本部

ヒナとマツリ

落花生

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
9人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/03/21 16:33

掲示板

オープニング

「ヒナマツリの季節だなぁ」
 HOPE職員の呟きを聞いたアルメイヤは、首をかしげた。
「ひな祭りならば、三月三日に終わったぞ」
「そっちのひな祭りじゃなくて……なんというか都市伝説みたいなものなんですよ。戦前の話になるんですけどね」

 ヒナとマツリという双子の女の子がいた。
 二人はいつも仲良しで、いつも二人一緒にいたという。
 そんな二人は、三月のある日――いなくなってしまった。
 数日後、二人はそろって枯れた井戸の中から見つかった。

「こんな怪談話があるせいで、三月に人が死ぬとここらでヒナとマツリが連れて行ったって言うんですよ。ほら、葬式のあとに人死にがでると、死人に引っ張られていったとかいうでしょう。似たような感じです」
 職員の話を聞いたアルメイヤは、そんなものかと思った。
 自分とエステルには、関係がない話である。
「気を付けてくださいね、アルメイヤさん。ヒナとマツリは、自分たちと同じ年頃の女の子と遊びたがるって話もありましたから」

●怪談の裏に隠れる悪意
「あーそーぼー」
 誰かに呼ばれたような気がして、エステルは振り返った。買い物帰りに寄った公園で、同じ年頃の少女たちに呼ばれたのだ。珍しいことではない。エステルの同年代の子供は、好奇心が強い。同じ学校の生徒ではなくとも、同じ年頃であればそれだけで話しかけてくる。
「ええっと、私は忙しいので」
 遠慮します、と言いかけてエステルは自分の足が動かないことに気が付いた。
「遊んでよ。私たち、今はおままごとをしているの」
 嫌な予感がして、エステルは電話をかける。
「アルメイヤ、ちょっと公園に来てください。なにか、危ないことが起こりそうです」
「ねぇ、私と一緒に遊びましょう」

●三月の双子
「エステル! エステル!!」
 エステルから電話を受けたアルメイヤは、公園に急いだ。そこには、同じ年頃の子供たちに囲まれるエステルの姿があった。
「お姉ちゃんも、遊ぼう」
「おまえは、愚神かっ!」
 気を失っているらしいエステルと子供たちの側にいる、女の双子の姿。
「私たちは、ヒナとマツリ。三月に現れる――人を連れて行く禍よ」
 
●助けを求めて
 エステルは、うすぼんやりとした意識のなかで逃げるアルメイヤの姿を見た。
 それで、良い。
 アルメイヤ一人では、愚神とは戦えない。だから、仲間を呼ぶのが正しい。
「皆、遊び友達が増えるよ」
 ヒナとマツリは、よく似た顔で笑いあう。
 それは、三月の禍の笑顔だった。

解説

愚神の討伐および子供たちの保護

公園(昼)――愚神が出現した公園。遊具は、ブランコとジャングルジム、滑り台のみの小さめの公園。見晴らしはかなりよい。現在はHOPEが封鎖したために、近所に人通りはない。

ヒナとマツリ――十歳前後の女の子の愚神。子供たちやエステルからライブスを吸い取っている。元々は近所の子供に愚神が付いた存在だったが、引離すことは不可能となってしまっている。
枯れ井……子供たちとエステルに対して、使用。ライブスの供給が切れるまで、対象の姿や気配を遮断し、隠す。子供の数はエステルを含め、五人。
桃の花……あたりに花びらを散らせ、それに触れたものを一定時間マヒさせる。
魔の弓……ヒナのみが使用。敵に命中すると、ライブスを吸い取りヒナの素早さをあげる。しかし、命中精度はあまりよくはなく、技を乱発することでカバーしている。
魔の薙刀……マツリのみ使用。敵に命中すると、ライブスを吸い取りマツリの攻撃力を上げる。

