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エイプリルフールIFシナリオ

【AP】相席居酒屋『愚望』

一 一

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
9人 / 4~15人
英雄
8人 / 0~15人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2017/04/17 19:35

掲示板

オープニング

 この【AP】シナリオは「IFシナリオ」です。
 IF世界を舞台としており、リンクブレイブの世界観とは関係ありません。
 シナリオの内容は世界観に一切影響を与えませんのでご注意ください。

●ご来店、ありがとうございま~す
「いらっしゃいませ~!」
 都内某所。
 日が落ちれば明かりがほとんどなく、活気などとは縁遠い場所に、その居酒屋はのれんを出していた。店先の提灯は淡いオレンジ色にぼうっと輝き、客の来店でわずかに揺れて歓迎する。
 内装はついたてで区切ったテーブル席が並び、床面積の割には狭く感じる。4人がけのテーブルが10席あり、内階段の2階を上がれば大人数用の座敷スペースがいくつか設けられている。
 壁には各席に置いてあるメニュー表とは別に、店で提供される料理名がずらっと書かれており、内容を見る限り特に奇をてらった様子のない一般的な居酒屋であるらしい。
「当店は相席居酒屋となっており、別グループのお客様をご案内することがありますが、よろしいでしょうか?」
 愛想を振りまく店員の言葉に答え、また1組の客がテーブルへ腰を落ち着けた。
 わかりにくい場所に店を構え、宣伝なども特に行っていないにも関わらず、店内はそれなりににぎわっていた。すでに相席となったテーブルもあるのか、酒を片手に楽しそうに談笑する客もいる。
「ご注文がお決まりになられましたら、私どもを直接お呼びになるか、テーブルのベルをご利用ください」
 この店最大の特徴は、従業員がすべてリンカーだということ。
 接客を行うホールスタッフも、裏で調理を担当するキッチンスタッフも、売り上げの計算など事務作業をしている店長も含め全員リンカーだ。さらに、何かあればすぐに共鳴できる位置で、彼らの英雄もまたスタッフとして働いている。
 常連客以外にはあまり知られていないが、実は従業員全員にエージェントとしての戦闘経験があり、中には現役エージェントも含まれていた。
 それ故に、この店でトラブルが起こることは滅多にない。トラブルが起こったところで、騒ぎが大きくなる前に店員の実力行使によって潰される。その証拠か、壁に『喧嘩したい方は店外でどうぞ』という張り紙が見受けられた。
「とりあえず、ビール2つで」
「中ジョッキ入りまーす!」
 提供される酒類も、どちらかといえばリンカー用のお酒が多い。従業員がリンカーばかりということもあり、客層が完全にそちらへ傾いてしまっているためだ。一般人用のお酒もあるにはあるが、日の目を見ることはまったくない。
 必然、最初にビールを注文したこの客もまた、一般人ではなかった。
「お待たせしましたー!」
「おっ! きたきた! じゃあ、乾杯と行きますか!」
「俺たち下っ端の、輝かしい未来を祈って!」
『乾杯!!』
 結露が浮く冷えたジョッキをかち合わせ、スーツを着たサラリーマン風の男2人が景気よくビールを呷って、一言。
「っかーっ! うまいっ!! 『人間』もたまにはいい仕事しやがる!!」
「違いねぇ!! この1杯で上位『愚神』にいびられたストレスが一気に吹き飛ぶぜ!!」
 この店の名前は『愚望』。
 知る人ぞ知る、『愚神』と『H.O.P.E.エージェント』が相席で酒を酌み交わす語らい場。
 店内を飛び交うのは店員の明るいかけ声と、酒におぼれた笑い声、そして仕事に対する盛大な愚痴だ。
 この場所では敵も味方も関係ない。
 日頃は敵対する相手を倒すために使う暴力を封印し、酒の力のみを頼りに自らの思いの丈(たけ)を好き勝手にぶちまける。
 それだけが暗黙の了解で決められた、ストレス発散の坩堝(るつぼ)と化しているのがこの店の正体だ。

