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【初夢】目指せ、『オセチベントウ』!?
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最終発言2017/01/07 20:05:26 -
【相談卓】オセチベントウ争奪戦
最終発言2017/01/07 23:22:46
オープニング
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この【初夢】シナリオは「IFシナリオ」です。
IF世界を舞台としており、リンクブレイブの世界観とは関係ありません。
シナリオの内容は世界観に一切影響を与えませんのでご注意下さい。
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ふと、意識が浮上した。
もう朝か、とぼんやりと思う。それにしては、目覚ましの音を聞いた記憶がない。
(まさか、新年早々寝過ごした!?)
ガバッとばかりに跳ね起き、枕元のスマホを引ったくる。時間を確認すると、午前八時だった。が、よくよく考えれば昨日、ここドイツ・ミュンヘンでの従魔討伐任務を終えたばかりだと思い出す。
TPOなど考えてくれない従魔のお陰で、結局年末ギリギリまで駆り出される羽目になったのだ。
年明けを戸外の寒風吹き荒ぶ中で過ごし、この安ホテルの一室のベッドへ倒れ込んだのが、果たして何時頃だったか。
昨日あれだけ疲れたし、今日一日くらい元日だし、寝坊したって許されるだろう。だが、再度夢に戻り掛けたエージェントを、呼び鈴の音と、ドアを乱暴に叩く音が、無情にも現実に引き戻した。
(っだよ、うるさいな……)
人が折角二度寝の幸せを味わおうと思っていたのに。往生際悪くベッドにしがみ付くエージェントに、今度は怒鳴り声が追い打ちを掛ける。
「早く起きなさい! 遅刻よ!!」
「えっ」
反射で飛び起き、慌てて扉を開けると、そこには顔見知りの女性オペレーターが立っていた。何故か、黒いスーツ着用で。
「あ、あの」
「あ、あの、じゃないわよ。今日はオーパーツの回収に行くと伝達してあったでしょう?」
「えっ?」
最早、その言葉しか出なくなったような錯覚に陥る。
オーパーツ回収任務? 昨日、解散する際にそんな話は聞いていないが。しかし、オペレーターはこちらに構わなかった。
「急いでね。もう皆、下で待ってるんだから」
「は、はい」
オペレーターが去るのを見送って、取り敢えず急いで身支度を整えた。
●
エージェントは階下、ホテルのエントランスと思しき場所まで来て、目を剥いた。
皆が皆、どこのヤーさんかと訊きたくなるような、黒のスーツ、もしくは艶やかな黒いドレスに身を包んでいる。中にはサングラスまで掛けている者もいて、完全に『や』の付く職業の人間か、マフィアだ。
「えっと……」
これは一体、ドウイウコトデショウカ?
そうは思うが、疑問はもう口から出ない。ただ、陸に打ち上げられた魚宜しく、パクパクとさせるのみだ。
「来たわね。あら、何でそんなカッコしてるの」
「え、えっとその」
そんなカッコ、とは、動き易さ重視のカジュアルな服だ。
「まあいいわ。セラエノ・ファミリーも情報を掴んだようだから、急がないと」
「セラエノ……ファミリー?」
ファミリーって何だ。セラエノってマフィアか何かだったっけ?
目を白黒させる内に、オペレーターは「はい、注目!」と言って一つ手を叩いた。
「目指すは某古城。その塔の最上階に、今回オーパーツ『オセチベントウ』が隠されているのが分かったわ」
オセチベントウ? 何だそりゃ。オセチってあの、お正月に食べるお節の事か? それが何でオーパーツ??
しかも、ここはドイツだぞ。何でそんな所で、日本の正月の定番物が???
