本部

【幻灯(番外1)】海のタチゴリ

電気石八生

形態
ショートEX
難易度
普通
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 6~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/08/13 16:42

掲示板

オープニング

※当シナリオは現在展開しております【幻灯】の番外ストーリーとなります。シリーズ本編に参加されているPC様は参加不可となっておりますので、その旨ご了承いただけますようお願いいたします。

●海賊
 ブラジル最東端――すなわち南アメリカ大陸最東端にて一点の灯を示すブランコ岬の灯台。
 そこに現われる怪現象の調査が、H.O.P.E.東京海上支部のエージェントによって進められていたが……その間隙を縫い、夜闇に紛れて岬を目ざす、一隻の船の姿があった。
「マム、アタマぁ引っ込めといてください。ジャミングの出力、下げていきますんで」
 近代的なボディスーツに身を包んだ男が、いかにも“らしい”口調で言った。
「ああ……あと5秒待ちな。5、4、3――」
 カウントしながら、彼女は舵輪の脇にしつらえられたハッチから船の内へと滑り込んだ。見かけは古式ゆかしい木製の帆船だが、その裏には高価な光ケーブルを織り込んだ炭素繊維を貼り、軽量化と剛化、近代化までもを実現した強襲揚陸艦である。
「エンジンカット。ジャミング出力30パーセントまで低下。オール下ろしますぜ」
 船底脇から一斉に突き出したオールが海面へ突き立ち、静かに、しかし力強く波を掻いていく。
「上陸部隊、準備できてるかい?」
「いつでも行けまさぁ、マム」
 マムと呼ばれた女は大股で狭い通路を歩み渡り、一度足を止め。
「……ジャミングは全部切っちまっていいよ。あちらさんはハナっからレーダーなんざ使ってないらしい」
「特別警戒区域なのに、ですかい?」
 バンダナの奥に隠した眉をひそめる男。
 女は赤い唇で笑みを形づくり。
「肌触りでね、わかるんだよ」
 両眼を塞ぐ眼帯をなぜてみせた。
 女の名はラウラ・マリア・日日(タチゴリ)・ブラジレイロ。ラウラ・マリア――勝利の先覚者の名を持つ盲目の海賊であった。

 ぎりぎりまで岬へ近づいた船のウェルドック(船尾に設置されたデッキ状の格納庫)から放出されたLCU(上陸用舟艇)、その前進音を甲板より聞きながら、ラウラ・マリアは鼻先を上げる。
「……臭うね、見られてる」
『これはプリセンサーの視線か。見たことなどないのに見られているのはわかる――不思議なものだね』
 内の契約英雄ジオヴァーナが笑みを漏らした。
 彼女もまた、生まれついての盲目だ。それゆえなのだろう。ふたりは出逢い、誓約を結ぶこととなった。
「目が閉じていても、耳と肌と、鼻がある」
 ラウラ・マリアは艶然と応え。
「今度の“商売”は特別だ。もしかしたらあたしらにも“見える”かもしれない」
『それを試すためにも、私たちはやり遂げなければならない』
 ラウラ・マリアが甲板から海へと身を躍らせた。
「来るなら来な。持たざる者の必死、あんたらに思い知らせてやるからさ――H.O.P.E.さんよぉ!」
 真下で待っていたLCUに降り立った彼女は、左右の腰に佩いた曲刀を抜き放ち、その鍔同士を打ち合わせて金打(きんちょう)を為した。

●応答
『ジョアンペソア支部より緊急連絡! 現在ブランコ岬沿岸にて海賊と交戦中! 応援を乞う!』
 東京海上支部のオペレータールーム。ジョアンペソア支部とのホットラインを通じてこの通信を開いた礼元堂深澪(az0016)は、すぐに連絡を送ってきたオペレーターに応答した。
「こちら東京海上支部の礼元堂! 戦況を知らせてください!」
『敵は海賊船17! 現在支部長以下全戦力をもって迎撃にあたっていますが、一部の海賊がすでに岬へ侵入している模様! 調査中のドロップゾーンの安全確保が困難な状況です!』
「了解! もう少しだけ持ちこたえてください――!」
 そして深澪は、回線を支部所属のエージェントたちの通信端末へ切り替えた。
「エージェントに通達! ブラジルのジョアンペソアから緊急出動要請が入ったよ! 任務はドロップゾーンを海賊から防衛すること! ……へんなこと言ってるのわかってるけど、とにかく手が空いてる人、すぐ出動して!!」

解説

●依頼
 海賊を撃退し、ブラジルのジョアンペソア最東端にあるブランコ岬灯台(ドロップゾーン)を防衛してください。

●状況
・時刻は深夜26時。
・海賊の一団(ヴィランズ)が砂浜に展開し、高台にある灯台へ近づきつつあります。
・現在ジョアンペソア支部のジャックポット陣が前進を押し止めています。
・エージェントはジョアンペソア付近まで移動したインカ支部に転送後、高速輸送機で灯台上空まで移動、そこから降下して任意の場所(灯台内含む)に至り、そこから行動を開始することになります。
・エージェント到着(行動開始)と同時に、海賊の先陣が灯台の根元にたどり着き、ジョアンペソアのジャックポット陣は戦列を崩壊させます。

●海賊×20
・全員が中程度の強さのヴィラン。
・突撃銃やガトリング砲を装備し、ラウラ・マリアの支援を主に務めます。
・内2台がパワードスーツ(防御特化型)装備で、ラウラ・マリアの盾となっています。
・ラウラ・マリアが戦闘状態になると、一部の海賊が灯台へ突入します。

●ラウラ・マリア
・盲目の剣士(二刀流)。
・海賊の先頭にいます。
・能力の詳細は不明ですが、感覚は非常に鋭いようです。
・彼女の曲刀は鋭いかわりに薄く、武器破壊は容易です。
・契約英雄はカオティックブレイドです。

