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最終発言2017/04/08 10:19:52 -
【相談卓】指輪を盗み出せ!
最終発言2017/04/07 19:28:45
オープニング
この【AP】シナリオは「IFシナリオ」です。
IF世界を舞台としており、リンクブレイブの世界観とは関係ありません。
シナリオの内容は世界観に一切影響を与えませんのでご注意ください。
●怪盗
人気のない山奥に建てられた屋敷には、警察が集められていた。中世ヨーロッパの城を思わせる荘厳な屋敷は、ここに住まう一族の財力をこれでもかと誇示している。だが、ここの主は若干十三歳の少女であった。
「……お願いします。怪盗から……この指輪を守ってください」
エステルが持つのは、生前彼女の祖父が買い求めたルビーの指輪である。宝石のコレクターであった祖父がこの指輪を買ったとたんに、エステルの家族の死の連鎖が始まった。一部では呪いの指輪ではないかと囁かれるようになってしまったが、それでもエステルにとっては大事な祖父の形見である。
「わかった。エステルさんの身柄は私が全力で守る」
警官であるアルメイヤは、警護対象の指輪そっちのけでエステルの手をとった。
「あの……アルメイヤ警部さん。守るのは、私ではなくて……その指輪で」
「大丈夫だ。怪盗HOPEから、ついでに指輪も守ってみせよう」
――……この人、基本的に人の話を聞かないんだ。
エステルの不安は強まった。
●警察の維持
怪盗HOPEとは、盗みを専門とする組織である。そのため、特定の人物を怪盗HOPEとは呼ばない。彼らは一定のルールに従い盗みを実行する、犯罪組織なのである。
怪盗HOPEのルール、その①
・盗みで死人は出さない。
怪盗HOPEのルール、その②
・組織の秘密は死んでも守る。
怪盗HOPEのルール、その③
・盗む前には予告状を。
この三つのルールを順守し、彼らはいたるところから貴重なお宝を盗み出すのである。
だが、警察もやられっぱなしではない。
「さぁ、来い。今回は万全の準備で迎えてやろう」
部下たちを引き連れたアルメイヤは、にやりと笑った。彼女の手には握りつぶされた予告状があり『屋敷にある呪いの指輪を受け取りに参上する』と書かれている。
「まぁ、もっともコレクションルームにある指輪は偽物だがな」
解説
・怪盗になって、エステルが持っている指輪を盗みだしてください。
屋敷(夜)
ヨーロッパの城のような屋敷。いたるところの警官が配置されている。
庭……木々が生い茂る庭。身を隠して屋敷に近づくことは比較的簡単だが、窓や玄関付近には物がなく忍んで入るのは難しい。(警官配置10名)
・1階
玄関……大きな玄関。(警官2名配置)
居間……美術品が数多く置かれた豪奢な部屋(警官3名配置)(窓2か所)
食堂……高価な食器が並べられた部屋(警官2名配置)(窓4か所)
大広間……豪奢な調度品が置かれた部屋(警官5名配置)(窓3か所)
階段……室内から2Fへ行く唯一の道(PL情報――警官がいないように見せかけて2名配置されている)
・2F
・祖父の書斎……本棚がたくさんある(警官2名配置)(窓1か所)
・両親の寝室……ベットと本棚ぐらいしかないシンプルな部屋。(警官2名配置)(窓1か所)
・コレクションルーム……指輪や他の宝石類が置かれている部屋。指輪は部屋の中央にあり、盗まれると警報が鳴り警官たちが部屋に押し寄せてくる。(警官3名配置)(窓なし)
・エステルの私室……エステルとアルメイヤがいる部屋。(アルメイヤ以外の警官なし)(窓一か所のみ)
・エステル――基本的に私室から動かない。(PL情報――コレクションルームにある指輪は偽物で、本物はエステルが指にはめている)
・アルメイヤ――エステルの側を離れたがらない。怪盗を見つければ、そちらを追いかけにいく。エステル至上主義。攻撃はしてこない。
・警官――アルメイヤの部下。犯人らしき怪しい人影を見ると追いかけ、すぐに手錠をはめようとする。手錠をはめられた怪盗は、祖父の書斎に一時的に捕えられてしまう。なお、警官は全員がコレクションルームにあるのが偽物であると知っている。