●酔っぱらい注意
「そういや聞いたかぁ? ひっく! この前フランスに転勤になったアイツよぉ、ひっく! 町中で騒ぎ起こして通報された挙げ句、エージェントにあっさりやられちまったんだと! 笑っちまうよなぁ!!」
「ギャハハハッ!! なんだぁ、そりゃあ!? ソイツって、この前デクリオ級に昇進したっつって、送別会開いたばっかだろぉ!? ドロップアウト早すぎるっつーの!! バッカじゃねぇの!!」
「だろぉ!? バッカだよなぁ!! ……でもよぉ、ひっく! ミーレス級平愚神な俺らと比べたらマシじゃね? ひっく! ちょっとライヴス保有量が多くて、頭と要領が良いだけのデクリオ級課長によぉ、ひっく! クッソこき使われてる毎日だぜ?」
「あー、それな。アイツ、ケントゥリオ級部長に目ぇかけられてるからって、変なとこ張り切りすぎだっつーの。部下の扱いに慣れてねぇから、アイツにそれ任すなよ! って指示も平気で飛ばすしよぉ! 俺らはテメェの捨て駒じゃねーぞチクショー!!」
 一足早く訪れた愚神たちは、すでにお酒のジョッキをいくつも空にし、酔いが回って饒舌になっていた。
 話の内容は、ちょっと聞くに耐えないが。
「そーそー、北海道にいる同期いただろ? ひっく! アイツ、性懲りもなくまた上司へのゴマすりミスって、消されかけたらしいぜ。ひっく! ウチの人材って上も下もクセ強いのばっかだって、そろそろ気づけっつ~の~」
「触らぬ愚神に祟りなし、って奴だよなぁ~。トリブヌス級専務でさえ、前にレガトゥス級社長の命令無視したら、盛大にクビが飛んだもんなぁ~。どうせクビなら、俺らにちょっとくらいライヴスを還元してくれたっていいのによぉ~」
 なお、彼らの言うクビとは物理的に飛ぶ首のことである。
 彼らミーレス級平愚神の飲み会では、酔いが回れば愚痴合戦になるのがいつものこと。
 仕事のストレスを上司や同僚への悪口に換えて、明日笑顔で働くための憂さ晴らしをしなければ、毎日命令されるキッツい仕事なんてやってられないのだ。
「あ、いらっしゃいませ~!」
 そんな中、噂を聞きつけたエージェントが複数人で来店した。
 残り少ない今日もまた、一段と騒がしい夜になりそうだ。

解説

●目標
 愚神の愚痴を聞く。
 愚神に愚痴を吐き出す。
(悩みを解決する必要はない)

●登場
 ミーレス級愚神…株式会社・愚神カンパニー勤務。日頃の活動でストレスをためまくった愚神たち。外見はだいたいサラリーマン風男性であり、PC来店時はすでにできあがっている。店のルールに従い自分から暴れるようなことはないが、アルコールにより判断力が低下しているので絶対ではない。

●場所
 都内某所でひっそりと経営している相席居酒屋『愚望』。2階建て。
 元エージェントのオーナー(女性)が流行に便乗してオープンした店だが、エージェント活動により婚期を逃した自分が何故他人の出会いを演出せにゃならんのだ? と開店準備がすべて整った段階で気づく。
 内装もすでに確定してしまって路線変更もできず、せめてもの恨み節として「来客の『愚』かな『望』みを叶える居酒屋」という皮肉を込めた店名を採用。
 現在は店名や従業員の影響もあってか、男女の出会いの場というより、愚神とエージェントとの交流の場として繁盛するように。時々従業員同士が恋愛関係に発展することもあり、その度にオーナーは拳を握りしめている。

●状況
 店はPCが訪れると満席状態になり、店内は多種多様な感情がこもった叫び声(愚痴)が響いている。1階は2人1組で別々の席へ、2階は全員まとめて1つの座敷へ案内される。どの席でも、PC1人につき最低1体の愚神がいる。
 席に案内されると、ぐでんぐでんに酔っぱらった愚神が対面に座り、間もなく愚痴が展開。PCもまた次第に気が大きくなり、様々な身の上話をこぼすようになる。なお、酒に強いPCも、店の雰囲気により本音をこぼしやすくなる。
 非アルコールの清涼飲料もあるので、未成年でも入店可能だが、素面(シラフ)で酔っぱらいの相手は相当キツい。

