本部

大漁旗を掲げよ!

大江 幸平

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/03/30 20:57

掲示板

オープニング

●霊石の行方
 ホログラム映像で映し出されたのは、大西洋の蒼い海。
 その美しい海面には、無惨にも転覆した一隻の船が浮かんでいた。

「この船は密輸船だ。違法に横流しされた大量の霊石を運んでいた途中だったらしい」

 霊石はライヴスの触媒として優れた特殊な鉱石だ。
 その価値はいわずもがな。高値で取引されることも多い。

「ボートで脱出してきた船員は、すぐに全員逮捕できたんだけどな。問題は……霊石の回収なんだ」

 水面に浮かぶ、積荷の木箱。いくつかは衝撃で板が外れたのか、中身が海底へと沈んでしまったようだ。
 しかしそれよりも気になるのが、転覆した船の周囲を無数の魚たちが元気よく泳ぎ回っていることである。

「気付いたか? この船の周りで泳いでる魚なんだがな。どうもこいつら、積荷の霊石を――食っちまったらしいんだ。……今のところは異常に元気になっちまってるってことくらいしか変化は見られないんだが、ライヴスの影響でこいつらに何が起きてるのか……正直に言って未知数なんだ」

 もしかすると、魚たちが危険な存在になっている可能性もある。
 職員はそう続けて、顔を上げた。

「現地警察と地元の連中が協力してくれるらしいんでな。底に沈んじまった霊石の方は彼らが回収するから、君たちには霊石を食っちまった魚の調査と捕獲を頼みたいってわけだ。もし魚が危険そうなら遠慮はいらん。好きに倒しちまってくれ。あとは、そうだな……なんだったら、捕まえた魚から霊石を取り出したあとは……食っちまってもいいぞ?」

 どうだ、名案だろう。
 そう言わんばかりに、職員がにやりと笑った。

解説

●目標

 霊石(ライヴストーン)を食べてしまった『魚』の調査および捕獲。
 ※すべての魚を回収することは現実的に不可能なので、あくまで魚の『危険度調査』と『一定数の捕獲』を行うことで任務完了とする。

●支給品

 H.O.P.E.からの支給品。各自、使用するかどうかは自由とする。

 『餌カゴ』
 水中に強力なライヴスを伝播させる霊石を詰め込んだ中型のカゴ。
 魚を引き寄せるための「撒き餌」などに使えるだろう。何か別のものを引き寄せる可能性もあるが……。

 『釣り竿』
 そこそこの値段がする釣り竿。
 初心者も安心の楽々「電動リール」付き。
 釣り好きなH.O.P.E.職員の私物らしい。折ったり失くしたりしたら、きっと職員は泣くだろう。

 『ダイビング器材一式』
 ウェットスーツやシュノーケルなど。大抵の機材は揃っている。
 どうしても海中に潜る必要がなければ、漁師などに貸し出す予定。

 『酔い止めの薬』
 必要なら申請したほうがいいだろう。

●状況

 大西洋沖。気候は晴れ。風はやや強め。
 エージェントたちはH.O.P.E.が用意した中型の漁船で移動。
 現地警察と地元の漁師たちは、少し離れた場所で海底に沈んだ霊石の回収作業を行っている。
 時間制限はなし。気楽にどうぞ。(ただし、海上は寒いです)

