本部

WD~夜、響き合えば~

鳴海

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
4日
完成日
2017/07/22 21:59

掲示板

オープニング

●夜に紛れて。
 
 ここはどこだろう、水音が聞こえる、それ以外の情報はない。一寸先も闇。
 先へもいけない、どこにも行けない。
 春香は歩きつかれた足をもみながらため息をついて告げた。
「私は、どこにいけばいいんだろう……」
 疲れ果てて倒れ込む春香、水音を盛大に鳴らして、ジャージに水をしみこませて。
「みんな、どこ?」
 ここでは何も見えない。ここでは何にも触れられない、先ほどまでは一緒にいたはずの仲間も今はどこにいったか分からない。
 そんな暗闇に、erisuの歌声が響く。
―シャーロムららら。シャロームららら。
 この少女はこんな状況でも楽しそうだ。でもそれも当たり前かもしれない、元々この少女は幽霊だと思われていたのだし、夜行性だし。暗闇の方がなれているのかもしれない。
「ははは、erisuはかわいいな……ん? でも。あれ」
 ただ、そんな絶望的な暗闇の中でも、なぜか自分の姿だけは見えていることに気が付く春香。
 ぼんやりとではない、はっきりと、自分の姿は見えている。
「どういうこと?」
 さっぱり分からない、ただわかるのは水に体温を奪われて、心も体も冷え切ってきたということ。
「ははは、ここは寒いな」
 春香はつぶやく、そしてその両手で顔を覆う。
「一人はやっぱり寂しいな」
 そう手のひらをずらすと、べったりと、春香の顔に血の跡が刻まれた。
 
● 事の次第
 今回の任務はデクリオ級愚神討伐として皆さんがH.O.P.E.会議室に集められたところから始まる。
「対象の愚神はこれより、シャドウと呼称することにする」
 そう司令官アンドレイは君たちに告げた。
「このシャドウという愚神は自身の周囲から光を奪うことができる愚神だ。各位は視界に頼らない攻撃方法を用意して戦いに臨むように」
 春香は面制圧、飽和攻撃で敵を捕らえるつもりでこのミッションに参加した。
 参加したのだが、なんと恐るべきことに事前情報と目の前にした敵の情報がまるで違っていた。
 いや、違うか。まるで違うというより進化していた。
 シャドウは明らかにデクリオ級を超えた霊力を内包していたし、周囲にドロップゾーンを展開して君たちを飲み込んだ。
 結果、周囲の空間がゾーンに塗りつぶされ、皆離れ離れ。
 戦うどころの騒ぎではなくなった。
「寒い、力が、体に入らない」
 徐々に衰弱していく体、H.O.P.E.の応援はまだだろうか。
 そんな時である。
――ららら! 歌が聞こえる。
 春香が身を起こした。髪の毛から血をしたたらせてある方向を向く。
 その先に何か見える気がした。
 光る点だ。
「あれは?」
――歌ってるの。歌を歌ってるのよ。
 闇の奥から歩み寄る、人物が見えた。
「うたが聞こえたんだね」
 その声に、春香は心当たりがあった。
「瑠音……さん?」
 そう。ディスペアのメンバーである、瑠音、そしてアネットが歌を響かせながらこちらに歩み寄ってきたのだ。
 そして謳っている曲は、希望の音。
「なんで。ここに」
「あなたの心に響くと思ってた」
 そう瑠音は告げると春香に歩み寄りその手を取った。
 彼女も暗闇の中で浮かび上がって見える。
「これはどういうことなの?」
「この世界では誰かの心に観測してもらうことが、存在できる条件なの」
 アネットが言葉を継ぐ。
「観測?」
「誰かに存在を認めてもらう、誰かに思い出してもらう、誰かに求めてもらう、それらを呼びかけ、叫んで、歌って、誰かの心に届いたなら、私たちはどんなに離れてても一人じゃない」
 アネットは歌うように告げて春香の手を取った。
「さあ、戦いましょう、ここから反撃よ」
 アネットが闇の中に視線を凝らす。するとそこに蠢く何かがいる気がした。


 

