本部

song To destroy

鳴海

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
4日
完成日
2017/07/26 16:44

掲示板

オープニング

● 神域を守る巨人

 音の遺跡最奥、二枚の大扉は鋼鉄で、その向こうから聞こえるのは脈を刻む音。
 この奥に敵がいる。
 そうH.O.P.E.の探索員は君たちに告げた。
「愚神が扉を守っていて、通れません。その扉の向こうだけ探索が進んでいないのです」
 であれば愚神を倒すしかない。そう思ったH.O.P.E.の探索員が君たちをここに呼んだのだ。
 この扉の向こうには死神のような愚神が鎮座している。巨大な心臓と一体になり、君たちへ双振りの刃を向けようと待ち構えている。
「あけるぞ」
 そんな説明を口頭で告げながら探索員は扉を開いた。
 錆びつき軋むその扉は大人四人がかりでないとあけるのが難しい。
 徐々に徐々に扉が開いていく、のだが。 
 その時である、部屋の奥から赤い稲妻がほとばしった。
「ぐあああああ!」
 探索員たちの肌が焼けこげ、その頬から血が噴出する。
 愚神からの攻撃だ。幸いリンカーは攻撃を受けながらでも行動ができたため。
 内側に入り、リンカーたちは扉を閉じていく。
「たのむ、お前たちが頼りだ」
 そう呻き転がる探索者の目の前で、重たい扉が閉まった。
 ただ、君たちが気になったのは、その探索員たちが流した血である。
 これが瞬時に蒸発し天に上るのを見た。
 なんとなくきな臭い。
 そう感じた君たちは、気を引き締め直して、愚神と向き合う。

● ルネ……

「眼球形ルネからの報告です」
 海のど真ん中に鎮座するガデンツァは、ルネから上がってきた映像へと目を凝らす。
 細い管が無数に通った室内、奥に張り付けられた愚神は二本の剣を振り回している。
 そして厳重にロックされた扉が愚神の背後にうつる。
 その様子をみてガデンツァは目を細めて告げた。
「ほう、プロトタイプじゃな。残っておったとは……」
 その言葉に眉をひそめるルネクイーン。プロトタイプという言葉が妙にはっきりと
耳に届いた。
「プロトタイプとは?」
「ううん? 何事も何かを作成するときは、試作品を作るじゃろう? そう言うことじゃな」
「……」
「あまり深くは考えなくてよい、それよりじゃ。心臓に血液を送り込んでやることを、優先せよ」
「はい」
 そうルネクイーンはつぶやくと目を閉じて、全てのルネをコントロールすることを優先した。

● 愚神デラクリオ

 今回討伐目標となっている愚神デラクリオは遺跡の扉を守るように鎮座する愚神です。
 大きさは三メートル程度。移動は不可能ですが。射程が1~8程度の双剣を振り回しています。
 髑髏の顔に肋骨がむき出しの骸骨ですが。腹部から足の部分にかけて心臓に埋まっています。
 片方の腕につき、ラウンド一回の行動権が存在します。
 その体はぶら下がる巨大な心臓と
・ ハートビート
 心臓は常に脈を刻んでいますが。この脈拍が高くなればなるほどに、戦闘力が大幅に強化されます。最大で三倍。ただし、常に高い心拍を維持することはできないようで、心拍をあげれば上げるほど能力を強化している時間は短くなり、休憩時間が必要となります。

・ スパークルブラッド
 デラクリオを攻撃すると、周囲に液体が飛び散ります、その液体は赤いエネルギーで周囲に雷撃を放出しながら蒸発する性質を持ち。ダメージは微量ですが、その雷撃を受けるとステータスがやや下がります。
 効果範囲はその液体を中心に1SQ程度です。

・ デオイゼルタ
 デラクリオ唯一の攻撃スキルです。
 自身の血を瞬間的に放電させることによって威力を高め広範囲を攻撃します。
 その性質上、ある程度血が飛び散っている必要があります。
 威力は中程度ですがこの攻撃を受ける次の自分の行動をスキップされるので戦略的な効果は絶大でしょう。



解説

目標 歌の悪魔デラクリオを撃破する?

