本部

【甘想2】連動シナリオ

【甘想2】メイドさんと執事さんとご主人様

高庭ぺん銀

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
12人 / 4~12人
英雄
10人 / 0~12人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/02/21 00:23

掲示板

オープニング

●新しい遊び
「痛い! どこ見て歩いてるのさ!」
「ど、どうもすみません! 命ドキの看板があったのでつい見とれてしまって……」
 頭にはバンダナ、チェックのシャツをジーンズにインした男がへこへこと謝った。
「って、子供ですか」
 少年は『メイド喫茶・命ドキッ☆』と書かれた看板を見上げていた。
「君も興味があるのですか? 私の一押しはフルーティな元気系メイドこと桃果たんですなァ」
「少女? どう見ても20歳は超えてるけどね」
 男は憤慨した。
「モモたんは永遠の17歳です!」
 少年はくすりと笑う。
「まぁ、大人でも楽しい人なら僕は大好きさ」
「そうでしょう?」
 男は得意になって、命ドキのメイドについて語った。
「君の話、もう飽きちゃった」
 太鼓腹を逸らした男が突然吹っ飛ぶ。大きなリュックのお陰で怪我はない。
「メイド喫茶かぁ。つまりは『ごっこ遊び』ってことだよね?」
 使い魔の妖精を店へと飛ばす。彼――愚神ヴィオレタ・パンはそこに見慣れた顔を発見した。赤須 まこと(az0065)だ。
「はは! また会ったね、HOPE! ……今日の遊び、決~まった」

●メイドさん=フィギュア!?
 まことは店前の掃き掃除をしていた。ある意味、メイドらしい姿である。
「まこっち~、大変だよ~!」
「どうしたんですか、夏木さん?」
 燕尾服姿のチャラ男、もとい店長は神妙な面持ちで言った。
「レギュラーのメイドさんが来ないんだよ! いつもなら皆揃ってる頃なのに!」
「ご主人様のお帰りですぞ~!」
 乱暴にドアを蹴り、『準備中』の札を無視して押し寄せたのは、頭や腕などにスミレ色のバンダナを巻いた集団。
「何ですか、あなたたち!」
 明らかに普通のお客様――ご主人様ではない。まことは彼らを追い出そうとする。
「これを見なさい!」
「これって駅前の広場? え、嘘……モモたん! みぃ姉! まゆぷー!」
 人気ナンバー1、2、3の桃果、みりぃ、まゆがチョコレートで全身コーティングされていた。駅前には大勢のメイド好きが押し寄せ、撮影会状態となっている。他の常勤メイドも含め、10人の『フィギュア』が展示されているようだ。
「メイドさんたちは~……僕たちのフィギュアにしちゃいました!」
「みんなを返してください!」
 太鼓腹の男がニヤリと笑い、他の男たちも騒がしく哄笑する。
「確か今、バレンタイン限定のメイドさんがいるんですよね。そのメンバーで僕たちをもてなしてみなさい! 僕らが満足するまで楽しませてくれたらァ、メイドさんたちを返してあげますよ!」
 滅茶苦茶な要求にまことが歯噛みする。
「店長、どうしましょう? 言うこと聞かなきゃ、捕まったみんなが何をされるか……でも、もうすぐ普通のお客さんも来るはずです」
「君たちはただ僕たちをもてなしてくれればいいんですよ~ぅ」
 店長は表情を引き締めた。
「とりあえず人手が足りない! メイドさんたちは激務になるけどよろしく! 衣装はあるから、場合によっちゃ執事さんにも出てもらうよ!」
 まことは携帯を取り出し、休日を満喫中の呉 亮次(az0065hero001)を呼び出した。
「まこちゃん、今こそ練習の成果を見せる時だ!」
 まことは「はい!」と答えると、精一杯の可愛い声で言い放つ。
「お帰りなさいませ! 忠犬わんこ系メイド☆まこっちがご案内します!」
 一瞬の間。そして気の抜けたご主人様の声。
「え、何、聞いてなかった。もっかいやってよ」
「いやあああああ! 鬼ぃいいいい!」
「大丈夫大丈夫、店長的にはとっても良かったと思うよ~?」
 彼女がこれからのお仕事に多大なる不安を感じたのは言うまでもない。
「ほらメイド、キャンペーンのチョコよこしなさい。ついでにおいしくなる魔法もかけて!」
「うう……『おいしくなーれ、命ドキッ☆マジック』!」
「気持ちが籠ってないよー! もう一回!」

「それ、確実にHOPEの案件ですよね」
 まことから連絡を受けたオペレーターは、冷静な声で言った。
「やっぱりそうですか」
「愚神か何かでないと等身大チョコフィギュアは作れないかと」
 既に疲労がにじむ声でまことは報告を続ける。
「駅前のチョコフィギュアについては、何かのイベントだと思ってる人が多いみたいです」
「ではなるべく穏便に救出したいですね……。とにかく、HOPEからもエージェントに声を掛けますね」
「はい! 私たちはいつも通りお店を開けます!」

●メイドさんのお仕事
1お出迎え・お席への案内
2自己紹介
3お食事のメニュー聞き
4おしゃべりのお相手・ご用聞き
5お食事の配膳
6お見送り(キャンペーン中はチョコのプレゼントも)

※服装自由※
店の制服もお貸しできます。制服は黒ワンピ+フリフリ白エプロン+フリルカチューシャ。自分流にアレンジしたり、自前のメイド服を用意したりするメイドさんもいます。

☆フード例☆
ずっきゅんオムライス(略:オム)
 メイドさんがハートの絵を描いてくれるオムライス。絵が上手なメイドさんに頼むともっと難しい絵を描いてくれることも。

♪デザート♪
ほろにがガトーは恋の味(略:ガトー)
 普通のガトーショコラ。粉糖がハート型にまぶしてある。

☆ドリンク☆
コーラ
紅茶(レモン・ミルク/アイス・ホット)
コーヒー(アイス・ホット)
※ミルク・レモンポーション・砂糖はメイドさんが心を込めて注ぎ、まぜまぜすること!


