本部

ボランティアで大掃除

一 一

形態
イベント
難易度
易しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
能力者
25人 / 1~25人
英雄
25人 / 0~25人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2017/04/29 19:58

掲示板

オープニング

●事の発端
「逃がすな! 人的被害が出る前に倒しきるんだ!」
『おう!』
 東北地方北部の山間部にて、1人のエージェントの怒号が響いた。背後にいた仲間たちはしっかりと頷き、逃走中の従魔を追う。
 数時間前、とあるゴミ集積場に従魔が出現したとの一報が届き、10名ほどのエージェントが派遣された。人里離れた場所にあった現場付近で発見するも、従魔はエージェントの姿を見るなり即座に逃亡。
 追跡の最中、エージェントたちは従魔の目的が人の住む近隣の村だと推測し、より足を早めている。
「目標発見! 散開して討つぞ!」
 程なくして、エージェントたちは多種多様なゴミを素材にして作られた、巨大なイノシシ従魔の背中を視界に捉えた。その近くで併走するウリボー従魔も複数散見され、歩みを止めるために各個撃破に移る。
「くそ、村に入ったか! 一気に決めるぞ!」
 しかし、攻防を繰り返していく内に、従魔とともに村へ到着してしまう。ただ、道中で従魔へ蓄積させたダメージも大きく、あと一息で倒せるとエージェントたちも察している。ゴミの肉体で暴れ回る従魔へ、次々とAGWやスキルを叩き込んだ。
「これで、終わりだ!」
 そして、とどめの一撃とばかりにリーダー役のエージェントがイノシシ従魔へ強力な攻撃を放った。同時に、村の中を逃げ回っていたウリボー従魔へも攻撃が入り、一斉に動きが止まる。
 幸い、侵入からさほど時間をかけずに討伐できたことで住民への被害もなく、エージェントたちに安堵の表情が浮かんだ。
 その時。
「よし、これでもうだいじょうぶへぼっ!?」
 消滅する一瞬前、イノシシ従魔とウリボー従魔が肉体を四散させ。
 緩んだエージェントたちの顔面へ、ライヴス混じりの生ゴミがへばりついた。

●諸君、お掃除の時間だ
「ボランティアに興味はありませんか?」
 H.O.P.E.東京海上支部にて、依頼を探していたエージェントへそう声をかけたのは、オペレーターの佐藤 信一。彼が提示したのは、依頼書ではなくボランティア募集のチラシだった。
「実は急ぎの案件で1つ、解決して欲しい問題がありまして。東北地方北部の村で大量のゴミが散乱しているのですが、撤去作業に必要な人手が足りないんですよ」
 詳しい話を聞くと、数日前ゴミに憑依した従魔討伐依頼があり、見事成功した。が、従魔たちは消滅の寸前に自爆し、肉体を構築していたゴミを広範囲にまき散らしたのだとか。
 従魔はゴミの種別に関係なく無節操にゴミを取り込んでいて、大小種々のゴミを村中にばらまいて消えていったらしい。
「討伐に参加したエージェントも責任を感じていたのですが、全員従魔の自爆を受けて安静の状態です。あ、彼らの怪我は大したことなくて、飛び散った生ゴミを誤飲してしまい、揃って腹痛を起こしてしまって動けないんです」
 生ゴミを食わされたことを想像して、エージェントたちも微妙な表情になる。
 腹痛は従魔のライヴスが生ゴミに残っていたことが原因らしく、胃腸からすべて排出するまでは続くのだそう。今もまだ、吐き気と下痢で苦しんでいるらしいエージェントたちを想い、密かに完治を祈っておいた。
「ボランティアとしてお願いしたいのも事情がありまして、被害に遭った村はいわゆる限界集落であり、住民のほとんどが高齢者なので自力での片づけが厳しいのです。加えて、その地域を管轄する自治体も金銭的余裕がなく、清掃作業員を雇うことも難しいらしくて……」
『無償』である必要性は理解できたが、どうして作業を急ぐ必要があるのか? という疑問に、信一は苦笑する。
「……ここだけの話、今回の件で村の周辺地域からは感謝の声がある一方、エージェントの過失を問う声も寄せられていて、H.O.P.E.としてはネガティブなイメージが広がる前に早期決着が望ましいんです。もちろん、従魔討伐に感謝してくれる声がある中に紛れた、ほんの一部なんですけどね」
 どうやら、人的被害を出さずに解決した賞賛とは別に、少数ながら村への被害が出る前に従魔を倒しきれなかったことを問題視する非難もあった、ということらしい。
「H.O.P.E.は主に愚神やヴィランなどが関与する問題を解決するための機関ですが、未だに残る能力者や英雄への迫害や偏見を減らすことも重要な課題です。正直なところ、社会奉仕活動は能力者や英雄の社会的地位を向上させる戦略の一環でもあるんですよ」
 世界中で起こる様々な問題を解決してきたH.O.P.E.だが、まだ設立されて10年ほどの若い組織だ。今でこそトップリンカーをはじめとしたエージェントたちの活躍や、メディア露出を通じてプラスイメージが大きくなってきたが、すべての悪意ある視線がなくなったわけではない。
 中でも、ヴィランから直接的な被害を受けた人々の一部が、能力者に対して向ける目はかなり厳しい。彼らの批判的な声を大きくさせないため、何より能力者たちに矛先を向かせないためにも、不穏な火種は早めに消しておきたいのだろう。
「とはいえ、悪いことばかりじゃないんですよ。大勢のエージェントが集まった作業で、ベテランからルーキーまで幅広い層の交流が可能となります。特に新人エージェントには、研修として依頼の大まかな流れを経験してもらう、いい機会になりますからね」
 なるほど。熟練のエージェントからしたら新たな人脈を結び、後進を育成する場になる。一方で新人からしたら多くの先輩との出会いはいい刺激になるし、比較的安全な環境で依頼を体験出来れば自信や経験を積める。
 いずれにせよ、エージェント同士の交流や人材育成の場としても期待できるということか。
「もちろん、純粋に困っている人を助けたいという思いでの参加も大歓迎ですよ。実際、僕を含め多くの職員もボランティアとして手伝う予定ですから。組織としての本音や建前を抜きにしても、見過ごせない状況ですからね。興味があれば、参加してください」
 そう言って信一はチラシを差しだし、笑みを浮かべた。

解説

●目標
 従魔が散らかしたゴミの清掃

●場所
 東北地方北部の寒村で、若年層の転居や高齢化が進んだ限界集落。住民の大半は足腰が弱った高齢者。元々は昔ながらの木造家屋や、山に囲まれた田園風景など、風光明媚な土地だったが、現在は生ゴミ・埋め立てゴミ・粗大ゴミなどが散乱。

●状況
 付近のゴミ処理場から発生した従魔が村へ逃げ込み、討伐と同時に憑依対象だった大量のゴミをぶちまけて消滅。討伐部隊は全員、従魔の自爆により軽傷。人的被害こそ少なかったものの、村中のゴミは放置されたまま。
 しかし、住民たちが自力で清掃するだけの体力はなく、清掃業者に依頼しようにも自治体に金銭的余裕がない。
 以上の事情から、H.O.P.E.が慈善活動としてエージェントや職員を中心にボランティアを募集。村の清掃活動が実施される予定。

 名目上はエージェントたちの奉仕精神の育成や、社会貢献の組織理念などを前面に押し出している。
 が、一部から寄せられる『村への被害はH.O.P.E.の過失だ』とする苦情の声を沈静化する狙いがある。同時に、経験が浅い新米エージェントの研修の場としても利用され、疑似的な依頼体験としての機会でもある。

 作業の全日程は数日間で、PCたちはその中の1日に参加。作業時間は朝9:00~夕方17:00、昼休憩は12:00~13:00の予定。昼食はH.O.P.E.から弁当が、住民からおにぎりが提供される。
 事前にマスク・軍手・ゴミ袋・ゴミ拾い用トングが配布される。幻想蝶の使用も可能だが、運搬物がゴミなのでオススメしない。作業グループなどは各自で決め、自由に撤去作業を行う。
 住民たちも可能な範囲で掃除をする姿がちらほら見られ、エージェントたちへの印象はおおむね好意的。

