本部

ゴールドラッシュを再び

鳴海

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
多め
相談期間
5日
完成日
2017/04/04 17:35

掲示板

オープニング

● 資源のない町。
 かつて廃坑となった洞窟に愚神が出現した。
 日本の隅っこにある町、D市。
 今は人口数千人の小さな町は、かつて何万もの人々が集まる豊かな町だったそうだ。
 町は豊かさに身を任せてその資金源である山をどんどん掘り進んだ。
 鉱石、鉄、金。石炭。
 金になるものは全て掘りだし。その結果。
 空っぽになった山と、空っぽになった町が残された。
 なぜこんな何もないところに愚神が。
 そう誰もが思ったが、憶測ばかりで原因については突き止められなかった。
 そして今は原因を探っている時間はない。
 もし愚神が炭鉱で好き勝手暴れればアリの巣のように張り巡らされた元炭鉱がつぶれ、地盤沈下の恐れがある。
 幸い近隣は寂れており、避難は無事に完了しているが、地盤沈下は阻止したいので、愚神を早めに倒してしまおうという話。
 しかし愚神には一つ特徴があった。
 なんでもない石を金に変える力である
「この噂をききつけて一般人がちらほら炭鉱に侵入しているそうだ」
 指令官アンドレイは告げる。
「いいか、金は取るなよ。ただでさえ金は柔らかいんだ。坑道を支えていた重要な柱が金になっていて、なおかつそれを掘ってしまったらどうなるか。落盤生き埋め、大参事だ」
 アンドレイは言葉を続ける。
「いいか、金は100グラムで10000Gと交換されるが、絶対に金は取るなよ。お前たちはいいかもしれないが、迷い込んだ一般人が死ぬし、下手したら地盤沈下だ。絶対に取るなよ」

 こうして簡単なくせに複雑な任務が始動した。


● 金鉱について。
 洞窟は地図が作成不可能なほど入り組んでいます。地下へずっと続いていて。へたをすると毒ガスのたまり場、可燃性ガスのたまり場などに行きつく可能性があります。
 下手に大暴れするのも要注意です。少しの衝撃で洞窟は崩れます。ところどころ金になっているのでなおさらです。
 さらに一般人が迷い込んでいるようですが、これはPC敵には確定情報ではなく、PL情報なので気にしなくてもいいです。
 十人ほどいるようです。
 彼らに犠牲が出ても任務失敗とはなりません。
 
 
● それでも金が欲しい人へ。
 洞窟が崩れないような対策を立ててください。
 掘っても大丈夫な部分を見極める方法であったり、補強のための資材を作ったり、あらかじめ崩しても大丈夫な場所を選定したり。
 方法が具体的であればあるほど、沢山の金を入手できることとします。
 金の分だけ報酬が上がるので頑張ってください。
 さらに一般人救出すると彼らの持っていた金を奪えるかもしれません要相談です。


解説

目標 愚神ゴールドラッシュの撃破


デクリオ級愚神、ゴールドラッシュ。
 
 体長1.5M。童話に出てくるドワーフのような見た目です。
 武器はつるはしとスコップ。
 スコップで遠距離攻撃を打ち返してきますが、精度はよろしくなくあっちこっちに飛ぶので注意が必要です。
 さらにこのゴールドラッシュ。五体で一体の愚神の様です。
 どこかにコアになる部分があるのか、それとも、何か別の手段で繋がっているのかはよくわかっていません。
 特徴的なスキルは下記の通り。

・ 金化
 特殊な薬液を振りかけることによって、石を金にする。なんでもできるわけじゃなく条件があるらしい。
 奪おうと思ったら奪えるのでチャレンジしてみると面白いかもしれない。

・ チャージストライク。
 特大の岩石を飛ばしてくる。狭い洞窟内では回避不可能なほど大きい、石は霊力を帯びた単なる石なので破壊できるかも?

