本部

挑め! 試練の迷宮!

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
4人 / 4~6人
英雄
4人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/03/18 22:47

掲示板

オープニング

●イリスとマリアと冒険と
「ごめんなさいね、こんな依頼で手を煩わせて」
 かけられた声にデッキで海を見ていたイリス・アーネットが振り返る。
 今回の依頼の護衛対象であるマリア・エトワールの姿にイリスはもたれかかっていた柵から離れて姿勢を正す。
「どんな依頼も仕事ですから」
 そう言ったイリスにマリアは苦笑して
「相変わらず堅いわね、イリスは」
 と言ってイリスの隣に並ぶ。
「私は依頼を受けたH.O.P.E.のオペレーターですから」
「私の幼馴染でもあるでしょ」
 応えたイリスの言葉にマリアは優しく微笑む。
「幼馴染って言っても、マリアはお嬢様で私は使用人の娘、立場が違うわ」
 少しだけ言葉を崩してイリスが応える。
 マリアは中世以前から続く貴族の称号も持つ名家の娘でイリスの父親はその家に仕える使用人だった。
「一緒よ、あなたはH.O.P.E.の職員、私は大学の研究員。そんなに変わらないわよ」
 マリアはそう口にするがやはり一緒では有りえない。
 実際、今移動に使っているこのクルーザーもマリア個人の所有物である。
「それよりも、何でこんな南太平洋の無人島に行かなきゃならないの?」
 イリスの問いにマリアが小さく首を傾げて見せる。
「言わなかったっけ?」
「確か何代も前のご先祖様が遺した遺言がどうとかとは聞いたけど、私が聞いた依頼内容はあなたの護衛だけよ。それに、エージェントじゃない私まで駆り出される理由もわからないんだけど?」
 その言葉にマリアは
「せっかくイリスと会えるんだもの」
 と応えて持っていたファイルをイリスに差し出す。
「その遺言を書いた先祖って随分と変わり者だったんだって」
 ファイルに挟まれた古い遺言のコピーにイリスは目を落とす。
「家宝の宝は試練の場に隠した。四騎士による三つの試練を越えて最後の間に至った者を我の後継とする」
 マリアが口にした言葉は遺言の書き出しだった。
「だけど、当時ヨーロッパから遠く離れた南太平洋の島なんて行くだけで大変だったから誰も行かなかったんだって」
 その先祖が隠したのは四騎士の武具と宝剣を始めとする古い家宝だけで当時はそれほど重要視されなかったのだという。
「なんだかそのご先祖様も報われないわね……」
 イリスの言葉にマリアが笑う。
「ほんと、どんな場所か分からないけどせっかく作ったのにね」
 見えて来たその試練の場が有るという島影にマリアが目を向ける。
「それ以来、すっかり忘れ去られてたんだけど」
「マリアが見つけちゃったわけね……」
 イリスがため息交じりにそう口にする。
 昔からマリアはお転婆だった。
 興味があればどんな物にでも手を出すし、どこへでも行く。
 そして誰にも止められない。
「ルイス様の気苦労を思うと……」
 護衛の依頼を出したマリアの父でエトワール家現当主のルイス・エトワールの諦めたような言葉をイリスは思い出す。
「迷惑をかけるが、一人娘を無事に連れて帰ってくれ。もう忘れ去られたような家宝など気にする必要はない。重要なのはマリアの無事だ」
 わざわざ直接イリスを呼び出してそう言ったルイスの昔の言葉が重なって思い出される。
「イリス、お前だけだ。マリアのお転婆に付き合ってくれるのは。頼むからあの子が怪我をせんように見守ってくれ」
 その言葉と一緒に思い出した様々な記憶に
「何だろ、嫌な予感しかしなくなってきたわ……」
 イリスはそう呟いた。

