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体験☆ヴェネツィア・カーニバル
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依頼前の挨拶スレッド
最終発言2017/02/27 22:52:18
オープニング
●ヴェネツィア・カーニバル
イタリアのヴェネツィアで年に一度開催される祭典ヴェネツィア・カーニバル。
世界三大カーニバルの一つともいわれ、サン・マルコ広場を中心に美しいヴェネツィアの街並みの中、中世の衣装とミステリアスな仮面を纏った人々が行き交うイタリア絵画の中のような独特な風景を見ることが出来る。
観光客も同様に仮装し自由に楽しむことが出来るのがヴェネツィア・カーニバルの特徴だ。
仮面により素性を隠された人々はより開放的になる。
多くの人がそれを楽しむため、ヴェネツィアに集まってくるのだ。
中心のサン・マルコ広場では大きなオペラ劇場が設置され毎日仮装コンテストやダンスなど様々なイベントが開催される。
また、サン・マルコ広場周辺では顔に直接仮面のような絵を有料で描いてくれるサービスも存在する。
ヴェネツィア・カーニバルは昼間のイメージが強いかもしれないが、夜は更にその幻想的な雰囲気が増していく。
街はライトアップで彩られ、妖しく美しく仮面をした人々を照らし出す。
夜用に衣装を変える者もいるそうだ。
そんな有名なヴェネツィア・カーニバルへ行ってみたいとは思わないだろうか?
●体験☆企画
昨年、十月中頃から起きていたハロウィンやガイ・フォークス・ナイト、と規模の大きい祭りを利用したファニー・ガイ事件。
人が集まるところでの愚神の騒動に先手を打って対応できることはないか、H.O.P.Eは考えていた。
そして、その一つとして世界各国の祭りを事前に体験しておこう、という依頼を息抜き企画部から出すことが決まった。
もし愚神に狙われたとしても地形を知っていたり祭りの流れを知っていればよりスムーズに対応を出来るかもしれない。
また、エージェント達が祭りに参加することで少なからず牽制になる可能性も考えられた。
まぁ、ぶっちゃけ各国のお祭りに理由を付けて参加してみたい! という気持ちもないわけではないが……。
「日本のバレンタインは終わりましたしねぇ」
「ヨーロッパなら各地でカーニバルがありますよ」
「あー、でも二月中旬ですと終わっているところもちらほら……」
「ではイタリアのヴェネツィア・カーニバルはどうでしょう? 有名ですし、今年の開催は2月下旬ですし!」
わいわいと山と積まれるパンフレットの山を囲みながらいつものテンションで息抜き企画部のメンバーはあれこれと話し合う。
「いいですね、イタリア。あの仮面のカーニバルでしょう?」
「カーニバルメイクも現地でしてもらえたりするらしいですよ!」
「じゃあ、そこに決めましょうか!」
そして、体験☆ヴェネツィア・カーニバル、というタイトルを企画書に記入するのだった。
解説
●目的
ヴェネツィア・カーニバルを楽しもう!
●場所
イタリアのヴェネツィア、サン・マルコ広場を中心にその周辺
●日程
カーニバル初日と最終日は非常に混雑するため、カーニバル中頃。
時間は昼間と夜。
天候は昼夜ともに晴。
※昼夜両方でもどちらか片方のみでも構いません。
●衣装
息抜き企画部からレンタルすることが可能です。
仮装をしなくても楽しめます。
広場でフェイスペイントをしてもらうことも出来ます。
●出来ること
昼夜とも様々な人々の仮装を見て楽しむことが出来ます。
オペラ劇場での催し物も色々とされています。
近くでイタリア名物ゴンドラに乗ることも可能です。仮装のまま乗ることも出来ます。
※OPに記載されていない催しでもヴェネツィア・カーニバルとして違和感がないことであればプレイングに記載して頂いて構いません。
広場周辺には美味しいレストランもたくさんあります。
お土産を買うことも出来ます。
※普通の範囲内の買い物であれば通貨は減りません。
リプレイ
●
「ヴェネツィアかぁ! いやぁ、いいな、水の都! 街並みを見てるだけで心踊る」