リプレイ

●出航
 青々とした空。陽射しは柔らかく、雲が緩やかに流れていく。
 船の駆動音だけが響きわたる穏やかな大西洋の海上を、数隻の船が波をかき分けながら現場へと向かっていた。
『すごく気持ち悪い』
 海よりも真っ青な顔をして、遠くを見つめていたのはユエリャン・李(aa0076hero002)だ。
 新鮮な魚が食べられると聞いて意気揚々と乗り込んだユエリャンだったが、初めての船旅は予想以上に厳しかったようである。
「だから念の為酔い止めを申請しましょうと言ったのです……!」
 呆れたように紫 征四郎(aa0076)が息を吐く。
『ユエさん大丈夫ですか、顔がグロッキーですよ』
『竜胆、すまない、肩を貸せ』
 ふらつくユエリャンに凛道(aa0068hero002)が肩を貸してやる。
 その様子を眺めながら笑っていた木霊・C・リュカ(aa0068)を征四郎が見上げた。
「リュカはきもちわるくないですか?」
「大丈夫、今回薬は先に飲んどいたから!」
 そう言うリュカはもこもこのダウンジャケットを着込んで完全防備だ。
 頭の上では黒猫『オヴィンニク』が退屈そうに髪を引っ張っているのが微笑ましい。
「ふむ……穏やかに見えるが、沖に出ると意外と波が高いな」
 リュカたちの様子を見て、御神 恭也(aa0127)と伊邪那美(aa0127hero001)がやって来た。
「イザナミ! お魚楽しみですね!」
 駆け寄る征四郎の頭を伊邪那美がなでる。
『征四郎ちゃんは元気だね~。よし、みんなでお魚いっぱいとろ~』
「はい! たいりょうですよ!」
 ずるずる。
 そんな平和な二人の下に、這いずり寄ってくる影。
『う、うぶっ……もうこんな所にいられるか! 我輩は海へ潜るのである!』
「そんな……ユエリャンいつ泳げるようになったのです?」
『泳げぬ! 共鳴するであるぞ!』
「!! 結局征四郎が潜るのではないですか!」
 そんなこんなで。
 結局、騒ぎ立てるユエリャンと共鳴した征四郎はALブーツで海上を駆けていた。
「共鳴したら気分の悪さが移った気がするのです」
『我輩は割と楽になったであるぞ』
 そんなやり取りを交わしていると、やがて船員の大きな声が響く。
「おーい! 見えたぞー!」
 潮風が吹きぬける彼方の沖合に、一隻の船が転覆しているのが見えた。
 あれこそが、目的地だ。

●沖合
 転覆した密輸船はすでに船体の半分以上を海面に沈ませていた。
 船の引き上げ作業は後日行われるとのことだ。まずは霊石の回収を優先しなければならない。
 海面を見ると、魚たちが元気に泳ぎ回っている。情報通りだ。
 話し合いの結果、エージェントたちは釣り班とダイビング班に分かれることになった。

『よーし兄者よ、到着だな。早速始めようか』
 手慣れた様子で釣りの準備をしているのは阪須賀 誄(aa4862hero001)だ。
「うぼぇぇええ……」
 その隣で海面に首を突っ込んでいるのは、阪須賀 槇(aa4862)。
『……OK、酔い止め飲め』
「船なんて嫌いだ、家でゴロ寝してネトゲしたいぞぉぉ……」
『……全く』
 持参してきた『浦島のつりざお』を携えながら黒金 蛍丸(aa2951)が笑う。子龍(aa2951hero002)も一緒だ。
「今日はよろしくお願いしますね」
『よろしく頼むでござる』
 煤原 燃衣(aa2271)も見慣れた【暁】の面々に声をかける。
「寒いけど良い釣り日和ですね。宜しくですよ」
 泳ぎ回る魚を睨みつけながら、ネイ=カースド(aa2271hero001)が只ならぬ気を撒き散らしている。
「……えっと、この人何やら殺気の様なのを出してますが」
『霊石を食って膨らんだ魚だと……捨ておけん。行くぞスズ、一匹残らず駆逐してくれる……ッ!』
「……食い気ですので、気にしないで、下さい」
『どれほど肉質が変化しているか確かめねばならん……刺身、あら汁、づけ、炙り……』
「ネーさん、涎よだれ!」
 霊石を食べた影響で魚たちにどんな変化が起きているのかは解らない。
 しかし、食欲の魔人ことネイにとって目の前で泳ぎ回っているのは、ただの御馳走でしかなかったようだ。
『しかし奇遇で』
「ほんとですねえ」
「ちょっと不謹慎かもしれませんけど、皆さんと一緒だと少し楽しみです」
「弟者よ、俺たち働かなくていいかもな!」
『OK兄者。飯抜きでいいなら寝てろ』
「勘弁してつかぁさい」
 船の帆先では、腰を下ろした恭也が竿を手にとって、重りの代わりに霊石を取り付けていた。
 リュカと凛道も同じように竿やら餌カゴやらを手にしながら、よいせと腰を下ろす。
「恭ちゃんとイザナミちゃんもよろしくね~」
「あぁ、俺たちはここで釣ることにするか」
『……つまんないな~』
 伊邪那美が不満そうに唇をとがらせた。じっとしているのは性に合わないのだろう。
 そんな伊邪那美に凛道の腕の中からするりと抜け出したオヴィンニクが頭を擦り寄せる。
『お? よしよし。ボクと一緒に遊ぼうか』
 しかたないなぁとばかりに、オヴィンニクが『にゃあ』と鳴いた。

