本部

ナイスバディーになりたいの

鳴海

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
9人 / 0~10人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2017/07/18 13:45

掲示板

オープニング

● 夏ですね、水着ですね。

 H.O.P.E.食堂、ここには任務ではないが、リンカーでないとできないお手伝いだとか、単発のアルバイトだとかTTRPGのメンバー募集だとか。そんな他愛もない話題が紙とピンでとめられている掲示板がある。
 この掲示板に、気になる文句が乗せられていた。
『お腹に手を当ててみてください。今震えませんでしたか?』
 日頃の不摂生がたたって最近少し、プニプニしてきたかなぁ?
 そんな風に感じていたあなた達はその広告にとっても目を奪われた。
『夏はすぐそこ、そのたるんだボディーを今、ジムで引き締めて見ませんか?』
 なんでもH.O.P.E.の施設内にジムがオープンして、そのテストモデルというか、実演者を探しているらしかった。
 一か月無料。しかもアドバイザー付き。
 八月に入る前には本格的にシェイプアップしたいなぁと思っていた君たちの事である。
 さっそくそのチラシにかかれていた番号に、電話をかけたのだが……


●地獄のトレーニング。
 リンカー向けトレーニング施設。
 ここではAGWの技術を応用したトレーニング器具が数多く設置されていた。
 もちろん、ダンベル、バーベル。レッグプレス、ランニングマシーン。等々。普通の器具もある。
 だが一際目を引く、特別訓練ゾーンの器具に君たちは目を奪われることだろう。
 あ、やっちまった。
 来なきゃよかった。
 そんなこと思ってもダメ。今日一日は絶対に施設の試運転につきあう契約である。
 これもお仕事、君たちは観念して地獄のトレーニングに身をやつすのであった。

*注意 共鳴してトレーニングに望んでも意味ないと思うので、共鳴不可です*

●下記から地獄メニュー
・ 超絶!! ボルダリング
 なんと百メートルほどの高さのボルダリングを作ってしまいました。リンカーだから落ちても大丈夫?
 一応命綱はありますが。上空に行くほど酸素が薄くなる特別仕様。
 50メートルくらいであれば富士山の山頂程度ですが、100メートル地点まで行くとエベレストの頂上並に空気が薄いです。
 普通に頭くらくらしますし、酸素が足りないせいでひどく筋肉がつかれますが。
 この後酸素吸入するから大丈夫です(ほんとか……

・楽々! 寝たまま筋肉増強マシーン。
 これは皆さんに寝ててもらうだけです、大丈夫です不安はありません。
 楽しく隣の人と談笑してて下さい、お連れの方は横たわる挑戦者の方を見下ろしてあげててください。
 これは、体中の筋肉に電気を流して無理やり筋繊維をひきちぎるというものです。
 いたくありません、大丈夫です。
 結果ズタズタになった筋繊維ですが。これは酸素とマッサージと栄養の力で瞬時に回復させることが可能です。
 これによって短時間で再生と破壊を繰り返された筋肉は大変に増えます。
 大丈夫です信じてください。

・調圧水素水プール。
 高気圧、さらに過剰に圧縮された水のプールで泳いでいただきます。
 当然水圧が高い中を泳ぐということは体に様々な負担がかかります。そもそも水が重たいし、耳鳴りはするし、心臓はバクバクするし、一度沈むと浮上するのも一苦労です、水が水銀みたいな手触りになってます。
 どれだけ圧縮したんだ。
 長時間の利用は一般人には危険。だけどリンカーなら大丈夫?
 今話題の水素水配合だから健康にいい!(はず

● 普通にジムを利用する場合。
 今回の任務は日常のワンシーンとして、スポーツジムを利用するという遊び方でも大丈夫です。その場合は下記の施設がありますので。
 日々の鍛練でも、体を動かすストレス発散でも楽しんでください。

・プール複合施設。
 水を使った有酸素運動をメインとした施設です。五十メートルプール、百メートルプールほか。潜水用プール。

・器具集合施設。
 レッグプレス、ダンベル、バーベル。こう引っ張るやつとか、伸ばす奴とか、上げたり下ろす奴とかバランスボールとか。体を鍛えるために必要な機材のだいたいがそろってます。
 ランニングマシーン、サイクリングマシーンはテレビが備え付けられてますから暇することはないんじゃないでしょうか。

・レストラン
 普通のレストラン。と思いきやメニューの半分が、プロテインとかサプリメントとか配合で、体にいいやら悪いやら不安やら。
 お酒もありますよ!

