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作戦相談
最終発言2017/03/12 21:19:49 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2017/03/09 07:38:45
オープニング
●報告
「敵は人質に食いつかず、渦底へ身を躍らせたか」
ヴルダラク・ネウロイは、仮初の巣と定めたベルミの廃墟の奥で息をついた。
「逆に人質として使わせてもらいましたが、独断で見逃しました。……リュミドラ嬢には適当な“肚を据える理由”が必要かと」
ジェーニャ・ルキーニシュナ・トルスタヤが頭を垂れる。結い上げた髪からはらり。灰色の前髪がひとすじこぼれ落ちる。
「感傷は忘れるのではなかったか?」
どこか寂しげな色を含めたネウロイの言葉。
ジェーニャは軍服のポケットを探り、ベイプを取り出した。そして蒸気を深く吸い込み、吐いた。あたりに甘いカスタードのにおいが立つ。
「感傷は捨てきれないものですね……生きているかぎり」
「それでも捨てねばならん。自分たちに残された選択肢はもう、ふたつしかないのだからな」
ネウロイは眼を閉ざす。それこそが感傷であると知りながら。
「隊長。よろしい、で、あります、か?」
ネウロイたちがいる室の戸口で、くもぐった声を発しながら、灰色狼の姿をとったアラム少尉が控えた。
「かまわん。入れ」
促され、室へ入った彼はネウロイの前まで進み、告げた。
「ウーニジェ、で、総督、の、殻が、割れました」
モスクワから駆け戻ったアラムは群れから離れ、西征へ乗り出したヴァルリアの後を追っていた。
「ヴァルリア様をあの外殻から引き出したのですか、人間が」
驚愕するジェーニャの背を、なにかが叩いた。
彼女は振り返らずに言う。
「1分で招集を完了します」
アラムと共に室を出て行ったジェーニャの後方で、ネウロイはひとり、沸き立つライヴスのただ中で拳を握り締めた。
●二分
「我が群れの任務は、ヴァルリア様へ向かう敵ライヴスリンカーの殲滅です」
ジェーニャがブリーフィングルームの壁にマップを映写し、示した。
「群れをふたつに分け、ウーニジェへ入ろうとするライヴスリンカーの鼻先を南北より挟撃。北の隊はネウロイ隊長が率い、レオン中尉には副官としてついてもらいます。南の隊の指揮は私が。リュミドラ嬢を副官として伴います」
レオンがかるく手を挙げ、一同の注目を集めた。
「北と南、どちらに行きたいかの希望を出して。安心なさい。どちらに行ってもこき使われるのは同じだから」
「オレは、南の、先陣を」
アラムが言い。
「あーしとミーリャはアヒルちゃんの護衛かな?」
「お嬢がうちらの護衛だけどね」
双子の准尉、ミーシャとミーリャがうなずき。
「僕は隊長と行きます。スナイパーを守る壁は少しでも厚いほうがいいでしょう」
ニキータ軍曹が拳を掌に叩きつけた。
復讐に燃える彼の眼は
「隊長、軍曹は――」
ジェーニャの言葉をネウロイが手で制し。
「かまわん。どちらに回ろうと命を賭けることになる。今さら各員の噛み合わせを語ったところで意味はない」
腰掛けていた椅子から立ち上がり、ネウロイは告げた。
「ヒョルドを失った今、死ぬなとは言えん。敵と我らの命を積み上げ、せいぜい派手に火をあげる。送るのではなく、迎えるための標をだ」
●弔い
人狼たちがブリーフィングを行っている中、リュミドラは独り廃墟の片隅にいた。
ライヴス式アンチマテリアルライフル“ラスコヴィーチェ”を構え、凍土を撃つ。
この弾痕は墓だ。
墓を掘ることを自らに禁じた彼女が、二度と戻ることはないだろう自分のために穿つ、墓。
彼女は白面に薄笑みを刻み、その穴に白い花を刺す。
すでに凍りついた生花は、彼女が死ぬまでここに在り続けるだろう。そして彼女が死んだ後には、遠からず風雪に壊され、残された穴も塞がれて消えるのだ。
それでいい。
それがいい。
戦地で拾われ、狼の群れにその孤独なる魂を救われたアヒルは、狼のふりをしたまま死んでいく。
残る問題は、後か先か。それだけだ。
●選択
ヴァルリア討伐の先遣隊がウーニジェの西より町へ踏み込んだ。
『みんなおつかれさま! ちょっと気になる報告があって先に来てもらったんだけど――』
礼元堂深澪(az0016)がウーニジェの愚神対策本部から一同に語る。
ヴァルリアとの決戦の時が迫るウーニジェの西方で、灰色狼らしき影を見た。その報が同時に多数寄せられてきたのだという。それが見間違いでないのなら、HOPEはヴァルリアと同時に大量の人狼を相手どらなければならなくなる。
『みんなには報告の多かった北と南のどっちかに行ってほしいんだ。もし人狼を発見したら速やかに殲滅。バックアップにサンクトペテルブルグ支部のエージェントがついてくれるから、今までみたいにやられっぱなしにはならない』
深澪は一度弾ませた声を落とし、静かに継いだ。
『もうすぐレガトゥス級の本体と決戦だし、それに――ううん、まずは人狼がいるなら人狼だよね。でもみんな、気をつけて。絶対無理とか無茶とか禁止だよ!』
解説
●依頼
1.南北のいずれかに赴き、そこに潜む人狼群と対してください。
2.北に向かう場合はネウロイに、南に向かう場合はリュミドラに、一定以上のダメージを与えてください。
●状況と地形
・戦場は南北とも、路地が入り組み、倒壊したビルや瓦礫がところどころに小山やくぼみを成す廃墟になります(無事に残っているビルもあります)。
・時刻は深夜ですが、みなさんが到着すると同時に廃墟のあちらこちらで火の手があがりますので、視界は充分に確保されます。
・足場の不安はないものとしますが、意図的に滑ったりすることは自由です。
・北の最前線では、ニキータ軍曹が20人の人質を捕らえて待ち受けています。
・人狼(デクリオ級従魔)は南北それぞれに50程度。
・サンクトペテルブルグ支部のエージェントは総勢16名(ドレッドノート4、ブレイブナイト4、ジャックポット2、シャドウルーカー2、ソフィスビショップ2、バトルメディック2)。行動指定がなければ独自に従魔と戦いますが、みなさんの内で希望者がいれば、彼らを編成・分割して指揮官として動くこともできます。
●愚神
・ネウロイについては【絶零】特設ページを参照。
・ジェーニャは元バトルメディックで、強力な治癒能力を備えています。
・レオン、アラム、ミーシャ、ミーリャ、ニキータの能力は不明。各自なんらかの英雄の能力を持っています。
・上記5体の撃破は無用ですが、最低でも足止めの策が必要です。
●リュミドラ
・改造型アンチマテリアルライフル装備。
・確定している能力はテレポートショット×5、跳弾(テレポートショットとの組み合わせもあり)、格闘術、ダメージ軽減(パッシブ)。
●備考
・このシナリオは前後編の前編となります。