●ご主人様からのありがたいお言葉
・無理難題系
「なんだ、このレトルトっぽい味は」
「やきそばパンが食べたい」
「メイドさんの魔法がかかってるのにおいしくないぞ」

・嘘クレーム系
「虫入ってたぞ」
「このメイドさんに水かけられたんですけど~」
「お前今にらんだだろ」

・セクハラ系
「メアド教えてよ~」
「本当は何歳なの?」
「彼氏いるの?」

・その他
ご主人様同士の口論
「クラシックメイド最高だろうがー!」「ミニスカ絶対領域最強ですけどー?」
無駄に長い話
「僕が初めてメイド喫茶にいったのは、ある暑い夏の事……。当時受験生だった僕は、ストレスに耐え切れず、目にするものすべてに当たり散らし……そんな時、僕を天使のような声が呼んだんだ。なにを隠そう彼女こそが伝説級の人気を持つメイドさん(以下略)」

おまけ・通常のご主人様からよく出る質問
「出身はどこ?」
「趣味は? お仕事のない日は何してる?」
「特技、得意技は?」
「メイドになったきっかけは?」
→自分のキャラに合った答えや、メイドらしい可愛い設定などを考えておきましょう

解説

【お客様】
・鬼主人(困ったご主人様)
愚神に操られており、メイドを困らせる言動をとる。おもてなしに満足すると洗脳は解け、自ら退店する。憑依対象はランダムで、様々な世代の男女がいる。口は良く動くが暴力は好まない。(戦闘行動は非推奨)

・善主人(一般のご主人様)
ルールを守って楽しんでくれる。時には店の外に行列を作ることも。多くが男性1人~少人数で来店するが、まれに女性や学生グループなどが興味本位で来ることも。

【敵】
・ヴィオレタ・パン
大人を毛嫌いする愚神。今回は姿を現さない。妖精の眼を通してHOPEエージェントが困る様を見物中。

・妖精
目には見えない。とても弱く、閉店するころには勝手に消えている。メイドさんをくすぐったり、足を引っ掛けたり、スカートをめくろうとしたりと子供じみたイタズラをする。神回避するかドジっ子メイドになるかはあなた次第。
 ※過度のセクシー描写は不可能です。

【NPC】
・メイドさん:駅前の広場に『展示』されている。謎のチョコで固められているが、命に別状はない。助けたものから病院に運ばれる。チョコはライブスに反応して溶ける(共鳴・AGW不要。一般人程度のライブスでは不可能)。
・キッチンスタッフたち:全員無事。
・まこと/亮次/夏木店長:亮次と店長はキッチンのお手伝いを予定。手伝えることがあれば喜んで協力します。

【注意】
・HOPEからの要請で来たのではなく、バイトとして雇われている方が居てもOK。
・執事さん歓迎。
・キッチン担当もOK。
・只今バレンタインキャンペーン中。ご主人様へチョコ(市販の一口チョコを袋詰めしたもの)をプレゼントします。タイミングはお見送りの時を想定していますが、別のタイミングでもOK。
・ニックネームやキャッチフレーズなどを決めると楽しいかもしれません。
・既存の歌詞および替え歌のご使用はお控えください。ハートマークは機種依存文字のためリプレイには使えません。