・銭湯シャワールーム。
 汗をかいたら流したいですよね? そんな願望をかなえてくれるのがここ。
 普通の銭湯です。電気風呂とか撃たせ湯とか、もろもろが溶け込んだカラフルなお風呂があります。
 サウナとシャワーも当然完備。

・ダンスルーム。
 板張りで三面が鏡の広大なルームです。ここではダンス、ヨガ。あとは武術の道場代わりに使っている人もいるらしいですね。

・ケアルーム
 筋肉痛の原因は乳酸と活性酸素デス。これを効率よく体外に排出するためには多量の酸素が必要となります。
 なので、酸素カプセル。今話題の水素水。あとはマッサージや針治療やと、疲れた体を癒してくれる施設になってます。ジムは使わないけど、ここのマッサージは利用したいという人は多いらしい。

・屋外施設。
 屋外ではテニスやサッカーやバスケットと言った球技全般が楽しめます。
 グラウンドを貸し切って鬼ごっことかやる人もいるみたいですね。
 息抜きには良いのではないでしょうか。







 

解説

目標 スポーツジムでの日常を過ごす。

 今回は体を動かす休日を演出するためのシナリオです。必ずしも地獄メニューに参加しないといけないわけではないですが。
 参加してみると面白いかもしれませんよ?
 

リプレイ

プロローグ

「うぅ……ちょっとだけ、ちょっとだけ油断したです……」
『想詞 結(aa1461)』はお試し券を握りしめてその施設の扉を見あげていた。
 真新しい装飾と新築の香りはそれだけで気持ちをわくわくさせる。
 ただそれを上回るくらいに結の胸中は穏やかではない様子。
「元々お仕事は学生と物書き、生活がインドアなのでお肉が……」
 誰に言い訳するでもなくそうあわあわとつぶやいてしまう結。もしかしたら夏に水着をきて、それ見せるかもしれないのに……
「誰にとは言いませんがっ!」
 顔を赤らめてそっぽを向く結、そんな彼女の隣に相棒である。『サラ・テュール(aa1461hero002)』が具現化した。
「ついたみたいだね!」
「というわけでサラにトレーナーになってもらおうと思ったですけど……」
 しかし不安。そんな胸中を隠そうともせず結はサラを仰ぎ見た。
「油断大敵ね。でも、安心して。この私にかかれば必ず素敵ボディにしてあげるわ!」
「サラが中世位のとはいえ軍人だったことを忘れてたです。もしかして、隣の地獄の方が能力者的に楽かもです? 私は見た目がみっともなくなければいいだけですのに……」
 そう呟きながら結はジムの門をくぐる。
 中には、同じくキャンペーン参加者ということでリンカーが集められていた。
『オリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)』と『紫 征四郎(aa0076)』が竹刀片手にソワソワあたりを見渡している。
 そんな『木霊・C・リュカ(aa0068)』や『ユエリャン・李(aa0076hero002)』に挨拶をする『御神 恭也(aa0127)』
「本当にいいのか? あの設備、地獄のメニューと言うより拷問の一種じゃないのか?」
「あ、私とおんなじこと言ってます」
 結は深刻な表情を見せる恭也に親近感がわいた。
「最低でも〇キロ落とさなくっちゃ」
 対して『伊邪那美(aa0127hero001)』は無茶をしてでも体重を落としたいらしく、それにはあまり共感出来なかった。
「ちなみに今日は何を目的に来たんだ、俺はもっぱら伊邪那美のダイエッ……」
 直後絶望の淵にあった伊邪那美の視線が恭也にむき、唸りを上げる右アッパー。
「おお」
 征四郎とオリヴィエが拍手を送る。
「ぐっ!? 何をする……」
 内臓にダメージが残る系パンチを受け蹲る恭也。
「恭也~、何乙女の秘密をばらそうとしているのかな?」
「……俺の知る限り、乙女は蛙飛びアッパーを繰り出したりはしない」
「俺達は、ムキムキになればもてると聞いて」
 そう少し照れ臭そうにリュカは言った。
 最近下腹が気になる三十路手前、単体での運動は目のこともあり苦手だが、寝ているだけで良いという売り込みに引かれてやってきた。
「吾輩は……本当は運動など必要ないのだが。まったくなんで我輩がこんなところまで」
「心身の成長は日々のタンレンから! です!」
 征四郎が両腕を振り上げプンスカと告げた。

