本部

【屍国】連動シナリオ

【屍国】時を念い実ちて還り

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/05/21 18:48

掲示板

オープニング

●かけはし

 ──我住まば よも消えはてじ 善通寺 深き誓ひの 法のともしび

 第七十五番札所 善通寺は香川県善通寺市善通寺町にある真言宗善通寺派総本山であり、参拝者のための宿坊などもある大きな寺である。
 だが、数年前、その宿坊などとは別に済世橋の近くに仮眠なども取れる広い座敷のある軽食屋が出来た。『お休み処 かけはし』と名付けられたそこは大きめの民家を再利用したもので、持ち込みもできる参拝者向けの休憩所であった。
 店主は元々お遍路さんとして四国を参拝していた老人で、百回の巡礼を達成した後にこの店を開いたと言う。
 『かけはし』が出来て数年、四国で新型感染症絡みの事件が起こった。
 ゾンビたちはいくつかの札所を襲い、それを知った一部の参拝者は四国八十八箇所がこの事件になんらかの関わりがあるのではとなんとなく思い至った。
 やがて、事件が過激さを増す中で巡礼を続けることができず、または様々な理由で自宅へ戻る気持ちになれない参拝者が出て来ると『かけはし』の主人は密かに人々を受け入れて宿坊代わりに店を解放した。
 『かけはし』に留まる人々──高齢者が多かったが若者や子を持つ親もいた──は毎日、善通寺へ参り、事件の早期解決や感染した家族・恋人の回復を静かに祈る毎日を送っていた。

 ……そんな日々が続く中、この町を含め香川が大量のゾンビに襲われる事件が起きた。

 エージェントたちの活躍でそれらの騒ぎがだいぶ落ち着いてからも『かけはし』の人々はひっそりとそこへ留まり続けた。
 それどころか、なぜかそこに留まる人々は増えていた。
「どこへ行っても同じだ、だったら」
「……孫が感染したんやけん──どうか治るよう祈りたいんだ」
「独りは嫌だ。ここに居させてくれ」
 ひそひそと囁くように言葉を交わしながらそこに留まる『かけはし』の人々。
 その存在にH.O.P.E.が気付いたのは、ゾンビたちによって『かけはし』の襲撃が予知されてからであった。



