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管理する者、奪う者
掲示板
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依頼前の挨拶スレッド
最終発言2017/05/17 19:14:40 -
質問卓
最終発言2017/05/17 21:54:18 -
相談卓
最終発言2017/05/19 01:10:27
オープニング
● それは支配の手
日本国内とある町が一切の通信を断ったらしい。
その報告が届いたのはつい先日、H.O.P.E.は直ちに調査班を組織し現地へと向かわせたが、最初の数十分のみ通話が成立。その後は町と同じように消息を絶った。
これはその数十分間の会話の中で特に重要だと思われる部分を抜粋した記録である。
「町の人々はこちらに見向きもしませんね」
それは潜入後町の中心部を見に行った隊員のつぶやきである。
潜伏任務中ではあったが、人々は問題なく生活しているように見えたのであえて大胆な行動に出たらしい。
その結果わかったのが、この町の人々は外から入ってきた異物を完全に無視するということだった。
「まるでこの町自体がゲームの世界に取り込まれたというか、町の人たちも決まった動きしかしないように見えますね」
「ドロップゾーンは確認できるか?」
指令官アンドレイは彼に安全圏まで引き返すように告げつつも、そんな質問を投げる。
「いえ、ただ濃密な霊力が、何だろう、人の頭に管のように……」
マナチェイサーとゴーグルの合わせ技で、細かな霊力の揺らぎを感知する調査員。
その調査員が目を奪われたのは、町の人間全員に繋がった霊力チューブ。それは町の人間から霊力を吸い上げているように見えた。
「これをたどって行けば愚神にたどり着けるのでは?」
調査員はAGWを抜いた、当たりに敵意の乗った霊力がほとばしる。
「可能性は高いが、ファーストコンタクトで討伐まで手順を飛ばすのは危険だ、後続に戦闘部隊を配置してある、いったん戻れ」
「ですが我々はまだ奴の能力に関してまったく、ぐおっ」
その時インカムが割れんばかりの悲鳴が、アンドレイの耳に届く。
「どうした! 何が起きた! 説明しろ!」
「奪われた」
「なに?」
「私を奪われた!! あああああ!」
「どうした! 返事をしろ、なにがあった」
「わたしがいる、愚神が私を食べている!!」
調査員は残りわずかな正気を振り絞って告げる。
「奴は、我々をおびき寄せるためにこの状況を作ったんだ。気を付けろ、奴の狙いはリンカーたちだ。リンカーたちの力を奪って食らう愚神……だ」
直後、インカムが破壊されたのだろうか、ノイズ交じりの悲鳴が聞こえ、そして隊員の反応は断絶。
「町の中の霊力反応が強まった、リンカーたちの力を吸収したのか。このままの速度で成長されるとまずい、早急に手を打たねば」
時同じくして残りのメンバーも消息を絶ったのだった。
● 町は……
今回戦いの舞台となるのはとある県の人口密集区域。半径30KMの円状に広がる街ですが。戦いの舞台となるのは中央商業区でしょう。
大型デパートやゲームセンターなどのアミューズメント施設も立ち並び、企業のオフィスビルもわんさかあって、空が遠いです。
ここに一般人たちが普通の顔して暮らしていますが、彼等に攻撃は通るので注意が必要です。
さらにリンカーたちの行動について一切の反応を返さないので、一般人たちに被害が出ない戦い方を考える必要があるでしょう。
建物の破壊許可は出ていますが、倒壊などすると大量の被害者が出るので、気を付けてください。
この時点で厄介ですが、さらに厄介なのは愚神の能力です。
● 管理者==============PL情報============
