本部

リア充爆発!? 学園祭危機一髪!

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
5人 / 4~10人
英雄
5人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/10/14 20:18

掲示板

オープニング

●冴えない男、或いはモテなかった愚神の話
 その日、とある愚神はむしゃくしゃしていた。
 質のいい霊力が豊富にある場所にフラフラと近寄っていけば、同じような服装をした若者達が楽しそうにお祭り騒ぎをしていたのである。愚神はこの世界に来るまでの記憶を殆ど持ち合わせていない。だが、目の前の光景には、何故か異様に苛立ちを覚えるのだ。
「ねえ、知ってる? 学園祭の日に、中庭にある金木犀の木の下で結ばれたカップルは永遠の愛を手に入れるんだって!」
「へぇ。でも俺らには関係ないだろ? だって、もう既に永遠の愛を手に入れているんだ」
「やっだもう! マサくんったらぁ!」
 イラッ。愚神は己の頬が引き攣るのを自覚した。
 愚神は別段姿を隠していなかったのだが、いちゃつくカップルが愚神に気付いた様子は皆無だ。きっと愚神は景色の一部として認識されているのだろう。2人だけの世界、正にそんな表現が的確である。
 そんなカップルの様子を間近で眺める羽目になった愚神の苛立ちは最高潮に達していた。適当に霊力を補給して別の場所に向かう予定だったが、気が変わった。如何にして目の前の目障りな奴等を無残に惨殺してくれよう、それだけが愚神の思考を支配していた。
 手始めに男の方を八つ裂きにしよう。ぐっと拳を握った愚神の耳朶に、ふとどこまでも卑屈な、けれど愚神には耳障りのいい言葉が届く。
「……チッ。リア充が。爆発しちまえ」
 余談だがその瞬間、愚神は天啓を得た心持ちであったという。

●同時多発的テロ、或いは単なる八つ当たり
 その日、とある都市部にある私立学園は混乱の極みにあった。
「また爆発したぞ!」
「チクショウ、何回目だ! それより、生徒の避難を早く!」
「今のはまさか第2体育館?! あそこは確か、2年生がお化け屋敷をやっていたはず……不味いわ、逃げ遅れた子がいるかもしれない」
 そこかしこで響く爆発音、逃げ惑う生徒の群れ、そのフォローに回る教師陣。平和であったはずの学園祭が、一瞬にして阿鼻叫喚の地獄絵図へと変貌したのだ。
「おい、H.O.P.E.に連絡はしたのか!?」
「しました! すぐ救援に来てくれるそうです!」
「よし、なんとかそれまで持ち堪えるぞ!」
 正義感の強そうな男性教師がそう叫んだ直後、中庭方面から凄まじい破壊音が上がった。ミシミシともメリメリとも取れるその音は、樹木が倒れる音に相違ない。現場に緊張が走る。
「ハハハハハハ! りあじゅう爆発しろ!!」
 倒壊音に混ざって聞こえてきた言葉に、何故か一部の生徒が同意するように深く頷いていたが、特に追求されることなく放置されていた。

