本部

猫よ、猫よ!

若草幸路

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
0人 / 0~0人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/10/19 16:07

掲示板

オープニング

●猫少女の主張
 休日の昼。賑やかなショッピングモールで、黄色い声が響いた。
「すべての獣にー、自由をー!」
 人々がいっせいに振り向くと、入り口に可憐な猫耳少女がひとり、拡声器を手にして仁王立ちしている。ああなんだ、何かの撮影か? と人々がまた自分のことに没頭しようとしたその時、少女の近くにいた男が叫んだ。
「おい、こいつ連続ペットショップ襲撃事件の猫女だぞ!」
「誰が猫女かッ! あたしは『みーあ☆きゃっと』、獣の代弁者であり解放者なんだぞッ!」
 言って、少女は鞭を振り下ろす。猫女呼ばわりした男の足下を正確に狙った攻撃は、びしりと石造りの床にヒビを入れ、男をあっさりと失神させた。少女は群衆に向き直り、再び拡声器を使う。
「自分が獣であることを忘れた人間ども! この『みーあ☆きゃっと』が、その思い上がりを正し、獣たちの自由を取り戻すさまを目に焼き付けるがいい!」

●猫少女の肖像
「通報がありました。最近テレビでも取り上げられていますので、知っている方もいるかもしれません」
 オペレーターはコンソールを操作しながら、いささかの動揺も見せずに事件のデータを読み上げる。
「ヴィラン、自称『みーあ☆きゃっと』は、「獣は自由であるべきだ」というスローガンのもと、ペットショップを狙って破壊活動を繰り返しています。襲撃されたショップの生き物は可能な限りすべて逃がされており、企業や周囲への被害は甚大です」
 オペレーターはそこで言葉を切り、ですが、と一拍置いて続けた。
「彼女は物損こそ出しますが、人間を手に掛けたことはありません。くれぐれも、それをお忘れなく」

●猫少女の憤慨
 少女はショッピングモールを飛び跳ね駆け抜けながら、眉間に皺を寄せる。
「おかしい」
 普段ならとっくに来ているはずのレンズの輝きが、テレビカメラがいっこうに来ない。それどころか、普段なら大混乱になっているはずの群衆が、騒ぎはしているが整然と出口や非常口から逃げていっているではないか。可能性は二つ。自分が認められたか、あるいは。
 少女のものではない足音が響く。ひとつ、ふたつ、みっつ……目的地を眼前にして振り返れば、もう一つの可能性がもたらした、おためごかしの憎たらしい奴らがいる。
「……あたしの主張をスルーして通報した奴め! これが片付いたら猫踏みの刑でとっちめてやる!」
 言って、少女はペットショップに駆け込んでいった。

解説

●任務
 ヴィランが襲撃中の大型ペットショップに急行し、事態を収拾してください。
 ヴィランを追い返せば任務達成となりますが、可能な限り逮捕して再犯を防いでください。

●現場
 ショッピングモール内にある大型ペットショップです。犬猫のコーナーは中心に、アクアリウムや鳥類などのコーナーは端に配置されています。
 一般人は避難済みのため無人ですが、ペットショップの生体はそのまま置き去りにされています。ショッピングモールの建物と所有物は極力破壊しないよう要請されているので、戦闘には細心の注意を払って下さい。

●敵情報
・ヴィラン《みーあ☆きゃっと》
 能力者(ジャックポット系)、鞭使い。契約相手は不明。
 10代後半の小柄な少女の姿で、猫耳にフリフリドレスを身にまとっています。
 「獣は自由であるべきだ」というスローガンのもとに各地のペットショップを破壊し、生き物を脱走させるという犯罪を繰り返しています。自分の思想を喧伝するために目立つことを好みますが、今回は迅速に避難が行われ、テレビも入らなかったためやや気が立っています。
 動きが素早く、普通に追いかけた場合は追いつくことすら難しいでしょう。