 一方、ダイビング班。
「あれ。ラウラ、水着着ないの?」
 ウェットスーツに着替えた柳生 沙貴(aa4912)が支給品の器材を確認しながら顔を上げる。
 ジト目を向けて返したのは、ラウラ ブラックモア(aa4912hero001)だ。
「……需要無いでしょ」
「誘い受けには乗らないよ」
「……いろんな意味で腹が立つわね」
 言い合う二人の頭上から、ゆっくりと羽を広げながら一羽の鷹が降下してくる。
 そのまま、鷹は征四郎の伸ばした腕に優しく掴まった。
 この鷹は征四郎がライヴスで生み出したものである。視界を共有することによって、征四郎は周囲の様子を確認していたのだ。
「お魚さんがいっぱいなのですよ。あっちにもこっちにもいるのです」
『ふはは! 我輩の手にかかれば魚風情など一網打尽……うぇえええ!』
「……調子にのるからです」
 そんな中、先程から海中の様子をじっくりと眺めていた人物が声をあげる。
「全員で潜る前に、魚たちの様子を確認してきてもいい?」
 そう提案したのはスレイニェット(aa4875)だ。すでに水中用の装備に身を包んでいる。
「本当に安全かどうか、直接に確かめておきたいの」
「それはいいけど……」
「一人だと危険かもですよ。だいじょうぶなのですか?」
 心配そうな面々に、スレイニェットはなんてことのない口調で言ってのけた。
「問題ないわ。泳ぎは得意なの」
『えぇ。なにしろ……』
 幻想蝶を取り出して、イーカ・ドユン(aa4875hero001)と共鳴する。
「おぉ」
「ふわぁ……」
 現れたのは、神秘的な人魚の姿と化したスレイニェットだった。
「人魚だからね。少なくとも、溺れる心配はないわ」
 冗談めいたことを口にして、スレイニェットは海に飛び込んだ。
 水中眼鏡越しの視界一杯に深い蒼の世界が広がる。
 視線を下にやれば、海底の地形すらも確認できた。遠浅の海である。
 スレイニェットはそのまま自由自在に泳ぎ回りながら、水中と魚たちの様子をつぶさに観察していく。
「……確かに元気すぎるけど、危険って感じでもないか。近づいても特に攻撃してくるわけでもないし……」
 泳いでいるのは、タラ、サバ、カツオ、スズキあたりだろうか。多種多様ではあるが、すべて外見に変化は見られない。
 体長の大きなものになると、全身から微量のライヴスが漏れ出しているものの、影響となるとやはりそれくらいだろう。
「うん、問題なし。これなら食べられそう。……それにしても、ちょっと寒すぎない!? カンボジアより何度低いのよここ!!」
 内心で愚痴りながら冷たい水から上がると、スレイニェットは魚たちに危険性がないことを全員に通達した。おまけに美味しく食べられそうだということも。
 その報告を受けて、全員から歓喜の声が上がったのは言うまでもないだろう。

