本部

学生リンカーたちと氷鬼しようよ!

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
少なめ
相談期間
5日
完成日
2017/04/30 23:57

掲示板

オープニング

●またまた懲りない学生たち
「──こおり鬼ってやったことある?」
 こころの言葉に、バイト情報誌を見ていたアーサーが顔をあげた。
「ロシアで暴れてるグライヴァーのことか?」
「いや、ここでそうだよって言ったら殺ったことあるわけ?」
「流石に無い」
「Let's play tig!(鬼ごっこしよう!)」
「ああ、なるほど──やなこった」
 もう一度情報誌に目を落とそうとしたアーサーの目の前に冷たい銃口が突きつけられる。
「今度はなんだ」
 胡乱気にその銃口を手で自分から反らすアーサーに、こころは得意げに言った。
「雪玉製造マシン『スノーまんまるくん』改、氷結マシーン『アイスさむさむくん』よ」
「元の名残残してねーじゃねーか」
 スタイリッシュな細身の銃はビーム光線が出そうな空想科学小説然とした雰囲気を醸し出していた。
「ふふ、この銃から発射された光線はね、触ると必ず凍るのよ」
「おい──」
「でも、指一本分でも人が触ると溶けちゃう安全仕様よ。あと、三十分くらいしか凍らない」
 どこが安全なんだ……そうアーサーが言おうとした時、カフェテリアにアーサーの英雄のクレイが入って来た。
「あ、こころさん」
「クレイくん、協力してもらっていい?」
「いいで──」
「ありがとう、クレイ君!」
 シュピン! さむさむくんの一撃は手をあげたクレイを氷像にした。
「どう?」
「……お前、クレイの気持ちを──いやいいや」
「ん? ちゃんと溶かすわよ? これを試し撃ちしてみたいのよ。もちろん、相手は頑丈なH.O.P.E.のエージェントさんたちに頼もうと思っているんだけど」
 キラキラと目を輝かせたこころを後目にアーサーは空になった紙コップを持って席を立った
「がんばって」
「……試し打ちが終わったら、お昼にみんなで食べ物持ち寄ってお疲れ様会をやろうと思ってるんだけど」
「そうだな、俺にはそういったモノに興味が無い、けど好奇心を守る事はできる」
「ふっ! 信念がA.S.の剣。研究がA.S.の盾。知識がA.S.の鎧なのよ」



●学生たちとこおり鬼であそぼうよ!
「紫峰翁大學の学生リンカー組織A.S.、そして、リンカーたちの同好会C.E.R.と交流と学生たちの訓練を兼ねて、独自ルールの『こおり鬼』をして欲しいそうです。『こおり鬼』というのは日本の子供たちの鬼ごっこのひとつで、『触ったらその場から動けない、鬼が全員をタッチすると負け』というやつですね。
 ただし、今回は独自ルールで、鬼側は実際に短時間だけ凍らせる銃を使うそうです。もちろん、人体には影響の無い銃らしいのですが──」
 そう言ってから、オペレーターは大学を通して来た依頼内容を丁寧に読み上げると苦笑を浮かべた。
「まあ、いつもの馬鹿騒ぎだと思いますが……がんばってくださいね」



●紫峰翁大學事務局より提供のあった学生データ
「この度もうちの学生たちが大変ご迷惑をおかけして申し訳ございません。
 こちらで回復致しますので、共鳴済の能力者の学生については重傷レベルまではお仕置きしてくださって結構です。
 灰墨こころに関しては多少の怪我は認めますが、非リンカーの為、手加減をお願い致します。
 また、いつもうちの学生たちの面倒を見て頂き、ありがとうございます。

 以下が当校の学生ヒーロー組織の概要です」


〇アシスト・シーン(A.S.)assist scene
リーダー:灰墨 こころ(はいずみ こころ)
灰墨が申請して作った、大学の支援を受ける最新鋭の設備を持った組織。各学部の秀才も多く在籍する。
リンカーもリンカー以外も在籍し、AGWの研究なども行っている。
勉学を実践できることが楽しくて意外にも単位を落としたりレポートの締め切りに追われる学生も多いが、課外活動として評価されているので留年まで追い詰められる生徒はまれである。

