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湯の楽園へご招待!
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依頼前の挨拶スレッド
最終発言2017/01/14 21:55:19 -
相談卓
最終発言2017/01/14 16:20:08
オープニング
●湯の楽園、ユトランティス
日本某所、温泉のアミューズメントパーク、ユトランティス。
それがこの冬、開園の運びとなった。
室内は空調で気温が調節されており暖かく、中央には「湯上の楽園」と銘打たれている円形のプールのような広い浴槽が一つ。
周りにはデッキチェアやテーブルが置かれ、各所で休憩がとれるようになっている。
他、入り口から入って左から順に、時計回りに、ワイン風呂、ヒノキ風呂、バラ風呂、死海風呂、ミストサウナの五つが存在し、各風呂に向かう際には洞窟のような短い通路を抜ける。
各ユニークな風呂は人が10人程度ならゆったりと入れる作りだ。各風呂からは他の風呂を見ることは出来ない。
入浴時には水着着用必須だ。
そんなユトランティスの開園祝い優待チケットが何枚か、息抜き企画部にもたらされた。
というわけで、息抜き企画部はいつも通り、優待チケットを希望者に渡す旨を書いた貼り紙を作成した。
●施設説明
「湯上の楽園」
施設中央に設置されている円形温泉プール。深さは中心に向かい五段階変化する。
30、45、60、75、90㎝。分かりやすく床が白、薄水色、水色、青、紺と深さによって違う。
「ワイン風呂」
ワインが入っている赤い湯船の風呂。浴槽は岩風呂で、樽から湯が出てきている。
時間によりワインを配る。子供にはブドウジュースが配られる。
「ヒノキ風呂」
ヒノキで出来た浴槽。香りが立ち込めてゆったりと浸かれる。
一角がジャグジーになっている。
「バラ風呂」
バラが引き詰められ、フローラルな香りは触れる湯船。
浴槽が円形でややギザギザしており、上から見ると花の形をしている。
区切られた空間は照明が暗めで、湯船の中からライトアップされており幻想的な雰囲気が醸し出されている。
「死海風呂」
死海の塩を温泉に溶かした湯船。
海水の約10倍の塩分濃度なので体が浮くことを体験できる。
「ミストサウナ」
室内へ細かい霧状の湯が噴出している。
普通のサウナより温度が低めで40℃程度。じんわりと温まってくる。
仄かにミントの香りがする。
入り口以外は壁沿いに長い椅子が設置されている。
解説
●目的
ユニークな温泉を楽しもう!
●ユトランティスについて
日本にある温泉アミューズメントパーク。
少し変わった温泉が幾つも楽しめる。
開園直後なので人はそこまで多くないが、一般人もいる。
温泉施設のほかに、湯上りに休める休憩処やレストランも併設されている。
温泉施設は必ず水着着用のこと。
男女別れたロッカールームで着替えが出来る。
温泉施設への浮き輪などの持ち込みは禁止。
●当日
入場時間は昼頃、多少前後可能。
天気は晴。
僅かに天井に設置されている窓からは日光が降り注いでいる。
リプレイ
●
「英斗ー、みてみて。温泉アミューズメントパークの優待チケット! HOPEの息抜き企画部でもらってきちゃった!」
元気いっぱい嬉しそうに六道 夜宵(aa4897)は若杉 英斗(aa4897hero001)に貰ってきたチケットを見せる。
「HOPEエージェントになって俺達はまだひとつも任務に参加していないが、いきなり息抜きか?」
「なによ、文句あるの? いいわよ、私だけで行ってくるから!」
「待った! 行く! 俺も行くって! 荷物持ちでもなんでもするから、連れてって……」
英斗の反応にムッとして夜宵は踵を返し一人で歩き去ろうとし、英斗は慌てて追いかけた。
ユトランティス入り口。
「べるべっとよ!!! おんせんであるぞ!! らくえんであるぞ!!! おふろいっぱいであるぞぉおおおお!!!!」
と、テンションマックスでぴょんぴょん飛び跳ね大はしゃぎをしている泉興京 桜子(aa0936)。その肩を掴み飛び込んでいかないように抑えているのはベルベット・ボア・ジィ(aa0936hero001)だ。
「あーはいはい 温泉は逃げないからもうちょっと静かになさい? おとなしくしてないとはいれないかもしれないわよ」
「ぬわ!! わしもおんせんたのしむのであるぅうう! おふろはいりたいのであるぅうう!!! おとなしくするのであるぞぉおおお!!!!」