パラメーターを吸収する愚神アドミニストレーターとの戦いです。
外見は普通の青年風。人間の見た目をしています。
今回はリンカーの能力の一部を吸収して従魔として召喚するのが強みです。
吸収されたステータスについては、その従魔を倒すまで元には戻らないので注意です。
またアドミニストレーターは1ラウンドに通常攻撃とは別にスキルを2回使用可能です。
また、アドミニストレーターの力はそこまで強くないようです、ケントュリオ級下位程度ですね。ただ、回避と移動力がやや高めのようです。逃すと人ごみに紛れるので注意が必要です。
スキル一覧
いずれも身体的接触、もしくは霊力チューブの接続が必要です。
ただ、このチューブは肉眼では見えません。チューブの射程は10SQ程度。
・ アブソーブ
リンカーの能力一種類の八割を吸収し、それを元に従魔を構築します。
具体的には魔法攻撃力が1000あるPCの魔法攻撃力を選択し、スキルを発動した場合。リンカーの魔法攻撃力が200になります。生成される従魔については、下の方に細かくまとめました。
・ 管理者権限執行。
対象のスキルの使用回数を一回吸収する。さらにすでに作成した従魔にそのスキルを付与する。
従魔がそのスキルを使用したとしても、倒した時に使用回数は返却される。
・タスクキル
リンカー一人のイニシアチブを0にする。そして即座に従魔一体を行動させる。
*従魔について
見た目は半透明な化学記号というか、文字が寄り集まった人形。元となったリンカーの外見を模しているようですね。
従魔はPCの能力を吸収して作成されます、そして吸収した値の1.5倍のステータスを持って召喚されます。
つまり魔法攻撃力が1000あるキャラクターから、八割である800を吸収し。魔法攻撃力1200ある従魔が作成されるわけです。他のステータスについては秘匿されていますが。かなり低めに設定されているようです。
従魔を倒すと奪われたステータスは返却されます。
最大で五体までこの世界に存在できます。
======================ここまでPL情報========
解説
目標 愚神 アドミニストレーターの討伐。
今回はOPから読み取れる情報のみで対策をたてなくてはいけません。
仲間との連携と、作戦建てが必要となるでしょう。
また、アドミニストレーターをどうやって発見するか。発見しても戦闘はどうするのか。
従魔が作成された場合はどうするのか。等考えることは多いでしょう。
侮っていると失敗する可能性は大いにあります。
また、今回愚神の知能は高めに設定されています。平然と裏をかいてくるので作戦建ての段階で気を使う必要があるでしょう。
そしてシナリオ中に装備を交換したときの注意点なんですが。装備を交換しても、吸い取られたステータスの部分は『変動しません』
たとえば攻撃力が吸収されて200になったら、別の装備に変えてもしばらく200のままです。
最後にこの戦いに失敗した場合、皆さんから作成された従魔は食べられて、アドミニストレーターはさらに別の能力を得て凶悪に進化します。
ですがこのシナリオで受けたステータス低下は一時的なものなので、敵にステータスが奪われたままということはありません。ご安心を。
リプレイ
プロローグ
「匂うぞ……必ずや我が手で滅ぼさねばならぬ敵の匂いだ」
『黛 香月(aa0790)』は建物のヘリに手をつくと、重たい動作で大通りに顔を出した。
『アウグストゥス(aa0790hero001)』は共鳴済みの状態で街中を探索している。
当然だ、ここはもう敵の腹の中。だとすればいつ襲撃が合ってもおかしくはない。
――先発隊のリンカーが残したメッセージと住民の不可解な動き、これだけで獲物としては十分だろう?