・灰墨 こころ(はいずみ こころ) 理工学群情報システム学科
日本人、肩までの黒髪、黒目、眼鏡、美人。リンカーではない武装した一般人。秀才。
自分の勉学の内容を実用できるのが楽しくて、本業の課題やレポートの締め切りに追われることも多い人間の筆頭。
リンカーではないのに何かと目立つところに立つので護衛の学生リンカーは大変。
どちらかと言えばアメコミヒーロー派。
灰墨信義(az0055)の実妹である。


〇ヒーロー組織:C.E.R.(クリムゾン・イーグル・レンジャー)crimson eagle ranger
リーダー:アーサー・エイドリアン
部室のひとつを使って、アーサーが個人的に組織した同好会扱いの組織。A.S.を真似て作り、リンカーのみが在籍する。
アーサーが計画性のある性格をしているため、本業である学業に無理のない範囲でシフトを作り活動をしている。
資金を稼ぐ為に依頼を請け負うこともある。

・リーダー:アーサー・セドリック・エイドリアン(Adrian Cedric Arthur)物理適正
体育専門学部 スポーツマネジメント学科
イギリス人留学生、金髪短髪碧眼。リンカー。熱血、正義漢。共鳴のメインは彼。
正義の味方に憧れているが、それはそれとして、一番適切な行動として奇襲等は普通に行う。
どちらかと言うと日本の特撮ヒーロー派。
・クレイ・グレイブ アーサーの英雄、ドレッドノート
薄い金髪に褐色の肌、黒い瞳。性格は冷静で理屈屋。大学には所属していない。
契約は「正義のために」(ただし、自分たちが判断する正義)


※紫峰翁大學(しほうおうだいがく)
茨城県つくば市にある日本で二番目に広大な連続した敷地を持つ大学
日本有数の難関大学で広大な敷地内は居住区どころか商業施設も内包しており、周辺は『紫峰翁学園都市』の二つ名で呼ばれている。
ただし、設備や道路の増設を重ねた為に迷路のようになっており人知れぬ研究施設があったり迷子になったりする。

解説

目的:全力で氷鬼を楽しむ


●ステージ:紫峰翁大學旧校舎周辺
今は使われていない物置小屋がエージェントたちのスタート地点
外壁にスピーカーが付いた三階建ての小さな旧校舎(ほとんど使われていない)
雑木林向きに裏口、丁度反対側にエントランス
ドアの左右に横長く広がり、校舎の雑木林を向いて左奥に階段
雑木林側に廊下、反対側にエントランスのある一階を除いた2・3階には教室が3つと階段と逆端にトイレが一つずつある。
校舎の窓は閉まっているが、ドアは全て開いている
周囲は見事な桜が咲いている
晴れた日中(AM10時)

・位置関係

    ■物置小屋(雑木林内)
  (雑木林)

 □□□旧校舎□□□

(人通りのない桜並木)


●特別氷鬼ルール
赤鬼・青鬼チームvsエージェント
エージェントが全員凍りっぱなしになったら負け、鬼のボスを捕まえたらエージェントたちの勝ち
エージェントたちは物置小屋からスタート、こころが100数えたらゲーム開始

・氷結マシーン『アイスさむさむくん』
命中すると必ず凍るが誰かが触ると溶ける

赤鬼:こころ率いるA.S.
こころ、こころの護衛二名(ブレイブナイト)他四名(二名×2組のジャックポット)

青鬼:アーサー率いる:C.E.R
ドレッドノート×3(うち一人アーサー)、シャドウルーカー×2、


●PL情報(PC情報に落とし込むにはプレイングが必要)
・A.S.
1.校舎の外壁に設置されたスピーカーから「100!開始!」というこころの声が響く
2.屋上のA.S.が雑木林のリンカーに対して射撃
3.少し間を空けて三階の廊下窓から雑木林側に射撃