●ぎりぎりの予知
 夜、屍国の対策に奔走する職員たちが詰める部屋の電話が鳴り響く。
「プリセンサーからの連絡! 第七十八番札所、善通寺付近にまだ三十名程の民間人が居ます!」
 連絡を受けた職員が強張った顔で叫ぶ。室内が騒めいた。
「あの辺の避難はもう済んだはずでは!?」
 先日、愛媛から香川へ大量のゾンビたちが攻め入った時に善通寺町に住む人々の多くは避難所へ移動したはずだった。
 それが、市内、しかも、危険な札所の近くにこれだけの人数が居るとは……。
「善通寺の警備も、交代としてマイクロバスで向かっているはずのエージェントたちとも連絡が取れません!」
 別のオペレーターが叫んだ。
 ──何かあったのかもしれない。そちらも確かめなくてはいけないが……。
 だが、予知された悲劇も止めなくてはならない。
「マイクロバスで向かっていた一団以外にもミニバンで現地に向かっていたエージェントたちがいます。今、件の場所へ向かうよう指示を出しました」
「──間に合うと、良いのですが……」
 誰かの苦しげな呟きに沈黙が落ちる。
 プリセンサーの予知を受け警察の協力の下で周辺をくまなく捜索した結果、道路沿いに設置された監視カメラが件の従魔らしき一群を撮影、室内の大きなモニターにはその画像が表示されている。
 二メートルほどの影が映っていた。
 それは、人に似ていた。
 けれども、それを人と認めることはその場の誰もが出来なかった。
 人、だったモノ。
 夜風に揺れる長い髪はまるで女のようだった。
 上体から生えた腕は五本。腹、両脇腹、両肩から伸びた二本の腕の位置すらおかしい。
 足は……辛うじて二本であったが、複数の細い足が絡みついて出来ていた。
 顔は──幸いだろうか、人のものでは無かった。瞳も鼻腔も無く、ただ、獣のような赤い口のようなものがだらしなく開いていた。
 それが大量のゾンビたちを連れて善通寺へと向かっていた。
 ──醜悪なそれは恐らく蟲毒従魔。
 蟲毒従魔はゾンビ従魔が仲間を喰らい力を増したものだ。
「あれの狙いは善通寺ではなく、一般人か」
 込み上げる吐き気を抑えて、予知を伝えた職員が言った。
「…………プリセンサーの予知では……、あの蟲毒従魔の強さはデクリオ級でも上位、そして、このまま三十余名の民間人はあれによって感染ではなく、善通寺の駐車場付近まで引きずり出され食われる、と──」
 善通寺の警備に当たっていたエージェントたちからの報告書を読み返す女性職員は眉を顰めた。
 確かに今まで善通寺だけやけに頻繁に参拝者が来るという報告は来ていた。警備のエージェントたちも訝しんでよく来る参拝者たち数人に確認もしたが近隣の住民という回答があったという報告もある。
「もしかして、この人たちは……」
 彼女が言う前に、大勢の一般人が潜むという『お休み処 かけはし』へ電話をかけていた職員が暗い声で伝えた。
「件の一般人たちが生活している『かけはし』という店と電話が繋がりましたが……店主一同、高齢者が多いため……避難はしない、見捨ててくれ、とのことです──」
 店内には三十二名の一般人がおり、うち、素早い移動が困難な者が高齢者を含め十七名。三十二名、誰もが仲間を置いてはいくつもりはなく、さらに『覚悟』は出来ているのだと言う。
「今までの傾向から、蟲毒従魔を撃破すれば他のゾンビたちは連携は取れなくなるはずだ。人々を乗せるバスもすぐ用意する。エージェントたちには蟲毒従魔の撃破と『かけはし』周囲の従魔の退治、それから、バスへ一般人を乗せるまでの護衛を頼むんだ」
 上級職員の一人が苦々しい顔で言った。
「──くそったれ……なんでこんな次々と……」
 『かけはし』に隠れる三十二名の一般人。それが先日の香川の襲撃の日を越えて今まで無事だったのは奇跡などでは無い気がした。

解説

目的:蠱毒従魔一体撃破及び『かけはし』の人々の防衛
※蟲毒従魔の撃破失敗、または『かけはし』の人々が一人でも殺された場合失敗
蟲毒従魔撃破後、エージェントの連絡を受けて一般人避難用マイクロバス2台(1台最大26名乗車可能)が
平谷方面からH.O.P.E.より到着(撃破前までは離れた場所で待機)

●ステージ
               [善通寺・駐車場]
←至・西山方面 ====(道路)==== 至・平谷方面→
   [『かけはし』][香色山児童公園]
         山林

公園の隣に『かけはし』はあります。
蟲毒従魔たちは西山方面から道路を歩いて襲撃。
エージェントたちは平谷方面から『かけはし』へ向かう。
店の裏側は山林であり、店に到着後エージェント・ゾンビ共に回り込み可能。
車から途中下車して最初から山林を通って(徒歩のみ)『かけはし』の裏手に周る場合、到着には非常に時間がかかる。
車で向かえば蟲毒従魔とは『かけはし』前の道路で遭遇予定。

・お休み処 かけはし
古民家風広い平屋の一軒家
窓等には板が打ち付けられ、内部にはバリケードが築かれているので普通のゾンビは即座に侵入出来ないが、
蟲毒従魔ならば二回の攻撃で破ることが可能。
出入り口は道路に面した玄関のみ。
エージェントたちは内部のかけはし主人と電話による通話が可能。


●敵情報
蟲毒従魔・業(ゴウ)
物攻:S 物防:B 魔攻:B 魔防:B 命中:A 回避:C 移動:E 特殊抵抗:E イニシアチブ値:E 生命:A
剛腕による物理攻撃のみ。ただし、腕による攻撃が1ラウンドに2回、バラバラのタイミングで行われる。
PL情報:職員は「人を食う」と表現しているが、実際は捕食が目的ではなく惨殺。

