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切り裂きジャックとエメラルド
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最終発言2017/07/04 22:51:26 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2017/07/03 21:49:51
オープニング
●魅惑の宝石
『きれーなエメラルドですぅ』
資料に目を通した小鳥は、うっとりと呟いた。資料と共にクリップに張り付けられた写真には、海外セレブしか身に着けないような首飾りが写っている。中央の台座には人間の瞳ほどのエメラルドがはめられ、周囲の台座にはダイヤモンドがきらめいている。金具はプラチナで、まさに贅を凝らした首飾りである。正義はこの首飾りの値段が億でも「まったくおどろかないやろな」と思った。
「この首飾りは、呪いの首飾りなんです」
正義に資料を見せた職員は呟く。
「まぁ、宝石にいわくがあるのはよくあることやしな。がめつい宝石の持ち主やと、自分の宝石の価値を上げるために自分で呪いうんぬんの話をつくるって聞いたこともあるし」
「そういうことではなくて、この宝石は『自分を弱く見せて、敵からの注意を集める』という効果のアイテムだったのです」
「……なんやて。なんで、戦闘用のアイテムがこんなに高価やねん!!」
関西人らしく、正義はつっこんだ。
とある富豪が唐突に思いついた。
手持ちの宝石で、リンカーたちの戦闘に役立つアイテムを作れないか。半分冗談みたいな考えだったが、話題にもなるだろうしと職人に制作させた。
その結果できたのが、呪いのエメラルドである。
「効果としては、身に着けている……あるいは持っているだけで敵から優先的に狙われる効果か。こっちとしては、高価すぎるアイテムなんて持ちたくないんやけど」
恐ろしいのは、このネックレスを富豪からレンタルしているという点である。保険には入っているというが、それでも持つ手が震えてしまう。
「これ使って、何をすればいいんや?」
「切り裂きジャックの討伐をお願いしたいんです」
●切り裂きジャック
切り裂きジャックとは、最近噂になっている従魔たちのことである。視界の悪い霧の日に、突然あらわれて人を襲うと言われている。この従魔のやっかいなところは――目撃情報が極端に少ないということだろう。なにせ、切り裂きジャックと対面したものがほとんどが亡骸になっている。H.O.P.Eにある情報は
――彼らは人型である。
――彼らは複数である。
――彼らは奇襲戦を得意とする。
ぐらいである。
「この首飾りで切り裂きジャックをおびき寄せて、とりあえず奇襲はなしにするんやな」
『正義……どうしてせっかくのアクセサリーをビニール袋に入れるんですぅ』
透明なビニール袋に入れられたエメラルドのアクセサリーは、イミテーションのようにも見えた。作った職人が怒りそうな運び方である。
「せやかて、直接手に持つのは怖いんや」
霧のでた――人気のない夜。
正義は集まった仲間たちと共に、首飾りを持って歩いていた。切り裂きジャックをおびき寄せるためである。
「それにしても、出てこないもんやな。偽物やったんやろか」
別にアイテムには、そんなに期待はしていなかった。
それに、別物だったときのほうがH.O.P.Eに早く返せるというものである。
『正義! 後ろです』
小鳥が叫んだ。
気が付けば、正義たちは周囲には人影と呼ぶには小さなものに囲まれていた。
「あれは……チンパンジーや」
解説
従魔の討伐
公園(夜中)……霧が発生している公園。木々が多い都会のオアシス。街灯は比較的多いが、視界が悪い。夜中のために民間人はやってこない。