●リア充撲滅し隊、或いは傍迷惑な従魔軍
「よし、揃ったな。それでは改めて今回の作戦を伝える」
 愚神発生現場までエージェント達をを率いてきた男——隊長は、いまだ混乱の渦中にある学園を目前にして立ち止まる。そうしてエージェント一人一人の顔をぐるりと見渡して、神妙に頷いた。
「今回の敵は魔法攻撃を得意とする愚神だ。奴は学園内で破壊行為に及んでいる。一見無差別に攻撃しているようだが、学生らの証言から男女2人組に執拗なまでの攻撃を加えているとの情報を得ている。お前達も男女2人組で行動していればほぼ確実に攻撃を受けるだろうから覚えておけ」
 隊長は真面目な表情を取り繕っているが、内心の遣る瀬なさを隠しきれていない。話を聞いていたエージェントにも「男女2人組に執拗なまでの攻撃を加えている」という情報に微妙な表情を形作る者がいる。
「あとは、なんだ。見目のいい男子生徒も攻撃対象に入るらしいから、気を付けろ。逆に女子生徒だけでいたところを襲われたってえ話は聞いてないな」
 ついに隊長が小さく溜息を吐いた。まだ何もしていないのに、その表情には疲れがにじみ出ている。
「ちなみに、男性型の愚神だそうだ」
 はたしてその情報は必要だったのだろうか。いや、必要であることは間違いないのだが、情報開示のタイミングにささやかな悪意を感じる。努めて神妙な表情をしている隊長に、幾人かがどこか呆れた視線を向けていた。
「俺は別働隊を率いて避難している生徒達の保護に向かう。空飛ぶ焼そばや空飛ぶこんにゃくなんかが暴れているとの情報を得ているが、こちらは生徒の保護と並行して俺たち別働隊が処理する手筈になっているから、お前達は愚神撃破に集中してくれ」
 空飛ぶ焼そばやこんにゃくといった情報に、幾人かのエージェントが渋い顔をする。状況を鑑みればおそらく従魔であるのだが、よくもイマイチ危機感を抱けない物に取り憑いてくれたものだ。
「愚神は無差別に学園内を移動しているらしいが、爆発音を追えば容易に発見できるだろう。愚神を探している途中に負傷者や逃げ遅れた者を見つけたら渡してある無線で連絡してくれ、別働隊が急行する。いいか、くれぐれも男女2人っきりにするなよ。確実に襲われる」
 諭す隊長の表情は真剣そのものである。
「とにかく、お前達はあの傍迷惑な愚神を倒すことに専念してくれ。頼むぞ。では、作戦開始!」

解説

●目的
リア充を爆発して回る傍迷惑な愚神を撃破する

●敵情報
・愚神『テリー』
デクリオ級愚神。魔法攻撃を得意とし、特に爆発攻撃を好んで使用している。
肉弾戦は苦手な様子だが、硬化させた長い爪を用いて攻撃することも。
何故か男女2人組を執拗なまでに狙う。決め台詞は「りあじゅう爆発しろ!」。
好戦的な性格で、リア充を見つけると条件反射で攻撃してくる。男女2人組でなくとも、楽しそうに青春を謳歌している者を優先的に狙う。
尚、依代は必要としておらず、霊力で肉体を形成している模様。

・従魔『空飛ぶ焼そばモンスター』
イマーゴ級、またはミーレス級従魔。焼そばの麺で締め付けて行動を阻害してくる。
攻撃を受けると「拘束」のバッドステータスを受ける。
攻撃能力は低いが、巻きつかれると全身ソースまみれになる。ソースの香りに誘われて他の従魔が集まってくるので注意が必要。
余談だがごく稀にラーメンに憑依している従魔もいる。こちらにやられると豚骨醤油にまみれる。

・従魔『空飛ぶこんにゃくモンスター』
イマーゴ級、またはミーレス級従魔。背後から忍び寄ってきてピンタしてくる。
不意打ちを受けると「狼狽」のバッドステータスを受ける。
攻撃能力は低いが、防御力が無駄に高い。打撃に強く斬撃に弱い様子。
元はお化け屋敷で使われていたこんにゃくらしく、第2体育館周辺に多く居る。
尚、切り捨てた場合、生命力が残っていると分裂する模様。

●支給品
・小型無線機(トランシーバー)
H.O.P.E.がエージェント諸君に支給した品。霊力対策はバッチリ施されている。
腰に本体を装着しインカムでやり取りをするタイプ。音声はクリアである。
回線は今回の作戦に参加するエージェント全体で同一の物を使っており、個別設定はできない。
無線で行ったやり取りは、無線を装着している者全員が聞くことができる。

