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妖刀・千雨の恐怖
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【相談卓】
最終発言2017/05/12 00:06:53 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2017/05/10 19:17:19
オープニング
●妖刀の恐怖
「妖刀・千雨について、何かご存じですか?」
HOPE職員は、正義に尋ねた。
聞いたことのある名前に、正義は眉をひそめた。
「たしか、江戸時代に人を十三人も切ったとかいう刀やな。本当に切ったかは知らへんけど、本物だったら価値のあるもんやから依頼されて鑑定士のところに持って行ったことはあるで」
昔、正義はたしかに妖刀に関しての依頼を受けた。しかし、その依頼内容は怪刀が本物であるかどうかを確かめるために京都に住まう鑑定士に刀を届けに行くというものであった。刀のボディーガードともいえる依頼でもあるし、お使いのような依頼でもあった。
「鑑定の結果は……たしか偽物だったんちゃうかな。本物の千雨なら作られたのは鎌倉時代やけどボクの持って行った刀は最近作られた偽物だったはずや」
「その刀が、本当の妖刀になったという話がきているのですが」
「なんやて」
千雨が偽物であったと知った依頼主は、刀の処分に困ったという。そして、困ったあげくに知り合いの道場主に譲り渡してしまったらしいのだ。その道場主が刀を譲り受けてから、夜な夜な「切れ――……殺せ」という声が聞こえるようになったらしい。気味が悪くなった道場主は、それを知り合いのリンカーを相談した。
相談を受けたリンカーは悪霊などこの世にいるはずはないから、それは従魔の仕業であろう。自分を何とかするから一晩貸してほしいと言ったのであった。道場主はリンカーに一晩刀を貸し出し――……リンカーは死体となって発見された。
リンカーは、千雨の特性に気が付いていた。千雨はただ持つだけならば、普通の刀なのである。リンカーが戦うためにライブスを活性化させたときにだけ、従魔としての本性を見せるのだ。敵からも使い手からもライブスを吸収する、魔の刀としての。
道場主から刀を借りたリンカーは、その引き際を間違ったのである。リンカーの死因は、ライブスを過剰に失ったせいであった。恐れをなした道場主はHOPEに正式に依頼をし、刀の存在はHOPEの預かり知るところとなった。
「この刀には従魔がついています。ですが、普通に刀を攻撃することはできませんでした。どんな攻撃も刀には無効化されてしまいます。ただ、この状態では従魔もライブスの吸収ができないようです」
「持ち主が刀を持って戦ったときだけ、従魔はライブスを吸収できるんやな」
「そうです。さらに刀にはもう一つの特性がありまして、リンカーが一度手に持つと離せなくなるようなのです」
死んだリンカーが記録を残してくれたからこそ分かったことである、と職員は告げる。英雄との共鳴を解けばライブスは活性化しないので、刀は無害にはなる。しかし、手からは離れないので、刀を手放すためには戦わなければならないのである。
「HOPEとしては、この刀についた従魔を倒したいと思っています」
「……わかった。ボクが刀を持つ。その間に、従魔の討伐を頼むで。なんなら、破壊しやすいように最初から縛ってもらってかまわへん」
刀を持った正義を見ながら、小鳥は小さく呟いた。
『ふん……こんなこと責任を感じて、やんなくていいですのに』
●まさかの
刀を破壊するために集められたリンカーたちの前で、正義は小鳥と共鳴した。
「冗談やろ‥‥‥」
正義や職員の予想を越える力を刀は発揮した。刀に操られた正義は、手錠を早々に破壊してしまったのだ。
「くっ。こんなもん、ますます放っておけへん。みんな、このまま戦闘たのむで!」
解説
・妖刀千雨の破壊
千雨……従魔がとりついた刀。持ち主や戦う相手のライブスを吸収する。一度手に持つと、持ち主は刀を手放すことができなくなる。すでに正義が刀を持っており、刀を破壊しないと刀を手放すことはできない。英雄と共鳴を解くと無害になるが刀を破壊することができなくなる。また敵のライブスを吸収し、強固になる性能があるために破壊することが非常に難しい。