そうアウグストゥスは告げる。
奴隷や洗脳、改造といった手法を使う敵……つまり香月の人生を歪めた『奴』の同類だと言える、ならばそれは香月にとって滅ぼすべき敵だった。
たとえ鬼神や悪魔の謗りを受けようとて、己が己で在らんがためなら彼女の辞書に慈悲の文字は無い。
そんな不吉なオーラを纏う香月の背中を追って杏子は顔を出す。
「私達の力を奪う? 随分と厄介な奴が現れたようだね」
先発隊からの情報を吟味する『杏子(aa4344)』そんな彼女にテトラが告げた『テトラ(aa4344hero001)』
「味方が強い程、脅威になるという事か」
「であれば、本日の敵は強敵であります、ひばりちゃん褌締めなおしていくでありますよ」
そう杏子の後ろをついて歩くのは『ひばり(aa4136hero001)』『美空(aa4136)』
「ハイでありますぅ。フュージョン!!」
二人は会話しつつ共鳴、そのまま香月の隣に並ぶ。
愚神狩りの始まりだ。
第一章 町に潜む影
「さてと、神の名を語るものは殺さないとね」
そうつぶやくのは『柳生 楓(aa3403)』いや『ゼーラ(aa3403hero002)』だろう、それにしても豹変し過ぎであるが。
そんな彼女は彼女は形だけの笑みを浮かべて、道行く人々を観察する。
その直後。
「あ。ごめんなさい」
甘い声をだして男性に寄り掛かるゼーラ。その拍子に脈を謀りサラリーマン風の男が生きていることを確認する。
「なんなんだ……あんた」
「ごめんなさい、町に出たばかりでちょっと」
そう猫をかぶってやり過ごすゼーラ。それをいくらか繰り返し、ここにいる人間は生きていることを確認する。
「ふむ、正しく文字通り生き餌ってわけだ」
ひとりごちるとゼーラはインカムのスイッチを入れた。
リンカーたちが形成する情報網、それはかなり錯綜していた。
「能力を奪い、それを元にした従魔を生成する愚神……放ってはおけません」
インカムの向こうで『月鏡 由利菜(aa0873)』が告げる。
――……必ず奴を滅する。先遣隊が命がけで持ち帰った情報を無駄にしてはならない。
そう『リーヴスラシル(aa0873hero001)』はモスケールの情報を解析し始めるが。その異常な反応に呻きを漏らした。
「懸念点は、愚神の位置がはっきりしていないことでしょうか」
そんな二人に美空が問いかける。
――ああ、それに厄介なことがもう一つ加わった。
リーヴスラシルはモスケールの画面を美空に見せる、その画面には一面の霊力反応が刻まれていて。
「もうこの場は霊力のチューブが張り巡らされているということでしょうか」
由利菜が不安げに告げた。
「ん? チューブが張り巡らされている?」
何かに引っかかった美空。だが彼女はそのことに気が付けない。
「一般人の皆さんに異常はないです」
直後不安げなつぶやきが全員の耳を揺らす『想詞 結(aa1461)』の声である。
「ほんとは今すぐにでも避難してほしいんですけど…………今回は無理なのですよね」
『サラ・テュール(aa1461hero002)』はその言葉に頷いた。
避難誘導に応じてくれない人を運ぶのは一苦労どころではないではない、あっという間に大騒ぎになる。だが巻き込まないように戦うのはさらに大変。
それを結はわかっていた。
「敵を倒すことも大事ですが、命も大事です。手段が思いつかないので安全に、迅速にしかないですが……」
――ちょうどいい機会だから、市街戦か鎮圧の練習だと思えばいいんじゃないかしら?
そう皮肉めいた調子で告げるサラ。
「そんなことをすることもそうないと思うです。というか、鎮圧の方はあんまり参加したくないです」
そう結は抗議の声を上げる。
「町がまるごとだなんて、早く助けないと!」
そう焦れはじめたのは『沢木美里(aa5126)』
「でも、住民は助からないかもしれないけど」
『浅野大希(aa5126hero001)』はあっけらかんと告げる。
「でも、それでも助けにいかないとわからないから。私はできればみんな助けたいから」