リプレイ

●猫少女の誤算
 《みーあ☆きゃっと》こと、みーあが身を躍らせて踏み込んだ先には、すでに能力者一同の姿があった。餅 望月(aa0843)がオペレーターから受け取った、店内の見取り図と行動予測の情報の賜物だ。これまで目立つことを優先してきたこのヴィランは、既に情報戦に敗れている。だが、今彼女にそれを知る術はない。
「どうしてこんなことをしている?」
 眼前に立ちふさがるのは天野 正人(aa0012)。その苛立ちを増幅させるための嘲るような口調は、少なからず効果があるようで、みーあは目を見開いて答えた。
「どうして? 獣に自由を与えるためだ! 邪魔するやつにはほうら、罰を!」
 鞭をふるって一撃を浴びせる。正人は盾で防ぎながら大げさにのけぞってはいるが、思うように喰らわせることはできてない。それがますます癪にさわるようで、その顔には青筋が見えるようだ。
「罰? 俺たちが何の罪を犯したんだ?」
 みーあはそれには答えず、正人に積極的な攻撃の意思がないと判断したのか、横を抜けるようにして外周の鳥類コーナーへ駆け出した。鞭を再び大きく振り、狙いを籠に定めると――銃声が鳴り響き、タイル張りの床に焦げくさい穴が開いた。
「ふふふ、HOPEは甘くないですよ~。何時でも狙えますから、無駄な抵抗は止めて投降した方が良いですよ~」
 ふんわりと、機械仕掛けの義眼をまたたかせながら穂村 御園(aa1362)が微笑む。みーあが咄嗟に回避行動を取ったため床に穴を開けただけだが、これはケージの破壊を防ぐための威嚇射撃にすぎない。むしろ、みーあの関心が完全に能力者達に向いたのは嬉しい誤算だ。
「……非常口は……お面猫のトンチキと白髪女に塞がれてるのね。いいわ、やってやろうじゃない! 猫踏みの刑だ!」
 逃走経路を塞ぐ無音 彩羽(aa0468)と來燈澄 真赭(aa0646)を一瞥して吐き捨てたみーあは、正人に痛手を負わせようと、鞭を振りぬきながら駆けだした。

●猫少女が来る前に
 中央では着々と準備が進んでいた。
「おとなしくしてて、すぐ終わるから……」
 そう動物たちに語りかけるのは袴姿に赤髪の狐娘。リンク状態の今宮 真琴(aa0573)だ。尻尾を揺らしながらあちらのケージ、こちらのケージと語りかけるが、いかんせん異様な雰囲気を察した動物たちが騒いでしまって思うようにならない。
「……ちょっと……黙れ……」
 なので、軽く威嚇をしておとなしくさせる。獣の言葉でなくともその威圧と誠意が通じたのか、周囲の犬猫はしんと静まりかえる。ある犬は腹を見せ、ある猫はケージの隅にうずくまる。あとは、正人がここに戻ってくる前に、ケージを中央から周囲の安全な棚の側に連れて行くだけだ。
「俺は……猫アレルギーなんだが……」
 真壁 久朗(aa0032)がそう言いながら、犬のケージを次々と移動させていく。その横ではリンク状態、すなわち魔法少女然とした姿の弥刀 一二三(aa1048)が、衝撃を与えぬよう細心の注意を払いながらカートを操り、猫のケージを運ぶ。真琴も細々と置かれたグッズ類やその陳列棚を動かし、中央に大きな空間を作っていく。
「ヴィランってのはああいう手合いなのか、改心はする?」
「自分の行動の結果がどうなるかがわかれば、たぶん」
「よし、なら打ち合わせ通り、取り押さえよう」
 彩羽と様子を伺いに移動してきた望月が、走り回るみーあと正人を注視しながら会話をする。と、久朗が最後のケージを運び終えて合図を送ってきた。
「天野君! 中央は完了したよ!」
「よしきたぁ!」
 望月に応えて正人が横っ飛びに中央へ飛び込み、それを追ってほぼ同時にみーあが駆けてくる。

 中央に設えられた、急ごしらえの闘技場。猫たちと犬たちを観客に、再び二人は正対した。

●猫少女の末路
 正人の盾には幾筋もの傷が入っているが、本人にさほどの負傷は見られない。
「俺でもこの程度だ。この人数は、辛いだろう?」
「……っ、なめくさって!」
「そんなに怒るなよ。俺たちのような奴らの邪魔を跳ね退けるぐらいの覚悟がなければ、絶対成功しないぜ?」
「言われなくとも! まずはあんた達をのしてやる!」
 殺す、だとか倒すという文言が出てこないあたり、まだ冷静なのだろうか、と久朗は考える。
「君のような少女が犯罪に手を染めてはいけない。投降しないか?」
 歩み寄ってくる久朗の言葉にぴくり、とみーあが肩をふるわせるが、無言で鞭での一撃を加えようとする。しかし、その攻撃は武器を刀に持ち替えた正人に逸らされ、床を叩くだけに終わる。
「なあ、もっと別の方法があったんじゃないのか? こうしてる間にも、お前は何人もの職を、生きる術を奪っているんだぞ」
 正人の問いにももはや答えず、みーあはただ鞭の音だけを高い天井に響かせた。

