本部

英雄意識調査報告書

真名木風由

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
寸志
相談期間
5日
完成日
2015/10/19 16:20

掲示板

オープニング

 能力者達は、職員からメールを受け取った。
 メール内容は、端的に纏めるのであれば、『英雄の意識調査をしてほしい』というものだ。
 何故、それが必要なのだろう?
 能力者である『あなた』は、メール本文を目で追った。

 英雄は、本来この世界にいなかった存在である。
 しかし、今、この世界に身を置くようになった。
 が、かつての世界と今の世界では勝手が違うこともあるだろう。場合によっては日常生活レベルで戸惑うこともあるかもしれない。
 特に、最近H.O.P.E.のエージェントとなった『あなた』の英雄は馴染みがあるとは言い難い。
 H.O.P.E.としてもバックアップしたい所であるが、英雄がどういう方向で戸惑いを覚えているのかが分からないとバックアップもままならない。
 そこで、能力者から英雄に対して、戸惑いを感じることは何か聞いて欲しい、ということだ。

 メールの内容としては、一理ある。
 自分達の当たり前が、英雄にとって当たり前とは限らない。
 例えば、こうしたメールすら、英雄にとっては何故離れた場所にいる者同士が一瞬で手紙をやり取り出来るか不思議かもしれない。
 この辺りは、本人に聞かないと分からないだろう。
 職員が行わない理由として、英雄からそうした戸惑いを直接聞くことで能力者側からもフォローを行って欲しいというのもあるそうだが、こうした小さな戸惑いも話し合える間柄になっておくに越したことはなく、きっかけにしてほしいらしい。
 かつての世界の詳細がどのようなものかを聞くのではなく、今暮らしているこの世界で戸惑っていること、戸惑うレベルではないが新鮮に感じたことなら、本人が憶えている状況に影響はなく、出会って日が浅い者同士でも重大な話題ではない為に気軽に話し易い。
 『あなた』は、英雄と共に近所へ出かけることにした。
 飲み物でも飲みながら、英雄から話を聞いてみよう。

解説

●出来ること
・英雄から、『この世界に来て戸惑っていること』『戸惑うレベルではないが新鮮に感じたこと』を聞く

あくまで『この世界に来てから』の話となります。
『かつていた世界でどういう生活だったか』は主題ではありません。
『以前の世界では剣や弓矢の世界だったから、車が走っているだけでビックリ。車って馬より速いんだね』というレベルならOKですが、『以前自分がいた世界はこうだった。そして自分はこのように暮らしていて……』という『以前の世界主体の話題』はNGです。
尚、描写量確保の為、質問は上記のみとさせていただきます。

●場所
・能力者の家の近所にある公園またはカフェ

具体的な描写(時間帯含)は行いません。
汎用的に、公園のベンチで話し始めた、カフェで紅茶を飲みながら、というレベルの描写となります。

●注意・補足事項
・職員からの依頼の特性上、今回は個別描写となります。
・英雄と参加した場合は英雄と会話が主体になりますが、能力者のみの参加の場合、英雄から聞いた回答を思い出しながら、調査報告書を書いて提出する描写となります。
・公認されていない基礎設定の場合、描写して問題ない範囲まで暈す場合もあります。(特に英雄サイド)
・欲張ってあれこれ詰め込んでもひとつひとつの描写が薄くなります。ご注意ください。
・飲み物や場合によってはちょっとした食べ物程度を食べながら話す形ですので、飲み物や食べ物ひとつで驚く英雄もいるかもしれませんね。