・ネウロイとリュミドラ、みなさんが戦わなかった方が後編の相手となります。
・愚神も人狼もすべての力を使用します。
リプレイ
●出発
「東京海上支部より参りました、月鏡です」
ウーニジェへの侵入ポイントに集結したHOPEサンクトペテルブルグ支部の面々へ優美な一礼を見せる月鏡 由利菜(aa0873)。
「俺らは南へ向かう。北は頼んだぜ」
赤城 龍哉(aa0090)がサンクトペテルブルグ支部の隊長へ、力強くうなずきかけた。
『人狼が潜んでいても、力をお借りしたみなさまに無事お帰りいただけるよう努めますわ』
こちらは龍哉の内に在る契約英雄、ヴァルトラウテ(aa0090hero001)だ。
サンクトペテルブルグ支部との打ち合わせ役を龍哉に任せた由利菜に、リーヴスラシル(aa0873hero001)が問うた。
『……主よ、リュミドラという娘と遭遇したなら、どうする?』
「少しでも救える可能性があるならば賭けてみたい――ですが。もっとも優先するべきは目的を果たし、全員で生還することです」
由利菜は多くの戦場を踏み越える中で学んできた。たとえどれほど自らを鍛え、高めたとしても、その腕が及ぶ範囲などたかが知れているのだと。
だからこそ彼女は自らへ言い聞かせる。護るべきものを、討つべき敵を、戒めるべき自分を、正しく見極めなくては。
これより東京海上支部10組のエージェントは、サンクトペテルブルグ支部のバックアップを受け、ウーニジェの南へ向かう。――人狼が潜んでいるかもしれない危険区域へ。
『人狼はかならずいる。手紙を書くより確実な方法で誘ってきたのさ』
ギシャ(aa3141)の内でどらごん(aa3141hero001)がため息をつく。幾度もの戦いの中で、人狼のやり口は十二分に思い知っていた。
『お誘いありがと! どーんと行ってみよー』
内で拳を振り上げるギシャに、どらごんは竜面を起用にしかめ。
『行かんという選択肢がない以上、全力で行くよりないがな』
「対人狼の戦局も大詰めってやつか」
その傍らで龍哉がうそぶき。
『遅れをとるわけにはいきませんわ』
ヴァルトラウテは静かに告げる。
リュミドラか……死んだ奴の墓を掘る、その心根は嫌いじゃねぇが、な。
今度は胸の内で言葉を紡ぎ、龍哉は短く息を吹いた。
「人狼も一気に勝負をかけに来たね」
常ならばその面に浮かんでいるはずのやわらかな笑みを消し、表情を厳しく引き締めた九字原 昂(aa0919)が言った。
『あっち側の思惑もあるんだろうが、それはこの場を切り抜けてから考えればいい』
ベルフ(aa0919hero001)は低く応え、思考する。
――敵の情報がないのは痛いところだな。今回もこちらの主力はリュミドラに意識を奪われている。狭まった視野の外からつけ込まれるのだけは避けなければ。
『楓、準備と覚悟はいい?』
柳生 楓(aa3403)の内より、氷室 詩乃(aa3403hero001)が問う。
楓は祈るように閉じていた目を開き、自らの青を移す左目と詩乃の赤を移す右目を廃墟の先へ向けた。
「決着をつける。そのために私はここへ来た」
青きバトルドレスをまとうその体から、揺るがぬ想いが匂い立つ。
「警戒と援護は美空にお任せやで!」
楓の腰にまでも届かぬちんまりとした体を直立不動、ぴしっと敬礼してみせるのは美空(aa4136)である。
『リュミドラさん、なかよくできるでしょうかぁ?』
こちらは美空の内のひばり(aa4136hero001)。目深にかぶった冑――ピッケルハウベの前立てがあわあわしているのは、彼女独自の感情表現だ。
『正直なところ、美空としては思うところもあるのでありますが……おねェ様を全力で応援、お守りする所存でありますよ』
「美空ちゃんが支援なら、今回も俺は露払いだな」
と、楓の肩と美空の頭に掌を置く加賀谷 亮馬(aa0026)。
「亮馬兄さん」
「おにぃ様!」
青き機械甲冑に覆われた顔を、楓と美空にうなずかせる亮馬。
その内でEbony Knight(aa0026hero001)が渋い声をあげた。
『血の繋がらぬ楓嬢を妹にしただけでは飽き足らず、血の繋がらぬ美空嬢をも……貴殿にはそもそも血の繋がらぬ嫁御がおろう』
『そうそう、俺の一番は血の繋がらない嫁さん――って、血の繋がった嫁!?』
「兄さんが邪なことを考えてる気がします」
『亮馬ってそういう人だよね。邪だからね』
亮馬へ冷えた声を投げる楓とその内の詩乃を見上げ、美空は決意をあらたにする。
――大事な“家族”の願いを叶えるため、美空は粉骨砕身奮闘、この身を捧げる覚悟なのであります!
「……【戦狼】の日常はいつもながらげんなりするね」
木目 隼(aa1024hero002)と共鳴したArcard Flawless(aa1024)が肩をすくめて言った。
「兄妹というのはそうしたものだろう?」
平らかな声音で応える八朔 カゲリ(aa0098)。
『互いを想い、その身を尽くさんとする意志の強さと輝き……実に好ましい』
カゲリの内からナラカ(aa0098hero001)が言葉を添えた。
「まあ、ヤギュウくんの一途さについては、ボクも認めざるを得ないところだけどね」
Arcardは楓を見やり、ほんのかすかに、口の端を吊り上げた。
『ふむ。して、汝は今回も考察を続けるのか?』
ナラカの問いにArcardは「いや」とかぶりを振ってみせる。
「今日はサポートへ回るつもりさ」
誰の、とは言わぬArcardの内で、隼が静かに確かめた。
『柳生さんの、ですね。……リュミドラさんに、彼女の心は届くでしょうか?』
『さてね。どうなろうとボクは支えるだけだよ』
契約主は幸せな結末を信じ切ってなどいない。それを確かめた隼は、言葉を控えてうなずいた。
「おまえはどうする?」
一方、カゲリの問いを受けたナラカは小首を傾げ。
『楓がアヒルの心を揺らすなら、私は女狼の心を測るとしようか』
カゲリは先ほどまで楓が見ていた先に視線を投げた。
かくしてエージェントたちが発し、交わした言の葉を背で受け流しながら、ダグラス=R=ハワード(aa0757)は両の手から飛盾「陰陽玉」を放し、自らのまわりに巡らせる。
「……久々の仕事だ。肩慣らしにはちょうどよかろう」
状況は不明。敵戦力もほぼ不明。知れているのは、敵が並ならぬ力を備え、群れとして襲いかかってくることのみ。
それをして「肩慣らし」と言い切るだけの胆力と暴力とが、彼にはある。
「行くぞ」
ただひとつの備えとしてネクタイの角度を正し、ダグラスが歩を踏み出した。
『はい、ダグラス様』
その内で、紅焔寺 静希(aa0757hero001)は表情も感情もない平らかな声音を紡ぎ、主の歩みにライヴスを注ぎ込んだ。
●開戦
「敵襲ー」
廃ビルの壁に耳をつけ、振動を探っていたギシャが一同へ告げた。
「【戦狼】各員、死なない限りは適当に貫け」
