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依頼前の挨拶スレッド
最終発言2017/02/07 23:18:41 -
相談卓
最終発言2017/02/08 21:16:43
オープニング
●
北欧にて。
惨劇とも呼ぶべき全てを凍らす雪嵐が、命をも奪い刈りながら災いと渦を巻いていた。
力なき者は救いを乞い、力ある者はその声に応えるべく雪原を駆け……という事件が起こっていた中、
北欧とは関係ない所では、甘くて苦くてたまにしょっぱい事件が渦を巻いていた。
そしてその裏には、従魔や愚神の影があったり、なかったり……
●今回の依頼人です
「ダメよ、やっぱりダメよキャシーちゃん。アタシ、アタシ、やっぱりどうしても出来ないわァァァ……」
なんぞ。
かぐやひめんの店主、キャシーに呼び出されたエージェント達はそれぞれ視線を泳がせた。バイオレットカラーのストレートボブが麗しい、オランウ―タ……もといオネェが目の前でいきなり泣き崩れたらそういう反応にもなるだろう。
「突然お呼びしてごめんなさいね~ん。この子はうちの店で働いているすみれちゃんって言うんだけど~ん」
すみれちゃん。
「実はこの子、今年のバレンタインデーでどうしてもチョコを渡したい殿方がいるのよ~ん。でも、どうしても自信が持てないみたいで……」
いつもはもっと元気なんだけどね~ん、とキャシーは物憂げに息を吐いた。ストレートボブのオランウ―……すみれちゃんは床に座り込みしくしくと泣いている。
「あたし達も一生懸命励ましてみたんだけれど、これ以上はどうにも出来なくて……忙しい所とっても申し訳ないんだけど、すみれちゃんの事励ましてあげて欲しいのよ~ん」
どうかよろしくお願いするわ~ん、とキャシーは分厚い両手を合わせた。エージェント達は考えた。
とりあえずこれ、多分エージェントの仕事じゃないよな……
解説
●目標
すみれちゃんが意中の人にチョコを渡せるようになる(すみれちゃんがチョコを渡せればクリア)
●場所
かぐやひめん控室
テーブルと椅子があるシンプルスペース。あたたかいほうじ茶のポットがある。希望があればキッチンの使用可(材料費はすみれちゃんが出す)
●やる事と注意点
・すみれちゃんを励ます
・普通に励ます
・実体験を語る
・「自分もチョコを渡そうとしている」と心情を打ち明ける
・チョコを渡す予行練習の相手になる
・アプローチ方法を提案する
・女装する
・すみれちゃんと拳を交える
・など法と論理とR指定に触れなければ励まし方はおまかせ(触れそうな場合はマスタリング対象)
・店は壊さないように(やろうとするとキャシーが出動)
・使用可能物品は装備品と携帯品、かぐやひめんから借りられる女装グッズ、お菓子作りの材料のみ
●NPC情報
すみれちゃん
かぐやひめんで働くオネェさん殿。バイオレットのストレートボブがチャームポイント。身長185cm。28歳。ストレートパンチが強い
キャシー
かぐやひめんの店長のオネェさん殿。色んな所がチャームポイント。身長192cm。年齢と恋愛データはヒ・ミ・ツ
●すみれちゃんの想い人情報
【PC情報】(PCはリプレイ開始直前にすみれちゃんから聞かされる)
・とある喫茶店で働いているメガネの素敵な32歳男性
・身長172cm。中肉気味
・にこやかな笑顔と物腰柔らかな対応にすみれちゃんは恋に落ちる
・好きな女性のタイプはカッコいい女性
・ナッツ入りのチョコブラウニーが好き
・指輪とかは特にしてない
【PL情報】
・実は既婚者で、きびきびとした性格の姉さん女房(50歳)がいる
・指輪をしていないのは喫茶店(飲食業)だから
