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ヒトデナシの挽歌
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依頼前の挨拶スレッド
最終発言2017/03/05 05:24:11 -
相談卓
最終発言2017/03/06 05:34:40
オープニング
●
「七緒、逃げろ! 逃げなさい!!」
複数の少女人形に組み付かれた祖父をその場に、相模七緒(さがみ・ななお)は奥へと走った。
ずっと避けていた、大きらいな祖父のアトリエ。
作りかけの人形の手足や頭を蹴散らし、倉庫へと続く扉を乱暴に開けはなつ。
肩越しに見やれば、一体の人形が、虚ろな眼球を七緒へと向けていて。
「ッ!」
とっさに閉ざした扉に、ドン!と、強い衝撃がはしる。
まるでだれかが、全身で体当たりをしているような音。
倉庫は床・壁・天井の全方位がコンクリート造りとなっており、この先、逃げられる場所はもうどこにもない。
扉を叩く衝撃は、しだいに回数を増していく。
あの場にいた人形たちが、次々とこの扉をこじ開けに掛かっているのだろう。
(おじいちゃん……!)
七緒は唇を噛みしめ、こぼれそうになる嗚咽を飲みこみながら、倉庫内にある棚や資材でバリケードを築くよりほかになかった。
●
「至急、現場に急行していただきたい事件があります。どなたか、お手すきの方はおられませんか」
ポーカーフェイスの女性H.O.P.E.職員が、本部に集まっていたリンカーたちに向かい、呼びかける。
幾人かのリンカーが挙手すれば、彼らを会議室に招き、事件についての説明を開始する。
「ある人形師のアトリエに、デクリオ級従魔が5体出現したと通報がありました」
憑依しているのは、少女型の球体関節人形。
アトリエの主である人形師を殺害し、現在も建物内に健在。
事件現場には人形師の孫娘も居合わせており、今もアトリエ内の倉庫に立てこもっているという。
敵は5体。
すべて倉庫前に集まっており、扉を破壊すべく攻撃を仕掛けている。
厚みがあるとはいえ、ただの木製の扉だ。
このまま攻撃が続けば、孫娘の命が危ない。
「従魔たちは令嬢の命を狙っており、いまのところ、建物外に出る気配はありません。しかし、もしも令嬢が殺害されれば、すぐにでも新たな獲物を求めてアトリエから外に出ようとするでしょう」
酷なことを告げるようですが、と前置きし、女性職員は続ける。
「任務の目的は、『従魔5体の討伐』といたします」
被害の拡大を、未然に防ぐことが大前提。
そのためであれば、令嬢の犠牲はやむなしということらしい。
それでも。
あえて、令嬢の救出を試みるというのであれば。
「まずは従魔5体を、倉庫前から確実に引き離す必要があるでしょう。引き離しに手間取る、あるいは、引き離しに漏れが出た場合、救出に失敗する可能性が高くなることを、どうぞ肝にお命じください」
それではよろしくお願いいたしますと姿勢を正し、職員は静かに頭をさげた。
解説
日中、ある人形師のアトリエにて。
すべての従魔を討伐できれば、任務成功です。
シナリオは、アトリエ到着シーンから描写されます。
●アトリエの構造
南側に玄関があり、入ってすぐが大部屋のアトリエ。
広さは50畳ほど。
人形師は大部屋の中央で死亡しています。
東側と西側の壁は大窓になっており、庭に出ることも可能。
庭はアトリエを囲むように広がっています。
大部屋の北側の壁にある扉の先が、倉庫です。
広さは30畳ほど。
多くの荷物で占められ、身動きのとりにくい場所です。
入り口は一か所のみ。
床・壁・天井はすべてコンクリートです。
●敵
