本部

エイプリルフールIFシナリオ

【AP】きみの声が聞こえない

布川

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2017/04/20 17:46

掲示板

オープニング

 この【AP】シナリオは「IFシナリオ」です。
 IF世界を舞台としており、リンクブレイブの世界観とは関係ありません。
 シナリオの内容は世界観に一切影響を与えませんのでご注意ください。

●できない
 それは、あまりに突然のことだった。
 何度、誓約を頭に浮かべても。
 何度、誓約を胸に抱いても。

――共鳴することができないのだ。

●ブロークン・シンドローム
「原因は、分かりません。復帰できる可能性は・・・・・・恐ろしく低い」
 HOPEの研究者は、暗い顔で記者会見に答えた。
”ある日、突然英雄と共鳴できなくなる”という現象がこの世界に広がって、しばらくになる。
「異世界が遠ざかった?」「共鳴困難か」「ヒーロー引退相次ぐ」・・・・・・新聞記事の見出しがこの減少をあおる。――世界各地で、能力者が能力者でなくなりつつある。
 全員がではない。けれど、そうでなくとも、いつ自分がそうなるか――考えずにはいられない。

 誓約を結べず、他のものと契約を結びなおしたもの。それを拒んで弱っていくもの。方策を探り、独自に調べを進めて努力をするもの。そして、すべてを忘れて元の日常に帰って行くもの。他のものに託したもの。
 行動はさまざまだ。

 何をしてもいいし、何をしなくてもかまわない。

解説

●目標
 なし。

●状況
 世界各地で、能力者が能力を失いつつある。
 エージェントたちは、能力者と共鳴できなくなった、あるいは共鳴できなくなりかけている。気がついていても、気がついていなくてもかまわない。

●ブロークン・シンドローム
 エージェントたちが英雄と共鳴できなくなる症状を総称して、世間はこう呼んでいるようだ。すべての能力者がこうなっているわけでもなければ、発症に法則性もみられない。
 放っておけば幻想蝶にヒビが入り、自壊し始める。英雄の姿は薄れ、消滅してしまう。これにより、各地では英雄の消滅が相次いでいる。
 ある日突然発症することもあれば、ゆるやかに自覚することもある。

●ウワサ
・邪英化すれば、ずっと一緒にいられるらしい。
・英雄は、元の世界に帰るだけなのではないか。
・お互いを信じられていないから共鳴できないのでは?
・ヴィランがこの症状を緩和できる薬を持っているらしい。

・・・・・・全くの事実無根だ。

リプレイ

●これからも
「……本当に、これでよかったの、かな……」
『よかったんですのよ、つきさま』
 木陰 黎夜(aa0061)に、真昼・O・ノッテ(aa0061hero002)は笑ってみせる。

 木陰の第一英雄は、ブロークン・シンドロームにより先に消滅してしまった。彼は、黎夜以外の能力者との誓約を拒んだ。
 木陰は第一英雄にかかりきりで、真昼の幻想蝶の異変に気付かなかった。気がつけば――真昼の姿も、消えかかっていた。
 親交のあるエージェントに真昼を託すことにした、その当日。
 道がすら、どちらともなく歩みはゆっくりになる。

「……うまく、誓約が結べるといい、な……」
『きっと、うまくいきますのよ、つきさま』
「うん……」
 木陰は、真昼の金髪のまぶしさに目を細めた。
 第一英雄にかかりきりで、というのは言い訳で。
 真昼の幻想蝶のヒビに気づかなかったのも言い訳で。
 気づかなかった分、ブロークン・シンドロームの治し方を必死に探し続けた。
 契約を解除し、新たな能力者と契約を――というのは、たくさん話し合った末に、出した結論だった。

 木陰は、ぎゅっと拳に力を込める。
「……誓約、結べたら……さよならじゃ、ないし……」
『はいっ。ご近所ですから、会える機会はいっぱいありますのっ』
「うん」
 明るく前向きな真昼の言葉に、木陰は頷く。
 また会える。それが、心の支えだった。

 邪英化は、考えなかったわけではない。
 真昼が一番望まなかった。
 真昼に嫌な思い出があるヴィランに頼るのはイヤで。
 マガツヒが関わるなら、なおさら自分がイヤで。