・フレイムトーチ
 周囲50センチにある可燃物を自由に発火させる能力。霊力を帯びており危険。
 拳に炎をまきつけて殴り掛かってきたりする。

リプレイ

プロローグ
『アデリー(aa5068)』は転がる小石を弄ぶ。
 投げて積んで組み上げる。石で巣を作るのはアデリーペンギンの習性なのだそうだ『ジャッカス(aa5068hero001)』に向けて告げた。
「小石を集めていると楽しいのです」
 アデリーはふわりと微笑み告げる。アデリーペンギンのワイルドブラッドである
彼女にも、その本能が染みついているのだろうか。
 作戦会議終了からずっとこうやって時間をつぶしていた。
 そんな彼女の視線の先には暗い炭鉱の入り口がぽっかり開いている。
 その入り口を補強するためにたてられた木の柱に背を預け『黛 香月(aa0790)』は溜息をつく。
「リンカーとて人の愚かさには勝てんな…………」
『清姫(aa0790hero002)』はすまし顔だが香月は堪忍袋の緒が切れる一歩手前と言った表情をしている。それを一瞬眺めると清姫は静かに瞳を閉じた、相棒のイライラも、そのイライラを助長させる声もシャットアウトすることにしたのだろう。
 そう、イライラを助長させる声。それはたとえば金にはしゃぐ少女の声。
「これでお金持ちだね!」
『葉月 桜(aa3674)』はそう意気込んで告げる。
「どうもいやな予感がするけどな」
『伊集院 翼(aa3674hero001)』は眉をひそめた。
「いや、私は食費を何とかしたいだけだからな」
『彩咲 姫乃(aa0941)』は『メルト(aa0941hero001)』の口の中にクッキーを投げ込みながら言う。
「とはいっても金掘るとかできないからな。崩さないように補強するとか発想はあってもやり方とかさっぱりだし…………」
「オナカスイター」
「たった一つのさえたやり方が出てくるような頭のいいタイプじゃないんだよ。だから金の薬を奪い取る方向で」
「やれやれ、誰も彼も金に首ったけだな」
『ベルフ(aa0919hero001)』は不敵な笑みを浮かべる。
「僕らもその一人だけどね」
『九字原 昂(aa0919)』がそう告げるとベルフも同意して首を振る。
「先立つ物は必要だからな」
「お金に惹かれるのも人の性という事かしら」
『水瀬 雨月(aa0801)』が言い放つ。全員が苦笑いを浮かべた。
「価値観は人それぞれだから、簡単には片づけられないものね。たかがお金、されどお金。本当に業が深い代物ね」
「早めに事を収めないと、一般人が大量に押し寄せそうだな」
『御神 恭也(aa0127)』が『伊邪那美(aa0127hero001)』にそう語りかける。
「何時の時代になっても金は、人を魅了する魔性の鉱物だね」
 そんな人間たちの会話を聞きながら愉悦に浸る人物がいる。
「フフッ……相変わらず人間共は欲深いわね。鈴音。欲に塗れて死ぬ人間なんて放っておいたら?」
『朔夜(aa0175hero002)』はそう金に躍らされる人間を嘲笑うのだが。
「……絶対駄目ッ! 人間の人生は金で変えられぬ価値があるの!」
『御門 鈴音(aa0175)』にそう怒られて身をすくめていた。
「……まったく、善業に私の力を使うのはいいけど貴女の魂はキッチリと頂くわよ?」
 そう朔夜が告げると鈴音は共鳴した。
 そして作戦の再度確認に移る。
 昂が提案する作戦はこうだ。
 愚神討伐と一般人の避難誘導とに分かれる。予め無線機を用意し、各員が連絡を取り合える様に調整。常時情報は交換する。
愚神討伐は痕跡や音等から位置を特定し強襲。
余裕があれば、愚神の持っている薬品も奪いましょう。
金になる薬については使用法の調査も含めて愚神から聞き出す予定でいる。
「けが人は僕たちにまかせてください」
『黒金 蛍丸(aa2951)』が告げると『詩乃(aa2951hero001)』は不安そうに蛍丸の袖を引く、蛍丸は戦闘に立って洞窟の中へと進んでいった。
 それに『寺須 鎧(aa4956)』も続く。
「こういう洞くつよりは、石切り場みたいなトコでやりたいもんだなぁ」
『マーズ(aa4956hero001)』その言葉にマーズが頷いた。
「広い方が暴れやすいもんな! …………あぁ、暴れちゃならねェんだっけか。チッ、しゃらくせぇ」