「実力不足だから、今回は援護に回りましょうね」
「そうですね、かけひきが盛りだくさんだけど、それら全部、他の人が対処済みのようですし」
そう美里の隣で『シルケ・デスメット(aa5178)』がため息交じりに告げた。
――やる気だけはあるんですがね、ただ作戦は何もないんですよね。
『トレーロ(aa5178hero001)』がそうシルケを皮肉る。
「簡単に目の前に姿を現してくれれば楽なんですが」
そう視線を巡らせるシルケ。だがその視界の端に、見たことのある影が横切った気がした。
はじかれたようにシルケは美里を見る。
彼女はそこにいた。不思議そうな視線をシルケに向けてくる。
「あれ? 今……」
その時である、リンカー全員のインカムを激しいノイズ音が駆け回り。
そしてシルケと美里の通信が途絶えた。
直後街中で上がる悲鳴と轟音。
ゼーラと由利菜は弾かれたように視線を上げた。
「くっ」
やられた、そう歯噛みする由利菜。
――落ち着け、由利菜。
「もちろんですラシル」
だがリーヴスラシルは知っている。由利菜の中に強い嫌悪感が沸き上がっていること。
なぜなら自分もそうだから。一般人を巻き込む敵のやり方に強い嫌悪感を抱かずにいられない。
「騎士として人々を守らなければならないというのもありますが……それ以上に、この世界で生きる存在として許せません」
――感情に流されるな。付け入られるぞ。
「……かつての性格が完全に消え去った訳ではありませんから」
その直後感じた殺気に。由利菜は踵を返し、ミラージュシールドを突き出した。
その刃は火花を散らせミラージュシールドをなぞって地面に突き刺さる。
目の前に由利菜がいた。由利菜の目の前に由利菜がである。
ただその体はルーン文字とギリシャ文字で表現されている禍々しい怪物となり果てていた。
「力が奪われている? ラシルだけでなく、あの子の記憶情報まで反映して……?」
――いつの間に。
リーヴスラシルは歯噛みした。だが本当に考えるべきはそこではない。
「敵はどうやって私たちを敵と認識したのでしょうか」
直後周囲の一般人が街中で武装を広げる二人を見て叫び声を上げる。パニックである、それをみて美空が駆けた。
* *
『沖 一真(aa3591)』は『月夜(aa3591hero001)』の手を引いて人ごみを闊歩していた。
「あ、危ないよ、一真…………共鳴無しなんて」
「敵はこっちの能力が目的なんだ。いきなり殺したりはしないだろうさ」
その一真を囮として『アリス(aa1651)』が近くの喫茶店からその姿を眺めている。
その目には霊力が宿っていた。マナチェイサー、そしてライブスゴーグルの合わせ技で空中に張り巡らされているパイプがはっきりと見える。
だがそれは入り組んでいて、全くどこに繋がっているか分からなかった。
――片っ端から斬っていく?
『Alice(aa1651hero001)』が問いかけるが、アリスハその言葉に首をふった。
「みんなを襲ってるのはたぶん従魔、愚神はまだ姿を見せてない、だったら」
ここに現れる可能性は高いと踏んだ。ここで自分まで愚神の監視網に引っかかるわけにはいかない。
「たぶん管を繋いでいる一般人を使って、私達を探してる。だったら……」
アリスは素早く確認する霊力の流れる先。それは一点のはず、そしてそれは
近づいているはず。どこだ。どこにいる。
――ねぇアリス。少し思ったのだけど
「どうしたのアリス?」
――ええ、今気が付いたのだけど、管が刺さっていないのは私達だけではない?
「…………」
――この町に住んでいる人間には管が刺さってる。つまり、管が刺さっていない人物はこの町にはもともと住んでいなかった人物、それだけでかなり絞り込まれると思わない?
その声にアリスは席を立った。冷や汗が頬を伝う。
さらに視界に映る管が動き始めたうねる、それは束の中心が移動しているという証拠に他ならない。
束の中心それは、愚神本体の事ではないだろうか。
「沖さん後ろ!」