ダシュク バッツバウンド(aa0044)がカーニバルで賑わう街に足を踏み入れ楽し気に辺りを見回す。
「ふむ。水の都で祭りか。ふむふむ、心から楽しんでやろうかのう」
隣のニトゥラリア・ミラ(aa0044hero002)も一通り視線を巡らせながら頷いた。
まずは貸衣装を、と目的の場所に向かう。
「夜までやっておるのか」
「さすがにニトを連れて夜はだめだろ」
ニトゥラリアの呟きにダシュクが答えた。ニトゥラリアはむくれている。
「あたしは夜がよい」
「大きくなったらな」
「ふんっ!」
彼女の言葉にニヤニヤしたダシュクだが思いっきり向う脛を蹴られた。
声もなくその場にしゃがみ込む。
「あたしにそのような顔するとは100年早いぞ!」
ニヤニヤとし返してニトゥラリアはダシュクを置いていくように先に歩き出して行った。
同じ頃、マルコ・マカーリオ(aa0121hero001)とアンジェリカ・カノーヴァ(aa0121)の二人もヴェネツィアの地へと辿り着いていた。
「ヴェネツィア・カーニバル! ボク、一度いってみたかったんだ♪」
「地元なのに行った事なかったのか?」
上機嫌でクルクル回るアンジェリカ。イタリア出身の彼女を見つめ不思議そうにマルコが問いかけた。
「クレモナのあるロンバルディア州とここヴェネト州はお隣だけど、孤児院は貧乏だったしね」
アンジェリカの答えにマルコは特に何も言わずぽんとアンジェリカの頭を優しく叩いて、
「なら今日は楽しまないとな」
と笑顔を見せる。
一方で忍者装束が既に仮装と思われ周りから超見られている忍ばないNINJA小鉄(aa0213)。
「HOPEも良いこと考えるでござるな! 祭りとあらば拙者が参らぬ訳にはいかまいて!」
と忍者なのに超乗り気で参戦。
(しかし、仮面、仮面でござるか……)
周りを見回し数々の個性豊かな仮面に考え込む小鉄。
「みな顔を隠しているでござるが……実は忍びが居たりするのでござろうか」
「こーちゃん、それは無いから安心しなさい」
真顔で呟いた小鉄の言葉に同行していた英雄、稲穂(aa0213hero001)がすかさずツッコミを入れた。
「でも、普段こういうところなんて来ないし、観光も良いわねぇ」
稲穂も辺りを見回し太陽の光でより美しく輝く街並みを眺め楽しそうにしている。
「まずは腹ごしらえでござる!」
「腹が減ってはなんとやら、とは言うけども」
幻想的な風景よりもまずは飯、という小鉄に稲穂は慣れた反応を示す。
ここはイタリア。食に関しては間違いないはずだ。
レストランでメニューを広げ名物という欄を見つける。
イカ墨のパスタとリゾットを注文する二人。
あの黒さを知らずに。
「おう、メリオル。ヴェネツィア・カーニバルだとよ。うちのお子様たち連れて行ってみるか! 祭は情操教育に良いって言うしな!」
「そんなこと言って緋影様が遊びたいだけなのでは……?」
というやり取りをしてヴェネツィアまでやってきた綺月 緋影(aa3163)とメリオル(aa3163hero001)。
緋影はパリッとしたタキシードにマント、鮮やかなマスクをした怪盗風の出で立ちだ。隣に佇むメリオルはいつもの英国風のスーツで仮装はしていない。
そこに少女が少年の手を引きやってくる。
妖精を思わせる、鈴蘭の花飾りを各所あしらったふわふわのミニドレスを纏った少女、亜莉香(aa3665hero001)と、長靴をはいた猫風の、レイピア(模造刀)を腰に佩いた軽装の騎士風の少年、蒔司(aa3665)が彼らの前で立ち止まった。
それを見て緋影が二人の前へ進み出て粛々とお辞儀をする。
「お坊ちゃま、お嬢様。今日はこのわたくしめにお二人の時間を戴けますか? ……ってなもんよ」
「ひーちゃんカッコいいー! すっごい似合ってるよ!」
頭を上げた緋影は片目を瞑ってみせた。亜莉香がきゃっきゃとはしゃいで緋影に纏わりつく。
「どうだー。俺だって分からなかっただろー!」
「すぐ分かりましたが……」
「うるせえよ、メリオル」
速攻で冷たいメリオルのツッコミが入る。
「めーちゃんも仮装すればいいのに。いつもの執事服も素敵だけれど♪」