リプレイ

●合同調査報告書
 御童 紗希(aa0339)と栄神・昴(aa0429)は、互いが友人ということもあり、合同で英雄に尋ねることにした。
 ファーストフードのオープンテラスには過ごし易い季節だからか、自分達以外にも腰を落ち着かせている者もいる。
 が、紗希の英雄カイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)は、鋭い眼差しをヴィヴィアン・ルージュ(aa0429hero001)へ向けていた。
(……このバカでかい女……出来る!)
 自分と大して変わらぬヴィヴィアンを脅威と思ったのは同じ英雄だからか、それとも動物的な直感からなのか……カイにすらその説明は出来ないが、彼の中では他の英雄と異なり、敵に回せば苦戦する相手という認識が生まれたようだ。
 が、そのヴィヴィアンはカイの心の声なんて聞こえてないので、こう思った。
(何て熱い視線なのでしょう……。は!? わたくしは見初められたということなのでしょうかっ!?」
 夢見る乙女の瞳(ヴィヴィアン基準)で、激しく勘違い。
「何かご用でしょうか?」
「!? 何でもない」
 ヴィヴィアンが読まれたと警戒するカイに対し、ヴィヴィアンは「わたくしのことなら何でもお聞きになっていいのですが……」と前置きし、こう続けた。
「お嬢様のことを詮索するならば……僭越ながら、全力で排除させていただきますわ」
 ヴィヴィアン的には、とても可愛らしく、それこそ、「うふっ☆」と言わんばかりの微笑。
(!? 何だ? あの凶悪な笑みは……。俺に対する挑戦か?)
 だが、カイ的には、限りなく凶暴な微笑であった。
(いいだろう……。喧嘩は売られたら、必ず買うのが俺のポリシーだ。いつでもかかってこい!)
 両者、全く噛み合っていない。

「予想してたけど、全く噛み合ってないよね」
「根は似てると思うんだけどね」
 昴がお姉ちゃんと呼ぶ紗希を見ると、紗希は2人の英雄をそのように評した。
「こういうお店へ来るの初めてなんだ」
「そうなの?」
 昴へ紗希が尋ね返すと、昴はこくりと頷いた。
「ヴィヴが来てくれたから、好きな時にお外に行けるようになったの。誰よりも強く優しい素敵な英雄だと思ってる」
 昴のはにかみに対し、カイが少し厳しい顔を浮かべる。
 彼の頭の中では、人心掌握にも長ける恐るべき相手という情報が刷り込まれたのだ。
 紗希は何となく、カイが考えてそうなことの見当がついて心の中で溜息。
「が、今日は何故外へ?」
 カイが紗希へ問うと、紗希も昴も筆記用具を出した。
「1人でやるより、2人でやる方が早く終わると思って」
「これから、ちょっと話を聞かせてね」
 昴の言葉に紗希が続くと、カイが理解出来ないとばかりに眉を寄せる。
「わたくしに懸想するステキな殿方がわたくしのことをお知りになりたいのですか?」
「H.O.P.E.の素敵な職員さん達がヴィヴ達英雄さんのことを知りたいんだって」
 暴走を食い止めるかのように昴が微笑む。
 ヴィヴィアンへの説明であったが、カイもそういうことかと納得した。
「え……と、で、カイ、こっちの世界に来て困ったこととかない?」
 新鮮に思ったことでもいいけれど、と付け加えて、紗希がカイへ問う。
 カイは「あ~……困ったこと?」と頭の後ろをかいた後、何かあったかと記憶を辿るような目をした。
「特にないな。情報はTVやネットで拾ってこられるしな」
 彼がいた世界がどのようなものかは不明であるが、TVやネットで情報収集が出来るという知識はあるようだ。
 そこでの情報収集が出来れば、困ったことはだいぶ減少するだろう。
「わたくしは特にございませんわ。お嬢様にお仕えする為に日々自らを高めておりますの」
(それでこのただならぬ佇まいをしているという訳か)
 ヴィヴィアンの答えを聞きながら、警戒心を強くするカイ。
 が、それで何か思い出したようで、口を開いた。
「そういえば戸惑ったっつーか、納得いかねーことがあった」
 それは、先日の話。
 カイは紗希を迎えに学校の門の側で待っていたのだそうだ。
 すると、突然2人組の男に職業は何かと問われたそうで、カイはごく普通に英雄と返したらしい。
 が、男達は何事か相談し合うと、自分をどこかへ連れて行こうとしたのだそうだ。
 よく見ると彼らは銃を持っており、普通ではないと殴ったら、『コウムシッコウボウガイ』という単語が出た後、ますます自分を連行させようとしたらしい。
(……変質者って思われて警察呼ばれたんだよ……)
 紗希は、校門前で変質者が暴れている為安全と分かるまで校舎から出るなという教師達の指示を思い出していた。
 あれ、カイが原因だったのかと思うと、両手で顔を覆いたくなった。
 が、何とか堪えて下を向き、メモに記す。
(一般常識の研修の必要あり、と調査書には書こう)
 その間にも、カイが昴指摘の通り警察の勘違いだったことを話し、きっと治安が悪化しているのだろう、だから紗希の送り迎えは必要だと過保護丸出し発言をしている。
「治安と言えば、最近痴漢の目撃情報が減ったような気がする」
「そうなの? いいことじゃない」
「前は聞いてたけど、ヴィヴが走り込み始めてから、急に」
 昴と紗希はそこまで会話し、ヴィヴィアンを見た。
 当のヴィヴィアンはアイスティー片手に微笑む。
「夜は殿方が積極的ですから、お相手して差し上げましたの。わたくし安い女ではありませんが、殿方からのアプローチは拒みませんわ」
 曰く、抱きついてきたり、裸体を見てくれと言われたり。
 ヴィヴィアンは齧りつきで見て感想を述べる等丁寧に対応し、最終的に追い掛け回して泣かせた挙句、気絶した痴漢は速やかに然るべき所へお渡ししたと話しているが、丁寧な対応された方は堪ったものではないだろう。
 昴はその内容を平仮名多目の口語調でメモしていく。
(回覧板を持ってきたお隣さんの感謝ってこのことだったのかな)
 昴はよく分からないが、そう思った。
「世間様のお役に立てるのは良いことですわ」
 そんなヴィヴィアンはカイの警戒を他所にアイスティーを飲んでいる。
 能力者を大切に想う以外は何もかも異なる英雄達を見、紗希も昴も英雄も色々だと思った。