・C.E.R
雑木林に隠れつつ奇襲
アーサーは校舎内に潜む

リプレイ



●Opening
「紫峰翁大學へようこそ」
 にこやかな笑顔でエージェントたちを出迎えたのはA.S.の代表、灰墨こころだ。
「お久しぶりです、こころ!」
「やあ」
 笑顔で挨拶する紫 征四郎(aa0076)、木霊・C・リュカ(aa0068)、そして、その後に続く見知った顔──オリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)、ユエリャン・李(aa0076hero002)、御神 恭也(aa0127)と伊邪那美(aa0127hero001)、月鏡 由利菜(aa0873)とリーヴスラシル(aa0873hero001)を見たこころは営業スマイルをさっさと引っ込めた。
「お久しぶりね。今度は負けないわよ!」
 両手を胸の前で組んで、いきなり不敵な態度で宣言するこころ。
「ん、任せろ」
「ふふーふふ、3度目の正直なるか、って所かな」
 ファリン(aa3137)とヤン・シーズィ(aa3137hero001)も挨拶をし、次いで構築の魔女(aa0281hero001)は辺是 落児(aa0281)の隣で自己紹介をする。
「彼が辺是で、私は構築の魔女と名乗っております。よろしくお願いしますね」
 ──さて、印象が平凡なものなら上出来ですが。
 構築の魔女はそんな内心をまるっと隠して穏やかに微笑む。ゲームはもう始まっているのだ。
「A.S.の代表、灰墨こころです。こっちは草の根ヒーロークラブのC.E.R.のアーサーよ」
「草の根ってなんだ……。アーサーです、今回も私たちの活動にご協力頂きありがとうございます」
 それからエージェントたちは今回のルールを再度確認する。
「それでは、わたしが数えますから百と言ったらゲームスタートですよ?」

 雑木林の中に設置された物置小屋で待機する共鳴したエージェントたち。
 やがて、僅かに音の割れたスピーカーからこころの声が流れた。
『数を数えるわよ、いーち!』
 即座にエージェントたちは動き出す。
「未知への挑戦……とてもいいですね」
 そう言って構築の魔女は微笑んだ。一見たおやかな彼女がシンクロ・バレットと呼ばれる高レベルのジャックポットであることを、また、ここに揃ったエージェントたちがすべてH.O.P.E.のリンカーの中でも特に前線で戦うような猛者ばかりであることを、学生たちは知らない。



●attack!
 共鳴してリュカ寄りの姿になったオリヴィエと、唐紅の髪の十七歳の女性に成長した征四郎は校舎へと走る。
「絶対に負けないのです! 行きますよユエリャン!」
 けれども、オリヴィエの前を勇ましく走る征四郎に対して英雄のユエリャンはこころたちが持っている氷結マシーン『アイスさむさむくん』が気になるようであった。
『あー、あれ面白いなー、触りたいなー。1回食らってみたいであるなぁ』
「く、食らうのはダメですからね……!!」
 慌てる征四郎にオリヴィエが注意する。
「油断するな。相手の武器は銃だ。高いからの狙撃を考えた方がいい」
 頷く征四郎。つかず離れず、どちらかが凍ったらもう片方がフォローする。それが彼らの作戦だ。
 そのまま全力で走り、雑木林のすぐ向こうに校舎の壁が見えて来た──そう思った時だった。
『ひゃぁーくっ!』
「か、数えるの、早くないでしょうか!?」
 百数える、が百秒かかるとは限らない。
 ──シュピン!
 同時に道の両側からさむさむくんの攻撃が二人を襲う!
「なにっ」
 征四郎はその攻撃を難無く躱すことが出来たが、オリヴィエはぎりぎりで避け損ねて光線に撃たれた。すると、瞬時に氷像と化す。
 ──女郎蜘蛛……では一人取り逃がします……なら!
 征四郎は素早く腕に巻いた時計を外し、それを放り投げた。

 ────ジリリリリリッ!!!!!!!!

