本部

【絶零】連動シナリオ

【絶零】hide-and-seek A

電気石八生

形態
ショートEX
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
6日
完成日
2017/02/02 21:07

掲示板

オープニング

●感傷
 オムスクの一角。雪をかぶった古い街並の片隅に、細身の男が吐き捨てた。
「オレぁ兵隊っす。オレだけだったらなんだってやりますよ。でもね、お嬢はそうじゃねぇでしょ。だってお嬢は――」
「ヒョルド」
 低くかすれた声音が彼を止めた。
 よれた軍用コートをまとった男……ネウロイの声音が。
「そのために貴様をつけるのだ。伍長は指揮官という立場を忘れて前に出た。そして部下を残して死に、結果として群れを全滅させた」
 ヒョルドと呼ばれた男は気まずげに目を伏せる。
 先のノリリスク高速鉄道ステーション攻略戦で、男――“中尉”は副官であるデクリオ級愚神を失った。
 一応は、敵戦力を計って一定時間で離脱することが彼の主任務ではあったのだが……結果的に気の合う部下を見殺した。
「前に出るのが貴様の性であるのはいい。しかし、犬死するのでは意味がない。生きてリュミドラを守り抜け。ない知恵を絞り、策を立ててな」
 まさに攻略戦ではない知恵を絞ったつもりだった。あれをもう一度やれと言われるのは実に気重だ。まったく、出世なんざするもんじゃねぇな。
「……ゾーンルールはオレが決めちまっていいんすか? お嬢に不利しょわせますよ?」
「かまわん。そのために近接格闘を学ばせたのだ。ちがうのか?」
 そもそもリュミドラに軍隊格闘術を仕込んだのはヒョルドだ。そこにリュミドラはライフル術を組み合わせ、独自の接近戦術を体得している。誰が相手でも、そうそう後れを取ることはないだろう。しかし、それでも。
「……お嬢、やれんのか? ほんっとに、いいんだな?」
 ネウロイとヒョルドの後方で控えていたリュミドラが、赤い瞳をまっすぐヒョルドへ向けて言い切った。
「ただご命令ください、そうせよと」
 頑ななまでの少女の実直。
 ヒョルドは苦い表情を返し。
「アンタはオレらの希望で、負い目だ。できりゃあ箱にしまって大事に取っときてぇとこなんだけどな」
「いえ」
 また降り始めた雪よりも白い頬に笑みを刻み、リュミドラは応えた。
「生まれて初めて、小官はこの命に意味と意義をいただきました。小官のすべては群れの大義のため使い潰されるべきものと考えます。その先に来る、そのときのために」
 クソっ! 悪態を飲み下し、ヒョルドは人狼と化した。隊長、アンタどんな気分でコイツといやがんだ? オレにもアンタの鋼の心が欲しかったぜ……!
 そもそも彼は――ネウロイもだが――生粋の愚神ではない。邪英から愚神化した、英雄だったものだ。
 契約主の置き土産である感傷が、彼に覚悟などというものを強い、彼の決意などというものを鈍らせる。
 ――だからって、どうしようもねぇんだけどな。
 万感を抱えたままライヴスを編み、彼はゾーン展開の準備を整える。
「ゾーンルールは視界遮断と射程封印、ついでに通信不可だ。スナイパー殺し仕様だぜ。アンタもHOPEとかってヤツらも、肚決めてこいよ」

●誘い
「オムスクに小規模ドロップゾーンが出現したのはもうみんな聞いてるよね。街の一角がそのままゾーンになってるみたい。プリセンサーと偵察部隊の鷹からの情報を照合したけど、地形の変化はない。天気も雪が降ってるだけでそれ自体に問題なし。ただ」
 オムスクの市役所の一室を借りた臨時ブリーフィングルームの中で、礼元堂深澪(az0016)が説明する。
「問題はゾーンルール。視界が10メートル以内に限定されてるし、2メートル以内じゃないとどんな攻撃も当たんない。スナイパー潰しに来てるよね、これ」
 深澪は首を傾げながらうなった。
「ゾーンルーラーはケントゥリオ級愚神……ノリリスクの高速鉄道ステーションに出た人狼型だよ。それから街に人狼型従魔40が展開してる」
 煮え切らない言葉。ゾーン内の反応から、それらがいることはわかっている。ただ、どこにいるのかまではわからないということだ。
「あと気になるのは、リュミドラがいるってこと。しかもリュミドラの待機位置だけわかってるんだよね……罠なのか、単純な誘いなのかわかんないけど」

〈ドロップゾーン簡易地図〉
 アイウエオカキクケコサシスセソタチツテト
A■〓〓〓■■〓〓〓□□□□■□■□□■■A
B■〓■〓■〓〓■〓□□■□□□■□□■■B
C〓〓■〓〓〓■■■□□■■■□□□□□□C
D■〓〓〓■■■リwwwww■■■□□■■D
E■■〓■■■■wwwwww■■■□□■■E
F〓〓〓〓〓〓〓wwwwww□□□□□□□F
G〓■■〓■〓■wwwwww□□□□□□□G
H〓〓■〓〓〓〓■■□□■■〓■■□□■■H
I■〓〓〓■■〓〓■□□■■〓〓〓□□■■I
J■■■〓■■■□□□□□□□■■□□■■J
 アイウエオカキクケコサシスセソタチツテト

□=道 ■=建造物(4~40m) w=公園 〓=小路(幅2mの複雑に入り組んだ路と建物が混在) リ=リュミドラ
※1マスは10m四方(5×5スクエア)の正方形(小路を除く)

「ドロップゾーンはざっくり、東側の新市街と西側の旧市街、それから真ん中の公園に分かれてる感じだね。今回の任務はゾーンの消滅。ケントゥリオ級愚神さえ倒すか逃走させればいい。だから従魔とはなるべく戦わないですませたいとこだね」
 簡易地図上の同じマスに入らなければ、互いに発見することはできない。愚神の潜伏位置を当てられれば、最小限の消耗で愚神に当たることができるわけだ。
「姿を晒してるリュミドラは、どう動くかわかんないけど。分析班はなにかの陽動だろうって予測してるんだけど……」
 愚神とペアで動いているのか、愚神からみんなの目を引き離す目的で単独行動しているのか、従魔引き連れて殲滅戦しようとしているのか。
「戦局的にもうこだわってらんないはずのオムスクでやらかそうって以上、敵にはそうしたい理由か覚悟があるんだと思う。過ぎるくらい気をつけてね」

解説

●依頼
ヒョルドの撃破もしくは撃退

●各種情報
・開始時刻はそろそろ短い昼が終わろうという頃合です(視界への影響はありません)。
・ゾーンルールはオープニング参照。
・AGWは物理、魔法、近距離、遠距離問わずすべて射程1になりますが、使用に一切の制限はありません。
・簡易地図上の同じマスに入っている敵味方しか目視できません。
・建物の高さはまちまち。上を移動するのは地上を行くより時間がかかります。
・道の移動に関しては、雪の影響から移動力を五捨六入で計算。移動力の一の位が1~5なら1マス、6~10は2マスとなります。
・小路での移動力は上記計算の半分となります。
・全力移動は元々の能力で算出し、その後に上記の修正をかけます。
・外周の道、小路のどこからでも侵入は可能。ただし敵の配置が不明なので、単独行動は計画的に。

●ヒョルド(ケントゥリオ級愚神)
・回避特性/格闘特化型。
・移動力は人狼形態で30。狼形態で50。
・現在判明している能力は、体表から放出する衝撃波(射程1/全方位)。
・複数回行動(最大5回)あり。
・元ドレッドノートと思われる。