リプレイ

●初日はゴミが多くて大変
 迎えたボランティア初日。集まったエージェントたちはバスで村の近くに到着すると、信一やその他職員に先導されて村へと移動する。
「あんたらがほーぷさんかい? 遠いところ足を運んでもらって、すまんねぇ」
「わざわざご丁寧に。本日はよろしくお願いします」
 すると、出迎えてくれた数名の村民と鉢合わせ、代表して信一が挨拶を交わす。彼らも交えてさらに歩き、比較的広い場所に着くと信一が声を張り上げた。
「それではこれより、活動内容の概要を説明しまーす!」
 始まったのはボランティア内容のおさらいだ。新人エージェント向けの再確認らしく、熱心に耳を傾けているのも依頼経験のないエージェントのみ。一定以上の経験を持つエージェントの中には、すでに作業の段取りを頭の中で組み上げている者もいる。
「ゴミ掃除……メイドとしての本領を見せる絶好の機会ですね」
「何々ー? 面白い事ー?」
 仕事内容から静かに意欲をたぎらせるのはГарсия-К-Вампир(aa4706)。近くでふよふよと漂うЛетти-Ветер(aa4706hero001)は遊びの延長のように捉えている節があり、大勢のエージェントを見渡して楽しそうな笑みを浮かべる。
「朝霞、ボランティアってなんだ?」
「無償で人助けをすることだよ。せっかくだから、伊奈ちゃんも一緒に頑張ろう!」
 こちらは『面白そう』という理由で着いてきた春日部 伊奈(aa0476hero002)へ、大宮 朝霞(aa0476)が拳を握ってやる気を促している。
「そうだなー。困っている人達がいるんなら、助けてやらないとな! こないだ朝霞と観た特撮ヒーローでもそうしてたもんな!」
「そうだよ! 伊奈ちゃんもヒーローのなんたるかがわかってきたね!」
 結果、朝霞のオタク教育の後押しもあって伊奈もやる気に。着々と朝霞の趣味に染まりつつあるようだ。
『お仕事でゴミ拾いね。いつもの央の仕事と同じ』
 幻想蝶からそう発言したマイヤ サーア(aa1445hero001)に、地方公務員でもある迫間 央(aa1445)は小さく首を振る。
「いつもの仕事は"自治体"の体裁の為だけど、今回は"俺達"リンカーの面目の為だ。そういう意味では一段と前向きだよ」
『……なるほどね』
 だから『いつも』とはちょっと違う、という央の声音は明るく、マイヤも彼のやる気に納得した。
「ま、このくらいはしないとな」
「……ん、何時もの事」
 地域清掃がほぼ日課である麻生 遊夜(aa0452)とユフォアリーヤ(aa0452hero001)は軽く頷きあい、ジャージ姿でベテランの風格を漂わせる。もちろん清掃員の風格だ。
「地元でも色んな人と一緒に掃除することもあったし、いつも通りやればいいわね」
 一方、福祉が発達したスウェーデン出身のエレオノール・ベルマン(aa4712)も、余裕を感じさせる程度にはボランティア活動に慣れているらしい。お国柄からボランティアへの抵抗感が薄く、かつ意欲的な参加者も多かったこともあって、エレオノールが今回の参加を決めたのはほとんど自然だった。
「廃棄物ばかりでは畑仕事もままならん。農民の生活を取り戻すためにも、邪魔な塵芥など一掃してやらねばな」
 また、村人=農民を気にかけているトール(aa4712hero002)もやる気は十分。言い回しが物騒なので、ちょっと自重してくれる方がちょうどいいかもしれない。
 次に信一の説明が事件の経緯に移り、エージェントたちの意識もそちらへ傾いた。
「と、とにかく人的被害が出なくて良かった……」
「……胃腸に被害が出た者はおるようだがな」
 どこか自分を納得させるように頷く春川 芳紀(aa4330)に、丁香花(aa4330hero001)が通常営業でチクリ。そこで従魔討伐に赴いたエージェントたちの尊い犠牲も『人的被害』であると思い直し、芳紀はこっそり彼らの回復を改めて祈った。
「何とも質の悪い敵だったな」
「残心を欠いたとは言え、ご愁傷様でしたわね」
 一方、赤城 龍哉(aa0090)は従魔の行動に、ヴァルトラウテ(aa0090hero001)は被害者たちの油断に触れつつ、自然と感じる臭いに眉をひそめる。
「ま、後片付けはいつもの事ではある。さっさと片付けちまおう。特に生ごみなんて、いつまでもその辺に転がしておくもんじゃないからな」
 強くはないが悪臭は確かにあり、住民たちの生活環境を考えると放置はありえない。龍哉は自身がどう動くべきか思考を巡らせ、目視できる範囲でゴミを確認していく。
「散り際までヒトに害を為すとは、傍迷惑な存在ですね。ところでクロウ、何故またこのような雑用の依頼をワタシに?」
 従魔への敵愾心を隠さず苛立ちを露わにしたアトリア(aa0032hero002)は、直接戦闘ではなく事後処理の依頼に連れ出した真壁 久朗(aa0032)への不満を強め、じろりと横目で睨んだ。
「社会勉強も兼ねて、だ。ちょっとした道具の名前もわからないだろ? 教えて貰いながらやってみればいい」
「むう……。無知は罪とも言いますが、その姿で言われても格好がつきませんよ?」
 久朗の返答は戦闘以外がからっきしなアトリアにとっては痛いところ。しぶしぶ納得したもののただでは転ばず、アトリアは以前の依頼から残る久朗の負傷を揶揄し、白い目を向け反撃した。
「戦うことだけがエージェントの仕事じゃない……と言っても、この様だとやれることは限られるけどな」
「段階を追って、できることを片付けていきましょう」
 その近くでは、久朗と同様に傷が残る体で参加した月影 飛翔(aa0224)とルビナス フローリア(aa0224hero001)の姿が。時折走る痛みに表情を歪める飛翔へ気遣う声をかけつつ、ルビナスは主の意志を尊重して参加を止めはしない。
「全員が幸せになれているわけではない、ということなのでしょうけど、ね」
「……」
 説明を聞きながら構築の魔女(aa0281hero001)はH.O.P.E.に寄せられた苦情のことを思い出し、わずかに憂いた表情を見せる。辺是 落児(aa0281)は隣で無言を貫き、構築の魔女を静かに見つめる。
「……まぁ、普通にしていれば問題なさそうですけれど、分別や収集後の処理も含め綺麗に終わらせましょうか」
「……ロ」
 が、それも一瞬のこと。すぐに掃除へ思考を切り替えた構築の魔女に、落児は小さく頷いた。
「背景に色々と理由はあるみたい、だーけーどー」
「だけ、ど?」
 同じくストゥルトゥス(aa1428hero001)も今回の背景について触れて言葉を漏らし、ニウェウス・アーラ(aa1428)は小首を傾げ視線を向ける。
「どうせ、やる事は変わらないんだから。細かい事は気にしないで、気張ってお仕事しちゃいましょ」
「ん……そう、だね」
 同時に、少し顔を出していた理知的な表情を捨て去り、ストゥルトゥスはいつもの軽さでニウェウスへ笑みを返した。
 概要説明を終えると、職員たちから掃除用具が配布される。職員よりもエージェントの数が多く、自然と列が形成されて雑談がこぼれた。
「ゴミを撒き散らすなんて迷惑な従魔なんだよ」
「立つ鳥跡を濁さずってな! 頑張って綺麗にしようぜ!」
「うん! ボクも頑張るんだよ!」
 軍手を装着しつつ、烏兎姫(aa0123hero002)と虎噛 千颯(aa0123)親子はやる気をみなぎらせていた。越える山は大きい方が燃える性分なのだろう。今回はゴミの山を崩すわけで、実際に燃やすのもちょっとアレだが。
「百薬ってこういうの得意でしょ、最初から竹箒持ってたし」
「違うの、竹槍なの、必殺の一撃を繰り出すのよ」
 こちらは餅 望月(aa0843)が百薬(aa0843hero001)のトレードマークである竹箒を指すと、百薬は用途が異なると主張。列から少し離れ、実際の使用法として百薬は鋭い刺突で虚空を何度も串刺しにする。
「広いからって素振りしないの」
「はーい」
 ただし、望月に窘めらると百薬はすぐに列へと戻った。
「その元気と清らかな心で、村も綺麗にしちゃおうか」
「天使の癒しね。腕が鳴るよ」
 それから支給品を受け取った望月と百薬は、笑いながら列を後にした。彼女らの会話を聞いていた新人たちの脳内では、百薬が粗大ゴミを竹箒で貫く姿しか浮かばず、天使の癒し(物理)にちょっと引いていた。
「よう、信一。静香達とは仲良くやってるか?」
「あ、鷹輔さん」
 信一が担当する列では佐藤 鷹輔(aa4173)が笑みを浮かべて挨拶を交わす。以前の依頼の縁で親しくなったからだろう、鷹輔に対しては信一も気安い様子だ。
「おかげさまで、順調です。鷹輔さんは……」
「あ、俺は今回一人だぜ。ちょっと喧嘩しちまってな」
 ゴミ袋等を渡しつつ信一が周囲を見るも、申告通り鷹輔は1人。信一がらみの依頼で鷹輔の恋人役をしたエージェントもいるかと思っていたが、不在と知った信一は「早く仲直りできるといいですね」と声をかけた。
「仙也、久しぶりだな。雷切は愛用させてもらってる。使いやすくて良い刀だ」
「そりゃよかった。……で? 仙寿は本気で掃除をやる気なのか?」
 別の場所ではエージェント同士の再会もあった。日暮仙寿(aa4519)が声をかけたのは逢見仙也(aa4472)。普段の不愛想と比べれば柔らかい空気の仙寿に笑みを返すと、仙也はすぐにサボりに誘う。どうやら仙也のやる気は0らしい。
「ディオハルクも久しぶりー!」
「声が大きい」
 また、英雄同士でも不知火あけび(aa4519hero001)がディオハルク(aa4472hero001)へ声をかけていた。とはいえ、他人に興味が薄いディオハルクの返答はにべもない。会話がブツリと断ち切られるも、あけびはディオハルクの冷たい態度を笑っていなしていた。
「なぜ我輩がこんなことをせねばならんのか」
「そこに困っている人がいるからですよ! がんばりましょう!」
 こちらでは仙也ほど露骨ではないが、ユエリャン・李(aa0076hero002)が小さくぼやく。隣でゴミ袋を掲げる紫 征四郎(aa0076)に促され、しぶしぶ参加している様子が見て取れた。ただ、征四郎と共に動きやすい格好で髪を纏めており、ユエリャンに逃げる気がなさそうなのはまだ救いか。
 全員に掃除用具が渡ってから、清掃作業の時間となってエージェントが徐々に散開していく。村の中へ進むと、場所を選ばず散乱した大量のゴミが視界に飛び込み、一度エージェントたちの足を止めさせた。
「まるで、豊穣神に見放されたかのような光景だ……」
「神は無償の愛を私達に与えてくれます。私達も神の御心に従い、救いの手を差し伸べましょう」
 村の惨状を目の当たりにしたリーヴスラシル(aa0873hero001)は表情を険しくし、月鏡 由利菜(aa0873)はプロテスタントの教えを思い出しつつ気合いを入れ直す。敵の圧倒的物量が一筋縄ではいかないと理解させられたが、その程度で投げ出すほど無責任ではない。
「奉仕活動バッチコイネー」
「私ら傭兵。下積みは明日への希望なりー。新米さんらは覚えておこうなー」
 どこから手を着ければいいのかわからない現状に怯む新人エージェントが多い中、キャス・ライジングサン(aa0306hero001)と鴉守 暁(aa0306)からゆる~い声が上がる。焦っても仕方がない、1つずつ片づけていこうと、間延びした口調で臆する背中を押していく。
「面倒くさい~」
「軽い気持ちで参加したが、失敗だったな……」
 が、伊邪那美(aa0127hero001)や御神 恭也(aa0127)のようにゴミの量に圧倒される者も確かにいる。エージェントが多く集まったとはいえ、1日で終わる作業とはとても思えない規模なため、無理もないが。
「何でこんな山ん中までゴミ清掃しに来なきゃいけないんだよ!」
 中にはカイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)のように、不満を明確に表へ出すエージェントもいた。
「どーせアレだろ? 今回もタダ働きなんだろ? 俺は慈善活動がしたくてエージェントになった訳じゃないんですけど!」
 不本意です! と顔中にデカデカと書いてあるカイに、御童 紗希(aa0339)は早くもぷっつん。
「ロシアから無事に帰って来れたからってちょっと態度デカくない? これもH.O.P.E.の仕事の一環なの! 文句言うならもう御飯作らないよ!」
「ウギャー! 兵糧攻めとか卑怯だぞ!」
 そうして紗希が取り出したるは、伝家の宝刀『メシヌキ』。自称JKのヒモにとっては大きすぎる人質(?)を取られてようやく、カイはうなだれながら観念した。
「さ、アオイ。掃除の時間だ。テキパキと、やってしまおう」
「元の風景に戻さねばな」
 とはいえ、ずっと立ち尽くしているだけでは時間がもったいない。狐杜(aa4909)と蒼(aa4909hero001)やベテランエージェントたちがすぐに行動していく勢いを見て、新人たちもようやく足を動かし始める。
 こうして、村全体の大掃除が始まった。

