本部

【屍国】連動シナリオ

【屍国】奉ろわぬ者に告ぐ

影絵 企我

形態
ショート
難易度
難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/05/14 20:51

掲示板

オープニング

――75番札所 善通寺――
 香川県善通寺市。この地こそは真言宗開祖空海がこの世に生を受けし地である。市名の由来ともなった善通寺は、高野山、東寺と共に弘法大師三大霊場に数えられている。東院――伽藍には、本瓦葺きの堂々たる本堂、聳え立つ五重塔。南大門より入ればその威容をしかと目にする事が出来る。特にその本堂の中に収められている本尊の薬師如来は、言い伝えるところによればその胸にかつての大火で焼け落ちた、空海自身が作り収めた本尊の焼け残りを帯びているそうだ。

 そしてその焼け残りこそがオーパーツ。四国の結界を作り上げ、神門をこの地に封じ込める力の源なのである。

 破壊されたらどうなるかは、最早言うまでもない。

●土蜘蛛殺す蛟

「きーみーがーぁーよーぉーはー」

 巨大な烏の上に乗った一人の少女が、眼下に広がる世界を見下ろして唄う。本堂の周りには煌々と灯が焚かれ、金堂の姿を明々と照らしている。そこを取り囲むように立っているのは、四国の希望を守るために集ったHOPEのエージェント。少女にとっては、希望を騙る愚か者の集まりだった。彼女が左手を差し伸べると、闇の中から不意に大蛇が二頭飛び出した。西院――誕生院へと続く済世橋を守るエージェント達に襲い掛かると、その鋼鉄の如く硬い骨の尾を振るってそれらを薙ぎ払い、血を刃のように鋭く吐いて倒れ伏した者達の身体を穿つ。その姿は数週間前現れた伸上に似ている。しかしそれは腐った骨を鱗のように纏い、蜥蜴の如く両手両足が生えていた。背中を縫い合わせる紅い触手は鬣のようにゆらゆらと揺らめき、ともすれば悠々たる力強い美さえ感じさせた。

「ちーよーにーぃーやーちーよーにー」

 蛟である。水源守る竜の姿を象るそれは、川流れのように疾く動き、周囲を守るエージェントを混乱の中へと叩き込む。闇から闇へと移り、血の刃を吐いてエージェントの身体を切り裂き、巨大な尾を叩きつけて石組みの橋を突き崩していく。エージェント達は倒されても立ち上がり、蛟へと必死に向かった。小馬鹿にした拍子をつけながら君が代を歌い続ける少女は、そんな彼らに冷然たる眼差しを下ろしていた。馬鹿馬鹿しい。そのうち泣いて許しを請うだろう。誰だってそうだ。余裕がなくなれば我が身が可愛くなる。

●蝦夷を殺す秋津洲

「さーざーれーぇーいーしーのー」

 巨大な蜻蛉らしき何かが飛ぶ。北方から聖霊殿へと向かって襲い掛かったそれは、腐肉に縫い止められた竜の如く堅い外殻でエージェント達の飛び道具から身を守りながら、その腹の先を地面に叩きつけた。巨大な紫色の結晶が地面に埋め込まれたかと思えば、急にその結晶は破裂し周囲に破片を撒き散らす。それはウィルスの塊のようなもの。突き刺さった者達を鋭く侵す。エージェント達は己が身が腐りゆく錯覚に襲われて絶叫した。動きを止めたエージェントへと、蜻蛉はすかさず近寄る。恐懼するエージェントはその場から動く事すら出来ない。悠々と蜻蛉はそれを人の腕に似た六つ脚で捉え、頭から喰らい始めた。くぐもった悲鳴が響いた後、傷だらけのエージェントがその場に放り出される。全身血塗れで倒れ、息はあるが指一本動かせない有様だった。

「いーわーおーとーなーりーぃてー」

 秋津洲。日本を象徴する存在を象るそれは、恐怖を以てエージェントを平伏させ、容赦なくその肉を喰らわんとする。幾人かはその身を脅かす恐怖と脱力に立ち向かい、死に物狂いで蜻蛉と対峙し続けた。
 少女はそんな彼らを嘲る。無様だ。全てはそうである姿へと還るだけだというのに。腐りかけの土人形が感情とか言うものを持ってけらけら笑ったりぐずぐず泣きながら蠢いている事、何故皆は当然のように受け入れるのか。
 赤子をあやすように、いちいち教えてやらなければいけないのか?

