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最終発言2017/05/21 00:35:48 -
質問卓
最終発言2017/05/23 23:36:52 -
春香ちゃんを助ける会
最終発言2017/05/23 23:42:27
オープニング
● そこはすでに人の住めない領域
日本国内某所、大体二年前だろうか、地図から消えてしまった町がある。
水晶に閉ざされてその周囲を飛行する鳥獣型の従魔、コードネーム『ヴリトオン』が飛来している。
その変わり果ててしまった故郷を見つめ、春香は一人ため息をつく。
「私、一度この町と一緒に死のうとしたんだよ」
風でなびく髪、あの時と同じように春香は髪を下ろしていた。
幼き日の自分。近所の子供たちと駆けまわり、そして温かく暮らしていた頃の自分。
その面影が町のあちこちにこびりついている気がした。
変わり果てても変わらない、だって、大切な思い出は生き続けてるんだから。
自分が生き続けている限りこの町は死なないし、復興もできる。
そう教えてくれる人がいたから。
「ねぇみんな、私に力を貸してほしいんだ。私の故郷。取り返すために、ダメかな?」
春香は決意を秘めた瞳で告げた。けれど一人でも行くとは決して言わなかった。
● 場面設定について。
こちら、鳴海が最初期に出したシナリオ『どうかわたしを助けてください』の続き。と言いますか、春香の物語の続きでございます。
この町から逃げ出して、ルネに出会い。それでもこの町を奪還できなくて、苦悩の末にやっと得られた、erisuとの絆。そして皆さんの絆で、念願の故郷奪還を狙います。
ただ、H.O.P.E.がここまでほうちしていたくらいですから厄介な案件でもあります。
先ず護衛の従魔が強い上に自動回復もちです。
鳥獣従魔『ヴリトオン』
その姿は以前より巨大に、そして姿は化物じみています。鳥なのですが、目がみっつ、口から火を噴き、決して降りてこないので近接攻撃は有効ではありません。
この従魔を回復しているのが町の中心にある、水晶の塔。
この塔は本来コンクリートのビルだったはずですが、今は全て水晶に浸食され無機質な塊と化しています。
これを破壊するのがとても難しいです。
なにせ巨大建造物ですし。それなりに硬いです。
場合によっては破壊しないで従魔と戦う必要もあるかもしれません。
塔は攻撃を受けると音を発して従魔を呼びます。混戦になると空を飛んでいる相手の方が有利なので対策を考えないと辛いと思います。
またこの塔。攻撃されると特定の映像を映し出すようで。
その映像が春香に影響を与える可能性があります。
その影響についてお話しする前にerisu視点のお話を少々。
● 暗躍する影
erisuは春香の事をほとんど知らない、春香もだろうerisuの事をほとんど知らない。お互いにお互いの過去に口を出さないからだ。それはerisuも、春香も知っていたからだ。
自分自身で、自分の過去を過去にできない限り、他人に話すことなんてできない。
相手も自分も傷つけるだけ。
だから、erisuは前に必死に進もうともがく春香を好ましく思っていた。
そのための力になれるなら、そう思って弦を引きしぼる。ずっと音を研ぎ澄ませていた。解放するのが今日なのだ。
そう決意の眼差しをerisuは水晶の塔へと向ける。
erisuは塔の上を見あげていた。水色水晶が美しい塔。しかしあれが春香からすべてを奪ったんだと思うと、悲しくも思えた。
erisuには理解できなかった。
なぜ奪うのだろうか、なぜ壊すのだろうか。
壊れてしまうことと壊してしまうことには大きな隔たりがある。
壊れてしまうことは幸福だ。けれど壊してしまう者はいったいどんな思いなんだろう。
erisuは柔らかい自分の体を撫でる。
人形ではない肉の体、あれほど夢見た人の体。
彼女の手からすればこれも、壊して楽しむおもちゃでしかないのか。
そうerisuはガデンツァを見据えた。
彼女は笑っていた。塔の上で。
彼女は告げた。
「真実を見せてやろう」
そうガデンツァは指先から水を放つと。それは人の形となって塔へと飲み込まれた。
「ガデンツァ、もう、何も壊さないで」
erisuは皆に告げる、水晶の乙女がいることを。
● 状況確認後編
どうやらガデンツァが何か細工をしていったようです。
彼女にとってもここは故郷のようなもの。少し思い入れがあるのかもしれませんが、彼女の介入は毎回笑えない事態を引き起こします。
それが今回は下記の三点。
・町を壊滅させた張本人
これは塔の表面に春香が町の人間を水晶化させて虐殺している場面が映ります。
触れるとその部分が水晶に変わるので、そこを砕き血を噴出させている姿。
それどころか素手で子供の首をねじ切っている姿すらうつります。
この映像を見て、PCは春香はどういう反応をするのでしょうか。
・なぜガデンツァがこの世界に現れたのか
この塔の最上階で水晶の門が開いている映像が映ります。
その門の前に立つのは春香。そしてその門の先には……
ただこの映像はガデンツァにとってイレギュラー、春香の強い思いがリンクして映し出されるので。場合によってはリプレイ上で描写されないかもしれません。
