本部

食い倒れ! 夏祭り花火大会!

霜村 雪菜

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/07/24 18:45

掲示板

オープニング

 どこの市町村でも、規模の大小に違いはあれ夏には花火大会が催される。お祭りのイベントの一つとして花火が打ち上げられることも多い。
 H.O.P.E支部のある自治体でも、夏祭りと一緒に花火大会が開催されるそうだ。支部のエントランスの一角に設けられている告知スペースに、開催日時と詳しい内容の案内が書かれたポスターとチラシが積まれていた。
 今年はなぜかかなり大規模で、有名な花火師が参加してくれるらしい。それに合わせてお祭りの露店も例年よりたくさん出るし、有志によるダンスやカラオケ大会、手品や大道芸などの演芸ライブもあるらしい。ちなみに有志によるイベントは、当日の飛び入り歓迎だそうだ。持ち時間は十分。
「ボランティアなんですが、このお祭りのイベントの警備をやってくれる人も募集しているらしいんですよ」
 チラシを見ていると、通りかかったスタッフがそう言った。
「まあいかにも警備してますよ的な仰々しいものじゃなくて、お祭りやイベントを見ながら周りを警戒してほしい、って感じみたいです。例えば、たまたまスリを発見したから捕まえましたー、って感じのノリで」
 どんなだ。
「何もないならそれに越したことはありませんからね。せっかく大きな催し物だし、気軽に見に行ったら楽しいと思いますよ。お祭りや花火大会が未経験の英雄さん達は特に楽しめると思います。イベントの飛び入り参加とかもOKですしね」
 もう一度チラシを見る。焼きそば、わたあめ、りんごあめ、チョコバナナ、たこ焼き、おでん、焼き鳥などお祭りには定番の露店はもちろん、なんとこの街から車で一時間半ほど行ったところにある港町から、新鮮な魚介類を使った海鮮焼きの屋台が出るそうだ。ほたて、いか、ツブ貝、ホッキ貝あたりがメインだろうか。
 とても楽しそうなお祭りだ。さて、どうしよう?

解説

●目的
 見回りをしながらも、お祭りを楽しみます。

●概要
 有名花火師が参加することで、花火大会とお祭りでの大混雑も予想されます。お祭りを楽しみつつ、周囲に気をつけて、犯罪行為などを見掛けたら積極的に解決に向けた行動を取ることが望ましいです。尚、ボランティアなので報酬は出ません。
 当日は露店が出ます。焼きそば、わたあめ、りんごあめ、チョコバナナ、たこ焼き、おでん、焼き鳥などお祭りには定番の露店はもちろん、なんとこの街から車で一時間半ほど行ったところにある港町から、新鮮な魚介類を使った海鮮焼きの屋台が出るそうです。ほたて、いか、ツブ貝、ホッキ貝あたりがメインと予想されます。
 演芸ライブ、カラオケ大会、ダンスなどの有志によるイベントもあります。これは当日飛び入りOKです。持ち時間は十分だそうです。