●四騎士の三つの試練
 エトワール家の所有であるこの島には百年以上も誰も踏み入ってないにもかかわらず試練の場の扉は崩れる事無くしっかりと付いていた。
 石扉には獅子、鷲、ユニコーン、竜の四つの紋様を持つエトワール家の家紋が刻まれている。
「確か、この紋様は四騎士を現してるのよね?」
 イリスの言葉にマリアが頷く。
「勇なる獅子、賢なる鷲、忠なるユニコーン、剛なるドラゴン。勇猛で賢き戦士にして忠実で剛胆な守護者、欲張りな紋章よ」
 そう言いながらマリアが遺言と一緒に保管されていた鍵で重い石扉を開ける。
 中は一辺五メートル程の正方形の部屋だった。
 部屋の中はどこかに明かり取りの窓でもあるのか思ったよりも明るい。
「待って、マリア!」
 部屋に踏み入ろうとしたマリアをイリスが慌てて止める。
「一応安全を確認してからにして」
 イリスの言葉にマリアは
「大丈夫よ、この場所に人を傷付ける意図は無いわ」
 そう応えるが、イリスは護衛のエージェント達と罠の有無や危険を確認する。
 石組みの部屋は古くはあるがしっかりしていて崩れる様子も無く罠も見当たらない。
「気になるのは、真なる宝は足元に眠る。だが、その鍵は盗人の手に隠されりって一文だけだし、試練に失敗しない限り危険は無いはずよ」
 マリアはイリスにそう声をかけて部屋の中を確認する。
 部屋の中央には四角い台座が有りその周りを囲むように四体の騎士の像が四本の長剣を捧げ持っている。
「四騎士の剣を順に台座に収めよ……」
 マリアが台座に刻まれた文字を読み上げる。
 台座には長剣が納まる四つの溝が刻まれている。
「忠なる者の剣は賢なる者の剣より右に有り、剛なる者の剣は勇なる者の剣より左には置かれぬ。
 賢なる者の剣は剛なる者の剣よりも左に有り、勇なる者の剣は賢なる者の剣より右に置くこと能わず。
 しかして、賢なる者の剣は剛なる者の剣と並ばず。」
 読み上げるマリアの言葉にイリスが四体の騎士の像を見回す。
 騎士の持つ剣の柄にはそれぞれ北の騎士は獅子、 西の騎士は鷲、東の騎士はユニコーン、そして南の騎士は竜の紋様が刻まれている。
「これが第一の試練って事?」
 イリスの言葉にマリアが頷く。
「そう言う事ね。本来は四騎士の武器は獅子が大剣、鷲が細剣、ユニコーンが槍、竜が戦鎚で長剣は無いからこの剣は試練用に準備した物ね」
 嬉しそうなマリアの声とは逆にイリスの表情が曇る。
 騎士の像を調べるマリアから離れてイリスがエージェント達に小声で話かける。
「マリアは直感は鋭いけれど考えることは苦手なのです。マリアが直感で奥に進む通路の隠された壁を見つけて壊そうと言う前に試練の謎を解いてくれませんか?」
 竜の騎士の像から長剣を外して持ち上げようとするマリアの姿に慌ててイリスが駆け寄る。
「答えが分かったわけじゃないんでしょ?」
 イリスの言葉にマリアは
「とりあえず並べてみようと思って」
 と応える。
 台座に長剣を収めようとするマリアを慌ててイリスが止める。
「間違ってたらどうなるのか分からないんだから、ちゃんと考えて!」
 マリアにそう言いながらイリスの目は助けを求めるようにエージェント達を向いていた。

