本部

ねこねこぎゅっぎゅpart2

高庭ぺん銀

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
7人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/05/03 20:21

掲示板

オープニング

●レッツゴーにゃんこパラダイス
 エージェントの武野内 勇治(たけのうち ゆうじ)は旅行中だった。行き先はガイドブックには載らずツアーも組まれないような小さな村・綿毛村(わたげむら)。彼の目的は趣ある木造建築でも、村の周りに広がる雄大な自然でもない。
「にゃんこだ」
 重低音の呟きは誰にも届くことがなかった。
「わ、こっちきた。ユウちゃん、ここのねこちゃんたち人なつっこいね!」
 英雄の菜子(なこ)はすり寄ってきた猫を撫でながら彼を見上げる。ちなみに勇治は格闘家然とした30がらみの男、菜子は推定7歳の少女だ。一見ミスマッチなふたりを繋ぐのは強固なにゃんこ愛である。ここ数年めっきり野良猫を見なくなった都会に比べ、ノスタルジックな家並みを闊歩する猫のなんと自由きままなことか。飼い猫もいるのだろうが、村全体で猫を飼っているような雰囲気がここにはあった。つまり。
「天国だ……」

●またおまえらか
「助けて!」
 ふたりの至福のひと時は、絹を裂くような悲鳴に打ち壊される。
「これは……」
「ねこちゃん、だよね……」
 声の方向へと急行したふたりは呆然とした。若い女性が異形に襲われていたのだ。それは限りなく猫に近いナニカではあったのだが――たくましい臀部や長い脚は確かに馬。しかし尾は猫のものである。
 と、異形が振り返る。その顔は見間違えようがない――にゃんこなのであった。
「きみ、悪いことはやめるんだ!」
 すぐさま共鳴する二人。ほぼ勇治の姿だが、いつもより感情を解放する傾向にある。つまりはにゃんこ愛大爆発だ。
「ねこねこぎゅっぎゅ~!」
 背中から覆いかぶさって強く強く抱きしめる。一見、奇行であるが根拠はある。実は以前に似たような事件に出くわしたことがあった。従魔化した猫たちは、共鳴状態のリンカーによる全力ハグで元の姿へと戻ったのである。
「おっと」
 結論として、勇治の行動は正しかった。従魔猫の足が通常の猫サイズへと縮んだせいで地面に倒れ込んだ勇治。彼は猫を潰さないよう身を反転させて受け身を取った。抱かれた猫は従魔から解放された感謝を伝えることもなく、勇治を踏みつけて去って行った。
「ぐっ……まぁそれもねこたんの魅力の一つさ。気にしないぜ! あ、そちらのご婦人、大丈夫ですか?」
「え、ええ……。でもこの村って猫が多いのよ。あの子たちが全部おかしくなってしまったのなら、恐ろしいことになるわ」
 勇治はにゃんこ相手のゆるみきった表情を忘れさせるような、勇ましい顔で言った。
「大丈夫です! 俺たちの仲間に来てもらいましょう」
 勇治はHOPEに通信を入れた。猫を抱き締めるときの呪文(?)として『ねこねこぎゅっぎゅ』を激しく推奨する勇治に、オペレーターはドン引きしていた。
 
●犬派の参戦
「武野内さん……ですか?」
「おお、君たちがにゃんこ愛溢れる我がブラザーかい?」
「う、うーんと、お仕事で来ましたー……」
 赤須 まこと(az0065)は困惑していた。
「さぁ、来たまえ! 共に『ねこねこぎゅっぎゅ』するのだ!」
 大の犬好きを公言するまことだが、猫や他の動物も割と好きだ。しかし。
「あれは猫って呼んでいいのか……?」
 呉 亮次(az0065hero001)も唖然としている。
「えーと……。と、とにかく『戦闘が苦手な方でも活躍できるお仕事!』っていうのは本当みたいだよ」
 猫をハグすれば何とかなるのだから。
「俺、作戦とかは知らねぇぞ。熊や野兎ならともかく、猫は専門外」
「えー、猟師さんの癖にー!」
 かくして、エージェントによる愉快な狩りが始まったのである。