第一章 探索

 リンカーたちは湿っぽい洞窟をランプの明り頼りに進む。
 長年放置された土は水がしみこみ。頼りなさ気に見えた。
 香月は壁にふれその強度を確かめる。
「崩落の可能性は十分に考えられるだろうな」
 そう三方向に解れた道の前で立ち尽くす。
「ちょっと待ってくださいね。マッピングシートの調子が悪いみたいで」
 桜がそう地図をくるくる回しながら道を確認する。
 一応機能はしているのだが、本当に入り組んでいて、道は複雑、その分マッピングにも時間がかかるようで、普段より同期が遅い。
「足場に気を付けるんだ。ぬかるんでる場所がある」
 香月はそう桜に手を差し伸べた。
「足跡がありますね」
 そう蛍丸が立ち上がると、ライトで道の先を示す。 
 まだ新しい靴跡、そこから自分たちではない人間の存在を感じ取る。
「ここに入り込んだ皆さんも素直に出てくれるといいですけれど」
「声をかけて退去を促すか?」
 香月が尋ねると蛍丸は首を振る
「やましい気持ちがあるなら……声を出して呼びかけるような真似はかえって奥に奥に隠れて行ってしまうような気がします」
「だろうな」
 そもそも、こんな危険な場所にすすんでくるような無謀な輩なのだ。こちらの
忠告だけで退去するとは思えない。
「ここから先は慎重に行きましょう」
 そう蛍丸は目に霊力を集中。ライトアイで視界を確保した後、足跡を追って炭鉱深く潜っていくのだった。

