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男はダイオウイカ
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依頼前の挨拶スレッド
最終発言2017/01/21 17:26:40
オープニング
「男なら一度は挑んでみたいダイオウイカ!」
そう宣言したリンカーの手に握られているのは一つの依頼書だった。
「場所は大海原! 巨大船舶に乗ってダイオウイカの討伐なんて燃えるシチュエーションじゃね?」
「そんなことは書いてなかったとおもうがのう……」
誇大広告気味の相方に思わずといった感じで老人の英雄が呟く。依頼書には巨大船舶などとは一言も書かれていない。むしろ、出現場所が海岸で移動のために船に乗る必要も別にないとすら書かれている。一応、船のチャーター費用をある程度はHOPEが負担するとは書いてあるが、流石に巨大船舶を貸し切る必要はないはずだ。
「細かいことはどうでもいいんだよッ! 要はでかい奴と闘うのは男のロマンってことだ。なあお前らもそう思うだろ?」
通常ダイオウイカは深海に棲む生物であり、それに挑むということは深海に向かわなければならないが、依頼書に書かれている場所は海岸沿いの小さな村とある。そんな場所に出現し、暴れることが可能という時点で普通のダイオウイカであるはずはない。だが、それでも挑むことができるチャンスというのはそうそう巡ってくるものではないだろう。
「それにこんなでかい焼イカ食べられる機会もそうそうねえしな!」
本音が煤けて見える一言にロマンよりも食い気が勝っていることがバレバレなリンカーであった。
解説
標的は従魔化したダイオウイカです。
触手の本数は計10本で、うち2本は他より少しだけ長いようです。
サイズは20m級で陸上でも普通に動き回ります。
水中では非常に速い速度で移動します。
墨を吐いて視界を奪うことや触手で動きを封じることができるようです。
リプレイ
●敵はダイオウイカ
今日も今日とて。
ぶっ飛んだ事件が舞い込むのはリンカーの宿命。
今更だけど、赤城 龍哉(aa0090)とヴァルトラウテ(aa0090hero001)は首を捻る。
「ダイオウイカって臭みが強くて食うには厳しいとか聞いた気がするんだが」
龍哉の口元が少し歪む。
「食べ応えはともかく大味そうではありますわね」
ヴァルトラウテの言う通り、ミカンでもウニでもあまり大きな物は大味になるのが一般的だ。
「食べるかどうかはさておき、まずは退治しない事にはな」
龍哉はブラウザをそっと閉じた。
鮫・エイ・イカ等は体の中に多量の尿素を溜め込んでいる。人間であれば尿として排出してしまう物を残しておくのは海水との浸透圧に対抗するためだ。
これが死亡後分解されてアンモニアとなり、あの独特の臭みを出すのだ。
そしてこれが天然の防腐剤となり、養蚕の盛んだった海無き県で生の海の幸を食することが出来たのである。
「ふむふむ。柑橘系で臭い消し、クエン酸で干物作りか」
Webで検索するや出て来る情報。ちゃんと処理すれば臭みは取れる。時には機密に属する軍事情報すら引っかかる蜘蛛の糸に抜かりはない。
退治に成功しても、汚猥な産業廃棄物を残してリンカーがスメル・テロ騒動を起こしてしまっては意味がない。
「ロマンか……。いくつになっても男は子供だよね」
「だって。高校生にもなって、学校で鬼ごっこしたり興味本位で火災報知器のボタン押しちゃう生き物だよ」
盛り上がる野郎どもに、南極のブリザードより冷たい眼差しを浴びせるアリス(aa1651)とAlice(aa1651hero001)。
男達が熱くなればなるほどに、彼女達は冷めて行く。いや、ぶっちゃけるとウザイ。
例えばそこの漫才コンビ。
「……なぁ、俺達今から敵倒しに行くんだよな?」
「何を当たり前のことを言っているのだ汝は? もしやその歳で痴呆か?」
