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質問卓
最終発言2017/02/07 15:22:05 -
相談卓
最終発言2017/02/08 02:53:07 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2017/02/05 05:06:17
オープニング
● まどろむ夢の境界線。
ここは夢の淵。無意識の境界。
人の意識とは個々個々としてあるものではなく、ひどく不確かで、そして重なり蠢く者である。
それが心繋ぐ能力者と英雄であるならなおさら。
今回はそんな精神世界のバイパスがつながってしまうお話。
枕元に立つ、フードの誰か。
愚神まどろみが引き起こす、世界の被膜が薄くなる話。
● 世界とは無数に存在し。
皆さんは世界が無数に存在することを知っているだろうか。
当然英雄と契約する能力者であれば知っていて、なじみが深いとは思うが、それは知識として知っているだけであり体感したことはないはずだ。
だから今見ている光景が一体なんなのか、君たちには理解できなかったはずだ。
だが傍らに降り立った英雄が口ずさむ言葉。
それに君たちは耳を疑った。
そう彼らはこう告げたのだ。
ここは自分の生きていた世界だと。
この世界は自分の住んでいた世界だと。
そこで英雄たちはかつての暮しを、愛したものを。守った世界を。
教えてくれる。
その世界に訪れたことで、本来の姿に戻ったものもいるだろう。
その世界に引きずられて姿や性格が変わるものもいるだろう。
そして、英雄が口ずさんだ自分の物語は、楽しいものではないかもしれない。
だが、まぎれもなく、それは事実の物語。
そして今夜はその物語を食らう愚神がいる。
その思い出を食らう愚神がいる。
それが愚神まどろみ。
奴は英雄の記憶を捕食し、それを力とすることができるのだ。
奴の分身がこの世界に三体放たれたらしい。
それらを見つけ退治しなければ、僅かばかりに残った英雄の記憶すら失われてしまうだろう。
皆さんはその英雄の世界を渡りながら敵を探し倒してもらうのが今回の目的となる。
● 世界について。
皆さんは最初にまっさらな空間に通される。そこから英雄が作り出す扉を潜り英雄の世界を『招く』
つまり、扉を潜って英雄の世界に行くのではなく、扉を開くと、英雄の世界に周囲の空間が上書きされるのだ。
これを利用して、まどろみの攻撃に耐えてほしい。
まどろみは直接的の戦闘力は皆無に近い。
ステータスも本体がケントュリオ級としては下位であり、何より攻撃手段が。英雄世界からのリーディングでしか入手できない。
つまり、展開されている世界の歴史や、世界感で攻撃手段が変わるのだ。
なので、世界感の共通理解が重要になってくる。
たとえば、剣しかない世界にまどろみが現れた場合、銃を持てるリンカーは有利だろう。
魔法崇拝の世界なら物理防御が低い可能性が高いので近接アタッカーをいかに近づけることができるかが重要になるだろう。
ただ、展開した世界は英雄をひきつける。
ここにいろ、現実世界は君の世界ではない。と縫いとめようとして来る。
それは英雄のトラウマの再現であったり、親しい人の亡霊であったりする。
それを振りきるためには、現世への執念、能力者への執念が妥当なところだろうか。
なので、それを振りきってまどろみを全て倒す必要がある。
そしてまどろみはその世界に長く滞在すると、その世界自体へのアクセス権を手に入れてしまう。つまり好き勝手できるようになるのだ。
しかも、その世界は英雄の記憶と直結している、これが自由にされるということは、英雄の頭の中をいじくられるも同然。
ただ、この浸食スピードはまちまちなようで、能力者と英雄の絆の強さや、精神力、世界の広大さ。その他もろもろが影響するようだ。
なるべく心と絆を強くもっていただきたい。また、浸食が進めば別の世界に切り替えるというのも一つの手。
● 重要点
上記の重要点をまとめる。
・世界観の共有
まどろみの戦術を誘導、把握するために必要。
・英雄を引きつける世界への対抗措置。
元の世界に引きずり込もうとして来る、思い出やトラウマにどう対抗するか
・世界浸蝕に対してどう対応するか
解説
※これは本物の異世界ではなく、あくまでも英雄の精神世界である。
目標 プチ・まどろみの撃破
今回は、英雄世界を冒険しながら、まどろみを倒そうという会です。皆さんの魅力的なワールド設定を期待しています。
また英雄の過去に触れるのもいいでしょう。
そうなると、戦闘+心理描写で。また文字数との戦いになると思いますがご容赦ください
デクリオ級愚神 プチ・まどろみ 三体
デフォルメされたまどろみ。フードをかぶった魔術師のような見た目だが今回は二投身で小っちゃい。
フードは絶対に外れない。
本体はケントュリオ級だが、分身なので力は弱い。
こと、戦闘においてはデクリオ級とは思えないほど弱い。
ステータスはバランスタイプで、世界によって戦い方を多く変える。
スキルは下記の通り
《世界浸蝕》
その世界を浸食し自分の物とする、思い出の中の人物にすら戦闘能力を与えたり、重度になると英雄を邪英化させたりする。常に発動しておりキャンセルさせる方法はとくにない。
《尾を食らう蛇》
世界を強制的に別の英雄の物に転移させる、その際リンカーたちの出現位置をある程度ばらけさせることができるようだ
《世界終末》
その世界に災厄を振らせることで、英雄に精神的なダメージを与える。生命力には影響しないが、英雄の精神が不安定になる。
リプレイ
プロローグ
リンカーたちは目を覚ます。
床はコンクリート、なぜこんなところで寝ているのかと自分に問いかけてみても記憶が混濁していて、一向に思い出せない。
ただ、この場所には見覚えがある。
首都、東京。そのとある大交差点。そのど真ん中に『鈴木 雪音(aa4780)』と『シャーロット(aa4780hero001)』は寝そべっていた。