・すみれちゃんがチョコを渡した場合、この情報を聞かされた上で「お気持ち嬉しいです。チョコレートありがとうございます」と丁寧にお断りされる。この後すみれちゃんを励ますか励まさないかは自由
リプレイ
●起
「うっわ……」
目の前の光景に六道 夜宵(aa4897)は声を上げた。一見おとなしめだがよく見ると強い目力を放つ黒い瞳の先にあるのは、オネェバー「かぐやひめん」。そのまましばらく絶句する夜宵を若杉 英斗(aa4897hero001)が覗き込む。
「夜宵、どうかしたか?」
「いや、こういう世界にはじめて触れたから、ちょっとビックリしただけ。もう大丈夫」
「そうか。ならいいが」
片手を上げ「大丈夫」アピールをした夜宵は「とりあえず」とそびえ立つ依頼人達へ視線を移した。ゴリ……もといキャシーとオランウ―……もといすみれちゃんに自信たっぷりに挨拶をする。
「はじめまして、六道夜宵よ。安心して、すみれちゃんさん。力になるわ! 主に、この英斗が!」
「なんだろう……。なんとかして力になってやりたい、この感覚。非モテ……うっ、頭がっ」
英斗はスタイリッシュな動作で額に指を押し当てた。非モテ――それは愛の女神の加護を受け得ぬ悲しき修羅の道を行く者。特にこの時期になると非モテ修羅道は鋼の針の莚となり非モテ達に更なる地獄を垣間見せると言うが――とかいうのはともかく。
「キャシーお姉さんの頼みなら……」
「つきさま、一緒にがんばりますのっ」
木陰 黎夜(aa0061)がぎゅっと拳を握り締め、真昼・O・ノッテ(aa0061hero002)が可愛らしく両手を合わせた。幼くも懸命に決意を表す二人の前で、小鉄(aa0213)もやる気全開で機械の腕を振り上げる。
「任務でござるな! さぁ従魔でござるか、愚神でござるか!?」
「従魔も愚神も居ないわよ! けどある意味それより難敵かも……」
稲穂(aa0213hero001)の溜息混じりのツッコミに小鉄は「?」と首を傾げた。そう、今回倒すべきは従魔でも愚神でもなく、恋患い。とりあえず敵を知らずばなんとやら、一同はすみれちゃんから詳細な事情を聞く事にした。ふんふんと頷きながら志々 紅夏(aa4282)がぼそりと呟く。
「恋の応援……この時期は多いわねー。ところで質問なんだけど、その人恋人とか片思いの相手っていんのかしら。指輪はしてないけど、それは既婚者か婚約者ってことだから、その気配があるかどうか知りたいわ」
「それでなくても食べ物扱うお店で装飾品着けない気がするけど」、とはあえて口に出さなかったが、すみれちゃんの顔が「はっ」とした後青ざめた。
「恋人とか片思いの……そ、そうね。指輪がなくてもそういう可能性はあるわよね。ステキな人だし、きっといるわよね……」
その可能性にすみれちゃんは更に弱気な態度を見せた。落ち込むすみれちゃんの姿を見ながら虎噛 千颯(aa0123)が瞳を細める。
「言いたくないなら言わなきゃいいんじゃね? 所詮その程度だったって事だろ?」
「千颯!? どうしたでござるか? らしくないでござるよ!」
白虎丸(aa0123hero001)の声を耳にしながら千颯は渋面を崩さなかった。普段と違い少し言い方が刺々しいのはすみれちゃんが……というよりは、自身の過去に原因がある。
千颯は過去に、自分が絡む告白で親友を亡くす経験をしている。それが過剰な程冷たい態度を今の千颯に取らせていた。言わない事で傷つかなくて済むならその方が良いと思っている。ただ、告白しなかった事をずっと引き摺る位なら告白はすべきだとも思っている。だが、
(あの時言わなければと後悔する位なら初めから言わなければいい……。そうすればあいつだって死ぬ事は無かったんだ……)