 すべてはお酒が魅せた泡沫(うたかた)の夢。
 明日に残らぬ不平不満を、思う存分ぶちまけよう。

リプレイ

●いらっしゃ~い
「というか、またエライ店もあったもんだな」
 急遽ヘルプとして夜の開店前に『愚望』へ入った赤城 龍哉(aa0090)は、事前に聞いた店のコンセプトに呆れを隠せない。
『表に出ていると色々と抑えが効かなくなりそうですので、幻想蝶の中で待機しておきますわ』
 愚神の接客は無理と判断したヴァルトラウテ(aa0090hero001)の声を聞き、龍哉はそっと嘆息した。
「さて、難儀な時間になりそうだぜ」
 そうして始まった夜の営業は、開店直後から多数の客がなだれ込んできた。その大半が愚神であり、注文もひっきりなしに飛ぶため大変忙しい。
「金曜日は酒が飲める飲めるぞー!」
「騒ぐな! 他の客の迷惑でござろう!」
 その中へ勢いよく現れた虎噛 千颯(aa0123)は、白虎丸(aa0123hero001)に早速注意を受ける。店内の客もたいていうるさいので、2人の声は埋もれて消えたが。
「料理の美味い店とは聞いていたが……」
「……お酒臭い」
 続けて御神 恭也(aa0127)と伊邪那美(aa0127hero001)が店に入り、強烈なアルコール臭に一瞬で顔をしかめた。
「なんだか楽しげなところに入っちゃったよ」
「普段はお酒飲むお店行かないもんね」
 その後ろから餅 望月(aa0843)と百薬(aa0843hero001)がひょっこり顔を出し、興味深そうに店内を眺める。
「いらっしゃい……って虎噛さん? それと、御神に餅か?」
「あ、龍哉ちゃんじゃん!」
「龍哉、その格好は……」
「奇遇だね、赤城君」
 ホールとして走り回っていた龍哉の出迎えを受け、千颯と恭也と望月はそれぞれ言葉を返す。依頼終わりで千颯が全員をこの店へ誘ったらしく、龍哉との遭遇は偶然。話を聞いた龍哉は一緒の席がいいだろうと、6人を2階席へ案内した。
「まだ入れるか?」
「繁盛しているようだな」
 それから間もなく訪れたニノマエ(aa4381)とミツルギ サヤ(aa4381hero001)も2階へ。
「……おい、どこだここは?」
「まーまー、いいからいいから」
 次にものすごく嫌そうな黒鳶 颯佐(aa4496)の背を押す伽羅(aa4496hero001)が入店。伽羅は颯佐を強引に引っ張りつつ、2階へと上がっていった。
「さあ、飲むわよ!」
「ここは、寄り合い酒場か。酒を酌み交わせば皆友であり、大勢の酒宴こそ誓約に相応しい。うむ、いい場所だ!」
 さらに、依頼終わりのエレオノール・ベルマン(aa4712)がトール(aa4712hero002)を引き連れてきた。トールが豪快な解釈で誓約に触れるも、エレオノールは気にせず案内されるまま1階の席へ移動。
「……」
「はい、2名です。席は、正宗さんと一緒であれば、どこでも」
 店員に話しかけられても無言な御剣 正宗(aa5043)に代わり、CODENAME-S(aa5043hero001)が応対。正宗たちもまた、1階席へと腰を下ろす。
「えと、1人です。はい、連れもいません」
 最後に、英雄が幻想蝶に戻ってしまったため、小宮 雅春(aa4756)が1人で来店。若干声を沈ませつつ、案内されるまま1階のテーブルへ足を運んだ。
『乾杯っ!』
 これにて満席。
 酒量はなみなみ。
 グラスがかち合い、音頭が弾ける。
 さぁ、宴の始まりだ。

●飲むぞ~
「おーい、注文!」
「ただいま伺いまーす!」
 全席埋まった居酒屋はまさに戦場。
 初ホールの龍哉であっても、伝票片手に駆け回る。
「ビールとワインをたくさんもってきて!」
「肴(さかな)は後で構わん。まずは酒だ!」
 1階の男前な注文はエレオノールとトール。
 対面の愚神は豪快な2人に気をよくし、酒が届くなり乾杯をして即行打ち解けた。
「デクリオ級課長の野郎、無茶ブリばっかしやがって!」
「そーだそーだ! 給料(ライヴス)増やせ! 休日作れ! 残業手当(ライヴス)寄越せー!!」
「へえ、愚神も大変なのね。ストックホルムの愚神も苦労してたのかしら? サンクトペテルブルグのほうはとんでもない事になってるみたいだけど、仕事上の激戦区なのかもね」
「あー、過疎っているとこは左遷された口だな。逆は社蓄の掃き溜めだよ」
「姉さんとこの地元はどうだ?」
「ウチの地元は大したことないわよ。愚神も大物はいなかったし、リンカーもそれなりね」
「む? ビールを追加だ!」
 早速愚痴る愚神に耳を傾けつつ、エレオノールはどんどんグラスを空に。
 隣のトールもハイペースで飲み続け、もうおかわりを要求している。
「いいよなぁエージェントは。せこせこライヴス集める俺らとは大違いだぜ」
「俺ら倒せば楽して稼げる高給取りだろ? 羨ましーねー」
「なにいってんのよお! 仕事なんてどこもそんなもんでしょ! 私なんか本業の羊飼いは大人しいってイメージで見られるから、少し話したら気がきついとか想像と違ったとか言われて、何度フラれたかわかんないわよ! 第一、本業だけで食べていけるわけないじゃない! 補助金でてトントンよ!」
「む? ワインが足りんぞ!!」
 話は自然と仕事への不満へ。
 愚神の言葉にエレオノールは唾を飛ばし、トールはせっせと酒を補充していく。