・少女型の球体関節人形×5
人形に憑依したデクリオ級従魔。
すべて素体状態のため、外見上の個体差はほとんどありません。
主な攻撃方法は、近接格闘。
「衝撃」「拘束」を付与する攻撃を行ってきます。
屋内では、床・壁・天井を駆使しての移動が可能です。
●一般人
・相模七緒(さがみ・ななお)×1
女子高校生。
殺された人形師の孫。
アトリエ内の倉庫にたてこもっているが、扉が破られるのは時間の問題。
リプレイ
●ヒトのカタチ
たどり着いたアトリエの外観は、簡素な平屋の一戸建てだった。
無機質な四角い建物に、申しわけ程度の植木を据えた冬枯れの庭。
『相模人形工房』と書かれた表札を確認し、8人は敵に気取られぬよう、慎重に玄関から侵入する。
現場の間取りは事前にシオン(aa4757)が簡易地図を入手し、仲間たちと共有済みだ。
「あれが、美しき人形達……」
ちらと見えた球体関節人形へ視線を向け、シオンは英雄との共鳴を行う。
彼の姿は中性的な人形のごとく美人へと変じたが、そこには『命ある者』のたしかな色香がかおる。
同じく共鳴を果たした繰耶 一(aa2162)も、アトリエ内へと視線を向けて。
(人形には魂が宿るとよく言われるが、従魔の魂が入ったのは不運だったな)
部屋の最奥に、情報通り敵5体の姿を視認。
もとは球体関節人形であったモノが、床や天井に張りつき、執拗に倉庫への扉を攻撃し続けている。
姿は見えないが、人形師の孫娘のものと思しき悲鳴も切れ切れに聞こえくる。
「迅速に屠る、それだけだな」
一が従魔殲滅を最優先に臨む一方、依頼をよこしたH.O.P.E.職員の物言いに憤っていた一ノ瀬 春翔(aa3715)は胸中で呟く。
(悪ィが天邪鬼なモンでな。意地でも、生還させてやるさ)
共鳴した姿は純白。
少女英雄のやわらかな面影を残しつつも、内に秘める想いは強く、激しい。
それは、まだ戦闘経験の浅い小宮 雅春(aa4756)も同じで。
「お願いジェニー、あの子だけは助けたいんだ」
部屋の中央に見える人形師の遺体。
唇を噛みしめ、傍らの木偶人形と共鳴する。
魔術師じみた風貌へ変化した雅春のとなりでは、イメージプロジェクターで令嬢に変装し、囮役をかってでた村主 剱(aa4896)が、仲間たちへと視線を送る。
「……俺も、助ける道を選びますよ」
「私もです。七緒さんには、ちゃんとお別れさせてあげたいの」
同意の声をあげたのは、かつて近しい者を亡くし、遺体にすがることも、死に顔を見ることもできなかった斉加 理夢琉(aa0783)だ。
――決して、同じ想いをさせたくない。
準備はできていると桜色の髪を揺らし頷き、英雄から受け継いだ金の瞳を、戦場へと向ける。
静かに仲間たちのやり取りを見守っていた小鉄(aa0213)の表情は、覆面でうかがいにくい。
けれど、稲穂を思わせる黄金の眼に決意をたたえ、苦無を構える。
今回が初陣となる石動 鋼(aa4864)は、己が何をすればいいのか、何をしなければいけないかを、しかと胸に刻み続けていた。
そして。
スキル『潜伏』を発動し、全身をライヴスで覆った剱が地を蹴る。
似せた姿はセーラー服の女子高校生。
冷めた瞳に、長い黒髪。
ひるがえる白のスカーフ。
血濡れた床をローファーで踏みしめて、人形師のそばを駆けぬける。
――従魔たちは気づかない。
さらに地を蹴る。
風をはらみ、ふくらむプリーツスカート。
5体の人形の背中。
陶磁器を思わせるすべらかな肌が、迫って。
いまにも扉を破壊せんとする従魔たちへ、剱は叫んだ。
「こっちだ!!」
声を合図に、弾かれたように鋼も走りだす。
携えた武器を構え、胸中で唱える。
(この剣に誓って。この手の届く者は護る。それが、誰であったとしてもだ……!)
