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Panic Zoo!
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奥山さん質問です。
最終発言2017/03/12 03:53:04 -
相談しましょ、そうしましょ
最終発言2017/03/12 14:19:51 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2017/03/12 01:13:46
オープニング
●混沌の動物園
その動物園は都心からは少し離れた郊外にあった。
それなりに広い敷地を誇り、休日は親子連れで賑わう、そんな何の変哲もない動物園。
しかし、その動物園は今――
「イッツ、ショォォタァイム!」
一体の愚神の出現――そしてそれに伴う動物たちの脱走に寄って阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。
●避難状況
「ち、広いな……」
動物園内の地図を画面に表示させながら奥山 俊夫(az0048)は短く舌打ちした。
「園内の避難の状況はどうなってます!」
取り急ぎインカムを付け、資料に目を滑らせながら問いかける。通信の向こうは動物園の園長である。
『はい、従魔には近づかないようにして何とか出来る限りは……ただなにぶん人数が人数なので……建物の中に取り残されているお客様も多数いらっしゃる状態です』
「わかりました。以降は我々H.O.P.E.が預かります。これ以上現場に留まるのは係員の方々も危険です。外にいる人の誘導が終わったら一緒に避難してください」
『は、はい、わかりました。よろしくお願いします』
「お任せください。何かあればまた連絡します」
プツと通信が切れたのを確認してから、インカムを取り外し机に放り投げる。
「全長2kmほどか……。幸い隠れる建物は豊富だが……」
PCを操作して園内施設とMAPを照らし合わせていく。
大きな施設は全部で5カ所。正面玄関ホール、熱帯動物館、鳥類館、爬虫類館、アジア館。
これらの建物には結構な数の人が残されている可能性がある。
「従魔も危険だが、動物も厄介だな……」
共鳴したエージェント達にとってはトラもライオンも大きな猫と大差ないが、一般人にとっては抵抗すらままならない猛獣である。
避難するにあたって脱走した猛獣たちの存在は非常に邪魔だった。
「エージェントの諸君、聞こえるか? 今回の事件を担当する奥山俊夫だ。よろしく頼む」
再びインカムを装着し、今度は別の端末に通信を飛ばす。
「今回の事件の目的は大きく二つ。逃げ遅れた人たちの救出と従魔の撃破だ。入口は主に北口正面玄関、西業者用搬入口、南従業員用入口の三カ所だ。園内の動物も逃げ出しており大きな混乱が予想される。一応殺さないように要請は受けているが、最優先は人名救助だ。現場の判断は君たちに一任する。それでは今から詳細なデータを送るぞ」
そう言って、エージェント達を運ぶ社内の端末にデータを送信するボタンを押した。
解説
●目的
園内に取り残された一般人の避難、および従魔の撃破
●敵 ※それぞれの姿のみPC情報。他PL情報。
デクリオ級愚神「アニマルテイマー・ヒッケ」×1
両手に鞭を持つ筋骨隆々とした男の姿をした愚神。常に近くに『ロイ』と『レイア』を付き従えており、彼らと完璧な意思疎通を行い、彼等を手足のように使役する。
この従魔本体もそれなりの戦闘力を有しており両手の鞭を操り、何かに巻き付けロープ代わりにしたり、それを引き寄せたりと自在に操る。破壊力自体は高くないが、鞭の動きは非常に速いうえに軌道を読みづらく、避けるのは苦労するだろう。
双舌鞭:敵を二体まで1d4スクエア引き寄せる。射程4複数2体
乱鞭陣:二本の鞭を素早く振り回し辺りにダメージを与える。射程0範囲2。低確率で【衝撃】付与
蛇縛鞭:鞭一本を相手に複雑に絡ませ拘束する。射程2単体。高確率で【拘束】付与
デクリオ級従魔「ロイ」×1
巨大な虎の姿をした従魔。非常に素早く、また力強い。彼に噛み付かれてはただでは済まないだろう。
虎口:鋭い牙で噛み付く。射程1単体。高確率で【減退(2)】付与