リプレイ

●食欲誘うソースの香り
 数分に1回のペースで響く爆発音を頼りに学園内をひた走る人影が6つ。愚神をおびき出す囮組と別れた、愚神捜索組のエージェント達だ。
「このまま進むと第2体育館があるな」
 突入前に学園関係者から入手した「学園祭案内図」を片手に、カトレヤ シェーン(aa0218)が同行者を振り返る。状況はかなり切迫している筈なのだが、キリリとした表情のカトレヤと学園祭特有のキラキラしいパンフレットの対比が緊張感を台無しにしていた。
「第2体育館ね。そこは何をやっているところなのでしょうか?」
 追走するアリス(aa0040hero001)が首を傾げる。相棒である能力者、佐藤 咲雪(aa0040)の手を握っているのは、先ほど「めんどくさいから愚神が見つかるまで待ってる」とのたまって校門付近に座り込もうとした為だ。引かれる佐藤はされるがままである。逆らうのも面倒臭いらしい。
「お化け屋敷、とあるな。何クラスか合同でやっている、結構大きな規模のものらしいぞ」
「お、お化け屋敷、ですか」
 先ほどから爆発音に怯えていたアリエティア スタージェス(aa1110)は、お化け屋敷と聞いて、「行きたくない」とでも言いたげな顔をする。
「なぁにアリィ。もしかして怖いの?」
「こ、こわくなんか……」
 消えそうな声で「あるに決まってるよ」とごちるアリエティアに、相棒のリアン シュトライア(aa1110hero001)は呆れ顔を隠さない。リアンは今回アリエティアに自信をつけるつもりでいるのだが、道のりは長そうである。
「しっかりしなさいよ。この状況でお化け屋敷をやっているはずがないでしょ」
「あ、そっか」
 目を瞬かせるアリエティアに、リアンは溜息を禁じ得ない。
「おまえら、お喋りもいいが油断はするなよ。特に死角は注意しろ、出会い頭にドカン! なんて笑い話にもならん」
「そうじゃそうじゃ!」
 相棒の言葉に便乗する王 紅花(aa0218hero001)に、カトレヤは若干呆れた表情をしている。
「それにしても、広い学園ですね。パンフレットが無ければ迷っていたかもしれません」
 爆発音は未だ遠い。アリスが得意の予測演算でサポートしているのだが、現状はなかなかに厳しい。
「そうだな。学園祭だったせいか男女二人組のカップルも多いのも困りものだ」
 渋面を作ったカトレヤに、同意を示す一行。時折聞こえてくる「リア充爆発しろ!!」という愚神の叫びが曲者である。これの所為で逃げ遅れた生徒を放置することができないのだ。
「リア充か……」
 アリエティアがぼそりと零した一言に、アリスに手を引かれていた佐藤が反応を示す。
「リア充……ん、割とどうでもいい」
「そうなの?」
 心底どうでもよさそうな口調である佐藤に、リアンが興味を示している。この年頃の少女なら恋に恋するような面があるだろうに、と純粋に疑問に思っているようだ。
「……ん、めんどくさいし」
「咲雪、あんたはまたソレ? 好みのタイプとかそういうのいないの?」
 佐藤の手を引くアリスが溜息をつく。佐藤とは英雄として「生きる事」を条件として誓約した間柄ではあるが、アリスにとって佐藤は手の掛かる妹のような存在だった。姉代わりとして、佐藤の無気力さは心配の種の一つである。
「……ん、ごろごろしてても、怒らない人、が良い」
「いろいろな考え方があるのねぇ」
 感心したように頷くリアンに、アリエティアが「何か違う気がする」と首を捻っているが、残念ながらその疑問に答えてくれる人物はいない。
 と、その時。かなり近くで爆発音が轟いた。
「ぅひゃう!?」
 完全に気を抜いていたアリエティアが奇声とも悲鳴ともつかない声をあげる。怯えるアリエティアに隣のリアンが「落ち着きなさい」と脇腹を小突いていた。
「近いな」
 誰からともなく一行に緊張感が満ちる。急いで爆発音のあった場所に向かう一行の視界に見えたのは、爆発の影響か周囲に散らばった瓦礫と、倒れ伏した生徒の影。
「大丈夫か!?」
 治癒技能を持っているカトレヤがいち早く生徒達に駆け寄った。半ば瓦礫に埋もれるようにして倒れている人影は4人、そのうち一番深い傷を負っているのが一人だけの男子生徒である。
「しっかりしろ!」
