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質問卓
最終発言2017/03/04 20:05:48 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2017/03/06 16:12:31 -
【b】本城外:相談卓
最終発言2017/03/07 20:27:33 -
【C】東出城:相談卓
最終発言2017/03/07 21:40:47 -
【a】本城:相談卓
最終発言2017/03/07 20:52:38 -
【E】本城外:相談卓
最終発言2017/03/07 16:52:56 -
【A】本城:相談卓
最終発言2017/03/07 00:21:19 -
【B】北出城:相談卓
最終発言2017/03/06 20:44:35 -
【D】西出城:相談卓
最終発言2017/03/07 02:12:23 -
相談卓
最終発言2017/03/07 21:21:43
オープニング
●作戦会議
モニターに映ったのは、動くものの何もない雪と氷の城だった。城壁、兵舎、監視塔、ぽっかり空いたエントランス、そこから伸びる通路の先には、やはり誰もいない空間が三つ……
「これは、先日入手したウルノヴォ城塞……モスクワ西部に展開されたドロップゾーン内部の映像だ。建物の配置は各自に渡した地図の通りだが、奇妙な事に愚神や従魔の影は一つもなく、あったのはこの三つの部屋にそれぞれ浮かぶ水晶のようなものだけだった」
言ってオペレーターは城塞地図と、モニターに映し出された水晶のようなものを指し示した。水晶は不思議な煌めきを放ちただ静かに浮かんでいるが、よく見ると生物の心臓のように、びく、びく、と動いている……
「見て分かるように、この水晶はわずかに動いている。同じものがご丁寧に三つもある事を鑑みるに、もしかしたらこいつがゾーンルーラーなのかもしれん……いずれにしろ、破壊してみれば何か分かるだろう。とは言っても、敵がそれを易々と許してくれるとは思わんが……こいつが本当にゾーンルーラーなら尚更だ。
だが、ウルノヴォ城塞をこのまま放置する訳にもいかん。連戦続きで申し訳ないが、……目標、ウルノヴォ城塞のゾーンルーラー、及びトリブヌス級愚神、ヴァヌシュカの撃破。武運を祈る!」
●決死
ヴァヌシュカは広大な空間で一人瞼を閉じていた。敵の勢力圏只中に陣を構えるという事は、己が退路を最初から打ち捨てる事と同義である。捨て石と言われた所で特に異論も出はしない。
だが、ヴァヌシュカはその役割を喜んで買って出た。例え捨て石であろうとも、それが有意に繋がるのであれば身を窶す価値は十分にあり、またその先に強敵との闘いが待ち受けているのであれば……。戦いに狂う、その域ではないとヴァヌシュカ自身は思っているが、それでもやはり、身命を刻一刻と削るその場所を、好み、求め、投じてしまう、その性質は事実であった。戦いに溺れるつもりはないが、先に待っているものが既に決まっているのだとしたら……
「……来たな」
ヴァヌシュカは薄い瞼を上げ、眼前に立ち並ぶ人間共の姿を眺めた。数えるのも嫌になる、それ程の人間共の目が己一つを見つめている。
だが、愚神は笑った。考える事など何もない。敵が何を講じようとそんな事はどうでもいい。荒れ狂う嵐のように、叩き潰す、目に映る全てを。それこそが仕える主より己に課せられた任であり、同時に身命を投じる程に求めてやまぬ興であり。
「手を抜く事なく歓迎しよう、忌々しき客人共。
精々俺を愉しませろ」
●ウルノヴォ城塞地図(PC情報)
□□□□□□□□□
□ F□
□E B □
□ | □
□ D―A―C □
□ ☆ □
□□□ □□□
A:本城(入口は幅4sq×高さ10sq。床の広さは半径20sq。通路が三本あり、それぞれB、C、Dと繋がっている)
B:北出城(半径8sq)(各出城の壁に扉が設置されているが閉じているため、出城に侵入するためには本城から繋がっている通路を通る必要がある)
C:東出城(半径12sq)(出城の扉について北出城に同じ)
D:西出城(半径15sq)(出城の扉について北出城に同じ)
E:兵舎
F:監視塔
□:城壁(□1辺が10sq)
―:通路(横4sq×長さ10sq)
☆:リプレイ開始時PC位置(固定)
●敵情報(PC情報)
ヴァヌシュカ
冷気を操り、左腕の鉤爪と右腕に巻いた分銅付きの鎖を駆使して攻撃する。鎖は最長12sqに及ぶ。物攻・物防・命中・生命が極めて高く、一撃二撃受けただけで戦闘不能になる危険性もある
物攻S 物防A 魔攻? 魔防B 命中A 回避D 移動C 抵抗B INTB 生命A
・ホワイトアウト
パッシブ。冷気を操る能力により周囲に猛烈な寒波をもたらす。寒波による【劣化(命中)】【劣化(回避)】【劣化(移動)】、稀に奇襲による【狼狽】付与
・オーバーフリーズ
パッシブ。冷気を纏わせた肉体は氷のように硬く、拳や武器は触れた対象をも瞬時に凍らせ、凍結による【劣化(命中)】【劣化(回避)】【劣化(移動)】、稀に【劣化(物防)】付与。劣化度合はホワイトアウトより上
・ダウンレッド
アクティブ。鎖を放って標的を拘束したり、引き寄せたりしつつ鉤爪で対象を切り裂く
・チェーンジルバ
アクティブ。鎖を縦横無尽に振り回し、当たった相手にオーバーフリーズによる凍結効果とダメージ付与。振り回す規模が大きい程隙が生まれる
レドズメイ
竜型従魔。全長8m程。地上から10sq地点を飛ぶ。かなりの高速で移動
・フローズンミサイル
氷柱のミサイルを発射する。稀に冷凍効果による【拘束】付与
・急降下爪撃
空から急降下して鉤爪による攻撃を行う。物攻に上昇補正が掛かるが上空に戻るのに1ターンかかる
●敵情報【PL情報】
ツィタデレ
水晶のような形をしたケントゥリオ級従魔。ゾーンルーラー。北・東・西出城中央に1体ずつ浮かんでいる。
自力で動く事は叶わないが、分身を作り出し自身を守らせる事が可能。分身は本体の周りに出現し、本体を守ろうと行動する/本体が消滅しない限り、倒されても1ターン後に復活する
分身(北):巨大な斧を持った鎧武者×2。全長3m。移動と回避が低い。斧を振り回す事で範囲3に攻撃可能
分身(東):扇で戦う舞姫×3。全長1.6m。扇で攻撃・防御する他、直線8に突風(当たると3sq後退。ダメージなし)を放つ
分身(西):大蛇×1。全長20m。生命力が高い。ツィタデレ本体に巻き付いている。頭や尻尾で敵を殴打する(広範囲攻撃)他、口から直線4に凍結ブレス(当たると【拘束】付与)を放つ
氷兵士
剣を持った氷製の兵士人形。城塞北西にある兵舎から1ターンに4~10体ずつ/ウルノヴォ本城が倒壊するまで出現。1体はAGW一撃で倒せる程脆いが、5体集まると合体・巨大化・パワーアップする。本城に侵入しようとする
レドズメイ(追加情報)
城塞北東にある監視塔から1~3ターンに1体/ウルノヴォ本城が倒壊するまで出現。ゾーンにいる間はフローズンミサイルの使用制限なし。本城に侵入しようとする
ヴァヌシュカ(追加情報)
前回鎖を破壊されたが今回は元に戻っている/鎖や鉤爪は破壊されてもゾーン効果により一定ターンで修復される。ヴァヌシュカのいる本城はホワイトアウトの影響で猛烈な寒波に見舞われている(本城以外にはホワイトアウトの影響なし)
解説
●選択肢(各行動前にアルファベットで記載)
前半
A:本城(突破されると出城組のいずれかがヴァヌシュカに強襲される)
B:北出城(長引く程に本城組の危険が増す)
C:東出城(同上)
D:西出城(同上)
E:本城外(突破されると城内部の仲間が氷兵士・レドズメイに強襲される)
後半
a:本城
b:本城外
●リプレイ開始時
・ゾーン侵入時に従魔の姿はなく、リプレイ開始と共に一斉に出現
・ヴァヌシュカは本城エントランスで待ち構えており、リプレイ開始と共に入口に接近/チェーンジルバを仕掛けてくる
●PL情報
・本城入口は巨大化した氷兵士・レドズメイが通過出来る大きさ
・各出城のツィタデレを倒すとその出城の扉が開き、直接外に出られるようになる
・全てのツィタデレを倒すとヴァヌシュカが弱体化/10ターン後に本城・出城・通路が倒壊する。内部に残留していた場合建物に押し潰されダメージを負う危険あり
●その他
・使用可能物品は装備・携帯品のみ
・本城と出城の内部は空間が歪んでいるので外見と広さが異なる
・ウルノヴォ城塞全域に厚く雪が堆積している
●注意事項
・PL情報は「PCは知らない情報」です。活用するためにはPC情報への落とし込みが必要になります/落とし込みが不十分な場合活用出来ない場合があります
・プレイングの出し忘れ/英雄の変更忘れ/スキル・アイテムの装備忘れにご注意下さい
・装備されていないアイテム・スキルはリプレイに反映する事が出来ません
・能力者と英雄の台詞は「」『』などで区別して頂けるとありがたいです
・プレイング・リプレイ共に文字数が限られておりますので、行動を数種類書くよりも焦点を絞り詳細に書かれる事をおススメします(詳細に書いて頂けた方がより詳細にリプレイに反映出来る可能性が高まります)
・ヴァヌシュカ詳細及び登場シナリオについては【絶零】特設ページをお願いします
リプレイ
●門前
氷雪の城を前にして鋼野 明斗(aa0553)はぶるりと震えた。常は口数も少なく、表情もあまり動かない明斗だが、さすがにこの寒さには顔をしかめずにはいられない。
「また、こんな寒いとこに……」
【正義を成すのです!】
ドロシー ジャスティス(aa0553hero001)は威風堂々スケッチブックの文字を掲げた。くるくる変わる、今は得意げな表情に明斗の声が雪上を這う。
「……てめぇ、ココ○チでトッピング全乗せして懐に大ダメージなの忘れたか」
ドロシーは そ知らぬ顔で 口笛を吹いた。反省の 色は みられない。明斗はため息を吐き、眼鏡の奥の瞳に再び氷雪の城を映す。
「まあ、いい、きっちり稼いで帰るからな」
彼らの中に「負ける」という文字は無い。それはここにいる誰しもの想いでもあった。月鏡 由利菜(aa0873)とリーヴスラシル(aa0873hero001)は門を前に並び立ち、それぞれ誓いと祈りを口にする。
「……私は生き残る為に戦います」
「陛下、そしてミッドガルドの民よ……我らに加護を」
「皆、死んではならない。たとえどのような目にあおうとも、生きてさえいれば希望の灯火は残るのだから……。それだけは忘れるな……!」
「必ず、皆生きて帰ろう!」
無月(aa1531)とジェネッサ・ルディス(aa1531hero001)の声にある者は頷き、ある者は「おう!」と声を返し、そしてリンカー達は城へ……凍りの嵐が渦を巻くドロップゾーンへ足を踏み出す。
●本城
ヴァヌシュカは立ち並ぶ人間共の姿を眺め、敵を潰す嵐と化すべく鎖を鳴らし駆け出した。冷気を纏う異界の武器がリンカー達を打ち据える――
