本部

大失敗、リンクバースト

鳴海

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
少なめ
相談期間
5日
完成日
2017/04/01 22:51

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きよし

掲示板

オープニング

● ふしぎなおくすり

 右手に錠剤。
 左手に紙コップ。
 君たちはグロリア社の研究室で、怪しい薬の説明を受けていた。
「これは新型リンクバースト誘発剤よ」
 ロクトはメガネを持ち上げて語る。
「お互いのシンクロ率を高めて……。リンクレートがあれになって……霊力の質が英雄に似通って」
 うんぬんかんぬん。眠たくなるような小難しい話しを、二十分にわたり聞かされた。
「つまりは、体の負担を軽減してリンクバーストができるかもしれないって実験をここでやりたいの」
 そろそろ瞼がくっつくかというころ、やっとロクトは誰もがわかる言葉で話を始めた。
「個々なら暴走しても、邪英化しても瞬時に処置が可能で安全だし、特に心配することもないわ」 
 ロクト曰く、リンクバーストはまだまだ新しい技術であり、そもそもデータが足りないらしい。
 あえてリンクバーストをしてデータを取るくらいでないと研究が追い付かないと、そう言うことらしい。
「ただ、この錠剤開発段階のもので、万が一の副作用も出るかもしれないから、同意書に記入だけお願いね。万が一があっても私達で問題解決までちゃんとフォローするから大丈夫よ」
 怪しげな治験委員会のようなことを言い始めたロクトに、不安を隠せない君たちであったが、大人しくその言葉に従って、君たちは同意書に署名した。
 そして共鳴を開始する。
「共鳴後、順次その薬を飲んでいってね、体に異変があった人はすぐに言って。バーストに成功したひとはデータを取るからこっちにお願い」
 そう告げるとロクトは検査ルームに導くべく、研究室の扉をあけ放った、その時である。
 万が一の事態が起きてしまった。

● 霊力不安定、暴走……結果
 直後光り輝くリンカーたちの体。
 何がどうした、そうこの状態に理解を深める間もなく君たちの体は爆発した。
 白い靄に包まれる研究所内。
 そして一瞬だが相棒である英雄とのリンクが途絶えた気がした瞬間。
 再度繋がる、だが何かおかしい、どこかおかしい。
 まるであべこべに接続されたケーブルのように、なにもかもがうまくいってない。そんな感覚に支配され、君たちは冷や汗をうかべた。
「大丈夫?」
 ロクトの叫び声が聞こえた瞬間、ぶおんと、音を立てて換気扇が勢いよく回る。
 そして白い靄が晴れた時、君たちは信じられないものを見た。
 なんと君たちの英雄が、デフォルメキャラにされていたのだ。
 

●状況整理。
 今回、皆さんの英雄たちがリンクバーストの研究失敗によって一時的に不安定な状態にさせられました。
 その結果霊力で保たれていた皆さんの英雄の性質自体が変化、身体的、性格的変化を経て研究室を飛び出して行ってしまいました。
 皆さんはこれからこの広いグロリア社日本支部内に隠れた英雄たちを捕まえて研究室に連れてきてください、戻すことは可能らしいので。
(ただ、ロクトがダークネスな笑みを浮かべていたので、なにが起きるかはちょっと……、その手にドリルを握っていたのはいったいなんだったんでしょうね)
 英雄の隠れる場所ですが、GMには想像もつきません。
 自分の英雄の性格を分析してください、どこにいきそうか、どこに隠れそうか。 ヒントはそれしかありません。まぁ、監視カメラがあるので、相手が移動を続ければいつかはそれに引っかかると思いますが。
 そして摑まえるためのお役立ちアイテムもいくつか用意したので使ってください。
 
●英雄の変化傾向について。
 英雄はクスリの効果によって下記いずれか、もしくは複数の影響を受けています。
 さらにどの英雄も、その変化に戸惑い、精神的に不安定になっています。時間が立てば落ち着くのかもしれませんが、時間経過で何が起こるか分からないため、早めに見つけましょう・

 及ぼされる影響については、下記より一つ以上選択してください。


・デフォルメちびキャラ化
 体つきが大きくても50センチ程度の、マスコット的な、ぬいぐるみ的な見た目に替わります。
 元の世界の影響を受けており、翼が生えていたり、角が生えていたりと見慣れない見た目になっているかもです。
 身体能力が一時的にかなり落ちる代わりに、微速で空を浮遊できます。
 いったいなぜ……

・怪物化
 元の世界の影響が色濃く出て、そちらの姿にぐっと近づきます。
 割と危険ですが、理性が残っているので、人に危害を加えることはないと思います。
 ……ないですよね?