●のどかな一幕
 晴天。東風やや強し。時刻は昼前。
 各自が手早く準備を済ませ、いよいよ魚の捕獲作業が始まった。
『一匹たりとも……逃しは……せんッ!』
「……えっと、こんな緊張感溢れる任務だったっけ?」
 得物のように力強く竿を構えながら、ネイが殺気を放っている。
 自前の釣り竿に手慣れた様子で仕掛けを装着してさっさと釣りを始めている誄を見て、燃衣が感心したように口を開く。
「阪須賀さん達は……あー、誄さんは海釣りもやるんですね」
 ずらした視線の先には、糸に絡まっている槇が。
「弟者ぁあああ助けてくれえええ!」
『……何をやってるんだ兄者は』
「だ、大丈夫ですか……阪須賀さん」
 蛍丸に救出される情けない槇を放置しながら、誄が小さく笑う。
『俺も海釣りは好きなんで……腕が鳴ります』
「時に一名ほど、腹の方が鳴ってるんだが……」
『……OK、気にしない。お二人とも、釣果勝負しませんか? 合計重量で』
 誄の提案に燃衣と蛍丸が頷く。
「いいですね。どちらにせよ大物でも釣らないとネーさんがきっと暴れ出しナンデモアリマセン……」
「はは……本当にとんでもないのが釣れても困りますけどね……」
「じゃあ漏れは計量係だな。正確無比に計ってやるからジャンジャン持ってきておk」
『堂々とサボる気満々だな兄者』
 涅槃スタイルでだらーっと横たわる槇の目前に、ダンッと勢い良く足が踏み降ろされる。
『なんだ槇、そのザマは……【暁】の隊員として気合を入れろッ! どれ肩を揉んでやろう……』
「え、あ、結構です。おうっ、ちょ、まあああ!」
「あ、ネーさんの肩揉みは万力……あー……」
 ささやかな抵抗も空しく、晴れ晴れとした海上に槇の悲鳴が響き渡った。

 一方、帆先で瞑想しながら静かに釣り糸を垂らしていたのは恭也だ。
「落ち着くな……」
 伊邪那美がどこか呆れたように言う。
『……ただでさえ年寄り染みてる恭也がさらに年寄り染みて来た』
 手応えを感じ、引っ掛けるように竿を引き上げる恭也。
 無表情のまま黙々とスズキやらサバやらを釣り上げていく。
「きゃー恭ちゃんかっこいい! その調子でいっぱい美味しいお魚捕まえちゃってー!」
 黄色い声援をあげるリュカに頷くと、
「伊邪那美もどうだ? 座禅を組む様な感覚で良い修練になるぞ」
『退屈そうだからいいや。若いボクはもっと積極的に動かないとね』
「……まるで、俺が若くない様に聞こえるんだが?」
 肩をすくめると、伊邪那美はちょっと着替えてくると言い残し、船室へ引っ込んだ。
「お? 凛道、また引いてるよ」
 リュカの隣で釣り糸を垂らしていた凛道も確実に釣果を重ねていく。
『ちょっとコツが掴めてきました。竿がくいってしたらしゅぱーっと釣ります』
「感覚的だなぁ」
 そう言うリュカもさっきから定期的に魚を釣り上げていた。図鑑を広げながら食べられるかどうかもちゃんと確認している。
『あ、まだ駄目ですよオヴィンニク。霊石まで飲み込んでしまいます』
 飛び跳ねる魚をぺしぺし叩いていたオヴィンニクが不満気に鳴いた。
 そこへ……。
『因幡の白兎と称えられるボクの雄姿を徳と見よ~』
 海女さん姿で戻ってきた伊邪那美が得意げに銛を構えてみせる。
「……因幡の白兎は、騙した鮫に皮を剥がされなかったか? それ以前に泳いでないしな」