・手下ゾンビ
人型・獣型。蟲毒従魔を囲むように散開、数が多く全滅は難しい。
蟲毒従魔を倒すと連携が取れなくなりエージェントにとっては脅威ではなくなる。

リプレイ


●虚しく往きて
「ゾンビたちがそちらを襲う前に着くはずです。念のため、バリケードや壁・窓から離れるようお願いします」
 晴海 嘉久也(aa0780)は手に持ったスマートフォンをスピーカー通話に切り替えた。
 ──正直、敵に建物の壁を打ち抜かれる危険性を考えますと……あちらでもそれなりに準備してもらう必要がありそうです。
 けれども、晴海の心配を他所に「かけはし」の年老いた店主は沈んだ声で言った。
「見捨ててください。皆様に迷惑をかけるわけにはいきませんから」
 晴海が何かを言うより早く、聞いていた天宮城 颯太(aa4794)が声を出す。
「たとえ残るとしても、ボクは倒れるまで留まって戦う覚悟です」
 颯太の言葉に嘘は無かった。彼はそこで義直に戦い続けるだろう。
「覚悟キメんのは今じゃ無ぇ」
「かけはしは繋いでこそ意味がある」
 ニノマエ(aa4381)とミツルギ サヤ(aa4381hero001)の静かな言葉が、晴海のスマートフォンを通して店主にも届いた。
 老人は沈黙した。
「最低限の荷物はまとめておいて欲しい」
 ニノマエが避難行動を確認する。
 H.O.P.E.からの情報によると雑魚ゾンビは数が多く全て倒すのは難しいと言う。エージェントにとっては有象無象の敵ではあるが、一般人にとってはそうではない。避難は時間との戦いなのだ。
 晴海が電話を切った後、颯太は光縒(aa4794hero001)の眼差しに気づいた。
「──誰かが挫けた今日を守るのが、俺達の仕事だから。……そして、それが皆の明日になるって、俺は信じてる」
 ふたりの誓約は『生命を尊ぶこと』。
 光縒はいつもの無表情で言葉を紡ぐ。
「私は命を守ることを盟約にはしていない。命の理を守り、尊ぶ。それだけよ。……死にたいなら、好きにさせればいい。大事なのは、生き方を他人に委ねない事だから」
 光縒の言葉に颯太は彼らしい言葉で寄り添う。
「それでも、何かに縋りたいこともあるよ。ボクだって、光縒さんがいなかったら、と思うし。今でもどうするのが正しいのか、ボクには分からない」
「正解なんてどこにもない。でも、今、出来ることはあるはずよ。颯太のことだからどうせ、そうなんでしょう?」
「そうだね……。ボクの答えは、最初から決まってる」
 そんな光縒たちの会話を聞くとはなしに聞いていた島 恵奈(aa5125)は小さな掌を強く握りしめた。
 車の黒い窓を見る。そこに映った自分は完璧に人の形を成しているはずなのに、彼女自身には本性の小さな鳥に見えた。
 かつて──彼女は故郷を守るという選択をした。そして、その代わりに別の町が滅んでしまった。
 その時、自分のような非力なシマエナガのワイルドブラッドでも『できること』があるのだと知った。
 今、四国で起こっているゾンビ絡みの事件は、自分の選択によって滅んだあの町を、あの出来事を否が応にも思い出させ、彼女の心を駆り立てた。
 ──お遍路のために善意で開放した店。死を待つばかりの老人。心と地元の支えになっている札所ばかり襲うゾンビ──。その奥に何らかの悪意があるなら、私はそれを許せない。私にもできることは、あるはず……。
「決断したか? 小動物」
 アレクサンドロス大王(aa5125hero001)を名乗り、贖罪の力を望んでいた島のもとに現れた英雄が問う。
「決断しました。──私はもうひとごとだと考えない」
 英雄は更に覚悟を問う。
「その小さな体で?」
 年より小柄な身体は得物のクレイモアよりさらに小さい。でも。
「ええ、あなたが教えてくれたでしょう、イスカンダル。天から見れば、人の体の大きさなどちっぽけなものだと」
 英雄は己の茶色の瞳に少女の覚悟を映し、頷いた。
「マケドニアからオケアノスまで、世界の全てを見てきた。大事なものを見落とさぬようにな」
 少女は力強く頷いた。
「私はもう、二度と間違えない!」
 今度こそ、救うのだ。


