本部

【絶零】連動シナリオ

【絶零】アメリカ『解放』作戦

岩岡志摩

形態
ショート
難易度
難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
多め
相談期間
5日
完成日
2017/02/26 19:37

掲示板

オープニング

●切り札
 世界のどこかにある建物。コンクリートの分厚い壁に隠された大部屋で『シーカ』の幹部達は、傍らに控える愚神ニア・エートゥスへ愚神達の最新の動向を問う。
「申し上げる必要はありま――」
 拒絶の意志を示そうとしたニアに向け、フランツ・フォン・ノイラートが手元に取り出した『何か』をかざす。
 一瞬ニアは抵抗するそぶりはみせたものの、頭を垂れて跪き、フランツや他のシーカ幹部たちの望む情報を流す。
「結構だ。ロシアもアメリカの『調停』も問題なく機能している」
 情報を吟味したフランツは満足そうに頷き、先程ニアに向けた『何か』を高々と掲げ、宣言する。
「これがある限り我々は愚神達を制御できる。これこそ世界で我々シーカだけが行使できる力だ」
 ロシアや世界でいかに愚神達が暴れようが、それは全て自分達『シーカ』の『調停』でどうとでもなる。
 フランツや、その場にいた幹部達が抱いていたのは、自分達が世界の行方を左右できるという陶酔感だった。
 そしてフランツはその道具を使い、ニアに『今度はお前自身も調停に動け』と命じると、ニアは俯いて表情を隠し、一陣の風と共にその場から姿を消した。

●曲解
 そして今ニアは、アメリカ大統領補佐官ホセ・グレッグの前に平伏していた。
「証拠をH.O.P.E.に掴まれたのならば、流れる先やその家族を潰せばすむ話だ」
 ホセは暗に情報を握るH.O.P.E.の関係者を葬るようニアに命じるが、ニアは緩く首を横に振った。
「彼らの身は最高レベルの機密で守られています。守りを固めるべきかと」
「私を守るために、お前か配下の愚神を手配するのか?」
「その通りです。ご要望下されば最適な場所へ守り手を遣わします」
「ならば早急に派遣しろ」
 そうホセはニアに命じたが、今まで顔を伏せ説明していたニアが、今は自分をまっすぐ見据えている事にホセは気が付き、脳裏に不安がよぎる。
 愚神を派遣する『最適な場所』。それはまさか。
「ニア。貴様、まさか――」
 ホセが言い終わる前にニアが指を鳴らし、ホセとニアの周囲を局所的な黒い竜巻が覆う。
 竜巻に包まれたホセは悲鳴を上げるが、それも暴風に飲みこまれ、やがて沈黙する。
 そして竜巻が消えた後、ニアの前にはホセに憑依した『パラダイス・メーカーズ(楽園の作り手達)』の愚神の姿があった。
「仰る通り、最適な場所である『貴方の体』に守り手はつけましたよ。では行きますよ、『シェチ』」
 ニアはかつてホセだった存在に向けそう告げると、黒い竜巻を再び顕現してその場を包む。
 部屋の中を蹂躙した竜巻は外へと飛び出し、愚神達の姿と共に消えていった。

●反撃
 先のアメリカ政府高官リアム・ワーズへの襲撃をエージェント達が退け、その過程で得た証拠より解析できた情報から、H.O.P.E.はアメリカの『ある場所』を探り出すことに成功した。
「情報が確かなら、ここが今までシーカや愚神達が連れ去った人々を幽閉している場所、ということになるんだよね」
 ジョセフ イトウ(az0028)の話では、H.O.P.E.より情報提供を受けた、アメリカの連邦捜査局や諜報機関員達が現地に向かったところ、現地はドロップゾーンと化しており、迎撃に出た愚神によって壊滅させられたとのことだ。
「匿名の密告によると、その愚神はホセ・グレッグだ」
 そうジョセフは言って機械を操作すると、スクリーン上にある男の映像が映る。
「ホセ・グレッグ。アメリカの利権第一主義を唱え、今ではホワイトハウスの主流派を率いる大統領補佐官だけど」
 ジョセフの操作に従い、スクリーンの上に新たな画像がホセの横に並べられていく。
「その正体は、アメリカの『調停』を担当する秘密結社シーカの一員だよ。これまで派閥争いに見せかけ自分に邪魔だった人間達を配下や愚神に命じ、『処分』させてきた首謀者でもある」
 そしてホセが掲げた利権主義も、穏健派との暗闘も、アメリカの為ではなく全てシーカの『調停』を隠す偽りのもの。
 そのホセが愚神に憑依され、派閥の抗争に偽装して拉致させた人々を収容するドロップゾーンを、従魔達と共に守っているというのが、密告の内容だ。
「早い話が、ここにいる愚神化したホセや従魔を撃破して、ドロップゾーンを消去できれば、ホセ・グレッグと彼やシーカのしでかした悪事の被害にあった人達を確保でき、悪事の証拠も手に入る」
 そしてホセが率いていた利権派に、救出された人達の証言と証拠を突きつければ、シーカの『調停』を排除できる。
 そう言いながらもジョセフは『あなたたち』に『出来過ぎだと思わないかい?』と告げていた。
「この状況を作った存在や、先の密告主に心当たりがあるけど、みんなが思い浮かべた存在であっているはずだ」
 ――シーカに仕えるトリブヌス級愚神。ニア・エートゥス。
「ニアが先の事件で口にした、こういう真似をする理由の真偽はまだ不明だ。だけどアメリカからシーカの影響を排除できる絶好の機会でもある事は間違いない。だから今回全てを解決するために、お願いしたい」
 今回壊滅したアメリカの諜報機関より、報酬の増額を了承する話の他に、無線や逮捕用の拘束具一式など必要なものは『あなたたち』より要望があれば可能な限り用意し、救出した人々を病院まで搬送する護送車も人数分用意してくれるとの連絡も受けている。
 シーカからアメリカを解放する未来に繋げるために
 今、『あなたたち』の前にその機会は提示されている。