 カトレヤが男子生徒の傍に膝をつくと同時に、あたたかな霊力の光が広がった。スキルを使うために、カトレヤと王が共鳴状態に入ったのだ。男子生徒はカトレヤの処置で持ち直したようで、失せていた血の気が戻っている。「愚神除け」だと油性マジックで顔に髭を書こうとした王は全力で阻止された。
 他の女子生徒3名もエージェントの手によって救出され、適切な処置を為されている。生徒達から少し離れた場所では、アリスが無線で別働隊に連絡を入れていた。
 4人の生徒は負傷具合が酷く自力で動けそうに無いため、別働隊が到着するまで暫しの待機である。
「……ん、アリス。男同士、でなくて、残念?」
「…………はい?」
 相棒である佐藤の言葉に、アリスはギギギと音がしそうな動作で首を傾げた。視線の先にはいつも通りの顔をした相棒がいる。
「何言ってるの?」
「ん、アリスの、うすい本。見た」
「んなっ!? アレはキチンと隠してあるわ!!」
「ベッドの下はお約束、すぎ、る」
 こくり、と頷く佐藤に、いたたまれなくなったアリスは己の顔をてのひらで覆った。幸い、他のエージェント達とは距離が離れているので会話を聞かれた心配は無いのだが、そういう問題では無いのだ。
「……ん、大丈夫。誰にも、言わない」
「…………そうして」
 哀れアリスは、相棒の手により精神に重傷を負った。立ち直るには暫しの時間が必要そうだ。
「にしても、なんか、今の状況って」
 女子生徒の様子を見ていたアリエティアが、ぐるりと周囲の状況を見渡してポツリと口を開く。誰に伝えるでもなく零された言葉は、奇しくもその場にいる全員の耳に届いた。
「男の子一人を取り囲んだ、ハーレムみたいだよね?」
 人、それをフラグ発言と呼ぶ。
「うわっ」
「ひゃっ!?」
 最初の異変は、佐藤とアリスの身に起こった。
「おおっ?!」
『ぬわっ!!』
 次いで、唯一王と共鳴状態にあるカトレヤ。
「ひゃん!」
「きゃあ!」
 それに被せるようにして、アリエティアとリアンにも。
「な、なんだ!?」
『従魔の襲撃じゃ! くっ、気付かぬとは我もぬかったわ』
 いち早く現状に気付いたのはカトレヤだった。瞬時に幻想蝶より水晶の扇、クリスタルファンを取り出す。
「吹き飛べっ!!」
 一閃。威力ではなく圧を重視した一撃は、複数のこんにゃくを巻き込んで炸裂した。
「う、うええ」
「ほらアリィもしっかりする! 共鳴いくよ!」
「うう……『自分達だけで助かろうとはしない』……私達は、より多くを救うために」
 こんにゃくアタックを食らって涙目のアリエティアに、正気に戻ったリアンが共鳴を促す。光の粒を纏って共鳴状態に入ったアリエティアは、涙目のままこんにゃく従魔を睨みつけている。
「ちっ、油断した。おい、大丈夫か!」
 仲間と生徒に確認の声をかけるカトレヤに、次々と肯定の声がかかる。それに安心したカトレヤの耳に、アリスの悲鳴が届いた。
「咲雪!!」
 ハッとして佐藤へ視線を向ける一同。そこには、……焼きそばに纏わり付かれた佐藤の姿があった。
「……ソース臭い」
 顔を顰める佐藤がダメージを受けている様子はない。流石に生身の状態で従魔を振り解く事は出来ないようで、焼きそばに纏わり付かれたままアリスと共鳴状態に移行していた。麺は問題なく振り払えたが、全身にフィットするタイプのパイロットスーツに付着した茶色いソースがこの上なくシュールである。
『……この数、マズいね。負傷者を守りながら戦える数じゃない』
 フヨフヨ浮かんでいる6体のこんにゃくと1体の焼きそばと対峙して、アリスが焦りを滲ませる。生徒達が自力で動けない状況にある今、自分たちの倍いる従魔と犠牲なしで戦うのは難しい。
 そして、自体はさらに悪化する。
「なにか物音が聞こえるな……私以外に何か居るのか?」
 妙に耳にざらつく粘着質な声。間違いなく、「リア充爆発しろ」と叫んでいた愚神の声だ。
 まずい。エージェントの心はひとつになった。現状を見た非モテ男と思しき愚神の反応は容易に想像がつく。
「一体何が……あ?」
 崩落した壁の向こうから顔を出した愚神が、一同を見てピタリと動きを止めた。否応無しに高まる緊張感。冷や汗の止まらないエージェント。表情を無くした愚神。そして。
「死ね」
 愚神の反応はいっそ簡潔であった。無表情のまま、未だ昏倒している男子生徒に手を向けたのだ。愚神の手に集う可視化された霊力に、今度はエージェントが表情を無くす。至近距離であれを食らってはひとたまりもない。
 あわや大惨事となりかけた、その瞬間。