● 体は熱く心は冷たく

『秋姫・フローズン(aa0501)』と『修羅姫(aa0501hero001)』は早速館内を闊歩していた、おめあての器具を探すために歩いていた。
 ちなみに彼女たちは地獄メニューは利用しない方向のようだ。
 当然だろう、だって怪しすぎる。
 なのでまずは地獄メニューの施設がある方向を眺めつつ。準備運動をかねたストレッチ
「……ふむ」
 修羅姫は唸った。
「どうか…………なさいましたか…………?」
「いや……あっちの方が…………少し気になってな……」
 突如上がる悲鳴、当然地獄メニューの施設から。
「今から…………参加されますか……?」
「絶対にやらん」
 ストレッチ終了後、鍛錬開始であるまずはウエイトトレーニング。
 ウエイトトレーニング場には先客がいた。それが結とサラである。
「さぁ、行くわよ結。まずは筋肉をいじめましょう?」
 そうサラに命じられるままバーベルダンベルをセッティングしていく。
「こんな私で後衛でも一応能力者なので50kg位は上げられるですが……」
 サラは限界よりもだいぶ少なめで回数をじっくりやる様にと指示を出した。
「筋量を増やすには不可トレーニングの方が効果的なの」
 限界ぎりぎりまでバーベルを上げたなら次は¥足、背中、お腹と常にどこかの筋肉がいじめられる。
「軽くてもぉ……これはぁ……きついですぅ……」
 サラの提示してくる回数は的確に私の限界ギリギリをついてきた。恐るべし、サラ。
「一応ムキムキにはならないように配慮してるから、大丈夫!」
 遅筋が中心ならそこまでがっしりはしないとサラは言った。
「よくがんばったわね。じゃあ、次は体を存分に動かしましょうか」
 それを横目に秋姫もトレーニングに精を出す。
 バーベルを肩にかけたスクワット、ダンベルを使った上腕二頭筋、三頭筋、手首の強化。ウエイトを体に抱いての背筋、腹筋。それを秋姫は淡々とこなしていく。
「……相変わらず…………凄まじいな……」
 ただそれはいつもこなしている鍛錬である。
「そう…………ですか……?」
「うむ…………その細腕で…………よく上がるな……その重量……」
 ウエイトの重さは脅威の五十キロ越えである。女性一人分の重さが追加されたというとすごさがわかるだろうか。
「ふふ……腕力だけなら…………無理ですが…………他の筋肉等…………体全体を使って・動くと…………できますよ…………?」
「ふむ…………そう言えば……この間の痴れ者を…………蹴り飛ばしてたが……『それ』で…………蹴り飛ばした…………と」
「あ…………あれは…………あくまでも…………正当防衛…………です……ちゃんと…………加減もしましたし……」
 赤面して手を振る秋姫。ダンベルがものすごい音を立てて地面に落ちた。
「いや…………加減してても…………一撃KOは無いと思うぞ……」
 その時である、またしても『楽々! 寝たまま筋肉増強マシーン』の部屋から悲鳴が聞こえてくるではないか、二人は会話を中断してそちらを見る。
「……少し。気に…………なりますね」
 そのころ別室ではそれこそ地獄にも似た惨状が繰り広げられていた。