『町を壊滅させた張本人』の映像でガデンツァとのつながりは連想できると思うので、春香に忘れていることを思い出すように促してあげてください。
その代り春香の精神はズタズタになるかもしれません。
・春香にとって大切な人達
春香の両親、仲が良かった子供たちが現れて春香を止めようとします。
これだけは塔の外に出てきます、攻撃すると水が飛び散ることからルネであると皆さんわかると思いますが。回復能力と姿を模倣する能力に特化しているので塔がある限り倒すことは不可能でしょう。
最後にガデンツァの扱いですが。その場に来た時点で気が付いたことにしてもいいです。
ガデンツァを良く知るPCならその存在を疑って、備えてこの場に来ているPCもいるでしょう。
ただ彼女は皆さんに気が付かれた時点で幻影ルネを置いてその場を去ります、言葉を交わしている時間は全くありませんのでそこだけご注意ください。
解説
目標 町の奪還
要点をまとめます。
1 全長105メートル、直径50Mの巨大建造物を破壊する。
2 ヴリトオンを五体撃破する。
デクリオ級従魔『ヴリトオン』
攻撃手段。
・カギヅメ 接近しての攻撃だが、ほとんどやってこない。威力はかなり高い上に、一定確率で空に連れ去られる。
・火炎放射 口から炎を吐きます。個体の大きさによって射程は前後しますが。だいたい30SQです
・黒の翼 威力が低い羽根の弾幕を地面に発射します、範囲攻撃な上に弾速が早いので、回避キャラ以外は避けるのは厳しいかもしれません。
『塔』について。
切り倒してもいいが、塔の周辺には商業施設が集まっているので倒すと町に被害が出る、H.O.P.E.側から町の被害には目を瞑るという決定が下っているので破壊活動は問題ないのですが。
春香が悲しい顔をします。
ただ、感がいいPCは屋上の扉の存在に気が付くかもしれません。
それが核で、壊すと塔は大量の霊力になって消え去ります。
その場合どうやって百メートルも上るのかという問題が出てきますが。
リプレイ
プロローグ
「ここが、春香ちゃんの育った町…………」
『世良 杏奈(aa3447)』町の入口から中を覗いていた、閑散とした町、どころの騒ぎではない、完全なるゴーストタウン。その端々から『ルナ(aa3447hero001)』は無作為に生える水晶たちを見つめる。
「水晶だらけで気味が悪いわ」
その隣では春香が佇んでいる。
「私の故郷を救うために力を貸して」
その言葉に『月鏡 由利菜(aa0873)』は春香の手を取って告げる。
「三船さんの故郷を取り戻したいという想い、私達が引き受けましょう」
『リーヴスラシル(aa0873hero001)』はその由利菜の言葉に頷いた。
「私は故郷と呼べるものがないけど……」
『小鳥遊・沙羅(aa1188hero001)』がぽつりと口を開き春香に歩み寄った。
「兎に角、春香さんの頼み事なら断れないわ。いつもお世話になっているし、頑張っている姿を見ているもの」
そう告げる沙羅の肩に『榊原・沙耶(aa1188)』が手を置いた。
「故郷、か。大切な物を取り戻さんと願う少女の想い、放っておく事は出来ない。
『無月(aa1531)』が言うと『ジェネッサ・ルディス(aa1531hero001)』が言葉を返す。
「故郷は誰にとってもかけがえのないものだからね」
「で、無月。その鎖付き首輪って何かな」
「今回の任務で使えると思ってな」
そう無月はじゃらりと鎖を揺らして見せた。
「ま、まさかボクにつけるとか……? 夜に舞う忍びが夜に咲く女王様になるのかい?」
「ジェネッサ……頼むから誤解を招くような事は言わないでくれ……」
「澄香どう?」
そうPCを膝にのせてキーをうっている『蔵李・澄香(aa0010)』と
『クラリス・ミカ(aa0010hero001)』に『小詩 いのり(aa1420)』は言葉を駆ける。
そんな情報部隊である二人へと『セバス=チャン(aa1420hero001)』が温かい飲み物を差し出した。
「調査は終わってるよ? でも沙羅からの情報の情報を眺めてるとこ」
澄香は画面を見つめたままいのりに言葉を返す。
彼女たちの活躍によって建物の内部構造、町の構造、周辺の建造物。
細かな情報は全て割れたが頭に叩き込むのが大変でさっきまで唸っていたのだが。
「沙羅さんからの情報?」
「うん、と言っても普通の個人情報だよ」
個人情報が開示されるというのは普通ではなかったが、春香の承諾もあり開示されている。
それは彼女の家族構成及び、半生にをつづった報告書。
「両親と春香だけの三人家族、親族はいない……この町にまとめて住んでたみたい……」
「そっか」
いのりは春香の背中を見る。
「全部いっぺんに失っちゃったんだ」
「すみちゃん、すみちゃん」
その時である、インカム越しに周辺警戒に当たっていた。『卸 蘿蔔(aa0405)』の声が聞こえた。
「どうしたの? シロ」
いのりもインカムを手で押さえてこえを聞きやすくする。
「います」
「なにが?」
「ガデンツァです、手を振ってます」
その言葉に、その場にいる全員が息を飲んだ。
――蘿蔔……。代わろうか?