しかし、そんなことはお構いなしにまたぴょんぴょん桜子は跳ねる。ベルベットは小さく息を逃がす。
「あー……とりあえずそのままでいいから他のお客さんや施設の人に迷惑かけないようにするのよ?」
桜子を窘めながら彼女と一緒にベルベットは一緒に受付へ向かった。
「うおおおおおおお」
こちらもテンションマックス武者震いしている呉 琳(aa3404)。
「琳さん達と温泉ですよアンベールさん! ワイン風呂! ジャグジー!」
一緒に来た七森 千香(aa1037)もとってもテンションが高い。
「ワイン風呂はダメですよ?」
「ワイン風呂は駄目だそうだが」
藤堂 茂守(aa3404hero002)が優しく琳に忠告し、そんな茂守をちらっと見てから千香に念を押すようにアンベール(aa1037hero001)が告げた。
「え」
「!!!」
千香、琳ともにものすごい衝撃を受けた顔をした。よほどワイン風呂に入ってみたかったのだろう。
「お酒……ですから♪」
フォローするように茂守が理由を説明する。茂守以外は全員未成年、扱いだからだろうか。
そんな四人が向かう先、更衣室前に夜宵と英斗の姿があった。
「英斗、私のバッグ貸して。水着を出すから」
どうやら荷物を分けているようだ。夜宵がごそごそと鞄の中の水着を探す。
「……ない! 私の水着がない! 代わりになぜか学校で使ってるスクール水着が入ってる……」
「あぁ、俺が入れ替えておいたからな」
スクール水着を見つけて糸目になる夜宵に英斗が当たり前だろ、という顔で答える。ぎゅっ、とスクール水着を握り怒りの形相で英斗を睨みつける夜宵。
「なんでよ!」
「女子高生ならスク水だろ。なに言ってるんだ」
「あんたこそ、なに言ってんのよ! ほら、名前も書いてあるのよ! 恥ずかしくて死んじゃう……」
「大丈夫だって! 夜宵のボディラインは天下一品だから! 自信もてって!」
夜宵の肩を掴み力説する英斗に夜宵は閉口するしかなかった。
「なぁ、夜宵。俺いま気が付いたんだが……」
「なに英斗。神妙な顔しちゃってさ」
急に真剣な表情を英斗は浮かべた。夜宵は怪訝そうに英斗を見つめる。そして――。
「共鳴状態ならさ、俺も女子更衣室に入れるんじゃ……」
神妙な顔から出てきた一言はそれだった。みるみる夜宵の表情が険しいものに変わる。
「しないわよ、共鳴」
「そんなぁ……」
夜宵はさっさと英斗を置いて更衣室に入ってしまった。
実際、共鳴をしたとして英斗の意識が残るのかどうか、それはまだ一度も共鳴していない二人が知る由もない。
夜宵や桜子、千香四人グループから少し遅れて天野 一羽(aa3515)とルナ(aa3515hero001)が入り口に姿を現した。
「ねえ、一羽ちゃん。ここって大きなお風呂なのよね?」
「うん、まあ、そうだね。」
受付を済ませ更衣室に向かう二人。が、一羽が男性用更衣室に向かう後にナチュラルにルナが付いて来ようとした。足を止める一羽。
「……でさぁ、ルナ。着替えるのは男女別なんだけど。」
「ん? 一羽ちゃんとハダカのお付き合いするつもりだったんだけど??」
「ぶっ!?」
一羽は盛大に噴き出した。
●
施設中央に設置されている円形温泉プール「湯上の楽園」。
その広い温泉プールにスレイニェット(aa4875)とイーカ・ドユン(aa4875hero001)の姿があった。
私物の水着を持ち込んで、既に二人は満喫している様子だ。
最悪の人生だったスレイニェットも、厳しい人生を乗り越え今ではNPC法人とエージェントの二足の草鞋をはいてやっていけるようになり落ち着いてきた。
そうはいってもエージェントでも児童救出の仕事でも現実はいやがおうにも見せられる。
そんな時にまいこんだチケットはひどくスレイニェットにとって好都合なものだった。
水上スラムで育ち、ずっと水に縁のある仕事をしているうちにいつしか現れた人魚の英雄。
彼女と共に綺麗な湯の中を綺麗に泳ぐ。
その湯上の楽園に夜宵と英斗もやってきた。もちろん夜宵はスクール水着だ。スク水☆JKにちらちらと視線が向けられる。
足早に湯に浸かり少し深めの薄水色まで移動して、二人並んで座る夜宵と英斗。湯の表面が腰の位置で揺らぐ。
「アミューズメントパークだけあってちょっと変わってるけど、やっぱり温泉はいいわねぇ。極楽極楽」
「まったくだ……。極楽極楽」
温泉の温かさを堪能する夜宵に対し、英斗は周囲の水着姿のお姉さん達を見ながら呟いた。