解説

【場所】
 四方を山に囲まれた村。山の中はまだ雪深い。そのせいか従魔たちは街から出ようとしない。

【救出対象】
従魔にゃんこ(ミーレス級)
 すごくたくさんいる。ミーレス級としてはかなり弱い。攻撃力も低め。その代わり肉体の変化がとても大きい。猫の習性は大体そのまま残っている。
 攻撃対象は人間。従魔化していない猫に対しては興味を示さない。
 非常に打たれ弱く、共鳴状態のリンカーの全力ハグで猫から離れてしまう。

(種類)
・にゃまあらし
せなかとげとげ。ゆえにヤマアラシ。長毛の猫が多い。たぶんトゲは体毛が変化したもの。体を丸めて転がってくることも。とげとげは共鳴時の身体を以てしてもちょっと痛い。

・にゃまけもの
木にぶら下がっている。ゆえにナマケモノ。手(前足)が長い。動きはすこぶる遅いが、木登りが必要なくらい高い位置にいる。なぜかキジトラ柄(茶色ベースに黒い縞)ばかりだが、まさか擬態のつもりなのだろうか。木には葉が生い茂っており、見つけるのは一苦労かも。

・ゆにゃこーん
仔馬くらいの大きさ。でかい、そして異様な足長。ひづめアリ。女の子が好き。若い方がより良い。ゆえにユニコーン。好き=突進してくる、なので注意。男は(見た目が女でも)蹴られる。角は生えていない。

・もぐにゃ
レアキャラ。元はどっしりとした茶トラである。土の中を掘り進んで移動し、不意打ちを狙う。が、土が冷たいため長くは潜っていられない。攻撃手段は爪のみ。


【住民】
全ての家に情報伝達済み。家の中で待機中。

【NPC】
皆さんの現場到着はまこと&亮次と同時です。猫の手も借りたい方は彼らにも協力要請OK。
勇治(菜子と共鳴済み)は暴走状態ですので、あまり話を聞きません。ただ『使命』に燃えているだけなので害はありません。

リプレイ

●ぼーいず びー もふりしゃす!
「従魔に取りつかれた猫達を救う依頼だって? そんなの行くっきゃないでしょ!」
 ぐっと親指を立て、依頼を快諾したのは黄昏ひりょ(aa0118)だった。
「にゃんこさんいっぱいの村……もふもふの楽園……☆ いいなあ、私もにゃんこさんに囲まれて暮らしたい……♪」
 ルーシャン(aa0784)からはお花のオーラが飛んでいた。アルセイド(aa0784hero001)は諭すように言う。
「その前にルゥ様、猫達を従魔から解放しないと。過程でもふもふは堪能できるのですから頑張りましょうね」
「うん、村の人達も安心して過ごせるようにしよ! 力を貸してね、アリス!」
「御意。我が女王の望みのままに」
 笹山平介(aa0342)は呉 琳(aa3404)から「とっておきの情報」を受け取っていた。
「『ねこねこぎゅっぎゅ」という呪文を言うのが推奨されているみたいでな……!」
 可愛らしい響きを気に入ったらしい平介は、うんうんと頷く。
「さらにその呪文を言うと猫が落ち着くらしいぜ! だから言わないとな!」
 それを横で聞いていた、ゼム ロバート(aa0342hero002)の表情は冴えない。
「みたいですよ♪」
 藤堂 茂守(aa3404hero002)が笑顔で追撃する。ちなみに初耳である。
(どこで聞いてきたんだ……)
 などと訝しみつつも否定はしない。
「なるほど……猫が落ち着くんですね……」
「俺は絶対言わないからな……」
 ぼそりというゼム。その手には平介が道すがら摘んだ猫じゃらしが握られている。
「俺は手加減が出来ない……だから共鳴状態の時は平介、お前が……」
「手加減をする良い練習になるかもしれないし……今回の主導はゼムに任せようかな♪」
「お前……」
 呪文を言いたくないのである。
「ゼムが共鳴主導なのか……、じゃあ一緒にいっぱいギュッギュって呪文言おうな!!」
「おい、俺は……」
「何匹ハグ出来るかな……かわいいもんな……懐いてくれたら嬉しいな……!!」
 情報については琳の聞き違えか勘違いなのだろう。ゼムの眉間に早くも深いしわが寄った。
「いざゆかん! 従魔にゃんこの元へ!」
 元気いっぱいにそう宣言するのは東雲 マコト(aa2412)だ。
「……不安ですの」
 エリザ ビアンキ(aa2412hero002)の脳裏には、前回のにゃんこ事件がよぎる。
「大丈夫だってエリザー、前回のようにはならないって!」
「……不安ですわ」