『レオンハルト(aa0405hero001)』が冷えた声で告げるも、蘿蔔は首を振る。
そして、その首元の照準を定め、引き金に指をかける。
「撃って、蘿蔔」
直後弾丸を放つ、蘿蔔。
その弾丸は喉元に食らいつくように殺到する、だが。
ゆらりと、体を揺らして地面に落ちるようにその弾丸を避けるガデンツァ。
そのまま水晶の体は地面まで落ち、コンクリートに叩きつけられると盛大な水音を鳴らして、その姿は消え去った。
「欠片は?」
澄香が問いかけたのはガデンツァの首にかかるルネの欠片の事。
「いえ、だめでした逃げられました」
蘿蔔の耳に羽ばたく音が聞こえる。銃声のせいで従魔が集まってきているようだ。
蘿蔔は歯噛みして踵を返す。
「町だけじゃない。これも春香さんにとって大事なもの…………だから、取り戻します!」
そうガデンツァへ宣戦布告を口にする。
どこか遠くで女性の笑い声が響いた。
第一章
(話には聞いていたが…………ひどいな。しかし、水晶は紫色だと聞いたのだが)
「ECCOさんの家に現れたのも紫でしたけど、何が違うのかな」
蘿蔔は戦隊の最後尾を務めていた、その瞳は鷹の目。周囲を索敵しながら従魔に接近されにくい通路を選ぶ。
目指すは水晶塔。
「街の中であの塔を倒壊させれば、破片が降り注いで甚大な被害が出るでしょう」
――あの塔も愚神や従魔の一種なら……消滅を狙えるかもしれない。
リーヴスラシルは噛みしめるように告げる。
「にしてもさ」
『彩咲 姫乃(aa0941)』は春香の隣を走る。
肩にはフリーガーをひっかけて、腕の金具をチャリチャリ言わせている
「こういうのは最上階になにか大事なギミックがありそうじゃん?」
――ららら? ぎみっく?
「塔の上まで上ると……とかさ。いや、逆に聞くけど理由がなければなんでこんなもの建てんだよって話になるだろ」
確かに、そう頷く春香である。
「ところで、沙羅さんは何をしてるの?」
春香が問いかけた。その手に握られているのはラジコンの操縦機。そしてもう片方の手でラジコンに備えられたピンを抜くと彼女は勢いよくそれを走らせた。
「いきなさい! 流星号」
「わ! 楽しそう、私も遣りたい」
――遊んでるわけではないわよぉ
そうだ、遊んでるわけではない。
ラジコンに取り付けられていた防犯ブザーがけたたましくなり始めると、その音に引かれて従魔たちが移動を始める。
つまり囮。
「音に反応すると思ったのよね」
「見てください! 塔は目の前ですよ」
『煤原 燃衣(aa2271)』が叫ぶと春香を振り返って見つめる。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫……」
春香は頷くと腕に取り付けられたワイヤーを伸ばす。そして、そのワイヤーが水晶の塔に突き刺さると、終焉を奏でるラッパのように、町中に荘厳なる音を響き渡させた。
先ほどまでの様子とは打って変わって、従魔たちは激しく翼をはためかせる。叫びをあげる。
直後眼前に躍り出たのは二体の従魔。
――燃衣。テメェ……無様を曝したら。わかってるだろうな
『ネイ=カースド(aa2271hero001)』が激励のつもりで告げると、燃衣は目を細めて氷点下の声で告げた。
「ええ。愚神はぶち殺す、ガデンツァもぶち殺す。それだけです」
リンカー側が動いた。かき鳴らされるerisuの音、従魔一体へ叩きつけるようなレクイエム。
「小鳥遊さん!」
「頼んだわよ」