空き地(昼)……HOPEが用意した、人気のない土地。身を隠すようなものや場所もないが、足場はしっかりしており邪魔になるようなものもない。
正義(小鳥と共鳴済み)……千雨を破壊するために、刀を持つ。刀を持っている間は正義の意識はあるものの、肉体の行使権は千雨にとりついた従魔にある。正義自身は打たれ強いものの刀にライブスを吸われている関係上、防御力が下がっていくため攻撃が被弾すると大ダメージとなり小鳥が強制的に共鳴を解く。
鬼の吸収――刀に相手の肉体に触れる瞬間に発動。相手のライブスを吸収し、正義のステータスを上げる。また、同時に刀の強度も上がっていく。
鬼の咆哮――渾身の力を込めて、相手の一撃を食らわせる。非常に殺傷能力の高い技。
鬼の不意打ち――咆哮使用後にすぐに使用。大技を放った後の隙を狙わせて、懐に入ってきた敵を撃つ。
鬼の斬撃――目にもとまらぬ傍さで敵を切り刻む。攻撃が連続するため、回避が難しい。
呼び寄せ――正義が劣勢になると呼び寄せられる周囲の従魔。骸骨が甲冑をまとった姿をしており、防御力が非常に高い。武器の刀の扱いに長けており、多数出現。
PL情報
小鳥……正義の残りの体力がわずかになると強制的に共鳴を解いてしまう。一度共鳴を解くと、再び共鳴することを断固拒否するため作戦は一時中止される。
リプレイ
●大好き
正義は、小鳥に美味しいご飯をくれる――イイヤツ!
正義は、小鳥のブラッシングをしてくれる――イイヤツ!
いつもお仕事を頑張っている――イイヤツ!
『ふん……こんなこと責任を感じて、やんなくていいですのに』
でも、今日の正義は小鳥が嫌いなイヤなヤツだった。
●妖刀の恐怖
従魔がとりついた妖刀・千雨。持ち主の手から離れず、戦闘になった時だけライブスを吸う刀を正義はあえて持つ。すでに、この刀によって人が一人死んでいるのだ。千雨に関わりながら従魔の存在を見抜けなかった自分にも責任の一端はある。
正義は、そう考えていた。
だからこそ、危険な役割をあえて引き受けた。
「冗談やろ……」
だが、千雨の力は正義の予想を大きく超えたものであった。
「あらら、困りましたね。こんなときはお茶を飲んで落ち着きたいです。わかってますよ、ローズマリー。深呼吸で我慢します」
ラリサ リリエンソール(aa4857)は正義が手錠を破壊した光景を見て、目を白黒させていた。これは、完全に予想外のできごとであった。
「……」
離れて、とローズマリー(aa4857hero001)は指示を出す。いかなる方法で手錠が破られたかはまだ分からないが、この状態の正義に近づくのは非常に危険であった。
「まったく、穏便に終わるかと思ったらこれだよ」
予想が外れたとばかりに、加賀谷 亮馬(aa0026)はため息をついた。今回は楽な仕事になると思っていたのだが、予想外の大仕事になりそうだ。
『……従魔関連の事件で何事もなく終わった事など、これまであったか?』
Ebony Knight(aa0026hero001)の言葉に「それを言われちゃそうだけどさー……」と亮馬は呟いた。
『拘束を砕きますか……従魔刀のみの破壊は骨が折れそうですね』
いち早く辺是 落児(aa0281)と共鳴を果たした構築の魔女(aa0281hero001)は、千雨とそれを持つ正義の様子を観察する。
『現代実用刀……でしょうか? もしものときを考えて剣術に関しても調べておきましょう』
「□□……」
構築の魔女と、落児も同意見のようであった。
「悠長なことを言っている暇はないかもしれへん。避けるんや!」
刀を振りかぶった正義が、九字原 昂(aa0919)に向かって突進してくる。ベルフ(aa0919hero001)と共鳴した昂は、自分の身を守るために咄嗟にジェミニストライクを使用する。
「くっ……」
できるだけ、刀の部分を狙ったつもりであったが正義にもあたってしまったらしい。その際の正義の表情を見て、昂は何かがおかしいと気が付いた。
「予想より、正義さんへんのダメージ量が多い気がするんだよね」