●愚神側の事情
 『手配』を終えたコート姿の老人の前に、ニアが姿を見せる。
「H.O.P.E.への密告も含め、お手数をおかけしました、ラビス殿」
 ラビスとニアより呼ばれたこの老人の正体は邪英カオティックブレイド。
 かつてエージェント達とはアル=イスカンダリーヤ遺跡の『門』で対峙したことがあり、次元崩壊の混乱に紛れ、ニアがこの世界に連れこんだ存在だ。
 そのラビスはニアの労いにこう応じる。
「あの男の道具で貴殿も参戦を強制されていると聞いた。ならばワシも貴殿に助力する」
 ラビスの言葉に応じるように、ニアの周囲に氷像の従魔達が現れ、守りを固める。
 あの男とはシーカのフランツのことだが、ニアは密かにラビスへ打ち明ける。
「道具の効果は一時的なものです。効果が切れれば引き揚げます」
 そんなニアとラビスのやり取りを横目に、元ホセ・グレッグにして愚神シェチの陽気な声がドロップゾーンに響く。
「ま、人間のときとは出来が違うってところを、俺様の『楽園』で見せてやらぁ」
 立ちはだかるは『楽園』。

解説

●目標
 大統領補佐官ホセ・グレッグ逮捕
 アメリカからシーカの影響を排除
 ※従魔の撃破数は達成度に影響しない

●登場
 愚神シェチ
 身長2m。ホセ・グレッグに憑依した『パラダイス・メーカーズ(楽園の作り手達。略称PM)』所属のケントォリオ級愚神。
 以下はH.O.P.E.への密告で伝えられた内容なので判断は自由。
 二回行動。衝撃波を放つ手甲で攻防。

 防陣
 射程3sq以上の攻撃(物理・魔法問わず)を防ぐライヴスの壁を周囲に展開。射程3以内の攻撃で砕ける。

 周撃
 自身より範囲5sqに衝撃波を放つ。
 
 空振
 繰り出した拳より範囲1sqに衝撃波を拡散する。

 追拳
 射程30sq。拳状の衝撃波が生み出され、それを自在に動かして対象を攻撃する。

 ラビス
 邪英カオティックブレイドの老人。能力は未知数。
 PL情報。強さはケントォリオ級相当。主に下記ニアを守る。

 ニア・エートゥス
 トリブヌス愚神。詳細能力は【絶零】特設ページ参照。今回は姿を隠していない。
 PL情報。一定ターン数経過後ラビスと共に撤退。

 アイスゴーレム×無数
 デクリオ級。略称『氷像』。下記ドロップゾーンの平原周囲やニアの周囲を守り、平原より外に出ようとする者を襲ったり、ニアへの攻撃を庇う。 
 
 アメリカ諜報機関
 『あなたたち』を現地に送迎する移動手段や、必要なものを用意してくれる。無線で連絡可能。

 状況
 アメリカのとある荒野にあるドロップゾーン。周囲は無人。無線貸与済。
 ドロップゾーン内部では縦横各200mの視界良好な平原が広がるが、その周囲を霧の壁が包囲。霧の壁の向こうとニアの周囲に上記従魔達がひしめき、近付く者を待ち構えており、平原と霧の境界近くにいるのは危険。
 ここに捕まった人々やホセの悪事を示す証拠が保管中。ドロップゾーンが消えれば従魔達も消え、人々の救出や証拠確保が可能。
 材料が揃えばホワイトハウスへの直談判も可能。

