本部

夕焼け空に黒い影

花梨 七菜

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/06/14 18:48

掲示板

オープニング

●黄昏時に
 よく晴れた日の夕方。
 夕日に照らされたA川の堤防を、犬の散歩をする人やジョギングをする人が行き交っていた。
「キャーー!」
 突然の悲鳴に、人々は動きを止めた。
 犬を散歩中の女性が、空からやってきた黒い影に襲われたのだ。女性は倒れた。女性の顔は、黒い飛膜に覆われていた。女性は、どうにかそれを引きはがそうと両手で飛膜をかきむしった。犬が黒い影に向かってキャンキャン吠えた。
 黒い影は、女性から離れて空高く舞い上がり、夕焼け空に浮かぶ黒い点になった。
「だ、大丈夫ですか」
 初老の男性が、女性に声をかけた。女性の額からは真っ赤な血が流れていた。
「大変だ。早く病院へ」
 男性は女性を助け起こしながら、空を見上げた。
 空を飛び回る黒い影は、一つではなく、三つあった。その内の一つがみるみる大きくなると、近くで女性を心配そうに見守っていた男子中学生に体当たりした。
「わー!」
「キャー!」
 パニックに陥った人々は散り散りになって逃げだした。

●コウモリ退治
 H.O.P.E.敷地内のブリーフィングルームで、職員が説明を始めた。
「A川周辺にコウモリの姿をした従魔が三匹出現しました。女性と男の子が従魔に襲われ、病院に搬送されました。女性は重傷ですが、命に別条はないとのことです。男の子は軽傷です。現在、犬の散歩をしていたご夫婦の奥さんのほうが行方不明になっています。奥さんは逃げてしまった犬を追いかけて川原に下りていったそうです。待っていた旦那さんのところに犬は戻ってきましたが、奥さんは戻ってきていません」
 職員はちらっと壁掛け時計に目をやった。
「もうすぐ日が沈みます。辺りが暗くなると、少し厄介ですね。コウモリは暗くても普通に動けますが、人間はそうはいきませんから。女性の救出と従魔の討伐、よろしくお願いします」

解説

●目標
 女性の救出、従魔の討伐

●登場
 ミーレス級従魔 × 3体。
 コウモリ型の従魔。
 体長約1m。
 噛みついて攻撃する。
 素早い。

●状況
 晴天。夕方。午後6時半頃。
 A川周辺。
 堤防の上の道は、舗装されていて散歩コースになっている。
 川原には雑草が茂っている。
 1km離れたところに橋がある。
 現場のどこかに女性が避難できずに取り残されている。

リプレイ

●夕暮れ時
 夕日が川の向こうのマンションの陰に隠れた。空には残照がありまだ明るいが、暗闇は着々と迫っていた。
 月影 飛翔(aa0224)は、堤防の上に立って呟いた。
「これ以上被害者を出さないように、迅速に駆除しないとな」
『そうですね』
 飛翔の隣にいるのは、ルビナス フローリア(aa0224hero001)。メイド服姿の英雄である。ルビナスの長い髪が風になびいた。
「蝙蝠か、日が落ちて暗くなったら厄介だな」
『暗所での行動は相手の方が上ですからね』
「こっちで従魔を惹き付ける。その間に救助者を探して貰おう」
『通常の蝙蝠は日を避けて隠れています。同様ならこの近辺なら橋の下辺りでしょうか』
「相手は上空から襲ってきている。女性が隠れているとしたら、上からは見つかり難い場所だろう。ただ隠れているだけならいいが、怪我をして動けないとかならマズイな」
『どちらにせよ急いだ方がよさそうですね』
「飼い犬なら見つけられるかもしれないが、危険にさらすことになるしな」
 飛翔は、広い川原のどこかにいる女性の身を案じた。