●おなやみある? 
「わーい、わーい!」
 まいだ(aa0122)がブランコを漕いでいるのを、獅子道 黎焔(aa0122hero001)はベンチに座って見ていた。
 夕飯の買い物帰り、黎焔はまいだを連れて公園へやってきていたのだ。
「そうだった!!」
 突然、まいだがブランコ遊びを止めた。
 走ってきたまいだは、「ねー! れいえーん! あのねあのねー!」と軽やかに黎焔が座るベンチへ飛び乗った。
「れいえーん! あのねー? こまってること、あるー?」
「あ? 困ってることぉ?」
 黎焔が問い返すと、まいだはこくこく頷いた。
「そりゃあるさ……。家事全般をやらなきゃならねえ現状だよ」
 ふむ、とまいだは頷くと、ビシッと挨拶した。
「おー……まいにちごくろーさまです! だが、わたしはあやまらない!!」
「まいだ……最後のどこで覚えてきた?」
 今度詳しく教えろと言うと、黎焔を疑うこともないまいだは「わかったー!」と元気良く答えた。
「こっちきて、なやんでること、あるー?」
 まいだが質問を重ねると、黎焔も眉を寄せる。
 何を、聞こうとしてる?
「はぁ? ねぇよ」
「えー」
 まいだが不服そうに言うので、黎焔は「そりゃ、最初の内は戸惑ったさ」と前置きし、話し始めた。
 前にいた世界とは違い、森はなく、空気は汚い。周りも灰色の建物ばかり。
 分からないことばかりだったが、黎焔はこの世界に来て結構時間が経過している。
 エージェントになる前、まいだ共々養ってくれた、まいだの現在の保護者も色々教えてくれた為、慣れたらしい。
「おー! れいえんすごい! おなやみない!!」
「だろ? すげえだろ?」
 まいだが褒めると、黎焔が得意そうに笑う。
「で、なんでそんなこと聞くんだ?」
「これ!」
 まいだが見せたのは、子供専用の携帯電話。
 受信メールには、H.O.P.E.の職員の名前があり、怒りを覚えた。
(ガキに何てこと聞かせやがる)
 メールを見るまでもなく、「返信はあたしがしとく」と言ってメールを打ち出す。
『周りの連中に恵まれたからな。悩みなんざねえよボケ。英雄より』
 にこにこお礼を言うまいだがメールを送った黎焔へこう言った。
「いろんなえいゆうさんにきーて、こまったことーとかをおしえてもらったら、こまってるえいゆうさんのためにがんばるっていってたから、おこづかいあるし、がんばったー」
 どういたしまして、と応じつつ、黎焔は、自分の為だけに、ではなく、多くの英雄の為の依頼、まいだ以外にも依頼しているだろうと気づいた。
 が、そのような貢献をまいだがする必要はない、他の奴は他の奴でどうにかすればいいと黎焔は考え、まいだへ携帯電話を返す。
「帰るか。今日の飯はハンバーグだ」
「ほんとー!? やったー! れいえんのハンバーグだいすき!」
 まいだと手を繋ぎ、黎焔は歩き出す。
(ちゃんとしなきゃ、お前に顔向け出来ないしな)
「なにかゆったー?」
「いや、何も」
 不思議そうなまいだに答え、黎焔はハンバーグは少し大きめに作ってもいいかもな、と思った。