デクリオ級従魔「レイア」×1
巨大なカバの姿をした従魔。動きは鈍重だが、非常にタフ。噛みつきやその頑強な体を使った突進を行ってくる。
突進:巨大な体で突進する。直線4
●状況 ※PC情報
各建物にそれぞれ十数人が閉じ込められている。子供連れや女性が多く、外を歩く従魔や猛獣を恐れ避難できないでいる。
施設の場所は北口近辺に正面玄関ホール、熱帯動物館。
西口近辺に鳥類館、爬虫類館。
南口近辺にアジア館。
脱走が確認されている猛獣はヒグマ×1、トラ×2、ライオン×3、狼×5。
従魔は現在南口付近を徘徊し、施設を破壊と動物の解放を行っている。積極的に人を狙う動きは今のところない。
リプレイ
●西――業者用搬入口
「ここが入口ね……」
動物園という華やかな舞台とは裏腹に、無機質な金網で囲われた無機質なゲートを見つけてメリッサ インガルズ(aa1049hero001)が呟く。
「あ、H.O.P.E.のエージェントの方ですか!?」
ゲートに近付いてきた拓海達を見て初老の作業服の男性が駆け寄ってくる。
「そうだ。お前は動物園の人間か」
「はい、お待ちしておりました! 来てくださって、ありがとうございます……!」
興奮気味の係員とは対照的に落ち着き払った態度で黛 香月(aa0790)が問いかけると、男性はその手を強く握り拝み倒す様に頭を下げた。
「大丈夫よ……私達が来たからには安心して」
「……ん、絶対助けるから。お客さんも……動物たちも……」
対処に若干困った様子の香月の横からアルヴィナ・ヴェラスネーシュカ(aa4969hero001)と氷鏡 六花(aa4969)が声を掛ける。
「お願いします……!」
「任せてください。――ところで、こちらに園内移動用の車があると聞いたのですが分かりますか?」
必死な係員の様子に胸を打たれるが今は非常時である。荒木 拓海(aa1049)は任務に意識を切り替え、聞かなければならない事を尋ねる。
「はい、伺っております。あちらになります」
係員が指を指した向こうには様々な動物の絵が描かれたバンタイプの車が二台。それを確認して拓海は隣の三ッ也 槻右(aa1163)と目を合わせ頷きあう。
「鍵は刺さってますのですぐ使えます」
「ありがとうございます、助かります! ここは危険だから、安全な所へ避難を」
「はい、分かりました」
係員に避難を促し、一同は車へ向かって走る。
「まだ……人がいるんだね」
ゲートを潜り駐車場へ向かう途中で耳に届いた動物の鳴き声に槻右がぼそりと呟く。同時に槻右の後ろについていた隠鬼 千(aa1163hero002)が顔を歪ませた
「~っ……動物の声が……悲鳴みたいです。お客さんもきっと怖がってます。主……行きましょう!」
「うん」
千の言葉に決意を新たにして頷き、そのまま幻想蝶に触れ共鳴する。
「私達は歩いて近場の施設を回る。車は任せるぞ」
「了解、お願いします!」
「いくぞ。こい、アウグストゥス」
「はい、香月様」
香月が自身の誓約英雄であるアウグストゥス(aa0790hero001)を呼び寄せ共鳴し、園内に突入していく。
「あ、待って待って! 六花もいっくよー!」
その後ろを追って同じく共鳴した六花が走る。
「俺達も行こう、拓海」
「ああ」
車に乗り込んでキーを回す。送風口についていたドリンクホルダーに、園内地図を見えるように差し込む。
「まずは危険に近いアジア館からだね」
エンジン音が獣のいななきの如く響き渡った。
●北――正面玄関
「いやー、動物園に来るなんて久しぶりだねー」
「こんな状況じゃなかったらもっと良かったんだけどね……」
お城を模した動物園の入口ゲートの中から園内を望み、のんびりとした口調で喋る百薬(aa0843hero001)に餅 望月(aa0843)がうんざりした様子で返した。
「動物園、初めて来たのにこの状況だなんて、ね」
「落ち着いてからまた来ればいい。なに、被害者さえ出さなければ営業再開は早いはずさ」
「……そうね。頑張りましょう」
少し暗い顔を見せるフィアナ(aa4210)にルー(aa4210hero001)励ます様に声を掛ける。
それは功を奏したようで、フィアナが硬く拳を握り目に光が取り戻される。
「とりあえず近場の施設の救助から始めようか。北口に近いのはホールと熱帯動物園、か」