 その頃、水中ではダイビング班が餌カゴと仕掛け網を使い、簡単な追い込み漁を行っていた。
「海の中、すごく綺麗なのです」
『美しいな。ふむ、百聞は一見にしかず、であるなぁ……』
 征四郎は網を構えながら、水面を見上げていた。
 水面と空の境界線はきらきらと淡く光り、俄に波打つ様はまるで幻想のようにも見える。
「水の中とはいえ、狩りならお手の物……ってね」
「これだけ元気だと網が破けないか心配だけれど……」
 沙貴が魚群を追い立てるように泳ぎ、それをスレイニェットが銛で突いたり石を投げたりして援護する。
 やがて、頃合いを見計らって合図を出すと征四郎が浮上して、船上で待機していた職員が網を引き上げる。
『ボクも手伝うよ~』
 そのうち、伊邪那美もやって来て全員で協力しながら着実に魚を漁獲していく。
 ダイビング班の捕獲作業は実に順調であった。

「ぐぬぬぬ釣れないぞ弟者……」
『……やりたいって言うから渡したが……海のルアー釣りなんて簡単に当たるものじゃないぞ。ほら、こっちのサビキをやれ。……っと、OK大物ゲットだぜっと』
「なんと、やるな弟者」
 堪え性のない兄にやや呆れながら、誄は自分だけしっかりと釣果を挙げていた。
「うーん……こういう釣り方って釣りとして、どうなんだろう?」
『なんやかんやで釣りまくりでござるな』
 蛍丸と子龍はというと、持参した『浦島のつりざお』の効果に引き気味だった。
 普段は殆ど役に立たないアイテムだが、釣り竿としての能力は間違いないのだ。だってそりゃ釣り竿だし。
「これでよしっと」
 短刀『黒夜』を使って血抜きを済ませ、塩をすりこんでおく蛍丸。ついでに霊石も袋に詰めておく。
 ふと蛍丸が隣に視線をやると、燃衣が遠い目をして海を見つめていた。
「燃衣兄さん?」
「……なんだかこうしてると、昔を思い出しますね」
「昔、ですか」
 燃衣の脳裏には、いつかの光景が蘇っていた。
 父や弟と過ごした穏やかな記憶。それはかつて手にしていたはずのささやかな幸せだ。
「……」
 あの時も家族と共に、こうして肩を並べてぼんやりと水面を眺めながら、些細なことで笑いあった。
 そう、確かに。そんな時間もあったことを思い出す。それはすでに――遠い風景で。
「なぁああんじゃコリャあああああ!?」
 突然、叫び声をあげる槇。
『どうした兄者』
『何事でござるか!』
 見ると、糸の先に掛かっていたのは小さなイイダコだった。
「う、うねうねしてますよ!」
『……禍々しいでござるな』
「邪神だ! 触手プレイktkr!」
『……兄者は釣運まで笑いの神に愛されてるのか』
 そんな光景を見て、燃衣が思わず笑う。
 いつかきっと。この他愛ない時間も幸せな想い出になるのだろう。
 今は亡き家族と過ごした時間のように。幸せな想い出に。
「……」
 燃衣が小さく息を吐く。なんだかそのことが、とても嬉しく思えた。
 と、急に隣で殺気を放っていた魔人が勢い良く立ち上がった。
『もう我慢ならん、スズ、体を貸せ。俺が出撃する…ッ』
「だから空気が違うってネーさん……」
『行くぞ、食い尽くすッ……!』
「いや、ちょっと、ボクはまだ釣りの方がアアアアッ……!」
 ネイはそのまま強引に燃衣を引き摺ると、水中用の装備に即着替えて海へと飛び込んでしまった。
「……燃衣兄さん」
『うぅむ……武運を祈るでござる』
『なんかもう、見慣れた光景ですね』
「無茶しやがって……」