●思い出せない苦しみ
 離戸 薫(aa0416)は、隣を歩く美森 あやか(aa0416hero001)を見た。
(あやかさん達はこの世界と文明レベルが同じ位の世界から来たみたいだけど……戸惑うことってあるのかなぁ?)
 他の英雄に比べれば、あれこれ驚く様子は見せていないと思う。
 が、H.O.P.E.の見解は、近いからこそ小さな違いに戸惑うこともあるだろう、ということだ。
(妹達を近所の公園へ連れて行くし、ちょうど良かったかな)
 いつもは妹達も自分とあやかに遊んでと纏わりつくが、今日は英雄ごっこらしく、「おにーとあーしゃんけーひん」と動くことを拒否したのだ。
 ちょうどいいかもしれない。
 薫はそう思い、到着した公園のベンチでペットボトルのお茶を片手に尋ねてみた。

「そうね。他の英雄より戸惑いは少ないわ」
 あやかは薫の自身の見解を添えた質問に対し、そう答えた。
 彼女の、正確には共にこの世界へやってきた親友とも話しているそうだが、自分達の感覚は『日本人が日本の今まで知らなかった所へ引っ越してきた状態』というのが最も近いらしい。
「でも、僕達はああいう格好はしてないですよ?」
「あたし達も『戦闘用の衣装』って意識よ?」
 初めて見た時を思い出し、薫が驚いた記憶を語ると、あやかはくすりと笑った。
 水を流したように見えるドレス、ティアラ……出会った時そういう姿をしていたあやかは、今、ごく普通の格好をしている。
 服飾文化も『戦闘用の衣装』以外は近いのかな、と薫が思う位、あやかはこの世界の服を普通に思っているようだ。
「この世界に来て、生活基盤をどうしようと思っても……全く違う文明の世界の人達から比べれば、違和感はなかったと思うわ。だから、引越し」
 あやかがそう言うと、薫はあやかとの時間を振り返ってみた。
 日々だけでなく、ちょっと特別なことも踏まえ。
「確かに、遊園地へ遊びに行った時もあやかさん達は知っている感じでしたもんね」
 その為苦手なものも回避していたりしたが、他の英雄は知らない様子だったし、そのことで随分驚いていたようだ。
 それに、料理も詳しく、和食やカレーなどに腕を振るっている。
「でも、違和感がない訳じゃないの。あたしも親友ももっと術を知っていたんじゃないかって気がしている。研修や訓練に違和感があるのは事実なの」
 今持っている力とかつての力に差があるのでは。
 それだけではないとばかりにあやかは言葉を続ける。
「今、彼女と暮らしてるでしょう? 朝起きた時、お泊りしたっけと思ったり、雨の日に迎えに来たり話しかけてくれる存在がいたような気がしたり……家族のことまで思い出せないのが凄く苦しいこともあるわ」
 薫は、あやかが料理のレシピですぐに出るのが2人前であるという話を思い出す。
 2人暮らしをしていたのではと言ったら、あやかはそういうことなのだろうと認めていた。
「……早く思い出したいの」
 親ではない誰かが傍にいたのだと思う。
 あやかの呟きに、薫も胸を痛めた。