カゲリの言葉に、エクリクシスを右肩にかつぐ亮馬が進み出る。
「みんなは先に行ってくれ。悪いが前衛何組か、俺に付き合ってくれるか?」
すぐにサンクトペテルブルグ支部のエージェントが進み出た。
『亮馬、まさか特攻とかする気っ!?』
声をあげた詩乃に、Ebonyが鋭く応えた。
『成すべきを成すため疾く駆けよ。今惜しむべきは時間だ』
その言葉に、カゲリと楓は先へと進む。
同じ旗の下に集った同志の信頼がそこにはあった。
先へと向かった仲間と入れ違い、敵先陣が来たる。
「本隊は、行った、か。……貴様、モスクワに、女と、いたな」
8の狼の先頭にいた灰色狼がくもぐった声で言った。
「ああ。おかげで俺がどんな顔しても、嫁さんには見せなくてすむ!」
亮馬が強く踏み込んだ右足を軸に、大剣を左へ振り込みながら左へ回転。
重い刃がその背に隠れ、そして、思わぬタイミングで現れて狼を強襲した。
「猪に、見えて、考える、ものだ」
身をかがめて刃をやりすごした狼が、その溜めを利して横へ跳んだ。
左へ大剣を振り抜いた亮馬の右横へ回り込み、体をぶるりと震わせる。
「!」
亮馬の両脚の装甲に、毛針が突き立っていた。脚が重い。これは――縫止か。
「人狼群、偵察、部隊長、アラム。相手を、しよう」
「……探すまでもなかったね。身を隠す暇もなかったけど」
廃墟から姿を現す人狼を見やり、昴が内のベルフへ細い声音を投げた。
『しかたないさ。こちらは団体行動だからな』
昴は静かに息を吹き抜き、足場を確かめながらゆっくりと……見とがめられない速度をもって横への移動を開始する。
「南方面群の指揮を執ります、ジェーニャ・ルキーニシュナ・トルスタヤです」
薄灰の狼面をかすかに傾げ、ジェーニャは雪原迷彩を施した軍用コートのポケットに差し込んでいた両手を抜き出した。
「リュミドラさんはどこですか?」
レアメタルシールドを押し立て、楓が踏み出した。
ジェーニャはその姿を悠然と見やり。
「すぐにわかります」
パギィン! 楓の肩を守る禁軍装甲があげた甲高い絶叫が響き。楓がバランスを失ってもんどりうち、倒れた。
「おねェ様!」
散開するエージェントと、小さな体に透明な棺状盾――あなたの美しさは変わらないを引っ被り、楓へ駆け寄る美空。
『弾は装甲で弾かれて、どこかに行っちゃってますぅ』
楓の傷を確かめていたひばりが報告。その間に弾道をたどっていた美空が声をあげた。
「弾はあっちから飛んできたンゴよ、おねェ様!」
Arcardが楓へ手を伸べた。
「これはきみへのお誘いだ。行くかい、楓?」
楓の手に迷いはなかった。
「行きます」
その後に続く龍哉が、同じく続いたダグラスへ言葉を投げた。
「ダグラスさんも行くのか?」
「やる気のない相手と対してもつまらん」
確かにジェーニャは、こちらを見送るばかりで動こうとしない。それは配下の人狼たちも同じだ。
『行かせてもいい、行かせたい……どちらが正しいのでしょう?』
ヴァルトラウテの問いに、龍哉は口の端を吊り上げる。
「どっちだっていいさ。やり合う相手がいればな」
『……今ほど、龍哉をうらやましく感じたことはありませんわ』
龍哉たちから離れ、壁際を駆けていたギシャに、内からどらごんが声をかけた。
『視野を広く保て。敵を見逃すなよ』
「りょーかい。難しいとこはタツヤとかに丸投げだけどねー」
●選択
『一番槍のつもりが殿を務めることになったか』
亮馬の内より視線を巡らせ、Ebonyは辺りに散った人狼の行方を眼に刻みつける。
「アラムって奴を抑えられればいい。楓ちゃんが話し終わるまでな」
Ebonyは小さくため息をつく。
楓嬢は【戦狼】、リュミドラ嬢は群れ、互いに“還る場所”のある身だ。捨てられぬだろうよ。
と。
『俺の大切な妹の手は、絶対届く』
内で強く言い切る亮馬。
Ebonyはふと笑みを浮かべた。
『さすがはシスコン。妹語りの気迫がちがう』
亮馬が言い返す間は与えられなかった。
「ちっ!」
跳びついてきた3匹狼の鼻面を、とっさにエクリクシスの腹で受け止めた亮馬。
が、一拍遅れて3匹の影から跳び出したアラムが宙でその身を翻し、亮馬の首筋へ喰らいついた。
3匹を振り払い、アラムの口へ切っ先をねじ込んだ亮馬だったが……アラムが、空に溶け消えていく。
『分身!?』
アラムの本体が宙を跳び、Ebonyの驚愕と亮馬の肉とを斬り裂いた。
そして。再び狼群の内へ潜みながら、言う。
「命運を、分けるは、迅さ、だ」
ジェーニャの指示を受けた人狼25体が動き出した。5体でチームを組み、さらにはチームで連動し、有機的に攻め寄せてくる。
「まずは回復役から。味方を援護する暇を与えるな――」
人狼のアサルトライフルに装着されたグレネードランチャーから、多数の手榴弾が降りそそぐ。
昴は爆風の隙間を縫って駆け、飛鷹の鯉口を切った。
『よく憶えているじゃないか。だが』
ベルフにうなずきかけ、昴が凍雪をすべりながら抜刀。EMスカバードの電界で加速された刃が、人狼の脛をすとんと断ち割った。
「まずは人狼群の連動を崩す、だね」
アサルトライフルからフルオートで吐き出された7・62mm弾が昴を追う。
昴はゆるやかな円の軌道を描いて逃げる。人狼どもの射線を引き連れて。
人狼の注意がそちらへ集中した瞬間。
由利菜が凜と声音を響かせる。
「斬り裂け、セラフィムの羽!」
リンクコントロールで高めてきたリーヴスラシルとの絆――それが刃を銀の羽と化し、8体の人狼を文字どおりに一閃した。
横殴りに撃ちつける人狼どもの弾を押し割って踏み出し、自らの拓いた突入口を支える由利菜。
「この程度で、私は揺るぎません――!」
リーヴスラシルのライヴスが成す姫騎士甲冑“ネルトゥス”は、これだけの攻撃に晒されてなお砕けるどころか傷ひとつ負うことなく、由利菜を護り、その脚を支え続ける。
『前衛、続いて突撃!』
リーヴスラシルの声に応え、サンクトペテルブルグ支部のエージェントたちが人狼の壁へぶち当たった。
「風穴を開ける」
カゲリが魔導銃の引き金を絞り、ライヴス弾を撃ち込んでいく。
かくして人狼の陣に、後方のジェーニャまで届く隙間ができた。
『ジェーニャといったか、ひとつ問おう。汝らがリュミドラへ望むはせめてもの自立と言ったな。ならばなぜ、それを言葉として伝えぬのか?』
ナラカの言葉に、風穴の向こうで無表情を保つジェーニャが返した。
「それを語る機会はもう失われました。あなたがたの選択によって」
『なんと?』
「あなたがたは、あの日に戻りたくてリュミドラ嬢へすがった私たちの願いを砕いた。私たちの一員だったヒョルド中尉を殺した。そして今日、彼女の自立を奪う」
と。通信機を通じてジェーニャの言葉を聞いていたArcardが告げた。
『……ナラカくん、それ以上の会話はムダだ』
『どういうことだ、アル?』
『ボクらは選択を誤った。どう選んでも正解にたどりつけない選択肢のね』