●掃除の前に作戦会議
 さて、エージェントたちの最初の動きは大きく2つに分かれた。
 1つは、目の前にある近くのゴミから対処していく、主に新人たちで構成されたグループ。
 そして、情報共有と指揮系統を明確化しようとする、主に熟練エージェントで構成されたグループだ。
「とりあえず、あれですヨ。集める場所、決めちゃいましょ」
「私も賛成ー。可燃はそこー、粗大はあっちー、産廃はこっちーとか、回収の時にわかりやすいしねー」
 信一や職員を集め、最初にゴミの種類ごとに集積場所を分けることを進言したのはストゥルトゥス。続けて、集める段階で分類しておくことで、回収後の処理が楽になると身振り手振りを交えて暁が後押しする。
「しっかりと、分別するには……広い所で、立て札をしておく、とか」
「それと、集めたごみの回収や分類に一定の人員を割り当てれば、作業の負担や混乱も軽減されると思われます」
「それがベタ且つベターだろうねー。何にせよ、周知徹底して効率よくイキマショ」
 さらにニウェウスとルビナスが補足を行い、ストゥルトゥスは一部の職員たちと村の地理から最適な集積・分別場所を相談していく。
「はいはーい! それならお兄さんが分別作業を手伝うよ!」
「征四郎もそちらを担当するのです!」
 その中で、木霊・C・リュカ(aa0068)と征四郎がゴミの分類に名乗りを上げた。リュカは弱視のために単独行動が困難であり、征四郎は年齢的に力仕事が不得手であると自覚があっての立候補だ。
「それに、ゴミの分別なら座ってできるから、ご高齢な村の人たちでも頼める作業かも?」
 さらに、リュカは掃除に参加する村人の作業としても分別を推奨。体の負担が少ないことが決め手となり、話を聞いた村人も多くが賛同した。
「集めた後はどうする? 臭いもキツいだろうし、生ゴミだったらここで焼くか?」
「いえ、風で飛び火し山火事となる危険もありますので、火の使用は控えた方がいいでしょう。しかし、長く放置すれば人体に害を及ぼす細菌の繁殖や有毒ガスの発生など、健康被害に繋がる可能性もあります。できれば早急な運搬が望ましいですね」
 次に集めたゴミの処理について疑問を投げた龍哉へ、ルビナスが待ったをかける。山に囲まれた村の立地から火の扱いには注意を促すと同時、生ゴミで考えうる二次被害の危険性も問題に挙げた。
「あ、それはオイと虎噛さんが平トラックを借りてるッスから、運び出しは問題ないッスよ!」
「ゴミ処理施設も近いし、往復すればかなりすっきりするはずだ。ってわけで、ゴミの運搬は俺ちゃんたちにお任せだぜ!」
「ちなみに私の方でも、あらかじめH.O.P.E.通して連絡した回収業者さんがいるから、そっちにもぶち込めば割と大丈夫じゃないかなー?」
 ただし、それもツナギ姿でナックルバンドを装着した齶田 米衛門(aa1482)と、トラックのキーを指で回す千颯、さらに暁がすでに対策を済ませていた。米衛門と千颯は事前に借りたトラックで現地へ乗り入れており、暁の手配した回収業者も後からくるらしい。
「後は、掃除と平行して消毒も行ったほうがよろしいかと」
「疫病とかの原因になったら、それこそ責任問題だしな」
 重ねて、ルビナスと飛翔の発言から午後に村の消毒も行われるよう新たに手配された。
「思いも寄らないところに、というのもありますけど、一先ずはこんなものでしょうか?」
「ありがとうございます、構築の魔女さん。これで作業状況がより管理しやすくなります」
 それから構築の魔女が、持参した紙束を信一へ手渡した。それは彼女が事前に情報を集めて作成した、従魔の自爆地点と爆破の威力、ゴミの重量と飛距離を元に概算したゴミの推定飛散範囲を示したMAPと、作業状況確認用の資料だった。
 これによりゴミの回収漏れをある程度防ぎつつ、作業時間の短縮ができると信一は構築の魔女へ頭を下げる。
「信一、ついでに全体のオペレーター頼むわ。各グループに一人、通信機を持つ人間を配置すればできるだろ? 新人エージェントの育成を兼ねてるなら、H.O.P.E.の集団行動のお手本ってやつを見せてやろうぜ」
「それいいねー。作業エリア決めてー、人海戦術で掃除してー、終わったら次のエリアーってやっていくと、進捗状況が見た目でわかりやすいしねー」
 そして、そのやりとりを聞いていた鷹輔が、信一へエージェントを統制して活動させることを提案した。多く集まった人員を効率的に動かすにはいいと、暁も鷹輔の意見を支持する。
「わかりました。では、すでに作業している新人エージェントへの連絡はお任せしましたよ」
 信一も否定することなく即座に頷いて、話し合いは終了。
 短い相談を終えたベテランエージェントたちも、本格的に清掃作業へ散っていく。
「私は久朗さんや米さんといますので、ゼムはアトリアさんとウィンターさんを手伝ってあげてください」
「わかったよ。やるからにはしっかりやってやる」
 負傷が残る久朗を気遣う笹山平介(aa0342)は、ゼム ロバート(aa0342hero002)へそう告げ分かれた。その際、ゼムのマントは平介が預かり、米衛門が借りたトラックの座席に置いておくことになっている。
「羽目を外すのもいいけど、はしゃぎ過ぎね様に頼むで、兄さん」
「うむ、華を見るに一番な時節だが、ちぃと場が相応しくないからな!」
 運転手として分別場所に残った米衛門に見送られるウィンター ニックス(aa1482hero002)は、にかっと笑って後に続いた。
「ってわけで、仲良くやろうなーアトリア殿? イカした兄ちゃんもよろしくな!」
「遠慮しておきます、軽薄角男。どうしてもと言うならば、そこの三白眼男に相手をしてもらってください」
「おい赤毛。さらっと俺に色男を押しつけようとすんじゃねぇ」
 賑やかさを維持したまま、ウィンターはややアトリアへの口数を増やしつつ2人の間に滑り込んだ。
 が、気難しいところのあるアトリアはウィンターを追い払うような態度をとり、代わりにパスを受けたゼムも、煩いのが苦手な性分のため丸投げされても困ると主張。若干口論にも聞こえる会話を続けながら、3人は仲良くゴミ掃除へと向かっていった。
「新人エージェントの研修も兼ねてるってきいたけど、けっこうトップレベルなエージェントさん達も参加してるね」
「知り合いも何人か見かけたな! あとで挨拶しておこうぜ」
 ジャージに着替え、支給された軍手を着用した朝霞と伊奈は、それぞれ行動していく友人たちをキョロキョロ見渡す。が、まずは掃除が先という伊奈の言葉に同意し、朝霞はトングとゴミ袋を持って自身も掃除に集中した。
「働け」
「ダッるー」
 が、中には動き出さない者もいた。箒や塵取りで真面目に掃除しているディオハルクは、木の上で昼寝をしている仙也へ鋭い視線を向けた。一向に降りてこないことから、ディオハルク任せにしようとする仙也の魂胆が透けて見える。
「本当にサボるのか……」
「まぁまぁ、その分を私たちがカバーしようよ!」
 仙也のサボリ勧誘を断り、ディオハルクと一緒に掃除をしている仙寿もやや呆れ気味。ディオハルクに募る苛立ちを察知したあけびが明るく取りなし、この場では掃除へ意識が戻っていった。
「だってユエリャン、ここだって一応戦場なのですよ!」
「我輩、スプーンより重い物持てない」
 こちらも征四郎が掃除を渋るユエリャンへ説得中。
「……なら、重たいゴミを幻想蝶に入れても良いんですよ?」
「それだけは御免被る」
 最終的に、征四郎はユエリャンへ幻想蝶の使用をほのめかし、覚悟を決めさせた。
「ゴミ拾い以外でもどんどん使ってください。あの熊みたいな英雄です」
「……え? 水回りの修理?」
 また、紗希はカイのサボりを防止するため、出会った村人へ次々とカイの存在を示して働かせるようし向けた。こちらも効果は抜群で、次々とカイへ掃除以外の依頼が舞い込んでいく。
 そうした別種の攻防もありつつ、全員が掃除をスタートさせた。