●四面にゃん歌
 綿毛村、入り口。まだらな絨毯のように地面を覆う猫たちのどれもが異形だ。しかしひるむ者はいない。
「見てください!! 猫さん、猫さんいっぱいです!!」
「お姉ちゃん、流石に興奮しすぎじゃないかなー」
 絵本を愛する想詞 結(aa1461)からすれば、猫が更に絵本的になって現実に現れたようなものだ。
「天国がパワーアップしてやって来たです」
 ここにいる20匹弱はほとんどがにゃまあらし、ゆにゃこーんも1匹いる。
「たくさんもふる。もっふるもっふる☆」
 鈴宮 夕燈(aa1480)に至っては鼻歌交じりだ。
「夕燈お姉さんも猫が好きなんだね」
 ルフェ(aa1461hero001)が言う。
「うん! もふもふが好きでもふぐるみさんの喫茶店もしとぉけど、やっぱり動物さんのりあるもふもふも凄いよかやん……? こう、違うんよ」
 首を傾げるルフェ。夕燈は草むらの中に何か見つけ、ひざをつく。
「もふりてぃさんが違うんよ……もふ……もふ語り……。どれも可愛い……もふりたい、もふる。もふまっしぐら」
 振り返った夕燈の腕の中にいたのは、にゃまあらし。
「え、痛くない?」
「気ぃつけてもふれば大丈夫ぅ~」
 あまりの敵意のなさに対応が遅れた従魔猫は、元の姿に戻った。
「ぅまおー」
 けだるげに鳴くゆにゃこーん。
「ふしゃ!」
 武野内 勇治の懐に飛び込んだ巨大ウニ、もといにゃまあらし。
(あれ、猫なの? さ、詐欺だぁぁぁっ!)
 しかし、ひりょの猫への愛はそのくらいじゃ揺らがない。依代は可愛いにゃんこ、今の姿だって一応にゃんこ感は残っている。
「可愛いは正義」
「ちょっと、ひりょ……?」
 フローラ メルクリィ(aa0118hero001)の心配を他所に、一人頷くひりょ。救えば仲良くなれるかもしれない!
「よし、俺は逝くぜ!」
(なんか、ひりょが壊れたぁぁっ!)
 微妙なテンションにどん引きするフローラだが、かろうじて共鳴はしてくれた。
「心身の癒す側を日々心掛けている俺だけど……たまには、そう、たまには癒されたいんやぁぁっ!」
 エスト レミプリク(aa5116)は呆然としていた。
「……ねえシーエ」
「なぁに?」
 シーエ テルミドール(aa5116hero001)は涼しげな笑みを浮かべ答える。
「僕は君から『鋭い爪と牙を持った従魔の討伐』って聞いてたんだけど」
「そうよぉ?」
「……猫じゃないか!」
「ウフフフフ~♪」
 この反応を見るためだけに依頼を受けさせたのだ。
(フフ、予定通り♪ お礼の意味も込めて、全力でぎゅっぎゅするわぁ)
 不満そうなエストだが、仕事は仕事。共鳴すると、エストの姿にシーエの姿が歪に入り混じったような姿となる。
「……珍しくやる気じゃないか」
「だってぇ、ねこねこなのよぉ?」
 常よりもシーエの比率が高いのは、猫への興味のせいらしい。白、黒、茶色に塗り分けられた『いがぐり』たち。面白くないはずがない。
「痛そうだな……」
「ここはゼム様にお任せしましょうか……?」
 猫好きの琳の手前、抱きしめたくないとは言えない。だからといって背中を見せてやる義理はない。一匹ずつおびき寄せよう。そのための装備だ。
「こっちだ、こっちに来い」
 ふり、ふりふり。こちらを警戒する彼らだが、巧みなねこじゃらし捌きに視線は釘付け。
「おや……? いつの間に猫をじゃらすのがそんなお上手に……?」
 茂守が感心した声を上げる。ゼムの表情がにわかに険しくなり、猫じゃらしは宙を舞う。
「共鳴だ、平介」
 群れの中へ飛び込んだ猫じゃらしに構うものはいない。生を失くした緑のもじゃもじゃは最早なんの意味も為さないのだ。
「あの道具でも、じゅうぶん興味を引けていたようですが……?」
 不思議そうにする茂守に、不敵な笑みを返す。
「小細工はやめた」
 瞬時に共鳴した彼は群れの中心に進み出で、王のように立つ。そして抱擁の光栄にあずかれる猫をすくいとる。
「……上等だ……抱きしめてやる……」
 実はトゲが痛いなんてことは言うはずもない。背中にぶつかってくるとげにゃんこにも鷹揚な態度を見せる。
「やっぱり大人の男だな……痛くないんだもんな……! すごいぜ!」
「当然だ」
 キラキラの眼差し、そして投下される爆弾。
「……呪文は言わないのか?」