自分の行動が違っていれば彼は死なずに済んだかも……そう思えば考えを口にする事は出来なかった。告白する事に勇気がいる事は知っているし、例え振られたとしても告白した事が自分にとってプラスになる事も知ってはいる。けれど……
白虎丸は被り物の下で困惑を滲ませていた。いつもは「落ち着け」と言っても一層はしゃぐ千颯なのに、普段と明らかに態度が違う。何かあったのかなとは思いつつ、しかし余り深くは聞かない事にした。『互いの意思を尊重する』、それが二人の誓約である。言いたければ千颯自ら言うだろうし、言わないのならその意思を尊重するだけである。
と、突然千颯がぐりっと視線を右に向け、白虎丸も釣られて金の瞳を右へと向けた。見れば英斗が、訝し気な表情で千颯の事をじっと見ている。
「ん? オレちゃんの顔に何かついてるかな? それとも誰か知り合いに似てたかな?」
「どうかしたでござるか? 千颯の阿呆面が珍しいでござるか?」
二人の言葉に「あ、いや、なんでもないです」と英斗は一時その場を去った。一部始終を見ていた夜宵が相棒に問い掛ける。
「どうかした? 英斗」
「いや、あの緑髪のひと。どこかで会った事があるような、ないような……」
これで衣服をパージしようものなら元の世界の記憶がちょっと蘇る気もするが……でも、よく考えたら、俺が知っている人は、そもそもはじめから服を着ていなかった気もする……なんとなく覚えているような、いないような記憶の蓋を閉めたりズラしたりする英斗の横で、夜宵がこっそり千颯達を覗き見る。
「どれどれ? ふうん。私は、あの英雄さんの方が気になるけどね」
と、夜宵は白虎丸の後頭部を指し示した。英斗は気を取り直し、神妙な顔でふむと頷く。
「あぁ。あの身のこなし、只者じゃないな」
「そんなの見てわかるの? ハッタリでそれっぽい事を言ってるだけでしょ?」
「……」
●承
「キャシーお姉さん……」
キャシーが声に振り返るとそこには黎夜が立っていた。キャシーは目元を優しく和らげ黎夜の前にしゃがみ込む。
「あらん、どうしたの黎夜ちゃん」
「キッチン、借りる、な……。それから……すみれお姉さんの好きな果物とか、知ってる、かな……?」
「なんでも好きだったと思うわよ~ん。大丈夫だとは思うけど、ケガは絶対しないでねん」
黎夜はこくりと頷いた後キッチンへと入っていき、ボールや泡立て器などを借りて材料を混ぜ始めた。混ぜて容器に入れてレンジでチン、と簡単に出来るチョコレート味の蒸しケーキ。
「すみれお姉さんのは中にイチゴジャムを入れて……真昼にはコーヒー味を……」
見た目も喋り方もお嬢様然とした真昼は甘いものが得意でなく、苦いコーヒーや濃く淹れた紅茶や緑茶などを好む。幸せに慣れておらず、恐怖さえ抱いている彼女が少しでも喜んでくれればいい……祈るように黎夜はボールの中身を混ぜ合わせる。
稲穂はまぁ取り敢えずは……とほうじ茶を人数分入れ皆の前に配って歩き、小鉄は事情を聞き終えた後しばらくうんうん悩んでいた。
『あら素敵なお相手なのね! ロマンチックだわぁ……うん、私達も協力するから、頑張って想いを伝えましょうね!』
『うむうむ、贈り物をすることは時として勇気が要るものでござるよな……拙者、全力ですみれちゃん殿のお手伝いをするでござるよ!』
と気合を入れたのはいいのだが……、……
「閃いたでござる!」
お茶を二杯飲み干した辺りでようやく小鉄は閃いた。すみれちゃんを手招きし、物を壊さずに済む位置まで二人揃って移動をし、それから両の拳を握り締めてすみれちゃんの前に突き出す。
「拙者と戦い、勇気と格好良さの証明をするでござるよ!」
小鉄の考えはこうだった。忍びである自身(小鉄)を打ち倒すことが出来れば、それはチョコを渡す勇気にも繋がるし、何よりお相手の好きな女性のタイプのカッコいい女性、という項目に当てはまるようにもなるのでは……!