ジト目のリィェン・ユー(aa0208)に話の噛み合わない零(aa0208hero002)の声。
「んなわけあるか!! ……じゃぁなんだその鉄板と大量の麺は!?」
「今回の標的は大きな烏賊なのだろう? 大きな敵を倒したら食うだろう? そのための道具は必要なのは当たり前ではないか。馬鹿か汝は?」
例えば、絶対に勿体無いお化けが現れない真摯な方々。
「調べてみたら干物にすれば何とか食べられるらしいが……」
龍哉は食用のクエン酸を持参して来ている。
「こんなんでアンモニア臭が消えるんですの?」
「ああ。とりあえずこれで4人分ほど処理できる」
しかも男だけとは限らない。
「え……? わ、私、男性エージェント限定の依頼募集だとばかり……」
相棒に誘われて戸惑う月鏡 由利菜(aa0873)。
男はダイオウイカ。由利菜は純真な乙女であるから、思い浮かぶのはイカの着ぐるみを着た男とか、フンドシ一丁で責めたり受けて立ったりするシーンなどで無く、幼かった日の自分にフカが棲むと言う海の話をしてくれた、赤ら顔をした若いおじさんの姿だ。
「流石にそれはないよ。……それより、イカ焼き食べるチャンスだよ!」
美味しい顔でイチオシのウィリディス(aa0873hero002)に由利菜は、
「もう、本来従魔化したイカの退治依頼なのにお気楽なんだから……」
しょうがないなぁ。と微笑み返し。
「いや、なんか依頼してきたリンカーの人も食い気強いみたいだよ」
よくある話とウィリディスは言った。
何故か皆こんな感じだ。
「「敵は斃すものだよね」」
アリスとAlice。二人のセリフが唱和した。
「ふむ、これもロマンだな。それにしてもケチな本部が良く認可したな」
「……ん、武勇伝」
麻生 遊夜(aa0452)とユフォアリーヤ(aa0452hero001)は頼んでおいた撮影班に一切の記録をお願いする。
今後の一般人協力に寄与する様、ダイオウイカとの攻防を怪獣映画さながらに格好良く撮って貰う予定だ。
各々武器を点検し、作戦の打ち合わせをする。
いざ。ダイオウイカ退治に出発!
●嘘だと言ってぇ~
――
♪日は昇る 旗雲(はたぐも)の潮(しお)の涯(はたて)に
いざ 御船(みふね)出(い)でませや いざいざ 出でませや
朝開く男児(おのこ)らよ 波分くる乙女子(おとめご)よ
艫(とも)舳(へ)接ぎ進み征(ゆ)け 波蹴立て漕ぎ出(い)でな
日は昇る 旗雲の潮の涯に
いざ 御船出でませや いざいざ 出でませや♪
♪日は昇る 旗雲の燃ゆる茜(あかね)に
いざ 英霊(みたま)出(い)でませや いざいざ 出でませや
疾(と)く祓(はら)え邪神(まがつかみ) 疾く降(くだ)せその従魔(やから)
眉上がるつわものよ 剣(つるぎ)執(と)れ雄叫(おたけ)びぞ
日は昇る 旗雲の燃ゆる茜に
いざ 英霊出でませや いざいざ 出でませや♪
――
揚々たる歌声は、伊邪那美(aa0127hero001)か?
船は沖を目指す。
「おい……」
「はーい。呼んだのかな?」
露骨に敵意を放つ麻生 遊夜の眼差しを清々しいお返事で受け流すヴァルトラウテ。
「これはどう言うことだ?」
「命綱だよな?」
答える御神 恭也(aa0127)に、
「何故に疑問形!?」
遊夜の声が裏返る。
「おまえ、潜ってゲソ攻撃するんだろ?」
龍哉はにやりと笑った。
確かに皆にそんな話はした。だが、何でこうなる?
遊夜の腰には幾重にも、頑丈な縄が括り付けられている。
「絶対悪意あるだろう」
「あるか! 有ったら腰縄じゃなくて有刺鉄線で亀甲縛りしてる」
「おい……」
野郎をそんな風にして誰得だよ。と、リンカー達は考えて、その映像は想像力から拒否された。
「……ん、大物」
機嫌良く尻尾ふりふりするユフォアリーヤの髪から、アホ毛が一本立ち上がる。
「……ん、見つけた! 大きいの!」
わっくわくしながらユフォアリーヤはチェーンソー始動!
「ま、待て! 落ち」
遊夜に有無を言わさず強引に共鳴したかと思うと突撃!