「ここは?」
二人は顔を見合わせるも首を振る、なぜこんなところにいるのかさっぱり思い出せない、そもそも自分たちは夜、ベットの上で眠りについたはずで。
「様子がおかしいね」
『フィアナ(aa4210)』は傍らでナイフを弄ぶ『ドール(aa4210hero002)』に声をかける。
「そのナイフはどうしたの?」
「拾った」
そうドールはナイフを投げ捨てると告げる。
「…………人の気配がねぇ」
その言葉でその場にいる全員があたりを見渡した。ドールの言葉通り普段は人で溢れかえっているはずのその空間に人は誰もいない。それどころか道路はひび割れ、建物は人の手が入らず埃をかぶっているようにも見える。
「東京が、壊滅?」
『伴 日々輝(aa4591)』は茫然と現実味のない言葉を口にする、まるで目の前の光景から逃げようとするように後ずさると『グワルウェン(aa4591hero001)』にぶつかった。
グワルウェンは日々輝の肩に手を沿える。
「だとしても、僕らが寝ている間に、こんな」
『世良 霧人(aa3803)』は口元に手を当てると考え込む『クロード(aa3803hero001)』が心配そうに主を見あげた。
「違う…………」
そう冷めきった声で告げたのは『N.N.(aa4236hero002)』だった。
「ここは、レイラの世界じゃない」
そう低く告げたN.N。その手は強く車いすの持ち手を締め上げている。
「どうしたの?」
『レイラ クロスロード(aa4236)』が不安げにそう告げた。N.Nの様子は明らかにおかしかった。
その直後である。空を駆ける巨大な翼、神話の世界の鳥のように神々しい姿。
それはリンカーたちを一瞥すると南の方角へ飛び去った。
それをN.Nは愚神だと言った。
「あんなものが人の多い都市部に行っちゃったらまずいです」
『斉加 理夢琉(aa0783)』はそう告げると取りを追って駆けて行こうとする。
それを『辺是 落児(aa0281)』は制した。
『海神 藍(aa2518)』が少女の駆けて行こうとした方向を指さす。
「軍隊だ」
はるか向こうの道路を横切る統率のとれた部隊。それは見慣れないジャケットを羽織り、荒々しい雰囲気を醸し出している。
「でも、日本の部隊じゃない?」
その藍の問いかけにN.Nが答える。
「あれはBloody・Rose」
全員の視線がN.Nに注がれる、そして見た。その背に羽織られているジャケット。それはあの軍隊全員が身に着けているジャケットに酷似している。
「ここは、レイラの世界じゃない」
そう、静かな声でつぶやきレイラの頭を撫でるN.N。その行為がまるで別れの前の挨拶の様で、レイラは思わず振り返った。
「どういうことなの?」
「ここは、愚神によって滅ぼされゆく。私の」
私の世界だ。
第一章 心を蝕む
目の前で多くの人間が虐殺されていく。
灰色のコンクリートに血で何度も図が絵がかれる。ロールシャッハのように本来は意味のない絵柄。
それが塗り重ねられ、雨が降っても完全にぬぐいきれないほどにアスファルトに染みついていた。
その死臭と血液の香りに満ちた世界に対してN.Nはこう告げる。
「私の元いた世界、ね」
「何か、とっても嫌な感じがする」
そう震えるレイラ。その予感がどの様なものかはわからないが、すぐにこの場を逃げ出したい衝動に駆られる。
「私たちの世界は、レイラの世界と違ってAGWを生み出せなかった」
直後ビルの窓を割って姿を現した大猿の従魔。
地面を揺らして着地、弾丸のように駆けてリンカーたちへと突っ込んできた。
「兄さん!」
「理夢琉!」
『禮(aa2518hero001)』と『アリュー(aa0783hero001)』はとっさに叫び共鳴。
手にした魔本とトリアイナが輝きを帯び。直後霊力の塊が従魔を襲う。
合計二撃、それによって蒸発するように従魔は消えた。
「これはどういう……」
「私たちの世界には英雄もやってこなかった」
そんな事態も気にせずにN.Nは言葉を続ける。
その直後ビルが倒壊する。
『御神 恭也(aa0127)』は『伊邪那美(aa0127hero001)』を庇って飛び退くが、その崩れたコンクリートの向こうに信じられないものを見た。
どろどろに腐った何かと、腐蝕した衣類と、骨。
それは人間の残骸のように思えた。
「そんな世界がどんな末路をたどるか、わかるでしょう?」
そしてその騒ぎに惹かれてさらに従魔が集まってきた。異形の数々、姿はまばらだが、その身に纏う敵意だけは確かなものだった。
「N.N! 共鳴を」
レイラは叫ぶ。ためらうN.N。
「なにしてるの! 早く」
直後リンカーたちは共鳴。状況は依然としてわけのわからないままだったが。それでも降りかかる火の粉は払わなければならない。
「兄上、梅雨払いは私にお任せくださいです…………は、早く行って下さい!」
『ベネトナシュ(aa4612hero001)』がそう告げると『薫 秦乎(aa4612)』も共鳴、日々輝の前に出た。
――私たちはある愚神との戦闘で全滅したわ。でも私だけ無様に生き延びて。そして。
歯噛みするN.N、失ったはずの記憶が、眼前に蘇る。。
確か、今日のような曇天だった。
すべてが終わったのは。
自分にとって仲間と呼べるもの達を一人残らず殺された日は。
確か今日のように血なまぐさい日で。
「行きたいんじゃないの? N.N!」
直後レイラは叫んだ。
――けど、みんなの周りを離れるなんて…………
「いかないと! また、後悔するよ。あ、私が走ればいいんだ」
直後レイラは走り出す。先ほど見たBloody・Roseの後を追って。
そして靴をすり減らすように十字路を曲がる。
そこに逢った光景は悲惨なものだった。
「そんな…………」
目の前に広がる惨殺の痕。
ひしゃげて歪んだ人の表情と。まだ新鮮な死体なんだろう。
とめどなくあふれる鮮血と。
――見ちゃダメ!
