本部

カニと火山と

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/01/31 20:22

掲示板

オープニング

●溶岩より現れし者
「……何だアレは?」
 南太平洋に浮かぶ小さな島。
 世界で一番溶岩に近づける観光ツアーで有名な島。
 その島の火口、溶岩の中を何かが動いているように見える。
「すぐに山を下りるぞ!」
 観光ガイドが声を上げる。
 いつもは噴煙を上げ続け、時折小規模な噴火を繰り返す山が今日は驚くほど静かだった。
 それだけ見れば普段よりも安全に見えるが、ガイドの危険を察する勘が溶岩の中の何かは危険だと告げていた。
「何か出て来たぞ!」
 誰かが上げた声に観光客たちが溶岩へ目を向ける。
 煮えたぎる溶岩の中から何かが浮かび上がって来る。
 それは巨大なカニのハサミだった。
 溶岩よりも赤く赤熱して太陽のように輝く巨大なカニが溶岩の中から半身を現す。
「何をしている、死にたいのか!」
 這い出して来るカニに足を止めたままカメラを向ける観光客にガイドが苛立つように叫ぶ。
 ガイドとしての責任感と自身の身の安全の間でガイドの心は揺れ動いていた。
 カニの目が痛くなるような輝きはその温度が溶岩よりも熱い事を雄弁に物語っている。
 そして、遠く見える火口も実際にはそれほど遠くない事をガイドは知っていた。
 まだ化け物が全身を現していない今が逃げる最後のチャンスだろう。
「俺は逃げるぞ!」
 もう一度だけそう叫んでガイドは火口に背を向ける。
 だが、すでに遅かった。
 火口を離れたガイドの背後で悲鳴が響く。
 思わず振り返ってしまった事をガイドは後悔した。
 火口の縁からまるで山に登る太陽のように眩しい輝きが姿を現していた。
 五メートル程の小さな太陽のようなカニの光に地面に観光客たちの長い影が落ちる。
 真夏の太陽のような熱気が照らされた人達を炙る。
 一際大きな悲鳴が響き渡った。
 カニの近くに居た者達の服が燃えていた。
 そして、その人達の体からも炎が上がる。
 服の火が燃え移ったのではなく、熱せられた空気が人体の発火温度を越えたのだ。
 長い足で思ったよりもずっと早くカニは移動すると燃え上がる人をハサミでつまみ上げ口へと放り込む。
 パニックが発生した。
 観光客たちは逃げ惑うがごつごつとした岩の多い火口の地面は走り難く、転べば冷えて固まった硬く鋭い溶岩が容赦なく体を傷つける。
 さらに体の大きなカニの方が足が早く、見る間に近付かれ体から炎が吹き上がる。
 悲鳴は見る間に小さく、少なくなっていった。
 ガイドは恐怖に足がすくんで動けなくなっていた。
 暑さのせいか恐怖のせいか汗が滝のように流れ落ちる。
 じっと見つめるように視線を剥がせなくなっていたガイドに最後の観光客を口の中に放り込んだカニがそこだけ黒い無表情な目を向ける。
 まだ距離は有った。
 だが、突然ガイドの服が燃え上がる。
 慌てて周囲を見回すといつの間にか溶岩の川が目の前に迫っていた。
 それはカニの高温によって融けた地面だった。
 赤く輝く灼熱の川が悲鳴すら上げる間もなくガイドの命を燃やし尽くした。