※PL情報:剣の並びを間違えても扉が開かないだけで何も起こりません。

解説

●目的
依頼目標:マリア・エトワールを無事に送り返す。
※マリアが大きな怪我をした場合は依頼は失敗として扱われます。

●第二の試練
 第一の試練の間を抜けて廊下をしばらく進んだ先に有ります。
 幅二メートル、長さ五十メートルの一本橋で下は水路になっています。
 ※PL情報:水路の先は海に繋がっています。落ちれば海に出て島に戻ることになります。
 橋の両脇には五体の騎士の像が立ちそれぞれがの武器を振るっている。
 一番手前側は橋の左側で大剣を奥から手前に向けて水平に振っている。
 二番目は右側で戦鎚を頭上から水平位置まで振り下ろしている。
 三番目は左側で槍を水平に突いている。
 四番目は右側で長剣を持ち手前から奥に向けて水平に振っている。
 五番目は左側で細剣を三連続で水平に突いている。
 ※どの像も動作を終ると構えの姿勢に戻り再び同じ動きを繰り返しています。

 部屋の入口の石板に「四騎士の試練を潜り抜け道を進め」と書かれている。

●第三の試練:
 第二の試練から螺旋階段を下り部屋の中央に出てきます
 一辺二十五メートル程の正方形の部屋ですが、床が見えるのは階段のある五メートル四方の部分だけです。
 四方の壁にはそれぞれ別々の紋様の描かれた扉が付いています。
 ・北側:勇なる獅子
 ・西側:賢なる鷲
 ・東側:忠なるユニコーン
 ・南側:剛なる竜
 床の無い部分の下は水路となっています。

 階段の出口の石板には「我は宝を真なる信の者に預ける。宝物の番人ふさわしき者の元へ歩め。見えずとも道はある」と書かれています。
 この文字を読んでマリアが思い出す言葉が有ります。
「勇なるは戦場にて信なる。賢なるは信なれど気許すに能わず。忠なるは信なるも我が傍を離れず。剛なるは信なるに能わざるが従順なり」

●イリス・アーネットとマリア・エトワール
・二人とも非能力者です。

●光源
・内部はそれなりに明るいので明りの心配は不要です。

リプレイ

●第一の試練
「難しいです」
 ため息をつくような凛道(aa0068hero002)の言葉に木霊・C・リュカ(aa0068)は
「所謂論理パズルってやつかな」
 そう応えて文字を確認していた指先を台座から離して立ち上がり、それに合わせて重度弱視者であるリュカをサポートするように凛道もさりげなく立つ位置を変える。
「もっと分かり易く書いてほしいのです」
 小さな額にしわを寄せて並べ方を考えている紫 征四郎(aa0076)の言葉に
「何かに書きだすとわかりやすいかもね」
 リュカがそう提案するが
「紙もペンも無いのです」
 征四郎はそう言って肩を落として首を横に振る。
「あ、あの……」
 しょんぼりとした小さな征四郎の姿に思わずといった感じで声をかけたマオ・キムリック(aa3951)は顔を上げた征四郎の視線に慌てたようにレイルース(aa3951hero001)の背に隠れる。
「マオ」
 怪訝な表情でマオを見上げる征四郎の前にレイルースがそっとマオを押し出し、
「マオ、頑張れ!」
 人語の分かる青い鳥のソラさんがマオを応援するようにパタパタと羽を振る。
「よ、よかったら、これ、使ってください」
 オドオドとしながらマオが差し出したのは女の子らしい手帳とペンだった。
「よいのですか?」
 驚いたような征四郎の言葉にマオが
「よ、よいのです」
 と緊張した声で応え
「マオ、言葉変」
 笑うようなソラさんの鳴き声につられるように征四郎も笑いを零し
「では一緒に考えるのです」
 と手帳を受け取ってマオに声をかける。
 征四郎とマオの会話を微笑ましく思いながら迫間 央(aa1445)はこっそりとマイヤ サーア(aa1445hero001)の横顔に目を向ける。
 その横顔に微かに浮かぶ優しげな微笑みを見つめる央の視線にマイヤが振り返り、慌てて央は視線を元に戻す。
「分かるところから順番に書き出していこうか」
 リュカの言葉に征四郎が手帳を広げ、
「一つ目は忠なる者の剣は賢なる者の剣より右に有り、であるな」
 ユエリャン・李(aa0076hero002)が最初の一文を読み上げる。
「えと、忠が賢の右でしょ……次の……剛は勇の左……」
 征四郎が持つ手帳を覗き込みながら思考に没頭して人見知りを忘れたように言葉を口にするマオの姿に
「……そこは左に置かれぬだよ」
 少しだけ微笑みながらレイルースが間違いを訂正する。
「あ、そっか……じゃあ剛は勇の右……うぅ、ややこしいよ」
 渋面になるマオの言葉を聞きながらメモを取っていた征四郎が
「賢忠勇剛の順でしょうか?」
 そう言って首を傾げる。
「勇なる者の剣は賢なる者の剣より右に置くこと能わずだよ」
 見守るように微笑んで指摘するリュカの言葉に
「勇、賢の順として……忠と剛どっちが右だ……?」
 頭の中で順を追っていた央が言葉を零す。
「央もこっちで一緒に考えるのです」
 征四郎に誘われるままに手帳を覗き込んだ央の横からマイヤが
「賢なる者の剣は剛なる者の剣と並ばずよ」
 と声をかける。
「ではこれは間違いです」
 二つ書き出していた順番の一つに征四郎がバツ印をつけ
「じゃぁ、勇賢忠剛の順ですね!」
 マオが残った順番を読み上げる。
「素直に並べればそうなるであるな」
 マオの言葉にユエリャンが応え
「俺も同じ答えだよ」
 リュカも同意する。
「早速試してみましょう」
 その答を聞いてマリアが待ちきれない様子で早速剣へと手をかける。