「上司もそうだが、同期もクソみてぇな奴がいるんだよ」
「ああ、あの太鼓持ちだろ? マジ殺してぇ」
「どんな人なの?」
 一方、こちらは雅春のテーブル。
 ここも仕事関係で盛り上がっていた。
「上司に媚び売ったおこぼれ(ライヴス)集めて昇格した野郎だよ!」
「大した能力ねぇクセに、下級の俺らを見下す態度とりやがるんだぞ、クソが!」
「いろいろあるんだねぇ……あ、ここの唐揚げウマー」
 くだを巻く愚神に相づちを打つ雅春は、度数の低いチューハイを飲みつつ唐揚げをパクリ。
 幸せそうな笑顔を浮かべて、再び唐揚げを注文。
 どうやら好物らしい。
「っつーか兄ちゃん、さっきから飲み方セコいぞ!」
「おら、もっとぐっと飲めや!」
「え? えぇ……?」
 しかし、正面から迫る2つのビールジョッキに、雅春の顔は困惑に染まる。
 愚神の目は据わっており、逃げるのは難しそうだ。

「俺らだってミーレスなりに頑張ってんだよ」
「毎日毎日、営業の外回り(ライヴス収集)で成果挙げようと必死でさぁ……」
「……」
「まぁ」
 こちらは無言でワインを傾ける正宗と、カクテルに口を付けるSのテーブル。
 ちょっと泣きが入る愚神を前に、正宗は無表情だがSは何故か楽しそう。
「でもよぉ、結局要領いい奴が全部持ってっちまうんだよぉ~!」
「俺らの地道な仕込みを、横から根こそぎ持っていきやがってぇ~!!」
「それは大変ですね。お話ならなんでも聞きますから、涙を拭いてください。ね?」
『この子天使やぁ~!』
 そっとSから差し出されたハンカチを受け取り、愚神はさらに号泣。
 急な関西弁には正宗もSも触れず、ひたすら愚痴が続いていく。