「な ん だ こ れ は っ !!!」

 たまらず、道の両側に隠れていたC.E.R.の二人が叫ぶ。
 目覚まし時計「デスソニック」。
 ねぼすけさんなリンカーの寝起きの攻撃にも耐え、二度寝防止機能による殺人的な大音量を鳴らす、謎の目覚まし時計型武器。投擲AGWとして投擲すれば着弾時に大音量を響かせ攻撃する優れモノだ。
 征四郎はC.E.R.たちの攻撃が止んだ隙にオリヴィエに駆け寄る。
「っ!!!」
 ひらり、咄嗟に避けた征四郎。その足元を頭上からの降りそそいださむさむくんの残滓が空気をひんやりと冷やす。
「オリヴィエ!」
 征四郎が伸ばした指先が軽くオリヴィエに触れるとすぐに氷は解け、一瞬ふらついたもののすぐに彼はセミオート狙撃銃を構え、周囲、そして頭上を確認する。
「逃げたか──……すまない」
 片手で耳を押さえながらデスソニックを止めた征四郎は笑って首を横に振った。
「さあ、行きましょう!」


 どこからか聞こえるデスソニックのけたたましい音に由利菜は眉を顰めた。
「誰かが攻撃を受けているようですね」
『まさか成人前後の女子があんな早口で数を数えるとは思わなかったぞ』
 いつもの光り輝く鎧姿ではなく、ストライプ迷彩のボディスーツ「アマゾンシャドウ」で身を隠しながら慎重に進む共鳴した由利菜。
「でも、しばらくずっと死線を潜り抜けてきたせいか、賑やかな大学を見ると普段にも況してほっとしますね……」
『紫峰翁大學の生徒達は相変わらずのようだな……』
 先程の礼儀正しく挨拶した青年を思い浮かべ由利菜は疑問を口にした。
「アーサーさんは、不意打ちができるようなタイプでしょうか……?」
『……CSRにシャドウルーカーが多い時点で察しは付くな』
 軽く苦笑するリーヴスラシル。羽衣峰自然公園のピクニックで、C.E.R.として襲撃してきたアーサーと対峙したのは記憶に新しい。
『それに……リーダーが捕まれば負けなのに、彼が前線の雑木林にいてはリスクが大きい』
「こころさんは目立ちたがりだそうですね……」
 確か、ピクニックの時にもこころは松林でドローンを操りながら張り切って指揮していたはずだ。
『屋上、窓際……外からでも目に付きやすい場所へ不用意に身を晒す可能性は高いな』
「大まかにでも相手の居場所が分かれば、競争を有利に進められるのですが……」
 由利菜はレーダーユニット「モスケール」を起動させた。周囲の敵の情報がライヴスの大小としてゴーグルに反映される。
「校舎はもう少し近づいてからですね……雑木林にも何人か居るようです」
 さっと範囲外に動いてしまって正確にはわからなかった。


 仲間へ定期連絡を入れると恭也は再び木々の陰に隠れながら慎重に進む。
『遊びの為に新たな装備を作るなんて凄い……のかな?』
 ふと漏らした伊邪那美の呟き。それに対して、時間と予算を研究や勉学に使うことを許された大学生ならではの熱意なのかもしれないと恭也は思う。
「ふむ……人質を取っても意味は無いか」
 恭也の不穏な言葉に伊邪那美は顔を引きつらせた。
「こおり鬼には『友釣り』という作戦があるんだ……。凍らされた仲間を助けに行くところを鬼が狙うことだが」
 木々が途切れた所で足を止め、校舎を警戒するパートナーに伊邪那美が尋ねた。
『屋上に射手がいるとは限らないんじゃ無いの?』
「かも知れんな。だが、俺なら必ず上階に配置する。反撃を受け辛く一方的に攻撃出来るんだからな」
『なら校舎に行くのは諦める?』
「なに、俺に良い考えがある」