リプレイ

●降下
 夜闇をかき分け、高速輸送機が飛ぶ。
『投下ポイントまで30秒! 29、28、27』
 後部コンテナ部に操縦士からのアナウンスが届いた。
 カウントダウンに合わせ、エージェントたちは口を開けたランプ扉の縁に立ち、跳躍の準備にかかる。
『南アメリカ大陸、ブラジルか……きみの祖国は近いのかな?』
 バルタサール・デル・レイ(aa4199)は内より問う紫苑(aa4199hero001)へ淡々と答えた。
「そんなに近くねぇよ。まったく別の国だ」
『ふぅん、そうなんだ。海賊が出るなんておもしろいね。なにが狙いなのかな?』
 特に興味もなさげに語る紫苑に対し、バルタサールはなお淡々と。
「その辺の海賊の単独強行なのか、それともほかに協力者でもいるのか……まあどうでもいい。俺は依頼を完遂するだけだ」
 と、バルタサールたちとは真逆の者もいる。
「現代の海賊なんて、まるで映画みたいであります。美空は美空は~」
 どこぞの量産型のように自分の名前を繰り返し、美空(aa4136)がいつになくウキウキとした顔でカウントゼロを待ちわびる。
「ちょっと落ち着けよ、マスター。おちおち寝てもらんねーじゃんか」
 後ろに転がる英雄のR.A.Y(aa4136hero002)は、あいかわらずの低出力。
「『海賊のパビリオン』でありますよ! ジャック・テプ様にお逢いできるであります!」
 世界的ヒットを記録した海賊映画のタイトルと主演男優の名を口にする美空。尋常ではないほどの盛り上がりっぷりだ。
「映画じゃねーっつの」
 ため息まじりに言いながらも、このままでは生身でダイブしかねない美空と共鳴し、R.A.Yは準備を整えた。
『ま、せっかくのレア敵だし? 遊んでやっかー』
「みなさんそのまま動かないでください。ライトアイ、かけますから」
 リリア フォーゲル(aa0314hero001)と共鳴した天城 稜(aa0314)が自身を含めたエージェントたちにライトアイを付与した。
『厳しい戦いになりそうですね』
 リリアの言葉に稜は小さくうなずき。
「敵の能力がわからないからね。でも、やるべきことはわかってる。海賊にあたってるジャックポット隊を救援するんだ」
「誰であろうと、生かせる者はひとりでも多く生かすのがわたくしの正義ですわ。けして殺しません。殺させもしません――!」
 白い両手を握り締めるファリン(aa3137)。その内からヤン・シーズィ(aa3137hero001)が静かに声をかけた。
『不殺を決めたなら、生かす中に自分の命も数えておけ。兎の献身を讃えるのは昔話だけで充分だからな』
「ええ」
『ゼロ! エージェント、ゴーゴー!!』
 黒と灰の夜間用ピクセル迷彩を施したパラシュートをかつぎ、8組のエージェントが宙へ舞い落ちていった。

『あいきゃんふらーい♪』
 内で言いながら、空気抵抗を減らすために体を小さく縮めて落ちていくギシャ(aa3141)。
 内のどらごん(aa3141hero001)は着ぐるみ風の龍面をしかめ。
『フォールダウン以外のなにものでもないがな……』
『海賊退治ー。あ、サメとかタコ神様のエジキにならないように注意だねー』
『今回は灯台防衛の陸上戦だ。海の怪しい輩と戯れるのはその後にしておけ』
『了解ー』

 長方形のパラシュートをコントロールしつつ着地点へ向かうナイチンゲール(aa4840)が、内の墓場鳥(aa4840hero001)へ言う。
「ちょっと無理してみたいんだ。……力、貸して」
『気負うなと諭せばさらに気負い、駄目だと言えば無理を通すのだろう?』
「じゃあ六花もがんばらないとね!」
 横から投げられた明るい声に、ナイチンゲールは頭を垂れて。
「ごめん――って六花!? 私なんかといっしょにいたら危ないよ!」
 南極支部から出張参戦している氷鏡 六花(aa4969)はかぶりを振り、ナイチンゲールに告げた。
「ひとりのほうが危ないよ!」
『ひとりよりふたりのほうが、できることも増えるでしょうしね』
 内のアルヴィナ・ヴェラスネーシュカ(aa4969hero001)の言葉に大きくうなずいた六花はパラシュートの抵抗を増やし、ナイチンゲールの上へ。サポートする――言外にそう告げて。
『なるほど。聡明な少女、そして女神だ』
「ちょっと墓場鳥!?」

 灯台の屋根にパラシュートを引っかけて置き去り、八朔 カゲリ(aa0098)は下へと跳び降りた。
 降下中に発動させ続けてきたリンクコントロールにより、またひとつリンクレートが上昇。内のナラカ(aa0098hero001)の存在がより深く彼の魂と結びついていく。
 だから、感じ取れた。ナラカの目が見据える闇の先にあるものを。
「女海賊か」
『まだ出遭ってすらいないが……期待している。相対する時を』

●九死に一生
 偃月陣を組み、灯台へ迫る海賊の一団。
 ジョアンペソア支部の精鋭がこれを迎え撃つが、先頭を行く女海賊が展開した無数の曲刀が砕けながら海賊どもを守り、さらには彼女の左右についたパワードスーツが正面からの射撃を食い止める。
「テレポートショットが来るよ! どんくさい奴は置いてっちまうからね!」
 弾雨のただ中へ女海賊が駆け出した。
 両手の曲刀を閃かせるたび、斬り飛ばされた弾が左右へ散る。彼女の先に、道が拓けていく。

 エージェント陣の内でもっとも早く地上に着いたのはギシャだ。
 落下の衝撃を受け身と回転で散らし、灯が建つ高台の北側に身を潜める。
『優先順位ははっきりしている。ならばプロとしてどう動くかを迷う必要はない』
 どらごんへうなずき、ギシャはこちらへ側面を晒している海賊へRPG-49VL「ヴァンピール」の照準を合わせて待機。着弾ポイントを吟味する。

