本部

梅はうめぇ祭り

若草幸路

形態
イベント
難易度
易しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
能力者
25人 / 1~25人
英雄
24人 / 0~25人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2017/03/05 21:19

掲示板

オープニング

●祭りの風景
 まだ寒さの厳しい中、太陽は日々とどまる長さを伸ばし、春に向けて世界を照らしていた。
 その光を受けて、いち早くほころぶは梅の花。緋色や白に絞り咲き、春の訪れを確かに告げる。

 そんなふうに木々が咲き誇るとある梅園で、イベントが開かれていた。

●祭りの幕開け
「さあさあ、梅はうめぇ祭り、開催中ですよー! 梅とお肉はいかがですかー!?」
 いつでも春のような微笑みを浮かべていそうな女性が、園のゲートで道行く人に声をかける。その背後には多くの屋台が建ち並び、じゅうじゅうと食欲をそそる音を立てていた。既に入場を終えた人々が、テント屋根の休憩所で肉や芋を頬張る姿も見える。そして、その更に奥には花も盛りの梅の木々らしき、鮮やかな色がけぶっていた。
「お祭り期間中にはなんと! ペア3組様限定で併設レストランの和食コースを特別価格でご提供でーす! 先着順ですよー!」
 その声につられて、香りにつられて、あるいは前々から予定していた、そんな人々が園に立ち寄る。

 戦いの続く中、春と癒やしを求めるエージェントたちの姿も、その中にあった。

解説

●このシナリオについて
 ・梅の花を愛でましょう。または、梅の花にかこつけておいしいものを食べましょう。(クレジットは減りません)

●行ける場所
 ▽梅コース
  花も盛りの風雅な梅園を歩きながら、途中にいくつかある茶店のひとつで和菓子とお茶を楽しむコースです。おみやげつき。

 ▽うめぇコース
  花より団子、と梅園前の出店ゾーンで肉や魚や炭水化物を、3皿+ワンドリンクで堪能するコースです。テント張りの休憩所も複数あり。
  (お酒もありますが、外見年齢が20歳以下の方はお断りされます)

 ▽君のことを想うと胸がいっぱいだよコース(略称:ペアコース)
  お二人さま向けの屋内お食事コース。梅園を見渡せる位置のレストランで、創作和食をいただきます。
  なお、先着3組限定です。希望多数の場合はプレイングを参照して先着を決めますが、同着となった場合はくじ引きとなります。
  (外れた組には、梅コースorうめぇコースの食べ物メニューを一品追加できる券がもらえます)

●ワンポイント
 ・同行者がいる場合、ID(aa○○○○、aa○○○○hero○○○)に加えて相手をどう呼んでいるかや関係性などを明記しておくと、描写の違和感が少なくなるかと思います。よろしくお願いいたします。
 ・同行者が複数の場合、【】で囲んだ班タグを使うとよいでしょう。この場合、字数に余裕のある方がIDを明記したメンバーリストを記載しておくと、それ以外のメンバーの字数が節約できます。

リプレイ

●うめぇ! うめぇ!
「宴じゃのー」
  居並ぶ肉やB級グルメの屋台、そして料理を頬張る人々にまぎれ、逢見仙也(aa4472)は歩きながら串焼きステーキを頬張る。片手には缶ビールを携え、いかにもちょい呑み散歩といった風情である。
「たまには良いですよね」
「だろう?」
 クリストハルト クロフォード(aa4472hero002)がしみじみと呟くのに、にやりと返す。そしてそのままふらりと、側から離れて人波に紛れようとした。クリストハルトは『たまには』と言ったのだ。この後に続くのは――
「ですが度が過ぎると、あ、こら、どこに行かれるんですか」
 ――小言である。仙也はくるりと振り向くと、ことさらに真剣な表情をしてみせ、言った。
「訓練」
「訓練?」
 首をかしげるクリストハルトに、仙也はそう、といかにもな表情を作ってうなずいてみせる。
「そ。今日はけっこうリンカーも居るみたいだし、情報収集も兼ねてな」
「……のぞき見では?」
「俺の心の中だけに収めとくからいーの。実力ありそうな奴が多いし、その様子を潜伏しつつ調査するってのは、愚神の情報を探る訓練になると思うんだよ」
「なるほど」
 うまく口車に乗ったクリストハルトに、仙也はああ、とさっぱりした調子で答えると、でしたら、と目の前の赤毛が縦に首を振った。
「では、しばらくしたら門の前で落ち合いましょう」
「おう、行ってくる」
 すたすたとしばらく歩いて、振り向く。その姿が見えないことを確認すると、仙也はよし! と小さくガッツポーズを取って歩みを遅くした。
 無論、情報収集などする気はない。そもそも、リンカーがいるというその発言自体が適当なでまかせだ。二皿目を堪能すべく、あちこちの屋台を見て回り始める。
 だが瓢箪から駒というべきか、その視界にはリンカーの種々様々な姿が映っていた。

「桜の前に梅を愛でろってか」
「これはこれで、よいものだと思いますわ」
「まあな。……だが、どっちかってぇと! 今日は! 食を優先するっ!」
 入り口近くでそう宣言したのは、赤城 龍哉(aa0090)だ。ヴァルトラウテ(aa0090hero001)と共に所用帰りに散策をしていたところ、肉の匂いにふらりと立ち寄った、という格好である。入り口で料金と引き替えに《うめぇコース》と書かれた食券を受け取り、2人で居並ぶ屋台を横断する。肉、芋、肉、焼きそば、肉、ピザ、肉、肉、トウモロコシ。たまに野菜。たまに普通の洋食。
「飯テロだよなぁ」
「バッチリひっかかりましたものね。これも集客のひとつなのでしょう。何にするか迷いますわ」
「ワンドリンクだからな、味の取り合わせもポイントだぜ……!」
 B級グルメの特徴は、そのボリュームにもある。飽きず、かつ満腹感のあるチョイスをするべく、2人は再び屋台を横断し始めたのだった。