『その見立て、どうやら間違いじゃないようだな』
ベルフは『誰かに回復させろ』と叫んだ。
「刀にライブスが吸われて、正義さんの防御力が落ちているのでしょうか? だとしたら、ダメージ量が多いのも納得できます」
アカデミック・ミリキー(aa4589)は、考える。相手が屈強な男だから、多少は乱暴に戦っても大丈夫だろうと見立てていたシャカ・ズールー(aa4589hero002)の作戦は、これで完全に崩れてしまった。
『だが、まだ策はある。ズールー盾でのズールー族の基本戦法でそのまま戦う!』
防御主体の攻撃で隙を作るのだ、とシャカは言う。
『ライブスを食らって力とする従魔、何とも分かりやすいじゃない』
九郎(aa4139hero001)は、双極の拳「陰陽」を装備した国塚 深散(aa4139)に囁く。正義の攻撃を避けながらも隙を伺う深散は、小さく呟いた。
「……まさしく妖刀」
『獣に手を噛まれた時、引き抜こうとすれば必死で食らいついてくるが、喉の奥へ奥へと押し込めば怯んで向こうから離れていく』
九郎の言葉に、深散は頷く。
「北風と太陽のようなものですか。わかりました。その策、乗りましょう」
『これだけで意図を察してくれるなんて、流石は深散』
妖刀にも弱点がある。正義のライブスを吸っているのならば、敵のライブスもまた大好物であるはずだ。陰と陽の異なるライブスで、内部から破壊する。それが、九郎の作戦だった。
「左手に陰、右手に陽。このライヴス、混ぜるな危険です」
双極の拳と千雨が、ぶつかり合う。
この攻撃によって、刀は何かしらのダメージを負うはず。あわよくば、折れるかもしれないと全員が思った。
「……折れない」
アリス(aa1651)は、顔をしかめた。
『さっきの攻撃は、綺麗に決まっていたよね』
折れてもおかしくはなかった、とAlice(aa1651hero001)は言う。
「うん、どうやら刀はわたしたちからもライブスを吸えるみたいだね。そして、そのライブスは刀の防御力を上げている」
「つまりは、下手に攻撃すると相手のステータスを上げてしまうことになるんですかねえ?」
アリスの言葉に、加賀谷 ゆら(aa0651)はため息をつく。
「ただただ刀を鑑賞するつもりだったのに……。なかなか厄介なことになってるんだね」
正義に攻撃が当たれば持ち主を殺しかねないし、刀に直接攻撃をすれば刀の防御力を上げてしまう。
『持ってる人ごとばっさりやれたら楽なんだけどなー』
「ひかる……。それ、17の娘さんが言うことじゃないぞ」
加賀谷 ひかる(aa0651hero002)の言葉に「本当にばっさりいきそうで怖い」とゆらは思ってしまう。
『とにかく、刀狙ってけばいいんだもんね。いつも通りがんばろ! ママ』
「慎重にいこうね。ひかるん……」
正義の体が真っ二つになるのは見たくないと思う、ゆらであった。
『気をつけろ。暴れてやりたいとこだが下手に動けば正義を傷つけてしまう事になる。かと言って加減して行動してるとこっちが殺られそうだ』
勇んで飛び出しそうになるひかるたちに、カイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)は声をかけた。
「ふーん……意外と難しい相手だね」
御童 紗希(aa0339)は、正義と千雨を見やる。
正義は、亮馬と切り結んでいた。
大剣を振り回しながら、亮馬は叫ぶ。
「大事の前の小事だ! 腕ごと持っていかれても性能のいい義手紹介するからな安心しな!」
『おい、馬鹿やめろと言っている……』
「おおきに! できればメンテナンスが簡単なやつを紹介頼むで」
正義の返答に、Ebony Knightは頭を抱えた。
今のは、関西人特有のボケとツッコミの一例だと思いたい。
「本人もああ言ってるし、腕ごとぶった切るって結構いい案だったんじゃないか?」
『新手の漫才か何かか。駄目に決まっているであろう』
「ですよねー……いや、幾ら従魔絶対ころすマンでもそんな怖いはしないさー。あっはっはっは」
亮馬は乾いた笑いをもらすが、Ebony Knightは油断できたものではないとため息を漏らす。なにせ、亮馬は敵を目の前にすると感情的になってしまうきらいがある。他の面々が止めてはくれるだろうが気は抜けなかった。