 十分ごとの定期連絡網を回したファリンは探索しながらも準備を進める。
『知的好奇心のある学生は嫌いではない……こちらも兵法の実践といこう』
「やる気のあるお兄様は珍しいですわね」
 敢えてスタート地点の小屋の側から移動せず、双眼鏡を使って周囲を積極的に捜索。『出発のタイミングをずらし、敵の動きがわからない危険な序盤に自軍が殲滅されることを防ぐ』それが彼女たちの作戦であった。
 ──やはり、あの辺りが怪しいですわね。
 小屋から校舎へ続く最短ルート、それを屋上から狙う射手の姿をファリンの双眼鏡は捕らえていた。
 もし、屋上から校舎内へ侵入するエージェントを狙っているのだとしたら、遊撃隊はその周辺にいるのではないだろうか。
 彼女は饅頭型クッションを取り出した。
 それはヤンの顔にとても似ていた。


 雑木林の太い枝の上で、幹に片手を付いて戦場を見渡す共鳴した構築の魔女。
 ──赤鬼は守勢・籠城を、青鬼は攻勢・追撃を得てとする構成。学生とH.O.P.E.リンカーで人数に倍の差がある事や模擬戦等の実戦に近い経験がある事を考えると……。
「……遠距離からの奇襲や地形を利用した不意打ち等が主軸でしょうか?」
 ふむ……と考えた彼女は、屋上で煌めく何かとそれに呼応するように雑木林の中で動く影に気付く。
 魔女の姿は重なった枝葉が作り出す濃い影の中に溶けた。

 C.E.R.のシャドウルーカーは雑木林の中をゆっくりと移動していた。
「駄目だ、俺でもエージェントは見つからない」
 小声でヘッドセットのマイクに囁く彼。相手はアーサーだ。
『A.S.の連中が上から狙っているからそれを期待するしかないな。気を付けて戻って来い』
 通信を終えた彼は素早くそこを離れようとした。
「ふわっ!?」
 鋭い弾丸が彼の頭上を掠める。
 《シャープポジショニング》で的確な位置を取っていた構築の魔女が枝の上から《威嚇射撃》を行ったのだ。
 彼は素早さが自慢で更に《潜伏》のスキルも使用していたのだが見つかってしまったことに気付きほぞを噛む。
「だけど、その足場なら避けられないはず……!」
 倒す必要はない。さむさむくんの一撃が当たればいいのだ。
 相手は不安定な枝の上……だが、その一撃は容易に躱され彼は悟った。
 ──この女性に自分は勝てない。
「こころ先輩!」
 咄嗟にヘッドセット型通信機に叫ぶと、キラリと屋上から鋭い一撃が放たれた。
 幹に身を隠してそれを避けた構築の魔女。
「攻撃は校舎からのようですね」
「うわあっ」
 開いたままの三階の窓をしっかりと確認しつつ、逃げようとした学生のさむさむくんを銃弾で弾き飛ばした。



●Sucker Punch
 屋上からエージェントらしき人影を見つけたと報告を受けて、ドレッドノート二人はゆっくりとその人影に近づいて行った。
 合図と共に屋上から放たれた《テレポートショット》は確実に人影を凍らせた。
「ひっ!」
 だが、凍り付いた首が茂みからぽろりと落ちてドレッドノートの一人が悲鳴を上げる。
「作り物だ!」
 饅頭型クッションのヤンに気付いたもう一人のドレッドノートが叫ぶが、時遅くファリンのヤシの実爆弾が襲う。
「甘ッ!?」
 破裂したそれが周囲に甘ったるい匂いをばらまく。狼狽した彼をファリンは鮮やかな手つきで服の袖を使って縛り上げた。
「アウトですわ、怪我させたくないので物置小屋で待機してくださります?」
「捕まえた!」
 もう一人のドレッドノートが背後からファリンを狙って光線を発射したが楽々と避けるファリン。振り返り様に九陽神弓が学生リンカーのさむさむくんを射落とした。
 へたり込んだ学生リンカーを見て、ファリンは首を傾げた。
「怪我をしているようですわね。回復して差し上げます。少し痛いですけど我慢してくださいましね」
 なぜか少し痛いファリンのケアレイに小さな悲鳴が上がった。