ニンジャは言いたいらしかった。稲穂は頭を抱え始めた。ほうじ茶二杯飲んで悩んで出たのがそれか駄目ニンジャよ。
「さぁ! 拙者を倒さねばチョコを渡すなど夢のまた夢でござるよ!」
言って小鉄はすみれちゃんにストレートパンチを叩き込んだ。迷い、手加減、一切なし。忍者修行そのままに小鉄は鋭く声を張る。
「手加減は無しでござごふぁっ!?」
「何すんだこの黒覆面がぁ!」
見事なストレートパンチがニンジャの頬に叩き込まれた。野太い声に顔を上げればそこには怒れる森の王者……もといすみれちゃんが拳を構えて立っている。
「ふっ……いいパンチでござる。さあ拙者を越えてゆくでござる!」
「上等だゴルァッ! 今すぐ床に沈めてやるわ黒覆面!」
熱き拳の応酬を告げるゴングがカーンと鳴り響いた。お互いストレートパンチ一発による真正面からの真っ向勝負。激しい拳の打ち合いが続き、そして互いの拳が互いの頬に全く同時にめり込んだ。クロスカウンター。バックに夕陽の幻影が浮かぶ。小鉄が覆面の下で笑む。
「ふっ……その、心意気で、ござるよ――」
小鉄は拳を高く掲げ、そのまま床に沈み込んだ。物は壊さないように注意しながらKOされた。稲穂は静かになった小鉄を隅の方に転がした。
「これだから脳筋忍者って言われちゃうのよ、はぁ……」
「あの、すみれお姉さん……」
と、心なしか稲穂からの扱いが雑になってきた小鉄タイムが終わった所で、キッチンから戻ってきた黎夜が声を掛けてきた。慌てて身だしなみを整えるすみれちゃんに黎夜はおずおずお盆を差し出す。
「……蒸しケーキ、作ってみた……。甘いもの食べて、あったかいもの飲んだら……不安とか、ちょっとは落ち着くと、思う……から……」
「これ、アタシに?」
すみれちゃんの問い掛けに黎夜はこくりと頷いた。すみれちゃんに渡した後、他のメンバーやキャシーにも蒸しケーキを勧めてみる。すみれちゃんはケーキを食べ嬉しそうに笑みを零した。
「おいしいわぁ。作ってくれてありがとねえ」
「ドキドキしたけど……喜んでくれたなら……作って、よかった……あの、すみれお姉さんは、好きな人に、チョコ、渡したい……?」
黎夜はお盆を抱き締めながらぽそぽそと口を開いた。向けられる視線に緊張しつつも頑張って声を振り絞る。
「『この人が気になる』とか……『チョコを渡したい』とか……自分の気持ちに、素直になる……。そうしたら、きっと、お姉さんの原動力になると、思う……えっと……つまり……素直が一番って……言いたい……」
「自分の気持ちに素直になる」、かつて自分が言われた言葉をアドバイスとして黎夜は贈った。白虎丸も(状況をイマイチ理解していないながらも)(とりあえず応援すればいいんだな位の感覚で)(純度100%の天然なりに)応援する。
「すみれ殿頑張るでござるよ! 大丈夫でござる! 当たって粉砕でござるよ! 勇気が足りないなら俺の分も渡すでござるよ。大丈夫でござる。悪いようにはならないでござる」
「すみれちゃん! 好きな人に想いを伝えたい、その気持ちはすごくよくわかります!」
白虎丸の(特に根拠の無い)応援に英斗も声を被せてきた。「どーん」と荒波の幻影をバックに内なる闘志を爆発させる。
「自信がもてない? チョコを渡すのになんの自信が必要なんです! 好きな人に振り向いてもらいたい、その気持ちはわかります! 誰だって、俺だってそう思う! でも、そういう結果や見返りなんか関係ない! 渡したいから、渡すんですよ!」
「……言っている事がよくわからないわね」
「小細工など不要! 真正面から! 堂々と! チョコを渡せばいいんですよ!」
「すみれちゃんさん、ごめんなさい。あまり参考にはならなかったですよね?」
拳を握る英斗の横で夜宵がぺこりと頭を下げた。「そんな事はないわ」と首を横に振るすみれちゃんに、「……まひるも、そう思いますの」、と真昼が自身の考えを告げる。
「すみれさまがお慕いしている方は、すみれさまをご存じですのよね? まひるは殿方へおくりものをした経験は、少ないのですけれど、素直に伝えたときが、一番よろこばれたように思いますの。おなまえと、想いをお伝えして、おくりものをお渡しする、それが一番だと思いますの」
ごくごくシンプルなアプローチを、それが真昼の答えだった。話を聞いていた紅夏も浮かんだ案を口にする。
