本部

山は白銀スキー合宿

霜村 雪菜

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/01/31 19:57

掲示板

オープニング

●スキー合宿
 某名探偵は、犯人追跡の際意外なスキーの才能を見せて人々を驚かせたそうな。
「雪国である以上、いつHOPEの任務でもスキーやスケートの技能が必要とされるかわかりません。というわけで、スキー合宿を行いたいと思います」
 という、一理あるようなないようなスタッフの切り出しのあとに、合宿のしおりが配布された。
 合宿といっても一度に全員で行くわけにはいかないし、受け入れ先のスキー場との兼ね合いも考え、少数ずつの参加になるようだ。期間も一泊二日と短い。その代わり一日目は到着直後の午前十時から間に一時間の休憩を挟んで夕方五時まで、翌日は朝九時から休憩三十分を入れて午後二時時まで、時間の許す限りスキーの特訓となるらしい。
「現地でインストラクターが教えてくれますが、クラスは初級、中級、上級に分かれます。初級クラスは一度もスキーをしたことがない人のレベル、中級は、ボーゲンという初歩の滑走法ができるところから、シュテムターンという曲がるときのみにスキーの板を開くという方法で滑ることができるまで上達するのを目指すクラスです。そして上級は、スキー板をまったく開かないで曲がる、いわゆるパラレルターンのマスターを目指します」
 異世界から来ていることが多い英雄達は、スキーなどそもそも見たことも聞いたこともないという者もいる。どんな任務がどんな現場で発生するかわからない以上、スキルを増やすことは確かに有効だ。この世界の住人であっても、スキーに縁がない者も多い。そう考えると、この合宿は有意義かもしれない。
「まあ、そこまでスパルタにはならないでしょうし、宿泊場所はリゾートホテルですから、夜はゆっくり休めると思いますよ。温泉ですしね」
 と、しおりの頁をめくりながらのスタッフの説明は続く。
 国内でも有名なスキーリゾートのホテルを、うまく合宿場所として提供してもらえる事になったのだそうだ。施設内には温泉の他に温水プール、フィットネスコーナー、アミューズメントコーナー、お土産屋さんも入っているという。ビュッフェ形式のレストランの他に和食処、カフェテリアもあり、食事はどこで食べてもいいそうだ。
「レストランは、海鮮の他に地元のブランド牛を使った料理が人気だそうです。カフェテリアは軽食が主ですが、自家焙煎コーヒーとミシシッピー・マッドケーキっていうスイーツが名物だとか。和食処では、今時期だと牡蠣鍋が出るそうですよ」
 スタッフはしおりを閉じる。
「以上で説明を終わります。参加希望者は、しおりに挟んである用紙に参加する人の氏名の記入をお願いします。なお、質問も今受け付けますので、前の方へおいでください」

解説

 スキー合宿をします。現地でインストラクターが教えてくれるので安心です。
●クラス
 初級、中級、上級に分かれます。初級クラスは一度もスキーをしたことがない人のレベル、中級は、ボーゲンという初歩の滑走法ができるところから、シュテムターンという曲がるときのみにスキーの板を開くという方法で滑ることができるまで上達するのを目指すクラスです。そして上級は、スキー板をまったく開かないで曲がる、いわゆるパラレルターンのマスターを目指します。
●宿泊場所
 温泉のあるリゾートホテルです。施設内には温泉の他に温水プール、フィットネスコーナー、アミューズメントコーナー、お土産屋さんも入っているという。ビュッフェ形式のレストランの他に和食処、カフェテリアもあり、食事はどこで食べてもいいとのこと。レストランは、海鮮の他に地元のブランド牛を使った料理が人気です。カフェテリアは軽食が主ですが、自家焙煎コーヒーとミシシッピー・マッドケーキっていうスイーツが名物。和食処では、今時期だと牡蠣鍋が出ます。