「殺すな、彦次郎!」
井口 知加子(aa4555)は、共鳴した相棒に声をかける。たたき上げの武将である堀内 彦次郎(aa4555hero001)は、実用的な戦い方しか知らない。相手を殺す技術はいくらでもあるが、今回のような相手にできるだけダメージを負わさないようにする戦闘はやりにくそうであった。
『まったく、一番面倒な仕事だのう』
本当は長槍でいきたいのだが、と言いつつ彦次郎は童子切を握ることを進める。
『あの手の相手は、間合いの外から刺すのが一番だが……』
「それだと……殺してるよな?」
今回の依頼は、刀の破壊である。
『だから――』
彦次郎の言葉に、知加子は頷く。
そして、深散を切り結んでいた正義の前に割り込む。童子切で狙ったのは、正義の手首だ。体重は乗せたが、手加減した一撃。これで、刀の操作が鈍ったりしないだろうか。
正義の動きを、知加子は見る。
「井口さん、危ない!!」
深散が知加子を庇う。
正義は、大きく刀を振りかぶる。
「剣というのは、腹側から攻撃を当てれば脆いものです」
正義の鬼の咆哮を避けた深散は、千雨を狙う。
「ライブスによる自慢の強化を崩されたら、動揺してくれないでしょうか」
『ふむ、そこまでの思考能力を持っているかどうか……』
九郎は、正義を見る。
渾身の一撃を放った後だと言うのに、疲れは浮かんでいない。それどころか、先ほどとは違う構えを見せて――。
『不意打ちとは厄介だな!』
カイは、小回りのきく攻撃で正義に攻撃する。
千雨という従魔は、どうやら正義の体を使って技を発生させているらしい。そう考えていると、正義は再び刀を振りかぶる。先ほどのとは違うか構えに、カイは盾を構える。
「これは、危ないでっ!」
『分かってる。だから、盾を構えているんだろ!!』
正義の斬撃に、カイは盾で耐える。
早い攻撃に下手に反撃すれば、正義にダメージ与えてしまうかもしれない。だが、反撃に転じなければジリ貧になるばかりである。
『乙女に何しやがる……コロス』
「殺しちゃだめだって、行ってるよね!!」
どうやら思うように反撃に出れないことが、カイのストレスになっているらしい。紗希はカイをなだめながら、戦況を見る。本格的な攻撃に移れない自分たちが不利なように紗希は思った。
『従魔に操られ人間としてリミッターが外れている可能性もありますね。技術や力で隙を潰してくる可能性も……捨てきれません』
どう攻めるべきか、を構築の魔女は考える。
どうするべきでしょうか、と彼女は落児に尋ねるふりをする。答えを期待しているわけではなく、会話をすることによって自分の考えをまとめたいだけであった。
『十全の力を振るわせないように……ですね』
構築の魔女は、正義の手元を見る。どちらの手が鍔の近くを握っているかで、正義の聞き手を判断しようとしたのである。
「□□……」
『そうです。正義さんにもダメージを与えぬように、こちらもできるだけ被弾をしないように。そういう作戦です』
落児に、構築の魔女は答える。
いくら刀が多彩な技を持っていようと所詮は刀。
利き腕の側面側ならば、いくらか反応は遅れるはずである。
だが、決定打が見つからない。
「泣いて頼まれても、涙を呑んで良田様だけを回復することをここに誓います」
ラリサは、正義に向かってケアレイを発動させる。
彼女のその行動によって、全員がこの場にいる唯一の回復役の名を思い出した。
ラリサ リリエンソール。
彼女は、戦場で今初めて誰かの傷を癒した。
「ローズマリー、回復のタイミングを教えてくださいね。いえ、頭の中でじゃんけんをしていてもわからないのですが」
ローズマリーはアドバイスをしてくれているのだが、喋れないためにどうにも分かりづらい。戦闘に慣れていれば、これでも通じるのかもしれないが残念ながら彼女たちはまだ戦場というものに不慣れであった。
「回復は頼むよ。攻撃しすぎて、良田さんを殺しちゃったら笑えないから」
アリスは、ラリサを背にかばう。アリスの前には前衛たちが並び立ち、これで何があっても正義の攻撃がラリサに当たるということはないだろう。
「良田さん……に動かれると面倒だな。動きを止める様行動する人もいるみたいだし、それじゃあその隙でも作ろうか」