●リュミドラ
・能力不明。
・移動力は20。
・戦場に大きな動きがあれば、初期位置からの移動もあり。

●人狼
・詳細は【絶零】特設ページ参照。

●備考
・メンバーのレベルや英雄タイプ、個性に合わせて撃破か撃退かを選択し、目標を統一したうえでプレイングしてください。撃退の場合はダメージよりも「脱出しなければならない理由」を与えることが重要です。
・ヒョルドやリュミドラとの会話は自由です。

リプレイ

●心映
 極北を包む、早すぎる黄昏。
 薄赤く染め上げられた街――いや、ドロップゾーンへ、10組のエージェントたちが踏み入った。

『行こうか。彼女には伝えたいこともあるからね』
 北からゾーン入りした4組の1組、氷室 詩乃(aa3403hero001)に内から促された柳生 楓(aa3403)が応えた。
「はい。皆を――彼女を助けるために」
 愚神群の西征を受け、この街の住民はすでに退避済みだ。
 ゆえに、彼女が助けるべきは9組18人の仲間と、リュミドラだけ。
『敵の目的は我らの殲滅か、もしくはそれ以外のなにかか……?』
 加賀谷 亮馬(aa0026)の内から発せられたEbony Knight(aa0026hero001)の問い。
「この戦いでわかればいいけどな」
 青き装甲に包まれた拳を握り、亮馬が返す。
『件のリュミドラはどうする?』
「そっちも気になるが今回は」
 Ebonyと亮馬の会話に、楓や亮馬とは【戦狼】の同僚であり、亮馬の妻でもある加賀谷 ゆら(aa0651)が言葉を差し入れた。
「愚神だな。ゾーンルールといい、雪といい、こちらの動きを阻害したい気がありありと見える。その上でリュミドラを目立つ場所へ置いて――意図が読めない」
『単純に考えれば誘っているのだろうが……』
 彼女の内に在るシド(aa0651hero001)もまたため息をつき、かぶりを振った。
『とは言え、愚神もまたリュミドラの近くにいるのだろうが、な。そうでなければこんなゾーンルールを敷く意義がない』
 シドの言葉にうなずいた亮馬が、前を向いたまま言った。
「今回も確実に無茶する。悪いがつきあってくれよ」
『生きているうちはな』
 Ebonyに続き、ゆらと楓もうなずいた。
「妻として、来世まではつきあうさ。来来世のことは――来世にまた聞く」
「おふたりがまずは今世で添い遂げられるよう、全力を尽くします」
 そんな【戦狼】のやりとりを見やりながら、狒村 緋十郎(aa3678)が内のレミア・ヴォルクシュタイン(aa3678hero001)へ内なる声で語りかける。
『俺もおまえに誓――』
『いらないわ。わたしに来世なんてないもの』
 千年を生きた吸血鬼たるレミアに、人の理など意味を成しはしないのだが。
『……誓いたいなら、『無様に生き延びる』とでもしておきなさい』
 ふたりが夫婦となって7ヶ月。たったそれだけの間にいろいろなことがあった。喜びも苦難も、危機も。しかし。それを乗り越えて今、ここにいる。
『なにがあっても生きる。……レミアと共に』

 南の大通りから侵入した3組。
 その先頭に立つ餅 望月(aa0843)は、北の公園を透かし見ようと目を細めた。
『うん。道があるのはわかるけど、先になにがいるかは見えないね』
『ライヴスゴーグルでも無理っぽい。って、なんも見えん! お先まっくらだー!』
 内の百薬(aa0843hero001)が、餅よりもさらに目を細めて、あげく閉じてしまいながら言う。
 かけあいを展開する餅たちの後方で油断なく辺りをうかがいながら、九字原 昂(aa0919)が内のベルフ(aa0919hero001)へ声をかけた。
「ずいぶんと手の込んだ戦場を用意してくれたものだね」
『さて。敵の目論みだが、罠に踏み込んで確認するしかないだろう』
「罠に踏み込んで、罠にかからず、だね」
 ベルフは薄く笑み、うなずいた。
 その世界では知らぬ者のない密偵にして暗殺者だった彼は、自らが死線の上で学び取ってきた技術と心得のすべてを昴に叩き込んできた。その成果が、今の返事にある。
 2組の後ろにつき、どこか茫洋とした目を見えない公園へと向けたArcard Flawless(aa1024)へ、内からIria Hunter(aa1024hero001)が尋ねた。
『うなあみゃにゃあぅん?』
「ああ。ただし推論を結論へ変えるには、まだピースが足りないな」
 これまで人狼群が、リュミドラという存在を中心に展開してきた事件。それらをジグソーパズルの1ピースとして考えれば、正しく組み上げていった先に真実が見えるはず。
 Arcardは息をつき、そして。
「……おふたりさん。ボクはちょっと先行させてもらう。斥候だと思ってくれればいいさ。なにかあったら適当によろしく」
「えっ!? 危ないですよArcardさん!」
 駆け出すArcardを、背中の羽をばっさばっさしながら追いかける餅。もちろん、羽の力をもってしても、スピードは一切上がらない。
『……わかんないなぁ。リュミドラちゃんがなんでこんなとこで標的やってるのか。っていうかリュミドラちゃん、邪英か愚神か人間かー?』
『深澪ちゃんがヴィランだって言ってたよ。標的やってるのは……愛ゆえにだったら素敵だよねー』
 百薬の返事に餅は内で眉根をひそめ。
『愛……すっごい昔、1回だけ食べたことあるかい?』
『そこで訊いてくるパターンか』
 同じくArcardの後を追った昴がやれやれ、苦い笑みを浮かべた。
『罠へ踏み込む役、任せるかな』
『おまえはどう動く?』
 ベルフが問えば、雪景色の中に昴の体が紛れていく。
『バックアップ。幸い音は殺されていないみたいだしね』
 近づきつつある狼の息づかいを肌で感じながら、昴は気配と呼吸を殺し、先陣を切るArcardの影となって進む。

 南から侵入した班と別れる形で小路へと踏み込んだ3組。
『おー、これは狼の狩り場だー。狼のくせに頭もいいから厄介だーねー』
 複雑に入り組んだ路を、他の2組より5歩分先行して進み、主に上からの奇襲の警戒にあたるギシャ(aa3141)。
『先へ行きすぎるなよ。前よりも上に目を向けておけ。単独行動で奇襲を受ければ思わぬ傷を負うぞ』
 内のどらごん(aa3141hero001)へ、ギシャも内なる声であっけらかんと。
『罠とか踏んだらボカチンくらってサヨナラだー。手榴弾いっぱい持ってるっぽいし』
『ボカチン……おまえ、歳いくつだ?』
 ちなみに、ボカンと爆撃されて沈没=ボカチンである。
「次の角を右だ」
 ギシャに指示を出すのはこの班を取り仕切るニノマエ(aa4381)。
『オムスクが彼らの始まりの地なのか? だからこそ、終焉の地として選んだ……?』
 彼の内、ミツルギ サヤ(aa4381hero001)がうそぶいた。
「戦略的になんの価値もない場所をわざわざ選んだんだ。なにかあるんだろうけどな」
 ニノマエはやぶにらみ顔で、地図と進路を照らし併せる。
「リュミドラの胸の穴から見えた狼の鼻先、なんなんだろうな」
 サヤは短い沈黙の後、言った。
『真実を語るはペン先ならぬ切っ先だ』
 あえて無防備を晒すニノマエを、潜伏移動で付き従う迫間 央(aa1445)が守る。
『中尉と言ったかしら。……また会えるとはね』
 央の内でマイヤ サーア(aa1445hero001)が低く言の葉を紡ぐ。愚神への憎しみと怒りが、その声音を知らぬうちに侵し、濁らせる。
 央は先の戦いで“中尉”に折られた右肘に手をやり、強い光を湛えた目を路の先へと向けた。
 あのとき奴が本気でなかったなら、ここで本気を見せてもらう。そして。
「今度こそケリをつける」