亜莉香が普段と変わらぬ服装のメリオルに残念そうにするも、すぐに思い直してにこっ、と無邪気に笑った。
「ねー、亜莉香のはどう?」
「お、亜莉香。ドレス似合ってるじゃねーか。もうちょっと胸元開いたデザインでも良かったかもなあ」
緋影は純粋に答えるが後半を口にした瞬間、メリオルのハリセンが飛ぶ。
「……」
そんな彼らを見つめて、一人蒔司はむすーっとしていた。緋影が亜莉香の気を引いているのが気に入らないのか、素直に賞賛できないもどかしさ故か、複雑な表情を浮かべている。
「蒔司も男前に……って何微妙な顔してんだよ」
亜莉香から視線を蒔司に向けた緋影が、彼の複雑さが滲み出ている顔を見た。それから少し考え自身のマントを両手で広げると。
「皆仮装してんだ。大丈夫だって。恥ずかしかったらおっさんのマントに入っててもいいぜ」
さあ、来い、とばかりに、にっと笑う。
「べ、別に恥ずかしいっちゅうんじゃないきに」
「なんだよ。ハハ。相変わらずツレないなぁ」
慌てて蒔司はぷいと顔背けた。笑いながら蒔司の頭をぽんぽん叩く緋影。
「おっ。見ろ! ゴンドラだ! 折角来たんだし乗ってみようぜ!」
蒔司が何か言いたげな視線を投げるも、緋影は目の端に映ったゴンドラを指さしはしゃぎだす。
「緋影様、これではどちらが子供か分かりませんよ」
「いーんだよ。こういうのは率先して楽しんで見せるのがいいんだって」
呆れたようなメリオルの言葉に緋影は楽し気に笑い返した。
「ゴンドラー! 楽しそう! 皆で乗ろうー! ね、めーちゃんお写真撮ってね!」
ゴンドラを見ておおはしゃぎの亜莉香。彼女はメリオルが承諾の意と共に頷くと蒔司の手を取って「行こう!」と元気よく走り出した。
「わ、亜莉香、そんなに手を引っ張るなちや……!」
態勢を崩しそうになり慌てる蒔司。
こうして四人、賑やかにゴンドラ乗り場へと向かったのだった。
●
「ヴェネツィアカーニバル……美しき仮面の舞踏会」
「あら、シオンったら何だか楽しそうですわね~」
ヴェネツィアについたばかりのシオン(aa4757)とファビュラス(aa4757hero001)。
「美しさを肌で感じるのは素晴らしいことだよ」
「では……あたしもそれを堪能するとしましょう」
そんな会話の後、シオンは近くのカフェに向かう。
(特別な日の人々……何よりこの空気感)
シオンは一人外の席に座り、人通りを見て思う。
「美しい……」
と。
「あれ? ……前に依頼で綺麗なピアノを弾いてた……」
そんなシオンを見つけアキト(aa4759hero001)が声を掛けた。
「ああ、確か……アキト」
「あ、覚えててくれたんだ! ……シオンさんだったよね?」
見覚えのある顔にシオンが名前を口にすると嬉しそうにするアキト。
「あの時は拙いピアノを失礼したね」
「凄く綺麗な音だったから鮮明に覚えてる。世界が創られていく音」
「……アキトの歌はとても華やかで胸を突いた……そう言えばあの美しいパートナーは何処へ?」
笑顔で首を横に振るアキトに、前の想い出を思い出しながらふとシオンはアキトが一人であることに気が付き辺りを見回す。
アキトの能力者、美咲 喜久子(aa4759)が見当たらないのだ。
「美しい……う~ん……パートナー……きっこさんの事かな? 一緒だったんだけど……何処だろ?」
「……ファビュラスも何処かへ行ってしまったようだね」
「シオンさんのパートナーさん……あの綺麗な人だよね」
シオンの英雄ファビュラスの姿を思い出しアキトは素直な感想を零した。
髪も瞳も印象的だった。シオンも勿論綺麗で印象的で2人が創り上げる世界(音)は凄く心に響いた。
そう、アキトはシオンを見つめながら思う。
「偶には姫達も自由を満喫したいだろう……アキト、騎士である俺達も今日だけは自由を手に入れようか」
「そだね。折角だし2人で色々見て回ろー!」
微笑むシオンの言葉に大きく頷くアキト。
カフェを出て二人連れ立ち、仮面の舞踏会の世界へと。
仮面の人々を見ながら共通の話題である音楽話は絶間無く。
「シオンさんの話は凄く面白い。不思議でおとぎ話にも思えるかも」
と、微笑むアキト。同じようにシオンもアキトの感性を面白い、と思っていた。