リプレイ

●夏の夜の夢
「う、嘘だといってよベリカ……。ボク1人では……変身(共鳴)できないとヒーロー活動もままならないじゃないか……!」
 Heidi(aa0195)は困惑していた。夏祭りの警備兼普通に祭を楽しむという任務のために、英雄のBelicosity(aa0195hero001)と一緒にやってきたのはいいのだが、なんと人混みに紛れてはぐれてしまったのである。
「見回りもヒーロー活動の一環だからね、仕方ないね」
「食べ物で釣られたクセにー。ハイジちゃんの正義感、食い意地に負けてない?」
「だって暑いしこの人ごみだよ?むしろ引きこもりが家から出た勇気を褒めるべき」
「きはは、どーでもいいー☆」
 という会話をしていたのが懐かしい。ついさっきのことなのに。やはり、あの屋台のチョコバナナが悪いのだ。チョコの上に色とりどりのトッピング。反則だ。
 が、それはさておき。
 こうしてHeidiの、夏祭りにおける最初のミッションは、相棒探しとなった。一人で行動するなんて、恥ずかしがり屋さんのHeidiには難易度が高すぎる。
 フードを目深に被りキョロキョロコソコソしている様は、どうみても不審者である。幸い祭の喧噪がそんな不審すぎる行動を緩和してくれていたが。そんなHeidiの目に、あるものが映る。
「こ、これは懐かしの祭り好きサラリーマンヒーロー、オマツリーマンのおめん!」
 今も昔も変わらぬ定番人気屋台、おめん屋さんである。早速購入し、装着するHeidi。素顔を晒していないという安心感で、急に強気になった。江戸川乱歩も著作の中でおめんについて言及している。人間は素顔を晒すことにとかく抵抗がある生き物なのだ、と。仮面やおめん、ヴェールなどは、実はそういう意味で最強の防具なのかもしれない。
「を?」
 歩いているうち、泣いている子供が目に留まった。明らかに迷子だ。昨今、こういう子供を見つけて保護しようとしても不審者扱いされたりする悲しい世間ではあるが、Heidiはヒーローなので躊躇なく子供に近づいていった。
「ど、どうしたのー?」
 しかし、台詞はかなり棒読みだ。子供はびっくりして泣き止んだが、再び泣き出すのも時間の問題かと思われた。
 どうする。Heidiは考え、そして、決断した。
 必殺・オマツリーマンの物まね!
 冷静に考えたらHeidiが懐かしいと感じる段階で、確実に子供にとっては未知のヒーローなのだろうが、こういうのはノリと勢いである。結果、子供は大喜びで、何とか母親とはぐれてしまったと言う情報を聞き出すに至った。
 偉大なり、オマツリーマン。
 そういうわけで、Heidiは子供を肩車して、普段出さないような大声で呼びかけながらゆっくりと母親らしき人を探した。幸い、はぐれてからそう時間が経っていなかったらしく、すぐに人混みをかき分けて母親がやってくる。はぐれてしまった子供を軽く窘めて注意する姿は、優しい女性なのだなと感じさせた。こういう場合、怒鳴りつけても子供を萎縮させるだけで効果がないのだ。
 母親と子供双方からお礼を言われ、照れまくるHeidiであった。
 一方、その相方のほうはというと、屋台で好き放題買い食いしていた。
「ねー、ハイジちゃ……あれ? いない」
 振り返ったらHeidiがいないので、戸惑う。いったいいつの間にはぐれてしまったのかもわからない。
 食べ歩き続行しつつ、辺りを見回しながら来た道を戻ってみる。しかし、見慣れた彼女の姿はなかなか見つからない。
 困った。どうしよう。Belicosityは考え、そして、決断した。
『ピンポンパンポーン――。迷子のお知らせを申し上げます』
 最終兵器・迷子呼び出し。
「のぁぁぁぁ!! ハイディは激ぉこした! かの暴虐なるベリカシティを許してはおけぬ!」
 本名の伊藤はいじで呼ばれてしまったため、Heidiは顔から火が出るほど赤面して迷子センターまで爆走した。おめんのおかげで外からはわからなかったが。
 ともあれ、無事に合流を果たした二人である。怒っていたHeidiは、口に海鮮を突っ込まれて見事に沈黙。新鮮な海の幸をシンプルに醤油で味付けし、炭火で焼くのは最強コンボである。いろいろあってお腹が空いていたのもあったが、海の恵みの威力はやはりすさまじかった。なかなか食べられるものではない。
「そいえばこの浴衣、ハイジちゃんの? 自分で着ればいいのに」
 Belicosityは、女物の浴衣を着ている。Heidiは普段着だ。
「恥ずいし……ボクにはこのおめんでじゅうぶんさ」
 それのほうが恥ずかしいのでは……とBelicosityは思った。だが、ある意味最強の祭ファッションとも言える。
「あ、さっきのお姉ちゃん!」
 そこへ、あの迷子の子供が通りかかった。ちゃんと母親と手を繋いでいる。
「ありがと、巨乳のヒーローのおねえちゃん!」
 どんな呼び方だ、とHeidiを見ると、まんざらでもなさそうな様子で子供とその母親にぺこぺこと会釈を返していた。何があったのかはわからないが、恐らくおめんのおかげでいいことがあったのだろう。
 だからBelicosityは、まあいいか、と思い直した。
 さて、今回この「お祭りを楽しみつつボランティアで見回り」に参加したメンバーは他にもいる。