それを聞いたナラカはひとつの結論に思い至る。
『リュミドラの命の行き場をたどる選択肢……どこへ行き着いても結果は死、か』
「今は急ぎましょう。たとえ選択のすべてが誤りだったとしても……あきらめなければ、きっと覆せます」
眼前に迫った人狼をふわりと斬り払い、視界を開いた由利菜が、まっすぐにジェーニャを見据えた。
「私と英雄の剣にて、あなたを斬滅します!」
『レガトゥスの導き手を見逃すほど、私は甘くはない。滅びよ、ジェーニャ!』
由利菜とリーヴスラシルのライヴスが重ね合わされ、光の柱となって天を突く。
「リュミドラへ向かうにしても、あいつを倒すにしても。前へ踏み出さなきゃならない」
カゲリが魔導銃を手に、前へ。
「なら、俺は進む」
敵の銃口の先を見据え、最小の動きで弾をかわしながら、前へ。
「その先にあるものへ手が届くまで」
体を穿つ弾を見やりもせずに撃ち返し、ただ前へ。
その様を見たジェーニャはふと、切れ上がった口の端をゆるめた。
――あれもまた鋼の心、ですね。
「少なくともボクらは3回、2択を誤ったんだ」
通信を切ったArcardが苦い顔で吐き捨てる。
「どういう、ことですか?」
問う楓からArcardは目線を外し、告げた。
「まだ推察に過ぎないが――ネウロイを中心にした“群れ”は、もともとチームだったんだろう。きみたち【戦狼】みたいなね。彼らの目的のひとつは、もう一度チーム全員がそろうことだった」
隼がその考察に推論を重ねる。
『彼らは邪英から愚神となった存在。だとすれば……リュミドラさんの内に在る英雄が』
「ああ。人狼チーム最後の一員なんだろうさ」
それを聞いた美空は、ちんまりした頭を左右に振り振り。
「ってことは、リョミドラさんが邪英になって、死なないといけないンゴね」
『そんな……そんなの、ダメですぅ!』
ひばりがいつになく強い声をあげる。
『しかし、俺たちはヒョルドという群れの幹部を倒した。それで奴らは、あの日とやらには戻れなくなったんじゃないのか?』
どらごんの疑問に答えたのは、意外にもギシャだった。
「だから、死んじゃった狼の代わりに生きなくちゃいけなかったんじゃないかな、リュミドラ」
「そうだ。あの日へ戻れないことを思い知った人狼は、その全滅をもって、リュミドラをヴィランか能力者として独り立ちさせるつもりだったはずだ――ボクらがこの戦いで、南へ向かうことを選択するまでは」
Arcardは楓の目をあらためてのぞき込み、静かに語る。
「人狼の思惑までは見透かせないが、まちがいなくリュミドラはここで死ぬ。ボクは思いがすべてを超えるなんて戯言は語らない。覆せるはずのない白アヒルの命運に立ち向かい、その結果をすべて受け入れる覚悟がきみにはあるのか、楓?」
「……あると言えば、嘘になります。でも」
楓はまっすぐにArcardの目を見つめ返し、答えた。
「リュミドラさんは私に、自分を殺しに来いと言いました。私はそれに逆らう。そう決めたから――その命運にも逆らうだけです」
その答に、Arcardは笑んだ。
「ボクらは群れだ。ひとり別のことに向かったくらいで揺らぐほど、ボクらは弱くない。だから、思いっきりやりたまえよ」
「行くンゴよ角突きちゃん!」
『はいですぅ!』
あなたの美しさは変わらないをひっかぶり、それ越しに辺りを警戒しつつ、美空は楓を導いた。
美空たちのお仕事は、おねェ様の総合支援でありますから!
そこへ。
「!」
ほの暗い赤を映したブルームフレアが燃え立った。
楓をかばうArcardと美空の脇を、龍哉とダグラスが駆け抜ける。
「元ソフィスビショップが1匹」
龍哉のつぶやきを聞きながらダグラスは思考する。
こちらを狙撃手から引き離したい意図はなんだ?
この先に大戦力が待ち受けていることはないだろう。それならばもっと効果的な誘導法がある。
いずれにせよ、奴らの真意は喰らってみれば知れる。
ダグラスは飛盾を背と視野の死角へ据えつけ、逃げる人狼を追う。
ふたりに先行するギシャは、廃墟の影から影へ渡り、通信機で情報を送った。
「人狼ふたり確認。けっこー足速い?」
『迎えに来たのか、それとも誘いに来たのか』
どらごんの言葉に、ギシャは笑顔の内の両眼を細めてまた駆けだした。
●狼
亮馬とサンクトペテルブルグ支部の4組とが横列に並び、造りあげた壁へ、狼どもが突撃する。
『待て亮馬――』
斬りかかる亮馬をEbonyは止めようとしたが、声が音へなりきる前に狼は跳びすさり。影に隠れていたアラムと数匹の狼がエージェントたちを奇襲、さらには退く姿を見せつけてエージェントを突出させた。
孤立したエージェントに、反転した狼どもが一斉に襲いかかる。
が、危ういところで亮馬のエクリクシスが割って入り、起爆。実体なき爆炎で狼どもの目をくらませ、エージェントを救い出した。
『敵の練度が高い』
Ebonyが苦い声音を漏らした。
『ただ待っていても、下手に動いても、喰われるぞ』
Ebonyの言葉に、亮馬が仮面の下で獰猛な笑みを閃かせた。
「なら……不動を研ぎ澄ます」
亮馬が深く腰を落とし、大剣を下段に構えた。
「元々戦闘職ではありませんので、当たりそうなものを用意させていただきました」
ジェーニャの手に握られた、ずんぐりと太い銃がすこんと間抜けた音をたて、子どもの握りこぶし大の弾を吐き出した。
「グレネード!」
昴は周囲に警告を飛ばし、山なりに落ちてくる弾との距離を測りながら駆け込んだ。
激しい揺れが昴を突き上げ、体へ潜り込んだ衝撃が、開けた口から噴き抜けていく。
その間に瓦礫の狭間へ身を隠した彼は、通信機の回線を開く。
「九字原より各員へ。敵指揮官のグレネードは通常弾。ただし、攻撃範囲は着弾地点よりおよそ4メートルです。注意してください。僕は指揮官へ向かいます」
鋭く様子を窺い、廃墟の陰を伝って駆け出す昴へ、ベルフが低く語る。
『標的は自分を6体の人狼にガードさせている。つまり12の手をかいくぐる必要がある。昴、おまえが使える手の数は?』
考えるまでもない。昴は即答した。
「僕、月鏡さん、八朔君の6。デクリオ級相手なら十二分だ」
『それでも数の差というものは難問だ』
「うん。だから」
昴がかがめていた体を唐突に引き起こし、ジェーニャとそのまわりの人狼に姿を晒してみせた。
「意表を突いてみるよ」
両手を「降参」の形に挙げた昴の手から、飛鷹がこぼれ落ちた。
意図を掴みきれず、とまどう人狼の目が釘づけられる。
「釣られませんよ」
ジェーニャのグレネードライフルが、無防備な昴目がけて撃ち放たれた。
「でしょうね」
魔法のように昴の手からすべり出したハングドマン。2本の刃を繋ぐ鋼線が、グレネードをすくいあげて宙へ放り出す――と、昴はダッキングしてジェーニャの足をハングドマンで刈る。
引き倒されまいと力を込めたジェーニャの脚に鋼線が巻きつくが、昴の手はすでにそこを離れていた。
