本部

【絶零】連動シナリオ

【絶零】なんどでも

布川

形態
ショート
難易度
難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/05/15 15:01

掲示板

オープニング

●不死身の亡霊
(来るな、来るな……)
 頼むから、こっちに来ないでくれ。
 物陰に身を潜めたエージェントは息を殺し、ポーラスター劇場を闊歩する青白く醜い姿の老人――愚神、<<不死身のコシチェイ>>の追跡をかわそうとしていた。

『ォォォ……』
 コシチェイは、青白く足を引きずる二足竜にまたがり、ポーラスター劇場内のドロップゾーンを巡回している。コシチェイの構えるサーベルには、べっとりと赤い血がついている。
 先行したエージェントたちを、いともたやすく屠ったサーベルだ。

 先発部隊も、ただやられていたわけではない。彼らの総攻撃により、コシチェイの胸には深々と剣が突き刺さっていた。
 想定していたよりもあっさりとコシチェイは倒れ、討伐は成ったかに思えた。
 しかし、30分ほど身動きを止めたコシチェイは、剣を引き抜き、まるで何事もなかったかのように再び動き出したのである。
 結果、先発隊は不意をつかれる形となり、壊滅状態に追いやられることとなった。

 どうしたら、あの怪物を止められるんだ?
 小さな白いネズミの一匹が、エージェントをじっと見ていた。
 ネズミはエージェントを一瞥すると、部屋の隅に逃げ込んでいった。
 死体をあさろうというのだろうか?

 ネズミを見送ったエージェントは、はっと我に返った。
 そうか。
 そういうことなんだ。

 「それ」に気がついたとしても、伝える手段はなかった。追うにしても、もう立ち上がる気力が無かった。

 ひたり。ひたり。

 引きずるような物音がピタリと止まった。にたりと笑う老人と目が合う。
 サーベルが振り下ろされる。

 目をつむる。
 エージェントが最期に見たものは、老人の虚ろな表情だった。

●凍り付いた町
 ノリリスクを覆い尽くす、雪と煤煙の灰色。
 シベリア・超大型ドロップゾーンにほど近い極北の都市「ノリリスク」は、住民たちの避難により、現在は無人の町と成り果てている。
 愚神と従魔の支配を受けているこの都市にも、《レガトゥス・ヴァルリア》の撃破によって、ついに、――反撃の突破口が開いたかに思われた。

 ところが。

 市長官邸に展開するドロップゾーン内にて、先発隊との通信は、不意に途絶えた。

●反撃の狼煙は
「場所はノリリスク。ポーラスター劇場。敵は、ケントゥリオ級愚神――不死身のコシチェイ。
当初は、目立った従魔も従えておらず、危険度を低めに見積もっていたが……」
『ケントゥリオ級に格上げになったんだ。このケントゥリオ愚神は――報告にあった通り、何度倒しても復活する愚神みたいだ
 コリー・ケンジ・ボールドウィン(az0006)は、険しい顔をしていた。
「先発隊の生存者は絶望的。
今回の任務も、成功するかどうかわからない。
しかし、必ずあるはずだ。奴を倒し、ノリリスクを救い出す――方法が」

解説

●目標
 不死身のコシチェイの撃破。
 ノリリスクの奪還。

●登場
<不死身のコシチェイ>
・ケントゥリオ級愚神。
 一切死ぬことがなく、何度倒しても時間と共に復活する。ドロップゾーン内において、エージェントをしつこく追い回す。

能力
物攻/物防/魔攻/魔防/命中/回避/移動/特殊抵抗/INT/生命
B/E/E/E/B/F/D/C/C/F

スキル
《サーベル/物攻》《無痛覚》《不死身/撃破後20~30分で蘇生》《高速回復/非戦闘自15分で完全回復》《乱れ切り/3回攻撃/回数1/蘇生後使用回数回復》《騎乗/移動力+5(10→15)/騎乗動物の生命50/蘇生時間は同じ》《対象追跡/一度標的に選んだ対象の所在がドロップゾーン内部ならば自動判明》