すぐに気が付く夜宵。
「ちょっと英斗! どこみてるのよ!」
「え、いやだって、仕方ないだろ……」
「開き直るな! この変態!」
怒る夜宵に英斗はイーカの方を指さし「あの人、人魚みたいだな」と話を逸らそうとした。
「いやっほーー!」
元気なスレイニェットの声に夜宵の意識もそちらに向く。
スレイニェットが一番深い場所に潜って飛び出たりしている。一般人の子供たちがスレイニェットの真似をしだしていた。
その頃、 水着に着替えた桜子とベルベット。
「ぜんぶのおんせんをせいはするのであるぞ!!」
「あたしはお風呂をじっくり楽しみたいわねぇ」
全ての温泉を一周する、と桜子はまずバラ風呂へとベルベットを引っ張るように向かう。
(イケメンいないかしら?)
と、ベルベットは手を引かれながら辺りを見つつ思うのだった。
続いて千香が更衣室から出てきて琳達三人の元に駆け寄る。千香はスカートタイプの薄桃花柄タンキニを着用していて可愛らしい。青いサーフパンツの琳と共に案内図を見上げた。
「先にチカの行きたい所に行こう!! 茂守! 行ってくる!!」
「そういう事なので藤堂さんアンベールさん、いってきます!」
早速ヒノキ風呂を指さす千香に頷き二人でヒノキ風呂の方へ向かっていく二人。琳に至ってはその場を逃げるような速さだった。
残った赤いサーフパンツの茂守が柄物サーフパンツを履いたアンベールへと視線を向ける。
「それじゃあ私はバラ風呂に行こうかな……アンベールさんはどうします?」
「のぼせないように。……俺もバラ風呂へ行くとするか」
ニコニコと微笑む茂守にアンベールは一つ頷き、二人連れ立ってバラ風呂へと向かった。
「あらやだ綺麗なお風呂ね!」
(これ子守じゃなくてイケメンと入りたいわぁ……ぐへへへへ)
バラ風呂に浮かぶ花々の華やかさに感嘆の言葉を零すベルベット。内心はちょっと邪だ。
そこへ茂守とアンベールが二人でやってきた。
「良い香りじゃないか♪」
区切られた空間に閉じ込められた花の香りに茂守は笑みを浮かべる。
「こんにちわぁ、気持ちいいわよ」
「ばーらっばーらっ♪ 花がたくさんであるぞ!」
男性二人を観察しながら軽い挨拶をしようとするベルベットを遮るように桜子が浮かぶ花びらを掬って巻きながらすごい! と言いたげな表情で二人を見上げる。
こくっとアンベールは桜子に頷いて見せた。
「……お金持ちになった気分だ♪」
湯船につかり周り纏わりつくように寄ってくる花びらに感想を零す茂守。
「クッソフローラル……」
真顔で呟きながらアンベールは楽しんでいる。見た目からはよく分からないがこれでも十分楽しんでいるのだ。
そこへ夜宵と英斗が湯上の楽園から移動してきた。だんだん増える男性比率にベルベットはご満悦である。
「ひのきぶろにいくであるぞ!」
しかし、桜子がベルベットの腕を引っ張り次へ行こうと催促してきた。名残惜しくベルベットは一緒に出ていく。
「ちっちゃいこがはしゃぎたくなるは分かるよね」
去っていく桜子たちを見ながら感想を互いに零す夜宵に英斗が頷く。
二人でバラの風呂へ身を委ねた。
「なんだかいい雰囲気よね。それに、いい香り……」
「そうだな」
「雰囲気を壊すようなことするんじゃないわよ?」
「……はい」
何か言いかけた英斗にすぐ釘を刺す夜宵。すぐに英斗は口を閉じた。
ほんの一瞬訪れた静寂が幻想的なバラ風呂の雰囲気をより濃密にしていた。
一方、ヒノキ風呂の千香と琳。ヒノキの良い香りに千香は浸かる前から気分が高揚していた。
「ジャグジー!! ジャグジーすごいな!!」
ぶくぶくと勢いよく空気を噴出し体を解してくれるジャグジーに大はしゃぎの琳。
「ふんふん~♪ ……ジャグジーきもちいなぁ」
隣で日々の疲れを癒しながら鼻歌を千香は口ずさむ。
「極楽極楽~だな~♪」
温泉で行って見たかった言葉を口にしながら琳も堪能している。
そこにワイン風呂から桜子達がやってきた。
「わしのいえのふろとおなじであるがこっちのほうがひろいのであるぞ!!」
と、すぐ入って行く桜子。ベルベットは千香達と同じようにジャグジーへと収まる。
「あ”~ぎも”ぢぃぃ~」
完全に満喫しているベルベットだが、桜子は湯船で少しばかり温まるものの、あまり長続きはしなかった。
次、とばかりにベルベットをまたも引っ張って短時間で移動をする桜子。
「よし……チカ、次はワイン風呂だぜ……」
ひそひそと千香に琳が小声で耳打ちをする。
(茂守が何処にいるかもわからないからな!)