 ゼムは目を剥いたが、それ以上のリアクションは押しとどめ、かすかに唇を動かす。
「……言った」
 琳はぽかんとする。
「猫には聞こえていた。落ち着かせるには十分だ」
「そっか、あんまり大きい声で言うと猫が怖がるもんな!」
「なるほど。私も失念しておりました」
 ゼムは向かってくる猫をまとめて抱きしめ、我慢大会をしている。消耗して逃げらない猫は平介の上着で包むように指示を飛ばす。
「仕事が終わるまでちゃんと温めてやれ……いいな?」
「わかった!」
 琳はその姿に感銘を受けたらしい。
「俺もゼムみたいな、クールでハードボイルドな男になるぜ!」
「ええ、きっとなれますとも」
 茂守は笑んだ。琳が単語の意味を理解しているかは疑問だったが、問い返すことはしなかった。
 エリザは、共鳴して狼の耳を生やした少女に狙いを定めた。
「赤須まこと様、我が主……東雲マコト様は以前この従魔にゃんこを目にして暴走をした経験がありますの。私、今回も暴走するんじゃあないかと不安で……手を貸して頂けないかしら? ……って主様がいない!?」
「あっ、あっち……!」
 まことが指をさす。地に伏すのはゆにゃこーんに突撃してやられた後のマコトだ。突進は敵の専売特許なのだが。『猫まっしぐら』状態のマコトを脅威と認識し、やむなく蹴り飛ばす道を選んだらしい。
「いやぁ、つい我慢できなくてさ」
 体をさすりつつ、のっそり起き上がるマコト。血が一筋、また一筋。額から幸福に緩んだ頬を流れていった。ゾンビホラーの舞台なら、ここよりずっと南のはずだ。
「ここは私が!」
 共鳴し、騎士となったルーシャンが『守るべき誓い』を発動させる。『クロスガード』によって高めた防御力を活かし、鼻息荒く向かってくるゆにゃこーんとぶつかる。
「くっ」
 ずりずりと靴底が音を立て、後ろに押されるのをぐっと踏みとどまる。
「諦めません!」
 ぎゅっとさらに腕の力を強めると、ふいに手ごたえが消える。
「よかった。解放されたんですね」
 細身の雄猫が頭をルーシャンの足元にすりつけた。
「危ないですから、建物の陰へ。ふふ、いい子です」
 猫は一声鳴いてどこかへ去った。
「……すごい」
「まだまだ、エストじゃ足元にも及ばないわねぇ?」
「……わかってるよ」
 ルーシャンがふと視線をこちらに向ける。
「……何か?」
「な、なんでもないです!」
 エストは慌てて目をそらす。
「あっ、足元に!」
 身を低くして威嚇するにゃまあらしだ。
「痛っ……けど、捕まえた!」
「ふにゃうん……」
 一体討伐。今日のところはこれを積み重ねていくしかない。
「主様……」
「ち、違うんだよエリザ。コレには訳が」
「言い訳は無用ですわ! 主様っ、今日という今日は共鳴時の体の主導権を私が取らせてもらいますわ!」
 ヒーローの胸にある星マークからは「そんにゃあ……」の声。
「という訳でラビットシーカー、華麗に参上! ですわ♪」
 跳ねるウサギのように軽やかに、そして華麗に!
「さぁっ」
 左右へのフェイントで回避。
「捕まえてっ」
 馬跳びで回避。
「ごらんなさああああ!?」
 そして、回避失敗。ラビットシーカー、空を飛ぶ。
「エリザァああ!」
「あ、あなたの犠牲は忘れません!」
 飛び出したのは遺志を継いだ狼少女まこと。
「ねこぎゅ!」
 呪文は大胆に略されていたが問題ない。
「面目の次第もないですわ……」
「コレばっかりは経験だからね、今度一緒に訓練しょっか」
 体の主導権は再び、マコトへ。
「と言う事で改めて……、ラビットシーカー! 颯爽参上!」
 ひりょは思案する。――大丈夫、冷静だ。
(高い所は苦手だし、男だから……確実を狙うならあのグループだろうっ!)
 若干、目が血走っていることに本人は気づいていない。
「別にあの群れ、もふってしまっても構わんのだろう?」
 降り注ぐパワードーピング。ウニ畑へのダイブ。そして、全力ハグ。
「痛くな~い!」
 実際はちょっと痛い。戦闘開始直後なのに水滴が頬を伝っているし、手もぬるぬるしている。汗をかくには早いはずだが。
(ひりょ……。痛いのに嬉しそうとか……。やっぱりどM疑惑は真実なんだね……)
 フローラの呟きが聞こえた気がするが、関係ない。
「俺は愛に生きているんだ、いみゃっ(今)!」
 顔面への猫パンチ。そこでますます嬉し気に微笑むものだから、疑惑は深まるばかりだ。