『どこ行っちゃったんだろ、心配だよ』
 英雄のピピ・ストレッロ(aa0778hero002)は、幼い声で言った。
「一人で心細いだろうし、早く見つけてあげよう」
 相棒の皆月 若葉(aa0778)は言った。若葉は明るくて優しい少年で、ピピにとってはお兄さんのような存在である。
 ピピは、元の世界では蝙蝠の姿をしていて白の魔術師の使い魔だったので、今回の敵である従魔には浅からぬ縁を感じていたのだが……。
『うん!』
 ピピは元気に応えた。

「どっから……紛れ込んできたんでしょうね……。さすがに、段々予防が難しくなって来たのは否めませんけど、少しでも退治して更なる事件を防がなくてはいけませんね」
 自称私立探偵である晴海 嘉久也(aa0780)は、呟いた。
「今回は……速攻で終わらせないと夜間に蝙蝠との戦闘を強いられ、民間人を巻き込む可能性がありますからそれなりの準備をしたいと思いますが、いかんせん……範囲が広いので大変ですね」
『どこにいるんでしょう。ぱっと見た感じではわかりませんね』
 英雄のエスティア ヘレスティス(aa0780hero001)は、川原を見回した。エスティアは、「晴海探偵事務所」の唯一の従業員である。
 蝙蝠退治は問題なさそうだが、問題は要救助者だと嘉久也は考えた。
「探索に時間を取られると危険ですから、焦り過ぎない程度には迅速に行動したいですね」
『そうですね』
 エスティアは頷いた。

「ええっとこういう時レーダー使えたっけ?」
 行雲 天音(aa2311)は呟いた。天音は、赤い髪と青い瞳を持つ女子高校生である。
『ひょっとしたら反応するかもしれません。慌てず持って行きましょう』
 英雄の蒼(aa2311hero001)は、冷静に言った。蒼は、明るめの銀髪を結い上げて青い瞳を持つメイドである。
『それと』
 蒼は、H.O.P.E.の職員を通じて、逃げ遅れた人の風貌を聞いておいた。
『一応ですが、念のため』
 女性の救出のために、二人は現場に急行した。

「メンドクセェ事になる前に、とっととカタつけてしまいにするぞ」
 ガラナ=スネイク(aa3292)は言った。ガラナは赤い短髪で頭にバンダナを巻いた、三白眼で強面の青年である。
『ま、結局やる事はいつも通りって事よね!』
 元気いっぱいに言ったのは、英雄のリヴァイアサン(aa3292hero001)。今は女子高生の姿ではあるが、元の世界では巨大な海龍であった。そのため、リヴァイアサンは魚の鰭のような耳と、耳の上に斜め後ろに伸びる二本の短い角を持っている。
「『派手に暴れてブッ飛ばす!』」
 ガラナとリヴァイアサンの声が重なった。息の合った二人である。

「いよいよあたい達の初依頼よ! カンペキにこなしてさいきょーっぷりを見せつけるよ!」
 雪室 チルル(aa5177)は、初めての依頼に盛り上がっていた。
『まー、コレくらいならあたし達なら楽勝でしょ?』
 英雄のスネグラチカ(aa5177hero001)は、にっこり微笑んだ。チルルとスネグラチカは、見た目の年齢が同じで双子のように見える。
「言うまでもなく目標は敵の撃破よ! それと逃げ遅れた人の対応もカンペキにしないといけないわね!」
『それは良いんだけど、まずどっちを優先するの?』
「基本的には同時進行で行う形になるわね。具体的な指針としては戦闘役と救助役に別れて行動して、戦闘役が敵を引きつけている間に救助役は要救助者の捜索と確保、安全の確保が完了次第合流して残りを叩くって形かな」
『ふーん。なかなかいい感じじゃない? でも戦闘する時間帯を考えると長期戦はまずいんじゃないの? 相手は空中を飛び回る蝙蝠なんだから、暗闇の中で戦うのは不利じゃない?』
「そこは確かに問題だけど、とりあえず手っ取り早い光源として、スマートフォンを利用するつもりよ。最大光量で光りっぱなしにしておけば、ある程度は視界は確保できると思うわ。首から引っ掛けておけば正面を明るく出来るだろうし」
『それ、いいね』
 チルルがよく考えていることに感心して、スネグラチカはパチパチと手を叩いた。
 チルルはえっへんと胸を張った。