 そうして龍哉とヴァルトラウテが美味を求めつつ通り過ぎた休憩所のひとつで、「くしゅん」とくしゃみの音が喧騒の中で小さく響いた。あまり世の話題には上らないことだが、この時期から既に花粉は飛び始めており、それに反応する花粉症の者も少なくない。
「っくしゅ。どうだい? 初めての春の気配は」
 花粉に刺激された鼻を少し鳴らしながら、木霊・C・リュカ(aa0068)がかたわらの青を基調とした姿の青年、凛道(aa0068hero002)に尋ねた。
「……向こうで、似たような光景を見た気がします。花は違うようですが」
 凛道はここからでもその優美さを誇る梅たちを見やりながら、記憶を辿った。やがて浮かぶイメージのかけらに、ああ! と感嘆の声をあげる。
「ええ、向こうでも花はありました。ですが、誰かとこうしてゆっくり花を見るというのは初めてです」
言いながら、凛道は皿の料理をさくさくと口に運ぶ。料理に載せられた梅の花を愛でていたリュカが、その姿にはしゃいでみせた。
「お、いい食べっぷり!」
「ふふ、こうしてると美味しく感じるんです。なんだかこの頃、わけもないのにいい気持ちですし」
 こちらの世界に来て初めての春。徐々に空気が暖かく潤んでくる毎日に、凛道の心は浮き立っている。普段の彼からすれば柄にもないような、さえずりにも聞こえる明るい声で、問うた。
「ユエさんはお花見したことありましたか?」
 その問いを受け、ユエリャン・李(aa0076hero002)はふうむ、とその紅梅にも似た色合いの髪に手櫛を通す。
「元の世界では今より体が弱くて、外に出た記憶がなくてなあ」
 こうして誰かと花を見るのは我輩も初めてであるよ、と詠嘆しながら、ひょい、と小皿に盛られた唐揚げをつまむ。目に麗しい花、口ではじける美味、それを洗い流しながらも滋味をもたらす酒。ユエリャンの五感が休まる暇もなく喜びに満たされている様子を見て、凛道も相好を崩した。
「そうでしたか。春とはとても良い季節らしいですよ」
 にこやかに語りかけてくる青年の
「ところで貴様は飲まないのかね、”竜胆”」
 ユエリャンはそう凛道に呼びかける。それとは知られずに、音韻を同じくする花とその名を、ひそやかに重ねて呼ぶ。
 彼を”また”失うことは、恐ろしい。――だが、彼は失いたくない友である。だから、あくまでもひそやかに、知られぬように呼ぶ。
「まだ何を飲むか悩んでるんですよ。種類が多くて」
 凛道はその呼びかけの変化に気づくことなく、明るく笑った。
 紫 征四郎(aa0076)がにこやかに、その遠目にも鮮やかな梅林を背景にして談笑する3人の写真を撮る。視力の弱いリュカに、あとでゆっくりと光景を、楽しさを追体験してもらうためだ。
「どの梅の木もすごく大きいのです。実家を思い出しますねぇ」
 今は帰れないそこに想いを馳せながら、征四郎は撮影済みのデータを素早く確認する。何枚目かに料理に彩として添えられた梅の花を見つめて微笑むリュカが写し出された。その次は梅を眺めるユエリャンの横顔、そして次はこちらを向いて穏やかに微笑んでいる凛道。それらを確認しているうちに、ふと涙が溢れそうになる。楽しいのに、この梅の花の姿がどうしても故郷を、あの我が家を記憶から呼び起こしてしまう。
「(――もう、帰れないままになってしまう、気がするのです)」
 液晶画面に映るその花が薄く水の膜でぼやけてくる。と、優しく肩を叩かれた。画面から目を離して見上げると、リュカが梅酒の入ったコップを傾け、ふふーふ、と笑いかけてくる。
「また実家の方行くなら……お兄さんは、いつでもお誘い待ってますよ?」
 いつもの、なんでもないようなやわらかな言葉。だが、それが励ましであることを、征四郎は感じる。そう、この春を共に過ごし、これからの春も過ごしたいと互いに願う、そんな彼の言葉に、励まされる。
「……はい、いつか、いつか行くのです!」
 涙を指でぐっと拭い、征四郎は笑った。諦めなければそれはいつか叶うのだと、決然とした思いを胸に抱いて。それを見ていたユエリャンが、大きく頷いた。
「うんうん、おチビちゃんはその顔のほうがいい」
「……ユエリャン」
「ん?」
「征四郎も”おチビちゃん”じゃなくて、”征四郎”がいいです!」
 なるほど、凛道を名前で呼んだのに気づいたか、とユエリャンは少し考えを巡らせ――相変わらずの眠そうな目で、にやりと笑ってみせた。
「ふうむ、おチビちゃんは今少しおチビちゃんであるなぁ」
 そんなあ! と頬を膨らませる征四郎に、ほうらむくれた、やっぱりおチビちゃんだとユエリャンが笑う。そのやりとりにリュカと凜道は顔を見合わせ、くすくすと笑い交わすのだった。

 そこから遠くないテーブルで、青年がふたり、杯を交わす。
「いつか一緒に飲める日まで、俺はお預けだ」
 言いながら、賢木 守凪(aa2548)が笹山平介(aa0342)の持つ杯に清酒を注ぐ。小さめの紙コップにたっぷりと注がれたとろみのある透明な液体を、平介は少しの心苦しさを感じながら見つめる。だが、ここで杯を干さないのも失礼な話だ、と思い直した。
「いただきます……♪」
 ぐ、と飲み干す。喉を通る甘さを味わった後、返杯としてにこやかに守凪の持つ紙コップにジュースを注いだ。うれしげに少年――青年になりかけの――が、笑う。
「乾杯、だな」
 同じように、一気に杯が干される。平介は微笑んで、目の前の銀髪をそっと撫でた。
「君が二十歳の時は一番最初にお祝いをするから。……そうしたら、一緒に飲みましょう」
 その言葉に喜びを感じながらも、守凪はほんの少し、平介の敬語に心の遠さを感じる。互いに大事に思っている。なのに、自分が庇護されているというその実感が、辛い。早く心身共に彼に追いついて、傍で過ごしたいのに。――そんな思いを気取られぬよう、すっと目の前の肴に箸を伸ばした。平介が選んでくれた焼き肉と焼き魚、それに花見団子。どれも食べた経験のないものだ。まずは肉を口に放り込むと、じゅわ、とうまみが口に広がる。きっと酒に合うのだろうな、と守凪は未来の味覚に思いを馳せた。
「美味しいな」
「ふふ、よかった」
「平介もちゃんと食べるんだぞ?」
「ええ、一緒に食べましょうか♪」
 酔いが回ってきたのか、ほんのりと赤らんだ頬をほころばせて平介が団子を口にする。守凪の視線の先を追うと、艶やかな花を咲かせた梅の梢が目に入る。
「……来年も一緒に見られるかな」
 そんなふうに平介は、心の内で未来を想うのだった。
 
 そうした穏やかな空気の向こう側に、花より団子を徹底する者達がいた。
「花を愛でる? そんなものは富裕層の貴族趣味と言うものですよ」
「腹が減っては正義は出来ぬ!」
 鋼野 明斗(aa0553)とドロシー ジャスティス(aa0553hero001)が、人のまばらなテントでひそかに拳を突き上げた。社会批判っぽい、そうあくまでそれっぽいというだけの言い分で、腹を満たす為にこの地にやってきたのだ。
「花の見えないところはさすがに人も少ないな。折角だし、互いに好きなものを取ってきたらここに集合だ」
「了解!」
 ドロシーは明斗の言葉に素早く敬礼を返し、あとは脇目もふらずに屋台へと突撃していく。それを見届けて明斗も同じく駆けだした。彼らの目に花など入ってはいない。ややあって、明斗が先に戻ってきた。
「こんな感じか」
 明斗のトレイにはグリーンサラダとフィッシュ&チップス、ロールキャベツ、そしてホットコーヒー。野菜メインかつ普段食べないものをチョイスした、バランスの取れた品揃えである。席について屋台のほうを眺めていると、ほどなくしてドロシーが満面の笑みを浮かべて戻ってきた。
「うまいの持ってきた!」
 明斗は強炭酸コーラのしゅうしゅうという音が響くそのトレイを覗いて、ほんのちょっとだけ絶句する。ケチャップをたっぷり絡めたナポリタン、同じくケチャップべったりのアメリカンドッグ、またもケチャップたっぷりのオムレツ。しかもオムレツは、正確にはオムライスだ。
「どんだけケチャップ好きなんだよ!?」
 まごうかたなきB級グルメ、ジャンクフードの集大成。炭水化物&ケチャップとコーラの糖分で血糖値が恐ろしいことになりそうな品々に明斗は思わずそう叫んだが、ドロシーは意に介さない。
「うまそうだろう! だがやらん!」
 そう返すと、席に着くと同時に猛然とそれらをかきこみはじめた。口の周りを紅梅よろしく真っ赤に染めた彼女の表情は、本当に幸せそうである。
「…仕方ないか」
 そのさまに毒気を抜かれ、明斗はまったく、と苦笑しながらゆっくりとロールキャベツを口に運んだ。幸せなら、それでいいだろうと感じながら。