二人が歩き去ったカフェの前を天野 一羽(aa3515)とルナ(aa3515hero001)が通りかかる。
「うーん、まさかイタリアになんて来ることになるとは思わなかったよ。ヴェネツィアかぁ」
「ふーん、ここ、どんなとこなのかしら??」
辺りを見回す一羽と、ガイドブックをぱらぱらとめくるルナ。
「……ん? 新婚旅行に人気!?」
「……ぶっ!?」
ガイドブックの一文を見てすんごいきらっきらした目でルナは一羽を見る。
噴出して赤面する一羽。
それよりも衣装を借りに行こう、と誤魔化し聞いていなかったかのように一羽はルナを連れてまた歩き出した。
衣装屋ではニトゥラリアとダシュクが色々と選んでいる最中だった。
「どれがいいかわからんから、適当なの見繕ってくれ」
「これはどうじゃ?」
「それにしよう」
ダシュクにニトゥラリアがセオリー的な仮面を手渡す。頷いて受け取りつけてみる。だが、ニトゥラリアは口元を押さえ
「似合わん奴じゃ」
プッ、と笑った。
「素材がかっこよすぎるんだよ」
ぶつぶつと反論をするダシュク。
「可愛く、淑やかで、華美であるものがよいのう!」
今度はニトゥラリアがダシュクに自分の分を見繕うように促す。
仮面から羽が上へと伸び、華やかで可愛らしい仮面をダシュクは選んだ。
「どうじゃ、似合っておろう?」
「はいはい、可愛い可愛い」
早速つけて胸を張るニトゥラリアに適当に頷きながら、二人はそのまま外へ出る。
彼女達とすれ違うように一羽達が衣装屋に入っていく。
「確かに仮面舞踏会みたいな感じになってたかも。……ていうか、ガチすぎるひと多くない??」
「ドレス着た人がいっぱいいたわねー。私も着よ♪」
すれ違う人々に一羽が驚いているがそんなことはお構いなしにルナは衣装を手に吟味していく。
「はーい、一羽ちゃんは王子様ー。ん? 一羽ちゃんもドレスのほうがよかった?? そっちもきっと似合うわよー♪」
「……遠慮しとくよ」
もし着たら本当に似合うのだがそこは置いておいて、ルナのドレス姿に一羽の顔が赤くなる。
「ルナ、顔の上半分が隠れるマスクだから、口元が出てるのが妙にえっちいというかなんというか」
もごもごと口の中で言う一羽を引っ張りルナは行きましょう♪ と、街へと繰り出して行く。
同じ時、サン・マルコ広場へと向かうアンジェリカとマルコ。
16世紀中頃に生まれたイタリア即興喜劇コンメディア・デラルテからアンジェリカはコロンビーナ、マルコはアルレッキーノの仮装している。前に一度香港で演じた事があるので二人とも板についていた。
広場中央のオペラ劇場では管弦楽団が演奏をしているところだった。
軽やかな明るい曲で、周りの人々はダンスを楽しむ。
コロンビーナのマストアイテム、タンバリンを打ち鳴らしながらアンジェリカはマルコと楽しく踊り始めた。
次に劇場が飛び入り参加も可能だと知ったアンジェリカが短い即興喜劇を演じよう、と言い出した。
仮装に合わせた喜劇をマルコと共に演じ、自慢の喉で歌を披露する。
飛び入りとして軽いインタビューを受けロンバルディア州出身であることを答えると
「以上、コロンビーナことロンバルディアの歌姫エージェント、アンジェリカさんとその英雄マルコさんの飛び入りでした!」
と声と共に盛大な拍手が沸き起こった。
街は更に賑わいを増している。
「さっすが、めちゃくちゃ有名なカーニバルなだけあるな! 行こうリコリス、先ずはこっちだ!」
「カメリア、そっち、すごく混んでるのだけど……」
リコリス・S(aa4616)の手を引っ張りカメル(aa4616hero001)が街中をはしゃぎながら見回っている。
リコリスはしかしトラウマから記憶の保持に一部障害があった。
様々な記憶を失っているリコリス。
ヴェネツィアは行ったことがあるかもしれないし、ないかもしれない。
イタリアの中部出身という事は憶えているがそれ以外は本人が憶えていない以上判断がつかない。
カメルがヴェネツィアに来たことは無いと言うのなら”カメルと行った事は”無い筈、程度の認識。
だが、そんな彼女にとって何か刺激になればと、カメルは考え連れてきたのだ。
混雑の中、しっかりとリコリスの手を握るカメル。