その時である、沖の背後に控えた青年がにやりと笑って、輝くチューブを一真に突き刺した。
直後霊力を吸い上げられる一真。だが。
だが次に笑うのは一真の方だった。
「ろくな力を感じられない、なぜだ」
「一真。見つけた……この人が」
「そいつが敵か!」
直後一真は共鳴、霊力を帯びた手刀で愚神がなぜた自分の背中に手をあて。管を断ち切ると反転。愚神を蹴り飛ばす。
「なんか、めっちゃ体がだるい」
――自分でやるって言ったんだから自業自得。
次いで空から降ったのは薄く緑色のガス。
見ればゼーラが電柱の上に座り込んでこちらを眺めていた。
床に転がる愚神、その体に浴びせられる匂いのきつい酒。
それと同タイミングで床に転がる一般人たち。
セーフティーガスだ。
「少しの間眠っててね。起きる頃には全て終わってるから」
「くっ!」
愚神は歯噛みしはじかれたように立ち上がる、その前に立ちはだかるのはゼーラ。そして横っ面を一真の式神が殴り飛ばした。
「うご!」
――たぶん奪われたのは防御力だね。
月夜が告げる。だがさしたる影響はない。共鳴前に取られたステータスなど
たかが知れている。
その証拠に、一真をもした従魔はアリスの炎によって苦しみもがき息絶えた。
「うわ~。複雑な気分だぜ……」
「お前ら! 何を」
「油断したね」
ゼーラは告げる、話しながらも自分にリジェネレーションを書ける。
「万全を期するなら月鏡さんのコピーを連れてくるべきだったのに」
「いや、そこにいるお兄さん強いと思ってたからさ。油断したよ」
そのセリフに眉をひそめる一真。
「知ってるのか? 俺たちの事」
「レベルの高いリンカーは大体知ってる、けどね」
直後愚神が指を鳴らす、するとゼーラの体に抗重力がかかったように四肢が動きを止める。
「え……」
「まさか、こんな捨て身で来るなんて、僕の作戦全部がぱぁだ!」
直後走って逃げだす愚神である。
その後ろを追う一真とアリス。
「くそ!」
愚神は路地裏を駆ける。参加リンカーのほとんどがレベルが低かったことも、高レベルリンカーは固まっていたことも全て災いした。
リンカーたちを従魔で抑えている間に高レベルリンカーから力を吸収しその後反撃にうつるつもりだったが……
思わずアドミニストレーターは乾いた笑みを浮かべる。
「くそ、俺の腹の中で好き勝手を……」
であれば、ここは体制を立て直すしかない。
そう、思った矢先。
アドミニストレーターの眼前に無数の刃が展開される。あわてて急ブレーキをかける愚神。次いで路地裏の曲がり角から着物姿の女性が姿を現した。
その杏子は空中を漂うチューブを撫でて告げた。
「このチューブ、すべて愚神と繋がっているんだろうね。しかし何の為に?」
――人間からライヴズを吸い上げる為じゃないか?
ゴーグル越し見える風景を興味なさ気に振り切って、テトラはそう答える。
「いや、ただの人から吸ったって二束三文だろう。別の役割もあるんじゃないか?例えば、繋がった全員に一斉に指示を送るとか」
――そこに寝ころんでる奴を締めて、吐かせればいいじゃないか。
「そうだねそうしよう」
直後。狭い路地内を埋め尽くすように放たれる雪華。
その斬撃はアドミニストレーターの体を切り裂く。
「すきありであります!」
直後ビルの屋上からダイブして襲いかかる美空。白鷺で愚神から伸びるチューブを切断。
(これでは、こいつらから力を奪うことができない)
歯噛みする愚神へ切りかかる。
「一般の方々を利用しようとしても無駄です! 全員眠らせてあります」
「くそが!!」
直後愚神が吠えた。
第二章 対処
結は先ほどとは一転、静寂に包まれた街の中で己が影と対峙していた。
奪われたステータスはまだ分からない。ただ腕に力が入らない。また戦闘手段が頭に浮かばないことから攻撃関連の技術ではないかと思われた。
他のステータスを奪われた仲間からの通信を聞いても、明確な虚脱感や知識の
消失が起こっており間違いはないと言える。
自分の症状についても即座に全員へと共有した。
そこで結は再度気合を入れる。