「兎も角。いってらっしゃ~い」
ウィリディスが手を振った。
プクプクプク。擬音にしたらこんな感じ。大岩を抱き締めて沈んで行くかのように潜って行った遊夜は、
「ちょ、待て! このパターンは……」
すごい嫌な予感に鳥肌が立った。
「焼きゲソ、焼きゲソ♪」
意識の中で尻尾ブンブンのユフォアリーヤに主導権を奪われたまま、眼下のダイオウイカに吶喊させられる。
そして最初の一本を切落した時。無謀な行いの代償を払わさせられた。
ダイオウイカの食腕が彼らを捕えたのだ。
「……やーん」
服ごと肌を吸い上げる吸盤。恐らく痕は蚊に刺されたように腫れる事だろう。
そしておぞましくもぬるぬるの肌ざわり。
「ああ、もう……言わんこっちゃない」
「ALBセイレーン、セットアップ!」
海は私達の物。由利菜は小回りの利くセイレーンで右に左に右に左に身体を捩り、ダイオウイカの墨を躱す。
「うー。横滑りが酷いです」
全力機動で急旋回。慣性がセイレーンに追い付かない。
車で言うなら極端なドリフト。セイレーンの先と進行方向が30度ほど違う。
「うー。うわぁ!」
宙に舞い、着水のタイミングで切り返す。そして漸く絶好の射線を確保した。
「オーバーランス、ライヴス出力増大! いけるよ、ユリナ!」
由利菜は必殺の改造グングニル発射の機を伺うが、
「醜悪なる脚を切り落とせ! テンペスタース!」
「あっ、浄化して消滅させたら食べられなくなっちゃうからダメだよ!」
気付いてウィリディスの行動を止めた。
「ら、らめぇぇぇ~」
結果、触手に弄られお約束の悲鳴を上げる遊夜の声は、空しく大海原に木霊する事となったのだ。
「おおきい……絶望すら感じるな」
ああは為りたくないと眉を顰める海神 藍(aa2518)。人との対比で大きさを実感する。
「接近戦は危険かもしれませんが……ですが私たちにはトリアイナもあります……! 頑張りましょう!」
などと禮(aa2518hero001)は口にするが、
「これ以上、痛過ぎる犠牲者を増やすのは拙いだろう? せめてこちらのホームグランドへ引きずり出してからだ」
痛ましいでは無く痛過ぎる。と藍はぼやく。
「ら、らめぇぇ~」
視神経が拒否しかけている声の主に降り掛っている災難は、女性だったらよくあるエロ同人。
男の場合は、
「うほっ。うほっ」
一部の女性をゴリラに変身させる大惨事だ。
「では。こうしましょう。兄さん、これを」
禮は幻想蝶からマグロを取り出しAGルアーを括り付けて、くるんくるるんくるるんるん。
「えい!」
回転の遠心力を活用して、膂力にものを言わせ投擲する。
「……派手だね」
「共鳴します」
二人が一人。藍の火と禮の火が二つ合わさって炎となる。
囮のマグロで注意を引いて、味方の行動を助けるのだ。
「イカを普通に倒して皆でマグロを食べた方が楽だったんじゃ?」
藍はそんなことを思い浮かべた。
「え~っと、何を仕出かしてるのかな?」
騒ぎに気付いた伊邪那美が問うと、
「うん? 疑似餌の代りにしただけだ。獲物が大きいからな囮も大きくないといけなかったが、調度良い大きさだったらしいな」
胸を叩いて恭也は、遊夜が聞きたくなかった本音を漏らした。
●エンゲージ
「大海原で巨大イカとの死闘、か。ええなあ、浪漫や、漢の血が騒ぐわ」
別動隊としてチャーターした船の上、大漁と書かれた鉢巻を頭に巻いて腕を組み、怒涛に向かって、
「よいしょ! よいしょ! よいしょ! よいしょ!」
と言う掛け声から始まる豪快な演歌をバックに、