   *    *

 また別の部隊。
 愚神討伐を想定したこの舞台は昂、および鎧が先行し周囲を警戒していた。
 チョークを用いマーキング。戻れないと言った事態を避けるために慎重に動く。
「こちらに異常はないみたいです」
 そう昂が告げるが、恭也は首を振る。
「いや、そちらはだめだ」
――どうしたの?
 伊邪那美が問いかける。
「道が緩やかに下に下っている。そしてランタンの火が」
 そう恭也は皆からよく見えるようにランタンを掲げて見せた。その炎は勢いよくごうごうと燃えている。
――そんな燃え方してたか?
 ベルフが尋ねた。
「いや、これは異常だ。周囲に可燃性の気体が満ちてきた証明だ」
――さっきから言ったり来たりを繰り返してるけど……道に迷っわけじゃなくて?
「迷ったんじゃない、ガスが溜まってそうな箇所を避けているだけだ」
――なるほど。
 そう感心したような声をもらす伊邪那美。
――なるほど、だから空気が悪かったのね。
 そう朔夜は納得したように言った。
「みなさんもガスマスク使いますか?」
 顔全体を覆うタイプのガスマスクを装着した鈴音がそれを差し出した。もちろん鈴音もそれを装着している。パッと見サイコである。
――いや、遠慮しておくよ。共鳴してれば影響はないし。
 伊邪那美が苦笑いをこらえてそう告げる。
「……洞窟……お化け……蝙蝠……自分の身長と同じ高さから落下すると死亡する冒険家……」
 こしゅー、こしゅーっと音を立てながら何事かをぼやく鈴音に朔夜は問いかけた。
――……鈴音……何を言ってるか全然解らないのだけど……テレビゲームの事かしら? 
 鈴音の動きが止まった。
 心の声のつもりで、口に出しているとは思わなかったんだろう。マスクで隠した素顔を赤らめ、ひとつ咳払いをする鈴音。
「……コホン。ともあれダンジョン攻略にはしっかりした準備とこまめセーブをしとかないと詰むのは鉄則。何が待ち受けてるかわからないからダンジョンは浪漫……ってキャァァァァ!!」
――………………。
 早口でまくしたてる鈴音と、その鈴音に飛来する蝙蝠、悲鳴が反響し、その悲鳴で耳を痛くしながらも、平和だなぁと朔夜遠くを見る。
「あの、愚神にばれるわよ」
 雨月が青ざめて告げる。
 鈴音は雨月にペコペコ頭を下げると気を取り直して探索を再開した。
「愚神は単独行動をしているのかしら」
「どうだろうな」
 恭也と雨月がそう言葉を交わす。
「愚神は単独撃破を狙いたいところね」
「暴れられても厄介だ、初撃で仕留めたいところだが……」
 今回の愚神、ゴールドラッシュは炭鉱の中に住んでいることもあって、あまり多くの情報は得られなかった、あらかじめ戦闘のシミュレートができないのは痛い。
 だからと言って戦いを放棄もできないので、ぶっつけ本番で相手の特性を理解するしかなかった。
「みなさん、お静かに」
 その時昂が短く告げる。全員の動きがぴたりと止まり、身をひそめるように姿勢を低くした。その直後である。
 足跡の反響具合から昂は、こちらに向かってくる何者かとの距離を予測、タイミングをあわせて飛びかかる。
 雪村の切っ先がゴールドラッシュの頬をかすめる。
――逃したか!
 ベルフの声が炭鉱に響き、その昂の脇をすり抜けるように恭也が突貫する。ゴールドラッシュとの距離を瞬時に詰めた。
「動きを止めるわ」
 そう雨月が霊力で場を満たす。先行き不透明な霧。ゴーストウィンドウで敵の視界を閉ざし、さらに蝕むようなダメージを与える。
「これで……」
 そのすきに恭也はゴールドラッシュの鼻先まで迫る。
「鉱山にドワーフとは合い過ぎだな」
 刃を当てるように抜刀。その一撃は大気を震わせ、ゴールドラッシュを一撃のもとに切り捨てた。
「弱いな……」
「ふーんこれが薬」
 そう昂がつぶやいてその手の試薬を振っている。
 ファーストコンタクトの時にくすねたらしい。その試薬を幻想蝶にしまうと、交戦があったことを味方に伝える。
「ただ、使い方はわかりませんでしたね」
――あと四体いるのでしょう? だったら問題ないわ。
 朔夜が告げると、恭也がゴールドラッシュの持ち物を漁り始める。
――おおっ! 沢山ある。この薬品があれば色んな物を金に出来るよ。
 喜ぶ伊邪那美。
「……何だかんだ言っても、お前も金が好きなんだな」 
「…………聞いていた通りドワーフだね」
 昂も死体を見下ろして告げた。
――これで只の酒好きならまだ良かったんだがな。