ここが正念場、自分を模した影などに負けてはならないのだ。
そう結は一歩前に踏み出す。
先ずは敵の観察、そして目指せるのであれば、敵の撃破。
結はその手の剣で地面をこするとマッチのようにスヴァローグが火を噴いた。
その動作を影も行いそして二つの剣劇が交差した。
はじける火の粉。削れるコンクリート。倒れている一般人に近づけないように後ろには下がれない。
つば是りあう結。
その時である。
「じゃまだ……」
暴力の旋風が吹き荒れた。香月が駆けつけざまに一閃。
従魔の動きが乱れた、その隙を逃す結ではない。交差するように二閃。
そして香月は刃を真横に構え、岩を突き崩すようなパワーを蓄える。
防御能力に乏しい従魔は察する。
勝てないと。
次の瞬間斬撃は音を裂いて香月は従魔を真っ二つにした。
その姿は霊力へと解け、そして結の体の中に納まっていく。
「全員愚神の元に向かっている」
そう香月は武器を収め結に告げる。
「愚神へは美空さん達が向かってます、案内しますね」
そう二人は静寂の覆う町を駆ける。
* *
美里は自身の影が打ち出した弓を半身ひねって回避する。
狙いは正確だとすれば奪われたステータスは命中力かもしれない。
そう美里は返しの一矢を放ちながら半歩下がった。
代わりに前に出たのはシルケ。
シルケはショートソードを振り回しながら従魔を追いこむように攻撃を仕掛ける。
ビギナー中のビギナーであるシルケは戦術や戦法、技術とそんなもの全くないが故に、敵を倒そうと必死である。
「いい感じです」
美里はそんな従魔に一矢放つ。さすがにあれだけまとわりつかれれば正確にこちらを狙うことなんてできないだろう。
だがそう思った矢先、イラついた従魔にシルケが殴り飛ばされているのが見えた。
「大丈夫ですか!」
そうあわてつつきっちり傷を回復する美里。戦いはまだまだ続きそうだった。
* *
そして場面は戻り路地裏の風景。
まるで獣のように吠えたてた愚神、その声が狭い壁の隙間を反響して遠くまで響く、その時である。
天使が舞い降りた。
鋼の重さを持って、コンクリートをえぐり着地。その翼は暗がりの通路でも白銀に輝いて、見た目はゼーラと楓の共鳴姿にそっくりだが、明らかに存在しなかったはずの翼という機関が狭い通路内いっぱいに広げられて美しかった。
その動きに目を奪われる杏子や一真、だがゼーラが上空から放った聖槍エヴァンジェリンによる一撃を翼ではじくと、一真がビルの上に立つゼーラに向かって問いかけた。
「これはなんなんだ!」
「わからない! けど合体して従魔二体分になってるのはわかる」
ゼーラは思い返す、自分の形を模した従魔と出会ったその時のこと。
追跡しようと地面を蹴った直後に横っ面に弾きとばされ。見れば自分と同じ姿の従魔が二体いた。
いつの間に、そう思ったが考えている暇はなく二対一の戦いを強いられていたが。
獣のような咆哮が轟いてその影が二体重なった。直後翼が生えてそれは飛び立ち現在というわけだ。
「奪われたのは、物理攻撃力と、物理防御力だよ」
そうゼーラは告げて攻撃を仕掛ける、その混乱に乗じて愚神は逃げ出した。
追おうにも路地裏組は従魔に行く手を阻まれ追えない。
ゼーラだけが建物伝いに愚神を追った。
そう告げて、ゼーラは装備を聖槍エヴァンジェリンに変更。ビルの上を飛び回り愚神を追う。
「私達もすぐに行くからね!」
そう告げて杏子は、従魔に向き直る。
「俺達は迂回するぞ」
「不本意だけど仕方ないわね」
そう一真とアリスは頷くと従魔と戦闘することを避け別の道を探す。
そんなリンカーたちを置いてゼーラは街中に降り立った、騒ぎが起き避難勧告が出たせいで辺りには人はいなかったのだけが幸いで。
「これで楓に小言を言われなくて済みそうだね」
そうぼやいて視線を上げる。愚神は笑っていた。
戦闘能力は下位とはいえケントュリオ級愚神と一騎打ち。しかしゼーラは笑っている。
関係ない。そう微笑んで聖槍を回して構える。
第三章 戦うということ。
