本部
WD~闇の中へと手を伸ばす~
掲示板
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相談卓
最終発言2017/01/11 09:01:25 -
NPC質問卓
最終発言2017/01/11 06:29:37 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2017/01/09 06:06:48
オープニング
● 痛みを失った果てに。
そこは荒廃した世界で、秩序など無く、ただ息をしている少年たちがそこらに転がっている、コンクリートのフロアだった。
その青年たちはおそらく何も考えられていない。
考える余裕がないのだろう。
彼らの望みには外の世界にはなく、未来に希望なんてない、望みは一つだけ。
生きているという苦痛を取り除きたい。
そう彼らはクスリが切れていた。禁断症状である。
その禁断症状に耐えながら。少年たちはその身をくねらせる。
その一室に少年が重たい扉を押し開けて入ってくる。
その少年は全員分の粉を持っていた。
今までの無気力が何だったのか、そう問いかけたくなるほどの瞬発力を見せ少年たちが殺到する、その時である。
突如悲鳴が上がった。
「いてぇ、いてえよ」
粉が入っているのは紙の袋だったのだが、それで指を切ったらしい。
うっすらと指に血がにじむ。その指を抑えて少年は身悶えた。一筋血が流れ滴り、灰色の世界に一つ赤という色彩が加わる。
「ペインキャンセラーが切れてたんだ」
「早く吸え」
体を小さく丸めて少年は痛みに耐える、その口もとにその粉をまぶした、その瞬間少年は落ち着きを取り戻していく。
「もう痛みのある世界には帰れないな」
そう少年は告げ少年は胡坐をかいた。
● ペインキャンセラー解析
「これみてよ」
そう君たちに春香はペインキャンセラーの資料を見せた。
そこには顕微鏡で何重倍にも拡大されたペインキャンセラーの粉が映し出されていたが、それが問題だったのだ。
「これ、従魔だったんだよ」
そう、白い粉、その正体は白い小さい蚤のような虫型従魔。それが体の中に侵入し痛覚を感じさせるための物質を食べているのだ。
そのため痛みや疲労を感じなくなる、だがこの薬、従魔を体内に入れているので当然体に悪い。
「今のところ従魔に変容するなんて報告はないけど、でも今後これがどんな影響を与えてくるか分からないわ。だから……」
「敵基地を襲撃します」
春香は全員に告げる。
「あと、軟禁されている少年たちと、ペインキャンセラーの生産工場も」
そしてerisuの頭を撫でる。
「みんな、協力してくれるかな」
君たちは春香の要請に応じて頷いた。
● 作戦会議
今回の作戦では人を多く集めて同時に三拠点を攻撃するよ。
春香はそう告げた。
まずペインキャンセラーの生産工場の破壊。
ここでは原材料から加工の工程を任せられており、小さな工場によくわからない機械が並べられている。見通しが悪い、ただここでは多数の機械を破壊し。倉庫にある原材料に火を放ってもらいます。
次に廃ビル。
ここには少年たちが軟禁されています。高さ六階建てのビルの五階に大型のイベントフロアがあります一辺50M四方ですがこの中に十人程度が転がっています。
皆あなた達に敵意をむき出しにしてきます。そんな彼らをビルから脱出させるのが目的です。
最後にアジト。
ここは繁華街とあるビルの地下一階、そこに事務所があります。そこは夜にはクラブに代わり、奥に事務所があります。事務所は大きなソファーとパソコンがありますが、大人が五六人程度入れます。ここに麻薬カルテルのボスがいます。
襲撃は夜なので一般人が沢山います、この一般人に被害を出さないようにボスを捉える必要があります。
総じてボディーガードヴィランが配置されています。
改めてヴィランのリストを掲載しますが、どこに誰がいるかまではわかりませんでした。
また今回のミッションでは、ペインキャンセラーの原材料。その原産地にかかわる資料がどこかにあるはずなのでそれも探してください。
●移動可能範囲
基本的に三拠点《工場》《廃ビル》《アジト》は移動しようと思うと一時間程度時間がかかります。
その移動を簡単にするために他の戦域から別の戦域に一瞬で移動できる人間大砲を設置しました。