 染井 桜花(aa0386)とファルファース(aa0386hero001)は、ゴスロリ風のミニ浴衣という服装で、お祭りを見て回っていた。
「……所で……この浴衣……どうしたの?」
 屋台で買った林檎飴を食べながら、桜花は自分の浴衣を見下ろす。
「……赤猫の店長に相談して……ご用意させて……頂きました……」
 若い女の子達には、こういう変わり浴衣も人気がある。昔ながらの着こなしも美しいが、着る人が楽しむことが第一だ。
「……そう……ん」
 桜花は、ファルにあーんと林檎飴を差し出した。
「……頂きます。……はい……お似合いですよ」
 内心(……可愛いです……姫様)と悶えるファルだったが、決して表に出さない辺りがすごかった。
 その時、二人の前方でどよめきが起きた。「ひったくりだ」「警察に連絡を」などの声が聞こえてくる。
 特に互いへ何の合図をすることもなく、ほぼ同時に二人は走り出していた。阿吽の呼吸という奴で、何を考えているかくらい確認しなくてもわかる。
 リンカーの足に適う犯罪者など、早々いない。同じ能力者ならともかく、一般人相手なら共鳴するまでもない。ほどなくひったくり犯を捕捉する。
 接近を悟られずに後ろの死角から追跡し、その首に腕を巻き付ける。驚いたひったくり犯はもがいたが、もちろんその程度は抵抗にもならない。すぐに絞め落とされて、ぐったりと失神した。
 少し間を置いてやってきた警備の人に事情を説明し、盗まれたものと犯人を引き渡し、二人はお祭り見物に戻った……はずだったが、またしても騒ぎが持ち上がる。こういう人混みでは、軽犯罪が起きやすいのだ。
 今度は変質者のようだった。だがやはり一般人らしかったので、共鳴せずにまずファルが近づいてその腕をがっちりホールドした。
「……事務所まで……ご同行を」
 その気迫に圧されたのか、変質者は大人しく従った。被害に遭っていた人の様子も確認し、大丈夫そうだったので二人はそのまま変質者を連れて歩き出す。
 が、変質者もさるものだった。何と、腕を掴む力が少し緩んだ隙を見逃さず、逃走を試みたのだ。
 しかし、そんなことで逃がす二人ではない。
「……逃がさない」
 今度は、桜花が変質者への関節技を決めた。がっちりホールドである。そのまま速やかに、人目につかないところへ移動する。
「……残念」
 首を絞められて耳元でそんなことを囁かれて、さぞかし変質者は怖かったことであろう。だが、その程度ではまだ終わらない。
「……変態は嫌い」
 回し蹴りを叩き込んだ後、「男の急所」に強烈な一撃。もちろん死なない程度の手加減は加えてあるが、痛いものは痛いはずだ。身体を丸めて声なく悶絶する変質者を、さらに地面へ押し倒す。
「……いっぺん……死んで見る?」
 相手の頭スレスレに、拳をド派手に叩き込んで耳元で囁く。完膚無きまでの、心身双方へのとどめだった。これで今後変質者行為を続けられたらある意味すごい。無論、ひいひいと泣いている変質者にそこまでの根性(?)はなさそうだった。
 変質者行為は、紛れもない犯罪なのである。
「祭りじゃ、祭りじゃ、楽しむのじゃ!」
 天城 初春(aa5268)は、上下黒の巫女服という普段の姿で祭に来ていた。天野 桜(aa5268hero001)の方は、具足の類を一切身に着けていない和装という普段とはちょっと違う装いだ。
 やはりお祭りしつつ見回りが目的なので、事前にお祭りの運営自治体の本部テントに顔を出し、面通しをして挨拶をしておくという準備はしてきたものの、目的は食べ物系屋台全制覇を掲げている。主に初春が。
「綿菓子、焼きそば、たこ焼き、チョコバナナにリンゴ飴、海鮮系の屋台、楽しみなのじゃ!」
「初春は本当に食べることが好きだな! ……警戒は忘れんなよ」
 桜は苦笑しているが、海鮮屋台はとれたて新鮮なほたて、いか、ツブ貝、ホッキ貝などがメインらしいと聞いているので、食欲をそそられるのも当然だろう。浜焼きは、自分の家ではなかなかできるものではない。
 ともあれ、最寄りの交番の位置をしっかり確認したあと、屋台への突撃が開始された。こういうお祭などの場所で食べると、ただの焼きそばが妙に美味しく感じられたりする。綿菓子もたこ焼きも普段食べられるのに、特別なご馳走のようだ。お祭マジックというやつである。
 もちろん、お祭ならではの食べ物もたくさんある。チョコバナナや林檎飴は代表的なものだろう。昔懐かしい食べ物の他、最近はキュウリの一本漬けというのもあり、油ものや甘いものでもたれた胃にもさっぱりと優しい。
 食べ歩くだけでもかなりたっぷり時間を使う。もしヴィランや従魔などが出現したりした場合は、一般人の避難優先しつつ、時間稼ぎと矛先を一般人へ向けさせないようヘイトコントロールを行うというシミュレーションもしてきたが、どうやらそれは実行せずにすみそうだ。先ほど何やら騒ぎが起きていたが、ここへ来ているはずのリンカーの誰かが解決したらしい。すぐに片付いたところを見ると、相手は一般人だったのだろう。
 お祭は、楽しむための場である。それを台無しにするような行為は見逃してはならないが、自分達が楽しむこともまた大切だ。美味しい海鮮の浜焼きを堪能しつつ、初春と桜は一息ついてしみじみと祭の空気に浸っていた。
 花火の開始まで、まだ時間がある。