●降下作戦
「最終確認です。現在、敵カニ型従魔は谷に沿って移動しています」
 輸送機の中で装備の最終確認を終えたエージェント達にオペレーターが声をかける。
「谷を抜ければすぐに町が見えます。避難は進めていますが今のペースでは間に合いません」
 火口から出て来たカニ型従魔は現在谷の底を進んでいる。
 幅が二十メートル、深さが五十メートルあるその谷の中ならば被害は出さずに済む。
 だが、町にカニ型従魔が入れば全滅は必至だった。
「谷の底は比較的平らですが、それでも平地よりは足場が悪くなっています。地形によりリンカーが怪我をする事はないでしょうが気を付けてください」
『目標確認』
 オペレーターの言葉に重なるようにパイロットの声がスピーカーから響く。
 輸送機の窓の外を覗くと赤い溶岩の帯が谷を下る様子が見える。
 その先端、太陽のように明るく輝いているのが目標のカニ型従魔だった。
「カニ型従魔の表面温度は約千度と観測されています」
 この火山の溶岩の温度が約九百度なのでカニ型従魔の体は溶岩よりも熱い事になる。
 共鳴さえしていれば溶岩の中ですら活動できる能力者にとってただ熱いだけならば我慢すれば済むだけの話であるが、相手は従魔である。
「出来る限り組み合うのは避けてください」
 何が起きるか分からない以上、危険は避けたいが巨大なカニの進行を止めるためには組み合う事も考えておく必要があるだろう。
「せめて、耐熱装備が準備出来ればよかったのですが……」
 悔やむようにオペレーターが唇を噛むがカニ型従魔の進行速度がその準備時間を与えてくれはしなかった。
 唯一準備出来たのはサングラスのように光を抑えるタイプのゴーグルだけであった。
『降下予定地点上空』
 再びパイロットの声が響く。
「ライヴス・ジェットパックの使い方は大丈夫ですね」
 十分な装備を準備出来なかったことが不安なのか、念を押すように繰り返すオペレーターの言葉にエージェント達は頷いて見せる。
『降下ハッチ開きます』
 パイロットの言葉と共に降下ハッチが開き高空の風が輸送機のカーゴルームに流れ込んでくる。
「気を付けてください!」
 風に負けないように大きな声を上げたオペレータにそれぞれ答えてエージェント達は降下を開始した。

解説

●目標
・カニ型従魔の撃破

●カニ型従魔
・五メートル程の大きさの巨大ガニ。形はサワガニとよく似ている。
・左右のハサミは共に二メートル。体を支える足の太さは三十センチメートル。
・約千度の熱を持っていて赤熱して輝き、太陽のように眩しい。
 ※対策としてスモークタイプのゴーグルが支給されています。
・攻撃方法は左右のハサミによる打撃と掴んでの締め上げのみである。

●熱による影響
・カニ型従魔が歩いた場所は地面が融け溶岩に変わります。
 判定情報:溶岩に踏み込むとBS【拘束】が付与されます。ダメージは発生しません。
・カニ型従魔の熱の影響で一定以上近づくとダメージが発生します。
 判定情報:隣接スクエア(従魔から二メートル以内の距離)に居る場合、熱によりBS【減退(1)】が付与されます。この効果は範囲内に居る限り打ち消せません。
 判定情報:武器防具以外の部分が直接カニに触れた場合熱による1D6ダメージが発生します。
 ※二つの効果は個別に判定されます。
・甲羅の熱により銃や弓といった実体弾は充分な効力を発揮する前に燃え尽きるのでダメージは半減します。

●戦闘エリア
・幅二十メートル、高さ五十メートルの枯れ谷。
・噴火時の溶岩流の通り道で地面は硬くごつごつしている。
・左右の崖は垂直に切り立ってはいるが、張り出しも多く能力者であれば比較的容易に上ることが可能である。
・谷を抜けると町がすぐに見える。
 ※負けるか意図的に谷の出口まで撤退しない限り距離の心配は不要です。

●ライヴス・ジェットパック
・降下位置を調節するための装備です。詳しくはワールドガイドの新たな技術の項目を確認ください。
・谷のどこに降りるかを自由に決めることが出来ます。リプレイはこの降下のタイミングから描写がされる予定です。
・他の装備同様、共鳴していなければ使えませんのでご注意ください。