●望むは対等
 九十九 サヤ(aa0057)と一花 美鶴(aa0057hero001)は、近所のカフェへ足を運んでいた。
(美鶴ちゃん、困ったことあるかな)
 出かける前に再度確認したメール内容を思い返し、サヤは美鶴を見る。
 と、美鶴が何かをじっと見ている。
 サヤに気づくと、慌ててメニューを閉じたが、近くの席へ運ばれていくパフェに視線をちらり。
(美鶴ちゃん、パフェ食べたそう)
 サヤがそう思い、新作パフェを一緒に食べようと提案した。
 美鶴は、自分の嬉しそうな顔をどこまで自覚しているだろうか。

(やっぱり嬉しそう)
 サヤはパフェをつつきながら、雑談感覚で聞いてみようと心に決める。
「あの、やはりパフェにも食べ頃というものがあると思いますの」
 わたくしは待てますけれど、と付け加えるのも忘れない美鶴は、早く食べたいらしい。
 サヤはにっこり笑って頷いた。
「……まずはパフェ食べましょうか」
「そうですわ、さあ食べましょう」
 美鶴もにっこり笑顔を浮かべ、2人でパフェ攻略開始。
 今月の新作は、秋らしさを出したモンブランパフェ。
 美味しいと舌鼓を打ち、やがて、サヤは美鶴へ質問を投げた。
「この世界に来て、何か戸惑ったこととか、ない?」
 すると、美鶴がパフェを食べる手を止めた。
 今までの笑みが消え、真剣な表情を浮かべている。
「ねぇ、サーヤ、このままでいいのですか?」
「え?」
「何か命じることはないのですか?」
 戸惑うサヤへ美鶴は、こう言った。
 英雄は、『誓約』を交わしてこの世界に存在することが出来ている。
 破られれば、留まっていることなど出来ない。
 それ程強いものなのだから、それを盾に自分を服従させることだって出来るのに、何故、そうしないのだろうか。
「そんな風に考えていたの……?」
 もしかしたら、美鶴がいた世界では美鶴の考えは当たり前で、それ故にその考えではない自分に戸惑っているのかもしれないが、ここは最早美鶴の世界ではないのだ。
 それを伝えなければとサヤは口を開いた。
「私は美鶴ちゃんの支配者じゃないの、美鶴ちゃんの友達がいいの」
 美鶴の双眸が見開かれた。
 サヤや彼女の家族は自分を実の家族のように接してくれているが、いつかは命じられる、けれど、ずっと一緒にいたいから、どんな命令でも従おう……そう思っていた矢先の言葉だったからだ。
「もし、辛いことを選択しなければならない時があっても、私は命令なんてしない、一緒にいくわ。独りで怖い思いなんてさせない。私は、美鶴ちゃんのパートナーだもの」
 美鶴は、今、自分がどういう表情をしているか分からない。
 でも、そんなことはどうでも良かった。
「ありがとう、そう言ってくれて……」
「美鶴ちゃんのばか……せっかくの新作パフェなのに」
 残り半分のパフェは、何だか涙の味がして。
 サヤも美鶴も泣きながら食べた。
「もう一度パフェ食べに来ましょう、今度は全部美味しく。『誓約』じゃなく、『約束』よ」
 その言葉の先の美鶴は、嬉しそうに笑った。
 きっと、約束は果たされる。