「奪われたのは物理防御だったね」
「おあつらえ向きです」
そう杏奈の言葉に頷いて美空はカラドボルグに武装を変更。愚神の行く手を遮る。
直後動いたのは愚神だった。杏子のレプリケイトショットをものともせずに翼持つ従魔は突進。その刃を翼で受けながら杏子をタックルで吹き飛ばす。
その隙を狙って突き出されるカラドボルグは、従魔のバックステップによってかわされた。
そのまま従魔は美空の足を払ってそのぎらつく鉤爪で切り上げる。
「くぅっ」
美空は苦痛に顔をゆがめるがまだまだである。
直後翼に刺さっていた杏子の刃が動き出す。大きく震え力を持ち、その身を潜り込ませるように翼を穿つ。
「ぐあ!」
従魔は悲鳴を上げた。その声に美空は驚きの声を上げる。
似ていたのだ。ゼーラの声に似ていた。
次いで襲来したのは杏子。壁を蹴り飛び上がり、頭上を取ってからの呪符による爆破攻撃、すれ違いざまに剣を抜き。美空と連携して斬撃を加えた。
「あがああああああ!」
「タフだねぇ!」
だがスタミナが多いだけで体表は固くない、刃も通るし、魔法攻撃はもっと効く。
いける。そう思った矢先だった。
従魔が叫び声を上げ、尋常じゃない速度で動いた。
おそらくはタスクキルの効果。あれに距離は関係なかったのだ。
無防備をさらす杏子にその鋭い両腕が伸びる。だが。
その腕は切り飛ばされることになる。
――他人の力で戦うとは嫌な奴ね。バッサリいってあげましょう。
サラの声が響いた。そして結がサヨナラのかわりに従魔へ告げる。
「です、泥棒は良くないと思うです」
大剣がまるで従魔を写す鏡のように垂直に地面に突き刺さったのだ。
その剣の柄に手を添えているのは結。
そして背後から迫るのは香月。
美空と杏子は直感する。
次いで取った行動が、従魔の足への攻撃。
両足を弾き飛ばし体制が崩れた従魔
その従魔の喉元に香月と結がクロスするように刃を当てて。そして
「早めに倒されちゃってください! それが他の人の安全のためです!」
じょぎりという音と共に首が落ちることになった。
* *
ドミニストレーターは戦闘が得意ではない、それを証明するように彼には戦闘用のスキルが無かった。どこからともなく召喚した槍とボウガンを巧みに使って、ゼーラを追い詰めていく。
だが。
突如眼前を爆炎が覆う。
目を焼かれたアドミニストレーターを嘲笑うように少女が口元を釣り上げた。
襲来する魔術弾。
「一人だけで遊んでもらおうなんてずるいわ」
そうアリスがゼーラの前に躍り出る。
「あいつの管はどうなってる?」
一真が愚神の矢をかわしながら叫ぶ、再びアリスはマナチェイサーを使用してそれを見た。
「やっぱり」
「どうしたの?」
ゼーラが問いかけた。自身の治療がすみ、戦闘続行ができるようになったのだ。
立ち上がり敵を見据える。
「管がもうないわ。埋め尽くすようにあったのに」
「一般人が逃げたから、かな?」
「それなら……いいのだけど」
「おい!」
その時である、一真の声で我に帰る二人。
見れば一真は『錫杖「金剛夜叉明王」』によって張られた防御壁で愚神の槍攻撃を裁き。
錫杖を回転させアドミニストレーターのどてっぱらに叩き込んでいた。
そのまま二発目のブルームフレアを放つ。
「こっち手伝ってくれ!」
アリスとゼーラは散開して挟み込むようにアプローチする。
そして動きと止めることなくすぐさま一真は愚神から飛びのいた。
「見えない攻撃にわざわざ飛び込むつもりはないんでな」
――さっき無防備に飛び込んでたじゃん…………。
ちょっとひやっとしただけに、むすっと言葉を返す月夜である。
「くそ!」
敵の数が増え対処が困難になってしまったアドミニストレーター。
明らかな焦燥が表情から見て取れるが、まだ彼には奥の手が存在する。
それはチューブを自分に突き刺すこと。
そして。
「おおおおおおおお!」
姿がぶれた。ぶれた上でそれは二つに別れ、そしてまったくもって瓜二つな愚神が出来上がる。
「…………へぇ」
そんな器用なこともできたのかと感心するアリス。