<シロネズミ>×大勢
ミーレス級の従魔たち。
攻撃力は無いに等しい。
あちらから攻撃を仕掛けてくることはなく、エージェントたちが近づけば逃走する。

●場所
・ポーラスター劇場。

中央にある舞台を中心に、通路が円状に広がっている。東西南北に階段。
舞台は2Fから1Fが見下ろせる。

<1F>
一般公開向けの、見通しのよい場所が多い。
また、非常口や階段などが多く、行き止まりが少ない。

舞台
・巨大なカーテン、上の方にも舞台装置のためのやや不安定な足場がある。
1Fから2Fへ跳躍することも可能だろう。

他に受付、事務室などがある。

<2F>
関係者向けの、細々とした部屋が多い。
部屋については行き止まりが多く、注意が必要。

・控え室
・衣装部屋
・倉庫

……などがある。

●既知の情報
・コシチェイの不死身能力を含めた、スキルに対する大まかな情報。

●(探索情報)
・犠牲者の記録
逃げ延びたエージェントが書き残した情報。
あちこちに散らばっている。
エージェントは事切れている。
途絶え途絶えに白いネズミたちの目撃情報、攻撃してくるでもない不穏な挙動について記されている。

※必ずしも取得しなければいけないわけではない。

リプレイ

●挑む者
「先遣隊が全滅、ですか」
 キース=ロロッカ(aa3593)は、限られた時間の中で、先発隊の報告を精査していた。
『不死身の敵さんならどう考えても勝てないんだよう』
 匂坂 紙姫(aa3593hero001)の亜麻色のツインテールが、心配そうにぴょこんと下がる。
「完璧な不死なんて存在しません。絡繰りがあるはずです」
「ああ。レガトゥス級ですら不死ではないのだから、絶対に死なないというのはありえないな」
『そうねぇ、火の鳥と林檎の樹を探さなくちゃね』
 繰耶 一(aa2162)のことばに、ヴラド・アルハーティ(aa2162hero002)は頷く。
 打開策はあるはずだ。
『そっか。そうだね。……難しそうだけど、頑張ろうね!』
 匂坂は、仲間たちとキースの言葉に励まされようやく顔をあげる。

『不死身のコシチェイか。コイツに引導を渡さないと、後々面倒なことになるだろう』
 99(aa0199hero001)――アンダーハンドレッドは、シールス ブリザード(aa0199)と共にポーラスター劇場を見据えていた。共鳴したシールスの瞳は、99と同じ銀色に染まっている。
「……ありがとう」
 シールスから館内地図を受け取り、無音 冬(aa3984)はじっと通路を確かめる。
『換気口の構造が記されてる。上出来だな』
 無音の横から、イヴィア(aa3984hero001)は地図を覗きこむ。
「うん。なにがあるかわからない……」

 ポーラスター劇場を前に、エージェントたちは次々と共鳴を遂げていく。

【今回は私に主導を任せていただいても?】
「……? 何かあるのか?」
【えぇ、手を汚すことになるかと思いますので。私の方が適任かと】
 イコイ(aa2548hero002)の口から出てきたのは、深窓の令嬢といった外見とは裏腹の淡々とした言葉だった。
 賢木 守凪(aa2548)は頷き、イコイと共鳴する。
 左目にはモノクルを。切れ長の黒い目。燕尾服を身に纏った成人男性だ。守凪の意識を、イコイが握りつぶす。
『行きましょうか』
 金烏玉兎集を紐解くと、巻物は羽衣のように浮かび上がった。

「……不死、ね……それだけ見りゃ厄介だけど……気味が悪いのはその「強さ」と該当階級か……」
 東海林聖(aa0203)は、冷静に敵を見極めんとする。
(……やっぱ普通じゃねェ……な、このカンジ)
 『強さ』に対しての純粋な向上心を持ち、鍛錬を怠らない東海林は、直感的に愚神の異質さを察していた。
(……違和感がひしひしって感じだね……ヒジリーでもそう思うなら余程……)
 Le..(aa0203hero001)は、スイッチを入れる。
「気を付けて行くぜ、ルゥ」

 ルゥと共鳴した東海林は、ライトグリーンの風を纏う。東海林の後ろにはルゥの影が見えた。

 凍てついた劇場を前にして、無音とイヴィアは共鳴を果たす。雪に溶けてしまいそうな幻想的な無音の白が、徐々にイヴィアの色を帯びる。

「頼りにしてます」
「はい」
『うん!』
 キースの言葉に、セレティア(aa1695)とセラス(aa1695hero002)はそれぞれに頷く。
『無事に終わらせて、甘いものを食べるの』
「ああ、無事に帰るよ」
 繰耶が言う。