●祭もたけなわ
「よしよし! せっかくのお祭りなんだから思いっきり楽しまないと損なんだよ! 行くよラウラ!」
「楽しむのは構わないのですが、見回りの事も忘れないでくださいね」
 クロエ コード(aa5187)は いつもの探偵服を脱ぎ捨てラフな服で、ラウラ メーベルト(aa5187hero001) はいつもと変わらず飾り気のないメイド服で祭りに参加している。
「港町でとれる海鮮の屋台が美味しいらしいから行きたいんだよ! ……ところで真夏にそのメイド服はあつくないの?」
「はいはい、クロエが行きたいところにどうぞ。この服には外気温を感じさせずにちょうどいい温度に保ってくれる機能があるので平気です」
「え、そうなの?」
 適当な大嘘である。そんなくだらない会話をしながら、二人は目的地の屋台を目指す。歩いて行く途中で、しゃがみこみ一人で泣いている少年を見つけ、クロエはとっさに歩み寄り、少年に声をかけた。
「こんばんはなんだよ。もしかして迷子になっちゃったのかな? お姉さんが一緒に探してあげるんだよ」
 今日のような日は、迷子も多い。クロエは迷子の少年の手を握り屋台の間を右に左に歩き回り、母親を探す。迷子センターに連れていけばいいのだが、探している本人はその考えに至らず、付き随うラウラは少し嬉しそうに迷子を探すクロエを見つめている。
 お世辞にも名探偵という称号が重すぎるクロエだが、その心根はとても真っ直ぐで優しいのだ。
 祭見回り隊(仮名)のリンカー久兼 征人(aa1690)とミーシャ(aa1690hero001)は、二人とも浴衣で祭に来ていた。花火の穴場、打ち上げの時間、露店の並び、祭り会場の事務局等のスタッフの待機場所などを事前に調べておき、何かあったときのためと、純粋に祭を楽しむことに備える。
 基本はミーシャの行きたい店ややりたいことを聞きながら祭りを案内し、巡回していく征人だった。
「カラーひよこと亀釣りは止めとけ。どっちも後が大変だ」
 あと、定番ではあるが金魚もけっこう大変である。生き物の命を預かるというのは重大なのだ。
 ミーシャの興味はどちらかというと食べ物の方にあったので、林檎飴や綿菓子等の甘味を中心に回っていった。射的は景品が駄菓子なら征人に取ってもらう。
 征人には「ミーシャは警備とか気にしないで、祭りを楽しんで」と言われたものの、目の前で征人が警備活動に励むのでつい自分も警備目線で周囲を見たりするミーシャだ。それでも、けっこうしっかりとお祭も楽しんでいる。
 不満があるとすれば、せっかく浴衣を着ているのに、征人があまり見てくれないこと。実は征人が警備に気を取られてるのは、浴衣のミーシャが可愛くて直視できないからだったりするのだが、彼はそんなことをまったく表に出さないので、ミーシャに伝わることもない。征人としては、ミーシャが楽しんでいればそれで満足だった。
 東で喧嘩があれば止めに入る。西で迷子がいれば親を探しつつ祭りスタッフのところへ連れていく。北にスリや置き引きを見つけたら犯人確保。雨にも風にも負けない感じで淡々とした感じで任務もこなしていく征人であった。あと、南にミーシャをナンパするやつがいれば個人的にお呼びだしして厳重注意という案件もあった。ただし暴力は振るわない。
「お兄さん、ちょっとそこの裏行こうか? ミーシャは待ってて、すぐ終わる」
 そう言われて、ミーシャは人の流れの邪魔にならないところでぽつんと征人を待つことにした。
 さっき買った林檎飴を食べる。美味しい。でも、美味しいだけだ。
 祭のタイムテーブルを思い浮かべる。花火はもうすぐ始まるはずだ。間に合うだろうか。できればそろそろ移動して、一番いいところで花火を見たい。征人と一緒に。
「お待たせ」
 征人が戻ってくる。特に何も言わず、一緒に歩き出す。
 はぐれそうになって、ミーシャはそっと征人の袖を掴んだ。
 祭特設会場では、当日飛び込み大歓迎の演芸大会も行われている。有志によるダンス、ライブ、一発芸など盛り沢山で、なかなか賑わいを見せていた。
 そんな盛況をよそに、暗躍する黒い影が一つ、二つ。
「身分を隠しての警備か? これも忍びとしての重要な任務だな。麟どう見る?」
 問いかけたのは、冰影(aa1166hero002)。応じて骸 麟(aa1166)はにやりと笑う。
「ふ、オレの見るところ鍵となるのはこの……海鮮焼きだな」
 麟は、無料配布されている『おまつりガイドマップ』の一点を指さした。