●イノチのカタチ
声はよく通った。
しかし剱へ標的を切り替え追って来たのは3体のみで、残る2体はなおも扉前で攻撃を続けている。
ここで場を制することができなければ、令嬢の死亡危険度ははね上がってしまう。
緊張がはしった次の瞬間、人形たちの死角に迫ったのはシオンと一だ。
「美しさへの冒涜、赦さないよ?」
「爺さんと共に逝け」
ともにアサルトライフルを構え、目にも留まらぬ早撃ちで銃弾の雨を叩きこんでいく。
脚を撃ちぬかれた人形たちは体勢を崩し、天井に張りついていた個体も次々と床へ落下。
小鉄は扉前に飛びこみ、囮にかからなかった1体めがけストレートブロウを撃ちはなつ。
衝撃波を受けた人形はきりもみ状態で窓に叩きつけられるも、完全に庭へ出すには至らない。
その合間にも、扉前に残った1体がはやくも体勢を立て直している。
「くそッ」
扉が砕かれる寸前、春翔が即座にインタラプトシールドを放った。
白と黒、2枚で1対の勾玉型盾が攻撃を受け止め、間一髪、倉庫内に居た七緒への被害を食い止める。
「鋼!」
春翔の呼び声に、意を察した鋼がさらにハイカバーリングを発動。
扉を砕き、七緒へと繰りだされた攻撃が重い一撃となり、身を抉る。
思わずその場に膝をついた。
口端を伝った血が、膝頭を赤く染める。
受けた拘束を振り払うべく、雅春が即座に清浄なライヴスの光を飛ばした。
回復はありがたい。
しかし、己の傷に構っている暇はない。
――いまは何よりも、少女を守らなければ。
「相模君、いるなら返事をして欲しい。私たちはH.O.P.Eから派遣されたエージェントだ。君を助けに来た」
その言葉は、絶望の淵にあった少女の心になんと響いただろう。
「ぁあああ、ここ! ここよ……!!」
喉を引き裂かんばかりの、精一杯の声。
「もう少しの辛抱だ。怖いかもしれないが待っていてくれ。必ず、君を護ると約束する」
倉庫めがけ走る鋼の背に、敵の手が迫る。
しかし、薔薇の棘荊をモチーフにした鞭が人形を引き裂き、行く手を阻んだ。
無様に倒れた人形へ向け、シオンが艶然と微笑む。
「キミ。退屈なら、俺たちの相手をしてくれない、かな」
仲間たちが敵を惹きつけている隙に、理夢琉は人形師の遺体を部屋の隅へ移動させ終えていた。
できればアトリエの外まで運びたかったが、敵の一部がまだ室内に残っている以上、戦場を離れるのは得策ではない。
囮として3体を引きつけた剱は全力移動で庭へ移動しており、残る1体も仲間たちが連携し、すでに窓際へと追い詰めている。
小鉄が人形たちの合間を駆けめぐり、眼にもとまらぬ速さで苦無を突き立てて。
部屋に残る1体の動きを封じるべく、剱もライヴスの針を撃ちはなつ。
「窓の外、庭へ行くのよ!」
理夢琉が駆けつけざまに『支配者の言葉』を掛ければ、人形はボロボロの脚を引きずりながら、大人しく庭へと向かっていく。
「今のうちに外へ、早く……!」
仲間たちと戦う5体の人形を警戒しながら、雅春が倉庫内で機を見計らっていた鋼と七緒を手招く。
死を間近に感じ続けるという壮絶な体験は、少女から立ちあがるだけの気力をも奪っていた。
憔悴した少女を鋼が抱え、雅春がいつでもカバーリングできるよう2人との間合いを保ち、移動を開始。
部屋の中央を越えるころ、人形師の遺体を見ることがないようにと、雅春が視界を遮るよう立ちまわったことに鋼も気づいて。
(あなたが命を賭して護ろうとした孫娘さんは、私達が命を掛けて護ってみせます)
通り過ぎざま、胸中で報告するに留め、足早に外へと向かった。
●アナタのモノ
【魔呪・音(マジュ・オン)】の書をひらけば、駆けあがる音階とともに魔法陣が顕現。
理夢琉の凛とした歌声にのせ、あたり一面に煌く水晶の花弁が舞い、花吹雪が人形たちを襲いくる。