解説

目標 愚神シャドウを撃破する。

 愚神シャドウはおそらくケントュリオ級に進化している物と考えられる。
 ただ、なりたてなのでケントュリオ級としては下位か。
 その力の特性は、闇で閉ざすことではなく無観測。
 観測するためには物体は常に動いていなければならない。振動である。
 これをやめた瞬間、外界からの刺激に反応しなくなった瞬間、全ては観測不可能になる。
 それがシャドウのドロップゾーンの特性。
 ただし、何かを受けて反応を返すならそれは誰かに観測されるということである。
 つまり、言葉、歌。思い、記憶、絆。
 そう言ったものでお互いを認識し合うことによってお互いが見えるようになる。
 その手段として本編では歌を用いたが、お互いの存在を確かめ合えればなんでもいい。
 シャドウは他には、物理的なダメージは伴わない攻撃を多く持つ。
 広範囲の魔法型ではあるが、黒い雲や爆発のような魔法攻撃を受けると、精神が衰弱していく。
 心を強く保つことが必要である。
 敵を攻撃する手段としては、複数の人間でシャドウを強く思い描くこと、倒したいと願うことでシャドウが見えるようになる。

リプレイ

プロローグ

「フフフ、またしても面白い奴が出てきたもんだねぇ。まるで異世界に放り込まれた気分だよ」
『飛龍 アリサ(aa4226)』は自分の中に『黄泉(aa4226hero001)』を感じながらその闇を見渡した。まるで世界が切り取られ、自分以外に存在しなくなってしまったよう。
 そんな暗闇にリンカー全員が閉じ込められてしまっていた。
――センサーに異常。灰堂、備えよ。
『ストレイド(aa0212hero001)』が短く告げると『灰堂 焦一郎(aa0212)』は刃を構え周囲を警戒する。
「ただの暗闇ではありませんか。厄介ですね……」
「恐らく認識阻害の類かな…………光も音も都合よく認識できている」
『アイリス(aa0124hero001)』は『イリス・レイバルド(aa0124)』の手を取ると、背中合わせに佇み。祈る様に目を閉じた。
「確かに今まで経験してきた暗闇系のDゾーンの特徴とは少し違う感じ?」
 その言葉にアイリスは頷く。
「「さぁ、ガデンツァの楽譜の研究を始めよう」」
 二人は共鳴し、輝く翼をいっぱいに広げる。
――歌おう。
「それが絆」
――奏でよう。
「それが、ボク達のここにいる証」
 聞こえた、二人の耳に、聞きなれない歌声、聞きなれた声。
「そこにいるんですね。春香さん」
 時同じくして『ネイ=カースド(aa2271hero001)』も同じ声を聴いていた。
――…………不快だな、実に不快な闇だ。
「……全くですね。ボクの駆け出しの頃の心地のようです」
――あぁ、俺も前世の頃の様だ。思えばひとり孤独にこの様な闇の中、ボヤける視界を頼りに敵を屠る日々だった。
『煤原 燃衣(aa2271)』は拳を握りしめる。
 その背後に実は『無明 威月(aa3532)』が立っていた、しかし虚無という闇に閉ざされてしまえば、指触れ合える距離であってもその手は届かない、触れても気が付けない。
――ッヘ…………暗ぇなぁ、威月ィ大丈夫かぁ?
「……………………」
『青槻 火伏静(aa3532hero001)』が問いかけると膝を折って震える威月が涙をぬぐって頷いた。
 全然大丈夫ではない、かつて拉致され暗所に閉じ込められていたトラウマが蘇り、戦うどころの騒ぎではないのだ。
 視界が晴れればあの時のように。誰かの……何の死体が目に移りそうで怖かった。
――おめェの考えてるこたァ分かるぜ。だがヨォ…………今はおめー、そんなんじゃネェだろ?
 思わず振り返る威月、そこに燃衣がいる気がして。でも振り返っても誰もいない。
 彼特有の温かさのようなものがふっと湧いて消えたのだ。
 同時によみがえる、食道の顔ぶれ。バカで頭悪そうなことしか話してなかったけど、その場に入れるだけですごく楽しくて。
 戦場に出ても、戦えるようになっていて。
 だから威月は思った。
 ……そうだ、自分はもうあの頃の自分では無い
 隊長や仁菜の様に、私の心にも今は闇は無く、暁が差し込んでいる。
 二人が前を見るのは同時だった。歌が聞こえる。皆を導く歌が。
「でも、今は……ッ!」
――そうだ。始めるぞ隊長。
――っしゃ! 行くぞ威月ィ!
 目の前の闇など怖くない、だってここには仲間がいるのだから。
 その心の光が暗闇を和らげる気がした。
 
