本部

ゴジラサウルスを討伐せよ!

落花生

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 6~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/10/17 12:08

掲示板

オープニング

●ゴジラサウルスは三畳紀の恐竜です
「廃村に、ゴジラサウルスが現れた! 調査してくれ!」
 HOPEにやってきたのは、リュックサックを背負った壮年の男性であった。受付嬢は、それに対して
「現在、HOPEは怪獣映画の撮影をしておりません」
 と答えた。
「違う、違う! 君は図鑑を見ないのか? 恐竜のゴジラサウルスだ」
 男が取りだした図鑑には、たしかにゴジラサウルスと記された恐竜の絵が載っている。恐竜映画で有名な恐竜―ティラノサウルスより小さくスレンダーな体つきで、指も腕も長い。しかし、顔つきは凶暴そうな肉食恐竜のそれだ。
「このゴジラサウルスが、翼竜が出たっていう噂の廃村にいたんだ! まだ、いるかもしれない。ぜひ、捕まえてくれ!! そしたら、研究材料に……いやいや、肉食で危険なんだ!」
 息の荒い男性は、「科学館にあるような恐竜の模型に取りついた、愚神か従魔ではないか」という受付嬢の真っ当な意見など聞いてはいなかった。

●廃村の化石たち
 山の奥に、五年前に住民が一人もいなくなった村があった。もはや誰も住んでいない村の家々は全く手入れさておらず、いつ壊れてもおかしくはない風貌であった。元は田んぼや畑であった場所も、茫々と雑草が生い茂っている。ところが、とある噂が広がったせいでそんな廃村に興味を持った人間がやってきた。
「なぁ、デマだろ。こんな村に恐竜がでるなんて。第一、恐竜って絶滅しているんだぞ。それに噂では、空を飛んでいたんだろう。翼竜と恐竜は違うのは、常識じゃないか!」
「川下先生みたいな常識知らずが、翼竜を恐竜って言ったのかもしれないだろ。それに、この近くでは貝とかサメの歯の化石がいっぱい見つかっているんだぞ。翼竜が生き残っていたって、不思議じゃないだろ! それに翼竜を見つけられたら、俺たちのことを『恐竜のことばっかり詳しいですね』って馬鹿にした川下先生にぎゃふんって言わせられるだろう」
 小学生が、リュックサックを背負って廃村に冒険にやってきたのである。
 ビデオカメラを持った彼らは、生きた恐竜が見られるかもしれないという期待と自分たちを馬鹿にする担任の教師を見返してやりたいという双方の気持ちに溢れていた。なけなしのお小遣を電車代に使って、親のビデオカメラまで盗んできたのだ。いまさら、手ぶらでは帰ることはできない。
「翼竜を見つけたら、俺の名前をつけてもらうんだ。ヤマダサウルスとか」
「おっ、フタバスズキリュウみたいだな。あれも、俺たちみたいな小学生が発見したんだよな。いいよなぁ。宝くじが当たるより、ずっとスバラシイって」
「だから、翼竜は絶滅しているんだって……」
 ――ぐるぅぅぅ。
「悪い。さっきのが最後のおにぎりだったんだ」
「いや、これは腹の音じゃないだろう。後ろから聞こえてくるし」
 小学生たちは、そろって後ろを振り向いた。
 山から降りてきたと思われるゴジラサウルスが、鋭い牙を見せながら口を開けていた。

解説

 廃村に表れた恐竜型の従魔を倒し、小学生を救出するシナリオになります。
 ゴジラサウルス型の従魔や翼竜型の従魔は凶暴ですので人里に下りる前に討伐し、小学生を救出してください。

日中の廃村……山の奥にある五年前に住民がいなくなった村。四方を山々に囲まれている。家の数は、10。全てが手入れされておらず、今にも崩れそう。背の高い雑草などが生い茂っているが、見晴らしは基本的に良い。周りの山は険しいが木々が生い茂っており、大きな恐竜でも身を隠すことができる。