 堤防の上に集まったエージェント達は、今後の方針について手短に話し合った。逃げ遅れた女性の捜索を若葉と嘉久也、従魔の捜索を飛翔、ガラナ、チルル、捜索の援護を天音がすることに決まった。
「手分けして探した方が早いですかね。晴海さんはどこから探しますか?」
 若葉は嘉久也に尋ねた。
「わたしは堤防の上から探します」
 嘉久也は答えた。
「お願いします。俺は堤防の下から捜索します」
 若葉は堤防の下から、嘉久也は堤防の上から探すことになった。
「捜索中は、通信機で情報共有を図りましょう」
 若葉がそう言い、エージェント達は自分の通信機をチェックした。
「蝙蝠と救助者が一緒にいる可能性が高いので、かく乱のためにロケットランチャーを使う場合は救助者を巻き込まないように気をつけてくださいね」
 嘉久也の言葉に、ガラナは応えた。
「わーったよ。任せておけ」
 話し合いが終わると、エージェント達はそれぞれの英雄と共鳴を果たした。
 飛翔は、ルビナスと共鳴した。飛翔の目の色が金色となり、前髪左側の一部がルビナスの髪色と同じ銀色に変化した。
 若葉はピピと共鳴した。若葉の姿が、ピピを成長させたような中性的な姿に変わった。背中には蝙蝠の翼が現れた。
 嘉久也はエスティアと共鳴した。鋼の様に鍛え上げられた肉体と紅蓮の瞳、真紅の髪を持った偉丈夫が現れた。その身体からは、見た目には微かながらも炎の様に揺らめく神性を感じさせる圧倒的な存在感を持つオーラが放たれていた。
 天音は蒼と共鳴した。共鳴後の姿は蒼の姿だが、前髪の一部が赤に変化し、残りの髪はやや赤みがかかった銀色となった。
 ガラナはリヴァイアサンと共鳴した。ガラナの赤く短い短髪は腰まで届くほどの長髪となり、両腕の二の腕から手にかけてまでと、首筋から頬にかけてまでが蒼い龍の鱗に覆われた。更に、両耳の上部に斜め後ろに伸びる長い角が生え、口元は牙の様に鋭く伸びた犬歯が生えた。
 チルルはスネグラチカと共鳴した。チルルは、氷と雪を模した白色を基調としたロングコートを着こみ、冬の冷気のようなオーラを纏った姿となった。
「探すにも倒すにも、暗いと苦労するでしょうから……」
 若葉はそう言うと、暗所対策が困難な仲間を中心に自身も含めライトアイを施して視界を確保した。
「じゃ、解散」
 ガラナはぶっきらぼうに言った。
 エージェント達は散らばって捜索を開始した。

●逃げ遅れた人はどこだ? 従魔はどこだ?
 嘉久也は、日のある内に地形の把握も兼ねて堤防の上から見て回ることにした。女性は蝙蝠から逃げているようなので、低い方に逃げているだろう。地形的に余り遠くに逃げているとも考えられない。だが、ある程度は捜索範囲を広げる必要があるだろう。
 嘉久也は、丈の高い草が生い茂っている場所を何箇所か見つけてその場所を若葉に報告した。

「戻れない原因が……従魔が近くにいて動けないからなのか、怪我などして動けないからなのか……後者だと殊更心配です」
 若葉は、女性が蝙蝠から隠れているなら、上からは見えにくい場所にいるだろうと考えた。嘉久也に教えてもらった背の高い草の生えている場所や、消波ブロックの隙間など、堤防の上から見えにくい部分を重点的に捜索していった。
 女性が従魔に狙われていて動けないと考えると、同じ場所に留まる従魔の付近にいる可能性も考え、足元だけではなく、空を舞う影がないかも注意しながら、捜索を進めた。
「犬を追って行ったのであれば……」
 若葉は、女性は犬が戻ってきた方向にいる可能性が高いと推測し、犬が来た方角へと進んで行った。
 