「ははっ、臭うねぇ! 夕メシはフェジョアーダかい? リベルダージ(サンパウロの日本人街)でショージンリョーリでも食ってきな!」
 部下の援護射撃を受けた女海賊は左の曲刀でテレポートしてきた狙撃弾を弾いた。ギィン! 薄い刃が濁った悲鳴をあげて砕けるが、口の端に獰猛な笑みを刻んだ彼女は右の曲刀を高く掲げ。
「ジオヴァーナ!」
『見も知らぬ我が同胞よ、この見えぬ眼に慈悲の閃きを』
 名を呼ばれた内の英雄の呼び声に応え、異界の淵より数多の曲刀来たる。星空を塞いだ白刃が、ジョアンペソア支部のジャックポット陣へと疾く降り落ちる――
「みなさん、僕の後ろに集まって!!」
 ――アイギスの盾を掲げた稜がジャックポット陣の後方から跳び出し、カバーリング。
 カカギキジャギグギ! 盾の表面で弾けた曲刀がくるくると宙へ飛んでは地面に突き立つ。まさに針山のごとしだ。
『……これはカオティックブレイドのストームエッジ、ですよね』
 稜の内でリリアが眉をひそめた。
「かなり強力だし、やけに範囲も広いみたいだけど、ね。でも僕らが散開してなければ意味ないし――」
『役目を終えたはずの曲刀が今もそこにあるのはなぜでしょう?』
 盾の下から稜は辺りへ視線を巡らせた。依然として存在する、剣山。ジャックポット陣の攻撃でそれらは容易く砕け、へし折れ、数を減じていくが、降り続く刃が次々とその隙間を埋めていく。まるでそう、包囲陣を敷くように。
「まさかひとりでぶっ込んでくる奴がいるとか思ってなかったからねぇ。死んじまったらごめんよ?」
 歩み寄ってきた女海賊の曲刀が、陣を成す曲刀のひと振りを叩いた。
 キン!!
 刃が砕けて悲鳴を放ち、その悲鳴に震わせられた他の刃が次々と砕けて悲鳴を高く、鋭く重ね合わせ。
「っ!!」
 稜の心臓が跳ねた。鼓動が悲鳴の津波に押し潰されて。
 止まった。
「ぁ、が、はっ!」
 膝をついた衝撃で目を覚ます稜。
 え? え? 僕、今、死んで? ええっ?
「天城様!」
 銀鍼と化したファリンのエマージェンシーケアが稜の後頭部に突き刺さった。
「痛っ!」
『痛がっている間に下がれ!』
 ファリンの内のヤンが鋭い声音を放つ。
 稜は自分の後ろ、心臓を押さえてうずくまるジャックポット陣を見やり、すぐに立ち上がって……踏んばりきれず、よろめいた。今の海賊の攻撃はなんだ?
「共振ですわ! 共振を重ねて増幅させた音波で人の心臓を揺さぶり、止める――! あの方の範囲攻撃に最大の注意を!」
 ライヴス通信機「雫」のインカムを通し、ファリンが一同へ警告を飛ばした。
『あれを逃げ場のない灯台の内で使われたら、どれほどの被害が出るか知れん。なんとしても外で食い止めなければ』
 ダメージの深いジャックポットを担ぎ上げたファリンにヤンが言った。
「はい。そのためにも急がないと……」
『自分で歩ける方はすぐに退避してください! 次の範囲攻撃が来ないうちに!』
 稜と同時に意識を取り戻していたリリアがジャックポットたちを促す。
「僕はジャックポットのみなさんを後ろへ運びます! その間、お願いします!」
 仲間へ通信を飛ばし、稜がファリンに続いて立ち上がることのできないジャックポットを抱えて下がる。ここからが勝負だ。さっきは九死に一生を得たけど、次はもう、戻ってこれない。

「今度はあたしらが突っ込む番だよ!」
 残されていた曲刀のひと振りを拾い上げ、二刀流を取り戻した女海賊が声をあげ、海賊が前進を再開した。
 と。
 乾いた夜空より吹き寄せる雪風。
 20を超える氷の鏡で拡大された凍てつくライヴスが、女海賊とそのまわりの海賊の足を止めた。
「ち、上からかい!」
 その隙に、逆V字を描く偃月のただ中へふたつの人影が降り立った。
「悪いけどもう少し付き合ってよ。こっちも生活かかってるの」
 六花を背にかばい、ト音記号をそのままに成すソルディア“ジークレフ”を構えたナイチンゲールが女海賊に笑みを投げるが。
「この臭い、守るべき誓いってやつかい。――先に行きな」
 女海賊は顎の先で灯台を指し、海賊たちが足を速めてそちらへ向かう。
『こちらのスキルと意図を嗅ぎ取ったか』
 墓場鳥のうそぶき。
 ナイチンゲールは自身を包囲させ、稜たちのジャックポット陣救援の時間を稼ぐつもりだった。が、両眼を眼帯で塞いだこの女海賊は、なんらかの感覚でこちらのやりたいことを見透かした。
『海賊を逃してはだめよ!』
「うんっ!」
 アルヴィナに応えた六花が海賊の背へ魔法を撃ちつけようとするが、その眼前へ跳び込んだ女海賊が前蹴りを放ち、六花の終焉之書絶零断章が描き出した魔法陣をかき乱した。
「やらせないよ? こっちはあいつらと生活とあたしの欲、3つかかってんだからねぇ」
『六花、後ろに!』
 アルヴィナの言葉をたぐるように後転、間合を外しにかかる六花を、女海賊の曲刀が追う――
「あなたに友だちの命はあげない。私たちもあなたたちも、誰も死なせない……!」
“ジークレフ”が描く輪の内に曲刀を絡め取り、ナイチンゲールが肩で女海賊を押し返す。
「あんたの覚悟と情けに30秒だけ付き合うよ。ラウラ・マリア・日日(タチゴリ)・ブラジレイロの誇りをもってねぇ」

●責任
 女海賊――ラウラ・マリアの命を受けた海賊どもが、1台のパワードスーツを先頭に押し立て、灯台へ殺到する。
 対して。通信機のマイクを決められた間隔で弾き、仲間へ合図を送ったバルタサールがフラッシュバンを放った。
「タチゴリ……日系人か」
『主役の女海賊がいないのは残念だけれど、ステージは待ってくれないものね』
 紫苑の唄うような言葉に、バルタサールは淡々と。
「戦闘能力を奪う。生かしておかねばならんのは面倒だがな」
 彼は灯台の入口脇へ移動、カチューシャMRLを展開し、パワードスーツを中心に照準を合わせた。

 夜空を白く塗り潰す光。
『おまえら全員37564だぜ!?』
 R.A.Yの咆吼を合図に、海賊映画のテーマ曲が大音量で流れ出す。そして。
「ロックンロールじゃん!?」
 HALO降下――高高度から降下し、地上300メートル以下の高度でパラシュートを開く敵地潜入のための降下方法――を決め、灯台の先にロケットアンカーを撃ち込んで体を吊り下げた美空が、灯台の影からその外壁を取り巻くようにして姿を現わした。
 その背より金属翼のごとくに拡がったカチューシャMRL、エクストラバラージの支援を受けたその16連ミサイルが一斉に飛び立ち、弾頭に詰め込まれた爆薬と毒とで海賊どもを撃ち据えた。
『次行くぜ、マスター』
 パージしたカチューシャはウェポンディブロイで複製したもの。R.A.Yのスキルで新たに複製されたカチューシャが、あらためて美空の体に装着される。
『奇襲は成功。あとはどれだけ迅速に数を減らせるか、であります』
 内でうーむと唸りつつ、美空はエクストラバラージの発動をR.A.Yにお願いした。