沙羅が前に飛ぶと、燃衣はそれに追いつき回天。裏拳の要領で沙羅の靴裏へ力を加えると、沙羅はミサイルのように空を飛ぶ。
直後はなたれるアンカー方で、従魔を無視して水晶の壁に取りつくことに成功した。
だがそれ以上の突破を許す従魔ではない。残る一体が口から炎を吐くと。
「「いっけぇ! いのり!」」
その業火を盾で遮る修道女。
「春香の故郷奪還…………今力になれなくて、いつ力になるのさ!」
いのりは炎の奔流を盾で咲き。澄香と蘿蔔の道を開く。
――いや、見事だ……いのり。
そのいのりの頭上から声が降る。
見れば男性の影が太陽を遮った。
その両腕には刃。
『八朔 カゲリ(aa0098)』は肘を前に突き出すように、腕を体に巻きつけるように刃を引き絞る。
「この化物は任せてもらおう」
――行くと言い、三人の力を見せてもらおう。
『ナラカ(aa0098hero001)』が告げた瞬間。その双振りの剣から放たれたのは浄化の炎である。
従魔が口からはいた物など生ぬるい。
斬撃の属性を帯びた刃は浴びせられるように従魔の背を一閃。
衝撃で従魔は地面に叩きつけれれバウンドし。
その背中へカゲリは、丸鋸のように回転した一撃をみまう。
弱々しい従魔の悲鳴がこだました。
「いのりちゃん、すみちゃん」
その鳴き声を背に蘿蔔は立ち止まる。
「ここでお別れです。私はこのビルに上ります」
「うん、またあとで」
澄香はその言葉に笑顔で答えた。
「笑って会おうね」
「はい」
そして戦いは激化する。
「はあああああああ!」
由利菜が高層ビルから飛びあがった。ゲシュペンストによる加速をフルに使ってビルの屋上から飛び出した。
――しまった。
だが、そんな突入を従魔は許さない。
従魔は翼を広げ減速。そして。その強大なカギヅメを大きく開く。
その直後であった。その眼前に躍り出たのは黒い影。無月と由利菜は視線を交え頷きあうと。
その爪を無月が受けた。
そしてやや下方に傾いた従魔を利用し、由利菜はさらに高く飛ぶ。
そのまま塔に刃を突き刺してぶら下がる由利菜。
「澄香さん、調査の護衛はお任せ下さい」
ロケットアンカー砲を取り出して構えた。
対して地面に叩きつけられた無月。その反応が無いことを見てついばもうとカギヅメを伸ばす従魔。
だがそれは演技だ。
素早く無月は起き上がると、アンカー砲を射出。
驚いて空に逃げた従魔ごと無月は空に攫われた。
「後ろを取ったぞ。君に頂上まで案内してもらおう……!」
鎖付き首輪の鎖を従魔の口に噛ませて轡とし、鎖の両端を持って手綱とする無月。
――そ、その首輪付き鎖の使い方。やっぱり女王さ……。
「ジェネッサ、まさか私の事をそういう風に思っていたのか……」
――軽いジョークだよ。冷静さを失わない為のおまじないさ。
「解ってはいたが……おまじないが必要なのはむしろ春香君の方だろうな……」
そう一人の少女を見下ろす忍びの者。しかし状況はめまぐるしく変わっていく。
直後塔を揺らす轟音。それに呼応して、塔の中から現れる人影。
「さ、さっちゃん?」
その人影を視界にとらえ、目を見開くと、瞳を涙でにじませた。
春香の両腕が力なくだらりと下げられる。
そう塔の中から続々と春香の知る者達が現れたのだ。
その者達に歩み寄ろうとする春香。
「今のこの街に人は住めないはず。不自然です!」
壁に張り付いた由利菜が外壁から上ろうとするうちにそう叫んだ。
――いかにもガデンツァの好みそうな、くだらない三文芝居だな……!