リプレイ

●雪山は招く
「英斗、あんたスキーはできる?」
「……いや。まったくやったことはないな。夜宵はどうだ?」
「私もはじめてよ」
 六道 夜宵(aa4897)と若杉 英斗(aa4897hero001)は、今更ながらバスの中でこんな会話をしていた。
 事の起こりは数日前、HOPE支部でスキー合宿の参加者募集ポスターを見た夜宵が興味を持ち、何気なく脇のテーブルに置いてあった参加者希望者記入用の用紙をみたことだった。
「ちょっと英斗! コレみてよ」
 呼ばれて英斗が覗きこんだ用紙には、既に数名の名前が記入されていた。
「報告書を閲覧したときに、みた事のある名前があるのよ」
「あぁ、こないだ東京支部に行ったときな」
「HOPEの大先輩よ。この機会に挨拶しておかなくちゃ……」
「夜宵はミーハーなトコロがあるよなぁ」
「……」
 とはいえ、二人はまだHOPEに入って日が浅い。こういう機会に知り合いを増やすのは有意義なことには違いなかった。戦闘などの緊迫した任務ではなく、比較的のんびりしたイベントであることも、初対面でも打ち解けていろいろな話ができるだろうと思えた。
 そして合宿当日、出発時刻よりだいぶ余裕を持ってHOPE支部に到着した二人は、先にバスに乗って出発を待つことにした。
 時間が近づくにつれて、人が集まってくる。わくわくとバス入り口を見つめる夜宵の前に姿を現した二人連れは、真壁 久朗(aa0032)とアトリア(aa0032hero002)だ。彼らが近くに来るのを待って、思い切って夜宵は声をかけてみる。
「あの~、真壁さんですよね。はじめまして。私は六道夜宵っていいます。つい先日HOPEエージェントになったばかりで……。あの、よろしくお願いします」
「俺は若杉英斗。コイツの英雄をやってます。よろしく」
 ぺこりと会釈する。久朗達は突然のことに少し面食らっていたが、それぞれ挨拶を返した。
「アトリアさんはブレイブナイトですよね。コイツもそうなんですよ。よかったら、よろしくご指導くださいね」
「もし気が付いた事とかあったら、アドバイスしてもらえると助かります」
 というやりとりの間にも、どやどやと人の気配は集まりだす。久朗達は通路を塞ぐ格好になっていたので、あまり長話をすると通行の妨げになりそうだった。
「またホテルでゆっくり話そうか。あいつの相手もしてやってくれ」
 親指で久朗がぴっと指し示したのは、アトリア。
「アイツとはなんですか!」
 アトリアのひじうちが久朗のみぞおちに突き刺さったが、特に気にした様子もなく久朗は近くの席に収まった。アトリアも隣に座る。
 呆気にとられていた夜宵と英斗だったが、どんどん人が乗り込んできて慌ただしくなってきたので、挨拶は後回しにしてとりあえず席に着いた。
「見事な猫かぶりだったな」
「うるさいわね。蹴るわよ?」
 何はともあれ、バスはほどなく無事出発となった。
 リンカー、英雄合わせて総勢八人、小さめのバスなのでけっこういっぱいだった。わいわい賑やかで楽しい。
 そしてバスは、スキー場へと到着する。
「うぇ~、乗り物酔いした……」
 夜宵はふらふらとバスから降りる。
「大丈夫か? 少し休んでからはじめるか?」
 荷物をバスから下ろした英斗が、心配そうに声をかけた。
「くっ、真壁さん達にいいところをみせようと思ったのに……」
「初級クラスの俺達が、どういいところをみせるんだよ……」
 とはいえ、参加者は全員初級からスタートである。スキーで使う以外の荷物はホテルの部屋に置いて、ウェアに着替えてから初級クラスのインストラクターのもとへ集合した。少し休憩できたため、その頃には夜宵の具合もよくなった。
「そういえばお前、スキー板履けるのか? 確かかなり重」
「それ以上言ったら撃ちます」
 などと、スキーを装着しながら久朗とアトリアが微笑ましいやりとりを繰り広げる。
「普通に危ないだろ」
「今日はちゃんと軽量化して来たので問題ありませんから! 余計な心配は不要です!」
 アトリアに限らず、妙齢の女性に『重い』は禁句である。
「雪かー……」
「雪じゃぞ能力者殿!」
 無音 彼方(aa4329)と那由多乃刃 除夜(aa4329hero001)は、真っ白なゲレンデを前にそれぞれの反応を示した。初級クラスだが、除夜に至っては雪自体が初めてという雪国初心者でもある。スキーやスケートでうまく転ぶ練習をするのは、日常生活で道を歩いているときでも応用できるので、実はかなり有効だったりする。凍った道で転倒しても、スキーなどの経験があるのとないのとでは、転んだ際に受けるダメージの大きさやぶつける場所の安全度が違うのだ。そういう意味で、彼らの合宿参加は非常に有意義と言える。
「ん……はじめて だけど……がんばる」
 依雅 志錬(aa4364)も初級クラスだが、元々運動神経がよく物覚えも早いので、基礎を身につければ中級クラスにも早く上がれるかもしれなかった。その上彼女は、道具から扱い方を「読み取る」。