 同じテントに、打って変わって再び静かな空気を漂わせるふたりがいる。
「この匂いは好きだ」
 ゼム ロバート(aa0342hero002)が、ここにも漂ってくる梅の香を楽しみながら、ちびりと杯をなめた。ワンドリンク、というところに物足りなさは感じるが、梅に酔うのも悪くはない。
「注ぎますよ? たっぷりどうぞ」
 隣に座るイコイ (aa2548hero002)は、ゼムの酒瓶が残り少ないのを見て自分の分を注ごうとする。ゼムはそれを押しとどめて、イコイの瓶を取り上げて相手に酌をした。
「……お前も飲め」
「おや、酔わせて何かするおつもりで?」
 冗談交じりに肩をすくめてみせるその美貌の人は、けれど一気に杯をあおってけろりとしてみせた。その見た目に似合わぬ剛毅な一面に、なるほどこれも風流か? とゼムは自分の取り分を飲み干した。大きく伸びをし、人が少ないのをいいことにパイプ椅子を複数使ってごろりと寝転んだ。――頭は、イコイの膝の上だ。
「……はしゃぎすぎですよ」
 そこまでアルコールに強くないのか、ゼムは目を閉じて生返事を返すだけだ。本格的に寝入りそうな雰囲気に、イコイは人知れず微笑む。
「写真を……いえ、無粋ですね」
 そうして2人は、ゆるいまどろみのような時間を”唯一”と共に過ごすのだった。

●梅の薫りを纏って歩む
 まどろみと喧騒の外、梅園には明るい声が多く響く。
「花は桜木、人は武士! でも梅も好きだよ。飛梅伝説とかいいよね」
 不知火あけび(aa4519hero001)が、のんびりとした足取りで歩みながら言う。何歩か先に進んでいた日暮仙寿(aa4519)が飛梅? と振り返った。
「道真公の?」
「そう! 主人を追ってはるか太宰府まで飛んでいく、忠実な姿はまさに侍!」
「花まで侍にするのか……」
「実際、花言葉なんだよ?」
 他にもいくつかあって、と花言葉を継ごうとして視線を仙寿に戻すと、彼はいつのまにか隣の小道に移動していたらしく、その姿は間にある白梅に埋もれていた。――同じ色が重なっていながらなお際立つその姿は、まさしく花言葉通りの”高潔”。その佇まいに、ふ、とかつての世界に居た、師の姿が重なった。
「……なんだよ?」
「あ、えっと、花びらが髪に付いてるなーって」
 こちらに戻ってきながら怪訝な顔を隠さない仙寿に、あけびはごまかすように手を振り、髪についた花弁を手に取る。その色に、またあけびは物思いに沈む。
「(……飛梅、か。私がこの世界に来たのはそういう事なのかも)」
 目の前のこの人は師ではなく、別世界の別人。けれど嬉しかった。別人とは思えなかった。かつての世界では敵同士だったあのひとに、今度こそ笑って手を差し伸べられる――そんなあけびの思考は、他でもない仙寿の声で断ち切られた。
「梅色だ」
「……え?」
「紅梅の中のお前は色が被る。けど何ていうか、目立つ。……見失わないからいいけどな」
 その言葉にあけびが振り返ると、なるほど背後に満開の紅梅が何本もあり、自分もまた色に埋もれていたのだと知る。そして、その言葉に動揺した。この人は、私を見失わないでいてくれている。私を見てくれている。だけど、さっき私は――
「――私は、分からない、かも」
「…………」
 仙寿の眉間に皺が寄る。声に出ていた、とその表情でようやく気づいたあけびは、慌てて手をぱたぱたとごまかすように振った。
「あ、ごめん! だって髪が白梅と同じ色で」
「たかだか梅で何言ってんだよ」
 仙寿が、不意にあけびの手を引いた。前に出てずんずんと進むため表情はうかがえないが、紡がれる声はどこか優しく聞こえる。
「迷子になりそうだったから、俺も言ってみただけだ。……いいか、はぐれたら知らねぇぞ。お前の分まで団子を貰うからな」
「……苺大福じゃないんだ?」
 あけびがそう呟くと、ぎっ、と素早く振り向いた仙寿に睨まれた。だが、その手はきっちりと握られたままであることに、思わず笑みがこぼれ――その手を、しっかりと握り返したのだった。

 そのさまを近くの茶店でそっと見守る少女がいた。国塚 深散(aa4139)である。
「……邪魔しちゃいけませんね」
 距離的に声こそ聞こえないが、いい雰囲気なのは見て分かる。心を温めつつ、ふとため息が漏れた。――気づけばお一人様は自分のみ、花を愛でようとふらりと立ち寄って穏やかな時間を過ごしていたのだが、こうなってくると微妙に寂しい。知り合いを見かけはしたが、一組は先着順の特別コースに挑むのだろう、声をかける間もなく通り過ぎて行ってしまった。もう一組、仙寿とあけびは今見た通り、声をかけるべきではなさそうだ。
「春、ですね」
 そう、そこにあるのは、冬の面影を思わせる寒風の中のやわらかな日差し、咲き誇る梅、そして梅と共に目を楽しませ、舌を楽しませてくれる和菓子と抹茶。あと、仲良しな人たち……ああ、こんなにも春なのに、ちょっと、なんだか、寂しい。――ただ、その感情はあまり不快ではない。かつての自分は、ひとりを寂しいと感じること自体がなかったのだから。寂しさは、普段が寂しくないことの証明のようなものだ。
「もう一回り、してみましょうか」
 ひとり呟き、一服を終えた深散は立ち上がる。誰かに語る時のために、梅をもう一度眺めようと歩き出した。

 その近くを、にぎやかに語らいながら歩く二人がいた。
「まだまだ寒いけどさ、梅の花を見るともうすぐ春が来そうだって気分になるじゃない?」
 志賀谷 京子(aa0150)が、うーん、と伸びをしながら春に近づく空気を吸い込む。アリッサ ラウティオラ(aa0150hero001)はそれを受けて、ええ、と肯首した。
「冬に攻め込む、春の先駆けといったところでしょうか」
 新緑にはまだ遠く、寒空の下、可憐に咲く花には力強さを感じますね――そう語るアリッサに、ぬ! と京子が対抗心を覗かせる視線を向けた。
「……アリッサに詩情を溢れさせるとはやるな、梅め……!」
「はあ、……そんな大層なものではないというか、そもそも対抗心を持つところですか?」
「あはは」
 あっけらかんと笑って、京子は木々を見渡す。咲き誇る花は、どれも可憐だ。
「白い梅が可愛いね。でもアリッサには、深紅の梅が似合いそうかな?」
 写真撮ってあげる、と鞄を探る京子を、アリッサがそっと制止した。
「どうせなら、京子もともに。京子には純白の梅が似合いますよ。ほら、そこならちょうど……」
 そして2人揃ってすみませーん! と、紅白の入り交じる道に向かって声をかける。振り向いたのは、気を取り直して梅を愛でていた深散だ。内心の喜びを隠しながら、なんでしょう? と深散が首を傾げた。
「写真、撮ってもらえますか?」
「……ええ。……ええと、ここを押す、んですよね?」
 深散の指が、写真アプリを起動した京子のスマートフォンをそっとなぞった。スマホへの経験の浅さが戸惑いとなって現れているその手つきに、京子とアリッサが優しく声を掛けて案内する。そうして2人で梅の前に並ぶと、構えられたスマートフォンからぴ、と音が鳴った。
「うん、よく撮れてる! ありがとう!」
 紅白の梅の前にふたり並んだ写真を確認すると、ついでに! と京子が深散の写真を撮る。ついでついでと3人でローテーションをしながら撮られたそれぞれの写真が、それぞれの端末の画像フォルダを潤わせた。深散と手を振って別れ、京子とアリッサは茶屋にたどり着く。カフェ風のそこに隣り合って座り、メニューを開いて賑やかに語り出す。
「やっぱりここは、ここに載ってるおすすめのあったかいお茶、よね」
「お菓子はどうしましょう?」
「この上生菓子はどう?、可愛くて目でも楽しめるよ」
「食べるのがもったいなくなりそうですね」
「あ、意外とそういうタイプ?」
「京子はあっさり食べてしまうほう、でしょう?」
「さすがアリッサ! わたしのことよくわかってるね!」
 とりとめのない会話とともに、隣りに座って窓から梅の花を眺める。一息つく、何気ない癒やしの時間だった。