「個人的には呼び出して……というのも相手がお店の人なら、お客さんとどうこうとなっちゃうと色々拙いかもしれないし、軽く聞けるようパーティーみたいなのを開いて、そこで話題として聞いちゃうとかはどうかしらね。その案で問題ないなら開催して招待状出したらどうかしら。いっそ皆に作って配るってのもアリかしらね。高校の時は教室がパーティーみたいで楽しかった……養母さんと作った最後のティラミスは力作だった……」
思い出に想いを馳せ、紅夏は懐かし気に瞼を閉じた。普段はツンデレクールビューティー系の紅夏だが、今は女子高のノリに戻り微妙にテンションがうきうきしている。
「とりあえず、チョコを作りましょう。ラッピングも手伝うわね。相手の人に気に入ってもらえるように」
「ちょこを作るでござるか? 俺も応援するでござるよ!」
紅夏と白虎丸に押される形ですみれちゃんはキッチンへ入っていった。一部始終を黙して見ていたCERISIER 白花(aa1660)が穏やかに笑みを零す。
「純粋な恋はいつみても素敵なものね」
「左様でございますわ! 輝くものは物品に限りませんもの!」
白花の言葉にプルミエ クルール(aa1660hero001)は完全完璧に同意した。今は見守りの姿勢を取る二人から離れたキッチンでは、紅夏とすみれちゃんがガールズトーク(?)にこっそり華を咲かせている。
「紅夏ちゃんは誰かにチョコは?」
「私の今年のチョコは……自分チョコだけかしらね」
恋人なしと年齢一致が虚しい……と紅夏は少し肩を落とした。「パートナー」と言ったって優雨は食べるの嫌いだし、翼もきついだろうし……英雄達に感謝チョコを贈る事に抵抗はないが、特に、何も語らない翼の事情は何となく判るので今はまだやるつもりはない。
紅夏の言葉にすみれちゃんは少し考え込んだが、今は何を言う事もなくまずはチョコを完成させた。緊張しながらチョコと共に戻ってきたすみれちゃんにプルミエが踊るように近付く。
「もしお化粧をさらにするのであれば、わたくしにもお手伝いさせていただいてもよろしいでしょうか? これでも白花様のお化粧はわたくしめが毎日させていただいておりますのよ!」
言ってプルミエはヴェレッタ・オリムの化粧道具を展開した。すみれちゃんは驚きながらも「それじゃあ」、とお願いし、プルミエは元のイメージはあまり壊さないように、でもすこしやわらかい雰囲気になるように自慢の腕を披露する。
●転
「みんな、ありがとう……アタシ、行ってきます!」
数分後、すみれちゃんはチョコと共に覚悟の顔で立っていた。英斗と白虎丸が「頑張れ!」「頑張るでござる!」と声を上げ、黎夜がすみれちゃんにヒーリングコロンを振り掛ける。
「勇気が出るように、おまじない……」
「すみれさまの想いが、伝わりますように、ですのっ」
「渡す時は邪魔しないわよ。精一杯気持ちを伝えなさい」
「さぁ、最後に相手を想って微笑んでみて。恋心は何よりも勝る、アナタを輝かせる化粧ですよ」
黎夜と真昼に紅夏と白花もそれぞれ続け、すみれちゃんは微笑んで「ありがとう」と背を向けた。喫茶店に単騎突入したすみれちゃんを、ばれない程度の物陰から稲穂がどきどき覗き込む。
「こういう乙女なイベントに遭遇するのって何気に初めてなのよねえ……ちょっとテンション上がっちゃう……」
「白花様、占いはいたしませんの?」
「そう言えば」という風にプルミエは主に問い掛けた。白花は普段は『白華』という名で占い師をして生活している。プルミエの問い掛けに白花はゆるく首を振る。
「強い想いの前では、占いは案外無力なものですよ」
穏やかだが、静かで確かな重みをもって白花はそう答えを返した。自分の「恋」は随分と前に止まったまま。なので掛けるのは先の言葉だけ、それ以外の励ましは他のメンバーに任せる事に決めていた。
「今の内に少しお片付けをしておきましょうか。見守りの方は他の方々にお任せしてね」
他のメンバーに気を使わせる事のないように、白花はこっそりとかぐやひめんに戻っていった。プルミエは敬愛する主に仕える完璧な幸福を噛み締めながら、花畑を歩むがごとく白花の後についていった。
●結
「ご結婚……されてたらしいの。年上でとっても素敵な奥様がいるんですって」
でもチョコレートは受け取って貰えたわ、とすみれちゃんは儚く笑った。浮かびそうな涙を必死に堪えるすみれちゃんを、真昼と黎夜は揃って見上げ精一杯声を張り上げる。
「すみれさま、気を落とさないでくださいまし……!」
「……すみれお姉さん……少し運動して、モヤモヤ気分とか、晴らしにいかねー、か……?」