 夜闇の裾を押し開くがごとく、銀狼と化したライヴスが疾く銃弾の豪雨を駆け抜けていく。そして敵の先陣に食らいついた瞬間、黒焔を逆巻かせ、まわりの海賊ごとパワードスーツを灼いた。
「頑丈だな」
 右腕にまとわせた冷魔「フロストウルフ」――閻羅の銀環“冥狼”をコートの袖内へ戻したカゲリが、ぽつり。
 地に残る焔を踏み越え、前進するパワードスーツ。元が護衛用ということもあってか、防御特化型なのだろう。
 射撃を再開する海賊どもの盾となり、パワードスーツが声を張り上げる。
「マムは誇りを掲げて名乗った! 名のねぇ俺らはなにを掲げる!?」
「命! 命! 命!」
「俺らの命をかけてマムに勝利を! 俺らの命を積んでマムに成果を! 俺らの命を投げてマムに夢を!」
 傷ついた体をものともせず、海賊どもが駆け出した。
『なんだか今回の海賊はやけに張り切ってるなぁ……海賊って普通、損切りにうるさいんじゃないのか?』
 ジャックポット陣と自らとをスキルとアイテムとで癒やしつつ、撤退支援を続ける稜。その声が通信機から流れ出す。
 迫る海賊に半眼を向け、ナラカが応えた。
『慕われているのだよ、あのラウラ・マリアという女海賊は。賊に身をやつした男どもが、我先に己が命を捧げたがるほど』
 カゲリの両手に双炎剣「アンドレイアー」――燼滅の双剱“滅刃”が現われる。
「なら互いに比べ合うだけだ。口先じゃなく、意志と覚悟を」

 海賊の鼻先に、今度はギシャの放ったRPG-49VL「ヴァンピール」が着弾。爆炎と衝撃とをばらまいた。
「ちょっとだけだけど、援護できたかな?」
『ああ。だが、パワードスーツはさすがに硬い。相手にするには厄介だ』
 這い、跳び、駆け、跳び込み、動きをランダムに散らして銃弾を横切り、ギシャはパワードスーツから離れて行く。
『どこへ行く気だ?』
「ギシャはアサシンだからね、ボスの首狙い」
『どのみち厄介なのは変わらんか……』

「少し痛みますわよ」
 ファリンのケアレインがジャックポット陣へ降り注ぎ。その経穴へ多数の銀鍼を突き通した。
 悲鳴をあげてのたうちまわる男たちを捨て置き、彼女はその眼を戦場へと向けた。
「ガトリング砲の面攻撃……位置取りを決められる前に押さえておきたいですわね」
『懐に跳び込む必要があるな。攻撃は避けられない』
 ヤンに薄笑みを返したファリンは一度稜を振り返る。
「天城様、お体はいかがです?」
「なんとか大丈夫。僕はこのまま灯台の守りにつきます。行ってください。――ジャックポット隊、まだ戦える人がいたら報告を!」
「参ります」
 ファリンは顔を前方へ向け、跳んだ。
 その足はけして速くはなかったが、飛来する銃弾の気配に鋭く反応、右へ左へかわしていく。
「なにを賭けるまでもありませんわ。白兎の勘と運、お見せいたします」

「っ!」
 振り込んだ“ジークレフ”の持ち手を横から蹴りつけられ、ナイチンゲールの体勢が崩れた。
「ははっ!」
 回し蹴りの回転に乗せてラウラ・マリアが右の曲刀を横薙ぎ、タイミングをずらして左の曲刀をナイチンゲールの腿へ突き込んだが。
「ナイチンゲール!」
 ラウラ・マリアの横へ回り込んだ六花がとっさに終焉之書から氷塊を飛ばし、その剣の腹を撃ち据えた。
 キン! 硬い薄刃が容易く砕けるが。
「あたしの剣は使い捨てさ」
 ナイチンゲールを大きく蹴り離した。結果、ラウラ・マリアの体が一点に固定される。この距離からなら、魔法陣をかき消されることもない。
 今! 六花の指が終焉之書を繰り、未知なる文字を高速詠唱。
 レガトゥス級愚神ヴァルリアの残滓が絶対零度を成し――
「六花――!」
 膝をついたナイチンゲールが、なんとか駆けようとしながら叫んだ瞬間。
 雪の妖精さながらの六花を業炎が押し包んだ。
『ブルームフレア――ソフィスビショップ!?』
 アルヴィナが鋭い視線を巡らせ、見つけた。灯台へ向かったはずのパワードスーツが1体、闇に紛れてこちらへ戻ってきているのを。
 しかし。六花は炎にまかれながら、両足を踏んばって動かない。彼女の前に描き出された魔法陣がより強く、より純粋な凍気を帯びて青白い輝きを放ち始める。
「いい意気だ、お嬢ちゃん」
 ラウラ・マリアが六花へ駆け、伸べた掌から無数の曲刀を撃ち放った。刃は奔流となり、今なおダメージを受け続ける六花を襲う。
『六花、できるわね?』
 アルヴィナのやさしい声。
 六花は灼熱のただ中、笑みを返した。
「ナイチンゲールは六花のこと信じて背中、預けてくれたから。絶対、投げ出さない」
 パワードスーツがラウラ・マリアをフォローに入るが、それこそ六花の狙いどおり。
「責任も、命も!」
 氷鏡に弾かれて拡大した凍気の炎壁がラウラ・マリアとパワードスーツをその内に抱き込んだ。
 そして六花は、眼前に迫る刃に対して体を固め――
「……もう、させない」
 六花の前に、ナイチンゲールの背中があった。カバーしたのだ。ひたむきに駆け、あきらめずに手を伸べ、間に合わせた。
「やられたねぇ。でもこれで30秒。お返しはまた後でにしとくよ」
 体にまとわりつく霜を払い、ラウラ・マリアがパワードスーツのソフィスビショップを共連れ、灯台へ向かう。
「ナイチンゲール……っ」
 ナイチンゲールの指が、六花の唇の内へ賢者の欠片を押し込んだ。
『このまま仲間に託すのか?』
 墓場鳥の言葉にかぶりを振ったナイチンゲールは自らも欠片を口に含み。
「追いついて、間に合わせる」
 一気に噛み砕いた。