そうN.Nは叫んだ、だがすでに視界に入ってしまっている。
「ブラッド?」
実際は、目が霞んでいるかのように靄がかかってはっきりとは捕えられない。
けれど、第一英雄に似た姿の隊員が死のアートに組み込まれている気がして。レイラは膝をついた。
――許さない
その時レイラの中に自分の物ではない感情が沸き上がった。
「そんな! N.N。正気を保って!」
これは明らかに彼女の感情だった。すべてを失った絶望、慟哭、そして憤怒。
身を裂くような心の痛みがレイラを支配した。
身をよじって泣き叫ぶレイラ。その脳裏に浮かぶ光景があった。
それは。N.Nがアルミの台へと乗せられている姿。
そして体に移植される、鉄やコイル。青白く光る何か。その身を人ではなく、魔導に落すその計画に志願して、そして。
――お願い、見ないで。
その瞬間我に返ると、レイラは銃口を突きつけられていた。
死んだ隊員たちが蘇り、そして全員が砕けた骨で体を支えトリガーに指をかけていた。
「レイラさん!」
そう声が上がり、同時に隊員の銃が吹きとんだ。
『構築の魔女(aa0281hero001)』が撃ったのだ。そしてその鷹の目は遥か向こうのランドマーク、スカイツリーを見た。
その天辺には一度見たローブの人物が佇んでおり、構築の魔女と目があった。
「まどろみ、ですか…………。であれば、ここは異世界です、そして幻覚です」
レイラを庇うように恭也と薫が前にでる。
「おそらくは、英雄の世界を再現しているのでしょう」
その構築の魔女の言葉に恭也は頷いた。
「あまり実感は無かったが、世界は色々な物があるんだな」
――ボクの中に何かが侵食して来て、気持ち悪い…………
「なに…………」
恭也の表情が歪む。
「記憶を……卓戯の時のガデンツァの?」
――であれば、兄さん。私やってみます。
何を。そう尋ねる前に禮は精神を集中そして。
目の前に扉が現れる。
銃声が響くのと、扉が開くのは同時だった。
塗り替わっていく世界、弾丸はそれと同時に消失した。
第二章 青の間
直後水の中に放り込まれるリンカーたち。
まずい、おぼれる、そう思ったのもつかの間、全員の足が鰭に変化し、首の周りにはえらが現れた、水の中なのにまったく苦しくない。
そしてその海を一際優雅に泳ぐ、人魚姫の姿があった。
黒い髪に黒い瞳、黒い鱗はつややかな烏羽色。腰に剣を刺していて白銀の冠は誇らしく輝く。
人魚の戦士がそこにいた。
禮はその世界に招かれた全員を祝福するようにあたりを泳ぎ回る。
「あ、懐かしい…………」
禮のつぶやきに藍はすべてを察した。
「そうか、ここが…………綺麗な所だね」
「にしても、何だったんだあれは」
薫が問いかけるとシャーロットが答える。
「先ほどから、ボク達に干渉するみたいな、気持ち悪い感じがあって。たぶんそっちの魔女さんが言っていることが合ってると思うな」
「この世界はまどろみの作り出した精神世界である、ということですね。あの愚神は幾度もこのような舞台を設定していましたから」
構築の魔女がそう言葉を続ける。
――さらに、強く念じれば自分の世界を呼び出すこともできるわけだ。
ベネトナシュは告げる。
「周りにまどろみの姿はありません。おそらく愚神を倒さなければここから出られないと思いますが」
構築の魔女は自分の手の水かきを不思議とお思い、見つめながら告げる。
「探す?」
雪音が問いかけた。
「世界を回りながら? それでも面白そうだね」
そんなシャーロットの言葉を遮って直後響いたのは歌。
水の中でもこれほどまでにはっきりと音は聞こえるのだろうかと思えるほどに鮮明で鮮烈な歌。
「歌いましょう。黒い人魚の物語を」
そう禮は告げると、さらに強く声を響かせた。
日の光差す海の底。
海藻の草原、珊瑚の森。
水底に広がる色とりどりの人魚が住まう国。
周囲から魚や人魚が集まり始める。
――その世界で起こったのは人間たちの戦争。一つの大国の蹂躙に、対するは諸国の連合。
藍はそう時代背景をそらんじてみせる。
――盟友たるヒトの島国を守る為、人魚たちもその戦渦に立ち向かった。
「厳しい戦いでした、多くの種族を巻き込んで……でも一度は平和になったんです。ここは、その時の記憶みたいですね」
禮は告げる。
――しかし、滅びつつあったある小さな国が魔王……愚神を喚んだことが、すべての始まり、あるいは終わりだった……。
突如強い振動が水を伝わってリンカーに届く。
「別の世界に行きましょう。この子たちがまどろみに好きにされるのを見たくありません」
その言葉に頷いて恭也は手を伸ばす。そこには元からあったかのように扉が出現し。それを押し開くと聞こえたのは神楽舞の音だった。
* *
リンカーたちが次に通されたのは、木造建築の豪奢な社、長い廊下は板張りで、踏みしめると甲高い音がする。