 ヘッドライトに善通寺への案内標識が照らされた。だが、今向かうのはそこではない。
「さぁ、いよいよ初めての実戦ですよ。覚悟の準備はよろしいですか? ティーア」
 イクス・シュヴェルト(aa5103hero001)がパートナー、ティーア・リヒター(aa5103)に声をかける。
 彼が初めての本格的な戦闘依頼に気負っているのを案じたのだ。
「覚悟は君と契約したときにすませた。従魔を見つけたら躊躇せず斬ればいいんだろう」
 しかし、イクスはティーアの答えに首を横に振る。
「ちがいますよ。今回最も重要な事は救助対象を全員無事に助け出すことです。従魔を倒すことはそのついでです」
 数多の騎士と共に戦ったという聖剣の言葉に、ティーアは頷く。
「ん……そう……だったな」
「貴方一人ですべてやる必要はありません。一緒に戦う仲間がいるのですから落ち着いていきましょう。いざとなったら私が主導します」
「そうならないよう……頑張るよ」
 その時、闇の中に何か蠢くものが見えた。
 ブレーキと同時にエージェントたちの手によってドアが勢いよく開く。
「敵が見えてくるはずです。行きますよ、ティーア」
「ああ、力を貸してくれイクス」
 一斉に道路へ飛び出すエージェントたち。
「リンクスタート!!」
 ティーアの声と共にライヴスの蝶が闇を舞う。



●業
 「かけはし」と店に隣接した公園の街灯のお陰で、無人の夜の住宅地でも視界は悪くなかった。
 街灯に照らされた道路にはたくさんの獣と──おぞましい化け物が居た。
 二メートルほどの巨体は獣型の雑魚ゾンビたちの中で一際目立つ。
 『業』、H.O.P.E.で名付けられた識別名そのままの醜悪な化け物だった。
「蟲毒型……。コイツが、頭だな……!」
 蟲毒従魔と戦ったことのある颯太が、業の姿に何かを察した。
 ──懸念通り、これでは一瞬で住民もろとも吹き飛ばされてしまうでしょうね……ならば。
 車中で準備したロケットランチャー「カチューシャMRL」が晴海の背後に現われた。
「『業』を「かけはし」に到達するまでに叩き、他のゾンビは……それからです!」
 翼のように広がるカチューシャMRL。
 十六連装の細身のロケットがゾンビ達の元へ次々と射出され、轟音が闇の静けさをも粉砕する。
「よ~し、ボクに任せて!」
 砲弾の嵐を追う様に葉月 桜(aa3674)が走る。
『私の出番か、腕がなるな……』
 揺れる桜の前髪。そこに差した紺のメッシュは英雄、伊集院 翼(aa3674hero001)との共鳴の証だ。
 桜は分厚く重い武骨な大剣を片手にダメージを受け蠢く雑魚ゾンビたちの中を走る。
 狙うはその中央に立つ巨大でグロテスクな蟲毒従魔・業。
 続いて業を目指す颯太。
 一方、先輩ドレッドノートたちから少し遅れてティーアは「かけはし」の入口へと陣取る。
『いくらバリケードがあるとは言え絶対ではありません。ですから敵をできるだけ遠ざけることを心がけてください』
「了解。さぁ……これ以上好きにはさせないぞ。従魔(ゾンビ)ども」
 キングスシースから抜き放ったソルディアを構えるティーア。
 同時に、ニノマエも「かけはし」の前の道路に立つ。
「業を倒すことに集中できるよう、露払いが俺の仕事だ」
 カオティックブレイドが呼び出した刃が雨のように降り注ぐ。
 戦うティーアたちの後ろを通り抜けて「かけはし」の玄関まで辿り着いた島は耳を澄ます。
 店内で人々が話し合っているのが聞こえる。店主らしい老人の説得に、しかしまだ幾人かの老人はここへ留まると主張しているようであった。
 それを聞いて、少女は自分の祖父を思い出し、イメージを重ねて胸を痛めた。
 ──きっと、ただ逃げる事に意味はないともう悟ってしまったのですね。
 死に場所は自分にとって意味のある場所がいい、そういう気持ちを島は解る。地元を捨てて逃げようとしても、ゾンビだらけの死の国のどこに逃げるのか……「かけはし」の人々が抱えているだろう気持ちを彼女は想像出来た。
「逃げ場所は私たちが作ります! H.O.P.E.のエージェントです! あなたたちを……守らせてください!」
 ドア越しに叫ぶ島。
 店内の声が収まった。
「よく吠えた、小動物」
 隣に立つ英雄を彼女は見上げた。
「ヘラクレスの子孫イスカンダル、ちっぽけな私のところに来てくれた英雄、あなたの偉大な勇気を私に貸して……
 ──共鳴!」
 幻想蝶が消えるのと同時に、島の振るった剣は島は忍び寄って来た小さな獣型ゾンビを後退させた。