従魔……チンパンジーの剥製に従魔がついたもの。手先が非常に器用であり、首飾りを持っている人間から優先的に狙う。公園内に様々な武器を隠しており、その武器の使用方法を学習すると使い始める。二十匹登場。木々の上からの奇襲が得意。なお、大きさは人間の子供ほどである。
モノマネ――敵の武器使用方法を見て、真似をする。技を真似することも可能である。敵が技を出せば出すほど、技の多様性が増えていく。なお、武器を使用しない武術などにも使用することが可能。
マウンティング――大きな声を上げながら胸を叩き、攻撃力と素早さを上げる。
ワナ――数が半数以上減ると木の上から爆弾を投げつける。
気配殺し――霧にまぎれて気配を消す。察知することは非常に困難。
ボス(従魔)……ゴリラの剥製の従魔。二メートルほど。チンパンジーの数が半数以上減ると出現する。チンパンジーと同じ技を使用することが可能。一匹出現。スピードはないが、パワーに優れている。知能が高く、武器を使うだけではなく敵の武器の破壊も狙ってくる。腕力が強く、掴まれれば怪我はまぬがれない。
正義……最初に首飾りを持っているために、敵から集中攻撃を受けてしまう。あまり長く首飾りを持っていると、倒れてしまう。
首飾り……持っていると敵にはライブスが弱く見えるようになり、敵からの攻撃を受けやすくなる。非常に高価であり、壊れやすいので注意が必要。借り物なので一部でも部品が壊れると依頼失敗となり、傷がつくと報酬が減額される。(PL情報――首飾りには呪いがかかっており、持っていると体力が少しずつ削られていく)
リプレイ
おそらくは、イギリスで一番有名な殺人鬼。
夜の霧にまぎれて娼婦を殺す、殺人鬼。
それがエメラルドの首飾りに誘われて、夜の公園に登場する。
「チンパンジーやないかい!!」
正義の関西人らしいツッコミがさく裂した。
●夜の公園
リンカーたちは、濃い霧のなかで敵と対面していた。もっとも、敵は霧と公園の木々を使って姿を隠してしまっていたが。
「成程。H.O.P.Eからの情報に間違いはないが、想像以上に厄介な相手だな」
御神 恭也(aa0127)は、あたりを警戒しながら呟いた。
切り裂きジャックを聞いて、てっきり犯人は人間であると恭也は思い込んでいた。だが、蓋を開けて見れば現れたのは猿である。だが、油断はできない。チンパンジーは、人間を上回る身体能力を持っているのである。
『カラスじゃないのに光物に興味があるのかな?』
伊邪那美(aa0127hero001)は、不思議だねと呟く。
今は正義が手に持っているエメラルドは、恭也が胃痛を起こすほどの値段であった。直接持つのが怖いという理由で、正義にビニールの袋に入れられてしまっているが。
「猿が従魔化したところで、頭脳で人間に勝てるものか……」
黛 香月(aa0790)は、樹木に上っているらしいチンパンジーを警戒する。未だに姿が見えないのが厄介だが、いるとわかっているのなら警戒は怠れない。
『貴公、獣だと思って油断していると痛い目をみるぞ。注意せよ』
清姫(aa0790hero002)は、煙管をふかしながら呟く。
『切り裂きジャック……イギリスで有名な殺人鬼の名前ですが、まさかチンパンジーの群れだとは予測できなかったですね』
ノア ノット ハウンド(aa5198hero001)は、残念とばかりに肩をすくめる。本物かもしれない、とちょっとばかり期待していたらしい。
「あれのどこが切り裂きジャックなのよ! かっこいい紳士キャラはどうした!」
木に向かって、雪室 チルル(aa5177)は「チェンジで!」と叫ぶ。
その隣では、スネグラチカ(aa5177hero001)もため息をつく。
『いや、まあ、たしかにあれが切り裂きジャックって言われてもねー……』
「あんた達はあたいの期待を裏切った! よってやっつける!」
切り裂きジャックって紳士キャラだっけ? とスネグラチカは首をかしげる。正体不明の殺人鬼は、少女の妄想のなかで紳士キャラに変貌を遂げているようである。