だがしかし入り組んだ街並みは半ば迷路のようで、カメルの足が止まってしまった。
「んー、道が入り組んでて……こっち、かな? いやこっちか?」
「……多分こっちよ、カメリア」
困った様子を見せるカメルをリコリスはぐいぐいと引っ張り進む。
何でか分からないけどなんとなくこっちの道な気がする、と選んだ道は正しかった。
ガイドブックに載っているような広い道へと出る。
残存した記憶が導いてくれたのだろうか。
「ま、また迷子……」
少女達が迷子になっている頃、同じように道に迷っている女性、喜久子。
がっくりと肩を落としている。今回で何度目か。
「アキちゃん何処よー」
「あたしに食べてくれ、と言っているようですわ!」
英雄の名を呼んでいると喜久子は聞き覚えのある声を捉える。
「ん? あの人は確か前に依頼で一緒だった……」
美味しそうな匂いに誘われ路地に迷い込んでいたのはファビュラスだった。
「あら……貴女はあの時の……」
ファビュラスも喜久子の存在に気が付く。
「私は喜久子です……いや、喜久子、だ。貴女はファビュラス……」
「えぇ。折角のご縁、ご一緒しませんこと?」
「私で良ければ一緒してくれると嬉しい。独りで時間を持て余しそうな所だったしな」
喜久子の問いかけに頷くファビュラス。そして、目の前の美味しい香り漂うレストランを指さし喜久子を誘った。喜久子は一つ頷き快諾する。
そんな二人が入ったレストランでイカ墨パスタとイカ墨リゾットと対峙している小鉄と稲穂。
恐る恐る一口食べる。
「……見た目は拙者みたいでござるが、美味しいでござるな」
「ねぇ、真っ黒なの自覚してたの!?」
磯の香りが鼻を抜け、濃厚な海鮮の出汁が舌の上で転がる。
ついてきたパンでソースを拭えばまた違った味わいを楽しむことが出来た。
二人が料理を堪能し持ち帰り用に幾つか料理を包んでもらっている頃、大量の料理がファビュラス達のテーブルに運ばれてきていた。
「まぁ! こんな美味しい物、初めてですわっ!」
一口食べては感極まったようにリアクションを示すファビュラス。
(……それにしても……)
その量を見て困惑気味に喜久子はテーブルの上を眺めている。
「全部食べるのか?」
「喜久子も遠慮しないで、さぁ……っ!!」
問いかけが遠慮から来るものと取ったファビュラスはずいっと皿を喜久子に差し出す。
既に半分が焼失した更に冷や汗を浮かべる喜久子。
「痩せの大食いとはよくいったモノだが……よくその綺麗な身体に易々と入っていくな……」
感心したようにファビュラスの食べっぷりを眺める。
(でも、食べてる姿も優美で羨ましい……な)
「次! ……さぁ、次を持って来て下さいな」
喜久子の視線の意図を察する来なく空になった皿を積み上げファビュラスは注文を重ねた。
あまりの大食漢っぷりに店内は騒めきり人集りが出来上がる。
小鉄と稲穂もその大食漢っぷりにすごい、と感心していた。
そんな人集りに気が付くシオン。
「……そんなに美味なる物を提供してるのかな。でも……あの時々上がる歓声は何だろう……ね」
不思議そうにレストランの中を覗き込む。とそこに良く知った顔があった。シオンは納得する。
「あ、きっこさんはっけーん! と、あ! あの時の美人さんと一緒だったんだね」
一緒に居たアキトも気が付き喜久子に向かいぶんぶんと手を振った。
(やっぱり綺麗な人だな……透明な色。硝子細工にも見えるけれど)
ファビュラスに挨拶をしながらアキトはそんなことを考えていた。
●
美術商であるティテオロス・ツァッハルラート(aa0105)はディエドラ・マニュー(aa0105hero001)引き連れてヴェネツィアへと訪れていた。
普段から結構な格好をしている為、違和感なくカーニバルに混ざる女王様、ティテオロス。
「私は建築畑ではないが、それでもこの都の美しさは分かる。精緻な石畳、四方の視界を整える大理石。……嗚呼、それが不服であったかな、エルフ族には」
「海上支部は紛い物なりに自然もありましたが此処はなんですか石石人人石人海水おまけにこんな窮屈な“どれす”まで着せられてこれでは枯れます枯れてしまいます」
エルフ、ディエドラは豊満な体をげっそりとさせながら人混みに酔ってティテオロスにしがみつく。