五人囃子…楽器を持った少年たちの形をした従魔。楽器による打撃攻撃も行うが、演奏による援護がメイン。音を聞いた者の防御力を下げ、味方の攻撃力を上げる。

三人官女……刀、薙刀、弓をそれぞれ持っている。三人一組で一人の標的に向かっていくことが多い。

右大臣・左大臣……槍を持ち、親王に近づくものから攻撃する従魔。従魔のなかでは、一番攻撃力が高い。

親王(殿、姫)……ジャングルジムの上から動かない。全体の体力が半分以下になると、自分のライブスを使用し、敵を回復させる。どちらかが消滅していると回復量は半分になり、回復後は双方ともに消滅してしまう。

アルメイヤ……HOPEに助けを求める。その後、リンカーたちと合流している。指示を出さないと、手当たり次第に攻撃しはじめる。

リプレイ

 かつて、双子の女の子が仲良く遊んで空き地。
 時代は流れて、今では公園が出来上がった。
 そして――そこには「ヒナとマツリ」という愚神が現れる。
 ひらひら、ひらひら、舞い落ちる桃の花びらと共に。
「雅な愚神だなあ……ヤバそうだから近寄らないけど」
 柳生 沙貴(aa4912)は、ぼそりと呟いた。

●五人囃子
「とんだ都市伝説もあったもんだ」
『巻き込まれる子供たちには良い迷惑ですわ』
 赤城 龍哉(aa0090)とヴァルトラウテ(aa0090hero001)は、従魔の巣窟となってしまった公園に立っていた。
「ローカルで物騒な怪談が元になるとはな」
『恐怖と言う念は強いですから。怪談は、愚神の存在と混ざって語れることも多いです』
 月影 飛翔(aa0224)はルビナス フローリア(aa0224hero001)と共に、愚神の姿を確認する。怪談と内容と同じく、愚神たちの外見はあどけない。
「子供の姿をしているとはいえ、容赦はしない」
『子供たちが心配です。ライブスを吸われ切ってしまう前に終わらせないと』
 姿の見えないエステルや子供たちの安否が気にかかるが、愚神の能力によって子供たちの姿は隠されてしまっている。
『よくもエステルを!』
 武器を構えだしたアルメイヤを止めたのは、大宮 朝霞(aa0476)であった。
「アルメイヤさんはさがっていてください。共鳴していない貴女は危険です」
 朝霞の言葉は正論であり、アルメイヤは唇を噛みながらも武器を下げた。
「あれも武器なのかな……? ただの楽器じゃなさそうだね」
 小宮 雅春(aa4756)は、五人囃子をみやる。彼らは、笛や太鼓を持っていた。どうやら、彼らは音による攻撃がメインの従魔のようである。
『あれがなければ、ただの五人よね?』
 Jennifer(aa4756hero001)の言葉通りだと雅春は思った。
「なら、やっぱり武器狙いだよね」
 雅春の攻撃でも、五人囃子の演奏は止まらない。雅な演奏は、どうやら雅春たちの防御力を下げる効果があるらしい。雅春は、とっさに叫んだ。
「皆、耳を塞いで!!」
「悪いが、今は両手が離せないんだ。こっちの防御力が弱まるのを覚悟で、月影と合わせるぜ」
 ウロボロスを握った龍哉に、飛翔は頷く。ちなみに、どちらの両手も武器で埋まってしまっている。
「まずは、厄介な相手からまとめて片付ける」
『一気に行きましょう』
 ルビナスの言葉を聞きながら、飛翔は一瞬だけ龍哉の目を見た。おそらく、彼だったら自分がどんなタイミングで打っても合わせることができるだろう。そんな自信が伝わってきた。雅春が、五人囃子をできるだけ一か所に集めている。撃つならば今しかない。
――怒涛乱舞!
――怒涛乱舞!
「五人囃子の笛太鼓、迷惑なんで退場願うぜ!」
『まるで呪歌ですわ。雅さが足りませんわね』
 龍哉の言葉を聞きながら、飛翔は思う。
「たしかに、女の子の成長を願う祭りなのに子供が足りないな」