●後手
「従魔か。邪魔をするなと言ったらどいてくれるかな?」
 公園の手前、突然視界に現われた人狼どもへ、Arcardは皮肉に笑んでみせた。
『がおっ! ぐぉごうががうが!』
 突撃斬撃粉砕完璧! ジェスチャーでArcardを「行っちゃえやっちゃえ」と急かすIria。
「行こうにも相手の姿が直前まで見えない状況だ。待つ身は辛いが、焦って墓穴に落ちるのはおもしろくない」
『狼だけに、息を潜めて獲物を待つのは得意みたいだね』
 潜伏移動しながらアスファルトを伝わる音と揺れとに神経を集中させ、待ち伏せを探っていた昴が内でつぶやいた。戦闘準備は整っている。しかし、攻撃に出ない。
『それでいい』
 ベルフの言葉が終わると同時に、横合から新たな人狼がにじみ出てきた。
『視界が狭い。数で勝る敵はいくらでも奇襲を演出できる』
「抑えるよ。これ以上増えられると押し込まれるから」
 昴は鋭い視線とともに、現われた人狼の鼻面へ凍雪を投げる。
 人狼は反射的に手榴弾を投げつけてきたが、それが路に落ちるころにはもう、昴は姿を消していた。
「――シャドウルーカーを相手にするなら、目の前よりも影を見ておくべきです」
 背後に回り込んだ昴がうそぶき、人狼の喉元を長巻野太刀「極光」真打で、叩きつけるように引き斬った。
 先に投じた“餌”をくぐって駆け、人狼の影にすべり込む。相手の視点を集中させて虚を突くこの手は、ベルフと出逢ってすぐに叩き込まれた基礎技だ。
 切り口から血を吹いて崩れ落ちる人狼。それを冷めた目で見送る昴の内、ベルフは口の端を吊り上げた。
『悪くない出来映えだ』
『今んとこ敵の数は4体! ワタシたちが3人だから、ひとり1体ちょっと倒せばいいってことだー!』
『アバウト! 1体とさんぶんのいちだから……』
 百薬と餅は妙なことを悩みながらフラメアを振るい、正面から迫る人狼を押し返す。
「あーもー全部まとめてぶっ飛ばしますよ――って、わぁ!?」
 上から突然現われる人狼。
 防御が間に合わず、掲げた腕に噛みつかれた餅は、羽を広げてバランスをとりつつ横回転。思いきり人狼を投げ飛ばした。
『痛った! 上からはなんにも降ってこないだろうって決めつけてたのに!』
 内で顔をしかめ、傷を触ろうとした餅に、したり顔の百薬がびしり。
『人狼菌がうつるかもだよ!』
『人狼菌――そしたらあたし、ワイルドブラッドデビュー!? どうせなら鶏がよかった……』
『おいー』
 その餅が投げた狼に、Arcardは彼女のために再設計されたグラビティゼロが弾き出す鋼杭を食らわせ、公園に視線を向けた。
「しかし、奇襲の体は成しているが――」

『――連携には程遠いわね』
 南ルート班と同じく上と、そして小路の角からの奇襲を受けた小路ルート班。
 内でつぶやいたマイヤへ、角から躍り出てきた人狼の顎を天叢雲剣で貫き上げ、ひねりを加えて引き抜いた央が言う。
『中尉の指揮がないからってだけかもしれないが』
 央は内で返しながら、もう1体の爪をスウェーバックでかわし、横蹴りで突き離す。
 これまで数多の死線を越えてきた。従魔相手に1対1で後れを取るつもりはないが、敵だけに優位な場で待ち受けてやるほど甘くもない。
「奇襲にかまうな!」
 上から降ってきた人狼をサマーソルトキックで迎え討ったギシャがふわりと着地。凍った路へ落ちた人狼の喉へ膝を押しつけて固定した。
「りょーかい。ギシャは先に行くよ」
 そして。戦鎖「黒龍」を絡めて殺しの力を高めた白竜の爪牙“しろ”で人狼の片耳を削ぎ、返り血がしぶくよりも速く跳びすさる。
 片耳を壊すことで左右で音の聞こえを食い違わせ、動きを損なわせる。暗殺者が一対多を生き抜くために使う術。
 面には笑みを。声には朗らかさを。心には刃を――それがギシャであることを、どらごんは誰よりも理解している。だからこそ、本心は語らずに。
『――ギシャ、トラップの警戒を忘れるなよ』
 その忠告に『おけー』と内で応えたギシャは、仲間との距離を測りつつ足を早めた。
「路、塞がれたら厄介だからね」
 ギシャの残した言葉に、ニノマエがふとつぶやきを漏らす。
「……今塞いでくるなら完全に俺の見込みちがいだけどな」
 ニノマエは、今なお現職である警備員的視点から、愚神の狙いが包囲殲滅にあるものと読んでいたのだ。
『ふむ。ならばこの奇襲、どう見る?』
「相手がテロリストなら陽動だろうが……俺たちを公園に追い込む勢子だと思う」
『他の場所から侵入した面々は? 彼らは我らよりかなり早く公園へ入る。敵が包囲したいなら、時間差が生じるのは不都合だろう』
 サヤの指摘は正しい。
 愚神はエージェントの戦場の出入りをコントロールするべく小路の出口付近に潜んでいる。その前提でニノマエは移動に難のある小路をあえて進路に選んだ。
 戦いの中、愚神はかならず能力を生かせるこの小路にエージェントを引き込みにかかるはず。そうなったとき、遅れて進む自分たちが他班と挟撃の形を作るのだ。
「俺の勘違いだったらどうするかだな」
『そのときは私を振るえ。剣は敵を払い、道を拓くために在る』
 迷いのないサヤの声に、ニノマエはゴルディアシスの柄を握ることで応えた。