リプレイ

●緊急招集!
「さぁ、今日も笑顔で頑張りましょう」
「おー!」
 ヴィクトア・ローゼ(aa4769)の言葉に矮(aa4769hero001)が小さな握り拳を突き上げる。
「臨時のメイドか……面白そうだね」
 着替えから戻った淡島時雨(aa0477hero001)が言う。メイド服は動きやすいようにミニ丈だ。
「HOPEのエージェントなんざ、何でも屋の様なもんだと聞いてはいたがな。まさかこんな事もするとはな……」
 飯野雄二(aa0477)がため息交じりに呟く。更に振り向いた彼は相棒の姿にぎょっとした。オーバーニーソックスの上には、なぜか半長靴。腰には大型拳銃用のホルスターを隠さず装備。
「あ、これ? コンセプトは『コンバットメイド』。護衛任務に転用可能って感じで」
「いや、客ドン引きだろ……」
「んー、じゃ、普通のメイドさんでいいか」
 とはいえ装備は外すつもりがないらしい。これも個性といえばそうかもしれない。
「雄二も、今日は随分雰囲気が違うね」
 いつもの黒帽子とスーツの上着を脱ぎ、代わりにベストを着用しているのだ。
「客を怖がらせるわけにはいかないからな」
「ご主人様だよ、雄二。それかお嬢様!」
「はいはい」
 雄二は苦笑して頷いた。
「わぁあ、可愛いですっ」
 新爲(aa4496hero002)は制服を見て感激する。
「ニッタ、前にメイド喫茶、テレビで見ましたっ。頑張りますね!」
 活発そうなミニスカート姿が良く似合っている。新爲は来た時の服のまま待っていた黒鳶 颯佐(aa4496)に着替えないのかと尋ねる。
「執事……? いや、俺はキッチンで……」
「颯佐お兄ちゃん、お料理出来ましたっけ?」
 沈黙と言う名の肯定。ぱたぱたと駆けて行った新爲は笑顔で執事服を差し出した。
「今度は問題を起こさないよな?」
「もっちろん!」
 ルーデル(aa4201hero001)の瞳は意欲に燃えている。皇后崎 煉 (aa4201)は思う――これ、何言っても無駄だ。
「やらかしだけは勘弁な」
 不安を残しつつも煉は自らの戦場へ赴く。
「よろしくお願いしま……うわああ!?」
「顔が青いですよ! 大丈夫ですか?」
 名状しがたき手料理を持った零月 蕾菜(aa0058)が首を傾げた。
「まずは格好からですね♪」
 笹山平介(aa0342)はさっと執事服に着替えホールへ。先ほどから見えない人の姿を探す。
「男なら別の服でもいいんじゃないか……!?」
 ひとりごちる声の主は――。平介は一瞬言葉を失った。黒タイツとミニスカートの絶対領域。髪を二つに結んだその人は、まぎれもなく賢木 守凪(aa2548)だ。
「着こなしてますね♪」
「そ、そうか? 平介も……似合うな」
 羞恥に染まっていた顔が喜びの色に塗り替わる。彼はどうにか頑張ろうと教えられた定型文を口ずさむ。
「い、いらっしゃ……いらっしゃいませご主人さ…言えるかこんなこと…!!」
「うぅん、言えるまでもう少しだと思うんだけどねぇ……?」
「その服は……!」
 現れたカミユ(aa2548hero001)は執事服姿だった。かつがれたとわかってぷるぷる震える守凪。
「店長が女子が足りないって言うからさぁ」
 その店長に拝まれ、しばらくはメイドさん続行が決定した。
「メイド服……リボン、可愛い♪」
 鏡で腰のリボン確認する柳京香(aa0342hero001)は上機嫌だ。しかしまだ素直にはしゃぐのには抵抗がある。表情を引き締めて皆の前へ。
「何かあったらすぐサポートするから、気を付けてねぇ」
 カミユはそう気遣ってくれる。彼の姿に見とれてしまって仕事になるか不安なのは内緒だ。
「カミユはこういう服もやっぱり似合うわね……」
「気に入ってくれたなら嬉しいよぉ」
 来客に気づいたカミユは、名残惜し気に京香に手を振る。
「お帰りなさいませご主人様♪ 上着をお預かりしますねぇ」
「えぇ? 担当は女の子がいいなぁ」
 正直、京香を近づけたくはないが彼女自身が「任せて」という。カミユはブレスレットをはめた京香の右手に一瞬だけ触れると、耳元で一言だけ囁いた。
「服、すごく似合ってるから……危ないと思ったらちゃんと呼んでね」
 水無月 彼方(aa4940)とディナス・アリア(aa4940hero001)は隅に立って呼び鈴を待つ。
「カナタ、初のHOPE依頼が『命ドキッ☆』での接客です! 僕的には、カナタ以外にもてなしと寛ぎの時間を捧げたいとは全くもって思わないのですが──!」
「『金を費やしてでも癒やしを欲する』切ない人々に、寛ぎともてなしも提供出来ず、その程度の心情でこちらに寛ぎをとは、私もずいぶんと甘く見られ」
「誠心誠意おもてなししてきます!カナタも頑張って下さい!」
 ディナスは慌てて言葉を遮る。彼方は依頼に関しては、予想以上に真面目な姿勢らしい。見ればお冷やのグラスが空いている客がいた。きっちりと着こなした執事服の襟もとを正し、ディナスはお勤めを始める。クラシカルメイド服に瓶底メガネという装いの彼方も別の客に呼ばれ、精一杯の笑顔で返事をした。