第一章 暗闇で惑う

 夜は怖い。何も見えない。だからその時起こっている何事かを把握できない。
 『斉加 理夢琉(aa0783)』は泣いていた。誰もいないこの暗闇で爺やが不在の時の停電を思い出して泣いていた。
 闇夜はあまり怖くなかった 怖かったのは。誰も、私を、気にかけてくれない、無音の時間。
「ねぇ! 皆、どこ!? 誰か……答えてよぉ やだ、助けて」
 しかしその声ですら闇に沈んでいく。
 一人がこんなに怖いことだと、ああ、なぜ今まで忘れていたんだろうか。
 そう理夢琉は絞り出すように涙を流した。

   *   *

「認識改変系……珍しいタイプの愚神ですけど、これから数多く当たる事になりそうですので、今から対策を考えて行きたいですね」
『晴海 嘉久也(aa0780)』は歩きながらそう告げた、自分の周囲を通過するヘビのような気配を感じながら。『エスティア ヘレスティス(aa0780hero001)』が警告の言葉を発する。
 その言葉に晴海はあっけらかんと言葉を返す。
「今回は……当人の力はそこまででもないみたいですから、色々試してみようと思います。
 予想が当たれば、認識できるのは理想の姿が最優であり、この世界に同一化している愚神はこちらの思う姿でしかない……という事になりますけどね」
 数多の愚神と相対している晴海。いまさらこの程度の愚神を恐れることもない。それはアリサも同じことだった。
「あたしが愚神に下す評価は『研究材料として面白いか否か』」
 アリサはそう妖艶に微笑む。
「面白い相手ならとことん弄り回し、情報という情報を引きずり出す。面白くないなら面白くないなりに弄り回し、興味の持てるポイントを搾り出す」
 その言葉を黄泉は淡々と聞いていた。
「今度の敵はまさしく面白い敵なわけさ」
 このドロップゾーンの原理がまず面白い。そうアリサは分析を披露する。
 それ自体がアリサのアプローチだった。
 それはただひたすら愚神に『興味・関心』を抱き、それを周囲に誇示することで仲間が持つ敵に対する『興味・関心』を引き出すこと
「外界と自己を特殊な結界でシャットアウトしているわけでもなければ、視界を奪っているわけでもない、人々の精神世界に干渉して意識の中から周囲の環境の存在そのものを消去しているような具合かねぇ?」
 荒唐無稽ぶりが実に面白い。そう言って頬を手のひらで覆う。
「こいつは本当に弄り甲斐があるよ」
 アリサは思う。
 こいつの正体とやらが知りたくてたまらない。
「なぁ、聞こえているかな。君たちだってこいつの正体が気になるだろう?
 ならば皆も手伝ってくれるかい?
 皆で興味・関心を一つにするのさ。
 こいつの手のうちが読めれば、二度と同じ手には惑わされない。皆もその方が無難だろう?」
 そう細めた視線の先で、探究のために伸ばされた指先で、闇の中で蠢く何かを見る。それは警戒したようにアリサに飛びかかってきたが、アリサは身をひねってそれを回避。
 にやりと笑う。
 このまま愚神を引きずり出してやる。そうさらに強く愚神を思い描いた。
 その愚神が駆け抜けた方向に『エイアス・スノードロップ(aa5072)』はいた。一陣の風のような愚神に突き飛ばされ地面を転がるエイアス。彼女はそのまま立ち上がることはなかった。
 そして、ため息交じりに『リバーヴ=イーター(aa5072hero001)』へと語りかける。
「こう言うのは、苦手なんだけどな」
 誰にも聞こえないように小声でぽつり。その言葉は誰にも届かない。
 人間味が希薄になった自身にとって、自己を示すというのはなかなか難しい。他者が出来るそれを自分が出来ないことで、自分が空虚な人形であると認識する恐怖もある故に。
(さて。どうやって乗り越えるのか)
 リバーヴは思う。
 この依頼を勧めたリバーヴにとっては、エイアスの成長を確かめるための儀式でもあった。彼女は確かに成長したのだろうだが、愚神と戦えるほどなのか。それを見極めるために、崖の上から突き落とす思いだった。
 そんなリバーヴの想いにエイアスは答え続けている。
 先ずエイアスは自身で言葉を発した。静かに、朗々と唱える様に。自分を示し、敵を確固たるものにする為の言葉を。
「この場に集ったのは、大なり小なり異なれど戦う理由を持った人間の筈…………その理由は、このような闇に巻かれ立ち止まって良い理由でしょうか?」