これはあえて音が鳴りやすいようにしているんだとか。
「侵入者対策でね、この奥には私の部屋があるから」
全員を引き連れる女性は美しく、この社の勝手を知っているように見える。
「ついてきて、こっち……」
そう伊邪那美はそう告げて、リンカーたちを先導する。その傍らに立つ恭也は珍しく驚きの表情を浮かべていた。
「…………誰だ。お前は」
そう背中に受けた言葉で伊邪那美は立ち止まり、優美に振り返ると髪が舞う。
余裕のある表情を少しほころばせ、伊邪那美は告げた。
「失礼ね。恭也は相棒の顔も忘れる薄情者なの?」
そう、この背丈ものび、振る舞いも大人びたこの女性こそ伊邪那美。
いつもの天真爛漫さは消え、所作に妖艶さを漂わせている。
そう言う振る舞いができるのなら、普段からしてくれればいいのに。
そう恭也は思った。
「この時代は…………そうね。恭也の世界で言う大和時代に似ているわね」
その大和時代の知識がない英雄たちは首をひねる。
「矢や剣が主流、ただ呪術が発展していて…………別の世界の魔法のようなものだけど…………。ただ金属加工の技術がそこまでないから、防具は粗悪だけど」
「この世界に来たのは何か理由があるのか?」
グワルウェンはそう問いかける。
「この世界だと敵がわかりやすいから」
恭也が言葉を継いだ。
「N.Nの世界だとまどろみは、その世界の人物を操って俺たちに攻撃を仕掛けてきた」
「そうね、本来の隊員であれば隊長である私に…………銃を向けるなんてありえないわ」
N.Nが同意する。
「そして操りやすさについても順序があるとしたら」
そう告げて伊邪那美は遠くの空を見上げた。
「伊邪那岐…………兄が現る可能性は高い」
「伊邪那岐? 兄だと」
今度は恭也が問いかける番だった。
「火之迦具土神を巡って、私達は対立した。もう昔の様には。戻れない」
そう告げて伊邪那美は襖をあけると、そこには恭しく礼をする従者がいて
「ですが、従者の方もいつ乗っ取られるか分かりません。警戒を」
構築の魔女はそう告げる。
「大丈夫なのか?」
恭也は問いかけた。
「心配は無用よ。悲しいけど予期出来た事だもの」
直後轟音、社から火の手が上がる。
「そんな」
フィアナが茫然とつぶやいた。塀や堀を乗り越えて大量の兵士がこちらへ進行してくるではないか。
「やるぞ、グワルウェン」
そう告げて日々輝が突貫する、その手の神斬が妙にぎらつく。
「まどろみを探してください!」
そう構築の魔女は告げ、兵を乗り越えようとする兵士たちを撃ち貫いた。戦場に弾丸をばらまいていく。
「出来ることを冷静に世界に合わせると言うのも楽しいですし」
その隙を見て霧人が前に出た、敵を飛び越え背後にまわり、バックスタブ。そのまま敵をすり抜けてまどろみを探す。
「どこだ…………」
恭也は嫌な予感に支配され、あたりを血眼になって探していた。
このままだと伊邪那美にとてよくないことが起こる気がするのだ。
「あそこです!」
魔女が指さす先にローブに身を包んだ人物がいた。
見れば塀の上で堂々と佇むローブの人物、しかし彼の手前は妙に兵士が厚い。
それを見て意を決した恭也は敵兵の斬撃を弾きその手の刃を一薙。敵を吹き飛ばす。
三本の剣劇をまとめて捌くと、隙だらけの兵士たちを切り捨て、吹き飛ばし前に進む。
「連携が取れていない相手なら、一撃が強くとも怖くは無いな」
――そう? 複数の兵に囲まれたら危険だと思うのだけど。
「一対多数と一対一を数回では、困難さは大幅に違うさ」
敵がどれだけいても自分に伸びる剣の数はたかが知れいている、それを冷静に見極め対処できればどれだけ多くの敵がいても関係ない。そう言うわけだった。
「不意をうたれた際のフォローを、異世界の現象に足元をすくわれないように」
構築の魔女は戦場全体をフォローしながらまどろみを見据えていた。
ここが正念場、ここで倒してしまわなければきっと後悔することになる、そんな予感があった。
「突破口を開く」
藍は告げトリアイナをかざした。
(まどろみ……この子は強いぞ? 私などよりも)
――わたしは一人だった、黒い鱗の人魚など、わたししかいなかった。けれど。
その槍の先に展開される魔方陣、雷撃の力を宿した穂先が振動し、膨大な霊力を纏う。
――わたしは一人ではなかった、みんな色など気にせず愛してくれた。
藍は瞳を閉じる。
禮がいつか告げていたその言葉の意味が、今わかったから。
『わたしは護りたかったんですよ、あのやさしい世界を』
藍は、冠をなで、槍を構える。指針も旗印もここにある。迷うことなどない。思い出は今も、色褪せず瞼の裏にあるのだから。
――でも、今わたしが帰るべき場所は、兄さんの隣なんです。だから。故郷を騙る微睡よ、泡沫に消えなさい!