ハテナマークを飛ばしっ放しのエージェントを置き去りに、オペレーターは説明を続ける。しかも大真面目な顔でだ。
「何でもそのオセチベントウは、三段重箱に入っているらしいの。この世の物とは思えない美味しさの上に、食べた者はそれからきっかり一年間、ツキにツキまくるらしいわ」
「注意すべき点は何かありますか?」
別のエージェントが挙手で訊ねる。
「そうね。他のファミリーにも情報が広がってるから、争奪戦になるわ。古城と言っても廃墟だから見張りはいないだろうけど……後は現地で確認して。それじゃ、お願いするわよ」
「イエッサー!」
全員が答えを斉唱するのを、エージェントはただ唖然と見守る事しかできない。
「何してる、早く行こう」
挙げ句に、自分の相棒までが黒い衣装に身を包んで、自分を手招いている。もう何がなんだか分からないまま、エージェントはただノロノロと足を動かした。
解説
〈〉内はPL情報。これをPCが知るには何らかのアクションが必要。
▼目標
某古城の塔、最上階に安置されているオーパーツ『オセチベントウ』を、他のファミリーより早く入手せよ。
▼留意点
・マフィアンパラレル。
英雄もマフィアの構成員。セラエノもマフィア・ファミリーの一つ。
・普通の銃火器、体術は使えます。リンク、スキル、AGWの使用は不可。
・四人一ファミリー(英雄含む)。能力者と英雄、分かれて違う組に行ってもOK。チーム分けは、相談板で行って下さい。
もし、相談の時間がない場合は、こちらで適当に振り分けます。
・塔の最上階へ辿り着くまでに、トラップもあり。死ぬ心配だけはない。
・今回、OPの能力者のように強制参加させられる側か、それとも夢の世界観に染まった側、どちらの立場でプレイングを書くかはお任せします。
〈▼トラップの種類
・隠れたスイッチを踏むと、狭い通路の向こうから大きな玉(素材=コンクリートとか鉄とか重たい物)が転がって来たり、落とし穴が開いたり、シャンデリアが落ちて来たり、矢が飛んで来たり、等々。スイッチは床にあるとは限らない。
・ブービートラップ→掛かると破裂するが、仕掛けられているのは火薬ではなく網。脱出に掛かる時間は個人差あり。
・他、上記以外のトラップに引っ掛かるプレイングを書いて下さってもOKです。
▼城
規模は大きめ。最上階は六階。建物敷地面積1000平方メートル、塔は80メートル。塔へ通じる螺旋階段は三階、奥の部屋から。
▼最上階
・中は塔の上にある牢のような小部屋。施錠なし。
そこに三つの宝箱が安置してあり、内二つは外れ。
・外れ1→開けると落とし穴が開き、下まで落とされる。怪我はしないし、再トライは可能だが、その間に他の組が宝を持って行かない保証はない。
・外れ2→開けるとクラッカーがバンバン破裂し、その後には普通の鏡餅が。
・当たり→オセチベントウ。〉
リプレイ
ヤの付く非合法組織『国塚組』の一人娘、国塚 深散(aa4139)は、せかせかと早足で歩いていた。彼女が足を踏み出す度に、セーラー服のスカートが、踊るように翻る。彼女の前方には、組の女幹部である構築の魔女(aa0281hero001)こと緋崎咎女と、元相棒のヒットマン・辺是 落児(aa0281)の背中が見える。
『お嬢。やっぱり考え直しませんか?』
ここまでの道すがら、車内で繰り返した台詞を懲りもせずに口にしたのは、深散の護衛兼お目付役である伊之(aa4139hero002)だ。
彼は幼い頃、組長である深散の父に拾われたのを恩義に感じ、以後組長と深散に絶対の忠誠を誓っていた。
「だって、きな臭いわよ。オセチベントウだかカガミモチだか知らないけど、そんな稀少オーパーツの情報が易々と……」
それでなくとも組内では、いつも怪しい動きがある。
そうこうする内に追い付いた背中が、振り向いて深散を認めた。黒のイヴニングドレスが、その美貌によく映える。揃いの長手袋は、防刃・防弾仕様だと、深散は知っていた。
「あら、お嬢様。どうしてここに?」
冷ややかな視線は、深散の背後にいた伊之に向けられる。
「咎女さんの失脚でも狙った偽情報かと思ったので、私たちもついてきた方が良いかと」
女だてらに幹部を務める咎女の手腕に、深散は心酔していた。
やや顎を引いて、ほぼ同じくらいの身長の彼女を上目遣いに見ながら言うと、『……なるほど』と頷いたのは、落児の方だ。
『……しかし、仕事に影があるのはいつものことだろう』
そう続けながら伊之の方へ視線を移せば、彼は完全に首を縮めている。まるで、天敵に狙われた亀の子だ。
『緋崎様、申し訳ありません。お嬢を止められませんでした』
幾度も考え直すように進言したが、遂に深散の翻意を得られなかった、という所だろうか。
お嬢様に毎度振り回される伊之に同情的な視線を向けた後、落児は、相棒の方をチラリと見る。深散に帰るように促すかと思いきや、「まぁ、来たのなら仕方ないわね」と言って肩を竦めた。