「確かに戦闘職ではないようです。対処が甘い」
昴の指先からライヴスの針が飛び、動かしようのないジェーニャの脚へ突き立った。
『実に魅せてくれる。……由利菜、場を整えてくれるか?』
ナラカの言葉に問い返すことなく、由利菜が前へ。
『人狼ども、ヴァニル騎士戦技の冴え、その身をもって味わうがいい』
リーヴスラシルの挑発は、ジェーニャを守る人狼の気を引きつけるためのフェイク。由利菜もまたその言葉を継ぎ。
「あなたがたに獣ほどのプライドがあるのなら、せめて抗いなさい」
微笑む由利菜へ、6体の人狼が爪牙をもって襲いかかる。
『右』
リーヴスラシルの声をなぞるように、由利菜のつま先が右へ。
人狼の腕が、その金の髪先をふわりと舞い上げながら行き過ぎた。
まるで綿毛を追う子どものように由利菜を追った人狼どもは翻弄され、一閃により、異形の魂を斬り飛ばされた。
『私たちを相手どるなら、全戦力を護衛として固めておくべきだった』
リーヴスラシルの声音を向けられたジェーニャは、無言。
そこへ、無形の影刃<<レプリカ>>――“奈落の焔刃”を携えたカゲリが至る。
『もう少しだけ、話につきあってもらおうか』
ナラカが静かに言葉を紡ぐ。
「片手間でよろしければ」
ジェーニャの周囲に、癒やしの蜜雨が降る。
次々立ち上がって牙を剥く人狼どもの奥より、ジェーニャは無機質な眼をカゲリへ向けた。
「このまま誘い込まれたら、きつい1発を喰らうことになるぜ」
リュミドラへ向かおうという3組を背にかばい、走る龍哉が、通信機の向こうのギシャへ声をかけた。
『じゃー、帰っちゃう前に分断?』
返事が来た直後。
龍哉たちの前方で、RPG-49VL「ヴァンピール」の炸裂音が低く弾けた。
『カウンターでどーん!』
内でぺったりした胸を張ったギシャに、どらごんがツッコんだ。
『カウンターではないだろうが』
『んー。じゃー、カウンターのココロ?』
のんびりと返しながらも、ギシャの体は油断なく動き続けている。
ロケット弾の着弾衝撃で地に転がったソフィスビショップに、換装した蛇龍剣「ウロボロス」――漆黒の竜尾、愛称“くろ”の射程ぎりぎりまで近づいて……
「!」
ギシャが横っ跳びで5回転。その軌道を追い、次々とククリナイフが突き立っていく。
『これは、カオティックブレイドの技か……!』
立ち上がったギシャはそのままでたらめな機動で駆け、跳び、転がって、ナイフと言うにはあまりに太く重い刃の雨をかいくぐる。
「剣と魔法の、双子ちゃん?」
倒れていた人狼と、それを引き起こすもう1体の人狼。酷似した小柄な人狼が、2体。
『双子なのだとしても、数はこちらがひとり分上ですわ』
追いついてきた龍哉の内からヴァルトラウテが言う。
「向こうにカオティックブレイドがいるなら、分断は悪手か。だが」
ダグラスが駆け抜けながらうそぶき、手にしたショットガンM3の薬室にショットシェル(弾薬)を送り込んだ。
「群れて戦う半人前がひとりでどの程度できるのか、まずは試してやる」
『……』
静希は無言の内にライヴスを高め、主が負うであろう傷を癒やすための準備を整えた。
「人狼――いや、愚神か。従魔と眼がちがう」
ぎちりと口の端に笑みを刻み、龍哉が2体へ迫る。
「ちがいのわかるオッサンだね! あーしからご褒美だよ!」
1体の掌から、無数の羽虫が飛び立った。
惑うことなく龍哉へ向かってくる甲高い羽音、その不快さにヴァルトラウテが眉をしかめた。
『龍哉! あの虫にたかられてはいけませんわ!』
「わかってるって」
虫群をかすめてさらに踏み込む龍哉。その体に、いくつもの“不快”が貼りつく。
「愚神版の幻影蝶か!」
もう1体が龍哉を迎え打つ。右手のククリナイフを突き込むと見せかけ、左手に複製。斬りかかる振りで投げつけ、さらに複製して今度こそ斬りつける。
『虚実を重ねたいい攻めですわね』
「だが、練りが足りてねぇ」
エクリクシスからハングドマンへ換装した龍哉は“実”だけを的確に捌き、最後の一撃を鋼線の弾力で大きく弾ませた。
「ち!」
人狼の脇が空き、そこへギシャが跳び込んだ。
「とやー」
その両手に装着されているのは白竜の爪牙、愛称“しろ”。通常の白虎の爪牙とはちがい、彼女の五指を文字通りの爪として鎧っており、ゆえに手指の動きに沿って自在に動く。
左の“しろ”で人狼の右のナイフを掴み止め、右の“しろ”で空いた脇を裂く。
「……ありゃ、届かなかった?」
脇をはしる太い血管を狙ったはずが、人狼が半歩身を引いたことに加えてその丈夫な毛皮に遮られ、奥まで通らない。
『結果はともあれ留まらずに繋げ』
「あいさー」
どらごんの言葉を受けたギシャはあっさり後ろ回り、人狼から距離をとった。もちろん、ただ逃げたわけではない。
ギシャが引くことでできた空間へ、ダグラスが散弾を撃ち込み、音と弾幕とにすくんだ2体の前へ、自身の体を割り込ませる。
「たかがバックショット(鹿撃ち用散弾)に怯えるとはお笑いぐさだな。その貧相なナイフを握りなおす気力があるなら抵抗の機をくれてやるぞ、ガキども」
口の端を歪め、見せつけるようにZOMBIE-XX-チェーンソーを起動、けたたましい濁音で煽る。
「ジジイうざい。死ねよ」
「熱くなったらうちらが死ぬよ。頭冷ましときな」
2体の人狼の眼が、廃墟を包む雪の白を反射し、ぎらりと光った。
●餞
折り重なる瓦礫が造りあげた小さな塔。その頂にリュミドラは立ち、エージェントの到着を待っていた。
『スナイパーが身を晒すとは、不用心ですね』
隼は言葉でリュミドラの挙動を探りつつ、己が同胞たる武具へささやきかける。同胞よ、我が友に厄災迫りしとき、その身をもって救いたまえ。
「最後だから」
ライヴス式アンチマテリアルライフル“ラスコヴィーチェ”を頬づけで構え、リュミドラは言葉を返す。
「狼のふりをして、ここで死ぬから……ですか?」
バトルドレスをなびかせ、楓が進み出る。
「感謝してるよ。おまえらがあたしを選んでくれて。これであたしは全うできる。狼の生と狼の死を」
ラスコヴィーチェが12・7mm弾を吐き出した。
「隼!」
Arcardの指示よりも速く、美空が楓の前に跳び込んでいた。
あなたの美しさは変わらないの棺底に喰らいついた大口径弾は今なお回転を止めず、自らの前進を阻む透明な壁をぶち抜こうと押しつけてくる。
『ううう、重い、ですぅ』
美空とライヴスを合わせ、必死で弾圧に抵抗するひばり。
『踏ん張るのでありますよ角突きちゃん!』
美空はひばりをはげましながら、さらに力とライヴスを込める。
骨は先ほどからきしみっぱなしで、時々ぱきり、びしり、いかにもまずそうな音をたてる。
筋肉もまた、激しく震える中で裂け始めており、破裂した毛細血管がその肌に赤い“花”を散らす。
盾越しでありながら、この威力……これが、白アヒルさんの弾でありますか!