リプレイ

●降下
「あれが暴れている蟹の従魔か! こうしてはおれん、行くぞ岩磨!」
 開いた降下ハッチから見えるカニ型従魔の姿にすぐにでも飛び出しそうな勢いで何 不謂(aa4312hero001)が興奮した声を上げる。
「幾ら日本が寒い言うても火山なんてクソ熱い場所来たくなかったんやけど……」
 見るからに熱そうなカニ型従魔の姿と暑苦しくまくしたてる不謂の姿に狒頭 岩磨(aa4312)が小さくため息をつく。
「猿蟹合戦の雪辱を果たすのだ。猿ばかり悪者にしよって。悪い蟹もいるではないか」
 復讐に燃える声を上げる不謂に
「逆恨みやんけ!」
 と思わず突っ込んで岩磨は眼下に見えている小さな太陽のようなカニ型従魔へと目を向ける。
 もしもの事を考えて高度を取っているこの位置からだとまるでミニチュアのようにカニ型従魔は小さく見える。
「カニ、意外と小さい」
 思った事をそのまま口にしたような淡々としたナイン(aa1592hero001)の言葉に楠葉 悠登(aa1592)は
「地面と距離が離れてるからじゃないかな。近づくと大きいと思うよ?」
 そう応えて谷を横歩きで進むカニ型従魔へと目を向ける。
 谷の幅は情報によれば約二十メートル、五メートルクラスのカニ型従魔でも十分動き回れる広さがある。
「ふむ。熱そうなのが気になるな」
 カニ型従魔が放つ輝きに目を細めるようにナインが少しだけ不安げに表情を曇らせる。
「そうだね、あんなのが町に行ったら被害が更に広がっちゃう」
 あまり感情表現の豊かではないナインの表情の変化に応えて悠登は遠くに見える町へと目を移す。
「絶対にここで仕留めなきゃ……!」
 悠登の決意の言葉にナインも頷いて二人が共鳴する。
「さっさと行くよ」
 悠登が飛び出すよりも先に黛 香月(aa0790)がアウグストゥス(aa0790hero001)に声をかけて躊躇いも無く宙へと身を踊らせる。
「はい、主」
 それを追ってすぐにアウグストゥスも飛び出す。
 香月の長身を包む黒地に花柄の羽織が風を受けてはためき、風を受けて広がった長く美しい黒髪が共鳴により輝くような銀色へと変化する。
「我らも行くぞ、岩磨!」
 先に飛び出した香月に慌てたように不謂が岩磨を急かす。
「へいへい、ほな行こか」
 どこかめんどくさげにしつつも岩磨はしっかりとカニ型従魔を見据えて不謂と共鳴する。
 大柄な岩磨の姿がさらに一回り大きくなり、体つきも顔つきも人間離れし、大型の猿人のような風体へと変わる。
 輸送機の床を蹴り大きく跳び出して岩磨はその手へとインドラの槍の現す。
「先手必勝や! 渋柿より痛いでぇー!」
 急速に視界の中で大きくなっていくカニ型従魔へ向けて岩磨はインドラの槍を放つ。
 放たれた槍が雷鳴を轟かし、雷のごとくカニ型従魔を貫く。
 晴天からの突然の落雷に驚いたようにカニ型従魔が足を止めて見上げた視界に降下してくるエージェント達の姿が映る。

「ゴウ、俺達も行くぜ!」
 燃え盛る炎のように熱いガイ・フィールグッド(aa4056hero001)の言葉に
「分かっている、ガイ」
 熱せられた鋼のごとく静かに熱を湛えた声で飛岡 豪(aa4056)が応じて二人揃ってハッチから飛び出す。
「炎のカニが、炎の竜に勝てると思うなよ! 行くぜゴウ! 燃えるぜファイヤー!」
 ガイの叫びに
「ああ! これ以上犠牲者を出すわけにはいかん! 奴はここで必ず倒す!」
 豪が応える。
 二人の意思と体が一つに重なり、赤く輝くメタルアーマーが豪の体を包む。
「俺は悪を打ち払う赤色巨星!」
 空に輝く太陽の光を受けて赤いメタルアーマーが燃える流星のように輝く。
「爆炎竜装ゴーガイン!」
 爆発するような轟音を響かせて崖の上に着地したゴーガインが太陽を背に立ち上がる。
「邪なる偽りの陽よ、正義の炎の前に消え失せろ!」
 その手にエクリシスを現しゴーガインが崖を蹴り跳び出す。