「海が好きぃぃぃぃぃ~!」
今にもそう叫びかねない雰囲気の緋野 イヅル(aa3479)。
対蹠的に、
「……そうですかねえ? あたくしあのヌメついた肌に触れると思っただけで虫酸が……」
番傘を手に日差しから身を護る阿南 光一郎(aa3479hero001)は、邪神の眷属たる得体のしれない軟体動物を思うだけで、刻一刻と正気度が減っているのではないかと思うくらい鳥肌を立てている。
シュコー。シュコー。シュコー。シュコー。
登録してある自身のエンジン、スクリュー音をノイズ除去した水中マイクが拾う音は、映画のUボートの効果音その物。即ちワルター機関独特の噴射音である。
まさかナチスの亡霊が現れるなどと言う情報は入って居ないから、考え得る音の正体は、
「ずばり、ダイオウイカですね」
ヘッドフォンを付けたイングリ・ランプランド(aa4692)は、敵が眼下に居ることを告げた。
「さっさと倒してイカパーティーだ」
ノリノリのイヅルに、
「でも、確かダイオウイカは身にアンモニアが大量に含まれているので食用に向かないと聞いてますが大丈夫なんでしょうか?」
あのキツイ臭いを思い、烏丸 景(aa4366)は思わず鼻をつまむ。
正確には浸透圧への対抗手段で身体に尿素を蓄えおり、アンモンアは捕獲された後の腐敗によって生じる物である。
「噴射音。近づいてきます」
ばっとヘッドフォンを頭から払い除けたイングリの報告直後。
ズシン! と船に衝撃が走った。
バシャン! と派手な水音。
「誰か落ちたぞ!」
いや。今のはスレイニェット(aa4875)とイーカ・ドユン(aa4875hero001)が共鳴して飛び込んだ音だ。
トリアイナを手にペンギンのように海中を飛ぶ姿は、イーカが人魚であるが故。
「流石に難しいか」
ダイオウイカの足をすり抜けて本体に迫るのは困難だ。
「浪漫だとか言って来てみたは良いが……」
「海中だと手が出しにくいよね」
鹿島 和馬(aa3414)と俺氏(aa3414hero001)は顔を見合わせる。どちらも決定打に欠ける相手のフィールドでの戦いに限界を感じていた。
鷹の目である程度の位置を把握出来ているのが唯一のアドバンテージ。海の水その物がダイオウイカの鎧となってあらゆる攻撃を減衰させている。
「これは囮で引っ張り出すしかないな」
和馬は身体を張る決心を固める。
「ALBセイレーンに履き替えてイカを陸地まで引っ張るとするぜ」
二人は回避専念で海上を動き回った。
「うわっ!」
こうしてこうすりゃこうなると、判っていながらこうなった二人。
「やめて! その触手で俺氏に乱暴する気でしょう? エロ同人みたいに! エロ同人みたいに!」
「うるせぇ、誰得だよ!」
無論ダイオウイカにエロい気持ちなど欠片も無い。ただ、本能に従った食欲と防衛行動あるのみである。
しかし傍目にはまるっきりエロ同人誌。
「ら、らめぇ~」
お前ら、わざとやってないか?
「居た! こっちやイカ野郎、かかってきいや!」
イヅルは姿を現したダイオウイカに目を見張った。
「うわあ、なんて醜い生き物……。イヅルさん、頑張って下さい」
光一郎は食椀に捕らえられた和馬の姿に思わず後退り。
「何言うちょんのや! 共鳴するで!」
「そうだ。助けなきゃ」
あのままじゃ。身体は大丈夫でも精神が崩壊しかねない。
「行くぞ! ゲソの確保と救出だ」
一気呵成を用いるや、隙のある足を削って行く。
「つ、捕まるぅ~」
イヅルを絡めとろうとしたダイオウイカの足は、
バババババババババ!