痛い。怖い。苦しい。でも。
この弾を、楓は何度も喰らってきたのだ。
この弾を何度も喰らいながら、楓はなお手を伸べるのだ。
『――美空は、おねェ様の手が届くところまで、送り届けると誓ったのであります!』
『はいぃ! ひばりも、いっしょにがんばるって誓いましたからぁ!』
わずか60センチ、10キロの体が、弾を押し返して1歩、前へ踏み出した。
「行くやで、おねェ様。リュミドラさんのところに」
その美空へ、瓦礫の向こうから6体の人狼が跳びかかった。
サンクトペテルブルグ支部の面々に対従魔を任せ、亮馬は待ち続ける。
アラムの気配は察知できない。練達のシャドウルーカーを、見ただけで発見できるなどと思い上がってはいない。
ゆえに、エクリクシスの切っ先を地につけ、不動を保つ。
『汝らがかつて抱いた希望を我らが壊した。しかしながら、その原因を作ったは討たれた中尉とやらであり、さらに言えばそれを見逃した汝らに他なるまい』
至近距離から撃ち出されたジェーニャのグレネードを焔刃の腹で払うカゲリ、その内よりナラカが紡ぐ。
「そうですね。私たちは感傷に酔い、かつての記憶にすがってしまった。リュミドラ嬢に生きる術を叩き込んできたのは、やはり感傷」
ジャックポットの援護射撃がジェーニャを腹を貫き、カゲリの焔刃が腕を斬り落とす。
が、ジェーニャは残る手で宙へ飛んだ腕を掴み、切り口へ押しつけた。それだけで腕は繋がり、さらには腹の傷も消える。常識外れのリジェレネーションだ。
『生かしたいと願ったはずの白アヒルを、狼という軛につないだまま死なせるが汝の本懐か? 答えよ、かつて英雄であったものよ!』
そのジェーニャへ、焔刃ならぬナラカが言の葉を突きつけた。
「軛とは、それを望む者にこそ与えられる証。そう信じるよりないのですよ」
ジェーニャの指先が天を指し、雨を呼ぶ。
「ケアレインじゃないな」
カゲリがつぶやき、己が肌を焦がす雨を見上げた。
『ユリナ、我らはその間に人狼を。ジェーニャが満足に指揮を執れぬ今が好機だ』
由利菜がうなずく。
カゲリのことは気にかかるが、ジェーニャの癒やしの力と人狼の連携により、サンクトペテルブルグ支部のエージェントはすでに半数以上が戦闘不能に追いやられていた。確実に人狼をしとめ、数を減らすことは急務だ。
「参ります」
凍土に両のつま先を地にねじり込み、由利菜がその身を固定した。。
金の錠前で封じられしレーギャルンにライヴスが満ち、内に収めたダガーの刃を赤く彩づけていく。
「はっ!」
気合一閃、由利菜がダガーを抜き打ち。刃より伸び出した衝撃波が、ルーン刻まれし赤き三日月となって人狼の頸を断つ。
『信じるよりないか。肚は決めてるのだな。汝もアヒルも』
ナラカが語る間にも、その命は削り落とされていくが、カゲリは焔刃を握る手を下げたまま動かない。
「……リュミドラ嬢の内にある英雄は、私の妹でした」
唐突に告げ、ジェーニャがカゲリの足下に、隠し持っていたグレネードを叩きつけた。爆炎が彼女とカゲリを押し包むが、しかし。
『覚者(マスター)、今のひと言で知れた』
「そうか」
焼かれながらカゲリが前へ踏み出し、ジェーニャの熱傷へ焔刃をこじ入れた。
「……痛みを感じない体質ですか?」
「痛いさ。それだけのことだ」
焔刃が、ジェーニャの再生を上回る速度で彼女を焼き焦がしていく。
「月鏡、待たせた」
「いえ、ご無事でなによりです!」
カゲリが縫い止めたジェーニャへと駆け込む由利菜。その金の髪が青へ、瞳のやわらかな赤が深みのある緑へ、そしてライヴスの甲冑が怜悧な青へとそれぞれ彩づいていく。
「神技を解放する! 皆、攻め手を合わせよ!」
由利菜の内より顕れたリーヴスラシルが鋭く告げ、決闘にのぞむ三銃士さながらに構えたダガーを閃かせた。
「『ディバイン・キャリバー!!」』
ダガーを飾るブレードジュエル“ヴァドステーナ”が青紫の輝きを放ち。ジェーニャの胸を貫いた。
貫かれながら、ジェーニャは新たなグレネードをリーヴスラシルへ打ちつけようとしたが。
割って入った昴が飛鷹を斬り下ろす――瞬間、刀を手放した。
ジェーニャの手が迷い、勢いを失くす。
「思い込みですよ。先ほどと同じ手が来るっていう、ね」
『だからこそ、こんな単純な手が決まるのさ』
ベルフの声を断ち切って、ぱん。昴の両手が打ち鳴らされた。
ジェーニャの手が今度こそ止まった隙を突き、まわりのエージェントが集中攻撃を開始。
さらにカゲリが彼女の胸に穿たれた傷へ魔導銃の銃口を突き込んで撃つ。
『汝はリュミドラの内の英雄を「妹だった」と言った。過去を語るは汝とリュミドラ、どちらだ?』
「――」
ナラカの問いに、地で塞がれた喉の奥でジェーニャがなにかを答え。
手の内のグレネードを握り潰した。
●勝利
ソフィスビショップとカオティックブレイドの2体が、潜ませていた数体の人狼の奇襲と己の脚力とで距離を保ち、魔法と剣との連携で確実に3組の命を削ってくるのだ。
「ギシャ、あいつらの足を一瞬でも止められるか?」
『死ぬー』
龍哉の要請に対して通信機から返ってきたのは、実に明快な返答。
『でも、あの子たち1回横向かせてくれたら行くー』