「……あたえられた自由って自由って言うの……?」
「どうなんだろ。でも、野良猫になっても悲惨なんだよね。車に轢かれたり、ボウガンで撃たれたり、最後には保健所で……そのあたりの事あのおネーサンどう考えてるんだろうねえ」
 真琴と御園はそう疑問を交わしてから位置を移動した。それぞれ別々に、移動されたケージを背にして中央から若干距離を空けて射撃体勢を取る。正人と久朗を相手取るみーあが隙を見せた瞬間、狙い撃ちにするのが目的だ。彩羽と真赭も同じく射撃体勢を取り、望月と一二三は動物たちに気を配りながら確保の準備。完全な包囲網ができあがっている。

 チャンスはそう時を待たずにやってきた。
 みーあは最初、正人を中心に打ち据えようと奮闘していたが、幾度かの失敗で、より大ぶりな武器を持つ久朗にターゲットを切り替えた。その隙を見て取り、包囲網が一気に狭まる。
「天野さん、真壁さん! 下がって!」
真赭がみーあの真横から縫止を放ち、その足を鈍らせる。そこへさらにジェミニストライクを命中させるが、みーあは冷静に自分の手足を確認し、方向を切り替えて真赭へと突進していった。
「真赭ちゃん!」
彩羽が同居人を案じて呼びかけ、そして自らも縫止とジェミニストライクを放つ。予測していなかった連撃に、みーあは足をこわばらせて狼狽える。その隙を見逃さず、御園と真琴が撃ち込んだ。
「うざい動きをする鞭だよね! こうだ!!」
「あてる……!」
 重ねて打ち込まれた動きを阻害する針と狼狽した精神、そこを狙って放たれた真琴の射撃、そして御園のストライクは、的確に振り上げられていた鞭を撃ち抜く。直接伝わる二つの衝撃に、ガラスを引っ掻くような声をあげてみーあは体を折り曲げて手を押さえた。
「確保だぁっ!」
 その一瞬を見逃さず、望月がラグビーを彷彿とさせる低姿勢のタックルでみーあを転ばせた。続けて彩羽と真赭が確保に加わり、仰向けになったみーあの四肢をがっちりと床に押さえ込む。
 "勝敗は決した"
 そう言わんばかりに獣たちが警戒を解くのを、能力者達はその鋭敏な感覚でとらえていた。

●『女』の慟哭
 みーあは拘束してからもしばらく狼狽していたが、ややあって状況を把握し、抵抗の意思はないが腹が立つ、とだけ、天井を睨みつけながら言い放った。
「……腹立つんはこっちや! こないな騒ぎ、動物はんらが怯えとるやないどすか!」
 その剣呑な視線に最初に声を上げたのは、リンクをすでに解除した一二三だった。動物たちを心配するあまりリンクを解除した後の落ち込みも忘れて、怒りの形相でみーあの顔を覗き込む。
「……言いたいこと、それだけ?」
「言いたいことならみんないっぱいありますよ~。あなた、動物のゲージを開ける前にその子の人生シミュレーション、しました? 鉄則ですよ!」
「せや! 自己主張はかまへんのどす。せやけどな……動物の面倒は最後まで見なはれッッ!」
 御園と一二三の言葉に息を詰めたみーあを見て、真赭と望月が落ち着いて語りかける。
「ご存じですか? 治療のために保護した野生動物ですら、世話を焼きすぎて野生に戻れなくなる事例があるんですよ。……ましてやペットショップの動物たちに、いきなり野外で生きられるはずもありません。人に害があれば、狩られることもあるでしょう」
「うん、それがニュースにもなるかもね。それで目立って、愛玩動物が世間では生きられないことの見せしめにするつもりかな。それが獣の自由?」
「そうよ!」
 その返答に一同は、信じられないといった面持ちでみーあを見た。
「庇護する片方で捨てていかれる命がある、それが少し早いだけよ!」
 それに怒りを示したのは真琴だ。他の面々も、顔がこわばっている。
「この……馬鹿猫が……!」
「そうよ馬鹿よ! 馬鹿で鈍感じゃなきゃやってられないわよ! それにね、見なさいよそこの子たちを、もう育ちすぎて処分される寸前じゃない! あたしみたいに見捨てられる、そして見捨てられるかもしれない、そんな風に店先の野菜みたいに選ばれる立場から解放してやりたかったのよ!」
 完全に捨て鉢になり、自供の論理性も保たれていない。
「いいわねあんたらはやりたいことやれて! そうですよどうせ自分の言いたいことも犯罪者にならなきゃ言えないクズなのよあたしは!」
 みーあは腕を振って拘束から逃れようとするが、能力者に全力で押さえ込まれていれば胴体を跳ねさせるだけで精一杯だ。それも腹に据えかねたのか、ひときわ大きな声で叫ぶ。