超巨大な砲塔です。
戦闘が始まる前に大砲を寄せるとばれるので戦闘が始まるまで大砲は使えません。
原則として各拠点、シナリオ中一度しか使えませんが、活用してみてください。
工場→廃ビル
廃ビル→工場・アジト
アジト→廃ビル
と、矢印方向への移動が可能です。
ちなみに着地の制御がうまくできないので、防御力の低いキャラクターはダメージを受けるかもしれません。
解説
目標 三拠点の同時壊滅
原材料の生産地の資料
ボスの捕縛
上記二つのクリア。 三つクリアで大成功
●敵リスト
前回情報収集がはかどったので、情報が多いです。
Aタイプ
ドレッドノート。
工場に多く配置される、全体で合計8人存在する、一番数が多い。
近接戦闘タイプだが、武装は細めの剣である。またイニシアチブに秀で、団体戦が得意です。
スキルとしては。電光石火程度は使えるようです。
さらにもう一つスキルを使えます、個体によってまちまちです。
Bタイプ
シャドウルーカー
回避イニシアチブに秀で。武装は小刀、妨害に特化しており、奇襲を得意とする。
アジトと工場にそれぞれ二人ずつ配置されおり。
縫止、毒刃を使用する。
Cタイプ
バトルメディック。
廃ビルに一人は配置されており、配下には合計四人。
クリアレイ、ケアレイは使用可能。
防御力に特に秀で、カバーリング要員の様です。
●原産地の資料
どこかの拠点にあるはずです、探すとあっさり見つかると思いますが、見つかるまでは戦闘を終えないほうがいいでしょう。
● ボスについて
この麻薬組織の統括者ですが、一般人です。
生きたまま捉えることが推奨されますが、部下を平気で置き去りにして逃げる男です。
アジトにいることが確認できているので、逃げられないように対処する必要があるでしょう。
リプレイ
プロローグ
「これがペインキャンセラー」
錠剤型のそれを『榊原・沙耶(aa1188)』は手のひらで転がした。
「前回ノ、少年タチから回収したモノらしいデスネ…………」
その錠剤を眺めて『鬼子母神 焔織(aa2439)』がそう告げる。
痛みが消える薬、それを実際に試そうとは思わなかったため、実物を見るのはこれが初めてだった。
「愚神と手を組んでいる組織。そして日本なら、マガツヒが妥当よねぇ。尻尾の先端を掴めれば、古龍幇へのいい手土産になるんだけどねぇ」
そう錠剤を弄ぶ沙耶を『小鳥遊・沙羅(aa1188hero001)』は横目で眺めていた。
不穏な空気がただよっている、こういう顔をする時彼女はいつも思い切ったことをするのだ。それはわかっていた。
だが、わかっていてもそれは防げなかった。その時である、沙耶はクスリを飲み下し。驚く沙羅の目の前でそして自分の手にナイフを突き立てた。
「な!」
沙羅も焔織も飛び上がった、その手を抑え動かないようにし。沙羅は叫びをあげる。
「バカ!」
その声に室内のリンカー全員の視線がそちらを向いた。沙耶の額に脂汗が浮かんでいる。
「痛いわぁ」
「当たり前でしょ!」
普通の人間なら激痛でのた打ち回っているところだ、だが沙耶は悶えることなく耐えている。まだ薬は効いていないはずなのに。
「薬が効いている時と聞いていない時の差を比べるにはこれがちょうどいいのよぉ」
「そういう事するから、頭狂ってる医者とか言われるのよ!」
そんな沙羅の言葉に沙耶は笑みで返した。
「なるほどねぇ、もう、痛みなんてないわ」
沙羅の抗議は無視することにしたらしい、沙羅は苦々しげな顔をした。
「それどころかわずかな体調不良、睡眠不足、気だるさ。すべての鬱屈したなにかから解放されていくわぁ」
直後沙羅の手を取ると共鳴パニッシュメントを自分に当てた。
薬の正体は、極小の従魔。それが痛覚を感じさせる脳内物質を食べるために痛みが消えている。
当然その従魔を消し去れば、痛みがもどってくる
「素晴らしい効果ね、これは誰しも使いたくなると思うわぁ」
沙耶はそう冗談めかして告げる。
「これホドの薬。年端モいかぬ少年たちに服用させるとは」
そう、肩を震わせる焔織へ『青色鬼 蓮日(aa2439hero001)』が両手を乗せる。
「……赦さん、魔人ども……その咎……簡単に贖えると思うな……ッッ」
(痛みがなくなるのって、いけないことなのかな?)