● 楽々! 寝たまま筋肉増強マシーン

「トレーニング…拷問の間違いでは無くて?」
 『水瀬 雨月(aa0801)』は唖然と、大仰なマシーンを眺め呟いた。
 異音と蒸気を吹き上げるそのマシーンへ向き直ると雨月は幻想蝶を握りしめた。
「リンカーでも共鳴しなければ命が危なそうな内容がいくつか散見されるのだけど」
「……、これは本当に大丈夫なものなのかね」
 雨月と同じように苦言を呈するユエリャン。珍しく三回も仕組みを説明してもらったが、仕組みがまるで分からない。
 ということは大丈夫な気も全くしない、ただメカオタク的に興味は湧いてきた。
「まぁ何事も物は試しではあるか……」
 だがそんな二人の不安をよそにリュカは続々とマシーンイン乗り込んでいく。
「怖くないの?」
「え? どうだろうね」
 雨月の問いかけにリュカはあっけらかんと返すと、ユエリャンも雨月も乗り込まないわけにはいかない。
「でも寝たままムキムキになれるなんてそうはないよ!」
 そしてマシーンに火が灯る。妙に激しく動くマシーンと、不思議なくらい体に何も感じないトレーニングが始まった。
「これでも筋断裂の痛みで苦しみが半端でなさそうだけども……」
 そう、あまりに何もなく暇である。なのでユエリャンは自分の好きな話をすることにした。
「……そこで如何にオリヴィエが優れているかというと……おい木霊、まだ話しているだろ寝るな!」
 その声に船をこいでいたリュカがこちらに戻ってくる。
「ユエちゃんさ。あれだよね……」
 寝ぼけつつ何事かを伝えようとするリュカ。
「もやしのお兄さんが言うのもなんだけどユエちゃんも豆苗とかかいわれっぽいもんねぇ」
「うむ、吾輩の話を全く聞いていなかったことが分かったな、では最初から」
 その時である。となりでマシーンにかかっていた『藤林 栞(aa4548)』がもがきだした『藤林みほ(aa4548hero001)』は真っ青である。
 最初は栞も……。
『拷問訓練は忍者の修行の一つ、電撃ならある程度なれてますよ!』
 なんて、余裕癪癪だったのだが。
「あびゃびゃびゃびゃ!! おおfぎえhfq8yふぉいh!!」
 なんて、吊り上げられた魚のようにビタンビタンしている。ますますみほは引いていく。
「あら、おかしいですね、機械と相性が合わなかったのかしら」
 そんな係員の発言を聞いて
「美味しい話には裏があるという事かしらね……正直英雄に代わって欲しいくらいなのだけど」
 しかし逃げることはできないらしい、幸い栞以外はマシーンによる痛みは、それほどでもなかったみたいだが、それ以外の被害がメンバーに出ていた。
「えっすごい、これが我輩……」
 鏡を見せられたユエリャン。唖然と絶句。それ以上の言葉が出ないほどに引いている。
「いや、手で触ってもわかるよ、これが、マッスルなんだね」
 リュカが満足そうにつぶやいた。
 その隣でトレーニングに失敗してヘロヘロになっている栞。
「まだまだ!もう一回おねがいします!」
 そう係り員さんに縋り付いて、みほには自分一人でやれと突き放されて、またマシーンに身を沈める栞。
「いいえ! もうムリ! ギブアップです! え、そういうの無い!? そういうの無いって何!?」

「pwふぉへwfh!!pごいwhfg@う!!!」

 みほは呆れてため息をつくことしかできなかった。

● そのころのダンスホールでは。

 結がマットの上で寝転がらせられていた。
 次はダンス室でエクササイズのようだ。
 といっても、どうしても彼女の知ってる範囲だと動きが武術から来てるものになるので。どうもエクササイズとは違う様子。
 そんなサラの視線はダンスホールで向き合う秋姫の方へと注がれていた。
「ちょっと行ってくるわ。サボったらわかるからね?」
「うぅ……サラの鬼ぃ……」
 サラは秋姫たちを食い入るように見つめている。あちらに意識を向けているから大丈夫だろうと思ったのもつかの間。
 さぼっていればばれると思った結はトレーニングを開始する。
 そんなサラたちの横をすり抜けて、征四郎とオリヴィエが入室した。ダンスホール内で防具を身に纏い竹刀を向け合う。
 剣道、それも試合形式である。
「いいですか、剣道の礼の仕方は……」
 そんな征四郎の説明がめんどくさいのか顔をしかめるオリヴィエ。
 そんな彼らと同じフロアで拳をぶつけ合う。
「それでは…………始めましょうか……」
「ああ……やるか…………」
 秋姫と修羅姫の大バトルである。蹴り等の脚技を主軸にした模擬戦が繰り広げられる。
「それでは……」
「では……」
「「……勝負!」」
 空中で二人の回し蹴りが交差した。
 そんなものを見せられると燃えてくる征四郎とオリヴィエである。
「言っておくが、手加減なんてしないから、な?」
「当然なのです。手加減なんて許しません」
 そう言いつつ、征四郎はオリヴィエの防具を最終点検してあげる。
「わかってますよ、でも、ああ、竹刀の握り方が違います。ての間がそんなに狭いと竹刀を……」
 その時である。オリヴィエのしないが流れるように征四郎からメンを取った。
 イチカメ、ニカメ、サンカメ。どのカメラから見ても綺麗な一本。
 征四郎はのけぞりながらその事実をどう受け止めた者か吟味している。
「ほら、俺のかち。さぁ次は俺の土俵で」
「ちょっと待ってください!」
 征四郎がオリヴィエの肩を掴んだ。
「武道は礼に始まり、礼に終わるのですよ。今のはなんですか?」
「隙だらけだったからな、つい」
 面をつけているせいで見えなかったが、征四郎の額に青筋が立った。
 まぁ、オリヴィエとしてはちょっとした悪戯のつもりだったのだが、思いのほか聞いたらしい。
「試合ではないので無効です。さぁやりますよ。オリヴィエ」
「ああ、望むところだ」
「オリヴィエ! 今日こそ決着をつけるのです!」
 軽い礼のあと二人は飛んだ。
 オリヴィエは身長差を活かして真正面から堂々と面を決めに行く。だが征四郎とて戦士である。英雄との地力差を埋めるため一撃離脱を繰り返す、それはまるでスーパーボールが地面を飛び跳ねているように軽やか。
(…………視線を感じる!)
 そんなオリヴィエの勇士を暗がりから撮影する何者か、その人物の気配に気を取られている隙に。
「めええええええん!」
 したったらずにそう征四郎が叫んで見事に一本を取った。
 それでオリヴィエにも火がついたらしい。二人は脱水症状手前になるくらいにはしゃいだ。ただ最後にはきちんと礼をして防具を脱ぎ捨て床に転がる二人。
 肩で息をつきながら、どっちが勝ったか問いかけあう。
「ま、まだ負けてないのです! もういっかい!」
「いや、もう時間だ、食道に戻るぞ」
 そうオリヴィエが立ち上がり、征四郎に手を差し出す、すると征四郎は満面の笑みを浮かべてその手を取った。
「……やっぱり、征四郎はオリヴィエのような兄さまが欲しかった、です」
 馬鹿にしない、手を抜かない、そういうオリヴィエの様子には素直に感謝の言葉を一つ。
「ありがとうございました。オリヴィエ」