 部屋の奥の壁が軋む様な音を立てて動き始める。
「すごい仕掛けですねぇ!」
 征四郎がその光景に年相応に目を輝かせて興奮の声を上げ
「この間やったゲームのダンジョンみたいであるな……」
 その横でユエリャンもまたどこか興味深げに言葉を洩らす。
 地響きのような少し大きな音を立てて壁が開ききり奥への通路が現れる。
「こんなものを作ってしまうなんて、マリアのお家はすごいのですね!」
 尊敬の声を上げて見上げる征四郎の視線にマリアが
「そうね、すごい人だったと思うわ」
 どこか苦笑交じりに応じる。
「ねぇねぇ、せーちゃんは宝物は何があると思う?」
 奥へと顔を向けたリュカの言葉に応える征四郎の無邪気な声を聞きながら央は少年達が海賊の宝を求めて探検する古い映画を思い出していた。
「子供の頃に見た映画を思い出すな……」
 そう呟いた央に
「央は本当にその映画好きね。今回は海賊の宝ではないようだけれど」
 どこか楽しそうにマイヤも微笑んで応える。

●第二の試練
「ふふ、宝探しみたいで楽しいね!」
 緩やかに下りながら続く通路を歩きながら声をかける楽しそうな笑顔のマオに
「従魔とかは……いないようだし、のんびり行こうか」
 レイルースが仄明るい通路を見回して応える。
「離れ小島での宝探し! これぞ心躍るファンタジーって奴だね……!」
 マオ達の会話を聞きながらリュカが口にした言葉に
「夕方頃になると空模様が怪しくなってきて船が出せなくなり、殺人事件が起こる奴ですね?」
 リュカに足元の様子を伝えながら凛道が言葉を続ける。
「こ、ここに赤い蝶ネクタイの小学生はいないよ……!」
 面白がるようなリュカの言葉に
「おチビちゃんでは迷推理であろうな」
 ユエリャンが言葉を重ね、
「あの小学生は中身は高校生だったよね?」
 先頭を歩く央の言葉に凛道が何かに悩むように顔をしかめる。
「央、扉」
 央と一緒に戦闘を歩いていたマイヤが声をかけ通路の行き止まりの扉の前で足を止める。
「四騎士の試練を潜り抜け道を進め」
 マイヤが静かな声で読み上げた扉の石板に
「イリス、あれも記録に残しておきましょう」
 マリアが促して動画用ハンディカメラを持つイリスと一緒に前に出て来る。
 元々はマリアに渡して撮影という名目で一歩下っていてもらう予定だったそのカメラはいつの間にかイリスの担当に変わっていたが、カメラを持ったイリスが意図的に後ろに下がりマリアを引き留めているので役割自体は果たしていると言っても差し支えは無い。 
「君でなければダビングしてもらったのだがな……」
 イリスの手にするカメラから凛道に目を向けてため息交じりにユエリャンが呟き
「私はダビングしてもらいますよ」
 その言葉に応えるように征四郎に目を向けてそう口にして凛道に
「ルイス様の許可を取ってからでお願いしますね」
 依頼人の名前を出して釘を刺しながらイリスは扉の石板にカメラを向ける。
「この先が第二の試練ね」
 イリスと一緒に扉の前まで来たマリアが扉に手を伸ばすが、
「開けるのは、任せてほしいな」
 その手が扉に触れるよりも先にリュカが声をかけ、
「念の為、僕たちが危険そうな場所は引き受けます」
 凛道がそう言ってリュカと共鳴する。
「扉に罠は無いと思うけど注意して」