・思考簡略化
 あまり複雑なことが考えられなくなります。
 喜怒哀楽が強く表に出たり、欲望を抑えきれなくなったりします。
 カワイイかもです。

・性格不安定化
 理性が蒸発し恐怖や不安と言ったマイナス感情が表に出やすくなります。怯える獣のごとく、捕獲に抵抗するかもしれませんし、それは英雄の心の傷の露見かもしれません、大切に扱ってあげましょう。

・思考流出化
 近寄ると英雄の考えていることが、パートナーに直接伝わります。
 それだけです、一番見つけやすい反面、思考を読み取られていたとなると、英雄側は死にたくなるかもしれませんね。

・理想投影化
 その見た目や性格が、能力者のイメージに引きずられて、能力者の理想に引っ張られます、この状態で能力者に出会うと、さらに都合の良い存在に書き換えられてしまう可能性があるので、英雄は必死に逃げるでしょう。 

・概念化
 肉体という器を捨てて、概念になります。
 それを人は神と呼ぶのかもしれないですし、悪魔と呼ぶのかもしれません。 
 どこにでもいて、どこにもいない。
 よくわからない変化を遂げた英雄はこのジャンルにひとまず分類されます。
 探すのが困難かもしれません、見つけられる条件を設定しておくといいでしょう。

・性別逆転
 なぜか、性別が逆転しています。
 男の子なら、女の子。女の子なら男の子。?の場合はどうなるかお任せです。
 正確も肉体に引きずられて男っぽくなったり、女の子っぽくなったりするようです。 


●お助けアイテムについて。
 今回英雄を探すにあたって、役立つアイテムを紹介します。

・タブレット
 監視カメラの映像を特別にリンクさせてあります。マップも表示できるので皆さんがこの施設内で迷うことはないでしょう。

・エサトラップ。
 グロリア社の食堂から食べ物と、研究室からトラップを借りられます。
 割とほとんどのニーズを満たせると思います。鳩を捕まえるような簡単なものから、侵入者を迎撃するハイテクなものまで全てです。
 好きなように使ってください。

・モチトリキャノン
 当たれば最後。べたべたの物体に絡め捕られて身動きできなくなるキャノンです。
 肩に担いで使います。フリーガー並の大きさがあるので取り回しは悪いですが、ジャックポットの方なんかが使うと、とても高い効果を発揮するでしょう。
 ただ、英雄には怯えられそうな気がします。


解説



目標 英雄を捕まえる。

 皆さんには英雄の性格や行動パターンを分析して、逃げた英雄を捕まえていただきます。
 グロリア社内部構造は下記の通り。


● グロリア社日本支部について。
 基本的に重要度最低レベルの施設にしか入れないと思うのでそこだけ紹介します。
 
・食堂
 一度に三百人くらい収容できる大きな食堂です。
 常に食べ物を供給できるように公開されているので、お腹がすくと来るかもしれません。

・大規模屋外実験施設
 射的状や、極大の爆発も許容できる広い草原。山岳地帯等。とにかくひろい屋外です。

・プール
 50Mプールが四面くらいあります、水圧実験とかする用なので入ると危ないかもです。
 普通に泳ぐために使うこともできます、水着はショップで買い求めてください。

・ショールーム
 グロリア社ビルの中には何もグロリア社の研究チームだけが入っているわけではありません、設備を貸してお金を得ることもしているので。
 研究設備がどんなもんか見せるための空間があります。
 いろんな機材が置いてあったり休憩室に直結しているので、ここで休んでいる可能性もあるでしょう

・グロリア社受付
 言わずとも知れた受付です、エントランスです。人がいっぱいなので聞き込みとかすると意外と見つかるかもです。

・グロリア社ショップ
 ショップです、皆さんがいつも利用するショップです。
 棚にはずらりとAGW。奥の方には改造を承るデスクなどあります。

リプレイ

第一章

 昔見た面影が、いつまでも瞼の裏に張り付いている。
 目を閉じれば思い出す。その後ろ姿。『小宮 雅春(aa4756)』はその背に声をかける、名前を呼ぶ。するとその人物はゆったり振り返り。そして…………。