●楽しくお掃除
「とりあえず、ボクたちは大きくて目立つ物をざざっと集めちゃいましょ。細かいのはその後で徹底的にーっと」
「ん……了解。……ひとまず、ご飯を美味しく食べられる場所、確保したい……ね」
「あー、それもそーだね」
 まず、ストゥルトゥスとニウェウスは一定以上の大きさと重量のあるゴミを優先した。目下の目標として昼食場所、最終的には村人の活動範囲における空間の確保を目指し、壊れた冷蔵庫などを中心に運び出していく。
「さて、私も手伝いましょう。出来る限り効率良く頑張りましょうか」
「ロ――」
「お? じゃあ一緒にやっちゃう?」
「協力すれば、早い、ね」
 そこへ現れたのは構築の魔女と落児。作業状況を通信機で確認しつつ、ストゥルトゥスやニウェウスらと一緒に粗大ゴミの撤去を行う。ついでに構築の魔女は近くにいた新人へも複数声をかけて協力を依頼し、てきぱきと運搬を進めていった。

「まともに動けない奴もいるみたいだし、ま、適材適所ってヤツだな」
「これだけ大きくて重い物を高齢の方に任せるわけにはいきませんからね」
 別の場所では、龍哉とヴァルトラウテがこんもりたまったゴミ山を見上げている。2人は特にゴミの量が酷い場所を早めに片づけ、後の作業負担を減らそうと考えていた。交換の手間があるので通常のゴミ袋ではなく手持ちのダストスポットを活用し、龍哉たちはゴミ山を切り崩していく。

「今回は、っと。使える物はないかもしれんな」
「……ん、バラバラ、汚い、がっかり」
 こちらも粗大ゴミを中心に運搬をしていた遊夜とユフォアリーヤ。
 最初は粗大ゴミで使えそうな物を選別し、修理して持ち帰るか村に還元しようかとも思っていたが、遊夜たちの予想以上にゴミはゴミらしかった。従魔の自爆で破損も酷く生ゴミもべっとり付着していては、本格的に解体しない限り再利用は難しい。思惑をはずされ、ユフォアリーヤは狼耳をぺたんと閉じる。
「ま、元より可能性は低いもんだしな。始めるか」
「……ん、りょーかい」
 孤児院にいる子供らへの土産は諦め、遊夜とユフォアリーヤは作業に取りかかった。
「手は必要か?」
「いいのか? なら、そっちのデカい奴を手分けして運んでくれ。村の人も作業しているようだから、気をつけてな」
「わかった」
 そこへ蒼が姿を現し、助力を申し出た。共鳴状態で粗大ゴミを運んでいた遊夜は別のゴミを指し、近くにいた新人も呼んで大きめのゴミの移動を頼む。それに蒼は二つ返事で了承し、新人と一緒に大きめのゴミに手をかけた。
 そうして粗大ゴミが着々と集積場所へと移動される一方、広く散らばった可燃ゴミの対処も行われていく。

「伊奈ちゃん、できるだけ分別してゴミを回収しよう。私のゴミ袋には燃えるゴミ。伊奈ちゃんのゴミ袋には燃えないゴミを入れよう!」
「わかった!」
 こちらでは朝霞が伊奈とともにトング片手に腕を振り上げ、作業を開始。道ばたに落ちている小さめのゴミを拾い、きちんと分別しつつゴミ袋へ入れていく。
「私らも可燃不燃をトングで回収しようかー。ゴミ袋も県の回収区分に基づいて使い分けるんだー」
「カシコマリー、マスター!」
「綺麗にしないとね! ボクもお手伝いするんだよ!」
 同じグループでは暁とキャスもゴミの区分を確認しつつ、目に付いた物からゴミ袋へイン。そして、彼女らの近くには烏兎姫の姿もあり、汚れを気にせず積極的に片づけを行っていく。
「朝霞、燃えないゴミってどれだ?」
「う~ん、自治体が持っている焼却炉の性能によっても差があるんだけどね。コレとかは燃えるゴミでいいんじゃないかな」
 作業する中で判断に困るゴミも多々あり、伊奈が朝霞へ訪ねる場面も多く見られた。
「そーだねー。それは可燃ゴミで問題ないよー」
「ハイハイマスター! これはどっちでショー?」
「ボクも、これがわかんないです!」
 そこへ暁がちょくちょくアドバイスをしていくので、悩む時間はそう長くない。すると、分別に詳しいと判断された暁の元へ、キャスや烏兎姫をはじめ新人たちも寄ってきた。エージェント同士の会話も多く、和気藹々と作業が進む。

「……どうかしたの? 何時もだったら真面目に作業しろって怒るのに」
 対照的に、ほとんど手が止まっている伊邪那美。普段なら黙々とゴミ拾いをする恭也から一言二言は小言が飛び出していそうなものだが、一向に口出しされないことに違和感を覚えていた。
「この話を受ける前、従魔の肉体を構成していた分の掃除と聞いてたから、被害規模は大した事が無いと思っていた。……だから、これ程とは想定してなかったんだ」
「え~っと、つまり恭也は心が折れてる?」
「折れた、と言うより、うんざり感がどうしようもない」
 振り返った恭也の表情は、普段の3割増しの仏頂面。参加した手前ゴミ拾いに手は抜いていないが、恭也自身の面倒臭さが消えない以上、伊邪那美に強く言えないらしい。
「まぁ、他の参加者に迷惑を掛けないなら、多少は遊んできても構わん」
「本当? じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな」
 ついには恭也からサボり容認まで飛び出し、伊邪那美は嬉々として恭也から離れていった。

「これだけ量があると、普段のゴミ拾いとは甲斐が違うな!」
『楽しそうね、央』
 感情を無にして掃除する恭也とは異なり、別の場所ではいつもの仕事用スーツに身を包んだ央が積極的に動き回っていた。
 いつも央がやる街の清掃活動だと、煙草の吸い殻のような小さいゴミを目ざとく見つけないと暇になりがちで、結構神経を使うことが多い。その反動か、大量のゴミがあるとむしろやる気が満ちてくるようで、央の手が止まることはない。
 そんなテンション高めの央を見ているマイヤは、現在幻想蝶の中。ドレス姿でゴミ拾いはどうか? と思った央が掃除を控えさせたのだ。
「とはいえ、全部ゴミ集積場に戻して廃棄ってのも、勿体無いよね」
「村に畑も多いみたいだし、生ゴミは肥料に使えないかな?」
「後で住民や職員に確認を取るといい」
「ルビナスさんが仰った懸念もありますが、量を制限すれば問題ないと思いますよ」
 ゴミ拾いに燃える央の近くでは、望月と百薬が集めた生ゴミの再利用を検討し、リーヴスラシルと由利菜も膨らんだゴミ袋を手に同意する。
「住民といえば、どうやらこの集落で認知されている私の通称は『ずんだの使者』だったらしい」
「わ、私も、『厄払いヒロインさん』って何度か声をかけられました……」
 なお、このような寒村でもエージェントの活躍が届いている影響もあってか、リーヴスラシルや由利菜は本名より通称で多く呼ばれていた。他のエージェントも同様らしく、時折村人の口から奇妙な呼び名が聞こえてくる。
「(おぉ、あの人エージェント名鑑で見たよ……!)」
「目と口よりも手を動かす方が先ではないか、芳紀?」
 その声につられて、というわけではないが、汚れてもいい服装になった芳紀は掃除の傍らこっそりと著名なエージェントへ視線を送る。その傍らで、丁香花はゴミ袋の口を広げた格好のまま、ゴミを入れろと催促の視線を送っている。