「俺達も行くよ!」
 降下する香月と岩磨、ゴーガインの背を追って悠登も輸送機から飛び出す。
『太陽のようなカニ……赤熱で眩しいとはよほどですね』
 悠登に続いて飛び出した志賀谷 京子(aa0150)は共鳴したアリッサ ラウティオラ(aa0150hero001)の言葉に
「あれはもはや従魔というより怪獣だね。夏の炎天下には勘弁してほしい感じ!」
 そう返しながらライヴス・ジェットパックを制御してLAR-DF72「ピースメイカー」の狙撃姿勢を取る。
『人間ではひとたまりもありません』
 地上から立ち昇って来る熱気にアリッサが悼むように口にして火口の方角に意識を向けるのが分かる。
「うん、この谷をアイツの墓標にしなきゃね」
 京子は真っ直ぐにカニ型従魔を見つめたままトリガーを引く。
 弾丸はカニ型従魔の甲羅に確かに命中した。
「なんて硬さなのよ!」
 思わず京子が声を上げる。
 直撃したはずの弾丸は甲羅に傷一つ付けることが出来ずカニ型従魔もほとんどダメージを負った様子無く立っている。

『ロロ―』
「そうですね、あの表面温度は厄介ですね」
 覗き込んでいた魔銃「フライクーゲル」のオプティカルサイトから目を離して構築の魔女(aa0281hero001)が共鳴した辺是 落児(aa0281)の意識に応える。
 京子の放った弾丸がカニ型従魔の甲羅に触れた瞬間に熱した鉄板に落とした水滴のように蒸発するのが見えたのだ。
 通常ならば考えにくい事だが相手は従魔である。
 風に乗るように滑空しながら構築の魔女は高熱の塊であるカニ型従魔を何事か考えるようにじっと見つめる。
「非実体弾ならば……」
 その手に持つ銃を魔導銃50AEへと持ち替える。
 狙撃精度は落ちるが熱気を感じるほどの距離まで接近してしまえば巨大な甲羅を外す事など無い。
 予想通り弾丸の形に形成された魔力は燃え尽きる事無くカニ型従魔の甲羅を穿つ。
「この従魔は実体弾に強いようです。非実体弾での攻撃を推奨いたします」
 カニ型従魔の進行方向側の崖の上にふわりと降り立ちながら構築の魔女は通信機で全員へと呼びかける。
「それと、AGWの弾丸が融けるほどの相手です私達にも影響がないとは限りません、注意してください」

●接敵
 ジワリと汗ばむほどの熱気に包まれた谷底でカニ型従魔を迎え撃つように立つ香月は暑さなど感じていないかのように汗一つ浮かべず静かに屠剣「神斬」を構える。
 その視線の先に小さな太陽のようなカニ型従魔の姿が見える。
 派手に降り立って敵の気を引いたゴーガインが上から敵へと跳びかかるのに合わせて香月も地面を蹴る。
 近付くにつれて上がる温度が差すような痛みとなって香月の肌を刺激する。
「待て、香月! それ以上近づくな!」
 ゴーガインの声が響く。
 豪は接近するに従って肌を刺激する感覚に覚えが有った。
 かつてレスキュー隊員として活動していた豪の勘がこれ以上の接近は危険だと告げていた。
 体を捻り崖途中の岩場に足をつけたゴーガインにカニ型従魔がハサミを突き出す。
 足場を蹴って直撃は避けたがすぐ横を通り抜けたハサミの熱気がゴーガインの体を焼く。
「近づきすぎると焼かれるぞ!」
 仲間達へ聞こえるように声を上げて張り出した岩を伝って跳ねるように後退するゴーガインを追うようにカニ型従魔がハサミを繰り出す。
 崖に突き立てられたハサミの周りが見る間に溶けて溶岩へと変わる。
「気を付けてください!」
 構築の魔女が声を上げる。
 溶け出した溶岩はゆっくりと谷の底へ向かい流れ落ちている。
「高熱と硬さだけが取り柄の節足動物風情が調子に乗るなよ?」
 斬撃がカニ型従魔の脚を叩く。
 香月の神斬から放たれたライヴスの斬撃の衝撃にカニ型従魔の足が止まる。
「大きさが違いますから距離を詰められないよう注意を!」
 構築の魔女の声が響く。
「おらクソ蟹、こっち向かんかい! 岩猿様が相手や!」
 足の止まったカニ型従魔の正面に岩磨が躍り出てフラメアを突き出す。
 その磨き上げられた岩のように硬い体を熱気が焼く。
 だが、火傷のように赤く爛れた傷は即座に治癒されて消えていく。
「リジェネーションや! 栗のおらんカニなぞ怖くはないで!」
 突き降ろすように繰り出されたハサミをフラメアで払って岩磨はカニの腹の下へと入る。
「ライター忘れて来てもうてなぁ。ちょっと火ィ貸してんか!」
 岩磨の咥え煙草が一瞬で燃え尽きて灰へと変わる。
「ちぃと火加減が強すぎやな!」
 振り抜いた槍が腹に一本の傷をつける。
 腹の下の岩磨を嫌がるようにカニ型従魔が下がる。
「従魔に触れることすら危険なら……歩脚も十分凶器といえます、注意してください!」
 構築の魔女が岩磨に警告の声を上げる。
 移動するカニ型従魔の脚が岩磨のすぐ背後まで迫っていた。
「蜂の針よりごついな……」
 思ったよりも鋭い脚の先端に岩磨が思わずそう零す。
 脚の触れていた部分はすでに溶岩と化し足場は限られている。
「こっちです!」
 悠登が岩磨に声をかけて振り下ろされる足を弾く。
「楠葉のボン、すまんな!」
 僅かに開いた足の隙間から岩磨が転がり出るように逃げ出す。
 カニ型従魔はそのまま背後に続いていた溶岩の中まで後退する。