ゴジラサウルス型の従魔……体長約5メートル。ティラノサウルス(二足歩行が可能で、尻尾が長い)を小さく細くしたような肉食恐竜型の従魔。手が器用で、物をつかめる。素早く動き、嗅覚が優れている。視力はよくないが、視界は広い。真偽不明の噂によれば、5体出現している。デクリオ級。

翼竜(プテラノドン型の従魔)……翼を広げたときの体長は、約15メートル。空中を滑空しながら、鋭いクチバシで串刺しにしようとしてくる。非常に機敏に飛ぶが体重は20キロと軽く、防御力は低い。デクリオ級。真偽不明の噂によると、3体出現している。

小学生……恐竜見たさに必死に廃村までやってきた、三人組。(PL情報―三人は村の家に隠れていますが、小学生たちがこの村にいるという情報はHOPEまで伝わっていません。恐竜たちが家を壊し始めると、小学生は家から飛び出して逃げまどいます)

※このシナリオに出現するのはあくまで、ゴジラサウルス型、プテラノドン型の従魔です。実際に生きていたゴジラサウルスやプテラノドンの習性を再現したものではありません。

リプレイ

●お肉大作戦
「ハルちゃん、ハルちゃん、見て……恐竜だよ……」
 今宮 真琴(aa0573)の指さす方向には、五体のゴジラサウルスがいた。万端の準備をして山に入ったリンカーたちを待ちうけていたのは、噂通りの恐竜たちである。いつになくテンションが高い真琴に、奈良 ハル(aa0573hero001)は≪従魔らしいがな≫と釘を刺した。
 ゴジラサウルスたちは廃村を悠々と歩きまわり、ときより不思議そうに風の匂いを嗅いでいた。もしかしたらリンカーたちの匂いをうっすらと感じ取っているのかもしれないが、風下にいるゴジラサウルスははっきりと匂いを感じないのだろう。こちらが風上いるうちに、なにか行動を起こすべきであった。
「一気に五体は、さすがに多い。オレと宍影(aa1166hero001)が、肉でゴジラサウルスの気をそらして別の場所に誘導するね」
 骸 麟(aa1166)が取り出したのは、ラップに包まれたマンガ肉のような生肉だった。わざわざ手作りしたあげく、泥やラップで臭い対策をしているというのだから手の込んだ罠である。
『ラップという現代科学と忍術の融合……素晴らしいでござる』
「ラップって、ほんとうに優れものだよね。罠作りでも大活躍だし」
 だが、ラップメーカーが希望している使い方ではないだろう。
「肉なら、わらわも持っておる。そちらに多く誘導されそうなときは、わらわも肉を使うぞ」
 カグヤ・アトラクア(aa0535)は、袋に密封された肉を取り出した。こちらは、ごく普通の新鮮な生肉である。だが、恐竜を解体したいという欲望で燃え上がるカグヤが持つと何とも凶悪な小道具であった。クー・ナンナ(aa0535hero001)はそんなカグヤの隣で『……趣味が悪い』と顔を伏せていた。
「燐ちゃん、宍影君、この村の近くに渓谷があったすよ。そっちにゴジラサウルスを何体か誘導して欲しいっす」
 天野 雅洋(aa1519)は地図を開きながら、燐と宍影に頼み込んだ。宍影は、その申し出を快く受けた。
『天野殿、お安いご用でござる』
「……みんな、頭から噛み砕かれないようにね」
 木霊・C・リュカ(aa0068)が、青い顔で皆に注意した。その妙な注意点に誰もが首をかしげたが、オリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)だけがその理由を知っていた。何のことではない。昨日、一緒に見た映画が恐竜映画だったのだ。