●更なる釣果?
 まず異変に気付いたのは、沙貴とラウラだった。
「……なんだ?」
 さっきまで簡単に追い込めていた魚群が散り散りになって逃げ出していた。
 不思議に思い、海底付近へ視線をやると……。
 ゆっくりと浮上してくる大きな魚影。立派な背ビレと鋭い歯。
 ――サメだ!
 近くで霊石の回収作業を行っていたダイバーたちが上がれ上がれと手でサインを出している。
「……血の匂いを嗅ぎつけてきたかな?」
『だとしたら、私たちが呼び込んだようなものね。行くわよ、沙貴。自分の始末は自分でつけましょう』
 すぐさま、サメに向かって泳ぎだす沙貴。
 それに気付いた他の能力者たちも船にサメを近づけないように銛を突き出して威嚇する。
「仕方ないね……狩るよ」
 沙貴の意図を察したのか、水中戦の得意なスレイニェットが援護に回る。
 共鳴した能力者たちはライヴスを媒介しない攻撃によってダメージを受けることはない。
 しかし、近くには未だ一般人のダイバーも取り残されている。下手に刺激して暴れ回られるのはまずい。
 そう判断した沙貴は『クロスグレイヴ・シールド』を構えると、サメの注意を引くように泳ぐ。
「ほら! こっちだ!」
 水中を旋回しながら推進力を上げるサメ。近づいてきたところでグレイヴを一気に突き出す。
 盾の先端から突き出た二枚の堅牢な刃で巨体を挟み込む――が、予想以上に堅い。
 そのまま、引きずられるように沙貴の身体が水中で振り回される。
「待ちなさい!」
 スレイニェットが三叉の槍『トリアイナ』でサメを突く。先端が貫通し、巨体が身を捩らせた。
 最後の力を振り絞るかのように、サメが全速力で泳ぐ。
「くっ……!」
 沙貴の手が離れる。傷を追ったサメが逃げるように船へ近づいていき……。

 ――次の瞬間。

 バアアアアンッ!

 水中が割れるような衝撃波が走り抜けた。

『よし!』
「よし、じゃない! 何をやらかしてるんだお前は!?」
 船上にて。可愛らしく小首を傾げる伊邪那美。
『うん? 恭也が前に教えてくれたダイナマイト漁だよ。あれ? ガチンコ漁だっけ?』
 唖然とする恭也。
 水面にぷかぁっと浮かび上がってくる気絶したサメを呆然と眺めながら。
「それは禁止された漁法だ……」

 というわけで、色々とトラブル(?)もありながら。
 漁船が一杯になるまで魚を積み込んだ一同は捕獲作業を終えて、港へ帰還することになった。

『はっ……そういえば今回は我輩何も役に立っていないではないか』
 水中の仕掛けを回収しながら、ユエリャンが唐突に呟いた。
『これはいかん、おチビちゃん交代だ』
「!! ユエリャン泳げないじゃないですkだめです交代ダメ絶対!」
 ごぼごぼごぼ……。

●大漁旗
 霊石の回収作業も終わり、一同は無事に港へ戻ってきた。
 捕まえたのはすべて新鮮な魚とはいえ、一度はライブスの影響を受けてしまった以上、売り物にするわけにもいかない。
 ということで、大盤振る舞いの宴会タイムだ!
 話を聞きつけてやって来た漁師の家族たちやH.O.P.E.職員たちも総出で協力することになり、港付近はかくやお祭り騒ぎである。

「ふふーふ、何がいいかなぁ。定番の刺身とかつみれとか、あとフライなんかもいいよね~」
 急造で拵えた調理用のスペースで、リュカたちは魚を洗ったり火を起こしたり、てきぱきと下準備を終えていく。
『恭也~、お腹すいたよ~』
「……待て。とりあえず刺身だな。味付けもシンプルでいいだろう」
 言いながら恭也が見事な手つきで魚を捌いていく。
「恭ちゃんさっすがー」
『お見事ですね』
 そんなリュカたちの様子を見ていた征四郎がジャキンと『ちゃっかふぁいあーくん1号』を腕に装着する。
「ユエリャン! 征四郎たちもやりますよ!」
『丸焼きであるか』
「え、ちょちょ、せーちゃん……それ大丈夫なん――」
 リュカが心配そうに声をかけた、次の瞬間。
 ゴオオオオオウッ!
 串に刺した魚へ向けて、恐ろしい勢いで噴射される炎。
「!!」
『ぬおおおおおおおっ!?』
 ボォォウッ。ブスス……。
 唖然とするリュカたちの前に残ったのは、黒焦げの炭っぽい何か。
「……」
『……」
 征四郎が少し恥ずかしそうな顔をして、ぽつりと呟いた。
「ちょっとだけ、シッパイ、ですね……」