「矢や弾丸は効果が薄いからって……こういうゴツい武器はあんまり慣れないな」
 溶岩に浸かりこちらを見返すカニ型従魔の姿に可愛らしく眉を寄せて京子は手にした大剣、屠剣「神斬」に目を向ける。
 使い慣れた弓や銃よりも遥かに大きなこの武器は可愛らしくはない。
『離れた位置を攻撃できる。わたしたちには、それで十分でしょう?』
 武骨な大剣を重そうに構えて見せる京子にアリッサが淡々と応える。
 その応えに何か言おうと口を開きかけた京子よりも先にアリッサが言葉を続ける。
『それともあんなに大きな的を外すんですか?』
 挑発するようなアリッサの言葉に京子が面白そうに笑みを浮かべる。
「アリッサも言うじゃない」
 不満げな表情から一転、楽しげな笑顔を見せると京子はしっかりと神斬を構える。
「もちろん、弘法筆を選ばず、だよね」
 軽々と振るわれた神斬から放たれた斬撃がカニ型従魔を叩く。

「まぁ、従魔がどれだけその部分を使っているかは謎ですけれど……ね」
 溶岩の中に留まるカニ型従魔の黒い目に構築の魔女が狙いを定める。
 距離の有るこの位置から自動拳銃での狙撃は多少不安は有るが足を止めている今ならばまだ狙いやすい。
 カニ型従魔の黒い目が動く。
 銃を構える構築の魔女の姿を捉えた瞬間、カニ型従魔が両のハサミを掲げて突然溶岩から飛び出す。
 射線を塞がれ構築の魔女の放った弾丸は広い甲羅を傷つけただけで終わる。
「そうね……今の動き……」
 落児に応えるようにそう呟いて構築の魔女は目を庇うようにハサミを掲げているカニ型従魔に目を向ける。
「京子さん」
 動き出したカニ型従魔の後を追うように崖の上を走りながら呼びかけた構築の魔女の声に京子が目を上げる。
 何度も同じ戦場で戦った京子がアイコンタクトだけで構築の魔女の狙いに気付き走り出す。