   *   *

「……やはり、トレーニング器具は良いな」
 恭也は汗をタオルで拭きつつ、隣に立つリュカとユエリャンにそう告げた。
 ここは食堂、職権売場まえ。
「家に空き部屋もあるし、今度の依頼料で一つ購入してみるか……」
「いいんじゃないかな、恭ちゃん。俺も欲しいと思ってたところなんだ、今度一緒に見に行こうよ」
「だた、伊邪那美が何というか……」
「そう言えば彼女はどこに?」
 そのリュカの言葉に恭也は溜息をついてプールだと告げた。
「少々、気に過ぎだとは思わんか? 前の依頼が大食いだったらから体重が増えたと言っても適正重量内のはずだ」
「でも、乙女だからねぇ」
「ああ、無茶をしていないか心配になってきた」
 恭也は買ったばかりの食券をリュカに押し付けて踵を返す。
「インストラクターが付いているから平気だと思うが……我を忘れて無茶をしている可能性があるな」
 そんな恭也と入れ違いでオリヴィエが食堂に到着する。
 食堂に戻ると、オリヴィエは信じられないものを見た。
「あ、んたら、一体何があった、どうしたんだその身体は…!」
「はっ、リュカもユエリャンも、なんと、素敵な……!」
 二人は驚くべき変化を遂げていた。美しいシックスパック、まるく盛り上がった肩、それどころか等身すら代わってもはや別物。
 オリヴィエはそんな二人に飽きれ、征四郎は目を輝かせた。
「ねぇ見てみて! ちょっと力強くなったでしょ!」
「ちょっとどころの騒ぎなものか!」
 珍しく感情を揺れ動かすオリヴィエ。
「さて、リュカよ、吾輩はプロテインを摂取したい気分だ」
「奇遇だね。俺もだよ、何食べようかな」
「洗脳までされてるじゃないか……」
 心底絶望したように言葉を絞り出したオリヴィエ、そんな彼を座らせて続々と運ばれてくる。料理をユエリャンが切り分けていく。
「オリヴィエ、食べていないが大丈夫であるか。小さくするか?」
「食べられない理由は別にあるんだが……」
「あれ? オリヴィエ、プロテイン足りなく無い? おかしくない? 何でこのお酒プロティーン入ってないの?」
 リュカに至っては酒にまでプロテインを要求する始末である。
「ショッカーにでも、連れていかれたのか……?」
 終止、筋肉に挟まれ気が気ではないオリヴィエであった。

●幕間の雨月
 筋肉断裂マシーンから解放された雨月は水着に着替えてプールに浮かんでいた。
 酸素カプセルの予約時間になるまでの暇つぶしである。
「うーん、筋肉トレーニングより、こういう癒しの時間の方が必要かもね」
 そう、しなやかな体をひねって潜水する雨月。
 いわばサービスシーンであった。