「悔いは残さないよう、しっかり考えて行動してね?」
魔女は、普段から深散の行動には許容的で(本当に危ない時には止めに入るが)、可愛い後進と思っている節もある。『まあ、おまえならそういうか』と口の中で呟いて、先頭切って古城へ歩を踏み出す彼女の後を追った。
そのほぼ直後に、古城の前へ現れたのは、鴉守 暁(aa0306)とキャス・ライジングサン(aa0306hero001)、ニウェウス・アーラ(aa1428)とストゥルトゥス(aa1428hero001)の四人だ。
『オセチベントウてー、どうしてレアトレジャーになるネー?』
心底解らない、という顔で伸びをしたのは、キャスだ。
胸元が若干ふくよか過ぎる所為か、身に着けている黒服は、彼女の伸びをした動作に耐え切れなかったらしく、ボタンが弾けて飛んだ(が、彼女は気にした様子もない)。
「詰めてある料理の意味を知らば、確かにお宝と言えなくもないんだよね」
訳知り顔で答えたのは、同じく黒服を身に着けた暁だ。
『どゆこと?』
「例えば、錦玉子はそのまま錦だしー」
『ふんふん』
「数の子は子孫繁栄だしー」
『ナルホドー。ためになるネー』
本当に解ったのかそうでないのか怪しい口調で、キャスが相槌を打つ。そんな彼女の様子に頓着する事なく、暁は続ける。
「まあーオセチベントウが名前だけで何なのか私もわかんないしー」
マイペースに暁も伸びをして、「とりま、さくっといただいて、帰っておせち料理でも食べようかー」と付け足した。
『イエスマムー』
やはりのんびりと返事をしつつ、緊張感のない敬礼をしたキャスは、ニウェウス達に向き直る。
『よろしくオネガイシマース』
「やー、頼りになりそうなヒトと組めてよかったわー」
行こ、と促すと「アイサー」と返事をしたストゥルトゥスが小さくガッツポーズするように胸の前で拳を握る。
「うっひょう、オセチベントウはボク達が頂くんだ、ZE☆」
リズムに乗るように言ったストゥルトゥスは、ニウェウスに向かってウィンクする。そんな彼女に倣い、拳を握ったニウェウスは、「ん、頑張る……っ」とやはり小さく気合いを入れた。
一方。
「うーわー……マジで何この状況、ちょっとついてけてないんだけど……」
前の二組の背中を見送って、古賀 佐助(aa2087)は、疲れたように呟いていた。
今朝、目覚めた時から、何もかもがおかしい。
オーパーツがある所を見ると別におかしくはないが、問題はオーパーツそのものだ。何故“オセチベントウ”なのかが、さっぱりきっぱり納得行かない。
「……何を言っているのですか? 佐助。早く準備を済ませて下さい。お嬢様が待ち兼ねておりますよ……」
「は?」
冷えた声の主に視線を向けると、そこには声と寸分違わぬ温度の目をこちらに据えているГарсия-К-Вампир(aa4706)ことガルシアの姿がある。
「お嬢様って……」
まるきりメイド姿の彼女が、腹部に手を当てて、浅く辞儀をする先にいたのは、相棒のリア=サイレンス(aa2087hero001)だ。但し、パンツルックスーツ姿で、手にはライフルを持っている。間違っても、世間一般から見るお嬢様像とは程遠い。というか、佐助に言わせれば、そもそも問題はそこではないのだが。
ガルシアの相棒である、Летти-Ветер(aa4706hero001)ことレティもどことなくいつもと違う服装だ。普段着姿の佐助だけが、完全に浮きまくっていた。自分は正気だと思っているのに、実は違うのかという疑問まで脳裏に過ぎる。
二人とは幾度か依頼を共にしている筈だが、本当に自分が知る二人なのかどうかも今は自信がなかった。
「えーと……ガルシアさんとレティちゃん、で良いっすよね……? 何か状況が把握し切れてないけど、一緒によろしく?」
その自信のなさが、二人への挨拶も疑問形にさせる。
それをどう思ったのか。リアは口を開くと、サラリと言った。
『佐助……しっかり……油断してたら、死ぬよ?』
「死ぬの!?」
新年早々、縁起悪っ! 涙目になって思わずツッコミを入れるが、リアは気にした様子もなく踵を返す。
『さあ、行くよ……狙う獲物は、オセチベントウ……ただ一つ……』
その後ろに楚々と付き従うガルシア、何となく漂って付いて行くレティを見ながら、佐助はポツリと呟いた。
「……オセチじゃなけりゃ、格好付くんだけどな」
何で選りに選ってオセチベントウ。どうしてオセチベントウ。
そうグルグルと脳内で繰り返しながら、佐助は女子三人の後に、トボトボと続いた。
●
一階エントランスに二本ある階段の一つを選んで上った先には、広間があった。ざっと見て、奥行きは五十メートルはあるだろうか。
「……明らかに先客がいますね」
在りし日にはダンスパーティーでも開催されていただろうその空間の扉を細く開け、深散は半ばしがみついて呟く。そんな彼女に、背後からやはり囁き声で伊之が『お嬢、お願いですから大人しくしていてくださいよ?』と言う。しかし、彼の縋るような、正しく“お願い”は、深散の耳には届いていないらしい。