「なら、私は熱帯動物園の方へ。足の速さには自信がありますから」
「なら私はホールだね。それじゃあ、頑張って!」
「はい!」
手早く分担をし、お互い別々の建物へ走り出す。
「さて……この建物ですね」
道中で走り掛けに共鳴を済ませ、正面玄関ホールの扉の前に立つ望月。ガラス張りのそれに手を伸ばすが施錠してあるらしく、押しても引いても開かない。
「皆さん大丈夫ですか!? 私はホープのエージェントです! ここを開けてください!」
壊そうと思えば一瞬だが、そんなことをしても逃げ込んだ人たちを怖がらせるだけだ。中にいる人に届くよう極力大きな声で呼びかける。
「H.O.P.E.……! H.O.P.E.が来たぞ!」
恐らく動物が入ってこないように見張っていたのだろう。近くの物陰から男が姿を現した。
「来てくれたんだな! 待ってくれ、今すぐ開ける!」
「中の人達はご無事ですか?」
若干興奮気味の男性を落ち着けるように穏やかな口調で聞く。
「あ、ああ……ここには怪我人はいねぇ。みんな無事だ」
「良かった。皆さんが無事で何よりです」
思惑通り、男性は次第に落ち着きを取り戻す。望月の共鳴時の姿は大きな羽に光輪とまさしく天使としか形容できない姿形をしており、こういった非常事態に人々に安らぎを与えるのには適していた。
従魔もいないのに共鳴したのはそういった理由もある。
「歩けない方はいませんね? ここはまだ入り口に近い建物ですから、歩いて避難できるはずです。大丈夫、私がいる限り動物に襲われるようなことはありませんから」
そう言って微笑みかける望月の姿は、男性からはまさに救いの女神そのものだった。
●北――熱帯動物館
「ちらほらと動物さん達の姿も見かけるけど……今は先を急ぐべきよね」
フィアナは園内を我が物顔で闊歩するライオンなどを資格の隅に捕らえるが、あえてそれは無視し目的地の熱帯動物館まで走る。
優先順位をはき違ってはならない。まずは人命救助が第一である。動物たちの捕獲は必要に迫られてからで問題ないだろう。
「あれは……!」
その目的の熱帯動物館までたどり着いて、フィアナは息を飲む。
建物への動物の侵入を阻んでいたであろうガラスの自動ドアが何者かによって破られている。
「愚神の仕業? それとも動物……?」
疑問に思うが、どっちみち非常に危険な状況である事は間違いない。
仮に愚神の仕業でなく動物だったとしても、それなりに分厚いガラスを破れる動物が侵入したとなれば一般人にとっては愚神と大差ない危機である。
「急がないと……!」
一層足に力を籠め、熱帯動物館へ接近しその破れた扉をくぐる。
「きゃぁぁぁ!」
それとほぼ同時に響き渡る女性の悲鳴。悩む時間はない。急いでその悲鳴の元へ向かう。
「グルルル……」
そこにいたのは日本に生息する最大の肉食獣――ヒグマだった。その巨大なヒグマが床にへたり込んだ女性に向かって唸り声を上げている。
「いけない!」
すぐさまヒグマと女性の間に割って入り、身を挺して女性を庇う。
「グルル……」
急に出てきたフィアナに驚いたのか、ヒグマはその場にすっくと立ちあがった。
立つとなおさらデカい。2mをも超える巨体が見る者に恐怖を植え付け圧倒する。
「早く逃げて!」
とはいえそれは一般人に限ればである。普段から従魔や愚神と対峙するエージェントにとっては脅威足りえない。
「あ……あぁ……」
庇う女性が動けそうにないのを感じ取り、フィアナは盾に持ち替え、ゆっくりとヒグマに向かって歩いていく。
「グオッ!」
一種の防衛反応だろう。無防備に近づいてきたフィアナにヒグマがその太い腕を振るう。
「……ごめんね」
フィアナはそれを片手で軽々と受け止めると、抱きとめるようにヒグマの胴体へ体当たりした。
そのまま力任せにヒグマを押し、後方にあった小さな部屋の入口に押し込める。
どうやら、熱帯地方の動物を映像で紹介する視聴覚室であるらしい。
フィアナはヒグマの足を引っかけ転倒させ、確かに中に誰もいないことを確認すると外に出てその扉を閉めた。
「グオオ……」
中から唸り声が聞こえるが、扉は金属製でそれなりに頑丈そうだ。すぐに破られることはあるまい。
「怪我はない?」
「え? あ……は、はい……」