と、警戒中だ。
「了解です、こっそり忍び足で行きましょう」
こそこそと小声で返す千香。二人で近くに茂守がいないか確認する。近くには一般人が数人で彼の姿は見当たらなかった。
慎重にヒノキ風呂を後にする二人。
そんな彼らが目指すワイン風呂。
「すごーい、ワインだってー。いい香りねー」
「うわ、すご……」
少し時間は遡り一羽達がワイン風呂にたどり着いていた。
入るなりルナが一羽に後ろから抱き着く。
「あ、あ……。い、色々当たってる……」
ルナの大きな胸が一羽の背や腕当たる。ふにふにと柔らかい感触。
「ていうか、ルナ、その水着、なんて際どい……。お風呂で体が火照ってるし、濡れてるから、なんというか、その、なんとなくえっちな……」
「……ん? どうしたの、一羽ちゃん?? ワイン飲んじゃった??」
一羽はもごもごしながら顔を赤くする。ルナは彼の顔を覗き込んだ。
そこにスレイニェットとイーカがやってくる。
「赤い水ですね、すごい」
「ワインですよ。飲めるんでしょうか」
イーカがワイン風呂を見て感嘆の言葉を零すと、それをスレイニェットが補足する。ワイン特有の甘酸っぱいような香りが鼻孔を刺激した。
そこにヒノキ風呂から桜子とベルベットも姿を現す。
「ぶどうじゅーすとおなじいろのふろである!」
キラキラとした目で赤い湯船を見つめる桜子。
更に、無事茂守に見つかることなく琳も千香も到達した。
「うおおおおお、ここが、ワイン風呂!!」
大興奮の琳。早々鼻を擽るワインの匂いに千香の心はふんわり気分だ。
そのタイミングで丁度、ワインを配る時間が訪れたらしく係員がやってきた。
入浴中の一羽や、注ぎ口からワインが飲めないか、と考えていたスレイニェットなどにグラスを手渡す係員。
「チカ……ブドウジュース貰いに行こう……」
「やだ琳さん……キリっとしてかわいい……」
琳がキリッと表情を引き締めブドウジュースを貰いに行く。
「へ~ワインね~なかなかお洒落じゃない」
注がれたワイングラスを片手にベルベットも満足そうだ。桜子にはジュースが配られる。
一羽もジュースを受け取りルナは赤いワインを注いでもらっていた。
「そうだぜチカ! 乾杯しないと!! な!!」
と、琳が急に言い出しグラスを持っている相手にところかまわず乾杯を始める。
「ブドウジュース!! カンパーイ!!!」
「――皆さんと乾杯するんですか!」
全員と乾杯する琳を見習って、千香も拙くも乾杯を一緒に始めた。
チンッという音が響く。
スレイニェットとイーカは知らない相手に最初は驚いていたものの琳達の無邪気さに少し楽しそうな様子を見せる。
「ぶどうじゅーす、かんぱーい! であるぞ!」
桜子も琳の真似をして手当たり次第に乾杯に紛れ込んだ。ベルベットも快く応じる。
一羽とルナも乾杯に乗ってから、お互い二人ともグラスをチンッと合わせた。
「ルナ、結構似合うなー。金髪美人だから??」
「ふーん、飲んでいいんだー。ねー、一羽ちゃんは飲まないの??」
「いやね、ボクまだ飲んじゃいけないんだよ」
「ちゅーで飲ませてあげよっか??」
「いや、ちょっと!?」
一羽の顔の温度が更に上昇した。
と、その時、琳がクラッと酔ったようにふらつきそのまま倒れてしまった。
一瞬で場が騒然とする。
「やれやれ、だからダメだと言ったのに……」
騒ぎを聞きつけた茂守が係員に引き上げられた琳の元に姿を現す。慌て過ぎて千香は何もできなかった。
実は琳は鼻がよくワインの匂いだけで酔ってしまう。つまり、酔い過ぎで倒れた。
そのことを茂守は知っていてワイン風呂を止めていたのだった。
「では休憩所にお願いします。ところで、ブドウジュースのお持ち帰りなど、ありますかね?」