「――否、と私は断じます」

 言葉が聞えた、力強い声。 
「だれ?」
 理夢琉は振り返る、誰かが口にした力強い言葉。それが耳元とも、空ともつかないどこからか聞こえたような気がして。

「我々の戦いは、明けるかどうかも分からない夜を彷徨うようなもの。ならば、このような観測によって晴れるまやかしの闇など恐れるに足らず」

「皆様。直視し、意志を強く。この闇はそれだけで切り拓き、踏破できるものです」

 その時理夢琉はその首筋に温もりを感じた。それどころか自分を包みこんでくれる誰かの感触。
「ここは、俺がもといた場所とよく似てるな」
「やっと、見つけた」
 理夢琉は噛みしめるようにつぶやく、そして自分を抱く腕をなぞった。
「響きあう絆がつながったあの日俺はアリューテュスとして世界に認められた」
 そしてその温もりがいったん離れると、理夢琉も『アリュー(aa0783hero001)』もその姿が見えているかのように手を伸ばした。
「アリューテュス!」
「理夢琉!」
 暗闇がさっと晴れるように、二人の姿が浮かび上がる。直後二人は共鳴。状況を瞬時に把握する。
「だめだ、通じない。ドロップゾーンだよねこれ」
――孤立はまずいな、皆と合流しないと!
 そうアリューが告げると理夢琉はその手に炎を宿した。
――どうする気だ?
「暗闇を照らすのは焔でしょ」
 その放たれた炎が空間を走り、そして……エイアスに命中する。
「暑い!」
「あ! ごめんなさい」 
 理夢琉はエイアスに謝りながら彼女に手を差し出した。
「呼びかけてくれてありがとう、さぁみんなを探しに行きましょう!」
 そう微笑んでエイアスの手を引いて理夢琉は走り出した。一人でないことが嬉しかった。
(よく言えたものだわ)
 リバーヴはエイアスの高説を黙って聞いていた。他者に対して一先ずはこのようなことを言えるようになった。及第点と言ったところか。

   *   * 

『藤咲 仁菜(aa3237)』は暗闇で耳を澄ませる。
「見えないなら音で何とか、って思ってたけど……。何も聞こえないね」
――誰も見えないとなると、カバーも回復もしようがないなー。困った!
『リオン クロフォード(aa3237hero001)』が一つため息をつくと、さてさてと気分を改めた。
 二人してあまり深刻そうな雰囲気はなかった。
 まぁ、深刻になる必要がないと言ったところだろうか。
「取り合えず煤原さんを見つけないとかな? 威月さんも煤原さんの所に行くだろうし」
 その時だった、二人の耳にも声が聞こえた。ただしこれは春香の声でも他の誰かの声でもなく、よく知っている彼女の声。
「これって……」
 仁菜は首をかしげる。
「「威月さんの声?」」
「隊長、仁菜さん…………皆様…………」
「……ヤラれた分、倍返しです! あの陰気なツラに鉄拳100万発! ブチ込んでやろうぜです!」 
 曲の合間に暗闇に向けて叫ぶ威月。
 彼女は暗闇から聞こえてくる歌が希望の歌だということに気が付いて自分も歌ってみた。
 曲なら知ってる、燃衣がしつこいくらいに聞かせてきたから知ってる。
――……威月ィ、口調が俺になってんぞ。
 赤面して押し黙る威月。
――バッカ! いいから歌い続けろよ。そら。誰か来るぜ?
「だれ?」
――気配がある。
 

「……ッ! 小隊【暁】ッ! 訓示ぃいいーーーッッ!!」

 仁菜、そして威月はハッと顔をあげて姿勢を正した。そしてその声のした方角へ走る。
「「「されば立ち上がって戦え、いかなる運命にも意志をもって」」」
 声が重なった、息を吸うタイミングもテンポもぴったり、当然だろう、何度復唱したと思っているのだ。
 その瞬間暗闇が和らいだ。
「よし、二人は近くだ、次は……」
 そんな燃衣の袖を春香が引いた。二人は既に合流していたようである。
「春香ちゃん! erisuさん! 《希望の歌》を唄って! もっと力強く。もっとはっきりと」
「ああう、でも、歌……はずかしぃ」
 そう顔を赤らめる。春香である。
(仲間が其処に居る、それだけで力は沸いて来るものだ。だよね? ルネさん、彼方ちゃん……)
「皆! 春香ちゃんを基点に集合しよう! 歌声を頼りにまずは固まるんだッ!」
 そう春香に告げて、満面の笑みで振り返る、するとそこには小柄な少女が二人いた。