自然との結びつきが極端に低く感じられるのか、かなり弱り気味だ。
「全く、自然史博物館にでも置いてきてしまおうか……ああ、君、Medico Della Pesteを見せてくれるかな」
今回はヴェネツィアンマスクを買い付けに来た美術商。 ディエドラを着せ替え人形として扱いながら気に入った店には名刺と商談を置いていく。
「如何な文化であっても、仮面とは矢張り顔なのだ。本来の顔の代替としての顔。あちらの世界の祭司では仮面は付けなかったのかね?」
「はぁ……そうですね、この目元を隠すような形に似た木彫りの仮面等はありましたよ。大地母神様の御姿に“真の瞳は森の深奥が如く伏せ得て尚”いう口伝がありますので、代々の巫女は目元を隠す工夫を……あら、これはしっくりくる木材ですね」
「……ふむ。ではディエドラ、一番しっくりくる店を探すとしようか。何、そう嫌な顔をする物ではないよ」
「見えてもいない物をよくもそう……」
マスクをしたままのディエドラはティテオロスの言葉にため息交じりに返した。
「見えぬ物も判るのが審美眼という物だからね」
ふふ、と妖艶に笑いを浮かべ、今回もディエドラの“木材を見る目”をアテにしての散策を始める。
二人は良質な商品を求めヴェネツィアの街を闊歩した。
数時間後、混みあう時間を余所にして、美術商はパブへ。巫女は自然史博物館へ。
赤い女王様は夜の酒場で商談を進め、異なる世界の自然の巫女は、異なる世界の自然の歴史に触れる。
だが、それはまた別の話。
混雑する街中。だがそれさえも映える水の都の街並みにダシュクは見惚れていた。そんな彼の財布を抜き取ってニトゥラリアはクレープ屋に走る。
「隣にあたしという美女がいるというに」
と呟きながら。
「はぐれるなよ、ニト」
そんなことには気が付かず、ダシュクはすぐ後ろにいると思った相棒を振り返る。
「…は?! ニト」
見失って慌てるダシュク。だが、すぐに露天からクレープ買ったニトゥラリアが傍らに戻ってきた。
「おいおい驚かすなよ……」
クレープを齧りながらグチグチ文句を垂れるダシュクの手を少女は握る。
「こうしておけばよかろ?」
「……孤児院の妹たちを思い出すな」
繋いだ手の温もりに照れて視線を逸らすダシュク。そんな彼に気分よく必殺向う脛に蹴りを食らわした。
「いってぇ」
「あたしはレディじゃ。そのへんの童と一緒にするでない」
などと言いつつも、機嫌の良いニトゥラリア。
「識ることは楽しいのう!」
露店を冷やかしながら思い切り楽しみ、二人は昼間のヴェネツィア・カーニバルを堪能した。
同じように露天を楽しんでいる二人の子供たち。
リコリスとカメルは仮面を買って、付けたり外したり楽しそうにしている。
「やっぱ見てるだけじゃなくって参加しないとな!」
「でも、カメリア? それ、買っても、今後使う時なんて来るかしら」
「まーまーリコリス! こういうのは思い出を買ってるんだって!」
にっ、とカメルは笑う。
あっちこっちと珍しい仮面やイタリア特有の品を眺め、二人は街を駆け回る。
いつか、リコリスが忘れてしまっても。
思い出として買った仮面がカメルにとってこれが現実だったと教えてくれる。カメルは仮面を握りしめた。
ゴンドラに乗って揺られている緋影達四人。
亜莉香がはしゃぎ、緋影と談笑して楽しそうに笑っている。
そんな二人を見ている蒔司だが、目線が合えば慌てて逸らした。
蒔司は流れる異国情緒漂う景色と、賑わう人々を見つめる。
まだ心は囚われの身であった頃から抜け出せず、此処にいる自分が何処か夢のように地に足がつかない。
そんな不安定さが棘のように心を絡め取り、遠い目をさせる。
「ほら、亜莉香があんなに楽しそうに笑ってるじゃねえか。蒔司もちったあ笑ってもいいだぞ」
「わ、ワシの事は放っといとうせ!」
感傷に耽っていた蒔司は緋影に頬をふにっと引っ張られ驚きぺしぺしと払い除けた。
「そんなに怒るなって。俺のこと嫌いか?」
「……嫌いとか、そういうんじゃないきに……。少なくとも、亜莉香の笑顔が増えたんは、綺月……さんのおかげじゃと思うちょるよ」
叩かれた手をひらひらとさせながら蒔司の顔を覗き込む緋影。蒔司の黒豹の耳がへたんと垂れる。