 その茶店の近くにある大きめの道を、春色が駆け抜けていく。
「パパ、みて! 梅が満開だよ!」
「天気も良くて、梅日和って感じだなー」
 烏兎姫(aa0123hero002)が虎噛 千颯(aa0123)の周りを跳ね回りながらくるくると跳ね回りながらはしゃいでいた。。このところ家で千颯の帰りを待っている事が多かったため、一緒に出かけられるのが嬉しいのだ。
「お空も晴れててとっても綺麗! おうちのみんなの為にも写メいっぱい撮ろうね!」
「じゃあ俺ちゃんが烏兎ちゃんを撮ってやるよ」
 思い出たくさん作ろうな、と千颯が穏やかに笑う。初めこそどう接すればいいかわからずにいたが、今はもう大丈夫。外で堂々とパパ、と呼ばれるのは不埒者として通報されるのではないかと未だに冷や汗が出るが、無理に止めることはもうしない。――この子はもう、英雄であり、本人の言う通り、我が子なのだ。
「パパとこうして一緒に遊べるの、うれしい!」
 烏兎姫は上機嫌が極まったのか、そのまま歌い出した。一足早い雲雀(ひばり)の歌に、道行く人が目を留めていく。それを携帯の動画機能で撮影しながら、千颯は烏兎姫が転ばないように、誰かにぶつからないように状況を注視する。その表情は、誰が見ても”父”である、と言うであろう慈愛に満ちていた。
「転ぶなよー。そっかー、歌うぐらい楽しいんだなぁ」
「うん! こんな素敵な日だもの、歌いたくなっちゃうよ」
 梅の彩るその景色の中で歌い踊るその姿がまさしく春のようで。
「――オレも嬉しいよ、烏兎ちゃん」
 と、千颯は誰に聞かせるでもなく呟いた。

 場所は移り、多くの人でごったがえす門前。
「ほう、梅の花! ……で、屋台はどこでござる?」
「花より団子はたまにはおさえなさいってば、もうっ!」
 小鉄(aa0213)を押しとどめ、稲穂(aa0213hero001)が梅コース2人!と係員に告げる。差し出されたお茶券と土産の落雁を有無を言わせぬ素早さで目の前の忍者に渡し、稲穂は梅園に向けて歩を進める。と、そこで「お二人とも、奇遇ッスね!」と呼び止められた。振り向くと、
齶田 米衛門(aa1482)とウィンター ニックス(aa1482hero002)が並んでいる。米衛門は落雁の包みを大事そうに抱えながら、二人に手を振りながら駆け寄ってきた。その後ろを、ウィンターが鷹揚な歩きぶりでついてくる。
「小鉄さんも、これ見て来たんスか?」
「いや、実は通りがかりでござる。スパイシーな香りを辿ってきたのでござるが……」
「兄弟の友! っとぉ、梅の様に美しく可憐なお嬢さん、宜しかったら某(それがし)とお茶でもご一緒に「あーっと!」
 さっそく稲穂に声をかけはじめたウィンターをさえぎり、米衛門は二人ににかっと笑ってみせる。
「一緒にどうッスか?」
 ――そうして四人で足を踏み入れた梅園は、まさに花の盛りで。鮮やかな色に目を奪われながら歩み、語らう。
「可憐ねー」
「稲穂さんのような可憐な方に見つめられて、梅も果報者だ!」
「可憐な梅肉ソース……酸っぱさがアクセントの焼き鳥……」
 その声を聞かなかったことにして、稲穂は 緋色の花びらの梅を見つけ、自身に似た色の花に感慨深いものを感じる稲穂、
「あ、私みたいな色の梅発見!」
「梅って色ともちょっと違った緋色なんすねー」
「梅干しを練りこんださわやかかつほくほくのポテトフライ……」
 再度、聞かなかったことにして歩を進める。
「そばめし……窯焼きピザ……イカ焼き……」
「……えーい、未練がましい!」
 腕を伸ばしてぺしっ、と小鉄の頭をはたくと、目の前のいい年した忍者が駄々っ子のように腕をばたばたと振った。
「屋台に行きたかったでござるー! 肉ー!」
「だーめ! 今日は茶店でお菓子なの! 団子じゃなくて花を楽しみなさい!」
 手を取り、小鉄をひきずるようにして稲穂は行く手にたたずむ茶店へ向かう。ひときわ大きな紅梅のそばに立つ風雅なたたずまいの家屋で、先に行って席を取っていてくれた米衛門たちが手を振っていた。
「小鉄さん、メニューどうぞッス! ここは練り切りがウリらしいッスよ」
「綺麗でござる。が、小さい……」
 がいがいわやわやしつつも花がよく見える茶店でお茶と和菓子をちまちまつつきつつ、
「桜も良いッスけど、梅も良いッスねぇ。香りがいい!」
「梅の美しさは慎ましくまた健気でもあって、華やかさはないが存在感は素晴らしいもんだ……そう、まるで稲穂さんのように」
「はいはい、それはいいから梅を楽しみましょ」
 穏やかな時間の流れと暖かな空気を堪能
「……ふむ、こういうのも悪くはないでござるな」
「でしょ?」
 いっつも、任務ばっかりだものねぇ。そうつぶやいた稲穂の声が、梅林に溶ける。
「小鉄さん、今度ハイキングとがどうッスか? 山菜採りながら!」
「山菜!」
 目を輝かせる小鉄に、ああやっぱり花より団子か、と稲穂は苦笑いを隠せない。けれど、悪くはない、と言ってくれたその心もうれしいのは確かだから。
「もー……でも、山菜もいいわね。若芽の季節だもんね」
 山菜採りの話題に加わり、話の花を咲かせるのだった。

 その茶店に、もう一組の客。
「今年の梅は紅いかな、白いかな」
 なごやかに餅 望月(aa0843)がそう呟く。
「紅梅と白梅は毎年同じだよ」
「そういう事を言ってるんじゃないの、風情よ風情」
 百薬(aa0843hero001)とそんなやりとりをしながらひとわたり歩き終え、この茶店にたどり着いたのだ。赤い毛氈の敷かれた長椅子がいかにもといった風情を添える腰を下ろして、望月はメニューを眺めた。
「けっこう選べるねー。和菓子もいいけど、ここは甘酒かな。まだちょっと冷えるから」
「ワタシは、んー、お菓子とお茶をいただきます」
「お、食べられる梅があるよ」
 その言葉に、百薬が『すっぱいよー』と言わんばかりの表情をする。その渋面に望月はあはは、と笑ってメニューの写真を指差した。
「食べる梅は梅干しだけじゃないよ。ほら、甘露煮」
 そうして注文した甘酒と甘露煮にそれぞれ舌鼓を打ちながら、2人は梅とたわむれる野鳥を探す。
「鳥さんいっぱいだねー」
「でも、緑のばかりよ」
「それ縁起いい奴じゃないの、鶯(うぐいす)かな」
 確かにこれは『梅に鶯』と俗に言うめでたい景色に似ている。だが残念ながら、正確を期して言うとそれはメジロであった。メジロが蜜を求めて梅の花をくちばしで探ると、花びらがときおりはらりと落ちる。
 だがそれが地につくことはなかった。シュッ、シュッと風切り音を立てて、男の手が花びらを掴むのだ。
「シャドーで花びら掴むとか、どこのボクサーさんですの」
「いや、やるだろ。こういうの見たら」
 手の主は、腹ごなしも兼ねて梅林のほうへ来ていた龍哉である。ぱちぱちぱち、と後ろから聞こえた拍手に振り向くと、見知った顔がにこやかに自分の業(わざ)をたたえている。
「おー、お見事」
「ん? ああ望月か」
「こんにちはー」
「百薬さんも、こんにちはですわ」
 龍哉をあきれ顔で見ていたヴァルトラウテも、にこやかに一礼する。せっかくだから一緒に歩きましょう、という彼女の提案に、にぎやかー、と望月の不思議な同意が加わった。