 1階の盛り上がりも凄かったが、座敷の2階はもっと凄まじい。
「お待たせしました! ご注文をどうぞ!」
 声を張り上げないと聞こえない喧噪の中、龍哉が全神経を耳へ集中させる。
「俺ちゃんビール! 白虎ちゃんは焼酎ロックで!」
 まず千颯。
「俺はウーロン茶、伊邪那美はオレンジジュースを、後は適当に料理を頼む」
 次に恭也。
「あたしがホープティーで、百薬はミルクね」
 続けて望月。
「まずはレモン酎ハイと、とりもも串を塩で」
「私はモヒートと肉じゃがぁ」
「……変な組み合わせだな」
 さらにニノマエとサヤ。
「……お茶で」
「俺は日本酒でよろしく!」
 最後に颯佐と伽羅。
「飲み物も届いたところで、異文化交流にかんぱーい!」
『明日の敵に、かんぱーい!!』
 程なくしてやってきた飲み物のグラスを掲げ、望月が乾杯を促した。
 できあがった愚神は全員応じ、近くの人々と次々にグラスをぶつけていく。
「今日は無礼講だぜ~! ほら飲んで飲んで!」
 すると千颯がすぐさま愚神を煽(あお)り、自分も酒をぐいっと呷(あお)った。
「最近は分煙も進んだし、たまには居酒屋ごはんも良いよね。小皿でちょっとずつ楽しむなら最適だし」
 望月はテーブルに並んだ料理を少量ずつ確保し、いろんな味を楽しむ。
「牛乳は万能の飲み物よね」
「お刺身には合わないと思うけど……美味しくいただけるならいいよ」
 百薬の珍しい食べ合わせに、望月は肩をすくめて箸を進める。
「よぉ兄ちゃん。ちょっと聞いてくれよぉ!」
「いや、俺は……」
「あー、俺が付き合うよ。職場の連中と飲みに行くことがあるんで、愚痴を聞くのは慣れてるから」
 お酒が進むと、愚神が大人しく座る颯佐に絡んできた。
 五月蠅さと酒臭さに表情を歪めると颯佐に、すかさずニノマエがフォローに入る。
「若い女の子と飲みに行くとか無いよねー。無いー。っていうか、外見年齢と実年齢違うよね、もっと歳くってるよねアンタ」
「俺の心をライヴスキャスターで貫く気か!?」
 そして、すでにほろ酔いのサヤから強烈な奇襲を受けた。
 すぐさま反論するニノマエだが、サヤと周囲の愚神から爆笑をもらうだけ。
「適当な命令出すデクリオ級課長、マジムカつくわ~!」
「この前なんて、H.O.P.E.支部の近くに逝ってこいとか平気で言うんだぞ!?」
「大変でござるな。今日は嫌な事は忘れて、飲むといいでござるよ」
「マジその上司最悪じゃねー! でも逝ったんでしょー? 愚神ちゃん超偉いじゃーん!!」
 こちらでは、白虎丸と千颯が別の愚神たちの相手をしていた。
「ホント俺ら超偉い! なのに上司はクソばっかだ!」
「レガトゥス級社長のワンマン経営で成り立ってるけどよぉ、俺ら下っ端の力量考えて使えよなぁ! こっちはアンタみてぇな化け物じゃねぇんだよぉ!!」
「わかるわぁ~! だよねーだよねー! 俺ちゃんもそう思う~」
「社会人とは皆、大変な戦場を駆ける屈強な戦士なのでござるな……」
 上司への毒が止まらない愚神に、千颯と白虎丸の合いの手は続く。
 ミーレス級平愚神からすれば千颯たちも十分化け物なのだが、知らぬが仏か。
「愚神さんも大変だね」
「そうそう、上の者ってのは下の苦労わかってないよね。あ、冷やしトマト頼んでいい?」
 その話を近くで聞いていた百薬と望月も、理解を示しつつさらっと注文を追加。
「赤城さん、あたしは冷やしトマトひとつ、愚神さんの伝票に付けといて」
「ワタシは何かのお肉の卵とじ」
「じゃあそれも」
「おいおい……」
 それをグラスを下げにきた龍哉が受け、望月と百薬の遠慮のなさに苦笑を漏らす。
「どうせ女は男の金(ライヴス)しか見てねぇんだ……、畜生……」
「わかるぜ。俺も細菌並の知能しかねぇケントゥリオ級部長に彼女寝取られたし、次会ったら彼女デクリオ級になってたし、なんだよそれ……」
「俺は食事に来ただけなんだが……」
「あ、恭也。これ美味しいよ」
 こちらでは愚神の恋愛事情を愚痴られる恭也と伊邪那美。
 律儀に聞く恭也とは裏腹に、伊邪那美は全スルーで料理を堪能している。
「まー飲め飲め」
 近くでは伽羅に酒を注がれ、景気よく愚神が一気飲み。
「そうだ颯佐、お前も飲むかぁ?」
「未成年だが」
「固ぇ事言うなって」
「駄目な大人め……」
 けらけらと笑いながら酒を勧める伽羅に、颯佐は深くため息を吐く。
 すると、いきなり肩を掴まれた颯佐は、にやけた伽羅の顔に眉間のしわを深くする。
「はい、ちゅうも~く! こいつさぁ、敵見るとすーぐ突っ込んでくの。どうよこれ? 戦術も戦略もあったもんじゃねぇ。共鳴してるこっちの身にもなってほしいよなぁ、心臓いくつあっても足んねぇわ~」
 ほろ酔いで軽い口調の伽羅の言葉に、何故か泥酔の愚神が大きく反応。
「おいおい、そりゃあ相方が可哀想だぜ兄ちゃん!」
「独断専行は自分も味方も危険にすんだぞ! 悪いことは言わねぇ、ウチの上司みてぇになるから止めときな!」
「……帰りたい」
 自分の戦い方を敵から諭され、四方から蜂の巣にされる颯佐はげんなりと肩を落とす。

「またのお越しをお待ちしておりまーす! ……つか繁盛しすぎだろ、ここ」
 入り口でべろべろに酔った愚神を送り出す龍哉は、小さく疲労をにじませる。
『まさか、愚神の縦社会の構図をこんな形で見るとは思いませんでしたわ』
「相当こき使われてるみたいだな……あ、いらっしゃいませ!」
 漏れ聞く愚神社会の過酷さに、ヴァルトラウテの声もわずかに同情気味。
 そして顔を上げると、また新しい客が龍哉の前に現れた。
 夜はまだまだ明けそうにない。

●愚痴るぞ~
 酒が進むと口も軽くなり、愚痴はヒートアップしていく。
「Graiver val. Min boss ar sa dalig?(愚神も大変なのね。そんなに上司ってひどいの?)」
「当たり前だろぉ! そもそも俺ら労働組合が意味ねぇんだぞぉ!?」
「いくら雑魚が団結したところで、結局レガトゥス級社長にゃ俺らは換えの利く駒でしかないんだ。使い潰されるのが、俺らの宿命なのさ……」
「Attackera inte manniskan i morgen? Drinka idag! Jag har en hel del sprit.Glomma bort att drinka!(明日だって人間をまた襲わないといけないんでしょ? 今日は飲みましょう! お酒もこんなにたくさんあるし、飲んで忘れましょう!)」
 泣きが入る愚神の愚痴に、飲み過ぎて言語翻訳が壊れたエレオノールが励ます。
 日本語訳した内容にエージェントとは思えない部分はあるが、気にする人はいない。

