本部

【時計祭】喫茶《ヒーロー》

渡橋 邸

形態
イベントショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/08/08 20:02

掲示板

オープニング

●ティックトック・フェスティバル
 ロンドン支部長キュリス・F・アルトリルゼイン(az0056)は頭を悩ませていた。
 世界蝕のもたらした技術革新によって通称『ビッグ・ベン』の改修工事はもうすぐ終わる。
 けれども、昨年末の愚神との戦いの直後に警戒態勢の上で改修工事に入った為、ビッグベンには陰気な噂が流れていた。
 いわく、ビッグ・ベン周囲にはハロウィンの亡霊が彷徨う──といったような。
「これではいけませんね」
 七組のエージェントたちがロンドン支部に集められたのは数日後のことだった。


「あたしたちエージェントで作る、学校の文化祭のようなものだと思う」
 戸惑いながら、ミュシャ・ラインハルトは依頼内容を伝えた。
「文化祭、やる。やりたい」
「なかなか粋なことをするじゃないか」
「うんうん。スッゴク楽しそう!」
 弩 静華と布屋 秀仁、米屋 葵のポジティブな反応にエルナーが笑った。
「できそうかな?」
「勿論。文化祭だなんて何年振りかしら。今回くらいは童心に戻って楽しんでも悪くないわよねー」
「そうだね。だけど年相応って言葉もしっかり覚えておかないとね?」
 乗り気の坂山 純子だったが、ノボルの一言に言葉を詰まらせた。
「文化祭、ね。やっぱり、するなら喫茶店かな?」
「なら、和風にしようよ。徹底的にね」
 圓 冥人へ真神 壱夜が提案する。
「和服とか割烹着、素敵ですわね」
「母は、割烹着を着たいのよ」
 ティリア・マーティスとアラル・ファタ・モルガナのやり取りに、トリス・ファタ・モルガナが静かに首を横に振った。
「いいえ、ティリアには着物を着てもらいますよ」
 秀仁も同じく何か思いついたようだった。
「器具なんかは家のものを持ってきて、カップとかドリンクは自腹で買うか……」
 一方、ハロウィンから続いた事件を思い出した呉 亮次はしみじみと呟いた。
「あん時は新人中の新人で、しかも二回ほど死にかけたっけな」
「みんなが暗い気持ちになってるなら、また歌の力を借りるのはどうかな?」
 赤須 まことの期待に満ちた視線を受けて、椿康広とティアラ・プリンシパルが顔を見合わせた。
「季節外れの仮装ライブなんてどうっすか」
「ハロウィンの悪い思い出を、楽しい記憶に変えられればいいわね」
 ティアラの言葉にエルナーは軽く手を叩く。
「決行決定ってことかな。なら、僕たち以外にも参加してくれるエージェントを募らないとね」

●スタッフ募集
 いざ決定したところで、秀仁はどうしたものかと頭を悩ませた。
 内容はごく普通の軽食喫茶で、ドリンクの他にはサンドイッチなんかの軽食と適当なスイーツを出すことは決めてあった。逆に言えばそれ以外はまだ手付かずである。
「差別化は問題ないはずだが、さてあとはどうするか……」
「圧倒的人手不足を解消するのが最優先じゃない?」
「そうだな。特に不足してるのが給士だから、そっちを優先して募集するか?」
「僕的にはかわいいメイドさんもかっこいいウェイターさんもほしいな!」
「コスプレか? ……悪くないな。男はシャツとスラックスにギャルソンエプロン、女はエプロンドレスね」
「性別で分けるんじゃなくて、希望者に希望したユニフォームを支給でどう?」
「そうだな、そうするか。さて、それじゃあ早速募集をかけるとしよう」

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 ティックトック・フェスティバルで共に働くスタッフを募集中!
 応募される方はXX-XXXX-XXXXまでお電話を!
 募集店舗:喫茶店 ヒーロー
 場所:ビッグ・ベン広場
 内容:ホール、キッチン
 勤務時間:8時~13時
      13時~18時
 勤務形態:シフト制。休憩あり
 服装:現場で支給いたします
    男性用か女性用をお選びください
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解説