「いわれずとも」
「……もう。います」

 仁菜と威月がそこにいた。声は確かに響き四人を結び付けてくれた。
――隊の女の子が2人もいるのに、真っ先に三船さんのところに行くとは……ニーナ妬けちゃう?
 そうリオンがからからと笑いながら問いかけると、仁菜は少し顔を赤らめてそっぽを向いた。
「別に妬かないし……! それだけ信頼されてるって事でしょ!」
――それにしても、威月さん。歌うまかったね。
 仁菜の可愛らしい姿にご満悦のリオンはすぐさま話題を威月へと切り替えた。
「あ、あの声威月さんだったんですね」
 そう燃衣とリオンに褒められて、今度は威月が顔を真っ赤に染める番だった。
「わた、わたたた」
――……ったーく、俺との共鳴なしに唄えよなぁお前。
「うますぎて、私が恥ずかしく」
 火伏静はそう笑いながら告げる。
 そんな仁菜に、リオンは彼女だけが聞えるような声でつぶやいた。
――よかったね。仁菜。
 仁菜は微笑む。
 もう泣いてばかりいた頃とは違うと自分でわかったから。暗闇の中でも迷わず進んでいける。共に戦う仲間がいるから。
 そんな威月に声をかける女性がいた。
 威月はその女性をテレビで見たことがある、確かアイドルグループの、ディスペア……その一人、アネットだったか。
「いい歌声ね、うちにはいらない?」
 アネットはそう威月に手を差し出した。
「……あ、……え」
――こいつは、声がだせねぇんだ、通常時はな。
 代わりに火伏静が答えると、アネットは隣で佇む瑠音に苦笑いを向けた。
「振られちゃったわ」
「うう」
 なんだか沢山恥ずかしい思いをした威月。その思いはとりあえず愚神にぶつけよう。
 そう、索敵を開始する。
「…………仁菜さん……!」
「うん!」
 二人は手を組み祈る様に霊力によるフィールドを発生させる。
 それがイリスの声を受信した。


第二章 絶望か暗闇か

――とりあえず周囲のリンクレートを下げるのなら、逆に上げるのを小目標にしようか。
 歌は心。即興であろうとも魂がこもっていれば誰かに響き、伝わる。
 たとえ出発点が絶望であっても、希望で塗り替えればその歌は光を掴むだろう。
 涙というプリズムに光を通せば虹となる。
『虹の音(MEMORIA arrangement)』
 今妖精と黄金の小鳥が紡ぎだす音色。それが世界に響き渡る。
 かつて『メモリア』という曲は暴力的、攻撃的と言われた。
 だがその音色をあえて組み替えようと歯思わない。演奏は残し新たな音で調和を取る。
――希望を名乗るものが都合の悪いものを省く様な器の小ささでは名前負けと言うものだろう。
 そしてそれがアイリスには、正しい道だと直感的に思った。。
 アイリスは思う。何よりそれでは楽しくない……と。負のイメージすらも肯定しながらアイリスは笑う。
――だが調和を取るための新しい音が必要だな。
「そうだけど、だからと言ってこんな……」
 四枚の羽が空に空に伸びる。
――というわけで私の羽は4枚あるのだから4つの違う音を出せばいいと結論が出た。
 これで六重奏だ。そして荒々しさを包み込むような優しい3つの音の調整を始める
「……いちおうここ敵陣なんだけどね」
 イリスはそう苦笑いを浮かべた。
 
「綺麗な音色だなぁ」
 瑠音はゾーン内、威月と仁菜が受信したアイリスの歌。そして別の歌にも耳をかしていた。
「あまりうかつな言動は慎みなさい」
 そうアネットが小声で瑠音に注意する。だがそれを意に介さず瑠音は微笑んだ。
「そうも言ってられないでしょう? 感情が高ぶって私……」
 次の瞬間瑠音の笑みが変化する。
「全てを壊してやりたい」
 アネットはその瑠音の笑みにに恐怖の表情をうかべた。

   *   *

「この魔法書に……」
 理夢琉は道すがらであったエイアスの手を引いて暗闇の中を走っていた。
「私が聞いた歌に霊力を織り込んで記録してみたの」
 それはまどろみの世界で聞いたオリジナルと、主の絆を祝福した世界の旋律を再生し、それに感じたままの歌詞を当てて謳う。