●熊襲を殺す八咫烏
「こーけーのーぉーむーぅーすーぅーまーぁあでー」

 数匹の巨大な烏が羽ばたき、上空から御影堂に向かって突っ込む。東院の方から駆けつけたエージェント達は、次々に銃を撃ちかけ、弓を放ち、烏を牽制した。彼らは手練れ、一筋縄で行くわけも無い。傍まで迫れば大剣なり長柄槍なりを構えたエージェントが前に出て、烏の突進を正面から受け止めた。烏は三つ脚に生える鋭い鉤爪で槍や大剣と切り結ぶと、ふわりと飛び上がって遍照閣へと並んで降り立つ。

「ばっかみたいだよねぇ? みんな一皮剥けば汚い肉袋なのにね!」

 八咫烏。カミのツカヒ。少女――メイサは一頻り歌い終えると一際大きな八咫烏を駆り、御影堂の遥か上空に舞い上がった。血走った鋭い目でエージェントを睨む。その翼は血に濡れている。腐肉を縫い形を留める赤い触手が至る所で蠢いている。嘴どころか耳元の皮まででろんと広げ、烏は阿呆と叫んだ。それはメイサの口である。メイサが人間を阿呆と思うから、烏は阿呆と鳴くのである。
 メイサはくすくすと嗤った。こちらを睨むエージェントを見て嗤った。どうしてやろうか。この八咫烏の鉤爪で、生皮一枚一枚剥がしてやろうか。姉の為にもこの寺は吹き飛ばさねばなるまいが、それはこの嘘つきの嘘をあからさまにしてからでも遅くない。彼女は烏の上に立ちあがり、両腕を広げて高らかに宣言した。

「我らが神門に奉ろわぬ者に告ぐー! 嘘つきは泥棒の始まり! メイサがみんなのウソをぜーんぶバラしてあげる!」





●善通寺右院

◇■■■■□□□□□□
◇■■□□□□□□□□
◇□□■■■■■■■□
□□□□□■□□□■◇
◇■■■■■■■■■◇
◇■□□□■■□□□◇
◇□□■■□■□◇■□
◇□□□□□■□□□◇
◇■■■■■■■■■◇
1マス5×5sq
□……平地
■……建造物(内部侵入及び通過可能、屋上へ登攀も可能)
◇……水場

解説

メイン カミツカヒの撃退もしくは撃破(残体力30%でカミツカヒは撤退を試みる)

現況
OPで攻撃を受けているのはモブ30人。
PC達は騒ぎを聞きつけ東院側から現場に駆け付けている。
混乱の収拾ないしリンカーへの的確な指示が肝要。

エネミー
カミツカヒ(八咫烏、秋津洲、蛟)
デクリオ級従魔
 ミカドからご褒美として受け取ったライヴスを使って作り上げた凶悪なゾンビ。メイサの全てを冷笑する価値観が透ける、趣味の悪い皮肉。
八咫烏×3
メイサの力で烏の図体が拡大、飛翔力も強化されている。
物攻、イニS 回避A その他B以下 空中
・蹴撃
 直線10sq。CPに全アクションを放棄して発動。次RのCPに命中2倍で攻撃判定を行う。
・鉄爪
 単体。PCの回避判定失敗時、装備していた武器を強奪する。武器は翌CPに放棄。

秋津洲
人間などの死体を掻き集めてメイサが制作。甲殻に覆われている。浮遊。
物防、魔防S 抵抗A その他B以下
・紫晶
 任意の1sqに設置。次Rの最後に、周囲5sqにいるPCに命中判定を行う。命中時に特殊抵抗判定を行い、失敗時BS恐慌(内容は下記)を付与。
・捕食
 BS恐慌状態のPC。命中時、PCを戦闘不能にして重体を付与する。

蛟×2
蛇に動物の骨などをかぶせてメイサが制作。強靭な筋力が武器。陸上。
生命S 物攻、物防A その他B以下
・血刃
 任意の30sq。PCの防御判定失敗時、武器の破損判定を行う。生命力を10使用。
・猛打
 範囲1sq。命中時1d6sqノックバック。