「ほお……理由は?」
「帆立だよ。お高い高級食材をお祭りに漁港価格で食べられる。しかもイカ焼き、ホッキと定番もキッチリそろえてるしな。これは……人死にが出るぜ!」
「人死にが出るとは思えんが巾着切りや喧嘩の危険は高そうだな。まあ乙か? よし、その付近を重点的に警備しよう」
「乙って一応合格だっけ? ……これで報告の件は?」
「それとこれは別だ」
 というわけで、海鮮焼きの屋台を中心に警備をすることにした。
 海鮮屋台の呼び込みの一つとなっているホッキ貝は、ウバガイという名前も持っている。ホッキ貝は北海道での呼び方で、俳句の季語にもなっているらしい。
 寿命は三十年と言われ、食べられるくらいに育つまで四年から六年かかるという成長が遅い貝である。生の状態では黒っぽいが、加熱すると綺麗な赤い色になる。砂や泥を吐かせるのが難しく、下拵えがちょっと大変だ。寿司のネタとして使われるようになったのはごく最近で、その他炊き込みご飯や混ぜご飯、バター焼き、天ぷらにしても美味しい。北海道の産地では、炊き込みご飯で作ったおにぎりやカレーも存在する。
 屋台周辺は、海鮮を焼く匂いで胸がいっぱいになるほどだった。それに比例して腹は空く。通りすがる人々の大半は、匂いにつられてふらふらと屋台の前に立つのであった。
 麟と冰影は、なるべく目だたないように屋台から距離を取って見回りをしていた。服装は二人とも、冰影が用意した浴衣だ。
「浴衣かあ……どこ着て行っても結局最後はTシャツとスパッツに成ってるんだよなオレ」
「一体どんな暴れ方をするのだ? 良いか……くノ一として重要なのはその状況に溶け込む事だ。それを……」
 何か説教される流れになってしまった。
 その時、屋台がにわかに活気を帯びる。
「おおお! 海鮮つかみ取り開始! 伊勢海老ゲットしたら無料だと?? それはオレが貰ったああ!」
「忍術禁止だ!」
 人の群れに飛び込んでいこうとした麟は、捕り紐をくらってばったりと倒れた。
「……はあ、ちゃんとお金を払えば食べられますわ」
 周囲の人々から驚愕の眼差しを受け、言葉遣いを改める冰影。何とか祭のノリでごまかすことができたようだ。恐るべし祭オーラ。
「い、伊勢ーびは一匹しかいないもん……びーん、もう取らちゃったああ……」
 一方、麟はショックのあまり幼児退行してしまった。何と言っても高級食材である。無理もない。実際、参加者達も海老を逃してがっくりして、顔文字の「orz」みたいな体勢になっちゃっている人も少なくなかった。
 しかしそんなことがあっても、リンカーは狼狽えない。退かない。媚びへつらわない。反省はするかもしれない。気を取り直して、警備続行である。
「ついでに暗器の初歩もやるか」
 あんまりもののついででやるようなことでもなさそうだが、忍びの者なのでいついかなる時も修行である。麟は感激して暗器を構えた。
「遂に骸忍術の秘技を学ぶ日が来るとは! ……喰らえ! 骸無喚殺!」
「暗器を使う前に叫んでどうする!」
 ちなみに暗器というのはかなり用いられる範囲が広いが、要するに目立たずに持ち歩けてこっそり使える武器のことである。「暗器使いますよ~」アピールなんかしたら何の意味もない。
「次やったら氷責め一晩だ」
 ふんすと鼻息を吐き出した冰影は、実は浴衣の袂に暗器を仕込んでいたりする。苦無(シャープエッジ)と、さっき伊勢海老に突撃する麟を捕らえた捕り紐(ノーブルレイ)だ。
 これらはこの数十分後、見事に活躍することとなる。かっぱらいが現れたのだ。よく軽犯罪が起きる祭である。
 早速実践とばかりに、まず麟がノーブルレイで犯人を捕らえた。
「ふ、骸逆縛擾! 動きが取れま……こ、これはちが!」
 しかし、うっかり自分の足も一緒に捕らえてしまった。その直後冰影がうまくフォローしたので、犯人は無事当局に引き渡すことはできたが。
 さらにまた、喧嘩も発生した。そろそろ時間も遅くなり、アルコールが入っている人も増える頃合いである。やはりそれで気が大きくなった者達が、互いに些細なことで諍いを起こしたらしい。
 なるべく大事にならないように、冰影は喧嘩の中心人物達にシャープエッジの柄を投げ当てて気絶させた。
「あら、この方々お祭りの雰囲気に酔われたようですわね……失礼ですが救護所はどちらですの?」
 そして何事もなかったかのように、ごく自然にその場から運び去る。見事な手際だった。