未だショックから抜け出せず放心状態の女性に声を掛ける。
「安心して。私達が来たからにはもう大丈夫よ」
努めて笑顔を浮かべフィアナは女性に手を差し伸べた。
●南――従業員用入口
蒼天の空に乾いた銃声が響き渡る。
「ひとまずの獣避けにはなりそうだな。気休めだがよ」
断続的に数度響いたそれは攻撃や破壊を目的としたものではない。
レイ(aa0632)が動物たちの園外への逃亡を阻止するために上空に向かって放たれた空砲である。
狙い通り付近の動物たちが轟音に驚き走り去っていくのを見て、レイは満足げに硝煙を吹き飛ばした。
「驚かせてごめんねー、しばらく大人しくしててね」
隣でカール シェーンハイド(aa0632hero001)が手をひらひらとふり動物たちを見送る。
「……いきなり離されて吃驚してるだろうねー」
「何の為にそんなことを……」
レイは威嚇の為のオートマチックを仕舞いながらぼやく。
「本気で閉じ込められてるのが可哀相だと思ってても面白半分でも……」
カールがいつになく真面目な顔で拳を握る。どうやら今回は本気で頭にきているらしい。
「……オレは許せない……動物好きとして……ッ!!」
「まったく同感です……!」
それに反応したのは相棒のレイではなくメイド服を着こんだ英雄、ルビナス フローリア(aa0224hero001)だった。
「これで動物保護とか言い出すなら、呆れを通り越して笑えますね」
「……怒ってるな」
相方の珍しい感情を露わにした口調に月影 飛翔(aa0224)が口を挟む。
「モフモフを恐怖の対象にするのは許せません」
「そうね、こんなテロまがいの行為は巻き込まれた人たちはもちろん、同時に動物さん達の命も危険に晒してる……! ありえないわ!」
「お前はそっちだな。やっぱり」
炎が燃え広がっていくように加賀谷 ゆら(aa0651)にも怒りが伝わるのを見ながら、シド (aa0651hero001)はわずかに溜息を吐いた。
まあ、何にせよやる気がある事はいい事だ。
「……なるほど、これがこの世界での自然とヒトの繋がりの在り様なのですね」
「まあ、そういう見方もあるな。もちろんこれだけではないが、その一端である事に疑いはないだろう」
興味深げに動物園を見渡したディエドラ・マニュー(aa0105hero001)の呟きににティテオロス・ツァッハルラート(aa0105)が補足を付けつつ答える。
「まずは親玉の捜索からだな。今の音を聞いて寄ってきてくらりゃ楽なんだがな」
「できれば広いところで対峙したい、少し移動しよう」
飛翔の意見に他のメンバーも同意して頷く。
「これから愚神達との戦闘に入る。誘導者が来るまで隠れていてください」
先ほどの轟音に釣られてアジア館の入口から顔を出していた客に声を掛けてから、その場を離れる。
愚神の姿は見えないとはいえ自力で脱出を試みられるのも危険な状況だ。救助班が到着するまではじっとしていてもらう必要があった。
「いた!」
走りながらゆらが前方を指差す。
その先には通常のものとは一回りも二回りも大きな巨大なカバが一頭。
明らかに尋常の生物ではない。――従魔だ。
『レイ!』
「分かってるよ、任せろ」
メンバーで最も攻撃射程の長いレイが素早く弓を構えて放つ。
音すら置き去りにして空気を切り裂き、矢が従魔に迫る。
「ヴォォォ!」
矢が胴体に突き刺さり、カバが大きくいななく。
「ヴォヴォ!」
威嚇するような声をあげエージェント達の方へ向きを変える巨大なカバ。
「来るか!」
まだ従魔との距離はかなりあったが、相手は常識では測れない相手である。何があってもいいように武器を構え備えるエージェント達。
しかし――
「ステイ! ステイ、レイア!」
先ほどティテオロスが起こした破裂音と似たような音の後、野太い男の声が響いた。
すると、今にもこちらへ向かってきそうだったカバ――従魔レイアがその場で足を止め大人しくなる。
そして、その横手から現れる筋骨隆々とした男が姿を現す。
「ようこそおいでました、H.O.P.E.のエージェント諸君。アニマルテイマー・ヒッケの『弱肉強食ショー』へようこそ」
「これがショーだと……?」
怒りをにじませながら、ゆらが絞るように声を出す。