その光景を見つめながら『北里芽衣(aa1416)』は考えていた。
「痛みがなくなるなら、私は……」
「めーい、お話しむずかしいー」
そう芽衣の膝の上でじゃれるのは『アリス・ドリームイーター(aa1416hero001)』もう作戦開始間近だというのに眠たげだ。当然だろう。いつもなら寝ている時間である。
「ろくでもないと思ってたが蓋を開けるとやっぱりろくでもないな。しかし飲む従魔か……心当たりしかないな」
『彩咲 姫乃(aa0941)』は告げる
「本当にね……」
そう姫乃の言葉にため息をついた春香。
「らららら? ららららら?」
そんな姫乃の英雄でアル『メルト(aa0941hero001)』は先ほどから大人しくクッキーを頬張っているのだが、それが面白いらしくじっとメルトを眺めているerisu。
「食べられるぞ」
「ららら!?」
姫乃の脅しに本気で驚くerisu。そんなerisuに癒されつつ姫乃は真面目な表情を春香に向けた。
「前回のスズラン事件もペインキャンセラー絡みだって三船が言ってたのはこういうことか」
「うん、私だけ遙華にいろいろ聞いてたから…………」
春香はと姫乃は暗い顔で視線を落とす。そんな少女たちの背後に立ったのは黒いシルエット。
「やれやれ、何とも忙しいこった」
「……ん、大捕物……狩りの時間」
そんな浮かない顔の少女たちに『麻生 遊夜(aa0452)』が歩み寄る『ユフォアリーヤ(aa0452hero001)』がお菓子をくれた、子供たちと一緒に作った自信作らしい。メルトはそれを喜んで食べた。
「準備はいいの?」
遊夜に春香がそう問いかけた直後『水瀬 雨月(aa0801)』が入出した。
「待たせたわね」
その言葉を皮切りに場の空気がピリッと引き締まる。金属音を鳴らして『Chris McLain(aa3881)』が銃器のメンテナンスを終えた。
「ああ、忌々しいドラッグ……! ヴィランの屑共の収入源……!」
「ふーん、ボクにはそういう難しい事は分かんないけど、ボディーガードがヴィランみたいだし、思いっきりやろうか」
『アダム・ウィステリア(aa3881hero002)』がそうにたりと笑うとChrisも笑う。
「言われなくても。それじゃあ共鳴だ」
「りょーかい!」
「前回で知りたい事は知れたし、あとは残さず片づけるだけね。
その雨月の言葉に春香は頷く。
「薬が従魔なら、愚神が絡んでいるはずだけど……どこから来たか分かればそれも自ずと答えは出るのかしら」
「たぶん、わかる、そして元を立つまでが私たちの仕事だよ」
そう春香は告げて目を閉じた。
第一章 工場にて
『無音 彼方(aa4329)』はその工場を見あげていた。
町はずれの田舎道をずっと行った先に鎮座する小さな工場。
底では普通の企業であればとっくに作業を終えているであろう時間、なのにもかかわらず電気がついている、残業と言われてしまえばそのままだがなんとなく普通ではない雰囲気は残る。
「さてと、面倒だがやるしかねえな」
彼方は素早く幻想蝶から武器を抜き取ると、構えて見せる。その背後から少女がか細い声を投げた。
「…………、めんどうくさいのはまかせて」
そうボルトを引いて薬室に弾丸を装填。銃を大切そうに抱えて『依雅 志錬(aa4364)』は告げた。
「Chrisさんはどこへ?」
そう工場襲撃班の最年少芽衣が尋ねると『S(aa4364hero002)』が答えた。
「別ルートから行くそうですよ?」
「…………やぁれやれ、面倒くせえ…………」
そう彼方は頭をかいてため息をついた。
(と言いながら、怒りの波動か、ふむ)