リーヴスラシルが叫んだ、しかし春香の動きは止まらない。
だがそれを姫乃が通せんぼで止めた。
「ガデンツァって言ったよな?」
「え?」
春香は少女の目に宿る、怒りの炎を観た。
「奴は俺のことを知らないだろうが俺はそれなりに知っている。とりあえず性格が悪いってのはよく知っている」
「そうです」
燃衣がゆらりと、前に出るそして。フリーガーであたりを火の海に変えた。
「春香さん、行ってはいけません、あれは偽物です『いし』無き、あなたを惑わす器でしかない」
その三人に迫る従魔へ、杏奈が真っ向から魔弾を叩き込んだ。
そして燃衣と共に幻を刈り取るために動く。
「ルネと従魔で守っているという事は、この搭には何かがある?」
杏奈は上空を見あげた。
「ビルの中は水晶が詰まってて空間は無い。という事は上に?」
第二章
塔の側面は雨でコーティングされているように滑らかで、手を置けばよく滑る、だが代わりに脆い。由利菜は剣やヒールを突き立てて塔の側面を上っていく。
だがそれを阻止しようと従魔が迫った。
「こう言う時の為にラシルから蹴り技を教わったのです……!」
直後剣をつき刺し両足をフリーにする由利菜
「クリムゾン・リフューズ!」
放たれたのはライブスブロー、その直撃を受けてひるんだ従魔は距離をとる。それを蘿蔔が狙い撃った。
「割としぶといですね」
塔には近づけさせないように銃弾を放ってはいるがいかんせん数が多く処理しきれない。再生能力も高いようで、傷つけば離れたところを飛び、傷が癒えれば襲ってくる。
それを蘿蔔は何度も撃退していく。
「時間はなさそうだね」
塔内部でいのりが告げた。澄香は内部構造から空洞の場所を予測、階段を駆け上がる。
そして邪魔な水晶の壁はブルームフレアで吹き飛ばした。
「攻撃良いですか!?」
――各位、振動にご注意を。
直後、澄香はリフレクトミラーを展開。右手に貯めた霊力をイカヅチの槍として放つ。
天井までそれは貫通し、侵入経路となった。
「いのり!」
その縦穴をいのりと澄香はビットを頼りに上っていく。
時に手や足を貸しながら。二人でテンポよく上っていく。
だがその穴を抜けている間、澄香は見てしまった、その映像を、見知った少女の甘い笑み、その横顔は鮮血に染まっていて。
――まずい……
「春香さんを塔に近づけないで」
インカム越しにそう叫ぶも、塔の内部ではつながらないようだ、ノイズがむなしく帰ってきた。
* *
「春香さんは上にいきますか?」
燃衣は従魔を蹴り飛ばすと春香に背を預け問いかけた。
「いい、いかない、ここにいる」
どこか茫然とした調子で答える春香。
「煤原さん!」
その時だった、杏奈が手を振って駆け寄ってくる。そんな彼女へ燃衣は頷きを返して燃衣は彼女を空に投げた。
「つかまえた」
その勢いで杏奈はブリトオンの首筋に抱き着くと、耳元で甘く囁く。
「上に連れてって?」
従魔の瞳は正気を失い、杏奈を天井まで運ぶ。
ここまでの作戦は順調だ、だが順調すぎる故に燃衣は不安を感じていた。
「嫌な感じです」
――ああ、あのクソ野郎の舞台に引っ張り出されたみたいだな。
そうネイと燃衣は春香に聞こえないように言葉を交わす。
「此処は春香の故郷……二人は関係がある?」
――可能性はある。
「ならば、奴なら確実に心を砕きにくる、……そうはさせない、約束の為にも」
そう燃衣は手近にいる男性の腕を取る、その腕が握りつぶされそうなほど
力を入れると、風船でも割れたように、水が飛び散った。
「これは、ルネです、春香さん」
そう幻影であることを証明してみせるも、春香の瞳はすでにここを映していない。
「みんな、みんな、ごめんなさい」
「春香さん?」
燃衣は春香の視線に気づいて振り返った。
そして息を飲み凍りつく。
その光景は……。
「見るな!!」
姫乃が春香に飛びかかり、その両目をふさぐ。
「だめだ! 三船! 見るな!」
地面に押し倒される春香、その目尻から涙があふれる感触を姫乃は味わった。
「くそ……」
「そうか、これが……」
カゲリは燃えたつ従魔の死体を避けて塔へと歩み寄った、その表面にはひどい光景が映し出されている。
「この町の真実か」
――春香よ。私は、信じているぞ。これが虚構か真実かそれは関係ないだろう。ただこれを如何にして受け止め、そして超えていくのか。
そうカゲリは遠くで戦う少女へ視線を写す。
* *
ビット最後の一段を上りきると、屋上階はクリスタルのドームで覆われた空洞であることが分かった。
たどり着けたのは澄香、いのり、そして、ドームを突き破り突入してきた杏奈