第二章 生命

「どこか安全な場所はないのかな?」
――ないことにはどうしようもないよな。
 炭鉱を探索すること数時間。慣れない岩場や粘土状の土を歩いていて桜の体力はガリガリと削られていた。いい加減休みたいものだが……
 どこまで行っても身を隠せる場所が無い。これでは一息つくこともできない。
――ただ、金はなかなか手に入ったな。
 そうなのだ、回収し忘れか、何かの間違いか、そこらへんに金の小石がコロコロ転がっており。
 アデリーはご機嫌な調子でそれを拾い集めていた。
「にしても、理解できんよ」
 香月がため息交じりに言った。
「中に愚神がいるというのに、命の危険を省みず金欲しさに洞窟に入り込む者どもの愚かさには正直言って虫唾が走る」
「まぁ、そういうなって」
 姫乃がそっぽを向きながらフォローをいれた。
「愚神討伐の邪魔になるようであれば、どうしてくれようか……」
 そう香月は不敵な笑みを浮かべた。
 彼女にとって愚神は撃ち滅ぼす敵。そんな愚神との勝負に余計な事情を持ち込みたくはないのだが、今回はそう簡単にいかないらしい。
 だから香月の胸中は穏やかではなく、端的に言えば憂うつだった。
 その直後である、洞窟の向こうから悲鳴が響いた。野太い男の悲鳴。
 一番最初に反応したのは蛍丸、薄暗い洞窟の中でも矢のように駆けることができる彼はいち早く、悲鳴の元までたどり着いた。
「その人を離してください」
 ゴールドラッシュ二体に襲われる一般人。まずは愚神を追い払うために徒手空拳で挑む。『九十九』継承者の名前は伊達ではない。
 二体の愚神を弾き飛ばし、一般人との間に入ると背後からアデリーが忍び寄る。
 そして慣れない手つきで拳銃を握り。引き金を引いた。
 駆け出しホヤホヤのアデリーは、一応武器の扱いについてレクチャーは受けているはずなのだが。いまいち当たらない。
 しかし逆に予測不能の弾道にゴールドラッシュ達は慌てふためく。
 反撃に移ろうと体制を立て直したとしても、蛍丸に投げ飛ばされて愚神は不利を悟る。
 さらに香月たちが追ってきているのが見え、愚神たちは諦めたようだ、踵を返した。
「追う」
 香月は冷え切った視線を炭鉱の奥に向けている。
「危険です、一人では」
 止める蛍丸。しかし一般人が呻くように言葉をさしはさむ。
「向こうに仲間が」
「……お願いできますか?」
「俺も行く」
 姫乃が頷く。
「愚神は殺す、それ以上のことは約束できない」
 香月と姫乃は闇の奥へと消えていった。
「私も行きます!」
 そう桜も後を追った。その場に残ったのはアデリーと蛍丸のみ。
 すると蛍丸はその男性をまじまじと見た。背中に大きなリュック、おそらく金だろう。そして足が岩場に挟まっている、逃げる際中足を取られて捻挫と言ったところ。他に外傷はなく、蛍丸は安堵のため息を漏らした。
「ここでは十分な手当てができません、一度上に戻りましょう。鞄は置いていきましょう、さすがにそれは持って行けません」
「なんだと! これは俺の金だ! お前ら俺の金を奪うつもりだろ!」
 突如浴びせられる怒声、アデリーは身を固くした。
「ここは危険なんです、僕たちですら命を落とす危険性がある、そんな中皆さんを金ごと上に運び出すのは難しいんです」
「だったらおいて行けよ」
「みなさんがいれば、僕たちは本気で戦えません」
「それはお前たちの理屈だろうが!」
「では、死んでもいいんですか?」
「仲間が死んだらお前たちのせいだ」
 支離滅裂な言葉、命の危険にさらされた男性は逆上し、冷静を書いている。クリアレイでもかければ落ち着くだろうか。
 そう考え始めた時。男は懐からナイフを取り出して、アデリーを引っ張った。
 腕の中にアデリーを捉え、その喉元にナイフをあてる。
「俺の言うとおりにしねぇとこいつが」
 その時、蛍丸は眉をひそめた。
 その瞬間、蛍丸は素早く腕を伸ばして、ナイフの刃の部分を掴みとる。
 そして、その刃を握り砕いた。
「僕達に通常武器は意味を成しません」
 そう告げて蛍丸は口を手で覆う。
「いい加減にしてください……なぜ、命よりもお金が大切だと思うのですが……?」
 上がった息を整えるために深い呼吸を繰り返していた男性の体内に、即効性の催眠ガスが充満していく。
 直後意識がなくなった男性を担ぎ蛍丸は来た道を戻っていく。
「アデリーさん。怖い思いをさせてしまってすみません。行きましょう」