心配して救急に運ぼうかと提案する係員に対応しながら茂守がちらっとブドウジュースの瓶を見遣った。
(どうせ酔って飲めなかったでしょうからね……)
その心遣いを察してか係員は頷いて後で休憩している場所に持っていきますよ、と請け負ってくれる。
琳の横でボロボロと泣いている千香にアンベールが寄り肩を叩いた。
「いやぁ琳さんが! 初回のお出かけでお空の上に!」
「落ち着け」
振り向いて取り乱す千香をフローラルな香りを纏ったアンベールが宥める。
千香もワインの香りに酔って泣き上戸が入ってしまったようだった。
四人がワイン風呂を出て行った後、スレイニェットが驚きましたね、と言葉を零し、隣にいた一羽達も頷く。
わいわいと琳の事件について話していればいつの間にか同じように温泉に来たエージェントだという事を知って、一羽とルナ、スレイニェットとイーカは交流を深めた。
ちなみに桜子は途中でベルベットと共に死海風呂へと向かっていた。
●
ワイン風呂で騒動がある少し前。
「温泉?」
「そう温泉。皆で楽しくお風呂に入る所なのよ」
温泉入り口で優しくミカ(aa4759hero002)の頭を撫でる美咲 喜久子(aa4759)。
(この子は色んな事を知らない。英雄だからなのか、そうでないのかは分からないけれど、色んな事を体験して、色んな事を知って欲しい)
と、喜久子はミカを連れだしてきた。
(願わくば、楽しい事を。出会った日の事は忘れない。震え、怖がり、泣きそうな、目)
ミカと初めて出会った日のことを思い出しながら喜久子は彼女を見つめる。
「沢山楽しみましょうね」
「うん!」
微笑む喜久子に応えるようにミカも笑顔を浮かべた。
同時刻頃。
「……おい、ベネトナシュ。なんだそれは」
「アヒル隊長ですぞ!! お爺様と遊ぶですぞ!」
「………それ、余ってねぇか?」
更衣室から出てきながらそんなやり取りをする薫 秦乎(aa4612)とベネトナシュ(aa4612hero001)。ベネトナシュの腕の中にはアヒルの玩具が抱えられていた。
「俺こんな広いお風呂初めてっすよ!」
「俺もだ。この国の人間は本当に風呂が好きなのだな」
「気持ちいいっすからねー」
続いて君島 耿太郎(aa4682)とアークトゥルス(aa4682hero001)も姿を現す。アークは髪が浴槽に入らないようにアップにしている。
「クロ! お風呂いっぱいあるんだって! 全部入れるかなぁ~♪」
「……湯あたりしても面倒みねぇからな」
最後にはしゃいでいるエクトル(aa4625hero001)とため息を吐く夜城 黒塚(aa4625)が歩いてきた。
「エクトルの奴が騒ぐんでやってきてみりゃ、知った顔もいたか」
黒塚は他の四人の顔を見ると挨拶代わりに軽く片手をひらりとさせる。そんな黒塚に手を振り返す耿太郎。
わいわいとはしゃぎながら最初はバラ風呂に向かうことに決めた。
彼らがバラ風呂に向かった後、着替えを終えた喜久子たちが更衣室から現れた。
「わわっ! きっこちゃん、お風呂がいっぱいだよ!」
案内図に駆け寄り指さしながらはしゃぐミカ。
「本当ね。思った以上で吃驚ね」
「これ、なんて読むの?」
「”しかいぶろ”ね」
「しかい……死界? 死の国の事? ……ちょっと怖いね」
「ふふ、死の国じゃなくて、死んだ海って書くの」
誤解しているミカに丁寧に説明する喜久子。しかしミカは少し頬を膨らませ。
「うーでも、ちょっと怖いよ」
「折角だから、行ってみる?」
じーっと死海という文字を見ているミカに優しく喜久子は問いかけた。暫く黙って思案するミカ。
「……う、うん。行く! どんな所でも、ミカ負けないよ!」
意を決してミカはそう言った。
丁度夜宵達と入れ違いにバラ風呂にやってきた男六人組。