メイサon八咫烏
 四羽目の八咫烏にメイサが乗っている。高みの見物している。
ステータス
生命SS その他八咫烏参照
スキル
攻撃はしてこない

BS恐慌について
効果:BS封印+BS減退(2)。これの回復はクリアレイによってのみ行える。

リプレイ

●救援到来
「お待たせしました!」
 夜の戦場に少女の声が高らかに響き渡る。空高々と跳び上がり、くるくると前宙しながら蔵李・澄香(aa0010)が御影堂の屋上に降り立った。そんな彼女の周囲を、桃色の薄型スピーカーが天使の翼のように飛び交う。SDモデルのミニスミカを浮かべ、魔に対峙するエージェント達を見渡し魔法少女は叫んだ。
「魔法少女クラリスミカにお任せあれ!」
 アイドルとしての知名度も実力も備えた彼女の鼓舞。その明るい声色は、心の劣勢に歯止めを掛けた。怪物を前に及び腰になっていたエージェント達の表情がやにわに変わる。護摩堂の上からその表情を見ていた芽衣沙は、したり顔で右手を差し伸べる。
「やだなー。腐ったヤツらが夢なんか見ちゃいけないんだよ?」
 秋津洲がその恐るべき結晶を地面に突き立てる。人間を容赦なく絶望の淵へと叩き込む魔毒だ。エージェントは恐れて秋津洲から距離を取ろうとする。だが、ひばり(aa4136hero001)と融け合い第三の人格に目覚めた美空(aa4136)は、恐れることなく大胆に突き進む。棺桶型の盾を結晶に被せると、その破裂飛散を抑え込んでしまった。
「みなさん、希望を捨ててはダメなのであります。今こそが反撃の時なのですよ」
 高らかに言い放つと、美空はばしばし周囲のエージェントを指差し、隊列を整えさせていく。防御に優れた者を前へ、負傷者を後ろへ下がらせ、集団で敵と対峙する体勢を整えさせた。そのまま今度は済世橋へと向かい、蛟に相対する仲間に同じく指示を送る。そんな美空を芽衣沙は追いかけ、余裕綽々の笑みで問いかけた。
「必死になっちゃって……。そんなに自分の本当の姿を認めるのが怖い?」
 美空はくるりと振り向くと、真っ直ぐに芽衣沙を見上げ、鋭く啖呵を切る。
「神様が泥人形にたわむれに命吹き込んだ時から、美空たちは自由なのであります。神様だってもはや美空たちを自由には出来ないのであります。ましてその紛い物には!」
 右手に持つ白鷺を突き出す。その穂先は、少女の力強い意志を受けて眩しく輝いた。
「だからヨモツシコメに連なる愚神共よ、美空たちがお前たちの愚行全てを否定するのであります!」
「……ふぅん」
 否定するでも肯定するでもなく、芽衣沙は冷めた視線を送って烏を飛ばす。その始終を駆けながら眺めていた鬼灯 佐千子(aa2526)は、思わず口端を綻ばせる。
「頼もしいわね。あの子」
『(我々も負けてはいられないな)』
 リタ(aa2526hero001)の言葉に頷くと、佐千子は門を飛び出し、済世橋の上で蛟と対峙する。全身に纏う骨をかたかたと鳴らし、奇怪な大蛇は真っ直ぐに佐千子を睨みつける。彼女もまた、その体躯に恐れることなく漆黒の銃を構えた。ライヴスの銃剣が、深紅に輝く。
「佐千子さん!」
「澄香、一気に片づけるわ!」
 屋上の鼓舞を終えて駆けつけたスミカ。彼女の纏う強力なライヴスに反応したのか、蛟は吼えて飛び掛かろうとする。
「させるもんですか……!」
 佐千子は恐れることなく、銃を構えて蛟の前に立ちはだかった。

 高空から一気に舞い降り、銃を構えるエージェントに向かって八咫烏は次々飛び掛かる。バルタサール・デル・レイ(aa4199)は素早く柱に身を潜めてその突進を避けるが、その隣の仲間は避けきれずにライフルをその爪に捉えられてしまう。そのまま八咫烏は翼を羽ばたかせ、上空へと舞い戻ろうとする――

「そう簡単にはさせませんよ」
 スコープを覗く瞳が紅く輝く。御影堂の屋上に陣取った笹山平介(aa0342)は、八咫烏の翼目掛けて対物ライフルの弾丸を叩き込む。空を裂く一発は、触手に覆われた翼に深々と突き刺さった。
 赤い触手が断たれ、鮮血が飛び散る。堪らず烏は武器を離し、空高く舞い上がった。平介は次弾を込めつつ、モスケールで周囲の敵影を確かめる。スミカの鼓舞で多少持ち直したが、まだまだ劣勢には違いない。ゼム ロバート(aa0342hero002)は溜め息をついた。
『(あっちもこっちもで滅茶苦茶になってやがる)』
「皆さん、無茶をされなければいいんですが……」
『(……)』
 平介は北へと目を向ける。蜻蛉のような何かが、友人の真壁 久朗(aa0032)と対峙していた。
 秋津洲は真正面に立つ久朗を見据える。悍ましい顔だ。大量の死体から掻き集めたらしい、大量の眼球が一対の複眼らしき形を成してこちらを見据えている。その身を覆う甲殻も、有象無象の骨を触手で縫い合わせて組み上げているらしい。
「……悪趣味、という言葉すら控えめに感じる風貌だな」
『せめて弔いはヒトの手で。死者を穢す無頼の輩の手中から彼らを解放しましょう』
 久朗はアトリア(aa0032hero002)と共に己の為すべき事を確かめる。自らと同じ、ぶっきらぼうな作りの槍。その切っ先を、秋津洲の喉元へと向ける。その隣には最強の公務員、迫間 央(aa1445)が並び立つ。
「まずは相手の能力を量る。協力してくれ」
「ああ、任せろ」