リプレイ

●突入
 アメリカのとある荒野はドロップゾーンに侵食され、深い霧に包まれていた。
 その霧のベールの中を1台の大型車が霧を裂きながら、荒野へと突き進む。
「まさかロシアの平和のために、わざわざアメリカに来ることになってしまうとは……」
 車の中ではГарсия-К-Вампир(aa4706)が、今の状況に対しそう呟いたのを、Летти-Ветер(aa4706hero001)は柔らかく受け止める。
「ロシアを救うにはアメリカやNATO軍の助けが必要です。だからГарсия。いまは」
 Леттиからの言葉をГарсияは引き継ぐ。
「ええ、いまはただするべきことをしましょう。……それが勝利につながると信じて」
 そしてГарсияとЛеттиは共鳴する。
「シーカ……。思ったよりも深く、大きく動いとるようじゃの」
「ロシアだけでなくアメリカの中枢にまで根を張ってるとはね。一筋縄ではいかない組織と見て間違いなさそうだ」
 その近くでは、椋(aa0034hero001)と秋津 隼人(aa0034)が、シーカという組織が世界に与える影響が予想より深刻なことを話し合っていた。
 『調停』と称しロシア政府を機能不全に陥れるなど、放置するにはシーカは危険すぎると隼人も認識していた。
「まあ……シーカを相手取るのは個人でなく組織。わしらH.O.P.E.や関わりのある国々であろうよ」
 ――であればわしらは目の前の事件を一つずつ解決していくしかなかろうな。
 椋の助言に隼人は『そうだね』と頷き、自分の意志を告げる。
「今回で言えば愚神の撃破と憑依されたホセ・グレッグの逮捕、それに捕らわれた人達の救出と……うん、実にシンプルだ」
「その通り。では、行こうかの!」
 隼人の方針に椋は頷き、隼人と椋は共鳴する。
 H.O.P.E.の掴んだ情報では、ここにアメリカを『調停』する大統領補佐官にしてシーカメンバー、ホセ・グレッグが愚神となって待ち構えており、同じ場所にホセがこれまで愚神や配下ヴィランに命じ拉致してきた人々やホセの悪行を示す証拠も揃っているらしい。
「随分とお膳立てされたものだ」
「まるで、僕らにそうして貰いたいって感じだね」
 ベルフ(aa0919hero001) と九字原 昂(aa0919)は今までに判明している情報を前に、それらが故意に流されたものだと見抜き、そう言った。
「そうだとしてもやることは変わらないんだ。お膳立てした奴の筋書きに乗ってやるとしよう」
 そう言ってベルフは昂と共鳴する。
 別の座席では、その情報の大半を占める『密告』について疑う者もいた。
「密告が正しいか、正しくないか。とにかく、愚神を倒して、ドロップゾーンを倒せばいいん、だよな?」
 木陰 黎夜(aa0061)がそう言って、傍らにいるアーテル・V・ノクス(aa0061hero001)に今回の『選択』を確認する。
「そうね。なすべきこと。なさなくていいこと。それらを取捨選択しながら行きましょう」
 アーテルは頷きつつそう黎夜に応じ、黎夜とアーテルは共鳴する。
「うちは密告の内容は信じきれない。それでもなすべきことは必ず果たすんだ」
 共鳴した黎夜はそう決意を示す。
 話題にあがった密告者が何者であるかは、既にH.O.P.E.のほうでほぼ把握している。
 ――シーカという人間達に仕えるトリブヌス愚神。名をニア・エートゥス。
 そのニアの行動に、ゼノビア オルコット(aa0626)は疑惑を深め、隣にいるレティシア ブランシェ(aa0626hero001)に手話でこう伝える。
 ――ニア、は何がしたい、です? 証拠、を残しておくのは、なぜ?
 ゼノビアからは、手話の他に密告により判明したホセ・グレッグという男がしでかした、邪魔な人間達を処分するためドロップゾーンへと拉致し続けた事への怒りと不快感がレティシアに伝わってくる。
 レティシアは『俺の杞憂だろうが』と前置きした上で、こうゼノビアに応える。
「俺達をわざわざ事態に介入させるのは、失敗させることでH.O.P.E.の信用を落とし、シーカを動きやすくするため……」
 そこまで言って、レティシアはホセを死なせたらその目的を達成される可能性や、ゼノビアの手話で伝えきれない決意に気づく。
「それでもホセを助けたいか、ゼノビア。なら、俺が叶えてやる」
 そう言ってレティシアはゼノビアと共鳴する。
 仲間達の共鳴が進み、大宮 朝霞(aa0476)やニクノイーサ(aa0476hero001)も共鳴態勢に入る。
「やるわよ。ニック、変身(共鳴)よ!」
「やれやれ。朝霞はいつもブレないな」
 賞賛とも呆れともつかないニクノイーサの言葉に、朝霞は胸を張る。
「当然よ! 変身、ミラクル☆トランスフォーム!」
 朝霞の掛け声・ポージングとともにニクノイーサと共鳴した朝霞は、自称『聖霊紫帝闘士ウラワンダー』へと変身する。
「でもなんでニアという愚神は人間と手を組んでるのよ?」
(俺が知るか。何か事情があるかもしれない。カマをかけてみたらどうだ?)
 ニアの行動には不自然な点が多く、ゼノビアやレティシアだけでなく朝霞やニクノイーサも不審を抱いていた。
「ニアは何が目的なのかな……」
「愚神の考える事なんて理解出来ませんが……。何か思惑はあるのでしょうね」
 御代 つくし(aa0657)がニアの目的を推し量ろうと試みる中、隣にいたメグル(aa0657hero001)は自分の意見をつくしに伝える。
「シーカ、楽園……。分からない事がいっぱいだけど……。まずは目の前のこと、だね!」
 気持ちや優先順位を、これから始まる戦いや目指すものへと切り替えたつくしがそう意志を示し、メグルも頷く。
「そうですね。今回できる事は順番に行っていきましょう。今回は危険ですから、僕が表に出ます」
 そうメグルはつくしに伝えて共鳴し、常とは異なり髪をつくしの特徴を残しつつ、意識はメグルが主導権を握る。
 やがて車を運転していた真継 優輝(az0045)より『到着しました』とのアナウンスが入り、エージェント達は既にネイク・ベイオウーフ(aa0002hero001)との共鳴を終えた努々 キミカ(aa0002)を先頭に、次々と車から飛び出していく。
「聖霊紫帝闘士ウラワンダー参上!」
 そう言って車より飛び出し、名乗りを上げる朝霞達の先には、氷像の従魔達やコートを羽織る老人。金銀の意匠を纏う黒衣の男。そして事前説明で見せられた写真内に写っていた、ホセ・グレッグの面影を残す存在が並んでいた。
(朝霞、気をつけろ。『奴』もいる)
(トリブヌス級愚神、ニア・エートゥスだよね)
 その愚神についてはH.O.P.E.の所有する膨大な記録に最近データが掲載されたため、朝霞やニクイノーサも容易に識別できた。
「ケントォリオ級愚神1体のみじゃなかったのか」
(現状では全ての敵と戦うのは勝ち目はなさそうじゃ。じゃが密告やニアの口にした『解放』の件もある。今は警戒しつつ目標を狙う事じゃ)
 目算が狂った隼人だったが、内から届いた椋からの助言に従い、目標を愚神に憑依されたホセこと愚神シェチに絞る。
「ここまでは君の思惑通りなのか、ニア」
 キミカが鋭い視線と共にそうニアに尋ねるが、ニアの回答が来る前にこう叫ぶ。
「だが今は乗ろう。何故なら今の我らの敵は君ではなく、ホセ・グレッグに憑依する愚神シェチであるから!」 
 そうニアに言い放つとキミカは、ホセの面影の残る愚神シェチと対峙する。
「……じゃあ、『シェチ』。……木陰黎夜。アーテル・ウェスペル・ノクスと共に、お前を討ち落とす……」
 黎夜が嫌いな相手へ向ける口調で、シェチに討伐宣言を下したところで。
 愚神を倒し、攫われた人々の命を救出するための戦いが始まる。