ドーム状の最上階。その開かれた門の前で、音響く護石が輝きを帯びた。
「これは、なに?」
杏奈は扉に歩み寄る、直後その向こうに見えたのは知らない世界。
その世界ではガデンツァは、神としてあがめられていて。そして。
人々に愛されていた。
「これはどういう」
その映像が受け入れられなかったいのりは天井に視線を向ける。
そこには春香が。子供の首をねじ切る映像が映し出されていて、いのりは凍りついた。。
「見ないで良い。というか見ないで……!」
杏奈の叫びを上塗りするように地上から悲鳴が響く。
春香が悲鳴を上げている。その光景を、沙羅は従魔に矢を放ちながら見つめているしかなかった。
――いかなくていいのかしらぁ
沙耶が問いかける。
「春香さんの記憶について私から言える事は、春香さんの人生なんだし、強制は出来ないわ」
でもこの機会を逃せば、きっともう一生取り戻せないかもしれない。
そして沙羅は地面に降りて従魔の迎撃に本腰を入れた。
「後悔だけはしないように、選ぶといいわ」
春香はもだえ苦しんでいた、おひるごはんの中味を全て出して。それでも痙攣を続ける胃が切れたのか、唾液にはわずかに血が混ざっていた。そして地に両手足をついてうめく。
「さっちゃんを? 私が? そんな、そんなことない……」
嗚咽を漏らし、荒い息を吐きながら、耐える……否定する。
けど、せり上がってくる、記憶、封印した記憶、実感。
そうあの時、私は。
粘土のように脆い首を弾き飛ばして、浴びる鮮血の熱さを、上がる悲鳴を心地いいと思っていて。
「あれは、邪英共鳴…………?」
蘿蔔は塔の映像を眺めてつぶやき走る、春香の元へ。もう隠す気すらないらしく、塔は春香の虐殺風景の身をただただ映している。
「春香、落ち着いて。大丈夫」
澄香はドームの外に身を乗り出して叫んだ。
――お忘れですか? ガデンツァの武器は、変幻自裁のルネと精神操作です。貴女そっくりの偽物を生み出し、その行動を貴女は記憶として植え付けられている可能性があります。
「自分の悪行を人に押し付ける最悪のパターンだね」
澄香の声が響く中、駆ける蘿蔔の目の前に従魔が立ちはだかった、焦りと憤り、蘿蔔は距離の事を考える間もなく愛銃を抜く。
「どいてください!」
クラリスの声がインカム越しに聞こえた。
――最初に貴方を愚神としてHopeに倒させれば足も付きません。何故そうしなかったのか?
「君が後戻りできない場所まで堕ちた後、『ああ、あれは偽物だ』と策士顔するガデンツアが目に浮かぶよ」
可能性ばかりの詭弁。それが苦しい理論だということはわかっている。だが。
「でも、でも本当だったらどうするの?」
その言葉に春香は反論するだけの冷静さを取り戻した。
(良いじゃないか。証明できない過去なんて悪魔のそれだもの)
そう思いつつも澄香は踵を返す。
「私が、この手で大切なものを壊したんだったら? 私が自分で大切なものを壊したんだ。みんなも、ルネも私が、私が!!」
「いのり、お願いできるかな」
澄香は風で髪をなびかせて、背を向けたままいのりに告げる。
いのりはその背中を見て、優しく微笑んだ。
「まかせて」
そしていのりはビルの上から飛ぶ。
直後クリスタルのドームの中で炎が舞った。
澄香は両手を振りかざして爆炎を操っている。その手からは血が周囲に飛び散った。
「澄香ちゃん」
自分の爪で肌を裂いたのだろう。杏奈はその手を取って、共に魔力を振りかざす。
扉へ亀裂が走り。そして。一際大きい光が瞬いた。
その輝きを背に受けて、愛銃のストック部分で地面に敷かれた従魔の羽部分を強打した。
呻く従魔、その体には無数の大穴があいていて。多少の無茶で蘿蔔も傷ついてはいたが、まだ走れる。
走りながら蘿蔔は春香に告げた。
「あれは春香さんがやったんじゃないよ」
「違う、私がやったって、記憶もあるんだ」
「違う、やらせたのはガデンツァです」
「違う私が……」
「でも…………何もできませんでしたね」
その言葉に春香は凍りつく、涙が一筋流れた。
「大切な人たちが傷ついているのに指一本動かす事すらできなかった」
その言葉に春香は奥歯を噛みしめる。
「けど、今の春香さんには抗う力があります。えりちゃんがいて…………私達もいます。だから一人にならないで、一緒に戦いましょう」
「一緒? わたしは、こんな私がみんなと戦う資格あるのかな」
「疑念が拭えないかい?」
次に声をかけたのは燃衣だった。
「ボクなら払拭出来ない、それでも疑心に潰される位なら定かにした方が良い」
燃衣はその拳で従魔のくちばしを抑えて突進を止める、普段細く見える燃衣の腕がパンパンに膨らんで見え、それが万力のように従魔の嘴を抑え込んだ。