● タウリン一万ミリグラム

「今までのあらすじ! とある依頼でボクの嘘をまんまと信じ、大量のわんこそばを食べてしまったマスターは、摂取した(ピー)kcal分の運動をする為にココへやってきたのである!」
「ストゥルぜったいゆるさない」
『ニウェウス・アーラ(aa1428)』が超高いボルダリング場を背景に高らかに告げると『ストゥルトゥス(aa1428hero001)』が感情も込めずに告げた。
 そんなニウェウスにストゥルトゥスは改めて尋ねる。
「んで、どれやるのさ」
「アレ」
 背後に控えた『超絶!! ボルダリング』を指さして、ニウェウスは告げた。
「マジで?」
「普通のなんかじゃ……あのカロリーは、消費できない……」
 すたすたと歩きよるニウェウス。しかし、真下から見たら結構な高さであった。
「アッハイ。まぁ、寝たまま以下略とか、どう考えてもヤバいプールよかはスタンダードでマシかねぇ」
 ストゥルトゥスはまぁいいかと、ため息をついて準備を始める。
「ストゥルも、やるの」
「ゑ」
 笑顔で固まるストゥルトゥス
「……やる、よね?」
 目が据わってるニウェウス。
 ただ、その隣ですでにボルダリングにチャレンジしている栞。という方がいらっしゃるのだが。彼女の惨状を見ると首を縦にふりずらい。
「元々忍術修行にあるものです! 山岳修行は忍者の基本!」
 そう叫んでいた物の。
「ああああ滑落するーーー!!」
 平地で長く走るための呼吸法でがんばったのだが、さすがに超高山に非共鳴では無理があり途中でバテてて、結局あれである、落下である。百メートルの高さをバンジーである。
 思いつめないよう、思考をリセットして、ゆっくりと登って高山に体を適応させながら登るも……
「ああああ、もう、だめーーーー」
 そう地面に降りた栞はがたがた震えていた。
「防寒は完全にしてきたのに寒い…あそこ何度ですか…」
「あ、あのマスター、やっぱりやめておいた方が」
「やります」
「でも」
「やるから」
「ヤラセテイタダキマスゥ」
 そうカクカクと首を振るストゥルトゥスであった。
 さっそく二人とも、Tシャツ&短パンに着替え、ボルダリングシューズを借りてレッツチャレンジ。
「脂肪、死すべし……慈悲は無い、よ」
「愚神と戦う時よりも殺気出てるぅ」
 二人は連携して上り始める。最初のうちはあまり普通のボルダリングと変わらない。50Mまでは余裕のよっちゃんである。
「ん……思っていたより、いける……かも」
 ニウェウスはそうストゥルトゥスの先をするすると上ってストゥルトゥスを見下ろす。
「何だかんだで修羅場くぐってるからねー。鍛えられてるんじゃない?」
「かも。……ところで、ストゥル。余裕、あるね?」
「これでも生体兵器っすからー☆」
「な、なんか……不公平っ」
 だがそこを超えてしまえば、酸素も薄いし筋肉がぴくぴくしてくる。
 一言で言うとシンドイ。
「さ、流石に……空気、うす……っ」 
 ニウェウスがつぶやく、空気は薄いくせに運動量が多くなっているので体は酸素を求めだす。深く深く息をしなくては酸欠に陥りそうだ。
「セミだ、セミになるのだ!」
 その隣でストゥルトゥスがかさかさと軽快に壁を登ったり下りたりしている。
「それ……セミ、と言うより」
「と言うより?」
「ゴキb」
「おおっとそこまでだ!」
 とか言いつつも、二人は茶番を繰り広げながら上る元気があるようで。ラスト頂上付近では、先に上っていたストゥルトゥスがニウェウスに手を差し伸べる。
「そこだっ。いけ、マスター! 気合いだ!」
「む、むー……後、少し……」
 汗で手を滑らせながらも一歩一歩確実に上っていく。
「ファイトー!」
 強く伸される腕。その手を。
「い、いっぱーつっ!」
 ニウェウスはがしっと掴む。二人の脳内で、ザパーンと波の音が響いた。
 ストゥルトゥス、満面の笑みである。¥
「……もしかして。先に登ったのって……今の、やりたかった、だけ?」
「あ、分かる?」


● 幕間の雨月
 酸素カプセルから上がると、体が乾いていることに気が付く雨月。
 ためしにやたら押されている水素水を飲んでみることにする。
「あら、美味しいわね……それ以外はただの水」
 雨月はせっかくの機会なので水素水をおかわりした。