●取捨選択
 ニアの牽制も兼ね昂とメグルがニアのもとへ向かう中、まず黎夜が九陽神弓の弓弦を引き絞る。
(密告内容を鵜呑みにせず、着実にダメージを積み重ねることを心がけて)
 内からのアーテルの助言に頷いた黎夜は弓弦を鳴らして矢状ライヴスを解放し、黎夜の攻撃は矢の飛翔音と共にシェチの体に吸い込まれるが、寸前で見えない障壁に阻まれ、異音を響かせ黎夜の矢状ライヴスは霧散する。
「これ、密告にあった」
(防陣、よね。事前に張り巡らせていたみたいね)
 黎夜とアーテルがそんなやり取りを交わす中、シェチが展開する防御を破壊すべく隼人、キミカが動き、当初ニアに向けシーカという人間達に仕えている理由を聞き出した後シェチ撃破に向かう予定だった朝霞も、方針を切り替えシェチに向かう。
(やはり前もって防陣を張っておったか。ならばやる事は1つじゃな)
「防陣を砕き、仲間達の攻撃に繋げましょう」
 内からの椋の助言に同意した隼人はそう呟いて薙刀「冬姫」の刃を煌めかせ、雪の様な余剰ライヴスの軌跡を残して、思うさまシェチの防陣を殴りつける。
 破砕音が響き、隼人の一撃はシェチの防壁を断ち切った。
「ホセ・グレッグ。意識があるならば聞け。君の犯した罪は重い。君の君の所業で多くの無辜の者が傷付くだろう。英雄として私はそれを許容しない」
 防陣を失ったシェチの体に、そうシェチに叫んだキミカのトライド・グロウスヴァイルがライヴスブローを纏ってシェチに叩き込まれ、爆発音と共に食い込んだ刀身をさらに深くめりこませ、みしりとシェチの体を鳴らす。
「だが、君を愚神と心中させない事を私は約束する。何故なら、生きてさえいれば罪を償い、多くの人を救える可能性が残るからだ!」
 ――その為に私は、キミカとして。ネイクとして。愚神シェチ、貴様を打ち砕く。
 そう訴えたキミカへの返答は振り上げられるシェチの拳だったが、そこへ乾いた銃声と共に、レティシアのスナイパーライフルより放たれた威嚇射撃がシェチに襲いかかり、攻撃精度を粗くする。
「秋津。努々。今のうちに射程圏外へ後退しろ」
 ライヴス通信機「雫」や無線機越しに、レティシアが隼人やキミカに警告するのと、レティシアの威嚇射撃に重なるように別方向からГарсияの攻撃がシェチに展開したのは、ほぼ同時だった。
 既にカオティックソウルで攻撃力を上げたГарсияの小説「白冥」が牙をむき、開かれたページから凍気状のライヴスが展開して凍てつく空間より無数のナイフ状のライヴスを形成する。
「ではシェチ様。しばし私の攻撃にお付き合いくださいませ」
 弾幕と化したГарсияのナイフ状ライヴスが一斉に射出され、空間に幾条の煌めきを残してシェチに殺到し、身を穿つと共にシェチを包み込んだГарсияのライヴスが、一時的にシェチの身を拘束する。
「今でございます、朝霞様」
 Гарсияがライヴス通信機「雫」に連絡を入れる間に隼人、キミカは後退し、入れ替わるように朝霞がシェチに迫る。
「くらえ! ウラワンダー☆フラッシュ!」
 Гарсияのライヴスで拘束されたシェチに向け、朝霞がパニッシュメントを発動する。
 鋭いライヴスの光と化した朝霞のパニッシュメントはシェチの身に喰らいつき、無視できないダメージを負わせたところでГарсияのライヴスによる拘束を強引に解除したシェチは、拳を地面に叩きつける。
 轟音と共にシェチの衝撃波が爆ぜて周囲を薙ぎ払い、最も迫っていた朝霞を殴り飛ばした。
「くっ……」
 シェチの衝撃波で殴り飛ばされた朝霞は両足を地面に叩きつけて、勢いを完全に削ぎ落として踏みとどまる。
(ニック。今の攻撃でのダメージは)
(予想よりは少ない。だが食らい続けたら危険だ)
 ニクノイーサに損傷を確認した朝霞は、ニクノイーサからの回答に頷き、先端にハートマークのオブジェが取り付けられたレインメーカーを構えながらも、シェチの攻撃を自分へ引きつけた結果、隼人やキミカが攻撃に巻き込まれなかったことに安堵する。
 シェチがそんな朝霞へ再び拳を振り上げるが、その動きがにわかに遅くなり、何かに粘りつかれでもしたかのように、シェチはじりじりとしか動かなくなる。