 今回は指針としてデラクリオ撃破は掲げらえていますが。これは本当に撃破していいのでしょうか。
song of brave とsong To destroy はシナリオが連動しており、その結果いかんによっては、情報いかんによっては対処が異なってくるかもしれません、注意しましょう。

 そして下記はPLだけに開かされる情報です、この情報も加味して怪しい遺跡の秘密を看破してください。

追憶のルネ
 これは少女型のルネですが量産品と違って、考えてはなし、感情も浮かべます。
 シナリオの運び次第では登場しない可能性は十分にありますが。能力が分からないと対処しようがないので記載しておきます。
 攻撃手段は、ブルームフレア、サンダーランス。そして音波による魔法攻撃です。

リプレイ

プロローグ


「またこの遺跡かー」
『イリス・レイバルド(aa0124)』は重たい扉を潜りながらそう告げる。『アイリス(aa0124hero001)』がそのフロアの最奥を眺めて小さく告げた。
――情報は間違いなくあるのだろうが……遺跡の守護者もお約束のようにいるのだね。
 最奥で脈動する心臓、それはデフォルメされたハートなどではなく、本当の心臓である。
「で、あの心臓はどう思う? ボクには爆弾に見える」
――今までが散々爆発に巻き込まれてきたからねぇ。エネルギーの塊という見方をするなら動力源という発想もある。
 その時、心臓に突き刺さった骸骨。愚神デラクリオが痙攣するように蠢いた。
――だとするなら迂闊な攻撃は控えて髑髏の部分を削るか。
「胡散臭い血液も集まっているしね」
 その時、デラクリオが吠えた、声にならない金切り声を震わせて天高らかに剣を振り上げる。
――なにあの愚神、何で大きな心臓に体が埋まってるのよ!
『ルナ(aa3447hero001)』が悲鳴にも似た声を上げると『世良 杏奈(aa3447)』はなだめるように言葉を連ねる。
「心臓が動いてるって事は、血が流れてるのよね。……でもどこから?」
 その言葉に『エステル バルヴィノヴァ(aa1165)』が頷いた。
「それは、わかりません。にしても遺跡の心臓部に文字通りの心臓か……愚神らしいおふざけだけどグロテスクですね。直ちに殲滅すべきです」
『泥眼(aa1165hero001)』はその言葉に苦言を呈する。
――でも、調査隊の方々が”歌”を利用してるとなると遺跡の息の”根”を止めてしまうのもどうなのかしらね。
――なるほど。この遺跡は生きているのだね。
 『レオンハルト(aa0405hero001)』がそう言うと『卸 蘿蔔(aa0405)』は納得しきれず首をひねる。
「そう、みたいかな? でも、ここは誰が作った遺跡なんだろう…………あのメッセージも…………誰が書いたのかな」
 そう告げつつリンカーたちは各々自身の適性距離を取る。迎撃態勢。あそこから一歩も動けない愚神だからと言って侮っていると痛い目を見るだろう。
 そう『小詩 いのり(aa1420)』は気を引き締めた、その背後に『蔵李・澄香(aa0010)』が隠れ、いのりは『セバス=チャン(aa1420hero001)』と共鳴する。
 作戦の準備は整った、それを確認して『クラリス・ミカ(aa0010hero001)』がインカム越しに戦闘開始を別働班に告げる。
――感度良好です、通信装置は問題なく動作しています。
「沙羅さんもアルちゃんも問題ないって」
「この遺跡、どーも胡散臭いんだよね。今回の敵もなんかひとくせありそうだし、気を引き締めていくよ」
 いのりの言葉にクラリスは頷くと、あたらめて声を上げる。
――ではこれより。戦闘行動を開始します。
 直後はなたれた霊力によるソナー。
 この一瞬でクラリスは部屋の内部に怪しいものがないかすべてを把握する。
 