 罠師のスキルで扉を確認した央がマリアとイリスと一緒に扉から離れながら凛道に声をかけ
「分かりました」
 と央に応えて凛道がゆっくりと扉を押し開ける。
 轟々という水音が開く扉の隙間から溢れ、水路に分断された部屋が姿を現す。
 両側で五体の騎士の像がそれぞれの武器を振るう細い一本橋のあるその部屋を覗き込んで
「わ、罠は、無い……と思います」
 罠師のスキルで部屋の中を確認したマオがオドオドとした声を上げる。
「単純に橋を渡りきれという話ではないのか?」
 五体の像に目を向けた央に
「普通に避けて通ればよさそう、だね」
 レイルースが部屋の中を見回して応え
「本当に人を傷つける意図はないようだな」
 と部屋の中に足を踏み入れたユエリャンが騎士の像の武器に目を向けてそう口にする。
 どの騎士の像の武器もダメージを与えるというよりも一本橋から落とすことが目的のように見える。
「調べるにも、まず進む必要はあるか。体育会系の試練であるなぁ……」
 第一の試練の時とは逆にユエリャンが渋面を作り
「征四郎はこっちの方がわかりやすくていいのです」
 征四郎が余裕の笑みを浮かべる。
「四騎士とあるのに五人いるのもちと気になるが」
 ユエリャンも五体の像に疑問を抱きつつも
「……まぁいい。おチビちゃん、共鳴を頼む」
 そう言って跪いて征四郎のアンクレットに触れて共鳴する。
「木霊さん、気を付けてください」
 一本橋に足を掛けるリュカに央が声をかけ
「大丈夫大丈夫こんなの余裕だっ……」
 そう言って振り返ったリュカが一本橋を踏み外しバランスを崩す。
「木霊さん!」
 リュカの体が宙に投げ出されるよりも先にマイヤと共鳴した央が即座にとび出し、瞬時に体の主導権を取った凛道が浦島のつりざおを繰り出す。
 宙へと伸ばされたつりざおのワイヤーを央が掴み
「紫さん、キムリックさん!」
 声を上げたときには既に共鳴を終えた二人が駆け寄って央の体を支えている。
 空中に投げ出された凛道が浦島のつりざおの効果を発動させてワイヤーの先の央の体を引き寄せるが、地面にしっかりと踏ん張った央達の代わりに凛道の体の方が央達へと引き寄せられる。
 一本釣りのように床の上に引き上げられた凛道の姿に呆れと安堵半々のため息をついた央に
「水路の辿る先を確認しておく為にも一度落ちておくのもいいのではと……」
 誤魔化すようにリュカがそう口にして
「冬の川落ちは洒落になりません。出来ればスマートにクリアしたいです」
 央がそう応える。
「水路の先は海になっていて危険は無いようですけど」
 突然の事に驚き、そして安堵して座り込んだままイリスが口を開き
「とはいえ、気を付けてください」
 そう続けた言葉にリュカも「面目ない」と応じる。
「少し休憩としようか、エネルギーが無ければ脳も動かぬであるからな」
 座り込んだままのイリスと驚きに立ち尽くしているマリアに目を向けてユエリャンがそう提案して
「お二人は怪我などないですか?」
 と共鳴を解いた征四郎がマリアとイリスに声をかける。
「私は大丈夫です」
 と征四郎に応えてマリアに声をかけたイリスに
「私も大丈夫ですよ。あれは確か一本釣りって言うのですよね、初めて見ました」
 そう応えたマリアの言葉にイリスと征四郎は顔を見合わせて苦笑する。