淡々と言うギシャだが、先陣を担ってきた少女の体はすでにかなりの傷を負っていた。
ふと、ダグラスがつぶやいた。
「まどろっこしく待つよりはいい」
剣刃の雨のただ中へダグラスが進み出た。
硬く絞られた肉を、切っ先がさらにそぎ落とす。
断ち切られた血管から鮮血がしぶき、あふれ出る。
そして。
ダグラスは眼前にてククリナイフを構える小柄な人狼を見下ろし、静かに告げた。
「細切れに解体してやる」
「ミーリャ下がれし!」
後方の人狼が駆けつけようとするが、遅い。
ダグラスの左手がミーリャの喉を鷲づかみ、引き寄せる。その右手でチェーンソーを起動させながら。
「細切れになんのはジジイだよ」
ミーリャのナイフがダグラスの肩口へ突き込まれたが。
じりじりと、切っ先が押し出されていく。
「なんだよこれ!?」
『リジェレネーションを発動しました。回復量を測ってケアレイを追加します』
静希の淡々とした報告にダグラスは構わず、徐々に癒えていく左手でミーリャを地へ叩きつけ、踏みにじった。
「ミーリャ!!」
今度こそ跳び込んでくるもう1体の人狼。その手からダグラスへサンダーランスが飛ぶ。
「子どもの戦いごっこか。つきあっていられん」
頭を振って雷を避けたダグラスが、飛盾を人狼の眼前に飛ばした。
人狼の視界を塞いでおいて、流れるようにその横へ。もうひとつの飛盾の裏へ肘をあてがい――
「ふっ」
――下へ落とした腰を踏み止めた反動を利す“沈墜勁”、さらには筋や体軸のねじり、ひねりによって螺旋を描き、打突の助走・弾みとする“纏糸勁”を併せた発勁を打ち込み、人狼の側頭部を飛盾で打ち据えておいて、さらに後方へ。
「っ!」
くらむ頭を抑えながら、人狼は自分のまわりにブルームフレアを燃え立たせる。
それを大きく退いてかわしたダグラスが顎をしゃくってみせた。
「これだけ崩せば充分だろう」
『だねー』
ギシャの声が通信機から聞こえると同時に、人狼たちの間へ前転で転がり込んだギシャが影の薔薇を散らした。
翻弄され、視線を泳がせるミーリャを引き起こそうと、もう1体が手を伸ばす。
「……魔法使い人狼ちゃんはムリかー」
『それでも塞ぐことはできる』
どらごんの言葉をすくい上げるように、ギシャの体が宙へ。もう1体の視界をその胴で塞いだ。
「どけし!」
人狼の爪がギシャの体をかきむしろうとしたが、ギシャはその爪先に“しろ”を突き立て、宙返りでその背後へ回り込んだ。
「こっちだよ」
耳元でささやかれ、思わず人狼が振り向いたとき……
「わぷ!」
ギシャの点けた煙草「麒麟」の煙が、その鼻と眼とを塞いだ。
『犬の感覚器官に紫煙は天敵だ』
「吹きかけられたらもっとよかったんだけどねー」
どらごんとギシャの声を頼りに、煙のしみた眼をつぶったまま人狼が爪を振り回したが、届かない。
「人狼ちゃん、うしろうしろー」
背を地に投げたギシャが言い。
「これで連携は抑えた!」
龍哉の釣り竿「黒潮」が人狼を絡め取り、一本釣り。
「ミーシャ……!」
ミーリャから引き離された人狼――ミーシャは宙で糸を解かれ、着地する。
「リュミドラの支援を捨てて俺たちを引き受けた気概は買う。赤城波濤流師範代、赤城 龍哉。技を尽くして立ち合わせてもらおう」
エクリクシスを正眼に構える龍哉。
対するミーシャもまた、拳を前に置いて構えた。
「今日、アヒルちゃん死ぬし。でも……あんたらに殺らせらんねーし! あーしら昔の群れとか知んねーけど、アヒルちゃんトモダチなんだよ!」
大きく踏み込んでの、右ストレート――それを見せ球にした、左のボディフック。
半眼をつくってミーシャの全身を視界に収めた龍哉は、大剣の腹を返してふたつの突きを払う。
と。ミーシャがさらにローキックを放った。
蹴りに備えて龍哉が上げた膝。蹴りを途中で止めたミーシャはその膝を踏み台に跳び、龍哉の右腕へ絡みついた。
「打撃は飛びつき関節の囮か」
龍哉は肘を返し、関節を取られることを防いだ。
が。
「死ねよオッサン」
龍哉の腕に絡みついたまま、ミーシャがその手にサンダーランスを顕現させた。先ほどダグラスへ放ったときとは明らかにちがう、“練れた”動きで。
『これは私たちの油断でしたわね』
「教訓にするさ」
ヴァルトラウテに短く返し、龍哉は左手で雷を掴み止めた。沸騰した血が血管を爆ぜさせ、左腕をズタズタに引き裂く。
ミーシャは笑みを閃かせ、そして、地に叩きつけられた。
「――なっ!?」
「武人は常に敵の反撃へ備え、心を残す。おまえはその残心を怠った」
龍哉が右手一本で大剣を振りかざし。
『喜びの野で学びなさい。次の機にこそ違えないように』
ヴァルトラウテが静かに言い置いて。
疾風怒濤の突き下ろしが、ミーシャの命を砕いた。
「……次は狙撃手だ」
腹に刺さったククリナイフを無造作に抜き、投げ捨てたダグラスが踵を返した。
『ダグラス様、ケアレイを』
平らかに語る静希が、主の傷ついた体を癒やす。
共に、足下へ転がった狼の欠片を一瞥もしなかった。
アラムと対する亮馬は、まだ不動である。
サンクトペテルブルグ支部のエージェントの尽力で、狼はあらかた片づいた。
隠れる影を制限されたアラムはどう動く?