四人の前には、広い部屋をキョロキョロと周囲を警戒しながら進んでいく黒服の男達の背中が見える。総勢、四名。
「セラエノ・ファミリーでしょうか」
「できれば最上階を目指すのを優先したかったんだけどねぇ……」
魔女が、艶やかに髪を掻き上げながら、どこかのんびりとした声音を落とす。
こちらが追い付いて姿を晒せば、多分、彼らは妨害しようと向かって来るだろう。
「ならば、初手を奪える内に片付けるに限るわ。お嬢様、退がってて下さいね」
そっと深散の肩に手を掛けた魔女が、深散の前に出る。
しかし、魔女が進もうとする背後から、深散は魔女の腕を掴んだ。
「――お嬢様?」
「弱点を晒すことで相手の動きが読みやすくなる、という考え方もありますよね」
四人の間に、一瞬の沈黙が落ちる。
「……つまり、囮になると?」
『そんなっ……危険ですよ!』
器用に小声で怒鳴る伊之を尻目に、『…………しかたがない』と漏らしたのは落児だ。
『ちょっ、辺是様までそんな……お嬢は護身術こそ嗜んでますが、本格的な戦闘に加われる腕じゃ』
「あら、言ってくれるじゃない、伊之」
深散は、腕組みをしてジロリと伊之を見た。
「確かに私は本格戦闘じゃ足手纏いかも知れないわ。でも、自慢じゃないけど、小さい頃から命狙われる生活してるから、戦闘の中で守られるのにも慣れてるの! 足手纏いにならないように立ち回る方法も心得てるわ」
本当に自慢にならない事を、鼻息混じりに力説する。
やがて、リスクと効果を脳内で天秤に掛けていた魔女が、苦笑混じりにゴーサインを出した。
「わかったわ。気を付けてね」
ポン、と深散の肩を叩いて先に送り出す。
『緋崎様っ』
「好意は最大限に受け取ることにしているの……ね?」
ウィンクを返された深散は、憧れの咎女に認められたと思ったのか、顔を輝かせた。
哀れにも孤立無縁になった伊之は、深い溜息混じりに拳銃を構えて深散を守れる位置に着く。
「行くわよ、伊之」
『……了解です、お嬢』
ガックリと首を垂れたい気持ちで、伊之は手にした銃のスライドを引く。それを確認して、深散は派手に扉を開け放った。
●
バーンッ! と乱暴に扉が開く音に目を向けながら、暁は空いた階段を示して、「ウチらはこっちから行こか」とひっそり言った。
「他者の妨害に足止めてたら、先を越されるわー」
続いてその部屋から飛び交う銃声をBGMに歩を進め、上った先の扉を開くと、そこはやや幅が広めに取られたギャラリーのようだった。
但し、廃墟という状況上、もう絵画は飾られていない。
「どうする?」
「んー、十フィートの棒が欲しくなるかなぁ」
のんびりと宣うストゥルトゥスに、ニウェウスは「何、それ……?」と小首を傾げる。ちなみに、十フィートは約三メートル強くらいだ。
「TRPGのお約束さー。廊下の真ん中は歩かない、不自然に開けた場所は警戒する。床に変わった形状や溝とか無いか調べながら進む為に必要なんだよ、十フィートの棒がね」
『……成る程』
滔々と説明したストゥルトゥスの背後から答えたのは、ファミリー以外の人間の声だ。
『じゃあ、佐助……斥候、よろしく……』
「え、オレ!?」
振り向くと、佐助と彼の相棒のリア、それにリアの背後で楚々と佇むガルシアと、何となく漂うレティの一行がいる。
「いや、やった事ないんですけ――」
「何を言うのです。お嬢様のご指名ですよ」
佐助の言い分を皆まで聞かず、ガルシアは無造作に彼の背中を押した。
「――どぉ!?」
否応なく前へ押し出された佐助は、ストゥルトゥスの言ったタブーの一つ、“廊下の真ん中”へ踏鞴を踏むように、悲鳴と共に飛び出してしまう。
踏ん張った足下が、僅かに沈んだのを感じた直後。
「ひえぇええ!!」
ヒュウ、という風切り音を耳に捉えた佐助は、咄嗟にバックステップでその場を飛び退いた。つい今まで彼が立っていた場所を中心に、半径三十センチほどの範囲に、槍が突き立っている。それも、複数本。
青ざめる佐助の背後で、リアが無表情に、グッ、と親指を立てた。
『……適役』
「――じゃねぇし!!」
佐助はまたも涙目でツッコミを入れる。
第一、今スキル発動した気がしなかったって言うか、スキルってそもそも共鳴しないと発動できなくない? という事実に気付いて尚更青くなる。
「せっ、せめて共鳴――」
と言いつつリアに伸ばした手は、ガルシアに素気なく叩かれる。
「何を訳の分からない事を言ってるのです、佐助。さあ、次なる罠に向かって飛びなさい」
「飛ばないとダメ!?」
さり気なく自分達を追い抜いて行った一行のド突き漫才を眺めつつ、暁は「……まあ、先を越されてもいいかも知れないけどー」と呟いた。
『へ? 何で?』
キャスがキョトンと訊き返すと、暁は、「ダンジョンに罠があるのは当然だろー?」と挟んで続ける。
「だって、オーパーツだぜー?」