 阿呆、阿呆。平介が久朗と央の戦いを観測する隙をついて、背後から八咫烏の一羽が詰め寄ろうとする。しかしそんな動き、彼にとってはお見通しだ。素早く背後に向き直り、大量の対物ライフルを喚び出す。照準は既に、烏へと向けられている。
「優位を取れたと思った瞬間が、一番危険なんです」
『(ぶっ放してやる!)』
 一斉に放たれた重い銃弾。烏は残像を映すような身のこなしでその銃弾の雨を躱していくが、平介には近づけぬまま肩に一発貰って空へと引っ込んでいく。三羽の烏は、誕生院の上空でハゲタカや鳶のように円を描く。己へ狙いを定める平介に目を付けながらも、それらは狡猾に機会を窺い続けている。
「積極的に隙をつこうとしていますね」
『(ただのカラスと変わらねえな。眼を逸らすとすぐ襲ってきやがるってわけか)』
「不用意に隙を見せないようには気を付けないと……」
 通信機を手に取ると、平介は仲間達へ手短に八咫烏への注意を呼び掛ける。あまり背を向けすぎてはいけない、と。そんなところへ、藤岡 桜(aa4608)もまた屋根まで上がってくる。
「中にいる怪我した人、手当てしてきた」
「ありがとうございます。では、ここから反撃と行きましょう」
「……うん」
 桜は淡く輝く弓を構えると、鮮やかな手捌きで弦を引き絞った。

●狂乱月下
 月に向かって宙返り、身を捻りながら着地した蛟は口蓋を大きく開いて血を噴射し始めた。鉄砲水のように激しい勢いの血流は、前に立つエージェントを簡単に吹き飛ばしていく。その中で、佐千子は盾を構え、その場に踏ん張る。盾の表面には穢れた血がべっとりと纏わりつき、金属を侵していく。
『盾が劣化している。何発も受けてはいられないぞ』
「盾ならまだいいわ。武器がやられたら――」
 傍に迫る圧力。佐千子は咄嗟に盾を頭上へ構える。骨で覆われた巨大な尾が、槌のように振り下ろされた。立て続けの攻撃。全身の関節が軋むが、佐千子はどうにかその攻撃を撥ね返す。そんな様子を樹上から見下ろし、芽衣沙はすかさず茶々を入れる。
「ロボットのおもちゃって、バラバラにするのが一番楽しいよね!」
 佐千子はその言葉を一睨みであしらうが、周りはそうもいかない。蛇に睨まれた蛙のように射竦められてしまう。そんな彼らを見渡し、スミカはもう一度発破をかける。
「メソメソしている場合ですか! ここで抑えられなければ、次は家族や恋人の番です!」
 鋭く手のひらを突き出す。ふわりと飛んだミニスミカが銃を構え、銀の弾丸を放つ。その一発は蛟の目を鋭く撃ち抜いた。血を噴き出しながら、蛟は仰け反りひっくり返る。
「どうせ戦うのなら、ひっ跳びましょう。目にもの見せましょう!」
 さらに追い打ちを仕掛ける。欄干を踏み台に高く跳び上がると、ビットを舞わせながら二発目の弾丸を撃ち込む。胸元を守る甲殻が砕け散り、甲高い呻き声が響く。反撃も恐れず果敢に咲き誇る可憐な華。仲間は勇気づけられずにはおかなかった。戦意高揚を察したクラリス・ミカ(aa0010hero001)は、リボンをひらひらさせて叫ぶ。
『魔法に覚えのある者は積極的に攻撃を! 奴の甲殻は魔法に弱いようですわ!』
「こいつは私と佐千子さんで相手します。皆さんはそっちを!」
 エージェントは頷くと、隊列を組み直して水底の蛟と対峙する。佐千子は再び武器をガンセイバーに持ち替え、スミカに目配せする。
「大きく出たわね、澄香」
「やれるでしょ。私達なら」
「……それもそうね」
 片目を潰された蛟は、全身の触手を逆立てて吼え、鎌首もたげて口蓋を開く。その瞬間、佐千子は跳び上がった。蛟は彼女を追いかけ、そのまま血を吐き出してくる。スラスターを噴かせて強引に躱した佐千子は、そのまま脳天をかち割る勢いでライヴスの刃を叩きつける。重量の乗った一撃。蛟は脳天から地面に叩きつけられる。
「これで……トドメ!」
 起き上がる暇など与えない。稲妻の槍を作り出したスミカは、蛟の顔面に向かって鋭く投げつける。顔を切り裂き、そのまま槍は蛇の長い胴体を真っ二つに引き裂いていく。無数の触手が断ち切れ、血が溢れる。甲殻も鱗も骨も砕き、頭から尾まで突き抜けた一槍は、蛟を綺麗に二枚卸しにしてしまった。断末魔を上げる間もなく、蛟はくたりと動かなくなる。そのまま闇に包まれた蛟は、物言わぬ蛇や蜥蜴の亡骸へと戻った。ほっと息をついて汗を拭うスミカに、ミカはこっそりと耳打ちする。
『魔法少女にしてはやることがえげつないですわね?』
「仕方ないでしょ! この勢いで、もう一体も倒すよ!」