『敵の妨害はないか』
 慎重な足取りで公園へ踏み入った北ルート班。
 シドの言葉に詩乃が応えた。
『向こうのほうから音が聞こえるね。ってことは、他のみんなは戦ってるんだ』
 南、そして南東から、切れ切れの金属音や爆発音が流れてくるが、しかし。
 4組の進路にあるものはただ、凍雪をかぶった芝だけである。
「気配がする」
 ぽつり。緋十郎が告げた。
 常のレミア主体の共鳴体ならぬ緋色の猿人と化した彼が、ワイルドブラッドならではの鋭い五感で空気のにおいを感じ取ったのだ。
『リュミドラって子だけじゃないわね。この犬臭さは――』
 レミアが言葉を切った。
「よぉ、待ってたぜ」
 白い防寒具に身を包み、ライヴス式アンチマテリアルライフル“ラスコヴィーチェ”を携えたリュミドラの後方、壁にもたれかかって口の端を吊り上げたのは……ケントゥリオ級愚神ヒョルドだ。
「見つける手間ははぶけたが、状況は明るいものではないようだ」
 距離を測り、ラジエルの書を開くゆら。
 対してヒョルドは気楽な口調で。
「いい知らせになるか知らねぇがよ。従魔はいねぇ。ジャマんなるからな。ここにゃオレとお嬢だけだ」
『それが真実だとしても、我らだけで相手取るには十二分の脅威だがな』
 Ebonyが語る中、亮馬はゆらから受け取っていた花火セット「動」の打ち上げ花火に点火、赤らんだ空へ合図を打ち上げた。
 事前の打ち合わせで方針と合図はすり合わせてある。ここからは味方が駆けつけてくれるまで、なんとしてでも戦線を維持するだけだ。
「行くぜ【戦狼】。……犬猿の仲とは言うけどな、狒村さん、力貸してくれ」
「敵が群れるなら、こちらも群れで戦うまでだ」
 応えた緋十郎が、【戦狼】と肩を並べて得物を構えた。
 対するヒョルドはリュミドラを追い越し、前へ。
「お嬢は適当にやってくれ」
「中尉――」
「復唱だ」
「――了解。全力をもって適当に当たります」
 吐き出すように返したリュミドラへ、楓が一歩踏み出した。
「私はあなたを助けたいと思っています」
 また一歩。
「たとえあなたが狼として愚神や従魔と共に生きると決めているのだとしても……私はあなたを生き延びさせます」
 さらに一歩。
「たとえそれがあなたの誇りを穢すことだとしても。私が――」
『――ボクが。君を助けるって決めたから』
 楓と詩乃が、音と心とを重ね、今、リュミドラの前に立つ。
 リュミドラの無表情の白面に、一条の青がはしった。
「おまえはいつも誰かを守ってきた。いい奴なんだろうな」
 青――冷酷と冷徹に縁取られた蔑みの色。しかしそれは楓に向けられたものではない。
「あなたは……誰を蔑んでいるのですか?」
「あたしが蔑むのは、あたしだよ」
 駆け込んできたリュミドラの右腕が“ラスコヴィーチェ”を楓に突きつけ、ゼロ距離から12・7mm弾を撃ち込んだ。
『楓っ!』
 詩乃のサポートを受けた楓はレアメタルシールドで弾を受けた。凄絶な衝撃。下手に踏ん張れば骨がねじ折れる。だから彼女は弾を横へ押し返すと共に体を横回転させ、力を逃がした。
「これ以上あなたに誰も殺させません! そして私は――二度と私を犠牲にしたりしない!」
「生きたいのなら勝手に生きればいい。あたしは群れの中で死ぬ」
「決めたと言いました! あなたを助けると!」
 リュミドラの言葉を遮り、楓が叫ぶ。常の礼儀を全部振り捨てて、まっすぐに。
『ボクが楓の背中を押す。楓が前を向いて進めるように……!』
 追撃に入ろうとしたリュミドラを、ラジエルの書から呼び出した白刃で阻害。ゆらが亮馬と緋十郎へ声音を飛ばす。
「楓の援護は私に任せて愚神を!」
『亮馬、しばらくの間でいいから怪我はするなよ』
「はいとは言えないな」
 シドの言葉に苦笑を返し、亮馬は緋十郎とともにヒョルドの抑えにまわった。
「ふたりぼっちじゃオレは止まんねぇよ」
 ゆるく握った左拳を振り込むヒョルド。ただのジャブが、速度と膂力で砲弾さながらの破壊力をもって亮馬へ迫る。
「止められなくても! 鈍らせられればいいんだよ!」
 重厚なフォルムの「モード・タイタン」からスレンダーなラインを描く「モード・グリフォン」へ装甲を変化させた亮馬が、グロリアス・ザ・バルムンクでヒョルドの拳を弾きながら声を張った。――緋十郎の気配を包み隠すための、フェイク。
「おおっ!」
 亮馬が横へずれた後にとどまった緋十郎が、まっすぐに踏み込んだ。
 ワイヤーさながらの筋肉を詰め込んだ両腕が振りかざすのは魔剣「カラミティエンド」――元はレミアの愛剣として彼女の笑みを飾った“闇夜の血華”。イヤシロチで固めた手に食い込む吸血茨が緋十郎の命を吸い上げ、禍々しき赤刃に黒き瘴気をまとわせる。
「真っ向勝負かよ!」
 楽しげに吐き捨てたヒョルドが、右のオーバーハンドフック。
 重刃と拳とが鈍い悲鳴をあげてぶつかり合い。
 緋十郎の体が、ヒョルドに剣を叩きつけたままの体勢で押し下げられていく。
『――緋十郎。痛い? 苦しい?』
 内から尋ねるレミアに、緋十郎は牙を閃かせて応えた。
「ああ。痛い。苦しい」
『ふぅん、わたしに嘘つくんだ。ほんとに痛くて苦しいなら、口で言ってる余裕なんかあるわけないのに』
「嘘では、ない……!」
 緋十郎の心を、体を、ライヴスの奔流が駆け巡り。
 苦痛に奮える心が、ドレッドノートドライブで高まる力が、ヒョルドの拳を押し返していく。
「おいおいマジかよ」
 ついにヒョルドを押し返した緋十郎は、食いしばり過ぎて砕けた奥歯を吹き落とした。
「苦痛はいいな。どうにもならない気持ちを紛らわせてくれる」

●読み違い
 餅をブラインドにして忍び寄った昴が、最後の人狼をななめ後ろから袈裟斬りで両断し、辺りの気配を探り終えてから言った。
「増援の気配はありません。これで終わりのようですね」
「特に足止めする気もなかったってことかな……いらない傷は負わされたがね」
 Arcardは賢者の欠片を噛み砕き、短くため息をついた。少々考え事が過ぎたせいで、余計な傷を負ってしまった。
 彼女の内のIriaも『がうがう!』、不満そうだ。
「合図は北ルート班からのもので、公園から上がりました。ということは、リュミドラのそばに愚神がいる。2体同時に相手取る必要があります」
『合図が1度きりだった。ほかの人狼はいないってことだな。……小路に固まってるわけでもなさそうだが』
 昴に続き、ベルフが口を開いた。
 事前の打ち合わせで、状況に応じて音による合図を交わすことは決めていた。今のところ危険信号は送られてきていないので、小路のほうもこちらと大差ない状況なのだろう。
「北ルート班との合流を急ぎましょう。4組で押さえ込める敵ではありませんし、僕たちの任務は従魔の壊滅ではなく、愚神の撃破です」
 一同を促した昴は聴覚と触覚に神経を集中させ、進み始めた。
「おっとっと! そうと決まればワタシの後に続いてください!」
 餅が昴の前に出て、フラメアの石突で、地面に埋められてるかもしれない罠を探りながらの前進を開始。
『公園中罠だらけだったらどうしよっか?』
 悩む百薬へ、餅は内なる声で。
『心配ない! だって今のあたしたちってば天使(自称)だよ?』
『って、そのココロはー?』
『最悪、天国に還るだけなのさ!』
 2組の後ろにつき、進路の確認を任せたArcardは思考する。
 ネウロイはいくつかの事件をもってリュミドラに経験を積ませてきた。撃たせ、指揮させ、部下を見殺させ……その経験のすべては“敗北”であり、“喪失”だ。
 ――この戦場で敗けて失い、結果として得るものはなんだ?
「結論を出す前に、足りていないピースをそろえようか」