『那由多乃刃 除夜(aa4329hero001)』はそう彼方の心を見透かしたように微笑む。
「が、やるしかねぇ、囮の役目果たしてやろうじゃねぇか。おら! お邪魔しまーす」
思いきりよく彼方は扉を蹴り破る。引き戸なのだから普通に開ければいいのに、そう誰しも思ったが、次の段階ではそんなこと考えている暇はなくなっていた。
なぜなら銃を構えたヴィランがすでに何にか配置されていて。
その銃口全てが彼方に向けられたからだ。
「おおお!」
「伏せて」
インカム越しに志錬が一言そう告げると。直後吹き飛んだのは彼方の頭ではなく、ヴィランの頭だった。
――え…………?
緊張したSの声。
「何をしてるんですか!」
魔導銃で敵の武器を叩き落としにかかっていた芽衣。
しかし急きょ攻撃の手を止め、銃を投げ捨てて志錬に掴みかかった。
「軽々しく人の命を奪わないでください」
「死んでない……」
そう志錬が指さす先には先ほど頭を撃ったヴィラン、死んではいない。しかし……
「死んでいなくても、だめです、手加減したとしても。人を殺すようなことをしてはだめです」
「なんで怒られる? わかる?」
そうSに問いかける志錬。
――…………いえ、えみやねぇ。それは。
完全に引いてしまっているS、Sは唖然と……自分が貸した力の結果を見据えている。
「なんで、泣いているの?」
志錬は芽衣の頬を伝う雫をぬぐった。
「わからないな」
「おい! 援護射撃やめるな!」
彼方は工場内に侵入、銃弾の雨の中を掻い潜って積極的にスキルを使用していた。
敵の数はざっと八。一人一人対応していては蜂の巣にされてしまう。だから敵を縫いとめて歩くのが精いっぱいだった。
「ルーカ―か? メディックか?」
負傷する見方を連れ去ろうとするヴィランを発見ジェミニストライクを叩き込みその背中を完全に抑えるも、銃口は全て彼方を向いていて。戦場全体の動きが止まった。
「ち…………ろくでもねえな手前らは」
そう視線を泳がせる彼方。
――くかかか、ロクデナシには相応よ。
除夜が示す先には大量の粉が積まれている、さらにその粉にやられて周囲に何人か人間が倒れていた。
多幸感が出たのだろう、作業員が床の上で身をよじっている。
「チェックメイトだ」
その光景から視線を戻すと、大型の銃を構えたリンカーが彼方に告げた。
「どっちがだろうな?」
そう彼方が不敵に微笑むと。
次いで降り注ぐのはChrisの弾丸、無差別に放たれるそれを掻い潜って彼方はいったん離脱する。
「新しくこしらえたこのAKの実地試験と行こうかあああぁぁァァッハハァ~~~!!!」
そうトリガーハッピーよろしく武器を生成しながら弾丸の嵐で施設を、敵を葬っていく男が一人。Chrisである。
「市ねっ、氏ねっ、士ねぇぇぇぇっ!!!!」
憎しみを全て弾丸に込めて、無差別に敵をうつ。
「ごめんねRPG、少しの辛抱だからね!」
そう武装を持ち替えさらに広範囲の敵を撃滅していくChris。
「一人じゃ危ないです!」
そうChrisにターゲットが集中することを抑え芽衣がさらに敵中心に躍り出る。その隣には志錬もいた。
「殺さないようにする」
「それが何で必要か分かりますか?」
芽衣が志錬に尋ねた。
「あなたが悲しそうにしなくて済む?」
「今はそれでいいです」
直後機材が爆発した。芽衣による破壊、そして彼女に群がる敵は志錬が的確に打ち抜いていく。
武器を破壊し、それでも向かってくるものは手足を打ち抜いた。
pride of foolsのマズルフラッシュが劇的に工場内を彩っていく。