   *   *

――邪魔じゃ!
 清姫の怒号が洞窟内に響き渡る。
 目の前には愚神が二体。そして一般人が二人。
 彼らがいるせいで思うように攻撃ができない。
「とりあえず、動きを封じる」
 そうハングドマンを引き伸ばし、愚神をからめ捕りにかかる姫乃。
 普段の戦法を封印し、走るしかない姫乃にもストレスがたまっていく。
「……なにここスッゲー動きづらい」
 桜が愚神一体を抑えている間に、姫乃がゴールドラッシュに最接近。
 その腕に炎が灯るのを見ると、受けの姿勢に回る。フレイムトーチで火焔を纏った拳を叩きつける愚神。
「あー、もう! 手が痛い! 回避型になにやらせるってんだよ!」
 それを受け流して素早く香月にスイッチする。
 香月は鯉口をきり、名刀の切れ味をいかんなく発揮する。
「金をバラ撒けば私の殺意を反らせる思っているのなら愚の骨頂だ」
 逆袈裟に切られる愚神、噴出するのは霊力を多量に含んだ血液。
 国士無双を振ると血の跡が点々と続いた。
「ましてや貴様らの作った紛い物など言語道断。私は貴様らを倒すためだけにここに来たのだ。それを今に思い知らせてやる!」
 そして完全に動きを止めた愚神へトドメの横一線。
 首狩りの一撃は愚神一体を絶命させるには十分な威力だった。
「こっちも支援お願いします」
 桜の言葉で姫乃は反転。アステリオスで投げつけられた大岩を撃ち砕くと。姫乃と香月は走った。
 戦闘開始からわずか五分。一体は首を落されて絶命。もう一体は桜の願いによりハングドマンでぐるぐる巻きにされる。
「おおい! 金にできる薬だぞ!」
「これがあれば」
 だが一般人たちは助けられた礼を告げる間もなく、愚神の死体に群がって金や薬を略奪の限りをつくす。
 その姿に、ついに清姫の我慢が限界を迎えた。
――いい加減控えよ、下郎ども!目先の欲に目を眩ませ、棺桶に片足を突っ込みおって。この有様が見えぬか! ここが崩れれば貴公らまとめてお陀仏だぞ。命が惜しくばここを去れ!
「なに! このくそアマが、なにいって……」
 そう香月に掴みかかろうとする男。その男に静かに語りかけるのは姫乃。
「あのさ。今の戦い観てなかったのか?」
 そうその手のAGWをキチキチと鳴らす。
「いったん出てってくれると嬉しい」
 そんな姫乃へ怒号を浴びせる男。
「お前らに金を横取りされる可能性があるだろうが! しかも金を作ってる愚神はお前らが倒すんだろ。冗談じゃねぇ! 金泥棒が!」
「ん? なにが言いたい?」
 姫乃は首をかしげる。
「俺達だけ金が取れてずるいってことか? だったらリンカーになって出直してくればいいんじゃないか?」
 姫乃はあっけらかんと告げた。
「ここはあんたらには危なすぎるんだ。だからいったん炭鉱から出てくれ。まずは危険生物を取り除くからだ。その後に国とかと掛け合ってくれ。今はガチで危ないんだ」
「お前らの言ってることに素直に聞くわけねぇだろうが、屑が」
「俺達は正規の手順を踏んでて、あんたらは踏んでない。それだけでどっちが正しいかわかるだろ? わからないなら、人命救助って言い張って、あんたらを気絶させても連れてくけど?」
 その姫乃の言葉に、反論する気概をなくした男たち、彼等は口をつぐむしかなかった。
「ねぇねぇ、姫乃~。この子たち、僕達の言葉全然わからないみたいだよ」
 そう桜は姫乃の肩を叩いて告げた。
「ぐぎゃ―っとしか言わないんだよ。どうしよう」
「あ~。捕まえとくのも疲れるしな」
 そう姫乃は告げると、ハングドマンを緩め。そして返す刃で。
 その首を切り落とした。
「さて、残り二体か。この二体が生きてる間に薬の使い方がわかるといいな」
 そう一行は蛍丸たちと合流、探査を再開した。


第三章 黄金の英雄

「全く、手間がかかる」
 恭也はそう両肩に担いだ大の男二人を炭鉱入口付近に放った。
――扱いが酷い気が……。
 炭鉱探索中に偶然遭遇した一般人彼らは口を開くなり、言い訳と保身しか口にしなかったため恭也の手によって深い眠りに落されていた。
「金糸雀代わりにしないだけ有情だ」
「でも最低限の治療はしないと」
 そう鈴音は救急箱を取り出して手当てをする。
――物好きね。
 朔夜の冷やかしも気に留めず。包帯をしまうと、炭鉱の奥を見据えた。