「……臭い! くーさーいー!!」
 そんな中、ついに悪臭に我慢できなくなったレティが文句を声高にぶちまけた。
「腐敗の進んだものが空気にさらされ、さらに臭いが酷くなったのでしょう。ほら、やりますよ」
 レティの癇癪をなだめつつ、ガルシアはメイドとして培った技術を遺憾なく発揮し、テキパキと生ゴミを処理していく。
「ちょっとずつ片づけなくても、全部凍らせればいいじゃん?」
「関係ないものまで巻き込めば、逆に負担が大きくなるでしょう? 地道にやる方が、結果的には楽になるものです」
 途中、レティが液状化している生ゴミを凍らせようとしてガルシアに止められ、乾湿両用型クリーナーで吸引。それからもレティは手伝うこともなく、ガルシアの後ろで浮遊していた。
「無理は禁物ですよ」
「わかってる」
 そんな妖精連れのメイドの近くでは、もう1人のメイド・ルビナスが指揮を執っていた。怪我のため本調子ではない飛翔のサポートをしつつ、周囲の新人にも的確に指示を出してどんどん掃除を進めていく。
「あの人すごいねー」
「……そうですね」
 それを見たレティが無邪気に賞賛し、ガルシアは静かに闘志を燃やす。掃除と消臭をしつつ、ガルシアはルビナスの手腕と胸部へ視線を集中。
 ――負けられない。色々と。
「……い、っつ!」
 直後、ゴミを拾った瞬間に傷が痛み、飛翔は表情をゆがめる。
「お、っと。こんにちは、わたしはコトというよ。よろしく頼むよ」
 その様子を見ていた狐杜が飛翔を支え、にっこりと笑った。蒼とは別行動で生ゴミを回収していた狐杜は、体がよくふらついていた飛翔を気にかけていたため、すぐに行動できたのだろう。
「すまない、助かる」
「困ったときはお互い様だよ」
 そのまま狐杜は飛翔の近くで作業を行い、自然と補助を買って出る。ルビナスの指示を受けつつ、できる範囲で掃除を進めていく。

「あ、えっと……ご、ごめんなさい」
「いや、こちらも不注意だった。すまない」
 こちらでは、鷹輔とは別に1人で掃除をしていた語り屋(aa4173hero001)が、黙々と掃除をしていた恭也と肩がぶつかった。語り屋の装いはいつもと異なり、上下ジャージにメガネとマスクで顔を隠している。
 仮面なしだとまともに話せない語り屋は、鋭い恭也の目つきにビビり、オドオドと目を泳がせた。ちなみに、恭也は睨んでいるわけではなく、普通に目を合わせているだけである。
「貴方もエージェントか?」
「は、はいっ! し、新人の、サトウホダカですっ!」
 雑談を振る恭也に、テンパった語り屋は見るからに萎縮。そのまま恭也は語り屋とともに掃除と会話を続けた。

「罪には罰を、ゴミはゴミ捨て場に、です」
 時間が経つにつれ、各自に配布されたゴミ袋が大きくなっていく。自然とエージェントたちの足はゴミの分別に割り当てられた広場へ向けられ、パンパンになった複数の袋を両手にぶら下げた凛道(aa0068hero002)もまたてくてくと歩いていた。
「髪に匂いがつきそうであるぞ……」
 そこへ、同じようにゴミを集めて帰還するユエリャンが合流した。
「ユエさん、凄く男らしいです」
 すると、凛道はユエリャンの手元に目をやり素直に賞賛する。ユエリャンの荷物は自分で集めたゴミだけでなく、途中で村人が集めたゴミ袋も引き受けていた。そのため、凛道よりも多くの袋をぶら下げていた。
「おや竜胆、良いところにいた。ついでにこれも頼む」
「は?」
 が、凛道の姿を見つけるとユエリャンは即座にゴミ袋の一部を押しつけた。ユエリャンが村人から引き受けたのは、相手が足腰の弱い高齢者だったため。基本的に重い物を持つのは嫌なので、楽ができるなら凛道へパスするのも自然なことだった。
「えっと、お手伝いしましょうか?」
「精が出るな! どれ、少し手伝ってやろう!」
 ゴミ袋で視界が塞がる凛道を見つけ、声をかけたのはエレオノールとトール。彼女たちも集まったゴミを広場へ持って行く途中だった。心配そうにエレオノールが控えめに提案すると、凛道の返答を聞く前にトールは荷物をいくつか引き受け豪快な笑みを見せた。
 そのまま広場に到着した一行は、多くの村人と分別作業に勤しむリュカと征四郎の元へ向かう。
「重い物とかはばんばん若い衆に任しちゃってくださいねっ」
「遠慮ははいらないのです!」
「そうかい? なら、次は若いのに頼らせてもらおうかね」
 リュカと征四郎はゴミを運んできた村人に声をかけつつ、廃棄物や資源ゴミを丁寧により分けていた。分別作業を手伝う村人とも雑談しつつ、和やかに作業を進める。
「何か困ってる事があったら声かけてな~。俺ちゃんたちに出来る事なら手伝うんだぜ~」
 他にも、千颯が村人へ親しみやすい笑顔で積極的に声をかけていた。ゴミが溜まるまでは千颯も広場の近くでゴミ掃除や分別の手伝いを行っていた。現在は分別が終わったゴミも増えてきたため、トラックへの積み込み作業を行っている。
「……ふう。これで荷台の積載量ギリギリですか」
 また、平介も米衛門の運転するトラックへの積み込みを行っていた。分別されたゴミを自治体指定のゴミ袋へ詰め直してはどんどんと荷台に重ねていき、頃合いを見て運転席の米衛門へ運搬を頼む。
「迷えばいぐねがら、頼んだッスよ!」
「ああ。……世話をかけるな」
 それを聞いた米衛門は、助手席に座らせた久朗にゴミ集積場までのナビを依頼した。久朗は自身の怪我で仲間の手を借りるのは忍びないと思いつつ、平介や米衛門の配慮に感謝と謝罪を混ぜた苦笑を向けた。ちなみに、ゼムのマントは久朗の膝の上にある。
「さて、お2人が帰ってくる前に、ゴミを纏めておきましょうか」
 トラックが走り去った後、平介は再びゴミ袋を広げてゴミを纏める。作業は手慣れていて、高い主夫力を周囲へ見せつけていた。

「う~ん、みんな真面目だね」
 そうした意欲的なエージェントたちを、伊邪那美は感心して見る。恭也から離れた後、友人をサボりに誘いながら歩き回ったが、結局リュカと征四郎の作業の手伝いに落ち着いていた。
「やっぱり、エージェントになるには真面目さが必要なのかな?」
 と伊邪那美が小首を傾げた瞬間、すぐ近くで誰かの怒声が響く。
「くぁ~、眠……」
「降りて働け! 怠けるのもいい加減にしろ!」
「あたっ!?」
 全員の視線が集中する先で、木の根本で頭を押さえる仙也と、彼に説教をかますディオハルクの姿が。ずっと昼寝していた仙也にしびれを切らしたディオハルクが、相方があくびをした瞬間に日輪舞扇を投擲。
 見事クリーンヒットして落下した仙也へ、声を荒らげるディオハルクの図が完成した、というわけだ。
「……俺達は今まで通り、真面目にやるぞ」
「二人共程々にね!」
 その近くでずっと掃除をしていた仙寿とあけびも止める気はないらしい。ガミガミと叱られる仙也が助けを求めるような視線を向けるも、サボり魔へのお仕置きは2人そろって傍観したまま掃除を続ける。
「……うん、そんな事は無いみたいだね」
 そして、視線を集める仙也たちの様子を見て、伊邪那美は考えを改めた。