その間工場内を駆けまわる彼方。彼の放った鷹とは別のルートをだ。
「視覚、視覚が」
――ほれ、妾が支えてやるでのう。
除夜の補助もあり工場事務所を発見、その扉もぶち破ると、デスクの上には重要そうな書類が出しっぱなしにされていた。無事原産地の資料を発見できたのである。
「よし、見つけたぞ!」
その彼方の声を聴いて志錬は生産機の一番高い場所に上る、そしてSVL-16に持ち替えスキルを惜しみなく使って燃料タンクを打ち抜く。。
「さようなら」
銃弾の嵐、その正確な射撃によりいよいよすべての武器が破壊された時、敵ヴィランは白旗を上げ降伏する。
「ふぅ~、やっぱりAKは作りやすいし、頑丈だし、傑作銃だね!」
そう告げて他のメンバーが事務処理を続ける中Chrisはフィールドストリップを開始する。
その横でヴィランたちを拘束しているのは芽衣だ。
「武装の解除を行いますので衣服を脱いでください。武器を持っていない事を確認させていただきます。従えない場合、手足の腱を撃たせていただきますので」
その言葉を証明するかのように志錬は銃を振る。
男たちの小さな悲鳴が上がった。
「あなた達は、この薬を売る人達に雇われたのでしょうか?」
その言葉に男たちは縦に首を振る。
「この工場に隠し通路などはありませんね?」
冷淡な表情で告げる幼女、その違和感に支配されつつも男たちは何も言えない。
「それはなかったぜ、間違いない」
そう告げたのは彼方。
彼の言葉を信じた芽衣は最後に一つ問いかける。
「ヴィランになったのは何故ですか?」
その言葉に一人の男が答えた。
「なってみたら、ヴィランだった、それだけさ」
第二章 廃ビル
とある朽ち果てたビル、老朽化によって取り壊しが決定されたため、窓も扉も板で打ちつけられているしかし。とあるダクトからここに侵入することができ、そのためもともと不良のたまり場だったらしい。
だが今となっては麻薬組織の拠点の一部。故にこのダクト周辺には常に見張りの少年たち周囲にも感知系のトラップが仕掛けられていた。
だがそんな対人間への対策リンカーに対しては意味をなさない。
「ごめんねぇ」
そう沙耶は少年たちを地面に横たえてやった。
周囲に誰もいないことを確認し姫乃と焔織を呼びつける沙耶。
見れば焔織は警報装置代わりの紐を解除しており。蓮日は捕まえたヴィランの一人と話をしていた。
「…………この先は見ん方がいいぞ」
そう姫乃を先に行かせる蓮日。
「それ、する必要あるのかな?」
春香が告げた。その視線を悲しみの表情で受け取ると焔織は告げる。
「……罪深い、ワタシこそ……ワタシは本当に……生きてイテ良い人間、ナノでショウか?」
しかし次の瞬間にはその目に殺意を宿していた。一言呟き、凍て付く殺意を発現する
「……ですが、容赦はしまセヌ」
ゆったりとした動きでヴィランの髪の毛を掴み上を向かせる焔織。奴隷時代に受けた《本気の拷問》を披露するつもりだったが
「きゃー、やめて! ヴィランの人! 早く知ってることがあったら言っちゃって」
そう焔織の手を取りやめさせる
「んんんん!」
「従わなければ肺にながしまス」
「ほら! この人本気でやるから! だめだから!」
その光景を見守っていた沙羅が沙耶に声をかける。
――沙耶…………
沙羅が重たい声を出す。
「気持ち悪くなっちゃったかしらぁ」
――違うわ……体がおかしい。
「ええ、感じているわぁ」
端的に言えば調子が良すぎる、体内の従魔が消えたことは科学的に確認済みなのにだ。
「霊力が体にあふれている感覚ね。でも霊力総量が増えるわけがないから、考えられるのは」
――パイプが太くなった?