●目的
 祭りを楽しく盛り上げるお手伝いとしてお店を盛り上げる

●場所
▼喫茶店 ヒーロー
喫茶店の出店。コーヒー、紅茶、ソフトドリンクなどの飲み物を提供。他にもサンドイッチやケーキなどの軽食も提供する。テイクアウト可。
店舗スペースは狭め。キッチンは2~4人くらいまで余裕をもって動くことができる広さ。席数は20程度。

●服装
【ワイシャツと黒のスラックス、黒のギャルソンエプロンのセット】か【淡い青のエプロンドレス】のどちらかを選んで着用できます
過度なアクセサリーなどは外すように指示されます

●流れ
準備から参加できます
シフト制で2種のどちらかから選んでいただくことになります。シフト外での行動は自由です。フェスティバルを楽しんでも構いません。
※あくまでホスト側としての参加になりますので、フェスティバル参加前提でのプレイング、および依頼参加はご遠慮ください。
NPCは基本的に調整などのサポートを行います。人時が足りない場合はキッチンに入ります。何かしてほしいことがなどを指示すると従いますのでどうぞご活用ください

リプレイ

●フェス前日――シフト――
 ティックストック・フェスティバル前日。
 布屋 秀仁によって集められたメンバーは紙を手渡された。
 そこには表が印刷されていた。どうやらシフト表のようだ。

=================================================================================
時間/業務     |   ホール(ウェイター)   |   キッチンスタッフ    |
---------------------------------------------------------------------------------
午前( 8:00-13:00) |葉月 桜(aa3674)       |ヘンリー・クラウン(aa0636)  |
         |五十嵐 渚(aa3674hero002)   |片薙 蓮司(aa0636hero002)   |
         |ファリン(aa3137)       |布屋 秀仁          |
         |ダイ・ゾン(aa3137hero002)   |米屋 葵           |
---------------------------------------------------------------------------------
午後(13:00-18:00) |麻生 遊夜(aa0452)      |布屋 秀仁          |
         |ユフォアリーヤ(aa0452hero001) |米屋 葵           |
         |桜小路 國光(aa4046)     |メテオバイザー(aa4046hero001) |
         |匂坂 紙姫(aa3593hero001)   |キース=ロロッカ(aa3593)   |
=================================================================================

「こんな感じになったけど、どうだろうか? 何かあれば修正するが」
「いいんじゃないか? おおよそ希望通りなんだろう?」
「ええ、まあ。皆さんうまいことバラけましたので」
 秀仁の言葉に遊夜が答えた。
 同じようにして他のメンバーにも確認をとるが、おおむね好評のようだ。
「それじゃあ、この通りで頼むな」
 エージェントたちはうなずいて返した。