●お昼♪ お昼♪
『そろそろ昼休憩に入ります。こちらで用意したお弁当の他、村の方々からご厚意でおにぎりを作っていただきました。よろしければそちらもどうぞ』
 正午前に信一から届いた通信により、エージェントたちは一度指定された場所へ集合した。そこは午前中の掃除で作られたスペースで、すでに職員が用意したお弁当と村の女性が作ったたくさんのおにぎりが用意されていた。
「どうぞ。食後のゴミは別途こちらの袋で回収します」
 食事はガルシアをはじめ、自主的に手伝いをしているエージェントたちが配っている。他にも、ガルシアは生ゴミの臭いで気分が悪くなった人のため、さっぱりとした香りのお茶の準備や、手が空けば介抱も進んで行っていた。
「わーっ美味しそう! ありがとうございます!」
「そうかい? 若い子らの口に合うといいんだけどねぇ」
 おにぎりを受け取った芳紀は、村人に満面の笑みを向け感謝を告げる。
「アオイ以外の誰かが作ってくれたものを食べるのは久々だから、うれしいのだよ。あいがとうね」
「こちらこそ、村の掃除を手伝ってくれてありがとう。たくさんお食べな」
 笑みを深め、手で作った狐とともに頭を下げる狐杜。つられて村人も顔をくしゃっと微笑み、下がった頭を優しくなでた。
「ありがたく!」
「……ん、これどーぞ」
 こちらでは遊夜とユフォアリーヤが、村人へおにぎりのお返しに孤児院の子どもと作ったお菓子を渡す。
「おやまあ、ありがとう。いい嫁さんだねぇ」
「え?」
「んっ!」
 そして村人から飛び出した発言に遊夜は目を丸くし、ユフォアリーヤは大きく頷いて尻尾をフリフリしていた。
「これはオイからッス。水分補給は大事ッスからね」
 また、米衛門が事前に購入していた飲み物を紙コップに注ぎ、エージェントたちに配っていた。
「笹山さんも手伝ってほしいッス。大仕事なんで、宜しくッスよ!」
「了解しました」
 その際、米衛門は平介の手も借り、エージェント・職員・村人全員へ素早く手渡していく。
「お茶がハイリマシター!」
「どうぞー」
 また、キャスと暁も米衛門たちの手助けをし、あっという間に飲み物は配膳された。
 食事が行き渡ったエージェントたちは、各々好きなところへ集まる。職員や村人も混じった昼食会は、春の陽気を浴びてとても穏やかな時間が流れていく。
「多いけど肉すくなっ」
「無駄飯大喰以外の分もあるからな」
 持ち込みの弁当を広げ、中身を確認した仙也。中身は牛肉の時雨煮、鰹出汁の卵焼き、醤油味系の唐揚げ、野菜多めの筑前煮、山菜の和え物などなど。季節の食材を使った料理が大量に詰め込まれていた。
 作ったのは家事スキルが高いディオハルク。支給された弁当は幻想蝶に入れ、持ち帰るようだ。
「想像以上に美味い……! 頼んで良かったな」
「性格荒っぽいのに、私より料理上手だよね」
 先に弁当へ手を着けた仙寿とあけびは、手放しでディオハルクの腕を賞賛した。
「掃除も炊事も、毎日していれば嫌でも慣れる」
「え、まさか家事全般担当してるの!?」
 ディオハルクがおかずを食べつつこぼした一言に、あけびは目を丸くする。仙也は家事をせず、仙寿は名家の子息であり調理経験は前回のバレンタインが初。そう考えればディオハルクの家事能力の高さが目立ち、あけびは素直に感心していた。
「じゃ、俺も――」
「待て」
 そして仙也が弁当に手を着けようとしたところ、ディオハルクが腕を掴んで止めた。
「働かざる者食うべからず、という言葉を知っているか?」
「……つまり?」
「働け」
 伝家の宝刀『メシヌキ』再び。そのままディオハルクは仙也を放り投げ、1人作業へ戻るよう言い放った。
 なお、無駄飯大喰の分は後で村人と美味しくシェアしました。

「疲れたー……」
「はい。コーヒー持ってきたよ」
 こちらでは地べたに座り込むカイへ、紗希がコーヒーを渡す。村人からの人気が急上昇し、ずっと動き回ったカイへの労いだった。
「和食は心が落ち着きますね……」
「やはり、ユリナは日本人の血を引いているのだな」
 その隣で、由利菜とリーヴスラシルがおにぎりとお茶で和んでいた。村の女性たちが総出で作ったおにぎりは大きく綺麗な三角形で、中には各家で作られた自家製の梅干しや漬け物が具として入っている。適度な塩加減と手作り感が、エージェントたちの舌にどこか懐かしい味を伝えていた。
「やっぱおにぎりだよねー。日本人だしー。ありがとおばーちゃんたち」
「ウマウマー」
 暁とキャスも大きくほおばり、もきゅもきゅと堪能。
「うん、おにぎいはとても美味しいね」
 狐杜や他のエージェントもおにぎりに舌鼓を打ち、午後への活力を充填していく。
「こうして集って、のんびり出来るのはいいことですよね」
 そんな様子を、構築の魔女は楽しげに見つめる。野外でエージェント同士が集まり食事をする、という状況を純粋に楽しんでいた。
『ヤッホォーッ!』
 一方、別の楽しみを見いだしたのは紗希とカイ。おにぎり片手に行うのは、どっちがより迸るやまびこ愛を叫べるか? というやまびこ対決だ。
「っしゃあ! コロッケゲット!」
「ま、まけた……」
 結果、ガッツポーズのJKが声の伸びでJKのヒモを上回った。勝敗に近所の美味いコロッケを賭けており、喜びもひとしおなご様子。
「本当、どこでも変わらんよな」
「……ん、飽きないねぇ」
 明暗分かれた友人の背中を、遊夜とユフォアリーヤがおにぎりを食べつつ見つめる。紗希とカイのこうしたやりとりはよく目にしており、自然と遊夜たちの笑みを誘っていた。

 休憩時間でゆっくり食事を楽しむ者もいる中、一部のエージェントは午後に向けた準備をしていた。
「午前中の作業で、撤去はどれだけ進んだんだ?」
 龍哉はおにぎりを食べつつ、情報管理と全体指揮を執っていた信一へ進捗状況を確認する。
「今日は初日ですからまだゴミは多く残っていますが、作業そのものは想定以上のスピードで進んでいますよ。強いて言うなら、こことここを早めに終わらせれば、全体の作業日程を短縮できそうです」
「なるほど。余裕があるなら、そちらへ行くのもあり、か」
 ついでに龍哉は人手不足や進捗が遅れている場所を聞くと、信一は問題ないという返答とこの日の行動範囲外にあるゴミの密集部を示した。午後は知人のフォローへ回ろうと考えていた龍哉は、おにぎりの最後の一口を放り込んで思考を巡らす。
「ゴミ以外に困りごとはありますか?」
「エアコン清掃とか、枯れ木の枝打ちとか、この機会にお手伝いしますよ?」
 食事を村人と取っていた望月と百薬は、雑談の中で村人の要望を集めていた。
「どんな問題も、正義のヒーローたる私たちH.O.P.E.に任せてください!」
「朝霞……、今そのイケてない変身ポーズはいらないと思うぞ?」
 望月たちと一緒にいた朝霞と伊奈もアピールするが、ビシッ! っと決めた朝霞のポージングには伊奈が恥ずかしそうにしている。あ、共鳴はしなかったです、はい。
「おにぎり、すごく美味しいです。あ、他に困っている事はないですか?」
 また別のところでは、語り屋もご飯粒をほっぺたにつけたまま話を聞く。余談だが、語り屋に高齢者への苦手意識はないようで、同僚との会話よりも人懐っこい表情を見せていた。
「こんにちはー。片付け以外に何かお手伝いできることありますか?」
 他にも芳紀が、食後に村人への聞き込みを行い、一通りの不便を引き出すことに成功した。そうした情報は午後の作業前にエージェントたちへ共有され、信一からも余裕があれば対処してあげてほしい、と告げられる。
「とはいえ、まだ大量に残るゴミの掃除をおろそかにするわけにもいかないな」
 弁当のゴミを捨てると、央は引き続きゴミ掃除に専念しようと気合いを入れ直す。すると、幻想蝶からマイヤの声が。
『考えたのだけど、これはリンカーとしての――"私達"の為の仕事でしょう。なら、私も央と一緒でないとおかしいわ』
 午後は自分も手伝う、という思いがけないマイヤの提案に、央も驚いて反応が遅れる。
『大丈夫、服ならジャージとペンギンドライヴがある』
「んー、ペンギンが臭くなるのは嫌だから、ジャージにしような」
「……わかったわ」
 そこまでマイヤに言われてしまえば、央も否とは言えない。服の2択で央がジャージを指定すると、幻想蝶で着替えたジャージ姿のマイヤがすっと現れた。
「では、午後の作業を始めましょうか」
 そして、信一の号令によりエージェントたちは再び清掃活動へ散っていく。