●攻撃
「お前の相手はこっちだ!」
 溶岩から飛び出してきたカニ型従魔を悠登が受ける。
 シルバーシールドとフラメアで上から抑え込むように脚を止められてカニ型従魔の動きが止まる。
 だが、衝突の衝撃は如何ともし難く弾かれるように悠登の体が下がる。
「ここから先へは通さない!」
 離れた悠登を追うようにカニ型従魔がハサミを振るう。
 掴みかかるように広げられたハサミをフラメアで払って悠登は前に出る。
「熱くても引くわけにはいかない……ってね!」
 肌を焼く熱気とリジェネーションの癒しが拮抗する。
 カニ型従魔の脚元、そして背後に見える溶岩の紅い輝きに悠登はフラメアを握る手に力を籠める。
「あまり動き回られると困るんだ」
 下側に潜り込んだ悠登はカニ型従魔の腹へとフラメアを突き立てる。
「黛さん」
 京子の呼びかけに香月が視線を動かす。
 谷の反対側に京子の姿が見える。
「合わせてください!」
 神斬を構える京子の言葉に香月は崖の上を走る構築の魔女に目を向ける。
「……了解だ」
 カニ型従魔に目を戻して香月も神斬を構える。
「外すなよ」
 通信機にそう吹き込んで香月が前に出る。
 それに合わせて京子も神斬を振るう。
 香月の一気呵成の斬撃と京子のストライクのスキルを加えた斬撃が同時に左右からカニ型従魔を襲う。
 カニ型従魔はその攻撃をハサミで受ける。
 硬質のハサミが斬撃を受け止めるがそれが構築の魔女と京子の狙いだった。
 二本のハサミが降ろされカニ型従魔の防御が開かれる。
 構築の魔女が放った弾丸がカニ型従魔の黒い目を撃ちぬく。
 それと同時に香月が追撃の斬撃を放つ。
 一気呵成の重さに抑え込まれていたハサミが反応する間もなく香月の斬撃が脚を叩く。
 度重なる攻撃に耐えかねたようにカニ型従魔の脚が一本砕けて千切れる。
 目と足に大きな傷を負ったカニ型従魔がバランスを崩すようにその場に頽れる。
 まるで水に石を投げ込んだ時のように溶けた地面が溶岩となって跳ね上がる。
 カニ型従魔を覆い隠すように跳ね上がった溶岩に追撃の手を止めて香月達が距離を取る。
 
●反撃
 跳ね上がった溶岩幕を割ってカニ型従魔のハサミが飛び出してくる。
 京子へと迫るそのハサミをゴーガインが放ったライヴスのボールが弾く。
「大丈夫か?」
 ゴーガインの言葉にカニ型従魔から距離を取るように跳び下がりながら京子は
「ありがとう、ゴーガインさん」
 と応えて香月の方に目を向ける。
 同時に突き出されたもう一本のハサミは香月を捉えていた。
 ハサミの熱が香月の体を焼き、締め上げる力に骨が軋む。
 それでも香月は悲鳴一つ上げずにカニ型従魔を睨みつける。
「私には貴様のようなつまらぬ雑魚を相手にしている暇はない」
 締め付けるハサミに抗うように香月が力をかける。その額にカミキリムシのような触覚が現れる
「むしろ貴様の主の居場所を聞き出してそいつの首を叩き落としたい気分だ。だが貴様がそんなことを口に出すはずはなかろう?」
 カニ型従魔の下側から飛来した矢が胴とハサミの付け根付近で爆発する。
 倒れたカニ型従魔のせいで融けた溶岩に足をとられた悠登が光弓「サルンガ」を構えている。
 爆発で広がった光がカニ型従魔の体を叩きほんの僅かにハサミの拘束が緩む。
「待たせたな、黛の姐さん」
 僅かな隙間にフラメアを突っ込んで岩磨がハサミをこじ開ける。
 ほんの少し生まれた空間を押し広げて香月がハサミから抜け出る。
「これ以上私の手を煩わせるな。さっさと自分の熱で灰になるんだな」
 ハサミを蹴って跳びあがり香月は神斬を構える。
 焼けただれた皮膚の下に金属が見える傷が岩磨のエマージェンシーケアで見る間に塞がれていく。
 空中から放った香月の斬撃がハサミの付け根に命中する。
 斬撃を受けて半ばまで斬り飛ばされたハサミが弾かれるように下る。
 待ち受けるように駆け込んだゴーガインのエクリクシスの電光石火の一撃がハサミを斬り飛ばし爆発する。
 ハサミを失った痛みに怒るようにカニ型従魔が残ったハサミを振り上げて滅茶苦茶に脚を振り下ろす。
「うわ、危な!」
 粘りつくような溶岩の沼に嵌った悠登のすぐ側に脚が突き立てられる。
 真上から振り下ろされれば逃げようのない今の状況では防ぎようは無い。
「悠登!」
 振り下ろされる脚の間を縫ってゴーガインが悠登に手を伸ばす。
 だが、手が届くにはまだ距離が有る。
「槍を!」
 ゴーガインの言葉に悠登がフラメアを突き出す。
 突き出された槍をゴーガインが掴み引き寄せ、一気に悠登を溶岩の沼から引き上げる。
「助かったよ、豪さん」
 カニ型従魔の下から抜け出して悠登がゴーガインに礼を言う。
「……礼には及ばん、仲間だからな」
 応えたゴーガインの言葉にわずかに有った間にナインが首を傾げるが、答えを考える暇もなくカニ型従魔が走り出す。