●へたれ兄と男前弟
(どう、切り出せばいいんだろう)
 三ッ也 槻右(aa1163)は、目を輝かせメニューを眺める酉島 野乃(aa1163hero001)を見た。
 野乃とは、かれこれ2年弱の付き合いになる、が……そういえば、聞いたことがなかったと思っている。
 普段は弟で庇護対象と思っているが、戦闘では背中を押してくれる頼もしい相棒には、今まで何か困っていたのだろうか。
(僕が気づかなかっただけであったのだろうか)
 だとしたら、気づかなかった自分は鈍い。
 けれど、これは任務……どう切り出せばいいのだろう。
「おぬし……また下らぬことを悩んでおるのか?」
 野乃に声を掛けられ、槻右は我に返る。
「実は……」
 槻右が、野乃は自分の考えや任務のことを正直に話す。
(それでここへ連れてきおったか)
 美味しいプリンの店かプリンフェアをやっているということでやってきたが、槻右の様子がおかしい。
 一蓮托生の契りを交わした、背中を預ける相棒であり義兄弟はグダグダ悩むへたれであるが、失う恐怖を知り、守る為の力を願う優しい気質を持っている。
 何か言い出せないことがあるのだろうと判断し、野乃は話すよう槻右の背中を押したのだ。
(任務であるなら、他の英雄も能力者から問われておろう。伏せる必要もない内容じゃが……)
 野乃はそう考えながら、やってきたプリンアラモードをもぐもぐ。
「その程度であったか。ならば、答えてやろう。……その前に、追加注文じゃ」
「胸を張る前に、頬のホイップクリームを拭こう」
 野乃の追加注文には触れず、槻右はペーパーナプキンを差し出す。
「コーヒープリン、パンプキンプリン、マロンプリンを頼んでおけば、話の最中に切れることはないじゃろうな」
「そんなに食べるの……」
 流石に呆れる槻右である。
 が、オーダーすると、野乃は「数えればキリがないが」と切り出してきた。
「あまり、人種とやらの溢れる場所には慣れておらんな」
 野乃が言うには、英雄は勿論そうだが、この世界の人間にも色々な見た目の者がいる。槻右もそうだ。
「野乃がいた世界って、野乃と同じ人種ばかりなの?」
 考えたことなかったと槻右が尋ねてみると、野乃はあまり憶えていないらしいが、慣れない感覚があるというのはそういうことなのだろうと答えた。
「尤も、最近では観察するのも楽しくなってきたがの」
「……時々僕の後ろに隠れるのって、人見知りじゃなかったんだね」
「鈍いの、槻右」
 槻右へ大袈裟に溜息をついた野乃は、またメニューを開いた。
「謝礼はまだじゃ。クレームブリュレ、クレマカタラーナ、バインフランというのもあるのか、キンジンというのもプリンなら食べておきたいところじゃな、ベヒンカ、ボネ……」
「全部食べていいよ……」
 槻右は、邪英へ堕ちる恐怖以外は割と楽しんでいる野乃へそう言う。
 帰り道、バウムクーヘンのお土産希望の可能性も考慮しておこう。
 だが、自分には野乃が英雄で良かったと槻右は思うのだった。