『どっちにしても放置できないしね。ここでやっつけちゃおう』
「そう、だね……。でも、厄介な事には変わりない……気を引き締めよう。ここは、相手の土俵なんだから……」
スネグラチカの言葉に、紀伊 龍華(aa5198)は頷いた。
「それにしても……初めての討伐の依頼で、まさか戦う相手がチンパンジーなんて」
運が悪いのか良いのか、と龍華はおどおどしながら周囲を疑う。
『今さら、緊張ですか? しゃんとしてくださいですぅ』
ノアにたしなめられて、龍華は背筋を伸ばす。
「うん……そうだよね。自分にできることをやらないと」
誰にだって始めてはあるんだから、と龍華は頑張って自分を鼓舞していた。
「無駄口叩いている時間は終わりらしい。来るぞ!」
逢見仙也(aa4472)は、正義に向かってきたチンパンジーに向かってストームエッジを使用する。多数の刀剣を敵に向かって放ち、突き刺そうとしたのである。
『まずは、一匹は始末できたというところだな』
ディオハルク(aa4472hero001)は『余裕ではないか』と囁く。
「だが、良田さんを狙ってきたということは……首飾りの効力は本物ってことだろな。そっちのほうが厄介だぜ。壊したら不味い時点で失敗だよな。戦闘や囮に用いるには」
『宝石に付与するより売った金で支援する方が良いだろ。使い道を選べるし』
舌打ち一つして、仙也は正義の持つエメラルドを見る。高価なそれは壊れたり傷つけたりは絶対にできない品で、守りながら戦うのは面倒だ。そして、もう一つ気になるのは正義の顔色がさっきからすぐれないということだ。聞いてないが、首飾りになにかバットステータスを付与する効果があるとしか思えない。
『はー、何だって宝石なんざ使っちまったかねぇ。ぞんざいに扱うなよ、颯佐ぁ』
高価なエメラルドを面白そうに見つめる伽羅(aa4496hero001)に、黒鳶 颯佐(aa4496)は首を振った。
「……その言葉、そっくりそのままお前に返す」
高価な品物が絡んでいるというのに、二人の声色には緊張はない。というよりも、エメラルド自体にあまり興味を持っていない様子であった。
『私が、エメラルドを持ちます』
CODENAME-S(aa5043hero001)は、見かねて正義から首飾りを譲り受けた。ずしりと重い感触に、CODENAME-Sは『うわー』と人知れず声を漏らした。
「切り裂きジャック……イギリスの事を思い出すな……」
ぽつり、と御剣 正宗(aa5043)は呟く。
『正宗さんはイギリス出身ですからね。でも、今はエメラルドのほうに集中です』
持っているだけでちょっと怖いんですよね、とCODENAME-Sは苦笑いする。高価なものを持っているというのはそれだけで緊張するのに、敵に狙われるという効果までプラスされている。それに、この首飾りをもった瞬間から不思議と体がだるい。
チンパンジーの一匹が、CODENAME-Sをめがけて攻撃を繰り出す。
手には剣があり、その技には見覚えがあった。
『あれは……まさか、さっきのストームエッジですか!?』
CODENAME-Sの言葉に、その場にいた全員が困惑する。
敵のチンパンジーは、こちらの技を全てコピーしてしまう技を持っていることが明らかになったからである。
「危ない!」
龍華は、CODENAME-Sを庇う。
『下手に攻撃すれば、敵に技を教えてしまうようですぅ』
どうしますかね、とノアは尋ねる。
「えっ、ええっと――こうするよ!」
龍華はチンパンジーの手元を狙い、武器を落させるように攻撃する。踏込が甘く、チンパンジーの手に攻撃はかする程度であった。だが、初めての攻撃にノアはにんまりと笑う。
『よくできましたですぅ』
「ふっ……。猿風情共が……滑稽な事をするようだが、果たして辻斬りまで真似れるのはどこのどいつだろうな……」