●三人官女
「エステルどこかなー?」
『やはり、姿は見えないようだな』
 どらごん(aa3141hero001)は、やはり無駄だったかと呟いた。ギシャ(aa3141)が三人官女をかく乱している間でも、どらごんは公園のいたるところに目をやっていた。しかし、知り合いの少女の姿も気配も察知することはできなかった。愚神の能力で隠されていることは確信的なのだが、こうも見事に隠されてしまうのも悔しい。
「愛や友情といった不思議パワーでみつけるのさー」
 三人官女の薙刀を避けながら、ギシャは笑う。
『愚神の能力で隠されているならば、そんなもので見つかるものか』
「どらごんだって、そういうの好きだよね? あと、友情・努力・勝利。男の子は、みんな大好きって聞いたよ」
 どこかの雑誌の三カ条みたいな言葉に、どらごんはため息をつく。
『俺が好むのは、ハードボイルドだけだ』
 三人官女に囲まれそうになったギシャは、繚乱を使用する。
 愚神の作り出す花びらとは違う花びらのなかで、ギシャは微笑んだ。
「アルメイヤもギシャもエステルを助けるために来たんだから、絶対にみつかるよ」


●右大臣・左大臣
『我々は能力者と運命共同体。何か少しでも感じる事は無いだろうか?』
 99(aa0199hero001)が、前線から離れていたアルメイヤに尋ねた。
「愚神の技の影響なのか何も感じないんだ」
 悔しそうなアルメイヤの顔を見ながら、シールス ブリザード(aa0199)は考える。エステルの気配をアルメイヤが察知できないのは、間違いなく愚神の術のせいである。愚神を倒せれば、術は解けるだろうが子供たちの無事を確保するためにできるだけ早くシールスは子供たちを発見したかった。
「こんな手も使えるよね?」
 シールスはブランケットを取出し、ふさぁと広げてみる。もしも、子供たちがブランケットの中に入り込んだのならば、盛り上がるはずである。
「あとは、香水を使ってマーキングをすれば……子供たちの場所も特定できるはずだよ。アルメイヤさん、これを使ってね」
「悪いが、私は愚神との戦いを観察することにする。もしかしたら、ライブスの流れでなにかが分かるかもしれない」
 そのアイテムはお前のものだ、とアルメイヤは言った。
『シールス、親王たちの攻撃に加わるぞ』
 99は、ジャングルジムの上に立つ親王たちを見ていた。仲間たちも親王たちを狙っているが、その道筋を右大臣と左大臣たちが阻んでいる。
「……状況開始」
 武器を構えた染井 桜花(aa0386)は、親王の急所に狙いをつける。だが、その攻撃は右大臣に阻まれた。親王を倒すには、彼らをまずはどうにかするのが先決のようである。
「あの獲物は、私たちのでしょぉ?」
 Erie Schwagerin(aa4748)は、リフリジレイトは使用して遠距離から右大臣と左大臣を狙う。
『命中はしたけど、さすがに一発じゃ倒れてくれないようね』
 フローレンス(aa4748hero001)の言葉に、Erieは頷いた。
 自分たちを狙う存在が気づいた右大臣は、Erieとの距離を詰めようとした。だが、彼女の前には盾の役割を担う少女がいた。
「……数が多い」
『ええ。ですが、大したことはなくってよ?』
 大門寺 杏奈(aa4314)とレミ=ウィンズ(aa4314hero002)である。守るべき誓いを使用した。槍の攻撃を防ぐ杏奈にErieは「まだイケルぅ?」と声をかけた。
『無理は禁物ですよ』
 フローレンスの言葉に、Erieは一瞬不安になる。杏奈が自分たちを守るために、無茶をしてしまいそうで心配になるのだ。
「仲間に手出しはさせないわ」
 杏奈は、盾を構えながら「大丈夫だよね?」とレミに語りかけた。
「弓を使うのは2回目だけど……よろしくね、レミ」