リプレイ
「ふふーふ、怪盗と言えばやっぱりこれでしょう!」
シルクハットに片眼鏡、黒いマントをなびかせた木霊・C・リュカ(aa0068)は微笑む。
『内面は三世の方に近そうですが』
「お兄さんは内面も紳士な怪盗の原点のほうだよ」
世界一有名な怪盗の恰好をして上機嫌なリュカは、凛道(aa0068hero002)に本日の目的を尋ねる。
『あの怖い女性から幼気な少女を助け出せばいいのですねわかりました』
「やだ凄い、全然わかってない……。あれ、もしかして予告状もそんな意味で書いちゃったのかな?」
『あるいは、征四郎さんのレオタードの写真を撮るんですよね』
「おっと手が滑った」
リュカは頼りになるはずの相棒の後頭部を、ぺしっと叩いた。
「予告状……しかも、着払いとはふざけているのか」
アルメイヤは、届いた予告状を握りつぶす。
握りつぶされた予告状には『少女の心と指輪は頂きに行くよ!』と書かれていた。
●
塀の上には、人影があった。
「ねぇ、ストゥル……なんでレオタード、着ないといけない、の?」
ニウェウス・アーラ(aa1428)は体にぴったりと張り付くレオタードに難色を示す。こんなものを普通に来て歩いていたら、通報まではいかなくとも職務質問はされるであろう。ところが、隣のストゥルトゥス(aa1428hero001)は胸をはって大張りだ。
『怪盗といったらレオタード。これ常識ですハイ』
「初耳、なんだけど……」
世界中の怪盗がレオタードを着ていた日には、体操系の競技団体から苦情がきてしまいそうである。
『という事でぇ。ボク達が囮になりまッス』
「怪盗って、普通……忍び込む、よね?」
『いやいや、怪盗は目立ってなんぼですよ? 最近は忍者だって目立っているしね』
「……なんか違う、気がする」
怪盗と言えば、世を忍んでいそうなものだが…….。
ストゥルトゥスが『スタート』と叫ぶと、ばっと明かりついた。背中からライトで照らされた二人は、当然警官たちの目を引いた。
「おい、なんだあれは?」
「あれは……レオタード?」
警官が集まってくる中でストゥルトゥスは、堂々と名乗りを上げる。
『ふはははは! 怪盗HOPE、只今参上!』
「ぁの……すいません。指輪、貰いに来ました……」
控えめにニウェウスも呟く。
恥ずかしい。
「バビっと盗んでやるから覚悟しろ」
「ところで……この光、どこから?」
「そこはツッコんじゃいけないお約束デス」
にかっと笑うと、ストゥルトゥスは全速力で逃げ出した。
それを呆然と見ていた警官の一人が、はっとする。
「怪盗HOPEが出たぞ!! 特徴はレオタードだ。とりあえず、レオタードの奴を捕まえろ!!」
●
外の警官たちが必死にレオタードを追っている頃、それに乗じて屋敷内に忍びこもうとしていた怪盗たちもいた。
『いいねー、やっぱウェンディ可愛いねぇ。』
ネイビーブルーを基調とした派手な衣装に身を包むロザーリア・アレッサンドリ(aa4019hero001)は上機嫌である。だが、怪盗に派手さ必要だろうかとウェンディ・フローレンス(aa4019)は首をかしげる。
『なら、次はレオタードでいってみよっか?』
「お断りします」
コンマ一秒でウェンディは、レオタードを否定した。
ロザーリアは笑いながら、ロケットアンカー砲で庭の木から屋根に移動する。そして、二階の窓から屋敷内へと侵入を果たした。ロザーリアたちが侵入したのは、両親の寝室であった。当然、そこにいた警官たちと鉢合わせすることになる。
『イェーイ。予告状通り、ロザリーさん来たよー!!』
警官に向かって手を振るロザーリアに、ウェンディはため息をつく。
「……私の体で恥ずかしいんですけど」
『大丈夫、きっと他の人が侵入しやすくなる』
ちなみに、同じような理由で屋敷の外ではレオタード姿のストゥルトゥスたちが追い掛け回せれていることを二人はしらない。
「……今思いつきましたわね」
ともあれ、警官に囲まれてしまっているこの状況は面白くない。