「どうしたの? 雅春」

 白昼夢から我に帰ると雅春は目を瞬かせあたりを見渡した。
 『Jennifer(aa4756hero001)』が雅春にそう問いかける。
 彼はいつもの笑顔を取り戻しJenniferに微笑みかけて告げた。
「なんでもないんだ」
 途端に喧騒が戻ってくる。
「リンクバーストが使いやすくなると聞いてやってきました」
『イリス・レイバルド(aa0124)』は揚々と手を上げて告げた。インカムの向こうの人物と話をしているのだろう。
「正確にはそのための実験段階だね」
 傘をくるりと回して『アイリス(aa0124hero001)』は羽を鳴らす。リィンと涼やかな音が響いた。
「かまわないんだよ! リスクを恐れてたら力なんてつきようがないんだから」
「まあ、普段の訓練もノーリスクというわけではないからね。それが投薬のリスクに変わっただけか」
「今日はお泊り。だってする覚悟です!」
 そう投薬で意識をなくす可能性を考えて、いつか使ったパジャマを持ち出しているイリスである。
「ガデンツァ対策として結晶手に入れたんだけど一発勝負だし使うのに不安があったんだよね」
 同じような理由で『斉加 理夢琉(aa0783)』も参加していた。
「お泊り…………」
 さすがに『アリュー(aa0783hero001)』はその想定をしてなかったようで、彼の表情が少し真顔に近づく。
「大丈夫なのか? 某大学のゲーム武器実験の時を思い出すんだが」
「何かあっても遥華さんとロクトさんがいるし……って何これ同意書?」
 そう研究員から配られる書面にサインしていくリンカーたち。
「……嫌な予感しかない」
 アリューの表情に陰りがさした。
「だいじょーぶだよ! ……たぶん?」
 そして手渡された錠剤を理夢琉は水で流し込む。
「理夢琉いきまーす!」
 すると溢れる霊力。共鳴したアリューと溶け合うような感覚。
「なに? 変な感じ……アリュー、あれっ? アリュー!?」
 直後、まるでアリューが飛翔しどこか遠くへ消えてしまうような感覚が全身を包んだ。その直後。
 ホール内に爆発音が連鎖して轟いた。
 黙々とたちこめる煙を払うと『零月 蕾菜(aa0058)』はそれを懸命に払う。
「風架さん……。どこに」
 自分の中から『十三月 風架(aa0058hero001)』が消えた。リンクがとけたのだ、つながりも弱い、不安になって蕾菜はあたりを見渡す。すると手を伸ばす先に風架を感じた。
「風架さん?」
 その煙の向こうから現れたのは幻想的な獣。幻影ような四神を模した四肢、龍と獣を足して割ったような頭と胴体、背には右腕と対となる片翼。
 しかし全体的にふわっとしていて、両手で抱きかかえられるくらいの大きさ。
 まるでマスコットかぬいぐるみのようなそれは蕾菜を見つめると「ぎゃおー」っと吠えて威嚇した。
 直後、場を混乱が満たす。
 悲鳴、阿鼻叫喚、慌てふためくリンカーたち。
「さあて、何をしてやろうか。まず手始めに……」
 そんな『テトラ(aa4344hero001)』の声が響き、不安が増大する『杏子(aa4344)』
「テトラが、いない……! どこ行った!?」
 半透明なテトラが一瞬視界に映る、それが成長した姿であることを確認すると杏奈の顔はスッと青ざめた。
「し、試薬のお仕事が大変なことに……」
 状況が飲み込めてきた『芦屋 乙女(aa4588)』は周囲を見渡すと『君島 耿太郎(aa4682)』はすぐに発見する。
「薬を飲むだけの簡単な依頼だと思ったら……世の中そう上手くはいかないっすね……」
 が告げると、すぐそばの靄の中から、聞きなれない女性の声が聞こえる。
「なんだこの姿は!!」
「ここはどこなんでしょう……見慣れないものがたくさん……」
「アーク、その恰好……まずい。ここを離れるぞ」
 直後扉が開け放たれる音。
 脱兎のごとく逃げ出していく英雄たち。
 そして乙女と耿太郎は『アークトゥルス(aa4682hero001)』と『クー(aa4588hero001)』がいないことに気が付く。
「これはどういう事っすか!」
「いきなり爆発するとか……びっくりだよ。あぁ……ラドどこ行ったんだろう?」
 そう苦笑いを浮かべる『皆月 若葉(aa0778)』は一向に晴れない靄の中、リンカーたちを探して塊を作る。
 そんなリンカーたちの話を聞いた『ラドシアス(aa0778hero001)』は 実験施設の扉から離れてふわふわと移動を始めた。
「……あのわらいかた……けんきゅうしつにもどったらキケンか? さて……どうしたものか」
 そんな靄の中、爆発で気絶した研究員の手からタブレットを拾い上げる白く繊細な手、直後空間にリィンという甲高い音が響き渡った。
 その瞬間風が吹き、払われる靄。そこにいたのは荘厳なる精霊。
「何かすごいことになってるね、お姉ちゃん」
「ふむ、薬の効果というやつかな……まあまだ試験段階だしねぇ」
 普段通り落ち着いていて『状況はどうなっている』と冷静に確認
 黄金色の瞳、広がる羽は豪奢で大きく力強い。瞳と同系色の燐光を纏い月虹のような鮮やかな光の輪を背負っている。
 アイリスである。
 その片手でイリスの手を引いている。
 全員の視線が集まるとイリスは悪戯っぽく微笑んだ。
「おい、何だこれ」
 しかもアイリスが奏でる音を聞けば聞くほど、周囲の光景が捻じれていく。真っ直ぐ立っていられないほどの脳的負荷。周囲に草木が生え始めるが、これは幻覚だ。
 そのことに危機感を覚えた『沖 一真(aa3591)』共鳴を試みる。
「行くぞ月夜!! 月の輪顕現、急々にょりつり…………て、あれ?」
 そう『月夜(aa3591hero001)』と共鳴しようとする一真だったが、月夜は両手を胸の前で抱えて一真から距離を取る。上目づかいに注がれた視線、瞳は潤んでいて不安げだ。
「…………………………」
「ど、どうした? 月……」
「私、捨てられちゃう!!」
「……………………へ?」
 直後ぽろぽろと涙をこぼし始める月夜。
「リンクバーストも碌にできないような私なんかより、他の英雄を取るにきまってる………………どうせどうせどうせどうせどうせ」
「え、えっと…………?」
 困り果てる一真。その姿にショックを受けたのか一瞬目を見開くと、月夜は踵を返して走り去る。
 涙の軌跡が空に舞い、その光景が一真の脳裏に焼き付いた。
「月夜――――――!?」
「何かすごいことになってるね、お姉ちゃん」
 イリスはアイリスの変化、および目の前で繰り広げられるラブコメ、その他もろもろをさして言った。
「ふむ、薬の効果というやつかな……まあまだ試験段階だしねぇ」
 そしてイリスは崩れ落ちる。アイリスから響く歌は子守唄だった。
「ふむ、まぁ、せっかくだ。私も楽しむとしようか」
 そう告げてイリスを抱きかかえ混乱に乗じて逃走を謀るアイリス。
「気が付けば英雄が誰一人いないっす」
 耿太郎が茫然とつぶやいた。
「何が起きたというんでしょう」
 乙女が困惑の表情を向ける、すると『八朔 カゲリ(aa0098)』が乙女の言葉に答えた。
「失敗、だろうな」
 そうカゲリは虚空に視線を向ける。
「英雄たちに何か起こったんだろう、よくない何かが」
『ナラカ(aa0098hero001)』がいないことに気が付きカゲリはすべてを察した。
「リンクバーストの失敗って普通はこういうのじゃない、ですよね……」
 蕾菜はあたりを見渡して告げる。
「とりあえず探さないとな。まったく、面倒だ……」
 さすがにナラカをおいて帰るわけにもいかない。そうカゲリは溜息をつく。
「絶対元に戻してみせるっすよ! 王さん!」
「クーちゃんを見つけ出して治してあげなきゃ!」
 乙女はそう意気込んで告げる。