『アレを使うんだよね』
Aliceの言葉に、アリスは頷く。
「一時止める、その後はよろしく――止まれ!」
支配者の言葉によって、正義の行動が一時的に停止する。
「妖刀が離れない以上、良田さん……の動きを止める方が手っ取り早いよね。
『ちょこまかされて狙いが逸れても面倒だしね』
アリスとAliceは、頷き合う。
「ナイスタイミングですね!」
昂は、ハングドマンの銅線を千雨に巻きつける。これで支配者の言葉の効力が切れたとしても、動きを阻害できるはずである。正義側にも手ごたえが伝わったらしく、彼はほっとした表情をしていた。
「人を操る妖刀が操られるなんて油断大敵、ですね」
『まったく……。思う様に使えない得物なんざ、不良品もいいところだ』
こんな刀、早く壊してしまおう。
ベルフは、そう呟く。
「使い道も無いし、潰して鉄資源にリサイクルしないとね」
『……それはそれで、同じ様なモノが出来そうで怖いな』
ホラー映画でよくありそうな呪いの連鎖をベルフは一瞬考えた。千雨は本体が従魔であるから、呪いの連鎖というものはないであろうが。
「そのリサイクルされた妖刀、私が持ってもいいんだけど……」
『共鳴したわたしたちが妖刀持つとか脅威でしかないから! 邪英化みたいなもんだから!』
突然のゆらの発言に、ひかるは言葉を失う。
バットエンドしか思い浮かばない光景である。
「そうなったら、亮馬に介錯を頼むわ」
『うわー……。パパ、泣くお』
苛めるのもほどほどにしなさい、と娘は母に注意する。
『亮馬、いっくよー! 正義さんの体力だけは要注意よー!』
ひかるの言葉に、「おう」と亮馬は答えた。
連携した攻撃によって、この戦闘を終わらせる。
そう決意しての叫びだった。
『なんだ、様子がおかしいようだ』
Ebony Knightが正義の様子に気が付いて、亮馬に足を止めるように指示を出す。
「これも刀の呪いなのでしょうか?」
呟くラリサに、ローズマリーは首を振って否定する。
リンカーたちの周囲に現れたのは、鎧を身にまとった従魔たちであった。
●従魔の群れ
「こっちは、殺していいんだよな」
知加子は、刀から長槍へと武器を持ち替える。
その顔には、好戦的な笑みが浮かんでいた。
『囲まれると厄介か?』
彦次郎の言葉に、知加子は「上等!」と返した。
知加子は従魔の頭上の上になるように槍を持ち上げて、下に向かって叩きつける。リーチの長さを生かした攻撃に、彦次郎もまた血がたぎり始めるのを感じた。
「囲まれようとも怖くはないだろう」
知加子は槍を横に振り回し、従魔をなぎ倒す。
『同じ戦士として、負けてはいられないな!』
シャカも従魔に向かって飛び出していく。
「たしかに、こちらの方がアカデミックたち向けでしょうね。良田君の相手は、先輩方にまかせましょう」
『日本のサムライ! 見よ、これがマサイの戦士の戦い方だ!!』
シャカの雄叫びを聞きながら、アカデミックはイクルアで従魔を刺し殺す。もう片方の手には盾を持ち、攻守万全の態勢で従魔の群れのなかに突撃した。
「攻撃こそが最大の防御だ。日本の槍の威力をマサイに見せつけるぞ!」
負けじと知加子は叫ぶ。
『……目的が入れ替わっているような気もするが』
敵を倒す意気込みが増したのならばそれもいい、と彦次郎はうむと頷いた。
『この彦次郎の力を存分に使え』
「日本の武士は、世界一!!」
知加子の叫び声に、シャカも雄叫びを上げる。
『マサイの戦士こそ、宇宙一!!』
「……二人とも、実はものすごく仲がいいんじゃないでしょうか?」
アカデミックは小さく呟きながらも、知加子たちが止めを刺し損ねた従魔を狩っていく。知加子たちの攻撃は大勢の敵を相手にするのに向いてはいるが、小回りが利かない。そこをサポートするのが自分たちの仕事である、とアカデミックは見ていた。
「二人とも頑張ってください。……ええ、わかってます。私たちは、良田様の回復に専念するんですよね」
ラリサは、ローズマリーの指示を待つ。
「あ、今がその瞬間ですね。ケアレイ。どうしましたローズマリー? 不満そうな顔をして」
会話中に、あっけなくラリサは回復薬としての務めを果たす。
