を除いて。

「起きろー! 甲虫取りに行くんだぜー!」
 翌朝、起床時間より一時間も早く起こされて、不機嫌そうだった子供達は、甲虫と聞いて目を輝かせた。大方の予想通り、少年達だけだったが。
 千颯としても無理強いする気はなく、来たい子はおいで、と外へ連れ出す。コテージの中庭には、昨夜森で会った龍哉達と、望月、百薬も一緒に待っていた。望月は、従魔相手でもないのにすごいむしとりあみを装備している。
「望月ちゃん達も行くの?」
「えへへー。実は昨日バーベキューの準備中、ちょこっと抜け出して、茄子のヘタ仕掛けておいたんだ。空白む頃が一番の勝負でしょ?」
 満面の笑顔で望月は続ける。
「行くよー。甲虫って見たことある?」
「売ってる奴なら」
『野生だよ?』
 ふふふ、と百薬も含み笑いでウインクした。

「ふむ……偶には鍛錬をせずにゆっくりと散歩をするのも良い物だな」
 起床時刻より早めに起きた恭也は、近くの森に設えられた遊歩道を探索していた。
「えー、ここもダメじゃん」
「姉ちゃん、本当に餌仕掛けたの?」
「うーん、おっかしいなぁ」
 前方から人の声がしたので顔を上げると、そこには望月と少年達が木を見上げて眉を顰めていた。
「こっちは何匹か捕まえたんだぜ~」
「こっちも捕まってた」
 右手から現れたのは、千颯と龍哉と、その相棒達だ。
「何をやってたんだ」
 並足で近付いて訊ねると、「見てこれ!」と少年の一人が何かを差し出す。蝉の抜け殻だ。
「抜け殻取りに来たのか?」
「違うよ。甲虫ってゆったのにー」
「まあ、良いじゃん。ここに何匹かいるからさ」
「そろそろ戻るか。ラジオ体操の時間だ」
 龍哉に促されて、恭也も一緒にコテージへ引き返した。

 その頃、由利菜とリーヴスラシルは、朝食作りに勤しんでいた。
 メニューは、カレーライス、野菜サラダ、豆腐と、デザートのヨーグルトと桃だ。
「子供達が好きな料理と栄養バランス……難しいですね」
『スーパーやコンビニの加工食品は、人工的な添加物が多く、食べ過ぎるとそれらが蓄積して太る原因になる。自然の食材による料理が一番だ』
「……お、おはようございます」
 その時、一番に食卓へ顔を出した小六の二人が、テーブルの上を見て瞠目した。
「うわぁ、凄い」
『ああ、おはよう。洗顔と歯磨きはしたか?』
「はい。今は狒村さんが使ってます」

 少女の言葉通り、今洗面所では緋十郎と数名の子供達が朝の洗顔を行っていた。
「冷たい水で洗うと目が覚めるからな」
「はぁい」
 欠伸を噛み殺して爪先立つ少年を、緋十郎は抱き上げて洗面台へ届くようにしてやる。
 一通り洗顔を済ませ、ラジオ体操の為に中庭に行くと、ほぼ全員が顔を揃えていた。
「ねぇ、恭也兄ちゃん」
 その内の一人の少年が、不意に恭也の上着を引く。
「ん?」
「伊邪那美ちゃんが起きないよ」
 眉尻を跳ね上げた恭也は、子供達の部屋へ赴いた。
 そこで相棒はまだ安らかな寝息を立てている。容赦なく叩き起こすと、不満げな顔をして目を瞬いていた彼女は、やがて慌てたように周囲を見回す。
『えっ……?』
「え、じゃない。子供達は起きれたと言うのに、お前は……」
『何で~? 皆、ボクと同じ位の時間まで起きてたよね!?』
「でも伊邪那美ちゃん、一番に寝ちゃったよね」
 ボソリと放たれた一言が、余計に彼女を窮地に追い込んだ。

 朝食にありつく頃、レミアが漸く幻想蝶から姿を現した。基本的に、夜型なのだ。
 朝食を済ませ、後片付けや荷造りをすれば、撤収まではもう少し自由時間だ。
 狒村夫妻を始めとする数人は、子供達を引き連れて森まで出掛けた。
 一方、由利菜、リーヴスラシルと共に台所で洗い物をしている小六の少女達は、お喋りに花を咲かせている。
「由利菜さんは、何でH.O.P.E.に入ろうと思ったんですか?」
「そうねぇ。私は……最初からエージェントやお姫様になりたかった訳じゃないわ。ラシルと一緒にいたら自然とこうなっていたというか……でも、この道を選んで後悔はしていないの」
 ふーん、と頷く少女達に、「貴女達、夢は何かある?」と訊ねる。まだよく判らない、と答える彼女達に、リーヴスラシルが『ゆっくり探せばいい』と返した。
『時間はあるのだから。さ、後は私達がやっておく。二人も散策に行くといい』
「はーい」
 踵を返す彼女達の背を見送りながら、リーヴスラシルは呟く。
『あの子供達の年頃、私は何をしていただろうな』
「ラシル、記憶も結構戻ってきたと思うのですが……」
『幼少期の記憶は今も少ない。そう都合良くは思い出せないな』
 リーヴスラシルは肩を竦め、布巾に手を伸ばした。

 コテージで一通り披露した獲物を、望月は「森へお帰り」と放してやっていた。
 遊夜達は子供らと共に森を駆け回ったり、川で緋十郎達と一緒に釣りをしたりしている。
「おじちゃん、これ何?」
「お、沢蟹だな」
 声を掛けられた緋十郎は、しゃがんで子供に目線を合わせた。
「食べられるの?」
「はは、食べる方に行っちゃうか」
 苦笑する緋十郎の横から、遊夜が「勿論食べられるよ」と答える。
「少し土産に持って帰ろうぜ」
 遊夜は、捕った川魚を持って来ていたケースへ入れた。

『また遊んでねー』
 撤収時間になった為、H.O.P.E.からの迎えの車に乗りながら、百薬が別れを惜しんでいる。
 千颯も、最後に持って来た駄菓子をお土産にと子供達に配っていた。

 遊夜が要所要所で撮った思い出が、子供達に届くまで、後数日。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • 雨に唄えば
    烏兎姫aa0123hero002
    英雄|15才|女性|カオ
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
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