「くそっ!」
 シェチが呻いて視線を周囲に向けると、巨大なクモの巣のような糸がシェチの周囲に無数に張り巡らされていた。
「静かにして下さいませんか。僕達は今、重要な話をしているところですから」
 いつの間にかシェチを射程距離に捉えていた昴が、女郎蜘蛛を展開してシェチを拘束していた。
「ついでに少し意識を削っておきますね」
 昴がシェチを拘束する間に、メグルが発動したリーサルダークによって、呪力を込めたライヴスの闇が顕現する。
 メグルの放ったリーサルダークはシェチに絡みつくと、その意識を強引に削り取って沈黙させる。
 そこへ武器を黒の猟兵に切り替えた黎夜がブルームフレアを発動し、シェチの足元から轟然と業火が噴出する。
(できればアイスゴーレムたちも巻き込みたかったけれど、動かない以上シェチに集中させるしかないわよね)
「そうだな。シェチを討ち落としホセを確保してから、残っていたら考える」
 内からのアーテルの助言に黎夜は淡々と応える中、黎夜のブルームフレアはシェチの身を焼き焦がし、蝕んでいく。
 その間、いつでもニアが攻勢に出てもいいよう昴とメグルは警戒を怠らなかったが、未だにニアも『ラビス』と名乗ったコート姿の老人も動く気配はなく、素気なく昴やメグルの質問に応えていた。
「今回の行動を貴方に命じたのは、シーカのフランツでしょうか?」
 メグルの問いに、ニアはあっさりと密告を行ったことは自分の意志であり、今回の行動がシーカ幹部フランツ・フォン・ノイラートの指示である事を認めた。
「あなた達はシーカをどう思っているんでしょうか?」
 昴の問いにニアは『好意的ならばこんな真似はしません』と応じたが、それは昴の予測通りだった。
「では何故貴方はシーカ、いえフランツに従うのですか? 何か弱みでも握られているのですか?」
 それはメグルだけでなく、今もシェチと戦う朝霞やニクノイーサ達も抱いていた疑問だったが、ニアは『ある道具で行動を強制されてます』と、その疑問に応えた。
「だから、あえて失敗するように密告やお膳立てを?」
「シーカのやり方は面倒くさいものですから」
 もしこの場にレティシアがいたら『俺達も面倒くさいと思っている』と応えたかもしれない。
 昴とメグルは片方がニアから情報を引き出す間に、もう片方がライヴス通信機「雫」や無線を使い、仲間達へ情報を送る役を交互にこなしていたが、ニアはそれを止めることなく『時間です』と告げ背を向ける。
「それは、あなたが道具によって行動を強制される時間が切れたということですか?」
 一連の応答から昴はその答えを導き出し、そうニアに問うとニアは短く『ええ』と答える中、シェチと戦う間にもメグルより無線で情報を伝えられたキミカから、ニアへ呼びかける声があった。
「ニア・エートゥス! 少なくとも今の我々には利害が一致する可能性がある!」
 ――我々は。私は人々をシーカから救いたい。ニア達はシーカから解放されたい。
 『英雄』としてはニアは討つべき災厄だと承知している。だがそれでもニア達と戦わない事で少しでも救える命が増えるならと、キミカは信念を曲げ訴える。
「今すぐとは言わない。君と我々H.O.P.E.の間で対話できる時間をくれないか。我々には力を合わせる余地があるかもしれない」
 キミカの訴えにニアはくるりと振り返り、興味深そうな笑みを浮かべる。
「私達は人間達と相容れない敵です。それを承知で仰っているなら考慮の価値はあるでしょう」
 そう言ってニアはキミカに一礼すると『雷光は二度瞬く』という謎の言葉を残し、自分やラビス、従魔達を顕現した竜巻で包む。
 吹き荒ぶ暴風がつかの間メグル、昴、キミカ達の視界を遮り、風が消えた荒野にはニア達の姿は消え失せていた。
(間違いないな。ニアはシーカを潰したがっている)
 一連の情報を受け、ニクノイーサはそう朝霞に告げる。
「その点に関しては、キミカの言う通り私達と利害は一致してるわけね」
(そのようだな。ご厚意に甘えて、俺達はホセの身柄確保をさせてもらおう)
「そうするつもりよ、ニック」
 ニクノイーサの意志に背を押され、朝霞はシェチとの間合いを詰めていく。