 その行く先にいるのは、金色の少女と翠色の少女。
「今日は身体を動かす事は少なそうだから、私に合わせる、と?」
「うん、それにあたしが団子派ってのは認めるけどさ~、花に興味ないわけじゃないんだよ?」
 怪訝な顔をする月鏡 由利菜(aa0873)に、ウィリディス(aa0873hero002)はぷっと頬をふくらませてみせる。
「特に梅干しは、昔から薬や陣中食として親しまれてきたし」
「やはり食べるのですね……」
 眉根を押さえつつ、由利菜はウィリディスと並んで歩く。歩調を合わせて進む傍らの少女は、かつて亡くした親友に、あまりにも似ている。その姿が思い出に重なり、ふと言葉がこぼれた。
「昔は……詞音と地元の公園へ花見に行ったこともありましたね」
「ん~、あたしも前世のお花見の記憶はあった気がする」
「……! 本当ですか!?」
 何気ない言葉に由利菜が弾かれたようにこちらを向くので、ウィリディスはその中に何かの期待を感じ取る。でも、と言いにくそうにして俯いた顔から、緑の髪が垂れた。
「……聖堂の庭園で神官や司祭っぽい人達と談笑してる光景。ユリナは、いなかったよ」
「……そうです、よね」
 気にしないで、とすまなさそうに返して、由利菜は思索に沈む。この世界と似た世界も存在はしているが、英雄は普通”異なる世界”から現れる。似ているとはいえ、リディスが詞音の転生体とは考えにくかった。
「(聖堂の庭園、それに神官や司祭……?)」
 ――いったい、彼女はどんな世界からやってきたのか。その姿が似ているのはなぜか、わからないことに気が沈む。と、「ねえ、花!」と、ウィリディスの声がした。視線を向けると、ウィリディスが花の咲き誇る梢を見上げている。
「……あたし、まだラシル先生には敵わないけど」
 もっと人を救える強い力が欲しいよ、と小さく告げてくるその横顔は、ウィリディスのもの。姿は似れど、彼女は英雄、共に歩み、戦う者。は、とそんな前提に改めて気付き、由利菜がこくり、と頷いた。
「……私も、同じ思いです」
 梅の花と実のように、不即不離であれ。そんな想いとともに花を見上げる。せっかくの盛りなのだ、物思いばかりでは勿体ない。そうして2人、見上げていると、のんびりした声がかかった。
「むずかしそうな顔してるねー」
 望月の一行だ。むずかしそうな、と指摘されたその表情をほころばせて、ウィリディスと由利菜が手を振る。
「モチちゃん、ヒャクヤクちゃん! 一緒に梅の花見ようか?」
「ええ! 旅は道連れ世は情け、よね」
「龍哉さんも梅をご覧に?」
「まあ腹ごなしついでにな」
「シャドーで花びらをつかみにきたようなものですわ」
「花びらをつかむ!? 何それ教えて!」
 空気がぱっと明るくなり、総勢6名のにぎやかな一行ができあがる。まさしく花見、の風景であった。

 そしてそこからやや隔たったところで、連れ立って歩む一行がもう一組生まれていた。
「貴方達は確か……」
「……ん、確かお前は茨稀……だった、か?」
「こうしてマジマジ見たり話したり、って初めてだよな」
「確かにゆっくり一緒なのは初めて……ですね」
 茨稀(aa4720)、アリス(aa4688)、ファルク(aa4720hero001)、葵(aa4688hero001)。エージェントの仕事で顔を合わせることが多かったが、オフの時に出会うのは初めてのことだ。これを機会に少し話そう、と誰からともなく意見が出、4人で連れ立って歩み始める。――が、その列は次第に縦に伸びていき、つかず離れず、の状態になった。そして最後尾にいるアリスが、一本の白梅の前に立ち止まって花を見つめ始めた。ふと気づくと、音が聞こえてくる。その方へ振り向くと、ファルクが梅を見ては、聞いたことのない曲を口ずさんでいた。
「ん? 今の曲、か。……俺のオリジナルだ。気になるか?」
「曲作り、か。大いに気になる、な」
 にやり、と笑ってみせるファルクに、アリスは常と変わらずぼうっとした視線を投げかける。そうして、今度はアリスがファルクに問いかけた。
「曲を作るのが好きなのか?」
「好き……そうだな、好きだと思うぜ? 俺の思考が旋律になっていくのは、不思議で興味深い」
 自己開示を好まないファルクであるが、毒気のない素朴な問いかけに、自然と言葉が紡がれる。そして、それに乗ってふいに誘いの言葉がこぼれ落ちた。
「な、手伝ってみねェか、曲作り」
 手伝う? と怪訝な顔をしたアリスに、ああ、とファルクが答える。
「何かさ、足りないような気がしてな」
 自己を演出し、創り出すことには長けているつもりだったが、何かが決定的に不足していることを、ファルクは自身に感じていた。それがなんなのか、黒白のトーンが、いや、何もかもが正反対のアリスなら、分かるかもしれない。その期待を知ることなく、アリスは思考し始める。
「足りないモノ……か。そうだ、な……」
 ややあって、ああ、とアリスが曖昧にうなずき、口を開いて――
「取りあえず、上着が必須だと思う、ぞ」
 ――見たままの感想を述べるものだから、思わすファルクは前につんのめりそうになった。
「これは俺のポリシーだ!」
 その反論に、そうか、とだけぼんやりと頷いたアリスは、また白梅に視線を戻す。その隣で、ファルクも白く咲き誇る梢を見上げた。
「……梅の次、は、桜の季節、か」
「桜は華やかだが、梅のような気品は無いな」
「どちらにせよ、いずれは散る。所詮はそういうモノ、だな」
「ならば、その運命に逆らってみせようか」
 噛み合っているのかいないのか、やりとりが続く。ファルクはその中に、汲めども尽きぬ興味深さを感じるのであった。