第二章 探索

 記憶がない、それは起源が無いことを指す。
 だからこの感情がどこから沸いているのかわからない。
 本能的なものなのか、それとも元の世界に由来するものなのか。
 だがそんな『なぜ』はどうでもよくて。
 今大切なのは、自分が捨てられたくないと思う、この感情。
 今だけは会えない。隣にいられない。
 そんな不安を抱えてJenniferは大きく見えるようになってしまったグロリア社廊下を闊歩していた。
「どこなら、隠れられるのかしら」
 そうJenniferはあたりを見渡す。不安からか見知った場所を目指す。
 よく雅春と通ったグロリア社ショップへと。
(こんな姿ではまた『必要ない』と捨てられる。どうせ捨てられるなら仲間も愛する人もいらない。感情のないただのお人形になってしまいたい)
 やがて見つけたのは自分と同じようなお人形が並んだコーナー。
 Jenniferはジャンプして飛び乗って、その身を隠すために奥へと体を滑り込ませる。

   *   *

「いや、リンカーと言えばショップだろ」
 そう一真は確信にも似た何かを抱いてショップを目指していた。
 お供するのは理夢琉や雅春、そして杏奈、カゲリ。
「ショップはわくわくするからな」
「たぶん男の子だけだと思います」
「まぁ、そうだねぇ」
 そう理夢琉は控えめに告げる、杏子はその言葉に同意した。
 理夢琉は思い出していた、時々ガラスにへばりついて剣を見ており、たびたび不審者あつかいされてる光景を。
「なんで逃げてしまったんだろ…………というかあの反応は何が原因なんだ…………」
「何かあったんですか?」
 そんな独り言に理夢琉が言葉を返した。
「最近何かありました?」
「特に心当たりはないな」
「なにもないのに女の子は泣かないですよ」
 理夢琉は苦笑いを浮かべる。
「俺、あいつに最近なんか――告白くらいしかしてないぞ」
「…………」
 杏子は唖然と一真を見つめる。
「……それは」
 杏子がため息をつくと、その胸中を理夢琉が代弁した。
「どう考えても、それが原因じゃないですか!!」
 理夢琉は絶句した、その時一真のポケットで震える携帯電話。
 ディスプレイには月夜の文字。
「あー、噂をすれば……」
 嫌な予感を感じつつその電話に出てみると。ながーい無言の後に、月夜がぼそりと告げたのだ。
「もう別の女の子に手を出してるんだね」
「こわい!」
 ガチャリと切れる通話。
 苦笑いを浮かべる理夢琉。
 そんな一同はショップ内の背の高い棚を左右に見ながら相棒を探した。
 その中にぬいぐるみコーナーもあって。
「ん?」
 足を止める雅春、一度スルーしようとしていたが再び戻ってくる。
「リィ~ム ルゥゥウー」
 直後聞こえた声に理夢琉は振り返った。
 そこにはガラスのショーケースがあり、その向こう側に銀の獣がいた。うさ耳が長くなびき、ごつごつと頭をケースにぶつけている。
「か、可愛いぃ~」
 メロメロになる理夢琉。
 そんな理夢琉の背を見つめながら、陰りがぼんやりしていると背後に風を感じる。
 そして不意に香る、よく知っている匂い。
 振り返ったがそこには誰もいない。
 しいて言うなら雅春が棚の一角を凝視しているくらい。
「……どこに、いったんだろうなぁ」
 そう白々しい声をだしながら貴婦人の人形を凝視する雅春。
 直後悲鳴が上がり、雅春は現実に引き戻された。
 見れば理夢琉がスカートを抑えてうずくまっている。
「だ、だだだだだだ。誰かがスカートをめくろうと」
 そう真っ赤になってうつむく理夢琉。
 しかし近くにはカゲリしかいない。
「カゲリさん!?」
「大丈夫だ、見てない」
「そう言うことじゃ……」
 次の瞬間である。いきなりショップ中の電源が落ちた。
 直後どたばたと走り回る怪奇音。悪戯っぽい笑い声が逃げ惑い、それを何者かが追いかけている構図なんだろうか。
 怯える理夢琉と警戒する一真やカゲリ。次いで灯りがついたり消えたりをはじめ。
 直後店内に鳴り響く警報音。そしてガラスの割れる音。
 見ればアリューが、デフォルメ姿ではないアリューが佇んでいた。
 と言っても人間に戻ったわけではなく、うさぎと狐を合わせたようなかつての姿に戻っているのだが。
「これは……」
 冷や汗を流す雅春。そして案の定アリューはリンカーたちに反撃を始めた。
 たぶん理夢琉を怯えさせたことが許せないのだろう、そしてその原因がカゲリたちだとおもっている。
「や! やめてアリュー」
 アリュー怒りの進撃である。
「いや、こうすることが目的だったんだろう」
 カゲリは冷静につぶやくとあたりを見渡して、そしてダッシュする。
「ええ~、なにがですか!」
「……」
「逃げるしかないか」
 雅春はJennifer似の人形を抱きかかえるとその場から逃げだした。