「せぁっ!」
 動きの鈍い秋津洲の脇に潜り込み、央は高く跳び上がって激しく動き続ける翅に切りかかる。人の皮を薄く薄く張り伸ばして作られた翅の根元に傷がつく。羽ばたきが乱れ、秋津洲の姿勢が揺らいだ。
 すかさず、久朗がもう一方の翅をワイヤーでずたずたに切り裂く。浮力を失った秋津洲は、そのまま顔面からその場に墜落する。翅のもがれた蜻蛉は、地面の上で芋虫のようにうねうねともがいた。人間の腕で作られた六つ脚が蠢く。何かの獣の骨で作られた顎が、威嚇するように開く。しかし無力に違いない。好機と見たエージェント達は、散々煮え湯を飲まされた従魔に止めを刺そうと迫っていく。しかし、そんな彼らに上空から烏が狙いを定めていた。
「待て! 下がれ!」
 気づいた久朗が叫ぶ。刹那、空を切って一直線に突っ込んでくる。逃げきれなかったエージェントが数人、突進を喰らって寺の壁に叩きつけられる。
 阿呆阿呆。地面に降り立った烏はエージェントに向かって叫び、秋津洲の胴体を掴んで飛び上がる。再び宙へと舞い上がった秋津洲は、腹を地面に突き立て新たな紫晶を砂利に埋め込む。
「一旦下がれ! 体勢が悪い!」
 央の言葉に合わせ、エージェント達は慌てて引き下がる。マイヤ サーア(aa1445hero001)は央と共に上空を飛ぶ蜻蛉と烏を見上げて呟く。
『(一層厄介な事になってしまったわね……)』
「(まぁ、翅をもいだくらいで楽にやらせてくれるわけは無いけどな)」
 心内で交わされる会話。ほんの僅か、央の声が揺らぐ。それを見逃さなかったマイヤは、ぽつりと尋ねた。
『(……少しだけ、いい機会だと思ってないかしら?)』
「……あれだけ疾い敵もなかなか居ないからな!」
 抜け駆け。砕ける紫晶に突っ込んでいく。その動体視力で全てを見切り、沈みながら、跳ねながら、右へ左へと破片を躱していく。烏は再び急降下する。その足に掴まれた蜻蛉は、その手を央に向かって伸ばす。
「八咫烏、秋津洲か。大きく出たな。ならば国の神器たる叢雲で、その偽り、斬り伏せる!」
 秋津洲の手が央に触れるか触れぬかというところで、彼は二人に分身する。両側に散開した二人の央は、すぐさま転じてその刀を振り上げる。重いものを足にぶら下げた烏が、その一撃を避ける事など出来はしない。後の先を取った央の刃は、烏の翼を縫い合わせる紅い触手をすっぱりと切り裂いていた。血が舞い、八咫烏は中空でぐらりと傾ぐ。
『予定は変わりましたが……』
「好機だ」
 その隙を見逃さず、久朗は爆導索を投げ放つ。態勢を崩していた八咫烏はそれを避けられるわけも無く、ワイヤーは固く蜻蛉の甲殻に纏わりつく。しかしすぐには爆発させない。ふらふらと飛び上がる八咫烏を尻目に、久朗は無線を手に取った。
「少し状況が変わったが、やれるな平介」
「ええ。あれなら十分に当てられます」
 頷き、平介は蜻蛉を抱える八咫烏にその銃口を定めた。胸の無線から、アトリアが淡々と挑発する。
『外したら承知しませんよタイツ男』
『……お前もしくじるなよ、赤毛が』
 引き金を引く。銃口が火を噴く。飛び出した弾丸は、宙を飛ぶ秋津洲の横っ腹に突き刺さる。瞬間、狙い澄ましたタイミングで久朗が爆導索を吹き飛ばした。度重なるエージェントの攻撃で傷んだ甲殻は、爆発と銃弾の衝撃でついに毀れる。烏もまた爆風に足を砕かれ、支えを失った蜻蛉は空中から真っ逆さまに降ってくる。
「迫間!」
 槍を構え、久朗は叫ぶ。央もまた剣をスカバードに納め、半身になって腰を低く落とす。
『黎明を、迎える為に!』
 エージェント達の放った弾丸が次々に秋津洲の全身に突き刺さる。体液が飛び散り、エージェント達へ降り注ぐ。それに怯むことなく、久朗と央は高く跳び上がった。澱み無く、二人は得物を振り抜く。甲殻を失った秋津洲、その首を易々と刈り取った。物言わぬ肉塊と化して地面へ降り注いだ秋津洲は、数人の物言わぬ死体へと変わる。
「あーあ。ヤダヤダ。そうやって自分は綺麗だって思い込もうとする。それこそ醜いって、何で気付かないのかなぁ?」
「さぁ、余裕かましてるなよ。芽衣沙」
 一回り大きい八咫烏の上で飛び跳ね、芽衣沙は勝手知ったる口調で言い放つ。しかし戦局は既にエージェント側へと傾いた。央は切っ先を彼女へと向け、得意な笑みを見せつける。冷笑の真似事を知った、生意気なクソガキを黙らせるために。