第一章
 
 デラクリオが再び吠えた。直後リンカーたちは散開する。
 真正面から弾丸のように迫るのはイリス。
 そのメイン盾に気を取られている間に杏奈も果敢に攻めた。
 初手からの幻影蝶、煌びやかな無数の蝶がデラクリオの視界も感覚も圧迫する。
 その隙にイリスが斬撃を加え、それに続くように一斉放火。
――壁の血管と心臓。文字通り遺跡の心臓部分の可能性もあります。
 索敵結果を叫ぶクラリス。
「破壊は危険ってこと?」
――デラクリオと心臓は別のユニットです。ただどちらもガデンツァの仕向けた者ではありません。
「なんでわかるの?」
――それはこの空間のどこかにおびただしいほどガデンツァの霊力を浴びた。霊力サンプルがいるため。比較が容易だからですね。
 忌々しげに告げるクラリス、その言葉の意味が解る者は全員顔をしかめた。この戦いは記録されている。
――まずは骸骨部分の無力化を進言いたします。
「確かめてみるよ」
 そう告げて『天城 稜(aa0314)』は壁を走る。でこぼこと微妙に隆起する側面に足をかけて走り、デラクリオを右側面から狙う。天井まで駆け上がり辺の部分に足をかけ。両の槍を突き出した。
 それは天上の欠陥へ、真紅の液体が管から吹き出し、それを稜もわずかに浴びる、そのときだった。全身にしびれるような激痛が走る。
「っ……あ、やっぱりこうなるんだね」
 これで確定である。
「この血管も心臓も遺跡の一部……」
 杏奈は噛みしめるように告げた。
「たぶん、心臓は体全体にエネルギーを送る為のポンプなのね、心臓が止まると遺跡の機能も止まってしまうとおもう」
「そうだね、僕もそう思うよ」
 そう稜は全身の痺れを感じながら落下を続ける。
――無茶しすぎですよ。
 そんな稜に『リリア フォーゲル(aa0314hero001)』がやんわりと忠言すると、ばつが悪そうに舌を出して稜は上着を脱ぎすてた。
 直後着地。着地点をちょうど走り抜ける最中だった『月影 飛翔(aa0224)』と共に地面を駆け両の槍でデラクリオの刃をとめて見せる。
――少し、鼓動が弱まっている気がしますね。
「血圧が関係してるのかな?」
 稜が剣をいなす。もう片方の剣は飛翔に向けられた。スライディングで真横にふられた剣を回避し、そのまま立ち上がり切り上げる。
 見事に骨部分に命中した。デラクリオは悲鳴をあげる。
 だが衝撃で舞い散る血液が、飛翔の目の前でスパークした。
 たまらず距離を話す飛翔。
 だがまだ終わりではない。
 飛翔はワイヤーを射出。戻ってきた大ぶりの斬撃を跳躍で回避するとそのままリールを巻き取りつつ縦方向にその身を回転させる。
 切り下すような斬撃が骨を砕く音と共にみまわれる。 
「動きは単調だな」
――これで守護者ですか……、お笑いですね。
 『ルビナス フローリア(aa0224hero001)』がそう告げると、デラクリオにその意味が伝わったのか、心拍数が変わった。
 早鐘のようにデラクリオが纏う心臓、その鼓動が早まっていく。
 直後剣劇の動作が早まった。
 急加速した斬撃を回避できる体制にない飛翔。
 だがその剣を弾丸ではじいたのが蘿蔔である。
 そのまま流れるような動作で、柄。指先、腕、肩と弾丸を叩き込んでいくが。予想以上に固く破壊にまで至らない。
 怒り心頭のデラクリオは血を投げた。
「え?」