●終撃
『相手の足を止めますよ!』
 駆け出したカニ型従魔にアリッサが声を上げる。
「任せといてよ。テレポートする斬撃の恐ろしさ、味あわせてやるから」
 先程の混戦で谷の下流には誰もいない。
 このまま走らせれば止められなくなってしまう。
 京子が放った斬撃が背後からカニ型従魔に迫る。
 だが、斬撃はその甲羅に触れる寸前で掻き消えるように消失してカニ型従魔の正面に現れる。
 予期せぬ場所からの斬撃に驚いたようにカニ型従魔が脚を緩める。
 その瞬間を逃さず構築の魔女の弾丸がカニ型従魔の残った目を貫く。
「命中精度を優先して正解でしたね」
 魔銃「フライクーゲル」のオプティカルサイトから構築の魔女が目を離す。
 魔導銃50AEで目を撃ちぬいた際に熱の影響が一切感じられなかった為銃を持ち替えたのだ。
 両の目を潰されて視界を失ったカニ型従魔が身を守るように体を小さく固める。
「ひっくり返せば立ち上がれないんじゃないか?」
 動きを止めたカニ型従魔に駆け寄りながら悠登が呟く。
 すぐに目の前にカニ型従魔の脚が見えてくる。
「……っと、そんなこと考えてる場合じゃないか!」
 一番後ろの脚の関節へとフラメアを突き込む。
「臼蜂栗の助けの無いカニなぞ、サルの敵ではないわ!」
 反対側の脚に同じように岩磨がフラメアを突き込み、その間に香月とゴーガインが崖を駆け抜けてカニ型従魔の前へと回り込む。
「トップギアだ!」
 ゴーガインの紅いメタルアーマーがライヴスの輝きに紅く燃え上がる。
 膨れ上がったライヴスが握りしめたゴーガインの拳に集まり輝く光の球を生み出す。
「受けてみろ……爆炎投法!」
 ゴーガインが片足を大きく振り上げる。
 光の球が一瞬さらに大きく輝きフラッシュのようにゴーガインの姿を世界に焼き付ける。
 特殊な投球フォームから投げられた光の球が地を這うように低い軌道でカニ型従魔に迫る。
 迫るライヴスの気配に反応するようにカニ型従魔がハサミを振るが、その寸前でハサミをすり抜けるように光の球が姿を消す。
 胴の下に入り込んだ光の球が跳ねるように急激にホップする。
 真下からぶつかった光の球の威力にカニ型従魔の胴が起き上がり、腹を晒す。
「笑止だな。所詮海洋生物に過ぎぬ貴様が陸に上がって人類に挑もうなど無理だったのだ」
 いつの間にか異形の黒い甲冑を身に纏った香月が神斬を構える。
「貴様は食料にも天然記念物にもならぬ無価値な生き物だ。深海の藻屑に消えるがいい」
 がら空きになったカニ型従魔の腹に疾風怒濤の三連撃が襲い掛かる。
 地響きを立ててカニ型従魔が仰向けに倒れる。
 その体から赤熱の輝きが薄れていく。
 光を失ったカニ型従魔の体が冷えて固まりその体に無数のひび割れが走る。