 少し離れて、そんな2人を見る影がある。茨稀と葵だ。
「……貴方は、貴方にとってのアリスさんの存在は……」
 どのようなものですか、と言外に溶ける茨稀の問いに、葵はアリスとは違ったミステリアスさを感じながら、ただ一言でもって答える。
「大切な人です」
「大切な、人」
 答えをおうむがえしにして、茨稀はさらに問う。
「……もし何か有ったら? 失くしてしまったら?」
「失くす事などいたしません。……もしも、その時が来たら私も逝く運命。契約ではなく、それが私が私で在る所以ですので」
 葵がまっすぐに茨稀を見つめて、答えた。その視線の先にある葵の表情は、未知の回答に触れた戸惑いの色をしている。次に問うたのは、葵だ。
「茨稀様にとっての、ファルクさんは?」
「……ファルク、ですか」
 茨稀の視線が葵から外れ、彷徨う。しばしの逡巡のあと、葵の口が開いた。
「俺の今の在り方を肯定するけれど、干渉しない。……空気、でしょうか」
 今度は葵が未知に触れる番だった。それを、茨稀に率直に告げる。
「お二人は不思議です。……私にとっては、ですが」
「俺も、貴方達が不思議です」
 互いに、異質な思考に触れ、それをどう受け止めたものか考えあぐねていた。目線を合わせるのも躊躇われ、2人してそばの紅梅を見上げる。葵が言葉を継ごうと茨稀に顔を向けると、彼は誰に言うでもない調子で呟いた。
「……まだ、風は少し冷たいですね……」
 その横顔は薄く微笑んでいる。泣きそうにも見えるし、その表情通り何でもないようにも見えた。だが、葵はそこに確かに感情の揺れを感じた。春を望みながらも冬に居残っていることに怯えるような、日陰に凝(こご)る残雪のごとき心持ちが見えた気がして――何を恐れているのだろうか、と考えながら、葵はその視線の先にある梅を見つつ、決然とした口調で語った。
「陽は暖かくなりました。……冬は春のための季節、否が応でも春は……来ます」
 冷静な態度を崩さず、けれど突き放すわけでもない言葉に、茨稀は葵のほうへ視線を向ける。目と目がかちあい、ああ、と感嘆の息が漏れた。
「貴方達は、……そう、凛とした梅のよう、ですね」
 それを賞賛ととり、葵は微笑んでみせる。――そして太陽は確かに、4人を静かに暖めていた。

 そんな会話からさらに隔たり、静寂のうちにいる者達もいる。
「……彼女達、残念だったわね」
「うん、まぁ、仕方ないさ」
 マイヤ サーア(aa1445hero001)と迫間 央(aa1445)が、普段通りのドレスとスーツ姿でふらりとそぞろ歩いている。元々恋人と行く都合がつかず、もと本職である副業が年度末の繁忙期を迎える前に、と散歩に向かった央を、マイヤが気遣って伴連れになった、という格好だ。
「あまり梅の花見なんてした事なかったけど、まぁ、悪くないかな」
「赤いですね」
「白いのもあるけど、梅と言われると赤だよな」
 そんなふうに語らいながら、マイヤが退屈していないかを気に掛けつつ園内を一周し、梅園の入り口近くに建つ茶屋に陣取る。央の注文に「私も同じものを」とマイヤが店員に告げた。――普段は幻想蝶からあまり出ず、飲み食いもしないマイヤが合わせてくれている。その事実に、央の心は暖められた。ぐっと茶を飲み、梅を見ながらも傍らに座するマイヤへ語りかける。
「今日は付き合ってくれてありがとう……マイヤがいつも一緒に居てくれるから、俺はやっていけてるんだと思う」
 その言に、金の瞳が見開かれ、すぐに細められた。視線を合わせることはないが、春のようにやわらかな言の葉が、冬のように蒼と白で構成された姿からこぼれ落ちる。
「……ワタシだけでも、ちゃんと足りてるかしら?」
 今度は央が目を細める番だった。足りているもいないも、マイヤは誓約を結んだ英雄で、己の立脚点で、守るべき人だ。恋人とはまた違った存在なのである。その存在を感じながら、ただひとことだけを返す。
「勿論、贅沢なくらいだ」
 この茶屋のおすすめ、とあったので頼んだ苺大福をかじりながら、央は大きくゆっくりとうなずく。春の陽、にふさわしい、優しい時間だ。
 ――そのまま穏やかな時間を過ごしていると、見知った顔がこちらにやってくるのが見えた。どういう関係なのか掴みかねる英雄、あけびも一緒だ。
「あ、日暮さん」
「央か。……あけび、ここで茶にするぞ」
「? ……! はーい! マイヤさん、何食べてるんですか?」
「苺大福、ですね。おすすめだそうです」
「……ふむ、ではその”おすすめ”、を頼むか」
「はいはい、”おすすめ”ね」
 そのやりとりに、央はほんの少しだけ違和感を感じる。
「(なんかちょっと”おすすめ”を強調してる……おすすめだから仕方ない! って断言してる感じの……)」
 かといって、本人に直接聞くのもためらわれる。少し考えた後で、口には出さずこう結論づけた。
「(……甘い物が嫌いなのかな)」
 かくて、仙寿のささやかなプライドは守られたのであった。

 そんなのどかな風景を擁する多くの茶屋のひとつで、花見で一杯、と茶を飲むのは天海 雨月(aa1738)と艶朱 (aa1738hero002)だ。
「春だなー」
「春だなァ」
 ずず-、と揃って茶を飲む。雨月は両手で優雅に、艶朱は片手で豪快に。ふう、と揃って息をつくと、雨月がことり、と首を傾げて艶朱に問うた。
「艶朱、出店じゃなくて良かったんだ? 向こうは酒あるのに」
「ま、折角の梅園だし、偶にゃこういうのもな!」
 けらけらと笑い、いい眺めだなァ、と艶朱は周囲を眺め渡した。紅梅と白梅がほどよいバランスで見える景色に、絶景かな、と満足げに目を細める。歩き回って近くで見るのもいいが、遠景もまた格別――そう語ると、なァ? と雨月に同意を求めながら、答えを待たずに言葉を継いだ。
「お前はどっちかっつゥと紅梅のが似合うよな! 白いし」
「白いしって」
 雨月はくすり、と小さく笑う。たしかにこの遠景もよいものだ。そして、それなら彼に似合うのは、と思いを巡らせ、ふわりと口を開く。
「んー、それなら艶朱は白梅のが似合う、紅いし」
 その言葉に艶朱は、然(しか)り! と再びけらけらと笑ってみせた。常と変わらず豪放ではあるが、常と違いそうやかましくないその居住まいに、珍しいなぁと雨月は微笑む。折角の風情ある梅園、だからなのかと考えると、来てよかった、と実感する。
「お土産の落雁、喜ぶかな」
「お前が渡せば割となんでも喜しいと思うぜ。渡し方次第だけどな」
 今日はここにいない、家で待つあの気難し屋の表情を思い、2人は顔を見合わせて笑うのだった。

 その遠景の中を、貴婦人と青年が歩いている。
 Jennifer(aa4756hero001)がストールを羽織り、日傘を品よく畳んで優雅に歩む。その姿は、まさしく貴婦人、といった風情であった。そして、その傍らには野暮ったさはないが地味な服の青年、小宮 雅春(aa4756)。連れだって梅林を散策するその様子は、墨で雪をあらわす、水墨画に似ていた。貴婦人と従者のように歩みつつ、小休止を挟みながら梅を楽しんでいた2人だが、”パートナー”であるJenniferへの気遣いからか茶店を素通りしようとする雅春を見て、ふ、と仮面の下で表情が動く。
「疲れちゃったわ、休憩しましょう」
「え、でも、」
「座りたいのよ。いいでしょう?」
 雅春はううん、と難色を示すが、結局Jenniferに押し切られる形で店内席に着き、茶と菓子の注文をする。Jenniferは自身を人形と呼んで憚らず、食事を摂らない――結果、水だけがテーブルに置かれたJenniferの側を見て、茶と菓子のトレイを受け取った雅春は恥じ入るような態度を見せた。
「気にしないで。貴方が美味しそうに食べている顔を見ると、私も幸せになれるの」
 仮面の下に現れた微笑みの形を感じ取ったのか、雅春は頬を人差し指でぽりぽりと掻き、ふっと遠い目をした。
「……小さい頃にも、おんなじことを言われた気がするな」
 《ジェニー》のこと? とJenniferが尋ねると、そう、と雅春がゆっくりと頷いた。
「小さい頃は夜にしか会えなかったから、こうやって色んな所を歩いて回れるのが嬉しいんだ。……また来年も、ジェニーと一緒に梅の花を見れるといいな」
「ふふ、そうね。また来年、ね」
 仮面の下、Jenniferの笑みが嘲りの形に歪む。雅春が語り、自分と重ね合わせている《ジェニー》とやらに何があったのかは知らないし知る気もないが、こうしてくるくると手の平で踊る存在は、愉快だ。
「(……こいつは見ていて飽きない、もう少し楽しませてもらうとしよう)」
 そんな歪で黒々とした思いを露知らず、雅春は嬉しげに菓子を咀嚼している。
「わー、おいしい! お茶に合う!」
 その反応は、裏表のない素直なものだった。