●撃破
 荒野にエージェント達とシェチの、互いを否定するライヴスが吹き荒れる。
 その中で狙撃を続けるレティシアのシーカへの嫌悪は、さらに強くなっていた。
 ――こいつらは俺達やロシアやアメリカの人々が、必死になって目の前の悲劇を食い止めようとしているのを、『調停』と称し脚を引っ張って嘲笑している。
 それがレティシアには許せない。
 レティシアは愚神は相容れないものと断していたが、ほぼ同列にシーカも位置していた。
 レティシアのスナイパーライフルから妨害射撃が放たれ、シェチの態勢を崩す。
「今だ木陰、メグル。九字原。畳み掛けろ。秋津と大宮は負傷者の回復の後攻勢に加われ」
 レティシアがライヴス通信機「雫」で黎夜、メグル、昴、隼人、朝霞にそう伝え、後を託す。
(残るはシェチのみだ。仲間達とタイミングをあわせるんだ)
「そのつもりです、ベルフ」
 立ち去ったニアのもとから、シェチへと疾駆する昴がシェチと指呼の間合に至った時、ベルフより助言を受けた昴はそう応じて加速した。
 昴の振りかざす飛鷹の陰から【SW】ノーシ「ウヴィーツァ」の刃が煌めき、シェチの胸を指す。
 風すら越えて光の速度でシェチの終わりを告げる、昴の【SW】ノーシ「ウヴィーツァ」が突き立てられたシェチの身から、肉を穿つ音が響く。
「呑みこまれろ!」
 返礼としてシェチはそう叫んで2発、拳状の衝撃波を解き放つ。
 複雑な軌道を描いてシェチの攻撃は黎夜、昴に襲いかかるが、黎夜の前にケアレイで治療を終えた朝霞が強引に割り込んだ。
(食い止める!)
「防いでみせる!」
 ニクノイーサの加護を受けた朝霞がレインメーカーをかざしたところで、シェチの衝撃波が朝霞に襲いかかるが、朝霞は無傷でやり過ごす。
 また昴に襲いかかった衝撃波は昴を巻き込むが、攻撃を受けた昴の輪郭がゆらめき、影に変換されていた。
 昴の影渡だ。
 シェチの衝撃波は影を渡った昴を傷つけられず、昴は離れた場所に再び人の姿を取り戻す。
「ンだとぉっ!?」
 いずれも無傷で攻撃を凌いだ朝霞と昴に、シェチの意識がとられている間にキミカが突貫し、朝霞に庇われた黎夜は短く朝霞に礼を述べた後、魔法の射程距離へと後退し、Гарсияは反対側から攻勢に入る。
 ――抗おうとする人達に悲劇を押し付け、嘲笑する悪意達を打ち砕くために。
 ここでシェチを討ち果たすとГарсияは決意する。
「……そして、絶対に帰りましょう。К нашему России(私達のロシアに……)」
(えぇ、絶対だよ。Гарсия)
 内にいるЛеттиに背を押され、Гарсияはエクストラバラージで命中精度を上げた、肉親の形見らしき小説「白冥」を再び展開して、凍えるナイフ状のライヴスを弾幕化してシェチに解き放つ。
 Гарсияの弾幕化したナイフ状ライヴスを浴びたシェチは抵抗して拘束を解いたが、既にキミカが肉薄し、黎夜も詠唱を終えていた。
(こいつは未来に不要だ。さっさと撃破してホセを取り戻すぞ)
「そのつもりだ、ネイク」
 ネイクの助言に頷いたキミカは武器を九陽神弓に持ち替えライヴスリッパーを発動し、キミカのライヴスリッパーでシェチは意識を削り取られ、後から襲いかかった黎夜に無防備な状態を晒す。
(攻撃が来ない今が好機よ、黎夜)
「わかってる。……消し、飛べ……!」
 アーテルの助言に短く頷くと、黎夜は再びブルームフレアを発動する。
 黎夜よりライヴスが解き放たれ、灼熱の乱舞と化した業火状ライヴスが火焔の花を咲かせ、シェチを包み込む。
 噴き上がる黎夜のブルームフレアに包まれ、シェチの身がさらに負傷を重ねていく。
 そこへシェチを間合に捉えたメグルより幻影蝶が発動し、メグルからライヴスの蝶の群れがシェチに放たれる。
「聞くべきことは聞きました。あとは貴方が倒されるだけです」
 酷薄ともいえる態度でメグルがシェチにそう告げる中、メグルの放った幻影蝶はシェチの身に絡みつき、その身から強度と意識をさらに削り取り、急速にその身を朽ちさせる。
「あとはお任せします、秋津さん」
 ライヴス通信機「雫」を介し、メグルは弱体化させたシェチの『終焉』を隼人に託す。
(今じゃ。シェチを終わらせ、ホセに戻せ)
「そのつもりです」
 メグルより託された隼人は、内からの椋の助言にそう応じて荒野の土煙を散らしてシェチへと疾駆し、薙刀「冬姫」を舞わせシェチと交錯する。
 風が鳴った。雪の幻影をつかの間切り裂いた空間に残し、隼人の薙刀「冬姫」が豪風をまとって繰り込まれ、薙刀「冬姫」の穂先は速度を保ったままシェチの喉を貫いた。
 何かが割れる音が響くと共に隼人に貫かれた箇所や全身から塵を噴き上げ、シェチはその身を荒野の大地に叩きつけられ、周囲に展開する霧のベールと共に細切れになって消えていく。
 やがて塵が消え失せた後、ドロップゾーンも姿を消し、あとには倒れ伏すホセ・グレッグの姿が残った。