 セラスと共鳴を果たしたセレティアのすがたは、家族を失ったあの夜のセレティアだ。契約と同時に無くした記憶を取り戻し、苦痛と絶望の中で自らの死を願った瞬間の彼女。
 セレティアに、冷酷な薄ら笑いが浮かぶ。

 ここに立つリンカーたちの何人が、重い過去を背負って尚立つのだろうか。

「この世に不死身の命など存在しない。貴様らとて例外ではない。それを今に証明してやる」
 黛 香月(aa0790)は強く武器を握りしめた。彼女にとって愚神は己の人生を歪め、アイデンティティをも歪めた憎き仇敵であり、絶対に滅ぼさねばならぬ存在だ。
 たとえコシチェイが不死身の肉体を持っていようと、引き下がる気は毛頭ない。
「共に行こうぞ」
 志を同じくした清姫(aa0790hero002)との共鳴により、黛の髪と瞳が赤に変色する。炎に還元されたライヴスがプロミネンスのように吹き出す。その姿は「歩く煉獄」と呼ぶにふさわしい。一歩踏み出すと、周りの雪を消し去った。
(不死身のカラクリを見つけ出し、地獄の底へ誘うのみ)

●開幕
 劇場は、不気味な静けさに満ちていた。だれ一人いない廃墟。わずかに、ロープや先発隊の残した足跡、そして戦いの痕跡があるのみだ。
 閉所での挟撃は、思いもよらぬ事故を招く。
 ならば、一度愚神を倒し、その後に探索をするというのがベストだろう。
 キースの提案に従って、エージェントたちは舞台へと向かう。

 どかり。どかり。
 奇妙に反響する廊下の中で、何者かの足音はゆっくりと近づいていた。
 エージェントたちが舞台に足を踏み入れた、ちょうどその瞬間、それは現れた。巨大な騎乗生物に乗った、醜い老人――不死身のコシチェイの姿である。
 ミツケタ。
 返り血をべったりと浴びたまま、コシチェイはにたりと嗤った。

 しかし。エージェントたちは犠牲者ではない。彼らもまた、この瞬間を待っていたのだ。

 繰耶の主導権を握ったウラドが、影殺剣「カル・ゾ・リベリア」にライヴスを込め、瞬く間に呪わしき剣は刀身を構築する。
 赤龍の眷族を狩るべく作られたと伝えられる影殺剣。
 コシチェイのまたがる不気味な竜は、その来歴に不愉快そうに牙を剥いた。
『若い女の子が好きなんでしょう? ほぉら、こんな風にね』
 守るべき誓い。ライヴスの雷光が華となり辺りに散る。ヴラドの表情は、狂喜に満ちている。

 突進するコシチェイを足止めするように、エージェントたちは遠距離からの攻撃を仕掛ける。
 無音と賢木は、別方向から同時に銀の魔弾を放った。魔弾は交錯し、見事に愚神に命中する。
 手ごたえはあった。何度も復活するとは、考えられないほどに。
「本体……」
『……別にあるとかだったら嫌だせ……?』
「いくよ!」
 回り込むように位置を取ったシールスの九陽神弓が一射を放つ。
「よそ見する余裕があるのか?」
 そちらに愚神が注意を向けた隙に、黛の17式20ミリ自動小銃が、騎乗生物の片目を撃ち抜いた。
 ブレイジングソウル。
 合図とともに放たれたキースのフラッシュバンが、辺りをまばゆく照らした。