「悪い。助かった!」
景の試作型88mmAGM「バラック」 によるウェポンズレインによって阻まれる。
その時、通信が入った。
「今から奴を陸へ誘導する」
●崩れるダイオウイカ
「らめぇぇぇ!」
「お前達の尊い犠牲は忘れない」
精神崩壊を賭した一本釣りで引っ張り、身体を張った挑発で誘導する。
リンカー達の必死の闘いにより、遂にダイオウイカは上陸した。浮力の助けを失いシャチの様に陸上を進みながら、うねうねと脚を使って攻撃して来る。
「まだ白兵戦は早いですよね」
ウルミと弓を携えたペーマ(aa4874)が、弓で地味にチクチクと削っている。
「う、薄い本のネタにはされたくないです……」
今後を見越して、使いにくい柔らかい剣ウルミで巨大なイカを切れるように場数をこなしたかったが、食椀に捕らえられ、
「ら、らめぇ~!」
と気色悪い声を上げさせられている囮兼ルアーの遊夜の惨状を見る限り、もう少し弱らせないと接近するのが躊躇われたからだ。
他の触手には同様に和馬と俺氏が捕らえられている。
盛んにエロ同人誌を連呼する俺氏に、
「余裕あるなぁ」
と伊邪那美が感心の声を上げた。
彼らはリンカーだからこそ誰得の男触手プレイで済んでいるが、そうでなければとっくに五体が千切られているかも知れない。
「男が触手に捕まった所で、誰が喜ぶんだ」
こめかみを揉みながら嘆く恭也。
「女の人なら、喜ぶ人がいるの?」
きょとんとした伊邪那美が訊ねると、恭也は彼女を汚すまいと
「……世の中には色々な趣味を持った人がいるんだ」
さらりと会話を流すのであった。
野郎のらめぇ~の絶叫に、怯み白兵戦を避ける者多し。されど既に歴戦のつわものに伍しているクワベナ・バニ(aa4818)とフォラステロー(aa4818hero001)達らは話が別であった。
「ウラー! ウーラウラウラウラウラウラー! ベッカンコー!」
ピリミーの王子か? それとも侍巨人の狼酋長か? 雄叫び上げて突き進み、ラグビーボールの様に不規則に跳ねまわりながらカポエラの蹴りでホイールオブブレードで斬り付ける。
エスキーバで舞いバク宙・側宙ですり抜け、必殺技は蝶々サンバ。
フォラステローは叫ぶ。
「アステカの力を思い知りなさい!」
決まった! 側宙蹴りの反動で舞い上がり、そこから全体重を乗せたバイシクルシュート。
「お前の技アステカ関係ないだろ」
突っ込まざるを得ないクワベナ。そう、アステカと言うよりはブラジルだ。
当たって砕ける波飛沫。砕けてならない人類の盾。
「彼の者の戦傷を癒やし給え……セラピア!」
「汝の苦痛、解き放たん!レフェクティオ!」
「刻が惜しい、迅速なる看護を! ペリサルプシィ!」
死闘を繰り広げるリンカー達に、由利菜がそしてウィリディスが、ケアレイ・クリアレイ・エマージェンシーケアを掛けまくり戦線を維持していた。、
「今だ! 逆転のチャンス! 口だ!」
零の声にグングニルを打ち込む由利菜。ダイオウイカが一瞬止まる。
「ちょうどいい。汝に足りていない射撃訓練を行おうと思う」
零はきっぱりとリィェン・ユーに告げた。
「別にそんなのなくていいとおもうんだが……」
白兵戦に自信のあるリィェンであったが、
「だから汝は馬鹿なのだ。これから激しくなる戦いの事を考えれば、手にできる技能は手に入れておけ。それにそういった攻撃手の思考を知ることが斬り込みかける際に役立つとなぜ気が付かん!!」
「む……確かに」
普段ふざけてるくせにたまに真面目になった零の言には力があった。
「いいか? エラの付近だ。そこにエラを動かす心臓がある。初撃は我が手本を見せてやるからその感覚をしっかり覚えておけよ」
零は射撃を開始した。
イカの主要器官は全て頭にある。足の一本二本を破壊しても堪えないイカも頭を遣られればダメージを受ける。中でもエラ専用の心臓は、動きを鈍らせるに足る急所の一つだ。
「判ったな?」
「ああ」
「撃ちまくれ!」
下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる。元々の意味は練習を積んだら必ず上達すると言う意味だ。
そして、命中率は低くともそれは数で補えると言う意味が後から加わった。
日露戦争の日本海海戦の勝利に対し、東郷平八郎は