●フェス前日――事前準備――
「要件はこれだけですか? もしよければちょっと頼みがあるんですけど」
「頼み? 物にもよるが……」
「この店で出すにあたってメニューを考えてきたんですけど、試食してほしいんです」
「ああ、それなら問題ない。今日は事前準備だけだからな」
 ヘンリーの言葉に秀仁は頷き、今日の予定を口にした。
「事前準備ですか?」
「仕込みとか……ですかね」
 ファリンと國光の言葉に秀仁は首を縦に振って答える。
「ん? そうなるとホール業務は何をするんだ?」
「基本的にはメニューの記憶や明日に関する打ち合わせだな」
「打ち合わせ……行きつけのお店で聞いてきた情報が役立ちそうですわ」
『接客のイロハだな』
「あとは制服の試着もしたいな。当日用意してサイズが合いませんってのはごめんだ」
 秀仁はファリンやダイ、遊夜の言葉にうなずくと、葵に頼んでそれらを用意するように連絡をした。それと同時に準備のために借りた部屋へと案内していく。
 それから30分ほどで食材や服のサンプルなどが部屋に届いた。
 エージェントたちは手分けしてそれを搬入していく。その後、まず試着をしようという流れになり、制服を手に取っていく。
「ウェイトレスかぁ。ボク、憧れていたんだよね~!」
『制服、かわいいっすね……ところで、帽子は被ってちゃダメッスかね?』
「過度なアクセサリー等は禁止らしいな」
『だから残念ながら帽子とかは被れないらしい。担当の彼に聞いた』
『えぇ~』
 桜と渚、ヘンリーと蓮司がわいわいと言葉を交わしながら制服を試着する。桜と渚が選んだのは女子用の制服で、ヘンリーと蓮司が選んだのは男性用の制服だ。
 白のシャツと膝よりやや下まで丈のある淡い水色のエプロンドレスの女性用制服と、白のワイシャツに黒のスラックス、ギャルソンエプロンの男性制服が並ぶと喫茶店と言うよりはちょっとしたパン屋にも見える気がする。
『……ん、おそろい……どう、似合う?』
「ほう、これは意外と……うむ、似合ってるぞ」
『……ん! ユーヤも、かっこいい、よ?』
「おう、ありがとな」
 ギャルソンエプロンの隙間から出た尻尾を振りながらユフォアリーヤが遊夜に感想を聞く。遊夜は満足げに微笑み彼女の頭をなでた。
「これ、結構動きやすいんですね」
『ねえねえ、どう? 似合うかな!』
「いいと思うよ」
 紙姫の問いに対して無難に応えたキースの元へ、ファリンとダイが近づいていく。
 別方向からは國光とメテオバイザーが近づいている。あっという間に彼らは距離を詰め、キースは2組のエージェントに挟まれた。
「レディへの褒め方としては少々雑では?」
『そうだな、おじさん的にもう少し丁寧に答えるのがいいんじゃないかと思うけど』
『そうです。お仕事着ですけれどおしゃれに変わりはないのです』
「集中砲火だな」
「余計なお世話だよ」
 四方八方からからかい混じりの非難を受け、キースは少したじろいだ。
 どうすればいいのか少し困っていると、ちょうどいいタイミングで声をかけられる。
「全員、制服の試着は済んだだろうか。サイズ違いなどがあれば対応するが」
「一応全員大丈夫そうです」
 これ幸いとキースが乗っかり、軌道修正を図る。ちょっとのジト目はスルーした。
「そうか? それならさっさと用事を済ませてしまうとするか。葵ー」
『はーい。それじゃあ今から回す書類を1人1束ずつ受け取ってねー』
 葵から書類の受け取ったエージェントたちは、それぞれで固まって書類の確認をする。
 内容はどうやら当日の動きに関する物や注意事項らしい。そこには服装に関する細かい規定や当日行わなければならないこと、当日やってはいけないことが羅列してある。
「午前のメンバーが設営で午後のメンバーが片付けか」
「それじゃあ一緒に行こう、ヘンリー!」
『となると必然的に自分たちも一緒っすね』
『嫌なのか?』
『いやっ、別に……そんなわけないこともないっすけども……』
『イチャつくならもうちょっと控えめにやってほしいのです……』
 すぐ傍で親密なやりとりを見ることになったメテオバイザーがすすすと動く。
 國光に密着する形になってしまったが、國光も仕方ないかと目をつむった。
「当日の行動はこの書類の通りでいいのでしょうか」
「ああ。基本的にはその通りになる。ホール、キッチン共に詳しい業務やシフト、休憩に関することも書いてあるから今日中に読み込んでおいてくれ」
「かしこまりました」
「前日になって渡してすまないが、頼んだ。……他に何か疑問点はあるだろうか」
 ファリンは質問をし、答えを得るとまた読み込みに戻っていく。
 ペンで書き込みをしながら自らの英雄と相談をしている。
 その様子を尻目に、今度はキースが質問をした。
「あ、当日の持ち込み品に関することなんですけど、いいですか?」
「何かな」
「喫茶店のドリンクに使う豆を持ち込んでもいいですか? 実はボク、コーヒーが好きで自分でも焙煎したりしてるんです」
「それはどの程度の量になるだろうか」
「当日の消費量を考えると念のために1種類に付きそれぞれ1kg程度は必要になると考えていますし、最低でもその程度の量は」
「種類はどうする。あまり多くても困るぞ。よほど通でもなければ注文時に豆なんて選ばない」
「ある程度絞って持って行きますよ。出すときはお客さんの好みに合わせる予定です」
「そうか。一応後でラインナップなんかを教えてくれ」
「わかりました」
 一通り確認を終えると、困ったような顔で遊夜が口を開いた。
「あー、その、なんだ」
『……これ、外さないと……ダメ?』
「――って、うちの英雄が言っててな。結構目立つからなあ……外した方がいいんだろうか」
「そうだな……どちらもギャルソンスタイルだし、襟で隠れるなら外さなくてもいいが」
「それがどうも、少しだけはみ出してしまうんだ」
「……それならば、残念ながら外してもらった方が無難だろうな」
「だとさ」
『むー……』
 ユフォアリーヤが不満そうな顔をするが、どうしようもないため遊夜は苦笑するしかない。
 秀仁はなんとなく申し訳ない気分になった。
「と、とにかくだ。後は何もなさそうだし、それじゃあ各自準備に入ってくれ。葵、現場監督は任せたぞ――クラウンさんと片薙さんはメニューのチェックがあるから、ひとまずついてきてくれ」
 秀仁について行くようにしてキースと蓮司が部屋を出て行く。
 残されたメンバーも葵に指示を仰いだり各自で書類を確認しながら準備を開始した。
 ――こうしてティックストック・フェスティバル前日は過ぎていく……。