瞬前、山羊の被り物に隠されるヴァヌシュカの横っ面を、ゼノビア オルコット(aa0626)の放ったテレポートショットが死角から叩き撃った。愚神が足を止めた隙を逃さず灰堂 焦一郎(aa0212)も銃を構え、ストレイド(aa0212hero001)が機械音声で狙撃手へと指示を出す。
《奴を撃つ。備えよ》
「篝様、どうかご無理はなさらずに」
「ふはははははは、うおおおお寒いぞー!!」
『寒くても元気だねえ、うちの主は……』
焦一郎の慮りに寒さ吹き飛ばす太陽のごとく火乃元 篝(aa0437)は声を上げ、ヤス・オーダー・鳥羽(aa0437hero002)は何処か楽し気に呟いた。だが、それも一瞬の事。すぐさまA.R.E.S-SG550の狙いを定め、焦一郎とは別射線から愚神に銃撃を喰らわせる。
「お前さんのお陰で這い上がろうと思ったんだ。感謝するぜ、ヴァヌシュカ。礼に全力でいかせてもらうぞ」
『悔い無きようにやるのじゃぞ、亮』
ブラックウィンド 黎焔(aa1195hero001)の声に百目木 亮(aa1195)は顔を上げ、言葉通りに全力で愚神へフラメアを突き入れた。先代風幻の巫女が遺した錫杖「金剛夜叉明王」を高く上げ、数多の獣の幻影を纏い零月 蕾菜(aa0058)は声を張る。
「今度こそ、届かせます」
『えぇ、目ぇ覚ましていきますよ』
十三月 風架(aa0058hero001)の言と共に蕾菜は水晶の幻を舞わせ、五色の影を一斉に愚神目掛けて解き放った。その隙にリンカー達はそれぞれの通路へと駆け出し、佐倉 樹(aa0340)は拒絶の風で自身を包みヴァヌシュカへと接敵する。
「「サンダーランス!」」
後方にいる御代 つくし(aa0657)と同時に放った雷の槍は、二方向から愚神を貫きその目をわずかに眩ませた。齶田 米衛門(aa1482)は小鉄(aa0213)と共に並び立ち、少し腰を入れた姿勢で愚神の方へ背を向ける。助走を付け、雪を蹴った仲間の重みが腕にきちんと乗った所でスノー ヴェイツ(aa1482hero001)が声を張る。
『いっけぇ!』
米衛門は渾身の力で仲間を上へ跳ね飛ばし、クレア・マクミラン(aa1631)は跳躍しながら赤に染まった瞳を細めた。空中で身を捻りヴァヌシュカのすぐ背後に降り立ち、金獅子の紋章を負う愛剣……「カラミティエンド」を出現させる。
「久しいな。あの時の顔の傷は己を隠すほどに堪えたか?」
被り物への挑発に己のけじめを潜ませて、クレアは愛剣の一撃を愚神の背に走らせた。すぐさま後退しようとするクレアに愚神の鉤爪が迫る――その時笹山平介(aa0342)のアンチマテリアルライフルが着弾して弾幕を張り、小鉄の腕を借り跳躍していた真壁 久朗(aa0032)が鉤爪を盾で受け止める。
愚神はそこで気が付いた。他のリンカー達が己を躱し通路に踏み入っている事を。後を追おうとした所に何かがヴァヌシュカの意識を引き、愚神は誘われるように大門寺 杏奈(aa4314)のパラディオンシールドに冷気の鎖を振り落とす。
「盾は私だけじゃない! 仲間をやらせはしないわ。力勝負といきましょうか、ヴァヌシュカ」
「守るべき誓い」での誘導に成功した杏奈は、レミ=ウィンズ(aa4314hero002)と共鳴する事によって見せる柔い微笑を愚神へ向けた。通路へ消える仲間を見送りセラフィナ(aa0032hero001)が宣告と祈りを告げる。
『危険を好む者はそれによって身を滅ぼす……皆さん! ご武運を……!』
●東出城
「再び貴方と共に戦場に立てる事、二度と叶わないとばかり思っておりました。ベドウィル卿」
ベネトナシュ(aa4612hero001)は隣を走るベドウィル(aa4592hero001)に喜色を滲ませ声を掛けた。二人はかつて同じ主人に共に仕えた騎士であり、またベドウィルはベネトナシュにとって教育係にも当たる者。そんなベドウィルに背を預け、他方で戦う「二人」に負けぬ戦果を上げようとベネトナシュは息を巻いていた。
「……そうですね。私も、貴方とまたこうして剣を並べられること、とても嬉しく思います」
かつての教え子の名を呼ぶ事はまだ出来ないが、ベドウィルは愛しさを含めた声で応えてやった。それにまた喜色を見せるベネトナシュを薫 秦乎(aa4612)が内から揶揄する。
『……なんだ、ですぞーとかベディ殿ーとか、今日は言わねぇのか』
「……言わん、黙って見ていてくれ」
雪の堆積した通路を走り、リンカー達はやがて円形の部屋へと辿り着いた。部屋の中央には水晶と、水晶を囲むように立つ氷で出来た舞姫三体。五十嵐 五十鈴(aa4705)と共鳴した十二月三十一日 午前九時(aa4705hero002)は白い息をふうと吐く。
「さぁ、あの空気の読めない五十鈴が動いてると大変なことになりかねない……今回は私がなんとかしよう。そうしよう」
真っ先に戦場に入り敵の死角を陣取った後、午前九時は忌書「8月31日」の怨嗟を射程ギリギリから放った。本体を守るように立つ舞姫をまずは蹴散らすべく、葉月 桜(aa3674)が電光石火の奇襲で舞姫へと斬り掛かる。奇襲を受けた舞姫は、傷を負いながら身を引いた後、扇の風で桜を後方に吹き飛ばし……繰り広げられる戦闘に小宮 雅春(aa4756)が声を漏らす。
『怖い……でも、一人でも欠けたら駄目なんだ。僕にできることを、やらなくちゃ』
「私は貴方の望みを叶えるだけ」
雅春への恭順を口にしながらJennifer(aa4756hero001)は胸中のみでひそりと笑んだ。雅春に添う「お人形のジェニー」はあくまで仮面を被った舞台の役。
(『ショータイムと行こうか……雅春、お前はどう出る?』)
想像を馳せながらJenniferはルールブック「完全世界」を手元に浮かせ、水晶の操る氷人形に魔法攻撃を差し向けた。ヘンリー・クラウン(aa0636)もまた赤から漆黒に変じた瞳に敵の姿を映し出す。
「今回の相手は女か……」
『早く終わらせて無事に帰ろうぜ』
片薙 蓮司(aa0636hero002)の声に頷きヘンリーは腕を正面に構えた。的確なタイミングを計り見極め、魔導銃50AEで舞姫一体の胴を撃つ。
仲間の遠距離攻撃に乗じ、榊 守(aa0045hero001)と共鳴し戦巫女と変じた泉 杏樹(aa0045)は雪を駆け、舞姫に接近と同時に藤神ノ扇を振るい落とした。皆と連携しダメージを集中させ、まずは一体目の撃破を狙う。
「皆さんが、無事帰れる様に、お手伝いなの」
花のごとく舞う杏樹に、氷で出来た舞姫が眼球のない瞳を向けた。そして繰り出される氷の扇を杏樹もまた扇で受ける。
「杏樹も、扇使いの舞姫なの。貴方には、負けません、です」
杏樹は流れる動作で身をひねり、再び扇を敵へと見舞った。同時に潜伏を使用していた星野 木天蓼(aa5000)が接敵し、縫止の針を打ち刺して舞姫の動きを阻害する。
「オレもやるときはやるぜ?」
『私達に不可能なんてありませんよ』
神崎 稲荷(aa5000hero001)と声を続けすぐさま敵から距離を取り、そこに午前九時が、Jenniferが、ヘンリーがそれぞれの位置から己が得物を叩き撃つ。桜は吹き飛ばされた先から再度肉薄し舞姫に一気呵成を仕掛け、転倒した所にドラゴンスレイヤーの重い刃を振り落とす。
ベネトナシュはアックスチャージャーを使いライヴスを武器に蓄えていた。これで次の攻撃はさらに威力を増して行える。まずは露払いと舞姫達に斬り込んだ後、ベグラーベンハルバードで怒涛乱舞を展開した。嵐と振るわれる乱撃に、一体の舞姫が崩れて落ちる。
『なんで俺だけこっちなんだ』
戦場の様子を観察しつつ龍堂 直弥(aa4592)は不満を零した。全幅の信頼と親愛を置く幼馴染二人と離されて、直弥の機嫌はナナメである。
「そう拗ねないでください、ナオヤ……。彼らが心配なのはわかりますが、あの二人なら心配いりませんよ」
『……そうだけどさ。早く終わらせねぇと』
「ええ、そうですね」
言ってベドウィルは顎を引き、瞳の色を苛烈に染めて水晶目指し駆け出した。仲間達の、そして教え子の攻撃により水晶への道は出来ている。シャムシール「バドル」を水晶に走らせすぐに床を蹴って退き、入れ替わりにリンクコントロールでリンクレートを上げた由利菜が、改造したデストロイヤー「スィエラ」の穂先を突き入れる。
本体に接近した二人に対し、一体の舞姫が扇を握る腕を引いた。風が来ると判断したJenniferと杏樹が全く同時に声を上げ、ベドウィルと由利菜は横に引いて突風を回避する。
一体が撃破され一体が封印されている今、水晶を守る舞姫はたったの一体だけである。Jenniferは舞姫に接近すると、七人の小人を操って舞姫を打ちその足を止め、午前九時は別の死角から水晶へと怨嗟を飛ばす。桜も水晶へと斬り込み屠龍の大剣を叩き付け、由利菜とベドウィルもまた己が一撃を本体へと撃ち入れる。
と、突如倒したはずの舞姫が水晶のすぐ傍で復活し、本体に近付いた者達を扇の風で吹き飛ばした。仲間達が後退する中、一歩離れていた木天蓼はすかさず復活した舞姫に接近すると、ジェミニストライクで分身を作り風魔の小太刀を振り下ろす。
杏樹が目の前に立つ舞姫に扇を打ち入れたと同時に、ヘンリーは別の舞姫に接敵しながらリョートブレードを出現させた。刃を煌めかせるヘンリーに舞姫は一撃を叩き込んだが、ヘンリーはそれを受け止めながら舞姫の後ろへと回る。
「さあ、とっとと終わらせるぞ」
ロストモーメント――武器を多数展開し行われる反撃は、攻撃で隙を生んだ舞姫の身を切り裂いた。さらに追い撃とうとヘンリーが腕を上げた所で、杏樹が自分と相対する舞姫を引き留め声を上げる。
「だいじょぶ、なの。杏樹ごと、攻撃してください」
一見可憐な、しかし覚悟ある瞳にヘンリーはわずかに頷き、そのまま刃の嵐……ストームエッジを踊らせた。午前九時が、Jenniferが、木天蓼が水晶へと攻撃を加え、ベネトナシュもハルバードを振るおうとした所に舞姫の氷の扇が迫る。
「インタラプトシールド!」
ベドウィルの鋭い声と共に武器が複数構成され、盾となってベネトナシュを守り扇のダメ―ジを軽減させた。常は穏やかな瞳を吊り上げベドウィルは再び声を飛ばす。
「勝ちもしないうちから気を抜くな、馬鹿者!」
常は穏やかな口調だが、戦場では誰よりも苛烈な一面を見せるのはベドウィルが元々持つ気質。それを懐かしく思いながらベネトナシュは師へ頼みを述べる。
「かたじけない。そのまま後ろを頼みます」
そして振り返らず敵を見据え、ベネトナシュは本体へオーガドライブを叩き落とした。威力を増したハルバードの更なる猛攻に水晶がひび割れ、桜と由利菜が同時に得物と声を上げる。
「邪魔だよ! そこをどいてね!」
「その幻影ごと、浄化の嵐に飲み込まれよ!」
桜のヘヴィアタックがさらに複雑なひびを走らせ、由利菜の「スィエラ」の一撃で水晶は完全に砕け散った。舞姫達も雪と氷の塊と崩れ、出城の扉が開かれる。