『もっちろん。わたくしの射撃技術で杏奈をサポートいたしますわ』
 杏奈は、できるのならば弓で親王を打倒したかった。だが、接近戦に秀でる右大臣と左大臣がいる限りは盾に徹しなければ仲間は守れない。
「体も心も孤立しちゃダメよぉ、狙われるからぁ」
 Erieは、杏奈の負担をできるだけ減らせるように攻撃を続ける。だが、敵が倒れる前に杏奈の守るべき誓いの効力が切れた。最悪のタイミングで、左大臣が杏奈の隣をすり抜ける。敵を目の前にしたErieが選んだ行動は、やはり戦い続けることであった。
「最近の魔女は、近接戦闘も必須科目なのよぉ!」
 カロル・サカルを装備したErieは、左大臣の攻撃を避けた。遠距離戦を好むErieだが、別に接近戦がとんでもなく苦手というわけでもない。だが、相棒のフローレンスは辛口だった。
『単位落としそうですけどね』
「うるさい。私は試験で赤点をとっても、補修にちゃんと出て卒業するタイプよぉ」
 さて、これからどうしようか。
 そんなことを考えていたErieの耳に、冷たい声が響いた。
「無様に踊りなさい。逃しはしないから」
 杏奈は弓を引いて、右大臣の首を狙い撃つ。
 武器を持った経験など、杏奈にはない。本当ならば弓は狙いを逸れて、的外れなところに飛んで行っただろう。だが、彼女には自分のものではない経験があった。流れ込んでくる相棒のレミの経験が、レミが身に着けた技術が、杏奈に精密な射撃を可能にさせる。
「憎い」
 小さく、杏奈は呟く。
 子供たちのライブスを吸い取ろうとした愚神が――過去に自分を苦しめたものが――言葉にならないほどに憎たらしい。
「――今回爆弾頭は使わないからね。ま、急所を狙うのは変わりないけれど」
『もちろん。子供たちの件もありますし、素早く倒しましょう』
 杏奈たちの攻撃を見ていたマリーは呟く。
『ふふふ……、お見事ねえ~』
「……血塗れのマリーには負ける」
『あらあら』
 桜花の言葉にマリーは、どこか楽しそうに微笑んだ。
「よーし! ちゃちゃっとやっつけて、子供達を助けるよ! ニック、変身よ!」
『やれやれ、手早く済ませてくれ……』
 ニクノイーサ(aa0476hero001)はやる気に満ち溢れている朝霞の勢いに押されつつも、彼女と共に戦うために共鳴をする。
「変身、ミラクル☆ トランスフォーム! 聖霊紫帝闘士ウラワンダー、見参!!」
『朝露、姫の方を狙うんだな』
 ええ、と元気よく朝霞は頷いた。
「お雛様を壊すなんて、女の子としても正義の味方としても心苦しいけど……従魔なんだからしょうがないよね!!」
『その前に邪魔な右大臣と左大臣をどうにか……』
 ニクノイーサが言い終わる前に、攻撃してくる右大臣に対して朝霞は拳を振り上げていた。
「ウラワンダー☆ アタック!!」
 吹っ飛ばされた右大臣を見ながら、ニクノイーサは何故か『ひな祭りは、たしか女の子の健やかな成長を願う祭りだったよな』と呟いていた。
 桜花は狙撃ポイントを変えながら、目標に狙いをつけていた。親王を倒すうえで、邪魔であった右大臣・左大臣のうち、すでに右大臣が撃破されている。仲間たちの攻撃が、強力な従魔を消し去ってくれた。ならば、次は自分とマリーの番だ。
 桜花は、姫に狙いをつける。本当ならば七段飾りの上で静かに微笑んでいるだろうお雛様の象徴を破壊するために、桜花はシャープポジショニングを発動させた。
 その瞬間に、マリーに電流のような快感が走り抜けていく。マリーは銃の引き金を引いたり、敵を撃ったりすることに快感を感じるタイプだ。今も艶やかな唇をゆがめながら、その感触を一人味わっている。
「……狙い撃つ」
『ふふふ、ドンドン撃っちゃいなさいな』
 桜花が撃つたびに、マリーは笑みを深めていく。
 彼女の白い顔に浮かぶ唇は、血に濡れた三日月のような形をしていた。