「んー、あんまし得意じゃないかなぁ? 雪崩れてる山に10回降ろされたら、1、2回くらい埋められそうだし……」
 S(aa4364hero002)はなんだか殺伐としたことを言っている。とはいえこちらも運動神経はいい。運動も好きで、すでにスキーを履いて立つ姿すらなかなか様になっていた。
「おっし、じゃあやるぞ志錬。折角だしこういうのは競争だよ競争」
 彼方も気分が盛り上がってきたようだった。
 しばらくしてインストラクターが点呼を取り、簡単な自己紹介のあといよいよ初級クラス授業が始まった。
 まずはスキー板での動きに慣れることから。180度の方向転換、横向き、正面方向への斜面の登り方などから始まる。初めてということもある上、長い板を足に着けての動作はかなり足腰の筋力を必要とする。普段から戦闘などで身体を鍛えているエージェント達といえど、最初はかなり勝手が違ってすぐに疲労がたまってしまう。
 午前中二時間の授業は、みっちりと基礎だけで終了した。昼に一時間の休憩を挟んで、あとは夕方五時までスキー三昧だ。
 ヘトヘトになったエージェント達は、ホテルのカフェテリアやゲレンデの食堂などへ散って空腹を満たすことにした。
「わあ……一面真っ白の雪景色ですね。ここまで積もった雪は初めて見ました」
 改めて辺りを見回したアトリアが、感嘆の溜息をつく。
「東京だと此処まで降らないしな。せっかくだし雪だるまでも作っとくか?」
「そ、そんな子供っぽいことしません。……あとで雪うさぎの作り方は教えて下さい」
 雪がたくさん降る地方でしかできない楽しみである。
 二人は、ホテルのカフェテリアへ足を向けた。入り口に黒板がかけてあって、おすすめメニューが紹介されている。自家焙煎コーヒーとミシシッピー・マッドケーキと書かれていた。
「ミシシッピ? マッド……?」
 ケーキの名前を読んで、アトリアは首をかしげた。
「……なぜこんなに長い名前のケーキなのか。……これは食べて調べるしかないと思いませんか?」
「食って分かる訳ないだろ」
「いいから行きますよ! セラフィナへの土産話のためです!」
「……お前もセラフィナも甘い物、好きだよな……」
 今回お留守番の英雄を思い出して、久朗は肩をすくめた。
 ちなみに、直訳すると『ミシシッピー川の泥のケーキ』となる。チョコレートを使うが、どちらかというとブラウニーに近い。そして何といってもバターを大量に使うのが特徴で、レシピによっては何と240グラムも必要らしい。『ヘルシー? 何それおいしいの?』という勢いの、カロリーオフ志向の現代に真っ向から立ち向かう勢いのケーキである。ナッツが入っていて、その香ばしさがチョコの甘さとよく合う。
 余談ではあるが昔某ゲームで名前だけ紹介され、一部でブームになったとかなんとか。
 美味しいケーキと昼食を堪能し、久朗とアトリアは集合場所へ戻る。前後して他のメンバーもやってきた。その表情から察するに、皆元気を回復したようだった。
 午後からは、登行の復習及び滑走練習、いわゆるボーゲンだ。夜宵と英斗の目標がこれだが、滑走としては初歩である。これができるようになり、『斜面を滑り降りること』への恐怖がなくなれば上達も早い。初心者は怖さのため上半身が引けてしまい、横から見ると尻を突き出した体勢で滑るようになりがちなのだが、見た目の悪さ以上にきちんとバラスのいい無理のない体勢で滑らなければ危険にも繋がる。
 と言うわけで、スキー板を駆使してある程度の斜面を登ったあとボーゲンでゆっくり滑り降りるという練習が繰り返される。
「ほらほら英斗。その調子じゃ私が先に中級に上がっちゃうわよ?」
「くっ。夜宵にだけは負けたくない」
 夜宵と英斗、二人とも運動神経は悪くないのだが、いまいち要領はよくなかった。それでも習うより慣れろという言葉もあるように、何度も反復して練習するうちにだんだん上達していく。どちらも負けず嫌いなので、互いに切磋琢磨しているというのもよかったらしい。
 依雅は基本的に集中力が高く、物事に打ち込む姿勢も真面目なので、かなり早いうちにスムーズなボーゲンを身につけていた。インストラクターも思わず満面の笑みになる。Sもボーゲンは習得したが、真っ直ぐに降りるよりおかしな方向へ曲がっていくことが多かった。スキー板に同じだけの力をかけていないと曲がるのである。ボーゲンの練習の際は、均等に力を配分する塩梅も体得していくものなのだが……。
「雪って柔らかいねー」
 コケても本人は楽しいようである。雪だまりに突っ込んで真っ白になりながらも笑顔だ。一緒に行動している除夜は、Sが転ぶ度手を貸して助け起こしている。
「毎度疑問に思うのだが、なぜ二本の板で滑れる。これが」
 彼方は溜息をつきながら、滑り降りた斜面を登っている。
「おお、これが雪というものか。別に庭駆け回りはしないがいい景色じゃのう」
 除夜の方が上達が早く、斜面の上から周りの景色を楽しむ余裕もある。この分だと、明日は中級者コースに上がれるかもしれなかった。