 新しい契約者の姿が見えた。
 たどたどしく、しかし真摯に挨拶をする木陰は、とりあえず、悪い人物ではなさそうなことにほっとしていた。
「……真昼……」
『どうしましたの?』
「あの時みたいに、ぎゅって、していい……?」
『はい、もちろんですのよ』
 木陰は、真昼をぎゅうと抱きしめた。
 真昼と誓約を交わす前、真昼を助けた時のように。
 ヴィランに使役していた真昼は、木陰によって救われた。愚神に裏切られ、能力者を手にかけようとしたところで――木陰が現れた。
(どうか誓約が上手くいきますように。真昼が消えませんように。真昼に幸せな日々が訪れますように)
 少しだけ力を込める。暖かい。
(あの時のように、アーテルはいないけれど)

 別れを惜しんだ二人は、ゆっくりと互いに回した手をほどく。ふわりと、真昼の香りと長い髪が遠ざかる。

「うちは、真昼を幸せにできた……?」
 木陰の問いに、真昼は笑って答える。
『はいっ!』
 輝く笑顔が向けられる。

『また、近いうちに』
「……うん」

 木陰と別れた真昼は胸元のリボン――ヒビ一つ入っていない、きれいな幻想蝶を撫でた。本物ではない、ヒビの入っていない模造品だ。
 真昼の幻想蝶は真昼が所持していた。第一英雄の幻想蝶がひび割れた頃に、自身の幻想蝶のひび割れに気づいていた。
 しかし、真昼は黎夜に気づかれないようにニセモノを用意して、問題ないように振る舞っていた。黎夜に自分のことで負担をかけて欲しくなかったからだ。

 幸せになることはまだまだ怖いけれど。能力者が変わることは寂しいけれど。
 もっと黎夜と居たいと望むから。
 別の誰かと誓約を結ぶことを決めた。

『また……会いましょうね』

 真昼は呟いた。

●待ち合わせと約束
『GーYA久しぶりだわぁ』
「まほらま! 帰ってきてたんだ……」
 GーYA(aa2289)まほらま(aa2289hero001)は、能力者と英雄、……だった。ブロークン・シンドロームが起こるまでは。
 道ばたでばったりと出くわした二人は、お互いに何気ない挨拶を交わす。
「大きな戦闘があったって聞いた、大丈夫だった?」
『契約者がちょっとねぇ……GーYAはどうなのぉ』
「……何人か試みたけど誓約できなかった、だから」
『?』
 G-YAは、小さなカードを取り出した。HOPEの登録証によく似たそれは――しかし、全く別のものだ。
『学生証? エージェント登録を破棄……したの?』
 まほらまは、しみじみと学生証を眺める。
 学生証にはH.O.P.E.に登録されていた偽名のGーYAではなく、まほらまとの契約前の 元の名前が記されている。ごく普通の生徒のようなGーYAの姿は目に新しい。写真のGーYAは、少し緊張した面持ちで、けれど、楽しそうに笑っている。
「今は一般人として学校に行ってる」
『後悔しない?』
 まほらまが漏らしたのはそんな問いかけだった。GーYAはなんてこともないように返す。
「リンカーじゃなくなって外国の知り合いと普通に会話できないのが不便かな。でももう古龍幇のトップと会う機会なんてないだろうし……」
『それもそうよね』
――まほらまのスマホが鳴る。契約者からのコールだ。
「イサギ! 遅刻するぞー」
 また、あちらのほうでもからかうようにGーYAを学友が呼んで――。
「じゃな、まほらま」
『あっ、ジーヤ……』
 まほらまが呟いた言葉は、どこか不思議な響きを持っていた。
『じゃなくて今は「イサギ」なのね』
 まほらまの知らない友人と談笑しながら遠ざかっていく後姿に、ため息ひとつ落とし踵を返す

 横断歩道の手前で振り返ったGーYAは、人波に消える青い髪を眩しそうに見送った。
 もう少し話していたかったけれど。いや、そういう機会もすぐに訪れることだろう。
 ほんの少し。互いの頭をよぎったいやな予感は、気の迷いとして日常にかき消えていった。

 それから、いくらかの時が流れた。

 その日。
 契約者と第一英雄、第二英雄のまほらまは休暇を兼ねて旅行中だった。
 突然のコールにスマホをタップした契約者の顔がみるみる強張って、まほらまに異常事態を知らせる。
『また大規模作戦なのぉ? この所連続じゃなぃ』
 契約者の声は固かった。
「病院に入院してたGーYA君が急変したって」