 一方、【暁】の面々が集まっている一画からは、焼き魚の香ばしい匂いが漂い始めていた。
「うん、味噌汁もいい感じ。新鮮な貝も手に入ったし……」
『主殿、火加減はこんなものでござるか?』
「あ、もう少し強火の方がいいかもしれませんね。それで火から少し離す感じで……」
 手際よく調理を行う蛍丸と子龍の背後から、ネイの大声が響く。
『おい、スズ……! なにをシケた面してやがる、はやく捌くぞ!』
「うわ、ちょ! ネーさん着替え中に来ないで!」
『ウム、蛍丸と子龍はエライぞ。槇と誄は……』
 そんなネイの言葉に、槇が震えた。
「さて弟者よ! 早くやろうず、やらないと隣の人の殺気が……」
『お、おう……ひとまず下して、頭はダシになるから……で、ネギをこれでもかと入れて……よし、潮汁だ』

「生の魚、少し懐かしいかも……」
 スレイニェットは漁師たちと共に職人顔負けのスピードで魚を調理していた。
 それもそのはず。もともと水上生活者であった彼女にとって、それは生まれつき慣れ親しんだ行為であった。
「でも、故郷の調味料がないのは残念ね」
 そう零したスレイニェットに漁師が言う。
「お嬢ちゃん。こいつはな、塩とレモンで十分なのさ」
「へえ。レモン……試してみますね」
 漁師が差し出した塩とレモン汁をかけて、そのまま口に運ぶと。
「……あ、美味しい」
「だろ? 自然の恵みに感謝しねえとな」
「ええ、ほんとに。……ねぇ、貴方もどう?」
 早くも酒盛りを始めていた漁師たちに混ざって遊んでいた沙貴を見て、スレイニェットが声をかける。
「皆さんには悪いけど、僕は魚より肉が好きなんですよね。狼だから」
「あら、そうなの。でも……嫌いってわけじゃないんでしょ?」
「ええ、まあ」
 スレイニェットは手早くカツオを捌くと、よく脂の乗った分厚いトロを皿に乗せる。
「食べてみて。流石に肉とまではいかないと思うけど……」
 言われるままに、食べてみると。
「ウマッ!」
 ぷりっとした身に詰まった濃厚な脂。柔らかいのに歯ごたえのある食感。
 まるで上質な肉のようだ。食べ物を食べ物で例えるのはどうかと思うが、実際にそんな感じなのだ!
「どう? 魚もいいものでしょ?」
「はい、マジで美味いですね。いやあ、魚なめてました……」
『……ちょっと、私の分は』
「ん、ラウラはいらないでしょ?」
『なんでよ!』
 そんな二人を見て、スレイニェットが満足そうに笑った。