 瞬く間に、舞台は激しい戦場へと変貌する。
『行くぜッ!! コレでも食らいやがれッ!!』
 コシチェイの接近とともに前線へ躍り出た東海林は、ツヴァイハンダー・アスガルを思い切り叩きつける。
 ヘヴィアタック。ぬめついた黒いライヴスが、思い切り愚神を圧し潰す。
 ばきり。
 重い音がした。
 間違いなくダメージは入っている。体の一部が欠けても、おかまいなしにコシチェイは嗤う。コシチェイの関節は、奇妙な方向に曲がっている。動いている。
 偉業の化け物は、黄泉の者と化していった。
「来い……」
 黛は我が身も顧みず、国士無双を手にすっと身を引いた。ロストモーメント。自信への隙と引き換えに、多大な威力を生み出す攻撃だ。
 ぎらついた目で黛を見たコシチェイだが、コシチェイの攻撃はヴラドへ向いた。
 コシチェイからしてみれば、チャンスを逃し、ダメージばかり負うこととなる。
『呆れるほど単純で助かったわ』
 コシチェイのサーベルを受け止め、ヴラドは笑みを浮かべる。コシチェイの一撃は重い。だが、ヴラドにはそれを受け止め、致命傷を回避するための技量があった。
 傷ついていくほど、闘争心は増していく。
 舌で血の味を感じる。笑みは深くなる。

 攻防が続く。コシチェイの乗る竜は、ぎこちない動きで攻撃に耐えていた。
 キースは油断なく標的を見据え、撃ち抜く。
 セレティアは、ルールブック「完全世界」をかざした。
「みさかえはあれ かがやきの!」
『あめとしめりの くろつちに!』
 サプリブック「完全な国のアリス」はキャラロストの項を無慈悲に引き、愚鈍な竜に裁定を下す。
 消滅(ロスト)。
 騎乗生物から引きずり降ろされたコシチェイは、億劫そうに体を持ち上げる。歯を剥きセレティアをにらんだが、この距離からでは届かない。ゆらりとサーベルを構え、手ごろな獲物めがけてサーベルを振り下ろす。
 鈍い音。
 シールスのゴールドシールドが、攻撃をはじいた。火花が舞い散る。
『まだまだ!』
 東海林は再び攻撃を乗せ、ヘヴィアタックをぶつける。
 半ば、相手の胴体も真っ二つになろうかという衝撃。ぐるりとコシチェイの上半身が回った。
 確かな手ごたえ。コシチェイもまた、反撃に出る。サーベルがぎちり、と持ち上がり、ギロチンのように振り下ろされる。
 3連撃。
 仲間に振り下ろされるサーベルを、ヴラドは引き寄せた。瞬間的な反応速度の増大を利用し、致命傷をかわす。
 二度、そして、後一度。
「させませんよ」
 キースの威嚇射撃が、見事に矛先を逸らした。
 間一髪。
 シースルがヴラドにケアレイを飛ばす。
 セレティアが怒りをぶつけるように、ルールブックを引き寄せる。
「おらよっ!」
 東海林の一撃により、コシチェイはその場に崩れ落ちた。

●カウントダウン
 コシチェイはとまった。
 負傷した味方に、シールスはケアレインを唱える。比較的多く傷を負ったヴラドには、さらにケアレイを重ね掛けする。
「あたしは平気よ。ありがとう」
 シールスは、あえて自分の負傷をそのままにした。気づかわしげなセレティアをはじめとする仲間たちに、シールスは頷く。
「ケガも軽いし、もし攻撃を集められるようならその方が良い」
『ああ、大丈夫だ』
「それに、きっとコシチェイを倒す方法は見つかる」

(不死身といえど再生まで時間はかかるようだし……怪我もしっかりしてる……)
 無音は、地面に横たわるコシチェイを探る。
(本体が別にあるなら……どこかで操っているだけかもしれないし……)
 愚神を探り終えた無音は、舞台装置の隅で倒れているエージェントを見つけた。
(……他にも記録が隠されているかも……)
 そっと目を伏せ、無音はエージェントの遺体を調べる。このエージェントはほぼ即死だったようだ。持っているものは標準的なもので、特に変わったものはない。
 かと思えば、白い動物の毛に気が付いた。
「これは……」
 かさり、と物音がした。振り返るが何もいない。
 無音は、エージェントの遺体を、戦闘の危険がない物陰に移動させる。少しでも身体が傷つかないように。
「……」
 そっと目を伏せる。イヴィアが悔しそうに告げた。
『後で手厚く埋葬してやるからな……』

 何かがいた気がする。その情報に、エージェントたちは耳を傾けた。

 愚神は動かない。ただ、ひゅうひゅうと呼吸が聞こえる。
 舞台装置を巻き上げると、セレティアは愚神を宙づりに吊り上げた。
それにシースルも手を貸す。コシチェイの握るサーベルが、からりと、手から転がり落ちる。
 舞台は処刑場のような異形さを醸し出していた。
 吊り上げられた愚神を一瞥すると、セレティアは愚神に攻撃を加えた。蘇生のタイミングを遅らせるのが狙いだ。