「雰囲気のある風呂っすね。薔薇の匂いがすごいっす……」
耿太郎が入ってきて第一声を口にする。そのフローラルな香りは好きな人もいれば苦手な人もいるかもしれない。
「私、初めての温泉なのですぞー!」
一方、ベネトナシュは初めての温泉にワクワクとしていた。
湯船に浸かるとバラの花びらが自然と周りに漂ってくる。
「香りで癒されるということもあるからな。薔薇の量も多いし、いろんな意味で薔薇に埋もれてしまいそうだ」
集まってくるバラの花びらを片手で掬いながらアークトゥルスが零した。
「こりゃあ……なんつーか……耽美な風呂だな。こいつには妙に似合ってる気がするが」
「ほんと……王さんこの風呂死ぬほど似合うっすね……」
黒塚が浸かりながらアークトゥルスを見ながらいう言葉に耿太郎は頷いて賛同を示す。視力が悪い秦乎は目を細めて見ながらも遅れて頷いた。
来日して初の温泉に内心ウキウキしている秦乎は舌先がチロチロしている。
ほぼ全員から似合う、と言われるアークトゥルスだが金髪美形、王子様スタイル、そんな彼がライトアップの下、バラに埋もれていればここが宮殿の浴室のように感じるのも無理はないだろう。
「そうか?」
ただ、本人は何の自覚もないようだ。
「アンタ王様だったんだろ、これよりでっけぇ風呂とか入り慣れてたんだろうなァ。……つっても、記憶が無ぇんだっけか」
「いつにもまして王様ーって感じがするっす……」
エクトルと耿太郎が二人続けてアークトゥルスに返す。
「父上ってば、お肌も髪もすべすべですな! 世の女性に喧嘩売ってるレベルですな!」
ベネトナシュがアークトゥルスの背中に爪を引っ込めた肉球で優しく揉むように触れる。肌もすべすべ王様とは本当に理想的と言っていいだろう。
「……女、他の客にはいるのに、こっちは見事にむさ苦し……いや、苦しくねぇか……?」
改めて辺りを見回すがそもそも薄暗いバラ風呂。良くない視力。見えるのはせいぜい近くのエクトルやアークトゥルスぐらいだ。仕方なく彼らを脳内で女性に変換して自己満足する秦乎。
「こんだけ男ばっか入ってりゃ後からは入り難いだろうなァ。薫は温泉気に入ったか」
黒塚が口端を僅かに上げる。
その間エクトルはちゃっかり皆の膝乗りポジションを渡り歩いていた。
「エクトル君も如何でしょうか、この肉球、意外と気持ちいいですぞ?」
丁度ベネトナシュの膝上にエクトルが移動すると熊のような黒い獣の掌の肉球を見せながら首を傾ける。
「わー、やってー♪」
わーい、と両腕を上げるエクトル。肉球でぷにぷにとベネトナシュは優しく素肌を押してやる。
「えへへーー♪ これに花びら浮かべたお風呂って綺麗だし優雅でいいかも!」
満喫しているエクトルが家でも出来ないか、という気持ちを込めて黒塚を見遣る。
「後片付けが面倒だからウチでは禁止な」
「えぇーー……」
即答で拒否されエクトルはしょぼんとした。
彼らがバラ風呂を堪能している頃。
死んだ海、死海風呂では、
「きっこちゃん、凄いよ! 体浮いちゃうよー」
「本当ね。不思議な感じ」
死海風呂を選んだ時、決死の表情をしていたミカだったが、喜久子と楽し気に笑い合っていた。
そこへ桜子とベルベットが死海風呂にやってくる。
「う、けほけほ。ちょっと口に入っちゃった……カライ!」
「ふふ、後でお口直ししようね」
高濃度の海水に咽るミカ。喜久子がミカの頭を撫でて宥める。
「おおおお!! うかぶのであるぞぉおお! たのしいのである!」
その横でぷかぁと浮かびながら楽し気な桜子。ミカもそちらを見遣り「楽しいよね」とつい声を掛けた。
「たのしいのである! みんな浮いてるであるぞ!!」
「うん。でもなんで体が浮くんだろ。不思議だね」
桜子と喜久子を交互に見ながら不思議そうにするミカ。