●ヒナとマツリ
 沙貴は、潜伏を使用していた。
――僕は本隊の護衛に回ろう。ターゲット以外の敵が本隊を邪魔しに来たら、排除する。
 そう考えながら潜み、敵に攻撃を加えていたのである。
 ヒナとマツリか――……。
 幽霊がいるかいないかは分からないが、彼女らを語る愚神が現れたなんてきっといい迷惑であろう。
「それとも、この状況を楽しんでるのか。物語にでてきそうな悪戯好きの妖怪みたいに。……まあいいや」
 沙貴は近づいてくる三人官女に、ジェミニストライクを使用する。
「おっと!」
 三人官女を相手にしていたギシャは、攻撃に巻き込まれる前に身軽に逃げた。その顔は、まるで遊んでいるかのような笑みが浮かんでいた。
「おおっ、今のは危なかったかもね」
『遊んでいる暇はないぞ』
 どらごんの言葉に、ギシャは「遊んでないよー」と答える。
「でも、こういうふうに一生懸命に戦っている時って『心配してる』っていう気持ちも一瞬忘れられるよね。アルメイヤも戦えればいいのに」
 ぷくー、と頬を膨らませるギシャ。
 共鳴をしていないアルメイヤは、いくらエステルを思う気持ちがあっても戦えない。
『……エステルは見つかる。愚神を倒すことができればな』
「当然。そのためにギシャたちが来たんだもんね」
「ギシャさん、大丈夫でしたか?」
 沙貴は、ギシャに声をかける。
「だいじょーぶ!」
「よかった。三人官女は、まだ二対もいます。気を抜かずにいきましょう」
 沙貴は、再び潜伏を使用する。
 実は、沙貴はギシャを見たとき胸が痛んだ。ちくりとしたかすかな痛みは、ギシャがヒナとマツリと同じぐらいの年齢だったからであろう。本来ならば、彼女たちもあれぐらい朗らかに笑っている年代の子なのだ――そう思うと沙貴の胸は痛んだのである。
「二人で……半分こできるといいね」
 すべてが終わったら、双子にチョコレートを備えて帰ろう。
 沙貴は、人知れずそう思った。
『……引き離す事が叶うなら助けますのに』
 ヴァルトラウテは、悲しげにつぶやく。幼子と戦うのは、彼女にとっては胸が痛むことであった。
「気持ちは判らなくもねぇが、既にこいつらは紛う事なき愚神だ。逃がせば次の犠牲者が出る」
『ええ、それを許す訳には行きませんわ』
 ここで立ち止まれば、第二第三の被害者がでる。
 それを許すわけにはいかない。
 そのためにも――龍哉はイグニスを構える。
「こんなもんが舞ってたんじゃ花見も出来ねぇな」
『皆さん、巻き込まれぬよう注意願いますわ』
 焼き尽くされたのは、愚神が作り出す桃の花びらであった。
「うわぁ、見ごたえたっぷりな炎の花吹雪だね」
 シールスは自分たちの頭上を舞う光景に、一瞬だけ目を奪われた。自然では発生しない光景は、シールスの目に焼き付いて離れない。だが、そんなものに目を奪われてしまっているのはシールスだけであった。
『数が多かった従魔も、随分と減ったな』
 99は落ち着きはらった声で、戦況を分析する。