ロザーリアは、フラッシュバンを使用した。
『このまま警官たちを引き付けるために、もっと目立つことをしないとだよね!!』
「やめてください。これ以上、わたくしの体で恥ずかしいことをしないで欲しいですわ」
ウェンディの嘆きを聞きながら、ロザーリアは逃げ出した。
「追え、追うんだ」
警官たちがそんな二人の後を追いかけるのを確認し、アンナ・ニールセン(aa4711)が天上から落ちてきた。
「危ないとこだった。ウェンディたちがこなかったら、降りるのが難しかったかもな」
今回は英雄が助けてくれないしな、とアンナは呟く。英雄は今回は留守番なので、自分で培ってきた怪盗の技術だけが頼りだ。
「さて、せっかくのスパイスーツの見せ場だな。いや、見つかっちゃいけないんだけど」
一人でツッコミしつつ、「ん?」とアンナは首をかしげる。
「あれは……お仲間か?」
窓の外には、曲芸師の姿があった。
正確には、ピエロのような恰好をしたヴェロニカ・デニーキン(aa4928)の姿であった。枝から二階の窓まで、傘を持ちながらの綱渡り。
「今日は風もなくてよかったな。さすがに風が強い時は、屋外で綱渡りをしようとは思わない」
『泥棒中にも、普通は綱渡りをしようとは思わないんじゃないですかね……』
普通に綱を渡るのに飽きてきたのか、ヴェロニカはロープの上で逆立ちを始める。アンナは「なんで、盗むときに綱渡り?」と藤山長次郎(aa4928hero001)とほぼ同じツッコミをした。
「やはり、観客がいないと盛り上がらないものだな」
『警官に見つかったらまずいですよね。……そもそも、衣装からして忍ぶ気はゼロのようですが』
せめて忍者服のような暗色の色をきてくれ、と藤山長次郎は願った。
「しかし、暗い色では見栄えが悪い」
『本当に……気にするところはそこじゃないですよね。ほら、警官が来ましたよー』
「くっ、仕方がない。ここは一度撤退だ」
綱渡りを止めて華屋根に飛び移るヴェロニカを見ながら、アンナは「もう普通に曲芸師やったらどうなんだろうか」と思った。
「フハハハ! 怪盗HOPEが期待の星……《エクセレント・ブロス》華麗に参上! 俺が来たからにはどんなセキュリティも無意味だ! 皆の衆、遅れを取るんじゃあないぞ!」
電子技術担当の阪須賀 槇(aa4862)と阪須賀 誄(aa4862hero001)が両親の部屋の窓からやっとのことで忍びできた。
「サポートが受けれるのは嬉しいが、本当に大丈夫なのか?」
アンナの厳しい視線に、誄は何とも言えない表情を作る。
『兄者が一番、足引っ張るんだよなぁ……』
だが、そんな会話はつゆ知らず槇はパソコンをいじりだす。
『どうだ兄者、行けそうか?』
「うむ、セキュリティガバガバだぞ弟者。カチャカチャカチャッターン! っと……OK、監視カメラくんはずっと同じ景色を流してて貰いますよっと」
思ったよりまともな仕事をするではないか。
安心したアンナは、部屋を出た。
――彼女は知らなかった。
「……って、あぁあああッッ!?」
『どうした兄者』
誄の言葉に、槇は油を刺し忘れたロボットのようなぎこちない動作で振り返った。
「監視カメラにだけ映る、ホログラムを作ったんだけど……ほ、ホログラム……服着せるの忘れてた……ほ、他の人のも……」
誄は、唾を飲み込む。
『お……女の子もだよな』
「いいや、女の子は全員がレオタードになってる」
不幸中の幸いというか、残念というか――レオタードでも十分に嬉しいというか。
『とりあえず、兄貴。全裸はまずいよな、全裸は。何かしらの対策をとってくれ!』
言いながら誄は、絶対に槇はドジをするなと思った。
「わかってる。急ごしらえで悪いけど、とりあえずパンツは履かせよう。今は、それぐらいしかできることはないんだよね」
槇の言葉に、誄は『もういっそホログラム消そうよ』と思った。
「よし、これで完璧だよね」
こんなときに限ってドジをしない槇の働きによって、監視カメラにパンツ一丁の泥棒が写りこむという珍事が発生していた。
●
『さぁ、今夜も華麗に盗んで見せようか!』
「盗みで救いを届けましょう!」