「大丈夫です、こちらには何もありません」
 橋を渡り切った凛道の言葉に返事を返してマオはマリアの手を取り
「あ、あの……タイミングさえ間違えなければ、きっと大丈夫……なので、その、き、気をつけて進みましょう」
 緊張に震える声をかけるが、その手はしっかりとマリアの手を安心させるように掴んでいる。
 一つ一つの騎士の像の動きをしっかりと見極めてマリアを誘導して橋を渡っていくマオに
『……ん、でも4騎士の試練なのに5人いるの、おかしいね』
 五体目の三連撃のタイミングを計りながらレイルースの意識が声をかける。
「四騎士に長剣は無いんだよね?」
 何気なく口にしたマオの言葉に
「そうですね、四騎士の武器には長剣はありません」
 マリアが答えて四番目の騎士に目を向ける。
「マリアさん」
 細剣の騎士が剣を引くタイミングを見極めてマオがマリアに声をかけて橋を渡り切り
「あ、後で、調べてみますね」
 四番目の騎士の像を気にするマリアにそう声をかけてマオは次に渡る征四郎に合図を送る。
「私達はともかく、お二人はこれに当たると怪我をしそうですものね。お手を拝借、なのですよ」
 そう言って差し出された征四郎の手を取り、イリスは少し前の出来事を思い出す。
 リュカも一緒だったとある依頼でイリスは征四郎達に精神的に助けてもらったおかげで今もこうして仕事を続けている。
「ありがとうございます」
 ふとこぼれ出た言葉に征四郎が
「どういたしましてです」
 と応じる。
 きちんとタイミングを計って征四郎とイリスが橋を渡るのを見ながら央も四番目の像に意識を向け
「マリア女史の先の言葉を考えれば、本来、四騎士に長剣を持った者は居ない。4番目の像は潜り抜ける試練にカウントされていないという事か?」
 思考を整理するように呟く。
 石板に書かれた四騎士の試練を潜り抜けて進めという言葉を考えれば四騎士でない騎士の試練を潜り抜ける必要はないという解釈も成り立つが、どこか釈然としない。
「行きましょう、央」
 マイヤに促されて目を向けるといつの間にか征四郎たちも橋を渡り切っている。
「少し、橋を調べてみようと思うんだけど」
 央のその言葉にマイヤも同意して共鳴した二人は地知不のスキルを使い橋の側面から裏側に回る。
「何もない……か?」
 橋の裏には特に何も目立つものは無いように見えたが、
『央、何か書いてある』
 マイヤの示す先に目を向けるとそこには何かの紋章が刻まれていた。
「ダンジョンメーカー?」
 つるはしとスコップを組み合わせた紋章の下に刻まれた文字を読み上げた央に
『試練とは関係なさそうね』
 マイヤがそう応えるがこれ以外に橋の裏には何も変わった物は見当たらず、そのまま央は橋の裏を伝って渡り切る。
 合流した央が橋の裏で見た紋章の報告を終えるのを待ってマオが思い切ったように口を開く。
「あ、あの……私、四番目の像が盗人なんじゃないかって思うんです」
 その言葉に央が
「真なる宝は足元に眠る。だが、その鍵は盗人の手に隠されり、だったか……」
 思い出すように言葉を口にして四番目の像に目を向ける。
「わ、私、調べてみます」
 央の言葉にそう応えて一本橋を戻り始めたマオに
「気を付けてくださいなのです」
 声をかけた征四郎に手を振って応えてマオは猫のような身のこなしで像の攻撃を回避してスルスルと四番目の像の背後に登っていく。
「何か有ります!」
 像の手元を上から覗き込んだマオが長剣を持つ手の中に何かが隠されているのを見つけて声を上げ、動きが止まる瞬間を見計らって手を伸ばし掴み上げたそれはエトワール家の紋章が刻まれた鍵であった。
「これが真なる宝の鍵なのでしょうか?」
 鍵を持って戻って来たマオの興奮のせいかいつもの人見知りのオドオドが消えた言葉に
「間違いないであろうな。後は真なる宝を見つけるだけであるな」
 ユエリャンがそう応えて全員が奥へと続く通路へと目を向ける。