●刃
 灯台へ迫る海賊のただ中へ跳び込むカゲリに20mm弾が殺到する。
 ふ。短い呼気を放ったカゲリの“滅刃”が夜気に残像を刻む迅さで舞い、迫る脅威のことごとくを斬り払っていく。
 その周囲にバルタサールと美空の放った16連ミサイルが突き立ち、海賊の弾を吹き飛ばした。そしてさらに。
『危ないおもちゃは没収させてもらおうか』
 ヤンの言葉と共に、横合からキリングワイヤー“蔡文姫”を飛ばしたファリンが、海賊の構えたガトリング砲を絡め取った。
 蔡文姫とは古代中国――三国時代の覇者たる曹操に愛された才女の名。彼女が得手とした琴を思わせる奏音が巻き取られたワイヤーを鳴らし、引き寄せられたか海賊はファリンに脚を払われ、首筋を踏みしだかれる。
「動かないでくださいまし。脛骨の継ぎ目を押さえられたまま暴れれば……折れますわよ?」
 言っておきながら強く踏み抜くファリン。脅しをかけられていた海賊は、ひぅっと喉を鳴らして失神した。
「こいつらに構うな、行け!」
 この場での銃撃戦は不利と見たパワードスーツが指示を出し、カゲリとファリンへ迫る。
「行かせません!」
『内は皆に任せろ。パワードスーツを留めておくほうが優先だ。それに』
 ヤンが闇の向こうを指して。
『すぐ回復支援が必要となる』
 弾を弾き続けるカゲリの内よりナラカが投げた視線の先には、こちらへ向かうラウラ・マリアがある。
『ついに来たるか……見せてもらおう、ラウラ・マリア。汝の意志と覚悟、その輝きを』

「そういえばヴィランだったな。眼はスキルで補うか」
 灯台の外壁に取りついた海賊どもへ、伏射姿勢でその身を隠したバルタサールがLSR-M110の照準を合わせた。
『海賊と言うからには歌でも歌いながら攻めてくるかと思ったんだけれどね。意外に静かなものだ』
 紫苑がつまらなさげに息をつく。
「大航海時代はとうに過ぎた。有り様も変わるだろうよ」
『それはそうだね。バルタサール、きみも昔とはずいぶん変わったんだろう?』
 3連射で海賊3人を撃ち落とし、バルタサールはすぐに移動を開始した。
「変わろうが変わるまいが、俺は俺でしかねぇさ」
 頭を低くして駆け、最初の着地時に確かめておいた灯台の入口脇の死角へとその身をすべり込ませ、息を殺す。
 パワードスーツの支援を受けて内へ乗り込んでいく海賊を見送り、最後のひとりが突入した瞬間、銃口を突き込んで連射。
 さらに銃口と入れ替えて突っ込んだ手で、崩れ落ちる海賊の襟元を掴んで引きずり出し、死んでいないことを確かめた後。
「レイだ。外壁に何匹か取りついている。迎撃を頼む。俺は入口から内へ入った連中を追撃する」

「了解じゃん!?」
 オリジナルのカチューシャを撃ち終えていた美空が発射台をパージし、ワイヤーにぶら下がったまま《白鷺》と《烏羽》を抜き出した。
 今も鳴り響くBGMに合わせて外壁を駆け、撃ち込まれてきたロケットアンカーを《白鷺》で弾き、《烏羽》で撃ち落とす。
『マスター、貼りついてる奴もいるぜ?』
 面倒臭げに言うR.A.Y。
 美空はワイヤーを思いきり伸ばして急降下しつつ。
「ワイヤーアクションなめんじゃねーぞ!」
 登攀用の吸盤で上へ登ってくる海賊の顔面を、秀吉所要銀伊予札胴丸具足の足裏で踏みつけた。
 落下の加速でいや増された43・6キログラムの強撃に、吸盤をもぎ離された海賊は濁った悲鳴をあげて落ちていった。
「リンカーなんだから死なねーじゃん?」
 見送った美空はすぐにワイヤーを巻き上げ、灯台のてっぺんへ戻る。ここからならどこから登られてきても対応できるからだ。
『そーいや海賊の女ボスも来てるみてーだぜ?』
『なんと! サインもらわないとでありますね!』
 内で盛り上がる美空に、R.A.Yは顔をしかめてみせた。
『色紙ごとぶった斬られて終わりじゃね?』

 螺旋階段を駆け上る海賊。先頭を行くガトリング砲の男が、突如陰った上空へ目を向けた。
「遅いですよ」
 階段の上から手すりを蹴って跳んだ稜が光刃剣「月光」を振りかざす。
 すぐさま応戦準備を整える海賊どもだったが、しかし。
『そう簡単に捕まえられません!』
 リリアの合図で内壁を蹴り、軌道を変えた稜が10メートルに届く青光の刃を伸ばし、あわてて射線を転じようとしたガトリング砲へ斬りつけた。
 銃身の半ばを斬り落されたガトリング砲が暴発し、海賊どもを文字通り煙に巻く。が、それでも海賊どもは引き金を引き、乱射の数で稜を捕らえにかかった。
『これだけの数を撃たれたら、さすがにかわしきれませんね』
 リリアの声に応えるかのごとく、下方より撃ち込まれるバルタサールのライフル弾。階段の淵に当たった弾が不規則に跳ね、海賊の射撃網に空白を穿つ。
「挟撃するぞ!」
「はい!」
 バルタサールに促された稜は、再び手すりを蹴った。凄竹のつりざおから飛ばした針を上へ引っかけ、円を描くように内壁を駆け上っていく。
『雌鶏撃ち、というわけにはいかないな』
 海賊が階段の上から突き出す銃身を狙い撃つバルタサールへ言うともなく、紫苑がささやいた。
「届かねぇなら届くところまで行けばいい」
 彼の体に刻まれたテスカトリポカは多くの名を持つが、もっとも馴染みの深いものは“夜”にまつわるそれであろう。
 夜こそはテスカトリポカの時間。夜こそはテスカトリポカの世界。彼の神を太陽の座より追い落としたケツァルコアトルにも出し抜かせはしない。ましてや海賊風情になど。
 バルタサールは換えの弾倉を狙撃銃へ叩き込み、踏み出した。