「んでそいつ、まんまとエージェントの罠にかかって爆死だってよ!」
「ぎゃはははっ! ウケる! チョーウケる!!」
「うんうん、よかったよかったぁ!」
 同僚の愚痴から失敗談に変わった話を聞く雅春は鷹揚に頷き、2人へ握手を求めた。
 顔は真っ赤。そばには複数のグラス。
 そう。もはや彼も酔っぱらい。
「うっ……骨なしチキン、骨のあるチキンになりた、い……」
 すると次第に、雅春の口から愚痴らしい言葉がこぼれ落ちた。
 じーっと、鶏の唐揚げを見つめながら。
「兄ちゃん今いいこと言った!」
「腑抜けの臆病者(チキン)より、芯のある臆病者の方が生き残るってもんだ!」
 何かいいこと言った風の愚神たちだが、所詮は酔っぱらいのノリに過ぎない。
「英雄に寄生プレイしてて、何がエージェントだコンチキショウめ!!」
『そうだ! 上司に寄生して何が愚神だ!!』
「つよいこになる!! ます!!」
 もはや支離滅裂だが、雅春と愚神は再び乾杯し、グラスを盛大に傾けていく。

「……ボクは」
 こちらではずっと愚神の泣き言を無言無表情で聞いてきた正宗が、初めて口を開いた。
 よく見れば正宗もだいぶ酔っている。
「こう見えても男だ……。見た目が女性らしくても、スイーツ好きでも、趣味が女装でも男なんだ……。自分の外見が嫌いじゃないし、むしろ誇りに思ってる……。でも、ボクは本当に、この路線のまま頑張っていいのか……わからない……」
 自身へのコンプレックスを独り言のように呟く正宗。
「このままだと……、男にセクハラされた挙げ句、男と結婚させられるんじゃないだろうか……?」
 そして、酒のせいか正宗の切り口が予想だにしない変化球へ。
 もちろん、本人は至って真剣だ。
「兄ちゃん、男か女かなんて些細な問題だ。こっちは見た目が人か化け物かで、営業成績が変わってくるんだぜ? ははっ、いいよなぁ、人型は。通報されにくいし、逃げるの楽だし、子どもは泣かないし……」
 すると正面の愚神はいきなりヘコみだし、正宗と一緒に独り言の愚痴で沈んでいく。
「私、いつか正宗さんに浮気されて、他の英雄に乗り換えられるんじゃないか? って不安なんです。私はずっと死ぬまで正宗さんについていきたいと思っていますから、もし捨てられてしまったらどうしたらいいのでしょうか……?」
 一方、こっちも酔いがキてるSが対面の愚神へ将来の懸念をこぼしていた。
 正宗の愚痴は聞こえていないらしく、自身のことで精一杯らしい不安顔。
「……お嬢ちゃん、邪英って知ってるか?」
 すると愚神は神妙な顔で、す、っと名詞を差し出した。
「ウチの中途採用枠だ。もし、そこの兄ちゃんと浮気相手ぶっ殺して行く当てがなくなったら……歓迎するぜ」
「あ、結構です」
「勧誘失敗、やっぱりなー!!」
 さんざん愚神社会の愚痴をこぼした後での勧誘は、Sのニッコリ笑顔で一刀両断。
 オーバーリアクションで愚神が崩れ落ち、Sは別のカクテルを注文した。