●おいしいものは招く
 冬の日暮れは早い。練習が終わる午後五時には、もうかなり暗くなっていた。
 インストラクターから翌日の説明を受け、お礼と挨拶をしてから解散となる。温かいホテルの中へ戻ると、相当身体が冷えていたことを実感する。ずっと動いていて暑いときさえあったくらいだが、やはり冬の屋外は確実に体温を奪うようだ。
「あ~もうヘトヘト。温泉入りたい」
 夜宵は部屋で着替え、廊下で英斗と合流した。お腹も空いているが、それ以上に寒いし汗も掻いた自覚もある。温泉で温まりたかった。
「そうだな。食事は風呂のあとにするか」
「……覗いたらタダじゃおかないわよ」
「……」
 鋭い眼光で言い放たれ、英斗は口を開きかけたもののそのまま無言を通すことにした。沈黙は金である。
 浴場は広く、湯船がいくつもあった。もちろん露天もある。雪景色が楽しめるが外から覗かれることがないように配慮された絶妙の設計である。
 夜宵が女湯に行ったとき露天には既に先客がいた。除夜とSだ。何だか揉めていたようなので気になって曇り硝子越しに様子を見ていると、どうやら湯船に盆を浮かべて一杯やろうとしていたのを阻止されていたらしい。実年齢はともかく見た目は完璧に未成年……というか少女なので、周囲の誤解を生まないためにも適切な判断だろう。
 洗い場で彼女達と一緒のタイミングになったが、何と顔を洗うときでも除夜は細心の注意を払って極力仮面を外さないのだった。そして湯気までもが彼女の味方をし、素顔を覆い隠していた。
「クカカカカ、見せてやるわけにはいかぬのう」
 なぜか勝ち誇る除夜であった。
 食事処は三箇所あって、カフェテリアと和食処とレストランの中から好きなところを利用していいことになっている。夕食なのでしっかり食べようと、夜宵と英斗はビュッフェレストランへ向かった。
 席に案内され、早速料理を取りに行く。海鮮の他に地元ブランド牛の料理も一押しとポップで紹介されていた。
「やばい。すっごくおいしい。エージェントになってよかった」
 霜降り人気が一般的だが、こちらは赤身肉。柔らかさとヘルシーさが魅力で、且つ味がしっかりしているのが素晴らしい。実演販売のステーキの他、シンプルな料理で様々な味わいを堪能できる。まさに牛肉天国。
「クロウ……びゅっふぇとはなんです」
 夜宵達に少し遅れて、久朗とアトリアもレストランへ入ってきた。アトリアは初めてのことなので、肘つんつんしながら小声で久朗に尋ねる。
「食べたい料理を自分で更に盛るんだ」
「ふむ……、アレは美味しいのでしょうか」
 アトリアが見ているのは、牛肉天国を楽しみ尽くす夜宵と英斗の姿であった。
「あっ、真壁さんとアトリアさん」
 皿から顔を上げた夜宵が、二人に気づく。
「よかったらこの隣のテーブル空いてるから、いかがですか?」
 久朗とアトリアは顔を見合わせ、頷いた。食事は大勢の方が楽しいだろう。レストランのウェイターも気を利かせて、テーブルを二つくっつけてセッティングしてくれた。
「牛肉が最高でした」
「あ、今実演のステーキが焼きたてみたいですよ」
 再び肉に挑もうとする二人に促され、久朗とアトリアも料理を取りに行く。
 ――牛肉フェスティバルの幕開けであった。