刀を持った吉備津彦 桃十郎(aa5245)は刀の鯉口を切り、チンパンジーを後ろから切り捨てる。刀一本だけをもってふらりふらりと歩く彼女の姿は、まるで柳のようであった。
『見ているだけでイライラする……あやつらの喉もとを今すぐ掻っ捌いてやりたいわ!!』
がるるる、と犬飼 健(aa5245hero001)は猿に向かって、犬歯を見せていた。
それを察したかのように、チンパンジーたちは大声を上げながら胸を叩く。マウンティングにより、チンパンジーたちの攻撃力と素早さが上がった。
「どうやら、彼らは他人の技をコピーする性質を持っているようだ」
エスティア ヘレスティス(aa0780hero001)と共鳴した晴海 嘉久也(aa0780)、は「戦えば戦うほどに強くなると言うのは厄介か」とカチューシャを装備しながら呟く。
『切り裂きジャックといえば……確か、未だに正体が分かっていなかったりするんですよね。まあ、分かったとしても公表はされない気もしますけど……。それにしても、そんな物まで猿まねするとは……困ったものです』
エスティアは、頬に手を当てながら『はぁ』とため息を吐く。彼女も、切り裂きジャックにロマンを感じていた口なのかもしれない。
「いくぞ!」
嘉久也はカチューシャを頭上の木に向かって発射する。これで隠れているチンパンジーに揺さぶりをかけられるはずである。嘉久也はすぐにNAGATOと呼ばれる大剣に持ち替えて、あえて両手持ちの剣を片手で握る。
――さぁ、勘違いしろ。
武器には正しい持ち方がある。
それに従わずに無茶な持ち方を続けていれば、いずれ体のどこかが悲鳴を上げるはずだ。
嘉久也はそれを狙って、あえて間違った武器の使い方を猿に教え込ませる。チンパンジーは案の定、どこからか持ち出してきた剣を片手で持ち出した。
これはいけるかもしれない、と嘉久也は人知れず微笑む。
『……コロス』
そんな嘉久也の後ろで、殺意を隠しもせずに立っていたのはジャック・ブギーマン(aa3355hero001)である。
「ジャックちゃんの表情が死んだ!? さっきまで『切り裂きジャックねぇ……キヒヒ、面白ぇじゃねぇか♪』って笑ってたのに」
よっぽど我慢できなかったんね、と桃井 咲良(aa3355)はほろりと涙を流す。参考した名前だけあって、ジャックの殺人鬼の思い入れは強かったのだろう。なのに、正体は猿だ。怒りたくもなるであろう。
アサシンナイフを身に着けたジャックは、木から落ちてきたチンパンジーに見つからぬように潜伏を使用する。
『本物の殺人鬼ってやつを見せてやるぜ』
そう呟いたジャックは、チンパンジーに対して女郎蜘蛛を使用する。動きを制限された敵に対して、ジャックは悪い笑みで答える。
『文字通りの猿真似野郎共が。大層な名前騙ってんじゃねぇよ、クソが。死ね、ただ只管死ね』
「別に、このお猿さん達が名乗った訳でもないと思うんだけどなぁ……」
ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てるジャックに、咲良は思わずぼそりと呟く。切り裂くジャックの名はメディアかH.O.P.Eの職員あたりがつけたのであろう。それを言ったら、人間がとばっちりを食いそうなので咲良は口をつぐんだが。
「もう、無理だな。交代するぞ」
颯佐は、CODENAME-Sからエメラルドを譲り受けた。
やはりエメラルドを持っていると体力を削られるらしく、CODENAME-Sは自身にケアレイを施す。
『すねんなよ、颯佐ぁ。後で代わってやっから』
楽しげに伽羅はウェポンディプロイ発動させ、棺桶形の盾であるあなたの美しさは変わらないを使用する。洒落た名前の棺桶に入った伽羅は、棺桶が透明なのをいいことに敵の観察にいそしむ。エメラルドにつられてチンパンジーは、どんどん集まっている。
「宝石持ちの護衛は任せて!」