「そうね。でも、不思議もある方が楽しいでしょ?」
「う~ん……そうだね! 知りたいけど……帰ったら調べようかな」
「それは良いアイディアね」
疑問を持ち自分で調べようと言うミカに喜久子は幾度か頷いた。
色んな事を自分から知るのも大切だ。自分で調べればより理解度も深まる。
(少しずつ、色んな事を自分のモノにして行けれたならば良い)
喜久子は思った。
「あらぁこれはなかなか楽しいわねぇしかも死海の塩でお肌にもいい!」
桜子がミカと戯れている間、ベルベットは別の方向で楽しんでいた。
「お風呂がこんなにあると迷いますが、タダでお酒が飲めると聞いたらワイン風呂一択」
というベネトナシュの希望によりバラ風呂からワイン風呂へ移動した六人組。
丁度、ワインとジュースを配るタイミングに遭遇したようだった。ベネトナシュにはブドウジュースが手渡される。
「……って、私子供じゃないですぞ!」
文句を言いつつもしっかりブドウジュースを受け取るベネトナシュ。
一方、きちんとワインが貰えた大人組は固まって軽く乾杯をしていた。
「風呂で酒ってのもオツでいいもんだ。ワインとくりゃあ、魚介にチーズでもつまみに欲しいとこだが」
ワインを口に運びながら黒塚が残念そうに零す。酒はつまみで何倍にも旨さが増すものだ。
秦乎もベネトナシュに先程もらったアヒルのおもちゃを「ぷきゅー」と鳴かせながら、ワイン風呂を満喫している。
「エクトル君、耿太郎君、如何にエレガントにジュースを飲めるか競うのは如何ですかな!」
ブドウジュース組を集めてどうだろう、と誘うベネトナシュ。
自分の大人っぷりを見せつけるいい機会だと思ったのだ。
まずは言い出しっぺのベネトナシュがドヤ顔でジュースを揺らして優雅なポーズ(?)をキメる。ぶっちゃけ残念な騎士っぷりだった。
「るねっさーーんす♪」
続いてエクトルがグラスを掲げる。ベネトナシュと耿太郎がグラスを合わせてチンッ、と軽やかな音がした。
「……って、ガキどもは何はしゃいでんだ……」
「日本はこうやって乾杯するんでしょ? あと、ワインはカッコ良いポーズ決めながら飲むのが嗜みなんだよね! 僕知ってる!」
黒塚の視線に気が付きエクトルが気が付いてどや顔でどこで仕入れたか分からない知識を披露する。
そして、ジュースを揺らして優雅なポーズをしているベネトナシュを指さし、びしっ、と戦隊もののようなポーズを決めエクトルもジュースを飲んで見せた。彼なりの優雅なポーズのようだ。
「いやそんな風習は日本に無ぇよ……何処情報だそりゃ」
額を押さえて唸る黒塚。
「王さん王さん見てくださいっすー!」
そんな黒塚を他所に耿太郎もグラスを片手に小指を立てて決めながらアークトゥルスに声を掛けた。
ブドウジュース組三人はあれやこれや各々が優雅だと思っているポーズを決めている。
「……この風呂ではポーズを取る遊びでもあるのか?」
「ガキはともかくお前らまでつられんなオイ、そういうんじゃなくてもっとこうワビサビってもんがな……話聞けって言ってんだろ」
日本の風呂文化を知らないアークトゥルスがポーズをしそうになるのを止める黒塚。ブドウジュース組に向き直り正しいことを教えようとするがキャッキャッしていて全然聞いてくれない上に全然追いつかないツッコミ。
「いいから! ちゃんとした日本の温泉の楽しみ方は今度実地で教えてやっから、お前らもう大人しくしてろ……!」
「……なんか、黒塚のガキもそうだが……思ってたのとちげぇな。あの王様、あんま騎士っぽくねぇ」
ツッコミ遅れでぜぇはぁしている黒塚にシリアスに語る秦乎。しかし、手元ではぷきゅぷきゅやっているので雰囲気ぶち壊しである。ツッコミが本気で追いつかず頭を抱える黒塚。