『ジェニー、みんなに回復を』
雅春の声にJenniferはヒールアンプルやホットチョコレートを出し、足りない分はケアレイを使って負傷者の傷を回復させた。リンカー達は装備や傷を改めた後、仲間の援護に向かうべくそれぞれの場所へと走り出す。
●西出城
『大ボス以外は誰もいないのかな、でも気配はあるね』
共鳴し、餅 望月(aa0843)と視界を共有しながら百薬(aa0843hero001)は疑問を口にした。大きな羽根を揺らしながら望月は声を返す。
「事前情報でもらったゾーンルーラーがいるんでしょ、そっちに行くよ」
『うん、中心部は信頼できる味方に任せようね』
とにかく速攻で西出城へ。全力で駆ける望月の前をリィェン・ユー(aa0208)も走りながら、血管にさえ忍び込むような冷気にきつく眉をひそめる。
「まったく寒いったらないな」
『修練が足りんのじゃ』
「そこから出てこないでよく言うよ」
共鳴中のイン・シェン(aa0208hero001)の言に白い息を吐きながら、リィェンはしかし愉し気に口の端を吊り上げた。敵が強そうだし戦い甲斐があるからよしとするか……狂戦士の衝動が胸を腕をと焦がしていく。
『……ここからでもいやな気配を感じるのじゃ』
出口が見えてきた所でインが述べ、その予感を「正解」とでも言うかのように、通路を抜けたリンカー達の前に大蛇が姿を現した。優に20mはある氷の蛇が、太い首をわずかに持ち上げ眼球のない瞳を向ける。
赤城 龍哉(aa0090)は突入と同時にフリーガーファウストG3を出現させて担ぎ上げ、ロケット弾を放ちながら大蛇目掛けて駆け出した。リィェンもまたダメージを蓄積させるべく、同時に仲間の被害を軽減するべく龍哉に合わせて屠剣「神斬」――別名【極】の斬撃を飛ばす。
伴 日々輝(aa4591)と共鳴し、騎士鎧と外套を身に着けた姿となったグワルウェン(aa4591hero001)は、龍哉とは別方向から氷の大蛇へ接近した。目的は敵の視野に留まる事で、後方の味方から視線と注意を逸らす事。外套を翻し巨斧「シュナイデン」を叩きつけ、合わせて望月も蒼炎槍「ノルディックオーデン」を突き入れる。
木霊・C・リュカ(aa0068)の姿を借りた凛道(aa0068hero002)は、蛇の巻き方とは逆回りに走り込み、熱によるピット器官の不調を狙って黒猫「オヴィンニク」の操る火炎を該当部へと差し向けた。紫 征四郎(aa0076)も蛇の弱点をと頭部を狙って矢を放ち、明斗は前衛の一歩後ろでアーバレスト「ハストゥル」を出現させ、風をまとう矢を射ちながら戦場へと突入する。
蛇は侵入者達の動向を眼球のない目で眺めていたが、突如首を鞭のようにしならせ近くのリンカー達を薙ぎ払った。体勢を立て直し、再び攻撃を蛇へ放つ仲間達の背を眺めながら、拒絶の風を身に纏いクー(aa4588hero001)は拳を握り締める。
(「この体で戦うのは初めてだが……問題なさそうだ、腕が鳴る」)
(『本当に、物語みたいな世界……怖いけど大丈夫、クーちゃんなら』)
芦屋 乙女(aa4588)の想いと共にクーは魔導書をその手に開いた。物理攻撃は警戒すべきと判断し、直接攻撃が届きにくい、かつ頭や尾の直線上に入らない位置に移動する。この世界に転移する前の騎士姿に乙女要素のロップイヤー耳を生やしたうさみみ騎士、もといクーは極獄宝典『アルスマギカ・リ・チューン』の魔法を飛ばす。
リィェンの斬撃を受ける蛇を見ながら望月は考えた。水晶が一つあるはずだが大蛇の身体に隠されているのか見当たらない。一先ず大蛇をどうにかすべきと、密着しない程度の距離から槍の火焔で斬り上げる。急がなければならないので可能な限り速攻、かつ回復スキルを温存できるように最善を尽くさなければ。
「タフネスが売りかよ。いいぜ、どっちが先に根を上げるか勝負と行こうか!」
征四郎とグワルウェンの攻撃が大蛇の身を打ったと同時に、龍哉がスロートスラストを纏わせブレイブザンバーを振り下ろした。衝撃に大蛇がふらつく隙に明斗がケアレインの光を放ち、シルクハット伯爵(aa4973hero001)が早乙女 真祐(aa4973)に声を掛ける。
『珍しいね。君にはまだ早いと思ったのだが』
「……かもしれねぇ、だが……黙っていないフリしてる方がもっと辛れぇ」
『そうかい、では頑張ろうか』
相棒の言に一つ頷き真祐はホイール・オブ・ブレードを回した。下手に手を出すよりも、ここに到着する前と同じく仲間達の背後を走り、敵の援軍と不意打ちに備え警戒を張るつもりでいる。
とは言え今はまだ兆候はないと判断し、真祐は脚に意識を集め、ライヴスショットを大蛇の太い首目掛けて蹴り放った。衝撃波が爆発し、度重なる攻撃に大蛇の身体がわずかに揺らぎ、その隙間から本体と思しき水晶が姿を現す。
凛道が水晶に狙いを定めようとした所で、大蛇が攻撃を仕掛けるべく重い頭を持ち上げた。「何か来るぞ」「散らばって」とクーと凛道が述べたと同時に蛇が凍結ブレスを直線に吐き、リンカー達は回避するべく左右へと散開する。衝撃で狙いがブレたのか直撃こそ免れたが、床から這い上る冷気がリンカー達から温度を奪う。
ブレスを避けるべくリンカー達がそれぞれ退避を行っていた頃、グワルウェンは一人蛇のすぐ近く……蛇の顎のすぐ真下に潜んでいた。蛇がブレスを吐くために頭を持ち上げたと同時に、そのまま駆け出し滑り込み蛇の顎下に身を隠した。そして下がってきた顎から頭部へと打ち抜くように、グワルウェンはヘヴィアタックを乗せた巨斧「シュナイデン」を振り上げる。
「……!」
声帯が存在したなら叫びを上げたに違いない、それ程の衝撃に蛇の頭は揺れ動いた。味方の攻撃を補助するべく、クーが大蛇を中心にゴーストウィンドを巻き起こし、征四郎が踏み台となるため凛道へと声を張る。
「いきますよ、凛道!」
凛道の脚が乗ったと同時に征四郎が強く腕を上げ、凛道は深い青に染まったリュカの瞳をわずかに細めた。蛇の真上から巨体全てを範囲に収め、ウェポンズレイン――多数の武装からなる雨を容赦なく大蛇に注がせる。無情な雨は氷の蛇をずたずたに裂いて氷塊に変え、龍哉が、リィェンが、望月が、明斗が、露わになった水晶へ己が得物を叩き込む。
「よし、もう一発……」
「待って下さい、蛇が!」
征四郎の声に龍哉達がそちらを向くと、一度は崩れた氷塊が、床の氷雪を吸収しながら徐々に躯を戻していく。復活の可能性を見てとった征四郎は水晶と蛇の間に自分の身を割り込ませ、巻きつきを妨害するべく青年の身となった腕を張る。
「今の内に。早く!」
征四郎は仲間に訴え、リンカー達は渾身の一撃を水晶へと走らせた。複雑なひびを描く水晶にグワルウェンが防御を捨てた猛攻――オーガドライブを振り落とし、水晶が霧散したと同時に蛇の姿も立ち消える。
「撃破を他の班へ伝えなければ」
「怪我をした人はこちらに」
征四郎がライヴス通信機で本体撃破の連絡を入れ、その間に明斗が回復スキルを仲間へ放った。そして別の場所に向かおうとした――所で城全体が大きく揺れる。
「!?」
●北出城
「急ぎます。何者か分かりませんが速やかに向かい、敵を討ちます!」
雪にわずかに足下を掬われながら、キース=ロロッカ(aa3593)は仲間達を鼓舞するべく声を上げた。同じく雪路を走りながら、沖 一真(aa3591)は緊張を絶やさず金烏玉兎集を握り締める。もしも寒波が追って来たら、愚神が目の前に現れた時には……
しかし懸念は杞憂に終わり、リンカー達は無事な体で北の出城に辿り着いた。部屋の中央には浮遊する水晶があり、本体を守護するように鎧武者が二体並び立つ。
まずは鎧武者を討つべき敵と見定めて、キースは天弓「アクハト」を引き武者に一撃を浴びせ掛けた。同時に肉薄した藤岡 桜(aa4608)が、ミルノ(aa4608hero001)と共鳴し色を変えた白銀の髪を大きくなびかせデビルブリンガーの刃を振るう。
「他の場所にも水晶がある」、その情報からまずは正体を探るべく、藤咲 仁菜(aa3237)の姿を借りたリオン クロフォード(aa3237hero001)は冷魔「フロストウルフ」を水晶へと差し向けた。直線に放たれた攻撃はしかし鎧武者に防がれ四散し、だがそれが水晶の正体を決定付ける。
『やっぱり、あの水晶がゾーンの要みたいだな』
「結晶をも守るか――鬱陶しいからこれでも喰らってろ――幻影蝶、急々如律令!」
リオンの推測に一真は金烏玉兎集を紐解き広げ、幻影蝶を召喚して鎧武者へと解き放った。光輝く蝶の舞いに一体はその動きを止めるが、一匹は兜を一真に向けそのまま雪を踏みしめる――
そこに、潜伏を使い身を隠していた無月が女郎蜘蛛を打ち絡め取った。二体が停止した所でГарсия-К-Вампир(aa4706)が腕を上げる。
「……さて、参らせていただきましょう。我らがロシアの地でこれ以上勝手はさせません……」
Летти-Ветер(aa4706hero001)と共鳴した事により変化した瞳の深紅を輝かせ、鎧武者の中程に斬り込みウェポンズレインを撃ち放った。武装が雨のごとく鎧武者に降り注ぎ、Гарсияの攻撃に合わせキースが矢で追い穿つ。
「死なない覚悟を、誰も死なせない覚悟を」
『どんなに無様でも生き残る覚悟を』
「『さぁ行こう』」
内の仁菜と声を重ね、リオンは「フロストウルフ」の牙を水晶へと定め放った。コントロールを受けた狼は鎧武者を素早く躱し、本体に喰らい付くと同時にその表面を凍て付かせる。
本体の撃破は仲間に、自分は鎧武者の担当を。桜は鎧武者に接近し再び漆黒の鎌を振るった。三木 龍澤山 禅昌(aa4687hero001)と共鳴する三木 弥生(aa4687)は鷹の目で戦場を上から把握し、「御屋形様」と仰ぐ一真を背で守りながら報告する。
「今この部屋に、鎧武者と水晶以外の敵はいない模様です」
「分かった。兵法にいう風林火山のち、風。速攻で片をつけるぞ」
『ん……攪乱と一撃、私達の得意とするとこだね』
月夜(aa3591hero001)の声に顎を引き、一真は本体たる水晶へとサンダーランスを走らせた。合わせて本体に接近した無月が雷切を叩き入れ、桜は鎧武者の胴部分を鎌の一閃で薙ぎ払う。Гарсияが取り巻きを小説「白冥」で撃ったと同時にキースが天弓の矢を放ち、リオンが冷気の狼を水晶へと差し向ける。
鎧武者は斧を持ち上げると、一真を狙い斧を振り落とそうとした。そこに弥生が身を割り込ませ、守護刀「小烏丸」で斧を受け流し凛と声を張り上げる。
「御屋形様には指一本触れさせません! いざ尋常に……勝負!!」
体勢を崩した鎧武者に弥生はすかさず縫止を放ち、敵の動きをその場に封じた。その隙にキースと桜が別の鎧武者に追撃を加え、猛攻を受けた鎧武者は氷の欠片と崩れて落ちる。
隙を逃さずリオンが、無月が、一真が、Гарсияが本体に攻撃を加え、もう一度……と武器を構えた所に、崩れたはずの鎧武者が水晶の傍で再生した。鎧武者は巨大な斧を以て無月と桜を薙ぎ払い、キースは復活した敵の姿に通信機を持ち上げる。