   *    *

 グロリア社庭園、そこは本来試薬として必要な植物を栽培する区画だったが景観がいいので、ルールを守ること前提で社員に解放されている。
 太陽光が降り注ぎ、とても居心地が良い。
 そんな庭園ど真ん中でラドシアスは四つん這いになり息をついていた。
「……ふむ、このスガタでニゲつづけるのにはムリか」
 原っぱに寝ころび空を見上げる。
「アンゼンにダッシュツするには……」
 次第に睡魔が襲いくるラドシアス。この小柄な体でここまで来るのは大変だったのだろう。
「……っ! ねてるバアイではないな。このフユウするチカラをツカえば……」
 そんなラドシアスの髪を風圧が巻き上げる。
 何事かと跳ね起きると、神話の世界の獣のような風架が隣に降り立った。
「おお。カッコイイ」
 その風架は一つあくびをすると丸まって、ひとつ鼻息をついた。 
 そんな二人を蕾菜と若葉は草木の影から見守っている。
「……あれってやっぱりデフォルメした姿なんでしょうか?」
「いや、俺に訊かれても」

「もちろんそうに決まってる」
 
 二人は不意に振り返った。若葉は思う。ここには二人の人間しかいなかったはずなのに。
 まるで幽霊に出くわしたような気分になり。二人は顔を見合わせた。
 次の瞬間二人は背中を強く押され、英雄たちの目の前に登場してしまう。
 ぴたりと動きを止めるラドシアス、次の瞬間二人の英雄は血相を変えて逃げ出した。
 また探し直しである。そう肩を落とす若葉だった。