「相変わらず、クールだね。まぁ、戦闘中に炎に見惚れてしまう僕のほうが今は悪いのかもしれないけれど」
 シールスは、雅春にリジェネーションを使用する。
 ありがとう、という雅春を99はじっと見つめていた。
「どうしたの?」
『彼は、どうしてあんなに寂しい顔をしているのだろうか?』
 99の言葉に、シールスは「はぁ」とため息をついた。
「ねえ、【きみは誰?】」
 雅春は、ヒナとマツリに話しかける。
『どうしたの?』
 Jenniferは自分の相棒の行動に、首をかしげる。
「世界蝕が起きたのが1995年。怪談話が事実なら、戦前の人物に愚神が憑依できるとは思えない。なら、今ここにいるのは本当にヒナさんとマツリさんなのかな?」
 子供の用に無垢な雅春の問いかけに、Jenniferは一瞬言葉をなくす。
 ――あの愚神たちは、一度もヒナとマツリを名乗っていない。
 この地域には「ヒナとマツリ」という怪談話があり、偶然二人の少女が愚神に取りつかれた。これは、ただ単にそういう事件なのだ。
「……二人の名を使って、関係のない誰かが巻き込まれたんだとしたら救われない」
 まさに、そうだ。
 この、事件に救いなどない。
『知ったとしてどうするの? 半端に情けをかけて生き永らえさせる方が。残酷なこともあるのよ』
「そうだけど……」
 雅春は、どこか納得がいかないようであった。
『愚神の姿に惑わされるなよ。情けは禁物だ』
 ニクノイーサは、雅春のように朝霞が惑わないように声をかける。
「OK、ニック!」
 レインメーカーを装備した朝霞は、マツリの方へと走る。
「それにしても……アルメイヤさんの言っていた、子供達とエステルさんの姿が本当にみえないね」
『愚神が簡単に獲物を逃がすはずがない。この近くにいるはずだ』
 マツリの薙刀を、朝霞はレインメイカーで受け流した。
「くっ。この子、私のライブスを吸い取って強くなっていくみたい!」
『朝霞、距離を取れ!!』
 ニクノイーサの助言通り距離を取った朝霞を襲ってきたのは、ヒナの弓矢であった。
 とっさに避けようとする朝霞に「動かないでください。……こちらの弓矢の狙いは正確です」と沙貴が声をかけた。
「無様に踊りなさい。逃しはしないから」
 杏奈が飛んでくる弓矢に向かって、弓を構える。
 その後ろには、Erieがいた。
 銀の魔弾を放って、親王の残りである殿を倒そうとしていたのだ。
「ちょっと、間に合わないねぇ」
『遠距離戦も赤点になりそうですね』
「そんなこと……ないわぁ!!」
 フローレンスの言葉に、Erieはありったけの思いを込めて銀の魔弾を殿に打ち込んだ。
 だが、間に合わなかった。
 殿の従魔が光り輝き、敵の体力がどんどん回復していく。
「……やらせない」
 桜花が殿を狙い撃とうとするが、引き金を引く前に殿の姿は消滅していた。
『ちょっと、遅かったみたいね』
「……」
「それでも、倒した姫の分の回復量は減ったようだ」