●終幕
「危険な従魔だったけど、なんとかなったね」
 ボロボロと砕け落ちるカニ型従魔の姿に安堵の息をついて悠登がケアレインを使う。
 熱気による火傷が癒され傷が消える。
「やはりカニは小さい方がいい」
 共鳴を解いたナインの言葉に
「俺は……大きいズワイガニとかだったら歓迎だけどなぁ」
 悠登がそう応える。
「それは食べたいな」
 いつも通り淡々とナインが応え
「いいのぅ、最後は甲羅酒でしめるんが最高や」
 岩磨がそう言って携帯用酒甕を取り出す。
「貴公はすぐ酒を飲みたがる」
 呆れたようにそう言って不謂が岩磨の手から携帯用酒甕を取り上げる。
「終わったんやから、ええやないか」
 不満の声を上げる岩磨と説教を始めた不謂に苦笑しながら悠登は
「従魔は勘弁だけどね」
 と言ってすでにほとんど原形を留めていないカニ型従魔へと目を戻す。
 その残骸の周りは溶岩が未だゆっくりと流れ続けている。
「町まで流れませんよね?」
 不安げに溶岩の流れを見つめる構築の魔女に
「大丈夫だ、噴火した訳じゃない。すぐに冷えて固まるさ」
 豪はそう声をかけて火山の方へと目を向ける。
 すでにカニ型従魔から離れている火山の上の方の溶岩は冷えて固まっている。
「じゃぁ、終わりだな!」
 ガイのその言葉に京子が慣れない武器を振り回して疲れたように大きく伸びをする。
「日本に帰ると寒いし、少しバカンスが楽しめたらいいな」
 町へと視線を向けてそう言った京子に
「わたし達は仕事で来たんですよ」
 アリッサが窘めるように注意する。
「いいじゃない少しくらい。相変わらずアリッサは真面目なんだから」
 京子とアリッサのやり取りに不謂の説教から逃れるように岩磨が口を挿む。
「俺も残るし、別にいいんやないか?」
 岩磨の言葉にアリッサが眉をしかめる。
「狒頭さんもバカンスですか?」
 冷ややかなアリッサの言葉に岩磨は慌てて
「パトロールや、一応警官やしな」
 そう言葉を重ねる。
「お仕事なら……」
 まだ納得しかねるようなアリッサに豪が
「俺も安全確認も兼ねてしばらく逗留しようと思っている」
 と声をかける。
「町の皆も不安だろうしな!」
 続いたガイの言葉に
「そう言う事なら仕方ないですね」
 アリッサが納得するように頷く。
「じゃぁ、このまま島に滞在するってことね」
 京子の言葉にアリッサがどこか釈然としない様子で頷く。
「楠葉さんと黛さんはどうするの?」
 町と連絡を取っている構築の魔女は後にして京子は残りの二人に声をかける。
「俺、学校も有るんだよ」
 困ったように言った悠登の言葉にアリッサが
「京子も学校があるんじゃないですか!」
 と声を上げる。
「いいじゃない、少しくらいサボっても。楠葉さんもニ、三日くらい変わらないよ」
 そう言った京子に不謂が
「学校へは行かないとダメだ」
 と説教を始める口調になる。
「私は帰らせてもらうよ」
 賑やかに盛り上がる京子達に背を向けて香月が町へ向けて歩き出す。
 その後ろを護衛のようにアウグストゥスが付き従う。
 歩き出した香月の背に町と連絡を取っていた構築の魔女が声をかける。
「迎えの船ですが、明日にならないと出航できないそうですよ」
 その言葉に嬉しそうに京子が声を上げる。
「じゃぁ、今日は皆で祝勝会だね!」

結果

シナリオ成功度 普通

MVP一覧

  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281

重体一覧

参加者

  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
    人間|18才|女性|命中
  • アストレア
    アリッサ ラウティオラaa0150hero001
    英雄|21才|女性|ジャ
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • 絶望へ運ぶ一撃
    黛 香月aa0790
    機械|25才|女性|攻撃
  • 偽りの救済を阻む者
    アウグストゥスaa0790hero001
    英雄|25才|女性|ドレ
  • 薩摩芋を堪能する者
    楠葉 悠登aa1592
    人間|16才|男性|防御
  • もふりすたー
    ナインaa1592hero001
    英雄|25才|男性|バト
  • 夜を取り戻す太陽黒点
    飛岡 豪aa4056
    人間|28才|男性|命中
  • 正義を語る背中
    ガイ・フィールグッドaa4056hero001
    英雄|20才|男性|ドレ
  • The Caver
    狒頭 岩磨aa4312
    獣人|32才|男性|防御
  • 猛獣ハンター
    何 不謂aa4312hero001
    英雄|20才|男性|バト
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