●神使撃退
「ムダムダ。あなた達がそーやって戦っている間にも、みーんなゾンビになってく。そしてメイサは、そのゾンビを集めて、ちくちく縫って、もっと面白い、この世界に相応しい形にするの。わかる? 一つ倒せば二つになる、二つ倒せば四つになる。……終わんないんだよぉ? この戦いは……あなた達が、あるべき姿になるまでね!」
 芽衣沙は宙を舞い、朗々と弁舌振るう。しかしバルタサールは冷静だ。凍てついた心が、子供の言葉一つで揺らぐわけも無い。三体の八咫烏に向かって銃弾三発撃ち込みながら、淡々と言葉を紡ぐ。
「あいつは口ばっかりが得意なんだよ。不安を煽るのは、自分が弱いのを誤魔化す為だ。煩くなればなるほど、あいつは不利で焦ってるってわけだ。負け犬の遠吠えだな。笑い飛ばせ。ロシアの戦いだって終わったんだ。この戦いだってそのうち終わる。……目の前のやるべきことをやればな」
 銃撃、斬撃、爆発で傷ついた烏が、喚きながらエージェントに向かって突っ込んでくる。だが焦らず、バルタサールは銃を構えた。
「だから集中しろ」
 周囲のエージェントも慌てて武器を構え、弾丸に矢を撃ち込む。荒々しい飛び方で弾丸を避け続けるが、何時までも続きはしなかった。ついに一発の弾丸が烏の脳天を捉え、烏はそのままエージェント達の眼前に墜落する。亡骸は黒のライヴスに包まれ、一羽の哀れな烏へと戻っていく。紫苑(aa4199hero001)はじっと見つめていたが、ふと思い出したように呟く。
『(なぁんだか、おかしいんだよなぁ)』
「どうした」
『(派手好きなメイサちゃんが、ひとっつも録画機材を持ち込んでないんだ。死後の道楽の一つだろうに、これはどうした事だろうねぇ)』
 サングラスの奥、金色の瞳が凍れる光を放つ。
「(……臭いな。一報じゃ、自衛隊の感染者が逃げ出したなんて噂を聞いたが……)」
 バルタサールは芽衣沙を一瞥する。もう手勢は八咫烏くらいしか残っていないというのに、彼女はなおも、どこか余裕をちらつかせていた。

『(……貴方のやろうとしている事、全ては無為になるかもしれないのですよ。……それでも、試みるというのですね)』
 ミルノ(aa4608hero001)は、武器を構える桜に尋ねる。彼女や平介、途中から合流したスミカに央が次々放つ攻撃でぼろぼろにされた二羽の烏は、空高く羽ばたき逃げ去ってしまった。AGWの射程外へとあっという間に去っていき、一発の弾丸も最早届かない。残るは、相も変わらず西院の空をくるくる彷徨う芽衣沙だけだ。
「……うん。諦めなければ、きっと、分かり合えるから」
 桜は頷くと、そっと手に持つ弓を懐にしまう。隣に立つ央はそれを一瞥し、芽衣沙に向かって呼びかける。
「メイサ……例の病院以来だな。カメラ越しでいい画が撮れなかったから、今度は自ら出向いた訳か?」
 くるりと振り向いた芽衣沙は、けらけらと嗤いながら央を、周囲のエージェントを見渡す。
「えええ? 何で? どうして? どうしてメイサがあなた達の悲鳴を上げて逃げ回るところをわざわざ直接見に来てあげなきゃいけないの? 思い上がりも甚だしいよ?」
「ま、実際悲鳴を上げて逃げ回るなんて絵面は見られなかったわけだがな」
 言葉尻を捉えてバルサタールは煽る。芽衣沙は一瞬、氷のように冷たい眼差しをバルサタールに向けたが、すぐさま彼女は笑みを取り戻してピースサインを作る。
「じゃあなんで来たんだ? って思ってる? うーんとねぇ、あなた達の態度によっては、教えてあげなくもないんだけど――」
「……そんな事よりも……芽衣沙ちゃんに、何があったのか、教えて……?」
「なにそれ? なにいってるの?」
 あからさまに馬鹿にした態度。気でも狂ったのかと言わんばかりだ。しかしそれは桜も織り込み済み。胸元に手を当て、無口な彼女なりに、必死に言葉を紡ぐ。
「私は、戦う事しか出来なくて、みんなに、支えられてばかり……だから、私は、みんなを守るために、戦ってるの。そうやって、人と、人は、繋がる……でも、それは人に限らなくて、きっと、英雄さんや、愚神さんや、従魔さんも、きっと、支え合って、分かり合って、生きていける……そう、思うの」
 言葉を切ると、芽衣沙の傍まで、彼女は一気に飛び上がる。
「だから、芽衣沙ちゃん、教えて。何か、つらい事があったんでしょ? ……私、あなたと友達になりたいの」