 靴にしっかりと布を巻き、足音を消した恭也は雑木林を移動し、葉の茂った枝の上に移動した。
「此処からはお喋りは少なめにな。相手の足音を聞きそびれる」
『遊びに此処までやるかな~、普通』
「行きます」
 聞き覚えのある声に恭也はハッとして顔を隠す。同時に《フラッシュバン》の光が満ちる。
「うわあ!」
 眼を押さえ怯んだシャドウルーカーに恭也が襲い掛かる。高レベルのドレッドノートの強烈な一撃をまともに食らい伸びた学生リンカーを、恭也は更に羽交い絞めにして──盾にした。もう一人のドレッドノートの光線が恭也の盾となった学生リンカーに当たる。
 盾にした学生の氷は恭也の熱ですぐに溶けたが両手を捩じりあげられて動くことができない。
 その肩越しに、恭也は捕らえた学生のさむさむくんでもう一人のドレッドノートを撃とうとした。
「ん? ロックか……?」
 引鉄が固まって動かないさむさむくんを足元に放り出すと恭也は前に走る。
 パニックを起こした彼はさむさむくんを乱発するが、それは全て仲間に当たった。
「っわ!」
「ひっ!」
 完全にパニックに陥った学生たちをのす。
「やれやれ、体が大きい者は良い盾になるが移動が困難になるな。かと言って小柄な者は移動は楽だが盾としてはいまいちだ」
『酷い……これじゃあ、どっちが鬼か判らないよ』
 しかし、伊邪那美の抗議は恭也に流された。
「雑木林に入る時と出る時は視野に影響が出ますから特に注意を」
 そう言った構築の魔女がすぐに校舎の影へ移動する。
『恭也!』
 校舎へ向かおうとした恭也に伊邪那美の警告。
 咄嗟に捕らえた学生を翳した恭也だったが、屋上と三階から集中的に光線を浴びせられ、盾にした学生リンカーの重さのせいで避けきれずに凍ってしまう。
『ーロ……』
「御神さん!」
 だが、構築の魔女が駆け寄る前に、シューッという音と共に白煙が立ち上る。
「こほっ、これは……」
 白煙の中、目を覚ました恭也の腕を誰かが引っ張り、校舎の中へ引きずり込む。激しく咳込む恭也が顔を見上げると、口元からハンカチを外したファリンが立っていた。
「すまない……」
「こちらこそ、すみません。苦しかったかもしれませんけど友釣り対策ですの」
 収まった白煙の向こうに転がる赤いものは消火器だった。


 一方、先に校舎へ侵入していたオリヴィエと征四郎は仲間からの狙撃情報を聞いて二階の教室に身を隠して様子を伺っていた。
 モスケールを着けて確認する二人。
「三名以上の塊はこころと護衛の可能性が高い、かもしれませんね」
『彼女はなんとなく、此方の様子が目視できる場所までは出てきそうであるしな』
 征四郎とユエリャンが考えていると、オリヴィエが窓の外を確認する。
「三階の窓の外を通って上に行く」
 どうやらベランダは無いようだった。僅かな足掛かりで征四郎とふたりで抜けることはできるだろうか。
 その時、二人は近付くライヴスに気付いた。
 飛びのくと同時に光線が撃ち込まれた。ひんやりとした空気が流れる。
「外壁は難易度高いと思うよ」
 そう言い残して発砲したアーサーが廊下へ身を翻す。
 追いかけて廊下に飛び出そうとしたところで慌てて立ち止まる二人。階段上からの狙撃が目の前の床を凍らせる。
「この校舎、隠れる場所は大抵把握してるから探すまでもないんだ」
 遠ざかるアーサーの声。
 征四郎とアイコンタクトを取ったオリヴィエが廊下へ飛び出す。
 襲い掛かるさむさむくんの光線は、オリヴィエが纏った透明な棺状のアイテム『あなたの美しさは変わらない』によって阻まれた。
「捕まえました!」
 入れ替わりに潜伏を使い、別なドアから階段を駆け上がった征四郎が三階踊り場に居たジャックポット二人を《女郎蜘蛛》で拘束する。