 その血の塊をいのりが防ぐと、ジューッという情発音と共に白い衣が赤く染まっていく。
「いのりさん!」
「これくらいなら大丈夫だよ!」
 自分の治療より優先すべきものがある。それは同じ痛みを受けているであろう前衛の治療。
 幸いなことに、この血の影響はクリアレイで取り去ることができるらしい。
 前衛へとクリアレイをかけながら戦況を分析するいのり。
「シロ! 合わせて」
「え! 血をひろってるのです、ちょっとまって」
 いのりと蘿蔔二人がかりでいのりの水筒に血を救う。
 途中バチバチするものだから、いのりはてがしびれてしまった。
「回収かんりょー!」
「ですです」
 仲のいい二人を眺めて少し面白くない澄香だったが、気を取り直して蘿蔔に指示を飛ばす。弾丸と魔法による攻撃妨害。
 その爆炎で剣がはじかれたのをいいことに、エステルは一気に懐へもぐりこんだ。
 敵の動作は読めた。注意深く足を運びその槍による刺突、薙ぐように連撃。返す刃でデラクリオの剣を打ち上げ。回転力を加えた石突で強打。
 とびずさって距離をとり、血だまりのない場所に着地する。
「それにしても本当に胡散臭い遺跡ですね……紛い物の悪臭がキツくて耐えられません」
 そう呟いてエステルは改めて槍を構える。
 稜の槍がエステルの脇から飛来してデラクリオに突き刺さった。
 その瞬間を狙って加速。
 飛翔は槍を足場に上空を取り。エステルは地上からデラクリオの顔面に一撃加える。
 悲鳴が遺跡全体に轟いた。高鳴る心拍。
 飛翔は驚きの声を上げる。
「攻撃の強さが上がった?」
――どうやら心拍数の増大に比例していますね。その血液は遺跡から。もしかしたら吸われた血液も使われている可能性があります。
「なら、心拍数が落ちたところで攻撃を集中させるか」
 そう言いつつ敵の攻勢には反撃しなければならない。敵の斬撃を剣で受け流し、そして返しの刃で腕を切りつけた。
「骨を斬ってるのに血が出るとは」
――この雷撃は厄介です。浴びすぎないように願います。
 飛び散った鮮血が空中で放電を始め。それを見たルビナスはそう忠告する。
「余裕をもって躱すか」
 そう飛翔がバックステップして距離を取る。その間も脈打つ心拍はさらに高らかに。
「うるさいなぁ」
 それに対してイリスが迫った。
――さて、奴のライヴスを乱されて遺跡はどのような反応をするのかな。
「高まったまま制御を失ったエネルギー。相当苦しいはずだよ」
 剣ではまずい、それなら、盾なら。そう振りかぶられた盾は高密度の霊力を纏っていた。ライブスリッパー。
 数々の愚神を卒倒させてきた一撃が心臓マッサージ代わりに叩き込まれる。
 心臓が一瞬停止する。デラクリオの動きも一瞬止まった。
 その隙にと、蘿蔔はデラクリオにこれでもかと、弾丸をみまっていく。
 そんなトリガーハッピー蘿蔔へと、レオンハルトは静かに告げた。
――まるで寄生型ルネみたいだね……。
「うーん、でも骨格はどちらかというと男性なのですよねぇ」
 次いで再稼働したデラクリオへ蘿蔔はダンシングバレットにて動きを封じにかかる。
「大丈夫だよ澄香! 僕が絶対守るからね」
 そう盾を構えながら前衛の回復をするいのり。
「でも、さっきしろの方に行ってたしなぁ。ほんとかなぁ」
 澄香はそう拗ねた声で鳴いて見せる。ただその視線だけは常に戦場に注がれ。
 何かがおかしいという違和感を払しょくするための理由を探していた。