「……成程。本体を叩かなければ武者は甦る。皆さん、本体に集中して下さい」
通信機を通じて他の区域にも聞こえるようキースは出来る限りに声を張り、リオンは自分の役割をと水晶へ「フロストウルフ」を放った。ナイフなどの異物を挟めば復活の阻害を出来るかもしれないが……しかし、それを試す暇はないと、Гарсияは敵の足止めを狙い「白冥」で鎧武者の足下を撃つ。弥生は鎧武者に肉薄し、斧の大振りを誘いながら一歩強く踏み込んで躱し、死角から鎧武者に縫止の針を再び見舞う。
「とにかく足止めに徹します! 攻撃しようものなら私が受け止め邪魔させません。絶対に抜かさせやしません!」
弥生の声と共に桜もまた鎧武者にデビルブリンガーの刃を放ち、キースのトリオが鎧武者と水晶全てにひびを入れた。無月はジェミニストライクで己の分身を作りだし、雷切の風切り音を鳴かせながら振りかざす。
「時間との勝負だ。一気にケリをつける!」
『兵は神速を尊ぶ、か』
ジェネッサの声と共に雷切は水晶のひびを深め、一真が生成したサンダーランスを声と共に撃ち放つ。
「粉々になりやがれぇっ九天応元雷声普化天尊 ――急々如律令!」
雷槍が巨大な穴を開け、水晶は一真の言葉通り粉々に弾け飛んだ。リンカー達が無意識に息を吐いた――束の間、出城が、通路が、地面が大きく揺れ動く。
「何かあったのかもしれない。急いで出ましょう」
キースは武器を換装しながら仲間達に声を掛け、リオンはまずは回復をと仲間達にスキルを使った。桜は開いた出口から周囲に視線を走らせた後、城外の援護に向かうべく雪に足を踏み出した。
●監視塔
「敵がいない訳がない……レドズメイだけとは限らんしな」
『……ん、情報は必要』
ユフォアリーヤ(aa0452hero001)の賛同の声を受け、麻生 遊夜(aa0452)は索敵のため、助走を付けて本城と東出城を繋ぐ通路の屋根目掛けて跳んだ。ザイルと吸盤を駆使して屋根の上まで登り切り、まずは周囲の状況を……と紅く光る義眼を向ける。
そこに空を旋回する一匹の竜の姿が映った。幸い遊夜には気付いていないらしく塔の辺りを飛び周るのみ。遊夜は悪戯っぽく笑みを漏らすと20mmガトリング砲「ヘパイストス」を出現させ、6本の砲身全てを竜型従魔へと向ける。
「ここが正念場なんでな」
『……ん、邪魔はさせない、よ?』
餓狼の咆哮のごとき砲音と共に、遊夜は20mmガトリング砲の弾丸を従魔へと撃ち放った。ニウェウス・アーラ(aa1428)は監視塔近辺の射程範囲に辿り着き、戀(aa1428hero002)と共鳴する事で得た桃色の瞳で敵を見上げた。そして敵の回避方向に制限をかけるべく、遊夜と射線を交差させるようにSSVD-13Us「ドラグノフ・アゾフ」を見舞う。
「さて、と……本命が倒れるまでの露払いと行きますか!」
「ん……皆の、邪魔は……させない……」
リア=サイレンス(aa2087hero001)の声と共に古賀 佐助(aa2087)は共鳴し、彼もまた20mmガトリング砲「ヘパイストス」を装備した。ニウェウスからまた少し離れた監視塔寄りの位置を陣取り、成長したリアの姿で八重歯をちらりと覗かせる。
〈さて、麻生さん、アイリスちゃん。戦域と目標が同じな訳だし、連携行動と行きましょうか!〉
射手の矜持で研ぎ澄ました感覚にさらに集中を上乗せし、佐助は敵襲にばたつく従魔にストライクを撃ち上げた。弾幕に巻かれるレドズメイを古賀 菖蒲(旧姓:サキモリ(aa2336hero001)は黙って見つめ、監視塔のすぐ傍まで来た防人 正護(aa2336)が声を掛ける。
「……心配か?」
『ジーチャン……』
「なんてことは無い……お前の好きにしろ。戦いは俺が、作戦はお前が……な」
『……うん。分かった……大丈夫。私にだって、できるもん』
狙撃するのは仲間。自分達は囮役。【鯱】のリーダーとして菖蒲はぐっと決意を固め、正護は回避能力を高める拒絶の風を脚にまとい、従魔の気をこちらに引くべく銀の魔弾を差し向けた。竜が真下の正護に気付きフローズンミサイルを発射するが、正護はそれを横に躱し、同時に放たれた遊夜の砲弾が竜の躰を撃ち砕く。
だが、戦いはそれで終わらなかった。すぐさま監視塔から新たなレドズメイが射出され、ニウェウス、佐助、正護がそれぞれ攻撃を加えるが、従魔が墜ちる事はなく再びその数を増やす。
レドズメイ二体は同時に正護に狙いを定め氷柱のミサイルを発射した。正護は躱すがミサイルは少し腕を掠り、その隙に狙撃手達は従魔に弾丸を差し向けるが、撃破には至らずまた新たなレドズメイが追加される。
計三体のレドズメイが上空に出現し、しかし遊夜は不敵に笑った。この程度の事態は窮地でもなんでもなく、
「動きが早いのであれば、それを潰せばいい」
『……ん、狩りの基本』
クスクスと笑うユフォアリーヤと共に一層笑みを深め、遊夜は竜三体へトリオの狙撃を披露した。ガトリング砲から放たれた目にも留まらぬ乱射攻撃に一体の従魔が雪上に墜ち、ニウェウスは確実なる狙撃をとエクストラバラージを展開する。圧倒的物量で従魔を叩くニウェウスに続き、佐助もガトリング砲弾の雨を従魔に撃ち当てる。
正護が敵の気を引くべく銀の魔弾で狙い撃つと、従魔二体は翼を鳴らし、最も近くに立つ正護に急降下しながら爪を見舞った。
正護は降る鉤爪をミラージュシールドをかざして耐え、同時に従魔を地に縫い留めるべく重圧空間を発動する。圧力に重く潰され、動きが鈍くなった所をニウェウスと佐助の狙撃が砕き、遊夜が別の従魔の足止めと阻害を狙いテレポートショットで目を穿つ。
目を撃たれ、ふらつきながらも従魔は空に舞い上がり、新たなレドズメイが監視塔から発射された。戦いはまだ終わらないとばかりに従魔達が翼を鳴らす。
●兵舎
「虎噛さん、琳君! 今回は一緒にがんばりましょうね!」
「私が一緒だからなー。頼ってくれちゃっていいぜ!」
大宮 朝霞(aa0476)と春日部 伊奈(aa0476hero002)の言葉に呉 琳(aa3404)は表情を明るくした。幾度も行動を共にした【駄菓子】の仲間にギザ歯と素直な笑顔を見せる。
「うん!! 二人とも! 頼りにしてるぜ!!」
『遠距離はお任せください……! 琳、やるぞ……!!』
「おう!!」
濤(aa3404hero001)の声に元気に応え琳は魔銃「フライクーゲル」を両の手に携えた。虎噛 千颯(aa0123)も白虎丸(aa0123hero001)と共に仲間達と己を鼓舞する。
「おっし! 朝霞ちゃん、琳ちゃん頑張ろうな! 駄菓子魂を見せる時だぜ!」
『背中を預けれる友と闘えるのは心強いでござるな』
「がんばろうね、伊奈ちゃん!」
「おうよ! 私が皆吹っ飛ばしてやるぜ!」
「味方は吹っ飛ばしちゃダメだよ?」
朝霞の注意を聞いているのか否なのか伊奈は北西の方を眺め、「なぁ、朝霞。向こうにもなんか建物があるぜ?」と指を差して口を開いた。見れば確かに通路越しに屋根らしきものがうっすら見える。
「後詰の戦力が控えているかもしれませんね」
「敵の陣中ですから不審な場所には警戒を」、その考えから構築の魔女(aa0281hero001)は推測を述べ、朝霞達は監視塔対応組と別れ北西方向へ走り出した。全力で駆けていった先には氷を接いで出来たような兵士達が、手前に七体、奥に七体、こちらに向かって歩いてきている……
「敵……ですね。本城に侵入されないようにしなければなりませんね」
構築の魔女はアサルトユニットを履いたまま、「接触までに少しでも情報を集めましょう」と37mmAGC「メルカバ」にて早撃ちの乱射を披露した。敵の陣形、砲撃への対応、ダメージへの耐性、敵の脅威度、それらの確認のためにもと放たれたトリオは三体の兵士を霧散させる。
合わせて千颯がグングニル――禍い射抜く皎潔の聖槍を投擲して兵士を一体打ち砕き、迫間 央(aa1445)が手前の兵士に割り込んで天叢雲剣で斬り払う。欠片と落ちる氷兵士を背景に、朝霞が妙にキラキラした眼差しで隣に立つ伊奈を見つめる。
「伊奈ちゃん、変身よ!」
「またかよ朝霞。恥ずかしいから、さっさと済ませようぜ」
「変身、ミラクル☆トランスフォーム!」
相棒の了承(一応)を素早く受け取り、朝霞は通常の三割増しで「ビシィ」と華麗なポーズを決めた。『聖霊紫帝闘士ウラワンダー』(自称)に変身した後、さらに今回は特別サービス決めポーズまで披露する。
「ウラワンダー☆ハイパー・アタック(UHA)モード! UHAモード。それは攻撃バリバリ前のめり。相手は死ぬ!」
決めポーズに説明までも上乗せし、朝霞は魔攻ステUP盛盛のレインメイカーを氷兵士に叩き込んだ。ハートマークのエフェクトと共に氷の欠片が弾け飛び、すかさず琳が数を減らすべく魔銃のトリオを敵へと見舞う。
手前の七体、奥の二体が一斉に破壊されたが、残った五体が寄り集まりその姿を巨大にした。また新たに兵舎から九体の氷兵士が出現し、城の入口を目指そうとリンカー達へと歩みを進める。
『主戦場には赴かぬのかね?』
ナラカ(aa0098hero001)からの問い掛けに、リンクコントロールを重ねながら八朔 カゲリ(aa0098)は息を吐いた。女性と見紛う程の容姿で、巨大化した氷兵士を撃つ仲間達の背を見据える。
「解っていて聞くな。優先する事態が出来たからな……俺が行かずとも、他の奴等が如何にかするだろう」
久朗率いる【鴉】、篝と灰堂、それに羽跡久院とルナロザリオ、他にも縁のある仲間達。
共に戦った事があればこそ、信じて託すとも。
ならば自分達は温存も兼ねて裏方として端役を払うのみ。
――総てはこの先の大規模で、邪英化した馬鹿共を殴る為に。
カゲリは様々な感情を得物ごと握り込み、【奈落の焔刃】の黒焔を斬撃として撃ち放った。斬撃は巨大化した兵士の胴に喰らい付き、接敵した央と朝霞の追撃が氷兵士を残骸に変える。
「フラッシュバン!」
琳が閃光を炸裂させ、密かに央と朝霞に接近していた氷人形を足止めた。それでもなお飛び掛かろうとする兵士を、滑り込んだ千颯が飛盾「陰陽玉」で弾き飛ばす。
「俺ちゃんがいる限り仲間に傷一つつけさせないぜ!」
『もうついてでござるよ』
「ものの例えでしょ!!」
千颯と白虎丸の漫才の隙に央が白刀を煌めかせ、カゲリが黒の外套を翻しながらライヴスブローを打ち込んだ。側面に回り込もうとする氷兵士を構築の魔女が討ったと同時に、朝霞は射程内に出来る限りの敵を入れ、
「吹き荒れろ! ウラワンダー☆ストーム」
咲き乱れるライヴスの炎は、四体の氷兵士を取り囲みその一手で蒸発させた。だが兵舎から出現する氷兵士が止む事はなく、さらに十体の氷兵士が補充されて迫ってくる。構築の魔女は敵の増加量に「メルカバ」をパージし奴隷の石を取り外し、フリーガーファウストG3に換装してロケット砲を撃ち放ったが、リンカー達の攻撃以上に氷兵士は数を増やす。数を減らし数を増やし五体集まり合体し、計三体の巨大化した氷兵士がリンカー達の前にそびえ立つ。