●在るべき世界
 宴は盛大に行われた。
 港中に集まった人々が各所で車座になって座り、溢れんばかりの料理が次々と運ばれてくる。
 新鮮なカツオの刺身、焼きサバ炙りサバ、鯛めし、カレイの唐揚げ、ボラのアラ煮、イワシのなめろう、エトセトラ、エトセトラ……。
 新鮮な魚介類を贅沢に使った汁物に、麺類や白米もドデンと用意してある。まさにお魚天国である。
 案の定というべきか、早くも浮かれて泥酔した男たちが赤ら顔で笑い、そこかしこで上機嫌な歌声が響き渡り始めていた。
「お魚、とってもおいしいですね!」
『美味であるな』
「クメール料理にはココナッツミルクが……」
『このナマコというのは食べられるのでしょうか?』
「あ~魚もいいけどな~、やっぱ肉がな~」
『……沙貴、こぼしてる』
 エージェントたちも肩を並べながら、わいわいと賑やかに食事を楽しんでいる。
『ほら、食べていいですよ。オヴィンニク』
 凛道が小さく切った刺身を与えると、オヴィンニクはご機嫌な様子で鳴いた。
 そこへふらふらとリュカがやってくる。手には漁師たちからお裾分けしてもらった酒瓶を抱えている。
「いや~、美味しいお魚にお酒……最高だねえ。お、みんなも食べてる~?」
 伊邪那美が元気に頷いた。
『うん、やっぱり魚は鮮度が良い程美味しいね』
「鮮度が良いと歯ごたえが良いが味の方は、暫く寝かせた方が良いのだが……」
『もう! 皆が美味しいって言ってるんだから無粋な事を言わない様に』
「そうだな、一言多かった。以後気を付けよう」
 恭也の真面目な言葉に笑い声があがった。
『おかわりだ、スズ! あるだけもってこいッ!』
「ネーさん、ボクも食べたいんですけど……」
 壮絶な勢いで飯をかっ食らうネイに苦笑しながら、槇がしみじみと呟く。
「それにしても、色んな意味でお疲れ様だな」
『皆、最近は何かと忙しなかったからな』
「阪須賀さん達もお疲れ様です」
 汁物の温かさにほぅと息を吐いて、蛍丸が微笑む。
「こういう風にみんなでのんびりできる日が長く続くといいのですけれど……」
『主殿、暗いでござるよ』
「あわわ、きょ、今日は楽しく騒ぎましょう!」
 そんなやり取りに一同が笑う。
『しかし、本当こんな依頼だけが続けば良いんですがね……こっちの世の中は物騒で』
 その言葉を聞いて、燃衣がわずかに目を伏せる。
「ボク……阪須賀さん達の世界が、ちょっと羨ましいです。……あ、すみません、今はアレなのに」
『いえ、こっちはこっちで楽しいですから。皆さんもいますしね』
 ただ。誄はそう続けて。
『平和は何よりもいいもんです。こっちで危険な目に遭う度、やっぱそう思いますよ。……そもそも、オレたちは一般人ですし』
「OK弟者」
 槇はニッカリと笑っていた。
「何があってもその時はその時だ、皆で何とかすればいいに500ペリカ!」
『安いな』
 思わず突っ込んでしまった誄は表情を綻ばせ、それを見て皆がまた笑う。

 穏やかな時間だった。
 この時ばかりは、誰もがいつかの悲しみを忘れていたことだろう。
 柔らかい陽射しに目を細めながら、燃衣がふと静かに呟いた。

「良いものですね、平和って。ほんと、こんな日が続けば良いのに」

 青空の下で、仲間たちが笑い、何処からか楽しげな歌声が響き渡る。
 それは皆が追い求めた理想。
 叶うべき世界の在り方を思い出させる――幸せな光景だった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 断罪者
    凛道aa0068hero002
    英雄|23才|男性|カオ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 全てを最期まで見つめる銀
    ユエリャン・李aa0076hero002
    英雄|28才|?|シャド
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 紅蓮の兵長
    煤原 燃衣aa2271
    人間|20才|男性|命中
  • エクス・マキナ
    ネイ=カースドaa2271hero001
    英雄|22才|女性|ドレ
  • 愛しながら
    宮ヶ匁 蛍丸aa2951
    人間|17才|男性|命中
  • 美味刺身
    子龍aa2951hero002
    英雄|35才|男性|ブレ
  • その背に【暁】を刻みて
    阪須賀 槇aa4862
    獣人|21才|男性|命中
  • その背に【暁】を刻みて
    阪須賀 誄aa4862hero001
    英雄|19才|男性|ジャ
  • エージェント
    スレイニェットaa4875
    人間|21才|女性|生命
  • エージェント
    イーカ・ドユンaa4875hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 戦い始めた者たちへ
    柳生 沙貴aa4912
    獣人|18才|男性|攻撃
  • エージェント
    ラウラ ブラックモアaa4912hero001
    英雄|18才|女性|シャド
前に戻る
ページトップへ戻る