●天来神風
『(サチコ。しんがりとは、随分殊勝だと思わないか。あのメイサが、だぞ)』
「わかってるわよ。……虚を突くなら、戦いが一段落してしまった今がベスト……」
 佐千子は動き出す。芽衣沙が桜に気を取られているうちに、親鸞堂の方角へ向かう。最初から、彼女達はおかしいと思っていたのだ。攻撃するべきは東院。それは神門側こそ一番にわかっている筈の事。それなのに、何故芽衣沙は西を攻めた?
「――ふふ。おっかしーの。そんな事が言えるのはね。あなたが気づいてないからなんだよ」
 ジェットブーツのバッテリーが切れ、桜は屋根に降り立つ。そんな彼女を見下ろし、芽衣沙はせせら笑う。気持ちが悪い馴れ合いだ。泥人形が泥を塗り合う、汚らわしくて見るに堪えない馴れ合いだ。一緒にするな。ただでさえ腐っているのに、自分からわざわざまぜこぜになるのか。
「この世界が、根っこが丸ごと腐り切ってるって事に気付いてないからなんだよ」
 ひっそりとした笑い声は、だんだんと高くなっていく。狂笑が始まる。腹がよじれる。滑稽だ。己が腐った泥人形だと気づかずに、馴れ合って泥山を作って、泥山を嫌い泥めぬ者を腐ったもの扱いする間抜け。そろそろこんな世界の虚構は終わりにしなければいけないのだ。それが己の為すべき使命であり、姉の望みだ。
「そろそろ理解しなよ。根っこが腐ったこの世界は、幹も枝も葉も、末永く腐り続けるべきなんだってねッ!」
 空から響き渡る轟音。走る佐千子が空を仰ぐと、夜闇に紛れた戦闘機が一機こちらに向かって一直線に突っ込んでくる。見た途端、リタは声を張り上げる。
『F-2! 戦闘爆撃機としての作戦も遂行可能な、空自の最高戦力の一つだ』
「随分なもの持ってきたわね! あんな距離、ヘパイストスでも届かないわよ!」
『戦闘機そのものは落とせないだろう。だが、爆弾の着弾位置を逸らす程度なら可能だ』
「……やるしかないわね」
 全身のスラスターとブースターを噴かせ、大きく彼女は跳び上がる。そのまま降り立ったのは、西と東の間にある、毘沙門天華蔵院の屋根。ヘパイストスの銃座を屋根の上に突き立てると、そのまま低く構えて上空に狙いを定める。
「このまま好き勝手に、なると思わないで……!」
 発射される四発の爆弾。引き金を一杯に引き絞り、ある限りの弾丸を空中に向かってばら撒く。考えなしではない。射手の矜持、リタは爆弾の落下点を瞬時に計算して完璧な弾幕を張ってみせる。尾翼を撃ち抜かれた一発の弾丸は、バランスを失い東堂を逸れた。
 爆発。壁や池、瓦を爆弾が吹き飛ばす。至近距離で爆発に巻き込まれ、佐千子はもうもうと立ち込める土煙に包まれる。それでも彼女は足を踏ん張り、突き立てた銃座にしがみついて爆風を耐えた。
「くっ……」
 そこへ突っ込む一羽の八咫烏。芽衣沙を乗せた烏は、爆風に乗って一気に高空まで舞い上がる。
「じゃあね! ……これ以上、メイサの気に入らない事ばかりするなら、今度はメイサの言う事聞くように、しっかりしっかりみんなの腐った脳みそ、かき混ぜてあげるから! あはは。はははは――」
 芽衣沙の甲高い笑い声が響き渡る。その声は空高く空高く伸びていき、やがて闇の中に吸い込まれていった。