● 水素、プール、ふきつ。

 そして一行は最後の難関にたどり着く。
 調圧水素水プールである。
 このプールは自在に水圧を代えられるのが売りだが、自分に合わない水圧を選ぶとあんな感じになる。
「~~~!!!  ~~!!? !?」
 栞が有無も言わさず水の藻屑と消える。
『古式泳法は習得してますよ! 水泳ならどれほどハードでも余裕ですよ!』
 そう、みほが止める間もなくプールに飛び込んだ矢先にこれである。
 だが栞もあほではない、ちゃんと作戦を考えてある。
 泳げないなら皆底を歩けばいいじゃない。
 ただその作戦の欠陥にすぐ気が付くことになった。
(あ、これどうやって浮かべばいいんだろう)
 チーン。
 救助される栞。
 だが同じ水圧でも伊邪那美は堂々と泳いでいる。
「負けられない、勝負がボクにあるんだ~!」
 これで六往復目、目標消費カロリーまでまだ遠い。
 
● 暁訓練
「おい! スズ。ここに行くぞ」
「はい? どーしたんですか、ネーサン。たまの休日ですよ」
「いいから行くぞ、最近は隊長業務で追われてトレーニングが疎かだったろうが」
「まぁ、確かにそうかもしれませんね、たまには優雅に汗をかくというのも……」
『煤原 燃衣(aa2271)』がそう微笑みながら振り返るとそこには
『ネイ=カースド(aa2271hero001)』そして『青槻 火伏静(aa3532hero001)』
 と挟まれるように『無明 威月(aa3532)』が立っていた。
「あれ? どうしたんですか? 一緒に行くんですか?」
「ああ、一緒にトレーニングしてもらうぞ、スズの威月を背負わせながらな!」
「……あの……意味が分からないんですが」
「うるさい、口答えとは、生意気だ。いい、意識を奪ってしまえ火伏静」
「あいよ」
 直後、後頭部に衝撃を受け。燃衣の意識は沈んだ。
 僅かの時間に寝て起きて。
 目覚めてみるとなんと。
 体にがっしりと威月が括り付けられてるではないか。
「なんですかこれええええ!」
「……あ、あの。たいちょ……あの」
 顔を真っ赤にして俯いてしまう威月、そんな威月をどう扱っていいか分からないピュアボーイ燃衣へと、二人の悪魔は順番に声をかける。
「ま、ウチの威月の為にも、ここぁひと肌脱いでくれよ、タイチョー」
「この程度の訓練、駆け出しの頃には毎日してただろうが。今更このレベルでは意味がない」
「訓練!? これ訓練なんですか? 何の訓練!? いや、あの……何故威月さんを背負う必要があるのか、何故威月さんなのか……。そ、それに…強引ですよ。威月さんだって嫌がtt……」
「筋肉のだろうが! わかれ!」
 ネイによる平手打ちが燃衣の頬を赤く染める。
「わかりました、百歩譲ってウエイト変わりだとしましょう。いや、レベルは分かるんですが……何故《威月さんを背負って行う》なんて特殊任務が発生したんですか」
「……あ、あの……すみ、ません隊長……私などでは、迷惑……です、よね……」
 涙目の威月。それをいいことにネイが騒ぎ出す。
「お? なかしたのか? 隊長はまた女の子を泣かすのか? この前女の子の胸ぐらをつかみあげてなかったか?」
「わーーーー、風評被害です、それにあれは壁に押し付けただけで」
 それもまた怪しい言動だが燃衣は気が付いていない。そこに火伏静が畳み掛ける。
「よぉ隊長……まさか、ウチのムスメに恥欠かす気じゃ~ネェだろうなぁ~?」
「ちが、え……いや、その。嫌じゃないです!」
「嬉しいか?」
 ネイが問いかける。
「それに答えたらやばいでしょ!!」
「……迷惑ですか?」
 うるうると瞳を潤ませる威月である、瞬きでもしようものなら涙が零れ落ちそうである。
「わああああ、嬉しい、嬉しいですからなかないで」
 そんな光景を目の当たりにしながら火伏静は思っていた。
(隊長……おもしれぇな)
 そんな燃衣の不幸が始まったのは昨日の夜からである。
 ネイは火伏静と飲む機会があり、二人で卓を囲っていた。そのときにちょっとした相談を受けたのである。
「ウチの威月に男が苦手なのを治させるにゃーどうしたらいいかねぇ」
 そうため息をつく火伏静。
「タイチョーならまだ、大丈夫らしいんだがよ……ま、長い付き合い故の信頼ってヤツか」
「……さぁな、俺はお前ほど過保護じゃあない。俺なら不良どもの巣に放り込むがな」
 熱燗でイカを貪るネイである。夏なのに。
「フッ……なら、そう言えばこんなモノがあるんだが」
 そう火伏静が笑って取り出したるはジムのチラシ。
 そのチラシを見てネイの表情が変わった。
「ウチのスズを使ってみるか?俺もそろそろスズをイジm…また鍛えようかと思っていた。俺の退屈しn…暁の未来の為にも、スズと威月、両方を鍛える良い機会だ」