 天音は、堤防の上に陣取り、捜索の援護と従魔への妨害、援護射撃を行うことにした。
「援護と妨害で一石二鳥」
(そうですね)
 天音が自慢げに呟くと、蒼は冷静に応えた。
 天音は、レーダーユニット「モスケール」で、周囲を探査し、逃げ遅れた人の反応が無いか調べた。
「今のところ、特に反応なし、か」
(一般人の場合、ライヴズが微弱で反応しないのかもしれませんね)
 辺りが暗くなってきたので、天音はノクトビジョン・ヴィゲンも併用して女性を探した。

 飛翔は、堤防から川原に降りて、橋へ向かいながら従魔の探索を行った。
「H.O.P.E.です。従魔の駆除に当たります。隠れている場所から不用意に出ないように。救助にも向かいますので、近くに来たら呼び掛けるなどして下さい」
 飛翔は、移動しながら女性に呼び掛けた。従魔が飛翔の声を聞きつけて襲ってくる可能性があったが、それならむしろ探す手間が省けて好都合だ、と飛翔は考えていた。

 最初に従魔が目撃された場所から500mほど上流に歩いたところで、嘉久也は空中を舞う影を見つけた。
 嘉久也は、事前に借りていたバッテリー式サーチライトで蝙蝠を照らし出し、通信機で仲間に連絡を取った。
「蝙蝠の周辺に要救助者がいる可能性がある。捜索を頼む」
 ノクトビジョン・ヴィゲンを装着した若葉は走って移動した。
 ガラナとチルルも移動し、蝙蝠の周囲を取り囲んだ。
「ガラナさん、俺は女性を捜索するので蝙蝠の対応お願いします」
 若葉はガラナにそう言い、蝙蝠周辺の草むらなどの捜索を始めた。
「わーったよ」
 ガラナは若葉に応えると、蝙蝠を睨みつけた。
「鬱陶しいんだよ! とっととくたばりやがれぇ!」
 ガラナはそう叫ぶと、バサバサ飛び回る蝙蝠に向けて烈風波を放った。蝙蝠は、一瞬よろよろしたものの、飛び回ることをやめない。
 嘉久也は、16式60mm携行型速射砲で蝙蝠を撃った。続けて、チルルも中衛からタスラムで蝙蝠を狙い撃ちした。
 蝙蝠はチルルに襲いかかった。
 ガラナは、ドラゴンスレイヤーで蝙蝠に斬りつけた。
 蝙蝠は、刃を逃れて空に舞い上がった。
「戦闘中に失礼します。この周辺に女性はいませんでした。鼠の死骸があったので、従魔が襲っていたのは鼠のようです。場所を変えて、引き続き女性の捜索を行います」
 若葉から仲間達に通信機で報告があった。
「俺もちょっと割り込ませてもらうぞ。橋の近くで従魔二匹を発見した。そっちの戦闘が終わったら、こっちも頼む」
 今度の通信は、従魔探索中の飛翔からであった。
「そういうことなら、とっとと終わらせねぇとなぁ!」
 ガラナは叫んで、弱って高度の落ちてきた蝙蝠に全力で斬りかかった。

●女性を保護せよ!
 数分前。
 橋の近くにいた飛翔に、嘉久也が蝙蝠を一匹発見したという知らせが届いた。踵を返して仲間のもとに急ぐ飛翔の耳に、銃撃戦の音が聞こえた。次の瞬間、飛翔は背中に風圧を感じた。橋の下の暗闇から蝙蝠が二匹飛び出してきたのだ。
 蝙蝠達は、興奮した様子で慌ただしく飛び回りながら飛翔を襲った。
 飛翔は、通信機で仲間達に従魔二匹を発見したことを伝えると、堤防側へ移動しながら迎撃し蝙蝠達を誘い出すことにした。
「流石に飛ぶ相手を複数は厳しいな」
(皆様が来られるまでは牽制で対応しましょう)
 ルビナスの言葉に、飛翔は頷いた。
 ノクトビジョン・ヴィゲンで視界を確保した飛翔は、回転しながらキリングワイヤーを放ち、二匹の蝙蝠に牽制攻撃を行った。