 連絡を受けたまほらまは、すぐに病院へと向かった。
 GーYAは集中治療室にいた。かつての契約者だと伝えると、すぐに通された。おそらく、話を通していたのだろう。
 まほらまは半ば呆然としながらも医者から説明を受ける。人工心臓の機能低下で入院したが、元々のライヴス異常体質で替えの人工心臓が見つからない事。今、かなり容態が悪いのだということ。
 世界蝕以降、GーYAが生きながらえることができたのは、――彼が能力者であったからだ。
「これを、あなたへと」
 入院中に書いたのであろう、沢山の手紙がまほらまに渡される。
 GーYAの字だ。
 ぱらぱらと、手紙の束をめくっていく。

≪会いたくて声が聞きたくていつも君の事考えてたよ
この気持ちが何なのかよくわからないけど大好きだ
ありがとう≫

 手紙の末文で手を止める。力がこもり、手紙の端がくしゃりとゆがんだ。
 いてもたってもいられなかった。
 まほらまは、静止を振り切り、GーYAの手を握る。
「なにをしているんだ!」
 ドクン。
 心臓が高鳴る。ライヴスの流れを、脈で感じる。
 ドクン。
 霊力をGーYAに送る。
 共鳴しかけて、その感触が消える。その繰り返し。
 まほらまの姿が、ゆっくり消えてゆく。
『ずっとGーYAの英雄でいられたら良かったのに!』
「まほらま、約束」
 微かに聞こえた言葉は、確かに聞こえたものだ。
『無茶言うわねぇそれでこそあたしの……』
 心臓が機能停止する直前、まほらまのナイフが心臓を貫く。
『理想郷で逢いましょう』
 あたりはしんとしていた。
 まほらまを取り押さえることすら忘れ、呆然とする医師らをよそに、まほらま自ら幻影蝶を砕き消える。
 すべてが終わった病室はとても静かだった。

●もう少し一緒に
「嫌なんです! もう家族を失うのは! もう一人になるのは!!」
 柳生 楓(aa3403)は叫ぶように言うと、氷室 詩乃(aa3403hero001)の手を取った。
「だから、邪英化、しましょう。そうすれば、いつまでも一緒にいられますから」
『大丈夫だよ楓。ボクはずっと、君の心の中にいる。いつでも君のことを支えてるよ。ボクたちは一心同体。例えどこにいようとも心は一つさ』

『ただいま! ずいぶん回ったね』
「そうですね、しばらくはゆっくりしましょう。ほかに行きたいところはないですか?」
『考えておく』
 昼下がり。
 ショッピングから帰ってきた二人は、つとめてなんでもないかのように振る舞う。
 ブロークン・シンドロームが少し前から緩やかに進行していることは自覚していた。色々と試せることは全て試したが、効果はなかった。
 一度は、邪英化を考えた。
 けれど。詩乃の願いと最後の我儘を聞き辞め、いつも通りの日を過ごそうとしている。家族であり今まで支えてくれた詩乃の願いを聞くために。
(本当は詩乃といつまでもいたい……)
 それでも、柳生は詩乃の為に残された日々を楽しもうとする。

 いつも通りショッピングをしたり詩乃の行きたいところに行ったり家でダラダラと過ごしたりするのは、詩乃との思い出を少しでも増やすため。

「詩乃、いますか?」
『いるよ』
 楓は詩乃の姿が見えなくなると、名前を呼ぶようになった。無理もないことなのだろう。

 詩乃は、そんなに長く存在することが出来ないと自覚している。半ば症状を止めることは出来ないと悟っていた。諦めている。
 だからこそ、楓の幸せを壊してしまう邪英化を拒否する。
 楓には幸せに生きてほしい、それが詩乃の願いだ。

 これは、最後の我儘なのかもしれない。氷室は考える。消えるその日まで、楓にいつも通り接して欲しいと願う。自分の愛しい人と最後の日まで一緒に過ごしたい。
 楓と別れることはとても辛い。けれど、弱気は見せずに、いつもの詩乃として振る舞う。