直後、まどろみめがけて放たれたのは渾身の一撃、サンダーランス。
それは兵士たちを焼き消して、まどろみまで伸びて、そして衝突した。
それに両足を突っ張って耐えるまどろみ。
「道が、あいたな」
だが、あまりの衝撃に動けないでいるまどろみに歩み寄ったのは恭也。
サンダーランスによって開かれた道を一気に駆けたのだ。そしてその手の刃を振り上げてまどろみへと叩きつけた。
にやりと笑うまどろみ。
その体が恭也の中に入る。
――やめて!!
直後兵の数が増えた。
そして空から炎の塊が落ちる、それが爆発し全世界を炎に包んだ。
――火之迦具土神…………
火之迦具土神の暴走。伊邪那美は荒い息をつく。
恭也はその肩に手を置いて告げる。
「落ち着け、これは幻だ」
「今目の前で起きているこれは、幻でも、私の世界は…………」
伊邪那美は思い出す、その世界の終末を断片的に。
世界がひび割れようとしていた。
「大丈夫だ、俺がいる」
そう伊邪那美に告げた瞬間。その瞬間世界が砕かれ。
そして……
第三章 終末のあとで
そしてまどろみの手によって世界は破壊された。
暗闇の中に落ちていくリンカーたち、それは混沌の中心へ、物事を構成するすべての要素の中で。
その混濁した世界で少女はそれを夢想する。
彼の世界はどんな世界だったか。
それを夢想する。
キットそれはうっそうと生い茂る木々、神聖なる森。その降り注ぐ光の隙間に見えたのが。
美しき霊獣の姿
「『俺』が在ったのは異空間の何もない場所。 帰るべき場所というなら『オリジナル』が居た…………」
「アリュー?」
理夢琉は振り返る。
そこには誰もいない、確かに彼の息吹があったのに、そこには何も。
だが代わりに目に入ったものがアル。
自分が見た光景の中に自分がいた。青臭い風と湿った空気。それを纏う少女は神秘的に見えた。
「あれが、私の……」
それが神域とも呼べる森へ人間が足を踏み入れた最初の瞬間だった。
「その人間は何故か魔法を使わず、おかしな道具を作っては火をおこし魚を捕る。しかも我の姿が見えているようだ」
「アリュー?」
またしても耳元で聞こえる声、その声の主を探してあたりを見渡すが誰もいない。
代わりに見えたのは少女、その少女は理夢琉を見つめると微笑みかけた。
「初めは怯えもしたが次第に同じ音で我を呼ぶ時に泣いて時に笑い、我と目を合わせて音を紡ぐ」
幻想が見えた。半透明な聖獣と、少女が同時に存在し。
この森で多くの時間を過ごしたことが分かった。
「触れられぬ別次元の生き物、人間。興味がわいた、触れたいと思った、音の意味を知りたいと思った。我の声と人間の音が重なり旋律となる」
「これがアリューと、その子の歌?」
森には音が満ちていた、その音源は聖獣と少女だけ、なのにもかかわらず森を満たす旋律に、全ての動物たちが歓喜に震える。
「それが我と主との絆が結ばれた時」
直後森に火が走った。
焼けていく木々に、倒れていく動物たち。そして再びまみえた少女は武具で身を固めていた。
「だが、我と主の交流はずっとは続かなかった。魔王が復活したんだ」
直後空が塗り替わる、赤く染まった空。多くの血が流れ、大地を汚した。
我と同じように人間と絆を結んだ聖獣たちは魔王と戦った。
そして―――
「我と主は魔王を滅した」
理夢琉の目の前に黒い影となった何かが現れた。
それがアリューだと理夢琉にはわかった。
「満身創痍だったが世界を救えたと……そう思って」
その後ろで少女の胸が、矢によって貫かれた。
それを射ったのは先ほどまで主を守り魔王と戦っていた仲間。
「人間を殺してしまった我はもう 主の声の意味が分からない」
ノイズ交じりの雑音が森に響く。
「絆が切れてしまった我の声は 主に届かない」
そしてその音を裂くように獣の遠吠えが聞こえて。
「違う、違うわ、アリューきちんと聞いて、その声は確かにあなたに届くはずよ」
――力ある者は恐れられる
――脅威が去ればその脅威を滅した者が……次の魔王となるのだ
「あぁ……そうか。だから……」
アリューの瞳から一粒涙が落ちると、それはアリューの黒い靄を切り裂いて、そして彼を元の姿に戻した。
「あの魔王はオリジナルの主なのね、アリュー……」
倒れ込んだアリューの体を抱き留める理夢琉。
「囚われていたのか、俺達は」
「さっきの世界で、確か……」
散り散りにされて、そしてまどろみは一人一人懐柔を。
「ぐあああああ、入ってくる!」
アリューは天を仰いだ。
「消えていく、その音色が、俺から。せっかく思い出せたのに」
「だめだよ! ちゃんと覚えててあげて、アリューテュス!!