「百発百中の一門は百発一中の百門に勝る」
と言った。しかし百発百中の一門は被弾すればそれで終わりだ。物量が解決出来るならば、百発一中の百門は五門十門壊されても闘い続けることが出来る。
「数は力なのです兄さん」
禮がそんなことを言ったとか。
「……消し炭にされたくなければ放しなよ」
絡めとられ掛ったアリスとAliceが自爆も覚悟、一切の遠慮や躊躇いもなくブルームフレアやアルスマギカの炎で燃やしまくる。
後から振り返ればここが分岐点。ダイオウイカの抵抗は少しずつ弱まって行った。
「撃て! 撃て! 撃ちまくれ~!」
零の叱咤にリィェンは、四苦八苦しながら射撃を続けるのであった。そして、
「イングリさん!」
零の声にイングリは頷くとワールドクリエイターでノルウェーの雪と氷の世界を創りだそうと念を込めた。
大成功! 浜に出現した氷雪の中で、益々ダイオウイカの動きが鈍る。
「恭也! 龍哉!」
「「おう!」」
零は二人に合図する。
「今だ! 止(どど)め一撃! 頭だ!」
龍哉はチャージラッシュからのタイラント発動。続いてエクシクシス。同時に異方向から吶喊する恭也。二人の影がX文字に交差した。
かくして脳を狙った電光石火の攻撃は、芯を食った野球のボールのように何も手応えを感じないほど見事に決まった。噴き出す体液にとっぷりと浸かる代償を、不運な恭也の身に残して。
「恭也やったね! ……ご、ごめんなさい」
祝福の抱擁をせんと飛びつきかけた伊邪那美は、一歩手前で華麗なる回避運動を決めた。
生理的に嫌悪感をもたらす臭いに、泣きながら謝る伊邪那美。
リンカー達は勝ったのだ。
●祭りの後
戦い済んで。夕映えの中に横たわる巨体。
時間と共に日は陰り、時間と共にダイオウイカの透明な部分は白さを増して行く。
「よいしょ! よいしょ!」
横綱の土俵入りの様に掛け声が掛る。マグロ解体用の斬馬刀のような巨大な包丁を振るい、イングリがダイオウイカを切り分けて行く。
白砥ぎに砥戻した包丁は面白い程滑らかに切り裂く。
途中何本もの包丁を取り替えて切って行く様は、まるで完成された能役者の舞の如く美しく、その凛々しさは剣豪将軍・足利義輝を彷彿させる。
段々と解体されて行くダイオウイカ。切り身になってもピクピクと動く姿は生命力の塊だ。
「あれだけ大きいなら、みんなお腹一杯食べられるね」
「……確かダイオウイカは臭みとえぐみで食べられた代物じゃない筈だが」
「臭くってしょっぱいよぉ」
闘いで削り取った身の一部を一齧りして、伊邪那美はべっと吐き出した。
「齧るな、はしたない。聞きかじりだが、塩化アンモニウムを体内に持っているらしい。それが、臭みと塩気の原因だろうな。特殊な薬品を使用すれば如何にかなるらしいが、手持ちには無い」
「……HOPEに取り寄せて貰う?」
涙目の伊邪那美。
「無理だと思うぞ。そこまで暇な組織じゃないだろうしな」
恭也は苦笑いして首を振る。
そんな恭也と伊邪那美の会話を後目に、
「皆さんお疲れ様です」
戦いに参加せず、イカパーティーの準備に専念していた神坂 玲奈(aa1603)が出迎える。
「大きい……」
実際に釜茹での刑が出来そうな、大人が何人も入りそうな大きなお釜一杯のご飯。それを海水に浸した藁の俵に詰め込んで豪快な味付け。
隣では団扇でパタパタと冷ましながら、玲奈は山盛りの酢飯作り。
「もう直ぐですよ」
レイカ(aa1603hero001)の手から三角頭のおむすびが次々と生まれては大皿に並べられる。
その横のテーブルには、醤油にレモン、マヨネーズ。ワサビに辛子、柚子胡椒。臭いと言われるダイオウイカに対抗する為、ありったけの調味料が揃えられている。
「手巻きでどうぞ」
変わり種のイカのお寿司。添えるように、冷えた体に熱燗や甘酒が振舞われる。
「ブータン餃子のモモですよ~」
ペーマがイカを具にした郷土料理を売り出した。
「うぎゃあ!」
「ギャヒー!」
ペーマのモモを食したイングリと禮が悲鳴を上げた。
「どうしました?」
駈け寄った藍に禮は、
「兄さん。み、水」
コップを渡すと一気に飲み干し、
「辛過ぎです」
噛み切ったモモの切れ端は真っ赤っか。
「ドウガラシ9にイカが1。これなんて罰ゲームですか」
ペーマの臭み消しの配慮が少し行き過ぎたようだ。