まあ確かにそうか、と頷いたキャスは、『ヒトの後ろからついてって、トラップ発動してもらうネー』とある意味物騒な提案をしてニヤリと笑う。その為には、ぴったりついていかないといけないので普通は至難だが、どうやら先方も前へ進むのを優先事項にしているらしく、こちらを排除しようとはしていない。
この時点で、計八人の集団中に於ける、佐助の人身御供がほぼ決定した。
●
派手な音を立てて扉を開けた深散は、いきなり黒服の男達に突っ込んだ。
「な、貴様」
「待てっ!」
男達が口々に言いながら銃口を深散に向ける。しかし、彼らが引き金を絞るより早く、伊之の持つSIG SAUER P228が火を噴いた。
男達の悲鳴と、銃の落ちる音が甲高く響く。深散は、男達の包囲から更に逃れるように離れる。
代わりに男達の中に魔女が踊り込み、あっという間に男達を行動不能にした。
その場に立った魔女の周囲で、ある者は床に伸び、ある者は彼女が放った暗器で壁に縫い止められている。
『……もう少し穏便にいかないか?』
手を出す隙もなく、ただ銃を持って悠然と歩いて来た落児が、呆れたように漏らすのへ、魔女は「あら」とさも心外だという声音で返す。
「これでも丸くなったつもりだけど?」
平然と言い放つ魔女に、『どうだか』と目だけで返したのは、落児も伊之も同様だ。口に出すと、矛先が自分に向き兼ねない。
「さ、急ぎましょう。余計な時間を食ったわ」
反論がないと見て取ると、魔女は三人を先導して踵を返す。
「ところで、目標は塔の最上階って話でしたよね。塔の入り口の場所って……やっぱり二階全部調べないとダメかしら」
咎女の隣に並んだ深散は、ダンスホールを見回す。
「でしょうね。地図なんかはないし……」
塔、というからには、細い建物だろう。外から見た時にそれらしきものは見たが、そこへ行く為の階段がどこにあるかまでは判らなかった。
「じゃあ私、こっちの部屋見てみます」
無造作に奥へと足を運ぶ深散に、『だから大人しくしてて下さいってば、お嬢!』と言いながら伊之が慌てて追い縋る。
空かさず魔女が、「床の色の違いや傷の有無、不審な部分には注意して下さいね」と忠告を飛ばした。
「はぁい」
返事をしながら、深散は次の間への扉を開く。
次の間は、意外にも狭かった。と言っても、ダンスホールに比べれば、という前置きが付くが。
埃を被ってさえいなければ豪奢に見える筈の装飾や、暖炉の他には、特にこれと言った家具などは置かれていない。かつてはサロンなどに使われていた部屋なのだろうか。上へ視線を移せば、天井からシャンデリアが下がっている。
「こんな場所にシャンデリアって思わせ振りですよね」
室内へ頭を入れて辺りを見回し、扉のすぐ傍にあるスイッチを迷わず押した。
カチリ、という音に、ギシ、と何かが軋る音が被る。
『お嬢!』
異変に気付いた伊之が深散を背後から抱き寄せ、扉を閉じる。身体の芯に響くような轟音が、扉の向こうから聞こえるのと、伊之が深散を横抱きに抱えて扉から距離を取るのとは、ほぼ同時だった。
「……あら、やっぱり」
ある意味ほえーんとした口調で言いつつ扉を見る深散に、
『そう思うなら警戒して下さい、少しはっっ!!』
と伊之は即座に怒鳴り返している。
『……避けた先に次の罠というのもな』
ボソリと漏れた落児の言葉に、『解っています』とどこかおざなりに答える。
ここはだだっ広い割に、今まで何もなかったのだから大丈夫だろう。そう思っていたが、しかし。
「お嬢様、そこだけは踏まないで下さいね?」
という咎女の注進と時を同じくして、伊之が下ろした深散の爪先が、魔女の言う“そこ”に触れた。刹那。
『ぅわっ!』
伊之の足下が抜けた。素早く駆け寄った咎女は、深散が巻き添えで落下しないよう、彼女の腰を抱え込んでいる。
「あらら、仕方ないわね」
先刻の深散と同じような口調でのほほんと言いながら、伊之が消えた穴を見下ろす。深散の爪先の触れた床板がスイッチだったらしい。
「落児、安全の確保を」
『……確信犯だろう?』
涼しい顔で言う咎女と、やや呆れ顔で応じる落児に向かって。
『……何でもいいけど、早く引き上げてくれません?』
間一髪、抜けた床の縁を掴んだ伊之の、半分泣きそうな声が、床下から恨めしげに這った。
●
ギャラリーを駆け抜けただけで、佐助はヨレヨレだった。
ガルシアに言われたから、という訳ではないが、再び彼女に背中を押され、否応なく駆け出したら、四方八方から槍が降ったのだ。おかげで、奥行き百メートルはありそうなギャラリーを、槍を避けながら全力疾走する羽目になった。
「お嬢様、足下お気を付けて」
『……うん……ありがと』
ガルシアは、そこここに突き立った槍を避けるように先導し、或いは引っこ抜きながら、リアが快適に歩けるように気を配っている。
その後から、漂うレティと、そのおこぼれに与った暁達が、ゾロゾロと付いて歩く。
「ところで、上への階段てどこにあるのかなー」