――「またね」って 「また逢えたね」って
 時のリズムを重ねていこう もうすぐほらわかりあえる

 ほぼアカペラに近いそれ。それは空間を渡る。誰かが自分の歌を聞いてくれているという変な感覚が理夢琉にはあった。

――言葉も世界も跳び越えて 
 絆のピースつなげていこう 心の音色ほら響きあう

 だがそれは希望の音と。虹の音とリンクする。
 理夢琉は春香とイリスを思い浮かべた。
――思いはきっと届くから声を出して呼んでみよう

「私はここだよ! 届けー!!」

「歌が、聞こえる?」
『ニウェウス・アーラ(aa1428)』はおもむろに顔を上げる、闇に飲まれかけていたのか、全身が黒ずんでいるがまだ健在。
 『ストゥルトゥス(aa1428hero001)』は聞こえる歌に耳を澄まして嬉しそうに声を上げる。
――おろ。微かにだけど、確かに聞こえて…………いや待て。うっすらと何か見える。光?
「ほんとだ。しかもあれ、歌が聞こえる、方向…………」
 それは全方向から、何種類もの歌が重なってまるで自分を呼んでいるかのよう。
「OK。何となく、仕組みが分かってきたかも」
――マスター、ブレイブオーブを手に取って。
「ん、分かった…………。でも、どうして?」
――考察とか諸々スッ飛ばして結論だけを言うと。恐らく、重要となるのは精神の伝播と観測だ。歌で存在を認識できたのは、そこに気持ちが込められていたからだろうね。
「なら、私も歌を歌えば…………」
――いや、真似するだけじゃダメ。自身の内にある精神を強く伝えるなら、自分のパーソナリティにあった手法を選ばないと。
「それが…………これ?」
 そう告げ、ニウェウスはブレイブオーブを手にし、一度それを強く抱きしめる。
――そう。前に言ったろう? その中心に浮かんだ色は、君の可能性そのものだって。
 それは空色の光。太陽に照らされた、澄み渡る青い色。湧き上がる光、それが闇を裂いていく。
――その色は、キミの精神性そのものだ。その色が示すものに従え。今のマスターなら、それが出来る。
「…………ん。やるべき事、分かった気がする」
 ブレイブオーブをかざすニウェウス、その光が"全ての仲間に届くように"と強く祈る。
「お願い、皆に…………届いて。私は――皆は、ここにいる!」
 直後襲いくる闇。這い寄る闇。それがニウェウスからブレイブオーブを叩き落とそうとする。
 だが。光はすでに届いている。目の前に躍り出たのは灰色の騎士の姿。
――目標確認、排除行動に移行する。
「誰の光かと思えばニウェウスさんか、綺麗な輝きだ」
 それを守るために灰堂は銃を抜く。


第三章 接敵

 アリサは自分の周囲を這う犬のような愚神を追いかけていた。ツインライブスセイバーにて接敵、その体に自身の霊力を叩き込む。
『ライヴスリッパー』である。
「シャドウよ、君は集合無意識を知っているかい?」
 アリサは吹き飛んだ愚神へ歩み寄り言葉を続ける。
「人が生まれながらに持っている本能みたいなものさ。ここの皆は誰もが今の状況から生き延びたいという生存本能がある。君は人の意識には干渉できても無意識には干渉できなかった、それが君の敗因だよ」
 そんな愚神は起き上がり、アリサに告げた。
「ではお前の敗因は意識に手を加えられる本当の恐ろしさを知らぬところだな。暗闇の中で惑うがいい」
――死神のボクがこんな暗闇に狼狽える筈ないのですぅ~♪ ボクを玩具にすると怖~い仕打ちが待ってるのですぅ~♪
 黄泉が告げると追撃にアリサはライブスショットを放つ。
 その霊力の塊を受けて愚神は暗闇に溶けて消えた。
 徐々に暗闇が晴れ始める。
「ところでアリサちゃん、ボクのことはちゃんと認識してくれたのですぅ~? ハブられてたら虚しいのですぅ~」
 共鳴を解いて黄泉は告げた。するとアリサはこう答える。
「君は意識されなくても力が弱まるなんてことはないだろう?」
 天井には空が広がっていた、青い空が。