 飛翔はワイヤーを使いヒナから、マツリを引離そうとしていた。
「こちらの相手もしてもらうぞ」
『槍の懐へ』
「時間をかけられないからな、一気に決める」
 自分より身長が低いマツリの攻撃パターンは、飛翔には大体予想がついていた。
 ――おそらくは、足か下からの切り上げが多くなる。
 予想通りマツリは、下から上へと薙刀を切り上げてきた。飛翔はブレイブバインザーを使用して、攻撃を外側に弾く。
『その子のためにも、この愚神は必ず滅ぼします』
「ああ、姿に惑わされはしない――今だ! 撃ち込め」
 飛翔が、叫んだ。
「こう見えても、攻撃を命中させるのは少し自信があるんだよね」
 飛翔の作った隙に攻撃を打ち込んだのは、シールスであった。
 自分の半身を攻撃されたことに気が付いたのか、ヒナが弓をシールスへと向かう。
「お人形遊びは好き?」
 雅春の七人の小人が、ヒナの弓を落した。
 だが、雅春の表情はどこか冴えないものであった。
「おい!」
 そんな雅春に、龍哉は怒鳴る。
「俺らに出来るのは、せめて愚神の呪縛から解き放つことくらいだ!!」
 微塵の迷いもなく龍哉は、マツリに向かってチャージラッシュで威力を高めた疾風怒濤を打ち込む。
『たたみかけるなら、今だ!』
「分かってる。エルテルさんのためにも、子供たちのためにも、絶対に倒さないと!!」
 朝霞は、レインメイカーを構えた。
 そんな、朝霞にヒナの矢が再び降ってくる。
――ヒナの弓の狙いは正確じゃないな……たとえ発見されていても、常に動いてれば当たらないはずだ。接近はせずに、隙を見て反撃に移行すべきだ……でも。
 沙貴はターゲットドロウを使用し、朝霞に向かうはずだった攻撃を肩代わりした。
「つっ……動いていれば当たらないなんて、ちょっと甘くみすぎていたんでしょうか」
 矢がかすった肩を抑えつつ、沙貴はへらへらと笑っていた。だが、深々と刺さった矢は痛々しいものであった。
「沙貴さん!」
 自分の代わりに怪我を負った沙貴に、朝霞は心配そうに声をかけた。
「回復は僕がするから、戦える人は前を向いて! だいじょうぶ。子供たちに『僕たちのせいでお姉ちゃんやお兄ちゃんが怪我をした』なんて思わせないよ」
『気にするな。適材適所という奴だ』
 99とシールスの言葉に、朝霞は再び武器を構える。
 今は、正義の味方として戦うべきなのだ。
 そう考えて、朝霞は自分を落ち着かせる。
「……敵も、もう残り少ない」
 桜花は呟く。
『そうね』
 マリーは、悩ましげに息を吐いた。
 桜花は仲間の援護を続けるべく、引き金を引き続ける。近距離を得意とする人間の援護は、とても難しい。味方に当たらないように撃っても、敵にもあたらない可能性がある。敵に当たるように撃てば、味方に誤射する可能性も増える。
『タイミングも目標もドンピシャねえ。最高の援護、良いわあ』
「……まだよ」
 官能に酔うマリーは、うっとりしながらもどこか冷えた声で呟いた。
『でも、なんだか物足りないわね』
 