●お出迎えも個性豊かに
「おかえりなさいませご主人様、今日はご主人様ための素敵なお席をご用意しますね!」
 ルーデルは椅子にリボンを巻きつける。
「はい、ご主人様の専用席です!」
 相棒の不安に反して彼女の接客は好評だ。完全にメイドになりきれるのは強みである。
「わわわわ、だれかたすけてー! じゃなくてたすけてくださいー!」
 しかしそこに妖精従魔が現れ、ストックのリボンでルーデルをぐるぐる巻きにする。
「大丈夫か?」
 異変を察した颯佐が助けに入る。
(まさか、今のも従魔か? 敵の予告にはなかったが……)
 考え込む颯佐にルーデルが礼を言うと、彼は新爲の声に呼ばれて去って行った。
(見えない敵、か。警戒をしておこう)
「改めまして、お料理メイドのルーデルでーす☆ご主人様のためにがんばります!」
「メニューはこちらになりまーす! えっと、あ、ご主人様、これ美味しそうだと思いませんか? あとこれもきっと美味しそう」
ルーデルの様子に客は思わず笑みをこぼす。
「えへへー、食べるの好きなんですよ。あ、でもメイドだから食べれないですよね、それは残念かも!」
「オムライスにするよ」
「かしこまりましたー」
 さて彼女のなりきりは舞台裏でも続く。ご主人様のために料理を作りたいと主張し始めた。その勢いに結局煉は折れた。
「オムライスは作れたよな?」
「もちろんですご主人様!」
(メイドになりきってやがる)
 見張りの甲斐あって、まともな料理が完成したのは幸いである。
「ご主人様、お料理をお持ちしました!」
「本当に作ってきちゃったの」
「すっごいです!」
 ご主人は驚く。彼女がいない間は新爲と話していたらしい。
「では~ルーデルが美味しくなる魔法をかけますね!」
(なんだっけ、いいや、なんか愛情たっぷりに)
 呪文はオリジナルでOKだろう。
「大好き大好ききゅんきゅんきゅん☆いっぱいいっぱい美味しくな~れ!」
 厨房から漂う匂いにフェンリル(aa4712hero001)が瞳を輝かせる。
「いい匂いじゃのう。鶏肉かの?」
「8卓のトマト煮だ。セットのスープ、こぼさないように気を付けてな」
 煉が答えた。
「給仕なら、私が」
 エレオノール・ベルマン(aa4712)はフェンリルを料理から引き離す。彼女の場合、気を付けてても多分こぼすのだ。
「わっちは何をすればいいのじゃ?」
「ただ居てくれればいいんです」
 本家の北欧神話では活躍できそうにない英雄だが、犬耳美少女メイドとしてなら一級品だ。ただし観賞用に限るが。
「お嬢さん、ワイルドブラッドなの?」
「ふふん、違うぞ! わっちはフェンリルじゃ」
「そういう設定ね。把握です!」
 フェンリルの知名度も良い方向に働いている。エレオノールは少し安堵して給仕をこなす。
「もう我慢できない! もふもふさせてぇ~!」
「や、やめんか! くすぐったいぞ!」
 この主人は様子がおかしい。
「お客様、おさわりはちょっと……」
 どすの利いた声を出し、エレオノールが出て行くと。
「……赤須君、お仕事してください……」
「ふぁあ~?」
 犬好きのメイドが骨抜きになっていた。メイド同士が仲良くしているだけで楽しいとご主人が熱弁するので、もうしばらく放置することにした。
 執事にもメイドにもメイド喫茶にも、一切縁がなく生きてきた颯佐。
「……いらっしゃいませ」
「お帰りなさいませですよう」
「……お帰りなさいませ」
 見事な棒読みである。
「紅茶を入れてくれるかな」
「喜んで」
「さっ颯佐くん、もっと感情込めてっ」
 ただ、わたわたとフォローする新爲とコンビを組めば何だか微笑ましく見えてくる。朴訥とした兄キャラと元気で健気な妹キャラ。まるでアニメの一コマだ。
「えーと、颯佐君、出身は?」
「日本」
 フォローしようと新爲も答えを探すが。
「……川が……川があるところ、でしょうか?」
「川?」
 新爲が英雄であると説明すると、主人は納得したように笑った。不謹慎かもしれないが、と前置きして異世界トリップものが好きだと言った彼は新爲に元の世界の事を尋ねる。けれど答えられることはあまりない。
「ごめんなさい、お兄ちゃん」
 申し訳なさそうにする新爲に、客は焦る。颯佐は店長のアドバイスを思い出す。
「確か困ったときは、趣味や特技の話をするんだったか?」
 はっきりと口に出してしまう颯佐に、新爲は噴き出した。
「ニッタはお歌とダンスが好きですっ。スポーツ全般得意ですよう。颯佐お兄ちゃんはどうです?」
「特に……」
「はは、期待を裏切らないな」
 微笑み合う新爲と主人。颯佐は不思議そうに眼を瞬かせた。
「あのー、初めてなんスけど」
 キャンペーンの宣伝が功を奏したのか、あまりオタク文化に興味のなさそうな学生たちだ。
「執事の飯野でございます。むさくるしい男の案内ですみませんが、まずはお掛けくださいませ」
 少年たちがくすりと笑う。
「ここって執事さんもいるんですね」
「今日は特別で、えーと……別の屋敷から呼ばれましてね。すぐに可愛いメイドを呼ぶのでお待ちください」
 雄二は手が空いたメイドを探す。
「エレナさん、こちらの坊ちゃまたちのお相手をお願いします」
 キッチン担当の蕾菜がホールに出て来たのを見て、ニロ・アルム(aa0058hero002)は理由を尋ねる。
「どうやら私の料理の見た目に問題があったようで……」
「いつものやつ」
 味は、とても良いのだが。
「うう……」
 ニロに連れられ控室へ。メイド服はクラシックタイプのものだ。
「あんまり丈の短いスカートは恥ずかしくて」
「……あるじいつもはおへそだしてない?」
「ちょっ、ニロ!?」
 ニロは頓着しない様子で蕾菜に名札を差し出す。
「らいにゃん?」
「そのほうがかわいいよ?」
 聞けば常勤のメイドはニックネームをつけている者がほとんどらしい。
「郷に入っては郷に従え、でしょうか」
 蕾菜はどこか嬉しそうに名札を受け取った。人への奉仕も嫌いではない。ニロと共に頑張ることにしよう。
「さて炉威君には倍働いてもらおー!」
 店長は言う。
「3番テーブル、『ひ・み・つ・のホットサンド☆』をご所望ですわ。確か、提供のマニュアルがありましたわね?」
 嘆息する炉威(aa0996)の元へエレナ(aa0996002)がやってきた。メモを確認しながら、エレナは炉威に報告する。
「6番様が『タルト美味しかったよ』とおっしゃってましたわ。流石、炉威様の考案されたメニューです」
「それ、客はお前のパフォーマンスを褒めたつもりだろ」
 誉め言葉ともとれる発言にエレナは歓喜する。
「でも男性で良かったですわ。女性の方に炉威様の手料理をお出しするなんて……ね?」
 彼女が真にお仕えしたい対象は炉威以外にはあり得ないのだ。
「おあえいー」
「おかえりなさいませ、旦那様お出かけはいかがでしたか?」
 出迎えたのは、ちっちゃなメイドさんと「メイド喫茶だよね?」のツッコミさえ吹っ飛ぶほどのハイクオリティ執事。
「おっいー」
 男がぽかんとしていると、こっちと手を引かれる。
「僕はヴィクトア。バトラーでも大丈夫ですよ。お好きにお呼びください」
「いー!」
 矮はヴィクトアが作った名札を掲げた。
「よろしく『ちー』ちゃん」
 執事が広げたメニューを眺めて、客が唸る。
「こちらなど、どうでしょう?」
「うっうー」
 ヴィクトアが考案した『とろけるハートのアイスプリン』は数量限定メニューだ。矮はほっぺに両手を持っていき、全身で美味しいを表現する。
「じゃあ、それと……これも」
「あうあう?」
 メニュー名に照れる客に代わって矮が「あちっ」というジェスチャーをする。
「『あつあつ☆チョコレートチャンクピザ』ですね。かしこまりました」
 次は二人連れの女性が現れた。
「おかえりなさいませ~……ごしゅじんさま?」
 ニロが言う。疑問符付きなのは、自分の『あるじ』は蕾菜であるという思いがあるためだ。
「可愛いメイドさんね! 私たちのことはお嬢様って呼んでくれたら嬉しいな」
「わかった。こっちだよ、おじょうさま」
「恐れ入りますが奥のソファまでおいで下さい。お手をどうぞ♪」
 平介はお嬢様が段差に躓かないよう手を取って案内する。
「ご注文が決まりましたらこちらのベルでお呼びください♪」
 守凪は平介の接客を見て、頑張らねばと気合を入れるが。
「……なっ」
 服の中に何かが入り込む。くすぐったいがフリフリした服の隙間に入り込み、うまく追い出せない。
「か、守凪さん、こっちに……!」
 何かを背に庇い「staff only」の扉の中に押し込んだ平介にお嬢様たちが首を傾げる。彼は何でもないと答えていつも通りの笑みを浮かべた。
(身長が大きくて良かった……)