「それ大丈夫なのかよ」
ダクトに飛び移りながら姫乃が告げる。
内部の潜入は何も問題なく行われた。拷問の末に地図と巡回ルートパターンを聞き出していたためである。
そして拠点の割には厳重な警備に何かあると四人は睨んだ。
そしてたどり着いたのがコンピュータールーム。そこには大勢の少年が寝転んでいる、全員の表情が虚ろ。こちらを一瞬も見なかった。
「ろくでもないろくでもないと散々言ってきたが……実際に見るともう言葉も出ねえよ」
「姫乃ちゃん…………」
その力んだ手を春香は握った。
「これが人間のあり方か?こんなもんが人間のあり方としてまかり通っていいのか? いいはずねえだろ」
沙耶はPCにUSBを繋ぎ内部のデータを回収している。他にも資料がないか手際よく机の中を漁っていた。
「でも、この子たち、帰りたくても帰れないんじゃないかな」
「それはどういう?」
そう姫乃が首をひねる中、蓮日は頷いて声を張り上げた。
――さー子供たち! 家に帰るぞ!
その時初めて子供たちがリンカーに視線を向けた。
次いで焔織は手近な少年に駆け寄る。
「帰れないよ」
――……なにを言っとる? 早く医者へ行くぞ! キミらの体は……
「うっせぇ! 大人が口出しすんなよ」
そう別の少年、野球帽の少年が叫んだ。
その横っ面を姫乃が叩く。
「暗闇の中で芋虫みたいに床に転がって……それでいいと思ってんのか?それがやりたいことだったのか?」
姫乃は思っていた、最初はこの子供たちにも何かやりたいこと、したいことがあったはずだ。だから痛覚を消すことを選んだはずだ。
痛みなんてなければもっと頑張れる、そう思ったはずだから。
「薬に手を出す理由すら忘れたのか?」
「もう、どうでもいいよ、だってこれさえあれば、僕ら、苦しまなくていいんだ」
そう虚ろな目で、手さぐりに小さな袋を手繰り寄せ、中身をなめとるように舌を突っ込む。
「お姉ちゃんもやる?」
――バカかお前等! 命すら危ういのだぞ! それに!奴等は薬代の為、その内お前等に《人殺し》を命ずるぞッ!
「やるよ、殺すよ」
「……カマわ……ナイ……?」
「殺したしね、もう」
「……本気で、言ってイルのでスか……?」
焔織は爪が皮膚を破るくらいに強く、強く拳を握りしめた。
「……良く聞いて……この薬は……《従魔》なのでス、このまま使えバ……」
「こうなるわ」
そう告げたのは沙耶。そしてその頬から血が、滴っていた。
「沙耶さん!」
崩れ落ちる沙耶の体。春香がその体を抱き留める。
「こんな副作用なかったはずじゃ」
「リンカーが使うとこうなるのよ」
沙耶はずっと考えていた、この薬の本来の用途はなんだろうと。
子供相手に小銭を稼ぐ。
それもまぁあるだろう、だが。ヴィランが、愚神が。この世界の貨幣にそれほど価値を見出すだろうか。
違う。
「資料をみたわぁ。でも答えにたどり着けなかった。けどね二つだけ言えることがある。この薬の真の効果は。リンカーに対する毒。もしくは能力者へと無理やり覚醒させるための薬」
「え?」
――霊力を体に通わせることができるのが能力者だけど。そのパイプのようなものを無理やり拡張するのよ、その結果、この薬を使用している間は共鳴で来たり、もともとパイプのある人間は大きくなりすぎて体に傷を負ったりする。
沙羅がそう淡々と答えた。
――予測した通りね、無理ばっかりして。沙耶…………
「つまりこれは……」
「人工的にリンカーを作り出す実験薬の可能性が高い、と私はみているわぁ」
「……コンな存在に、ナリたいのでスか……?」
焔織は告げる。
「死に自ら歩み寄る。《痛み》も何も無い、真の《魔》に……」