第二章 心臓

「やはり、あの心臓が核なのでしょうか」
 蘿蔔はトリガーを絞りながら澄香に問いかけた。
「たぶんそうだろうね」
 澄香は告げる。蘿蔔の見立てだとデラクリオの傷は再生していないので、そこまで心臓と密接につながっているわけではなさそうだが。
「デラクリオ…………de la Clio?」
 いのりがぽつりと告げる。
「クライオーといえば詩神の1人だったっけ、なにか関係あるのかな…………? 」
「血はどこから来てるんだろう……」
 蘿蔔は一人考え込む。そんな彼女へクラリスが告げた。
――赤いルネが確認されているともあります。遺跡の血液を使用した強化個体か、ガデンツァが送り込んだ輸血用か。調査員の血の蒸発を見ましたね。霊力としての還元機能と推察します。
「それはあっちの皆を信じるしかないね」
――ええ、還元機能も発動範囲があるものと思います。
 攻撃は苛烈になりつつある。いや、正確に言うと、遺跡の血によるスリップダメージが無視できないほど溜まりつつあるのだ。
「さっきの血液が蒸発して天井に吸い込まれた感じが気になるな」
 飛翔が告げる。それは自分たちを送り出してくれた探索員たちの血の事。
――遺跡が血を吸っていると?
 ルビナスがそう問いかけた。
「これがガデンツァの嫌がらせの一つなら…………行った結果がこれまでの行為そのものを無駄なものにする。くらいやってきそうだが」
――心臓と遺跡の機能の連動ですか。
「まずは上の骸骨から片付ける」
 そう血液を避けて飛翔が飛ぶ。
 この場では血液を避けることがスタンダードになりつつあるが、後衛では蘿蔔が血液を焼いていた。
 早く蒸発させてしまえば影響力も少ないことがわかったのだ。ただ前衛は処理する余力がなく戦力摩耗を続けている。
「一気に攻めよう。このままじゃ。ジリ貧だよ」
 いのりのスキルが尽きた。前衛は稜が回復に努めているがそれもどこまで持つか分からない。 
「では私が抑えます」
 血自体を凍らせてしまえば放電されないのは確認済み。であれば。
 そう蘿蔔は走った。血液を冷凍すると言っても部屋全域を一瞬では不可能だ。であれば凍らせる必要のある場所に自分が行くしかない。
 その動きに合わせるため杏奈も接近した。
「でも、鼓動が高まりつつあります、注意を」
 接近するリンカーたちを迎撃するために愚神は両の剣を振りかぶった。
 しかし、片方をイリスが、片方をエステルが振るわれる前に抑える。
「本当に……焼かれるのはともかく血は流させたくないですね」
 怒り狂う愚神。その愚神を黙らせるために、エステルは心臓に一撃、槍を突き入れた。
 返り血が飛び散り周囲から立ち込める焦げ臭い香り。
――焦げた血の匂い……嫌な気持ち。
 泥眼は吐き捨てるようにそう言った。雷撃の勢いは強まっていく。
――突破口を……。
「開くよ」
「ありがとうございます、イリスちゃん」
 うめき声交じりに告げたイリス、アイリス。だがその意思は折れてはいない。
 リィンと涼やかな音が高らかに響いた。
 次いで広がる音と光の狂乱。
 その翼、妖精郷ジャンヌはその小柄な体を包めるほどに強大に
 光の奏結界エイジスは虹色の煌きを持って増大。
 鎧の結界ティタンが全ての斬撃を非驚異と化す。
 振るわれる双振りの剣を、その圧倒的防御力で真っ向からねじ伏せる。
 盾で防ぎ。剣でいなし。
 その隙に蘿蔔は全ての血液を凍らせていく。
 次いでエステルと稜の治癒の光。
 ここで仕掛ける。
 イリスは防御から一気に攻撃へと転換した。
 その鋼すら削る鋼鉄の体に螺旋の軌道を加えて。翼の推進力でそれを押し出す。
「煌翼刃・螺旋槍!」
 虹色に輝く光の粒、それが骸骨の骨をけずるごとに周囲に飛び散って光。
 たまらずデラクリオは腕を振り回し暴れるが、振り払うことなどできはしない。
 このまま押し切れるか。そう思った瞬間。
愚神が吠えた、血液が再活性化、それどころの騒ぎではない。剣を心臓に突き立てて部屋全体を赤く染め上げる。
 その血に押し流されてイリスは地面に転がった。
「イリスちゃん!」
 全身がしびれて動けない。はず、だが金糸の少女はそれでも立ち上がろうともがいた。
「みなさん! 様子が変です」
 エステルが叫ぶ、次の瞬間、雷撃が部屋を満たした。
 真紅の放電現象が世界を赤く彩る。雷撃から逃れられる場所はなく。全員がその身に神罰にも似た痺れを受けた。
 徐々に遠のいていく意識。悲鳴とバチバチ甲高くなる雷鳴の二重奏。 
 そんな中、全員の耳に声が届いた。

――出会いは未来 幾千の希望
だけど迷路の出口 まだ見えなくて
暗闇の向こうに見える光の軌跡が
希望だと信じて追い掛けてゆく
 
 声ではない、歌だ。歌が響いてくる。耳をつんざくような放電音にもかき消されない歌が。

――悲しみや流れる刻(とき)を止めたくても
想いや叫び 伝わらなくても

 稜だった、彼は立ち上がり、槍を杖代わりにして真っ直ぐ愚神を見据えている。
 そして。
「皆、僕の周りに集まって! 一か八かだけど、守るよ! ライヴスミラー!」
 歌は形を成して救いの力となる。
 銀色の光があたりに展開され、その雷撃を反射する。
 その提案にエステルも乗った。
 盾へと装備を換装し、大出力に対して反撃を。

――全てがきっと 悲しくても!
流れる景色 はかなくても!
僕は今、この世界
誰と向き合って生きてる?
伝える何かを 探し続けて ボクらは生きてく

 稜が一歩前に出た。雷撃をその手の中に収束。
 それは飛べない彼女を思った曲。飛べ無くされた彼女を思って歌う曲。
 どこかで見ているだろうあの神に。
 お前の好きにはさせない。そう訴える曲。

――絶望はそうきっと…………
 稜の声をリリアの声が追いかける。
――歴史はそうきっと…………

 直後収束した雷撃はデラクリオへと放たれる。
 その雷撃はデラクリオの肋骨を粉砕。その胸の小さな心臓が露わになった。
 その心臓と大きな心臓は管で繋がっていて。同じ鼓動を刻んでいる。