●アフタヌーンはケアが中心
『ささ、マスター。ばっさりいっちゃって』
「……ん」
 共鳴したストゥルトゥスの声に頷き、ニウェウスは大きい粗大ゴミへメルトリッパーの刃を入れた。運びにくい粗大ゴミを分解するため、安全第一でAGWを使用していく。
「アオイ、構わないかな?」
「大きなゴミを幻想蝶に入れるのは了承する。……が、入れる時間は手短にしろ」
 細かくなった粗大ゴミは狐杜や蒼といったエージェントたちが運び出していくが、中には分解も運搬も困難なゴミがあった。それに関しては狐杜が蒼に了解を取って幻想蝶に収納し、運び出していく。
「いや~。今日も元気で労働日和だねぇ」
「マスター、手を動かしてください」
 集積広場へ戻ると、リュカが帰ってきたエージェントの様子をニコニコしながら出迎える。リュカの指示で粗大ゴミの掃除に移った凛道は、完全に止まっているリュカの手を見て正直な思いを吐き出した。
「無料からお金も成る物、と思ったけど、今回は難しいかな?」
 凛道に注意されて分別に戻ったリュカは、遊夜から聞いた通り粗大ゴミの状態の再利用は難しいと判断するしかなかった。望月や由利菜たち、そして凛道から挙がった一部の生ゴミの再利用は承認されたが、すべてが都合のいい方へいかないらしい。
「……これで、人が活動する範囲のゴミはだいたい片づいたみたいだな」
 その後、久朗は双眼鏡をのぞきながら朝よりすっきりした村を見渡す。米衛門が道を覚えた後、久朗はエージェントたちの荷物番や、信一から作業状況を聞いて資料に書き込むなど、補助的な行動で手伝いを続けていた。
「真壁さん。C-4にチェックを」
「了解」
 そしてまた、久朗のペンが資料に印を入れる。午後の掃除が始まってすぐ。間もなく、予定していた今日の作業範囲が終了することを示していた。

 それからエージェントたちは掃除と平行して、村人のお悩み解決にも力を注いでいく。
「これで屋根は塞がりましたよ」
 ルビナスは飛散した粗大ゴミで破損した家の屋根を補修。他にも、壁面にこびりついた生ゴミの消臭・殺菌など、主に家屋の問題を対処していった。
「すまないねぇ、お嬢ちゃんたち」
「いいえ。綺麗になってくると、嬉しいです」
 同時に、家の中に及んだゴミ被害は征四郎が対処。ルビナスから掃除の助言も受けた征四郎は、てきぱきと汚れを落としていった。

「伊達に涼風邸のメイドはやっていない」
「私も、ファミレスのバイトでお掃除はよくやっていますから」
 また別の家では、リーヴスラシルが電気配線やテレビアンテナなどの生活インフラを点検していき、その間に由利菜が庭や家の前の道路など周辺の細かな掃除を行う。
 午前では個人宅まで掃除が行き届かずにいたため、このような細かい配慮は住民からとても喜ばれた。由利菜たちは村人の感謝の声を受けつつ、また別の家へと向かっていく。
「ぷるぷるだー」
「……」
 途中、道の舗装や下水処理などを引き受けていたガルシアの近くを、リーヴスラシルと由利菜が通り過ぎた。レティの言葉に目線を上げると、走る度に揺れる2組の双丘が視界に飛び込み、ガルシアの目が鋭く細められる。

「熊さん、タンスの移動をお願いしたいんだがねぇ?」
「おーい、熊さんや。庭の剪定を頼めるかい?」
「ああ、熊さん。うちのじいさんを見かけなかったかい?」
「っつか、何で俺だけ熊扱い!?」
 中でも村人から大人気なのがカイ。紗希の宣伝ですっかり『雑用の熊さん』が定着してしまい、口コミもあって多くの村人から引っ張りだこ。1件解決する間に2~3件の問題が増えるため、カイの忙しさはずっと続きそうだ。
「だいぶ薄まったとはいえ、臭いは残ったままだしなぁ」
「近隣の方々には迷惑な話ですからね」
 そんな熊さんの横を通り過ぎたのは龍哉とヴァルトラウテ。2人は色んな場所を駆け回り、各所の掃除と平行してH.O.P.E.に用意してもらった消臭剤を配っていた。生ゴミの回収で臭いは軽減されたが、少しでもマシになればと考えた配慮だった。
 村人に囲まれた熊さんはスルーだったが。

「♪~♪~」
「しごーとがスキー♪」
「ぐーたらするのはもっと好きー♪」
 一方、ゴミ拾いを続ける烏兎姫・キャス・暁はそれぞれ歌いながら作業をしていた。
「ご機嫌なお嬢さんたちだな」
「単調な作業だと飽きてきちゃうからね。少しでも楽しく出来るといいんだよ」
 そこへふらっと現れたのはウィンター。無邪気な烏兎姫の返答に気をよくし、さらに話しかけようとしたところで、ウィンターの口は違う声に重なり止まる。
「おい……っ、お前はこっちだろ」
 声の主は近くで掃除をしていたゼム。目を離した隙に行われたナンパ行為を止めに入ったのだ。するとウィンターは肩をすくめ、烏兎姫たちに別れを告げて戻ってくる。
「あら、戻ったのですか、軽薄角男。三白眼男も存外世話焼きなのですね」
「……俺の名前はゼムだ」
「気にすんなよゼム殿。きっとアトリア殿の照れ隠しだろうからな」
「誰が照れているというのですか!」
 ゴミ袋を両手に持つアトリアが相変わらずツンケンした態度を取る中、何度も三白眼男と呼ばれたゼムは一応名前の訂正を試みる。効果は未知数だが、続くウィンターの台詞に反応した様子からして、アトリアからの呼び名は今後もそのままだろう。

「っとそこは危ないな、俺達もやろう」
「助かります。……ここは不燃ゴミが多いな」
「そうね、気をつけて集めましょう」
 違う場所ではガラス片やスプレー缶などの埋め立てゴミが多く散乱し、遊夜・央・マイヤを中心にエージェントたちが手際よく拾っていた。午後から参加したマイヤの動きは央と息ぴったりで、さながら『ジェミニストライク』を思わせるほど左右対称の動きで掃除を進めていく。
「ゴミを見つけた方は、こちらのゴミ袋へ入れてくださいね!」
「……まあ、やってることは午前中と変わらないか」
 そこへぴったりついて行くのは芳紀と丁香花。遊夜たちの動きにあわせてゴミの回収を補助していた。
 ちなみに、芳紀が持っているのは普通のゴミ袋で、丁香花が持つのは遊夜から渡されたダストスポット。容量が早くいっぱいになる芳紀の袋は早いスパンで口を縛っているが、丁香花はダストスポットを広げたままほぼ動かない。見事に歩くゴミ箱と化していた。
「袋の数が増えてきましたから、今から集積場所へ走ってきますね!」
「元気な奴だな」
 そして、膨れたゴミ袋が増えてきたら芳紀が率先してゴミ袋を運んでいく。運動部の後輩にしか見えなくなっている芳紀の背中を、丁香花はぼんやりと見送った。

「……っと」
「あ、ごめんなさい。不注意でした」
「いえ、こちらこそ」
 また別の場所では、長い髪をおさげにした紗希がエレオノールと接触し、微妙な空気が流れていた。
 原因は単純だ。紗希は地道なゴミ拾いに集中しすぎて『無』の境地になっており、周囲への注意が散漫になっていた。他方のエレオノールは人の動きに気をつけていたものの、あまり大きく移動しない紗希の動きを把握しきれず、黙々と作業する中でぶつかってしまったのだ。
 軽く会釈をした2人だが、それ以上会話が弾むことはない。紗希が人付き合いを苦手とすることもあるが、お互いの作業スタイルが無言であるため、会話が発生する余地がない。
「紗希とエレオノールさん? どうしたの?」
 そこへ通りかかったのはあけび。言葉にできない微妙な空気に、背後にいた仙寿ともども首を傾げる。
「私が掃除している彼女にぶつかって、そのまま掃除してただけよ?」
 するとエレオノールがあけびに返答し、大きな問題はないと告げる。あえて問題を挙げるなら、紗希の人見知りくらいか。
「そうですかー、じゃあ私たちは行きますね」
 問題ないならいいか、とあけびは紗希とエレオノールに挨拶をして離れる。あけびと仙寿の手には別の場所で集めたゴミ袋があり、広場へと運ぶところだった。その後、あけびは広場に到着したところで、仙寿が持つゴミ袋が増えていることに気づいた。
「これで生意気不愛想が直れば……」
「……何か言ったか?」
 立ち去る時に紗希とエレオノールが集めたゴミ袋も一緒に受け持ったのだろう、と察したあけびは不愛想な世話焼きに思わず小さな本音を漏らしていた。

『そろそろ終了の時間になります』
 太陽が傾き始め、真面目に清掃作業を行っていたエージェントたちへ、信一からの通信が届けられる。これを合図にエージェントたちはキリのいいところで作業を終え、徐々に広場へ集まってきた。
「細かい部分もきちんと確認を、と思いましたが、さすがに無理でしたか」
 帰り際、落児と共鳴した構築の魔女が掃除を終えた場所でライヴスゴーグルを使用し、残ったゴミなどないか見て回る。だが、そもそも従魔から移ったライヴスは微量であり、時間経過で消失した可能性もあって感知はできなかった。
 さほど期待してなかったのか、構築の魔女は結果を確認するとすぐに共鳴を解除し、集合場所へと足を向けた。
「……不足なし。忘れ物もなさそうだな」
 また、久朗は帰ってきたエージェントからトングなどの道具を回収し、預かって管理していた個人の荷物を返却していく。今回は怪我で行動が制限され、サポートに徹した久朗だったが、自分に与えられた仕事は全うできたと感じていた。
「信一、お疲れ。新人たちも的確な指示のおかげで、よく動いてたぜ」
「鷹輔さんもお疲れさまです。ずっと新人エージェントの方々を見てもらって、ありがとうございました」
 後はエージェントが集まるのを待つ、という時に鷹輔は信一に近づきハイタッチを交わす。
 鷹輔は終始、新人エージェントをまとめて集団行動の面倒を見ていた。全体の指揮とは別に現場で指揮する存在のおかげで、新人たちの作業効率が上がったのは間違いなく、信一は素直に感謝を述べてお互いをたたえ合う。
「すべては無理でしたが、良い仕事しましたね!」
『まぁ……偶にはこういうのも、悪くは無いな』
 最後に、征四郎とユエリャンは共鳴して飛ばした『鷹の目』の視界から、村を見渡す。1日で終わらせるのがベストだったが、ゴミの量からして難しいことはわかっていた。それでも、空から見る1日の頑張りは、一目でわかるほどの変化となって広がっている。
 征四郎はそれが誇らしく、ユエリャンも爽快感に似た気持ちが芽生えていた。