チルルはリフレックスを構えて、チンパンジーから伽羅を守ろうとする。チルルが持つ盾は、少々特殊な盾である。猿たちがこの盾に映されたものは呪いによってダメージを受けるはずである。チルルは、その瞬間を狙って盾を構える。
『確実にチンパンジーを倒す作戦なのかな?』
「ええ。それに、宝石が壊れたら大変だからね」
あたいたちに任せてと声をそろえるチルルたちに向かって、透明の棺に引きこもった伽羅は下がるように指示をだす。彼女たちの申し出は大変ありがたいが、伽羅は伽羅でやってみたいことがあった。もちろん、このまま引きこもっているだけなのも可能だが、それだけでは面白くはない。
『コピーした技には、こんな使い方もあるけど知っていたか?』
伽羅はチンパンジーに尋ねながら、ストームエッジを使用する。
最小の労力で敵にダメージを与える伽羅を颯佐は、面白なさそうにみていた。その理由が分かっている伽羅は、ケラケラと笑う。普段の颯佐の戦法は、目についたものを切るという作戦もなにもないものだ。伽羅がやっているような、閉じこもっての防衛戦はまったく好みではないのである。
『比べてみると、あいつらの方が頭良さそうに見えるわぁ』
面白そうに笑う伽羅の声を颯佐は聞こえないふりをした。伽羅が敵を誰と比べているのかは、聞かなくとも分かったからである。
そのとき、どしんと地面が震えた。
『見て、ゴリラだよ。動物園から逃げてきたのかな?』
伊邪那美は、うわーと目をぱちくりさせていた。
「そうだったら、楽だったろうな」
『やっぱり、従魔だよね』
恭也は、ちらりと颯佐たちを見た。どうやら、ゴリラにもエメラルドの効力は効いているらしくそちらに向かおうとしている。
「ほう、猿の親玉はやはり猿であったか……面白いな。どれほどのもんか……試してやろう。だが、まずは残っている猿が先か」
桃十郎は刀を握りながら、残りのチンパンジーを睨みつける。
「狙いは、やはり宝石を持つ者らしいな……。撒き餌には有効的な物だが、せめてもっと安い素材で作れんのか」
本当に胃が痛むらしく、恭也は無意識に腹をさすっていた。
『弱そうに見えるのに加えて、高そうな物だから簡単に奪えると思って襲って来るんじゃないの?』
「せめて、イミテーションにして欲しい物だな」
ドラゴンスレイヤーを握りながら、恭也は胃薬が欲しいと小さく呟く。
「……相手は能力を真似するか。だが、技の悪い面は知らないだろう」
恭也はオーガドライブを使用し、ゴリラに切りかかる。相手は猿たちのボスである。一撃で倒し切れるとは恭也は考えていなかった。
「さぁ、存分に真似をしろ」
案の定、ゴリラはオーガドライブを使用して恭也を責める。
それを受け止めながら、恭也は上手くいったと内心笑んでいた。
オーがドライブは使用すればするほど、防御力が下がるのである。ゴリラはその副作用も知らずに戦い続ける。
「こちらだ、ゴリラ!」
いつの間にか、ゴリラが嘉久也に注目していた。
譲り受けたエメラルドを持った嘉久也はレイディアントシェルでゴリラの攻撃を受けながら、クロスカウンターで顔面を狙う。動物の体毛は、相手の攻撃を防ぐ鎧の役割を持つ。一見やわらかげなライオンの鬣も防御の意味合いが強く、それのおかげでライオンの雄への首への攻撃はほぼ無意味だと言われている。だからこそ、嘉久也は守るべきものが何もない顔面を狙ったのだ。
『上から、来ます。気を付けて』
エスティアの言葉の通り、嘉久也の頭の上に爆弾が落ちてくる。
それを盾で防いだ嘉久也は、一時的に後方に下がった。
『敵自体はオーソドックスかもしれませんが……。宝石に体力を削られすぎるとシャレになりませんし、壊しても駄目なんて』
やっぱり最大の障害はエメラルドですね、とエスティアは呟く。
「……」
『分かってますよ。攻撃より防御、防御より回復ですよね』
正宗の指示に、CODENAME-Sはウィンクしながらリジェネーションを使用する。