●VS鬼
「魔法がかかっているのにマズイぞ」
 まことの背に冷や汗が流れる。また黒歴史が増えるのか。
「すぐに専門の者が参りますのでお待ちください!」
 しかし彼女は思い出した。イングリ・ランプランド(aa4692)という存在を。
「では……魔法をかけなおさせていただきます……」
 メイド服にはもこもこのファーを飾り付けてあり、たっぷりとしたボリュームのスカートが暖かそうだ。彼女の故郷を思わせるアレンジである。
「Phol ende uuodan uuorun zi holza.」
「はっ?!」
 訳はこうだ。偉大なる主人とオーディン、メイドの森にはいりけり。
「du uuart demo balderes uolon sin uuoz birenkit.」
 うましパンケーキの味付け 損ないけるも。
「thu biguol en sinthgunt, sunna era suister;」
 北方より来たりし魔女は速やかに歌う。
「sose lidirenki:ben zi bena, bluot zi bluoda,」
 小麦の質にいたりては、蜜は上質に 小麦は神の祝福ありけり。
「lid zi geliden, sose gelimida sin.」
 文字ようなれ 愛をささやけ。
「が、ガチの人だ……」
「左様でございます」
 驚くべきことに、メイドさんは元魔女だった。
「君も一緒におしゃべりしようよ」
 有無を言わせぬ調子でエレオノールは呼び止められる。見ればレナード・D・シェルパ(aa4977)が目に涙を貯めて俯いている。
「彼女が何か粗相を?」
「別に怒ってたわけじゃないんだよ? ちょっと愛想が足りないから指導してただけなんだよね~」
 レナードの態度は、控えめだが不愛想ではない。
「大丈夫ですか?」
 小声で問うと、彼女は答える。
「大丈夫です。満足いくまで文句を言わせた方が、大事にならないと思うんです」
 彼女は言う、新人リンカーなら厳しく危ない仕事は当たり前だと。
「あ、よくみるとコーヒーに虫入ってるじゃん!」
「すみません、故郷では貧しくて、それくらいいつも入ってるのが普通で」
 態度は殊勝だが、外国人と言う特徴を生かし煙に巻いているようにも見える。
「はぁ!? どんな故郷!?」
「申し訳ありません……」
 彼女はさめざめと泣く。これはいわば囮作戦だ。わざと相手のシナリオ通りに反応して、相手の嗜虐心を満たすのだ。
「金髪の君は、普段は何してるの?」
 満足げな男は飢えた狼のように次の獲物に狙いを定める。目で合図するとレナードは悲劇のヒロインのように去って行く。しばらく裏の補佐をしてもらい、この男を帰し次第戻ってきてもらおう。
「私は……スウェーデンで羊飼いをしてます……」
 彼女は気弱そうなメイドを装い、わざと細切れに質問に答える。
「政府の制度で補助金が出るので……」
 彼女は獲物の羊ではなく、羊飼い。手の平の上で転がされるのは男の方だろう。
「休日はお料理を……お嬢様のお口に合う物を研究させて頂いております♪」
 飲み物をオーダーされてソムリエエプロンを着ける平介の耳に聞きなれた声が飛び込んできた。
「魔法が足りなかったかもしれないな……しれませんね」
 両手でハートを作って、守凪が言う。
「お……『おいしくなーれっ、命ドキッ☆マジック』……!」
 京香もハートマークが書かれたオムライスを前に引きつった笑みを浮かべている。
「もう一回! もう一回!」
「め、命ドキ……ず、ズッキュン……オム、ライス……美味しくナァレ……」
 見守るしかないのは少し歯がゆいが。
(ふたりともファイトです!)
 にこにこと接客をこなしながらも、ちらりと京香の様子を伺うカミユが視界に入る。きっと同じ気持ちなのだろうなと平介は内心苦笑した。
 たおやかに、優美に、穏やかに――事前に彼方と話し合った、今日の方針だ。
(この辺りは、いつもティータイムで気にしている事です…いけます! 後は台詞!)
「お帰りなさいませ、お嬢様。普段仕えのメイドは今日は体調を崩しており……身分不肖でありながら、このディナス。お嬢様のお帰りを心よりお待ちしておりました。お席まで是非ご案内をさせて頂きます」
 自分のためだけに微笑む美形。洗脳状態の女主人が揺らぐ。
「なっ……は、早く珈琲持ってきてよ。ブラックよ! ふーふーして冷ましなさいよね!」
 ディナスがあまりにも好意的に接してくれるので、気圧されている。一方、前回より彼方が貫くのはドジっ子路線だ。
(全てを演じろ! 客は主! 有事の悲鳴は全て『きゃあっ』!!)
 心で何度も呟く。
「愛パン&ココ愛(ここあ)ケーキ、お待たせいたしました」
 もぐもぐと上手そうに口を動かしながら、客は「いまいちだなぁ」などと口走る。
「ごめんなさい……っ、まだメイドの修行が足りてなくって……美味しいって言って下さるまで何度でも掛けますからっ!」
「もういい」
 彼方は「えええっ?」と大げさに驚く。
「だってお前今にらんだでしょ? やりたくないんでしょ?」
「申し訳ありません! 生まれつき……目が……良くなくって……厚い眼鏡で……ご主人様に少しでも無礼の無いようにと……本当に申し訳ありません……」
 こちらのドラマももう少し続きそうだ。
「お嬢ちゃん、いくつ?」
 下卑た笑みを浮かべる鬼主人。
「数えてない」
 が、ニロの返答が予想外すぎて一瞬固まる。セクハラ発言を繰り返すが、柳に風。これでは面白くない。
「げっ、何だこのコーヒー」
「さっきまでのんでたのに?」
 立ち上がる男の元に蕾菜が飛んできた。一も二もなく頭を下げられ、攻勢が止まる。
「こんな味のものをご主人様に出すなんて」
「申し訳ありません。作り直させていただいてもよろしいでしょうか」
 疑問形での申し出にも文句をつけ辛い。
「ま、次は気を付けてよ」
「はい。ではすぐに用意を。ご指摘ありがとうございました」
「う……」
 丁寧な蕾菜の対応は何よりの防御となったようだ。
「これまっずいなー。作った奴呼んで来いよ」
「今、何と……?」
 エレナが地を這うような声音で言った。
「だから……ヒッ」
 そのエレナの表情を見た者は彼のみだったという。正体は鬼ご主人の横暴を見て魔が差した大馬鹿者だったが、彼は程なく退店した。