――繰り返していくのに…………!
悲しみや流れる刻(とき)を止めたくても
想いや叫び 伝わらなくても
僕らは 心に光を映し続けて 生きてく

「真の勇気とは1分だけ長く恐怖に耐えることだって…………思うんだ…………」
 倒れ込む稜の体。
「あとはまかせて」
 希望の時間は作り出した。あとはそれをリンカーが物にするだけだ。
 杏奈が動いた。全力を使い果たし、大量の血液を失った愚神に対して。自身の霊力をしみこませるように一撃を。
「骨相手も飽きてきた。砕けて終われ」
 追撃の飛翔。
 両腕に対する連続攻撃。砕けたデラクリオの両腕から剣が滑り落ち地響きをならす。
 そして。
「はあああああああああああ!」
 その拳に宿ったサンダーランスが的確に、デラクリオの頭蓋と心臓を撃ち破る。
 吹き飛んだ骨の欠片が天井にあたって、乾いた音を鳴らして。
 フロアから全ての音が消え去った。


第四章 赤いルネと青いルネ

「いい歌だった」
 そう澄香が大の字で寝転がる稜に手を差し伸べる。
「ありがとう」
 稜は何かに意識を取られたままにその手を取り、そして。澄香に問いかける。
「澄香姉さん、ここにいるんだよね?」
「…………うん」
 その頷きを確認してから、稜は槍を、誰でもない奴につきつけた。
「Nuts! 誰が、降伏するか! お前に対して、透歌さんの仇を取る事を僕は決めてるんだよ! だから、もう一度言うぞ、Nuts!」
「意地の悪いガデンツァの事だから、きっとどこかから様子を覗き見ているんでしょうね」
 それを見て杏奈はしみじみとつぶやく。
「え? 杏奈。どうしたの?」
 共鳴を解いたルナが不安そうに杏奈の袖を引く。
 すると杏奈も同じように遠くで見ているであろうガデンツァに宣戦布告する。
「イエーイ、ガデさん見てるぅ~?愚神はこの通り、みんなで倒しちゃったわよー」
 その時、デラクリオの残骸の下で何かが蠢いた。
「いつか直接戦える時が来たら、アンタに全力の飛び膝蹴りを喰らわせてやるわ。覚悟してなさいよ!!」
「やーい、ひとりぼっちー!」
 ルナも一緒になって挑発するしまつ。
 意外と元気だなぁ。そう苦笑いを浮かべていのりは心臓部に歩み寄った。
 ダメージは受けているが、まだ鼓動を刻んでいる。
「あなたは愚神? それとも」
 いのりはその心臓に手を添えてパニッシュメントを放つ。
 次の瞬間だった。
 真紅のシルエットが薄い膜の向こうに浮かび上がり。破水した。
「えええええ!」
 その水を浴びる直前澄香が首根っこをひっ捕まえて手繰り寄せる。
 しかし、デラクリオが振りまいていた血液とは何か趣が違うようだ。
 しかもその中心に横たわっているのは、全身が真っ赤に色づけされているが。それは。
「ルネ……さん?」
 澄香は目を見開いた。
 その少女は、ガデンツァの使わせるどのルネよりも、あの日のルネを思わせる、
 そんなルネに蘿蔔は武装を解いて歩み寄る。
「あなたはずっとここにいたのですか?」
「こいつが本命か」
 そんなルネに警戒心をむき出しにする飛翔。刃を構えるが。それを澄香が下ろさせた。
「少しだけ時間をください。御願いします」
 その瞳に宿る強い意思に押されて。飛翔は一歩後退した。
「『追憶』何を偲んでいるんだ?」
 そう視線を送る飛翔、彼にはそのルネは赤子のように見えた。ビー玉のような瞳で当たりを見渡している。
 そんな彼女にいのりが。歩み寄った。
「キミは誰?」
 その双眸が祈りを移す。きょとんと首をひねって、いのりの言葉に耳を貸す。
「どうしてこんなところにいるの?」
 いのりは膝をついて視線を合わせた。するとルネは小さく微笑みを浮かべる。
「ボクらは出来れば戦いたくないんだ」
「この遺跡で君は何をしていたんだい? 協力できるかもしれないよ?」
 澄香が言葉を継ぐ。
「話を聞かせて下さいませ」
 クラリスがそう告げた時。スッと息を吸いこむ音が聞こえた。
 そして、ルネは口を開く。
 言葉ともつかぬ、音ともつかぬ、金切り声にも似た。悲鳴にも似た。
 不協和音。まるで、まるで、音というものを知らないかのような声。
 思わずリンカー全員が耳をふさいだ。
 耳から出血する者もあらわれる。共鳴していないものには耐えがたい苦痛だろう。