宝石によって消耗した嘉久也の体力を回復させる。
『今回は、ちょっと私たちが攻撃に転じる暇はなさそうですね』
「……」
正宗も指示に、CODENAME-Sはくすくすと笑う。
『そうですよね。私たちの目的は、エメラルドの死守ですよね』
正宗は言葉無く、エメラルドを守れとCODENAME-Sに命じた。ならば、CODENAME-Sはそれに従うだけである。
「だが、やはり猿真似はやっかいだな」
とても小さく正宗は呟く。
CODENAME-Sは、それに頷いた。
『スキルは、チンパンジーの前であまり使わないようにしましょう』
今のところ回復のスキルは真似されていないが、こちらの手を見せれば見せるほどに強くなる相手は厄介この上ない。
『相手は色んな所に武器を隠しているみたいだね。きっとあたし達の武器みたいなものもあるかもね』
チンパンジー相手に盾を使いつつ、スネグラチカはボスの方を見る。
胸を叩いて自身の攻撃力を上げるマウンティングの真っ最中のゴリラは、まさに森の賢者という風格である。
『ボス対策には、なんか手はある?』
あれと戦うには、それなりの対策が必要である。
がむしゃらに立ち向かえば、おそらくは力負けするであろう。
「凄いパワーを持っているみたいだし武器を壊してくる可能性があるよね。基本的には予備の武器も確保して戦う形ね」
オッケー、とスネグラチカは答える。
『でも、まずはチンパンジーね。さすがに反撃ダメージ持ちの装備はないだろうし、それならなかなか真似されそうにないね』
リフレックスを構えなおして、チルルはチンパンジーたちの相手をする。
堅実にチンパンジーと戦ってはいるが、なかなか止めを刺すには至っていない。だが、焦って大技を繰り出せばチンパンジーは意気揚々と技をコピーするであろう。それだけは、避けなければならなかった。なにせチルルたちは、すでにエメラルドという高価なハンデを持っているのだから。
「スキルによる攻撃については、なるべくならトドメの部分で使っていくことにするわ。早期に使って真似されると厄介だしね」
『それがいいよ。自分たちも大変になるけど、何より他の人の足を引っ張るかもしれないし』
チルルの言葉に、スネグラチカに賛成する。
たとえ地道だと言われようとも、守りに守って相手の隙を突くことが有効な手段であるとスネグラチカも思ったのである。
「だが、防御ばかりになるとジリ貧になるだろう?」
香月は、自動小銃を構える。
「貴様hs所詮は小石だ。蹴散らしてやる」
『力を見せつけるのは良いが、サルたちに道具の使い方を指南しておるぞ』
清姫の言葉に、香月は刀を抜く。
「猿真似とはまさにこういうことだな。どいつを取っても動きに無駄が多すぎる。あまり人間を舐めるなよ?」
チンパンジーが銃の引き金を引く前に、すっぱりと香月は猿を切り殺した。
『獣が人に抗う姿は心躍るものがあるが、此奴らでは役不足よのう。せめてもの情けじゃ、人に勝てぬ屈辱を味わう前に消し飛ばしてくれる……して、囲まれておるが、ここからはどうする?』
清姫の好戦的な言葉に、香月は静かに答える。
「ここからが人間の知恵だ」
ウエポンズレインを使用した香月の黒い羽織が、ふわりと風を孕む。羽織の裾はすっかり夜の闇に馴染んで、まるで彼女が闇夜から生まれてきたかのように見る者に錯覚させた。
「貴様らを一掃してやろう」
香月の攻撃から逃れたチンパンジーの顔面をジャックは握りつぶすように掴んだ。
『トロいんだよ、このド三流共が。切り裂きジャックはやっぱり、速攻で殺すもんだろ』
毒刃を使用したウヴィーツァが、ぐさりとチンパンジーの胴体に刺さった。
『キヒヒ♪ こんな部下をつれてるようじゃ、猿山の大将も程度が知れるけどなぁ? オラオラ、どうした木偶の坊、立派なのは図体だけかぁ?』
実に楽しそうにゴリラをあおるジャックに、咲良は声をかける。
「まだチンパンジーは残っているよ。油断はしないでね!」