●本城
「敵の位置……把握します」
『ぬかるなよ……俺は力を貸すだけだ……』
レーダーユニット「モスケール」を展開する平介にゼム ロバート(aa0342hero002)は声を掛けた。「護るのは平介の役目」と暗に滲ませるゼムの声に、平介はゴーグルに浮かぶ情報に意識を集中させる。
「会うの、初めて……だよね」
改めて倒すべき敵を認め、つくしはわずかに声を震わす。そんなつくしにメグル(aa0657hero001)は低音の、いつもよりさらに落ち着いた口調で以て返す。
『えぇ。でも、大丈夫です。「仲間」が一緒ですから』
「……うん! メグルも、ね!」
メグルの声に、すっかりいつもの元気な調子を取り戻し、つくしは極獄宝典『アルスマギカ・リ・チューン』を開き掲げた。目的は愚神を倒す事。そして【鴉】のみんなと――仲間達と共に帰る事。
愚神と距離を取った樹と再び視線と呼吸を合わせ、つくしはブルームフレアを愚神を中心に炸裂させた。突入直前に秘薬でリンクレートを高めた小鉄が、二重の炎に合わせてヴァヌシュカへと肉薄し、アサシンズハンドで苦無「極」を握り締め疾風怒濤を叩き込む。
《敵・戦力値上昇。行動パターン補正》
「流石に今回は本気ですか。しかし、我々も同様です」
ストレイドの音声に焦一郎が抑揚に乏しい、しかし確かな声で返し、命中性を高めたLSR-M110で狙い撃った。合わせて篝、ゼノビア、蕾菜も遠距離から攻撃を加え、弾幕に巻かれるヴァヌシュカの姿にクレアがぽつりと声を落とす。
「結局は私もハイランダーの子孫というわけだ。ついぞ、ヴァヌシュカを忘れられなんだ」
『たとえ闘争心に従っても、誓約は崩れないわ。貴女の道には必ず、未来へ続く命があるもの』
リリアン・レッドフォード(aa1631hero001)にクレアは頷き、再び「カラミティエンド」を愚神の体躯に一閃させた。亮と久朗が少々赴きを異にするフラメアを同時に横から突き入れ、米衛門が意識を逸らすべく電光石火の素早さでホイールアックスを振り下ろす。
『セリカ。どうやら今回ばかりは、真面目にやらねば命を落としかねんぞ』
「ふふっ……そのようですわね♪ 真面目に……楽しむと致しましょう」
リゼア(aa1081hero001)の忠告にセリカ・ルナロザリオ(aa1081)は楽し気な色を崩さなかった。その横で羽跡久院 小恋路(aa4907)もまたゆったりとした笑みを漏らす。
「ふふっ、どんな相手だろうと関係ないわぁ。私はセリカちゃんを守るだけ……♪」
『お好きになさってください。……お好きにお使いくださいませ……』
白兎子爵(aa4907hero001)の声と共に小恋路は「あなたの美しさは変わらない」――透明な棺状の盾を展開し女王ドレスの前へと置いた。この棺越しに戦場を把握し情報を仲間に伝えながら、愚神の攻撃と寒波からセリカを守るのが自分の役目。
「ココロ、守りはお任せ致しますわね」
『……この状況、早く打開する必要がある。お前の役目に集中しろ』
リゼアの言葉にセリカは視線を小恋路から戦場に移しながら、「愚か者」の名を冠する二挺拳銃を握り込んだ。少しでも影響を減らすべく、そして攻撃から身を守るべく、小恋路を風よけ兼盾にするのは
(心苦しくはありますが……全面的に信頼を置いているココロに受けていただきますの。私はその分、しっかりと自身の行動につとめますわ)
自分の役目は鎖を破壊し、愚神の攻撃方法の制限に力を尽くす事。感覚を研ぎ澄まし、鎖が仲間の攻撃に舞ったと同時に鋭い一射を撃ち放つ。
セリカのストライクが鎖全体に振動を与え、じんと痺れる感覚にヴァヌシュカはわずかに目を細めた。さすがにこれだけの数の行動を把握するのは難しい。
まずは目に入るものをと愚神は米衛門に狙いを定め、しかし振るわれた鎖は久朗の盾に止められた。リフレックスの呪いでダメージを返しながら久朗は愚神へ語り掛ける。
「俺はお前を倒す事はできないが、お前も俺を倒す事はできない。なら、立ち塞がるまでだ」
「貴様の顔は、流石に見飽きた」
ヴァヌシュカが腕を引いたと同時に、樹が魔銃「らぶらぶ・ズッキュン」に持ち替え愚神を狙って弾を放った。ドロップゾーン内のため、魅了を付与出来たとしてもすぐに回復されるだろう。例えその程度だとしても、それを想定した上で、他の面子が火力を押し通す隙を作るための攻撃。自分の恋心はすでに命の一端と共に人にくれてやっている。
樹の援護に合わせ小鉄が再び毒針仕込みの疾風怒涛を叩き込み、隙間ない遠距離攻撃に続き米衛門が斧で、亮が槍で愚神の身を叩き打った。乱戦の様を呈し始めた戦場を見据え、蕾菜が錫杖を前にかざす。
前回の戦いと違うのは自身の能力以上に仲間の数。
最悪効かなくても敵の注意を一瞬自身に向けられればいい。
注意を向けるという一瞬でも十分な隙となりえるはず。
「この幻影で、惑わせましょう」
強い意志と覚悟を乗せ、蕾菜は幻影蝶の舞いで愚神の周囲を取り囲んだ。愚神の意識が一瞬逸れた所にセリカが二挺拳銃で鎖を叩き、杏奈が再び攻撃を誘導するべくヴァヌシュカの前へ躍り出る。
「いくら攻撃が高くても私に効くものか!!」
挑発と守るべき誓いのライヴス、二つに誘われヴァヌシュカは鎖を杏奈へ振り落とした。リフレックスでダメージを返し、同時に賢者の欠片で自身の傷を回復する。
クレアのケアレイを受けながら久朗がフラメアで愚神に斬り込み、米衛門と亮もまた己が得物を一閃させた。銃弾が、魔法が、愚神を打つ雨と注ぎ、ヴァヌシュカの瞳が険呑に光る。
「あまり……調子に乗るな!」
広範囲に振るわれる鎖の乱舞、予兆を察した小鉄は瞬時に愚神との距離を詰めると、その方向を変えるべくストレートブロウを炸裂させた。ぶれた切っ先が小鉄に伸びるがすんでの所でそれを回避し、リンカー達の攻撃が絶え間なくヴァヌシュカ一体に降り注ぐ。
と、急に寒波が勢いを増し、床の雪を巻き込んで猛吹雪へと発展した。愚神は吹雪に身を潜め、目に映った赤い髪の女……クレアに鉤爪を振り上げる――
「久朗さん、そこです!」
モスケールで敵の位置を把握していた平介の指示に、久朗がクレアの前に滑り込み代わりに鉤爪の攻撃を受けた。ライオットシールドに防がれたそれに愚神が眦を鋭くし、再びリンカー達の猛攻が放たれる。
鎖だけを狙うセリカの弾が継ぎ目の一端に命中し、ついに鎖の一部が砕け雪の上へと破片を落とした。しかしすぐさま長さを戻し始める異界の武器に亮が推測と息を洩らす。
「新しく得物を揃えたと思ったら再生か」
ヴァヌシュカは短くなった鎖を見つめ、クッと笑った。ままならぬ事への苛立ち、同時に戦いに躍れる愉しさ、その両方を滲ませながら愚神は低い声を張る。
「いいだろう。根競べと行こうじゃないか」
殺気が、寒波より激しくリンカー達の心臓を打ち、久朗は、亮は、杏奈は一歩先へと走り出した。この攻撃を通してはならないという予感か、それとも殺気に釣られたかは分からない。しかしヴァヌシュカの鎖はその判断を「正しい」とでも言うかのように、渾身の力で三人の身を打ち据える。
そして再度敵を嬲ろうと愚神が腕を掲げた――その時、突如として吹き荒れる寒波の勢いが弱まった。愚神が顔を上げたと同時にクレアがすかさず距離を詰め「カラミティエンド」で薙ぎ払い、叩きつけられた斬撃に愚神の身体が大きく揺らぐ。
「ぐっ……」
「手応えあり……ゾーンルーラーが撃破されたか?」
問い掛けたと同時に仲間にこの事を伝えようとクレアは床を蹴りかけた。しかし、その時城が大きく揺れ、同時にクレアに鎖が伸びる。
「構わん……どうあろうと、貴様らをここで討ち果たすのみ!」
ヴァヌシュカの鉤爪がクレアの腹に叩き落とされ、踏み荒らされた雪の上に夥しい赤が散った。城が大きく振動し、崩れゆく音が木霊する。
●監視塔
レドズメイの一体は翼をバサリと打ち鳴らすと、鉤爪を佐助へ煌めかせそのまま地上へ突撃した。迫りくる従魔の攻撃を、黒と赤のオッドアイで退く事なくしかと見据える。
〈制空権の有利なんて、利用される前に堕とせばいいだけだよ!〉
佐助はヘパイストスの装甲を以て竜の鉤爪をいなした後、すぐさま砲身を回転させて圧巻の火力を炸裂させた。弾雨に巻かれるレドズメイへ遊夜もまた砲弾を撃ち、従魔は虚空の塵と消える。もう一体の急降下爪撃を受けたニウェウスは姿勢を低め竜の腹に潜り込み、ロストモーメントを発動させて敵の腹を穿ち抜く。
と、地面が大きく揺れ、リンカー達が顔を上げたと同時に従魔は空へ飛び立った。そして新たな竜が出現したのと合わせるように、再び鉤爪を閃かせリンカー達に襲い掛かる――
その時、二人の騎士が同時に飛び出し、シャムシール「バドル」とベグラーベンハルバードの双撃で竜を叩き落とした。アックスチャージャーに威力を増した斧を軽く振るいながら、ベネトナシュが口を開く。
「敵対する者が一切身動ぎしなくなるまで叩き伏せればいい、単純な事だ。……彼の戦からそう学んだ事を思い出すな」
『……あいつ、お前の兄貴よかゴリラなんじゃねぇか?』
「……否定は、できない」
「気を抜くな、まだ敵はいるぞ!」
ベドウィルの声にベネトナシュは秦乎との会話から顔を上げ、遊夜達も改めて空を舞う竜に視線を向けた。リンカーが増えた事に警戒でもしているのか、レドズメイは対空し翼を動かすに留めている。とにかく狙撃をと得物を向けるが、時折来る振動に邪魔されほとんどの攻撃が躱された。そして数を三体まで増やしたレドズメイがフローズンミサイルをリンカーに向ける――
瞬前、冷気で出来た狼が従魔一体に牙を剥き、レドズメイはそれを素早く躱した。攻撃を回避されたリオンは、しかし高らかに声を張る。
『俺の攻撃は当たらなくてもいいんだよ! もっと強力なのが当たればね!』
リオンの声と共に一真の放ったブルームフレアが花と咲き、リオンの攻撃を避けたはずのレズドメイをも飲み込んだ。藤岡桜も仲間にケアレイを放った後得物を月弓「アルテミス」に換装、銀の矢の一射にて空の従魔を射ち落とす。
『危ないこと考えているでしょ?』
匂坂 紙姫(aa3593hero001)の問い掛けにキースは「ええ」と声を返した。『死んじゃダメだよ?』、その言葉に、キースは簡潔に返事を述べる。
「勿論」
きっとこのやり取りを、紙姫は覚えていないだろうが。いずれにしろ今は任務と、キースはレドズメイへ威嚇射撃を行った。発砲音に従魔二体が首を向け、キースへ鉤爪を向け特攻する。
キースは逃げるそぶりを見せなかった。弓を構えた状態でただその場に立ち尽くし、鉤爪がキースの腕を抉った……瞬間、強烈な閃光が爆裂し従魔の目を眩ませる。
「天高くに居る者はいずれ地に墜ちるもの。空に居るのであれば叩き落すまで」
翼をばたつかせる二体の従魔を、リンカー達は一斉攻撃で貫き、切り裂き、塵へと変えた。ニウェウスは頃合いを計って一人離脱し、徐々に姿を崩していく城の入口に辿り着く。
遠目にヴァヌシュカと戦う仲間達の姿が見える。しかしニウェウスの目的は彼らを援護するよりも、まずは城の状況を確認する事にあった。