「隊を二つに分けましょう。ボクはここで、コシチェイを見張ります」
 キースの言葉に、エージェントたちは頷く。今は大丈夫だ。だが、いつ復活するか分からない。緊張感が満ちていた。
 探索に向かおうとするセレティアを、キースはそっと呼び止め、耳打ちをする。
「すいませんが、先遣隊の致死傷や遺品等を探してもらえますか。ボクはここで愚神の監視をしていますので」

『監視はおまけだよね?』
 仲間たちが探索に出払ったあと、匂坂は言った。天真爛漫な振る舞いから分かりづらいが、匂坂は聡い。
「ええ。情報を基に推理するなら、下手に移動しない方がいいですから」
 カタリ。
 不気味な音がする。
 コシチェイは、ゆっくりと再生し始めていた。

●火の鳥
「劇場を”城”と考えて、庭園はどこに? モノを隠すに適する場所は倉庫か衣装部屋か?」
 繰耶は舞台の倉庫を探る。かさり。ケモノが逃げ出すような、奇妙な音がした。
「ネズミ、か……」
『あの子ネズミちゃんはコシチェイの番兵……なのかしら? 追いかけてみる価値、あると思わないー?』
「そうだね」
 繰耶らは仲間に一報を入れると、ネズミを深く調べることにした。

「……こいつか」
 黛の小銃が、逃げ出すネズミを貫いた。控室と思しきその部屋で黛が見つけたのは、事切れたエージェントと一枚の紙だ。ネズミ、と走り書きされている。
「やはり、ネズミになにかある」
 ともすれば、ネズミはコシチェイに無限のエネルギーを供給しているのかもしれない。
 カサリ。もう一匹。音だけを頼りに、黛はそちらも見ずに、あざやかにネズミを倒した。
 従魔はこちらを追ってこないようだ。
『ネズミが集まる場所を探すべきかのぅ』
「こちらも群れを追う。ああ、問題はない」
 黛は部屋に横たわる犠牲者を一瞥すると、部屋を出た。

「ああ、こっちもネズミを追ってる」
 紅榴は両者のライヴスの影響によりライトグリーンの光輝を纏い、ネズミを倒した。
 叩きつけるような攻撃ではない。コントロールされた力。以前よりも、その刀身の紅さは澄んでいる様に目に映る。
 斬撃で危うげなくネズミの一体を屠った東海林は、その作業の途方もなさに嫌気がさしていた。
 いかんせん数が多い。
(……まとめてやれねェモンかな……)
 頭を悩ませた東海林は、ふと、一つのアイディアを思いついた。
「……そう言えば、童話かなんかで……」
(ハーメルンだっけか……笛なんて扱えねェし……コレでも代用して見っか)
 東海林はワイルダネス・ドリフターを持ち出し、音楽を奏で始める。けたたましいエレキの音が響き渡る。
 しばしの静寂のあと。
 どこにいたのだろうか。ネズミたちが満ち潮が引くようにいなくなった。
『……ん。効果、あったみたい』
「これはこれで、具合が良いな」
 東海林は仲間に連絡を取ると、逃げ出した群れの片方を追いかけ、ネズミを袋小路に追い込むことにした。

「そっちに行ったみたいだよ」
 地図を眺め、通信機を持ったシールスは、仲間たちの情報を集約し、ネズミの動きをそれぞれに伝える。
「面白いことをしますね、なかなか……」
 イコイの前には東海林のワイルダネス・ドリフターに反応して、逃げ出すネズミの一群がいた。
 どうやら、ネズミは集団で行動している。それもなにか、意思を持って行動しているように思える。
 イコイは素早く一匹を捕らえると、腹を引き裂いてみた。頭の片隅に、能力者と英雄のことを思った。
 仕事の一部だ。しかし、どんな顔をするのだろうか?
 ネズミは、腹部の一部が大きく膨れている。
 従魔としては妥当か。だがしかし、何か違和感は残る。
 遠くまで逃げた他のネズミらは、まるでネズミとして振る舞うことを忘れたかのように、じっとイコイを見つめていた。