「あんたホント、隊長イビんの好きだな……まぁそれじゃ、遠慮なく隊長を使わせて貰うぜ」
 そして時間は今に戻る。
 騒いで疲れてぐったりしている燃衣へネイが告げた。
「……これは青槻たっての依頼でもある」
「わかりました、やりましょう、やればいいんでしょ!!」
 結果燃衣の心と体が試される訓練が始まる。
 先ず、カプセルに入るやつ、あれは惰弱だとネイに切って捨てられた。ボルダリングから始める。
「……っ! たか……。こわ……い」
 ボルダリングだが、ところどころ傾斜があって、威月が落ちそうになるのだが、そのたびに燃衣に強く絡まり、燃衣は気が気ではない。
 柔らかい何かが押し当てられ、髪の毛が揺れるといい匂いがする。
「おーい威月ぃ! そんなんじゃ落ちるぞぉー! もっとタイチョーにしがみ付け!」
「うわああああああああ」
 叫びをあげて一心不乱に壁を登る燃衣である。
(か、完全に、想定外でした)
 ネイはなけなしの思考力を振り絞り思う。
(無明さん、意外とすごい! これなら平気だと思ったのに! 思ったのに!)
「おいこら! 燃衣雑念を感じるぞ、十周追加だ!」
「ぎゃあああああああ」
「威月! スズの背中のツボを押してやれ! 力が出る!」
「だめです! それは絶対わな……」
 威月は素直な子だった。その結果燃衣の背中のツボを押してしまい。
 笑いが止まらなくなった燃衣は見事に取っ手を掴み損なう。
「あ……」
 数十メートルの高さを落下する燃衣。だが、ネイの指示によって命綱はなかった。
 このままでは2人そろって大けがである。
 であれば。
「うおおおおおおおおお!」
 燃衣は火事場の馬鹿力で着地すれすれで体の向きを変える。
 そして、威月を抱きかかえるように前転落下の威力を殺す。
 結果燃衣は壁に突っ込んだが奇跡的二人にけがはなかった。
「ああ。大丈夫でしたか? 無明さん」
「……痛く、ないですか?」
 か細い声で問いかける威月、その言葉に燃衣は笑顔で大丈夫だと答えた。
「……なんでここまで、できるんですか?」
 問いかける威月。その言葉に燃衣はあっけらかんと答えた。
「…簡単な理由ですよ。威月さんと同じです。《もう、誰も喪いたくない》……その為なら何でもやります」  
 威月の頬が赤く染まる。それは燃衣の真剣な瞳に心を撃ち抜かれたから……。
 ではない。
 少し冷静になって感覚が戻ってきた結果、胸に手が当たっていることに気が付いたのだ。
「…っ……ぃやぁあああっ!」
 直後吹き飛ばされる燃衣。
「……おー、声出たな威月」
 そう火伏静は愉快そうに笑った。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 全てを最期まで見つめる銀
    ユエリャン・李aa0076hero002
    英雄|28才|?|シャド
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 誇り高きメイド
    秋姫・フローズンaa0501
    人間|17才|女性|命中
  • 触らぬ姫にたたりなし
    修羅姫aa0501hero001
    英雄|17才|女性|ジャ
  • 語り得ぬ闇の使い手
    水瀬 雨月aa0801
    人間|18才|女性|生命



  • カフカスの『知』
    ニウェウス・アーラaa1428
    人間|16才|女性|攻撃
  • ストゥえもん
    ストゥルトゥスaa1428hero001
    英雄|20才|女性|ソフィ
  • ひとひらの想い
    想詞 結aa1461
    人間|15才|女性|攻撃
  • 払暁に希望を掴む
    サラ・テュールaa1461hero002
    英雄|16才|女性|ドレ
  • 紅蓮の兵長
    煤原 燃衣aa2271
    人間|20才|男性|命中
  • エクス・マキナ
    ネイ=カースドaa2271hero001
    英雄|22才|女性|ドレ
  • 暁に染まる墓標へ、誓う
    無明 威月aa3532
    人間|18才|女性|防御
  • 暗黒に挑む"暁"
    青槻 火伏静aa3532hero001
    英雄|22才|女性|バト
  • サバイバルの達人
    藤林 栞aa4548
    人間|16才|女性|回避
  • エージェント
    藤林みほaa4548hero001
    英雄|19才|女性|シャド
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