●フェス当日――喫茶店《ヒーロー》――
 ティックストック・フェスティバル当日。エージェントたちが開く祭りの噂は想像以上に広がっていたようで、遠目にだがそれなりに並んでいる人が見える。
 それを尻目にエージェントたちはせっせと準備を済ませ、最終確認を行っていた。
「下準備は完了。機器の位置と扱い方もマスターした……写真を掲載する許可ももらったし、いつでもいけるな」
『いつもと環境は違うけど、こっちも確認はできたからフルパフォーマンスでいける』
「2人ともかっこいー!」
『今さらっすけど、これフリフリでちょっと落ち着かない……』
『仕方ない。これがこの場での正装というものさ』
「みなさん、お話もよろしいですがそろそろ開祭時間ですわ」
 午前の担当であるヘンリー、蓮司、桜、渚はファリンの言葉で意識を切り替えた。
 そこにタイミングよく秀仁たちが戻ってくる。
「ん、もう準備は良さそうだな」
 秀仁の言葉に料理を担当するヘンリーと蓮司がうなずいた。
 ホール担当の桜と渚、ファリンとダイも気を引き締める。
 それを見た秀仁は満足そうにうなずくと口を開いた。
「それじゃ、喫茶店《ヒーロー》、堂々開店といこうか!」