 ぴんぽんぱんぽーん
『布野せんぱい!! どこですか? 会いたいです……こんな時に何やってるんだって思うかもしれないけど、こんな時だからこそ……私伝えたいんです。今! 気持ちを伝えたいんですーっ。私、待ってますから! 中庭の伝説の木……知ってますよね? ずっとずっと、貴方が来るまで待ってますからっ!! 死んでも動く気ありませんから!』
 ぴんぽんぱんぽーん

 突如響き渡る場違いな校内放送。囮班の2人が仕込んだ物だ。
 愚神の動きがピタリと止まった。集約されていた霊力も霧散している。だが、逆にその沈黙が恐ろしい。
「……ちっくしょおおおおおおお!! 私が何をしたと言うのだ!! 何故異界に来てまでこのような思いしなくてはならんのだ!! 呪ってやる! リア充はもれなく呪ってやるぞおおお!!」
 そして、モテない男の怨念は爆発した。物理的に。余波で周囲のこんにゃくと焼きそばが一掃された。
 モテない愚神は血涙を流して発狂している。エージェントはドン引きした。中庭がある方向に走り去っていく愚神を追えない程度にはドン引きしていた。
「おい、今の爆発音は!? お前たち大丈夫だったか!?」
 遅れて到着したソース濡れの別働隊に乾いた笑みを浮かべて、エージェント達は逃げるようにその場を後にし愚神を追った。仔細は保護された生徒達が伝えるだろう。今のエージェント達に、詳細を報告できる精神力は残されていない。
「……モテない男の僻みは……怖いな……」
 ポツリと零されたカトレヤの呟きに、深く深く同意を示すのだった。