●村を歩けばにゃんこに当たる」
 第一の集団は退けた。話し合いの結果、手分けして村を回ることになった。正確に言うと、勇治とひりょは野太い雄たけびを上げて走り去ってしまったのだが。村はあまり広くない。出会えば共闘、手が足りなければ援軍要請という作戦で構わないだろう。
「性質が猫さんならお魚とか使えば寄ってくるですかね?」
「網目の荒い網なら絡まるかもね」
 結とルフェは網を地面に敷き、村人に分けてもらった餌を置く。ルーシャンと共にしばらくここで待機だ。無力化した猫はめいめい逃げたようだが、疲れ気味の猫たちは家の中で保護してもらうことにする。
「人間めがけて襲ってくるのであれば、あえて共鳴せず誘い出すのもいいかな……?」
「上手くいけば探す前に向こうから来る……か……」
 平介たちは猫を見つけるまでは共鳴はしないことに決め、琳たちもその案に乗った。ゆにゃこーんのターゲットになる可能性は低い男性陣は、にゃまあらしとにゃまけものを探す予定だ。
 るんるんと二又の道の片方を歩き出す琳。ゼムを振り返ってにこりと笑うと、琳の後ろをついていく茂守。平介との共鳴を一旦解除したゼムは眉間にしわを寄せつつ反対の道を進む。
「茂守、なまけものって木にぶらさがってるのは何でなんだろうな……」
「さぁ……何ででしょう……? 高い所の方が天敵が来た時に発見が早いからですかね……?」
 家の庭や道なりに生える木を重点的に調べていく。平和な滑り出しだ。
 一方、ラビットシーカー・エスト・赤須まことのチームは、ゆにゃこーんの群れに出会った。
「ぅなぁー」
「もしかして戸惑ってるのかしらぁ?」
 ゆにゃこーんは後ろ足で地面をけりつつ、こちらの様子を見やる。女の子大好きなイキモノは突進を選んだらしい。
「くっ……おもったよりも、このっ!」
 一撃が重い。
「あらぁ、ちゃんと修行になっちゃってるわねぇ♪」
 シーエの比率は全身の半分程度にまで及んでいた。
「ぴゃっ! や、やったなあ!」
「あ、あの子かわいい……ねえエスト、家にも猫を……」
「ああもう! シーエうるさい!」
 まことは悲鳴を上げながら突進を避ける。ドッチボールの悪夢がよみがえる。避けるのだけは得意でキャッチのできない彼女の運命はいつも悲劇。最後まで生き残り、恐怖を味わう役だった。
「ぬこだましぃ!」
 『猫騙』でできた隙をつき、マコトは顔面から毛皮の中へ飛び込む。
「東雲さん!」
 救いの手に感激するまことだが、ヒーローの脳内は突如舞い降りた天啓でいっぱいになっていた。
『主様? どうしたんですの?』
「エリザ、ゆにゃこーんを持って帰ろう」
『あ、主様なにを……』
「こんな珍しくて可愛い猫は他にはいない! 持って帰って飼おう!」
 エリザも従魔も呆気にとられた。ハロー、不定の狂気。