 仮面の貴婦人が憩う場の反対側では、狐と鬼とが憩っている。
「桜も美しいが、かわいらしい梅を愛でるというのも雅さ。そうは思わないかね?」 
 そう狐杜(aa4909)は蒼(aa4909hero001)に語りかける。帰ってきたのは、淡々とした声。
「……悪くないな。貴様の御守りをしながらというのは癪だが」
「おや、ひどい言い方だね。はぐれないよう見てあげているのに」
「はぐれるのは貴様だろうが」
 蒼の対応は常と同じくつっけんどんな口ぶりだが、声は常よりほんの少し柔らかい。梅の花と梅の香を楽しんでいるのだ。狐杜がいることが気にくわない、という風情をありありと醸し出してはいるが、梅園自体は楽しい、と思っているらしい。それを知ってか知らずか、狐杜はくすくす、ちお笑って木々の向こうを指差した。
「さてアオイ、わたしは小腹がすいたのだよ。あそこの茶屋で休憩しないかね?」 
 ゆったい茶を飲みたいねえ、と狐杜がいつも語り口でもって、楽しげに足を茶屋に向ける。そして大袈裟なため息があとに続いた。行き先の茶屋には大きくはないが花付きのよい梅があり、侘びた風情をもってその場を彩っていた。二人して腰を下ろし、茶と団子を頼む。
「梅はぽっぽっと咲いて、美しいというよりもかわいらしいという言葉がよく似合うのだよ。そんな姿がまた愛らしいね」
 もぎゅ、と団子に齧り付きながら、狐杜はサングラス越しに梅の花を愛でながら言った。きらきらと注ぐ快晴の太陽は、いいお日和ではあるのだが、光に弱い彼には辛い。それでも楽しげなのは、蒼と同じく梅の香も楽しんでいるからだろう。
「……貴様が言うのが気に入らんが、確かに梅は愛らしく咲くな」
 顔を合わせたくないとばかりに背中合わせに陣取っている蒼が、苦虫を噛み潰したかのような渋面を想像できる声で同意してくる。そのさまに、狐杜はくつくつと笑いをこぼすのだった。

 そんな春の喧騒の外、梅園のはずれに、冬を惜しむ二人がいた。
「……わたしたちの季節も終わりかぁ」
 氷鏡 六花(aa4969)が寂しげにこぼすのを、アルヴィナ・ヴェラスネーシュカ(aa4969hero001)が切なげな面持ちで見つめる。ペンギンのワイルドブラッドである六花と、己の世界では氷雪を司る女神であったアルヴィナ。彼女達にとって、春は自分たちの世界が去りゆく季節だ。寂しさを隠せず、とぼとぼと歩く。視界に映るのは家族連れ、恋人達、友人と思わしき人々。その幸せそうな光景に、六花は悲しげに俯いた。自分にないもの、両親が愚神の手にかかり命を落とした自分にない、その世界。
「……六花」
 アルヴィナが立ち止まり、そっと六花を抱きしめた。手は優しく頭を撫で、その哀しみを受け止めるかのようにとんとん、と落ち着いたリズムで背を叩く。ぐす、と鼻を鳴らす腕の中の少女に、アルヴィナはつとめて明るく声をかけた。
「お茶にしましょう。ほら、あそこ」
 ほど近いところに、小さな茶屋、というよりは待合所に近い作りの店がある。寒さを避けるためだろう、大きなガラスの嵌め込まれた壁の中に人は多いが、オープン席である毛氈敷きの縁台には人が居ない。そこに2人して座り、やってきた店員に団子と、冷や茶を注文した。
「……ご用意できますけど、お寒くございませんか?」
 体を案じているのだろう、少し困ったように店員が聞き返す。大丈夫ですよ、とアルヴィナが笑顔で返すと、注文を復唱して去り、ほどなくして団子と冷や茶が運ばれてきた。六花がもぐ、と串に刺さった団子をひとつ頬張る。その視線は、視界にけぶる白梅に注がれていた。
「……アルヴィナみたい」
 ふっと、実感が六花の口からこぼれる。白梅は白く輝き、美しく咲き誇る。春の花だというのに、その雪のようなさまが隣に座る に似ていて。――その言葉を聞いて、アルヴィナはたまらず六花を肩から抱きしめた。氷雪のごとき体温が、ペンギンの特質によくなじみ心地よい。
「……ありがとう」
 目の前にある、自分を抱きしめる白い腕を撫でながら、そう感謝を告げる。見上げたアルヴィナの表情は、穏やかな微笑みをたたえていた。六花も微笑み返し、食べよう、と手つかずになっていたアルヴィナの団子を差し出す。
「ええ、いただいたらまた梅を見て歩きましょう」
 言って、2人で団子を食べ終える。店員に冷や茶の礼を言い、席を立った。今度は、手を繋いで。幸せな人々の群れに歩み立ち戻る、その瞬間に、アルヴィナが六花のつむじを見つめて告げた。
「……ねえ、六花」
「なに?」
「私がいるから……私が、六花の家族よ」
 その言葉に、六花は視線を上げる。そしてアルヴィナの顔を見つめて、春に相応しい、花の笑顔を見せた。
「……うん!」
 次の冬もいっしょだよ、と六花が語る。春を過ぎ、夏と秋を過ごしてまた来たる冬を待つため、2人は歩み出すのだった。

●眼下に広がる紅白は
 そんな数々の情景を梅林とともに眺め渡すことのできるビルにて、三組のペアが創作和食を楽しみに席についていた。うち二組はテーブルをぴったりと並べており、4人一組の賑やかな会食の様相を呈している。
「お腹すいた……まだかなあ……」
「……お前、朝飯もガッツリ食ってただろ?」
 テーブルに頬杖をつき、しぼんだような弱々しい気迫の御童 紗希(aa0339)がぼやくのに対して、カイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)が鋭くツッコむ。確かに先着3組6名様限定、を勝ち取るために朝は多少早かったが、そこまで空腹になるものか? とカイは多少呆れながら、窓際に飾られている梅の鉢植えを指差した。
「ほら、梅の鉢植え。花も愛でろよ花も。梅の香りだぞー」
「……途中の屋台の匂いのほうが強烈で……おなかすいた……」
 ぐう、と紗希の腹時計が何度目かの時報を打つ。とはいえ、こういうお高めの創作料理は急かしたから出てくるものでもない。文字ばかりが並ぶメニューからその美味を想像しつつ、紗希はむー、とテーブルにまた頬杖をつきなおした。
「ほんと、食欲旺盛だよなぁ」
 それを斜向かいの席から微笑みで眺めるのは、麻生 遊夜(aa0452)だ。その言葉は紗希のみならず、ユフォアリーヤ(aa0452hero001)にも向けられている感慨なのだが、ユフォアリーヤはそんなことは露知らず、特別価格のお料理を心待ちにしていた。
「おっりょうりおりょうり、特別価格♪」
 ぱたぱたぱたぱた、と椅子の隙間から出した尻尾が揺れる。美味なる香りが漂ってこないかと鼻をくんくんと鳴らすさまが、大きな期待を物語っているようで愛らしい。
「戦場を駆けた甲斐があったってもんだ」
「連携の成果だな、あっちゃん!」
 遊夜とカイがうんうんと満足げに頷きあう。受付までの経路、出店の混み具合による動線の変化、そして素早い申し込みと料金の支払い――あらゆる要素を考慮して編み出したルートは期待に応えてくれた。最悪男2人で『地獄の梅を愛でる会』も覚悟していただけに、4人で食卓を囲める喜びはひとしおである。そんなふうに感慨にふけっていると、お待たせいたしました、と声がかかった。運ばれてくるのは、梅肉を練りこんでいるのであろう、薄い紅色がやさしげな豆腐がひと椀。
『……これだけ?』
「これからまだ来るんだっつの、恥ずかしいこと言うな!」
「コース料理だからなあ、最初からどーんとは出ないさ」
 声をそろえて首を傾げた紗希とユフォアリーヤの言葉に、カイのツッコミと遊夜の苦笑が返る。次の瞬間には
「おいしい!」
「さわやか!」
 と喜びの声が上がり、穏やかな談笑が始まったのだった。