●少年少女、青春を抱け!
 時間は少し巻き戻る。
 仲間に今回の作戦を伝えた後、囮を買って出た4人は放送室へとやってきていた。幸いにも従魔には遭遇せず、幾人かの生徒を別働隊に誘導した程度で済んでいる。
「これでよし、と。じゃあ、中庭に向かおうか」
「うん。レオン、ありがと」
 学園祭といえばメイド服、という持論の元メイド服を着用済みの卸 蘿蔔(aa0405)とその英雄レオンハルト(aa0405hero001)が笑顔で放送室から出てきた。その後に顔を真っ赤にした布野 橘(aa0064)とその英雄魔纏狼(aa0064hero001)が続く。
「これ何の羞恥プレイだよ……」
 校内放送を聞いているのは愚神や仲間だけではない。作戦とはいえ、思いがけない公開処刑を受ける布野の精神は既に重症一歩手前と言っても過言ではない。
「口ではそう言うが貴様、トキメキを感じているな?」
「う、うっせー! こういうの初めてなんだからしょーがねーだろ!」
 仮面の隙間からわずかに覗く口元をニヤつかせた魔纏狼が意地悪く布野で遊んでいる。
「布野さん、がんばりましょうね!」
「お、おう……」
 文化祭の雰囲気に飲まれているのかテンションの高い卸に、布野はしどろもどろに生返事を返すのみだ。
「バカめが。作戦、演技だ。本気にしてどうする。しかも録音だぞ、録音」
 チラッチラ卸の方を見ながら気もそぞろな様子の布野に、魔纏狼は盛大な溜息を零した。
「なんというか、青春だな」
「だな」
 はしゃぐ卸と真っ赤な顔の布野の2人に、相棒達は若干の呆れ顔を呈している。先程から大きな爆発音が轟いているのだが、それに構う素振りもない。
「ったく、これから愚神をぶっ潰さにゃならんのだぞ」
「ははは。確かに、少々はしゃぎすぎかもしれない」
 少し注意するべきかとレオンハルトが動いた、それとほぼ同時に無線が繋がる。
『緊急連絡。愚神が罠にかかった。現在、進行方向にある障害物を吹き飛ばしながら中庭へ進行中。付近の者は注意されたし』
 緊迫した声に、エージェント達は一気に緊張感を持ち直した。真っ赤になっていた布野も、瞬時に冷静な顔になっている。
「早いな」
 瞬きの間に近付いてくる破壊音に、一同の表情が険しくなる。作戦ではもう少し時間に猶予がある筈だったのだ。愚神捜索班側の惨状を知らない囮班に、その理由を察しろと言うのが無茶である。
「どうする、流石に作戦そのままは拙いぞ」
 仮面に隠れて表情は見えないが、苦々しげな口調の魔纏狼に、一瞬の沈黙が落ちる。
『布野様、魔纏狼様、卸様、レオンハルト様、聞こえますか。どうぞ』
 その時、無線からアリスの声が聞こえた。
「ああ、聞こえてる。どうしたんだ? どうぞ」
 4人を代表して応えるのはレオンハルトだ。他3人は中庭に向かう足を止めずに会話を聞いている。
『了解、若干の作戦変更を提案します』
 アリスが示す作戦は、簡単に言えば囮を使った奇襲作戦。
 まず当初の作戦とは違い、中庭付近に全員が揃うまで待機。その後、機を見て囮、卸と布野が非共鳴状態で愚神の視界に入り、愚神が2人に気を取られた瞬間、背後から奇襲を仕掛ける。
『お2人に危険が及ぶ可能性が非常に高いのですが……』
 迷いは一瞬。エージェントは1も2も無く同意の言葉を返すのだった。