「ねーちょっと、愚神聞いてー。コイツにもっと戦闘依頼を請けさせたいんだけど、どうしたらいい?」
「どうしたらも何も、いろいろ都合とかあんだろ!」
 2階席でもエージェントの愚痴が始まった。
 口火を切ったサヤに対し突っ込むニノマエだが、それで止まるはずもない。
「結局のところ私は剣なのだよー。戦場にいてこそ価値があるのに、と考えたら……。悲しいよぅ、うえええ」
 次に泣き上戸。
「従魔をぼっこぼこにしてぇ、愚神を倒すのがぁ、【深淵たる闇を切り裂き 明けの空に星光らせる剣にして 主のために仕え 終焉の時までその手と傍らに在りし者】の役目ぇぇぇ。……私の本名を復唱してみろ、阿呆がぁぁぁ!」
 最後にブチギレし、サヤがニノマエへ盛大に絡む。
「それは言葉のストームエッジだ、ミツルギ! 長いし本名は外国語? でよくわかんねぇから、発音できないっつうんだよ!」
「【深淵たる闇を切り裂き 明けの空に星光らせる剣にして 主のために仕え 終焉の時までその手と傍らに在りし者】だろ?」
「言ってやれよ、兄ちゃん。【深淵たる闇を切り裂き 明けの空に星光らせる剣にして 主のために仕え 終焉の時までその手と傍らに在りし者】って」
 そして、フォローのつもりらしい愚神の一言で二次被害が発生。
「愚神が言えてどうしてアンタが言えないんだぁぁぁ!」
「知るかぁ! お前らもさらっと耳コピしてんじゃねぇぇぇ!」
 サヤの怒りを増幅させ、胸ぐらを掴まれたニノマエは絶叫した。
 ちなみに、ニノマエには変な生き物を呼びそうなヤバい音振動にしか聞こえていない。
「H.O.P.E.にも結構いろいろあるよねー。事情はあるんだろうけど」
 首が上下に荒ぶるニノマエはそのまま、望月も愚神の愚痴にあわせる。
「ロケットみたいに飛ばしたり、いきなりダンジョンに放り込んだり、事情聞きたくても質問答えてくれなかったりね。美味しい物もっと食べに行きたいのに、変な物食べさせるのもあったなぁ」
「わくわくとドキドキもたくさんあるよ」
 今までの依頼経験から小言を羅列する望月に百薬が続く。
「従魔食べるのなんていつの間にか当たり前になってるしね」
「望月も美味しいって言ってなかった?」
「知らなかったら仕方ないじゃないの」
 とはいえ、望月も百薬も不満より楽しんでいる雰囲気があるため、愚痴とは少し違うかもしれない。
「仕事に疑問を言えるだけマシだ……」
「『でも・だって・しかし』。上司相手にそう口答えして、明日を生きた同僚はいねぇ……」
『うわぁ』
 しかし、続く愚神の台詞には2人もさすがに同情した。
「マジで~それ有り得なくない~? ほんとに正社員は辛いよなー! もう上からの重圧とかって半端ないよな~」
 それに同調したのは千颯。
「もう聞いて~! 白虎ちゃんったらマジでお堅いの、いっつもあれはダメこれはダメって、は~やだやだ」
 すると白虎丸への愚痴へ移り、何か千颯の上司みたいな扱いに。
「上司がなんだー! 仕事がなんだー! 衣類がなんだー! こちとら命掛けてるんだぞー!」
『そうだそうだー! せめて福利厚生と社会保障くらい整えろー!』
 愚神からも同意が上がり、徐々に声が大きくなる。
 上司と仕事と衣服への怒りが高まり、ついに千颯は服に手をかける。
「パージャーとして今脱がずしていつ脱ぐ! 一番! 虎噛千颯! 脱ぎます!」
「千颯ぁぁ! こんの痴れ者がぁ!!」
 が、フルオープンパージを成功させる寸前、上司(白虎丸)の鉄拳が千颯の鳩尾を貫いた。
「ごはぁ!?」
「酒の席とはいえそのような狼藉、許さぬでござるよ!」
 その場に崩れ落ち、痙攣する千颯。
 それを見て上司を思いだし、戦慄する愚神たち。
「千颯の脱ぎ癖はどうにかならないでござろうか、まったく嘆かわしい……少しは自制心というものをでござるな――」
 そこから白虎丸による、怒濤の説教モードへ突入する。
「仕事か……俺は元々、戦闘をメインに受けるはずだったんだ」
 白虎丸の説教が続く中、恭也が机に空のグラスを叩きつけた。
「入り立ての時は、結構順調に進んでいた。なのにだ。段々と変な依頼を伊邪那美が取って来る様になってからおかしくなった。今じゃ料理関係や女装させられる仕事ばっかりだぞ」
 どうも酒の臭いや愚神の愚痴に当てられ、恭也も酩酊状態になっているようだ。
 そのせいか、伊邪那美への愚痴はさらに加速。
 仕事内容から、次第にさんざん愚神から愚痴られた恋愛方面に移行する。
「確かに伊邪那美とは契約を結んだが、別に容姿や年齢で結んだ訳じゃない……なのに、なんで親族からロリコン疑惑を掛けられないといけないんだ? 俺に彼女の気配が無い以上、怪しまれ疑われるだけならまだ良い。だけどな……変に応援して来るのは何でなんだ!」
 いくら精神的に落ち着き大人びて見えようと、恭也はまだ高校生。
 異性関係や他人の目を気にする、多感な時期だ。
 一方、世間に異性の英雄と恋人関係になる能力者がいるのも事実。
 そういう疑惑をもたれても、仕方のない面は確かにある。
「俺はロリコンじゃない!」
 が、もろもろを承知してなお恭也は親族へ向けて叫んだ。
 そこで応援するのは確実に間違っている! と。
「ふぅ~、嫌な予感がして離れたけど正解だったね。まさか、恭也に酒乱の気があるとは思わなかったよ」
「お疲れさん」
 恭也による青少年の主張の直前に逃げ出した伊邪那美に、龍哉は差し入れのジュースを渡した。
 それを受け取った伊邪那美はさらに距離を取り、酔った恭也を放置して食事を再開した。
「つか、御神も餅も未成年だったよな……さすがに酒は飲んでない、よな?」
「あらこれ美味しい、何の肉?」
「何かのお肉ー」
 次に恭也へ飲酒疑惑を抱きつつ、龍哉は望月と百薬へ肉の卵とじと焼おにぎり、それに追加の飲み物を配膳。
 ちなみに、普通の豚肉です。
「虎噛さんは、……もうやらかした後か」
 最後に、倒れ伏す千颯と口数が増した白虎丸から、龍哉は経緯を察して苦笑する。
 そうして龍哉が座敷から出ると、廊下で1人たたずむ颯佐とすれ違った。
「お疲れさん」
「……ああ」
 軽く労いの言葉を残して去った龍哉に、颯佐もあっさりと返す。
 あまりの騒々しさと酒臭さに逃げてきたため、疲労が顔に出ていたらしい。
「伽羅の奴、どれだけ飲めば気が済むんだ……」
 比較的静かな廊下で、颯佐は自身を槍玉に挙げてきた伽羅へ愚痴をこぼす。
「それに、無礼講だか何だか知らないが、何で愚神に俺の戦い方を非難されなきゃならないんだ」
 伽羅の愚痴をきっかけに、実は結構な人数から忠告を受けていた颯佐。
 しかも、相手は敵である愚神。
 味方に忠告されるより居心地が悪かった。
 針のむしろとはあのことである。
「今スグ共鳴しようニノマエ! 愚神が目の前にいるよ! ライヴスが萌える! やっぱり、私は剣としての存在価値を見い出すしか無いわぁぁ! りんくばーすと! りんくばーすと!」
「……俺とミツルギのためお星様になってくれぇぇぇ!」
 すると、座敷部屋の中からサヤとニノマエが騒ぐ声が聞こえてきた。
 かなり酒が進んだ上での絡み酒らしく、直後に大きな笑い声が耳を刺激する。
「……帰りたい」
 終わらない酔っぱらいどもの喧噪に、颯佐は深い深いため息をこぼした。