従魔に憑依されたとはいえ、人形たちには美を愛でる眼も、聞き惚れる耳も在りはしない。
大方の敵がされるがままに攻撃を受け鈍ったところで、春翔の声が飛んだ。
「でけェのいくぞ! 巻き込まれんなよ!」
近くで立ちまわっていた仲間たちが瞬時に間合いを取り、人形たちを包囲する。
掲げた手の先。
春翔の頭上に、数多の武装が現れて――。
「俺にゃ人形を愛でる趣味はねェが……。ま、恨みなさんな」
声を合図に、陽光を映しきらめく刃が幾重にも降りそそぐ。
手のひらを穿ち、頭蓋を砕き、腹を裂き。
糸の切れた繰り人形のごとく1体がくずおれるなか、死角に倒れていた別の1体がバネのように跳ね起き、春翔の首を狙った。
その瞬間。
――閃くは緋色の大刃。
――空を引き裂くその音は、少女の声音で子守唄を歌うよう。
春翔はそれが『姐御』の得物であると気付き、背を向けたまま礼を告げる。
「っと、悪ぃ! 助かった!」
斧槍を振るった一の視線の先には、胴を砕かれ沈黙した人形の骸。
残る敵は3体。
そこから少し目線をずらせば、アトリエ内を駆ける令嬢と、2人の仲間たちが見えた。
おそらく、彼らを追いかけたいのだろう。
足もとで人形たちが、ままならない身をギチギチと震わせている。
「あの娘のライブスが欲しいのか? それとも依代にしたいのか……。どちらにせよ、手がけた作品をこうも扱われちゃ、作り手は死んでも死にきれんだろうよ」
庭に留めることに成功したとはいえ、人形たちはふとした瞬間に、令嬢のもとへ戻ろうとする。
そのたびに、小鉄が浦島のつりざおで引き戻し、剱がターゲットドロウや縫止で足止め、シオンが鞭で戒めた。
人形たちにはもはや、エージェントたちから逃げきる機動力も残ってはいない。
衝撃を受けた皮膚は砕け、穿たれ、ホラー映画もかくやという様相で。
死した人形師を想えばできる限り原型を留め屠りたいところだったが、手心を加え仕留め損なうことがあっては言語道断。
「器についてはやむを得まい。一気にカタをつけるでござるよ」
最も損傷の激しい個体を見極め、小鉄が渾身の一撃を叩きこめば、さらに1体が動きを止める。
そして、令嬢を送り届けた雅春――もとい、戦闘時に主導権を握る『お人形』も、戦線に戻るや嬉々として『同族』を分解にかかった。
『お人形? オトモダチ? 悪い子だあれ?』
金梃を構えた七人の小人(セブンズスター)を操り、トンテンカンと四肢を穿っては、人形たちのバランスを削いでいく。
剱も残るスキルを駆使し、漆黒『暗夜黒刀』を一閃。
両断した虚ろな身体が地に落ちると同時に、叫ぶ。
「これで、あと1体です!」
次の瞬間、パァンとあたりに破裂音が響き渡って。
最後の人形の眼前に、花があふれた。
ヒトデナシの人形には、それがヒトの扱う『ブーケクラッカー』というパーティ用品などとは知る由もなく。
白雪のように花が舞い落ちるなか、シオンが零距離からあてがった銃口は、額の中心をまっすぐに指していた。
「チェックメイト、だよ」
引鉄を引いた瞬間、顔半分がはじけ飛ぶ。
虚ろなガラス玉が衝撃で粉々に砕け、白花に混ざり、庭へと散らばっていく。
きらきらと瞬くそれらが音もなく地に落ちていくのを。
エージェントたちはただ静かに、見送っていた。
●ワタシのエゴ
すべてが終わった後。
座りこむ七緒へ理夢琉が飲み物を手渡し、傍らに膝をつく。
「……お爺様は、亡くなられました」
ゆっくりとした口調で部屋の隅を示せば、七緒は祖父の骸に近づいた後、その身体にすがって嗚咽をあげはじめた。
――どんなに悲しみが深くとも。
――想いを寄せるカタチがあるのなら、それは、確かな『拠り所』となる。
役目を全うできたことに安堵しつつも、疑問は残る。
「七緒さん。従魔に狙われた理由に、心当たりはありませんか?」
落ちつくのを待って問いかけるも、少女は泣きながら首を振るばかり。