* *
「ここ、この景色、もしかして……」
「…………ベネトナシュ、身体は貸す。お前のやりたいようにやれ」
そびえたつ白亜の城。それにベネトナシュは懐かしさと、既視感を抱く。
すべてを察した相棒は、その肉体の主導権を渡した。
「だけどこれはいつの。もっと言うなら。どちらの」
傍らに兄がいないため、それを問いかけることはできなかった。
埃をかぶった場内をベネトナシュは散策する。
「ほら、みてください、ここで私たちは王と言葉を交わした」
そう円形の卓を誇らしげに見せるベネトナシュ。
その卓も埃をかぶってしまっていたが、それでもあの日の記憶は色あせない。
国と民のために全力を捧げた日々。
そして向かったのは、青と銀の大広間。
美しい、そして。懐かしい。
あのころに戻ったようにベネトナシュは溜息をついた。
その階段の奥から降りてきたのは兄グワルウェン。
「アタマにゃ残ってねえけど、わかるもんだな」
「ここ、兄さんの世界ですよね」
「なぜそう、言える」
「だって、ここはまだ国が民を愛し、王が支え。臣下が集う、美しい世界のままじゃないですか」
「私の世界は違う」
次の瞬間。最奥の扉が開いた。
いつの間にか四人はその扉の奥を歩いており。
いつの間にかとある扉の前に立っていた。
それは奇跡の終わり。最果て。終端の墓所。
がらんどうの大広間。円卓には、血でまだらな蒼いクロスが掛けられて。
帰りたくないのではない。帰れない。
だって、死体は動けない。
「なっ」
しかしそれは幻。
「お前が見せたのか、ベネトナシュ」
その言葉にベネトナシュは視線を伏せる。
「扉を開かなくても世界が混じるなど、思わないでしょう?」
精神性が近く、由来が同じ世界の英雄ならこういうこともありうるのかもしれない。
「兄さん。一ついいでしょうか。」
そう告げ階段を上ると王座にベネトナシュは歩み寄る。
「なぜ、私達の思い描く円卓がこんなにも違うのか、疑問に思いましたか
?」
まるでそれは罪の独白。
次の瞬間、世界が塗り替わっていった。
薄暗い城内、手入れのされていない調度品、喧騒の痕跡。
所によっては流れた血が残され、鼻をつくような異臭すら漂う。
栄華の城の異変の始まりは、本来座に居るべき王が城を後にしたこと。
しかし主人なき居城が荒れ果てるにしても、それは異常な光景だろう。
グワルウェンの記憶、ベネトナシュの記憶は、その場に居るものに複雑に入り混じって見えるのかもしれない。
共鳴を解き、朽ち果てた王の椅子に腰掛けて、ベネトナシュは兄に問う
「この国を滅ぼした悪魔が、兄上の前に現れたら、兄上はどうされますかな? ……それが、もしですぞ? もし、わたしの……私の姿をしていたら?」
そのベネトナシュの瞳を見た時、グワルウェンはすべてを悟った。
誰もいない、何もない。失われたのだ、永遠に。
それは彼が何より恐れること、彼の生前に起きてしまったこと。
……だが。
「ここになくても、あそこにあるだろ。亡くしてないよ、お前の大事な家族も友も主人も、みんなあっちにいるじゃないか」
日々輝は訴える。失われてなんかない、思い出せ。
お前の愛したすべては、"生きている"
「それに、兄が弟の前で不安そうな顔するんじゃないよ」
「……守れなかったのは、俺の責だ。相手が誰だとしても関係ねえ」
かつての滅びを招いたものの名がわかっても、首を振る。
「その姿が何であれ、俺はお前を愛している。知るのも覚えてんのも、それで充分だ」
否定は肯定。生き方を。
「夜を越えるぞ、今度こそ」
* *
霧人は城の中に倒れていた。
赤い絨毯、少し寒いのは壁が石造りだからだろう。
蝋燭の明り、それは映画の中に見るお城の様で。
「ここは、私達が暮らしていた屋敷のようですね」
霧人の隣にクロードが並び立つ。
その姿は以前見たように人間の姿となっていた。
「クロード、それ」
「今回は襲いかかったりしませんよ、安心してください」
そうクロードが告げた直後、城外から声が響いた、窓から見下ろしてみると中庭で誰かが口論している。
「あれは……」
駆け出すクロード、石畳の階段を飛び降りて、廊下を曲がる。
「クロード止まって! 何が」
そして扉をあけ放つと、そこにはクロードにとって見覚えのある光景が広がっていた。
真っ黒なローブの男、そして家令が声を荒げ言い争っている。
「あれは、なにをしてるんだ?」
追いついた霧人が問いかけた。クロードは答える。
「主人を出すように言ってるんです」
やがてローブの男が引き下がると家令はクロードに向かって歩いてきた。
彼はクロードの肩を叩くと遅いからもう眠るように、そう告げた。
「出資するように脅迫していたんです」
そしてクロードは蹲る。
「旦那様が殺された時のものだ! このままでは皆やられてしまう!」
「これが、君の抱えている痛みなんだね」
そう霧人は告げ、右目を撫でた。
「それなら主人さんを助けよう! 未来を変えるんだ!」