 歴戦のドレッドノートたちでも業の攻撃を避けることは難しかった。弾き飛ばされ、打ち付けられ、それでも彼らは持ち前の火力で怯まず向かっていく。
「手を休めず攻撃、だよ!」
 桜が業へヘヴィアタックを叩き込む。即座に、背面に回り込んだ颯太が同じくへヴィアタックを足元へと叩き込む。
 体勢を崩した業が、腕を激しく振るい、だらしなく開いた口から壊れた声帯を震わせて怒りの声のようなモノを発する。
 攻撃を喰らった桜が吹っ飛び、颯太がよろめく。
 それから、晴海。五本の腕の一本の攻撃を受けて、深紅の髪を散らして一瞬顔を歪めたが、すぐにその腕を払ってストレートブロウをその胴体へと叩き込む。
『建物に近付きます。気を付けてください、戦車が歩いている様な物ですから』
 エスティア ヘレスティス(aa0780hero001)の警告に共鳴状態の晴海は頷く。
「公園まで押し込むぞ」
 ドレッドノート三人の連携に抑え込まれた業を晴海のストレートブロウが捕らえる。
 二メートルを超える漆黒の剣グランブレード「NAGATO」の一撃は、今度は蟲毒従魔の巨体を弾き飛ばした。側溝へ足を取られた業がバランスを崩すと公園の白いフェンスが歪み倒壊した。
「まだまだ行けるよ!」
 同じ一撃を狙うドレッドノートたちだったが、いち早く桜の一気呵成が業を捕らえ転倒させる。
「ここで終いだ」
「お前と、遊んでいる暇はない!」
 合図をする間でもなく、即座に疾風怒濤へと切り替えたドレッドノートたち──晴海と颯太の連撃が業を打ちのめす。
 業の細い足が蔦のように集まった脚が蹴りを繰り出す。弾き飛ばされた晴海だったが、片膝を着き体勢を立て直すと、力強く大剣を振る。一方、腕の攻撃をそれぞれの得物で受け止め勢いを殺す桜と颯太。
「みんな、気を抜かないでがんばって倒すよ!」
 桜がドラゴンスレイヤーをブンと振ると翼が注意する。
『手を抜かないようにな……!』
 一瞬、桜の背中の紫の蝶の羽がはばたいたように見えた。
「もちろん!」
 そう言って激しく振り下ろした桜のへヴィアタックが蟲毒従魔の胸をぶち抜いた。