「俺は蒔司のこと結構気に入ってるぜ」
「き、気に入っ……」
しれっと言った緋影の言葉に紅くなりそうな顔を急いで蒔司は背けた。
その後方でメリオルがハリセンを構えていた。緋影の口からセクハラ発言がいつ飛び出てもいいように。
「ゴンドラ降りたら飯にしようぜ」
「おなかすいたー! レストラン! ごはん♪」
メリオルの動きに気が付いたのか緋影は話題を変える。
「そう仰るかと思ってレストランを予約しておきました。折角ですし郷土料理でも召し上がってはいかがですか?」
「おっ。メリオル気が利くなー。ヴェネツィアは確かワインが美味いんだよな。あとプチケーキが食えるんだっけか。お前達の口に合うといいな」
「予約してくれてたの?だからめーちゃん大好きだよう~~」
亜莉香がメリオルに売れそうにぎゅっぎゅと抱きついた。
「美味しいお菓子いっぱいあるかなーー♪」
「亜莉香、腹八分目にせえよ」
ゴンドラを下りてレストランへ向かう中、微笑ましい表情で亜莉香の後を一緒についていく蒔司。最初の複雑そうな表情はもうどこにもない。
「緋影さんも早う。亜莉香が全部食べてしまうぞ」
少し遅れている緋影に向き直り振り返って手を差し伸べる。
呼び方が綺月から緋影に変わったことに本人は気が付いただろうか。
伸ばされた手を握って楽し気に笑いながら彼らは街を歩いて行った。
食事の後、広場で小鉄がフェイスペイントをしてもらっていた。稲穂は面白そうに見ていたが(あとで洗濯大変そう……)とも思ったり。
「こーちゃん、とても似合ってるわよ、ぷふ」
出来上がった小鉄のフェイスペイントを見て思わず吹き出す稲穂。
「いま笑ったような気がするでござるが」
「だって覆面の上から描かれちゃってるじゃないの」
そう、忍者装束、口布の上から鮮やかで華やかなペイントが施されていた。より一層忍ばないに拍車がかかる小鉄。目立ちすぎて写真を一緒に撮ってほしい、と声を掛けられるほどだ。
丁度その時オペラ劇場からアンジェリカが下りてくる。
「そう言えばここはサン・マルコ広場と言うんだろう? 何だか親近感が湧くな」
「いやいや名前の由来になったマルコは凄く立派な人だよ」
マルコの台詞にアンジェリカはジト目を向けたが、彼はただ笑うだけだった。
そこに舞台での紹介で彼女達が同じように来たエージェント達と知った稲穂が声を掛ける。
折角だから一緒に写真を撮ろう、と。
「あ、あの!」
と、そこにカメルが声を掛けてきた。出来れば自分も一緒に写真を撮りたい、とアンジェリカや小鉄に頼むカメル。
風景と共にリコリスと一緒に思い出の写真を撮っていたが、他にも仮装している人ともたくさん写真を撮りたかった。
今回の事をいつかリコリスが忘れたとしても、自分が写っている写真を見ればそこにいたのだと分かるから。
もちろん、と快諾する四人。
「ありがとう!」
嬉しそうにお礼を言ってカメルは写真を撮り終えると四人に手を振り、リコリスの手を取ってその場を去っていった。
残った四人はこの後ゴンドラに向かう予定と知り何かの縁、と全員でゴンドラに向かうことにする。
ゴンドラ乗り場ではアンジェリカが流石はイタリア出身、値引き交渉を行う。
だが、値引きは断られた。
「それじゃ回りながらおじさんとボクとカンツォーネをデュエットしようよ。それなら言い値を払うよ」
と持ち掛けるアンジェリカ。実の所一度ゴンドラでカンツォーネを歌ってみたかっただけなのだが、それは面白い、と請け負うゴンドリエーレ。
客を乗せてゴンドラがゆっくりと漕ぎ出した。
「船で見て回るというのは、他所では中々無いでござるな?」
「やっぱりヴェネツィアって言ったらこれよね!」
小鉄と稲穂も一緒に乗りながら悠々と静かに川を行くゴンドラを楽しんでいる。
アンジェリカの高い歌声が、ゴンドリエーレの低い歌声と見事に調和し美しく響いていく。
綺麗な歌声と穏やかな時間。
稲穂は静かにその幻想的な雰囲気を堪能していたが、その横で小鉄は屋台やレストランで買った食べ物を満喫していた。風情とはいったい。
「船頭もお前も良い声だな」
アンジェリカが歌い終えるとマルコが拍手をする。稲穂も素敵だったと声を掛けた。