●袋のにゃんこ
 夕燈が出会ったのは、エストと別れて発狂したマコトを追う狼少女。
「えとー、赤須さん?ももふらへんのかなぁ……」
 首を傾げ、びろーんと伸びた普通の猫を差し出す夕燈。
「ほら、にくきゅーぷにぷにって。癒しー癒しやでー……」
「ほう、これはなかなか~……って、今は猫従魔を倒さないと!」
「え? もふもふ無くなってまうん……そ、そげんお仕事やったと……?」
 ショックで外れる右手。
「……あ、お手てお手て……」
「えっ!」
 そしてかしょーんと復活。
「……もふもふ……もふもふのお墓……作る……泣く泣くもふ別れする……くすん」
「お墓は違うと思うよ? 体のサイズは縮むけどね」
 元気を取り戻しかけた夕燈の耳に、すすり泣きにも似た笑い声が届いた。
「うひっうひひっ」
 ひりょは笑う、正気と狂気の狭間で。目を覆う前髪、顔と腕を赤く染める血。そしてハグに備えた猫背。その姿、まさに幽鬼。
(ちょ、お巡りさん、この人止めてぇぇっ)
 共鳴中の今、フローラの悲鳴を聞けるのはひりょしかいない。その彼が悲鳴の原因なのは皮肉である。幸いな点があるとすれば、傷が浅い点と、ひりょ自身はこの上なく楽しんでいる点。
「ひえっ、ゆ、ゆーれいさん……!?」
 そして不幸な点は、ホラー嫌いな夕燈が彼に出会ってしまったこと。
「あ、お手てない!」
 怖さのあまり再度とれた義手は、茶トラの猫がくわえていた。
「拾てくれたん? ありがとうさんやで」
 と思いきや、そのまま地下へ。
「そんなぁ!」
「っていうか、黄昏さんも居ない!? ……とりあえず、手を取り戻そう!」
 そして誰もいなくなった――なんてことになる前に誰かが止めてくれるはず。ランスと鉤爪による掘削作業が始まった。
「それ、きっともぐにゃさんです!」
 通信機越しに結が声を上げる。彼女らは大量捕獲したにゃまあらしの捕獲中だ。
「さぁ、ルフェ君! 悪戯っ子パワーを見せてくださいです!」
(お姉ちゃん、悪戯っ子は捕まえるのは専門じゃないよ? 逃げる方だよ? 大丈夫?)
 二人で網を操作し、猫を網の中に閉じ込める。ちくちくと刺す針は我慢してまとめてぎゅー、だ。
「ふふ、従魔相手の戦いが、いつもこれくらいもふもふぎゅーって感じならいいのにな」
 しかし誰もが従魔と戦う力を持っているわけではない。彼らの安全を守るため、ルーシャンは頑張らなければならない。
「ご立派なお心掛けです、ルゥ様。良き女王たるに相応しく」
 健気な主の姿勢にアルセイドの頬が緩んだ。