「いいんだよ、俺達は」
突如焔織の体を霊力が包んだ、次いで手を振ると光が飛び散り蓮日へと焔織は姿を変えていた。
「もう……止めろ……ッ」
「え?」
「本当は痛いんだろ、心が、ずっと。さぁ……母親が帰りを待ってるぞ、子らよ」
「待ってるわけないよ、だって探しになんて来てくれないし、帰ったところで俺たちは……」
「それは当然の罰なんだぞ」
姫乃が言葉を継いだ。
「薬を抜いて、痛みに慣らして、――親の前に出せる顔になってこい。わかるか? わからないか? わかりたくないか?」
姫乃は少年の手を取った。
「きちんと罪を償えば、親っていうのは子供の間違いを許してくれるもんなんだよ」
その言葉に少年は目を見開いた。
「それにな、楽に死ねると思うなよ。徹底的に日の光の下で生かしてやる。失敗したから死んで楽になるなんて最低なこと許さないからな」
「なんでそんなに言ってくれるんだよあんた、頼んでないぞ」
「頼んでないだあ? 俺だってこんな光景見たくなんかなかったよ。何の関係もない赤の他人が思わず駆け寄っていらない世話を焼かずにはいられない光景だ。
これを見て理屈だ何だといわれた程度で手を引くわけないだろうが」
「な?」
少年はあまりの暴論に言葉を失った。
「言い訳があるなら失くした知恵と気力を振り絞ってみろ。
俺は頭の出来はあまりよくないが。ここで手を引くほど人間の出来が悪いとは思いたくないから全力で手を引かないぞ」
そう姫乃が告げた瞬間だった。
扉が押し開かれた。直後銃弾の雨。それを防ぐために春香が前に出た。
蜘蛛の巣のように張り巡らされたピアノ線、そこから響く音が鉛の玉を溶かしていく。
「みんながこの子たちを守るなら、私がみんなを守るよ。ね! erisu」
――うん、良い響き。心が重なって和音になる。
その銃弾の嵐の向こうにいる人間、それを元凶と見るやいなや焔織は声を張り上げる。
「…………鬼子母神の、名にカケて……」
「「お前等はブッ潰す! 来いクソ野郎ッ!」」
姫乃と焔織は武器を展開。真っ向から敵を叩き潰すべく、駆けた。
第三章 アジト
『藤林 栞(aa4548)』は氷を揺らすと空のグラスをカウンターに押し返した。
『藤林みほ(aa4548hero001)』はその隣で酔いつぶれたふりをして、カウンターにつっぷしている。
「お隣さん、グラスが空ですよ?」
そう可愛く微笑んで店員を巻き込んで話を始める栞。
彼女はすでにこのクラブで顔が知られており、持ち前の可愛さから人気が出ていた。
そんな女の子にべたべたされた者だから男はだらしなく顔を緩ませる。
「今日は何時までいる予定なの?」
そう栞は普段言葉尻ににじませない甘い音色を駆使して忍術における五車の術による情報収集を行っていた。
そのために何日も前からこのクラブに入り浸っている栞だったが、いい加減この空間にストレスがたまってきてもいた。
まぁ、そのおかげでこのクラブの内部構造、店員。人員すべてを把握することができたのだが。
(さすがに事務所までは手は出せなかったけど)
そう目を光らせつつ、作戦開始の合図を待つ栞。
そんな中扉が開いた。
その中心には黒を基調とした服を纏ったカップル、そしてパッと見クラブに足を踏み入れられないような少女がそこに立っていた。
「ふむ、今回は此処にするか」
「……ん、楽しみ、だね?」
遊夜、ユフォアリーヤ。そして雨月である。
「こっちだ」
「慣れてるのね?」
雨月がつぶやく。
「ああ、俺も驚いてる」
「?」
雨月は首をひねった。
「昔はこういう場所に入り浸っていた気がしてな」