「いい感じだね」
アリスとAliceが焼き切ったゲソは、いい感じに火が通り、リィェン・ユー達が持ち込んだ鉄板の上でイカ焼きやらイカ焼きそばの具となっている。
ソースを絡め焼き付けると、
「ん~。不味い」
涙目の藍が顔を顰める。本当に臭くてしょっぱかった。
「兄さん。あちらにマグロがありますよ」
あちこちで、悲鳴の上がるその中で、
「お口直しはこちら~」
闇鍋よろしい料理の中に、頃は良しと由利菜達がマグロ丼を提供し始めた。ダイオウイカを釣る為に確保したマグロの余りである。
そんな喧騒から外れ、ひっそりとおにぎりを食べる二つの影。
「レイカさんは、イカはいらないのですか?」
「玲奈こそ」
二人が用意したご飯のおかげで、何とか丸く収まっている。
「……似た者同士ですね、なんとも」
「そうでなければ、そもそも誓約などしなかったでしょう、玲奈」
「さぁ。口直しさん達が大勢いますよ」
難敵ダイオウイカに苦戦する料理人達を他所に、二人は口直しの為の炊事に向かう。
ダイオウイカは、退治も厄介だったが調理はもっと厄介だった。
ここにも一人、勇者が居る。
「さて、実食なわけだが……」
遊夜は完成されたはずのブツを見る。
「……ん、楽しみ」
今にも齧り付きそうなユフォアリーヤ。
皿の上のブツとは、荒巻ジャケを作れるくらいの大量の荒塩で水気を吸わせ、然る後に塩抜きをし、レモン水に漬け蒸し上げて下拵えが済んだダイオウイカの切り身。
食材の上で化学薬品の臭いを嗅ぐように、手で手前に風を送る。
「まだよまだ。……とりあえずかなりアンモニア臭は消えてるな」
「食べちゃだめ?」
「こう言うものは独り占めしちゃ駄目だ。最初に今日の功労者に食べて貰わなきゃ」
おやおや。勇者と思えばさに非ず。大義名分をでっち上げて他人に毒見させる気だ。
手早くウイスキーでハイボールを作り、バター醤油で炒めたイカをおつまみに添える。
「どうですか? イケますよ」
今日の功労者にと藍に勧めると、
「そんなこと無い。寧ろ功労者は身体を張って囮になったあなた達だ」
と切り返された。
「そうな。きみたちのお陰で危険は回避された」
リィェンは両手で手を握る。
あれよあれよと言う間に、今回の功労者は囮役。すなわち遊夜達と和馬達と言う事になった。
「功労者……? ……やーん♪」
褒められて、照れ照れでくねくねするユフォアリーヤ。
「(どこで間違えた?)」
毒見させるはずが自分が毒見役になってしまった遊夜。
結果は……。
「……」
無言で遊夜は噛み締めた。世の中の不条理を。
「意外とイケルよな。お代わりある?」
和馬があまりにも美味そうに食べるので、皆釣られて口にした。
次の瞬間、何とも言えない空気の中で代表するかのように零が言った。
「……解せぬ」
さて、あちらでは、
「臭み抜きさえ上手く行けば干物は十分食えそうだが……。熱で飛ばそうか?」
龍哉はお湯で皮剥きし水洗いしたダイオウイカの身を突っつく。
「いずれにしても費用対効果は悪そうですわね」
分解によって生じるアンモニアは、腐敗を防ぐ天然の防腐剤。その昔、海の無い県でサメ料理が発達したのは、アンモニアに由る保存性のせいだ。
「あちらの料理を参照すべきだろうね」
急ぐことは無い。日持ちはする。
二人は後で酒の肴にでもなればいいや。と言う軽い気持ちで切り身を袋に詰めるのであった。
潮騒が響く夜の海。
退治と言う戦いが終わり、調理と晩餐の闘いが終わり、静けさを取り戻した浜の夜。
食べ過ぎ、あるいは試食による悶絶で死屍累々のリンカー達。
一部には酔い潰れて寝転がっているのも居る。
誰ですか? 柔道のエビでトレーニングしてる人は。
これって知らない人が見たら怪しい事この上ないのですが。
「やれやれ、しょうのない」
「……面倒見がいいですね、レイカさんは」
「やかましい妹と姉がおりますので、多少は」
コロコロと笑いながらレイカと玲奈は、食器等々を黙々と片付け、ゴミをビニールに入れて回収して行く。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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