●夜空に咲く花
 どーん! と、煙が残る夜空に大きな音が響く。そこに重なるようにして、炎が大輪の花を咲かせた。
 本日のメイン、打ち上げ花火の開始である。
「すごい……綺麗……」
 ミーシャはこんな花火を見るのは初めてで、驚いて口を開けて見入っている。無防備な彼女に不逞の輩が近づかないよう、征人は花火を眺めつつもしっかり警戒していた。
「ああ……見事な花火ですわ。儚さと雄大さが一つに溶け合って……どんな高名な花火師なのでしょうね」
「ですわだと? 背筋が凍ったぜ……どっちが本当の冰影なんだ? ……ひ!」
 失言の責任をしっかり取らされる麟であった。
 花火は色とりどりに咲き、束の間だけ夜に支配された地上を照らす。HeidiもBelicosityも、桜花とファルも、初春と桜も、それぞれ思い思いの場所で楽しんでいる。
 外国にも打ち上げ花火はあるが、日本のものはなぜか煌びやかさや賑やかさよりも儚さを強く感じさせる。日本独自の文化や土壌のためだろうか。
 しかしだからこそ、尚一層美しいのだ。
 連続打ち上げ、水平方向に滝のように走る花火、趣向を凝らしたハート型などのユニークな花火、次々と夜空に散って消えていく。やがて鮮やかな余韻を残し、花火は終わった。感動に浸りながら、人々は三々五々散っていく。まだ祭を楽しもうとする者、そろそろ帰路につこうかという者、様々だ。
 ラウラとクロエはその頃、よくやく少年の母親に出会う事ができた。
「お母さんが見つかってよかったね! 今度からはぐれない様にしっかりと手を繋いでおくんだよ!」
 かなり長時間経っていてぐったりしながらもお礼を言う少年に、手を振り別れる。母親が迷子センターで待っていてくれてよかった。見かねたラウラが迷子センターに行くようアドバイスしたのも、タイミングがよかったと言えよう。
「屋台、行けなかったねー……せっかくラウラと来たのに……」
 後片付けの始まる屋台を眺めながら残念そうに呟くクロエ。花火はいちおう見られたから、少なくともそれはよかったのだが。
「また機会があれば行ってあげますから。ほら、帰りますよ」
 残念そうにしているクロエの手を取り、帰る様に促し歩き出す。
「…………ラウラからなんて珍しいんだよ……! もしかして、さっきの男の子に私が取られるんじゃないかって嫉妬したのかな?」
「なんで私が嫉妬しなければいけないんですか。冗談は頭の中だけにして下さい」
 ワイワイ騒ぎながら、祭会場を後にする。
 祭は終わる。朝になれば、また日常が始まる。夢のような夏の一夜の記憶に彩られて。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 魔法少女プリンセスはいじ
    Heidiaa0195