●廃村の恐竜たち
 どしん、と大きな足音を立ててゴジラサウルスが山の方へと歩いていく。燐が持つ肉の臭いを追い掛けているのか、燐のライヴスを追っているのかは未だに分からないが恐竜を分断することには成功したようである。
 今のところは翼竜型の従魔のほうは現れていない、とシルヴィア・ティリット(aa0184)は背の高い木などを警戒していた。噂によれば、翼竜型の従魔は三体出現している。恐竜型の従魔が現実にいたのだから、こちらも十分に警戒しなければならない。
「恐竜型か、被害が出る前に早めに倒しちゃわないとね」
『そうね。このあたりは、綺麗な花が咲きそうだもの。こんな場所に古代の生物を出されても、感動もなにもあったものじゃないものね』
 自然を愛するヴァレリア(aa0184hero001)が、微笑んでいた。彼女の言う通り、人間に見捨てられた村では自然が逞しい生態系を形成している。
「あれ? ヴァレ姉、あそこにいるのは鳥かな?」
 鷹のように空中を旋回する、小さな点。
 あまりに遠すぎるが故に、そう見える巨体。
 シルヴィアは、はっとした。
「みんな、翼竜だよ!まだ遠いけど、こっちに気がついているみたいだよ」
 その声に、廃村に残った面々は空を見上げた。翼竜型と思われる従魔が、徐々に地上に近づいてきている。
 全員が翼竜に視線を奪われているなかで、カグヤは気がつく。ゴジラサウルス型の従魔の全てが、燐たちを追おうとしている。さすがに燐たちでも、五体全部を相手にするのは無理がある。
「ほーれ、ほれ。泥なんぞに汚れてない、美味いお肉はこっちじゃぞ」
 カグヤは肉を持って、ゴジラサウルスの前に躍り出る。そして、肉を廃屋の方へと投げた。だが、ゴジラサウルスは投げられた肉ではなく、カグヤの方に向かった。
「カグヤさん、恐竜は肉ではなくライヴスに反応しています!」
 壬生屋 紗夜(aa1508)が、叫んだ。
 カグヤは、咄嗟に肉を投げ込んだ廃屋に自分も逃げ込む。ゴジラサウルスはカグヤを追って、廃屋に鼻先を突っ込んだ。家の入口が狭いせいで、ゴジラサウルスは鼻先以上を突っ込む事は出来なかった。鋭い牙を持った口が何度かぱくぱくと動き、カグヤはそれを殴ろうとした。しかし、思惑は失敗する。
 ゴジラサウルスが、ぐっと首を持ちあげたのだ。人に見捨てられた家は、そんな恐竜の単調な動きで糸も簡単に崩れて行く。あっという間に、カグヤの姿はゴジラサウルスに丸見えになってしまった。
「どこまでボロいんじゃ!」
 カグヤは、思わず叫んだ。
『これが恐竜……まさしく、この世界のドラゴンだ。ほう、腕が鳴るではないか』
 ヘルマン アンダーヒル(aa1508hero001)は、ゴジラサウルスの巨体を眺めた。後ろ向きでも自由に動く尻尾などには、十分な迫力があった。
「恐竜を切れるなんて、夢みたいです」
 紗家はゴジラサウルスの真後ろに立ち、香水を頭からかぶった。濃くも甘い香りに「ふう」と紗夜は一息つく。
 甘い香りを纏った紗夜に気がついたゴジラサウルスは、ぐるりと向きを変えた。燐たちについていこうとしたゴジラサウルスも、紗夜の方に向かってくる。
 計三匹が、紗夜に引きつけられていた。
「おそらくは従魔なんでしょうが……。万が一、本物でもちょっとぐらいなら斬ってもいいですよね」
 紗夜の物騒な呟きを聞いたのは、ヘルマンだけであった。
 紗夜は、刀を抜かなかった。
 巨体の複数のままでは、紗夜一人では荷が重かったのである。だから、紗夜は逃げた。強烈に甘い匂いで、ゴジラサウルスの嗅覚を釘づけにしたままで。
「囮役がほんとうに食べられたら、大変なんですからね!」