●かけはし
 晴海たちの戦いを邪魔しようとする雑魚ゾンビたちを、風魔の小太刀を振るって行動不能にしていくニノマエ。
『ニノマエ!』
「抜けさせない」
 ミツルギの声。山側から側溝から「かけはし」へと向かうゾンビたち。ライヴスキャスターで呼び出した水晶体が街灯の光を弾きながら直線距離を薙ぎ払う。
 ティーアは聖鞘「キングスシース」を片手に持ち、ソルディアと二刀流にして戦う。
「首をはねて動きが止まるならいいが、そうはうまくはいかないな」
 鞘で受けて敵の脚を薙ぎ、ゾンビたちの動きを抑制する。
 ──ゾンビとは言え、最初の敵が人型でよかったですね。これならいまの訓練の成果が活かせます。
 ティーアの様子にイクスは安堵する。どうやら自分が手を貸すまではないようだ。
「──あっ!」
 「かけはし」の前で懸命に剣を振っていた島が悲鳴を漏らした。
 晴海の最初のロケットランチャーの一撃と、その後のミツルギの攻撃で雑魚ゾンビたちは「かけはし」までほとんど寄ることが無かった。
 それでも、どこからともなく現れる雑魚ゾンビたちの一匹がミツルギとティーアの守りを抜けて「かけはし」の中へと忍び込み島へと襲い掛かったのだ。
「……う、ああ……」
 鋭い牙で噛みつかれて、よろりと後退る島。その身体に広がる赤く熱いモノ。そして、痛み。
 共鳴したリンカーならば、雑魚ゾンビたちの攻撃などに脅威ではない。さらに、こんな下等のゾンビたちが相手ならば、リンカーは新型感染症を恐れる必要もない。
 けれども──エージェントに成りたてで、そして、想いに突き動かされ咄嗟に依頼に飛び込んだ島は碌な装備も整えていなかった。
 元は大きな野犬だったのだろう。腐り落ちたその顔から覗く、文字通り剥き出しの犬歯が再び少女へと向けられる。
 島は息を飲んだ。
 ──どうしよう。
 ガタン、大きな音がする。
 背中に「かけはし」の入り口が当たった音だ。
 はっとした島は、集中して意識を痛みから背中に当たる冷たいドアの感触に向けた。
 ──役にたてるのであれば、死んでも別にいいんです。
 覚悟は決めたのだ、そう自分を奮い立たせる。
 ──足をひっぱることはしない。大事なのは要救助者を殺させないこと……。
 眼を閉じた島。
 獣の生臭さとは違った死肉特有のにおいが鼻を衝く。
「こっちだ!」
 背中の感触が消えた。後ろから開けられたドアに島は引きずり込まれた。
 すぐさま、駆け付けたティーアがゾンビ犬を斬り倒す。
 バタンと閉まるドア。倒れ込んだ島を後ろから抱えたのは震える「かけはし」の老人たちだった。
「逃げよう、生きよう……お嬢ちゃん……」


「わらわらと……いい加減うざってぇんだよ!」
 仲間が倒れるのを見た為か、長引く戦闘の疲れのせいか……ティーアの剣筋が乱れる。
 徐々に防御を忘れた攻撃に代わり、その身体に傷が増えてゆく。
 眉を顰めるイクス。
 『ティーア』
 イクスが主導を握ろうとした時、ティーアの目の前のゾンビが吹き飛ばされた。その向こうにゾンビを薙ぎ払った晴海がいる。
「こっちは済んだ。避難を始めるぞ」
 爆音。
 颯太のロケット擲弾発射機RPG-49VL「ヴァンピール」が、放置された田んぼの上を這ってこちらへ向かうゾンビたちを殲滅させた。
「──り、了解です!」
 一瞬、唖然としたティーアだったが、ほっと息をつくと、ふたたび敵を睨んで剣を構えた。
『あと少しです』
「ああ!」
 調子を戻して戦い始めたティーアの様子にイクスも声を和らげた。