   *   *

――あとは、敵を炙り出すだけかなぁ?
 ストゥルトゥスはそう告げる、灰堂の背に隠れて辺りをうかがった。
「たぶん、やり方は同じ。思い描く事が、違うだけ…………」
 敵を必ず見つけ、必ず倒す。その思いを、皆で叩きつける事を提案。
 その言葉に灰堂は小気味よく笑った。
「いい考えですね、その提案乗りました」
「絶対に、見つけ出す…………」
――ヒャッハー! 反撃の時間だァ!
 それは暗闇の中から敵を引きずり出すイメージ。
 敵は死神の姿をしていて、手には剣を持っている。
 やがて暗闇の中に蠢く影が見えるころには。二人は散開していた。
 大丈夫、離れてもお互いの姿は見える。
「今度は……あなたの番」
 ニウェウスが告げると幻想蝶をばらまいた。
 その隙に灰堂が弾丸をばらまく。
――その力は危険だ。だから。
「ここで、貴方を倒す。皆の、力で!」
 しかし愚神は周囲に紫色のガスを充満させる。灰堂の銃弾を弾き。ニウェウスの追撃を避けるとバックステップで三歩後退。その先には。
 晴海がいた。一度大剣の腹で愚神を受けると押して弾き、その背中から切り付けた。
 晴海は深く息を吸いこんだ。踏み込んだ所で落ち着いて呼吸を整え、息吹を放つ。
それから、小さく晴海派醜い妖精の姿を思い浮かべ、
「グローリアス」
 そう叫んだ。シャドウの姿が思い描いた妖精に代わる。
 そして追撃の斬撃。醜い妖精姿の愚神は無様に地べたをはいずった。
 その姿に、晴海は地面を剣で叩きながら歩み寄る。
 怯える愚神。その表情の上から晴海は何度も大剣を叩きつけた。やがて甲高い規制と共にその体は霊力へと分解されていく。

 だがその晴海の姿は灰堂にもニウェウスにも見えてはいない。
 もちろん砕け散った愚神も視界に映っていないのだ。

「く……力が」
――神経毒を確認。避けるべきだろうな。
 灰堂は素早く身を翻して位置取りを代える。
 素早くスコープを覗いて暗がりに紛れた死神を見た。
 確実に照準はあっている、外すわけがない。
 放たれた弾丸が暗闇を縫って死神を射抜いた。
――目標確認。排除開始。
「二度は見失いません。お覚悟を」
 その瞬間、死神が身を翻すと肋骨が伸びた。その伸縮は一瞬にして灰堂の逃げ場をふさぐ。
 避ける暇はない、であればどうするべきか。
 反撃すべきである。無数に展開された刀。そして霊力の炎が死神に殺到する。
「ごめんなさい。私、独りの闇は慣れていて怖くないのです」
「大丈夫ですか?」
 エイアスと理夢琉である、二人とも輝きを続けるニウェウスの光を頼りに集まったのだ。
「他のみんなは?」
 ニウェウスの問いかけに理夢琉が答える。
「私が繋ぎます」

「「その必要はないよ」」

 直後響いたのは虹の音。
 アイリスの展開するバリア。
 そして仁菜と威月が展開するライヴスフィールドによってドロップゾーンに異常が生じたらしい。
 バキンと何かが割れるような音がして。
 イリスと、暁メンバーがその場に姿を現したのだ。
――仲間の無事は確認完了! あとは敵をぶっ倒すだけだな! 暗闇ごときで俺達に勝てると思ってたシャドウをこらしめてやろうか!
 リオンが高らかに告げるとネイとイリスが前に出る。
 仁菜のケアレインがあたりを包んだ。
 そして最初に接敵したのはイリス。
 死神がつきだしてきた剣を盾で受けそらし、地面に落すと踏み込んで振り上げるような斬撃。
「はあああああ!」
 歌はまだ響いている、であれば恐れる必要はない。
 虹の音と希望の音が重なる。
 強靭な精神力で、恐怖も絶望も飼いならす。
 そんな愚神絶対殺すガールの背中を見ながら燃衣は駆けた。
 その足音を聞いて、イリスは頭上に盾を構えると、それを足場に燃衣は飛ぶ。
「お前たちは忘れている、私が宵闇の槍使いであることを」
 無数の槍が地面から生える。燃衣を串刺しにしようとするそれを。仁菜と威月が間に入ってへし折った。
――そっちを攻撃しようとしても無駄だよ? 俺達が守るからな!」
「仲間を攻撃したいのなら、まず私達を倒さないと邪魔しちゃうよ?」
 リオンと仁菜の声が重なる。
 直後燃衣の拳が隕石のような勢いで愚神をえぐった。
「仁菜さん、威月さん、イリスさん!」
 燃衣はいったん後退する。灰堂、ニウェウス、理夢琉が三方向から愚神へと攻撃し。
 身動きが取れなくなっているところに。春香とエイアスがストームエッジで追撃を仕掛ける。
「突破口を開いてもらえますか?」
 その言葉に全員が頷く。
 イリスが正面、威月と仁菜が左右から突貫した。
 イリスの歌が戦場を鼓舞して、全員の鼓動が早くなる。
 そんな三人の動きに目移りした愚神は対応が遅れる。仁菜と威月は交差するように愚神へ一撃加え。イリスは踏み込んで盾で剣を殴り壊した。
「煌翼刃・螺旋槍!」
 その威力は重たい。さく裂するような一撃ではなく、削り取るような螺旋撃。体をひねり上空へと打ち出されたエネルギーは愚神の体を巻き込みながら空中へ押し上げた。
 上空で待っていたのは燃衣。
 準備はすでに整っている。全身を炎が包み、炎が『鬼』の様な姿を形取る
「……これで仕留める…………《鬼神招》…………ッ……」
 それは点に集約する《貫通連拳》とは異なる。面を制圧するショットガンのバレットのような『超高速のラッシュパンチ』
「其処を…………どけぇええエエエッ!」
 打ち砕かれる骨と骨。
 愚神の姿が霊力に代わるのを。