「茂守はこういう依頼好きか?」
 茂守は優しい。いつだって柔らかい笑みを浮かべ、自分の味方でいてくれる。けれど茂守は何かを隠していると琳は思う。『女の勘』というものは琳には使えない。だからこれは『子供の勘』だ。――もっと戦いたい? じゃなければ何がしたい? 彼は大切な人。だから琳は知りたいと思う。
「えぇ、好きですよ♪」
 茂守が答えると琳は瞳を輝かせた。
「……そっか……! じゃあ茂守にもいっぱい猫抱かせてあげるからな……! 頑張ろうな!!」
「えぇ……頑張りましょう♪」
 琳は喜ぶ。一つ、茂守の心を知ることができた。――でも、本当に?
「あっ」
 茂守の声。疑念の泡がぱちんと弾け現実へ引き戻される。
「いたのか、茂守!?」
「ええ。ですが少し位置が高いようで」
「へーすけたちを呼ぶぞ!」
 考えるのはまた今度。でもいつかは見つけたい、本当に本当の彼の気持ち。


「鈴宮さん、お手てが見つかりました!」
 地中と見せかけて堂々と地上を走っていたもぐにゃは、結たちの罠にかかった。
「ゆにゃこーんさんは個人的にやり過ぎ感があったですが、デフォルメっぽいこの子とかはいい感じです」
(まー、でも、見せ物としてはいいかもね。マジックで入れ替わりに使ったら受けそう?)
「持ち帰りはダメですからね。ただの猫さんならいいですけど」
 ねこじゃらしを持ったルーシャンが問いかける。
「もぐるのは嫌になったんですか? 確かに土の中は寒そうです」
 にらみ合う両者。新しいおもちゃに興味を移したもぐにゃは、夕燈の手を口から放す。
「もにゅ」
 ぺしっと跳ねる猫じゃらし、もぐにゃの足が一歩進む。
「今です、ルーシャンさん!」
 結は床にあった網を一気に引く。もぐにゃがころんと転がる。
「少しだけ我慢してください!」
 どっしりとした猫の体に覆いかぶさったルーシャン。10秒ほど経った頃だろうか。
「ヴヴン…」
 ドレスの下から現れたのは、ごく普通の茶トラ猫だった。
「なんだかマジックみたいでした」
 ふいにおかしくなり、彼女らは微笑み合った。


「小僧……届くか?」
 琳を肩車する白い髪の男。平介に近い見た目だが、立ち居振舞いはゼムだ。非常に微笑ましい光景なのだが、自覚があるのは平介と茂守だけである。
「もっ……もーちょい、だぜ」
 にゃまけものは手を伸ばす琳をちらりと見つつも、動く気配がない。訳すならこうだ。人間のライヴス美味そう。でも動きたくにゃーい。
「コレ使え……」
 男から琳へマタタビが渡される。
「マタタビ……って何だ?」
 猫の鼻先へ近づけると、猫の目がとろーんとする。次の瞬間。
「わっ、大丈夫か!?」
 猫がこちらめがけて落ちてきた。
「やったぜ!! ねこねこぎゅっぎゅだ!!」
 ぎゅっと抱き締めると、だるそうな抗議の声。そして。
「戻ったようだな」
 ゼムが琳を地に下ろし、琳が猫を着地させる。
「よかったな……元に戻れて……」
 ゼムは見上げてくる猫の頭を撫でる。そこへ。
「ね~こ~ね~こ~」
「うわ、なんだコイツ!?」
 悪鬼ひりょは、二人の仲間によって取り押さえられた。暴れるひりょにやむなく手刀をいれたのはゼムだ。手加減の度合いは――まぁ、それなりであったという。


「手が見つかってよかったね。けど東雲さんは?」
 まことと夕燈、エストが村の入り口に戻って来た。結、ルーシャンと共にマコトを探すことにする。従魔の残党がいないかのチェックも兼ねているのだ。
「はーはははっ!」
 高笑いの方向へ駆けると、ゆにゃこーんに跨り大暴走している少女が。馬は嫌がっているのだがマコトが降りないため、いたずらに駆け回ることしかできないらしい。道すがら、にゃまあらしや低い木にかくれていたにゃまけものが倒されていたことを彼女は知らない。
「助けないと!」
 ルーシャンが『守るべき誓い』を発動すると、馬を正面からぎゅっと抱き締める。その間に他の者が暴れるマコトを引きずり下ろした。猫は疲れた親父のような息をつき、去って行った。
「そう、わたしを捨てるんだね。一緒に風になった仲なのに……」
 力尽きたように共鳴を解いたマコトは、エリザから精神分析(物理)をくらった。三度体の主導権を入れ替えた後は、皆と共に真面目にパトロールをこなした。
『もう懲り懲りですにゃ』
 胸の赤い星は呟いていた。