ドロップゾーンの建物故、現実世界と同じような法則を取るとは限らない。それでも大体の目安ぐらいは得られるはずだ。
白に焼かれた瞳を細めニウェウスは必死に暗がりを見た。ニウェウスの心を更に切迫するように、瓦礫がまた落ちる。落ちる。
ベドウィルは宙を駆る従魔に鋭い視線を差し向けた。我が仲間、騎士達。その全員が無事に帰れたならば勝利を共に喜ぼう。そうでなければ。私の敵が一人増えるだけの事。
苛烈なまでの騎士の矜持で己が身の内を滾らせて、竜共の翼を穿つべくストームエッジを巻き起こした。攻撃直前の、躱し辛いタイミングを狙って放たれた刃の嵐は思惑通りに従魔を裂き、ベネトナシュがアンチマテリアルライフルで更なる攻撃を翼に加える。
正護は一人監視塔を登っていた。目的は従魔の出現地点そのものを抑える事。幸い仲間達の奮戦の甲斐あり気付かれる事はなく、辿り着いた正護に菖蒲が悪戯っぽく案を出す。
『久しぶりに……あれ、行ってみる?』
「全く……ふざけてる場合じゃないってのに……まぁいい、久々だからな。行くぞ」
正護は脚に手持ちの盾を装着すると、気を整えるべく息を吐いた。床を蹴って跳躍し、最高点に達した所で闘気の全てを脚に込める。
「防人流……雷堕脚!!」
「とりあえず、こっちは大丈夫そうかな」
監視塔の頂点を見上げ遊夜はふっと息を吐いた。蹴撃に歪んだ監視塔の上では正護がソニッククラッカーで衝撃波を従魔へ走らせ、地上ではベドウィルがウェポンズレインを注ぎ降らせる。桜は仲間を回復させつつ自分にもリジェネーションを掛け、地上に留まるレドズメイをデビルブリンガーの刃で裂く。
本城と東出城を繋ぐ通路の上に立ち、遊夜は兵舎へ視線を向けた。現在地からでも辛うじて兵舎を見る事は可能だが、本城に邪魔されて完全な援護は難しそうだ。
ならば、と遊夜は一度降り、佐助達を伴って北出城方面へと走る。
●兵舎
巨大化した氷兵士が剣を地上に叩き下ろす――瞬前、真祐はホイール・オブ・ブレードをふかし敵の前へと回り込んだ。無茶してるやつは率先して助けに行く……願いと覚悟を以て、ハイカバーリングを駆使して攻撃を受け止める。
「もうこれ以上誰も失わせねぇために!!」
同じく西出城から駆け付けた明斗が敵の集中している箇所へアーバレスト「ハストゥル」を、 クーがリフレクトミラーで範囲を広げた極獄宝典『アルスマギカ・リ・チューン』を叩き込み、グワルウェンが屠剣「神斬」の斬撃を飛ばし追い撃った。援軍を得た事に央も気合を入れ直し、ジェミニストライクで姿を増やし氷兵士へ飛び掛かる。
「今宵の龍剣は……よく斬れる……ってな」
分身で敵を攪乱しながら龍紋を浮かばせる忍刀「無」で切り返し、央はマイヤ サーア(aa1445hero001)と共鳴する事によって高まる攻撃性で少し笑んだ。琳達もそれぞれに己が得物で叩き撃ち、千颯の「イフリート」が、朝霞の銀の魔弾が直撃と同時に氷兵士二体が崩れ、直後リンカー達の足下が振動音と共に揺れた。
明らかな異変に構築の魔女は、本城と西出城を繋ぐ通路へ移動を開始した。建物全体から何か重い物が崩れ注ぐ音がする。城内で戦っている仲間達が撤退出来そうな部分の選定、内部からの脱出者が足止めされないように経路の確保、戦況把握、敵への攻撃、それらを満たすためには高所に上がる事が望ましい。
「敵に救援が来る可能性も少しは警戒しておきましょう」
朝霞の放ったゴーストウィンドが氷兵士を巻いたと同時に、琳が息を合わせて魔銃「フライクーゲル」の弾丸で敵を撃ち砕き、二人に向かおうとする氷兵士を千颯の豪炎槍が一薙ぎで掻き消す。央は大きく螺旋を描くように敵の只中に飛び込むと、敵に包囲されぬよう体を捻って攻撃を捌きながら誘い込み、十分引き付けたタイミングで影で模った薔薇の花弁……「繚乱」で打ち惑わせる。
さらに続けて潜伏を使い、敵が青い花弁に惑う隙に流れる様に襲撃する。他のリンカー達も手を休めず氷兵士を撃破するが、兵舎からはとめどなく敵が現れ合体し、決してその数を減らす事なくリンカー達に迫ってくる。
氷兵士が剣をかざしてリンカー達に斬り掛かる……その背後に、北出城から駆け付けたГарсияのウェポンズレインが降り注ぎ、合わせて弥生が守護刀「小烏丸」で縦に刀傷を走らせた。本城と北出城を繋ぐ通路に陣を張った遊夜が、ヘパイストスの砲身を定めながらにやりと笑う。
「俺達の目から逃れられると思うなよー?」
『……ん、どこにいても、当ててあげる』
ユフォアリーヤのクスクスという笑みと共に餓狼のごとき咆哮が氷人形の身を喰い破り、遊夜に引き上げてもらった佐助もまた、通路上からロングショットで敵の身体を貫き砕く。
〈悪いけど、そこは既に射程圏内だよ。易々と行かせるわけにはいかないね!〉
「急々如律令!」
放たれたブルームフレアと聞き違える事のない声に、弥生ははっと顔を上げた。視線の先には白い狩衣をはためかせ、炎を舞わせる一真の姿。
もし御屋形様が……「無茶」し過ぎたら、私は全力で助けに行きます……たとえこの身がどうなろうと……
その決意と覚悟を胸に抱き、弥生は強く刀を握った。身に纏った骸骨鎧をガシャリと鳴らし、再び敵へと斬り掛かる。
グワルウェンは氷兵士の群れに飛び込み「神斬」を構え、合体を阻害するべく怒涛乱舞で斬り砕いた。真祐はホイール・オブ・ブレードにライヴスを纏わせ蹴撃を兵士に叩き込む。
砕いても砕いても兵士が途切れる事はないが、リンカー達の攻撃が途切れる事もまたあり得ず。Гарсияがウェポンディプロイで複製したデスソニックを投擲すれば、音の手榴弾の攻撃に合わせ狙撃手達が一斉に己の得物を叩き撃つ。崩落音に合わせ遊夜が通路から降り少し距離を取りながら、油断なく周囲を索敵し近い敵から狙撃する。
「ふむ、あと少し……かね?」
『……ん、最期まで全力』
ユフォアリーヤの声と共に狼の尾がふらりと揺れ、遊夜は少し笑った後油断なく敵の姿を見据える。佐助もロングショットで敵を砕き、鼓舞の声を仲間と自身に張り上げる。
〈もう一息って所かな……? さぁ、もうひと踏ん張り頑張ろうか!〉
午前九時は東出城から西出城寄りの道を辿り、射程ギリギリの物陰からこっそり「8月31日」 を放っていた。敵に狙われたら即退避し、退避した先からまた敵を攻撃するつもりでいる。
幸い午前九時の姿は敵に見つかっていないようだ。常に敵に見つからないよう、万一挟まれないような位置取りを心掛けながら、午前九時は「8月31日」を氷兵士へ飛ばす。飛ばす。
仲間達の様子に千颯は金の瞳を向けた。リンカー達は完全に氷兵士を圧倒している。レドズメイの方も手が足りているようだ。本城を気にしている風の琳に千颯は方針を決定した。
「そっちは任せてもいいかな? 俺ちゃん達はあっちの応援に向かうぜ!」
本城を指す千颯の声にカゲリは真紅の瞳を向けた。兵舎、監視塔共に征圧の手は足りている。本城の守りを任せられるようであれば否を唱える理由はない。
カゲリは静かに頷いて答え、自身は兵士の征圧のため、そして仲間の消耗を少しでも減らすため、黒焔の斬撃を眼前の敵へと走らせる。
『大宮殿、呉殿、遊撃に向かうでござる』
白虎丸の声に朝霞と琳――小隊【駄菓子】は本城へ移動を開始した。一方、構築の魔女は本城と西出城を繋ぐ通路に位置し、味方の死角に回り込もうとする敵にロケット砲を差し向けていた。
「乱戦になると周囲への警戒は難しいでしょうから」
『ロロ……』
構築の魔女の呟きに辺是 落児(aa0281)は発言を返し、構築の魔女は改めて戦場へと視線を向けた。もしも敵の処理が間に合わない場合はアハトアハトの使用も考えているが……恐らく必要はないだろう。
リオンはアサルトユニット「ゲシュペンスト」で一人雪上を走っていた。レドズメイの対応は十分に間に合っている。それで後は仲間に任せ、リオンはアサルトユニットを使い本城入口に向かっていた。
『何も、起こらないといいんだけどな……』
●本城
『アナタは』ゾーンルーラーでは無いの……?」
ゾーン崩壊の一端を認め、樹とシルミルテ(aa0340hero001)は呟いた。愚神は答えを返さないが、崩れる城、弱まる寒波、それで証明は十分だろう。
久朗は思考を巡らせた。ゾーンルーラー撃破後は明らかに此方が……リンカー側が優勢の状況になる。これまで戦ってきた愚神が引き時を見誤る事は無かった。
それでも、ヴァヌシュカが倒壊する城に留まり続け、今尚リンカー達に殺気を放ち続ける理由。言葉通り「討ち果たす」。自分の身も省みずに。
捨て身の攻撃や愚神自ら城を破壊する可能性を危惧し、久朗は改めて緊張の糸を強く張った。ここにいる者は他人を優先する奴らばかりだ。ならば退避は任せよう。自分は愚神の目の前に立ち塞がり、身を呈してでも愚神を止める事に注力する。
愚神が塵となって消え失せるのを見届けるまでは、離脱しない。
絶対に。
まずはクレアの回復をと久朗はエマージェンシーケアを飛ばし、樹は拒絶の風を再度自身に纏わせた後、つくしや蕾菜と息を合わせて魔法攻撃を撃ち放った。焦一郎がLSR-M110で愚神の身を叩いたに続き、篝が、平介が、ゼノビアが、それぞれの位置から隙間を埋めるように弾幕を展開し、さらに通路からも弾丸が……否、火焔の弾が複数宙を焦がして飛来する。
『罪には罰を、正義の斬首を』
「早く、早く、春より早く。全てが凍ってしまわぬように!」
凛道とリュカがレプリケイショットで複製した「オヴィンニク」の熱で愚神の脚を炙り止め、同時にそれぞれの通路を抜けたリンカー達が斬り込んできた。ヘンリーが魔導銃の狙撃を喰らわせ、リィェンが雪を割きながら【極】の斬撃を愚神へ飛ばし、杏樹が薙刀「冬姫」を横に一閃させたと同時に龍哉が逆方向からハングドマンの鋼線を放ち、葉月桜は雪を蹴ってドラゴンスレイヤーを振り上げる。
「絶対に倒してみせるよ! たとえ死んででもやっつけてやる!」
『ああ、私も本気を出す時が来たようだな』
伊集院 翼(aa3674hero001)の言に好戦的な笑みを浮かべ、桜は電光石火を目の前の愚神へ叩き落とした。その間に駆け付けた望月とJenniferがリジェネーションを負傷者に放ち、征四郎がまずは前衛の援護をとフットガードを展開した。本当は全員に使用したい所だが、ここまで広範囲に散らばっていては全員一斉には難しい。
新たな乱入者と飛ばされる回復の光に愚神が赤い瞳を向けた――瞬間、小鉄の苦無がヴァヌシュカの視界を遮るように投擲され、愚神が一歩退いたと同時にセリカのPride of foolsが愚神の鎖を高く鳴らした。合わせて潜伏のライヴスで自身を覆い隠した木天蓼が、死角から風魔の小太刀で愚神の背後に斬り掛かる。
「オレ、この戦いが終わったら結婚するんだ」
『私もカッコいい所をみせたいものですね』
稲荷の言葉と共に愚神の背中に一太刀走らせ、木天蓼は一歩距離を取った。普段は女の子に目がない瞳を今は闘志に滾らせる。諦めずに目の前の敵を仲間と共にぶち倒す!