第三章 食堂にて

 カゲリ達はアリューに追いたてられたあと、このままでは捕獲できないと悟り、食堂に向かっていた。
「アリューの大好きなもので釣って、捕獲しましょう」
 他の英雄の当てもないので皆、理夢琉について歩く。
「監視カメラの死角から死角を移動してる…………? 月夜もとりあえず食事で誘うかな…………」
 一真も食料調達のために一緒に食堂へ向かった。
 そんな中カゲリは一言も言葉を発さない。
「どうしたんだ、さっきから何も言わないけど」
 一真が問いかけるとカゲリは言う。
「俺はもともと、あまり話さない」
「ナラカさん見つかるといいですね」
 理夢琉が告げた。
「いや、もう見つかってるようなものなんだ」
「え?」
「いや、なんでもない」
 もともとナラカは逃げるような性格ではない、むしろ一番近いところで見ていて、こちらをからかってくるくらいが彼女らしい。
 なぜなら。
 誰よりも何よりも、人間の事を信じている奴なのだから。
 直後また一真の携帯電話が震える。今度はそれに出るとすぐに月夜は告げた。
「一真には分からない…………何かを失う気持ちは」
「あー…………ここに来る事分かってたんだな。なんか思い詰めてるような感じがするし、早いとこ見つけねーと」
 食堂を眺めながら一真が告げる。ちなみに食堂には先客がいて
 アークトゥルスとクーが一緒に座っていた。アークトゥルスはご飯を食べている。
「姉様、このスープとても美味しいですよ。召し上がりますか?」
「いらない」
「でも、お腹は減っていませんか? 先ほどから何もたべていらっしゃらないじゃないですか」
「いらないって言ってるだろう」
 メイド服を纏ったきつめな口調と表情の女性がクーで。おっとりふんわりした女性がアークトゥルスらしい。
「大体なんでそんな気楽なんだ、のんびりしてる場合じゃないだろう」
「そんなに不安がらずとも、きちんと見つけてくれますよ」
「俺……私は別にそんな」
 そんなクーへ寄り添うようにアークトゥルスはそばにあり続ける。
 その時食堂に駆けこんでくる少女がいる。乙女だ。
「クー!」
 彼女はここまでくる道のりで、相当な試練に会ったらしい、息も絶え絶えで、普段整えられている髪は静電気を帯びボリュームアップしている。
「あいつの仕業か」
 カゲリは一つため息をつく、だがそんなカゲリの姿は見えていない乙女。
 そう駆け寄る乙女、しかしその言葉にクーは反応しない。
「可愛らしいお嬢さん。よろしければご一緒に食事でもいかが?」
「え! もしかしてアークさん!」
 一瞬二人の女性姿に驚いたが緊急事態ということでクーに向き直る乙女。
「じ、女性になっても、お綺麗ですね……」
 スマートフォンのボタンを二三操作し告げる。
「クー。一緒に行きましょう、グロリア社の人たちが直せるって」
「私はクーじゃない!」
 机を揺らして立ち上がるクー。 
「お前の、お前のせいで……っ、私の」
 そう何事かを口にしようとしたクー。だがハッと青褪め口を噤み、潤む瞳を隠すように下を向く。
「お前なんか知らん、勝手にしろ!」
 涙で滲む声を隠せず、クーは食堂を飛び出していった。
「クー!」
 そう手を伸ばす乙女、その手は空を切る。
「乙女さん……ご連絡ありがとうっす」
 そう颯爽とあらわれた耿太郎はアークトゥルスに歩み寄るとパシャリと一枚写真を取った。
「こんな可愛い王さん見れると思わなかったっすから。記念っすよ、記念」
 その行為を笑顔で許し、アークトゥルスは目の前に運ばれてきた食事に手を付ける。
「いかなくていいんすか? 乙女さん」
 その声に我に帰ると乙女は駆けだす。
「ご、ご飯はまた今度、お願いしますっ!」
 そんな背中を微笑ましく眺めながら、耿太郎はアークトゥルスの前の席に座る。
「美味しそうに食べてるのを邪魔するのも悪いっすからね」
「お気遣いありがとう……二人が心配ね」
「でもダイジョブっすよ、あの二人なら」
「ええ、そうかもね。ところで」
 アークトゥルスは皿を持ち上げて告げる。
「私のご飯食べましたか?」
 先ほど山盛りになっていた皿が空になっていた。
「もう食べたんすか? 早いっすね」
「私じゃないわ」
 首をかしげる二人。
 その背後から笑い声が響いた。

   *   *

 外を吹き抜ける風は春の香りがした。
 屋上。そこはフェンスが張り巡らされ逃げ場はないように見えた。
 乙女はその屋上で孤独に震える背へ声をかける。
「クーちゃん、ど、どうして逃げるの?」
「なんでここに……」
「光が教えてくれたの」
 乙女は食堂から出てすぐにクーを見失ってしまった、どこにいったか分からず不安で、泣きだしそうになった。
 でも一番不安なのはクーで、自分より心細く思っているのはクーだから。
 絶対に見つける、そう心に誓ってまた走り出そうとしたとき。
 まるで手を引くように風が舞いその視線の先には、神々しい影が見えた。
 乙女は見たのだ、まるで道を指し示すように光が飛んでいくのを。
「違う、俺は……私は、クーじゃない!」
「……クーちゃんはクーちゃんでしょ」
 クーという名を拒否するのを即座に否定する乙女。
「私の騎士様。初めて会ったとき言ってくれたよね クーちゃんは私のものなんでしょう?」
 契約のことを思い出す。所有物となる契約、それを果たすために努力すると誓ったあの日、今日まで積み重ねた時間。
 乙女はクーに歩み寄る。
「……ふふ。捕まえたっ」
 そして乙女はクーの後ろから抱き着いた。」
「乙女……?」
 その温もりがクーを安心させてくれる。
「女の子のクーちゃんもすっごく可愛いけど……早く自信満々で誇り高い。いつものクーちゃんに戻ってほしいな」
 クーが振り返ると乙女は微笑みを浮かべていて。自分の前で結ばれた乙女の手にクーは自分の手を重ねた。
 その光景を見つめ、ナラカは踵を返す。