エピローグ

「愚神は去ったみたいだね」
 そう瑠音は全員にいった。そこは暗闇に飲まれる前の世界。帰ってきたのだ。全員が無事に生還した。
 そんな瑠音とアネットの前に理夢琉が立ちはだかる。
「瑠音さんにディスペアの?……どういう事なんですか」
 さりげなく春香を後ろに隠した。
 それと同時にイリスとアイリスが共鳴を解いて歩み寄った。
「始めましてかな」
「はじめましてだね」
「そうね、でも知ってはいるから大丈夫……何せ私は」
「ルネさんの、生まれ変わり、なんだろう?」
 風がさっとアイリスの髪を攫った。
「実はあってみたかったんです」
「今まで散々ニアミスしてきたからね」
「「で、何故ここに?」」
「助けに来たのよ」
 アネットがそうルネの言葉を継いだ。
「私達なら何とかできると思って」
「あ、そうだったんですね、ありがとうございます」
 理夢琉はそう頭を下げた。
「すごく助かりました」
 そう改めて瑠音に話しかけたのは仁菜
「…………もしお困りの事があれば、その時は、我々が助力致します」
 その背中を燃衣は黙って見つめていた。
 そんな剣呑な雰囲気の外で、疲れでへたり込んでいるニウェウスへ灰堂が歩み寄る。
「ニウェウスさん、それは」
「あ、れ…………」
 その言葉にニウェウスはオーブへと視線を落した。
「ん、どしたの」
 ストゥルトゥスがオーブを覗き込む、すると。
「オーブの色、何か…………変わった?」
「先程、我々を導いた光と同じ色ですね……深く美しい色です」
 そう灰堂は告げた。
 オーブの色、空色から瑠璃色へ変わっていたのだ。その美しい色を抱きしめるとニウェウスは嬉しそうに微笑んだ。


結果

シナリオ成功度 普通

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 深森の歌姫
    イリス・レイバルドaa0124
    人間|6才|女性|攻撃
  • 深森の聖霊
    アイリスaa0124hero001
    英雄|8才|女性|ブレ
  • 単眼の狙撃手
    灰堂 焦一郎aa0212
    機械|27才|男性|命中
  • 不射の射
    ストレイドaa0212hero001
    英雄|32才|?|ジャ
  • リベレーター
    晴海 嘉久也aa0780
    機械|25才|男性|命中
  • リベレーター
    エスティア ヘレスティスaa0780hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 希望を歌うアイドル
    斉加 理夢琉aa0783
    人間|14才|女性|生命
  • 分かち合う幸せ
    アリューテュスaa0783hero001
    英雄|20才|男性|ソフィ
  • カフカスの『知』
    ニウェウス・アーラaa1428
    人間|16才|女性|攻撃
  • ストゥえもん
    ストゥルトゥスaa1428hero001
    英雄|20才|女性|ソフィ
  • 紅蓮の兵長
    煤原 燃衣aa2271
    人間|20才|男性|命中
  • エクス・マキナ
    ネイ=カースドaa2271hero001
    英雄|22才|女性|ドレ
  • その背に【暁】を刻みて
    藤咲 仁菜aa3237
    獣人|14才|女性|生命
  • 守護する“盾”
    リオン クロフォードaa3237hero001
    英雄|14才|男性|バト
  • 暁に染まる墓標へ、誓う
    無明 威月aa3532
    人間|18才|女性|防御
  • 暗黒に挑む"暁"
    青槻 火伏静aa3532hero001
    英雄|22才|女性|バト
  • 愚者への反逆
    飛龍 アリサaa4226
    人間|26才|女性|命中
  • 解れた絆を断ち切る者
    黄泉aa4226hero001
    英雄|22才|女性|ブレ
  • エージェント
    エイアス・スノードロップaa5072
    人間|16才|女性|攻撃
  • エージェント
    リバーヴ=イーターaa5072hero001
    英雄|20才|女性|カオ
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