 日常は、無情にも過ぎ去っていく。楽しいからこそ、なおさら早く。
「私は、もっと詩乃といたかった……!」
『楓にはボク以外にも大切な人が沢山出来たじゃないか。君はもう一人じゃない』
 氷室は言う。
『それにさ、これは永遠の別れじゃない。いつかまた会える日が来るさ。だからそれまで、しばしのお別れだよ』
「約束、ですよ。また会うって。これで最後じゃないって」
 消えかけた氷室に手を伸ばす。
『最後に一つ。答えは別にいらないから……ボクは、君のことが好きだったよ。友人や家族としてじゃなくて。楓という人物が大好きだった』
「――っ!」
 消えていった英雄の名前を呼び、楓はその場にうずくまっていた。
 部屋には、小さな嗚咽が響いていた。

●もう一度だけ
【……ぁ】
 髪を結おうとしたカスカ(aa0657hero002)は、自身の幻想蝶にヒビが入っていることに気が付いた。
「? どうかした?」
【……ん、別に、なんでもなかったり、して……】
 契約者である御代 つくし(aa0657)に、カスカはなんでもないように答える。
「そっか」
 そう、なんでもないはずだ。……そうであって欲しい。
 それは、ほとんど願望に近かった。
――誰にも言えない。
 
『――という現象が続いており、HOPEは現在――』
 何気なくやっていたニュースでカスカは知った。幻想蝶に入ったヒビは、なんでもないことではないのではないだろうかと。
「何が起きてるんだろうね」
 御代は言う。
 テレビのコメンテーターが、無責任に仮説を並べ立てている。その一つに、カスカの胸は痛いくらいに締め付けられた。
 「お互いを信じていないから」。どきりとしたのは、カスカに心当たりがあったからだ。
 共鳴できないのは、自分が戦闘を恐れているからではないのだろうか。
 やはり自分はここにいてはいけないのではないか?
 ほとんど覚えていない元の世界の、かすかな記憶がささやく。ここは、自分の場所ではないのではないかと。
【大丈夫……だったり、なんだりして……】
「……うん。きっとそうだよね」
 大丈夫と言ってみたはよいものの、それは、カスカが自分に向けた言葉ではない。
 まだ御代には第一の英雄、メグルがいる。だから、大丈夫。つくしはまだ戦えるから、大丈夫。自分がいなくなっても大丈夫。つくしが困ることは無い。
 そういう意味の、”大丈夫”。
 カスカは、震える手を机の下に隠した。
 その後、自分がいなくなっても大丈夫だ。
(……でも)
 ここに居たい。まだ色んな事をしたい。つくしやメグルと、他の人達とも。
 だから消えたくない。
 だったら、どうすればいいんだろう?
 思考は堂々巡り。答えはまだ、分からない。

 御代は、ニュースを見て嫌な予感はしていた。あの時。カスカの声が震えたあのとき、どうしたのかと聞いてみようかと一瞬、迷った。
 しかし確かめることはしなかった。確かめて、もしもそうだったら怖いから。きっと何も出来なくなると思ったから。
(誓約が切れたりなんてしない、大丈夫)
 信じているふりだった。

「ああ、俺たちもだ」
 ゼム ロバート(aa0342hero002)は短く頷いた。つくしとカスカは、目を丸くして驚いた。
【ゼムさん……たち、も……えっと、……共鳴、できなぃ、の……かな?】
「うん、そうなんだ」
 笹山平介(aa0342)は頷いた。穏やかな顔だ。

 エージェントたちの話題は、やはりこの話題で持ちきりだ。彼女たちは偶然、笹山とゼムが共鳴できなくなっていることを知った。
【だ、だいじょぅ……ぶ、なの?】
(……カスカ、やっぱり……)
 青ざめるカスカの様子を見て、つくしは胸が痛んだ。カスカもそうなんだ。
「どうだろう」
 笹山は、本当ならこのままゼムとの約束を果たして終わりにしたいと思っていた。それでもよかったのだ。