「久朗!」
米衛門はガントレットに換装した後、水ヨーヨーを取り出しヴァヌシュカの顔面へぶち当てた。米衛門の合図と共に接敵した久朗はフラメアで愚神の腕を羽交い締め、米衛門も愚神を取り押さえ大きな声で仲間の名を呼ぶ。
「クレアさん!」
霜が、氷が、米衛門と久朗の腕を体を這い上がった。数瞬、数瞬だけでいい。数瞬でも動きを止められれば。
クレアはふらつきながらも起き上がり、ライヴスソウルを腕に掲げた。宝石が砕けたと同時に傷が癒え、リンクバーストと共にクレアは剣を強く振る。
「あの時も言ったはずだ、消えてもらう、とな!!!」
宣告と共に放たれた渾身の一撃が、がら空きになったヴァヌシュカの胴を斜め上へと斬り払った。愚神は呻きを漏らしながら、自身を捕らえるリンカー達を腕を払って振り落とす。
「それは……こちらの台詞だ!」
ヴァヌシュカがクレアに向かい鎖を振るった――その瞬間に龍哉が駆け出し、攻撃を遮るべくブレイブザンバーを叩き落とした。鎖の先端を地に落とそうと試みたが、それは叶わず、一部を喰らい龍哉の身体は後方へと吹き飛ばされる。
「何つう馬鹿力だ。真壁さんが押される訳だぜ。つか、寒っ!」
『これほど、有利な状況を作るのがうまい敵は珍しいのじゃ』
「まったくだ……とはいえこれだけの奴を相手にすると考えると……楽しくてしょうがないな」
インの言葉にリィェンは楽しそうに口元を上げ、狙いをしかと定めるべく【極】の切っ先を愚神へ向けた。龍哉とは様々な戦いを共にした間柄でもある。互いの呼吸や思考を読んでの連携など容易いものだ。
鎖を落とされた事によって愚神に隙が生じたと同時に、リィェンは斬撃をヴァヌシュカへと撃ち飛ばした。同時にバトルメディック達が負傷者へ回復スキルを飛ばし、愚神の近くから、遠くから、隙間なく絶え間なく攻撃が雨と注がれる。
蕾菜は錫杖を高く掲げた。ヴァヌシュカが弱まっている今なら。仲間の力を得られる今なら。一瞬の隙を。共に帰るための道を。届けと願いながら、蕾菜は高く声を張る。
「【武器を放棄せよ!】」
愚神の瞳の赤が揺らぎ、鎖がヴァヌシュカの手を離れ雪の上へと滑り落ちた。この機を逃す理由はなく、リンカー達は更なる猛攻を愚神の身に注ぎ打つ。
『ゼストスオーブよ、狂える吹雪から私達を守れ!』
リーヴスラシルの声と共に、オーブの影響を受け幻想蝶が琥珀色に輝いた。オーブで寒さを和らげ、同時に武器の能力も上げながら、由利菜は盾からザミェルザーチダガーに装備を換えコンビネーションを発動させ、打つ。
「あなたにとってこの戦いは命を賭ける場所。ですが……」
『私達にとっては通過点でしかない! 消えよ!』
「……通過点か……言ってくれるわ小娘が!」
由利菜とリーヴスラシルの言と攻撃にヴァヌシュカは洗脳から目を覚まし、怒りを露わにしながら鎖を引き上げようとした。直前、潜伏で気配を隠していた無月が、体勢を屈めた敵の死角からジェミニストライクで強襲をかける。
「誰も死なせはしない……! そして、私も生き残る、必ず……!」
『最後まで諦めない。ボク達は諦める訳にはいかないんだ……!』
ジェネッサの声と共に雷切の一撃を愚神に浴びせ、同時に愚神の足下に滑り込んだヘンリーがストームエッジを解き放った。多少の傷も省みないと言わんばかりの刃の嵐に愚神もさすがにたたらを踏み、樹が接敵しながらシルミルテと共に声を上げる。
『遊んデクレる』んじゃあなかったの?」
「君の欲求は『マだまダアるでしょウ?!』
「その被り物『外しテミせてヨ!』
そしてそのまま樹は雷槍を生成し、愚神の身を貫いた。挑発し、煽り、攻撃性を高めさせ隙を生ませる。その考えからシルミルテは再度愚神に語り掛ける。
『ドう? シビれタ?』
「……クッ」
愚神は、笑った。まるで楽しくて仕方ないとでも言うように。リンカー達の猛攻に、いつの間にか裂け目が出来た被り物の下で歯を剥き出し、赤い瞳でリンカーを見据え、愚かなる神が嗤う。
「ああ、なかなか、目が覚めた」
衝撃が、一斉にリンカー達の身を打ち据えた。内臓を打つ冷たさと痛みに顔を上げると、ヴァヌシュカを囲んでいた仲間達がめいめいの方角へ吹き飛んでいる。多くを打ち据えるために放たれた、素早さと距離重視の超広範囲の鎖の乱舞。雪に膝をつくリンカー達を見降ろしながら不服そうに愚神が呟く。
「威力が足りん……一撃で仕留めるにはいかなかったか。だが、次は逃さんぞ」
そして再び鎖を振り上げようとした……その時、ヘンリーのロストモーメントが発動し多数の武装が愚神を襲った。その隙に焦一郎が愚神へ威嚇射撃を放ち、篝が距離を詰めつつカオティックソウルとエクストラバラージを重ね掛け銃弾の雨を愚神へ注ぐ。平介がロケットアンカー砲を放つがしかし愚神はこれを回避し、つくしは「ゼノビア!」と仲間の名を呼び『アルスマギカ・リ・チューン』をかざす。
ゼノビアはつくしの合図にPride of foolsを鳴らし、ヴァヌシュカの退路を塞ぐべく妨害射撃を愚神へ放った。即座につくしが呪力を込めたライヴスの闇――リーサルダークで愚神を囲む。
「ちょっとだけ時間稼ぐから!」
つくしの声が届いたと同時にバトルメディック達は一斉にケアレインの光を降り注がせた。征四郎と視界を共有しながらガルー・A・A(aa0076hero001)が声を上げる。
『まだ死ぬなよ。死ぬなら全て終わってからにしろ』
リンカー達の傷が瞬く間に癒える光景に、愚神が赤い瞳を細めた。と、通信機から音が入り、密かに城内を探っていたニウェウスが倒壊予測を伝えてくる。
「大まかな予測だけれど、あと一分も持ちそうにないわ。外のメンバーにも頼むから、そちらの方でも脱出を……」
「逃すとでも、思っているのか」
範囲の狭い、しかし威力と速さをさらに増した攻撃が、雪上を這う声と共にリンカー達に襲い掛かった。久朗が、亮が、杏奈が、杏樹が、それぞれの武器を構えて愚神の鎖を押し留め、ゼノビアがテレポートショットで愚神の足を縫い留める。その間に出入り口を広げるべく、小鉄がストレートブロウを城の壁へと叩き込み、米衛門はガントレット「クラスヌィ・ブーリャ」にライヴスを集め、亀裂が入った部分へとオーガドライブで殴り抜く。
凛道が注ぐ破片を黒猫「オヴィンニク」の火焔で退け、征四郎も「カラミティエンド」で瓦礫を叩き斬って回った。入り口の壁を壊して広げ、降ってくる瓦礫を潰して払い。
征四郎は、HOPEのエージェントを、仲間達を信じている。
「だから私は、皆で帰る未来を切り拓くだけ!」
「このレベルの敵相手に逃げ損ねた時のリスクは大きすぎます。いざという時のために、ちゃんと全員で退散できるだけの道を確保しましょう」
望月もまた撤退支援を行いながら仲間達に視線を向けた。ヴァヌシュカ本体から離れていてさえ、未だ止まぬ寒波は体の自由を奪っていく。
それでも、共に戦うよりも、傷を癒し、共に帰るための道の確保を。幸い入口から他の敵の影は見えず。代わりに望月は蒼炎槍を落ちる瓦礫へと振り上げた。ゼノビアもまた出口付近に移動し愚神の動向を探りながらも、仲間に降る瓦礫を撃ち抜き細かい破片に変えていく。
●崩れゆく城
前衛の受ける脅威を少しでも軽減するべく、焦一郎は再び威嚇射撃を愚神へ放った。篝も焦一郎と射線をずらして、他の遠距離勢と共に弾幕を展開し、小恋路は透明な棺を構えながら降る瓦礫とセリカを見る。
(「とにかく私が折れないようにしなくちゃ……セリカを守るのは私の仕事……たとえ限界が来ようと……セリカとは離れないわ。この身朽ちるまで……」)
小恋路は守るべきセリカを見つめ、セリカは討つべき敵を見据える。放たれた弾丸が、また愚神の鎖を鳴らす。
「ごめん、メグル……ちょっとだけ、無茶するね……!」
『はい。全力で行きましょう』
つくしはライヴス結晶を使いリンクバーストを発動させると「クレアさん!」と声を上げた。つくしの魔法攻撃と同時にクレアは愚神に肉薄し、視線が自分から逸れた所に「カラミティエンド」を振り上げる。ヴァヌシュカの身に傷が走り、その体勢が揺らいだと同時に、龍哉はチャージラッシュで武器を身構えライヴスを注ぎ込んだ。いずれにせよ短期決戦必至なら打てる手は惜しまずに、勝負所は最大火力で。
「凱謳、カートリッジロード!」
《Yes,master.Force-converter ignition!!》
ブレイブザンバーに搭載された試作型AI【凱謳】の声と共に、刀身が黄金の輝きを帯び、龍哉は一点集中で疾風怒濤を叩き撃った。龍哉の猛攻に合わせリィェンがネビロスの操糸で愚神の身を絡め取り、同時に由利菜は銀色のダガーを構え、ライヴスブローを乗せて愚神の胴へ振り抜いた。ヴァヌシュカの身にまた傷が走ったと同時に桜が頭上から、ヘンリーが足下からそれぞれの剣で攻撃を見舞い、無月と木天蓼が死角から雷切と風魔の小太刀を落とす。
「調子に乗るなと……言ったはずだ!」
愚神はギッと顔を上げ、事もあろうに己の肉を裂きながら操糸の戒めを振り解いた。同時に鎖が振り上げられ、避ける間もなく広範囲のチェーンジルバがリンカー達の身を叩く。ヘンリーのインタラプトシールドが衝撃を軽減し、すぐさまケアレインの光が傷を癒すべく注がれたが、バトルメディックの回復スキルはここで底を尽いてしまった。避けようにも、受け流そうにも、ヴァヌシュカの攻撃の精度は高く避ける隙を許しはしない。
ならば更なる一手をと龍哉はライヴス結晶を使い、結晶の消滅と共にリンクバーストを発動させる。
「やるぞ、ヴァル!」
『全身全霊を賭けた戦い、見届けますわ!』
ヴァルトラウテ(aa0090hero001)の声と共に、龍哉はブレイブザンバーを愚神の頭上へ叩き落とした。続けて桜が一気呵成を足下へ仕掛け、転倒させるには至らずとも愚神の体勢をわずかに崩す。ハイランダーズの衣装と真っ赤な長髪ごと瓦礫の影に潜んだクレアは、ヴァヌシュカが体勢を崩したと同時に瓦礫ごと剣を突き入れる。
「ぐっ!」
クレアの放った「カラミティエンド」は、愚神の背から垂直にヴァヌシュカの身に突き刺さった。大剣はちょっとやそっとでは抜けぬ楔となってヴァヌシュカの身から刃を覗かせ、これには頑丈を誇る愚神もたまらず床に膝をつく。そこに剣が、銃が、槍が、魔法攻撃が、隙間なく絶え間なく容赦なく降り注がれた。久朗と亮のフラメアに合わせ杏樹が薙刀「冬姫」を振るい、リィェンの斬撃に続けて由利菜と無月が攻撃を加える。木天蓼がジェミニストライクで数を増やして小太刀で愚神に斬り掛かり、合わせてヘンリーがリョートブレードでヴァヌシュカの身を斬り付ける。
己の身を投げ出す程の決死の攻撃。しかし、それを行うのは決してリンカーのみではなかった。手負いの獣は剣の楔に喘ぎながら、それでも高く咆哮する。
「逃さん……逃すか、例え俺が死んでもだ!」
今度のチェーンジルバの範囲は少し狭く、しかしそれ故に十分な威力を持っていた。発動したインタラプトシールドさえ打ち砕いて周囲のリンカーを激しく打ち据え、ヘンリーと木天蓼が力尽きて雪に倒れた。無月も戦闘不能寸前と言っていい程のダメージを負い、他のリンカーも三人には至らずともそれなりの傷を負っていた。弱体化したとは言っても、その攻撃力は未だ健在。むしろ後がない事により、精神的な獰猛さが弱った体を支えていた。
しかし、それでも、確実に弱まっている。何よりの証拠が体に刺さったままの剣。狙撃手達は仲間を援護するべく弾丸を撃ち放ち、出来た隙に久朗と杏奈が重体者を回収する。
「平介!」
仲間の名を呼び、久朗は杏奈と協力して重体者二人を後ろへ放った。ヘンリーと木天蓼を受け取った平介はJenniferと共に二人を入口付近へ避難させる。
そこで、敵の死角から援護射撃を行いながらニウェウスはある事に気が付いた。ヴァヌシュカが少しずつだが、確実に後退しているような気がする。まだ戦える人員は十分に残っているが、嫌な予感に樹はシルミルテと共に声を張る。
「共倒れしたら『敵ノ思ウ壺!』
だが、撤退を呼び掛ける声は、急に勢いを増した寒波の音に遮られた。寒波は猛吹雪と呼ぶまでには至らずとも、リンカー達の声を、動きを、妨害するには十分だった。
●凍嵐将討伐