 階段を駆け下りたアーサーが足を止める。
「月鏡さん」
 戦ったことのあるアーサーは、自分がこの姫騎士に勝てないことを知っている。
「でも、今回は当たればいいので!」
 素早く光線銃を由利菜へ向かって撃つ。
『凍結銃とは厄介だが、銃撃であることに変わりはない……!』
 リーヴスラシルの声に従って、由利菜の《心眼》が銃撃を打ち払う……!
「よし、触れた──?」
 確かに剣先が触れたはずなのにさむさむくんの氷は由利菜の持つゼストオーブの持つ熱で、なんと溶けた。
 H.O.P.E.のエージェントたちはつい最近までシベリアで対零度の光線を放つレガトゥス級と戦っていたのである。寒さに対する装備は充実している。
「おい、灰墨!」
『持ち込み禁止にすればよかった!』
 アーサーから報告を受けたこころが通信機の向こうで唸る。


 ガチャリと重い音を立てて屋上のドアを開くと、そこにはこころとブレイブナイト二人、ジャックポット一人が居た。
 合流したエージェント全員の後を降参したアーサーが続く。
「道を空けなさい!」
 由利菜の《一閃》が距離を詰めるブレイブナイトたちを弾き飛ばす。
 その隙にセイクリッドフィストに持ち替えた構築の魔女がジャックポットに迫る。こころの光線を仲間のジャックポットの身体を盾にして防ぎながら、その手に持った銃口を掴む。
「予備も含め回収できれば負けませんよね」
 次いで恭也も構築の魔女へ加勢し、暴れるジャックポットの光線が屋上のあちこちに発射される。
「今よ!」
 こころの合図と共に隠れていた最後のジャックポットが《トリオ》を放つ。
 由利菜が掲げたタスヒーンシールドの暖房機能で彼女とその後ろは温かな熱に満ちて弾けたさむさむくんの氷の欠片が溶けた。
「もう春だってのにっ、H.O.P.E.のエージェントはなんでこんな防寒武装バッチリなのよっ」
 シベリアでのつらい経験は防寒対策に特化したアイテム開発を大いに発展させたのである。
「装備もまた戦略だけどルールはルール! さっきのはスキルだから許したけど触ったらアウトよ」
 だが、由利菜も他のエージェントたちも盾の特殊効果内には居たが、当然の如くトリオを避けている。
「……なんでいつもこんなに強いの!? H.O.P.E.の強い人は暇なの!?」
 あまりのことにこころはつい叫んだ。
「おい、折来てもらってそれはないだろ」
 その叫びに内心同意する部分が無いでもなかったが、思わず苦笑するアーサー。
 そこへ征四郎の女郎蜘蛛がまるっと学生リンカーたちを絡めとった。
「──俺たちの勝ち、だな」
 唖然としたこころの肩を軽く叩くオリヴィエ。
「終わりであるな? 我輩、早くそのAGWを見てみたくてたまらぬのだ!」
「一緒にお花見、しましょう! こころ!」
 共鳴を解いたユエリャンと征四郎がそれぞれうきうきと声を上げた。
「また、負けたあああ!」
 こころは悔しそうに天を仰いだ。
「絶対、次は勝つから!」