暁がキョロキョロと周囲を見回していると、ニウェウスが「こっち、ドアある……」とストゥルトゥスの服の裾を引っ張った。
ギャラリーを抜けたすぐの場所に、彼女の言う通り、扉がある。
開けてみれば、そこはさっき国塚組のメンバーが入って行った大広間に通じていた。当然ながら、既にそこに国塚組の姿はなく、代わりに黒服の男四人が、だらしなく伸びたり、壁に縫い止められたりしている。
「……トラップかな?」
「さあ……」
よくよく見れば、部屋の真ん中付近に、床板一枚分の穴まで開いている。
「トラップっぽいねー」
背後から覗き込んだ暁が、ニウェウス達の後ろから広間へ足を踏み入れた。
「著名な地物には迂闊に触れない方がいいんだけどね、基本的には」
独り言のように言いながら、暁は広間を眺め回す。
『例えば?』
「像の前を通らない、とかね」
『何がトラップかわかったモンじゃないネー』
「そうだなー。でも御しやすいかなーとは思うけど」
何が楽しいのか、『そう?』とにこやかに言ったキャスは、『あ』と漏らして広間の隅に目を留めた。
『ここ、階段発見ヨー』
「でも、塔への階段じゃないっぽいよね!」
ストゥルトゥスが寄って来て確認するように言う。
「んー……じゃあ、二階を全部、調べるしか、ない?」
ニウェウスが小首を傾げた時、「わ――――!!」という悲鳴が、遠い場所から聞こえる。
四人は、思わずそちらへ視線を向け、次いでお互いの顔を見合わせた。
横へ逸れた四人に構わず、ガルシアとレティがリアの後ろに付いて歩く。斥候を任された(というか、無理矢理選抜された)佐助は、疲れた気分で彼女達の前を歩いていた。
全く本当にどうなっているのだろう。そもそも、ここは本当に現実なのか。
はあ、と溜息を吐いて、何気なく壁に手を突く。その部分が、不自然にへこんだ気がしたのはその時だ。
「――え」
何これ、ヤな予感。
血の気が引くのをどこか他人事のように感じながら、ギギギと音がしそうにギクシャクと手元を確認する。己の掌は、見事に正方形に窪んだ場所へ押し付けられていた。
今更そうしても遅いのに、そっと手を離す。
ズン、と何かが落ちるような音は、前方から聞こえた。恐る恐る顔の位置を戻すと、視線の先からギャラリーの幅一杯の大きな玉が転がってくる。
「わ――――!?」
もう半泣きになりながら、佐助は回れ右の後、再度駆け出した。
「そこ、退いて退いて退いて――――!!」
後ろを歩く三人に叫ぶ。とは言っても、咄嗟に避けられる幅はない。
ガルシアは、素早く通路にあった扉の一つを開くと、リアの手を引いて避難する。レティも二人に続き、あろう事かその扉は、佐助が避難するより早く閉じられた。
「わ――――嘘――――!!」
その時、先刻、ニウェウス達が入り込んだ扉が開く。
「あ、そこ、ちょっ、入れて――――!!」
しかし、ヒョコリと顔を出したストゥルトゥスは、何を思ったか、ビシッと敬礼した後、その扉を閉じてしまう。
「嫌ぁああ!!」
こうして世界から(?)見捨てられた以上は、ひたすら走るよりない。
ギャラリーに逆戻りすると、今度は先刻降って来てあちこちに刺さったままの槍を避けながら走る羽目になる。
「え、ちょっ、これってある意味罠二重じゃん!」
ヤバいヤバい、流石にこれちょっと躱し切るとか無理っ……!?
半ば死を覚悟した時、連続した銃声が響き、玉が粉砕された。
「うわ!!」
玉が破裂した衝撃で前方へ投げ出された佐助は、転げながら背後を確認する。
分断され、ようやく動きを止めた玉の後ろでは、ライフルを構えたリアが涼しい顔で立っていた。
『……問題ない、次』
「……リアちゃん、ちょっとイケメン過ぎじゃね……?」
踵を返す彼女の背を呆然と見送って、佐助は呟いた。
助けを求める佐助をあっさり見捨てたストゥルトゥスは、ニウェウス達に向けて、グッと親指を立てる。
「ある物は使え。自分に害を成す物は、敵にとっても害となる、ってね!」
ウィンクまでして見せるストゥルトゥスに、ニウェウスは首を傾げる。
「どこかの、名言?」
すると速攻で、「今考えた!」という答えが返って来た。
それにどうリアクションするか迷うような沈黙が一瞬落ちた後、口を開いたのは暁だ。
「……んじゃ、ま、とにかく上目指しゃ良いんだし、二階はすっ飛ばして三階行こっか」
「でも、お宝があるのは、塔だって」
ニウェウスが言うのへ、暁は頷く。
「解ってるー。けど、二階は満員御礼みたいだし、罠とライバルで一杯の所探すのも手間でしょー。塔への入り口は一つとは限らないしねー」
●
「あの奥の部屋が最後の部屋よね」
左手奥の扉に目を向けて、咎女が呟く。
「もう罠がないと良いんですけど……」
そんな都合のいい話もあるまい、と思いつつ、深散は咎女の後を付いて歩いた。
「致命的な物だけ気を付ければ良いわ。引っかかって位置がバレる呼子とか、天井の逆落としとか壁や床からの槍衾……」