「如何にも。普段は自らを上位に置くピエロ達が、野生の反撃に遭い喰らいつくされ、そして最後はピエロの仲間達の復讐で野生が駆逐され、後にはないも残らないという無常観を演出する上質な『コミックショー』です。お楽しみいただければ幸いですが」
「貴様……!」
大ぶりな身振り手振りで己の『脚本』を語る愚神の言い草に怒りを抑えきれずゆらが一歩前に出る。
「悪ぃが、そのショーは中止だ」
ゆらの肩をレイが掴み止めた。
「今日は子供が多いからな。馬鹿な怪人が通りすがりのロックンローラーに倒される『ヒーローショー』に変更だ。趣味の悪い脚本のショーよりは需要があるだろうよ」
「そうですか? 子供は動物も好きだと思うんですがね。カモン! ロイ!」
愚神が鞭を軽く振るう。
すると、その後方の建物の影からやはり通常のものより遥かに巨大な虎が姿を現した。
「どの道、私のショーにあなた達は邪魔ですね。御退場願いましょう」
「ふん、拙い鞭捌きよな」
ティテオロスが競うように鞭を構える。
「貴様の鞭には気品、情熱、優美、そしてなにより……愛が足りない。それを今から教えてやろう」
エージェント達と愚神達の間に緊迫した空気が流れる。
「イッツ、ショータイム!」
そして、それは愚神の操る鞭の破裂音によって打ち破られたのだった。
●南――アジア館
「よし、愚神の意識が向こうに逸れた!」
「了解。車が愚神に見つからないように注意して裏側に止めよう」
近くで待機していた拓海と槻右が互いに連絡を取りながらハンドルを操り、入口に停車する。
「とりあえず、今のところはこちらに気付く様子はないな……」
車は危険な動物から守りながら多くの人々を運べる半面、愚神や従魔に狙われた場合一網打尽にされてしまう可能性も秘めている。そのうえ、運転中となればエージェントが取れる行動も限られる。
できる限り、車で救助を行っていることが愚神に露呈するのは防ぎたかった。
「H.O.P.E.です! 助けに来ました!」
大きな声で叫びながら中に入ると、不安げな顔をした人たちが一斉に拓海達の方を見る。
「H.O.P.E.……!」
一瞬の間の後、救助が来たという事実を要約の見込みわっと沸き立つ人々。
「拓海、とりあえず十数人くらいみたいだ」
「これなら二台で全員運べそうだな」
「じゃあ、誘導を頼む。僕は一応建物の中を一通り見回ってくる」
「わかった」
槻右の言葉に頷き、拓海は客の前に立ち大きな声を張り上げる。
「それではこれから避難を開始します! 愚神が近いので静かにお願いします!」
ざわざわと波紋のように動揺が広がっていく。
これから愚神が暴れている外に出ようというのだ。恐怖が生まれるのは当然である。
『でも、ここにずっととどまるのもはもっと危険だものね』
「だね。足止めしてくれてる人たちも本気を出しにくいし……」
メリッサの言葉に同意する。
「やだぁぁぁ! うわぁぁぁ!」
一団を入口まで誘導し、さてここからが本番という段にあたって、客の中の子供の一人が大きな声で泣き出してしまった。
「す、すみません、すぐに大人しくなりますから……。ほら、行くぞ」
「やぁぁぁぁ!」
父親が子供の手を引くが、その子は必死にいやいやと首を振って踏ん張る。
「おい、静かにしろよ、見つかるだろ!」
周りの大人たちの中にも焦りが生まれる。それはそうだろう、静かにしないと危ないと言ったばかりである。
「……驚いちゃったかな、ごめんよ」
拓海はにこやかにほほ笑みながら、その子供の前まで行ってしゃがみ込み視線を合わせる。
「今日は動物園の代わりにサファリパークになったらしい。特別な日」
「ううっ……」
子供の涙を親指で拭って、拓海はスッと立ち上がりあえて武器を取り出して構えて見せる。
「それにこんなに間近でエージェント達の戦いを見れる機会なんて滅多にないぞ! 本物のヒーローショーだ!」
「ヒーロー?」
「そう、何を隠そう、お兄さんはヒーローなんだぞ! ……だから大丈夫。絶対助けるから」
「……うん」
ようやく子供は泣きやみ小さく頷いた。
「怖いのによく耐えたね、強い子だ」
館内の見回りを済ませてきた槻右が子供の頭をクシャっと撫でる。
「拓海、中は大丈夫。他に人はいなさそうだ」
「OK。それじゃ、一刻も早く避難しよう」
二人は大きく頷き、避難を誘導するために気合を入れ直すのだった。
●西――鳥類館