「ちぃ!」
 仲間を灯台へ向かわせ、ひとり残ったパワードスーツの海賊が舌を打つ。
 硬さだけならこちらが上だ。しかし、双炎剣を手に立ちはだかる少年は、それ以外のすべてにおいて自分を凌駕していた。なによりも、英雄との共鳴深度がちがう。
「でもよ、逃げるわけにゃいかねぇんだよ……マムに見せてぇんだよ。俺らはよ」
 関節部を斬り裂かれ、灼かれたパワードスーツをパージし、海賊が跳び出した。手にしたカトラスを囮にライヴスの針を飛ばし、少年の脚へ突き立てる。
 が。
『汝の意気に私たちも応えよう』
「ああ」
 少年――カゲリの左の刃がカトラスを握る手を灼き、回転に乗せた右の刃が海賊の脚を裂いた。
 崩れ落ちる海賊の首筋に柄頭を叩きつけて意識を奪ったカゲリは、踵を返して歩き出す。
『賊が灯台をせしめんとするは、利を得ようというばかりではなくラウラ・マリアの熱望があるわけだ。さて、彼奴は彼の黒鏡になに映すものか?』
 ナラカの問いにカゲリは応えず、ただ“滅刃”の柄を強く握り締めた。

 灯台の気配が近い。硝煙と血のにおいと、多数の息づかいの音も。
 ラウラ・マリアは駆け続けながら舌を打ち。
「半分やられたかい。……パワードスーツのふたり、やられた奴らを回収して撤きな」
 しかし、その背後を守るパワードスーツがかぶりを振った。
「俺らがこじ開けます。マムは上に」
 ラウラ・マリアが眉をしかめた。もう1体からの返事がない。部下を連れている身でありながら、我を張ってチームを崩してしまった。自分の甘さが忌々しい。
「急がないとね――」
 と。ラウラ・マリアの左手が跳ね上がった。
 ギャギッ! 曲刀が硬いものと噛み合う音がして、ピギっ、その研ぎ澄ました刃が欠ける。
「今の止めちゃうかー」
「あたしに喰らわせたきゃせめて潜伏してきなよ、シャドウルーカー?」
 ラウラ・マリアの横蹴りがギシャを突き。
 それを膝でブロックしたギシャが飛ばされ際、手に握り込んでいた砂をラウラ・マリアの眼へ投げつけた途端。
「あ、だめだこりゃ」
 ギシャは宙で体を丸めて地に転がる間に通信機を立ち上げて。
「マリアの目、見えてないよ。目潰し系とかムリっぽい」
「当たりだよ! ごほうびあげなくっちゃねぇ!」
 ラウラ・マリアのストームエッジが振りそそいだ。
『剣よりもこの後の音波攻撃だ!』
 どらごんの警告。
 地に伏せるほど低く構えたギシャがランダムに跳ね、次々と地に突き立つ刃の隙間を駆け抜ける。
「狙わせない――暗黒まほー、鮮血繚乱」
 ギシャが手に装着した白龍の爪“しろ”で自らの胸元を裂いた。
 こぼれ落ちた血からふわりと舞い立つ影の花弁が1、2、3――ラウラ・マリアを取り巻いた。
 が、彼女は避けることなく花弁にその身を晒したまま。
「狙わなくても届くんだよ」
 ラウラ・マリアの曲刀が刃林の一端を叩き、共振を引き起こす。
 押し寄せる音波が影の花弁を吹き散らし、ギシャの心臓の鼓動を奪うが、しかし。
『――焦点が合わなければ、とりあえず即死はないか』
 どらごんがギシャの心臓を内から叩きながら言った。
 ラウラ・マリアの共振には少なくとも2種類が存在するようだ。音波を一点に集中させる一殺型と無差別に共振を拡げて複数の敵を討つ多傷型。
「んでも、これであと1回?」
 パワードスーツの死角を突いて闇の内に転がり込むギシャ。
「これ以上増えられたら面倒だ。うちのバカども、ほっといたら勝手に命賭けやがるしねぇ」
 ラウラ・マリアはそれを追わない。そして砕け残った曲刀を抜き取り、高く掲げる。
「!?」
 ギシャにリジェレネーションを撃ち込み、“祝融(火神。または三国志演義に登場する末裔を称する南蛮の王妃)”の銘を与えた豪炎槍「イフリート」でパワードスーツを牽制するファリンが息を飲んだ。まさか、機を見極めることもなく最後のスキルを使い捨てるおつもりですの!?
『同胞よ、我らが見えぬ眼に星なる無数の軌跡を示せ』
 ラウラ・マリアの内より響くジオヴァーナの声。
 果たして、夜が白刃に埋め尽くされて。降り落ちた数万の曲刀がその切っ先で地を侵し、刃の国を顕現させる。
「わっ」
 ギシャがファリンを抱き込んで地に転がるが、どこまで転がっても刃は執拗に追いかけてきて、ついには転がる先まで塞がれた。
「ガキが起きてる時間じゃないよ。おとなしく寝てな」
 ブレイク。ドミノ倒しがごとく、ラウラ・マリアを中心に曲刀が砕け、振動の津波と化してギシャとファリンを飲み込んだ――
「間に合わせるって、決めたんだから……!」
 ふたりをかばったナイチンゲールが、その青い瞳でラウラ・マリアをにらみつけた。
 フォローに入ろうとしたパワードスーツががくりと膝を折り、地に倒れ込む。
「間に合ったよね、六花たち!」
 絶対零度の魔力を刃に変え、パワードスーツの膝関節を後ろから斬り裂いた六花が、弾んだ息の間から声をあげた。
 パワードスーツは跪いた状態から魔法で反撃するが、慎重に射程を測ってアウトレンジに位置取った六花には届かない。
『六花、そのまま攻撃を続けて。無力化するわよ』
「うん!」
 アルヴィナの示すパワードスーツの死角へ回り込み、六花が終焉之書を開く。
 次に狙うのはバッテリーだ。それを凍りつかせてしまえば、パワードスーツは内の海賊を捕らえる檻となる。
「結局、護衛ではありえませんわね」
 ナイチンゲールにリジェレネーションを撃ち込んだファリンがギシャをかばって立ち上がる。
『ラウラ・マリア、おまえの技はカオティックブレイドを超えた力を持つようだが、無差別という特性は変わらない。誰かが護衛を務めようとすればその命を損なうことになる』
 ヤンの言葉をファリンの問いが継いだ。
「でも、あなたはそれを強いませんでした。初めから、傷ついた部下の方々を託す回収班として連れていらしたのではありませんの?」
 ラウラ・マリアは肩をすくめ。
「どうかねぇ。でもこれだけは言っとこうか」
 地より抜き出した曲刀を両の手に握り、ファリンへアッパースイング。
「敵に報いを、友に贖いを。そいつがあたしの掟だよ!」