  ◇

「オーダー入ったよ! フルーツクリーム大福のさくらんぼが2つとアイスコーヒー2つ! お願い!」
「こちらはぜんざいと大福の桃が1つずつ。ドリンクはアイスティーが2つですわ」
 開店から1時間もしないうちに店は忙しくなっていた。
 他にも似たような店があるが、どうやらどっちも忙しいらしい。需要が綺麗に分かれたのもあるが純粋に人が多いのだろう、というのがヒーローの店員として働いているエージェントたちの総意である。
『オーダー追加だ。梅シロップ2つと水まんじゅう2つ』
『こっちは豆腐ステーキ、醤油ベースの大根おろしあり1つっす』
 続々とオーダーが入ってくる。キッチンスペースは完全に戦場であった。
 そこで驚くほどの速度で料理を仕上げていくのが調理担当の2人組、ヘンリーと蓮司である。丁寧な手つきで餅を取り出し大福を仕上げるヘンリーとフライパンを振るい料理を完成させていく蓮司は客たちの目を引き、更に店へと導いていく。
「できたぞ、持って行ってくれ」
「おいしそー……」
「つまみ食いするなよ」
「うっ、ごめんなさい……」
 ヘンリーはつまみ食いをしようとした桜をたしなめ、料理を持って行かせる。
 蓮司はそれを横目で見て苦笑した。そんな彼に対してヘンリーは檄を飛ばす。
「さて……ほら、蓮司もっとスピードをあげろ! そんなんじゃお客を帰らせてしまうぞ!」
『わかってるに決まってんだろ! 俺を誰だと思ってんだよ!』
「2人とも、気合いを入れるのはいいが料理に変な物を入れないようにな」
「プロだからそれくらい気をつけてるさ」
「ならいいか」
『そら、こっちもできたぞ! 持って行ってくれ!』
『了解っと』
 蓮司から皿を受け取り渚が客の元へと向かっていく。
『お待たせいたしました。豆腐ステーキ、醤油ベースソース。大根おろし添えでございます。お皿が暑くなっておりますのでご注意ください』
「失礼いたします。こちらご注文の品でございます。ミルクとガムシロップはご利用になりますか? ――かしこまりました、ただいまお持ちします」
『お待たせいたしました。……はい、……はい。ご注文を確認いたします。梅だし茶漬けがお1つと御ムライスがお1つ。ドリンクはアメリカンコーヒーが1つとアイスティーですね。かしこまりました。料理をお出しするまでお時間いただきますがよろしいですか?』
 キッチンも戦場であれば、ホールもまた戦場であった。
 注文に次ぐ注文の嵐。それを告げれば次々と出てくる商品。それを届けたかと思えば客の精算とテーブルの片付け。そして新しい客の案内。ただただ料理を作るのと比べると膨大な作業の暴力がホールのエージェントを襲う。
 それでも桜と渚、ファリンとダイの4人で作業を分担できているのでキッチンと作業量はどっこいどっこいといったところか。そのような状態であるからか、桜は当初予定していたライヴを行うどころではなかった。やろうと思ってもすぐに客が来るため、カラオケライヴのために抜ける余裕すらなかったのである。
「忙しくて目が回っちゃうよ~!」
『そんなことが言える余裕があるならまだ大丈夫っすね』
「なっちゃんちょっと冷たくない!?」
『ごめんちょっとこっちも余裕ないっす』
 軽口を叩きながら早足で、それでいながら優雅さを失わないように店内を移動し続ける。その間にも客としてさり気なく遊夜とユフォアリーヤ、キースと紙姫たちが客としてヘンリーのスイーツに舌鼓を打ち即座に撤退していた。
 そして昼のピークの直前にようやく交代のメンバーが到着した。
「こりゃあ想像以上の盛況だなあ……」
 交代直前に遊夜は思わず口にした。
「こんなタイミングで申し訳ないが、午後のメンバーは早めに出てもらって空いてる席から順にメニューの交換をしてくれ。午後からキッチンが変わる都合上、メニューも変わるからな」
「……了解。交換前のメニューはどうする?」
「注文時に申し訳ありませんが、スタッフの都合で午前と午後はメニューが異なりまして……と弁明しておこう」
「あいよ」
 着替え終わり合流した國光たちに指示を出した秀仁はサポートのためにキッチンに行く。そこでは変わらず延々と調理が続けられていたが、調理場を見た感じ今作っている分がラストのようだった。
「お疲れ様。ホールスタッフは交代したし、今ある分を終えたら上がってくれ」
「了解……」
『オッケー! 仕上げて残りはデートだなッ』
 交代の連絡を受けたヘンリーと蓮司は力を振り絞り更に加速する。それでいて作業は丁寧であり一切の行程で手を抜くことはしなかった。それを表に出して運ばせるとキッチンから出て行く。その先には既に着替え終えていた桜と渚が控えており、親密な様子で言葉を交わしているのが見える。