 現実はとても重い。
 エージェントと能力者の関係は、根が深い。下手に扱いを誤れば命に関わる問題だ。根本的な解決策は未だにない、といわれている。
【……ぁの……】
 しばしの沈黙のあと、控えめに、しかしまっすぐに、カスカは顔を上げた。
【ひょっとしたら……ほかの人、なら、……えっと、共鳴……できる、か……も、しれないな、って……】
 それは、一つの可能性だった。
【ぼくは、まだ、この世界で、したいことがたくさん……あり、ます。力を貸して、ほしい、です。お願い、します……っ】
 ちいさな、震える声。はっきりした意思のある言葉だった。
 その姿に、二人の心は動かされた。
 強く願っているのであれば、この子の為に力を貸そうと思った。
「もう少しだけ頑張ってみようかな……君の為に……」
『カスカはつくしとの共鳴で悩んでいる……それなのに平介との共鳴を試そうと言うなら
しばらく平介を貸してやってもいい……』
(それに)
 それ以上は口には出さなかったが、心の中でゼムは思っていた。
(お前達はどこか似てるしな……)

 ゼムには、平介と共鳴できなくなった原因はわかっていた。
(だから全てを終わらせてやろうと思ったが、俺は『嘘つき』がキライでな)
 ゼムは、カスカの様子をちらりと見て、声をかける。
(ただ、今の平介と共鳴するなら……少しでも心を動かさないとな)
『カスカ……お前がこの世にとどまりたい理由と……力を貸してほしい……という言葉があれば平介も……』
【……ぅ、ぅん……!】
 カスカは頷く。
(目の前で「自分」を必要とし新たに傷つくかもしれない存在が居れば。出来なかった時は俺も平介もこの世から消えるだけだ……誓約以外の約束は果たしてもらう)
(まだ、いたい。この世界に。まだ……)
 カスカは、笹山に手を伸ばす。忘れかけていた感触が、少しだけあった。それを押しとどめるように、世界を認識する。

 ゼムもまた、つくしとの共鳴を試みる。
『条件はそうだな…『【二人】で戦う』
「二人で……『一人で戦わない事』だね!」
『ああ』
 ゼムは頷く。
『互いの大事なモノを奪われない為に……俺が力を貸す以上お前に後悔はさせない、約束する』
 向かい合ってみれば、その言葉の重みがわかるような気がした。つくしもまた、まっすぐに受け止めようとする。

 胸に、暖かいものが満ちる。ずっと分かっていたはずなのに、なぜだか懐かしい感覚。絆が震える感覚。
『本当は俺じゃないはずだ』
 兆しが見えたところで、ゼムは、つくしにカスカとの誓約をもう一度薦める。
 これで上手くいかなかったら。想像して、振り払うように首を横に振る。
『カスカともう一度誓約をしてみろ……』
 ゼムが背中を押す。
『お前の言葉には不思議な力を感じる』
 カスカは頷いた。励まされるように、瞳に自信の色が宿る。ゼムはカスカが原因なら、不安で誓約に応えられていないだけだと思っていた。

 つくしはカスカともう一度誓約を結ぼうと手を差し出す。
「……もう一回。『一緒に歩こう』、カスカ」
【ぅん……】
 陰を引き留めるように、抱きしめる。
 暖かい絆が、胸に満ちる。
 上手くいった。とりあえず、この一瞬は。失われていた、ダメだったと思っていたものが戻ってきた。
 永遠ではないのかもしれない。また、これが揺らぐ時が来るのかもしれない。けれど、この一瞬だけはまた、共鳴できた。
 誓いを追える頃には、どちらも涙で顔をぬらしていた。

 ひとまず上手くいったところで、ゼムはつくしとの誓約を解除する。
『【三人】になっちまったからな』
「うん」
 カスカとの共鳴を果たした笹山は、まだこの世に居るべき理由を見出していた。ここで終わり、ではない。新たな約束を。
『互いに決めた【約束】を守る』
 笹山は、ゼムの誓約に応じる。自身の英雄を護ると心に誓う。”約束”だ。

●母と子
「はっ!」
 手裏剣が的に突き刺さる。
 的に向かって、狙いを定める藤林 栞(aa4548)の姿を、藤林みほ(aa4548hero001)は頼もしそうに眺めている。藤林みほは、異界から現れた19才の頃の母親である。
 今はもう少し遠いが、能力者ではなくなったら、元の身体能力の手裏剣の間合い……4m前後に戻るのだろうか。
 慣れておかなければ、と、心に決める。
 手裏剣は、見事に真ん中に突き刺さっていた。