●輝き
「っ!」
 カバーに入ったナイチンゲールが斬り上げ、横薙ぎ、ローキックの連撃を受けて膝を落とすが、なんとか持ちこたえて守るべき誓いを発動した。
『個人の技量ではかなわない』
 墓場鳥の言葉に、ナイチンゲールは唇を噛み締めた。あのタイミングをずらした連撃はこちらの防御を容易く崩す――
「タイミング……拍」

 外壁から灯台のライトへ迫ろうとする海賊を次々突き落とした美空は、自身を支えるロケットアンカーを最大限に伸ばし、下へ降りたっていた。
「はっ!」
 至近距離から撃ち込まれたアサルトライフル弾を大ジャンプでかわし、外壁を蹴って急降下、海賊の右脚を《白鷺》で、左脚を《烏羽》で打ち払う。
 無理矢理に大開脚させられた海賊はバランスを崩して転倒。その脛に双槍の柄を連打して悶絶させ、別の海賊の射撃を地面スレスレの滑空でやり過ごしてぐるりと回転、足を払って倒し、またもや脛を連打する。
『ワイヤーアクションであります!』
 えげつない美空の攻撃にげんなりと顔をしかめるR.A.Y。
『マズター、なんか楽しそうだな』
『いっぱい映画を見ておいてよかったのでありますよ』

「ジャックポット隊、援護射撃開始!」
 灯台の上部に位置取った稜がジャックポット隊に指示を出し、自らは「月光」を構えて海賊の先陣へと斬り込んだ。
『ここが正念場ですよ』
「死なない程度に踏んばるよ!」
 最後のケアレイで自らを癒やした稜がリリアへ応え、階段を塞ぐ。これまでジャックポット陣と共に自らを癒やしてきた彼だが、それでもこの狭い灯台内の攻防で、命は半ば損なわれている。
「心配ない。すぐに済ませるさ」
 下から海賊を追いつめるバルタサール。
 挟撃を受けた海賊の射撃が前後に迷い、結果、稜の光刃とバルタサールの狙撃弾、そして上方から降りそそぐジャックポット陣の援護射撃に討たれ、数を減じていく。そして。
「こちら天城。灯台内に侵入した海賊は全員拘束した」
『美空だけど。こっちはもうちょい? 手ぇあいたら援護ヨロシク』
 バルタサールは稜を見て上を指し。
「おまえはジャックポット隊と上から援護してくれ。俺は下から回り込む」
 その内でとろりと目を閉ざした紫苑が。
『今度こそ雌鶏撃ちの始まりだ』

 防御姿勢のまま動かないナイチンゲールへラウラ・マリアが迫る。
 と、彼女は鼻をひくつかせ、あらぬ方向へ曲刀を振り込んだ。
「当たらないよ」
 宙へ弾いた血を囮に、地を舐めるほど低く上体を倒したギシャがラウラ・マリアの脚を狙う。
 振り込まれた“しろ”を右手ごと踏みつけ、ラウラ・マリアは左の曲刀を突き下ろした。
 ギシャはすぐに“しろ”から右手を引き抜き、ラウラ・マリアの腕を掴んで跳躍。左の“しろ”で首を掻く。
 これを右の曲刀で防ぎ、膝を突き上げるラウラ・マリア。
 急所を外して腹で受けたギシャは、ラウラ・マリアの膝を手で押して後ろへ跳びのいた。
「おねーさんの目的なーに? お宝?」
『灯台狙いである以上は例の鏡面体が狙いだろう。あれを押さえてなにがしたい?』
 ザッハークの蛇“にょろたん”を伸ばして右の“しろ”を回収しつつ、ギシャとどらごんが問う。
「商売さ。あのときに戻れるなら……そう思うクライアントは、あんたらが思うよりたくさんいるんだよ」
『それだけとは思わぬよ。それだけのことならば、汝を慕う者たちがああも必死で駆けては来ぬさ』
 ラウラ・マリアの前に立つカゲリの内より、ナラカが語りかける。
「そりゃああたしがメシ喰わせてやってんだ。シッポくらい振るだろうさ」
 ラウラ・マリアの後ろ回し蹴りからの曲刀の突きがカゲリの左の“滅刃”を大きく弾いた。
 カゲリはその衝撃に逆らわず、体を1度回して右の“滅刃”を振り込むが、守りに残されていた曲刀に流され、横へ一歩分、体勢を崩す。
 そこへ。ラウラ・マリアの2度めの突きが来た。
「――おまえに見せたいと言っていた」
 肩に突き立った曲刀の峰をカゲリが掴んだ。抜くためではなく、自らにラウラ・マリアを繋ぎ止めるための、手。
『汝はその見えぬ目でなにを見る?』
 ナラカの問いに、ラウラ・マリアが口の端を笑みの形に歪め。
「生まれてから1回だって見えたことのない光をさ! あたしはどうしてもそいつを見なきゃならない! そうでなきゃ――あいつらの必死がムダになっちまう!」
 カゲリを今度こそ蹴り飛ばし、刃の自由を取り戻したラウラ・マリアが、左右の刃と蹴りとをもって苛烈に攻めたてる。
「どきな!」
 踏み出しかけたラウラ・マリアの右脚が、唐突に止まった。
『凍らされた』
 ジオヴァーナの報告を受けたラウラ・マリアは思わず手で脚を探る。凍気が骨まで浸透し、その右脚を凍りつかせていた。
「あの鏡面体がほんとにラウラ・マリアに光を視せてくれるんだったら、協力する! ちゃんとえらい人にお願いするから! だからお願い、今は撤退して!」
 今や置物と化したパワードスーツの影から絶対零度を放った六花が声をあげた。
「悪い人じゃないって、思うから。悪い人だなんて思えないから。だって稜にあやまってた、ごめんよって……それにナイチンゲールと六花のこと、殺さなかった。だから」
 六花の言葉を斬り払うように曲刀を振り、ラウラ・マリアは眉をしかめる。
「……海賊は分捕るのが商売だ。施されちまったらもう、海にゃ還れないんだよ」
「だったらH.O.P.E.に来たら? 見てのとおり人材不足は深刻だし、スネに傷のある人なんてめずらしくもない。ジョアンペソア支部長にでもなって、手下といっしょに灯台守ったらいい。そうすれば目的の半分くらいは果たせるんじゃない?」
 カゲリとスイッチする形で前へ出たナイチンゲールがラウラ・マリアへ笑みを向ける。
「甘ったるいお話ごっこはお友だちとしてな!」
 曲刀が躍り、ナイチンゲールに降りかかる。
 1。ナイチンゲールは体を前へ傾けて肩を刃の根元へ押しつけ。
 2。続く刃を腕で下から上へ押し上げ。
 3。斜めにずらした体で蹴りを流した。
 ラウラ・マリアの攻撃は両の刃と蹴りによる3連撃――音楽に親しいナイチンゲールはこれを3拍子と捕らえてそのリズムを計り、カウンターアタックならぬカウンターガードを為してみせたのだ。
「次も成功できる自信はないけどね!」
『上出来だ。さすがに無傷というわけにはいかなかったが』
 追撃にかかることも忘れて動きを止めたラウラ・マリアに対し、息をつく墓場鳥。
「誰ひとり命を損なっていない今だからこそ、仕切り直すこともできますわ」
 ファリンにヤンが言葉を重ねた。
『金のためだけの行動ではないことは承知した。しかし、互いに戦闘なり交渉なりの体制を整える時間を得るのは無駄にならないだろう』
 そして。
『生命とはすべからく闇底に生まれ落ちる試練を課せられるものだよ。光持たぬ汝は、惑う彼奴らを導く光だ。汝は持たざる者の必死を尽くしたばかりやもしれぬが、その内で魅せた輝きこそが彼奴らを先へと導き、今生無二の必死を尽くさせるのだ。……たとえ汝が偽悪を演じようともな』
 ラウラ・マリアへ言の葉を傾けたナラカがふと笑んで。
『汝の輝きが我らをも魅入らせること、期待しているよ』
「――小難しい話は苦手でね」
 ラウラ・マリアが闇に潜むギシャへ切っ先を向けて牽制し、下がった。
「でも、このままじゃじり貧だ。いいよ、話は日曜日のディナータイムにあらためましてってことでさ」