   *   *

「あれを見てください」
 この埃っぽい場所とも、もうすぐおさらば。そう考えるとベルフの気持ちも幾分か軽くはなるが。 
 まだ一番重要な金化の方法について突き止められていない。
 特に手がかりも見つけられてない以上、どうにか突き止めたいと頃だったが。
 その矢先、昂はゴールドラッシュ達の奇妙な儀式に遭遇する。
「踊ってる……」
「なんだありゃ」
 鎧が顔を出すが、ばれそうなので、首根っこを引っ張る昂である。
「岩に手を当てて、祈ってる?」
 そうゴールドラッシュ達は大きな岩の周りで踊り、急に動きを止め、祈り。その後岩をこするという動きを繰り返していた。
 その後薬液を垂らすと、なんと単なる岩がみるみる金色に変わっていくではないか。
「あれが方法か?」
 恭也が疑問符を投げかける。
「わかりません……、けど」
「ヘッ、そっちに気を取られてる今の内だ!」
共鳴もせずマーズが突撃した。全員が止めようとしたがあまりにもためらいのない突撃だったので味方はおろか、敵さえも対応できず。マーズの接近を許してしまう愚神。
「いただいた!」
 しかし残念。勢いよく飛びずさったゴールドラッシュ達の手から薬液がするりと零れ落ち。それをマーズは盛大にかぶってしまった。
ーーな、なんじゃコリャ!?
「おいマーズ、何やってんだ!」
 鎧は息を飲むことになる、何とマーズの体がみるみる金色に変わっていくではないか。
「まずは一度下がって様子を」
 鎧がマーズに歩み寄り、手を引くがマーズはそこから微動だにしない。
――バカ言うんじゃねェ! 俺ァ動けるぜ。おい鎧、やるぞ!」
「あぁもう、俺は知らねぇぞ!」
「「共鳴チェンジ!!」
 幻想蝶のブレスレットを掲げてそう唱える鎧。次の瞬間。眩い霊力が二人を包む。
 いつもの共鳴姿に変わる鎧だったが、今日はそれだけではない、さらに返信シーンは続く。
 アイレンズ、全身の装飾から始まり、いつの間にやら全身金色に替わる鎧。
「猛き情熱の星、マーズレッド! ……いや、今回限定特別篇だ。仕切りなおして、と」
 目が痛くなるほどの輝きを放ち、炭鉱に現れた黄金のヒーロー。
「輝ける情熱の星、マーズレッドゴールデンフォーム! やっちまうぞオラァ!!」
 その様子をあっけにとられて眺めているゴールドラッシュ達。
 何が起きたか分からないのだろう。それはリンカーたちも同じである。
「すきありです」
 そんなゴールドラッシュ達の頭上から奇襲する昂
 女郎蜘蛛で愚神一体を縛り上げる。
「こうやって身動きを封じて強奪とか、追い剥ぎみたいな気も…………」
――相手は兎も角、やってる事は同じだな」
「大丈夫ですかそれ!」
 鈴音が悲鳴交じりに鎧へそう尋ねると、鎧はぎこちない動作で振り返る。
「だだだだ、だいじょーーー」
 彼が身をひねるたびに、みしみしと何やら軋む音がする。
 もしかすると、関節や骨まで金化の影響を受けているのかもしれない。
「あああ、こっちに来てください! 朔夜、直せると思う?」
――どうかしらね。
 さすがに金から人間に戻せるほど命を司る鬼の力も万能ではないかもしれない。
 だがやるしかないだろう。このまま放っておいたら確実に鎧は金の柱になってしまう。
「その前に!」
 鈴音はゴールドラッシュを星天の腕輪で攻撃する。
 その足を止めると恭也が切りかかった。
 神速の一撃、愚神は小柄な体を宙にまわせる。そして鈴音はゴールドラッシュの首元にその槍を突き立てた。
――チェックメイトね。
 朔夜がそうほくそ笑む。