 入れ替わるようにして入ってきたメテオバイザーとキースは肩をすくめた。
『仲良しさんですわね』
「あはは、いいことだと思いますよ……っと、布屋さん。作業変わりますね」
 交代するまでドリンクを出していた秀仁とキースが交代する。朝の段階で持ち込んでいた豆を取り出し、保管していた水をヤカンに移して火にかけた。先ほどまで秀仁が使いやすいようにセットしていた器具たちも自分が使いやすいように位置を調整し、完全な状態でドリップに挑む。
「さて、珈琲好きの血が騒ぎますね…………」
「そういえば君もコーヒーが好きなんだったな。機会があれば話をしよう」
「ええ、そのときは喜んでおつきあいしますよ」
 電動グラインダーをさらっと掃除しながら返事をすると、キースはすぐに作業に移行する。持ち込んだ豆はケニア、ブラジル、グァテマラ、コスタリカ、モカ・マタリ、ジャワ。そしてブルーマウンテンだ。ミディアムおよびシティローストで焼かれた豆たちは既に焙煎から24時間経過させてある。その中からキースはブラジルとモカ、そして少量のコスタリカを用いてブレンドを作り抽出を開始した。
 グラインダーで豆を挽いている内に折っておいたペーパーフィルターをドリッパーにセットし、ガラスサーバーを置く。そして豆をフィルターにセットすると沸騰した湯をポッドに注ぎ、それに水を加えて温度を調節。その後に注ぎ口からドリッパーに小さく落とした。作業は非常にスムーズで手慣れていることがうかがえる。1杯1杯、豆の配合を変え水を変え、蒸らし時間を調整し抽出時間を調整し、抽出量を調整する。そうして作られたコーヒーはその人だけのスペシャリティであった。
「……うん、いい感じだな」
『メニューは交換しているのですよね?』
 その様子を見ていた秀仁に注文にあわせてメテオバイザーが質問を投げてきた。
「ああ。どうしても本人たちでなければ再現が難しそうなメニューは撤去してある。本来はこういうことはしたくないが、まあお祭りだからなんでもアリだ」
『了解いたしました』
 軽く言葉を交わすとメテオバイザーも調理を開始する。前日に作っておいた抹茶ロールやゼリーのアイス添えなどを手早く盛り付けて提供していく。他にもスコーンやクッキーを焼くなど、非常に手慣れた様子で行動を始めた。
 その手際の良さは昼時を抜けておやつ時にさしかかってきた今、ありがたく助かるものであった。次々の作られていく焼き菓子は粗熱を取るためストック容器に移し替えられ、清潔な布をかぶせた状態で作業台下のスペースに収納されていく。秀仁がサンドイッチを作っている間に入ったトーストのオーダーなどは代わりにジャムなどを添えて出すなどサポートも完璧だった。
『できたのです。どーぞなのですよ』
『はーい!』
「紙姫、落とさないように気をつけてね」
『任せて! 完璧にやってみせるよ!』
 キースが蒸らし中にかけた言葉に元気よく答えると紙姫はそのままホールに向かっていく。気になってちらりと見るが、遊夜や國光がうまくサポートすることで致命的な失敗をすることもなく接客を行えているようだ。
『いらっしゃ、いませ……! お席に、ご案内します』
「本日はご来店いただきありがとうございます。ご注文がおきまりになりましたらお声がけください」
 やや照れ気味に接客をするユフォアリーヤを甲斐甲斐しくサポートし、遊夜は通常以上に忙しそうである。
 國光はキースの相棒である紙姫に注意を払いつつもそつなく接客をこなしていた。
 途中で紙姫が転びそうになるとさり気なく支えてそのまま送り出し、困っている客がいれば声をかける。人手が足りているようであれば掃除までする余裕を見せていた。
 昼も過ぎ夕方を回っても客足は遠のくことがない。ホールにいたエージェントたちは水分補給以外で休む時間がほぼなく、キッチンスタッフもまた休む時間はなかった。特に余裕がないのはほぼ常時注文の入っているキースだが、彼は膨大な数の機器を巧みに操りそれらをすべて処理しきっている。途中で訪れた午前のメンバーに対して余裕を持って秘蔵のコーヒー"コピ・ルアク"を振る舞うほど洗練された動きはプロのバリスタと見紛うほどであった。
 そうこうしている間に時間は過ぎていき、閉祭時刻が近づいていく。
「本日のご来店まことにありがとうございました。お祭り、楽しんでくださいね」
 客がまばらになってくると今度はホールが忙しくなる。
「リーヤ、向こうのテーブルが開いたから掃除を頼む。紙姫ちゃんはあっちのテーブルの片付けだな」
『ん、了解』
『任されました!』
 國光はほぼ会計に固定されてしまったため、遊夜の指示の元テーブルの片付けと掃除などが進められていく。どんどんと客が減っていき、やがて0になる頃には広場に閉祭のアナウンスが響いていた。