そして黒塚はナチュラルに温泉旅行奢りのフラグが立っていることに気が付いただろうか。
ワインと程よい温泉の温度、初めての温泉でのテンションの跳ね上がりの所為か、黒毒蛇のワイルドブラッドの秦乎は無意識に古い鱗の角質を落とそうと近くにいたアークトゥルスにすり寄ろうとする。
「なにやってるですかー!!」
速攻で気が付いたベネトナシュが秦乎の顔面にアヒルのおもちゃをぶん投げて阻止した。
もちろん、ワインを飲んだり、風呂でこれだけ暴れればお察しの通り具合が悪くなるものもいる。
「にゃ~~~……」
「言わんこっちゃねェ……」
はしゃぎ過ぎて湯あたりばたんきゅしたのはエクトル。
仕方なく黒塚が水を買いに行く。アークトゥルスも一緒に向かい、他はデッキで体を冷ましながら待つことにした。
「温まりすぎた体にはちょうどいいだろう」
と、アークトゥルスが気を利かせて人数分のアイスを買って戻る頃にはまた元の元気さを取り戻しているだろう。
●
湯上り休憩処はそれなりに人が入っていた。
「うう、のぼせそうになった……」
一羽はなかなか出られずややのぼせた頭を押さえている。
「ジュースはもういいや。フルーツ牛乳とか飲んでみようかな。飲んだことないんだよね、これ。噂じゃよく聞くけど、銭湯とか行かないからなぁ。」
「お肌つるつるー。赤ちゃん肌―♪ どーお? ……あれ?なんでお風呂で牛乳飲むの?」
「そういえば、なんでなんだろうね?」
一羽がフルーツ牛乳を買っている横で元気を取り戻した琳と千香が風呂上がりの牛乳を購入していた。一羽が声を掛ける。
琳の提案で一緒に飲もう! という話になり
「お風呂上がりは牛乳で!」
という千香の一声と共にグイッと牛乳を煽った。
千香と琳は腰に手を当てて。一羽は躊躇いがちに。
「さ、お風呂の後はコーヒー牛乳! と行きたいけれど、ミカちゃんのお口直しの約束だもんね」
「ソフトクリームが売ってるから、それ、食べようか?」
「わー! ソフトクリーム!! 嬉しいな。勿論食べるよ!」
と、喜久子とミカも休憩所に現れた。ソフトクリームをミカに買って与える喜久子。
美味しそうに、幸せそうに。この笑顔がずっと続きますようにと、ミカが食べている姿を見て喜久子は願わずにはいられない。ずっと何て在り得ないことは喜久子も解っている。だからこそこの一瞬を永遠に、と。
「ねー、一羽ちゃん。今度は夜中に入りましょ? 夜中のお風呂、いいわよー♪」
「夜中かー……って、またルナと入るの!?」
「ここがダメなら、お家のお風呂でもいいわよー」
「い、いや……あ、嫌とかそういうのじゃなくてね……」
琳達と離れた一羽とルナが。夜の露天風呂は星空が綺麗だということだろうか。
わいわいと賑やかな中、夜宵と英斗もまったりと休憩所でお茶を飲んでいた。
「まぁ、なんだかんだで私も楽しかったわ。付き合ってくれてありがと!」
「いや、俺も目の保養をさせてもらっt」
「なに!?」
素直にお礼を言った夜宵だが英斗の言葉の途中でキッと睨みつける。
「なんでもないです」
英斗は身を縮ませた。
一方、休みながらさっきまでのことを思い出している千香。
「楽しかったです、また四人で来たいですね」
「一緒に出かけたいという夢が叶ってよかったですよ。琳くんも嬉しすぎて、はしゃぎすぎた……と言う事です」
「そうだな。……またを楽しみにしよう」
「こちらこそ、またご一緒させてやってください♪」
茂守とアンベールが頷く。
「お二人とも楽しい思い出をありがとうございました!」
「おう、また来ような!!!」
千香が笑顔でお礼を言うと琳が元気よく頷いた。
まだまだ、食事や休憩を終えもう一度楽しむものもいれば、そろそろこの楽園を後にするものもいる。
だが十分楽しい思い出が詰まっていることだろう。