「ですが、ここは……」
「変えられればきっと、クロードにとってもいいはずだ」
するとクロードは立ち上がり、霧人へと頷きを返した。
直後ガラスの割れる音、そして悲鳴が城内から上がる。
「旦那様!」
直後二人は共鳴。屋敷を駆け上がると、黒いローブの男たちに囲まれてしまう。
しかし扉を破って現れたのはフィアナとレイラ。
「早くいって」
フィアナが告げる。
「まどろみが奥に!」
一番豪奢な扉を押し開けると、そこには主人、そしてまどろみが立っていた。
「さぁ、悪夢の再現を」
そう告げまどろみは主へと歩みを進めていく。
「クロード……」
――だめです、間に合いません。
その手にふりあげた短刀が突き立てられようとした瞬間。
王座の背後から薫が躍り出た。
「なに!」
驚愕に動きを止めるまどろみ、その隙をつき短剣を叩き落とした薫は、まどろみの腕を取って組み伏せた。
「やっと捕えた……」
「これで終りだ」
そう日々輝はまどろみの首元に刃を当てると、その首を跳ね飛ばす。
二体目のまどろみの撃破、だが悪夢は覚めない。
歪んでいく空間。そして崩壊していく空間。
「そうはさせません」
そう告げたのは構築の魔女、彼女は地面に手を沿えると、ドアが出現する。
世界が塗り替わっていった。
第四章 ターミナル
「創造」と「増強」の白。
「分断」と「合成」の黒。
「操作」と「解析」の赤。
かつては悲劇のはて、三色の魔術のどれか一つに目覚めた魔術師同士で闘争や協力を繰り返す世界にて生きていた。
それが構築の魔女の世界。
彼女は見据えていた、この世界に現れた時に巻き込まれるようにして世界に転がり込んできたそのローブの人物を。
「あぁ、ここに戻れたことだけは感謝ですね 」
魔女はその世界で真の力を取り戻す。
構築の魔女とはそう言うことだ、解析と操作。その力の一部はジャックポットの能力となって顕現していたが、実際には根底からして異なるものだ。
磁気による対象の探索から、事象の上書きまで。彼女はできた。
だからそれに対抗するためには、別の魔術師の力を借りる必要があると、まどろみはとっさに考えた。
「ですが」
そして召喚されたのはこの世界の魔術師たち、構築の魔女を中心に展開される包囲網、それに見知った顔が多数混ざっていた。
「落ちぶれた皆さんは見たくありませんでした」
思えば彼等とは仲間とは呼べない関係だった、明らかに敵対していた者も多い。ただどこか心の奥底で信頼があったのは事実だ、その力を尊敬していた。
だが、そんな仲間ならこの世界でもできた。
突如世界の壁を引き裂くように刃が空間を裂いた。そして風景を壊して現れたのは恭也と理夢琉。
恭也はドラゴンスレイヤーに血を含ませて、そしてまとわりつくものを全てなぎ倒していく。
散り散りにしたリンカーたちが集まってきている、そのことに危機感を感じるまどろみ。
「空間に、世界を招く……」
その囁き声に振り返ればそこにはフィアナが立っていた。カラドボルグが深々とまどろみの腹部を貫く。
その瞬間まどろみは体を霧のように変え距離を取る、だが、呻くその姿を見る限りダメージは通っているようだ。
「つまり、私達はこの空間から出ていない、大して動いていない、という事になるわね」
面白い、そう思いフィアナは微笑んだ。
多数の異世界、それに興味はある。けれどそれに熱中して敵を逃しては意味がない。
そう切っ先をまどろみに向ける。
「夢の中の住人では力不足の様ね」
フィアナが告げる背後で、多数の悲鳴が上がった。
「ふむふむ、分断と操作は面白いなあ、解析は便利そう
雪音は告げる。
――世界が違うけれどそこそこ学ぶものはありそうだね。
「魔女の名が伊達ではないことをお見せしましよう」
シャーロットはそう告げ、アルスマギカから嵐のように魔術を飛ばしていく。
それに答えるように構築の魔女も技を見せた。
「目に見えぬ状況すらも構築して見せましょう!」
そうまどろみが逃走するルートを細く、先回りをして銃口を突きつける。
「だが、夢は我が領分故」
そうまどろみが口ずさむと前に見たような世界浸蝕が始まる。
「私の世界を取り込もうというのですか?」
構築の魔女はトリガを絞る、弾丸はまどろみに突き刺さるも世界の崩壊は止めらえない。
「私の世界を侵し混じったというのならあなたはもう元のまどろみではないのでは?」
「元の、私ではない?」
「えぇ、受け入れ理解し変化することは死んで生まれ変わるようなものだと思いますよ」
「よい、それはとてもいい、私は幻想、私は夢。お前たちの望みを叶えるもの、う受け入れる者だ」
直後世界に終末が訪れる。
それは三つの魔法の争いという形ではなく、魔法に耐え切れなくなった世界の崩壊。
だがそれすらも構築の魔女は受け止める。
「なぜ、うろたえない」
決まっている。
悲しくない訳ではないが足を止めること許されないから
悲劇、喜劇、絶望、希望全てを内包した世界。それを愛しているから。