 藤林家は、元々忍者の家系として普通の人間の身体能力を前提にした技術で何百年もやってきた一族だ。
だから、リンカーの特殊能力を生かして活動していた時のほうが異常で、普通に戻っただけなのである。

 栞の脳裏に、英雄と交わした在りし日の光景が浮かぶ。

「旅枕の術というのは、宿などで刀の下げ緒を体にかけたまま寝ることで、盗まれないんです」
「幻想蝶に入れればいいんじゃないの?」
「幻想蝶が、もしも使えなくなった時……陳腐化した昔の技術を捨て去ってしまえば、大変なことになりますよ。江戸時代の砲術師が月給をもらって火縄銃の技術を維持していたから、明治維新の火器化に対応できた時のように……」

(そんな話をしたこともありましたっけ)
 それが今、というわけだ。
 能力者だったころのようにジャンプで一息には壁は登れないが、脚をひっかけるロープがついた杖をよすがに登る。この杖は忍び杖と呼ばれるものだ。身体能力が多少弱くなったとしても、日頃の訓練が染みついた体は、いろいろなことを覚えている。
 自宅周りにある、桶や坂道、砂袋。鍛錬道具。
「なつかしいなあ……またこれくらいの能力に戻るのかな」
「お疲れ様、みほ」
「母さん……」
 訓練を終えたところで、藤林みほ――英雄ではない、40代の女性が栞をねぎらう。
 英雄の藤林は、10代の姿で顕現した母親なのである。
「自分の似姿が消えるというのもへんな感じね」
「そうね」
「藤林家の初代も、大蝦蟇を名乗る英雄で出てきている……藤林の初代が存在しなかったとかかな?」

「英雄現象はたかだが数十年のこと、歴史をなり替わるのは無理でしょうけど。英雄は愚神と大差ないと騒がれていた現象もとうとうこれで終わりというのも不思議な気持ちね」
 さて、と、みほは背伸びをした。
「私、17歳のみほはこれでお別れ。数十年後の私を大事にしてやってよね」
「自分自身に言われるのもおかしいわね」
 英雄が、異界ではなくて現代のミホに重なるように消えてしまう。振り返った母は、――もともとが同じ人物だからおかしな話だが、どことなく面影があった。
 失ってしまったさみしさと、それでも変わらぬものへの感謝がない交ぜになった、気分が胸を満たす。つう、と頬を涙が伝った。
「母さん……改めてこれからもよろしく」

●4月は終わり

「もう朝? 今日は……ああ、4/2か。エイプリールフールおわったんだっけ…」
「涙の筋ついてるけど、どうしたの」
 何でも無いように言うみほに、栞は頬を拭った。
「ううん、今日もリンカーの仕事がんばろうね!」
 また、いつも通りの朝。エージェントたちは、今日も能力者と英雄であり続ける――。

結果

シナリオ成功度 普通

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 薄明を共に歩いて
    木陰 黎夜aa0061
    人間|16才|?|回避
  • 生満ちる朝日を臨む
    真昼・O・ノッテaa0061hero002
    英雄|10才|女性|カオ
  • 分かち合う幸せ
    笹山平介aa0342
    人間|25才|男性|命中
  • どの世界にいようとも
    ゼム ロバートaa0342hero002
    英雄|26才|男性|カオ
  • 花咲く想い
    御代 つくしaa0657
    人間|18才|女性|防御
  • 想いの蕾は、やがて咲き誇る
    カスカaa0657hero002
    英雄|20才|女性|ドレ
  • ハートを君に
    GーYAaa2289
    機械|18才|男性|攻撃
  • ハートを貴方に
    まほらまaa2289hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • これからも、ずっと
    柳生 楓aa3403
    機械|20才|女性|生命
  • これからも、ずっと
    氷室 詩乃aa3403hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • 光旗を掲げて
    フィアナaa4210
    人間|19才|女性|命中
  • 翡翠
    ルーaa4210hero001
    英雄|20才|男性|ブレ
  • サバイバルの達人
    藤林 栞aa4548
    人間|16才|女性|回避
  • エージェント
    藤林みほaa4548hero001
    英雄|19才|女性|シャド
  • ひとひらの想い
    茨稀aa4720
    機械|17才|男性|回避
  • 一つの漂着点を見た者
    ファルクaa4720hero001
    英雄|27才|男性|シャド
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