●解放?
 愚神に憑依され、弱体化していると判断したエージェント達の行動は素早かった。
 捕まっていた人々の救助にまず朝霞が回り、共鳴を解いたゼノビア、レティシアも持参した治療道具を用意して後に続き、Гарсияやキミカ、昴達は共鳴を解かずに救助に加わり、共鳴を解いたメグルと共鳴を解かれて意識を取り戻したつくしも人々の救助に加わる。
 ホセには隼人が残っていたケアレイを使って治癒のライヴスを届け、ホセの生命力をかきたてる。
「思ったよりも激戦にならなかったので助かりました」
(仲間達へのダメージもカバーできる範囲でおさまっかたらの)
 内からの椋の指摘に隼人は頷く。
 やがて隼人の治療を受け意識を取り戻したホセには、黎夜とアーテルが投降を迫る。
「……抵抗する気、あるなら応じるけど……どうする……?」
「貴方が担う『調停』の詳細、何なのか教えてくれないかしら?」
 共鳴を解いたとはいえ、常人を越えた迫力を見せる黎夜とアーテルを前に、ホセは抵抗せず大人しく逮捕された。
 こうしてエージェント達の奮闘により、ホセ・グレッグは人間に戻された上で逮捕され、H.O.P.E.に身柄を送られた。
 エージェント達が救出した人々の証言や確保した証拠の数々は、ホセの言い逃れを許さないもので、ホセは自分がシーカメンバーである事や、掲げた利権主義が偽りのものであると自供した。
「確保はできたけど……また問題が幾らか増えた気がするなぁ」
「なに、いまさら問題が1つ2つ増えたところで大差ないだろう」
 回収を終え帰路に就く際、昴はそうぼやいたが、ベルフは事もなげにそう言って『なんとかなる』と励ました。
 そしてホセが勤めていたアメリカ政府ホワイトハウスにもつくしやメグルが動いていた。
「これが証拠と証言です。ホセ・グレッグはアメリカのために動いていたんじゃない。シーカの為に動いていたんです」
「他にもシーカメンバーがいる可能性が高いので、ご協力願います」
 つくしは頑張って敬語を使い、メグルは慇懃にホワイトハウスの住人達へ協力を要請し、つくしやメグルの要請を受け、H.O.P.E.主導によるホワイトハウスからのシーカの影響を排除する動きが始まる。
 ホワイトハウスにつくし達が示したホセの自供や、ホセの悪行を示す証拠の数々は、それまでアメリカ政府の主流派でありホセの掲げた利権主義に同調していた一派を沈黙させるものだった。
 またホセより命を狙われるもエージェント達の活躍によって救い出された人々や、職場に返り咲いたリアム・ワーズをはじめとする穏健派が主導権を奪い返した結果、アメリカ政府の方針は180度転換する。
 これによりアメリカは愚神の脅威にさらされているロシアを救うべく動き出し、NATO軍もアメリカと歩調をそろえ、ロシアへの救援活動が本格化する。
 もしこの時より多くのエージェント達がホワイトハウスへの働きかけを行い、ホセの唱える偽りの利権主義に同調した人々の目を覚まさせるなど、アメリカからシーカの影響を排除する動きをより具体的に行っていたら。
 エージェント達はアメリカからシーカの影響力を一掃できたかもしれない。
 だが今回の結果、シーカはアメリカにある程度影響力を残し、その事やニアが口にした『雷光は二度瞬く』の意味をエージェント達やH.O.P.E.が気づくのはもう少し後の話になる。
 ロシアとアメリカがこの後どのような経緯を辿るのか。
 全ては『あなたたち』次第。