「それが残酷な物だったとしても。そして……《何があれどキミの隣に居る》思う様にやればいい、邪魔は退かす!!」
そう告げて燃衣は従魔の懐に潜り込みアッパー、
その時、燃衣の背後から不吉な言葉が聞こえた。
――ららら? 死ぬの春香? おやすみなさい。
直後はじかれたように燃衣は踵を返し、そして春香を抱き留めた。
直後床に転がるのは担当型のAGW。
「離して!!」
「許せない、消したい気持ち。分かる、ボクもそうだ。キミの所為じゃない、とは言えない……」
「私、死んでればよかった、あのときに、じゃなかったらこんなにみんなに迷惑かけることも、ルネも死なずに済んだのに!」
「それは違う!! 悪はガデンツァだ、奴を倒さねば悲劇は繰り返される。負けちゃダメだ、戦うんだお兄ちゃんやルネさん、皆の意志を継いで……」
その時、不自然なタイミングで燃衣が言葉を切った。理由はわかってる。耳障りな羽音が近くから聞こえているから。春香は恐る恐る燃衣の顔を見あげる。
口からあふれ出る血。しかし燃衣は動じず春香の表情を見ていた。今度は春香も悲鳴を上げなかった。
「《されば立ち上がって戦え、いかなる運命にも意志をもって》……彼方と約束した、キミの様な人を守ると。皆が居る、ボクが居る、苛む時は例え夜中でも駆け付けるよ。だから立って、共に生こう」
「わた、わたしは、私は、どうすれば……」
その問いかけに、今度は姫乃が答えた。
「いいからそこで悩んでろ!」
春香に背を向けて姫乃は二体の従魔と相対する、フリーガーを握りしめ臆することなく立ちはだかる。
「問題はこれからの三船だ」
今姫乃は、彼女とどう接していいか分からない。けれど故郷を取り戻すために力を貸してほしいと頼まれた。そして今彼女は苦しんでる、だから。
「俺は俺のできる精いっぱいでお前を支えてやる」
姫乃の体を従魔の火焔がつつんだ。
その痛みに姫乃は耐える。いつもの俊敏性に頼ることはできない、だって自分が退けば春香が攻撃されるから。
「姫乃ちゃん!」
「立てないなら……何度だって手を伸ばしてやる。伸ばした手に気づかないなら声をかけてやる。声が届かないなら心が届くまで一緒にいてやる。だから!」
「姫乃ちゃん!!」
「三船は聞いてるだろ『徹底的に日の光の下で生かしてやる』ってのをさ。泣きたいなら胸を貸すけど闇の中で腐っていくってんなら引っ張ってでも連れ出すからな」
直後従魔の背に別の従魔が激突する、コントロールがうまくいかず無月の乗った従魔が激突したのだ、その隙を逃すカゲリではない。
「俺はこちらの方が適役だろう?」
ビルの側面から躍り出たカゲリは一匹を斬撃で地面に叩き落とすと、無月の手を取り従魔の背に乗り込んだ。
二人は頷きあって一斉攻撃。二体目も地面に落ちる、二体の従魔はもんどりうってもみくちゃになり、すぐさま飛び立てそうにはない。
そこへフリーガーを叩き込むのは、燃衣とぼろぼろになった姫乃。
「いい仲間を持ったな、三船」
そのカゲリの言葉が聞こえたのか、春香は目を見開いた。
そしてトドメの一撃をカゲリと無月が加える。
「大切なのは、今のお前が如何したいか。ならば現在こそが重要だろうと。精々、過去に囚われるな。
そしてカゲリは、翼を大きく広げる四体目の従魔に向き直った。
だが燃衣から嘴を抜き再度攻撃を仕掛けようと飛翔する従魔。
その従魔の頭を。落下してきた海苔が叩く。
そのまま着地したいのりは不穏な気配に振り返る。
塔からあふれ出てくるルネ、しかしその姿は血みどろで、まるで春香が葬ったこの町の人間のようで。
「嫌! 嫌!」
「もう! 春香の心を乱すヤツは、ボクが全部倒して上げるから!」
そうルネを蹴散らして、春香に優しく語りかけるいのり。
「だから春香、一緒に帰ろう!」
「私、いいのかな、帰っていいのかな」
「私も記憶がおぼろげだから自分が何物なのか怖いのも分かる」
その祈りの隣に沙羅が立った。
「でも、これまで築いてきた絆がなくなる事はないわ。私が……私達がずっといる」
無月は告げる。
「私は当時の事を知らない。解る事は君の事を想い、助けようとする仲間が君の側にいる事だけだ。
君が見るべきものは何だ! 塔の映像か? 違う!
苦しみも楽しみも分かち合おうとする友の仲間の顔こそ君が見るべきものだ。君が聞くべきものは何だ! 君を想う友の声、魂がある者の声こそ聞くべきものの筈だ!」
その言葉に春香は拳を握りしめた。
――格者よ準備万端というものだが?
ナラカはそう微笑を湛えて告げる。
――春香よ、信じているよ。約束しただろう?