ヴァヌシュカは咆哮し、範囲を狭めた、だが威力の高いチェーンジルバをリンカー達へと打ち放った。回復スキルは底を尽いた。アイテムはあるがそれで対応出来るかどうかは分からない。いずれにせよ、これ以上仲間を討たせる訳にはいかないと、久朗が、杏樹が、亮が、杏奈が、自分自身を壁として鎖の乱舞を押し留める。
続け様に近接するリンカー達が己が得物を振るったが、ここでヴァヌシュカは鉤爪を使って下ろされる刃を振り払い、あるいは飛び退いて攻撃を躱し始めた。焦一郎は目を細めた。先日の戦いでは、ヴァヌシュカはほとんど避けるそぶりを見せずに攻撃を受け続けていたはずだ。 だがそれはヴァヌシュカの回避能力が低い訳でも、防御に無頓着な訳でもなかった。『防御力が高すぎるために、攻撃を受けたとしても大したダメージにはならない』、そのために防御の必要性を覚えていないだけだった。
だがその事実は逆に、愚神が攻撃を避けなければいけない程弱っている事を示している。焦一郎はオプティカルサイトを併用して命中力を最大に上げ、シャープポジショニングで愚神の防御姿勢を突き崩した。ぐらついたヴァヌシュカに更なる攻撃が注ぎ込まれ、傷口が裂け目となって愚神の身を苛んでいく。
それでも、愚神の殺気は変わらない。被り物がずるりと脱げ、白い髪の下から赤い瞳が凶暴に輝く。
久朗は一歩を踏み出した。言うまでもなく愚神の前に立ち塞がる盾となるため。その行動に愚神は鎖を振り上げ、しかし広範囲には振るわずに、あくまで立ちはだかろうとする久朗だけを視界に収める。
「俺ではお前を倒せぬと言ったな。ならば全力で試してやろう!」
弱っていたはずの冷気が瞬間的に勢いを増し、久朗を鎖で絡め取ったと同時にヴァヌシュカは鉤爪を叩き込んだ。腹部に刺さった鉤爪は、噴き上がるはずの血さえも内臓ごと凍らせる。温度を奪いながら確実に、内側から久朗を氷の像へと変えていく。
リンカー達の攻撃を受けながらも、ヴァヌシュカは久朗を押さえる手を緩めようとはしなかった。徐々に凍っていく久朗を見据え、愚神は敵を打ち砕くべく再び鉤爪を振り上げる――
――その時、何かが強くヴァヌシュカの気を引き愚神は鎖をそちらへ放った。杏奈の守るべき誓いが愚神の鎖を誘導し、凄まじい衝撃と冷気が杏奈の身一つを襲う。
それでも、杏奈は寒さに青ざめながら立ち続けた。邪英化の危険が十分に迫っている今だからこそ、無理は禁物だと深く心に刻んでいる。
そして必ず帰る。自分を待っている大切な人たちの元へ。その上で、
「もう誰も、失わせない」
焦一郎は先手を取るため、そして牽制のためにファストショットを向け放った。そして絶対の忠誠を誓う篝へと声を上げる。
「篝様、こちらへ……お急ぎ下さい!」
篝はA.R.E.S-SG550を愚神へ向けながら後ろへ下がった。逃げの一手ではあるが、太陽は怯まない。
何れ全ての愚神を潰すと銃弾の予告を添えて、篝は絶え間ない弾幕の置き土産を愚神へ贈る。
樹は走った。本当は久朗が重体になってからと思ったが、城の倒壊が迫っている。猶予はない。何より「仲間を生きて帰らせる」、その目的を叶えるため、樹はライヴスソウルを使ってリンクバーストを発動し、つくしや蕾菜と息を合わせる。
「ブルームフレア!」
「皆で、帰るの!」
つくしの声と共に三重の炎が愚神を巻き、同時に桜はドラゴンスレイヤーを振り上げた。
「これがボクの全力だよ!」
言葉通り、全力のヘヴィアタックを愚神の頭部に叩き込み、その隙に入口から駆けた米衛門が久朗の身を回収した。龍哉のブレイブザンバーが、亮のフラメアが、愚神を挟み込むように左右から同時に放たれたが、ヴァヌシュカは鎖と鉤爪を使いこの攻撃を打ち崩す。
だが、度重なる猛攻に、愚神の武器もまた主同様傷付いていた。米衛門と同じく入口から駆けた小鉄が苦無「極」を振りかぶる。
「年貢の納め時という奴でござる、愚神よ。お主の修羅の道も、ここまででござる」
苦無は鉤爪を狙って落とされ、同時にセリカのストライクが愚神の鎖を撃ち叩き、ヴァヌシュカの鎖と鉤爪はついに粉々に砕け散った。杏樹が薙刀の、由利菜がダガーの一撃を加え、愚神の背後に回ったクレアが、17式20ミリ自動小銃を「カラミティエンド」の柄に撃ち込む。
愛剣はその姿を銃弾に撃たれ変えながら、愚神の身をより深く貫くための杭となった。ヴァヌシュカはがはりと苦痛を吐き、しかし砕けた爪をそれでも振るおうと腕を上げる。そこに無月が最後の女郎蜘蛛で動きを封じ、リィェンがオーガドライブを乗せた「神斬」で、愚かなる神の頭上から
「乾坤一擲……その首、狩らせてもらうぜぇぇぇぇぇ!!」
一閃。傷を負っていたヴァヌシュカの顔に更なる傷が刻み込まれ、愚神の長身が力なく雪の上に膝を折った。ヴァヌシュカは宙を見上げ、そしてふっと口元で笑う。
「忌々しい――」
最後に何と言ったのか、聞き取る事は叶わなかった。倒れ伏したヴァヌシュカの身体に、すぐに瓦礫が降り注いだ。もう一刻の猶予もないとリンカー達が振り向いた所で、そこで初めて気が付いた。出口が遠い。全速力で走ろうにも、アイテムを駆使しようとも、重傷者を抱えて倒壊前に脱出する事は難しい。リンカー達は気が付いた。ヴァヌシュカはリンカー達の猛攻に押されているように演じながら、実はリンカー達を倒壊する城に留めるべくひっそり後退していた事に。
平介は崩落する天井をライヴスキャスターで攻撃した。嵐のような猛攻は直線上を貫いたが、それでも仲間の頭上全ての瓦礫を吹き飛ばす事は叶わない。征四郎も瓦礫を弓で撃ち壊し、退却ルート確保に全力を尽くそうとするが、努力を嘲笑うように降る瓦礫は終わらない。
「私が頑張って、皆が生きて帰れるなら……命に代えても、皆を無事に、帰す!」
『お前が無駄死にしても、邪魔な障害物が増えるだけだろうが!』
「ゼノビアの自己犠牲を阻止したい」と呼び掛けるレティシア ブランシェ(aa0626hero001)に、しかしゼノビアは首を振りながら必死で瓦礫を破壊した。見捨てない。見捨てられない。一緒に帰る。道連れなんて絶対させない。その思いで平介も、征四郎も、ゼノビアも、必死に瓦礫を破壊している。
リュカも凛道も仲間を回収出来ないかと考えたが、入口まで距離がありすぎる。そこにアサルトユニット「ゲシュペンスト」を装備したリオンが飛び込み、全速力で駆けていった。
『踏ん張りどころっていったって死んだらおしまいなんだからね!』
「手荒くなるが、ご容赦願うでござる!」
稲穂(aa0213hero001)の声と共に小鉄は久朗を担ぎ上げたが、逃さんとでも言わんばかりに瓦礫がすぐ傍に落ちてきた。幸い直撃は免れ、少し遠くにいる仲間達が必死の狙撃を行っているが、完全な倒壊まで時間がない事は明らかだった。
米衛門はヴァヌシュカの倒れた位置を警戒しながら素早く思考を巡らせた。ヴァヌシュカが実は生きていて瓦礫の下から自分達に攻撃を……という事態は今の所起こっていないが、それでも今の状況がピンチである事に変わりはない。せめて負傷者だけでも投げる事も考えたが、やはり距離があり過ぎる。
そこに、うさ耳姿の少女が……仁菜と共鳴したリオンがアサルトユニットで駆け込んできた。確か城外で戦っていたはず……という目の仲間達に、リオンは瓦礫から仲間達を守るべくプレッシャーリッジシールドを掲げる。
「今度は絶対、皆で無事に帰る!」
『その為の俺達だ!』
仁菜とリオンの言葉に、リンカー達は行動を開始した。狙撃手達が攻撃を集中させる天井の下に集まり、武器を、あるいは我が身を盾にして仲間を守ろうと試みる。
久朗は賢者の欠片を取り出すと、この中で一番重い傷を負っている無月へ欠片を差し出した。
「念のためだ、使え」
クレアもまた衛生兵として、やはり重い傷を負っている杏奈に欠片を手渡した。米衛門はその姿にほっとしつつも、同じく重い傷を負っている久朗の口に欠片を押し込む。
「危ないから久朗も飲むッスよ!」
リンカー達は互いに互いを庇い合い――そして氷雪の城はリンカー達をその中心に抱きながら、音を立てて崩れ落ちた。
「おい、しっかりしろ!」
揺らす手と降る声に瞼を上げると、千颯が、琳が、朝霞が、構築の魔女が、倒壊に巻き込まれたリンカー達を見下ろしていた。レドズメイや氷兵士を倒し終えた他のリンカー達も、協力して瓦礫を撤去し埋まった仲間を引っ張り出す。
「う……」
無月が呻き声に顔を上げると、目鼻立ちの整った、等身大の糸繰り人形のような青年が無月を守るように被さっていた。咄嗟に意識を表出させ、傷付いた仲間を守ろうと駆け出した雅春は、妙に強張っている顔の筋肉をぎこちなく動かしてみる。
「……少しは役に立てた?」
●春光
「ケガした人は集まってー。これが最後のケアレインだからねー。もうちょっと詰めて詰めて」
千颯は負傷者達を一つ所に集めた後、残っていた回復の雨を範囲一帯に降り注がせた。狙撃手達の奮戦の甲斐もあり、瓦礫のダメージは軽傷程度で済んだようだ。もちろん全てのダメージを癒す事は不可能だが、戦闘や瓦礫で負った軽傷程度は回復した。
「望月さんや泉さん達のスキルを無駄にはできませんから、このヒールリングを持ってきました。役に立って良かったです」
由利菜はヒールリングを掲げながら笑顔を見せた。多少の傷は残っているが、それでも無事であった事をまずはリーヴスラシルと共に喜ぶ。
「ココロ、大丈夫でしたっ?」
「あらあらセリカ……傷は無かったかしらぁ?」
小恋路の体を真っ先に心配し駆け寄ってきたセリカに対し、小恋路は「愛しのペット」の身を周りくまなくチェックした。従順なるペットを可愛がる「ご主人様」に、セリカは愛想よく楽し気な、つかみどころのない笑顔を浮かべる。
「ま、本命落とすためのお膳建て位は出来た、って事でいいよな?」
「……ん、頑張った、と思う……」
会話する佐助とリアの背後からこっそりと忍び寄り、【鯱】のリーダー、兼古賀佐助の「妻」は佐助の背中に飛びついた。正護は佐助に抱き付く菖蒲の姿を眺めながら、遊夜とユフォアリーヤの横で「仕方ない」とばかりに息を吐く。
「御屋形様! 月夜殿!! お怪我は御座いませんでしたでしょうか!!」
共鳴を解いた弥生はぱたぱたと一真と月夜に駆け寄った。そしてそのまま守るべき「御屋形様」の周りをくるくるぐるぐる回って見せる。
その様子に苦笑を浮かべつつ、一真はきちんと答えを返す。
「大丈夫だったよ、弥生」
小鉄は米衛門と共に崩落後の城を警戒していた。城は崩れたとは言えドロップゾーンは継続している。ドロップゾーンはゾーンルーラーを撃破した後、通常数日から一か月程度の時間をかけて消滅する。敵の姿も、寒波も殺気も何もないが、警戒を敷くのは当然である。
と、見慣れた影が、小鉄と米衛門の視界に映った。クレアが、丁度愚神が倒れた辺りを見つめながら佇んでいる。二人が近付くとクレアは【鴉】の仲間に視線を移した。
「カラミティエンドが……埋まってしまってな……」
愚神の身に突き立てた愛剣。回収する暇もなく、ヴァヌシュカと共に瓦礫の下敷きになってしまった。こうして一応探しに来てみたのだが、慣れ親しんだ愛剣の刃も柄も見えなかった。
「私と仲間を守り、身代わりになったのだと、そう思う事にしよう」
感謝と祈りを捧げるように、クレアは静かに瞼を閉じる。
「兵どもが夢の跡、か。ヴァヌシュカさん、貴方はこの世界で何を残したかったのだ……?」
「次は仲間としてこの世界に来て欲しいね」
城の跡を眺め問いを投げる無月の傍で、ジェネッサはそんな言葉を述べた。氷雪の城は何も返さず、崩れ落ちた姿と沈黙だけを二人に届ける。
「痛感したかい? これが世界ってもんだよ?」
「……あぁ、【見たぜ】。……まだまだ俺は、ちっぽけだ!!」
「なんてことは無い……これから君は強くなれる……」
拳を握る真祐の隣でシルクハット伯爵は呟いた。戦いはまだ続く。この北欧にも、世界にも、平和を揺るがす脅威はいくらだって転がっている。
それでもリンカー達は今は互いの、友の、幼馴染の、仲間の、相棒の、大事な者の無事を喜び、そして共に帰るのだ。
「それじゃあ、帰ろうか」
そう言ったのは誰だったか分からない。それでも皆はその言葉に、傷付いた者に手や肩を貸しながら、歩き出す。
みんなで、生きて帰る。