●日曜日へ
「撤退――なんとかしのいだぁ」
『今日はアイス2個ですからね……』
 連絡を受けた稜とリリアが大きく息をついた。
「捕まえた海賊は引き渡し、海上の海賊も撤収……随分と妥協させられたものだ」
『政治はいつだって腐っているものさ』
 戦火の灯が消え、闇を取り戻した海を見やるバルタサールの内、紫苑は皮肉に笑んだ。
 そんな彼の横を、灯台から降りてきた美空がすごい勢いで駆け抜けていった。
『サイン! 3次元女海賊船長さんにサインもらわなきゃであります!』
 R.A.Yは無言。どーせなに言ったって聞かねーし?

「においだけじゃ騙せないね。次はいろいろ考えなくちゃー」
『ああ。このまま終わるとも思えんからな』
 海賊船内へ消えたラウラ・マリアを消せぬ笑顔で見送るギシャに、どらごんがうなずいてみせた。
 と、その言葉を聞いたファリンがかすかに表情を曇らせる。
「また、戦うことになるのでしょうか?」
『海上での戦いは終始海賊が押していたようだ。こちらが譲る形になったことがどう転がるか……それによるな』
 ヤンの返答は苦い。
 その中でカゲリは静かに目を伏せ、コートの裾を翻す。
「次は互いの面子をかけることになる」
『その無粋に目を塞がれたまま、互いの譲れぬものを比べ合うか……』
 ナラカがおもしろくなさげに鼻を鳴らした。

 一方、六花はナイチンゲールと共に、海から引き上げてくるジョアンペソア支部長の元へ急ぐ。
「みんなで話し合える場所用意しなきゃ! あと、ディナーの準備?」
『ディナーは気にしなくていいんじゃないかしら?』
 アルヴィナのため息は六花に届かない。
「んー、どう言ったら支部長辞めてくれるかな? やっぱり、会長に直訴?」
 思い悩むナイチンゲールに墓場鳥は応えず、半ば閉ざした目をうっそりと前へ向けた。

 海賊との交渉を決めたエージェントたち。
 それがどのように転がるものかは、数日後に巡り来る日曜日を待つよりないのだった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 燼滅の王
    八朔 カゲリaa0098
  • 明日に希望を
    ナイチンゲールaa4840

重体一覧

参加者

  • 燼滅の王
    八朔 カゲリaa0098
    人間|18才|男性|攻撃
  • 神々の王を滅ぼす者
    ナラカaa0098hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • 惑いの蒼
    天城 稜aa0314
    人間|20才|男性|防御
  • 癒やしの翠
    リリア フォーゲルaa0314hero001
    英雄|20才|女性|バト
  • 危急存亡を断つ女神
    ファリンaa3137
    獣人|18才|女性|回避
  • 君がそう望むなら
    ヤン・シーズィaa3137hero001
    英雄|25才|男性|バト
  • ぴゅあパール
    ギシャaa3141
    獣人|10才|女性|命中
  • えんだーグリーン
    どらごんaa3141hero001
    英雄|40才|?|シャド
  • 譲れぬ意志
    美空aa4136
    人間|10才|女性|防御
  • 悪の暗黒頭巾
    R.A.Yaa4136hero002
    英雄|18才|女性|カオ
  • Trifolium
    バルタサール・デル・レイaa4199
    人間|48才|男性|攻撃
  • Aster
    紫苑aa4199hero001
    英雄|24才|男性|ジャ
  • 明日に希望を
    ナイチンゲールaa4840
    機械|20才|女性|攻撃
  • 【能】となる者
    墓場鳥aa4840hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • 絶対零度の氷雪華
    氷鏡 六花aa4969
    獣人|11才|女性|攻撃
  • シベリアの女神
    アルヴィナ・ヴェラスネーシュカaa4969hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
前に戻る
ページトップへ戻る