●祭りの食べ物は妙にウマい
 廃墟。その場を一言で表現するなら、それが適切だろう。ここが元は生徒の笑顔溢れる学園の中庭だったと言った所で、それを信じる者はそういないだろう廃墟。
 その惨状を作り出した張本人である愚神は、折れた金木犀の傍で静かに激しい怒りを燃やしていた。
「リア充は須らく爆発しろ……!!」
 愚神の目的は、今から行われるであろう告白劇の爆殺だ。学園の危機に放送で呼び出され、告白されるという青春200%な羨まし……妬まし……ともかく、そのような憎らしい事態は断固阻止の構えである。
 今か今かとその瞬間を待ち構え、愚神はついにその時を迎えた。
 まずやってきたのは、息を切らせ頬を上気させた一人の少女。何故かメイド服を着用しているが、愚神目線でも非常に愛らしい顔立ちをしている。美少女に告白される相手の男への殺意が急上昇した。
 少女……卸は、走ったことで乱れた服装を軽く整えて、不安そうに辺りを見渡す。どうやら愚神の姿は見えていないらしい。
 キョロキョロとせわしなく周囲を見渡していた卸は、ある一点に視線をやった瞬間、ぱっと表情を明るくする。愚神にも、卸の元へ向かう人影が見えていた。
「蘿蔔! ごめん、待たせたか?」
「ふ、布野せんぱい! 来てくれたんですね!」
 やってきたのは、全体的に体育会系の雰囲気を漂わせた少年、布野。爽やかな笑顔を浮かべる好青年に、愚神の殺意は天元突破の勢いだ。愚神に気付く気配もないのが尚の事苛立たしい。
「やっぱり来てくれた……ということは、同じ気持ちなんですよね? 嬉しい。さぁ……先輩、私への愛の告白を……」
「えっ?! いやちょっと待て蘿蔔! それは作戦になっ」
 美少女ににじり寄られ真っ赤になる好青年に、愚神の怒りは物理的に爆発した。
「くっそがああああ! リア充は爆発しろおおおお!!」
 叫びと共に走り出す愚神。しかしそれを許すエージェントではない。
『アリィ!!』
「すっ、隙だらけだよ!」
『咲雪、飛ばしていくよ!』
「ん」
 布野しか視界に入っていない隙だらけの愚神に、潜んでいたアリエティアと佐藤が飛びかかる。霊力で出来た鋭い針が愚神を貫き動きを止め、その隙に佐藤が一撃を叩き込む。
「なっ!? 一体どこから!!」
「余所見してていいのか?」
『ふっ、無様じゃの』
 奇襲に狼狽える愚神、その隙を逃す筈もないカトレヤが水晶の扇を閃かせた。
「ぐっ!? き、貴様らは!!」
 やっと飛び出してきた3人に気が付いた愚神が驚きを露わにする。アリエティアの放ったスキル「縫止」の効力で霊力が乱されているため、思うように力を発揮できないのだ。
「よ、よし! 蘿蔔には指一本触れさせ……」
『いつまでやっている気だ! さっさと体を寄越せ!』
『蘿蔔、俺たちもやるよ!』
「う、うん!」
 囮組も共鳴を終え、準備は万端だ。
『まぁ、そういうこった。せいぜい足掻いてみるんだな!』
 動きの鈍い愚神に、次々と攻撃を仕掛けるエージェント達。愚神の霊力体が確実に傷付いてゆく。
「ぐぅっ、ちまちまと忌々しい!!」
『愚神に不穏な動きあり、注意して!』
 溜めに入った愚神を見て、アリスが注意の叫びをあげる。その声に反応した佐藤とアリエティアが、咄嗟に霊力の針を愚神に向けて発射した。針が、愚神の身体を貫いてその霊力を掻き乱す。
「小癪なっ!!」
「どうとでも言え。ったく、好き勝手やりやがって。爆発するなら理科室って相場が決まってんだよォ!!」
「えっ、そうなんですか?!」
 布野の叫びに卸が反応している。そういう問題ではないが、ツッコミを入れる者が誰もいないので勘違いが加速していた。
「舐めるなァッ!!」
 布野に並々ならぬ憎悪を向けている愚神は、霊力を乱されているとは思えない速さで爪の一撃を叩き込む。
「布野さん!」
「心配すんな、擦り傷だ」
 頬につけられた傷を顧みることなく、布野が獰猛に笑う。
「お返しだ! テメェが吹っ飛べ!!」
 自身の全力を乗せた大剣が、霊力で出来た光の尾を引きながら技を放った直後で隙だらけの愚神の身体に吸い込まれる。これには流石の愚神も堪らず吹き飛ばされ、かろうじて残っていた壁に激突した。
 ボロ雑巾のように薄汚れた愚神は、既に消滅するのを待つのみの程である。
「……くっそがああああああああ!! どこまでも私を虚仮にしやがってええええええええええ!!」