「やっほー、みんな! ペンギンさんが遊びに来たよー♪」
「わぁー! ペンギンだぁー!」
巨大なペンギンの着ぐるみに身を包んだ六花に、子供たちが群がり無邪気な声をあげる。
なお、れっきとしたAGW兵器である。
「それじゃあ、皆ペンギンさんと一緒にお散歩しようね! でもペンギンさんはちょーと足が遅いからゆっくり歩いてくれると嬉しいな♪」
「「はーい!」」
「よくやるよ……」
子供たちを先導しよったよったと可愛い仕草で歩くその様子に、香月は呆れと感心が入り混じった呟きを発っした。
「まあ、一番厄介な幼児の恐怖を払拭できたのは幸運だ」
ただでさえ幼い子供というのは行動が予測できない。普段の生活ですらそれが危険を呼ぶこむことがある。こういった非常時であればなおさら、である。
それをこうした形でまとめられたのは避難誘導するうえで非常に大きい。
「……怖い」
「ん?」
と、そこで香月は己の裾を引っ張る存在に気付いた。視線を自分の足元に移すと、そこには小学校高学年くらいの女の子がうつむいて立っていた。
「私、恐い、です……」
掴まれた裾を通じて女の子の震えが香月に伝わってくる。
(着ぐるみにごまかされるほど子供ではないが、恐怖を克服できるほど大人でもない、か)
辺りを見渡すがこの子の親らしき存在は見受けられない。最初から一人で来たか、それともこの騒動の最中にはぐれたか。
「……仕方ない」
狙撃銃を担いだ手を片方離し、子供の手をそっと握る。ここで癇癪など起こされては非常にまずいし、六花のせっかくの努力も水の泡である。
「……ありがとう、お姉さん」
女の子は不思議そうに香月と自分の手を見つめ、そう呟いた。
「お姉さんというほどの年でもないんだがな……」
とりあえずここまでは順調である。愚神の足止めもうまく行っているようであるし、このまま終われば――
「まあ、そう上手くも行くわけがないか……」
避難経路の前方に視線を向け、香月が呟く。
そこには2頭のライオンが行く手を阻むようにこちらを伺っていた。
「はい、ストーップ! 止まって止まってー!」
先頭を歩いていた六花が己の後ろに付いてきていた子供をその場に留まらせる。
「お前は動くな。子供が不安がるからな」
香月は小走りで六花の隣に並ぶと片手でその動きを制する。
「分かった。んー、それじゃあもうちょっと近いところで動きを止めてくれれば多分無傷で拘束できると思う」
「……わかった。やってみよう」
短く返事をし、香月が前に出る。
距離だけの問題なら六花が近づいてもいいが、その場合子供の統率が取れなくなる危険性がある。六花はこの場から動かしたくない。
となると、香月がライオンをおびき寄せて動きを止めるのが一番合理的だ。
「来い、猫共。ちょっと撫でてやる」
くいと顎を引き、挑発するように投げかける。
「グォォ――!」
別に挑発が通じたわけでもないだろうが、一人不用意に近づいてきた香月に対してライオンたちは防衛本能をむき出しにして襲い掛かった。
「舐めるなよ」
一頭は正面から頭を押さえつけ、もう一頭はあえて腕を噛みつかせ、腕をねじり転倒させる。
無論、ただの動物であるライオンに噛み付かれたところで共鳴したエージェントが傷を負う事はない。とはいえ、痛い事は痛いのだが。
「OK! 離れて、香月!」
「ふん」
二頭のライオンを地面に押さえつけ、簡単には立てないようにしてからその場を離れる。
「いっくよー! ペンギンアイスショー!」
着ぐるみの手で器用に持った呪符が一枚砕け散り、代わりにライオンたちの真上にいくつもの氷の杭が生まれる。
「当たらないように……それっ!」
「うぉー! ペンギンすげー!」
「へっへー♪ 楽しんでくれたかな? それじゃあお散歩再開だぁ!」
あくまでショーであるというスタンスで子供たちを落ち着かせ、六花が再び先導して歩き始める。
「何とかなったか……」
「あの……お姉さん」
おずおずと先ほど裾を握ってきた女の子が香月に話しかけてくる。
「ありがとうございます。その……格好良かったです」
「あれくらいエージェントなら出来て当然だ」
香月の言葉に改めてペコリと一礼して女の子は再び香月の手をキュっと握った。
●南――噴水広場
「まずは挨拶だ、ヘボ調教師!」
レイが牽制がてら先制の矢を愚神に放ち、仲間に向かって叫ぶ。