「とう」
 手榴弾を抱えた人狼を跳び箱よろしく跳び越えつつ、“しろ”から外しておいた黒龍で首を絡め取るギシャ。人狼を背負う形で着地、その動きと呼吸を奪った。
「誰か助けてー」
「任せろ」
 ギシャに応えたニノマエが切っ先で人狼の手榴弾を握った手ごと斬り飛ばし、そのまま駆け抜けていく。
「せっかくだ。置き土産にしてやるさ」
 殿につき、天叢雲剣から立ちのぼるオーラの雲で敵の目を鈍らせつつ攻撃をいなしていた央が、ギシャの鎖で固定されたままの人狼の心臓へ切っ先を突き立てた。
「渡すよ」
 ギシャの合図とともに拘束を解かれた人狼の骸を足ですくい上げ、後方へ蹴り出す。
「喜べよ。骨どころか体ごと仲間に拾ってもらえるんだからな」
 仲間の骸に足を取られる人狼群を置き去り、ギシャと共に路の先へ。
『攪乱するまでもなかったわね。路の狭さが逆に役に立ったわ』
 マイヤの言葉に続き、ポン。公園のほうからまたひとつ合図が聞こえた。
『南ルート班も中尉に会ったか。……人狼はなにをしてる? まさか全部の路に散らばってるのか?』
 内で言う央へマイヤはかぶりを振り。
『悔しいけど、中尉の考えは読み取れないわ』
 人狼のアサルトライフルからばらまかれた弾を三角跳びでかわし、央は前を向く。
「考えるのは奴と顔を合わせてからだ」

 時はわずかに巻き戻る。
「狒村さん――大丈夫か?」
「遺憾ながら、かろうじてな……」
 連携してヒョルドに対する亮馬と緋十郎が、自らの血にまみれた肩を合わせ、互いに支え合う。
「いやいや、よくやってるぜ? まだ生きてんだからよ」
 口の端を吊り上げ、ヒョルドが言った。
 彼は大きく動き回らず、その場で回避し、攻撃を繋げるタイプの格闘家だ。広い意味で言えばカウンター使いとなるわけだが。
「待ってもらってるおかげで保ってるんだけどな」
 手足を駆使したさまざまな打撃を八方から食らい、たかが数十秒で満身創痍に追い込まれた亮馬。
『ふたりで、ケントゥリオ級の、連撃を、しのいでいるのだ。過ぎるほどに、上等だ』
 Ebonyが荒い息をつきながら内で紡ぐ。人型兵器の心臓兼頭脳として生み出されたEbonyの戦術眼は高い。しかし、それをもってしても、契約主である亮馬を殺さずに保たせるのが精いっぱいだ。
『手が詰まってるなら、無理矢理出してくしかないわよね?』
 レミアが内から緋十郎の魂を蹴りつけた。
「先に行く――続きを頼む!」
 アクセルを踏みつけられたかのごとく、緋十郎が魔剣をななめ上段に構えて突撃した。
「おおおおおおお!!」
 気合とともに振り込まれた袈裟斬りを、ヒョルドはフックで外へ弾いた。お返しのハイキックが緋十郎の顎へ飛ぶが。
「まだだ――まだ! まだまだ!」
 体ごと回転した緋十郎が、振り回しの遠心力と剣自体の回転力を重ねた一撃を、その蹴り足に叩きつけた。
 それを見て取った楓が、ゆらに『行け』のハンドサイン。
 楓と連動してリュミドラを牽制していたゆらが身を翻し、亮馬へと向かった。
 リュミドラは楓が突き込んだレーヴァテインの切っ先を左腕で受け、右腕だけで構えたライフルをゆらへ撃ち込んだ――そこに、楓が割り込んでいた。
『楓!』
「はい!」
 互いの心に己の心を重ね、楓が、詩乃が、12・7mm弾をその体で受け止め、抱え込んだ。
「っ!!」
 胸の真ん中に突き立った弾が楓のバトルドレスを貫き、肉へ、骨へ、命へ食い込もうとその身をよじらせる。
 しかし。楓は弾など見てはいなかった。
 その目はただまっすぐと、リュミドラを見据えて離さない。
『踏み出そう。ボクたちは前を向いて進むんだ』
 詩乃が強く促した。
「踏み出す。私たちは前を向いて進み、助ける」
 楓が強く踏み出した。
「――亮馬」
 亮馬の後ろについたゆらが笑んだ。さすが亮馬。背中に傷がひとつもない。そして気づいた。亮馬があえて体の傷をそのままにしているのだと。
「行け」
 亮馬の体に霊符を貼りつける代わり、足を踏ん張って亮馬の背に肩を押しつけるゆら。
『できた妻の代わりに言っておこうか。――援護する。食らわせてやれ』
 告げるシドに、言葉のすべてを飲み込んで夫の背を支えるゆらに、亮馬とEbonyはサムズアップ。
「おう」
『かたじけない』
 緋十郎の一撃で脚を弾かれたヒョルドは大きく一歩下がりながら、彼の左手首を脇に挟んで固定。膝蹴りで一気にその肘をへし折った。
『緋十郎。まさか……鳴いたりしないわよね?』
「今、この世界で俺を鳴かせられるのはレミア、おまえだけだ!」
 残る右手でヒョルドの腕を逆に抱え込み、魔剣の柄頭で顎先へカウンターを叩きつけてコンマ1秒を――亮馬が跳び込む一瞬を稼ぐ。
「行くぜ!」
 迫る亮馬。不完全な姿勢ながら、ヒョルドは回避に移ったが。
「逃がさない」
 亮馬を送り出したはずのゆらが、横から駆け込んでいた。
「魔法使いが殴り合おうってか!?」
 緋十郎に抑えられたまま、ヒョルドがゆらへ蹴りを放つ。
 身を翻して直撃を避けたゆらだが、脇腹を爪でえぐられ、ヒョルドへと倒れ込んだ。
「しがみつくんじゃねぇ。吹っ飛べよ」
 ヒョルドの体毛が瞬発的に膨れあがったライヴスにあおられ、逆立った。衝撃波が、来る。
「逃がさないと言った……!」
 ヒョルドの蹴り脚へ右腕を巻きつけて自らの体を支え、ゆらが残る左手を地に打ちつけた。
 どん。その掌が生み出したものは、凄絶な“重さ”。ヒョルド、緋十郎、亮馬の動きを奪う。
「無差別かよ!?」
『あんたは典型的なドレッドノートタイプだ。それならわかるだろう? ドレッドノートにとってもっとも好ましいシチュエーションが』
 シドの言葉にヒョルドが顔を歪めた。
「そりゃ足止めて殴り合いだよなぁって……そういうことかよ」
「俺の全部を、乗せる――!!」
 不退転の撃、そしてドレッドノートドライブでいや増された疾風怒濤。
 バルムンクの切っ先が3度閃き、ヒョルドの喉、心臓、鳩尾を刺し貫いた。
「だまって死んでくれるなよ。あんたらの戦いの目的にせよ、リュミドラって子のことにせよ……知りたいことはいくらでもあるんだからな」
「心配いらねぇさ」
 ぶるり。ヒョルドの全身から今度こそ衝撃波が放たれ、エージェントたちを吹き飛ばした。
「オレの目的はきっちりアンタらに見せてやっから――」