●実ちて帰る
「そろそろ頃合いですね」
 巨大な片手剣で雑魚ゾンビを蹴散らしていた晴海は、敵の数が減って来たのを確認すると仲間に合図を送った。
 晴海はバスの運転手へと連絡を取り、ニノマエは避難路の確保が確認できたことを「かけはし」へと伝えた。
 周囲はエージェントたちの活躍によって雑魚ゾンビたちも大分排除されていたが、バスは「かけはし」の隣の香色山児童公園前に停車するのが精一杯だった。
 ニノマエは周囲の安全を確認しながら、建物とバスの中間地点に立つ。
 ──統率が取れていないということは、単体で突撃してくることもある。予想できない動きを警戒しないとな。
 予想通り、山に周りまたは公園の内部に潜り、または空から、討ち漏らしたゾンビの姿が近付くのが見えた。
 靴底を鳴らして、巡礼者の列の前にニノマエが立つ。
 彼を中心に複製された小太刀が夜空にざらりと並び、鈍い光を弾く。
 ストームエッジが雑魚ゾンビたちを撃ち抜いた。
 攻撃を受けて暗闇の中へ撤退していくものも居たが、彼は敢えて追うことはしなかった。
 ──巡礼者たちの安全が第一だ……。
「こっちは俺がおさえてるから、移動は急がなくていいぞ」
 ニノマエの言葉に、老人やそれに付き添う比較的若い人々が頷く。
 時々目尻に光るものがあるところを見ると、彼らだって死ぬことは本意ではなかったに違いない。
『きちんと足元確かめて、転ばぬようにな』
 共鳴したニノマエから発せられたミツルギの言葉に頭を下げる。
「迷惑かけます」
「ありがとでぇ、すみんで」
 ──進路妨害も考えられる。ストームエッジは一回分は残して……。
「……なんだ?」
 ──誰かいるな。
 闇の中、灯りの抑えたバスの向こう、善通寺の方角に人影があった。
 それは迷彩服に身を包んだ隻腕の男だった。こちらを伺っていたようで、それが視線を外した隙にニノマエは素早くスマートフォンを操作した。……シャッター音は幸いにもバスのエンジン音に紛れた。
 数分後、全員の乗車を確認したニノマエは闇の中の善通寺を一瞥した。
 直前まで物陰に潜みバスを監視していた人影は姿を消していた。
「──全員の無事が第一だ」
 バスに乗り込んだニノマエは小さく息を吐いて武器から手を離す。それから、先程撮影した写真を添付したメールを送信した。


「だいじょうぶだよ! 気を付けて」
 乗降口で護衛する桜が全員に声をかける。
 「かけはし」の人々と共に島は乗車した。
 老人たちに手当された傷は痛んだが、それ以上に倒れてしまった自分の不甲斐なさが辛かった。
「…………?」
 俯く島の肩をそっと老女がさすって小さく「ありがとう」と囁いた。
「──あのっ!?」
 しかし、老女はそのまま後部座席へと移ってしまった。戸惑う島へ、介助をしていた「かけはし」の女性が小声で話しかけた。
「身体を張って守ってくれてありがとう……。感謝しているんです。あなたたちが居たから、そして、あなたが頑張ってくれたから、全員であそこから外に出ることが出来たんですよ」
 戸惑う島にはまだ女性の言葉の意味がわからない。そんな少女の様子を察したのか、女性はもう一度、ゆっくりと言った。
「ありがとう、助けに来てくれて──」
 乗客の無事を確認したティーアは武器を抱えたまま、窓際の座席に座りこんだ。
 心身共にとても疲れていた。
『さて、色々言いたいことはありますが、初めての実戦お疲れ様でした。ティーア』
 少し痛む傷口を庇いながら、ティーアは車内灯を反射して黒く見辛い窓の外へ目を凝らす。
「ああ、心配させて悪かったよ……イクス」
 英雄に心配をかけてしまったし傷も負ったが、仲間と肩を並べて使命を果たせたことは素直に誇らしく感じることができた。