●フェス後
 ティックストック・フェスティバルが終了したのを確認すると、エージェントたちはまた喫茶店まで帰ってきた。そうして全員で店の備品を整理し、トラックへと運んでいく。
 そしてそれが一段落すると、その場で今日の給料が手渡され解散の流れになった。
「さて、皆お疲れ様だ。後はすべてこちらでやっておくから帰ってもいいぞ」
『今日はありがとうねー!』
「いや、こちらこそ貴重な体験ができた」
『……ん。ちょっと、楽しかったかも』
 遊夜とユフォアリーヤは忙しかった午後を思い返してほほえんだ。
 その両手には残った分の菓子が大量に詰められた袋がある。どうやら持って帰って子供らと食べるつもりらしい。
『さって、それじゃあ帰――あらら? 紙姫ちゃんは寝ちゃったか』
「随分とお疲れみたいですわね……」
「よっぽど楽しかったんでしょうね……皆さんも、これくらい楽しめたのならいいのですが」
 キースは優しげな顔で背にいる紙姫を眺める。
「楽しかったね! ヘンリー!」
「ナンパ男の相手は疲れたけどな……」
『つまらなかったとは言わないんだな』
『実際楽しんでたっすからね』
 キースの言葉を聞いていた桜はその場で親指を立てて笑顔を浮かべた。
 こちらはこちらで楽しんでいた、というアピールのようだ。
 それを耳にしたキースは珍しく表情を柔らかくすると、ずれていたメガネを整え紙姫を背負い直した。
「これからどうしましょうか」
「……紙姫は寝ているし、帰るんじゃないか?」
『でもなんとなくもったいないような気がするけどね』
『打ち上げなら後からでもできるのです』
「そうですわね。今日は帰ってゆっくりしましょう」
『打ち上げっていい響きっすよね……』
「やるなら私たちも参加するよ!」
「そのときはまた腕を振るうのも悪くないな」
『作りたいだけじゃないのか?』
『おいしいお料理が出るなら、子供たちも……』
「そうだな、そのときは連れてきてやりたいところだ」
「結構広い場所が必要になりそうですね」
 打ち上げの予定を話しながら、彼らは1人の少女を起こさない程度の声で笑った。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

  • 戦うパティシエ
    ヘンリー・クラウンaa0636
  • 天秤を司る者
    キース=ロロッカaa3593

重体一覧

参加者

  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 戦うパティシエ
    ヘンリー・クラウンaa0636
    機械|22才|男性|攻撃
  • ベストキッチンスタッフ
    片薙 蓮司aa0636hero002
    英雄|25才|男性|カオ
  • 危急存亡を断つ女神
    ファリンaa3137
    獣人|18才|女性|回避
  • 我を超えてゆけ
    ダイ・ゾンaa3137hero002
    英雄|35才|男性|シャド
  • 天秤を司る者
    キース=ロロッカaa3593
    人間|21才|男性|回避
  • ありのままで
    匂坂 紙姫aa3593hero001
    英雄|13才|女性|ジャ
  • 家族とのひと時
    リリア・クラウンaa3674
    人間|18才|女性|攻撃
  • 友とのひと時
    片薙 渚aa3674hero002
    英雄|20才|女性|ソフィ
  • きっと同じものを見て
    桜小路 國光aa4046
    人間|25才|男性|防御
  • サクラコの剣
    メテオバイザーaa4046hero001
    英雄|18才|女性|ブレ
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