●おしゃべりタイム
「ちー、大丈夫ですか?」
「うー」
 一方、びたーんという後を立てド派手に転んだのは矮だ。幸い、皿はヴィクトアがキャッチしていた。
「お待たせいたしました。どうぞ、お召し上がりください」
「あぃっ」
 矮は涙目のまま得意げに笑う。ヴィクトアは「よく我慢しましたね」と矮の頭を撫でた。
「チョコタルトに、ポテトですね。かしこまりましたっ」
 新爲が厨房へと向かう。
「んん?」
 愛らしい声音に似合わぬ、鋭い手刀。スカートの辺りに手を伸ばされた気がしたのだが、振り向くとそこには誰もいない。
「気のせいでしょうか~?」
 実は武術に長けた妹系メイドはお仕事に戻ることにした。
(タルトには『お兄ちゃんへ』と書いてみましょう。チョコペンは使い慣れてませんが頑張りますよっ!)
 ミリオタとまではいかなくても戦闘要素を好むオタクは多い。その点で時雨のコンセプトは当たりだった。
「休みの日? 家の掃除や洗濯をしたり、友達のお仕事を手伝ったり、トレーニングをしてるよ」
「もし悪い奴が来たら僕のこと守ってくれる?」
「もっちろん!」
 得意技を問われた時雨は少し考えて、また笑顔になる。
「射撃、かな? 前は国防軍にいたからね」
 隣のテーブルから女子たちが声をかけてきた。一般的なメイドとは違うキャラクターが気になるようだ。
「あなたはどうしてメイドに?」
「ご主人様のお世話ができるからさ」
 キャッキャという笑い声。ボーイッシュな少女というのは女性受けも悪くない。
「例えば敵が後ろから来たら、こう……あれ?」
「どうしたの?」
「何かふんじゃった気がしたけど、気のせいだったみたい」
 哀れ、時雨の背後に迫っていた従魔も短い命を散らした。
「白銀の世界ですね。とても美しいところですよ」
 出身地を聞かれ、ヴィクトアはそっと目を伏せる。
「おぁー」
 同じ質問に矮は指で上を指す。
「ふふ、本当なんですよ」
 矮は庭の手入れをしている際に、降ってきたのだ。
「お休みの日は何してるの?」
「読書、ですかね。花園の中で読むと大変落ち着きます」
「ちーちゃんは?」
 あぅあぅと歌ってみせる矮。可愛らしさに皆の顔がほころんだ。
「行ってらっしゃいませ♪」
 平介は女性に上着を着せ、荷物を渡し、プレゼントを差し出す。続いてやってきたルーデルは、席に巻いてあったリボンをチョコに巻き付けて渡している。
「おや、お帰りなさいませ♪」
 店内へと振り返った平介は、視界に入った人物にそう声をかけた。
「守凪さん、こういった服やはり似合いますね♪」
 店長の許しを得て執事服に着替えてきたのだ。
「お帰りなさいませ、お嬢様。ご案内致します」
 ぎこちないが、一生懸命に接客しているのは伝わっているだろう。
「カミナと申します。何かございましたらいつでもお申し付け下さいませ」
 目線を合わせるように腰を低くし、優しく声をかける。平介は拍手を送りたい気持ちで微笑んだ。
「へー、らいにゃんはHOPE所属なんだね」
「はい。ですから普段は依頼に出たり、お休みは家事をしたりという生活です」
 蕾菜に好感を抱いたらしい客は、もう会えないのかとがっかりする。
「実はこうやって表に出る仕事や人と触れ合うも少なくないんですよ。縁があれば、またお会いできるかもしれませんね」
「そうだと嬉しいな」
 そこへやってきたのは小さいサイズの制服を着たニロだ。
「あるじー、あいすぷりんもってきたー」
「よくできました。次は呪文ですね」
「んっと、あるじが作ったのよりおいしくなぁれ……もえもえきゅん?」
 ニロは手でハート形を作ったまま「あってる?」という目線を客に送る。いかにも見様見真似といった仕草も相まってとても可愛らしい。
 会話はニロの普段の生活へ。
「ししょーとしゅぎょー」
 『師匠』について説明するうち、蕾菜が能力者、ニロが英雄と知った男は呟く。
「正統派ならいにゃんと可愛いニロちゃんがコンビを組み、戦う変身メイドさんに。妄想が捗る~」
「いつもめいどじゃないよ?」
「しー、ですよ。ご主人様の夢を壊してはいけません」
 蕾菜はニロの口を抑え小声で言った。