決まっている。
「狼に紛れるふりをして、単独で俺の後ろを取りに来る。ちがうか?」
振り向かず、後ろへ繰り出した切っ先。
「……当たり、だ」
地に落ちた狼を返り見ることなく、亮馬は息をついた。
『楓嬢が心配だ。残りの狼を片づけて行くぞ』
Ebonyに促され、亮馬は大剣を構えて前へ踏み出した。
ジェーニャの自爆で、カゲリ、由利菜、昴は浅からぬ傷を負っていた。
「……もう大丈夫だ」
サンクトペテルブルグ支部のバトルメディックに一礼を残し、カゲリが前へ踏み出した。
『ジェーニャの骸は発見できずだ。自分を爆炎で焼いてまで逃げるとは、バトルメディックならではの強引な戦術だな』
斥候として辺りを探っていた昴の内よりベルフが言う。
カゲリへ続いた由利菜が小さくかぶりを振り、前へ向きなおって。
「行き先はわかっています。急ぎましょう、リュミドラさんのところへ」
●言の葉
透けた棺桶の底に人狼の牙が突き立ち、甲高い音を鳴らす。
美空はちんまりとした足を踏ん張って押し返し、盾の裏から跳び出した。
「こっちンゴ!」
いっぱいに跳び上がっては人狼の眼を奪いにかかった。
その体に人狼の爪牙が殺到し、穿ち、裂く。
『痛いですぅ……でもぉ』
「美空たちは、不屈ンゴよ!」
小さな体に食い込む顎の隙間へ左右から《白鷺》と《烏羽》をねじ込み、こじ開けた。
『明日からプロリハビラーに転向しちゃいそうですぅ……』
『悠々自適でありますね。ただしそれは今日、おねェ様を守りきってからのことでありますよ!』
楓に向かおうとする人狼へライヴスの光灯した《白鷺》を投げつけ、戻ってきたそれを駆けながらキャッチ。美空は楓をカバーできる距離を保ちながら人狼を討つ。
『回復はおねェ様最優先! 角突きちゃん、お願いするであります!』
『りょ、了解しましたぁ』
果たして美空の援護を受けた楓が、リュミドラの前に立った。
「約束どおり来ましたよ。あなたを、生かすために」
「殺しに来いって言ったばずだ」
リュミドラの“ラスコヴィーチェ”が火を噴いた。
至近距離からのブルズアイが、割って入ったArcardのインタラプトシールド――無数のグランガチシールドを押し割り、楓のレアメタルシールドに当たって力尽きた。
「敵がきみの都合に合わせてくれると思ったかい?」
隼がその言葉を継ぎ、静かに述べた。
『それが味方ならばなおさらに、ですね。あなたはそれを知っているはずですよ』
群れの中で死んでいこうとした彼女を生かし、自らの死を選んだヒョルド。すべての計算ちがいは、選択ミスは、そこから始まった。
「おまえらはあたしから使命を奪った。中尉を殺して、全部狂わせた!」
『中尉って人はさ、昔の仲間を取り返すより、リュミドラに生きててほしかったんじゃないの? 昔よりこれからのほうが大事だって思ったから……!』
詩乃がまっすぐとリュミドラの胸を指す。
「あなたはアヒルのつもりでも、狼はあなたを仲間として認めている。あなたが死ねば、その心を穢すことになるのではありませんか?」
楓の指摘への返事は。
「おまえは幸せなんだな」
ライフルを背後へ撃った反動に乗り、リュミドラが跳ぶ。
『楓、ライヴスを合わせて!』
「はい!」
詩乃と楓のライヴスがリフレックスを発動、シールドに鏡面状のフィールドを張った。
リュミドラの蹴りが反射され、その脚に不可避の衝撃を叩き込んだ。
「おまえはもう救われてる! だから救われてなかった昔のことなんて忘れて、かわいそうな奴に正義面で救いの手とやらを押しつけるんだよ!」
「正義を騙るつもりなんてありません! 私はあなたにかならず勝ちます! 負けたあなたをどうしようと私の勝手! それが狼の――獣の掟でしょう!?」
楓の盾を踏んで跳んだリュミドラがライフルを撃った。
身を引いた楓の足下に突き立った12・7mm弾が跳ね、楓を突き上げる。
盾を押しつけるようにして防ぐ楓。しかし。
リュミドラの弾がかき消えた。
『テレポートショ――』
詩乃の言葉が断ち切られ。
右肩をえぐられた楓が、弾けるように倒れ伏した。
「美空くん!」
Arcardの声に「はいンゴ!!」と応えた美空が、イジェクション・ガンでケアレイを飛ばす。
その隙に、彼女の体に人狼の攻撃が次々と打ち込まれていくが、かまわない。
『リュミドラさん、せめて最後まで、おねェ様と相対していただくのであります』
『うぅ、やっぱり、なかよくできないんですか』
前立てをくしゃくしゃにするひばりへ、美空は内で強く言い返した。
『敵を敬うことは、味方を愛でることと同じであります。情あればこそああして戦える。おねェ様とリュミドラさんが、美空にそれを教えてくれたのであります』
刃と弾と盾とが行き交い、互いを削り合った。
人狼は倒れ、リュミドラが血を流し、膝をつく楓をArcardと美空が支える。
そこへ合流したエージェントたちが力を添え、さらにリュミドラを追い詰めていく。
そして。
「時間切れだ。最後を迎えるために一度、幕を下ろそうか」
どこからともなく姿を現したネウロイが告げた。
●開幕
「久しぶりだな、真っ先に狙ってくれてもよかったんだぜ?」
龍哉に狼面を向け、ネウロイは平らかに。
「残念だが、自分と貴様らに鋼の縁はなかった。――リュミドラ」
「はい」
リュミドラが傷ついた体を引き起こし、ネウロイに向きなおる。
「“おまえ”を起こせ」
リュミドラは自らの胸に穿たれた傷に指を突き入れ。
ためらうことなく引き裂いた。
「リュミドラさん!」
楓が伸べた手が、不可視の壁に弾かれる。極小規模のドロップポイントが張られたのだ。
「ここで見ているよりないわけですか」
ため息をこぼす昴。その傍らで、ギシャは消せぬ笑みを傾げた。
「ちゃんと見るよ。ギシャが殺さなくちゃいけない敵が誰なのか」
リュミドラの内より、その骨を砕き、肉を裂きながら、狼が顔を出した。
「オオオオオオオオ」
「壊れてる」
楓を支えながら、亮馬が眉をひそめた。その逆側から同じく楓を支える美空もまた。
「狂える英雄、ニキ」
音階の合わない咆吼をあげ、這い出してきた狼が、下に落ちる。そして焦点の合わぬ眼をさまよわせながら、ネウロイへ這い寄り、よじのぼった。
「“おまえ”」
ネウロイがささやき。
「アっ、ナぁ、タぁああああああ」
狼が応えた。
「狼は一度つがいになった相手と生涯連れ添う。その相手がリュミドラの内にいた……生かしたかったのは、そういうことか」
Arcardが言う。予想が当たっていれば、ネウロイはリュミドラと英雄を殺し、なんらかの手段でそのライヴスと力を吸収するはずだ。最終決戦のために。
「自分がすべてを負うべきだった。もしくはすべてをリュミドラ、貴様に託して逝くべきだった。どちらをも選べず、自分はここまで貴様を生かし続けてしまった」
妻たる英雄を抱え上げ、ネウロイは静かに最期の訪れを待つリュミドラへ語った。
「予定を変更する。貴様は貴様の手でこの命運にけりをつけろ」
「それは」
「我が妻と鋼の宿縁とを託す。己を全うしてみせろ、狼の仔よ」
笑みを浮かべたネウロイの首に、狂える英雄の牙が突き立った。
ネウロイのライヴスが英雄へ流れ込んでいく。
「狼の眼が――変わっていきます」
由利菜の指摘どおり、英雄の眼を満たしていたはずの狂気を押し退け、澄んだ悲哀が湧き出していた。
「ア、ナた」
狼の声に応えるネウロイの声は、なかった。
崩れ落ちる骸から離れた狼が、エージェントたちへ瞳を向けた。怒りも憎しみもない、ただただ深い青を。
そして狼はリュミドラの内に還り。
瞳の赤を青に、髪の白を灰へと変えたリュミドラが残された。
「茶番は終わりか?」
これまで沈黙を保っていたダグラスが吐き捨てた。
が、リュミドラは心動かすことなく、告げる。
「これから始めるんだよ。あたしは狼の仔としてこの戦いを全うする」
「それがおまえの選択か」
カゲリの問いにリュミドラは背を向け、歩き出す。
「傷を癒やしておけ。言い訳はしたくないから。……始まりの場所で、待ってるよ」
このときすでに、最終決戦の幕は静かに開き始めていた。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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