(何かを護るために誘導をしているのか愚神再生までの時間稼ぎをするだけの存在なのか……)
 無音はネズミを倒さず、ただ後を追う。小部屋に逃げ込んで消えたネズミ。通っているのは、通気口のようだ。
『収穫だな』
 イヴィアが言う。
 ネズミは、エージェントから逃げているが、ただ、完全に離れたりはしない。じっとこちらを見ているのだ。
 通風孔を覗きこむと、ネズミの一匹と目が合った。
(一度、戻ろう)
 味方の集まる舞台へ移動する。

(メモが散らばってるってどういうことでしょう? ポケットに穴が開いてたんでしょうか、それとも意図的に持ち出された?)
 セレティアは慎重に考えを巡らせながら、小部屋の一室にたどり着いた。先の犠牲者のライヴスを食らわんとしていたネズミは、セレティアの登場により慌てて逃走を試みた。
 エージェントに傷を調べてみる。ネズミは、ライヴスを食らっていただけのようで、致命傷はサーベルだ。
 ライヴスを食らっていた?
 とにかく、ネズミを追われて、都合が悪いのは確かなようだ。
 セレティアは虫取り網を振るうとネズミを捕獲した。あえて殺さない。1匹はキースに提供するとしよう。
 仲間たちのたちの探索によって、ぼんやりと全体像が浮かび上がってきつつあった。しかし、ネズミの役割が分からない。
 斥候だろうか?
 セレティアは、1匹の尾に裁縫セットの糸をハーネス状に結わえた。ネズミは息を殺していたが、セレティアが何もしてこないのを感じ取り、即座に逃げ出そうとする。糸を切断しようとしないあたり、知能は高くなさそうだ。
 ところが。
 遠くでネズミを見守っていた周りのネズミたちは、糸で捕らえられたネズミを攻撃したのだ。捕らえられたネズミはどうして自分が攻撃されているのかわからず、抗議の声をあげた。
 手土産が一つ増えた。このネズミの他にも。

●終焉の刻は動き出す
「……貰ったすべての情報を整理すると、概ね結論はこんなところですかね」
 キースは考えをまとめる。
「ネズミが生命維持の役割を果たしているのは間違いがありません。おそらくは一匹、核となるネズミがいるのでしょう。そして、移動しているところを見ると、完全に安全な場所にいる、ということはない、となれば……」
 びくり、と、竜が動いた。糸を断ち切るように暴れまわる。
「来る」
 シールスが仲間たちに連絡を取る。

 再び、悪夢と戦う時が来た。
 セレティアの拒絶の風が、ふわりと体を軽くする。ウィザードセンスが、魔術師としての力を高める。
 遠距離からの攻撃を受けつつ、コシチェイはゆっくりと地面に落ち、身を起こした。
 キースはセレティアから借り受けたネズミを、見せつけるようにコシチェイの前にもちあげる。
 シールスは仲間たちとやや距離を取り、コシチェイを挑発する。
「僕は今、負傷している。キミにとっては狙い時じゃないかな?」
 しかし、コシチェイはなりふり構わずキースへと鋭く走って行った。
シールスは回復に切り替え、ケアレイを放つ。
「やはり、ネズミが要なのですね」
 キースは華麗に攻撃をかわし、そのまま手に持ったネズミを撃ち抜いた。
 セレティアはルールブック「完全世界」を手に、リーサルダークを放つ。愚神の動きが、僅か止まる。
 コシチェイの乗る竜が、お構いなしに歩みを進める。
 そのまま猛然とキースへと迫るコシチェイの前に、繰耶が割り込んだ。
「将を射んと欲すれば先ず馬を射よ、ってね」
『ずいぶん焦ってるようじゃない?』
 ネズミの群れは、もはや取り繕うことをやめていた。群れの単位で大移動をし、舞台の裏に逃げ込もうとしたネズミたちは、袖から現れた黛と賢木に足止めされる。
「さあ、ここまでですね?」
「不死身の力を得ようとは、よほど命を取られるのが怖いようだな」
 ネズミを追い詰め、黛は武器を構える。目標は、ネズミ。刃の嵐――ストームエッジが、ネズミの群れを切り裂く。イコイのブルームフレアが、ネズミを焼き尽くす。炎から逃れるように、ネズミたちが散らばる。無音はちらりと黛を見ると、あえて退路を塞ぐようにブルームフレアを放った。
 一方でコシチェイは、エージェントたちを振り払おうとサーベルを振り上げる。
「させるか!」
 現れた東海林は、思い切りコシチェイに打撃を与えた。恨みがましい目が、エージェントたちをにらむ。
「当然だ。貴様らは所詮許されざる命、偽りの命だ。刈り取られるのが世の運命だ!」
『こんな溝鼠どもが奴の本体とは、哀れな奴だのぅ。この有様で不死身を名乗ろうなぞ笑止千万の極みというものよ。貴公には失望した、我が暗黒の劫火の下で朽ち果てよ!」