 戦闘場所を離れて地道に女性の捜索を続けていた若葉の耳に、「あの、すみません」という小さな声が聞こえた。
「H.O.P.E.の方ですか」
 若葉は周囲をくまなく見回し、丈の高い草むらの中に女性の姿を発見した。女性は段ボールを頭と肩に載せ、身を縮ませて座っていた。遠くから見てもただの段ボールとしか見えなかった。蝙蝠に見つからないように工夫していたのだろう。
「そうです。もう大丈夫ですよ。よく頑張りましたね」
 若葉は、通信機で仲間達に女性を発見したことを伝えた。
 天音は、若葉の報告を受けて、ウェポンライトで女性のいる方向と位置を指し示し、通信機で仲間達に言った。
「女性のいる場所は、ライトの当たっているところ。晴海さん達のいる場所と月影さんのいる場所のちょうど真ん中くらい。蝙蝠が女性のところに行かないようにみんな気をつけてね」
 通信を終えると、天音は呟いた。
「これである程度、カバーできれば救出も早くなるよね」
 蒼は冷静に呟いた。
(見つけても保護までの時間が勝負です)
 天音は、レーダーと従魔の動きを確認しながら、川原へ降りた皆への援護を開始した。
「そっちには行かせないよっ」
 天音はそう叫ぶと、飛翔に襲いかかろうとしている蝙蝠に向かって、16式60mm携行型速射砲で砲撃した。

 若葉は、女性に飼い犬が無事であることを伝えて安心させた。
「歩けますか」
「足をくじいてしまって……」
 若葉は女性の怪我をケアレイで治療した。更に、女性にライトアイを施して視界を確保した。
「もう大丈夫。さぁ、皆の所に戻りましょう」
 女性の安全が最優先である。若葉は女性の避難誘導を開始した。しかし、移動を始めた矢先に、橋の近くにいる蝙蝠が二人に襲いかかってきた。女性が小さな悲鳴を上げる。
 天音は、蝙蝠に威嚇射撃を行った。
 若葉は、蝙蝠の攻撃を躱して、ハングドマンを投擲し、蝙蝠の片翼を絡め取った。
 更に、もう一匹の蝙蝠がやってきて、若葉と女性の頭の上を飛び回った。若葉は、女性や仲間の位置などをしっかり把握してから、「白鷺!」と武器の名を呼んだ。
 若葉の呼びかけに応えて、純白の槍が若葉の手の中に現れた。若葉は、白鷺を蝙蝠に投げた。闇夜を貫く白鷺の姿は、白く輝く光の鳥のようだった。若葉が再び名を呼ぶと、槍は若葉の手元に戻った。
 ほっとしたのもつかの間、ハングドマンから逃れた蝙蝠が女性に襲いかかる。
 若葉は、アガトラムで女性を庇った。瞬時に魔法陣が展開され、蝙蝠の攻撃を防いだ。
「守りながら戦うのは、ちょっと厳しいですね。戦線を離脱します。援護お願いします」
 若葉は、通信機で仲間達に連絡した。
「りょーかい!」
 天音は元気よく応えると、蝙蝠が若葉と女性のところに来ないように17式20ミリ自動小銃で弾幕を張った。
「撃ち落とすわよ、てえぇー」
 若葉と女性は、その隙に堤防を離れ、安全な場所まで避難した。