 紗夜に噛みつこうとしたゴジラサウルスの一体を、豊聡 美海(aa0037)は盾で防いでいた。ゴジラサウルスの牙も固い牙を貫通することはなかったが、体重の違いから徐々に美海が後方へと押されていく。
『頑張れ、鉄壁の美海ちゃん!』
 クエス=メリエス(aa0037hero001)が声援を送る。
「もちろんよ。小さくな英雄さんと美海ちゃんは、ぜったいに負けないんです!」
 盾を加えたままで美海の丸呑みにしようとするゴジラサウルスに、美海は必死に踏みとどまった。
「あんた、そのまま踏みとどまるんだ!」
 美海を盾ごと飲み込もうとしていたゴジラサウルスの首にむかって、レオン・ウォレス(aa0304)が大鎌を振るった。死神の名を冠するだけあって、鎌はゴジラサウルスの固い皮膚を傷つける。ゴジラサウルスは美海の盾から口を放すと、ふらふらしながら離れていった。全力でゴジラサウルスと力比べをしていた美海は、勢い余って尻もちをついてしまう。
『龍殺しは英雄の誉れ。まだまだ、期待しているわ。私の英雄さん』
 ルティス・クレール(aa0304hero001)が、意味ありげに微笑む。
 レオンの英雄である彼女であるが、彼女自身にはレオンこそが英雄に見えているのである。レオンは美海から離れて行ったゴジラサウルスに止めを刺そうとしたが、ゴジラサウルスは近くの廃屋に倒れ込んでしまった。手入れの悪い廃屋は、がらがらと崩れて行く。
「た……たすけてぇ!」
 崩れる廃屋のなかから、小さな影が飛び出してきた。
 誰もが、目を疑った。
「子供……?」
 リュカは、呆気にとられた。
 リュカは草などを服に擦りつけて、ゴジラサウルスの鼻を誤魔化していた。おかげで、カグヤや紗夜のように集中して狙われることはなかった。しかも、背の高い雑草のなかに身を隠している。これほど手を尽くせば、恐竜にも見つかりにくいであろう。
「翼竜が近づいて来たよ!」
 シルヴィアの声の通り、すでに肉眼で全貌が確認できるほどに翼竜は近づいていた。しかも、素早い。シルヴィアがマビノギオンを使って撃ち落とそうするも、単調な攻撃はかわされるばかりだ。とうとう翼竜は、シルヴィアに狙いを定めて滑空を始めた。
 鈍く尖ったくちばしが、シルヴィアに向かって降りてくる。
「ヴァレ姉……上手くいくのかな?」
『さて、どうかしら』
 ヴァレリアの返事を聞く前に、シルヴィアは自分に真っ直ぐに向かってくる翼竜を撃った。シルヴィアに狙いを定めていた翼竜はその攻撃を避けることができずに、被弾する。
 だが、翼竜の勢いは殺されなかった。
 従魔の力が消えた後も翼竜の体はシルヴィアに向かって落ちて、鈍く尖ったくちばしで――彼女の頬をかすった。
「闇雲に撃っても当たりにくそうだったから、一工夫いるかなって……」
 シルヴィアは、力なく笑った。
 少し、恐かったのだ。
『今の時代に恐竜がいても……ね』
 そんなシルヴィアの頭に、ヴァレリアは静かに掌をおいた。
 翼竜は、まだ一体残っていた。
『昔は……あんな生き物もいたんだな』
 オリヴィエは、感心したように空を仰いでいた。あくまで異世界から来た英雄にとっては、恐竜も珍しいトカゲ程度の認識なのかもしれない。
「本当に、間が悪いよね。どうして、恐竜映画なんて見ちゃったんだろう。あのプテラノドンに捕まえられて、空中散歩して、最後には紐なしバンジージャンプとか……」
『来たぞ』
 内心悲鳴をあげながらリュカは、翼竜に狙いを定めた。
 翼竜は、子供たちに向かって急降下してくる。
 大人たちのほとんどはゴジラサウルスが子供に近づけないように奔走していたし、子供たちは子供たちでゴジラサウルの反対に逃げていた。翼竜にしてみれば、弱そうな獲物をゴジラサウルスに気づかれる前に狩りたいと考えているのかもしれない。