重体一覧

参加者

  • 魔法少女プリンセスはいじ
    Heidiaa0195
    機械|16才|女性|命中
  • 最終兵器お呼び出し
    Belicosityaa0195hero001
    英雄|14才|?|ソフィ
  • ー桜乃戦姫ー
    染井 桜花aa0386
    人間|15才|女性|攻撃
  • エージェント
    ファルファースaa0386hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 捕獲せし者
    骸 麟aa1166
    人間|19才|女性|回避
  • 暗器インストラクター
    冰影aa1166hero002
    英雄|25才|女性|カオ
  • 難局を覆す者
    久兼 征人aa1690
    人間|25才|男性|回避
  • 癒すための手
    ミーシャaa1690hero001
    英雄|19才|女性|バト
  • 藤色の騎士
    シオンaa4757
    人間|24才|男性|攻撃
  • 翡翠の姫
    ファビュラスaa4757hero001
    英雄|22才|女性|ジャ
  • エージェント
    美咲 喜久子aa4759
    人間|22才|女性|生命
  • エージェント
    アキトaa4759hero001
    英雄|20才|男性|バト
  • 迷子保護隊
    クロエ コードaa5187
    人間|16才|女性|回避
  • 迷子保護隊
    ラウラ メーベルトaa5187hero001
    英雄|24才|女性|ジャ
  • 鎮魂の巫女
    天城 初春aa5268
    獣人|6才|女性|回避
  • 笛舞の白武士っ娘
    天野 桜aa5268hero001
    英雄|12才|女性|ドレ
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