 が、そこで終わらないのが嫉妬に狂ったモテない男である。
『な!? なんなのこのエネルギー密度! 退避、退避よ!!』
 アリスの焦った悲鳴が聞こえるが、それよりも愚神の行動の方が早かった。
「あははははははは!! 何もかも吹っ飛びやがれえええええ!!」
 文字通りの自爆特攻。愚神を中心にして広がった大規模な爆発がエージェントに襲い掛かった。
「あっ」
「蘿蔔!!」
 佐藤、カトレヤ、アリエティアの3人はなんとか爆発の外に逃げられたが、卸が瓦礫に足を取られて転倒してしまう。それを、側にいた布野が覆いかぶさることで庇ったのだ。
 哀れ、愚神は最期の瞬間までリア充っぷりを見せつけられたのであった。
「ふ、布野さん」
「いててて……。あー、その、なんだ、ほら、アレだ。怪我とか、してねぇか?」
「は、はひぃ……!」
 負傷しながらも自分を気遣う布野に、卸の気分は乙女ゲームの主人公状態である。未だ共鳴状態にある魔纏狼とレオンハルトは呆れ顔だ。
「また派手にやったなあ! どれ、見せてみろ」
 カトレヤが笑いながら布野の傷を治療する。粗方は回復したが、残念ながら全快まではいかなかった。
「悪いな、弾切れだ」
「いえ、ありがとうございました」
 頭をさげる布野の顔は赤い。今更ながら自分のしたことに思い至ったらしい。
「……ソース臭い」
「あはは、早く洗い流さないとね」
 共鳴を解いた佐藤は未だ纏わり付くソース臭に顔を顰めている。
「こりゃあ、派手にやったなあ」
 駆けつけてきた隊長は、現場の惨状に関心しきりだ。爆心地には小さなクレーターが出来ており、瓦礫も飛び散っているのだから、見応えはあるだろう。
「隊長、そちらの首尾は?」
「ああ、外はあらかた回ったが中がまだだ。愚神は倒したが、従魔はまだいるからなあ」
「ほほう? では我の出番かのう?」
「やめろ。愚神はもういないんだ」
 油性マジックを手にニヤリと笑う王に、カトレヤは呆れ顔を向けている。
「そ、捜索なら、私たちも参加します」
 アリエティアとリアンの2人も隊長を手伝うらしい。
「……相棒共々ご迷惑をおかけして申し訳ございません」
「なに、あいつも楽しんでいるようだからな。お相子だ」
「それは……。いえ、本当にありがとうございます」
「礼ならアイツに言ってくれ」
 共鳴を解いた魔纏狼とレオンハルトはお互いの相棒の甘酸っぱい様を見て遠い目をしていた。
 一方の佐藤とアリスはと言えば。
「ああいうのが好きなの?」
「指差しちゃいけません! それと外でそういうこと言っちゃダメ!」
 並んだ英雄男性約2名を前に楽しそうにしている。アリスも否定しない上にチラチラ様子を気にしているのだから答えを言っている様なものだ。

 何はともあれ、被害は甚大だが、愚神は倒した。一同は束の間の休息を楽しむのであった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 信念を抱く者
    布野 橘aa0064

重体一覧

参加者

  • 魅惑のパイスラ
    佐藤 咲雪aa0040
    機械|15才|女性|回避
  • 貴腐人
    アリスaa0040hero001
    英雄|18才|女性|シャド
  • 信念を抱く者
    布野 橘aa0064
    人間|20才|男性|攻撃
  • 血に染まりし黒狼
    魔纏狼aa0064hero001
    英雄|22才|男性|ドレ
  • エンプレス・ルージュ
    カトレヤ シェーンaa0218
    機械|27才|女性|生命
  • 暁光の鷹
    王 紅花aa0218hero001
    英雄|27才|女性|バト
  • 白い死神
    卸 蘿蔔aa0405
    人間|18才|女性|命中
  • 苦労人
    レオンハルトaa0405hero001
    英雄|22才|男性|ジャ
  • おうちかえる
    アリエティア スタージェスaa1110
    人間|19才|女性|回避
  • あー楽しかった
    リアン シュトライアaa1110hero001
    英雄|16才|女性|シャド
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