●VS鬼2
「冷凍食品? こんなに美味しいお料理なのにですか!?」
 絡まれやすい店員というのはだいたい決まっている。レナードがその役割を演じることで、皆は助けに入りやすくなった。
「申し訳ございませんご主人様、よろしければ私が作リ直させて頂きますが……」
 ほとんど空になった皿から状況を察しつつ、エリオノールがいう。
(ジャガイモ系とか、ミートボールなら手作りで出せるけれど。サーモンや魚のスープとか)
 出したら出したで無理やりにでも文句をつけて来るのは目に見えている。
「5卓のご主人様、嘘クレームです。冷凍ガトーショコラ、追加してあげてください」
 割り切った物言いに、厨房に笑いが広がった。
「イングリさ~ん!」
 こちらは、早口で大量のメニューをまくしたてるご主人。
「ここは私が」
 まことは涙目で助けを求めてきたが、呪文に比べれば何ということは無い。
「焼きそばパンが食べたい」
「はい! 作ってみますね!ご主人様!」
 鬼主人は面食らった。メイドの困った様子を見たいと思っていたのにルーデルは厨房へと駆けていく。
「またお前か」
「お願いします! ご命令なんです!」
 店長はぽんと手を打った。
「コッペパン買ってくる? 焼きそばはレギュラーメニュー用の冷凍食品があるよ~」
「店長……」
「ま、緊急事態だし仕方ないって」
 煉はため息を吐く。懸念はもう一つ。
(ルーデル……仕事終わったら、元に戻るんだろうな?)
 自宅を走り回るはりきりメイドを想像してしまい、煉の胃は痛んだ。
「君も座ってよ」
 客に強引に引き寄せられ、傾いだ京香の体を抱きとめたのはカミユだ。
「……京香さん、大丈夫?」
「あ、ありがとう……」
 京香は周囲からの視線を感じ、身を離す。
「すみませんが、ここはそういうお店じゃないので」
 カミユが静かに言う。笑顔の下では怒りの炎が燃えている。
「えー、詰まんない」
 鬼主人には理屈が通じない。つまみ出したいのはやまやまだが。
「人質がいる以上、彼にも穏便に帰ってもらわなきゃ」
「そう……だね」
 苦々しく答えたカミユは、別の席でヴィクトアが言っていたことを思い出す。
「それでは僭越ながら、私がパフォーマンスを」
 ヴィクトアが見せたのはジャグリング。店内はちょっとしたショータイムの様相だ。矮は「自分も」と客の服の裾を引っ張る。
「うー!」
 ぶわっと毛が逆立ち、ふわふわに膨らむ尻尾。
「え、触っていいの?」
 此方にもメイドを含む行列ができたのは言うまでもない。
 こうなってしまえばこっちのもの。男の強引な態度もショーのフリくらいに見えたかもしれない。京香はナンパまがいの台詞を次々かわしていく。カミユ以外の男の口説き文句など彼女にはまるで意味を成さない。
「女の子に年齢を聞くのはNGよ……? これ、サービスするからこの質問は終わり」
 ニコリとして、こっそりアイスクリームをサービスする。
「僕だけ特別に? しょ、しょうがないなー」
 カミユは満足気に退店する男を、京香と共に見送る。
「お見事。京香さんの一人勝ちだねぇ」
「そんなことないわ。カミユの接客はスマートだし、お客さんも楽しそうに笑ってたし……」
 どうやら彼女もこちらを見ていてくれたようだ。
「それに、守ってくれて嬉しかったのよ?」」
 訂正。こんな可愛い恋人がいる自分は最初からずっと勝者だ。
「どうしてそんなに頑張るの? もう僕の事嫌いでしょ?」
 彼方が対応する鬼主人の眼も正気に戻りかけていた。
「少しでも私の行動が、どなたかの役に立てたら良いなって……そんな思いでメイドになりました。あの──まだ、少しでもご主人様の不足が御座いましたら、是非仰ってくださいね……?」
「ぼ、僕が間違ってたよ、彼方ちゃんー!」
 朝礼の校長先生の如くしゃべり続ける男に、矮は懸命なリアクションで相槌を打っていた。
「んー、なんかすっきりしたわ。また来るね」
「お出かけですか? お気をつけていってらっしゃいませ。あ、こちら、忘れものですよ」
 プレゼントのチョコの渡し方もあくまで使用人らしく。
「いっえあっあーい!」
 最後は笑顔でお見送り。
「偉かったですね、矮」
 健闘を称える間もなく次の客が来る。矮は「任せて」と胸を叩いた。