黄昏兎(トワイライト・ラビット)を名乗る藤咲 仁菜(aa3237)は相棒リオン クロフォード(aa3237hero001)と共に屋敷に忍び込む。
『兄者さんのハッキング技術は尊敬してるけどね? でも、一緒には行動しないかなー。巻き込まれたくないし』
ちなみに、監視カメラには彼のパンツ一丁の映像が流れている。
「先に忍び込んでいるだから……もう何かしらの被害は出て、収まっているはずだよね」
仁菜もうなずく。
ちなみに、監視カメラには彼女のレオタード姿も移りこんでいる。
『きっと兄者さんたちは捕まっているだろうけど。君たちの犠牲は無駄にはしないよ!』
「目的の為なら犠牲も必要です」
仁菜とリオンは拳を握るが、十二分に彼らも犠牲になっている。
『おっ、仁菜ちゃんたちか』
ガルー・A・A(aa0076hero001)の声が聞こえ、仁菜とリオンとは振り返った。そして、言葉を失った。
「気持ちはすごく分かるのです。すごく……」
紫 征四郎(aa0076)は、自信の相棒から目をそらした。ガルーは筋肉の隆起さえよく分かるぴっちりとしたレオタード姿だった。
「いい加減、ガルーまでレオタード着るのやめませんか……」
『怪盗といえばレオタードって決まってるの! これは義務!』
ガルーは、力強く力説する。
『なかなか面白い衣装やわー』
「あー、たしかにそんな漫画あったよな」
彼杵 綴(aa5062)と共鳴したツツジ(aa5062hero001)が、闇夜からぬっとあらわれる。暗色の着物を身にまとっていたせいで、ツツジの姿は見えにくいものとなっていた。
『綴、あんたさんならどこにお宝を隠しよる?』
「俺ー? んーあー……まーコレクションルームじゃねぇ? 警報なるし」
ツツジは、ため息をつく。
『浅薄やなぁ』
「はい!?」
ツツジの言葉に、綴は目を白黒させていた。
『警報なるいうたら既に盗られた後も同然やろ。後手にまわる様なとこに置く意味が分からんわぁ。ほんまにコレクションルームに置いとるんやったらこっちは楽やけどな?』
ツツジの言葉に、綴はぐうの音もでなかった。
「なるほど、コレクションルームに置いていない可能性もあるのですね」
むむむ、と征四郎は考える。なにせ、リュカとはどちらが先にお宝を盗めるか競走中なのである。
「どちらが先に盗めるか、勝負中です。負けられません!!」
『俺様も負けられないぜ』
征四郎にも言っていないが、ガルーには盗みだしたい宝がもう一つあった。
『征四郎、アルメイヤさん今日もいるみたいだぜ。ああ、相変わらずお美しい……』
「今日の目標はアルメイヤではなく呪いの指輪なのです。ちゃんとやってください!」
●
『交代だそうです、ええ、こちらはお任せ下さい』
警官の恰好をした凛道は、祖父の部屋を警備していた警官に向かって敬礼をした。凛道と共鳴していたリュカは内心ほくそ笑む。
「ふふーん。これが王道にしてもっとも成功率の高い作戦……必殺警察官に成り代わり作戦だよ!」
凛道は自分と共に残されてしまった警官を殴りつつも、リュカに対して反論する。
『単に警官を殴って気絶させて、衣類を盗み取っただけですよね』
ちなみに、殴って気絶させた警官は庭の木々の影に放置している。
『さて、事前情報によるとここは祖父の書斎ですが……』
「世代交代をしているなら、ここに宝がある可能性は低いかもね。違う部屋に行ってみようか」
リュカたちは部屋を出て行こうとしたとき「待ってください!」という声が響いた。
縛られているヴェロニカであった。
「縄を……縄をほどいてください」
うううっと悔し涙を流すヴェロニカは、とても目立つピエロの様な恰好。
『ヴェロニカさんがもう少し若ければ非常に心躍る光景なのですが……』
凛道の発言に、リュカがアウトーと叫ぶ。
「一体、なにがあったのかな?」
「コレクションルームにある指輪を発見したんですが……」
ヴェロニカの話によると、彼女は警官に追いかけられながらも奇跡的にコレクションルームにたどり着いたらしい。
「あの手のお宝を守るためには、床にセンサーがついているものです。普通はついているのです」