   *    *

 雅春は食堂の隅でその人形を眺めていた。
 あまりにしつこく眺めてくるものだからJenniferは先に人形のふりをやめてしまう。
 そしてため息交じりにJenniferは告げた。
「貴方もいらなくなったら私を捨てるんでしょう?」
「捨てたりなんかしないよ、きみは僕の友達だもん」
「オトモダチ……」
 その言葉を噛みしめるように口にするJennifer。ギュッと胸の前で手を握って、それ以上の言葉を待ち望む。
 けれど怖くて自分からは口を開けない。
「小さい頃、親が共働きだったから、遅くまでだーれも帰ってこなくてさ。そんな時にきみはいつの間にか現れて。寝るまでずっとそばにいてくれたっけ」
 その言葉にJenniferの瞳は揺れ動く。
 違う、という言葉、そしてそれでもいい、という言葉。
 二つが揺れて互い違いに浮上して。
「僕は恵まれてるよ。五体満足で帰る場所も食べる物もある。愚神に家族を殺されたわけでもない。忌み子呼ばわりされて迫害されたわけでもない。だからこそ誰にも言えなかったんだ」
 雅春は考えていた、この世界に入って、知った不幸。ドラマのような、漫画のような不幸が実在するってこと。だからこそ自分の境遇を冷静に見つめることができた。
「親にも友達にも隠してた心細さを受け止めてくれた。それが凄く嬉しかったんだよ。今度は僕がその恩を返す番だ」 
 でも、それでも自分の境遇は不幸だと思った、少なくとも自分が胸を痛めるには十分だったと認めることもできた。
 だからこそ、Jenniferの存在はとても大きかったと、今なら言える。
「きみに何があったのかは今の僕には分からない。思い出したくないこともいっぱいあるかもしれない」
 Jenniferは瞳を閉じてうつむく。
「でも、 いつかどうしようもなくなって。誰かに縋りたくなった時は僕にも頼って欲しいな。昔の僕と同じようにさ」
 そうJenniferの頭を撫でる雅春。
(ははは、やはり愚かだ。この男は)
 Jenniferは思う。
(目の前の女がお前を嘲り笑っていると疑いもしないのか。……でも嫌いじゃない)
 頭の上を覆うこの温もりは、悪くないと。
(馬鹿だな、彼女はあの時の「ジェニー」じゃない。一人の人間なんだって気付いてるつもりなのに……)
 雅春は抱く。そんな罪悪感と。彼女への肯定を
「一緒に帰ろう」
 雅春はそう告げてJenniferを抱き上げた。
「早く元に戻して……」
 そうぶっきらぼうに告げたJenniferが雅春にはとても可愛らしく思えた。

第四章 捕獲

 グロリア社屋内プール。水圧実験など行うこの場所は、今や妖精のテリトリーである。
 アイリスは当然のように水面に立ち。妖精の粉のせいだろうか。水を黄金色に変化させ森の幻覚結界で包む。
 そこだけは異世界、だがなぜだろう、英雄たちは影響を受けないようで、大体がこの場所に集まっていた。
「いや、みんな頑張っているね」
 そう寝息を立てるイリスを撫でながらタブレットを片手に高みの見物を決め込むアイリス。
 そして視線を上げると、そこには無造作に床に置かれたアップルパイ。
 それを警戒しつつも興味惹かれてやまないアリューがいた。
 徐々に近づくアリュー。その瞬間、廊下から躍り出た理夢琉がアリューを捕まえた。
「アリューティス?」
 そう語りかけると、アリューは喉をならして鳴いた。
 しかしそのせいでアイリスに存在がばれる理夢琉。
「みんなおそろいかな?」
 そうアイリスは全員をたおやかな笑みで迎える。
「これは、いったい何のために……」
 カゲリはプールの惨状をみてため息をつく。
「しいて言うなら。居心地のいい空間を作り出したかったから、かな」
 アイリスはあっけらかんと告げた。
「はた迷惑な」
 そんなカゲリとアイリスの間に入って一真は叫ぶ。
「ここにいるんだろ!?」
 広いプール内にその言葉がこだました。
 その言葉に身を震わせる月夜。思わずアイリスは視線を用具室に向ける。
 そこにいるのかと思い一真は扉に手をかけるが、全く開く気配がない。
(おや? あの部屋は内側からカギがかかる構造だったかな?)
 実際は月夜は鍵を閉めていない、扉が開かないのには別の理由があるが、それはまた別の話。

「君の想いがその扉を開く」

 誰かの声が聞こえた気がした。仕方ない、そう一真は心を決める。
 扉の向こうに確かにいる、自分の大切な人へ言葉を送る。
「俺には、お前みたいに何かを失う気持ちはまだ分からない。失うことは決してないなんて保証はどこにもねぇさ」
 月夜は耳をふさいで蹲る、その言葉が、自分を探してくれた行動が嬉しいはずなのに、それを受け入れるのが怖かった、今彼の顔を見るのがとても怖かった。
「けど、『失いたくない』気持ちに囚われすぎて、今という時間を無駄にしたくはねぇ。お前を後悔させたくない」
 そう必死に叫ぶ一真、そしてその耳にまた誰かが囁いた。
「あの扉をあけてごらん」
 一真は扉を押し開く。
 その光景を見届けカゲリはアイリスに告げた。
「とりあえず、お前には元に戻ってもらう、そうでないとあいつは出てこないだろうからな」
 その合図で理夢琉も杏奈も、アイリスを囲うように周囲を固める。
「ああ、それはとても面白そうだ」
 その瞬間、天上からアイリスを捕獲するために飛んできたのは若葉。
 若葉と蕾菜も合流していたのだ。
「これなら……」
 完全に不意を突いた、そんな思いがあった。しかし若葉を妨害したのは風架である。
「ええええ!」
 威嚇を一つ飛ばすと若葉の顔をひっかく風架。その隙にアイリスは半歩後ずさると若葉はプールに落ちた。
「だめですよ、風架さん」
 そうプール再度で顔を洗っている風架を抱き上げる蕾菜。
 割と無抵抗に捕獲された風架である。
「風架さんらしい、ですね」
 そう、仲間を守るために頑張った風架をよしよしと撫でる蕾菜。
「これって何て生物に分類されるんでしょう……?」
 そう蕾菜は風架に問いかけるも答えが返ってくるはずもなく、蕾菜は水際で繰り広げられる鬼ごっこを見ながら佇んだ。