ナラカが告げると。カゲリはその双剣を鬼神のごとく振りかざす。
「ナラカさん?」
そして斬撃は膨大な熱量と共にはなたれ。バックファイアーで全員の視界を閉ざす。
――頭を垂れるな、面を上げて前を向くが良い。その先には一縷だとしても必ず光がある。
「ナラカさん!」
直後春香は走り出した。そして腕を伸ばしワイヤーを張り巡らせる。
これは試練だ、そう感じた。彼女は自分を試している。そして同時に春香はこんな話を思い出していた。
神は超えられる試練しか課さない。
ナラカは信じているのだ。春香はこの試練を超えられると。
そして信じてくれているのはみんなもだと。
春香は思った。亡くし続けてきた人生だ。だったらもうこれ以上、何もなくしたくない。
「わたしは!!」
その炎が晴れた時、カゲリが腕を組み仁王立ちする目と鼻の先で、従魔の爪は止まっていた。
春香のワイヤーに絡め捕られ、動きを止めていたのだ。
――信じていたよ、春香。
直後鳴り響くDフラット。従魔は音階によって浄化される。
エピローグ
戦いが終わったのち、春香が共鳴を解くとerisuは『メルト(aa0941hero001)』に駆け寄った。
「ららら? ららららら?」
その背後で光の粒が舞う。
「従魔よ、本来君達が居るべき世界へと還るがいい」
無月はそう光へ返る塔を見つめながらそう告げた。
「ルネ、erisuとの適正。彼女、ガデンツァにとって何かしらのファクター、なのかもねぇ」
そう沙耶が告げると沙羅は首を振った。
「いえ、ファクターどころかそのものなのかも」
「春香、無理しちゃだめだよ」
そう春香を座らせるとセバスがティーカップを差し出した。
「カモミールのハーブティーでございます。心を落ち着かせる効果がございますので、まずは一口お召し上がり下さい」
その言葉に春香は弱々しくありがとうと答えた。
「すごく、おかしな話だよね、私最初はこの町と一緒に死にたいと思ってたのに、でもこの町を殺したのが私なんて。死にたい、今すぐ私は私を殺してしまいたいよ」
「じゃあ、春香のおかげでボクたちはルネさんとこの歌に出会えたんだね」
その声に春香は目を見開いた。続けてセバスが口を開く。
「春香様。モノクロプロダクションの取締役として、申し上げさせていただきます」
その言葉にセバスが答えた。
「貴女の居場所は此処にもあるのです。そも、貴女をステージで輝かせるというわたくしどもの仕事を、取り上げてしまわれるのは困りますな?」
顔を上げる春香、その視線の先には包帯を巻いた澄香と、大きな瞳でこちらを見つめるいのりがいた。
「君は完全に被害者だ。怒って良いんだ」
澄香が告げる。
「戦いましょう。貴女の名誉の為に」
クラリスが言った。
「君は事務所の後輩で友達だよ」
「わたくしの担当アイドルで、友人です」
「一緒に取り戻そう。自分を」
「例え全ての悲劇の始まりが春香だったとしても」
そしていのりが微笑みかける。
「キミは逃げちゃダメだ! 心地よい終わりじゃなく、重苦しい生を選んで!」
「一人じゃないから! ボクらも一緒だから!」
その言葉に全員が頷いた。
「ありがとう」
そう春香は枯れ果てたはずの涙を浮かべる。
「……そう言えば三船さん、ガデンツァの干渉は想定していたのではないですか?」
由利菜が告げるとリーヴスラシルは春香の肩を叩く。
「それでもミフネ殿はここへ来たのだろう。過去を恐れるな」
「うん」
そして澄香といのりは声を合わせて希望の音を口ずさむ。
そこからすべては始まった。この歌が絶望から生まれて、絶望に帰るんだとしても。
誰かを救った歌として、その定めからはぐれるために。
「あの、だな澄香」
そんな中。ナラカが澄香の袖を引く。彼女は少し照れ臭そうに何かを告げたそうにしている。
嫌いになっていないか。それを確認したかったのだが、いざとなると言葉が
出ない。
「最後の従魔の攻撃、春香を信じてたから避けなかったんですよね?」
澄香は二人に問いかける、カゲリとナラカに。
「かっこよかったと思います」
* *
帰りの護送車の中で春香はぐっすりと眠っていた。
その隅っこでセバスとクラリスは角をつつき合わせてPC画面を見つめている、会話先は遙華である。
「クラリス様と一緒に、襲撃当時破壊されたであろう防犯カメラ等を探して、全てレコーダーを回収し無事な映像を探しました」
「実際どうだった?」
「塔の映像と同じものが映っていました」
クラリスは噛みしめるように告げる。この情報に間違いはなさそうだった。
「そして春香が扉を開いた光景は、私達が」
あの日、この塔の最上階で終末を招いてしまったのは彼女だった。
だが、気になるのは。そう気になるのは。
「あの時、彼女は謝っていた。そして泣いていた」
ガデンツァ。彼女は確かに扉の向こうから来た。しかし。その体が解け合う瞬間に、鈴のなるような声でごめんねと聞こえたのだ。
直後禍々しいエネルギーの奔流が春香を打った。
そこまでが、塔に映し出された彼女の記憶。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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