『いくら立派な屋敷だからって、そこまでの警備システムはないですよ』
と長次郎は止めた。
しかし、ヴェロニカは聞く耳を持たなかった。
「ロープを設置し、つりあがってお宝を取ろうとしたところを警官に『ここまで怪しい人間は見たことがない』と言われて捕まりました……」
ちなみに、警官たちは普通に床を歩いていたので床にはセンサーは元々なかったという。
『長次郎の話を聞かないばっかりに……情けないですよ』
「……映画のお約束では、絶対にセンサーはあるんだ」
ヴェロニカは、ぼそりと呟いた。
「あたしも助けて!」
ヴェロニカの隣で縛られていたアンナも悲鳴を上げる。
『アンナさんがもう少し……』
「さすがに二回目は言わせないよ」
結構女性に対して失礼だからね、とリュカが笑顔で注意する。
「あたしもコレクションルームにたどり着いた……」
持てる技術、持てる道具を使って、アンナはコレクションルームに向かったという。長い旅路であった、困難な道であった。あると思っていたレーザーが張り巡らされている部屋はなく、解除のために持ってきた道具は重い。落とし穴などのトラップもなく、回避のために持ってきた道具はやっぱり重かった。それでもアンナは、コレクションルームにたどり着いた。
「絶対にあるいと思ったんです。レーザー系の罠が」
映画みたいな罠を警戒することが流行っているのだろうか、とリュカは思った。
「いいところまでは行ったんだ。でも、指輪を取ろうとしたら警官に見つかって……」
お縄についてしまったというわけである。
「そういえば警官が『よくもまぁ偽物に引っ掛かるもんだな』と言っていたような気がするな。あれが偽物だったとしたら、今回は本当に大失態だ」
へこむなー、とアンナはうなだれる。
「長次郎、本当にこの縄はどうにもならないんだな?」
『さっきも言いましたよね。縄抜けは縛られる時にタネがあるので、縛られ終わった後じゃ無理ですよ』
「あたしは無理だけどヴェロニカたちは共鳴を解いたら? そしたら、二人に別れるから片方が縄をほどけばいいよね」
アンナの一言に、「それだ!」とヴェロニカは目を輝かせた。
●
一方そのころ。
『兄者、警官が来てるぞ』
「わ、分かってるって弟者」
槇と誄であった。さっきまで部屋でホログラムを作っていた二人が、なぜ二人が警官に追いかけられているかと言うと――
「OK! 30秒後にここで俺たちのホログラムが出現して大声で喋りますよっと!!」
『現実の兄者の声のほうが大きんだよな……』
「お前たち、こんなところで何をやっているんだー! はっ、おまえは監視映像に映っていた全裸の男だな!!」
と言う感じで警官に見つかったせいである。
「あのホログラムは全裸じゃないよな。ちゃんと立派なパンツをはいてますよっと」
『OK、それはもう全裸の領域だろ』
怪盗ではなく、不審者として追いかけられていることに誄は悲しみを覚えた。
「フハハハ! このエクセレント・ブロスを捕まえる事など不可能どぁああああッ!?」
コードが抜けたっ!! と叫びながら槇は転倒する。
何やっているのだろうと思いながら後ろを振り返ると、パソコンを持ったままの槇の姿。どうやら、彼は今日のためにとても長い延長コードを持ち込んでいたらしい。それが刺さったまま走り、延長コードの限界が来てパソコンから外れ、その勢いでうっかり転倒したようである。
『何をやってるんだ兄者、置いてっていいか』
いっそ見捨てて外に逃げ出したい弟であった。
「ひぃいい、弟者ぁああ。助けてくれぇえええ!」
薄情な誄に、槇は悲鳴を上げた。
そんなことをやっているうちにも、警官は迫ってきている。
『OK、見えたぞ。兄者が逮捕される未来が』
「そんな未来は見ないで!!」
槇はパソコンを手放し、悲鳴を上げた。
『戦闘とか御免やわぁ。まだこっち来たばっかで馴染んでへんさかい、六門ぜえんぶ開門出来ませんよって』
ツツジの声が響いた。
『怪盗HOPEは盗みで死人を出さないんだぜ。大丈夫、ちょっと痺れるだけだよ』
ポイズンボトルの毒を染み込ませたピキュールダーツを投げたのは、リオンであった。