エピローグ
 結果から言うとアイリスは簡単に捕まった。
「お姉ちゃん、もう家に帰りたいよ」
 そうイリスが目覚めるなり告げ。アイリスは二つ返事でそれを了解したのだ。
 一苦労の後、残った英雄を探さないといけないと思い当たる一行。
 若葉はびしょびしょになりながらもタブレットを操作する。
「監視カメラには映ってない……あまり動いてないのかな」
 それは相棒であるラドシアスをさしていった言葉である。
「……みつからんのか?」
「うん、実はまだ研究室に……?」
「それもアリだが、ソトにでられんな」
「そっか……うーん、ラドはどう思う?」
 その時動きを止める若葉、見ればちっちゃくなったラドシアスが若葉の肩にへばりついているではないか。若葉はそれをがっちりつかむとカゲリは口を開いた。
「これで全員だな……満足したならいい加減、姿を顕せよ」
 とたん、空間から溶け出すように皆の前に姿を現すナラカ。
「なかなか良い体験だったな」
 そう満足げに頷くカゲリ。
 彼女は光となっていた。本来神とは何処にもいて何処にもいない存在である。本来の力の一端を取り戻したかのように彼女は光として振る舞い。
 絆を取り戻そうとするリンカーたちをサポートしていたのだ。
 時に祝福として。時に試練として。
 再び英雄との絆を紡げると信じればこその行動だった。
「ああ、もう終わりか」
 次いで現れたのはテトラ。
 ナラカが光であればテトラは影だろうか。二人は存分に楽しんだようだった。
「いや、なかなかな輝きを見せてもらった」
 ナラカは告げる。
「もし、みんなが途中であきらめていたらどうなってたんですか?」
 理夢琉が問いかける。
「その時は、その性根を焼き直すために浄化の炎を行使していたかもしれないね」
 全員の顔が青ざめた。
 対してカゲリは頷く。まぁそうだろうなと思っていたからこそ、あまり興味のないリンカーたちの後をついて歩いていたというのもアル。
彼女の成した概念が『正道を糺す試練の光』と知っていた故。
「できました!」
 その時、イリスが一枚の紙を突き上げて告げた。

   *   *

「月夜……待たせてごめんな」
 そう一真は跪いて震える月夜の手を取った。
「遅いよ」 
 そう告げる月夜、だが彼女が動いた拍子に膝から滑り落ちたのはスマートフォン。 
 その画面が録音モードになっていて、一真の顔からさっと血の気が引いた。
「あの言葉、忘れないように録画…………言質は取った」
 そう告げると慌てふためく一真。
「ヤメテ!! 誰かに聞かれたら恥ずかしさで死ねる!!」
「ふふ…………じゃあ、今の言葉、私だけの思い出にしとくね」
 そして一真は月夜の手を引いて立ち上がる、真っ赤に染まった顔を見せまいとそっぽを向きながら、その手は決して離すまいと強く握って。
「ありがとう」 
 だから月夜は一真に聞こえないように小さくそうつぶやいて。
 柔らかく微笑んだ。

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きよし

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • ひとひらの想い
    零月 蕾菜aa0058
    人間|18才|女性|防御
  • 堕落せし者
    十三月 風架aa0058hero001
    英雄|19才|?|ソフィ
  • 燼滅の王
    八朔 カゲリaa0098
    人間|18才|男性|攻撃
  • 神々の王を滅ぼす者
    ナラカaa0098hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • 深森の歌姫
    イリス・レイバルドaa0124
    人間|6才|女性|攻撃
  • 深森の聖霊
    アイリスaa0124hero001
    英雄|8才|女性|ブレ
  • 共に歩みだす
    皆月 若葉aa0778
    人間|20才|男性|命中
  • 温もりはそばに
    ラドシアス・ル・アヴィシニアaa0778hero001
    英雄|24才|男性|ジャ
  • 希望を歌うアイドル
    斉加 理夢琉aa0783
    人間|14才|女性|生命
  • 分かち合う幸せ
    アリューテュスaa0783hero001
    英雄|20才|男性|ソフィ
  • 御屋形様
    沖 一真aa3591
    人間|17才|男性|命中
  • 凪に映る光
    月夜aa3591hero001
    英雄|17才|女性|ソフィ
  • Be the Hope
    杏子aa4344
    人間|64才|女性|生命
  • トラペゾヘドロン
    テトラaa4344hero001
    英雄|10才|?|カオ
  • LinkBrave
    芦屋 乙女aa4588
    獣人|20才|女性|回避
  • 共に春光の下へ辿り着く
    クーaa4588hero001
    英雄|24才|男性|ソフィ
  • 希望の格率
    君島 耿太郎aa4682
    人間|17才|男性|防御
  • 革命の意志
    アークトゥルスaa4682hero001
    英雄|22才|男性|ブレ
  • やさしさの光
    小宮 雅春aa4756
    人間|24才|男性|生命
  • お人形ごっこ
    Jenniferaa4756hero001
    英雄|26才|女性|バト
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