●とある怪談の終わり
『杏奈、もう戦いは終わりました。弓はしまってよろしいですわ』
 レミの言葉に、杏奈は小さく息を吐いた。
 戦いが終わったせいなのか、先ほどまで感じていた攻撃的な黒い感情が少しだけ和らいだような気がする。それと同時に、精神的な疲労がどっと杏奈を襲った。
「疲れた……よね」
『その疲労に見合った働きでしたわ』
 ヒナとマツリが倒された瞬間、公園の一角に子供たちとエステルの姿が突然現れた。愚神の術が解けただけだとわかっていても、その出現に誰もが驚く。
「5人……エステルも含めて、これで全部か?」
『皆さん、良く頑張りましたわね』
 ほっとしたヴァルトラウテと共に、龍哉は公園の外で待機してもらっていた救急車を呼びに行く。子供たちは見たところ外傷はなかったが、病院に搬送するのが一番の安全策であろう。
「しっかり! もう大丈夫だからね」
「……もう大丈夫」
 朝霞と桜花が、怯えて泣き出しそうになってしまっている子供たちに声をかける。彼女たちの優しい雰囲気に、母や姉の気配を感じたのか子供たちは「わー、わー」とさらに火がついたように泣き出してしまった。最初は困り顔の二人だったが「泣くほどの元気があるからいいか」とどこかほっとしたような顔で子供たちを抱きしめる。
『これが魔女試験なら、ぎりぎり合格というところでしょうか』
「これって、試験だったのぉ?」
 フローレンスの冗談じみた言葉に、Erieはくすくすと笑いだす。子供たちの危機が常に頭にあり緊張していたが、ようやく今になって緊張の糸も切れたのだ。
「せっかくの雛人形が、こんなことでトラウマなんかになって欲しくないな」
『そうですね。せっかくの女の子のための人形なのですから』
 飛翔の言葉に、ルビナスが頷こうとした。だが、頷けなかったのは雅春の呟きを聞いてしまったからだ。
「ごめんね、きっと怖かったよね……」
 Jenniferに言ったのではあるまい。彼女は、何の感慨もないようにそこに立っているだけであった。
「エステル、無事でよかった!! 心配したんだよ」
 エステルに飛びついたのは、ギシャであった。そんな無邪気な相棒の姿を見ながら、どらごんは火のついていない葉巻をゆっくり口にくわえる。
『感動の再会は、まずは家族が先にするものだ。友人はあと』
「えー!」
 ギシャは、むくれながらエステルから離れた。
「エステル!!」
 アルメイヤは、幼い自分の相棒を抱きしめた。ほんの数時間の別れだったはずなのに、永遠に会えなくなると思った。なのに、それに対して自分は何もできなかった。
 ――私は怖かったよ、エステル。
「アルメイヤ……あなたが皆を呼んできてくれたから、私たちは助かったんです。……その、ありがとうございます。あなたが、私と出会ったころの何でも一人でするようなアルメイヤのままだったら……」
『――そうだな。私は、エステルをここで失っていた』
 アルメイヤは、改めて今回の事件にかかわった仲間たちの顔を見た。
 雅春は、そんな彼女の少しだけ晴れやかな表情を見たとき「怪談話の真偽を引き続き調査したい」という気持ちが強まった。未来を勝ち取ることができた、アルメイヤの表情。それは、一歩進み始めた人間が浮かべるものだった。事件に巻き込まれた子供たちは、そんな表情を浮かべる未来さえも奪われてしまった。
「ほとんど、自分のエゴだってはわかってるよ。それでも、せめて……弔ってあげたい」
 その呟きを聞いていたのは、彼の人形であるJenniferだけだった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 希望の守り人
    シールス ブリザードaa0199
    機械|15才|男性|命中
  • 暗所を照らす孤高の癒し
    99aa0199hero001
    英雄|20才|男性|バト
  • 『星』を追う者
    月影 飛翔aa0224
    人間|20才|男性|攻撃
  • 『星』を追う者
    ルビナス フローリアaa0224hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • ー桜乃戦姫ー
    染井 桜花aa0386
    人間|15才|女性|攻撃
  • エージェント
    マリー・B・ランディーネaa0386hero002
    英雄|18才|女性|ジャ
  • コスプレイヤー
    大宮 朝霞aa0476
    人間|22才|女性|防御
  • 聖霊紫帝闘士
    ニクノイーサaa0476hero001
    英雄|26才|男性|バト
  • ぴゅあパール
    ギシャaa3141
    獣人|10才|女性|命中
  • えんだーグリーン
    どらごんaa3141hero001
    英雄|40才|?|シャド
  • 暗闇引き裂く閃光
    大門寺 杏奈aa4314
    機械|18才|女性|防御
  • 闇を裂く光輝
    レミ=ウィンズaa4314hero002
    英雄|16才|女性|ブレ
  • エージェント
    Erie Schwagerinaa4748
    獣人|18才|女性|攻撃
  • エージェント
    フローレンスaa4748hero001
    英雄|22才|女性|ソフィ
  • やさしさの光
    小宮 雅春aa4756
    人間|24才|男性|生命
  • お人形ごっこ
    Jenniferaa4756hero001
    英雄|26才|女性|バト
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