●想定外
 ヒョルドが突然振り返り、殴りかかってきた攻撃主の首を掴んだ。
「不意撃ちしてぇんだったら、せめて気配くらい隠して来いよ」
「反応が、見たくてね。策を、弄させてもらった」
 片手で吊り上げられたArcardが息を詰めながら応え。ノーシ「ウヴィーツァ」の刃を至近距離から発射した。
「っと! こっちが本命かよ!」
 危うく人差し指と中指の先で刃を挟み止めたヒョルドが息をつき。
 Arcardが薄く笑んだ。
「ケントゥリオ級という立派な愚神が不意撃ち程度を気にするなんて、普通はありえないことだよ。……きみ、生粋の愚神じゃないね?」
「ああ。オレぁ邪英上がりでよ。ほかの愚神センパイみてぇに余裕ぶっこいてらんねぇのさ」
「なら、どうして従魔で自分のまわりを固めない? いやむしろリュミドラに、かな。きみたちはこれまで、幾度も彼女に訓練をさせてきた。しかしそれは戦闘訓練ではない」
 よどみなく浴びせられる問いへ、ヒョルドがおもしろげに首を傾げた。
「じゃあなんだってんだ?」
「彼女が訓練と称して経験させられているのはそう、『群れという絶対の仲間を失う喪失感』だ。そして今日、彼女が失うものは愚神君……きみなんだろう?」
 返答は、爆笑だった。
「はっ! アンタ、アタマいいんだな! 7割合ってるぜ!」
 愚神と化したその身にスキルやマスタリーというものが存在するのかは知れないが、攻撃という一点に特化した力が毛先から噴き出し、ヒョルドを包んだ。
「オレが死んだら、オレらの目的の達成ってやつはいっこ分早くなる。さぁて、アンタらどうする?」
「僕たちの結論は変わりません。ケントゥリオ級を逃がして憂いを残したりはしない」
 凍雪の白から忍び出た昴が、長巻の太い刃で未だ鈍ったままのヒョルドの脚を刈る。
『どれほど回避が高かろうと、脚を殺されればよけられんだろうよ』
 ベルフの言葉を受けた昴は一度跳びすさり、得物の重さに引きずられてずれた重心を整えた。必殺は、心技体のすべてがそろってこそ成るものだ。
「ちまちましてんじゃねぇ! まとめてかかってこいよ、力も技も全部ぶっ込んでよぉぉぉぉぉあ!」
 咆哮がエージェントの心を打ち据える。これは、ドレッドノートの臥謳。
「ぐ――!」
「ぬぅ!」
 亮馬が、緋十郎が、心を喰われて膝をつくが。
「狒村さん! 素顔のヒーロー! あたたがたには天使の加護がついてますよー」
 クリアプラスを乗せたケアレインが、最前線を担ってきたエージェントたちへ、再び立ち上がる力を注ぎ込んだ。
 ちなみに「素顔のヒーロー」とは亮馬のことだ。
「……回復はありがたいけどな、こんなときまでそれかよ」
 亮馬の苦い声をあははーと笑い飛ばし、蒼炎槍「ノルディックオーデン」を構えた餅はヒョルドに片目をつぶってみせた。
「ってわけで天使の登場ですワッ――!!」
 決めゼリフを悲鳴に変えて、凍雪に覆われた芝の上へ転がる餅。あやういところで避けたのは、楓を振り切って跳び込んできたリュミドラの蹴りだ。
「中尉……黙って見送るつもりはありません。損なわれるのは、小官であるべきです」
 リュミドラがヒョルドの前に立つ。
「ったく。姐ちゃんがヘンに先読みしてくれっからよ、予定が狂っちまったじゃねぇか」
『やばいよ餅! リュミドラちゃん、やっぱり愛で戦ってるよ! 愛がいっぱいだよ!』
 わーわー騒ぐ百薬。
 一回転して立ち上がった餅はぐっと力を込めて。
「負けませんよー! ワタシたちの愛、ふたり分でいっぱいいっぱいですっ!」
『……餅さんや、いっぱいはいっこで止めとこか?』

 一方、小路ルート班。人狼の襲撃を最小限の応戦でやり過ごしながら、公園への出口付近までたどりついていた。
「罠解除完了」
 ギシャが凍雪にワイヤーとともに埋められていたものを指先でつまみ上げた。
 それは小さな白い花。元暗殺者のギシャが知らない以上、毒草ではないのだろう。
『さっきのトラップにも置かれていたが、なんの意図がある?』
 どらごんが首をひねる。
 ギシャは内で言葉を継いだ。
『この罠しかけたのリュミドラだよね。なんだろ、しめっぽい?』
 殿についたニノマエが、サポートを担う央へ声をかける。
「狭間さん、そのまま小路を抜けてくれ」
「わかった」
 速度を上げ、ギシャが安全を確保した小路を突き抜ける央。
『結局この小路自体が中尉のトラップだったわけか。俺たちを惑わせて遠回りさせるための』
 内で苦い言葉をこぼす央に、マイヤが小さくかぶりを振った。
『多分、ちがうわ』
『……どういうことだ?』
『惑わせたかったのは確かでしょうけど。人狼の配置のおざなりさと、出口に固めたトラップ――連動させなければ意味がないものを、ばらばらに置いている』
 確かにそうだ。奇襲ポイントに合わせて置くべきトラップが、こんな公園の際にあっては意味がない。現にこうして容易く無効化されている。
「手向けってやつなのかもな。人狼か、中尉か、リュミドラ本人のか」
 足を止め、人狼群と向き合ったニノマエがしかめ面をさらにしかめてつぶやいた。
『悩むことに意味はない。この場に愚神がいないのなら、速やかに向かうだけだ』
 サヤが語り終えると同時に、ニノマエの頭上に無数のゴルディアシスが現われた。戦いの世界より、刃の化身たるサヤを救うべく召還に応じた姉妹たちが。
『同胞よ。雨のごとくに降れ』
 凍雪を裂き、壁を削り、人狼どもへ殺到する刃の雨。
 その甲高い声が止み。
 小路は静寂を取り戻した。