 進路を塞いでいた黒い犬のゾンビを晴海の大剣が粉砕する。
 控えめなクラクションを一つ鳴らして、バスが動く。
『これくらいでしょうか?』
「そうだな。──任せたぞ」
 周囲の状況を確認するエスティア。晴海は最後に一度振り返り、そしてバスへと飛び乗った。
 ゆっくりとスピードを上げるバス。
 それに取り付こうと、草むらから朽ちた体の猿が跳ねた。
 だが、その手が届くより早く叩き込まれた一撃がその身体を弾き飛ばす。
「ごめんね光縒さん、いつも付き合わせて」
 遠ざかるバスを見送るのは颯太だ。彼は仲間にミニバンで撤退すると宣言してバスの安全を守るため居残ったのだ。
『構わないわ。私は愚神を倒せればそれでいい』
 いつものクールな光縒の言葉を素直に受け取って、颯太は改めて前を向く。
 バスが去って暗くなった道の両側からデコボコの影がいくつも湧き上がる。淀んだ眼差しが一斉に彼を見つめた。
「三度目にもなると、慣れたもんだけどね。さぁ、土に還りたい奴からかかってこい! ……できれば、順番に!」
 言葉が通じたわけではないだろうが、獣のゾンビたちが次々と颯太に襲い掛かる。
 そうして、バスの灯りが完全に見えなくなるまで颯太の拳はその道を確りと守った。



●隻腕の孤影
 H.O.P.E.東京海上支部、情報分析室内。
 ニノマエから送られたメールの画像を解析していた職員が報告書を持って現れた。
「善通寺内での戦闘でエージェントが爆破物を持った敵と戦闘、その結果、相手が負傷した腕を斬り落として逃亡したようです。その時の報告とこの写真では姿は違うようですが……」
 書類に目を走らせた大門玄之介は口を結ぶ。
 報告書には隻腕の男の姿を拡大した画像と、調査結果が添えられていた。
 まず、写真に映っていた男の左肩にはひびの入った四本角の鬼の面があり、これは大規模停電時に鳴門市の中学校で撃破された伊冴里という少年ゾンビが着けていたものと同一のものと推測された。
 人相こそ迷彩のバラクラバとサングラスで確認できなかったが、男の身に着けていた迷彩服と迷彩作業帽は陸上自衛隊員が貸与されるものであった。
 そして──男の隊服の胸元にはネームタグが付いたままであった。
 薄汚れたタグから割り出した男の身元、それは。
「徳島第二駐屯地所属、古坂准尉……。これは徳島第一駐屯地の──」
 昨年十一月に徳島第一駐屯地で起きた自衛隊員によるゾンビ化立て籠もり事件。
 その際、徳島第二駐屯地から援護のために飛び立ち、自衛官数名と共に武器を搭載したまま行方を断った輸送機があった。
 古坂はその救援部隊の部隊長である。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • リベレーター
    晴海 嘉久也aa0780
  • 不撓不屈
    ニノマエaa4381

重体一覧

参加者

  • リベレーター
    晴海 嘉久也aa0780
    機械|25才|男性|命中
  • リベレーター
    エスティア ヘレスティスaa0780hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 家族とのひと時
    リリア・クラウンaa3674
    人間|18才|女性|攻撃
  • 歪んだ狂気を砕きし刃
    伊集院 翼aa3674hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 不撓不屈
    ニノマエaa4381
    機械|20才|男性|攻撃
  • 砂の明星
    ミツルギ サヤaa4381hero001
    英雄|20才|女性|カオ
  • エージェント
    天宮城 颯太aa4794
    人間|12才|?|命中
  • 短剣の調停を祓う者
    光縒aa4794hero001
    英雄|14才|女性|ドレ
  • エージェント
    ティーア・リヒターaa5103
    人間|18才|男性|命中
  • エージェント
    イクス・シュヴェルトaa5103hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • エージェント
    島 恵奈aa5125
    獣人|14才|女性|回避
  • エージェント
    アレクサンドロス大王aa5125hero001
    英雄|34才|男性|ドレ
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