●喉元撫でればにゃんこは喜ぶ
 事件の解決。それは楽園(エデン)の崩壊を意味する。
「ひりょおにいちゃん、しっかりしてください」
「ルーシャンさん?」
 目覚めたひりょは、限りなき虚無の到来(もふもふタイムしゅーりょー)を告げられ打ちひしがれた。
「本物のおばけさんやなくて良かったぁ」
 夕燈がほっとした顔で言う。ひりょはひとつ咳払いする。視線は斜め下に固定して。
「あー、うん。皆、大変だったね。お疲れ様」
 勇治と菜子は自身の暴走に慣れているらしく、スポーツ後のような爽やかさで戻って来た。たくましいものだ、
「ひりょの暴走気味の感情が流れ込んでくるから、制御するのに大変だったのよ!」
 フローラがお説教をしていると、そこへ天使がやってきた。
「にゃあ」
 身の安全を確信した猫たちが、そこかしこの隙間から這い出てきたのだ。
「すぐなでなでしたいけど、がまんなの……」
 追いかけたい気持ちを抑え、ルーシャンは石になる。そわそわした表情と仕草は微風に揺れる花といった風情だったが。
「酷い依頼だった……」
 しゃがみこむエスト。
「にゃんにゃ~ん♪」
 ご機嫌で猫をじゃらすシーエを見て、ため息。
「……まったく君は」
「ほら、あなたの助けた猫ちゃんよぉ♪」
「うわっちょっと!」
 両腕にすっぽりと収まる温もり。マイナスな感情が蒸発する。
「……助けられて、良かったでしょ?」
「……うるさいな」
 ぎゅっと抱きしめた猫は、考えの読めない調子で一声鳴いた。
「やっぱり猫はかわいいな……」
 自分の胸で安心しきっている猫を、琳は茂守へと託す。逃げられるのではと危惧したが、野生の勘は働かなかったようだ。
「何か……にゃまあらしってゼムっぽいよな……」
 囁く声に、茂守はくすっと笑みをこぼす。
「確かに似ていますね……ああやって自分で身を守る所なんか特に」
 エージェントたちは猫コミュニティに受け入れられたようだ。食事の様子や香箱座りでの日向ぼっこ、ゴロンと腹を出し寝転ぶ姿などを撮影し、満足げに微笑むルーシャン。夕燈とも写真を見せあう。
「……今度もふもふの歌作る♪」
 猫よりマイペースなアイドルリンカーさんは今日も絶好調。
(ルゥ様と猫の組み合わせが既に可愛いですよ……!)
 アルセイドはすっかり親ばかの心境だった。


 数日後、結はこっそり机に向かっていた。
「悪い魔法使いがステッキを振ります。おこりんぼ猫さんはやまあらしに、お寝坊ねこさんはナマケモノに変身してしまいました。……うーん、もぐにゃはどんな猫さんにしましょう?」
 絵本『ねこさんだいへんしん』が完成するのはもう少しだけ後の話。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • ほつれた愛と絆の結び手
    黄昏ひりょaa0118
  • 希望の守り人
    ルーシャンaa0784
  • 血まみれにゃんこ突撃隊☆
    東雲 マコトaa2412

重体一覧

参加者

  • ほつれた愛と絆の結び手
    黄昏ひりょaa0118
    人間|18才|男性|回避
  • 闇に光の道標を
    フローラ メルクリィaa0118hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 分かち合う幸せ
    笹山平介aa0342
    人間|25才|男性|命中
  • どの世界にいようとも
    ゼム ロバートaa0342hero002
    英雄|26才|男性|カオ
  • 希望の守り人
    ルーシャンaa0784
    人間|7才|女性|生命
  • 絶望を越えた絆
    アルセイドaa0784hero001
    英雄|25才|男性|ブレ
  • ひとひらの想い
    想詞 結aa1461
    人間|15才|女性|攻撃
  • いたずらっ子
    ルフェaa1461hero001
    英雄|12才|男性|ソフィ
  • ~トワイライトツヴァイ~
    鈴宮 夕燈aa1480
    機械|18才|女性|生命



  • 血まみれにゃんこ突撃隊☆
    東雲 マコトaa2412
    人間|19才|女性|回避
  • クラッシュバーグ
    エリザ ビアンキaa2412hero002
    英雄|15才|女性|シャド
  • やるときはやる。
    呉 琳aa3404
    獣人|17才|男性|生命
  • 見守る視線
    藤堂 茂守aa3404hero002
    英雄|28才|男性|シャド
  • 決意を胸に
    エスト レミプリクaa5116
    人間|14才|男性|回避
  • 『星』を追う者
    シーエ テルミドールaa5116hero001
    英雄|15才|女性|カオ
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