結果

シナリオ成功度 普通

MVP一覧

  • コスプレイヤー
    大宮 朝霞aa0476
  • 花咲く想い
    御代 つくしaa0657

重体一覧

参加者

  • 夢ある本の探索者
    努々 キミカaa0002
    人間|15才|女性|攻撃
  • ハンドレッドフェイク
    ネイク・ベイオウーフaa0002hero001
    英雄|26才|男性|ブレ
  • 挑む者
    秋津 隼人aa0034
    人間|20才|男性|防御
  • ブラッドアルティメイタム
    aa0034hero001
    英雄|11才|男性|バト
  • 薄明を共に歩いて
    木陰 黎夜aa0061
    人間|16才|?|回避
  • 薄明を共に歩いて
    アーテル・V・ノクスaa0061hero001
    英雄|23才|男性|ソフィ
  • コスプレイヤー
    大宮 朝霞aa0476
    人間|22才|女性|防御
  • 聖霊紫帝闘士
    ニクノイーサaa0476hero001
    英雄|26才|男性|バト
  • シャーウッドのスナイパー
    ゼノビア オルコットaa0626
    人間|19才|女性|命中
  • 妙策の兵
    レティシア ブランシェaa0626hero001
    英雄|27才|男性|ジャ
  • 花咲く想い
    御代 つくしaa0657
    人間|18才|女性|防御
  • 共に在る『誓い』を抱いて
    メグルaa0657hero001
    英雄|24才|?|ソフィ

  • 九字原 昂aa0919
    人間|20才|男性|回避

  • ベルフaa0919hero001
    英雄|25才|男性|シャド
  • 守りもてなすのもメイド
    Гарсия-К-Вампирaa4706
    獣人|19才|女性|回避
  • 抱擁する北風
    Летти-Ветерaa4706hero001
    英雄|6才|女性|カオ
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