●改めて堂々と
(意識調査か……改まって聞くのは初めてだな)
 天原 一真(aa0188)は、正面に座るミアキス エヴォルツィオン(aa0188hero001)を見た。
 H.O.P.E.から英雄の意識調査ということで受けたが、重々しいものではないので、外で食事がてら軽くやろうと思ったのだ。
 近所のファミレスを選んだのも、ミアキスから話をゆっくり聞きたい為。少なくとも食べたらすぐに出て行かなければならないような店でない方がいいという判断である。
「何にするか決めた~?」
「俺はトンカツ御膳にしようと思っている」
「美味しそう!」
 ミアキスがメニューを見て、歓声を上げる。
「ボク、このチーズが乗っかったハンバーグにする。ドリンクバーとサラダバーつけていい?」
「いいぞ」
 一真が短く答えると、ミアキスは満足げな顔をした。
 オーダーを聞いて貰い、ドリンクとサラダを取って来た後、一真は質問を投げた。
 隠す必要もない話題であると、小細工抜きで正面からの質問である。
「そうだなぁ……面倒くさいことが多いかな~」
「面倒くさい?」
 ミアキスの答えに、一真が聞き返してみる。
 何が面倒くさいと思うのか分からないことには報告も出来ない。
「変なルールとか無駄なやり取りとかが一杯で、解り難い感じ~。もっと解り易く出来ないかね~」
 ミアキスの言葉を聞き、一真はミアキスが説明出来ない具体的なものを思い浮かべ、納得する。
 この世界に最初からいる自分達ですら、そう感じることもあるのだ、ミアキスはもっとだろう。日が浅い為に具体例を挙げるのが難しいとしても感じ取っているのなら、一真が当たり前だと思っていることもミアキスには面倒くさく思うこともあるかもしれない。
(この辺りは住んでいる世界の常識の差だろうか)
 だからこそ、英雄から聞く必要があるのだろう。
 一真がそう思っていると、料理がやってきた。
 ミアキスがハンバーグを前に顔を輝かせる。
「新鮮に感じると言えば、食べ物の種類が多いよね~」
 肉と言っても種類も豊富だが、調理法法も異なる。
 これだけ色々なものに姿を変えられるのはスゴイ、と言う辺り、ミアキスの世界の食事文化はこの世界のものとは全く異なっていた可能性がある。
 美味しい美味しいと食べたミアキスは違うハンバーグを追加注文し、それも美味しい美味しいと食べていく。
「あと、デザートもいい?」
「食べられるなら」
 一真の答えを受け、ミアキスはデザートのページの物色を始める。
「そうそう、キラキラしたのがいっぱいあるね~」
 ミアキスがキラキラしていると思っているものは、きっとひとつではない。
 が、恐らく、メニューに掲載されている、華やかな盛りつけがされたデザートはミアキスにとってキラキラしているものなのだろう。
(これも、違いなのだろう)
 一真は何を書くか頭の中で纏め、そう思った。