●助けることの難しさ
「皆さん、お疲れさまでした」
 ボランティアを終えたエージェントたちの前で、信一が労いの言葉をかけた。それから簡単に作業の成果が発表され、目標としていたよりも広い範囲のゴミが撤去され、今後のボランティア日程も短縮される見込みだと伝えられた。
 また、午後の活動で掃除以外に村人の要望に応えたことがより強い感謝を集め、多くの人がエージェントたちの見送りのために集まっていた。人々の心証という意味でも、成果があったと見ていいだろう。
「別途H.O.P.E.に依頼してくれたら、村おこしも対応しますよ、きっと」
「愛と平和のH.O.P.E.にお任せよ」
 別れ際、口々に礼の言葉をかける村人へ、望月と百薬は若者を呼び戻す村おこしをしてはどうか? と提案した。もし今後、同じような被害にあっても、若い人手がいるだけで変わってくるかもしれない、と。
「何から何まで、ありがとうねぇ。でも、この村は山と田畑があるだけで、特別な何かがあるわけじゃないんだ。都会に出た子どもらを呼び戻すのも、難しいだろうねぇ」
 しかし、村人たちは提案に嬉しそうな表情をするも、首は横に振られる。こればかりは仕方がない、と全員が諦観し納得している様子さえあって、それ以上の推進は誰もできなかった。
「若者は生活の利便性や仕事の多さから都会に流れやすい。だが、お年寄りの方々は体力的にも、心情的にもこの村を簡単には離れられないはずだ」
「私達にはこの町の清掃と意見を出すこと位しかできませんけれど……昔の姿がよみがえれば、また見に来たいです」
 それでも、リーヴスラシルと由利菜は村人を思う言葉を残していった。
「烏兎ちゃん頑張ったな! 偉いんだぜ!」
「当たり前だよパパ。困っている人がいるんだからね。一生懸命にやらないと失礼だもんね」
 ほとんどゴミの運搬をしていた千颯は、村人から多くの感謝をもらっていた烏兎姫の姿に、彼女の頑張りをくみ取れたため大いに褒める。烏兎姫もまんざらでもないのか、胸を張って満足そうな笑みを咲かせた。
 それからエージェントたちはバスに乗り込み、そのまま帰宅する予定になっている。例外は、まだもう一仕事残っているトラックの運転手たちだ。
「ラストの運搬は帰りのついでに、ってことだからな」
「何往復したかわかんねぇッスけど、最後まで安全運転で行くッスよ、虎噛さん」
 最後に運び出すゴミが積載されたトラックへ乗り、千颯と米衛門は再びエンジンをかける。集積所まで運んだ後は、助手席に英雄を乗せてトラックを運転しての帰宅になる。窓越しに片手で挨拶を交わした後、千颯と米衛門は他の回収業者とともに長いドライブへ走っていった。
「いやー、大変だったけどさ。こーしてみると、中々に達成感があるネ。こりゃ、帰りの焼肉も美味くなるってもんです」
「焼肉に、するの?」
「イエス。労働後の焼肉、これ絶品ナリ」
 一方、バスの中でストゥルトゥスとニウェウスが1日の作業を思い出しつつ、晩ご飯の話をしていた。
「……なぁ、飯ある?」
「配給の弁当ならな」
 その近くで、昼からずっと雑用の手伝いをしていた仙也は、細部の懸念を纏めた報告書を作成するディオハルクからようやくご飯をもらえていた。ディオハルク手作り弁当は空っぽなので、仙也としてはちょっと味気ない。サボリの代償は大きかった。
「アトリアさんやウィンターさんとの作業はどうでしたか?」
「疲れた……色んな意味でな……」
 平介もずっと別行動だったゼムへ感想を聞くと、疲労感に満ちた声が返ってきた。とはいえ、遠慮なく意見を言い合っていた様子も見ていた平介は、英雄同士確実に距離感が縮まっていることを感じ、少し安心を覚えていた。
「組織としてマスコミから責められるのは仕方ないだろうが、今回はエージェント側の責任だろうな」
「事前準備不足、情報不足、立ち回り不備と色々あげられますね」
「生活もあるわけだから、人的被害がなければいいわけでもないしな」
「改めて考えさせられる事案でしたね」
 そして飛翔とルビナスは、窓の外を見ながら今回の背景について思考を巡らす。従魔討伐に尽力したとはいえ、エージェントが下手を打ったから行われたこの大掃除。言い換えれば、守れなかった責任を問われ償いを求められたのが故の活動に過ぎない。
 助けるということにおいて、人命を救うだけではベターであってベストではない。ベテランエージェントにとっても、真に人を守るということの難しさを見つめ直すきっかけになったのかもしれない。

「何してるのー?」
「……いえ、何でも……」
 後日、別日のボランティアにも参加していたガルシアは、レティの不思議そうな視線を受けつつしきりに村の中やゴミ袋を見渡していた。
(PAD、見当たらねぇ……)
 メイドの矜持を守った犠牲は、ガルシアの胸に大きな喪失感をもたらしていた。
 気を落とさないで。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032
    機械|24才|男性|防御
  • 傍らに依り添う"羽"
    アトリアaa0032hero002
    英雄|18才|女性|ブレ
  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 断罪者
    凛道aa0068hero002
    英雄|23才|男性|カオ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 全てを最期まで見つめる銀
    ユエリャン・李aa0076hero002
    英雄|28才|?|シャド
  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • 雨に唄えば
    烏兎姫aa0123hero002
    英雄|15才|女性|カオ
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 『星』を追う者
    月影 飛翔aa0224
    人間|20才|男性|攻撃
  • 『星』を追う者
    ルビナス フローリアaa0224hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • ようへいだもの
    鴉守 暁aa0306
    人間|14才|女性|命中
  • 無音の撹乱者
    キャス・ライジングサンaa0306hero001
    英雄|20才|女性|ジャ
  • 革めゆく少女
    御童 紗希aa0339
    人間|16才|女性|命中
  • アサルト
    カイ アルブレヒツベルガーaa0339hero001
    英雄|35才|男性|ドレ
  • 分かち合う幸せ
    笹山平介aa0342
    人間|25才|男性|命中
  • どの世界にいようとも
    ゼム ロバートaa0342hero002
    英雄|26才|男性|カオ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • コスプレイヤー
    大宮 朝霞aa0476
    人間|22才|女性|防御
  • 私ってばちょ~イケてる!?
    春日部 伊奈aa0476hero002
    英雄|17才|女性|ソフィ
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ
  • カフカスの『知』
    ニウェウス・アーラaa1428
    人間|16才|女性|攻撃
  • ストゥえもん
    ストゥルトゥスaa1428hero001
    英雄|20才|女性|ソフィ
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
    人間|25才|男性|回避
  • 奇稲田姫
    マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • 我が身仲間の為に『有る』
    齶田 米衛門aa1482
    機械|21才|男性|防御
  • エージェント
    ウィンター ニックスaa1482hero002
    英雄|27才|男性|ジャ
  • 葛藤をほぐし欠落を埋めて
    佐藤 鷹輔aa4173
    人間|20才|男性|防御
  • 秘めたる思いを映す影
    語り屋aa4173hero001
    英雄|20才|男性|ソフィ
  • エージェント
    春川 芳紀aa4330
    人間|16才|男性|攻撃
  • エージェント
    丁香花aa4330hero001
    英雄|21才|男性|ブレ
  • 悪食?
    逢見仙也aa4472
    人間|18才|男性|攻撃
  • 死の意味を問う者
    ディオハルクaa4472hero001
    英雄|18才|男性|カオ
  • かわたれどきから共に居て
    日暮仙寿aa4519
    人間|18才|男性|回避
  • たそがれどきにも離れない
    不知火あけびaa4519hero001
    英雄|20才|女性|シャド
  • 守りもてなすのもメイド
    Гарсия-К-Вампирaa4706
    獣人|19才|女性|回避
  • 抱擁する北風
    Летти-Ветерaa4706hero001
    英雄|6才|女性|カオ
  • エージェント
    エレオノール・ベルマンaa4712
    人間|23才|女性|生命
  • エージェント
    トールaa4712hero002
    英雄|46才|男性|ソフィ
  • 今を歩み、進み出す
    狐杜aa4909
    人間|14才|?|回避
  • 過去から未来への変化
    aa4909hero001
    英雄|20才|男性|ジャ
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