●蝙蝠を倒せ!
 避難完了の報告を受けた飛翔は、二匹の蝙蝠を誘導するように攻撃して、もう一匹のいる場所へと連れ出した。
「とっとと倒して、終わらせましょうか」
(天音のお腹も鳴りそうですしね)
「まだ、鳴ってないから!!」
 気心の知れたものどうしのボケとツッコミである。天音は蒼に言い返してから、トリオを使用し、蝙蝠の飛膜を狙って三匹を同時に狙撃した。蝙蝠が飛べなくなれば、討伐が楽になる、狙撃できなくても打撃を与えられたらそれで良し、と天音は考えていた。
「オラぁ! 蝙蝠野郎にゃこう言う手も効くかぁ!?」
 ガラナは、蝙蝠の周囲の空中に向けカチューシャMRLを放った。ガラナの背後に翼のように展開されたカチューシャMRLから、ロケットが次々と発射され、周囲に爆音が響き渡った。ガラナは、蝙蝠が怯んだ隙にドラゴンスレイヤーを装備し、ヘヴィアタックを使用した。重い大剣の刃が蝙蝠の翼を斬り落とし、蝙蝠が地面に落ちた。
 天音は、童子切を構えた。
(珍しく刀ですか?)
「型はお爺様の見様見真似だけどね」
 天音はそう言うと、童子切で地面に落ちた蝙蝠に斬りつけた。
 更に、チルルが蝙蝠に銃弾を撃ち込み、蝙蝠を仕留めた。

 残るは二匹。

 蝙蝠は、チルルに突撃した。チルルは蝙蝠の攻撃をクロスグレイヴ・シールドで防ぐと同時に、盾についた刃で蝙蝠に切りつけた。

 二匹の蝙蝠のうちの一匹の相手を仲間達に任せて、飛翔は目の前の一匹に集中した。
 飛翔は、ブレイブザンバーに持ち替え、全周囲へ意識を展開し、蝙蝠に接近対応できるよう身構えた。
「お約束の超音波攻撃とかの遠距離攻撃がないなら、やりようは幾らでもある」
(どれだけ早くとも、襲ってくる方向は一方向です)
 ルビナスは、飛翔を励ますようにそう言った。
 飛翔は、蝙蝠の動きに目をこらした。
「……そこだ!」
 飛翔は、蝙蝠が急降下してくるのに合わせて、クロスカウンターを使用した。飛翔は、上段から蝙蝠を斬り下ろし、斬ると同時に地面に叩き落とした。
 地面に落ちた蝙蝠は、翼を広げ飛び立とうとした。
 飛翔は、蝙蝠の翼を踏み付け、蝙蝠の胴体に大剣を突き刺した。

 残った一匹の蝙蝠は、空中を激しく飛び回った。
 嘉久也が用意したサーチライトに時折その姿が照らし出されるが、蝙蝠の全ての動きは追いきれない。若葉が皆に施したライトアイの効力も既に切れている。暗視装置を装備していない者にとっては、サーチライトとチルルが首から提げているスマートフォン、天音のウェポンライトの光が頼りであった。
「私が撃ち落とすよ!」
 ノクトビジョン・ヴィゲンを装備している天音は、17式20ミリ自動小銃で蝙蝠を撃った。蝙蝠は被弾し、飛ぶスピードが少し落ちた。
 嘉久也の16式60mm携行型速射砲が火を吹いた。
 蝙蝠はバサバサと翼をはためかせると急降下し、ガラナの腕に噛みついた。
「その位、くれてやるよ……代わりに、死んどけぇ!」
 ガラナは大声で叫んだ。まさに肉を切らせて骨を断つ。暗くて蝙蝠を見ることができないなら、蝙蝠が自分に噛みついている隙に攻撃すればよいという捨て身の戦法であった。ガラナは、腕に噛みついている蝙蝠の頭をドラゴンスレイヤーで叩き切った。
 蝙蝠は地面に落ちて動かなくなった。
 任務達成。三匹の従魔の討伐が完了した。エージェント達は共鳴を解いた。