まあ落とし穴はさっき引っかかったけどね、と付け加えると、伊之がどこか渋い顔で咎女の後ろ姿を睨む。
後数メートルで最後の部屋の扉、という所で、右手にあったらしい扉が開いた。
「あ」
「あ」
扉から覗いたのは、相変わらず斥候を押し付けられ中の佐助だ。
一瞬目線を合わせた両者は、直後には行動に移っていた。咎女は素早く暗器を取り出し佐助に向かって投じる。その暗器は、即座に閉じられた扉に刺さって、乾いた音を立てた。
刹那、佐助は閉じた扉を薄く開けて、咎女の前に威嚇射撃を行う。彼女が飛びすさるのを確認するかしないかの間に、佐助はもう扉を閉じていた。
「はい、全員回れ右ー」
号令を掛けるなり、佐助は率先して元来た道を駆け戻り始める。
「狙いが決まってんだし、寄り道の必要はねぇよな……っと!」
『……銃撃戦でも、負けない……けどね』
銃撃戦が寧ろしたかったと言わんばかりに、リアがボソッと漏らすのへ、勘弁して下さい、と佐助は脳裏で呟いた。
先刻、ストゥルトゥスの顔が覗いた扉を開けると、そこは広間だった。黒服の男が四人倒れ、部屋の中央辺りには穴が開いている。恐らく、落とし穴だろう。
そろそろと用心深く歩きながらも、さっと目線を走らせれば、部屋の奥に三階へ通じると思しき階段が見える。
そこへ駆け込もうとした時、通路から咎女達が現れた。
「行って下さい!」
ガルシアが叫んで、投げナイフを取り出す。
「あなた様達を相手にしている暇はないの……止まりなさい」
段幕のように飛んでくるナイフを、咎女と落児が正確に叩き落とす。続いて飛んで来た、何故か大音量のアラームを鳴り響かせている懐中時計は、伊之が拳銃で撃ち抜いた。
しかし、それらは全て牽制だったらしく、武器を退ける間に佐助達は姿を消していた。
●
登った先は、二階と同じく広間だった。しかし、登って来た階段以外のそれは、そこには見当たらない。
二階のダンスホールと同じ程の広さの室内には、両側の壁に沿って、胸像や壷が無造作に並んでいる。
「……いかにも怪しい感じだよねー」
ざっと見た所、扉らしきものはない。暁は手にした銃で、端から安置してある胸像と壷を撃ち始めた。
「あ?」
直後、追い付いて来た佐助達は、暁が銃を撃ちまくった挙げ句、硝煙で視界が悪くなっているのに目を剥く。
ストゥルトゥスが素早くサブマシンガンを構え、引き金を引いた。
「ふははは! オセチベントウは、このクリキントン・マフィアが頂いていく!」
「そんな名前、だったっけ?」
というニウェウスの素朴な疑問は、見事に連携した暁が、仕上げとばかりにシャンデリアを撃ち落とす音に掻き消される。
佐助達が後退するのを確認すると、暁は「行くよー」と、どこかのんびりと感じられる号令を掛けた。
ストゥルトゥスもニウェウスの手を引いて、ダッシュでその場を離れ、通路に飛び込む。
「まともにやり合うなんてノン! 逃げるが勝ちだよ、マスター!」
「それには同意、かな……!」
ストゥルトゥスに付いて走りながら、ニウェウスはチラと後ろを見やって、佐助達が追って来ないのを確認した。
しかし、追い付かれるのも時間の問題だろう。
気が急いた暁は、注意を怠っていた。
「あ」
足下が窪んだ気がした時には既に遅い。スイッチと落とし穴を兼ねていたらしい床板が、更に沈むと同時に、暁は「とりゃあー」という締まりのない叫びと共にそこを蹴って前へ跳躍した。
向かいの床に着地すると、キャスが後ろから『よっしゃー!』と何故か気合いを飛ばす。答えるように「いぇーい!」ともう何だか解らない雄叫びを上げ合う二人をスルーする形で、ストゥルトゥスとニウェウスは、床板一枚分開いた穴を飛び越えた。
「あ、螺旋階段、見っけー」
幅と言い、如何にも塔の階段だ。暁達がそこに足を掛ける頃、佐助は暁が開けた穴に足を取られそうになっていた。
「わっ、ちょっ、タンマ――」
佐助が穴に気付いた時、次に足を出したら丁度穴にハマりそうなタイミングだった。急ブレーキを掛けようとするが、早く行けとばかりに、すぐ後ろを走るガルシアは止まってくれない。
「ひぇええ!!」
そのまま穴に足を突っ込んでしまい、落下するも、下まで落ちる前に何とか縁に掴まる。
その上を、ガルシアとリア、レティがヒョイヒョイと通り過ぎて行った。
何かひどくね? と内心泣きそうになりながら、懸垂の要領で身体を引き上げる。上半身だけ床の上まで出た途端、「あら、失礼」「ごめんなさい」と続け様に女性の声がして、その度に頭部に衝撃を覚える。更に無言で二度踏まれた後、視界に現れた後ろ姿は順に、魔女、深散、落児、伊之だった。
「……皆、ひどくね?」
もう一度ボソリと呟いた佐助の言葉を、拾う者はなかった。
●
「やったー、一番乗りだねー」
最上階へ最初に辿り着いた暁は、小部屋の扉を開け放った。
しかし、そこに鎮座していたのは、三つの宝箱だ。
「……どれ、だと思う?」