またどこかに隠れた、と咲良は言う。
まるで、その言葉が聞こえたかのように
「地面、霧、音、空気……どれだけ姿を隠そうとも全ての流れが俺に教えてくれる……」
桃十郎は、ゆらりと歩き出す。
「それに……これを持っていれば向こうから来てくれるのだろう」
『さすがに、危ないのでござろう』
健の心配をよそに、桃十郎は受け取っていたエメラルドをポケットから取り出した。
「さぁ、これで俺は獲物だ。まぁ、俺の体力が減ろうとあまり関係が無いがな」
向かってきたチンパンジーの脳天をめがけて、桃十郎は鞘で殴りつける。
「こっち、こっち……こっちだよ!」
龍華は守るべき誓いを使用し、桃十郎を相手にする敵を少しでも減らそうとした。
『それで、こっちはどうするんですぅ?』
ノアの疑問に、龍華は慌てた。
「えっと……ええっと」
敵は、龍華の眼前まで迫っている。
ここから自分はどうするべきかを龍華は考える。盾で守るべきか、それとも攻撃に転じるべきか。落ち着け、と龍華は自分を叱咤する。
自分にできることを精一杯やると、誓ったのだ。だから、無理に敵を倒そうとは考えなくていい。しかも、今回の敵は自分たちの技を綺麗にコピーしてしまう猿である。生半可な技の多用は、足を引っ張るだけである。
「守りに……守りに徹する!」
盾を構えて、龍華は猿の攻撃に耐える。
自分の選択は間違っていないだろうか、怯える気持ちでノアに龍華は語りかけた。
「ねぇ、僕は……」
だが、自身の相棒よりも早く返事をくれたのは仙也であった。
「よくやった。あとは、オレに任せろ!」
レーギャルンを持った仙也は、龍華の前にでる。
「武器のコピペ乱舞とか装備の効果まで真似できるかね?」
『真似できるか以前に、真似る為の道具潰せばよかろうに』
ディオハルクの言葉に、仙也は笑う。
「その案、もらい! ただし、猿の武器が見つかったらなっ」
仙也はストームエッジで、チンパンジーごと武器を吹き飛ばす。
その光景を見ながら、『うーむ』とディオハルクを呟く。
『……これ首飾りを思いついた人間やっぱり馬鹿だろ? 何が楽しくて囮用の道具なのに脆いくせに修理費莫大な上体力が減る戦闘用装備が設備や資金の援助より有用だと思うんだ?』
仙也は、いやいやと首を振る。
「ネタ装備としては価値あるんじゃね? 後は自分の道具が役立ってるとか自慢できるとか? 普通の物で作って同じ効果出せるならそっちの方をほしいけど」
伽羅は、うんうんと頷く。
『やっぱり、思うよな。しっかし、よく作れたなぁこんなん。その職人とやらは大層な腕前……って事で良いのかねぇ?』
「……さぁな」
すでに主導権を取り戻した颯佐だが、まだ不機嫌は治らないらしい。それを横目で見ながら、にたりと伽羅は笑った。
「どうやら、チンパンジーのほうは片付いたらしいな」
ゴリラを相手にしながら恭也は、呟く。
『これで、爆弾を投げられることもなくなるね』
集中しようか、と伊邪那美。
「ああ、すぐに終わらせてやる」
防御に徹していた嘉久也は、後ろに下がった。
『どうしましたか?』
「仲間の最後の一撃が来る。それに、相手はオーガドライブを多用し続けていて防御力が下がっている。ならば、あと一撃で決められるだろう」
「その前に、駄目押しで手足をもいでおくか」
香月はロストモーメントを使用して、ゴリラの手を撃ちぬく。これで、武器を持つことはないであろう。
『猿相手に随分と念入りなことだのう』
「攻撃にやりすぎはない」
清姫の言葉を聞きながら、香月は「やれ」と小さく呟いた。
「この獲物は、俺がもらう……」
颯佐は、ゴリラに向かって攻撃を放つ。
その姿に「やっぱり、ストレスたまってたんだな」と伽羅は呟いた。
『猿たちは、すべて倒されたようでござる』
健の報告を聞いた桃十郎は、刀を鞘に納める。
「……ないだい、もう終わっちまったのか? あっけないものだったな……に用が無いのなら……俺がここにいる必要は無い」