●閉店しま~す
「お気をつけて!」
 長いようで短い夜はあっという間に過ぎていき、龍哉は最後の客を見送った。
 後は閉店作業を終わらせれば、仕事は終わる。
「それにしても、ここで従業員同士でカップルになるとかどういう状況なんだ?」
『当人同士で感じ入るところがあったのかもしれませんわね』
 床にこぼれた料理や酒を掃除しつつ、龍哉が首をひねる。
 ヴァルトラウテも想像しづらいのか、推測が強い考えしか出ない。
「あ、あの! あの時はありがとうございました!」
「別にいいって。また愚神に絡まれて困ったら、遠慮せず俺か他の人に言えよ」
 すると、女性従業員が男性従業員へ頭を下げる姿があった。
「あーなるほど」
『案外古典的な理由でしたわね』
 だいたいの事情を察した龍哉とヴァルトラウテは納得し、そのままラストまで作業を続けた。
 数日後、女性オーナーが拳を握ったのは言うまでもない。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 不撓不屈
    ニノマエaa4381
    機械|20才|男性|攻撃
  • 砂の明星
    ミツルギ サヤaa4381hero001
    英雄|20才|女性|カオ
  • 孤高
    黒鳶 颯佐aa4496
    人間|21才|男性|生命
  • エージェント
    伽羅aa4496hero001
    英雄|28才|男性|カオ
  • エージェント
    エレオノール・ベルマンaa4712
    人間|23才|女性|生命
  • エージェント
    トールaa4712hero002
    英雄|46才|男性|ソフィ
  • やさしさの光
    小宮 雅春aa4756
    人間|24才|男性|生命



  • 愛するべき人の為の灯火
    御剣 正宗aa5043
    人間|22才|?|攻撃
  • 共に進む永久の契り
    CODENAME-Saa5043hero001
    英雄|15才|女性|バト
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