 さて一方、除夜、彼方、S、依雅達は、和食処で牡蠣鍋を堪能していた。この季節の名物らしい。
「ほら、きちんと野菜も食え、後ちゃんと火は通すようにな」
「いや、本当に世話焼きじゃのう」
 面倒くさがりなのに鍋奉行になってしまっている彼方である。鍋をやると、自ずから鍋を仕切る者が現れるこの現象はいったい何というのだろうか。結果、鍋の世話に夢中になるあまり結局ほとんど食べられないという残念なことになる鍋奉行もよくいる。
 幸い彼方は、要領よく自分も食べるだけの余裕はあった。牡蠣は鍋に入れると出汁が出て、その成分を吸った野菜も美味になる。特製の汁と牡蠣出汁が混ざり合った鍋は、まさに幸福の坩堝。四人の箸もがんがん進む。
「もっきゅ、もっきゅ」
 諸事情により食事の摂り方が不規則な依雅は、特に多めに食べている。
 ほどよく火が通っているはずなのにまったく大きさが縮まない牡蠣。良質の証。口に入れればほどよい塩気がまず舌にとろけ、噛めば噛むほどうまみが広がる。飲み込むのが惜しいほどの味わい。
 しめはうどんとご飯が選べるようになっていたが、相談の末おじやにする。野菜や牡蠣の出汁が出た汁にご飯を投入し、ぐつぐついったら卵でとじる。具材の栄養とうまみを、ご飯に染みこませることで余すことなく採りいれる。まさに合理的な食べ方である。スキーで冷えた身体も中からしっかり温まった。
 部屋へ戻る依雅と彼方、除夜とは食事処で一旦別れ、Sはホテルのアミューズメントコーナーへ向かった。運動して身体を動かしたが、温泉に入ったら疲れは吹っ飛んだ。まだ寝るには早いし、どうせなら施設も思い切り利用したい。
 水着はレンタルできるとのことだったので、持参しなかった。可愛いのが選び放題で、うきうき着替えたSは広いプールに入る。利用者もけっこういたが、泳ぎ回るというより水に入ってのんびり楽しむ人が多いようだった。
 せっかくなのでウキを借りて、水に浮かぶ。ゆらゆらと揺られるのは気持ちがいい。
 そういえば、と思い出す。温泉で除夜が、さりげなく依雅のことを訊いてきた。あれは何だったのだろう。何となく、除夜が焼きもちを焼いている気配は昼間からあったが。
「ま、いいか」
 当人がいないところで考えてもしかたがない。
 軽くプールで泳いだあとは、フィットネスで汗を流す。シャワー室があったのでざっと汗を流したのち、アミューズメントコーナーで片っ端からゲームなどを楽しんだ。どちらかというと、スキーよりこっちで体力を使い果たした感のあるSであった。
 一方部屋に戻った彼方と依雅は、内風呂を使っていた。彼方が元々男性であり、女性体とはいえ見るのも見られるのも困るという事情があるのと、依雅も特にアルカリ性の水質と他者の好奇の目が劇物であるということからだ。そんな双方の事情と、知り合いで気心も知れているということもあり、同室で泊まることにしていた。
 このホテルは浴室が広く、湯船と洗い場を兼ねたシャワーブースが設置されていて、大人でも二人くらいなら同時に利用できた。水が飛ばないように、シャワーブースは半透明の壁で囲まれているのもいい。
 交替で湯船とシャワーブースを使いながら、時折壁越しに会話を楽しむ。お互いの事情を承知している間柄というのは、とても落ち着く。