●平和な夜
 天音は、安全な場所に避難していた女性の所に行って声をかけた。
「探していた犬は、無事に先に帰ってきているそうですよ」
「よかった……。どうもありがとうございました」
『お怪我はありませんか?』
 蒼も女性に話しかけた。
 女性の足の怪我は若葉が既に治療していたが、腕にすり傷がいくつかあったので、天音は救急医療キットを使って応急手当を行った。
 しばらくすると、女性の夫が飼い犬と一緒に女性を迎えにきた。犬は嬉しそうにワンワン吠えながら、女性にじゃれついた。
 そんな様子を遠目に眺めながら、ルビナスは呟いた。
『女性も無事でよかったです』
「まさか、こいつらのボスに吸血鬼とかいないよな」
 飛翔は息絶えた蝙蝠を見ながら言った。
『この程度の被害ですんだことを考えると、恐らくいないと思いますが、いたとしても負けません』
 ルビナスはさらりと言った。
「そうだな」
 飛翔は熱い思いを内に秘めて頷いた。
「なんとか無事保護できたね」
 女性とその家族の再会場面を見て、若葉はほっと胸をなでおろした。
『うん……でも、この子たちも助けてあげたかったな』
 ピピは、少し浮かない顔をしていた。ピピが気にかけていたのは、三匹の蝙蝠のことだった。ピピ自身、元の世界では蝙蝠の姿をしていた。今も背中には小さな蝙蝠の羽がある。だから、余計に気になるのだろう。この三匹は、従魔にならなければ普通の蝙蝠だったはずで、被害者なのだ。
 若葉とピピは、三匹の蝙蝠と、蝙蝠に殺された鼠の死骸を拾い集めて、川原の片隅に埋葬した。
 二人は、しゃがんで手を合わせた。

『女性も無事に保護できて、一件落着、ですね』
 エスティアはにっこりと微笑んだ。
「そうですね。こういう事件が増えてきたのは心配ですが、今日のところは無事に終わりましたね。帰りましょうか」
 嘉久也とエスティアは、肩を並べて家路についた。

『はぁ~! 久しぶりに暴れてお腹空いたわね! ガラナ! 早く帰ってご飯にしましょ!』
 リヴァイアサンは、飛び跳ねるように歩きながら言った。青いツインテールが左右に揺れる。
「作んのはオレだろうが。ったく、で? 何が良いんだ?」
『魚!』
「いつも通りじゃねぇか、メンドクセェ……」
 ガラナの口から、いつもの口癖が出た。面倒くさいと言いながらも、きっと今日もめちゃくちゃ美味しい魚料理を作ってしまうのだろう……。

「あたい達の初依頼、カンペキだったわね。ちょっと怪我したけど、こんなの怪我の内に入らないし」
 チルルは満足気に呟いた。
『あたしとしては大剣とか大きい武器を振り回してやっつけたかったんだけどな~』
 スネグラチカは少し残念そうだった。
「そんなこと言ったって手持ちにないんだからしょうがないじゃん」
『いつかあたし達も凄い聖剣とか強い魔剣とか振り回してみたいよね~』
 スネグラチカは、剣を振る真似をしながら言った。
「あ~、あたいもそう思うわ」
 チルルは頷き、剣でスネグラチカに打ちかかる振りをした。スネグラチカは、それを受け止める振り。
 おかしなパントマイムを続けながら、チルルとスネグラチカは夜道を歩いていった。
 いつかさいきょーになる、という目標に向けてのチルルの戦いは、まだ始まったばかりなのだった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 『星』を追う者
    月影 飛翔aa0224
  • 共に歩みだす
    皆月 若葉aa0778

重体一覧

参加者

  • 『星』を追う者
    月影 飛翔aa0224
    人間|20才|男性|攻撃
  • 『星』を追う者
    ルビナス フローリアaa0224hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 共に歩みだす
    皆月 若葉aa0778
    人間|20才|男性|命中
  • 大切がいっぱい
    ピピ・ストレッロaa0778hero002
    英雄|10才|?|バト
  • リベレーター
    晴海 嘉久也aa0780
    機械|25才|男性|命中
  • リベレーター
    エスティア ヘレスティスaa0780hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 敏腕裏方
    行雲 天音aa2311
    人間|17才|女性|命中
  • 一流の掃除屋
    aa2311hero001
    英雄|19才|女性|ジャ
  • 海上戦士
    ガラナ=スネイクaa3292
    機械|25才|男性|攻撃
  • 荒波少女
    リヴァイアサンaa3292hero001
    英雄|17才|女性|ドレ
  • さいきょーガール
    雪室 チルルaa5177
    人間|12才|女性|攻撃
  • 冬になれ!
    スネグラチカaa5177hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
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