●忍
「っ!」
 ゆらがヒョルドの右ストレートをかわした。
 しかしヒョルドはそのまま彼女のドレスの襟を掴んで跳びつき、強靱な脚をぬるりとその細い首に巻きつける。
『させるか!』
 シドがカバーに入ったリュミドラごと、ヒョルドをブルームフレアで焼いた。
「はっ!」
 笑みを閃かせたヒョルドはそのままゆらをまたぎ越え、後ろに降り立った。
『離れろ痴れ者が!』
 Ebonyの怒号が響き、亮馬は腰だめに剣を構えてヒョルドへ。
『緋十郎、ゴー』
 レミアに命じられた緋十郎がリュミドラを魔剣で打ち飛ばし、亮馬のために道を拓いたが。
 リュミドラの“ラスコヴィーチェ”が火を吹き、緋十郎の心臓をかき回す――
「狒村さん!」
 あわやのところで楓のシールドが12・7mm弾を弾く。もんどりうって倒れ込む楓に餅が「柳生ちゃん!」、エマージェンシーケアを撃ち込もうと駆け寄った。
「私よりもゆらさんを……!」
 攻防の切れ間、にらみあう両陣。
「土産はもらったぜ?」
 ヒョルドが犬歯を剥き出し。
「私は問題ない。緋十郎の回復を」
 ゆらはねじり折られた右の小指と薬指の位置を戻し、呼吸を整える。
『この状況、どう見る?』
 ベルフが昴へささやきかけた。
 訊いているのではない。弟子である昴に答合わせをしろと言っているのだ。
『連携しているように見えるけど、ちがうね。愚神はあの子をかばってる。そのせいで攻撃力を生かしきれていない』
 内なる声で返した昴に、ベルフがまた尋ねた。
『なら、どうする?』
『利用する。こちらが連携して。――カウントは?』
『俺がとる』
『じゃあ、その間に』
 昴が長巻をかついだ上体を低く下げ、すべるように駆け出した。
「リュミドラさん。あなたには借りもありますし、そろそろ退場していただきますよ」
 ヒョルドとリュミドラの間へ潜り込んだ昴は、長巻を凍雪へ突き立てて軸とし、大きく横回転。蹴りを打つと見せかけて体を縮め、小さく速い回転を重ねる。
「なにがしてぇんだよ」
 ヒョルドの蹴りが襲い来る。これを長巻の影に貼りついてやりすごした昴は、リュミドラを視線で牽制し。
「すぐにわかります」
『――2、1』
 ぱん。長巻の向こうから差し出された昴の両手が打ち鳴らされ、ヒョルドの意識をさらった。
「シャドウルーカーが3組そろいましたからね。かき回させてもらいますよ」
「狼ぐらっぷらー、ジンジョーに勝負だー」
 凍雪の上を尻尾で舵取りしながらすべり込んできたギシャが、“しろ”を装着した右手でヒョルドの爪先を掻き斬った。
『尋常の勝負はどうした?』
 そのままリュミドラへとすべっていくギシャに、どらごんがしかめ面で問うが。
『あはー。ムリムリ。死んじゃうしー。あとは任せたのだー』
 そう言いながら、どれほどの脅威か未だ計り知れぬリュミドラへ向かうギシャ。どらごんは龍娘の心情を問おうとした口を閉ざした。
 ――訊いたところで本人にもわかっておらんだろうからな。
「まだ生きていてくれてよかったよ、中尉。おかげで俺の手で殺せるからな」
 左下を抜けたギシャと逆方向、右上から跳びかかった央が天叢雲剣をヒョルドへ叩きつけた。
「今度はねじりながら折ってやるよ! なぁ!」
 固い体毛に包まれた肩で刃を止めたヒョルドが、カウンターの拳を打ち返す。
『あいかわらず速いけれど、でも』
「追えないほどじゃない」
 マイヤの言葉を継いだ央は手元に残しておいた忍刀「無」――央の「守り」そのものである、戦友から譲られたひと振りで、ヒョルドの拳を止めた。
 そして押し込まれる勢いを利して宙で反転、ヒョルド追撃の蹴り脚を逆に足場としてさらに跳ぶ。
『中尉の動きが止まったわ』
 マイヤの声に応えるように、ここまで待ち構えていたニノマエがヒョルドの背にゴルディアシスを突きつけた。
「……痺れるショットを食らいな」
 幾振りもの分身とともに、ゴルディアシスが至近距離からヒョルドの背へ突き立った。
「射程が殺されてもここからだったら届くだろ!?」
「……滾るじゃねぇか、おい」
 衝撃波が刃ごと、ニノマエを弾き飛ばした。
 しかしニノマエはこれを警戒していた。わずか2メートル後方に壁を負い、最小の距離で踏みとどまれるように。
「絶対逃がさねぇ!」
 ニノマエの気迫を、どこか優しい目で受け止めながら、ヒョルドが静かに言った。
「ああ、昔ぁオレも、そんな感じだったっけな」
「ニノマエ君、だめだ!」
『がうにゃ!』
 ヒョルドへ迫るニノマエへ、援護を担うArcardとIriaが手を伸べた。迂闊だった。小路ルート班はヒョルドの能力を知らない。
「くっ!」
 不十分な体勢でカバーに入ったArcardが弾き飛ばされ。
 ヒョルドの連撃がニノマエを飲み込んだ。
 知らぬうち、ニノマエの膝が落ちる。この重さはきっと、ヒョルドの心の……
「だからなんだってんだよ?」
 ニノマエが奮える手で、自らの首筋にヒールアンプルを突き立てた。
「昔とかどうでもいいんだよ愚神。俺はムダにしねぇ。みんなが命張って救ってきたロシアを、人の命を、鉄路を――救ってきた先の“今”を」
 サヤがニノマエの覚悟に決意を添えた。
『その今を拓き、次へ進むため、我らは立つ!』
 ニノマエがヒョルドへ剣を打ち込む。力も技もない、ただ心ばかりを乗せた刃が、愚神を押し込んでいく。
「……刃の心、見せていただきましたよ」
 影から忍び出た昴が駆け込みながら、手にしていた小瓶をヒョルドの鼻先へ振り込んだ。
「前に見たぜ」
 顔を振って小瓶をかわすヒョルド。しかし。
「だそうですね」
 そのままヒョルドの後ろへ抜ける間に、ライヴスのネットをその脚に絡みつける。
『知ってればかわしたくなる。だからこんな手に引っかかるのさ』
 ベルフの言葉を残し、もがくヒョルドの前から昴が消えた。次なる刃を、その影へ打ち込むために。

「中尉、小官に構わず力を……!」
 リュミドラがたまらずヒョルドへ叫ぶ。
「軍人さんはリュミドラのせいで思いきり戦えない? 狼憑きはいろいろタイヘン?」
 その左右から、分身と共にソウドオフ・ダブルショットガンを浴びせたギシャが、その面に刻まれた消えぬ笑みを傾けた。
「邪魔をするな!」
 空間を塞ぐ散弾を、両腕をクロスさせての十字受けで防いだリュミドラは、“ラスコヴィーチェ”でテレポートショット。
「うわ」
 脇腹を削り取られながらも直撃を避けたギシャが、雪の上に転がりながらショットガンに残る薬莢を弾き出し、次弾を装填する。
『動きながら撃て。これ以上傷つけば足が止まるぞ』
「りょーかい」
 どらごんの助言に従い、ギシャが駆け、跳び、回り、すべる。速度と高さを目まぐるしく変化させ、リュミドラの狙いを外しながら、その射線をヒョルドから引き剥がしていく。
 と。
「バトンタッチ」
 ギシャが唐突に動きを止めた。
「な――?」
 リュミドラの動きがつられて止まった、その瞬間。
 楓のシールドバッシュがリュミドラを突き崩した。
 崩されながら、リュミドラはライフルのストックを返して楓へ打ちつけたが。
「――守られている。それはあなたが狼ではないから。ちがいますか?」
 打たれてなお揺らがず、楓が突きつける。
 リュミドラの白眉が跳ねた。楓の盾の縁を踏んで顎を蹴り上げ、上向いた眉間へ踵を落としたが。
『リュミドラが狼になにをもらったのか、ボクらは知らない。でもね、狼に任せてほっとかない』
 食いしばった歯の奥で詩乃が笑み。
「過去に囚われていた私は詩乃に、みんなに、光を――未来をもらったから」
 目尻からこぼれる血をそのままに、リュミドラを見上げる楓が笑んだ。
「私たちが、狼に囚われたあなたを未来へ連れて行く」

●希望
「ちっ」
 脇腹に穿たれた傷を忌々しげに見やり、ヒョルドが舌を打つ。
「中尉!! 貴官をここで失ってはあの人が!」
 ヒョルドの前に立つ亮馬の背に銃口がはしる。あと3歩距離を詰めるだけで、その背の裏にある心臓を撃ち壊せる――
「させませんよー!」
 その眼前に、大きく羽を広げた餅が立ちはだかった。
「どけ!!」
 視界を塞がれたリュミドラが餅に掴みかかり、足を刈って投げ落とした。
 背中を強く打ち、息を詰める餅だが、歪みそうになる顔をニッと笑ませてリュミドラの腕にしがみつき。
「――どうしてそんなに一生懸命戦うんですか?」
『愛? やっぱ愛?』
 百薬はこんなときでも百薬だ……。
「離せぇっ!!」
「契約してる英雄って、狼ですか? それとも人狼? じゃあリュミドラちゃんは、人狼になりたいんですか? ……人狼と人間だったら人狼人?」
「あ、たしは……」
 あ、やばい。
 餅は悟った。自分がなにか、押してはいけないスイッチを押してしまったことを。
 グルルルルォォォォォ。
 リュミドラの胸から、低い音が漏れ出してくる。これは声だ。獣の唸り声。
 少女の胸を突き破り、獣が這い出そうとしてきている!
 凄絶なプレッシャーが、餅の本能を突き上げた。ダメだよこれ、出しちゃったらみんな死んじゃう!
「まだ、そのときじゃない。落ち着いて――」
 餅に絡みつかれたまま、リュミドラが背を丸めてよろめいた。
『どうしよ餅!? リュミドラちゃん、苦しがってるよ!』
『中にいる英雄と心通じてない? でもそれじゃ誓約だってできないよね……ってそんな場合じゃないし!』
 以前の報告書でも、この状況でも、リュミドラが傷つくことで狼らしき英雄が出てきている。だったら――!
「楓ちゃん! ギシャちゃん! まずいことになるかもですけどやってみていいですか!?」
 ふたりの了解を得た餅が百薬と心を合わせ。
 癒やしの雨を降りそそがせた。
「っ」
 リュミドラの脚から力が抜けた。
 倒れ込むその体を下から餅が支える。
『唸り声、消えたね』
 百薬がほうと息をついた、そのとき。
 駆け込んできた30体の狼がリュミドラをさらい、引きずりながら逃走を開始した。
『視界制限はスナイパー殺しのためじゃなかったか!』
 3体の狼にまかれたギシャの内でどらごんが吐き捨てた。
 リュミドラをあえて晒したのも、ヒョルド自身が彼女と共にいたことも、他の狼を探らせないための策だったのだ。
「リュミドラさん!」
 楓の手が掴んたものは――すべてが行き去った空ばかりであった。