●真の威力
『あー、すっとした。猿如きが調子こいてんじゃねぇっつーんだよ、キヒヒヒ♪』
ジャックが上機嫌で笑う後ろで、咲良は苦笑いを零す。
「うん、どう考えても理不尽な八つ当たりだった気がするんだけど……」
動物虐待で訴えられたらどうしようと思ったよ、と一瞬だけでも考えたことは秘密にしておこうと咲良は誓った。
『厄介な能力を持っていても素敵だよね~』
着けさせてと伊邪那美が強請ると、他の女性陣も集まってくる。
『ねえねえ、どう? 似合ってると思わない?』
うっふんとポージングを決める伊邪那美に、次は私もと次々と女性陣の手が上がった。
『本当に素敵ですよね。わたしもちょっとつけて見たいかも』
エスティアの言葉に、嘉久也はどきっとしてしまった。彼女が首飾りを壊すとは思えないが、高価なものだと分かっているのに手を伸ばす心理は理解しにくいものがある。
「まぁ……女性は宝石が好きですからね」
共鳴後の疲労を苦笑いでごまかしつつ、嘉久也は痛みはじめた胃をさすり始めた。恭也が仲間を見つけた目をしていた。
『ほどほどに自尊心満足させつつこういうの作成させない方向へ持ってかないと。その内碌でも無い物を持てとか言われそうだしな。今以上に豪奢で脆くて効果高い奴とか』
こんな首飾りもうこりごりだ、とディオハルクが男性陣の心情を代弁した。
『でも、綺麗な宝石はロマンだと思うんですよね。正宗さんはどうですか?』
CODENAME-Sの質問に、正宗は悩んでいた。どうやら首飾りを優先すべきかトータルコーディネイトを優先すべきかを迷っているらしい。さすがは趣味が女装なだけあって、そこらへんはうるさいらしい。
「うわー。本当にきれい。あたい、テレビでしかこういうの見たことないよ」
『次に、着けるのはあたしよ。チルルは三番目ね』
チルルとスネグラチカは、和気あいあいと首飾りをつける順番を待っていた。着けるとダメージ受けるのだが――美しい宝石を目の前にしてすっかりそのことを忘れてしまっているらしい。
『ノアもつけてみたいですぅ』
「えっええ、でも落したら……あのこの首飾りってどれぐらいするんでしょうか?」
龍華は、正義に尋ねる。
「ああ、一億ぐらいで作ったそうやで」
さらりと正義は答え、男性陣の胃が一瞬のうちにストレスで痛んだ。
一方で、女性陣は目を輝かせる。
「一億だって、すっごいね。セレブだよ」
『お姫様って、こういうのつけるのかな?』
チルルとスネグラチカは大興奮で首飾りを見つめていたが、さりげなく大人たちが彼女たちを首飾りから遠ざける。信用してないわけではないのだが、落されて破損したら怖い。一億という値段を聞いてしまったからこそ、とても怖い。
『たかだか、一億に臆するなど臆病な男たちだのう』
清姫はやれやれと肩をすくめるが、それを聞いていられるほど男たちの胃は強くはなかった。
『わたしもちょっと着けさせてもらってもいいでしょうか? こんな機会はもうないかもしれませんしね』
うふふふ、と楽しそうなエスティア。
その隣で、嘉久也が顔色を悪くしていた。
「一刻も早くH.O.P.Eに返しましょう……そうするべきですよね」
嘉久也は、助けを求めるように恭也は見た。
恭也は腹を押さえながら、苦しみに耐えていた。
「早く、返してきてくくれ。ぐっ、胃が……胃が……」
戦闘では痛みを顔に出さない恭也の苦しみように、思わず咲良は呟いた。
「ええっと……もしかしてあの首飾りって胃痛を酷くするアイテムだったりするのかな?」
『職人の腕もロマンも何にもねぇな』
きゃはははは、とジャック笑い声が夜の公園に響き渡った。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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