●第三の試練
「なんだか、どれも曖昧な」
 第二の試練を抜けて階段を降りた場所に有った第三の試練の石板に書かれた言葉とマリアが思い出した古い言葉に凛道はまたも首を傾げていた。
「……また難しい文章だよ」
 第一の試練の時と同じように手帳に言葉を書き出したマオが頭を抱え
「……これで最後だから頑張ろう、ね?」
 とマオを励ましながらレイルースも曖昧な言葉に悩むように手帳の文字に目を向けている。
「えと、これ……勇も賢も忠も信なる者……だよね? どれか絞れないよ」
 混乱するマオの言葉に
「真なる信が何かは人にもよりそうではあるが……」
 ユエリャンも迷うように口にして他にヒントが無いか周囲へと目を向けるが降りて来た階段と水路に隔てられた扉以外何も見当たらない。
「紫家はいつだって戦いあるところに!」
 あやふやな文章を理解することを諦めて征四郎は紫家と同じ戦場の信である勇の扉へと目を向ける。
 実際正解は四分の一なのだ。順に試しても何とかなるはずである。
「戦場限定の信や気を許せない信……は、真の信とは違う気が? 真なる宝は足元に眠る、とあったし……」
 それでも答えを探すように考えを零すレイルースと同じように
「……俺なら鷲……か? 一角獣は自分に付いてくるんじゃ、宝の番はできんだろう」
 央も考えをまとめるように口にしてノクトビジョン・ヴィゲンで何か見えないか探してみるが暗視装置の視界にも答えは現れはしない。
「竜は? 四騎士で一人だけ信なるに能わざるって……」
 少し考えるようにそう言ってマイヤが剛の扉に目を向ける。
「ここは戦場じゃないし、気を許してない者に宝を預けるのは嫌だし、剛は信に能わざると言ってるし……」
 リュカも考えをまとめるようにそう口にするが、
「欲張りな家紋だし実は全部大事なんだよぉ! みたいな展開で床に隠し扉があったりしない?」
 考えるのを諦めたように床を白杖で軽く叩く。
「その可能性もあるかもしれぬな」
 リュカの言葉にユエリャンが床へと目を向け
「ここ、何かあるのです」
 一番視点が床に近い征四郎が何かを見つける。
 それは小さな鍵穴だった。
「すごいです征四郎さん!」
「すごいぞ征四郎、天才だ!」
 マオとソラさんが征四郎に称賛の声を送り、
「この鍵で開くんでしょうか?」
 イリスがさっき手に入れた鍵を取り出す。
「試してみましょう」
 他の仲間に階段まで下がるように声をかけて凛道が鍵を受け取る。
 差し込んだカギを回すとどこかからカチリという何かが噛み合うような音が聞こえてゆっくりと床から何かがせり上がって来る。
 それは一振りの剣であった。
 四騎士の象徴である四つの獣全てが意匠された輝くように豪華な剣。
「失われていた継承の証です……」
 どこか苦々しげなマリアの声を聞きながら
「これだけなのです?」
 征四郎が疑問の声を上げる。
 床から姿を現したのは一振りの宝剣だけで他には何も見当たらない。
「他にも四騎士の鎧や宝石なんかが有るはずです」
 そう言ったマリアの言葉に
「これは真なる宝、他の宝はあのどれかに有るのであろうな」
 ユエリャンが改めて四つの扉に目を向け、
「しかし、真の宝が家督の継承の証とは……」
 そう呟いて征四郎へと目を向ける。
「リュカ!?」
 征四郎が驚きの声を上げ
「どうしたの、せーちゃん?」