「お嬢、悪ぃけど死なせねぇよ。群れの連中がアンタを待ってっからな」
 エージェントたち攻撃をその身に受けながら、ヒョルドは低くつぶやいた。
「そして予定どおりきみが死ぬというわけか。ボクはこの戦いでずっとその意味を考えていたよ。導き出せた結論はひとつだ」
 前衛をカバーしつつ、Arcardが語る。
「きみたちの目的は、ネウロイすらも含むきみたち人狼が死に絶えること。よるべを失くしたリュミドラを孤独の中で最強の邪英――果てには愚神とすることだと」
「やっぱアンタ、アタマいいな。半分合ってるよ」
 ヒョルドは笑み。
「でもな。そいつは論ってやつで情じゃねぇ」
 ヒョルドの体にライヴスが――防御も回避も、命すらも捨てた決意が逆巻いた。
「オレらはもう終わってんだよ。だから後ろ向いて願っちまう。そういうもんだろ?」
「とにもかくにも終わらせるしかないね……。愚神君の連撃は最大で5。それを越えれば勝機は見える」
 Arcardの言葉にうなずいた央が二刀を構え。
「2手引き受ける」
 緋十郎が魔剣をかついで進み出た。
「1手は俺が止めるか。ついでに引き留めておく」
「残りは加賀谷家がもらおう。あとの者はサポートと回復を頼む」
 ゆらが亮馬と共に、傷ついた面のただ中で瞳を輝かせた。
「討つ」
 分身とともに央が駆ける。
 本体を見極めたヒョルドが拳で迎撃するが。
 拳の先を指先で突いて宙返りする央。同時に分身が、伸び上がったヒョルドの脚へぶち当たり、薙いだ。
「っ!」
 ヒョルドが放った追撃の貫手が機動をわずかにブレさせ、央の首筋の芯を外して裂いた。
『四肢のバランスを崩していては、自慢の格闘術もこの程度ね』
 苦痛の中、花のように笑むマイヤ。
「もう一手、重ねさせてもらう」
 央の両手にハングドマンが現われた。刃を繋ぐ鋼糸が半円を描き、ヒョルドの片腕を絡めとる。
『緋十郎、あんたにできることってなに?』
 レミアの問いに、緋十郎は生真面目な顔で。
「堪え忍び、食らいつく!」
 魔剣を大きく振り回し、あえて隙を作りながら緋十郎が突っ込んだ。
 ヒョルドの蹴りがその腹に食い込み、肉を裂くが、緋十郎は止まらない。自ら傷口を拡げながら、さらに剣を振り回してヒョルドを釘づけにする。
『敵が避けず、守らないなら、やるべきことはひとつだ』
『攻撃はよろしく! 私は亮ちゃんと連携することだけ考える』
 内でシドと言葉をかわしたゆらが、亮馬と並んで駆ける。
『狒村殿らが体を張ってくれている。応えなければ』
「ああ」
 短く応えた亮馬が、Ebonyの愛剣を再現した機械剣エクリクシスを振りかざした。
「おおっ!」
 振り込んだ赤刃がヒョルドの額に食い込み、爆発。この爆炎に敵を討つ力はないが、コンマ数秒、視界を潰すことはできる。
 が、ヒョルドは見えぬまま拳を振り、亮馬とゆらを薙ぐ。
「ゆら!」
 足を踏ん張り、大剣の腹でこれをブロックする亮馬。
「ああ」
 ゆらは亮馬の装甲の継ぎ目に左手の指をかけ、自らの体を大きく巡らせた。そうしてヒョルドの脇へ回り込む間にラジエルの書を開き。
「読み聞かせてやるほど親切ではないが」
 銀の魔弾を、ヒョルドの左目にねじり込んだ。
「!」
 左目を潰されたヒョルドが牙を噛み締め、衝撃波を放つがしかし。
「亮馬!!」
 吹き飛ばされながらも亮馬の背へ回り込んでいたゆらが、ノックバックした彼の転倒をその身で止めた。
 その間にエージェントたちの総攻撃がヒョルドを打ち、そして。
「『その信念、この一撃で断つ!」』
 マイヤの技をその身に映した央がヒョルドの右目を裂き。
「これで最後だ!!」
 亮馬の一気呵成がヒョルドの脚を刈り、倒れゆくその胸へ赤刃を埋め込んだ。

『結局最後まで愚神の目的、わかんなかったなー』
 共鳴体の内でゆらがため息をついた。
 その内なる声が聞こえたのかどうか、Arcardが一同に告げる。
「人狼とリュミドラ君の間には齟齬がある。ボクは人狼がリュミドラ君を愚神にしたいものだと思っていたし、リュミドラ君もおそらくそうなろうとしている。でも、人狼の“希望”はそうじゃない。多分……選択肢はふたつあるってことなんだろうね」
『元邪英の人狼たちが、狼を抱えたアヒルにどんなお願いしたいのかな』
 楓の内で詩乃が寂しげに言う。
「わからない。でも――」
 楓はリュミドラが消えた街の彼方に目を向けた。
「――私はあきらめない」

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 神鳥射落す《狂気》
    Arcard Flawlessaa1024

重体一覧

参加者

  • きみのとなり
    加賀谷 亮馬aa0026
    機械|24才|男性|命中
  • 守護の決意
    Ebony Knightaa0026hero001
    英雄|8才|?|ドレ
  • 乱狼
    加賀谷 ゆらaa0651
    人間|24才|女性|命中
  • 切れ者
    シド aa0651hero001
    英雄|25才|男性|ソフィ
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト

  • 九字原 昂aa0919
    人間|20才|男性|回避

  • ベルフaa0919hero001
    英雄|25才|男性|シャド
  • 神鳥射落す《狂気》
    Arcard Flawlessaa1024
    機械|22才|女性|防御
  • 赤い瞳のハンター
    Iria Hunteraa1024hero001
    英雄|8才|女性|ブレ
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
    人間|25才|男性|回避
  • 奇稲田姫
    マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • ぴゅあパール
    ギシャaa3141
    獣人|10才|女性|命中
  • えんだーグリーン
    どらごんaa3141hero001
    英雄|40才|?|シャド
  • これからも、ずっと
    柳生 楓aa3403
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