「あたしなんか"死んでしまえばいい"!」

 異変はその瞬間に起こった。
 がくん、と頭が跳ね、猫耳も可憐さも失せていく――そこにいるのは、背格好こそ同じだがはるかに凡庸な容姿の四十歳前の女だった。
「…………しまっ……た。あ、あああ」
 今の叫びが誓約違反を起こしたのだと、問わずとも理解できた。女が手首の内側に付けている幻想蝶のが、むなしく照明を反射する。
「……契約相手は英雄か。お前の話を聞いて、ここまでのことに付き合ってくれたのだ……優しいのだろうな」
 静かに紡がれた久朗の言葉に、女は何も返さなかった。沈黙を肯定ととり、久朗は続ける。
「言い分は多少分かる気もするが、やり方があまりにも幼稚だ。そのせいでお前はお前の相棒を傷つけた」
「……ええ」
「言いたいことが言えずに荒れるときもあるだろうが、まずは相手の話も聞かねば。――俺は相棒の英雄に、そう教わった」
 女はまた沈黙する。ややあって、一部始終を静観していた正人が、ぽつりと呟いた。
「俺はお前が悪だとは思わないよ。ただ、少し間違えた」
「……いいよね、そういうことを堂々と言えるって……」
 女が全身の力を抜き、猫が一匹にゃあ、と気の抜けた鳴き声を響かせる。今度こそ、全てが決した。

●猫少女は戻らない
 一同はやってきた護送車へ《みーあ☆きゃっと》を引き渡した後、このままでは動物たちもストレスが溜まるだろうと、店を原状に戻すための作業を始めた。
「怖かった? ……ごめんね……?」
 真琴が猫にそう詫びながら、ケージを元の位置に戻していく。
「安心してな、みんな。ちゃーんとええ人のとこの子にしたるからな」
 一二三はその横で、育ちすぎたとみーあに哀れまれた動物たちの引き取り手を探すべく、動物保護団体に連絡を取っていた。最初から行き場のない子にはそうするつもりだったが、そういう情をあのヴィランが持っていてくれてよかったと、安堵する気持ちが何処かにあった。
「もふりたかった……」
「落ち着いてからまた、ね。彩羽兄」
 彩羽と真赭が、動物とふれあえないことを残念がりながら作業を手伝う。掛かるストレスのことを考えると、今からモフるのは憚られる。また来よう、と二人は内心で決意した。
「……はい、はい、護送車に乗る際もおとなしくしていました」
「愚神ではなかったし、悔悟の情もあるようだ、と……では一安心といったところですね。お疲れ様でした」
 望月から無線で任務完了の報告を受けたオペレーターは、そう一同をねぎらう。
「今回の事例は、覚醒直後の能力者が抱いていた負の感情と、リンク時に感じる万能感のミックスです。一歩間違えば制御を失い、邪英化していたかもしれません」
 その言葉に、一同はふうっと息をつく。ひとりのヴィランで終わって良かったという安堵が、皆の心に沁み渡った。
「あの子らはどうなるんどすえ?」
 書き上げたリストをチェックしている一二三は、英雄の不安定さと自らの喪失の記憶を想いながら、このまま誓約違反で英雄を失わせるのかと、オペレーターに問う。
「んん、今回の場合は……事情聴取と起訴の合間にカウンセラーがアドバイスをして、新たに誓約を結ぶと思います」
 きっと、もっと前向きな、ね。
 そう無線の向こうで語る人物は、その表情を綻ばせているのかもしれなかった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 映画出演者
    天野 正人aa0012
    人間|17才|男性|防御
  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032
    機械|24才|男性|防御
  • エージェント
    無音 彩羽aa0468
    機械|23才|男性|回避
  • 撃ち貫くは二槍
    今宮 真琴aa0573
    人間|15才|女性|回避
  • もふもふの求道者
    來燈澄 真赭aa0646
    人間|16才|女性|攻撃
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • この称号は旅に出ました
    弥刀 一二三aa1048
    機械|23才|男性|攻撃
  • 真実を見抜く者
    穂村 御園aa1362
    機械|23才|女性|命中
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