「開演のベルとしては少々心許ないですね。――ロイ!」
レイのそれを軽やかに避けると同時に鞭をしならせ虎の従魔ロイに指示を与える愚神。
「グォォ!」
ネコ科の動物特有の加速で一気に最高速に達しエージェント達に迫るロイ。
「魔法の書よ、敵を撃て!」
いち早く反応したゆらが魔法書から白いカードのような魔力刃を射出し、迎え撃つ。
「グォ!」
ロイが高々とジャンプをしそれを避ける。
「動きが読みづらいな……」
しかし、攻撃は当たらなかったものの、ロイの勢いは完全に死んだ。ロイは無理に攻撃を仕掛けるのをやめ、機会を窺うようにエージェントの周りを歩き始めている。
「ヴォォォ!」
そこへ今度はレイアの方が石畳を踏み砕きながら突っ込んでくる。
「後衛は後ろに下がれ! ここは俺達が止める」
その前に立ちふさがるのは飛翔。
巨大な大剣を担ぎ、軽く息を吸ってからそれを構える。
『ご主人様、巨大で重い生物はそれだけで脅威ですが、しかしそれ故に弱点も抱えているものです……』
「分かってる」
「ヴォ!」
邪魔だとばかりに鼻息を鳴らしレイアが完全に飛翔に狙いを定める。
「舐めるなよ!」
闘牛士のような軽やかさでそのレイアの突進を横に躱し、そのすれ違い様に前足に斬りつける。
「ヴォ」
レイアが若干バランスを崩し、進行方向がわずかに横に逸れ、後方の建物に激突する。
「ヴォ~」
レイアが穴が開いた建物の壁から顔を引き抜く。軽く体を振り瓦礫を振り払うと再びこちらに向き直る。
「タフだな……カバと戦ったのは初めてだが、意外と厄介そうだ」
『少々状況は悪いですね』
冷静なルビナスの言葉に隙を作らぬよう注意しながら周りの状況を確認する。
ゆらに阻まれたロイはこちらの周囲を回るように側面へ。
通り過ぎたレイアはそのまま後方へ。
そして、正面からは悠然と歩いて近付いてくる愚神ヒッケ。
「囲まれたか」
「死角を作らないように注意しろ! 互いにフォローするぞ」
ゆらとレイが背中を合わせて、それぞれ前後を警戒する。
「フハハ、早速ピンチに陥っているようですね!」
ヒッケが大きな笑い声を共にその手に持つ鞭を振るう。
「フ、やらせぬわ」
それをティテオロスの剣が横から絡めとる。
「鞭の軌道は見慣れておるのでな」
「私の鞭を見切るとは大したものです……ですが、私の鞭は一本ではありませんよ!」
ヒッケの鞭のもう一方が振るわれティテオロスに迫る。
「ぐっ!」
ティテオロスの体に鞭が巻き付き、彼女を締め上げる。
「さあ、餌の時間ですよ、ロイ!」
「グォォ!」
ヒッケが鞭を引き、ティテオロスを引き込もうと試みる。
「させるか」
それに割り込むようにレイの矢がヒッケの腕を狙って放たれた。
「ぬぅ」
それを避けようとバランスを崩し、ティテオロスに巻き付いていた鞭が離れる。
ティテオロスは空中で建て直し、地面に着地した。
「大儀であった」
「礼は要らん」
「しかし、こうも囲まれると厄介だな。一度ばらけるか」
中央に固まる事で互いに死角を補うことができ、連携もしやすくなる。
しかし、囲まれている状況では警戒するべき方向が多すぎて敵と向かい合いにくいというのも確かだった。
では、逆に包囲という形で敵がばらけている間に個別対応に切り替えるというのも一つの手である。
「賛同する。私に一つ案がある」
「ほう?」
ゆらがレイアを魔力刃で牽制しながら一つの作戦を仲間に伝える。
「悪くないアレンジだ。乗ったぜ、そのジャムに」
「俺もだ。異論はない」
レイと飛翔がゆらの提案に同意をし、ティテオロスも無言で頷き、全員の合意を得る。
「決まったなら即実行だ。行くぜ!」
レイのその言葉を合図に固まっていたエージェント達が一斉に従魔達の包囲の外側に向かって駆けだす。
「逃がしません!」
駆けるエージェントを狙ってヒッケが両手の鞭を伸ばす。
「インタラプトシールド!」
その鞭を中空に現れた大型のシールドが阻む。
「ゆらさん、レイさんっ、待たせた!」
「良いタイミングだ、槻右」
救助からいち早く戻ってきた槻右が生み出した防御用のシールドである。
「今だ、やれ!」
「ええ!」
レイの合図に一人包囲の中心に残っていたゆらが答える。
「『重圧空間』!」
ゆらを中心に広範囲にライヴスの結界が展開される。