●ending
 生気に満ちた新芽もちらほら吹いた零れ桜の下で、エージェントたちと学生たちは打ち上げの準備を終えた。
「え、何? 男子達が奢ってくれるって? いやぁ悪いなー、ふふふふー。
 お弁当は勿論、お酒もあるんでしょう?」
 男子学生たちが無言でチキンや空揚げが詰まったバスケットと缶と氷が詰められたクーラーボックスを開ける。
「またこころ達と勝負できて楽しかったですよ」
 征四郎に慰められながら、こころは持って来た大きな箱を開いた。
「ケーキよ。どうぞ」
 甘さ控えめのラズベリーケーキを食べたリュカと征四郎が笑顔で感想を述べるとこころがはにかむ。
 その隣で由利菜が持って来たティーセットで全員分の紅茶を淹れた。
「花より紅茶になるなよ、ユリナ」
「も、もう、ラシル、分かっていますから……」
 桜の匂いにも似たふんわりとした柔らかな香りが全員の心をほっとさせた。
「うんうん、良い花見日和だね、せーちゃん」
「そうですね、リュカ」
 学生に供されたジュースを片手に伊邪那美が友人たちの元に転がり込む。
「お疲れさま!」
 肉類が山と盛られた紙皿を両手に抱えた恭也が伊邪那美の後からやってきて腰を下ろす。
「ずいぶんもてなされている気がするんだが……」
 恭也がちらりと見ると緊張した顔の学生からよくわからない敬礼を返された。
 以前の依頼で雪中の黒武者だの鬼だのと恐れられ、今回新たに学生たちから陰で『センパイ』と呼ばれ恐れられているのを恭也は知らない。
「聞いて! 恭也ったら酷いんだよ」
 競技として今回のゲームを語る恭也を遮って、彼の非道さを訴える伊邪那美。
「合理的だと思うんだがなぁ……」
 その恭也の発言が聞こえた一部の──盾にされた──学生は氷も解けたのにカタカタと震えたと言う。
 ヤンはA.S.の学生たちの研究内容を聞きながら、求められて何やら話し込んでいる。
「実践と考察の繰り返しによって進歩はなされるものだ……」
 ケーキを食べながら、ファリンも桜を見上げる。
 由利菜が紅茶のお代わりを振る舞った。
 桃色の桜の花びらが辺り一面を雪のように舞っている。だが、今吹いているのは絶対零度の冷たい風ではなく、優しい春のそよ風だ。
 騒がしい学生とのんびりとした時間を過ごしながら、エージェントたちはこの間まで吹雪の中を戦っていたのが夢のようだと思った。

 こころが腰を下ろすとオリヴィエが小さな麻袋をずいっと差し出した。
「新しい、やつ」
 途端に足下と尾の先に焔が灯った小さな黒猫が召喚される。
「黒猫『オヴィンニク』!? 凄い! あっ、そう言えばヘパイストス使ってたよねっ」
 頷くオリヴィエの顔はどこか嬉しそうだ。
 その時、人影に気付いたこころが顔を上げた。
「見せてもらっても?」
 こころからさむさむくんを受け取ったユエリャンは面白そうにそれを陽光に翳す。
「ここでない場所では開発者だったでな。こういうものには興味があるのだ──我が子も負けてないがな」
「凄い、な。これがあれば、ヴィランも無傷で拘束できるようになるかも、しれない」
 オリヴィエの言葉にこころは困ったように笑う。
「ありがとう。本当はそういうものを目指したんだけど、これはお遊びで使うのが精一杯かな」
「こころは、良い武器を作る。凄いな」
「良い武器」
 こころは神妙な顔で口を閉じた。
「美味しい!?」
 構築の魔女が持ち込んだプレミアムエビフライを一口相伴させて貰った学生が震えた声を上げる。
「紐を引くと数秒で熱々のボルシチが!」
 同じく彼女が持ち込んだサンクトペテルブルク支部で売られているH.O.P.E.ボルシチも大人気だ。
 持ち込んだ料理と学生たちが用意した食事の自分のぶんを食べて優雅に微笑む構築の魔女に学生たちは羨望の眼差しを向けた。
「俺……大学を卒業したらH.O.P.E.に入るんだ。卒業できたらだけどな」
 そんな賑やかな花見を見ながら片隅でヴォトカを飲む落児。
「美味しそうなの、飲んでますね」
 声をかけたアーサーだったが、彼が飲んでいたのは不思議なライヴスを含んだあやしげな酒『ヴォトカはドコへいった?』である。一部の学生たちがその強烈なヴォトカの効果にのたうつ騒ぎになるのはもう少し後のこと。


結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 全てを最期まで見つめる銀
    ユエリャン・李aa0076hero002
    英雄|28才|?|シャド
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ
  • 危急存亡を断つ女神
    ファリンaa3137
    獣人|18才|女性|回避
  • 君がそう望むなら
    ヤン・シーズィaa3137hero001
    英雄|25才|男性|バト
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