 応えたリュカの立つ位置にリュカを除く全員が驚きに言葉を失う。
 リュカは床の外側に立っていた。
 コツコツと白杖で床を探りながら見えている床の上に戻って来たリュカに
「そうか、色男は元々見えていないから関係なかったわけだな」
 ユエリャンがおかしそうに声を上げる。
 重度弱視者であるリュカの視界は極端に悪い。
 おかげで見えない床というトリックに引っ掛からなかったのだ。
「どういうことかな?」
 怪訝なリュカにレイルースが
「あなたが一番正確に物を見ていたと言う事ですよ」
 と声をかけ興奮したマオが
「わ、私達には見えない床もリュカさんには見えていたんです!」
 そう声を上げる。
「つまり答えが分かったと言う事かな?」
 リュカの言葉に全員が揃って透明な床の先へと目を向ける。
 そこには竜の紋章が描かれた扉が有る。
「剛は信なるに能わざるって……」
 首を傾げるマオに
「だけど、従順なり、とも言っていたわ」
 マイヤがそう声をかけて
「主の命に従順なるは真に信ずるに値する唯一の価値なり」
 マリアが思い出したようにもう一文を付け加える。
 命令なくば動かない剛の者は信頼することは出来ないが守護者たる事にかけては逆に疑うべくもなく役目を遂行する。
「金庫番は自分で考えぬものが良いということであるか」
 どこか納得したようでどこか不満げな言葉をユエリャンが口にし、
「……本当の信頼はそんなものじゃない」
 呟いたマイヤの言葉もどこか不満げに聞こえ、
「何も考えないもの……」
 凛道の言葉も揺れる。
「とりあえず、何が有るのか見て見ようよ」
 リュカが意図して明るい声で重くなり始めた空気を払い
「そうなのです。征四郎は宝物が見たいのです」
 征四郎の言葉に
「わ、私も見て見たいです」
 マオも同意の声を上げる。
「さぁ、マオ行こう! 勇気をもって!」
 ソラさんの声ががマオの背中を押し
「正解なら落ちないよ……たぶん」
 恐る恐る見えない床を覗き込むマオにレイルースが声をかける。
「えぇ、たぶんなの!? うぅ……落ちたらどうしよう」
 そう言いながらマオは恐る恐る透明な床に足を乗せる。
 落ちる事無くたどり着いた扉の奥には輝くような財宝が待っていた。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 断罪者
    凛道aa0068hero002
    英雄|23才|男性|カオ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 全てを最期まで見つめる銀
    ユエリャン・李aa0076hero002
    英雄|28才|?|シャド
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
    人間|25才|男性|回避
  • 奇稲田姫
    マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • 希望の守り人
    マオ・キムリックaa3951
    獣人|17才|女性|回避
  • 絶望を越えた絆
    レイルースaa3951hero001
    英雄|21才|男性|シャド
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