 だから飛翔はルネに刃を突きつけた。
「まって!」
 澄香はその前に出て盾になる。
 思い出したのだ。春香は最初。行っていなかっただろうか。
 ルネはこの世界の言葉を離せなかったと。
「キミはいなくなっちゃったボクらの友だちによく似てるんだよ」
 いのりは痛みに耐えながらもそう語りかける。
「一緒に共存していくことはできないのかな?」
 その言葉を受けて、そのルネは口を閉じて。祈りの膝に額を預けるように横たわり。くすくすと小さく笑った。
「ありがとう、いのり」
 澄香はいのりのそばに腰を下ろしていのりの手を取る。
「ルネさんの歌を歌い継ぐ…………そう決めたから」
 いのりはそんなルネに念のためのパニッシュメントを放つ。
 大丈夫だ、愚神ではない。寝息を立てる彼女には何も影響がないように見える。
 安全が確保されたことを知ると、リンカーたちは続々と彼女の周りに集まってきた。
 杏奈も音響く護石になんの反応もないことを見ると歩み寄る。
「貴方はルネさん? ルネさんなの?」
 ルネは答えない。そんなルネの寝顔が可愛らしくて杏奈は笑った。
「貴方はどうしてここにいるの? 良かったら聞かせてくれない?」
 そんなルネを眺めながらイリスはアイリスに尋ねる。
「どう思う?」
「ふむ、意思を感じるね。彼方さんのときの知性のあるタイプに近いのかもね」
 そう告げるとアイリスは幻想蝶から何やら楽譜を引っ張り出す。 
「敵対的か友好的かは知らないが……それは反応を見て判断すればいいだろうさ」
「反応? 何やるの?」
「歌う」
 次いでアイリスは喉だけで旋律を奏でる。
「歌声にライヴスを乗せるイメージだ。虹の音に魂を乗せろ」
「それってメモリア改造計画の一端?」
「それもあるが……歌には感情が乗るものだよ。なら一種の対話にはなるさ」
 響き渡る虹の音。
 その歌を少し聞くとルネはその歌に自分の歌声も乗せた。
 初めて聞いた曲に自分の旋律を乗せられる。それは驚異的な音楽センスだった。
 リンカーたちのつかれた体に、美しい旋律が染み渡る。そんな彼らの目を盗んで脱出した。眼球形ルネだったが。
 別メンバーに捉えられ。デラクリオの落した鍵を入手した。
 その鍵にて開かれた扉。その先での物語はまた。後日。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • トップアイドル!
    蔵李 澄香aa0010
  • 『星』を追う者
    月影 飛翔aa0224
  • 白い死神
    卸 蘿蔔aa0405

重体一覧

参加者

  • トップアイドル!
    蔵李 澄香aa0010
    人間|17才|女性|生命
  • 希望の音~ルネ~
    クラリス・ミカaa0010hero001
    英雄|17才|女性|ソフィ
  • 深森の歌姫
    イリス・レイバルドaa0124
    人間|6才|女性|攻撃
  • 深森の聖霊
    アイリスaa0124hero001
    英雄|8才|女性|ブレ
  • 『星』を追う者
    月影 飛翔aa0224
    人間|20才|男性|攻撃
  • 『星』を追う者
    ルビナス フローリアaa0224hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 惑いの蒼
    天城 稜aa0314
    人間|20才|男性|防御
  • 癒やしの翠
    リリア フォーゲルaa0314hero001
    英雄|20才|女性|バト
  • 白い死神
    卸 蘿蔔aa0405
    人間|18才|女性|命中
  • 苦労人
    レオンハルトaa0405hero001
    英雄|22才|男性|ジャ
  • 悠久を探究する会相談役
    エステル バルヴィノヴァaa1165
    機械|17才|女性|防御
  • 鉄壁のブロッカー
    泥眼aa1165hero001
    英雄|20才|女性|バト
  • トップアイドル!
    小詩 いのりaa1420
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