「うん、船の上で歌うのは気持ちいいね♪」
嬉しそうにアンジェリカが笑顔を浮かべる。
ゴンドラを下りると小鉄の食べていた匂いに刺激されお腹がグーッとなるアンジェリカ。
「食事に行こう。良い歌を聞いたんだからマルコさんの奢りだよ♪」
と、彼女はマルコの腕を引く。
そこで四人はヴェネチアの街を更に堪能すべくまた元の二人組に別れた。
●
夜のヴェネツィア・カーニバルは雰囲気がより一層艶やかさを増す。
昼間と同じルートを周り、昼間とまた違う風景を写真にとったり、観光を満喫する小鉄と稲穂。
「いやはや、面白い祭りでござったな、飯も旨かったでござるし!」
「そこを強調するのね、いや美味しかったけど」
まぁ、花より団子、と言ったところなのだろう。
最後に、と友人への土産用に仮面を幾つか面白そうな見繕う二人。
あれが素敵だのこれが面白い、だのとても楽しそうだ。
彼らの後ろの水路に浮かぶゴンドラに四人の影。
「特別な日の夜のヴェネツィアも素敵だね……」
シオンがライトアップされ妖しくも美しく照らし出された街と水面を見つめる。
「ええ、沢山のキラキラがいっぱいなのですわ!」
ファビュラスもご機嫌だ。
目に見えない美しさは、また違った趣を魅せるようで。
「こうして夜にゴンドラに乗るのも良いモノだな……」
喜久子も彼らの言葉に頷き、風情ある景色に目を細めた。
華やかな空気は其の侭に美しさだけが漂って来る様で。
「そうだ、きっこさん! さっきお土産買ったんだよ」
アキトが思い出したように両手を合わせた。そしてシオンと共に散策している最中、買った土産をそれぞれに手渡す。
「これがきっこさんの分ー」
喜久子には白基調のイヤリングを。ファビュラスには天使を模した小さめのベネチアン人形を。そして一緒に居たシオンには宝石箱の様だが華美過ぎない小さめの小物入を、アキトはそれぞれに渡していく。
「……俺からも」
ふっ、と笑ってシオンも同じように一人に一つずつ綺麗にラッピングの施されたプレゼントを手渡す。
喜久子には彼女の瞳と紫色の可憐な香水瓶。ファビュラスには白薔薇の意匠が美しいワイングラス。そして一緒に居たアキトにはその声と見目に見合う華やかなキャンドルスタンド。
二人の性格が出た六つのプレゼント。
それには今日の思い出がそっと込められていた。
彼らが仲良くゴンドラで一時を過ごしている頃。ライトアップされた街中を腕を組んで歩く二人。
「すごいね。結構な年の人も仮装してるんだ。昼間は小さい子もたくさんいたし」
「なんか、カップルとか夫婦っぽい人もたくさんいるわねー。私たちもそんな感じ?」
ルナが嬉し気に笑みを零しているが、二人はどう見てもショタとお姉様だった。本当にありがとうございました。
二人がサン・マルコ広場を歩いているとルナが背中から押されて一羽に凭れ掛かる。
「……うわ、ちょっ、ルナ、どさくさに紛れてなにして……!?」
「ん~? はぐれないようにしてるだけよ?」
抱き着きながら離れようとしないルナ。人は夜でも多くごった返している。
「花火ってイタリアにもあるの??」
ルナが他の人が最終日に打ちあがる花火の話をしているのを聞き一羽に向き直って首を傾げた。
分からないけど、と一羽が答える。
「夜は暗い方が好きだけど、好きな人と一緒なら、明るいほうがいいかしら??」
と、ルナは暗い夜空を見上げ呟く。
夜はとっぷりと更けているにも関わらず、街中は賑やかで、そして多くの妖しい仮面が行き交う。
「……ね。みんなまだまだ遊ぶみたいよ。私たちも行きましょ♪」
「ええっ!? まだ遊ぶの!?」
「……ん? それともホテル行く??」
腕を引くルナの言葉に驚く一羽。ルナは足を止めてもう寝る? という意図で問いかけた。
が、何故か一羽は顔を赤くしたのだった。
水の都ヴェネツィア。その魅力は堪能できただろうか。
不思議な光景はあと数日で幕を閉じる。大きな花火と共に。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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