「少し恐い思いをするけど、ごめんね」
 子供たちに、狙いをつけて滑空する翼竜。
 ぎりぎりで撃たなければ、避けられる。
 一発で仕留めなければ、気づかれる。
 リュカは、ストライクを使用する。命中率が上がった銃弾が、翼竜の頭を撃ち抜いた。翼竜はバランスを崩すが、子供たちに向かって慣性の法則で進んでいく。
「あぶない!」
 盾を構えた美海が、子供と翼竜の間に立った。鉄壁の防御を誇る美海は、翼竜のくちばしから子供たちを守ったのだ。盾の後ろで、美海が安堵の息を吐く。
「クエスちゃん、守れてよかったですね」
『鉄壁の美海ちゃんなんだから、当然だよ。でも、ここで子供を庇いながら戦うのは少し無理があるよね。大人しくしてもらっても、ゴジラサウルスが踏みつぶすかもしれないしね』
 レオンが、ひょいと子供をつまみあげた。
「……とりあえず、俺はこいつらを安全なところまで連れて行く。負担をかけるが、しばらくは耐えてくれ」
 その言葉に、誰も文句は言わなかった。ゴジラサウルスの動きはある程度なら予測できるが、それでも踏みつぶされたりする可能性がある。レオンは子供たちを連れて戦場を離脱、森へと逃げた。
「ルティス……ここでこの子らを身捨てたら、俺は必ず後悔するだろう。だから、俺に力を……力をより貸してくれ」
『言われなくとも。誓約に従って、力を貸すわ』
 そんなあなたを誇りに思う、とはルティスは声には出さなかった。
 出さずとも、伝わっていると思ったからであった。
「……翼竜は、まだ一匹残っているね」
 戦場を離脱しようとしているレオンの背後を狙う翼竜に、真琴は狙いをつけた。
《ヘッドショットするのじゃ!》
 ハルの声援に、真琴はチョコレートがついた舌で唇を舐めた。
「外さない……鳴狐(ストライク)!」
 スキルを使用した真琴の弾丸が、翼竜の薄い翼を撃ち抜いた。そして、飛べなくなった翼竜に向かって止めの一撃を放つ。
「あとは……ゴジラサウルス」
 翼竜に止めを刺した真琴が、紗夜を追い掛けていたゴジラサウルスに狙いと武器を変えた。取りだした武器は、ラジエルの書だ。
「とっておき……“急急如律令:白螺の舞”」
 白いカードが、ゴジラサウルスの目を狙う。さすがにゴジラサウルスの小さな目にカードが当たることはなかったが、紗夜を追い掛けていた足は止まった。
 その隙を見過ごさなかった紗夜は、踵を返してゴジラサウルスに向かっていった。
『竜と名乗るだけの大きさはあるようだが、我が剣はその巨躯を狩ると知れ!』
「……同じ剣でも、刀と比べて無骨すぎる」
 ヘルマンの気合の入った雄たけびと紗夜のマイペースな言葉が、奇妙に交差する。その瞬間にヘビィアタックが発動し、紗夜の鋭い刃がゴジラサウルスの首を切断する。
 一息ついた紗夜であったが、映り込んだ影にはっとする。
 まだ、一匹残っている。
「おぬしらを研究するのは、わらわじゃ!」
 シルヴィアの頬の傷を治癒していたカグヤが立ちあがって、マビノギオンで剣の掃射を発動させる。
『倒すんだよね?』
 クー・ナンナだけが、嬉しそうなカグヤをじと目で見ていた。
「無論。その後に、解体をするのじゃ!」
『洗濯物がたいへんだなぁ……』
 はたして、二度洗いで落ちるのだろうか。すっかり家事が板についたクー・ナンナは、そんなことを心配していた。
 ゴジラサウルスが、カグヤに向かって行く。巨体のゴジラサウルスは、カグヤを襲うために身をかがめた。カグヤはその頭部を、怖れることなくクリスタルファンで殴りつける。ゴジラサウルスは一瞬だけそれに怯み、カグヤの側にいたシルヴィアは接近したゴジラサウルスむかって引き金を引いた。