「我等魔術師は、世界とともに。ただそれだけのことがそんなに不思議ですか?」
「けれど、もうこの世界は限界。魔女さんには悪いけど、場所は変えさせてもらうね」
そう告げフィアナは扉をあけ放つ。
* *
「さって、いつ頃になんのかねぇ」
そんなドールの言葉が響いたかと思うと投げ出されたのは平原のど真ん中。まるで戦場の中心の様である。
その平原の地平線を埋めるように並ぶ兵たちは全員弓をこちらに向けていた。
「気をつけろ。俺を狙ってくるぞ」
ドールは告げた。
「なぜ?」
「この世界にとって、敵だからさ、俺が」
告げると同時に放たれる弓の雨、だがそれは一本たりとも命中しない。
そして兵の中に紛れていたまどろみの首にドールは手をかけた。
「バカにすんじゃねぇぞ」
「なぜ、動揺しない」
まどろみは問いかける。
「本物の世界で災厄を振り撒いたのは他ならぬ俺だ」
「どういうことなの?」
唖然とフィアナはつぶやいた。
「その結果同族との大戦が起きたんだぞ、世界終末を止めるのは俺じゃなくこの世界にいる同族だろうが。滅ぶなら滅べ」
そしてまどろみは歯噛みして、あわてたように世界を塗り替える。
「……はっ、馬鹿にすんなよ。こちとらリスクも何もかんも分かってて事起こしてたんだ、その上で負けた、弁明も贖罪もねぇ」
「何より……ホンモンのあいつらはンな軟弱な思考してねぇよ」
* *
そこは再び、現実の世界と似た世界。
そしてここではやはり、N.Nの姿は変わってしまう。
「すでに浸食が進んだ世界に戻された」
そう茫然とつぶやくN.Nに容赦なくRPGが撃ち込まれる。
突如爆発、それはBloody・Roseからの砲撃で、レイラとN.Nは吹き飛ばされ地面を這う。
「この姿になった時から察していたわ」
レイラから姿を隠したい、そう願うように小さく丸くなるN.N。
「見ないで、レイラお願い。見ないで」
レイラには見えない、そう理解していても懇願するしかなかった、その異形、武器となり果てた姿。
「大丈夫だよ」
そう告げて声がする方にレイラは腕を伸ばした。
「私たちはもう、迷わない」
そう告げて顔をあげると、目の前にはまどろみ、しかし隣には一列に並ぶようにリンカーたちの姿があった。
――お前ら愚神は! 私の仲間を! 家族を! 死んだ後も弄ぶのか!
「違うな、これはお前たちの望んだ世界だ」
直後再び世界が切り替わる。
最初に出るのは鬱葱としたどこまでも続く森の中。
「……おー、懐かしい所に出たねえ」
雪音がそう告げる。
――全くだね、見飽きた風景だ。
シャーロットはそう同意した。
目の前を駆けるまどろみをアルスマギカで迎撃する雪音。
「そうだ、せっかくここに来たんだし姿変えちゃう?」
――僕は構わないよ、マスターがしたいならいいんじゃないかな?
すると霊力が少女の体を包み背丈を伸ばして大人の姿へと変えた。
「この姿も久しぶりね。力はあの時とは比べ物にならないくらいだけれど」
そう告げた雪音は半歩後退する、それを追おうと前に出たまどろみを恭也が遮った。
雪音は奴隷の石を2つ装備、そしてウィザードセンスを使用する。
「乗っ取られてきてるわね」
そう雪音が告げると、遠くから王国の兵たちが列をなしてこちらに来ているのが見えた。
ここは人が群成して国を作る。王国の勢力と。他人と関わりを作らず、魔法の極致を目指す魔法勢力が混在する世界。
二つの勢力は拮抗しているが、この世界のすべてが乗っ取られれば、魔術師も兵も自分たちを狙う。
その前にけりをつける必要がありそうだ。
「さて、緋天の魔女の力、見せてあげるわ!」
すべての魔力を解放する。
「魔法使いは倒しても無駄よ」
「魂のコピーを取ってあるから、記憶を引き継いで襲ってくるわ」
まどろみはにやりと笑うと姿を消した。
直後東の空を震わせてたった一人の魔法使いが進撃してくる、それは王国の兵たちをなぎ倒しこちらに来る。
緋天の魔女は最強の一角と謳われる存在であった
それは共鳴した雪音と酷似する姿を持っていて。
「……あれは不味いわね、扉を潜るわよ
次の瞬間全員が水の中に放り出される。
禮の世界だ。
一度この世界を訪れている一行は水の中を泳ぎながらまどろみへと攻撃を浴びせていく。
――完全にとらえた。
「兄さん。今日は海の魔物ではなく……多くを護った英雄のうたを、お見せします」
藍はそうほくそ笑む、禮はブルームフレアを放つ。
それは水の中でも花火のように散った。
「お前たちの帰るべき場所私が用意してやったのだ、受け入れるがいい」
――終わった世界なんて関係ない。今の本当の帰るべき場所はレイラの所よ。
レイラはハストゥルに持ち替えると、まどろみを穿った。
「狂乱はいつか終わりを告げる、しかし、お前たちが胡蝶である可能性を忘れるな」
まどろみの体に大穴があき、その体は霊力の光となって霧散していく。
空が明るくなっていた。まるで瞼越しにみた太陽の光のような。