 一方、談笑のようなそうでないような会話を交わすふたりがいる。
「君のことを思うと胸が一杯だよコース……」
「何を考えてつけたんだろうか、そのコース名」
 桜宮 飛鳥(aa2427hero001)の冷静な指摘も、しかし雪峰 楓(aa2427)には届かない。頭の中ではぐるぐると想像、否、妄想が渦巻いているのだ。
「(! それにこの状況、もしかして……お食事→結納→結婚、そしてあれやこれやの流れ!? そそそ、そんな! そこまで!?)」
「……おーい、どうした楓?」
「……はっ!? どうしました飛鳥さん?」
 完全に白昼夢にひたっていたらしい楓の反応に、いつものことだが一体何を考えてるんだろうかこいつは、と飛鳥が嘆息する。傍目に見れば愉快なやりとりをしているうちに、料理が運ばれてきた。向かい合わせでいただきますと手を合わせ、小鉢に上品に盛られた野菜や、漆塗りの椀に盛られた米や汁物に箸をつける。この祭りの目玉として宣伝されていただけのことはある美食ではあるが、飛鳥はふむ、と首をひねった。
「この世界の物は味が濃いな。見たことも無いものも並んでいるし」
「まあ、創作料理だって話ですからね。お野菜もお米もだいぶ魔改造されてます」
 咀嚼していた魚の煮付けを飲み込み、楓が答えた。和食とはいえ、飛鳥のいた世界にはなかった調理法や味付けが目白押し、といった風情の料理だ。薄味に慣れていると濃く感じる――と頭に言葉が巡ったあたりで、楓の思考はふたたび飛躍した。
「……アレです、家庭の味とか作っちゃいますか?」
「……???」
 つまり『2人で家庭を築いてみませんか』とほぼ同義の言葉ではあるが、いかんせん飛躍の結果であるため、飛鳥には伝わらない。首をひねる男装の麗人に内心でがっくりと肩を落としながら、ふ、と楓は外を見やった。眼下の梅園では、人波に負けない勢いで木々が咲き誇っている。
「桜じゃなくて梅なんですね。昔の日本人は、桜よりも梅を見ていたって言いますけど」
「私も桜より梅が好きだが、まあ……」
 言いながら、ふ、と飛鳥の脳裏に思いがめぐる。桜ばかりが風流ではないが、桜の華やかさが、春が待ち遠しいのも、また真実だ。
「……花はどこに行こうと、なんであろうと、良いものだ」
 我知らず微笑む飛鳥のたおやかな横顔に、楓はただ見惚れる。中天にかかる太陽はまだ低いが、それでも確かな力強さをもって二人を暖めていた。


 そうして今日の日は終わり、ほんの少しあたたかな明日がやってくる。――その後にいずれ来る春の盛りを前にして、エージェントたちは憩うのだった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 断罪者
    凛道aa0068hero002
    英雄|23才|男性|カオ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 全てを最期まで見つめる銀
    ユエリャン・李aa0076hero002
    英雄|28才|?|シャド
  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
    人間|18才|女性|命中
  • アストレア
    アリッサ ラウティオラaa0150hero001
    英雄|21才|女性|ジャ
  • 忍ばないNINJA
    小鉄aa0213
    機械|24才|男性|回避
  • サポートお姉さん
    稲穂aa0213hero001
    英雄|14才|女性|ドレ
  • 革めゆく少女
    御童 紗希aa0339
    人間|16才|女性|命中
  • アサルト
    カイ アルブレヒツベルガーaa0339hero001
    英雄|35才|男性|ドレ
  • 分かち合う幸せ
    笹山平介aa0342
    人間|25才|男性|命中
  • どの世界にいようとも
    ゼム ロバートaa0342hero002
    英雄|26才|男性|カオ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 沈着の判断者
    鋼野 明斗aa0553
    人間|19才|男性|防御
  • 見えた希望を守りし者
    ドロシー ジャスティスaa0553hero001
    英雄|7才|女性|バト
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 花の守護者
    ウィリディスaa0873hero002
    英雄|18才|女性|バト
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
    人間|25才|男性|回避
  • 奇稲田姫
    マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • 我が身仲間の為に『有る』
    齶田 米衛門aa1482
    機械|21才|男性|防御
  • エージェント
    ウィンター ニックスaa1482hero002
    英雄|27才|男性|ジャ
  • 綿菓子系男子
    天海 雨月aa1738
    人間|23才|男性|生命
  • 口説き鬼
    艶朱aa1738hero002
    英雄|30才|男性|ドレ
  • プロの変態
    雪峰 楓aa2427
    人間|24才|女性|攻撃
  • イロコイ朴念仁※
    桜宮 飛鳥aa2427hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • コードブレイカー
    賢木 守凪aa2548
    機械|19才|男性|生命
  • Survivor
    イコイaa2548hero002
    英雄|26才|?|ソフィ
  • 喪失を知る『風』
    国塚 深散aa4139
    機械|17才|女性|回避



  • 悪食?
    逢見仙也aa4472
    人間|18才|男性|攻撃
  • エージェント
    クリストハルト クロフォードaa4472hero002
    英雄|21才|男性|シャド
  • かわたれどきから共に居て
    日暮仙寿aa4519
    人間|18才|男性|回避
  • たそがれどきにも離れない
    不知火あけびaa4519hero001
    英雄|20才|女性|シャド
  • クールビューティ
    アリスaa4688
    人間|18才|女性|攻撃
  • 運命の輪が重なって
    aa4688hero001
    英雄|19才|男性|ドレ
  • ひとひらの想い
    茨稀aa4720
    機械|17才|男性|回避
  • 一つの漂着点を見た者
    ファルクaa4720hero001
    英雄|27才|男性|シャド
  • やさしさの光
    小宮 雅春aa4756
    人間|24才|男性|生命
  • お人形ごっこ
    Jenniferaa4756hero001
    英雄|26才|女性|バト
  • 今を歩み、進み出す
    狐杜aa4909
    人間|14才|?|回避
  • 過去から未来への変化
    aa4909hero001
    英雄|20才|男性|ジャ
  • 絶対零度の氷雪華
    氷鏡 六花aa4969
    獣人|11才|女性|攻撃
  • シベリアの女神
    アルヴィナ・ヴェラスネーシュカaa4969hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
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