●渓谷の化石たち
 二匹のゴジラサウルスたちが肉の臭いではなくライヴスにしか反応しない、と早々に悟った燐は自らを囮にして恐竜たちを崖まで誘導していた。
 考えてみればいくら恐竜の見た目をしていても、本質は従魔なのだ。ライヴスのない死んだ肉に、興味を示すわけもない。
 おそらく恐竜たちはライヴスを持った人間の臭いを覚えて、追っているのだろう。犯人を追う警察犬と同じだ。犯人は燐たち、ということになってしまうが。
『草を忍び装束に括りつけておいたのは、正解だったでござるか……』
 宍影の言う通り、燐は草の臭いを体にしみこませていた。これならば、燐の体臭を誤魔化すことができる。予想外だったのは、ゴジラサウルスの素早さだろう。
「森のなかだっていうのに、走るのが早すぎだよね」
 巨体であれば障害物のある森は不利と思ったが、少々の障害物なら踏みつぶし迂回する事もないゴジラサウルスはむしろ早かったのだ。だが、身軽な燐ほどでもない。
「追いつかれたらスキルを使おう考えていたけど、大丈夫そうだよね」
『油断は大敵でござる。渓谷まであと少し、気を引き締めていくでござるよ』
 ゴジラサウルスたちを引き離しすぎないように、燐たちは慎重に進んだ。だが、突然に二匹のゴジラサウルスは燐に興味を失くしたように別方向に行く気配を見せた。
『どうしてでござる!』
「おかしいよね? いきなり、オレたちに興味を失くすなんて」
「燐さん! レオンさんが村にいた子供たちを連れて戦場を離れたって、連絡が入りました」
 話しかけてきたのは、都呂々 俊介(aa1364)であった。彼は事前に、全員と連絡先を交換していたのである。
「子供とレオン殿の臭いを追っておるのか?これは、深刻な問題じゃな」
 タイタニア(aa1364hero001)が考え込む。
「じゃあ、こっちに誘導っと。子供たちの方に向かわれたら、さすがに危ないもんね」
 俊介は、トリアイナを握った。
 ゴジラサウルスが燐に興味を失ったのは、あまりにも上手く逃げすぎたせいでもあった。忍びではない者が誘導を試みれば、ゴジラサウルスも再び興味を持つかもしれない。
「燐ちゃん。追いつかれそうになったら、スキルで足止めを頼むっす」
『子供の方に、恐竜がいったら大変ですもんね』
 リュドミラ ロレンツィーニ(aa1519hero001)もその作戦に、賛成の意を示した。
 俊介はトリアイナを握って、ゴジラサウルスに向かった。足を刺してみて分かったことだが、ゴジラサウルスの皮膚は物凄く固い。痛みのためなのか、それとも美味そうな臭いをかぎ取ったからなのかゴジラサウルスが振り向く。
 俊介とゴジラサウルスの目があった。
「おー? やっぱり、こっちにくるよね。じゃあ、誘導っと」
 俊介は、トリアイナを握りながら逃げだす。
 ゴジラサウルスは、そんな彼を追いだした。
「意外と動きが早くて、きもちわるい……。うわ、色んなところから草とか木が生えてるから走りにくい。こうなったら、こっちから攻撃を……」