「お酒、のみたい」
ユフォアリーヤは耳が痛くなるほどの音楽と、アルコールの香りに楽しくなっているようだ。尻尾をぶんぶん振っている。
「だめだ。許しません」
「えー」
その動きに合わせて栞は客と、そしてヴィランの誘導の作業にかかる。
「ねぇ、こっちに来て遊びましょう?」
そう雰囲気も、性格も普段の物とかえて客達に声をかける、彼に客をこの店から出してもらいつつヴィランの配置の情報を雨月に送った。
「麻生さん」
そう雨月が耳打ちする。音楽で周囲に声が届かないのが幸いだった。
「なんだ?」
そうとろけた視線で飲んだくれを演出しつつも声は確かな知性を帯びる。
しかし怪しまれないように最大限この場に溶け込むべく、雨月を抱き留め、耳元に口をつけさせ話をした。
「ヴィランの護衛はすでに栞さんが排除済み。一般人も事務所付近から遠ざけさせている。ボスがそこにいるのは確認済み。どうする?」
すると遊夜は雨月を離し、ふくれっ面のユフォアリーヤの手を取って遊夜は立ち上がる。
「さぁ、【踊ろうか】!」
その合図に雨月は自分の持ち場についた。そのまま遊夜は奥の事務所へ。
「ここから先は……」
そう、屈強な男に止められるが遊夜は腰の銃に手をかける。
「いや、この先に用があるんだ」
直後轟音。
音に気がついた一部の視線が向くがそれでもパニックには発展しない。
「予定通り、このままいくぜ」
そうドアを蹴り破ると、一部の幹部と話をしていたのだろう、真面目くさった小太りの男の顔が見え。その顔面めがけて遊夜はフラッシュバンを放った。
直後目がくらむほどの光。
そして幹部の腰の無線機が震える。
「情報をリークした奴がいる、裏切だ! その中に裏切り者がいるぞ!」
もちろんこれは栞の罠である。
だが、混乱の中の更なる火種はあっけなく燃え広がり。その場にいる全員が武器を抜くも連携することすら叶わない。
悶えて逃げようとする者達。遊夜は身を守るためにいったん出入り口から離れるが。
クラブをすでに覆っている魔方陣。ヴィランたちの体は石のように重くなる。
「逃がすと思う? 特にあなたは捕えるように言われているの」
そう小太りの男に雨月は告げると素早く接近。
「お前を殺せば逃げられるということだろう!」
だが銃を引き抜くくらいはできる、そう雨月を突破しようとしたボスの動きは意外に俊敏で。
銃口が雨月の頭を捉え、そして轟音。
「俺の連れに、何か用か?」
はじけ飛んだのはボスの拳銃。
そのまま遊夜は銃器相手に見事なダンスを披露する。
弾丸をばらまき、それらすべてが客も機材も傷つけることなく、的確にヴィランたちに突き刺さる。
その圧倒的な戦闘力を見せつけられた雨月は一つため息をついた。
「楽しそうね」
「なれている……のかもしれないな」
やがて銃口から立ち上る硝煙が消えたころ、雨月がボスを拘束するために動いた。
「……ん、中々の釣果」
そうユフォアリーヤがグラスを揺らしながら笑う。
「お前さんはやりすぎたのさ……さぁ、お縄の時間だぜ」
そう告げ遊夜は事務室内の資料をまとめて、アタッシュケースへと突っ込んだ。
「ここにあるといいが……」
「私が相手で良かったわね。まだ優しい方だから」
直後栞によって非難のすんだクラブから音が消えた。
そして雨月のインカム越しに通信。全地域制圧完了との報告がされる。
「全エリアの制圧、原産地、流通等の資料を確保。そして組織の最高権力者を確保、任務成功ね」
そう雨月が告げると、遊夜が店のウーロン茶を全員に振る舞った。
ロックグラスにロックアイス。少し大人の香りがするそれは勝利の美酒の味がした。