●山よさらば
 二日目は、朝食後から授業開始となった。昨日のおさらいから始まり、コース内容をマスターした人の発表となる。
 何とかめでたく全員中級へレベルアップしたが、多少の個人差があるのは否めなかった。例えば除夜は既に昨日の初級クラスの段階で余裕が見えたが、彼方の方は残念ながら『ぎりぎり』というところだった。
 ともあれ、中級の授業は始まる。今日はあまり時間も無いので、早速滑りながらの実践と言うことになった。
「ただ滑るより競った方が上達は早いと言います」
「そうなのか?」
 中級ということで、初心者でも安心な比較的なだらかなコースの頂上までリフトで登る。二人乗りリフトは一人乗りよりも安定感があって乗りやすいので、全員スムーズにごとごとと運ばれていく。久朗とアトリアも、リフトから下を眺めながらのんびり話していた。
「ですから今からどちらが下に辿り着くのが速いか競争しましょう」
「……」
 久朗の返事がなかったので、アトリアはもう一度繰り返そうとしたが、その時ちょうど降り口へ到着する。係員の誘導に従ってリフトを降り他のメンバーが集まるのを待つ。そう時間はかからずに全員そろい、インストラクターについて山の半分くらいまで降りていくことになった。アトリアは改めて、久朗の隣に並ぶ。
「……ちゃんと聴いてましたか? あ!」
「早い者勝ち、だろ?」
 先導するインストラクターを追って、久朗が飛び出す。あわててアトリアも追いかける。二人に負けじと、他のメンバーも次々山を滑り降りていく。
 朝の光に、ゲレンデは白銀に輝いている。風は少し冷たいが、その中を突っ切っていくのは心地よい。
 時々誰かが転んだりしたが、柔らかい雪はしっかり受け止めてくれるから怪我もない。むしろ自ら飛び込んでいるのかと思う勢いのSが約一名いるが、彼女が華麗なる横転を披露しても温かい笑いと助ける手がすぐに差し伸べられる。夜宵と英斗はまたしても負けず嫌いを発揮してすぐに勝負になり、依雅と彼方はマイペースでゆっくりと確実に滑る。
 休憩を挟んで授業は続けられたが、あっという間に楽しい時間は終わりを迎えた。
 帰り支度を整えるため、授業が終わったあと一度ホテルへ戻り、ロビーで集合ということになった。出発時間より早めに部屋を出てきた久朗とアトリアは、のんびりロビーの中を見て回りながら待っていた。ホテルのパンフレットを、一部もらって帰ることにする。今度はセラフィナを連れて三人で来ようと話したのだ。
「セラフィナへの土産はどうしようか」
「雪だるま大福など如何でしょう」
 アトリアが指さしたのは、お土産屋さん。オープンな明るい雰囲気で、ロビーや通路からもよく品物が見えるように配置されている。
「ん。……滅多に来れないし、悔いのないように……」
「ではあの辺りも!」
 アトリアは店の中の棚を指さすなり、どんどん奥へ入っていく。いらっしゃいませー、と言う声が明るく響く。
「……仕方ないな」
 大量の荷物持ちを覚悟しつつ、それでも軽い足取りで久朗はアトリアを追った。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032
    機械|24才|男性|防御
  • 傍らに依り添う"羽"
    アトリアaa0032hero002
    英雄|18才|女性|ブレ
  • エージェント
    中城 凱aa0406
    人間|14才|男性|命中
  • エージェント
    礼野 智美aa0406hero001
    英雄|14才|男性|ドレ
  • 癒やし系男子
    離戸 薫aa0416
    人間|13才|男性|防御
  • 保母さん
    美森 あやかaa0416hero001
    英雄|13才|女性|バト
  • ひとひらの想い
    無音 彼方aa4329
    人間|17才|?|回避
  • 鉄壁の仮面
    那由多乃刃 除夜aa4329hero001
    英雄|11才|女性|シャド
  • もっきゅ、もっきゅ
    依雅 志錬aa4364
    獣人|13才|女性|命中
  • 先生LOVE!
    aa4364hero002
    英雄|11才|女性|ジャ
  • スク水☆JK
    六道 夜宵aa4897
    人間|17才|女性|生命
  • エージェント
    若杉 英斗aa4897hero001
    英雄|25才|男性|ブレ
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