後から入ってきたニウェウスが、三つ並んだ箱を見比べる。
「お宝が最奥にあるのは基本よね。でも、二つは罠と考えるべきだから……」
「ふふーん。こんな事もあろうかと、秘密兵器を持って来たのさっ」
じゃじゃーん、と言いながら、ストゥルトゥスが取り出したのは、何の変哲もない水筒だ。
「それ、どうするの?」
「床に落とし穴の溝がないか、水筒の水を床に流して調べるのさっ!」
「不自然に水がしみ込んだ所が……落とし穴?」
ザッツ・ライト! と答えつつ、ストゥルトゥスは水筒の蓋を回す。
「ふふーふ。目は誤魔化せても、水は誤魔化せないゾー?」
それぞれの箱の前の床に水を流すと、向かって一番左の箱の手前が、どうも落とし穴らしいのが分かる。
「んじゃ、これは回避でー」
「後の二つは、どう……選別する?」
「直感! てわけで、こっちだー!」
殆ど考えてない!? というニウェウスの叫びは音にならない。代わりに、待ったを掛けたのは暁だ。
「いや、他がどんな罠があるか判らないから、一度皆外に出て……ハズレだったら犠牲は一人で済むしね。キャスー頼むー」
『OKヨー』
ポジティブに答えたキャスを残して、全員が外へ出ようとした所で、後から追って来た国塚組が押し入って来た。
咎女の後ろから室内を観察した深散は、三つ並んだ宝箱を順に眺める。
真ん中の箱の前には先客が正に蓋を開けようと陣取り、向かって右手の箱の前には出て行こうとするキャスの仲間がいる。
引き替え、向かって左の箱の前には誰もいない。不自然に床が濡れているのは気になるが、チャンスは今だ。取り敢えず、あれを開けるしかない。
「じゃあ、まずこれで」
深散は何も考えず、直感の命ずるまま、左の箱に歩み寄り、蓋を開けた。途端、足下の床がなくなった錯覚に陥る。
『うわ、お嬢!』
否、伊之が叫んだ所を見ると、錯覚じゃないらしい。と思った時には、伊之の手に手首を捕まれ、宙吊りになっていた。
「……もう少し、床が濡れてる理由を考えるべきだったかしら」
床に寝そべる形で彼女の手首を捕まえた伊之は、先刻ストゥルトゥスが箱の前に撒いた水で服の前面を濡らす羽目になった。
『反省するなら開ける前にお願いしますよ』と伊之がボヤキを零した時、佐助達の一行が駆け込んで来る。
最早、外へ出る暇なし、と見た暁は、真ん中の箱を示して、キャスに「それ開けちゃってー」と指示を飛ばす。
『ハイな』
クルリとその場で方向転換したキャスが、真ん中の箱を開ける。途端、スパパパパン! と小気味良い音が鳴り響き、思わずキャスは首を竦めた。どうやらクラッカーだったらしく、周囲に薄い靄が漂う。
暁とニウェウス、ストゥルトゥスが、キャスの背後から恐る恐る中身を確認する。
煙が薄れたそこにあったのは――
「……鏡餅、かなー」
暁が言うと、ニウェウスが「カガミモチって、何?」とストゥルトゥスに訊ねている。「うーん、ボクもよく知らないけど、やっぱり日本の新年に関係するアイテムだったと思うよっ」と彼女が答える合間に、ガルシアが残った右の宝箱を掠め取った。
「お嬢様、こちらを」
他の二つが外れだったのは明白だ。
リアは、恭しく差し出された箱をドキドキしながら開け――目を輝かせた。
聞いた通り、お宝は、三段重箱に入っている。
『これが……オセチベントウ……! ついに、手に入れた……!』
心底感動しているリアに、ガルシアが「おめでとうございます、お嬢様」と言って頭を下げる。
他の者の羨望の眼差しを浴びながら、ガルシアは重箱を取り上げるとレティに一度預けた。
「では、お食事の用意を致しますね」
言うや、彼女は幻想蝶から折り畳みのガーデンテーブルセットを取り出し、日本茶を注ぐ。
幻想蝶はあるのに何で共鳴ができないんだ、という疑問を脳内で呟きながら眺める佐助の視線の先で、レティがテーブルの上に重箱を置いた。
手に入れる事ができなかったファミリーのメンバーも、周囲に集まり、固唾を飲んで見守る。
いそいそとテーブルに着いたリアの前で、ガルシアが重箱を開けた。
おおー……という静かな歓声が上がる。
「これが、オセチベントウ……」
『流石、やはりオーパーツと言うだけあって違いますね』
『ねーネー、一口ー。一口食べさせてー』
順に、深散、伊之、キャスだ。
そんなに凄いのだろうか。只の御節だろうと高を括っていたが、オーパーツというからには、何か違うのかも知れない。
そんな淡い期待をして、佐助は横から中身を覗き込む。しかし、視界に入ったのは、エビ、黒豆、錦玉子、カマボコ、数の子、牛タン、エトセトラが綺麗に盛り付けされた――
「……やっぱ普通の御節だよな、コレ……?」
あまりの空気感の違いに、佐助は一人、狼狽えるしかなかった。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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