待っていたはずのローズマリーの指示を忘れたように。
「でも、実戦での初回復という記念すべき仕事の前に一人じゃんけんで遊んでいるほうがどうかと。……ああ、指示を出したかったのですね。そうですよね、あなたにとっても初仕事ですもの」
ラリサは微笑みながら、ローズマリーに語りかける。
「リンカーとして私をしっかり導くために毅然としたところを見せたかったのですよね。すみません、遊んでいるようにしか見えなかったもので」
しょげたようなローズマリーの様子を見たラリサは、言いすぎたかのしれないと思った。初の回復薬としての役目に緊張し、それでも皆の役に立ちたいと意気込んでいるのはラリサだけではないのだ。ローズマリーも同じ気持ちなのだ。
「ローズマリーしっかりしてください! ここは戦場で、私たちは皆様の命を預かるバトルメディックなのですよ」
さぁ、指示をください。
ラリサの言葉に従って、ローズマリーは支持を出す。
「……エマージェンシーケア! ナイス指示です、ローズマリー。やはりあなたは頼りになりますね。いえ、手のひらなど返してはいませんよ。私は真剣にあなたはやればできる子だと信じていますから」
喜ぶラリサに向かって、投げられる言葉があった。
「英雄思いなのはいいことだけど、戦場でのよそ見は危ないよ」
アルスマギカを手に持ったアリスが、ラリサの前に出る。
「……鬱陶しい」
『そうだね。すべてを燃やそう』
よく似た二人は、ぼそりと呟く。
ごう、と炎が出現した。
燃える炎は従魔を包み込み、さらに勢いを増していく。よく見るとアリスは、リフレクトミラーも持っていた。炎が乱反射して、業火の範囲が広がっていく。
『骸骨との戦いには慣れてる!』
黒猫『オヴィンニク』で、ひかるはアリスの炎をさらに燃え上がらせる。
『日本刀じゃないのが惜しいけど、従魔たちはこの大剣でぶった斬る! 今まで抑えてた分、あんたたちには容赦しないっ!』
ひかるは、薙刀『冬姫』を構えて従魔に突撃していく。
「こいつなら遠慮はいらない。ゆら、必殺コンボだ! 一気に押し潰す!」
亮馬は、疾風怒濤を使用するためにゆらに声をかける。
二人でならば、この戦場を一気に染め変えることができる自信が亮馬にはあった。
『……妙にテンションが高いのは。一体何故なのか』
何となく嫌な予感がしてEbony Knightは尋ねる。
「ははー……。いやあ、最近戦闘から離れてたせいか知らんけど、妙に自制が効いてないというかさ」
『ベテランもいいところなのだ。そんな事では困るのだがな。バットエンドのフラグを立てても知らないぞ』
「おう、分かってるさ。……ん? バットエンドのフラグ?」
それってどういうことだ? と亮馬が尋ねる前に彼の隣を駆け抜けていく者たちがいた。
「同じくリーチの長い獲物だ! 負けてられないよな!!」
ひかるの背中に、知加子が続いていく。
「二人が取りこぼした敵を確実に狙いましょう」
アカデミックはも彼らの後を追って、走り出す。
『妖刀破壊がオーダーである以上、従魔に手間取っているわけにはいかないよ』
「そうだね。たたみかけよう」
ブルームフレア、とアリスとAliceも声を合わせた。
●奪う力
「まだ、ハングドマンの鋼線は有効です。僕たちが動きを妨害しているうちに頼みます!」
『どれ、暫く踊って貰おうか』
昂が叫ぶ。
「カイ、何度も言うけど手加減だからね。ラリサさんがいるからって、油断はできないよ」
いきなり大技を放ってしまいそうなカイに、紗希は声をかける。
カイは不服そうな顔をして「耳にタコができるだろ」と反論する。本来ならば、動きの止められた正義は絶好の鴨である。だが、ここで大技をはなってしまったら、今までの努力が無に帰す。だから、カイも大人しく紗希の言葉に従っていた。
「……まさしく妖刀、霊奪で弱体化させれば或いは」
少しは硬度が落ちるかもしれない、と深散は呟く。
「くっ……もう拘束のほうが限界です」
『あっちは起死回生の策を思いついたようだ。ひとまずは、あっちに任せるぞ』
ベルフの言葉に、昂は頷く。
正義の拘束が解かれ妖刀・千雨は、カイを刀の錆にするために正義に自らを振りかぶらせる。紗希が、悲鳴のような声を上げた。
「こ……このタイミングって間に合う!?」