必死に励まそうとする二人に、すみれちゃんは堪えていた涙をぼろぼろと落としてしまった。慌てる二人の後ろから、白花が穏やかに声を掛ける。
「……次の恋を見つけるまで、好きでい続けるのは構わないと思いますよ。だって、彼にした恋は素敵なものだったでしょう?」
「そんな素敵な恋を、哀しいだけの想い出にしてしまうのはもったいないですわ」
主の言葉を完璧に補佐しプルミエはパチンとウインクを投げた。自分を見つめるすみれちゃんに、白花は一層優しく笑う。
「さぁさぁ微笑んで。私はアナタの微笑みは綺麗で好きですよ」
「また新しい恋をして輝いて、あの方に『自分はあんなに素敵な人に好かれたことがあるのだ』と誇らせてさしあげましょう!」
「そうよ、あんたいい女なんだから、自分の魅力を上げてくれた素敵な人との出会いに感謝なさいよ。もっといい男に出会った時、あの人のお陰でこの人に出会えたって思えるじゃないの」
白花とプルミエの励ましに、紅夏も自分の考えを述べた。すみれちゃんはオネェだが、泣いている『乙女』にはツンデレ紅夏も甘いらしい。稲穂と白虎丸も拳を握りすみれちゃんを勇気付ける。
「結果はその、残念だったけども、すみれちゃんが勇気を出して告白できたことは、とっても凄いことよ。今日こうやって一歩を踏み出せたんだから、次もまた一歩踏み出せるわ、ね?」
「恋敗れてしまったでござるか……すみれ殿を振るとは見る目がないでござるな。大丈夫でござるよ! きっといい人が見つかるでござる! 元気だすでござるよ!」
「み、みんなあ……」
「そっか……言ったんだな。お疲れさん」
千颯はすみれちゃんに近付くと、その勇気を褒めるようにすみれちゃんの頭を撫でた。少し悲しい顔をしたまま、おどけるように腕を広げる。
「ま、泣きたいなら俺の胸で良ければ貸してやるよ? 既婚者だけどな」
すみれちゃんは目を瞬かせるとストレートボブを緩く揺らした。それから「大丈夫」と言うように元気な笑みを浮かべてみせる。
「こんな素敵な旦那さんをお借りしたら奥様に対して失礼だわ。みんな、ありがとう、アタシはもう大丈夫! それにみんなのおかげで、あの人にチョコ渡せたもの……」
少し目を潤ませながらもすみれちゃんはそう言った。英斗は少し頷いた後すみれちゃんの肩を叩く。
「1人にしてほしいというなら、そうします。でも、そうでないなら、今日はとことん付き合いますよ。飲みましょう!」
「まぁ、せめて今日ぐらいはたっぷり泣きましょうか。お酒でしたらおつきあいいたしますよ」
「哀しい気持ちは涙に込めて! ぜーんぶ流しきってしまったら、また明日から前を向きましょう!」
「幸せは、笑顔に集まる傾向がありますよ。数多くの方の恋を見守った私が保障します」
英斗の誘いに白花とプルミエもすみれちゃんに寄り添った。すみれちゃんは目を擦り、それから元気に拳を上げる。
「よっし! 励ましてもらったお礼に今日はアタシが奢っちゃうわ! 一緒にチョコもプレゼントよ!」
だから自分チョコだけなんて言わせないわ、とすみれちゃんはウインクした。意図に気付いた紅夏が思わずクスッと笑みを見せる。
「あ、キャシーお姉さん、これ……」
使ったコーヒーとかのお金、と黎夜はお金を差し出した。それに対しキャシーはバチコーンとウインクを飛ばす。
「あら、いいわよん。おいしいケーキでチャラって事で。それじゃあ未成年ちゃんもいる事だし、特別にお部屋を用意しないとね」
「(心配だから、最後まで英斗に付き合っとくか)」
すっかり飲み会モードの相棒に夜宵はふうと息を吐いた。この後彼女が冒頭以上の衝撃を受けるかどうかはご想像におまかせである。
稲穂は「?」と首を傾げた。すみれちゃんはすっかり元気を取り戻し「お酒もチョコも好きなの頼んで!」と元気に拳を上げている。それはいい。それはいいのだが、
「何か忘れているような……」
●余
小鉄は床に転がっていた。「信じられるか……これ、寝てるんだぜ……」という安らかな顔で転がっていた。
そんな小鉄のいる控室に、ドタドタという妙に重たげな複数の足音が聞こえてきた。そう、ここはオネェバー「かぐやひめん」。夜が来れば店が開く。開店のためにはオネェが要る。
控室の扉を開き、オネェ達が床に転がる黒覆面を発見するまで、あと五秒。
結果
シナリオ成功度 | 大成功 |
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