 追いすがるように、コシチェイは声にならない声で吠えた。舞台に向かって、よたよたと歩き出す。
 終幕の時だ。
 オネイロスハルバード――Bansheeが嘆き、叫ぶ声をあげる。
 まるで、それはコシチェイの悲鳴のような音だ。「死」を予言する呪いの音。コシチェイはそれを拒否しようと、なおもあがく。
『子守歌、歌ってあげなさいBanshee』
 ヴラドの放ったライヴスリッパーは、コシチェイを撃ち抜いた。

 ネズミの大半が、焼き尽くされていった。

 コシチェイはまだ、動いていた。サーベルを持ち上げ、がくがくと膝を揺らす。
 だが、立ち上がることはなかった。
 二度と動かなかった。

●春
「不死なんてまやかしです。いつの世も人を惑わせ、狂わせる……。愚神といえど、命に執着するという意味では同じということですか?」
 キースは、塵となったコシチェイを見下ろして呟いた。

 ドロップゾーンが消え果てる。外に出てみれば、そこはやはり白銀の世界だ。だが、空を覆っていた暗雲はなく、雪に柔らかな陽光が降り注いでいる。
 新しい生命が芽吹こうとしていた。
 ノリリスクに、春が来る。

『ティアちゃん。今回はご協力ありがとうございましたっ! 今度一緒にタルト食べに行こうよぅ!』
 聞いてみて、匂坂は、セラスとセレティアの表情に含みを感じて首を傾げた。
「実はね」
「サンクトペテルブルク支部の近くにおいしいタルトのお店を見つけておいたんです!」
『! ってことは!』
 ノリリスクから帰るなら、支部の近くに寄ることになるだろう。匂坂はきらきらと目を輝かせた。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 希望の守り人
    シールス ブリザードaa0199
  • 黒の歴史を紡ぐ者
    セレティアaa1695
  • 魔の単眼を穿つ者
    繰耶 一aa2162

重体一覧

参加者

  • 希望の守り人
    シールス ブリザードaa0199
    機械|15才|男性|命中
  • 暗所を照らす孤高の癒し
    99aa0199hero001
    英雄|20才|男性|バト
  • Run&斬
    東海林聖aa0203
    人間|19才|男性|攻撃
  • The Hunger
    Le..aa0203hero001
    英雄|23才|女性|ドレ
  • 絶望へ運ぶ一撃
    黛 香月aa0790
    機械|25才|女性|攻撃
  • 反抗する音色
    清姫aa0790hero002
    英雄|24才|女性|カオ
  • 黒の歴史を紡ぐ者
    セレティアaa1695
    人間|11才|女性|攻撃
  • 柘榴の紅
    セラスaa1695hero002
    英雄|9才|女性|ソフィ
  • 魔の単眼を穿つ者
    繰耶 一aa2162
    人間|24才|女性|回避
  • 朝焼けヒーローズ
    ヴラド・アルハーティaa2162hero002
    英雄|40才|男性|ブレ
  • コードブレイカー
    賢木 守凪aa2548
    機械|19才|男性|生命
  • Survivor
    イコイaa2548hero002
    英雄|26才|?|ソフィ
  • 天秤を司る者
    キース=ロロッカaa3593
    人間|21才|男性|回避
  • ありのままで
    匂坂 紙姫aa3593hero001
    英雄|13才|女性|ジャ
  • 穏やかでゆるやかな日常
    無音 冬aa3984
    人間|16才|男性|回避
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    イヴィアaa3984hero001
    英雄|30才|男性|ソフィ
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