エピローグ

 愚神討伐は無事に完了した。
 念のためと二体の愚神を捕獲し、洞窟入口まで戻ると、すでに蛍丸たちが戻ってきていた。
「あら、意外と沢山持っているのね」
 そう朔夜は愚神たちの持ち物である金に手を伸ばす。
 それを鈴音は叩いた。
「それよりご飯を作らないと、朔夜も手伝って」
 そう鈴音はエプロンをかける。
 そんな鈴音の料理を待っている間に一行は薬を前に集まっていた。
「ボク達にかかればこんなものだね!」
 そう桜が両手にいっぱいの試験管を掲げて高らかにそう告げる
「これで色々やりたい放題だ」 
 翼も大喜びである。
「たぶん、こうなんだよな」
 そうマーズが拾った小石に霊力をしみこませるように両手をすり合わせると薬を垂らす。するとジュッと音を立てて石が金に変わっていった。
「たぶん霊石だとちゃんと金になるんだろうけど、今はこれで十分かな」
 桜は言う。
 そんな桜の袖を引くアデリー。
 彼女は懐で大事に温めていた小石を差し出す。
 アデリーの持ち帰った小石はとてもよく、金へと変わったのだった。
 そんな一行とは少し離れた場所で恭也はつるはしを振り上げている。
 伊邪那美はその姿を楽しそうに眺めていた。
「……確かに横堀で金を採掘すれば危険だと言ったし、縦掘りで掘り進めば崩落の危険は無いと言ったが」
「頑張れ~、ボクに為に金を掘り当ててね~」
「機械も無しに、金鉱の真上が正確に判る訳が無いだろうが!」
 そんな一行に向けて蛍丸が告げる。
「金に関しての提案なのですが、グロリア社の遙華さんにも一報いれていただけないしょうか? 信頼できますから」
「薬のことか?」
 姫乃が問いかける。
「ええ、炭鉱内部にまだ金になった場所もあると思いますし、何か後々役立てるものがあると思いますし。
「蛍丸様? 今回はグロリア社の依頼ではないですが……」
 詩乃が心配そうに問いかける。
「親友だと思ってますから、僕は……遙華さんのこと」
 そう思いつめた表情でうつむく蛍丸。そんな彼の目の前に料理が差し出された。視線を上げると『アムブロシア(aa0801hero001)』が鈴音の作ったサンドイッチを差し出している。
「まぁ、なにがあったかは知らないけど、元気出して」
 そう雨月が励ますと、蛍丸は力なく微笑んだ。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 太公望
    御神 恭也aa0127

  • 九字原 昂aa0919
  • 愛しながら
    宮ヶ匁 蛍丸aa2951
  • 猛き情熱の星マーズレッド
    寺須 鎧aa4956

重体一覧

参加者

  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 遊興の一時
    御門 鈴音aa0175
    人間|15才|女性|生命
  • 残酷な微笑み
    朔夜aa0175hero002
    英雄|9才|女性|バト
  • 絶望へ運ぶ一撃
    黛 香月aa0790
    機械|25才|女性|攻撃
  • 反抗する音色
    清姫aa0790hero002
    英雄|24才|女性|カオ
  • 語り得ぬ闇の使い手
    水瀬 雨月aa0801
    人間|18才|女性|生命
  • 難局を覆す者
    アムブロシアaa0801hero001
    英雄|34才|?|ソフィ

  • 九字原 昂aa0919
    人間|20才|男性|回避

  • ベルフaa0919hero001
    英雄|25才|男性|シャド
  • 朝日の少女
    彩咲 姫乃aa0941
    人間|12才|女性|回避
  • 胃袋は宇宙
    メルトaa0941hero001
    英雄|8才|?|ドレ
  • 愛しながら
    宮ヶ匁 蛍丸aa2951
    人間|17才|男性|命中
  • 愛されながら
    詩乃aa2951hero001
    英雄|13才|女性|バト
  • 家族とのひと時
    リリア・クラウンaa3674
    人間|18才|女性|攻撃
  • 歪んだ狂気を砕きし刃
    伊集院 翼aa3674hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 猛き情熱の星マーズレッド
    寺須 鎧aa4956
    人間|18才|男性|命中
  • 猛き情熱の星宿る怪人
    マーズaa4956hero001
    英雄|20才|男性|ブレ
  • 戦場のペンギン
    アデリーaa5068
    獣人|16才|女性|生命
  • エージェント
    ジャッカスaa5068hero001
    英雄|14才|女性|カオ
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