『変に動くでない。わらわの経験によると、果報は寝て待てじゃ。今は、力の限り走るのじゃ』
 燐は、よくこんな道をひょいひょいと進んでいたものである。
 さすがは、忍者だ。
 俊介は、恐竜なんて大きいから遅いと思っていた。だが、発達した足の筋肉は以外に素早い。少なくとも俊介が普通の人間であったら、すでにゴジラサウルスの胃袋のなかだったであろう。
「俊介ちゃん、そのまま走るっす!」
『俊介君、がんばって!』
 リュドミラも応援するなか、天野はゴジラサウルスの足に狙いをつける。
 だが、よく動く足は狙いがつけづらい。俊介は、疲れが見え始めている。早く撃たなければ、俊介が食われてしまう。しかし、ブルームフレアは二発しか使えないのだ。
 一発も、無駄には出来ない。
「オレたちが、ゴジラサウルスの動きをとめる。その隙に、廃村まで戻るんだよ!」
『天野殿、俊介殿、無理をすべきではないでござる。忍びは、生きて帰るのが仕事』
 燐は、スキルである縫止を使用した。
 ゴジラサウルスの動きが、遅くなる。
 天野は、そこに活路を見出した。
 この動きならば、当てられると直感したのである。
「ブルームフレイム!」
 天野の攻撃が、ゴジラサウルスの足を直撃する。燃え上がる炎と共に、ゴジラサウルスが倒れる。巨体がどしんと、音を立てて地面に転がった。
 もう一体のゴジラサウルスが、天野に向かってくる。
 こちらのゴジラサウルスは、燐の縫止を受けてはいない。
「オレたちが、もう一度……!」
『待つで、ござる』
 宍影が、燐を止める。天野の様子を見て、彼に何か柵があると察したからである。今は、燐のスキルを使う時ではない。
 天野は、緊張していた。
 もし、失敗したら天野は間違いなく食われるであろう。
「いや、早すぎだろ……こいつら」
 人間など軽く凌駕する身体能力に、原始的な食欲。天野は、心の底から恐竜が滅びたことに感謝した。少なくとも現在では従魔や愚神というイレギュラーなことがなければ、彼らと遭遇することはない。
 天野は、ゴジラサウルスに向かって走った。
『アマノ!』
 リュドミラが、悲鳴をあげる。
 だが、天野にはわずかに勝算があった。
 ゴジラサウルスの牙が天野の動きを追うように、自分自身の足をかする。天野はスライディングするように、ゴジラサウルスの足元を滑って行く。天野がゴジラサウルスの下を潜り抜けたとき、その巨体は考えた通りの動きをしていた。
 ――車は急に止まれない。
 ――なら、恐竜は?
 ――止まれるはずもない。
 天野の勝算は、頭に叩きこんだ地図にあった。
 天野たちは、ゴジラサウルスを渓谷に落とすことを計画していた。だが、ゴジラサウルスたちが囮の燐に興味を失ったことで、その作戦は瓦解した。
 しかし、俊介が再び囮になったおかげで作戦は復活したのだ。
 天野の背後、そこは崖だった。
 谷底に澄んだ水をたたえる、渓谷であったのだ。
 ゴジラサウルスは爪を立てて、必死に止まろうとする。だが、勢いづいた巨体にかけるブレーキにしては、お粗末すぎた。