●幻の使用人
 閉店後のドアをノックしたのは人質になっていたメイドさんたちだ。皆は無事を確認してほっと胸をなでおろす。
(私は……ここから何を見出せたのだろうか……?)
 彼方だけは燃え尽きていたが。
「本日はずっとご機嫌ナナメのご様子でしたわねぇ。もうすぐお誕生日ではありませんか」
「それが嫌なんだよ」
 2月14日に生まれた炉威はバレンタインをいたく嫌っている。
「困りましたわ。わたくしは炉威様の幸せだけを願っておりますのに……」
「そんなもんは自分で世話するよ。ほっとけ」
「そういう訳には参りませんわ。今日もずっと悲しかったのです」
 エレナは今日の炉威の仕事ぶりを羅列し始める。彼女の名誉のために補足しておくが、エレナはきちんと仕事をこなしていた。他の者よりは頻繁に調理場を訪れていたが、まぁまぁ許容範囲だと店長は言っていた。
「なんつーか……頑張れよ」
「はぁ、どうも」
 柄にもなく気づかわし気な台詞を吐く亮次に、炉威は無感動な視線を返すばかりだった。
 キャンペーン後、店にはエージェントたちのファンからの問い合わせが相次いだとか。彼らにまた会える日が来るのかは、神のみぞ知る。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • ひとひらの想い
    零月 蕾菜aa0058
  • コードブレイカー
    賢木 守凪aa2548
  • エージェント
    皇后崎 煉 aa4201
  • 誠実執事
    ヴィクトア・ローゼaa4769

重体一覧

参加者

  • ひとひらの想い
    零月 蕾菜aa0058
    人間|18才|女性|防御
  • 料理の素質はアリ
    ニロ・アルムaa0058hero002
    英雄|10才|?|ブレ
  • 分かち合う幸せ
    笹山平介aa0342
    人間|25才|男性|命中
  • 薫風ゆらめく花の色
    柳京香aa0342hero001
    英雄|24才|女性|ドレ
  • エージェント
    飯野雄二aa0477
    人間|22才|男性|生命
  • エージェント
    淡島時雨aa0477hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 解れた絆を断ち切る者
    炉威aa0996
    人間|18才|男性|攻撃
  • 白く染まる世界の中に
    エレナaa0996hero002
    英雄|11才|女性|ジャ
  • コードブレイカー
    賢木 守凪aa2548
    機械|19才|男性|生命
  • 真心の味わい
    カミユaa2548hero001
    英雄|17才|男性|ドレ
  • エージェント
    皇后崎 煉 aa4201
    獣人|24才|男性|生命
  • エージェント
    ルーデルaa4201hero001
    英雄|16才|女性|バト
  • 孤高
    黒鳶 颯佐aa4496
    人間|21才|男性|生命
  • 端境の護り手
    新爲aa4496hero002
    英雄|13才|女性|バト
  • 知られざる任務遂行者
    イングリ・ランプランドaa4692
    人間|24才|女性|生命



  • エージェント
    エレオノール・ベルマンaa4712
    人間|23才|女性|生命
  • エージェント
    フェンリルaa4712hero001
    英雄|16才|女性|シャド
  • 誠実執事
    ヴィクトア・ローゼaa4769
    獣人|28才|男性|防御
  • 癒し系子狐
    aa4769hero001
    英雄|6才|女性|ブレ
  • エージェント
    水無月 彼方aa4940
    人間|20才|女性|命中
  • 全力すぎる美形
    ディナス・アリアaa4940hero001
    英雄|22才|男性|ドレ
  • エージェント
    レナード・D・シェルパaa4977
    人間|15才|女性|攻撃



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