「むぅ!」
愚神が軋む体に思わず呻いた。この結界は内部の全ての生物に強力な重圧をかけ、その動きを強力に抑制する。
「くっ……レイア! ロイ!」
慌てて二体の従魔に指示を与えて自身は後ろに下がるヒッケ。
「グォォ!」
「ヴォヴォ!」
そして、中心地に残るゆらに二体の従魔が迫る。
強力な技である重圧空間であるが自身を中心に展開する為、味方を巻き込まないためにはどうしても孤立する必要があるのが難点だ。
「くっ!」
しかし、重圧空間のおかげでその動きは鈍くなっている。
先に到達したロイの攻撃を陰陽玉の形をした盾で受け止め、何とか耐え凌ぐ。
「ヴォ!」
「くっ!」
バランスを崩したところに迫るレイア。
しかし……
「あなたの相手は私がするわ!」
駆け付けたフィアナ使用した守るべき誓いがレイアの突進の軌道を自分に引き寄せ、そしてそれを展開したライヴスのシールドで受け止める。
「今の内に立て直しましょう……ケアレイン!」
「キミ達にはこれをあげるよ、ゴーストウィンド!」
さらに望月の放つライヴスが先に戦っていたエージェント達を包み込み、従魔達には六花のゴーストウィンドが吹き付ける。
一般人の救助を終えたエージェント達が続々と戦場に到達していた。
「年貢の納め時だな」
「命乞いなどさせん。私が私であるために貴様らには消えてもらう」
拓海と香月も姿を現し、これでこの場に全てのエージェントが揃った。
「一気に畳みかける!」
拓海が一気に駆け、フィアナの抑えるレイアの元に走る。
「うおおお!」
拓海の振るう斧槍の一撃がレイアの肌を裂く。
「ヴォ!」
与えられた痛みにその場で暴れ回るレイア。
「少し、大人しくしていなさい!」
続けてフィアナの剣が横一文字に振るわれ傷をつける。
「いくらタフだと言ってもその口の中は例外だろう?」
暴れるレイアの大きく開いた口を目掛けてゆらの魔力刃が放たれ、レイアの体を一直線に貫いた。
「ヴォ……」
ズン、という地響きを立ててレイアがその巨体を沈める。
これで一頭。
「グォ!?」
「呆けてる暇はありませんよ?」
仲間であるレイアがやられて一瞬の戸惑いを見せるロイに望月が槍で遠間から突きかかる。
「ガァ!」
それをスレスレで飛び退き避けるロイ。
「いっけぇ! 狼さん!」
その着地点を狙って六花の生み出した氷の狼が襲い掛かる。
「グガァ!」
氷の狼がロイの足元に食らいつき、その四肢を凍り付かせる。
「これで終わりだ」
その隙を狙って真正面からロイに迫る飛翔。
「グルゥオ!」
ロイはそれに対し最後の力を振り絞って飛翔に跳びかかる。
「それは悪手だ」
飛翔の構える大剣が目に見えぬほどの速度で縦に振るわれる。
「どれだけ素早くても噛み付くなら来る方向は1方向だ」
真っ二つに裂かれたロイの亡骸を振り返り飛翔が告げる。
これで二頭。
「ロイ! レイア! おのれ……っ!」
瞬く間に片付けられた従魔達にヒッケが怒りを滲ませ鞭を強く握る。
「おのれぇ!」
「くっ!」
そして、滅法矢鱈に鞭を振り回し、周囲の全てを打ち払う。
「男のヒステリーは見苦しいぜ」
「ぐおっ!」
その勢いに味方が攻めあぐねるなか、レイの銃弾が愚神の胸を捉える。
「見るに堪えん。くだらん動物ショーは今日限りで見納めだ」
「あなたを倒します!」
ぐらついた愚神に香月のさらなる追撃の銃弾が突き刺さり、さらに槻右のロケットアンカーがその腕に巻き付き動きを封じる。
「お前も言いたい事があるのだろう、ディエドラ。変わるかね?」
「では、我が神の名代として」
そこへティテオロスがトップギアを掛けながら愚神に向かって駆け込む。その瞳と髪が緑色に染まっていく。
「この『どうぶつえん』はこの世界の人と動物の共存の新しい形……」
「うおおお!」
ヒッケがディエドラの迎撃に鞭を振るうが、槻右の拘束で本来の威力を出し切れない。ディエドラは自らの体に鞭が当たろうとも構わず、担ぐ大剣に搭載された火薬を炸裂させ、その勢いで一直線に愚神へ向かう。
「それがこの世界の自然の有り様であるのならば、豊穣神ハルュプよ、我等に饗宴を、仇なす敵に飢餓を与えたまえ」
続けざまの三連撃。愚神の胴と四肢が寸断される。
「さあ、土へお還りなさい。次なる苗の為に」
塵となった愚神にディエドラの祈りの言葉が届いた。