――十分後――
「あああああっ!」
「動いてはいけないのであります。この傷は動くと痛いのであります」
『ちくっとするでありますぅー』
 美空とひばり(aa4136hero001)が、せわしなく御堂の中を動き回る。傷こそ大したことは無いものの、爆風で吹っ飛んだ瓦やら木くずやらの破片がそこに突き刺さったエージェントが何人かいた。傷だけなら術でもなんでも使って直せばいいが、このまま傷を埋めてしまうと破片が体内に残ってしまう。
『……ふう、取れたであります。術式成功であります』
「な、何でもいいから早く傷の方も……」
「わがままでありますね」
 と、メディック達が怪我の治療に追われている間に、東堂の方へと向かっていた央や久朗が戻ってくる。
「一応東堂は無事だ。戸やら何やらは吹っ飛ばされたが、中の本尊には何事もなかった」
「そうでしたか。では、ひとまずは安心というところでしょうか……」
『あれで終わりなのか? って気もするがな』
 久朗の言葉に安堵する平介と、首を傾げるゼム。央は通信機をひらひらさせる。
「不審な存在に対峙したという連絡が入ってきています。おそらくはそちらで上手くやって頂けたという事でしょう」
 たった今まで連絡を受けていた佐千子が顔を上げて彼らの方に振り返る。
「交代の人も一応こちらまで来られるらしいわ。全力で走ってくるそうよ」
「じゃあ、何とか、やれたってとこですね……怪我人は出たけど、一応全員生還だし……」
 その言葉に安堵した澄香は、その場にこてんと倒れ込む。ミカはそんな彼女に溜め息だ。
『……どうしました?』
「気が抜けたら腰まで抜けた」
 戦いの合間の、僅かな平穏。仲間達が顔を綻ばせる中、桜は一人、浮かない顔で俯く。
「どしたよ、嬢ちゃん」
「いえ……芽衣沙ちゃんに、嫌われて、しまったかもと……」
 バルタサールは肩を竦める。
「こう言っちゃ悪いがな。結果は最初から見えてたと思うぞ。嬢ちゃんだって、分かってたことなんじゃないのか?」
「……」
 桜は、小さく頷く。芽衣沙と友達になりたい。友達になれる。そう信じてはいる。だが、十中八九拒絶されるだろう。それは彼女自身わかっていたことだ。紫苑は唄うように、さらりと呟く。
『上手く行かないと知っていて、それでも試みる。果てに、実際に上手く行かなくて落ち込むというのは、滑稽だとは思いませんか』
「毒を喰らうんなら皿まで喰らえ。どんなことにおいてもな、中途半端はあいつの言う通りに全部を腐らせるもんだ」
 バルタサールは他人事のように呟く。桜は黙して目を閉じる。まだ、終わってはいない。まだ芽衣沙は生きている。ならば、まだ、機会はある。
「……ミルノ」
『何でしょうか?』
「もう一度、芽衣沙ちゃんにお話しする……次もダメなら、また、次も……絶対に、芽衣沙ちゃんと、友達に……」
 桜は心を決めた。最後まで、諦めずに突き進むと。きっと、芽衣沙も考えを改めてくれるはずだと。

―続く―

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • トップアイドル!
    蔵李 澄香aa0010
  • 対ヴィラン兵器
    鬼灯 佐千子aa2526

重体一覧

参加者

  • トップアイドル!
    蔵李 澄香aa0010
    人間|17才|女性|生命
  • 希望の音~ルネ~
    クラリス・ミカaa0010hero001
    英雄|17才|女性|ソフィ
  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032
    機械|24才|男性|防御
  • 傍らに依り添う"羽"
    アトリアaa0032hero002
    英雄|18才|女性|ブレ
  • 分かち合う幸せ
    笹山平介aa0342
    人間|25才|男性|命中
  • どの世界にいようとも
    ゼム ロバートaa0342hero002
    英雄|26才|男性|カオ
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
    人間|25才|男性|回避
  • 奇稲田姫
    マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • 対ヴィラン兵器
    鬼灯 佐千子aa2526
    機械|21才|女性|防御
  • 危険物取扱責任者
    リタaa2526hero001
    英雄|22才|女性|ジャ
  • 譲れぬ意志
    美空aa4136
    人間|10才|女性|防御
  • 反抗する音色
    ひばりaa4136hero001
    英雄|10才|女性|バト
  • Trifolium
    バルタサール・デル・レイaa4199
    人間|48才|男性|攻撃
  • Aster
    紫苑aa4199hero001
    英雄|24才|男性|ジャ
  • 薄紅色の想いを携え
    藤岡 桜aa4608
    人間|13才|女性|生命
  • あなたと結ぶ未来を願う
    ミルノaa4608hero001
    英雄|20才|女性|バト
前に戻る
ページトップへ戻る