●仲良しの2人
「戸惑うこと、新鮮に感じたこと、か。そうだな……一言で言えば『何もかも』だな」
 ファミレスでの夕食の席、白青(aa0293hero001)は門隠 菊花(aa0293)に問われ、そう答えた。
「何もかも?」
 菊花が問い返すと、白青はうむと頷いた。
 白青にとって、この世界の文明も愚神の脅威あれどそれなりに平穏な暮らしが出来ることなど……数え始めればキリがないらしい。
 へへえ、と菊花が相槌を打っていると、白青が1番新鮮で、戸惑う箇所について触れた。
「『自分が人の姿をしている』……これ以上の新鮮と戸惑いはない。よもや二本足で歩くことになるとは」
「あー、そんなこと言うてたなー。元の姿と違うんやっけ?」
 思いもよらないと言った様子の白青へ、菊花は以前聞いたことを思い出す。
 英雄はこの世界に適した姿、能力者と相性のいい姿へ自然と変化すると言われている為、元の世界では人の姿をしていないこともあるだろうと言われている。元の世界の姿を確かめる術がない為、全て推測ではあるが。
 が、白青は詳しいことは憶えていないが、自身は四本足の美しい獣、高貴な獣だった筈だと言う。
「そらいきなり二本足で生活しろって言われたら戸惑うわな」
「まったくだ。まあ、俺様の順応力にかかれば容易いことだったがな」
 菊花がそう言うと、白青は得意げにそう言ったが。
「いや、ちょっと順応しすぎやで……」
 最近、ゲームにハマり過ぎ。
 高貴な獣がそれでいいのか。
「順応性の高さを示す事実というだけだろう。あとは……戸惑う、とは少々違うかもしれないが……」
 白青が眉間に皺を寄せたので、菊花は「何やの」と白青へ話すよう促す。
 すると、隠すつもりもない白青はこう言った。
「子供扱いされることが少々腹立たしくはあるな。……俺様は、断じて、子供では、ない!」
 目を瞬かせる菊花を他所に、白青はつらつら語り出した。
「なのに、お前の家族は人を赤子のように扱い、昼間出歩けば、学校はどうしたと声を掛けられる。飲食店に入ろうものなら……」
 だんっとテーブルを叩く。
「先程のようにお子様セットを勧められる!」
「見かけガキやしね」
 菊花が白青を見てぽつり。
「もっと俺様を敬え! 俺様は子供ではなーい!」
 そもそも白青は何歳なのだろう。
 菊花も疑問に思うが、白青は菊花よりずっと年上ということ以外は憶えていないらしい。
「……何でそない小さなってまったんやろうな」
「他人事の顔をしているが、お前も無関係ではないぞ」
 白青は、この前に言われたことを正確に言ってやった。
「近所のご婦人はな、俺様に菊花を「綺麗なお母さんでいいわね」と言っていたぞ!」
「こんな大きい子供いる歳やないわ! うちはまだ20代やで!」
「俺様だってお前が母親など御免被る!」
 そもそもお見合いクラッシャーという名で色々察していただきたい。
 エアーリーディング能力は生き残りに大事な術だ。
「……つまり、あれやな」
 菊花はひとつの結論に達した。
「もっと、ビシバシ働いて、うちらは能力者と英雄やという周囲の認識を高めることが最重要やな」
「だな」
 菊花の言葉に重々しく頷く白青。
 何だかんだで仲がいい。

 さて、H.O.P.E.には、どのような調査報告書が提出されるのだろうか。
 その内容は機密事項らしく読むことは出来ないので、今後のフォローで察しておくとしよう。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • エージェント
    門隠 菊花aa0293

重体一覧

参加者

  • いつも笑って
    九十九 サヤaa0057
    人間|17才|女性|防御
  • 『悪夢』の先へ共に
    一花 美鶴aa0057hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 止水の申し子
    まいだaa0122
    機械|6才|女性|防御
  • まいださんの保護者の方
    獅子道 黎焔aa0122hero001
    英雄|14才|女性|バト
  • うーまーいーぞー!!
    天原 一真aa0188
    人間|17才|男性|生命
  • エージェント
    ミアキス エヴォルツィオンaa0188hero001
    英雄|15才|女性|ブレ
  • エージェント
    門隠 菊花aa0293
    人間|28才|女性|生命
  • エージェント
    白青aa0293hero001
    英雄|10才|男性|バト
  • 革めゆく少女
    御童 紗希aa0339
    人間|16才|女性|命中
  • アサルト
    カイ アルブレヒツベルガーaa0339hero001
    英雄|35才|男性|ドレ
  • 癒やし系男子
    離戸 薫aa0416
    人間|13才|男性|防御
  • 保母さん
    美森 あやかaa0416hero001
    英雄|13才|女性|バト
  • エージェント
    栄神・昴aa0429
    人間|11才|女性|攻撃
  • 疾走するメイドクイーン
    ヴィヴィアン・ルージュaa0429hero001
    英雄|38才|女性|シャド
  • 拓海の嫁///
    三ッ也 槻右aa1163
    機械|22才|男性|回避
  • 大切な人を見守るために
    酉島 野乃aa1163hero001
    英雄|10才|男性|ドレ
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