 ――ぐるぅぅぅ!!

 落ちて行く、蘇った化石。
 天野はそれに向かって、必死にブルームフレイムを放った。
「倒れてくれ! 倒れてくれ……この野郎!!」
 もはや、こちらには打つ手などないのだ。
 やがて、ゴジラサウルスは小さくなりすぎて見えなくなった。
「オレたちは、落ちたゴジラサウルスの偵察に行ってくるよ。おまえたちは、休んでいたほうが良いみたいだね」
『天野殿、汗がすごいでござるよ』
 燐たちが、渓谷の下の様子を見るために姿を消した。
 天野の俊介も、二人がいなくなった途端にばたりと仰向けに倒れた。
 疲労と恐怖、その両方のせいだった。
『アマノ……』
 リュドミラが、天野の顔を覗きこむ。
『この渓谷、すっごく綺麗だね。リュドミラ、水浴びしたい』
「ん……。ああ、そう。ええ!」 
 恐竜が落ちたっすよ、という天野は言ってしまった。
 それでも、リュドミラは微笑んでいた。

●糸が切れた化石たち
「……なんじゃこれは?」
 カグヤは、動くなった従魔を持ちあげる。質感は、明らかに生き物ではない。リュカも触らせてもらったが、えらく馴染みのある質感であった。冷たくもなく、暖かくもなく、つるつるとした感触。
「プラスチックだよね?」
 思わずリュカは、他人にも同意を求めた。
 全員が「プラスチックだ……」と妙に残念そうな反応を返す。考えてみれば、従魔は科学館などにある模型に宿っていたのだ。従魔がいなくなれば、残るのはプラスチックの塊だけなのである。
 クー・ナンナは始まらなかった解体ショーにほっとしつつも、律儀にカメラで記録をつけていた。真琴はゴジラサウルスの頭部をわざわざ切断して、高らかにあげていた。ついでに、クー・ナンナはそれも撮影する。
「……こんなことなら、動いていたのを撮りたかった」
《そんな余裕はなかったろうに》
 しょんぼりとする真琴の気持ちが、ハルにも分からなくもない。あれほど恐ろしかった恐竜が、今は単なるプラスチックのお人形なのである。
「うわぁ、クエスちゃん。よくできているね。本物みたいだよ!」
『沢山の人が、本物だと思うのも納得だよね』
 美海とクエスは、翼竜の翼を持ちあげて感心していた。
 救出された子供たちは「これに懲りたんなら、二度と危険な真似をするんじゃないぞ」というレオンの説教を聞き流しながら、プラスチックに戻った恐竜と翼竜に興味津々であった。その様子に、ヘルマンがため息をつく。
『しかし……親の目を離れこんな場所にか。まぁ、子供はえてしてそういうものだが』
「歯切れが悪いですわね?」
 紗夜の言葉に、ヘルマンはぎくりとした。
 しかし、親の目を盗んで大冒険をするのは男の子の常なのである。
 模型の観察と説明をする子供の隣で、俊介が「翼竜と恐竜って違うんだ……」と呟いていた。タイタニアは、それを見ながら首をかしげる。
『これに夢中になるとは、子供というのは不思議じゃな』
 大人たちからしてみれば恐ろしく見える恐竜は、子供―特に男の子たちには永遠の憧れなのである。リュカは、自分の隣に立っているオリヴィエに微笑みかけた。
「お兄さんも、昔は恐竜とか好きだったもんなー。気になるよね」
 そして、楽しそうに恐竜の模型を囲む子供たちを指さした。
「……同い年ぐらいじゃないかな?お話してきてもいいんだよ」
 オリヴィエは困り顔で『……恐竜は、まだよく知らないから』と答えた。
「そっか……」
『……だから、帰りに恐竜映画の続きを借りて帰ろう。続編があるんだろう?』
 オリヴィエの言葉に、リュカは硬直した。
「た……たしかにあるし、名作だけどさ。今日は、やめない? お兄さんたち、さっき恐竜に食べられかけたところだよ!」
 リュカたちの会話を聞きつけた子供たちが、今度は彼らを取り囲んだ。
「あの映画もすごいよ! なんといっても見どころは、あえて歩いて登場するプテラノドンなんだ! 2じゃなくて、3の方に登場するから。必見だよ!!」
『……ほう』
 子供たちのおすすめを、心なしかオリヴィエは楽しそうに聞いていた。
 その翼竜は、さっき自分たちを襲ったものではなかっただろうか。そう思ったリュカであったが、彼は無言で崩れ落ちるしかなかった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • エージェント
    豊聡 美海aa0037
    人間|17才|女性|防御
  • エージェント
    クエス=メリエスaa0037hero001
    英雄|12才|男性|ブレ
  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • エージェント
    シルヴィア・ティリットaa0184
    人間|18才|女性|攻撃
  • エージェント
    ヴァレリアaa0184hero001
    英雄|19才|女性|ソフィ
  • 屍狼狩り
    レオン・ウォレスaa0304
    人間|27才|男性|生命
  • 屍狼狩り
    ルティス・クレールaa0304hero001
    英雄|23才|女性|バト
  • 果てなき欲望
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