『仲間うちが陽動しよるうちにこっそり盗ませてもらいたい……んやけども』
「警官たちも俺たちの侵入に気が付いているみたいだよな」
綴は「どうする?」とツツジに尋ねる。
ツツジは、『はぁ…ほんまは誰にも見られたないんやけどなぁ』とため息をつくばかりであった。
「警官たちがレオタードとか裸の男とか言っているのも気になりますよね」
綴の言葉は、征四郎がエステルに変装して手に入れた情報であった。ちなみに、ついでに本物の指輪の情報も調べてきてもらっている。
「指輪はエステルが持っているようです」
『なら、エステルを探すぞ。でも、こんなときに変質者も侵入してきたのか?』
仁菜とリオンの言葉に、槇の肩がびくりと震えた。
確実になにかをやらかした、とリオンと仁菜は思った。
『なにか、知っているんどすえ? うちらはあいにくと他の面々と連絡をとっておらへんから、変質者いれわれてもピンとはこなくてなぁ』
ツツジの問いかけに、槇は正直にレオタードと全裸とホログラムの件を白状した。
絶句した面々の中で、一番早く正気を取り戻したのはツツジであった。
『あんさん、あとで覚えときや』
京言葉で喋るツツジに凄まれ、槇は固まった。
『ったく、案の定おっちょこちょいじゃないか兄者』
「うぐぐぐ……漏れの《カッコ良くきめてモテよう》作戦が……」
『……兄者、良い言葉がある』
「なんだ?」
『……「人」の「夢」と書いて「儚い」って読むんだ。はい、選手交替』
せめて誰にも迷惑が掛からないように脱出しよう。
弟して誄は、それだけ心に決めた。
●
「怪盗と言えば秘密道具、ってことで。そろそろイきます」
「ねぇ、ストゥル……。これ、本当に大丈夫なの?」
ストゥルトゥスにおんぶしながら、ニウェウスは尋ねる。
なんというか、悪い予感しかしない。
「うんうん、大丈夫ダヨ。テスト済みだしね」
「ん、それなら……」
「頭の中で」
「ゑ」
「では。ストゥル、いっきまーす☆」
ライヴズジェットブーツのスイッチを入れて、二人の少女の体が浮かび上がる。
ついでに、ニウェウスの悲鳴も闇夜に響き渡る。
「いや、ちょ、待ってぇー!?」
庭にいた警官たちの注目を一身に浴びながら、二人は屋敷の窓をぶち破った。ぱりーん、と砕け散るガラスの音を聞きながらニウェウスは生きていることの素晴らしさを再確認する。
『お、そちらも囮作戦中かな?』
偶然にも部屋のなかにいたロザーリアが陽気に挨拶をする。ちなみに、手には何故か金のジャスティン像。
『奇遇だね。ボクたちも囮作戦中だよ』
笑いながらストゥルトゥスは、物音に気が付いてやってきた警官たちに関節技をかけていた。
『こっちはコレクションルームに行ったんだけど、警官たちの話によると指輪が偽物らしくて……無論あたしは気が付いていたけどね』
ロザーリアは胸を張るが、ウェンディは「驚いていたくせに……」と呟いていた。
『でも、折角だし。指輪の代わりに金のジャスティン像を置いてってあげよかと思って、コレを取に戻ってきたんだよ』
「足がついたりするかもしれないから、余計なことはしないでください」
怪盗HOPEという組織が、金のジャスティン像一つで壊滅したら末代までの端である。ロザーリアは冗談だと言っていたが、止めなければやっていたなという確信がウェンディにはあった。
「金の像を置いてきたり、節技をキメる怪盗って聞いた事がないよ!?」
騒ぎを聞きつけてかけてきた警官たちに、そこらへんにあったものを投げながらニウェウスは悲鳴を上げる。
『怪盗はパワー!』
「違うよね!?」
もう誰か助けてー、とニウェウスは叫んだ。
『そうそう、怪盗に必要なのはパワーじゃないよね。怪盗に一番必要なのは、派手さだよ』
語尾にハートマークでも付きそうなほどに上機嫌なロザーリアは、フラッシュバンを使用する。その光の中でウェンディは
「派手さもパワーも怪盗には不要ですわ」
と一人でツッコミをいれていた。
「警官もひるんでるし、そ、そろそろ逃げる、頃合い?」
もうこれ以上はここにいたくないニウェウスは、恐る恐るストゥルトゥスに尋ねた。