「お爺様のことは気の毒でした……。ですが、あなただけでも、助けることができて良かった。きっとお爺様も、そう思っておられると思いますよ」
救急医療パックで少女の治療とケアを行いながら、剱もそう言葉を重ねる。
心の傷は眼に見えないだけに、はかり知ることはできない。
けれど少女の命は、こうして守ることができた。
いまは苦しくとも、いつか心の傷が癒える時がくると。
そう、信じたい。
「それにしても、いくらその道で認知されていたとはいえ、『人を脅かす人形』で知られちゃ後味が悪すぎだ」
粉々に砕け散った球体関節人形の破片を拾いあげ、一が深く息をつく。
従魔に取り憑かれた少女人形たちは、もはや原型を留めていない。
しかし、憑依されなかった人形のいくつかは破損を免れ、いまもアトリエに佇み、ことの成りゆきを見守っている。
「人形も、アトリエも。ジイ様の遺したモンだ。どうするかは、アンタが決めなきゃな」
うなだれたまま床に爪をたてる七緒へ、春翔が声を掛ける。
人形師のために、これだけ泣くことのできる少女なのだから。
きっと、悔いのない選択をするだろう。
「こんな美しい仮の魂を作れる御仁……。さぞ、美しき心を持っていたのだろうね」
「ここには遊びに来てたのかな、おじいちゃん孝行だね。仲が良かったの?」
他意なくかけた、シオンと雅春の言葉。
そこに思うところがあったのか、少女は、ふたたび涙を流しはじめて。
「わたし、ひどい孫だった。何も知らずに、拒絶するばっかりで」
2人の関係がどのようなものだったかは、わからない。
胸を抉られるような泣き声に唇を噛みしめ、雅春はそっと、言葉を重ねる。
「人形師さんは、優しい人だったんじゃないかな。僕には、人形師さんが七緒さんを庇ったように思えたから」
倒した敵の残骸と、アトリエの人形たちを見て、なんとなくそう感じたのだ。
――どことなく、令嬢に似た面差し。
そこに、死した老人の想いを垣間見た気がして。
「真実はこの事件に立ち会った者の心に――ぐらいが、あの子や家族のためなんじゃないかね」
「真相は闇のなか、でござるか」
仲間たちだけに聞こえるよう呟き、一と小鉄が背を向ける。
雅春も人形師の遺体に向きなおり、静かに手を合わせて。
もう行くねと七緒に声を掛けると、後ろ髪を引かれながらも、その場を後にする。
最後の言葉は、結局、告げずにおいた。
(僕は、思ったんです。あの人形たちは。もしかしたら、あなたへ向けられていたお爺様の愛情を、欲していたんじゃないかって)
――真実は、もう。だれにも、わからないけれど。
七緒は救われた。
けれど、鼓膜を震わせる慟哭。
泣き崩れ、震えるちいさな背中。
避難誘導を終えるまで、怯えるように縮こまっていた無力な姿に、鋼は改めて、実戦の厳しさを噛みしめる。
(俺は、ちゃんと護れるだろうか。あの子達を、これ以上悲しませないために)
覚悟を確かめるように、己の手指を握り締め。
白くなる爪先を見やり、あらためて、誓う。
「誰かを喪う悲しみを、これ以上増やさないためにも。……これから、強くならなければ――」
それから、数日後の早朝。
数体の人形が佇むのみのアトリエを前に、セーラー服姿の七緒が立っていた。
がらんどうの家。
『ヒトデナシ』の魂は、もう、どこにも存在しない。
三日三晩泣きはらした眼で、朝陽に浮かぶ四角い家を見あげる。
「……からっぽの私には。もう、さよならするね」
微笑んだ瞬間に、また、涙がこぼれたけれど。
どこか清々しい気持ちで、七緒は学校へ向かうべく、駆けだした。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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