ここで戦うのかとおもい、体勢を立て直す三人だったが、違った。
アドミニストレーターは逃げの一手を打った。
「さらに戦力を分散させようってわけね」
アリスは考える。
もし追いついて、愚神を倒せたとして、それが分身だった場合。
力はおそらく、即座に愚神本体に帰るのだろう。
そうなった場合、戦力が分散した状態で戦わなくてはいけない。
そうなれば愚神にも逃走の目があるのだろう。
確かに狡猾で、往生際が悪く。打算的。
だが、彼は不幸だ。アドミニストレーター自身がカードを全て切っていないのと同じように、リンカー側もカードを全て切っていない。
「おっと、逃がすかよ!」
――逃がさない…………。
しんと空間に染入るような月夜の声。そして空間が歪む。
知っているだろうか、空間が歪めば光の波長も歪む。そうなれば色彩は変化し視界は縦に引き伸ばされる。
重力空間が二人の愚神をからめ捕り、動きが止まったその一瞬を狙って。
直後空を裂いて矢が放たれる。それは膨大な霊力を纏い、愚神の横っ面に突き刺さると、衝撃波をまき散らして愚神の顔面を歪めた。体が木端のように宙に舞い。
そして……矢は回転していたんだろう。
螺旋を描くように愚神の体は吹き飛んで店のシャッターに突っ込んで大きな音を立てた。
――ユリナ、不用意に接近するな。主の能力に気づけば、奴は真っ先に吸収を狙ってくるぞ。
そう膝立ちになる由利菜に助言するラシル。
「接近戦を挑み辛い相手ですね……」
そう告げて由利菜はさらに矢を番えた。
愚神の今回の作戦で唯一旨く言った点は由利菜を封じることができた点だろう。
攻撃力を奪って戦いを泥沼化させる、それはよかった。
だが本当に奪うべきは防御力だった。
行きがけに出会ったドレッドノート二人。
その疾風怒濤の連撃によって従魔は屠られ、そして由利菜はほぼ無傷でここにいる。
「逃しません」
次いで放った矢が愚神の腹部に命中。
足が止まった。その直後である。
愚神の周囲を幻想が包んだ。
極彩色に染まる視界、味覚も聴覚も嗅覚も何もあてにならない世界が展開される。
それこそ一真の陰陽術である。
「今だ!」
一真の号令で従魔退治に赴いていたリンカーたちも愚神に群がった。
杏子と美空の連撃。
それでもやみくもに逃げようとしたアドミニストレーターへアリスは魔法の言葉で……。
「動かないで」
と告げた。
直後結が懐に入って愚神を切り上げ。その愚神の体を追いかける香月。
「どうやら貴様はよほど私の手で命を取られたいようだな?
「だれが……そんなことを」
そこまで告げてアドミニストレーターは言葉を飲み込む。その瞳に言い知れぬ狂気を見て。恐怖を感じたから。
「私は二度と貴様らの玩具にはならん、代わりに私が貴様を蹂躙してやる。屈辱と恐怖に塗れながら地獄に堕ちる覚悟はできているだろうな?」
直後斬撃。その攻撃によって胴体から真っ二つに分かれる愚神。
その顔がにやりと歪むのを見て。
由利菜が砂埃を上げながら愚神の懐へ滑り込んだ。膝を立てる形での接射。
九陽神弓の矢じりにライヴスリッパーをこめる。
――私達もセオリー通りの動きをするとは限らん。
「接射へ移行します! ヴァニティ・ファイル!」
放つ。
高密度の霊力が愚神を焼き払い、そして。
彼の痕跡はこの世界から粉々に消えうせた。
エピローグ
失敗だったか。
そう誰かが暗がりで告げた。
その目だけが闇の中で爛々と輝いている。
その目の前を横切る白衣の男がいた。
彼は言う。
「ですが、我々の研究は最終段階に入っている、実用的な技術も増えてきた。もはやあの女の助力は必要ないのでは?」
暗がりに潜むものは頷く。
その仕草を見て。
白衣の男は満足そうに頷いた。
「このドクターD、誠心誠意。知恵の素晴らしさをお見せいたしましょう、ご覧にいれましょう」
そう、全てのカードは出そろった。
ここからは始まるのは、世界を滅亡に導く正義のお話し。
近いうちに幕は上がるだろう。
その時誰が壇上に立っているかはまだ。誰にも分からない。