『イエス。夢にまで見た、窓を突き破って外へ飛び出すチャーンス!』
「これ……本当に、怪盗なのかな……っ」
最後の最後まで、ストゥルトゥスは元気だった。
●
本当は、エステルの側を離れたくはなかった。
だが、怪盗や変質者は入り込んだという知らせが入ればそうは言っていられなくなる。アルメイヤは断腸の思いでエステルの側を離れて、部下たちに指示を出すために廊下を歩いていた。
『アルメイヤさん』
男の声が、アルメイヤを呼び止める。
ガルーであった。
月光を背負いながらガルーは、アルメイヤに微笑む。そして、手品のように幻想蝶のなかにいれていた薔薇の花束を取り出した。ガルーが自ら吟味した真紅の薔薇は、あでやかな見た目とふくよかな香りが同居している。
『アルメイヤさん! あなたを拐いにきました!』
どうぞ薔薇を受け取ってください、とガルーは花束を差し出した。
アルメイヤは『よし、こいつを逮捕しよう』と数秒で判断した。レオタードで薔薇の花束を持ち、監視カメラの映像はパンツ一丁。すぐさま手錠をかけるべき罪状はそろっていた。
いきなり手錠を取り出したアルメイヤに、ガルーは目を丸くする。だが、ここで引いてしまっては男が廃るというものである。
『俺様は、あなたのハートを浚いにきたんです。次の満月に、二人で会いませんか?』
『私の心は三百六十五日、年中無休、二十四時間営業でエステルのものだ。私の心を盗むということは、エステルを浚うということか……!』
話が全然通じない、とガルーは焦り始める。
『いや、そういうことではなくて……あなたとデートがしたいのです』
直球で攻めてみた。
『よし、牢屋まで付き合ってやろう。安心しろ、できるだけ刑期が長引くように余罪をたっぷり調べてやる』
現実の警察官から、怪盗ガルーは逃げ出した。
●
盗賊たちはエステルが一人になったのを見計らい部屋に侵入する。ツツジは睡眠薬を飲ませてエステルを眠らせたかったが、仁菜はそのまえに彼女と話がしたいと言ったのだ。
『さて、エステルさん、その指輪を渡してくれる? それは普通の人が持ってちゃいけないものだよ。君まで取り込まれる前に、何とかすべきだ』
リオンは、部屋で一人指輪を守るエステルに語りかける。
だが、エステルは指輪を握りしめるだけであった。
『エステルさんが今無事なのは、家族の愛が守ってくれてるからだよ。でもその指輪の前にその効果がいつ切れるかも分からないの。エステルさんが守るべきなのは指輪じゃない。指輪より、大切なものいっぱいあるでしょ? エステルさんの<これから>を大事にしなくちゃ』
呪いの指輪を持ち続けていれば、いつかエステルにも害が及ぶかもしれない。
仁菜はそれを恐れていた。
『<これから>が分からないなら、一緒に探すの手伝うよ!……一緒にくる?怪盗も楽しいよ!」
リオンの申し出に、エステルは首をふる。
「私は……屋敷を守るという自分の役割からは……逃げません。この指輪が……私の役割の害となるのならば」
きらり、ときらめくルビーの指輪がリオンの掌に落ちた。
「すいません、頂いて行きますね。これをあなたが持つこと、お爺様は望まないと思うのです」
征四郎は、小さな声で謝ることしかできなかった。
●
リュカは、躑躅の花を握るエステルに語りかける。
「ふうむ、お兄さんとしては少女に辛い顔をさせるのは性に合わないからなぁ」
あの指輪を取り返してきてあげようか、とリュカは尋ねる。
「……いつか、私があの指輪の……あるかもしれない呪いに勝てるぐらいに強くなったら……自分で手元に戻します」
それまでは怪盗さんたちにお預けします、とエステルは呟く。
「仕方ない、今宵は心だけ頂いて帰りましょうか! 君の未来に、幸多からんことを願って」
リュカは、エステルの小さな手の甲に唇を落す。
次に風が吹いたとき、屋敷をいた怪盗たちは全員がいなくなってしまっていた。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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