『大技が来たら危ないかもな』
盾で防御しようとするが、千雨の方が早い。
このまま振り下ろされれば、大怪我をしかねない。
構築の魔女は、正義が振りかぶった刀の切っ先に砲撃を放った。刀が一瞬だけ押し戻され、カイの防御が間に合う。
『余計なものを斬れば……速度がその分落ちますよね?』
「□□――……」
落児もほっとしたようであった。
『もうこれ以上は、あなたの好きにはさせません。妖刀・千雨、大人しく――ただの刀になりなさい』
構築の魔女は、一歩を進みだそうとする正義の足元に攻撃を放つ。
狙撃されると判断したのだろう千雨が、正義の肉体を後方に下がらせようとした。
構築の魔女は、ひそかに微笑む。
正義を下がらせることが、彼女の狙いであった。正義の足元を狙えば、千雨が彼を下がらせることは予測がついていた。千雨という従魔にしてみれば、正義は獲物であるが武器でもある。武器の体が使えなくなれば、千雨はただの刀に戻ってしまうのだ。だからこそ、刀が届きにくい場所への正義への攻撃は警戒されると構築の魔女は睨んでいたのである。
「残念ですよね。人間の目は、前にしかついていないのですよ」
正義の後ろには、深散がいた。
手には、忍刀「無」があった。
「――霊奪」
振り向く正義――妖刀に、深散は霊奪を使用する。これによって千雨のライブスを奪えるならば、厄介な硬さも元に戻るはず。そして、元に戻ったのならば必殺に一撃の放ってくれる仲間がいるはずだ。
『今が、好奇だな!』
「絶対に、負けないからね」
カイと紗希の叫び声と共に、一撃粉砕が発動する。
カイの剣と正義の刀がぶつかり合い、両者は互いに譲らずに足だけが地面を深くえぐっていく。カイの足が、わずかに後方に下がった。
『くっ……このままだと辛いかもしれないな』
「そんなっ……」
紗希の心配する声を聴きながら、カイは足と腕に力を込める。
――負けるものか。
――従魔になど、絶対に負けるものか。
そう、念じながら。
「残念ながら、霊奪を使うことができるのは一人だけではありません」
『油断大敵ってやつだな』
昂とベルフが、霊奪が使用する。
刀の強度は下がり――そして「ぱりーん」と千雨が折れた。
人の命を奪った妖刀にしては、あまりにあっけない幕引きであった。
●大嫌い
小鳥は、意外にたくさんのことを知っている。
正義の責任感が強いことも、正義が何とかこの件を自分で解決しようとしていたことも、たぶん正義は同じことを繰り返すだろうということも。
「とりあえず……今度から怪しいモノの調査は、もっと慎重にやりましょう」
昂は、冷や汗をかいた呟きながら息を吐く。
何度も危ない、と思うような危機はあった。それでも全員が機転を利かせて、なんとか乗り切ることができた。おかげで、正義も五体満足である。
『毎度誰かが支配下に置かれちゃ叶わんからな』
「そやな。けど、今回ほどややこしい従魔とはそうそう出会うことはないやろ」
ベルフの言葉を交わしながら「ボクも初めてのタイプの敵だったで」と正義は笑う。
「一度でいいから刀持ちたかったわ」
ちょっと残念、とゆらはため息をついた。
『従魔付きの日本刀はもういいや』
ひかるは、疲れたように座り込む。
「なんだか、不完全燃焼……。せっかく、りょーちゃんとえぼちゃんもいるし。ちょっと刀剣博物館でも寄って帰りましょー!」
『それ、新幹線乗らなきゃ行けないじゃーん!』
亮ちゃん、ここから新幹線代はいくらぐらいかかるかな?
とゆらは亮馬に尋ねた。
「刀の博物館なら、奈良にもあるで。ええっと……小鳥、新幹線代って一万ぐらいやったっけ?」
正義は、小鳥に尋ねる。
小鳥は、獣の目で正義を睨んだ。
――正義は、絶対に今日のようなことを繰り返す。
約束しても、誓わせても、誰かを守るセイギでありたいと願うからこそ、過ちを犯すであろう。小鳥には、その未来が見えていた。
だからこそ、小鳥は唇を開く。
「もう、正義とは共鳴はしたくないのです」
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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